(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】エナメルペースト組成物およびエナメルペースト組成物を用いたエナメルコーティングの形成方法
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20250117BHJP
C03C 10/02 20060101ALI20250117BHJP
C03C 8/24 20060101ALI20250117BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C03C8/16
C03C10/02
C03C8/24
B60J1/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540872
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-09-05
(86)【国際出願番号】 NL2023050003
(87)【国際公開番号】W WO2023132749
(87)【国際公開日】2023-07-13
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521544562
【氏名又は名称】フェンジ・エイジーティ・ネザーランズ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Fenzi AGT Netherlands B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】バルトロメイ,シモン エフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】カッツバッハ、ローラント
(72)【発明者】
【氏名】ローマン,アルベルト イェー ベー
(72)【発明者】
【氏名】マルケ,フィリップ ジェルマン ロベール
(72)【発明者】
【氏名】サットン,パトリシア アン
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
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(57)【要約】
エナメルペースト組成物は、ガラスフリット、顔料、有機キャリア媒体、および焼成中に有機キャリア媒体成分をきれいに除去するのを容易にする酸素源材料を含み、酸素源材料は、(i)350℃未満の温度で酸素を放出する第1の酸素源材料と、(ii)350℃を超える温度で酸素を放出する第2の酸素源材料との組合せを含む。第1の酸素源材料は過酸化マグネシウムであり、第2の酸素源材料は過酸化バリウムであり得る。エナメルペースト組成物は、予備焼成工程を必要とせずにエナメルコーティングされた製品を形成するために利用される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリット、顔料、有機キャリア媒体、および焼成中に有機キャリア媒体成分のクリーンな除去を容易にするための酸素源材料
を含み、
前記酸素源材料は、(i)350℃未満の温度で酸素を放出する第1の酸素源材料と、(ii)350℃を超える温度で酸素を放出する第2の酸素源材料との組合せを含む、エナメルペースト組成物。
【請求項2】
第1の酸素源材料が、330℃未満、300℃未満、280℃未満、260℃未満、または250℃付近の温度で酸素を放出する、請求項1に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項3】
第2の酸素源材料が、370℃を超える、400℃を超える、420℃を超える、440℃を超える、または450℃付近の温度で酸素を放出する、請求項1または2に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項4】
第1の酸素源材料が、過酸化マグネシウムまたは過酸化カルシウム、好ましくは過酸化マグネシウムを含むまたはそれからなる、請求項1~3のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項5】
第2の酸素源材料が、過酸化バリウム、酸化バリウム、ガラスフリットを含む酸化バリウム、または過酸化ストロンチウム、好ましくは過酸化バリウムを含む、またはそれからなる、請求項1~4のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項6】
エナメルペースト組成物は、第1の酸素源材料と第2の酸素源材料の両方を含む、合計で7重量%を超える酸素源材料を含む、請求項1~5のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項7】
エナメルペースト組成物は、合計で7.5重量%を超える、8重量%を超える、9重量%を超える、または10重量%を超える酸素源材料を含む、請求項6に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項8】
エナメルペースト組成物が、合計で30重量%以下、20重量%以下、または15重量%以下の酸素源材料を含む、請求項6または7に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項9】
エナメルペースト組成物が1重量%未満のシード材料を含む、請求項1~8のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項10】
エナメルペースト組成物は、0.8重量%未満、0.6重量%未満、0.4重量%未満、0.2重量%未満、または0.1重量%未満のシード材料を含む、請求項9に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項11】
エナメルペースト組成物は、シード材料を含まない、または0重量%より大きく1重量%未満のシード材料含有量を含む、請求項9または10に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項12】
シード材料が結晶性ケイ酸ビスマスのシード粉末を含む、または前記シード粉末からなる、請求項9~11のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項13】
エナメルペーストが40重量%~70%重量のガラスフリットを含む、請求項1~12のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項14】
ガラスフリットが、ガラス質のガラスフリットと結晶化ガラスフリットの混合物を含む、請求項1~13のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項15】
エナメルペースト組成物は、40重量%~60重量%のガラス質のガラスフリットと、を5重量%~15重量%の結晶化ガラスフリットを含む、請求項14に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項16】
ガラス質のガラスフリットがビスマス-ホウ素-亜鉛ガラス系を含むか、またはそれからなり、結晶化ガラスフリットがビスマスケイ酸ガラス系を含むか、またはそれからなる、請求項14または15に記載のエナメルペースト組成物。
【請求項17】
エナメルペースト組成物は、15重量%~30重量%の顔料を含む、請求項1~17のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項18】
エナメルペーストが、7重量%~15重量%の有機キャリア媒体を含む、請求項1~17のいずれかに記載のエナメルペースト組成物。
【請求項19】
請求項1~18のいずれかに記載のエナメルペースト組成物を基板に堆積させること、
堆積させたエナメルペースト組成物を400℃未満の温度で乾燥させること、および
乾燥したエナメルペーストを400℃を超える温度で焼成して、予備焼成を行わずに基板にエナメルコーティングを形成すること
を含む、エナメルコーティングの形成方法。
【請求項20】
エナメルペースト組成物を350℃未満、300℃未満、250℃未満、200℃未満、または175℃未満の温度で乾燥させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
乾燥後、焼成前に乾燥したエナメル上に第2の基板を配置し、基板間にエナメルコーティングを形成する、請求項19または20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、エナメルペースト組成物、エナメルコーティングされた製品、およびエナメルコーティングの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のガラス業界では、フロントガラス、バックライト、サイドライト、その他のガラス部品を、部品の周辺領域にわたって広がる黒い遮光エナメルのバンドで装飾するのが一般的である。主な機能は、ガラス部品を保持する接着剤を、接着剤を分解する紫外線から保護することある。二次的な機能は、ガラス部品に取り付けられた、または埋め込まれた電気部品または電子部品の機能性を確保し、きれいな審美的な外観を確保する電気回路、配線、コネクタをカバーすることである。
【0003】
エナメルは、通常、有機キャリア媒体内のガラスフリットと顔料を含む。エナメルは、スクリーン印刷またはインクジェットプロセスでペーストまたはインクとして平らなガラス基板に塗布され、その後高温で焼成される。その焼成の間、ペーストまたはインクの有機キャリア媒体が燃えつき(burn off)、エナメルが融合して基板への結合が確立される。焼成工程により基板も柔らかくなり、焼成工程中に曲げ加工を施すことで最終形状に形成することができる。
【0004】
エナメル層を形成するために、多段階の焼成プロセスを利用するのが一般的であり、そのプロセスは、(i)エナメルペーストの有機キャリア媒体成分を除去するのに十分な温度で第1の「予備焼成(または事前焼成またはプレ焼成;pre-firing)」加熱工程を行って、乾燥した予備焼成層を形成すること、および(ii)エナメルペースト中のガラスフリットのガラス転移温度を超える温度で第2の「焼成」加熱工程を行って、エナメルを融合させる。第2の焼成工程の間、曲げ加工によって基板を最終形状に形成することができる。
【0005】
自動車用途のガラスパネルは、通常、中間層シート(例えばポリマーフィルム)によって結合された2枚のガラスシートを含む。ガラスシートの一方はガラスパネルの外側のガラスシートを形成し、他方のガラスシートは内側のガラスシートを形成する。自動車のガラスパネルのガラスシートの側面には、通常、外側から内側に向かって番号が付けられる。したがって、外側ガラス板の外側は従来より側面1と指定され、外側ガラス板の内側は従来より側面2と指定され、内側ガラス板の外側ガラス板に面する側面は従来より側面3と指定され、内側ガラス板の内側は従来より側面4と指定される。このような自動車用ガラスパネルでは、外側のガラス板の側面2にエナメル層が形成されるのが一般的である。このようなプロセスの例を
図1に示す。エナメルペースト組成物を第1のガラスシート上に印刷する。次に、エナメルペーストを400℃を超える温度、より一般的には500℃を超える温度で予備焼成する。次に、第1のガラスシート上の予め焼成されたエナメル上に第2のガラスシートを配置し、ガラスシートのスタックを500℃を超える温度、より典型的には600℃を超える温度で焼成して、焼成ガラスパネル製品を形成する。
【0006】
図1に示すプロセスでは、堆積されたエナメルペーストを2枚のガラスシートの間に挟む前に、予備焼成ステップを実施する。これは、酸化雰囲気にさらされながらエナメルから有機成分を除去するために行われる。黒い遮光エナメルのプリントが施されたガラスシートを別のガラスシートと組み合わせて、予備焼成せずに焼成すると、望ましくない結果が生じる。第1に、有機材料が低分子量の物質に分解されて揮発し、2枚のガラス板の間に過剰な圧力が生じる。第2に、ガラス板間の酸素不足の状態で分解が進行し、有機物の不完全燃焼を引き起こす。不完全な分解は炭化物の形成、顔料の減少、エナメルの融合の遅延を引き起こし、ガラス製品の製品性能と美観に重大な影響を及ぼす。
【0007】
上記の問題を回避するために、業界では、黒色エナメル層の有機物を焼き尽くす予備焼成と呼ばれる予備焼成工程を使用するのが一般的である。予備焼成は通常、500~650℃(ガラス板の軟化点よりわずかに低い)という高温で行われるが、エネルギー消費の点では実際の焼成とほぼ同じである。予備焼成と焼成の両方の工程を実施すると、エネルギー消費量とそれに伴う環境への影響およびコストが大幅に増加する。さらに、予備焼成後、焼成のためにコールド(または冷たい;cold)ガラス板を熱い予備焼成ガラス板上に置くと、特に深く曲げられた積層板の場合、光学的な歪みが生じる可能性がある。あるいは、焼成済みのガラスシートを第2のガラスシートと組み合わせる前に冷却する場合、これもまた大量のエネルギーを要し、時間がかかり、コストがかかる。
【0008】
EP1888333は、一対のガラスシートを焼成して曲げる際に、組成物の有機部分が燃えつきるようにする成分を含む結晶化ガラスエナメル組成物を使用することを含む、単一の焼成工程で装飾された多層ガラス構造を作製する方法を提案している。一対のガラス板の一方に塗布した場合、一対のガラス板の焼成および曲げ加工中に組成物の有機部分が燃えつきると記載されている。組成物中に酸化剤が存在すると、ガラスシートの焼成中、および装飾または着色されたガラスシートの一対のうちの一方のガラスシートのみにエナメル組成物を焼結する前に有機ビヒクルの燃焼を可能にする酸素の供給が確保される。
【0009】
EP1888333に記載されている組成物は、20~80重量%の反応性ガラス成分、0.01~7重量%の酸化剤成分、10~40重量%の顔料、10~40重量%の有機ビヒクル、および1~20重量%のシード材料を含む。酸化剤成分は、硝酸アンモニウム、五酸化アンチモン、硝酸バリウム、五酸化ビスマス、次硝酸ビスマス、四酸化ビスマス、硝酸カルシウム、過酸化カルシウム、硝酸セシウム、硝酸コバルト、硝酸銅、硝酸リチウム、過酸化マグネシウム、二酸化マンガン、酸化ニッケル(III)、一酸化白金、二酸化白金、硝酸カリウム、過酸化カリウム、硝酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過酸化ストロンチウム、硝酸銀、三酸化テルル、硝酸スズ、および過酸化亜鉛、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される酸化剤を含む。シード材料には、Zn2SiO4、Bi12SiO20、Bi4(SiO4)3、Bi2SiO5、2ZnO・3TiO2、Bi2O3・SiO2、Bi2O3・2TiO2、2Bi2O3・3TiO2、Bi7Ti4NbO21、Bi4Ti3O12、Bi2Ti2O7、Bi2TiO20、Bi4Ti3O12、およびBi2Ti4O11からなる群から選択される少なくとも1つの相が含まれる。
【0010】
エナメル組成物を第1のガラス基板に塗布し、次に第2のガラス基板を第1のガラス基板と積み重ねる。この際、緑色結晶化エナメル組成物は第1のガラス基板と第2のガラス基板との間に存在する。次に、積み重ねられたガラス基板は焼成操作にかけられ、緑色の結晶化エナメルが第1のガラス基板に融合し、有機ビヒクルが完全に燃えつき、ガラス基板が互いにくっつかないようになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の公報では、予備焼成工程がない方法で使用するエナメル組成物を記載しているが、そのような方法で使用され、焼成中にきれいに(または完全に;clean)焼き尽くすと共に、一貫して良好な光学特性や色特性、ならびに銀の隠蔽性/ブロッキング性、低い光学歪み、および/または機械的安定性などの他の望ましい特性をもたらす改良されたエナメルペースト配合物を供することが依然として求められている。このニーズに応えることが本願の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本明細書の一態様によれば、ガラスフリット、顔料、有機キャリア媒体、および焼成中に有機キャリア媒体成分のきれいな(または完全な;clean)除去を容易にするための酸素源材料を含むエナメルペースト組成物が提供され、酸素源材料は、(i)350℃未満の温度で酸素を放出する(すなわち、350℃未満で酸素含有量の一部または全部を放出する)第1の酸素源材料と、(ii)350℃を超える温度で酸素を放出する(第1の酸素源材料とは異なる)第2の酸素源材料との組合せを含む。
【0013】
任意選択的に、第1酸素源材料は、330℃未満、300℃未満、280℃未満、260℃未満、または約250℃の温度(好ましくは100℃を超える温度)で酸素を放出する。さらに、任意には、第2の酸素源材料は、370℃を超える、400℃を超える、420℃を超える、440℃を超える、または450℃付近の温度(好ましくは800℃未満の温度)で酸素を放出する。第1および第2の酸素源材料は、過酸化物材料を含むか、または過酸化物材料から構成され得る。第1の酸素源材料は、過酸化マグネシウムまたは過酸化カルシウム、好ましくは過酸化マグネシウムを含むか、またはそれから構成され得る。第2の酸素源材料はバリウム過酸化物、酸化バリウム、ガラスフリットを含む酸化バリウム、または過酸化ストロンチウム、好ましくは過酸化バリウムを含むか、またはそれから構成され得る。
【0014】
理論に縛られるつもりはないが、第2の酸素源材料として過酸化バリウムを使用する場合、350~450℃の温度範囲で過酸化バリウムが酸化バリウムと酸素に分解し始め、その結果、酸化バリウムが大気中の酸素と再結合して過酸化バリウムになる平衡状態になると考えられる。温度が上昇するにつれて、平衡は生成物側に継続的に移行し、約750℃で逆反応は発生しなくなる。
【0015】
【0016】
この平衡は、比較的低温で始まり、広い温度範囲にわたって持続するため、酸素緩衝剤として機能し、プロセス中の酸素放出と有機成分の熱分解の一致を確保する。
【0017】
酸素放出温度が著しく異なる少なくとも2つの酸素放出材料を供することで、焼成プロファイルの適用中に酸素がより広い温度範囲で放出され、有機物の燃焼(または燃えつき;burn-off)が改善され、単一の焼成工程(予備焼成工程なし)を実施した場合にエナメルコーティングの光学的、機械的、および/または化学的特性が向上する。つまり、このような酸素放出材料の組合せを使用すると、焼成中にきれいに燃えつきるという利点があると共に、一貫して良好な光学的/色彩的特性(例えば、より良好なL値)、ならびに銀の隠蔽/ブロッキング性能が良好で、光学的歪みが少なく、機械的および化学的安定性が高いなどの他の望ましい特性を有するエナメルが得られる。酸素放出の温度範囲が広いため、焼成プロセスの堅牢性(またはロバスト性;robustness)も向上し、焼成プロファイルの柔軟性も高まる。
【0018】
酸素放出材料として過酸化バリウムを使用すると、予備焼成を含まない焼成方法を実施する場合に、良好なエナメル特性を達成するのに特に有利であることがわかっている。したがって、本明細書の別の態様によれば、ガラスフリット、顔料、有機キャリア媒体、および焼成中に有機キャリア媒体成分のきれいな除去を容易にするための酸素源材料を含むエナメルペースト組成物が提供され、酸素源材料は過酸化バリウムを含む。前述の態様に関連して説明したように、過酸化バリウムは、任意選択で/有利には、1つ以上のさらなる酸素放出材料、例えば、過酸化マグネシウムなどの別の過酸化物材料および/またはエナメルペーストの焼成中に過酸化バリウムよりも低い温度で酸素を放出する別の材料と組み合わせて提供される。
【0019】
また、本明細書は、エナメルコーティングの形成方法を供し、この方法は、エナメルペースト組成物を基板に堆積させる工程と、堆積させたエナメルペースト組成物を400℃未満の温度で乾燥させる工程と、乾燥したエナメルペーストを400℃を超える温度(例えば、400℃~800℃)で予備焼成することなく焼成して基板にエナメルコーティングを形成する工程とを含む。このような方法は、予備焼成工程を必要とせず、乾燥は、350℃未満、300℃未満、250℃未満、200℃未満、または175℃未満の温度、例えば、約150℃(任意には100℃超)で実施され得る。有利なことに、この方法は、前述のように2つの基板を含むガラスパネルの構築に適用することができる。この場合、乾燥後、焼成前に乾燥したエナメル上に第2の基板を配置し、基板間にエナメルコーティングを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明をより良く理解し、本発明がどのように実施されるかを示すために、本発明の特定の実施形態を添付の図面を参照して例示的に説明する。
【0021】
【
図1】
図1は、予備焼成工程と焼成工程の両方を含むガラス板の作製方法の概略図を示す。
【
図2】
図2は、予備焼成工程を必要としないガラス板の作製方法の概略図を示す。
【
図3】
図3は、従来のエナメルペースト配合物と予備焼成工程を含まない方法を用いて作製されたガラス板の写真を示す。
【
図4】
図4は、本明細書に従ったエナメルペースト配合物と、予備焼成工程を含まない方法を用いて作製されたガラス板の2枚の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の概要欄で説明したように、本明細書は、予備焼成を必要としないエナメルペースト組成物に関する。この点に関して、
図1に示し、背景技術の欄で説明したように、予備焼成工程と焼成工程の両方を含む方法を利用するのが一般的である。このような方法では、予備焼成のエネルギーコストは焼成コストと同程度であり、予備焼成されたホット(または熱い;hot)ガラス上におけるコールド(または冷たい;cold)ガラスにより、深く曲げられた積層板に対する光学的な歪みが生じる可能性がある。
【0023】
対照的に、本明細書のエナメルペースト組成物は、
図2に示すような方法で設計されている。このような方法では、エナメルペーストを第1のガラス板上に印刷し、400℃または500℃を超える高温で予備焼成することなく、約150℃の温度で乾燥させる。乾燥したエナメルコーティング上に第2のガラス板を配置し、ガラス板のスタックを1度の工程で焼成する。主な利点としては、予備焼成の工程を省くことで、エネルギー、コスト、および環境への影響削減、(例えば、実際の焼成に予備焼成炉を使用することで)製造スループットの向上、製造フットプリント/設備投資の削減(必要な炉の削減)、2枚のガラスシートを予備焼成せずに同時に焼成することによる、光学歪み問題の最小化が挙げられる。
【0024】
本明細書で前述したように、このような方法を従来のエナメルペーストで使用すると、エナメルペースト内の有機材料が低分子量種に分解し、焼成中に揮発して、2枚のガラス板の間に過剰な圧力が生じさせる。さらに、酸素が不足した状態では分解が進行し、有機物の燃焼が不完全になる。不完全な分解は、炭化物の形成、顔料の減少を引き起こし、エナメルの融合を遅らせ、ガラス製品の製品性能と美観に重大な影響を及ぼす。
図3は、従来のエナメルペースト配合物と、予備焼成工程を含まない方法で製造されたガラス板の写真を示す。有機物の非クリーンな燃焼の結果として、不均一な色の発現、高多孔性のエナメル、ガラス板同士の接着、一方のガラス板から他方のガラス板へのエナメルの移行など、多くの問題が生じる。
【0025】
発明の概要欄で説明したように、350℃未満の温度で酸素を放出する第1の酸素源材料(例えば、過酸化マグネシウム)と350℃を超える温度で酸素を放出する第2の酸素源材料(例えば、過酸化バリウム)の組合せを含む酸素源材料を使用すると、焼成中にきれいに燃えつきるのを達成するのに有利であると共に、一貫して良好な光学特性/色特性、ならびに低多孔性および良好な銀色隠蔽/遮断性能、低い光学歪み、優れた非粘着性、高い機械的および化学的安定性などの他の望ましい特性を備えたエナメルが得られることが判明した。
【0026】
発明の概要欄でも説明したように、酸素放出材料として過酸化バリウムを使用すると、予備焼成を含まない焼成方法を用いる場合に、良好なエナメル特性を達成するのに特に有利であることが判明した。したがって、本明細書によるエナメルペースト組成物は、酸素放出材料として少なくとも過酸化バリウム(例えば、4~15重量%の過酸化バリウム)を含む。有利には、ペーストには、例えば過酸化マグネシウムなどの別の過酸化物材料など、1つ以上のさらなる酸素放出材料も含まれ得るが、任意には、酸化バリウムを単独で用いることもできる。
【0027】
エナメルペースト組成物は、第1の酸素源材料と第2の酸素源材料の両方を含めて、合計で4重量%を超える、5重量%を超える、6重量%を超える、7重量%を超える、7.5重量%を超える、8重量%を超える、9重量%を超える、または10重量%を超える酸素源材料、合計で30重量%以下、20重量%以下、または15重量%以下の酸素源材料、または前述の下限値と上限値の任意の組合せによって規定される範囲内の合計酸素源材料の含有量を含み得る。
【0028】
有利には、エナメルペースト組成物は、少なくとも2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、または6重量%の過酸化バリウム、15重量%以下、12重量%以下、10重量%以下、8重量%以下、または7重量%以下の過酸化バリウム、または前述の下限値と上限値の任意の組合せによって規定される範囲内の過酸化バリウム含有量を含み得る。有利には、酸化バリウムは、第1の低温酸素放出材料と組み合わせて、第2の高温酸素放出材料として供される。
【0029】
第1の低温酸素放出材料は、過酸化マグネシウムと酸化マグネシウムの固体粉末複合体、MgO2・xMgOであり得る。このような酸素源材料の例としては、Solvayの IXPER(登録商標)30MGがある。この材料は土壌処理用に販売されているが、本明細書に記載のエナメルペースト配合物用の添加剤として極めて有効であることが分かっている。この材料は、固体粉末状の過酸化マグネシウムと酸化マグネシウムの安定した複合体を含み、250℃~400℃の温度範囲での焼成の初期段階で、エナメルペースト配合物内で一貫して確実に酸素を放出する働きをする。この材料は、エナメルペースト配合物の焼成中に酸素欠乏状態で有機物を非常にきれいに燃焼させ、予備焼成工程を必要とせずに、結果として得られるエナメルの一貫して良好な光学特性を実現する。さらに、このような望ましい結果を達成するために、相対的に少量のそのような材料を必要とする。例えば、エナメルペーストは、3重量%~15重量%の酸素源材料を含み、任意には10重量%未満の酸素源材料を含み得る。
【0030】
有利なことに、本明細書のエナメルペースト組成物は、シード材料の含有量が低いか、またはシード材料を含まない。例えば、エナメルペースト組成物は、1重量%未満、0.8重量%未満、0.6重量%未満、0.4重量%未満、0.2重量%未満、または0.1重量%未満のシード材料、0重量%を超える、0.01重量%を超える、または0.05重量%を超えるシード材料、または前述の上限と下限の任意の組合せによって規定される範囲内のシード含有量を含み得る。シード材料は、結晶性ケイ酸ビスマスシード粉末(例えば、ユーリタイトを含み得るまたはそれからなる。シードは、非粘着性を高め、エナメルの転写(または転移または移行;transfer)を除くために結晶化を促進する。本明細書に記載のペースト配合物は、多量のシード材料を必要としないことが判明している。
【0031】
任意には、エナメルペーストは40重量%~70重量%のガラスフリットを含む。ガラスフリットは、ガラス質ガラスフリット(例えば、ビスマス-ホウ素-亜鉛ガラス系)と結晶化ガラスフリット(例えば、ビスマス-シリコンガラス系、またはこれらの系の組合せ)の混合物を含み得る。エナメルペースト組成物は、例えば40重量%~60重量%の ガラス質ガラスフリットと、5重量%~15重量%の結晶化ガラスフリットを含み得る。結晶化ガラスフリットは、D90が15~25マイクロメートル、D50が7~13マイクロメートルの粒度分布を有し得る。または、結晶化ガラスフリットはビーズミル処理して、例えばD90が4マイクロメートル未満の小さい粒子サイズにし得る。ガラスフリットと酸素源材料をこのように組み合わせると、単一の焼成工程で焼成した場合に得られるエナメルの光学特性を改善できることが判明している。
【0032】
エナメルペースト組成物は、15重量%~30重量%の顔料を含み得る。顔料は、Cu-Mn-Cr顔料を含む、または同顔料からなる。
【0033】
さらに、エナメルペーストは、7重量%~15重量%の有機キャリア媒体を含み得る。有機キャリア媒体は、湿潤分散剤、バインダー、溶媒、および有機添加剤の1つ、複数、またはすべてを含み得る。
【0034】
本明細書の方法はエナメルコーティングを形成することを含み、この方法は、上記請求項のいずれかに記載のエナメルペースト組成物を基板に堆積させること、堆積したエナメルペースト組成物を400℃未満、350℃未満、300℃未満、250℃未満、200℃未満、または175℃未満の温度で乾燥させること、および乾燥したエナメルペーストを400℃を超える、450℃を超える、または500℃を超える温度で焼成して、予備焼成なしで基板にエナメルコーティングを形成することを含む。乾燥後、焼成前に乾燥したエナメル上に第2の基板を配置して、基板間にエナメルコーティングを形成することができる。
【0035】
図4は、本明細書に従ったエナメルペースト配合物と、予備焼成工程を含まない上述の方法とを用いて作製されたガラス板の2枚の写真を示す。上の写真はガラス製フロントガラス板の外側から見たもので、発色が良好で、エナメルが均質で濃い色になっていることが示されている。下の写真は、一緒に焼成された一対のガラス板を内側から見たものある。ガラスシートはオフセット加工されており、優れた非粘着性(簡単に分離して加工でき)を有し、エナメルの転写がなく(上部ガラスがきれい)、均一できれいな焼えつき(burn-out)(黄色に変色しない)であることが示されている。
【0036】
本明細書に従った2つのエナメルペースト組成物の例を以下の表にまとめる。
【0037】
上記の例のペーストのガラスフリットの組成を以下の表に示す。
※Fe
2O
3は、他の原材料に付いてくる不純物である。
【0038】
所望の機能性能を達成するためにエナメルペースト組成物の固形分含有量を変更することに加えて、ペーストの性能を向上させ、単一焼成工程の方法できれいに焼き尽くすために、有機キャリア媒体(有機ビヒクル)の組成を変更することもできる。
【0039】
有機ビヒクルは、予備焼成を用いずに酸素源の存在下で、優れた印刷性、レオロジー安定性、およびクリーンな燃焼性を供するように設計されている。この点では、溶剤、分散剤、ポリマー成分の混合物が印刷性とレオロジー安定性を調整するために使用することができる。本明細書によれば、ポリブチルアクリレートまたはイソブチルメタクリレートポリマーなどの低分解点ポリマーが、良好な印刷性およびレオロジー安定性を維持しながら、きれいな燃焼を促進するために用いることができる。適切な有機キャリア媒体(有機ビヒクル)の組成の例を以下の表にまとめる。
【0040】
上述のエナメルペースト組成物は、予備焼成を含まない方法で使用される場合、ガラスとエナメルの良好な非粘着性、良好な光学特性(L値<5)、良好な黒色(-l<a<lおよび-l<b<l)、良好な印刷性および安定性、ならびに既存のラミネートプロセスとの互換性を含む、多くの有利な特徴を示す。
【0041】
したがって、本明細書は、予備焼成を必要としない強化された黒色エナメルペーストを供する。このペーストは、酸素が不足している状況で有機物をきれいに燃焼させるのに役立つ。このようなペースト組成物および方法を利用することで、自動車ガラスメーカーはエネルギー消費量/コストを40~50%分削減し、スループットを向上させ、生産歩留まりを向上させることが可能となる。焼成前の唯一の加熱工程は、印刷後のエナメルを乾燥させることである。乾燥は赤外線ベルト炉で実施され得る。この方法は、ガラス製造に使用される製造ラインと設備の簡素化にもつながる。
【0042】
本発明は、特定の例を参照して特に示され、説明されているが、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細においてさまざまな変更を行うことができることは当業者には理解されるであろう。
【国際調査報告】