IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーションの特許一覧

特表2025-502042脳深部回路のモデュレーションのためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】脳深部回路のモデュレーションのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
A61B17/00 700
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540779
(86)(22)【出願日】2023-01-04
(85)【翻訳文提出日】2024-08-30
(86)【国際出願番号】 US2023010095
(87)【国際公開番号】W WO2023172348
(87)【国際公開日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】63/296,252
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】クバネク,ジャン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ33
4C160JJ36
4C160MM32
(57)【要約】
各個人の頭部による超音波の減衰および位相分散を補償するために超音波を使用しながら、脳に治療用超音波を適用するためのシステムおよび方法。補償は、ターゲットに決定論的な超音波強度を供給する。補償は、相対的な超音波透過測定に基づいており、この測定は、頭部の片側に超音波エミッタのセットを、反対側にレシーバのセットを使用して行われる。測定は、頭部がない状態およびある状態で行われる。これらの測定の差に基づいて、超音波のセットは、頭蓋および頭皮を通って頭部内へと通過する超音波によって引き起こされる減衰および位相分散を補償するために調整される。調整された超音波のセットは、決定論的目標超音波強度をターゲット位置に提供する。この決定論的な供給は、安全で効果的な超音波ニューロモデュレーション、ナノ粒子キャリアからの安全で効果的な局所的薬物放出、ならびに血液脳関門を越えて薬物、遺伝子および幹細胞を送達するための、マイクロバブルを用いた安全で効果的な血液脳関門の破壊を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳のターゲット位置に超音波を適用する方法であって、前記方法は、
少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサを駆動して、超音波を発生させ、自由音場体積内の前記ターゲット脳位置に対応するターゲット位置で目標超音波刺激エネルギーを実現するステップと、
前記自由音場体積の反対側にある前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサに対して一定の距離および向きに配置された少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサを用いて、前記超音波を測定するステップと、
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサおよび前記少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサを頭部の両側に配置するステップであって、前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサに対する前記少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサの固定距離および向きが固定されたままである、ステップと、
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサを駆動して、自由音場体積内のターゲット位置における前記目標超音波刺激エネルギーを実現するために発生させるのと同じ超音波である超音波を前記頭部に発生させるステップと、
前記少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサを用いて、前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサと前記少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサとの間の超音波経路内の頭部の存在に少なくとも部分的に起因して、減衰され位相シフトされた、前記頭部を出る変化した超音波を測定するステップと、
前記自由音場体積を通る前記測定された超音波と、前記頭部を通る前記測定された変化した超音波との差に基づいて、1つまたは複数の調整された超音波を決定するステップであって、前記1つまたは複数の調整された超音波は、前記ターゲット脳位置における実際の超音波刺激エネルギーを前記ターゲット脳位置における前記目標超音波強度に近づけるために、前記超音波経路内の障害物による減衰および位相シフトを補償するために調整される、ステップと、
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサを駆動して、前記1つまたは複数の調整された超音波を前記目標超音波強度で前記頭部に発生させるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
超音波トランスデューサアレイから超音波トランスデューサのセットを識別するステップをさらに含み、前記超音波トランスデューサアレイは、各々が異なる超音波経路に沿って超音波ビームを投射するように位置決めされ、向き付けられた複数の超音波トランスデューサを含み、前記識別された超音波トランスデューサのセットは、前記ターゲット脳位置で交差する超音波経路を有する超音波トランスデューサを含み、
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサを駆動して、前記ターゲット脳位置で前記目標超音波刺激エネルギーを実現するために前記超音波を発生させるステップは、前記識別された超音波トランスデューサのセットの前記超音波トランスデューサを駆動して、前記ターゲット脳位置における重ね合わせによって組み合わせて前記目標超音波刺激エネルギーを発生させる超音波を送信するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記自由音場体積を通る前記測定された超音波と、前記頭部を通る前記測定された変化した超音波との間の差に部分的に基づく、前記頭部を1回通過する超音波による前記減衰および前記位相シフトを決定するステップをさらに含み、前記差は、前記頭蓋の各セグメントを通過する前記超音波によって引き起こされる減衰および位相シフトを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサの第1の超音波トランスデューサによって送信された第1の超音波の頭蓋減衰を決定するステップをさらに含み、前記頭蓋減衰は、前記測定された変化した超音波に少なくとも部分的に基づいて、前記頭蓋を1回通過する超音波による減衰であり、
前記1つまたは複数の調整された超音波を決定するステップは、前記第1の超音波トランスデューサに対して前記決定された頭蓋減衰の逆数倍だけ前記第1の超音波の振幅をスケーリングするステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の超音波の前記頭蓋減衰を決定するステップは、
【数1】
に従って前記第1の超音波の前記頭蓋減衰を計算するステップを含み、
式中、Aijは、前記頭蓋の両側を通過する前記第1の超音波による前記第1の超音波の減衰であり、Aは、前記頭蓋の第1の側を通って前記頭部に通過する前記第1の超音波による前記第1の超音波の前記頭蓋減衰であり、Aは、前記頭蓋の第2の側を通って前記頭部から出る前記第1の超音波による前記第1の超音波の減衰であり、kijは、前記第1の超音波トランスデューサによって照射される超音波ビームの相対角度の余弦の逆数である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサを駆動するステップは、複数の超音波トランスデューサを駆動するステップを含み、前記方法は、前記複数の超音波トランスデューサの各超音波トランスデューサについての決定された頭蓋減衰値を含む複数の頭蓋減衰値を決定するステップをさらに含み、前記複数の頭蓋減衰値の各頭蓋減衰値は、それぞれの前記超音波トランスデューサによって送信された超音波が前記頭部を1回通過することによる減衰を示し、
前記1つまたは複数の調整された超音波を決定するステップは、前記複数の超音波トランスデューサの各超音波トランスデューサによって送信された前記超音波の振幅を、前記超音波トランスデューサに対応する前記決定された頭蓋減衰値の逆数倍スケーリングするステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記頭部を出る前記変化した超音波は、前記頭蓋透過測定中に受信された前記変化した超音波が前記自由音場測定中に受信された超音波に近づくようにスケーリングされ遅延された振幅および位相を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
超音波送達システムであって、
体積の反対側に配置された超音波トランスデューサを含む超音波トランスデューサの少なくとも1つのアレイを含む頭部装着型デバイスと、
コントローラであって、
前記体積内の、ターゲット脳位置に相当するターゲット位置で目標超音波刺激エネルギーを実現するために、前記超音波トランスデューサの少なくとも1つのアレイのうちの第1のセットの超音波トランスデューサによって送信される第1のセットの超音波を決定し、
前記決定された第1のセットの超音波に従って、前記第1のセットの超音波トランスデューサを駆動し、
前記頭部装着型デバイスが頭部に適用されていない間に、前記第1のセットの超音波トランスデューサとは前記体積の反対側にある第2のセットの超音波トランスデューサを使用して超音波の自由音場測定値を捕捉し、
前記頭部装着型デバイスが前記頭部に適用されている間に、前記第2のセットの超音波トランスデューサを使用して超音波の透過測定値を捕捉し、
前記自由音場測定値と前記透過測定値とを比較して、少なくとも部分的に、前記第1のセットの超音波トランスデューサと、前記第2のセットの超音波トランスデューサとの間の超音波経路内に頭蓋が存在することに起因する前記超音波の減衰および位相シフトを決定し、
前記頭部装着型デバイスが前記頭部に適用されている間、前記体積内の前記ターゲット位置で前記目標超音波刺激エネルギーを達成するために、前記決定された減衰および前記決定された位相シフトを補償する、前記第1のセットの超音波トランスデューサによって送信される超音波の調整されたセットを決定し、
前記頭部装着型デバイスが前記頭部に適用されている間、前記決定された超音波の調整されたセットに従って前記第1のセットの超音波トランスデューサを駆動する、
ように構成された、コントローラと、
を備える、超音波送達システム。
【請求項9】
前記超音波トランスデューサの少なくとも1つのアレイは、各々が異なる超音波経路に沿って超音波ビームを投射するように位置決めされ、向き付けられた複数の超音波トランスデューサを含み、
前記コントローラは、前記ターゲット位置で交差する超音波経路を有する超音波トランスデューサを特定することによって、前記第1のセットの超音波トランスデューサを特定するようにさらに構成され、
前記コントローラは、前記超音波経路が前記ターゲット位置で交差する場合に重ね合わせによって組み合わせて前記目標超音波刺激エネルギーを発生させる超音波の組み合わせを決定することによって、前記ターゲット位置で前記目標超音波刺激エネルギーを達成するために前記第1のセットの超音波トランスデューサによって送信される前記第1のセットの超音波を決定するように構成される、
請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項10】
前記コントローラは、前記自由音場体積を通る前記測定された超音波と、前記頭部を通る前記測定された変化した超音波との間の差に部分的に基づく、前記頭蓋を1回通過する超音波による前記減衰および前記位相シフトを決定するようにさらに構成され、前記差は、前記頭部の各セグメントを通過する前記超音波によって引き起こされる減衰および位相シフトを示す、請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記第1のセットの超音波トランスデューサの各超音波トランスデューサについての決定された頭蓋減衰値を含む複数の頭蓋減衰値を決定するようにさらに構成され、前記複数の頭蓋減衰値の各頭蓋減衰値は、それぞれの前記超音波トランスデューサによって送信された前記超音波が前記頭蓋を1回通過することによる減衰を示し、
前記コントローラは、前記第1のセットの超音波トランスデューサの各超音波トランスデューサによって送信された前記超音波の振幅を、それぞれの前記超音波トランスデューサに対応する前記決定された頭蓋減衰値の逆数倍スケーリングすることによって、前記超音波の調整されたセットを決定するように構成される、
請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項12】
前記複数の頭蓋減衰値を決定することは、
【数2】
に従って、前記第1のセットの超音波トランスデューサの各超音波トランスデューサについての前記頭蓋減衰値を計算することを含み、
式中、Aijは、前記頭蓋の両側を通過する前記超音波による前記超音波の減衰であり、Aは、前記頭蓋の第1の側を通って前記頭部に通過する前記第1の超音波による前記超音波トランスデューサの前記頭蓋減衰であり、Aは、前記頭蓋の第2の側を通って前記頭部から出る前記超音波による前記超音波の減衰であり、kijは、前記第1の超音波トランスデューサによって照射される超音波ビームの相対角度の余弦の逆数である、
請求項11に記載の超音波送達システム。
【請求項13】
超音波トランスデューサの少なくとも1つのアレイは、第1の超音波トランスデューサアレイおよび第2の超音波トランスデューサアレイを含み、前記頭部装着型デバイスは、前記第1の超音波トランスデューサアレイおよび前記第2の超音波トランスデューサアレイを前記体積の両側で前記頭部装着型デバイスにカップリングするフレームを含む、請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項14】
前記頭部装着型デバイスは、前記頭部を受容する大きさの第1の開口部と、装着時に前記頭部の頂部が露出したままとなる、前記第1の開口部とは反対側の第2の開口部とを有するダイアデム形状のボディを含む、請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項15】
前記頭部装着型デバイスは、装着時に前記頭部装着型デバイスを前記頭部に位置決めして支持するための調整可能な支持機構を含む、請求項8に記載の超音波送達システム。
【請求項16】
ターゲット脳位置に超音波を適用する方法であって、前記方法は、
超音波トランスデューサアレイを駆動して、頭部の透過超音波測定を実行するステップと、
前記透過超音波測定に基づいて、少なくとも部分的に超音波経路内の前記頭部の存在に起因する減衰値および位相シフト値を決定するステップと、
前記決定された減衰値および前記決定された位相シフト値に少なくとも部分的に基づいて、前記超音波トランスデューサアレイの各超音波トランスデューサについての調整された振幅値および位相値を決定するステップと、
各超音波トランスデューサの前記調整された振幅値および位相値に基づいて前記超音波トランスデューサアレイを駆動して、前記頭部内のターゲット脳位置で目標超音波強度を実現するステップと、
を含む、方法。
【請求項17】
前記頭部内に生じる超音波強度は、ニューロンおよび他の興奮性細胞の活性の効果的な超音波モデュレーションを行う、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記頭部内に生じる超音波強度は、超音波感応性ナノ粒子キャリアの効果的な活性化を行って、前記キャリアから前記ターゲット脳位置にニューロモデュレーション治療薬を放出する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ニューロモデュレーション治療薬は、前記ターゲット脳位置に臨床的に適切な用量を提供する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ニューロモデュレーション治療薬は、0.063mg/mlの濃度で前記ナノ粒子キャリアに封入されたプロポフォールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記頭部内に生じる超音波強度は、マイクロバブルを効果的に活性化して、血液脳関門を越えて薬物、遺伝子および幹細胞を局所的に送達するために前記血液脳関門を一時的に破壊する、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2022年1月4日に出願された米国仮特許出願第63/296,252号の非仮出願であって、この優先権を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本開示は、ヒトの脳内の特定のターゲットに超音波を適用し、調節するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]精神疾患および神経疾患患者の約3分の1は治療抵抗性である。ニューロモデュレーションは、機能不全回路をターゲットとしてリセットする可能性を持っている。しかし、現在のニューロモデュレーションのアプローチは、2つの主な障壁によって制限されている。第一に、精神障害および神経障害に関与する正確な神経回路は十分に分かっておらず、個人差があるように思われる。この不確実性により、このような患者に対する脳深部刺激法の確実な応用は限定されている。第二に、うつ病、不安障害、および疼痛関連障害などの一般的な疾患には、大脳辺縁系、大脳基底核および脳幹ネットワークをはじめとする、脳の深部に位置する神経回路網が関与している。このような脳の深部にある発生源により、現在の非侵襲的ニューロモデュレーションアプローチを利用した治療は複雑になっている。例えば、電気けいれん療法では、脳全体の発作を誘発する大電流を用いて脳深部構造をモデュレーションする。このような広範囲の活性化は、しばしば記憶喪失などの認知上の副作用を引き起こす。経頭蓋磁気刺激は、刺激された皮質領域との結合を介して脳深部回路網をモデュレーションできると考えられるが、このような間接的な作用は反応のばらつきの一因となっている。
【0004】
[0004]超音波を用いたニューロモデュレーションは、脳深部のターゲットを選択的に、高い時空間分解能でモデュレーションできる可能性がある。
[0005]小動物モデルでの研究と比較すると、超音波を用いたニューロモデュレーションは、ヒトの頭部に適用した場合、その有効性は限定的であることが示されている。ニューロモデュレーション超音波の強度は、頭蓋のセグメントおよび個体差に応じて、ヒトの頭蓋だけで4.5~64の係数だけ減衰することが判明している。この減衰係数の非常に大きなばらつきにより、送達される強度について確実な推定を行うことは不可能である。その結果、ヒトにおける研究では、脳を害するリスクを軽減するために、可能な限り減衰を少なく仮定した「最悪のシナリオ」のアプローチを取らざるを得なくなる。安全のために必要なこの保守的なアプローチにより有効性が抑制されていた。
【0005】
[0006]さらに、脳障害の効果的で安全な治療は、限局した脳領域または個々の核に超音波を選択的に送達する必要がある。ニューロモデュレーションに使用される現在の単一素子トランスデューサは、一般に数センチメートルにわたる葉巻状のビームしか形成しないため、空間的特異性が限定される。加えて、これらの解決策には位相アレイの精度および柔軟性がないため、これにより選択的送達、ターゲティングの微調整、および複数のターゲットへの系統的な適用が複雑になる。精度および柔軟性の欠如により、脳深部回路障害を持つ患者への既存解決策の使用は制限される。
【0006】
[0007]したがって、ヒトの頭蓋を補償し、特定の脳深部ターゲットに高い時空間分解能で超音波を送達するデバイスが望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0008]経頭蓋集束超音波は、脳回路を正確かつ個別に操作するための非侵襲的かつ可逆的なアプローチを提供し、脳機能の理解および脳機能障害の治療を一変させる可能性がある。超音波は、無傷の頭蓋および頭皮を通して、直径数ミリメートルにわたり得る特定の脳深部領域に集束させることができる。
【0008】
[0009]超音波はマイクロ秒単位でターゲットに到達するため、超音波アレイは複数の部位を同時に、または細かい時系列で刺激する能力を有する。コマンドに応じた正確な集束は、各個人の機能不全回路を系統的にモデュレーションする独自の新たな可能性を拓く。さらに、トランスデューサのアレイは、デバイスまたは被検体を動かさずにプログラムによって特定の脳ターゲットに超音波を集束させることができる。
【0009】
[0010]しかし、上述のように、これらのアプローチの有効性および安全性は、超音波を強く、かつ予測不可能に減衰させ歪ませるヒト頭部によって制限されてきた。この障壁は、頭部による超音波の強く予測不可能な減衰と、既存のデバイスの限られたターゲティング精度によるものである。これらの問題に対処するため、頭部による超音波の歪みを補償し、高い時空間分解能で特定のターゲットに超音波を送達する超音波フェーズドアレイデバイスが開発されてきた。本デバイスは、MRIの内部でターゲットへの作用を確認することができ、MRIの外部で繰り返し使用され得る。
【0010】
[0011]超音波減衰の問題に対処するための、所与の頭蓋および頭皮の減衰および歪みを直接測定し補償する「Relative Through-Transmit」(RTT)アプローチが開発された。RTTはハードウェアに実装され、生体外のヒト頭蓋内で操作者が目標強度を正確に回復することを実証している。さらに、この機能性により、効果的かつ強度依存的な神経の経頭蓋モデュレーションと、規定用量のプロポフォールの頭蓋内への効果的な放出を可能にした。したがって、本開示は、ヒトの脳深部にある特定の神経回路を非侵襲的かつ効果的にモデュレーションするツールを提供し、現在の治療に抵抗性を持つ何百万人もの人々に治療の選択肢を与える。
【0011】
[0012]本明細書で開示されるデバイスは、脳深部刺激インプラントを誘導するための診断情報を提供し、ヒトの脳の機能の理解を深め、治療抵抗性の患者に持続性のある回路リセットを誘導する新たな手段を提供する。
【0012】
[0013]いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるシステムおよび方法は、例えば、精神衛生または神経系クリニックにおいて使用可能な高精度超音波治療を提供する。いくつかの実施態様では、システムは、ターゲット領域において予測可能な効果を生むように頭部に送達される超音波量を制御するための機構を提供する。いくつかの実施態様では、システムは、患者の特定のニーズに基づいて特定の脳領域を予測可能にモデュレーションする多焦点操作を可能にする。
【0013】
[0014]いくつかの実施態様では、システムは、特定の個人における特定の多焦点操作に最適化された幾何形状を有する3Dプリントフレームに挿入された64~1,024個のトランスデューサ素子を備えた頭部装着型トランスデューサアレイデバイスを備える。脳深部ターゲットへの超音波送達は、脳組織による超音波の減衰が最小限であることから可能である。しかし、特に頭部および頭蓋は、超音波の位相をずらし、減衰させる。したがって、いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムおよび方法は、頭部による超音波の収差を補正する(「補償」とも呼ばれる)ために超音波そのものを使用する。このようにして、頭部の収差は直接かつ正確に測定され、CTまたはMRIなどのさらなる頭部スキャンを必要としない。特に、本方法は、所与の頭部の対応する各セグメントの超音波RTT測定を行う。このことにより、特定の頭部の各セグメントの収差を補正するために使用される位相値および振幅値が得られる。それぞれの超音波トランスデューサの振幅は、例えば歪みのない、決定論的な強度を治療ターゲットに送達するように、スケーリングされ、位相シフトされる。いくつかの実施態様では、透過波形の特定の特徴が最適化されて、頭部を通して送達される超音波エネルギーの検出精度、したがって、頭部の補正精度を最大にし得る。
【0014】
[0015]いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムおよび方法は、心的外傷後ストレス障害を含む不安障害およびうつ病関連障害の治療のために構成され適応される。これらの障害には、2つの脳深部領域、すなわち膝下部帯状回および扁桃体と隣接する回路との異常な結合が関与している。帯状回および扁桃体を標的とする数十秒間の低強度超音波は、関連する回路に持続的な変化を引き起こすことができる。いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムおよび方法は、(例えば、ヒトの死体をモデルとして使用して)これらの領域をターゲットとするように構成される。
【0015】
[0016]いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムおよび方法は、疼痛に関与するような視床核の治療のために構成され適応される。これらの障害には、視床核の島皮質、帯状皮質、側坐核、および腹側被蓋野の異常な結合が関与する。これらの回路を標的とする数十秒の超音波により、痛覚閾値を調整する。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるシステムおよび方法は、(例えば、ヒトの死体をモデルとして使用して)これらの領域をターゲットとするように構成される。
【0016】
[0017]いくつかの実施態様では、これらの領域のターゲティングは、fMRI BOLD(血液酸素レベル依存的画像診断)、MRI温度測定、またはMRI音響放射力画像診断を用いて確認可能である。これらの画像診断シーケンスは、超音波によって影響を受ける領域を可視化するため、超音波療法の再現性を高め、潜在的なターゲット外作用を最小限に抑えることができる。
【0017】
[0018]いくつかの実施態様では、MRIは、頭部および脳の被検体固有の解剖学的構造を確立するため使用され得る。
[0019]一実施形態では、本開示は、経頭蓋超音波をターゲット脳位置に適用する方法を提供する。少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサは、超音波を発生させ、自由音場体積内の、ターゲット脳位置に対応するターゲット位置で目標超音波エネルギーを実現するように駆動される。自由音場体積から出た超音波は、自由音場体積の反対側にある、少なくとも1つの送信用超音波トランスデューサに対して一定の距離および向きに配置された少なくとも1つの受信用超音波トランスデューサによって測定される。その後、頭部は送信用超音波トランスデューサと受信用超音波トランスデューサとの間に配置され、送信用超音波トランスデューサは再び駆動されて同じ超音波を頭部に発生させ、受信用超音波トランスデューサは、頭部から出る超音波を測定し、この超音波は少なくとも部分的に送信用超音波トランスデューサと受信用超音波トランスデューサとの間の超音波経路内にある頭部の存在に起因して変化したものである。次いで、1つまたは複数の調整超音波波形は、自由音場体積を通る測定された超音波と、頭部を通る測定された変化した超音波との間の差に基づいて決定され、調整超音波は、ターゲット脳位置において目標超音波刺激エネルギーに近づけるように、ターゲット脳位置に実際の超音波刺激エネルギーを送達するために、超音波経路内の障害物による減衰および位相シフトを補償する。その後、送信用超音波トランスデューサが駆動され、調整超音波を頭部に発生させる。
【0018】
[0020]別の実施形態では、本開示は、頭部装着型デバイスおよびコントローラを備えた超音波を用いた神経刺激システムを提供する。頭部装着型デバイスは、頭部の両側に配置された超音波トランスデューサを含む超音波トランスデューサの少なくとも1つのアレイを備える。コントローラは、体積内のターゲット位置で目標超音波刺激エネルギーを実現するために、超音波トランスデューサによって送信される超音波のセットを決定するように構成される。コントローラは、第1のセットの超音波トランスデューサを駆動し、体積の反対側にある第2のセットの超音波トランスデューサを使用して、伝播する超音波を捕捉する。これは2回行われる。1回は頭部装着型デバイスが頭部に適用されていない間に自由音場で、もう1回は頭部装着型デバイスが頭部に適用されている間に行われる。コントローラは、自由音場測定値と透過測定値とを比較して、少なくとも部分的に超音波経路内に頭蓋骨が存在することに起因する超音波の減衰および位相シフトを決定する。コントローラは、頭部装着型デバイスが頭部に適用されている間、体積内のターゲット位置で目標超音波刺激エネルギーを実現するために、決定された減衰および決定された位相シフトを補償する調整セットの超音波を決定する。コントローラは、頭部装着型デバイスが頭部に適用されている間、決定された調整セットの超音波に従って両方のトランスデューサのセットを駆動する。
【0019】
[0021]さらに別の実施形態では、本開示は、超音波トランスデューサアレイを駆動して、被検体の頭部を通る透過超音波測定および被検体の頭部がなしで透過超音波測定を実行することによって、ターゲット脳位置に決定論的超音波量を適用する方法を提供する。透過超音波測定に基づいて、頭部なしの場合と比較して、頭部に起因する超音波の減衰および位相シフトが決定される。補正された振幅値および位相値が各超音波トランスデューサに対して決定され、超音波トランスデューサアレイは調整された振幅値および位相値に基づいて駆動され、頭蓋内のターゲット脳位置で目標超音波刺激エネルギーを実現する。
【0020】
[0022]本発明の他の態様は、発明を実施するための形態および添付の図面を考慮することにより明らかになるであろう。
[0023]本特許または出願ファイルは、少なくとも1つのカラー図面を含む。カラー図面付きのこの特許または特許出願公開公報の写しは、要求および必要な手数料の支払に基づいて特許庁により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】[0024]一実施態様による超音波刺激を適用するシステムのブロック図である。
図2】[0025]図1のシステムの頭部装着型トランスデューサアレイデバイスの一例の斜視図である。
図3】[0026]図1のシステムの頭部装着型トランスデューサアレイデバイスの別の例の斜視図である。
図4】[0027]図3の頭部装着型トランスデューサアレイデバイスを装着している被検体と、頭部装着型トランスデューサアレイデバイスを装着していない被検体とを撮影した一連のMRI画像である。
図5A】[0028]自由音場体積を通る超音波を送信する、図3の頭部装着型トランスデューサアレイデバイスのトランスデューサアレイの斜視図である。
図5B】[0029]被検体の頭部を通る超音波を送信する、図3の頭部装着型トランスデューサアレイデバイスのトランスデューサアレイの斜視図である。
図5C】[0030]トランスデューサアレイからの超音波ビームのMRI画像への重ね合わせの図である。
図6】[0031]頭蓋の個々のセグメントによる強度減衰のグラフである。
図7】[0032]図5Cに示す超音波ターゲットにおける減衰に起因する、ターゲット位置での送信された超音波の目標強度および実際の強度のグラフである。
図8】[0033]本開示の一実施形態による、頭蓋による超音波収差を測定する方法を概略的に示す図である。
図9】[0034]被検体の頭蓋によって引き起こされる減衰および位相変化を補償するように刺激波を調整した後、被検体の脳内のターゲット位置に超音波刺激を適用する方法のフローチャートである。
図10】[0035]頭蓋が存在しない場合の送信超音波ビームの実測強度、ヒトの頭蓋(n=8)によって減衰した同じ送信超音波ビームの実測強度、および図9の方法による補正後の頭蓋を通過した超音波ビームの実測強度を示す一連のグラフである。バーは、図9の方法が脳深部のターゲットで目標強度をどのように回復するかを示す。
図11】[0036]頭蓋内部に配置された被検体の親指の神経の刺激に関する、図9の方法の補正精度を示すグラフである。
図12】[0037]図11に示す最も高い超音波圧力に対する被検体の反応データを、頭蓋が存在しない場合、頭蓋が存在する場合、頭蓋が存在し、図9の方法に従って超音波が補償される場合、およびターゲットから10mmずれた刺激について別個に示すグラフである。
図13】[0038]目標刺激、実際の刺激(頭蓋による減衰後)、および図9の方法に従って補償された刺激についての実測ピーク圧力を示すグラフである。
図14】[0039]頭蓋による歪みおよび図9の方法による超音波の補償による、適用される超音波によって刺激される領域の焦点体積の変動を示すグラフである。
図15】[0040]患者に適用される、図1のシステムの頭部装着型トランスデューサアレイデバイスの一例の斜視図である。
図16】[0041]頭部装着型トランスデューサアレイデバイスが、頭蓋を通して空間的に集束した強度場を生じさせることを示す図である。生体外のヒト頭蓋を通して測定されるデバイスの焦点の強度場。
図17A】[0042]スケールのために被検体の脳の解剖学的構造に重ね合わせたトランスデューサアレイによって生成された強度場を示す図である。
図17B】スケールのために被検体の脳の解剖学的構造に重ね合わせたトランスデューサアレイによって生成された強度場を示す図である。
図17C】[0043]ターゲット領域における刺激により生じたfMRI BOLD反応を示す図である。
図17D】ターゲット領域における刺激により生じたfMRI BOLD反応を示す図である。
図17E】[0044]ターゲットにおいてfMRI BOLD反応が刺激開始と時間的に同期されている(time-locked)ことを示す図である。
図17F】[0045]同じ刺激パラメータを有する能動的なシャム刺激を示すが、被検体の頭部の外側に集束したアレイ(平面波)では、ターゲットにおいてBOLD反応を誘発しなかった図である。
図17G】同じ刺激パラメータを有する能動的なシャム刺激を示すが、被検体の頭部の外側に焦点を合わせたアレイ(平面波)では、ターゲットにおいてBOLD反応を誘発しなかった図である。
図18】[0046]刺激がうつ病患者の気分の状態を改善することをチャート形式で示す図である。各刺激後の自己報告による気分スコアは、不安およびうつ状態の軽減と、心地良さの増加とを示す。シャム刺激は、被検体の気分評価に変化を誘発しなかった。
図19】[0047]例示的補正方法を示す図である。この方法は、各素子の前方で発生する減衰および高速化を解決するために、すべての素子のペアからの透過測定値を用い、その後、これらの歪みを補正するために刺激パラメータを調整する。
図20】[0048]セッション間の平均減衰補正量を示すグラフである。トランスデューサと被検体の頭部との間の音響カップリングの質により、セッション間でばらつきが観察された。適切にカップリングされていなかった(平均圧力伝達率が12%未満であった)素子はオフにされた。
図21】[0049]メカニカルレジストがセッションをまたいで再現性のあるターゲティングを提供することを示すチャートである。a.5人のヒト被検体の超音波集束および脳ターゲットの位置間の偏差。b.空間的次元により表されるターゲティング誤差。
図22】[0050]メカニカルレジストがセッションをまたいで再現性のあるターゲティングを提供することを示すチャートである。a.5人のヒト被検体の超音波集束および脳ターゲットの位置間の偏差。b.空間的次元により表されるターゲティング誤差。
図23】[0051]青い領域は頭部装着型トランスデューサアレイデバイスが利用可能な電子操作範囲を示す画像である。生体外のヒト頭蓋を通るデバイスの焦点は、スケールのためにMRI画像に重ね合わせられている。焦点は、デバイスの物理的な移動なしに、マイクロ秒単位でこの領域内の任意の位置にビームフォーミングされ得る。
図24】[0052]ヒトの頭蓋の超音波減衰を示す図である。
図25】[0053]RTTが各頭蓋を正確に補償し、ターゲットで目標強度を回復することを示す図である。仮定の理想的補正(灰色)、補正なし(赤色)、およびRTT(緑色)に分けた生体外のヒト頭蓋(n=8)内で得られた超音波場。上部のバーは、各場合での超音波場の空間ピーク強度を示す。下のプロットは、ターゲットに対する超音波場の対応空間分布を示す。
図26】[0054]ヒト頭部に適用されたRTTの効果を示す図である。5人のヒト被検体および8つの生体外のヒト頭蓋における全素子での平均透過減衰値。強固な透過信号を得るために剃毛は必要なかった。
図27】[0055]作用範囲の関数としてのRTT性能を示す図である。アレイの全操作範囲を構成するターゲットを含む:中心ターゲットに対して軸方向10mm、軸方向20mm、横方向10mm、横方向20mm、および高さ方向15mm。軸方向とは、2つのトランスデューサの中心を結ぶ線を指す。
図28】[0056]位相の補正が頭蓋の減衰を説明するには不十分であることを示す図である。RTTの位相補正成分(a)、振幅成分(b)および両成分(c)を使用した中心ターゲットにおける空間ピーク強度。
図29】[0057]RTTがハードウェアにかかわらずロバストであることを示す図である。(a)頭部装着型トランスデューサアレイデバイスのアレイ形状。関連する補正値は、図25と同じデータである。骨の出っ張りおよびおそらくは過骨症により頭蓋が最も厚い被検体8(紫色のマーカ)では補正が比較的不十分であった。(b)よりアパーチャが大きな頭部装着型トランスデューサアレイデバイスのアレイ形状および関連する補正データ。
図30】[0058]RTTが頭蓋を通る効果的な超音波刺激を可能にすることを示す図である。(a)RTTは、頭蓋を通した末梢神経の効果的なモデュレーションを可能にする。アレイは、11人の参加者の親指の神経をターゲットとした。親指は生体外頭蓋内の中心ターゲットに固定された。アレイは、周波数650kHz、圧力振幅1.8MPaで300msの刺激をターゲットに送達した。データは、理想的な補正あり(黒色)、補正なし(赤色)、およびRTT適用後(緑色)に収集された。シャム条件は、指の10mm下に刺激を送達した(黄色)。個々の条件は8~12秒ごとにランダムに提示され、合計10回繰り返された。被検体は、神経および神経終末への刺激を示す侵害受容反応を報告した。反応頻度は、被検体が侵害受容反応を報告した試行の割合を示す。(b)刺激の用量と反応の関係。超音波圧力によって有意にモデュレーションされたが、理想(黒色)的な補正とRTT(緑色)補正後の反応には有意な差はなかった(詳細については本文参照)。低、中、および高のラベルは、自由音場で測定した1.3MPa、1.55MPa、および1.8MPaの目標ピーク圧力に対応する。誤差バーはs.e.m.を表す。
図31】[0059]各被検体における神経刺激を示す図である。各被検体の理想的な補正(黒色)およびRTT補正(緑色)の平均反応率。RTTが適用されなかった場合、有意な超音波神経刺激はみられなかった(赤色;t11=1.00、p=0.34、1標本t検定)。
図32】[0060]RTTが効果的かつ用量依存的な局所薬物放出を可能にすることを示す図である。(a)RTTはナノ粒子キャリアからの効果的な薬物放出を可能にする。安全で生体適合性のあるナノ粒子キャリアは、ニューロモデュレーション薬であるプロポフォールを封入したものであった。ナノ粒子は、低~中強度の超音波で衝撃が与えられると、その薬物負荷分を放出する。ナノ粒子が入ったバイアルは、図30と同様に、生体外頭蓋の中心位置に配置された。超音波は頭蓋を通して、周波数650kHzおよび圧力振幅1.8MPaで、1sごとに100msのパルスを60秒間送達してナノ粒子に衝撃を与えた。データは、頭蓋の仮定の理想的補正下(黒色)、補正なし(赤色)、およびRTT適用後(緑色)に収集された。シャム条件はバイアルの10mm下に刺激を送達した(黄色)。第2のシャム条件では、ターゲットにバイアルを置いたが、超音波は送達しなかった(紫色)。点線は、超音波が適用されない場合のベースラインを表す。ベースラインは、遊離(カプセル化されていない)薬物、またはナノ粒子が部分的に漏出するため、ゼロでない可能性がある。図30と同様に、個々の条件はランダムにインターリーブされた。バーは、n=6を使用した超音波なしの場合を除き、n=10の別個のサンプルから構成される。誤差バーはs.e.m.を表す。(b)用量-反応関係。低、中、および高のラベルは、自由音場で測定した1.2MPa、1.5MPa、および1.8MPaの目標ピーク圧に対応する。すべてのデータポイントは、n=10の別個のサンプルから構成された。誤差バーはs.e.m.を表す。
図33】[0061]頭部による超音波減衰の補償が、効果的なニューロモデュレーションにとって重要であることを示す図である。この図は、補正が適用された場合(左)および適用されなかった場合(右)の、脳深部のターゲットにおける超音波によるfMRI BOLD信号モデュレーションの統計的有意性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[0062]本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載され、または以下の図面に図示された構造の詳細および構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実践または実施することが可能である。
【0023】
[0063]以下の実施例に示されるシステムおよび方法は、例えば神経障害および精神障害の治療および/または診断に使用され得る、非侵襲的な超音波を用いたニューロモデュレーションデバイスを提供する。このデバイスは頭部に装着され、頭蓋の周囲の数カ所でカップリングされる。この配置により、デバイスはトランスデューサから指定された脳深部のターゲットに超音波を送達することができる。デバイスは、超音波を用いてターゲットとする特定の脳領域を選択することができる操作者によって制御される。どのトランスデューサから超音波を脳深部ターゲットに送達するかを自動的に制御するために、患者の治療計画が作成されてもよい。デバイスは、一般的に頭蓋、毛髪、および超音波カップリングを含む超音波障害物を補正するための補正手順を実行し、超音波が目標強度で所定のターゲットに到達するような振幅およびタイミングで個々のトランスデューサアレイから超音波を放射する。
【0024】
[0064]いくつかの実施態様では、システムは、治療に使用されるものと同じ周波数の超音波そのものを使用することによって、頭蓋の超音波収差を補正するように構成される。デバイスは、推定値とは対照的に頭蓋を直接測定し、より正確で安全かつ効果的な治療を可能にする。デバイスは、頭蓋を通過する相対的透過測定を介して超音波の実際の減衰および位相分散を測定することによって、この測定値を得る。その後、システムはこれらの測定された減衰値および位相値を取り込み、各素子の振幅および位相を調整することによってこれらを補償する。超音波そのものを用いた超音波頭蓋収差の測定は、特定の脳ターゲットに送達される超音波強度の正確な補償を行い、超音波の焦点をはっきりさせることで、より正確で安全かつ効果的な治療をもたらす。
【0025】
[0065]いくつかの実施態様では、頭部装着型デバイスは、患者固有のカスタム3Dプリントフレームに取り付けられた256個のトランスデューサ素子を備える。このモジュール設計により、各患者の特定の脳領域をターゲットにすることができる。
【0026】
[0066]図1は、脳深部治療のための超音波を用いた神経刺激システム100の例を示す。システム100は、電子プロセッサ103および非一時的コンピュータ可読メモリ105を備えたコントローラ101を備える。電子プロセッサ103は、メモリ105に通信可能に接続され、メモリ105にデータを記憶し、メモリ105から記憶されたデータにアクセスするように構成される。メモリ105は、電子プロセッサ103によって実行されると、例えば、本明細書に記載の機能を含むコントローラ101の機能を提供するコンピュータ実行可能命令も記憶する。図1の例では、他の実施態様では1つのメモリ105のみを図示しているが、本システムは、例えば、ローカルメモリ、外部記憶デバイス、および/またはリモートもしくはクラウドベースのメモリシステムを含む、複数の異なるメモリモジュールを利用してもよい。同様に、異なる実施態様では、システム100は、1つまたは複数の異なるコンピューティングデバイスに実装された1つまたは複数の電子プロセッサを利用してもよい。実施態様によっては、コントローラ101は、アプリケーション固有のコントローラデバイスとして実装されてもよく、実施態様によっては、コントローラ101は、デスクトップ、ラップトップ、またはタブレットコンピュータとして提供されてもよい。さらに他の実施態様では、コントローラ101は、例えば、後述する頭部装着型デバイスに組み込まれるか、または直接接続された電子コントローラと、電子コントローラに通信可能に接続されたコンピュータとを含む、複数の異なる制御デバイスを備えることができる。したがって、特に理のない限り、コントローラ101は、1つまたは複数のコンピューティングデバイスおよび/または制御回路、1つまたは複数の電子プロセッサ、ならびに1つまたは複数のメモリを備えることができる。
【0027】
[0067]図1の例に示されているように、コントローラ101は、超音波トランスデューサ107.1、107.2、および107.nを含む複数の超音波トランスデューサ107に通信可能に接続される。本明細書に記載の具体例では、複数の超音波トランスデューサ107は、1つまたは複数のアレイに配置された256個の超音波トランスデューサを含み、これらは頭部装着型デバイスに組み込まれている。
【0028】
[0068]以下でさらに詳細に説明されるように、コントローラ101は、アレイ内の超音波トランスデューサ107に選択的かつ制御可能に超音波を送信させ、送信される超音波のパラメータを定義/制御するように構成される。コントローラ101はまた、アレイ内の他の超音波トランスデューサからの出力データを受信するように構成される。このようにして、超音波トランスデューサ107は、超音波を送信および受信するためにコントローラ101によって操作される。いくつかの実施態様では、コントローラ101は、各超音波トランスデューサ107と直接電子的に通信するように構成されるが、他の実施態様では、コントローラ101は、コントローラ101に組み込まれるか、または別個の追加デバイスとして提供されるデータ収集および/または信号ルーティングデバイス(図示せず)を介して複数の超音波トランスデューサ107に間接的に接続される。
【0029】
[0069]図2は、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス201の第1の例を示す。頭部装着型デバイス201は、被検体の頭部の上部の周りに適合する大きさの3Dプリントフレーム203を備える。この例では、3Dプリントフレーム203は略管状であり、装着されたときに超音波トランスデューサアレイが被検体の頭部を包囲するように、3Dプリントフレーム203の内周にアレイ状に配置された複数の超音波トランスデューサ205を支持する。各超音波トランスデューサ205は、超音波トランスデューサ205の後部に取り付けられたケーブル207を介して(図1の)コントローラ101に通信可能に接続される。いくつかの実施態様では、3Dプリントフレーム203は、目標被検体の解剖学的寸法に従ってカスタムの大きさにされ得る。加えてまたは代替的に、3Dプリントフレーム203によって支持される超音波トランスデューサ205の位置および向きは、目標被検体の脳内の1つまたは複数の特定の位置をターゲットとするように調整され得る。いくつかの実施態様では、これは、超音波トランスデューサ205の相対角度を調整するために超音波トランスデューサ205の位置を手動で調整することによって行われ得るが、他の実施態様では、3Dプリントフレーム203は、目標被検体の脳内の1つまたは複数のターゲット位置に特有の位置および向きで各超音波トランスデューサ205を受容し支持するように構成される。また、いくつかの実施態様では、トランスデューサアレイ内の各トランスデューサの相対角度は、(後述するように)ターゲット位置で交差する超音波トランスデューサの選択された異なる組み合わせによって異なるターゲット位置が刺激できるように既知である。したがって、いくつかの実施態様では、ほぼ任意の脳領域は、超音波を脳組織に送信するために超音波トランスデューサの異なる組み合わせを選択することによってターゲットとすることができる。
【0030】
[0070]図3は、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス301の代替例を示す。この例では、頭部装着型デバイスは、被検体の頭部305の周りに装着される大きさのフレーム303を備え、3Dプリントフレームの両側に配置された2つの別個のトランスデューサアレイ307a、307bを備える。図3に示すように、超音波トランスデューサアレイ307a、307bは、頭部装着型デバイス301が被検体によって装着されたときに、被検体の頭部305の両側に配置される。図3の例では、頭部装着型デバイス301は、額支持パッド310および鼻支持パッド311の位置決めを調整可能にするように構成された調整可能支持機構309も備える。額支持パッド310および鼻支持パッド311は、使用中に頭部装着型デバイス301を所定の位置に保持するために、目標被検体の頭部305の解剖学的形状に適合するように調整され得る。いくつかの実施態様では、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス(例えば、頭部装着型デバイス201または頭部装着型デバイス301)は、MRI適合性材料およびケーブルから構成され、図4に示すように、MRI中の頭部装着型トランスデューサアレイの使用は、取り込まれたMR画像に検出可能な画像歪みを生じさせない。さらに、いくつかの実施態様では、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス(例えば、頭部装着型デバイス201または頭部装着型デバイス301)は防水性であってもよい。
【0031】
[0071]ある構成では、デバイス301は、互いに対向して配置され、187mmの距離離されるように、プラスチック製のMRI適合性フレームに取り付けられた2つの球状フェーズドアレイトランスデューサを備える。アレイ素子は、6mm×6mmの表面積を有するPMN-PT材料で作製され、650kHzの基本周波数で動作する。球状に集束された2つのアレイは165mmの半径、9×14の素子グリッド内に126個の素子を有し、素子間隔は0.5mmである。各アレイは、55mmの高さおよび86mmの幅を有し、47.3cmの面積に広がる。これらのトランスデューサは、被検体の頭頂骨および側頭骨を通して超音波を送達するように構成される。具体的には、トランスデューサは被検体の頭部の左側および右側に平行に向き付けられる。トランスデューサはプログラム可能なシステム(例えば、Vantage 256、Verasonics)によって駆動される。トランスデューサはハイドロゲルで被検体にカップリングされる。標準的な超音波カップリングゲルは、トランスデューサとハイドロゲルとの間の界面、およびハイドロゲルと頭部の間の界面に、塗布することができる。超音波ゲルの塗布は、ハイドロゲルの存在を考慮すれば重要ではないが、透過率をおよそ係数2だけ向上させることができる。
【0032】
[0072]いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムは、神経障害または精神障害の神経源を系統的にかつ個別化された方法で診断し治療するために使用される。頭部装着型トランスデューサアレイデバイス201、301は、高い時空間分解能かつ多焦点方式で、指定された脳ターゲットを非侵襲的にモデュレーションするように動作する。さらに、いくつかの実施態様では、システムは、頭蓋を補償し、それによって、効果的かつ安全な適用のために決定論的量の超音波エネルギーを指定された脳ターゲットに蓄積させるように構成される。いくつかの実施態様では、システムは、図3の頭部装着型デバイス301を使用する図5Aの例に示すように、超音波の重ね合わせを使用して脳ターゲットに超音波エネルギーを適用するように構成される。
【0033】
[0073]いくつかの実施態様では、本明細書に記載のシステムは、患者の神経障害または精神障害の治療のための1つまたは複数の治療薬(例えば、プロポフォール)を担持する生体適合性ナノ粒子を活性化または放出するために使用される。頭部装着型トランスデューサアレイデバイス201、301は、超音波が患者の指定された脳の位置で治療薬を活性化し放出できるように、頭蓋の指定された位置を非侵襲的にモデュレーションするように操作される。さらに、いくつかの実施態様では、システムは、頭蓋を(例えば、本明細書に記載のRTT法を利用することによって)補償し、それによって、超音波が頭蓋に適用されるときに、患者に治療上有効な放出を行うように構成される。
【0034】
[0074]図5Aの例では、システムは、第1の超音波トランスデューサアレイ307aの3つの異なる超音波トランスデューサから超音波を送信するように操作される。超音波は、第1の超音波501a、第2の超音波501b、および第3の超音波501cがすべてターゲット位置503で交差するように、異なる相対軌道角度で照射される。ターゲット位置503では、3つの超音波501a、501b、501cの重ね合わせにより、ターゲット位置503に目標超音波エネルギーが適用される。ターゲット位置503を通過すると、3つの超音波501a、501b、501cは、第2の超音波トランスデューサアレイ307bに到達するまでそれぞれの軌道に沿って進み続ける。第2の超音波トランスデューサアレイ307bのトランスデューサの出力は、第2の超音波トランスデューサアレイ307bに到達した超音波501a、501b、501cの送達強度を測定するために監視される。
【0035】
[0075]図5Aは、「自由音場」領域(すなわち、超音波トランスデューサアレイ307a、307b間に位置する水のみがある場所)における頭部装着型デバイス301の動作を示す。図5Bに示すように、頭部装着型デバイス301が頭部305に配置されると、超音波501a、501b、501cは、重ね合わせを介して超音波エネルギーを適用するように脳内の位置(例えば、ターゲット位置503)に収束する。しかしながら、第1の超音波トランスデューサアレイ307aと第2の超音波トランスデューサアレイ307bとの間の超音波経路内の障害物は、超音波501a、501b、501cに影響を与え、ひいては、ターゲット位置503で適用される超音波エネルギーに影響を与える。頭部装着型デバイス301使用中の超音波経路内の障害物としては、例えば、被検体の頭蓋および頭皮などの解剖学的特徴、毛髪、頭部装着型デバイス301と頭部305との間のカップリング界面、およびカップリング界面内の気泡を挙げることができる。
【0036】
[0076]例えば、図5Cに示すように、第1の超音波トランスデューサアレイ307aによって照射された超音波は、脳に入り脳内のターゲット位置503に到達する前に頭蓋の一部509を通過しなければならない。図6は、超音波が509で頭蓋を通過するときの3つの超音波の各々の超音波エネルギーの相対強度の例を示す。図7は、ターゲット位置503における「目標強度」(すなわち、図5Aの自由音場領域におけるターゲット位置503での超音波エネルギーの強度)と比較した、ターゲット位置503における「実際の強度」(すなわち、使用中に頭部装着型デバイス301が装着されているときのターゲット位置503での超音波エネルギーの強度)の差を示す。図8は、使用中に頭部装着型デバイス301が装着されているとき(図5Bに示す)、および自由音場領域の場合(図5Aに示す)、第2の超音波トランスデューサアレイ307bの第2のトランスデューサiによって測定された、第1の超音波トランスデューサアレイ307aの第1のトランスデューサjから投射された超音波のうちの1つの超音波エネルギーを示す。これらのグラフは、超音波経路に沿った頭蓋および他の障害物の存在が、超音波の減衰および位相分散(例えば、高速化)を引き起こすことを実証する。実際、いくつかの実施態様では、ヒトの頭蓋によって引き起こされる減衰は、超音波が有意な神経刺激を生じさせるのを防止し、その例は、本明細書に提案される頭蓋の補償が適用されていない図12の赤色のバーで観察可能である。神経刺激は、本明細書の補償が適用されると回復する。
【0037】
[0077]脳内のターゲット位置で目標量の超音波エネルギーを実現するために、いくつかの実施態様における電子コントローラ101は、超音波経路内の頭蓋および他の障害物の影響に対する適切な補償を決定するように構成される。いくつかのそのような実施態様では、システムは、治療に使用されるものと同じ周波数の超音波そのものを使用して、超音波経路内の全障害物による超音波の減衰および位相分散を直接測定し、補償する。いくつかの実施態様では、必要な補償値は、頭部がある場合(図5B)および頭部がない場合(図5A)の超音波到達時間および振幅を対比することによって相対論的に確立される。このメカニズムを使用して、超音波経路の全障害物(例えば、頭部装着型デバイスの頭部とのカップリング界面、気泡、頭部の解剖学的構造、頭蓋、脳組織などを含む)を補償することによって、システムは、水中(頭部がない)で測定されたものと同じ強度で、超音波エネルギーをターゲット位置に送達することができる。
【0038】
[0078]図9は、脳内のターゲット位置で所望の/目標超音波エネルギーを実現するために、送信される超音波ビームを決定し、適切な補償を適用するためにコントローラ101によって実行される方法の例を示す。第一に、超音波エネルギーは、超音波が「自由音場」領域(例えば、超音波トランスデューサ間の水のみ)を通るように第1のセットのトランスデューサによって送信され、超音波経路の反対側にあるトランスデューサの第2のセットによって測定される「自由音場」シーケンスを介して測定される(ステップ901)。第二に、頭部装着型デバイス301は頭部に配置され、同じ超音波が同じ第1のセットのトランスデューサから送信され、同じ第2のセットのトランスデューサによって測定される「透過」シーケンスが測定される(ステップ903)が;「透過」シーケンスでは、超音波経路は被検体の頭部/頭蓋を通って進む。これら2つのシーケンスによる測定値は、減衰および位相値の差を定量化するために比較される(ステップ905)。適切な位相および振幅の調整は、減衰と位相値の差に基づいて決定される(ステップ907)。各トランスデューサへの超音波波形は、決定された振幅および位相調整を用いて適用される(ステップ909)。「透過」方法論に関するさらなる詳細は、以下の実施例2に記載されている。
【0039】
[0079]水中での測定(例えば、自由音場シーケンス測定)に対して、超音波経路内の障害物(例えば、頭蓋)は、各トランスデューサ素子iから照射されるビームを係数Aだけ減衰させ、ビームを相対時間τだけ速くする。図9の補償方法は、これらの値を推定して補正し、各超音波ビームの振幅を係数
【0040】
【数1】
【0041】
だけスケーリングし、放出をτだけ遅延させる。いくつかの実施態様では、高速化時間τおよび減衰Aの再構成は別個に解かれる。
[0080]減衰について、いくつかの実施態様では、コントローラ101は、以下の方程式系を解くように構成される。
【0042】
【数2】
【0043】
式中、Aijは、頭蓋の両側を伝播する超音波の透過法により測定された相対減衰値である。これらの式の比例定数
【0044】
【数3】
【0045】
は、トランスデューサ素子iとjとの間の角度βで頭蓋を通って超音波が進む延長経路を表す。頭蓋の2つの対向するセグメントを通じた減衰値は倍加するため、減衰には対数式を用いる。この一次方程式系はKx=bのように行列形式で表すことができ、式中、Kはkij個の係数の行列、xは求める値x=[A,A,...,A256]のベクトルであり、bは測定値Aijのベクトルである。解xは、二乗誤差の合計(b-Kx)’×(b-Kx)を最小化する。
【0046】
[0081]いくつかの実施態様では、コントローラ101は、以下のように位相シフト
【0047】
【数4】
【0048】
を計算するように構成される。すべてのトランスデューサのペアについて、hij(t)は、トランスデューサjから短いパルスが発せられた後のi番目のトランスデューサの受信信号に対応する。この送受信は、水中
【0049】
【数5】
【0050】
(すなわち、自由音場測定)および頭蓋透過
【0051】
【数6】
【0052】
(すなわち、透過測定)の両方で、すべての素子に対して実行され得る。合計N個のトランスデューサの各受信トランスデューサiについて、コントローラ101は、水中(すなわち、自由音場測定)での送信遅延
【0053】
【数7】
【0054】
を決定し、これは全送受信波形
【0055】
【数8】
【0056】
を素子iに集束させる。
[0082]タイムシフト
【0057】
【数9】
【0058】
の任意のベクトルにおけるこれらの波形の和を次のように表す。
【0059】
【数10】
【0060】
式中、
【0061】
【数11】
【0062】
[0083]その目的は、水に対する高速化を説明する遅延
【0063】
【数12】
【0064】
を見つけることである。水中の素子iで受信する各波は、送信素子の前方での高速化を補償するために遅延
【0065】
【数13】
【0066】
を適用した後の頭蓋を通過する波に比べて
【0067】
【数14】
【0068】
だけ遅延しているはずである。いくつかの実装態様では、コントローラ101は、以下の式を最適化することによって、これらの遅延
【0069】
【数15】
【0070】
を特定するように構成される。
【0071】
【数16】
【0072】
[0084]図10は、脳内の3つの異なるターゲット位置、すなわち内側前脳束の上外側枝、腹側内包/腹側線条体、および中間腹側核(VIM)における、図9の補償方法により得られる強度を示す。各実験では、グラフは、頭蓋のない(すなわち、自由音場測定)ターゲット位置での超音波エネルギーの強度、同じ超音波ビームが頭蓋に適用されたとき(すなわち、透過測定)の同じターゲット位置での強度、および補償済み超音波ビームが頭部に適用されたとき(すなわち、「ダイアデム補正」刺激測定)の同じターゲット位置での強度を示している。グラフは、8つの異なる試料における補償精度の定量化(平均±s.e.m.)を表す。これらのグラフに示されるように、各ターゲットに送達される目標ピーク強度(14W/cm)は、すべてのターゲットにおいて頭蓋によってひどく減衰している(図10の赤色のバーを参照のこと)。しかし、図9の補償方法は、目標強度値を正確に回復することができる(図10の緑色のバーを参照のこと)。
【0073】
[0085]図11および図12は、図9の補償方法を用いた別の実験セットの結果を示す。頭部装着型デバイス301は、11人の参加者の親指の神経および神経終末をターゲットとするように構成された。親指は、生体外頭蓋内のVIMの位置に固定された。デバイスは650kHzの周波数で300msの刺激をターゲットに送達した。データは、頭蓋なしで、生体外頭蓋を通して、および頭蓋の補正を適用した後に頭蓋を通して収集された。この実験は、指の10mm下に刺激(すなわち、「ターゲット外」シャム刺激)を適用することも含んでいた。被検体は目を閉じ、ノイズキャンセリングヘッドフォンを装着した。被検体は、補正あり、補正なし、またはシャム刺激のいずれが適用されたかについて盲検化され、侵害受容反応はすべて報告した。侵害受容反応とは、神経および神経終末の刺激を示すものである。
【0074】
[0086]図11のグラフは、刺激の量-反応関係を示す。2元配置分散分析(ANOVA)では、超音波圧力による有意なモデュレーションを検出した(F(2,60)=25.11、p<0.001)。頭蓋の補正は、頭蓋なしの刺激に対する反応と頭蓋を補正した刺激に対する反応との間に有意差がなかった(p=0.96)ため、正確であった。図12のグラフは、最も高い適用刺激圧力(1.33MPa)における効果の定量化を示す。p値は、それぞれの両側t検定の有意性を示す。図12に示すように、頭蓋なしの刺激の場合および頭蓋を補正した刺激の場合では反応割合がほぼ同一であったのに対し、頭蓋を通して適用された未補正刺激の反応割合はほぼゼロであった。この結果は、補償がなければ、本質的に神経刺激はないという補償の重要性を明確に実証している。さらに、ターゲット外刺激に対する反応割合もほぼゼロであり、頭部装着型デバイス201、301によって適用される刺激が、目標ターゲット領域の外では識別可能な刺激効果を持たない可能性が高いことを示唆している。
【0075】
[0087]図13および図14は、頭部装着型トランスデューサアレイデバイスを用いたさらに別の刺激実験の結果を示す。図13は、自由音場測定(すなわち、「目標(頭蓋なし)」)、非補償ターゲット透過測定(すなわち、「実際(頭蓋による)」)、および補償済みターゲット透過測定(すなわち、「補償済み(US補正)」)に関する3つの異なるターゲット部位(腹側被蓋野(VTA)、腹側内包/腹側線条体(VC/VS)、内側前脳束の上外側枝(slMFB))の各々における実測ピーク圧力を示す。この図は、図9に記載された補償手順が、決定論的かつ効果的な超音波の送達に重要であるという図10図12の概念を確認するものである。図14は、3つの同じ刺激条件下における3つの同じターゲット領域に対する焦点体積の定量化を示す。図14によって示されるように、超音波経路内の頭蓋の存在は、超音波を減衰させるだけでなく、重ね合わされた超音波ビームによって与えられる刺激の焦点体積を増加させる。しかし、図14は、図9の方法による補償を適用することによって焦点体積が減少され得ることも示す。したがって、図14は、超音波経路内の障害物によって引き起こされる減衰および位相シフトを補償することに加えて、図9の例を参照して上述した方法も、適用される刺激の焦点体積を調整し微調整するように構成され得ることを示す。いくつかの実施態様では、コントローラ101は、補正されたピーク圧力および焦点体積の両方を可能な限り目標値に近づけるために、送信される超音波ビームに適用される調整された補償を協調的に最適化するように構成される。いくつかの条件下では、焦点体積をターゲットに近づける調整により、補正済みピーク圧力がピーク圧力ターゲットからさらに遠ざかる可能性があり、両方のターゲットが同時に達成できない場合、ピーク圧力および焦点体積のターゲットからの偏差のバランスをとるための最適化された解を決定するために、様々な異なる最適化技術がコントローラ101によって採用され得る。
【0076】
[0088]図15は、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス301の代替例を示す。この例では、頭部装着型デバイスは、被検体の頭部の周りに装着される大きさのフレームを備え、フレームの両側に配置された2つの別個のトランスデューサアレイ(黒色)を備える。図3に示すように、超音波トランスデューサアレイは、頭部装着型デバイスが被検体によって装着されたときに、被検体の頭部の両側に配置される。図3の例では、頭部装着型デバイス301は、調整可能な位置決めのために構成された調整可能な支持機構も備える。いくつかの実施態様では、頭部装着型トランスデューサアレイデバイス(例えば、頭部装着型デバイス201または頭部装着型デバイス301)は、MRI適合性材料およびケーブルから構成され、図17C図17Gおよび図33に示すように、MRI中の頭部装着型トランスデューサアレイの使用は、取り込まれたMR画像に検出可能な画像歪みを生じさせない。さらに、いくつかの実施態様では、頭部装着型トランスデューサアレイデバイスは防水性であってもよい。
【実施例1】
【0077】
[0089]ヒトにおける頭部装着型デバイスを用いた効果的なニューロモデュレーションの実証
[0090]このデバイスは治療抵抗性のうつ病患者に適用され、脳深部構造である膝下部帯状皮質をモデュレーションした。fMRI BOLDを用いたターゲットへの作用を検証した。さらに、ターゲットのモデュレーションは患者の気分状態を改善した。この効果は、刺激されたターゲットに特有のものであり、同じ圧力および波形の刺激を脳に送達したが集束されていないシャム刺激では観察されなかった。
【0078】
[0091]図5Bに示す頭部装着型デバイス301は患者に適用された(図15参照)。このデバイスは、患者の頭部の両側に配置された2セットの126素子フェーズドアレイトランスデューサを備えていた。各トランスデューサアレイ素子の送受信機能は、各超音波ビームの減衰(および位相分散)に対する超音波を用いた補正を可能にする。1回の術前MRIおよびメカニカルレジストを使用して、患者の脳の複数領域への集束超音波の経頭蓋的適用をガイドした。膝下部帯状皮質のターゲットに集束させると、アレイは軸方向20.4mm、横方向2.4mm、高さ方向3.6mm、総体積142.71mm(直径6.48mmの球の体積に相当)の強度場を形成する(図16参照)。
【0079】
[0092]図17A図17Bは、スケールのために被検体の脳の解剖学的構造に重ね合わせたアレイによって生成された強度場を示す。フェーズドアレイの形状により、軸次元に±45mm、横次元に±25mm、高さ次元に±15mmの寸法で電子的に焦点を柔軟に操作することができる(図23)。MRI適合性のプラスチック製フレーム(図15に示す)は、アレイを保持し、水平および垂直のトラック上で摺動させ、アレイを移動させた後、被検体頭部の側部のどこの位置にでも係止することができる。
【0080】
[0093]レジストおよび頭蓋に対する超音波を用いた補正後、図17C図17GのようにfMRI BOLD反応を測定しながら、脳の膝下部帯状皮質は超音波処理された。図17Cおよび図17Dは、ターゲット領域での有意なはっきりとした活性化を示す(ピークレベル:p=0.003、t=5.52、ZE=5.37、クラスタレベルp<0.001(ファミリー重み付け誤差補正済み、kE=69ボクセル))。このfMRI BOLD活性は、超音波刺激の開始時に特有のものであった(図17E)。この領域のBOLD活性の超音波オフから超音波オン状態までのコントラスト推定値は、3.07±0.56(平均±s.e.m.)という大きな効果量を示す。刺激の種類について盲検化された被検体には、陰性対照として非集束平面波超音波の能動的シャム刺激も提示された。この非集束ビームは、同じ刺激パラメータおよび強度を備えていたが、位相遅延が調整され、被検体の頭部のはるか外側にエネルギーを集束した。この能動的シャム刺激条件下では、有意なBOLD活性はターゲット近傍では測定されなかった(図17F図17G)。
【0081】
[0094]MRIスキャナの外では、圧力1MPa、パルス時間30msオン、パルス間隔4秒で、刺激時間および焦点位置を変化させた10回の超音波処理を被検体に提示した。150秒~300秒間、膝下部帯状回を超音波処理したときに被検体の自己報告によるうつ状態、不安、および感情価の評価の改善が観察された(図18)。吻側腹側線条体への超音波処理、または同じ強度の非集束平面波刺激による超音波処理をしたときには、被検体は気分の変化を報告しなかった。この効果は刺激時間に対しても特異的であり、気分スコアの変化は刺激時間が長くなるにつれて大きくなった。150秒未満の刺激では、気分スコアの変化はほとんど見られなかった。このような気分への効果以外では、被検体は、刺激を受けている間、より長く思考回路を保つことができ、2週間ぶりに将来の出来事に対して希望を感じることができたという主観的体験を報告した。重要なことに、被検体は、90分の超音波処理セッションを3回受ける間、有害作用はなかったと報告した(表1)。
【0082】
【表1】
【0083】
[0095]特定のターゲットを超音波処理する前に、被検体の透過測定値が取得され、各素子前方での減衰および位相遅延は水と比較して推定され、これらの超音波収差を補正するために刺激パラメータが調整された。図5A図5C図6図7図8A図8B、および図19は、補正に関与するステップと、水中および被検体を通して取得された透過波形の例を示す。全252素子にわたる全透過スキャンの撮影は1秒未満である。重要なことに、このスキャンでビーム経路上のすべての減衰原因、すなわちカップリング、毛髪、局所的なエアポケット、頭蓋、および脳からの減衰を測定する。各素子の頭蓋を通る圧力伝達の即座の測定は、操作者に音響カップリングの質を知らせ、超音波処理を行う前にカップリングされていない素子を固定することができた。図20は、推定減衰を補償するためにトランスデューサ素子に適用された平均振幅倍率を示す。平均振幅倍率は、刺激セッション1では4.84±0.94(平均±S.D.)、セッション2では5.59±1.09、セッション3では5.68±0.97であった。推定圧力伝達率が12%未満の素子はすべてオフにされ、残りの素子はそれらの素子の失われた寄与分を補償するために振幅を増加させた。
【0084】
[0096]最後に、ターゲティングの再現性を評価するために、デバイスのターゲティング誤差は、複数のセッションおよび複数の被検体に対して測定された。プラスチック製フレームは、超音波トランスデューサの位置決めを繰り返し可能にした。すべてのセッションおよび被検体に対して、超音波トランスデューサの位置は、全体で0.89±0.64(平均±S.D.)、x次元で0.45±0.32、y次元で0.43±0.14、z次元で0.44±0.17とばらつきがあった。熱可塑性マスクは、複数セッションにて被検体の頭部を同じ位置に確実に固定した。被検体の基準マーカの位置は、すべての被検体に対して複数の試行で平均して、全体で1.28±0.66のばらつきがあり、x次元で0.53±0.19、y次元で0.68±0.27、z次元で、0.71±0.31とばらつきがあった(図21)。ターゲティング誤差、すなわち仮想超音波焦点の位置と対象の脳ターゲットとのずれは、被検体における基準点と超音波トランスデューサにおける基準点との間の位置の平均差を測定することにより評価した。全体で、このデバイスの平均的なターゲティング誤差は、被検体全体で1.64±0.66、x次元で0.77±0.50、y次元で0.93±0.41、z次元で0.99±0.49であった(図22)。
【0085】
[0097]本実施例に記載のこの研究では、ターゲット領域のfMRI BOLD活性に有意な変化をもたらすことにより、デバイスの有効性を検証した。本デバイスは、被検体の頭蓋、毛髪、および音響カップリングによる減衰および位相シフトを補正し;それによって、ターゲットに有効かつ安全な強度を送達することによる現在の超音波ニューロモデュレーション技術を改善する。図33(左)は、この機能が効果的な超音波ニューロモデュレーションに重要であることを示す。既存の超音波デバイスを使用した場合である非適用の場合(図33、右)は、ニューロモデュレーション効果はなかった。
【0086】
[0098]機械的フレームおよびフェーズドアレイシステムは、脳深部の空間的に特異的なターゲットにエネルギーを柔軟に集束させることができる。新しいメカニカルレジストアプローチを用いると、このデバイスは、高価なニューロナビゲーションシステムを必要とすることなく、MRIスキャナ外で、被検体および治療セッションを問わず、脳深部領域の再現性のあるターゲティングを可能にする。
【0087】
[0099]このデバイスは、fMRI BOLD測定によってモニタできる、ヒトにおける効果的なニューロモデュレーションを提供する。ヒト被検体の膝下部帯状皮質を刺激したときに、ターゲットにおいて明確なfMRI bold反応が誘発された。fMRI BOLD活性の変化は、超音波刺激に時間的に同期され、シャム刺激中には見られなかった。これらのデータを総合すると、本デバイスは脳深部のターゲットを局所的に活性化し、その反応は超音波刺激に特異的であるという強力な証拠を示す。このMRI適合性デバイスで利用可能なfMRI BOLD読み出しは、ニューロモデュレーションの振幅、極性、およびターゲティング精度に関する貴重なフィードバックを与える。MRIスキャナの刺激パラメータにより、刺激がターゲットに与えられ、膝下部帯状皮質の活性を抑制することが判明した。
【0088】
[00100]膝下部帯状皮質のモデュレーションは、被検体の気分状態にポジティブな変化を効果的に誘発した。具体的には、被検体が自己申告したうつ状態、不安、および感情価のスコアの改善が観察された。被検体は、シャム刺激、吻側腹側線条体の刺激、または1分未満の刺激の大部分に対しては気分の変化を報告しなかった。全体として、気分の変化は、ターゲット領域(膝下部帯状回)および刺激パラメータ(1分を超える持続時間)の両方に特異的であった。このデバイスによる刺激は安全であり、良好な忍容性が認められた。被検体は90分間の刺激セッション3回にわたって有害作用を報告しなかった。
【0089】
[00101]超音波ビームの減衰を測定するデバイスの機能は、安全性および有効性の両方に関して重要である(図33)。超音波の減衰はセッションによって異なる。頭蓋の同じセクションにデバイスを繰り返し配置することにより、これらの違いは、トランスデューサと被検体の頭部とのカップリングのばらつきによるものと思われる。デバイスの安全機能は、特に減衰が大きい素子をオフにするためのものであって、この減衰は局所的なエアポケットまたは頭蓋の特に厚い領域によるものであり得る。いずれの場合も、超音波処理は危険なキャビテーションまたは加熱効果をもたらす可能性がある。有効性に関して、アレイ素子に適用されるかなりの振幅倍率および位相補正が刺激には重要であった。量を漸増させる場合、数回の超音波が0.4MPaの送達圧で頭蓋を通って送達され気分のスコアに変化は見られなかった。この特定の被検体の平均圧力振幅倍率が5.37であることを考慮すると、頭蓋の補正が行われなかった場合、目標強度が33.78W/cm(1MPa)であるとき、1.09W/cm(0.18MPa)未満しか送達されない。頭蓋により引き起こされる位相分散の測定には有効であるが、減衰の測定には有効でない頭蓋のCT補正では、毛髪、巻き込まれた気泡、および音響カップリングのばらつきによる減衰を考慮することはできない。これらのさらなる障壁は相当なものであり、毛髪による約20%、および局所的な気泡またはエアポケットによる最大100%のカップリングにより、透過強度を約0~64%減衰させる。例えば、セッションによっては、252個の素子のうち60個もの素子が超音波処理前に被検体と音響カップリングしていないことが判明し、このカップリングの問題は超音波処理前に修正しなければならなかった。残りのカップリングされていない素子はオフにされた。このフィードバックはCT補正にはなく、局所的なエアポケットへの危険であり得る超音波照射、およびターゲットでの有効とはいえない圧力につながる。
【0090】
[00102]本デバイスの柔軟で再現性のあるターゲティングは、脳全体の多くの領域への介入を可能にする(図23)。この被検体の膝下部帯状回に作用させるために、ビームはアレイの幾何学的中心から横方向に17mm、高さ方向に9mm電子的に操作された。アレイを所定の位置に係止し、電子ビームフォーミングを使用することにより、膝下部帯状皮質の上側および下側のセクション、腹側線条体が超音波処理され、同じ刺激セッション中にすべてシャム刺激のために頭部外でビームを操作した。マイクロ秒単位で異なるターゲットにビームフォーミングする機能を用いて、何百ものユニークな脳領域が毎分フェーズドアレイシステムにより刺激され得る。視床核、扁桃体、帯状皮質、島皮質、側坐核、腹側被蓋野などの脳の他の領域は、アレイの物理的移動と所与のターゲットに対する焦点のビームフォーミングとの組み合わせを通じて対処され得る。この高速で柔軟なターゲティングは、フェーズドアレイシステム特有のものである。ニューロモデュレーション用デバイスは、典型的にターゲティングにはMRIガイド下の単一素子トランスデューサを使用するか、または光学的ニューロナビゲーションを用いてきた。メカニカルレジスト法は、MRIスキャナの内外で脳深部領域の正確なターゲティングを可能にし、このような高価なレジストツールを必要としない。
【0091】
[00103]刺激に対するfMRI BOLD活性は、動物実験ではしっかりと示されているが、ヒトでのfMRI測定では2つのグループしか報告していない。これらの結果は、比較的深い領域である膝下部帯状回への超音波刺激に対するfMRI BOLD反応の初の実証とともに、比較的強い効果サイズを示すことによって拡張される。fMRIの強い活性化は、頭蓋収差を補正することによって得られるターゲットの圧力の増加によるものである(図33)。全体として、超音波刺激に対するこれらの有意で時間的に同期したBOLD反応は、ニューロモデュレーション効果の大きさ、極性、およびターゲティング精度をモニタするためのデバイスの重要な機能を示す。
【0092】
[00104]この研究は、膝下部帯状皮質のtFUS刺激が治療抵抗性のうつ病患者の気分状態を改善することも初めて実証している。これまでの研究でも同様に、腹側外側前前頭皮質および下前頭回のFUS刺激による気分の改善を示している。気分の即座の改善が観察されただけでなく、将来の出来事に対する希望などの主観的効果も観察された。膝下部帯状回をターゲットとする根拠は、過去のDBS研究、およびこの領域が大うつ病性障害に関与していることを示す神経科学系文献に由来する。本研究の結果は、SGCが気分状態を制御し、より長時間のFUS刺激のターゲットとして有望であるという概念を支持するものである。
【0093】
[00105]本研究のfMRIおよび気分反応の結果は、合計20人の被検体で進行中の臨床試験のうち、1人の被検体に限定したものであった。しかし、fMRIの結果はベースラインから統計的に有意であり、気分効果はセッションをまたいで再現可能であり、シャム刺激に対してもロバストであった;したがって、これらのデータは、この試験の最初のヒト被検体における概念実証を示す。この最初の被検体における刺激ターゲットは、腹側線条体および膝下部帯状皮質に限定された。超音波の高速で柔軟なビームフォーミング故に、ユニークな脳ターゲットである内側前脳束、腹側被蓋野、および前帯状皮質内の複数のターゲットは、ほぼ同時に高速シーケンスで超音波処理され得る。本デバイスは、頭蓋の透過経路が確立できる透過領域、すなわち頭部の左右両側の超音波処理に限定される。したがって、このデバイスは、アレイの機械的な移動およびフェーズドアレイ操作を通じて脳の皮質下体積のほぼ全体にアクセスできるが、脳皮質ターゲットへのアクセスは限られている。
【0094】
[00106]安全で効果的な脳深部刺激のために超音波を制御して送達できる非侵襲的デバイスが本明細書に記載されている。超音波刺激とfMRIとの組み合わせは、ニューロモデュレーションの簡単なモニタリングを可能にする。実用性に関しては、その後のすべての超音波処理における正確なターゲティングのためにデバイス内の患者頭部の単一のT1 MRIが必要とされる。さらに、頭部の剃毛は必要とされない。フェーズドアレイシステムは、脳内の刺激位置をミリ単位の精度でマイクロ秒単位で調整でき、毎分数百のユニークな脳ターゲットを刺激できる。既存のFUS脳刺激デバイス(BXPulsar、NeuroFUS)または外科用(Exablate Neuro)デバイスと比較すると、これは、ヒト頭蓋、毛髪の減衰、および音響カップリングのばらつきを補償する機能を有する唯一のデバイスである。各障壁は超音波を激しく、予測不能に歪ませ、減衰させるため、この機能は重要である。将来的な低強度超音波の脳への適用は、ターゲットに送達される超音波エネルギーが安全かつ効果的で、患者ごとに再現可能であるようにこの課題に対処しなければならない。本デバイスによるこれらの歪みの正確な補正は、ニューロモデュレーションだけでなく、局所的な薬物送達および血液脳関門の開通など、超音波ニューロモデュレーションと同様に送達される超音波強度に大きく依存する経頭蓋集束超音波の他の低強度用途の安全性および有効性を大幅に改善することが期待される。
【実施例2】
【0095】
[00107]RTTの精度および有効性の試験
[00108]図24Aは、頭蓋による音響減衰の深刻さを示す。8の生体外頭蓋において、脳深部位置に送達した超音波強度は11.4±6.8(平均±S.D.)の係数だけ減衰し、これは先の発見を再現するものであることが判明した。原理的には、減衰は表にされた値(例えば20、21)を用いて推定することができるが、減衰の個人差が大きいため、このような推定は不正確で不確実である(図24B)。例えば、これら2つの研究の値を用いると、平均値をそれぞれ1.7±0.67の係数過大に、0.63±0.25の係数過少に見積もることになり、大きなばらつき(正規化強度1.0に対し、プールされた標準偏差は0.47に等しい)につながる。既存の方法を用いて得ることができる超音波の位相分散の補償は、超音波を用いた手術に有用であり、繰り返し適用するために特定のターゲットに決定論的強度を送達するという現在の目的にもある程度有用である(図24C)。それにもかかわらず、グラウンドトゥルース測定(図24C)に基づく位相の仮定の理想的補正でさえも、脳のターゲットに送達される目標強度と実際の強度との間に平均85%の不一致を残す。
【0096】
[00109]図1Aのシステムおよび図5Aに示すデバイスは、ヒトの生体外頭蓋内の特定のターゲットに超音波が集束されたときに、上記のRTTの精度を試験するために利用された。ハイドロホンを用いた誘導場が測定された。4つの条件で測定された強度が評価された。第一に、自由音場における強度が測定され、自由音場は超音波に対する障害物がない。この強度は、操作者によってターゲットに送達される目標強度に相当する。第二に、頭蓋はデバイスとハイドロホンとの間に配置され、得られた強度が測定された。この場合、頭蓋の補正を行わない最悪のシナリオを示した。第三に、頭蓋に対する仮定の理想的補正が評価された。そうするために、ハイドロホンを用いて、デバイスの各素子の減衰および位相分散を測定し、それによりグラウンドトゥルース値を得た。これらのグラウンドトゥルース値を用いて、まるで頭蓋が存在しないかのように、各素子から照射される超音波の大きさをスケーリングし、それに応じて遅延させながら、これらの収差を補償した。また第四に、RTT補正が適用された。
【0097】
[00110]これらの測定は、8の水に浸漬して脱気したヒトの生体外頭蓋の内部で行われた。図25は、2つのトランスデューサの中心に配置されたターゲットの空間ピーク強度および関連する場を示す。この図は、ヒトの頭蓋は脳に送達される強度(赤色)を著しく減衰させるという概念を補強するものである。自由音場値と比較して、頭蓋を通過した超音波強度は11.4±6.8(平均±S.D.)の係数だけ減衰し、目標強度の10.7±4.2%まで低下した。自由音場値と頭蓋透過値との差は有意であった(t7=60.7、p=8.6×10-11、対応のある両側t検定)。
【0098】
[00111]次にフェーズドアレイを用いたRTTが適用された。図25は、RTTが目標強度値(緑色)を回復していることを示す。RTTで補正された強度は、自由音場における目標値の98.8±17.8%(平均値±S.D.)となり、2つの条件の平均値の間に有意差はなかった(t7=0.18、p=0.86、対応のある両側t検定)。平均値も、頭蓋内部のハイドロホンのグラウンドトゥルース測定値に基づく、仮定の最善の補正値と有意差はなかった(黒色のバー;t7=0.17、p=0.86、対応のある両側t検定)。ある頭蓋(紫色のデータポイント)は超音波を著しく減衰した(減衰係数26.9)。これは、脳神経外科医により評価されるように、おそらく過骨症に関連した視覚的に存在する出っ張りによるものと思われた。この頭蓋では、RTT補正の精度は低く、目標強度の0.62倍となった。
【0099】
[00112]次に評価されたのは、毛髪、頭皮、音響カップリング、および脳を含む、経頭蓋超音波にとってさらに重要な障壁を表すヒトの頭部にRTTが適用できるかどうかであった。この試験は、本方法の安全性も評価した。RTTは安全であるように設計された。RTTスキャンは、短時間(100μs未満)の低強度(自由音場における平均ピーク圧80kPa)の超音波パルスから構成される。RTTスキャンは完了までに1秒未満であった。被検体(n=5)は手術中に不快感を感じなかった。図26の青色は、各被検体について別々に、頭部の両側を通る平均透過減衰を示す。この図は、本方法が生体外頭蓋(灰色)に匹敵する透過品質を提供することを実証する。具体的には、頭部両側にある受信波素子は、ヒト頭蓋を通してRTTが適用された場合は信号振幅の平均7.3±4.8%(平均±SD、n=5の被検体)、特性決定された生体外のヒト頭蓋では12.6±8.2%(平均±SD、n=8の頭蓋)を記録した。この1.7というさらなる減衰係数は、ヒト頭部を通しての超音波の適用には、頭皮、毛髪、カップリング、気泡、またはエアポケット、ならびに頭蓋内組織によるさらなる減衰を招くためと予想される。1週間の追跡調査において、どの被検体も副作用を報告しなかった。このように、RTTはヒトの頭部に安全に適用でき、超音波経路内のすべての障害物による減衰を直接測定することができる。
【0100】
[00113]次に、脳ターゲット位置に関するRTTのロバスト性を試験した。そのために、フェーズドアレイを用いて、ターゲットに超音波を再集束させ、デバイスの全操作範囲、すなわち中心ターゲットに対して軸方向10mm、軸方向20mm、横方向10mm、横方向20mm、および高さ方向15mmをカバーする(図27)。RTT補正により、各ターゲットにおいて、送達強度はそれぞれ、目標値の96.3±21.4%、94.8±23.2%、92.8±16.4%、62.5±15.7%、および71.6±18.03%となった。中心ターゲット(t7=0.18、p=0.86、対応のある両側t検定)、軸方向10mm(t7=0.48、p=0.64、対応のある両側t検定)、横方向10mm(t7=0.42、p=0.55、対応のある両側t検定)、および軸方向20mm(t7=1.23、p=0.26、対応のある両側t検定)において、目標ピーク強度の平均とRTT補正ピーク強度との間には有意差はなかった。横方向20mm(t7=6.748、p=0.0002、対応のある両側t検定)および高さ方向15mm(t7=4.5、p=0.003、対応のある両側t検定)では、ターゲットの平均送達強度に有意差があった。
【0101】
[00114]その後、頭蓋による超音波収差の2つの重要な構成要素である減衰および位相分散の相対的な寄与率を試験した。図28は、それぞれの補正タイプを単独で行った場合および併用した場合の空間ピーク強度を示す。中心ターゲットでは、位相のみの補正により、理想的なハイドロホン補正(灰色)の平均強度は13.8±4.3%(平均±S.D.)、RTT(緑色)の平均強度は11.9±4.9%となった。補正なし(赤色)は自由音場強度の10.7±4.2%であった。振幅のみの補正では、空間強度のピークはハイドロホンで71±12.5、RTTで93.8±28.9となった。このように、減衰の(すなわち、受信信号の振幅の)補正は、送達される超音波強度の重要な因子を構成するものである。位相の補正を含めることは、結果として得られる併用補正(図28(c))が平均送達強度を98.8±17.8%にするという点で、さらに望ましい。
【0102】
[00115]特定のハードウェアに対するRTTのロバスト性をさらに試験した。特に、素子数は同じだがアパーチャがはるかに大きいアレイにRTTが実施された(図29)。この構成では、頭蓋(n=4の試料)は、幾何学的中心における強度を、図24と同様に、目標自由音場値の6.3±1.7%まで低下させた。
【0103】
[00116]RTT補償により、ターゲットにおける強度は目標値の104±18.1%に回復した。補償後、目標強度と平均RTT回復強度との間に有意差はなかった(t3=0.47、p=0.67、対応のある両側t検定)。
【実施例3】
【0104】
[00117]ヒトにおける頭部装着型デバイスを用いたニューロモデュレーションへの経頭蓋超音波の効果的適用の実証
[00118]無傷の生体組織内の神経への効果を試験するため、11人のヒト被検体は、生体内頭蓋内の中心ターゲットのホルダに親指を置くように指示された。RTTが適用された場合および適用されなかった場合の超音波に対する被検体の反応を定量化した(「方法」参照)。ターゲットは特定の圧力レベルの刺激を300ms受け、被検体の侵害受容反応への効果を評価した。侵害受容反応とは、組織内の神経または神経終末の刺激を示す。効果的な刺激にはRTTが重要であることが判明した(図30(a))。RTTなしの場合、有意な刺激はみられなかった(赤色;t11=1.00、p=0.34、1標本両側t検定)。RTT後、刺激に対する被検体の反応率は62.7%に達した。この水準は、仮定の最善のグラウンドトゥルース補正で得られた66.3%の反応率と統計的に同等(t10=0.58、p=0.57、対応のある両側t検定)であり、これは頭蓋が存在しない場合と同程度であった。図31は、全被検体の各補正に対する個々の反応を示す。
【0105】
[00119]超音波刺激に関連し得る起こり得る交絡を制御するために、ハイドロホン補正を伴う、ターゲットの10mm下に超音波を送達したシャム刺激をランダムにインターリーブさせた。このターゲット外刺激は有意な刺激をもたらさなかった(黄色、p=0.19、1標本両側t検定、t11=1.39)。これは、潜在的なアーチファクト効果を制御し、刺激の空間特異性を確認するものである。
【0106】
[00120]刺激効果の量依存性をさらに調査した。具体的には、3つの強度レベルにわたる刺激を変化させた。超音波のレベルが上がるにつれて、刺激効果が増加することが判明した(図30(b))。反応頻度は最も強い刺激(1.8MPa)で62.7%に達し、試験した最も弱い刺激でも有意であった(1.3MPa;t10=7.63、p=1.7×10-5、1標本両側t検定)。刺激レベルの効果は非常に有意であった(2元配置分散分析、F2,60=25.24、p=1.1×10-8)。反応は、仮定の理想的補正と統計的に区別できず(緑対黒;2元配置分散分析、F1,60=0.41、p=0.52)、2つの因子の間に有意な相互作用はなかった(F2,60=0.20、p=0.98)。
【0107】
[00121]したがって、脳ターゲットへの送達強度の正確な補償(図25図27)は、本明細書に記載のRTT法なしでは達成できない反応レベルの刺激効果の回復にもつながる(図30)。
【0108】
[00122]本明細書に記載のヒト頭部に対する測定および補正は、ヒトの脳で効果的な超音波ニューロモデュレーションには重要である。図33の左側は、頭部に対する補償が強力な超音波ニューロモデュレーションを可能にすることを示す。図33の右側は、既存のデバイスおよびアプローチのように、この補正が適用されない場合、有意な超音波ニューロモデュレーションがないことを示す。
【実施例4】
【0109】
[00123]ヒトにおける頭部装着型デバイスを用いた薬物放出のための経頭蓋超音波の効果的適用の実証
[00124]RTTは、治療薬(例えば、プロポフォール、ミコフェノール酸モフェチル、およびケタミンなどの任意の疎水性薬物)を臨床的に適切かつ決定論的な用量で頭蓋内の特定の場所に放出するために使用できるかどうか試験した。ある例では、超音波感応性ナノ粒子キャリアが考案され、ニューロモデュレーション薬であるプロポフォールは0.063mg/mlの濃度でナノ粒子に封入された。RTT補正が適用された場合および適用されなかった場合に、ナノ粒子が超音波にどのように反応するかが、図30に類似した方法で試験された。超音波が頭蓋に適用された場合に、RTTが効果的な放出を仲介するのに重要であることが判明した(図32(a))。RTTなし(赤色)の場合、検出された薬物の量は刺激なし(紫色)の場合と変わらなかった(t14=0.30、p=0.77、2標本両側t検定)。RTTの適用(緑色)は、放出効果をほぼ3倍(2.9倍増加)にし、封入されたプロポフォールの31.6%が放出された。この水準は、仮定の最善の補正(黒色)で得られる31.8%の放出と統計的に同等であった(t18=0.08、p=0.94、対応のある両側t検定)。
【0110】
[00125]放出の空間的特異性は、超音波を各バイアルの下10mmに集束させたシャム条件を用いて確認した(図32(a))。この場合、検出された薬物の量は、超音波が適用されなかった場合(紫色)と変わらなかった(t14=0.30、p=0.77)。
【0111】
[00126]放出の量依存性も調査された。そうするために、送達超音波強度は図30と同じレベルで変化した。超音波レベルが増加するにつれて刺激効果の増加が観察された(図32(b))。刺激レベルの効果は非常に有意であった(2元配置分散分析、F2,54=84.53、p=2.3×10-17)。放出レベルは、仮定の理想的補正(緑色対黒色;2元配置分散分析、F1,54=0.02、p=0.89)と統計的に区別できず、2つの因子の間に有意な相互作用はなかった(F2,54=0.35、p=0.7)。
【0112】
[00127]したがって、脳ターゲットへの送達強度の正確な補償(図25図27)は、この方法なしでは達成できない反応レベルの刺激効果の回復にもつながる(図30)。言い換えれば、目標超音波強度はマイクロバブルを活性化するのに十分であり、したがって、血液脳関門を越えて薬物、遺伝子および幹細胞を局所的に送達するために、血液脳関門を一時的に破壊する。
【0113】
[00128]したがって、様々な異なる実施態様において、本開示は、とりわけ、集束超音波を脳内のある場所に適用するために超音波を使用し、超音波経路内の頭部の存在による減衰、位相シフト、および/または焦点体積の変化を正確に補償するために超音波そのものを使用するためのシステムおよび方法を提供する。本発明の追加の特徴および利点は、以下の特許請求の範囲および添付の図面に記載されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図17E
図17F
図17G
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
【国際調査報告】