(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】光フェーズドアレイ望遠鏡を備えた自由空間光通信システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/118 20130101AFI20250117BHJP
H04B 10/40 20130101ALI20250117BHJP
【FI】
H04B10/118
H04B10/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541022
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 US2022053166
(87)【国際公開番号】W WO2023224662
(87)【国際公開日】2023-11-23
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501228071
【氏名又は名称】エスアールアイ インターナショナル
【氏名又は名称原語表記】SRI International
【住所又は居所原語表記】333 Ravenswood Avenue, Menlo Park, California 94025, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バグネル・マーカス・エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハイデル・ニコル・エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジェントリー・カール・エム.
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA11
5K102AA15
5K102AB07
5K102AH01
5K102AH26
5K102AL23
5K102AL28
5K102MA01
5K102MA02
5K102MB20
5K102PB01
5K102PB02
5K102PH12
5K102PH15
5K102PH31
5K102PH33
5K102PH49
5K102RB00
5K102RB01
5K102RB02
5K102RD28
(57)【要約】
【解決手段】サイズ、重量、および、消費電力を削減された光通信のための改良システムおよび方法が提供される。このシステムおよび方法は、大きい相対運動をしている人工衛星またはその他の遠方のシステムの間で利用されうる。かかる実施形態は、光フェーズドアレイ(OPA)の向きを制御することによって、アレイを遠方のターゲットシステムに向けるために、反磁性的に浮上する磁気アクチュエータまたはその他のアクチュエータを利用することを含む。OPAは、従来の望遠鏡と比べて削減されたサイズおよび質量を有し、OPAおよび関連アクチュエータのサイズ、重量、および、コストを削減しつつも、同等のビーム口径を提供する。アクチュエータは、OPAが、位相シフタ素子を省略し、または、以前のステアリング可能なOPA望遠鏡よりも少ない位相シフタ素子を備えることを可能にし、複雑さ、コスト、および、電力要件を低減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
少なくとも2つのエミッタ回折格子とビームスプリッタとを有する第1光拡大素子を備える光フェーズドアレイと、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子は、前記ビームスプリッタを介して、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、前記光フェーズドアレイの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するよう構成され、前記入力光ビームは、前記複合出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々から放射された光の間の相対位相は静的であり、
前記光フェーズドアレイへ機械的に結合され、前記光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータと、
を備える、システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、前記ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングを備え、前記磁気ベアリングは、複数の磁石と、前記複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備える、システム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって、前記光フェーズドアレイは、前記第1光拡大素子を含む複数の光拡大素子を備え、前記複数の光拡大素子の各光拡大素子は、前記入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、前記複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射する、システム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムであって、さらに、固定位相板を備え、前記固定位相板は、前記複数の光拡大素子の前記光拡大素子の各々から放射された光へそれぞれの静的位相調整を提供する、システム。
【請求項5】
請求項3に記載のシステムであって、さらに、
複数の位相シフタと、前記複数の位相シフタの各位相シフタは、前記複数の光拡大素子の内のそれぞれ対応する光拡大素子から放射された光の位相を前記入力光ビームの位相に対して調整するよう動作可能であり、
コントローラ動作を実行するよう構成されているコントローラと、を備え、前記コントローラ動作は、
前記複合出力光ビームの方向を前記光フェーズドアレイに対して制御するよう、前記複数の位相シフタを動作させることを備える、システム。
【請求項6】
請求項5に記載のシステムであって、さらに、
前記光フェーズドアレイによって受信される前記入力光ビームを生成するよう構成されている光エミッタと、
前記複合出力光ビームの前記方向から前記光フェーズドアレイによって受信された光を、前記複数の光拡大素子を介して受信するように、前記光フェーズドアレイへ光学的に結合されている光検出器と、
を備え、
前記コントローラ動作は、さらに、
ターゲットに向かって前記光フェーズドアレイを方向付けるよう、前記ステアリングアクチュエータを動作させ、
第1期間中に、前記複合出力光ビームの前記方向を前記光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、前記複数の位相シフタを動作させ、
前記第1期間中に、第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、前記光エミッタを動作させ、それにより、前記第1情報を前記ターゲットへ光学的に送信し、
第2期間中に、前記複合出力光ビームの前記方向を前記光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、前記複数の位相シフタを動作させ、前記第2方向は、前記第1方向とは異なり、
前記第2期間中に、前記ターゲットから光学的に送信されて前記光フェーズドアレイを介して受信される第2情報を検出するよう、前記光検出器を動作させることを備える、システム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムであって、さらに、光エミッタを備え、前記光エミッタは、柔軟な光ファイバを介して、前記光フェーズドアレイと結合されている、システム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムであって、前記入力光ビームは、380ナノメートルから2400ナノメートルの間の波長を有する光を含む、システム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムであって、前記第1光拡大素子は、第1領域および第2領域を備え、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々は、各エミッタ回折格子が前記ビームスプリッタから前記入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信するそれぞれのテーパ状の光導波路に関連付けられ、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子は、前記第1領域内に配置され、前記テーパ状の光導波路および前記ビームスプリッタは、前記第2領域内に配置され、前記第1領域の面積と前記第2領域の面積との間の比は、19:1より大きい、システム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムであって、前記複合出力光ビームの前記第2口径は、5センチメートルより大きい、システム。
【請求項11】
請求項1に記載のシステムであって、前記システムは、人工衛星システムであり、前記システムは、さらに、
前記光フェーズドアレイによって受信される前記入力光ビームを生成するよう構成されている光エミッタと、
コントローラ動作を実行するよう構成されているコントローラと、を備え、前記コントローラ動作は、
ターゲットに向かって前記光フェーズドアレイを方向付けるよう、前記ステアリングアクチュエータを動作させ、
第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、前記光エミッタを動作させ、それにより、前記第1情報を前記ターゲットへ光学的に送信することを備える、システム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムであって、さらに、
光検出器を備え、
前記光検出器は、前記出力光ビームの方向から前記光フェーズドアレイによって受信された光を、前記複数の光拡大素子を介して受信するように、前記光フェーズドアレイへ光学的に結合され、前記光検出器はアバランシェフォトダイオードである、システム。
【請求項13】
方法であって、
ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させ、前記ステアリングアクチュエータは、前記光フェーズドアレイへ機械的に結合され、前記光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成され、
第1期間中に、前記光フェーズドアレイの出力光ビームの方向を前記光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、前記光フェーズドアレイの複数の位相シフタを動作させ、
前記第1期間中に第1情報を前記ターゲットへ光学的に送信し、前記第1期間中に前記第1情報を前記ターゲットへ光学的に送信すること、
前記第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させ、
前記光フェーズドアレイが前記ターゲットに向かって方向付けられている間に、前記光エミッタによって生成された前記光のビームを前記光フェーズドアレイによって入力光ビームとして受信することを備え、
第2期間中に、前記出力光ビームの前記方向を前記光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、前記複数の位相シフタを動作させ、前記第2方向は、前記第1方向とは異なり、
前記第2期間中に前記ターゲットから第2情報を光学的に受信することを備え、前記第2期間中に前記ターゲットから前記第2情報を光学的に受信することは、
前記ターゲットから光学的に送信されて前記光フェーズドアレイを介して受信された前記第2情報を検出するよう、前記光フェーズドアレイへ光学的に結合された光検出器を動作させることを備える、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、前記ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングおよび複数のコイルを備え、前記磁気ベアリングは、複数の磁石と、前記複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備え、前記ターゲットに向かって前記光フェーズドアレイを方向付けるよう、前記ステアリングアクチュエータを動作させることは、前記複数の磁石に力をかけるために前記複数のコイルへ供給される電流を制御することにより、前記光フェーズドアレイの向きを調整することを備える、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、前記光検出器は、アバランシェフォトダイオードである、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、前記出力光ビームは、5センチメートルより大きい口径を有する、方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、前記光フェーズドアレイは、少なくとも2つのエミッタ回折格子とビームスプリッタとを有する第1光拡大素子を備え、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子は、前記ビームスプリッタを介して、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、前記光フェーズドアレイの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するよう構成され、前記入力光ビームは、前記複合出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、前記少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々から放射された光の間の相対位相は静的である、方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法であって、前記第1情報をエンコードする前記光のビームは、380ナノメートルから2400ナノメートルの間の波長を有する光を含む、方法。
【請求項19】
コンピュータ読み取り可能媒体を含む製品であって、前記コンピュータ読み取り可能媒体は、コンピュータデバイスによって実行されると、請求項13から18のいずれか一項の方法に影響を与えるための動作を前記コンピュータデバイスに実行させるプログラム命令を格納されている、製品。
【請求項20】
システムであって、
入力光ビームを受信し、出力光ビームを放射するよう構成されている光フェーズドアレイと、前記入力光ビームは、前記出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、
前記光フェーズドアレイと結合され、前記光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータと、を備え、前記ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングを備え、前記磁気ベアリングは、複数の磁石と、前記複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、2022年1月20日出願の米国仮特許出願第63/301,435号に基づく優先権を主張し、その内容は、参照によって組み込まれる。
【0002】
連邦支援の研究または開発に関する宣言
本発明は、海軍技術・兵站局(Navy Engineering Logistics Office)によって与えられた契約番号N4175619C3028の下で政府の支援を受けてなされたものである。政府は、本発明にいくつかの権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本明細書で別段の指示がない限りは、本セクションに記載の材料は、本願の請求項に対する先行技術ではなく、本セクションに含まれることによって先行技術であると認められるものではない。
【0004】
宇宙応用に対して、大径レーザビームが、ビームの回折拡散に起因する損失を低減することによる長距離光伝搬のために用いられる。レーザ源および検出器は、しばしば、直径が非常に小さいので、大型望遠鏡が、典型的に、ビームのサイズ変更のための調整光学系および空間を提供するために用いられる。また、これらの大型望遠鏡は、その他の通信端末へのリンクを維持するためのポインティングシステム(しばしば、アセンブリ全体を回転させる2軸ジンバル)を備える。したがって、望遠鏡が占める広い空間と、光学系およびマウントの重量とに加えて、ステアリング機構は、アセンブリ全体を移動させるためにさらに大きい。
【0005】
現在の実践は、一般に、ビームのサイズ変更のための望遠鏡と、アセンブリ全体を保持してポインティングするためのジンバルとを用いる。ビームを拡大するための空間を提供するために、望遠鏡は、アセンブリ内部に大きい体積の「空の空間」を有するため、サイズが大きくなる。
【0006】
ステアリング機構について、ジンバルは、高TRL(技術成熟度レベル)のシステムであり、半球を超える非常に広い動眼視野を提供し、ほとんどの用途に対して十分に速くビームを再配置できる。残念ながら、システムも大型になり、キューブサット型プラットフォームへの統合に合わない部品を有する。また、それらは、ポインティングが粗いので、補助ポインティングメカニズム(高速ステアリングミラーなど)も備えられる。その他のステアリングメカニズムは、一般に、ステアリング性能を犠牲にして、サイズおよび重量の小さいシステムを実現している。
【発明の概要】
【0007】
第1態様において、システムが提供されており、そのシステムは、(i)少なくとも2つのエミッタ回折格子とビームスプリッタとを有する第1光拡大素子を備える光フェーズドアレイと、少なくとも2つのエミッタ回折格子は、ビームスプリッタを介して、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、光フェーズドアレイの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するよう構成され、入力光ビームは、複合出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々から放射された光の間の相対位相は静的であり、(ii)光フェーズドアレイへ機械的に結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータと、を備える。
【0008】
第2態様において、方法が提供されており、その方法は、(i)ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させ、ステアリングアクチュエータは、光フェーズドアレイへ機械的に結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成され、(ii)第1期間中に、光フェーズドアレイの出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、光フェーズドアレイの複数の位相シフタを動作させ、(iii)第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信し、第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信することは、(a)第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させ、(b)光フェーズドアレイがターゲットに向かって方向付けられている間に、光エミッタによって生成された光のビームを光フェーズドアレイによって入力光ビームとして受信することを含み、(iv)第2期間中に、出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、複数の位相シフタを動作させ、第2方向は、第1方向とは異なる、工程と、(v)第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信すること、を備え、第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信することは、ターゲットから光学的に送信されて光フェーズドアレイを介して受信された第2情報を検出するよう、光フェーズドアレイへ光学的に結合された光検出器を動作させることを含む。
【0009】
第3態様において、コンピュータ読み取り可能媒体を含む製品が提供されており、コンピュータ読み取り可能媒体は、コンピュータデバイスによって実行されると、第2態様の方法に影響を与えるための動作をコンピュータデバイスに実行させるプログラム命令を格納されている。
【0010】
第4態様において、システムが提供されており、そのシステムは、(i)入力光ビームを受信し、出力光ビームを放射するよう構成されている光フェーズドアレイと、入力光ビームは、出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、(ii)光フェーズドアレイへ結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータと、を備え、ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングを備え、磁気ベアリングは、複数の磁石と、複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】大きいミラーを利用する反射式望遠鏡と、本明細書に記載のOPA(光フェーズドアレイ)搭載望遠鏡の実施形態例との比較を示す図。
【0012】
【
図2】本明細書に記載のOPA搭載望遠鏡の光フェーズドアレイ素子の態様の実施形態例を示す図。
【0013】
【
図3】本明細書に記載のOPA望遠鏡の光フェーズドアレイ素子の実施形態例を示す図。
【0014】
【
図4】本明細書に記載の望遠鏡例から放射されたビームの角度強度プロファイルを示す図。
【0015】
【
図5A】本明細書に記載の望遠鏡例のエミッタにわたってシミュレートされた様々な位相遅延を示す図。
【0016】
【
図5B】本明細書に記載の理想的な望遠鏡例、および、
図5Aに示したようにエミッタにわたる様々な位相遅延を有する望遠鏡例、から放射されたビームの角度強度プロファイルを示す図。
【0017】
【
図6A】複合望遠鏡を形成するための光フェーズドアレイ素子の配列例を示す図。
【0018】
【
図6B】複合望遠鏡を形成するための光フェーズドアレイ素子の配列例を示す図。
【0019】
【
図6C】複合望遠鏡を形成するための光フェーズドアレイ素子の配列例を示す図。
【0020】
【
図7】本明細書に記載の望遠鏡例から放射されたビームの角度強度プロファイルを示す図。
【0021】
【
図8】別の角度強度プロファイルと比較して、本明細書に記載の望遠鏡例から放射されたビームの角度強度プロファイルを示す図。
【0022】
【
図9】反磁性的に浮上して磁気的に制御されるアクチュエータ例の態様を示す図。
【0023】
【
図10】望遠鏡例と、反磁性的に浮上して磁気的に制御されるアクチュエータとを示す図。
【0024】
【0025】
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を形成する添付の図面が参照される。図面において、同様の符号は、通例、文脈で特に指示が限りは、同様の構成要素を識別する。詳細な説明、図面、および、請求項に記載の実施形態の例は、限定を意図したものではない。本明細書に提示された主題の範囲から逸脱することなしに、他の実施形態が用いられてもよく、その他の変更がなされてもよい。本明細書に概略的に記載され、図に示されている本開示の態様は、幅広い異なる構成で、配置、置換、組みあわせ、分離、および、設計されてよく、それらのすべてが、本明細書内で明確に意図されていることが容易に理解される。
【0027】
I.概要
互いに対して移動している遠く離れたシステムの間で高帯域幅で通信することが、様々な用途で望ましい。例えば、無線データサービス(例えば、インターネットアクセス)を地球上のシステムに提供するよう構成されている衛星コンステレーション内の人工衛星の間の通信を提供するために、大量の通信トラフィックが、宇宙空間の人工衛星を通して比較的少ない地表のシステムへ伝送されうる。かかる高帯域幅通信は、見通し内光通信リンクによって有利に提供される。しかしながら、これらの光通信リンクは、典型的に、(例えば、軌道上の人工衛星の)相対的な運動および回転を考慮するために、他のシステムへ伝送される光ビームのステアリングを必要とする。さらに、(例えば、軌道上の衛星の間のように)長距離では、かかる光ビームの回折拡散が、重要因子になる可能性があり、これは、搭載された光エミッタ/検出器の小口径を、かかる距離での回折ビーム拡散を考慮できる大口径ビームに適合させるために、ステアリング可能な大口径(例えば、数センチメートル以上)の望遠鏡またはその他の光学系を利用することにつながる。かかる大口径ビームのステアリングは、ビームを生成するために用いられる望遠鏡またはその他の光学系(例えば、ガルバノメータ上に取り付けられた照準ミラー)をポインティングし、かかる光学系の全体またはその一部をステアリングし、ならびに/もしくは、人工衛星またはその他のプラットフォームの本体を全体としてステアリングすることによって達成されうる。
【0028】
上述したように、(望遠鏡によって受信される/望遠鏡から送信された光エネルギが通る)大きいオープンスペース体積によって隔てられた別々の反射/素子/屈折素子に依存する従来の望遠鏡は、大きい体積、大きい質量、大きい回転慣性を示す。その結果として、より高価で、重く、高価なステアリング機構(例えば、より高い定格のサーボモータ)が必要になりえ、ならびに/もしくは、かかる従来の望遠鏡の利用が、体積、質量、コスト、温度、および/または、電力の制約のある用途(例えば、キューブサットまたはその他の小型衛星システムの小さい体積、質量、コスト、ならびに、電力バジェットおよび熱バジェットを伴う用途)に適合しなくなりうる。本明細書には、実質的に平坦な構造を用いて、小さい光ファイバ入力からの光ビームを直径が多センチメートルのビームへ変換できる光フェーズドアレイ(OPA)搭載システムが記載されている。従来の望遠鏡をかかる軽量かつ実質的に平坦な光学系に置き換えることにより、OPAの2Dフォームファクタは、(例えば、自由空間光通信端末の速度および精度の要件に従って)かかる光学系を方向付けるために典型的に用いられる対応するステアリングシステムに関して、従来の望遠鏡と比較して、大幅なサイズ、重量、および、電力の削減を提供する。
図1は、ビーム伝搬のための空の空間、および、いくつかのミラー、マウントと備えた従来の望遠鏡(左側)と、本明細書に記載のOPA実施形態の一例と一体化された構造(右側)とを比較する。かかるOPA搭載システムは、よりコンパクトかつ軽量であり、質量、回転慣性、および、体積の直接的な節約につながり、関連するステアリングメカニズムの重量、体積、電力要件、および、コストの間接的な削減もなされうる。
【0029】
その他の光フェーズドアレイビーム形成システムにおいて、フェーズドアレイは、ビームの一部を放射するための複数のエミッタ(例えば、光回折格子)を備え、各エミッタから放射される光の位相は、それぞれの位相シフト素子(例えば、導波路によって示される相対的な位相遅延を制御するために加熱されうる導波路の一部)によって制御される。次いで、各エミッタに対する位相遅延は、かかるソリッドステートのステアリング可能なフェーズドアレイから放射された合成ビーム(フェーズドアレイへの共通の光入力に対してそれぞれの異なる制御された位相遅延でエミッタの各々から放射された光の組み合わせ)の全体的な方向またはその他の特性を制御するために、特定のパターンで制御される。これは、高速の非機械的ビームステアリング能力につながる。
【0030】
しかしながら、かかるフェーズドアレイから大口径(例えば、直径1センチメートルを超える口径)の光ビームを生成するための従来のアプローチは、ビームのステアリング性に関して広い動眼視野も達成しつつ、非常に多くの非常に小さい個々のエミッタを用いる。その結果として、非常に複雑なデバイスとなり、そのデバイスは、多くの(例えば、数千または数百万の)位相シフタを備え、各位相シフタが、ビームを生成するために給電および制御される。さらに、かかるフェーズドアレイから放射されるステアリング可能なビームは、(かかるフェーズドアレイの個々のエミッタの間の間隔に関連しうる)著しいサイドローブにおける光エネルギの放射に起因して、効率が低い可能性がある。かかるフェーズドアレイの効率は、アレイの位相シフタ(例えば、その導波路の温度依存性の位相遅延を制御するためのヒータ)を動作させるために用いられる電力によってさらに低減される。
【0031】
本明細書に記載されている実施形態は、異なる光エミッタの間の相対位相整合が制御されない1または複数の「静的な」サブOPA(または「光拡大素子」)を用いることによって、従来のステアリング可能なフェーズドアレイに比べて改善を提供する。各光拡大素子は、各エミッタから出力される(または、各エミッタへ入力される)光の間の位相整合が、入力導波路へ入力される(または、入力導波路から出力される)対応する光の位相整合に対して、独立制御可能ではなく、エミッタ間で経時的に大きく変化しないように、モード拡大器(例えば、テーパ)および光スプリッタのセットを介して、単一の入力導波路から供給される複数のエミッタ(例えば、エミッタ回折格子)を備える。したがって、かかる光拡大素子から放射された(または、それを介して受信された)光のビーム方向、口径、および、その他の光学特性は、制御不可能であり、製造時に設定される。個々の光拡大素子からステアリング機能を排除することにより、それらの設計および製造も簡略化される。これは、本明細書に記載されているようなOPAが、サイズ、重量、および、電力(SWaP)の制約されたプラットフォーム(キューブサット、航空機、または、携帯デバイスなど)への近々の統合のために用いられることを可能にする。その代わりに、ステアリング機能は、上述したように、機械的アクチュエータによって提供されうる。かかる非ステアリング可能なOPAのサイズ、重量、および、複雑さの相対的な減少は、ビーム口径の拡大のためにステアリングされる従来の望遠鏡を利用することに比べて、サイズ、重量、および、コストの削減につながる。
【0032】
本明細書に記載されている改良OPAは、単一のかかる光拡大素子で構成されうる。あるいは、OPAは、(例えば、アクチュエータによってステアリングされる共通の基板上に)一緒に取り付けられ、(例えば、光通信のためにかかる複合OPAを利用することを容易にするために光エミッタおよび光検出器に、結合されている)単一の光導波路によって供給される複数のかかる光拡大素子から形成されてもよい。かかるOPAから放射された合成ビームの特性は、光拡大素子の各々の位相整合を互いに対して制御することによって制御されうる。これは、例えば、各光拡大素子から放射された光の個々の部分が、OPAを機械的に回転させることによって方向がステアリングされうるビームに結合するために適切に位相整合されるように、製造時に光拡大素子の各々に固定位相板を取り付けることによってなされうる。追加的または代替的に、放射される合成ビームの特性を改善するため(例えば、光拡大素子の製造上のばらつきを考慮するため)、および/または、或る程度の非機械的(例えば、ソリッドステート)ビームステアリングを提供するために、位相シフタまたはその他の経路長制御メカニズムが、各光拡大素子に対して1つずつ提供されてもよい。かかる位相シフタの数を大幅に減らすことで(OPAあたり数千または数百万個から、OPAの各光拡大素子に1個ずつの数十個に削減することで)、かかるOPAは、以前のステアリング可能なフェーズドアレイよりもはるかに効率的になりうる。さらに、かかる各光拡大素子から放射される光のビーム特性は、(例えば、エミッタの間隔およびサイズの改善に関して、あるいは、各エミッタに対応する位相シフタの省略に関して)以前のステアリング可能なフェーズドアレイに対して大幅に改善され、サイドローブ放射が無いか、または、大幅に削減される。したがって、かかる光拡大素子のアセンブリから放射されるサブビームの組み合わせとして放射される合成ビームも、スプリアスサイドローブ放射に関して改善され、結果として効率が向上する。
【0033】
現在開発中のOPAに対して、ステアリング機能を排除または大幅に削減することにより、ビーム品質およびビーム生成効率を高めると同時に、設計および製造が大幅に簡略化される。ステアリング可能なOPAに必要とされる数千または数百万の非常に高速な位相制御メカニズムの代わりに、開示されている実施形態は、その数を大幅に削減する。例えば、位相シフタの数は、製造誤差を補正するために(OPAを形成するために用いられる光拡大素子の数に等しい)数十の位相制御メカニズムまで削減されうる。また、かかる位相シフタは、所望の特性のビームを生成するために用いられる正確な経路長補正に向けて設定されると、制御フィードバックが非常に少なくまたはおそらく全くなしでも動作できる。あるいは、上述したように、位相シフタは、例えば、送信と受信との間でOPAを機械的にステアリングすることなしに同じOPAを通して若干異なる送信ビーム方向および受信ビーム方向を可能にするために、ビームステアリングを若干調整するように制御されうる。これは、遠方の衛星に送信する時の光遅延の速度を補償するためにOPAが「前方」方向に送信するのを可能にすることによって、かかる遠方の衛星(またはその他のターゲット通信システム)と通信する際に利益を提供しうる。
【0034】
本明細書で開示されているOPAの実施形態例において、OPAは、実質的に平坦な低重量構造において、(例えば、レーザまたはその他の光源から)送信される信号のビーム口径を、直径数マイクロメートル(例えば、シングルモードファイバから放射される850nm光の5ミクロン直径ビーム、または、シングルモードファイバから放射される1550nm光の10ミクロン直径ビーム)から直径数センチメートル(例えば、2.5センチメートル、5センチメートル)に変更する(または受信光に対して逆のことを行う)ことができる。これは、3cm口径のための従来の望遠鏡における~10cmの経路から、OPAの1ミリメートルの厚さ未満に、ビーム拡大システムのサイズおよび重量を大幅に削減することにつながる。さらに、本明細書に記載されているOPAが出力ビームを成形する方法により、その「トップハット」ビーム形状が、従来の望遠鏡のガウスビーム形状よりも少ない発散を示す。さらに、例えば、大型の従来の望遠鏡システムを含まずまたはインターフェース接続もしておらず、さらに、OPAの質量および/または回転慣性がかかる従来の望遠鏡よりもはるかに小さいために、(OPAの向きを制御することによって)ビームをステアリングするために用いられる機械的アクチュエータも、サイズ、質量、および、電力が劇的に削減されうる。
【0035】
本明細書に記載されている光拡大素子は、1または複数のかかる素子で構成されるOPAの全部または一部を形成することができ、光拡大素子の少なくとも2つのエミッタ(例えば、エミッタ回折格子)が、光拡大素子への入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、光拡大素子を備えたOPAの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するように、様々な方法で構成されうる。これは、少なくとも2つのエミッタが光拡大素子のビームスプリッタを介して入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信することを含みうる。したがって、光拡大素子の少なくとも2つのエミッタの各々から放射される光の間の相対位相は、静的であり、制御不可能である(しかし、入力光ビームとエミッタとの間の相対位相は、光拡大素子のエミッタすべてに共通する調整可能な位相遅延を追加するよう動作する光拡大素子の単一の位相シフタによって制御可能でありうる)。かかるビームスプリッタは、素子の複数のエミッタにわたって(例えば、制御可能な位相シフタも備えた素子の導波路によって受信される)単一の入力光ビームを分割するよう構成されうる。例えば、ビームスプリッタは、光拡大素子の256個のエミッタにわたって入力光ビームを256分割するために、バイナリツリーとして配列された複数の2方向ビームスプリッタを含みうる。
【0036】
各エミッタは、入力光を受信し、素子から放射される光のビームのそれぞれ対応する部分を形成するパターンの回折格子の長さに沿って入力光を放射するよう構成されている長いエミッタ回折格子でありうる。
図2は、光拡大素子のかかるエミッタ回折格子を示す上面図および側面図である。図に示すように、ビームスプリッタからエミッタへの入力導波路(例えば、「シングルモード導波路」)が、光モード拡大器(例えば、
図2に示す(「テーパ」))を介してエミッタ回折格子(「回折格子」)へ光学的に結合されている。エミッタは、各エミッタが導波路内の光のそれぞれ対応する部分を放射するように、導波路に形成された複数の回折格子を備える。回折格子の形状(幅、厚さ)、光学特性(例えば、屈折率)、および、数、ならびに、エミッタの導波路の形状(幅、厚さ、長さ)および光学特性(例えば、屈折率)は、各回折格子から放射された光が建設的に干渉して、エミッタから放射される光のビームを形成するように、規定されうる。複数のかかるエミッタ(および、関連するモード拡大器(例えば、テーパ)、導波路、ビームスプリッタ、など)は、単一の光拡大素子にわたって互いに平行に形成されることで、素子のエミッタの各々から放射された光のそれぞれ対応する部分から形成された複合光ビームを放射する光拡大素子を提供しうる。
【0037】
第1口径を有する入力ビームから(例えば、レーザまたはその他の光エミッタに結合された入力シングルモード導波路から)光を受信し、受信した入力ビームをより広い第2口径を有する出力複合ビームとして放射するOPAまたはその光拡大素子を示す例が、本開示を通してしばしば記載されていることに注意されたい。この光伝搬(OPAへの小口径ビームの入力、OPAからの広口径ビームの放射)の方向は、かかるOPAおよび関連装置の光学特性の非限定的な実例として意図されていることに注意することが重要である。かかるOPAおよび関連装置は、OPAを介して環境から(例えば、リモートシステムからOPAへ伝送される広口径ビームから)光を受信し、(例えば、シリコンアバランシェフォトダイオードまたはその他の光検出素子へ方向付けられうるはるかに小さい口径のビームとして)かかる受信光をOPAの「入力」へ方向付けるために、逆に動作することも可能である。
【0038】
(本明細書に記載されているOPAの全部または一部を形成しうる)複数のかかるエミッタ回折格子を有する光拡大素子の詳細な要素の実施形態例が、
図3に示されている。光信号が、素子外の光源/光検出器から(例えば、光ファイバを介して直接変調レーザダイオードから)素子の中へ/素子から外へ結合される。外部ビームスプリッタツリー(図示せず)が、信号をマルチ素子OPAの各素子の入力へ分配してよい。図に示す単一の光拡大素子は、ビームスプリッタツリーに続く単一の位相シフタ(例えば、熱位相シフタ)と、ビームスプリッタ内でのビーム幅からエミッタ回折格子の幅へビーム幅を拡大するための1セットのモード拡大器(例えば、テーパ)と、を備える。次いで、垂直回折格子カプラが、振幅および位相の実質的に均一な二次元ビームを出力する。素子サイズは、放射光の位相がエミッタの長さに沿って安定するように、エミッタ回折格子の長さに沿って拡大されてよく、その結果、放射ビームは実質的に均一なままとなる。かかるエミッタの実現可能な長さは、製造公差の改善によって増大されうる。例えば、実験的検証用に実際的な素子を形成するために用いられた製造公差で、ほぼ5ミリメートルの長さを有するエミッタ回折格子を形成できた。
【0039】
光拡大素子上に位相シフタを一体化することは、非限定的な実施形態例として意図されており、かかる位相シフタが光拡大素子とは別個に形成されることも可能であることに注意されたい。
【0040】
OPAが複数のかかる光拡大素子から形成されている場合、熱(または別の方法で構成された)位相シフタは、それらの出力がコヒーレントに結合されるように制御されうる。これは、素子の間の製造上の長さの差を補正するために、各光拡大素子の位相遅延を調節することを含みうる。例えば、5cmアレイが、約80個の光拡大素子によって生成されてよく、各素子は、許容範囲のビーム均一性を維持しつつもコスト効率よく製造できる約5mm×5mmの寸法を有する。(光拡大素子の数に対応する)かかる比較的少ない数の位相シフタは、任意の温度ドリフトを考慮するために低速制御ループで容易に管理される。
【0041】
図4は、かかる光エミッタ素子から放射された時のビーム強度の角度依存を示す。この結果を生み出すために用いられた光エミッタ素子の例は、各々が18.5ミクロンの幅および4.85ミリメートルの長さを有し、19.5ミクロン中心間距離で離間され、1550ナノメートルお光を放射する256個のエミッタ回折格子を備えるよう、
図3に示したように構成されたものである。図に示すように、かかる光拡大素子から放射されたメインビームは、素子の総光出力の97.14%超を含む。
【0042】
エミッタ回折格子の数、それらの長さ、および、それらの幅は、個々の光拡大素子の全体効率および光出力を高めるよう選択されうる。例えば、より少なく広いエミッタは、ビームスプリッタのために利用する素子面積は狭いが、ビームスプリッタからの導波路のモードをエミッタの幅に適合させるために、より長いモード拡大器を利用する。逆に、より狭いエミッタは、より短いモード拡大器を利用するが、ビームスプリッタに当てられる素子面積は広い。実際的に、上述したのと同様の寸法を有する光拡大素子は、光拡大素子の面積の97%超をエミッタ回折格子に割り当てることができる(光拡大素子の面積の3%未満が、モード拡大器およびビームスプリッタに用いられる)。その他の構成は、エミッタ回折格子によって占められる素子面積とモード拡大器およびビームスプリッタによって占められる素子面積との比率を19:1超に維持できる。
【0043】
実際的に、光拡大素子のエミッタ回折格子によって受信される光の間の相対位相は、素子にわたって変化する。理想(すなわち、エミッタすべてにわたって一定の均一な位相)からのこれらの位相差は、素子から放射されるビームの品質の低下につながりうる。この低下の程度は、18.5ミクロン幅のエミッタおよび5ミリメートル製造コヒーレンス長を有する256エミッタ素子に対してシミュレートされた。
図5Aは、ランダムウォークを用いてシミュレートされた入力ビーム位相(0度)に対するエミッタの各々のシミュレートされた位相を示す。
図5Bは、(
図5Aに示したようにエミッタにわたる位相の変動を示す)かかる光エミッタ素子から放射されるビーム強度の角度依存を示す。図に示すように、この不完全なビームプロファイル(「位相変動あり」)は、エミッタの間での位相変動を全く示さない仮想の光拡大素子から放射される理想的なビームプロファイル(「理想」)から少しだけ逸脱する。
【0044】
本明細書に記載されている改良OPAは、単一のかかる光拡大素子または複数のかかる素子から形成されうる。OPAは、複数の素子の複合出力から形成されたより広い口径のビームを提供するために、複数の光拡大素子のアレイから形成されうる。かかる複合OPAの複数の素子は、1または複数のビームスプリッタを介して、(例えば、OPAを介した長距離光通信を達成するために用いられる光エミッタおよび/または光検出器に結合された)同じ入力ビームまたは導波路から供給されうる。個々の光拡大素子の各々に対する共通の入力(または出力)光の位相は、OPAから放射される複合ビームの質を改善するため(例えば、素子の間の製造ばらつきを考慮するため、OPAにわたる不均一な加熱を考慮するため)、複合ビームの或る程度の非機械的ステアリングを達成するため(例えば、遠方の人工衛星が送信ビームを受信する時の「送信方向」と、遠方の人工衛星がビームを送信した時の「受信方向」との間で変化するために)、もしくは、何らかのその他の利点を提供するために、それぞれの位相シフタ(例えば、拡大素子の各々の上に形成された位相シフタ)によって制御されうる。かかる例において、アレイ全体の機械的な向きを調整する機械的アクチュエータが、広範囲の角度にわたってそこから放射されるビームの方向の粗調整を行うよう動作されうる一方で、光拡大素子の各々から放射される光の相対位相を調整するための位相シフタの動作が、比較的狭い範囲の角度にわたって(例えば、1度未満の範囲にわたって)ビームの方向の微調整を行うために利用されうる。追加的または代替的に、製造上の差を考慮するため、または、別の方法でそこから放射される複合ビームの特性を調整するために、固定位相板またはその他の材料が、光拡大素子上に配置されてもよい。
【0045】
かかる複合OPAの光拡大素子は、より大きい口径を有する複合ビームを提供するために、様々な方法で配列されてよい。かかるOPAの複数の光拡大素子は、接着剤を用いてまたは何らかのその他の手段によって、基板(例えば、OPAをステアリングするよう構成されている2軸アクチュエータに結合された基板)へ機械的に取り付けられてよい。かかる複合アレイの光拡大素子のパターンおよび数は、様々な方法で規定されうる。例えば、
図6Aは、19個の光拡大素子から形成され、2.5センチメートルの口径を有する複合ビームを提供するOPAを示す。別の例において、
図6Bは、80個の光拡大素子から形成され、5センチメートルの口径を有する複合ビームを提供するOPAを示す。さらに別の例において、
図6Cは、82個の光拡大素子から形成され、5センチメートルの口径を有する複合ビームを提供するOPAを示す。
【0046】
各素子が(例えば、それぞれの素子上に形成された)それぞれの抵抗加熱位相シフタに関連付けられているので、OPAの総消費電力は、かかる位相シフタの総数が、エミッタあたりの位相シフタ配列で用いられる数千または数百万から大幅に削減されていることから、完全にステアリング可能なフェーズドアレイ(すなわち、各エミッタ回折格子またはその他の光エミッタ素子がそれぞれ対応する位相シフタに結合されているアレイ)と比較して大幅に削減される。例えば、各位相シフタが10mWの電力を利用する場合、
図6AのOPAは、190mWのみを利用し、
図6BのOPAは、800mWのみを利用し、
図6CのOPAは、820MWのみを利用する。
【0047】
本明細書に記載されている複数の光拡大素子から形成されたかかるOPAは、エミッタごとの位相シフタを有するフェーズドアレイと比較した場合(かかるフェーズドアレイと比較して減少したサイドローブミッション)、および、従来の望遠鏡と比較した場合、そこから放射されるビームの質に関して様々な利益を示す。
図7は、
図6Cに示した82光拡大素子OPAから放射された時のビーム強度の角度依存を示す。
図8は、
図6Cに示した82光エミッタ素子OPA(「5cmフェーズドアレイ」)から放射された時のビーム強度の角度依存を示しており、5cm口径から放射された理論的な回折限界の理想ビームプロファイル(「エアリーディスク」)と、5cm口径を有し、その口径を通して光学4.45cmガウシアンビームプロファイルを放射する従来の望遠鏡から放射されるビームプロファイル(「5cm口径を通した4.45cmから直径ガウシアン」)とを、比較のために提供している。図に示すように、マルチ素子の複合OPAは、従来の望遠鏡よりも大幅に性能が優れており、理論的な回折限界性能に近い。
【0048】
また、かかるOPAのサイズ、重量、および、回転慣性の削減は、同じ速度および精度のステアリングを達成するために、従来の望遠鏡のステアリングに比べて、かかるOPAをステアリングするために用いられるアクチュエータに対する制約(例えば、トルク、速度、精度などに関する制約)を緩めることによって、間接的な利益を提供する。これは、かかるステアリングのサイズ、重量、コスト、複雑さ、および、電力要件の低減につながる。
【0049】
本明細書に記載されているOPAのステアリングに用いられるステアリングアクチュエータは、様々な方法で構成されうる。いくつかの例において、アクチュエータは、OPAをステアリングするためにOPAへ機械的に結合されている2以上のサーボ、モータ、または、その他のアクチュエータを含みうる。いくつかの例において、アクチュエータは、磁気ベアリングおよび複数のコイルを含みうる。磁気ベアリングは、複数の磁石と、複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層とを備えることにより、(OPAが結合されている)アクチュエータのロータと、(アクチュエータおよびOPAを一部として含む人工衛星またはその他のシステムの残り部分に結合されている)アクチュエータのステータとの間に低摩擦(または無摩擦)の磁気ベアリングを形成できる。次いで、磁石と向かい合ったアクチュエータの部分に配置されたコイル(例えば、ステータのコイルであり、永久磁石がロータに配置され、反磁性材料がステータに配置されている)が、電流によって駆動されて磁石に力をかけることにより、アクチュエータに取り付けられた光フェーズドアレイの向きを調整できる。
【0050】
図9は、例として、かかる反磁性的に浮上したアクチュエータの態様を示す。アクチュエータは、(永久磁石を備えた)アクチュエータのロータが、反磁性材料から磁気的に反発されることにより、それらの間に磁気ベアリングを提供するように、半球面に沿って配列され、反磁性材料(「反磁性材料」、例えば、熱分解炭素)における半球のくぼみ内に配置された複数の永久磁石(「磁石アレイ」)を備える。
図9に示す例において、アクチュエータは、単一のミラーに結合されており、アクチュエータは、ミラーの向きを制御するよう動作されうる。これは、例えば、
図9の右部分に示すように、光のビームの偏向方向を制御するために、なされうる。かかるアクチュエータは、その代わりに、アクチュエータがOPAの向きを制御するよう動作されることを可能にし、ひいては、そこから放射/それによって受信される光ビームの向きを制御するために、本明細書に記載のOPAを結合されてもよい。
【0051】
図10は、反磁性的に浮上したアクチュエータに結合されている本明細書に記載のOPA(「光フェーズドアレイ」、複数の光拡大素子から形成されている)を備えた通信システム例を示す。特に、OPAは、アクチュエータの半球形ロータに取り付けられており、ロータは、複数の永久磁石を備える。半球形ロータは、反磁性材料から形成されたアクチュエータのステータの半球形のくぼみ内に配置され、それにより、ロータとステータとの間に約500ミクロンの磁気的に支持された分離を提供する。複数のコイルが、ロータ内の永久磁石に磁力をかけることによってOPAの向きを制御するために電流が通されうるステータ内に配置されている(例えば、反磁性材料の中または背後にあるが、図示せず)。
【0052】
図10に示すアクチュエータの実施例において、(炭素ファイバ反磁性ヘッド、磁石、エンコーダ、周辺電子機器、固定具、回路基板、ドライブコイル、コイルドライバ、および、マイクロコントローラを含む)アクチュエータの総重量は、たったの97グラムである。このアクチュエータおよび関連コントローラは、(例えば、或るターゲットから別のターゲットへ迅速に方向付けるために)リンクを開始するために「高速」モードで、および、より低い消費電力でリンクを維持するために「低速」モードで、動作するよう構成された。そのシステムは、高速モード時には231mW未満で、および、低速モード時には82mW未満で、動作することができる。
【0053】
また、
図10のアクチュエータは、ロータを機械的に固定するよう作動されうるいくつかの磁気クランプ(「磁気クランプ」)を示している。これは、例えば、移送中(例えば、OPAおよびアクチュエータを含む人工衛星の打ち上げ中)、もしくは、ロータおよびOPAを機械的に固定する利点がある何らかのその他の期間中に(例えば、ロータを方向付けるため、および/または、ステータの半球形のくぼみ内にロータを維持するために用いられるコイルにおける電力を節約するために、OPAが用いられていない時に)、ロータの損傷または位置ずれ(例えば、ステータの半球形のくぼみから出ること)を防ぐために、なされうる。かかる磁気クランプは、(例えば、モータまたはその他のアクチュエータによって、「ロックされた」状態と「ロックされていない」状態との間で駆動可能であることにより)複数回動作可能であってよく、もしくは、重量、コスト、または、その他の要素を節約するために(例えば、ロータからクランプを切り離すためならびに/もしくはクランプの磁場を弱めまたは取り除くために熱または磁場を印加することによって、ロータを解放するよう作動される前にのみロータを固定するために)、一回動作可能であってもよい。
【0054】
OPAは、通信システムの残り部分へ(例えば、レーザまたはその他の光エミッタへ、光検出器へ、OPAの光拡大素子の位相シフタを動作させための制御電子機器へ)、電気ケーブル(「制御電子機器コネクタ」)および光ファイバ(「光ファイバ接続」)を介して、電気的および光学的に結合されている。ただし、これは、単に非限定的な実施形態例として意図されている。例えば、光ファイバは、光エミッタおよび/または光検出器をロータ内に配置する(例えば、電気ケーブルを用いてそれらの素子に給電および制御する)ことによって省略できる。別の例において、電気ケーブルは、OPAが電子位相シフタまたはその他の電子素子を欠く場合に省略できる。電気ケーブルは、OPAの位相シフタを制御するためおよび/またはその他の機能を提供するため(例えば、OPAへ光学的に結合されている光エミッタおよび/または検出器を動作させるため、コイルがロータ上に配置され、永久磁石がアクチュエータのステータ上に配置されている例において、アクチュエータのコイルを駆動するため、OPAの向きおよび/またはコイルによって生成された場を決定するために用いられる磁場センサおよび/またはエンコーダを動作させるため、もしくは、何らかのその他の機能を提供するために)利用されうる。
【0055】
本願の一部であり、本明細書に完全に記載されているかのように参照によってその全体が組み込まれている付属書に、開示されているアプローチのさらなる記載が含まれている。付属書は、「パッシブ光フェーズドアレイ」というタイトルの提示を含む。さらに、本明細書および添付資料に記載されている参照も、本願の一部であり、本明細書に完全に記載されているかのように参照によってその全体が組み込まれている。
【0056】
II.システム例
図11は、本明細書に記載されている方法を実施するために利用されうる、ならびに/もしくは、本明細書に記載されている1または複数のシステムの一部または全部であってよくまたは含んでよいシステム例1100を示す。例として、非限定的に、システム1100は、相対位置および/または向きが経時的に変化しうる2以上のシステムの間で、高口径かつ高性能の見通し内光通信を提供するために、人工衛星または人工衛星の一部(例えば、人工衛星の通信サブシステム)、キューブサットまたはキューブサットの一部またはその他の超小型衛星システム、自律車両または自律車両の一部、もしくは、何らかのその他のシステムの全部または一部であってよい。システム1100は、人工衛星、(例えば、機械的、電気的、熱的、および/または、別の方法でホストシステムに結合されることによって)より大きいシステムの一部でありうる特定の物理的ハードウェアサブシステム、もしくは、機能を実行するようおよび/または本明細書に記載の素子を組み込むよう構成されているハードウェアおよびソフトウェアのその他の組み合わせなど、物理的デバイスを表しうることを理解されたい。
【0057】
図11に示すように、システム1100は、通信インターフェース1102と、プロセッサ1103と、光フェーズドアレイ(OPA)1108と、OPA1108の向きを機械的に調整するよう構成されているアクチュエータ1104と、OPA1108に結合され、OPA1108へ光を供給することによってOPA1108から光のビームを(例えば、宇宙空間の遠い衛星に向かって)放射するよう構成されている光エミッタ1105と、OPA1108に結合され、OPA1108から光を受信することによってOPA1108の環境から(例えば、宇宙空間の遠い衛星から)光のビームを受信するよう構成されている光検出器1106と、OPA1108の一部として形成されてもよいしそこから独立していてもよい1または複数の位相シフタ1107と、データストレージ1109と、を備えてよく、それらの要素はすべて、システムバス、ネットワーク、または、その他の接続メカニズム1110によって互いに通信可能にリンクされていてよい。光フェーズドアレイは、例えば、本明細書に記載の静的OPAのように、共通の光フィードから供給され、共通の光フィードを介して受信した光の位相に関して互いの間に静的で制御されない相対位相の関係を有する2以上のエミッタ回折格子またはその他の静的光エミッタ素子の1または複数のセットを備えうる。
【0058】
通信インターフェース1102は、システム1100が、電気的、磁気的、電磁気的、光学的、または、その他の信号のアナログまたはデジタル変調を用いて、OPA1108以外の手段を介して、他のデバイス、アクセスネットワーク、および/または、転送ネットワークと通信することを可能にするよう機能しうる。したがって、通信インターフェース1102は、インターネットプロトコル(IP)またはその他のパケット化通信など、回路交換通信および/またはパケット交換通信を容易にしうる。例えば、通信インターフェース1102は、無線アクセスネットワークまたはアクセスポイントと無線通信するために配置されたチップセットおよびアンテナを備えてよい。また、通信インターフェース1102は、他のシステム(例えば、システム1100が長距離光通信サブシステムを形成する人工衛星のマスタコントローラまたはシステムバス)と通信するために、有線インターフェース(イーサネット、ユニバーサルシリアルバス(USB)、または、高精細マルチメディアインターフェース(HDMI:登録商標)ポートなどの形態を取るか、または、有線インターフェースを備えてよい。また、通信インターフェース1102は、無線インターフェース(Wifi、BLUETOOTH(登録商標)、全地球測位システム(GPS)、または、広域無線インターフェース(例えば、WiMAXまたは3GPP(登録商標)ロングタームエボリューション(LTE))など)の形態を取るか、または、無線インターフェースを備えてよい。ただし、その他の形態の物理レイヤインターフェースならびにその他のタイプの標準または独自の通信プロトコルが、通信インターフェース1102で用いられてもよい。さらに、通信インターフェース1102は、複数の物理的通信インターフェース(例えば、Wifiインターフェース、BLUETOOTH(登録商標)インターフェース、および、広域無線インターフェース)を備えてもよい。
【0059】
いくつかの実施形態において、通信インターフェース1102は、システム1100が、他のデバイス、リモートサーバ、アクセスネットワーク、および/または、転送ネットワークと通信することを可能にするよう機能しうる。いくつかの例において、通信インターフェース1102の態様(例えば、エンコーダ、デコーダ、マルチプレクサ、タイマまたはオシレータ、プロトコル管理コントローラ、もしくは、ステートマシン)は、OPA1108を介して1または複数のリモートシステム(例えば、1または複数の他の人工衛星)と長距離光通信を行うために、アクチュエータ1104、光エミッタ1105、光検出器1106、および/または、位相シフタ1107と協調して用いられうる。追加的または代替的に、かかる機能のすべての一部が、プロセッサ1103によって実装されてよい。
【0060】
プロセッサ1103は、1または複数の汎用プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)、ならびに/もしくは、1または複数の専用プロセッサ(例えば、デジタル信号プロセッサ(DSP)、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)、浮動小数点演算ユニット(FPU)、ネットワークプロセッサ、テンソルプロセッシングユニット(TPU)、または、特定用途向け集積回路(ASIC))を含んでよい。データストレージ1109は、1または複数の揮発性および/または不揮発性ストレージ構成要素(例えば、磁気、光学、フラッシュ、または、有機ストレージ)を含んでよく、プロセッサ1103と全体的または部分的に一体化されていてよい。データストレージ1109は、着脱可能および/または非着脱可能な構成要素を備えてよい。
【0061】
プロセッサ1103は、本明細書に記載されている様々な機能を実行するために、データストレージ1109に格納されたプログラム命令1118(例えば、コンパイル済みまたは未コンパイルのプログラムロジックおよび/または機械コード)を実行できてよい。したがって、データストレージ1109は、システム1100によって実行されると、本明細書および/または添付の図面で開示されている方法、処理、または、機能のいずれかをシステム1100に実行させるプログラム命令を格納している非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体を含んでよい。プロセッサ1103によるプログラム命令1118の実行は、プロセッサ1103がデータ1112を利用することにつながりうる。
【0062】
例として、プログラム命令1118は、システム1100にインストールされたオペレーティングシステム1122(例えば、オペレーティングシステムカーネル、デバイスドライバ、および/または、その他のモジュール)、ならびに、1または複数のアプリケーションプログラム1120(例えば、データ収集、データのルーティングおよび/または転送、地球のステーションとの通信、もしくは、その他のミッション目的活動を実行するための機能、宇宙空間におけるシステム1100の位置および/または向きを決定し、宇宙空間における別の人工衛星システムの相対位置および/または向きを決定し、OPA1108を介して別の人工衛星システムと光通信するよう動作するための機能)を含んでよい。データ1112は、較正データ(例えば、複数の静的OPAサブ素子から形成されている複合OPA1108の個々の静的OPAサブ素子から放射されるサブビームの向きまたはその他の特性の位相依存性に関する情報)1114、ならびに/もしくは、システム1100および/またはシステム1100が通信しうる他のシステム(例えば、他の人工衛星)の時間依存の位置および向きに関する一時的データ1116を含んでよい。
【0063】
アプリケーションプログラム1120は、1または複数のアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を通してオペレーティングシステム1122と通信してよい。これらのAPIは、例えば、アプリケーションプログラム1120が、通信インターフェース1102を介して情報を送信または受信し、OPA1108を介してデータを受信および/または送信する、ことなどを円滑にしうる。
【0064】
アクチュエータ1104は、例えば、OPA1108から放射され/OPA1108を介して検出された光のビームを、システム1100が光学的に通信しうる別のシステム(例えば、人工衛星)へ方向付けるために、サーボ、モータ、複数の磁気コイルおよびロータ(例えば、コイルを含むステータから反磁性的に浮上することによって低摩擦または無摩擦の磁気ベアリングを提供するロータ)上の対応する永久磁石、もしくは、システム1100に対するOPA1108の向きを調整するための何らかのその他の手段、を備えてよい。
【0065】
光エミッタ1105は、OPA1108を介して1または複数のリモートシステムと光通信するために、強度の時変パターンが制御されうる1または複数のレーザ、発光ダイオード、または、その他の発光素子を含みうる。光エミッタ1105をOPA1108に整合させるために(例えば、OPA1108の入力導波路、位相シフタ、ビームスプリッタ、モード拡大器、および/または、エミッタ回折格子のモード、口径、波長、または、その他の特性と整合させるために)、光エミッタ1105の波長および/または口径が、OPA1108に対して規定されうる。例えば、光エミッタ1105は、1550ナノメートルのファイバ光増幅器、または、850ナノメートルの半導体光増幅器を備えうる。
【0066】
光検出器1106は、1または複数のアバランシェ光検出器、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、単光子検出器、もしくは、OPA1108を介して1または複数のリモートシステムから受信した光の強度の時変パターンを検出するよう動作されうるその他の光検出素子を備えることにより、光通信を円滑にしうる。光検出器1106をOPA1108に整合させるために(例えば、OPA1108の入力導波路、位相シフタ、ビームスプリッタ、モード拡大器、および/または、エミッタ回折格子のモード、口径、波長、または、その他の特性と整合させるために)、光検出器1106の波長および/または形状が、OPA1108に対して規定されうる。例えば、光検出器1106は、1または複数のシリコンアバランシェフォトダイオードを備えうる。
【0067】
位相シフタ1107は、OPA1108のサブ素子から放射され/サブ素子によって受信される(例えば、複数のエミッタ回折格子と、エミッタ回折格子の各々と静的な光位相関係を有する単一の光入力/出力とを有する個々の光エミッタ素子から放射/によって受信される)光の位相を、サブ素子の光入力/出力ポートによって受信され/から放射される光の位相に対して調整するよう構成されている様々な素子を含みうる。例えば、位相シフタ1107は、制御された量の加熱を導波路へ電気的に印加することよって、導波路を通過する光へ導波路によって加えられる位相遅延の量を調整するよう構成されている熱位相シフタを含みうる。位相シフタ1107は、OPA1108のサブ素子に一体化されてよく(例えば、エミッタ回折格子、モード拡大器、ビームスプリッタ、または、サブ素子のその他の構成要素も形成されているシリコンまたはその他の材料の導波路および関連ヒータ素子および導電体として形成された単一の位相シフタ)、もしくは、サブ素子から分離していてもよい(例えば、或る方向でサブ素子に結合され、反対方向ではビームスプリッタを介して光エミッタ1105および/または光検出器1106に結合されている別々の光位相シフタ)。いくつかの例において、それぞれの異なる導波路に対応する複数の位相シフタが、OPA1108の各サブ素子に関連付けられてよい。これは、例えば、第1波長(例えば、送信波長)のOPA1108からの光のビームの方向が、第2波長(例えば、受信波長)のOPA1108からの光のビームの方向から若干変化することを可能にするために、波長選択フィルタまたはその他の素子と組み合わせて、なされうる。これは、システム110と衛星との間の飛行時間遅延が、送信光伝送が送信されたのとは異なる方向から受信光伝送が受信されたことを意味するのに十分なほどシステム1100から離れている人工衛星との全二重通信を可能にする(例えば、相対運動および光速遅延を考慮するために、光伝送が、ターゲットの現在の相対位置を「リードし」、受信光信号が、ターゲットの過去の相対位置から受信される)。
【0068】
光フェーズドアレイ1108、光エミッタ1105、光検出器1106、位相シフタ1107、および/または、それらの要素(例えば、導波路、モード拡大器、テーパ、ビームスプリッタ、エミッタ(例えば、回折格子エミッタ))は、1または複数の波長について本明細書に記載されている通信またはその他の光ビーム送信/受信機能を提供するように適合されうる。例えば、システム1100のこれらの要素は、380~2400nmの間の1または複数の波長での通信を円滑にするよう適合されうる。いくつかの例において、システム1100のこれらの要素は、600~800nmの波長の範囲内で利用可能なより効率的な光エミッタを利用することによって、よりエネルギ効率の高い通信を提供するために、600~800nmの間の1または複数の波長での通信を円滑にするよう適合されうる。
【0069】
III.方法例
図12は、方法例1200を示すフローチャートである。方法1200は、ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるようアクチュエータを動作させる工程(1210)を備える。方法1200は、さらに、第1期間中に、光フェーズドアレイの出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、光フェーズドアレイの複数の位相シフタを動作させる工程(1220)を備える。方法1200は、さらに、第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信する工程を備え、ここで、第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信する工程は、(i)第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させる工程と、(ii)光フェーズドアレイがターゲットに向かって方向付けられている間に、光エミッタによって生成された光のビームを光フェーズドアレイによって入力光ビームとして受信する工程(1230)と、を含む。方法1200は、さらに、第2期間中に、出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、複数の位相シフタを動作させる工程(1240)を備え、ここで、第2方向は、第1方向とは異なる。方法1200は、さらに、第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信する工程(1250)を備え、ここで、第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信する工程は、ターゲットから光学的に送信されて光フェーズドアレイを介して受信された第2情報を検出するよう、光フェーズドアレイへ光学的に結合された光検出器を動作させる工程を含む。方法1200は、追加的または代替的な特徴を含んでもよい。
【0070】
IV.列挙実施形態例
したがって、本開示の実施形態は、以下に挙げる列挙実施形態例(EEE)の1つに関連しうる。或るEEEに関して示されている特徴は、他のEEEと組み合わせることができることが理解される。
【0071】
EEE1は、システムであって、(i)光フェーズドアレイであって、光フェーズドアレイは、少なくとも2つのエミッタ回折格子とビームスプリッタとを有する第1光拡大素子を備え、少なくとも2つのエミッタ回折格子は、ビームスプリッタを介して、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、光フェーズドアレイの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するよう構成され、入力光ビームは、複合出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々から放射された光の間の相対位相は静的である、光フェーズドアレイと、(ii)光フェーズドアレイへ機械的に結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータと、を備える。
【0072】
EEE2は、EEE1のシステムであって、ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングを備え、磁気ベアリングは、複数の磁石と、複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備える。
【0073】
EEE3は、EEE1~2のいずれかのシステムであって、光フェーズドアレイは、第1光拡大素子を含む複数の光拡大素子を備え、複数の光拡大素子の各光拡大素子は、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射する。
【0074】
EEE4は、EEE3のシステムであって、さらに、固定位相板を備え、固定位相板は、複数の光拡大素子の光拡大素子の各々から放射された光へそれぞれの静的位相調整を提供する。
【0075】
EEE5は、EEE3~4のいずれかのシステムであって、さらに、複数の位相シフタであって、複数の位相シフタの各位相シフタは、複数の光拡大素子の内のそれぞれ対応する光拡大素子から放射された光の位相を入力光ビームの位相に対して調整するよう動作可能である、複数の位相シフタと、コントローラと、を備える。コントローラは、コントローラ動作を実行するよう構成されており、コントローラ動作は、複合出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して制御するよう、複数の位相シフタを動作させることを含む。
【0076】
EEE6は、EEE5のシステムであって、さらに、光フェーズドアレイによって受信される入力光ビームを生成するよう構成されている光エミッタと、複合出力光ビームの方向から光フェーズドアレイによって受信された光を、複数の光拡大素子を介して受信するように、光フェーズドアレイへ光学的に結合されている光検出器と、を備える。コントローラ動作は、さらに、ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させ、第1期間中に、複合出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、複数の位相シフタを動作させ、第1期間中に、第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させ、それにより、第1情報をターゲットへ光学的に送信し、第2期間中に、複合出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、複数の位相シフタを動作させ、第2方向は、第1方向とは異なり、第2期間中に、ターゲットから光学的に送信されて光フェーズドアレイを介して受信される第2情報を検出するよう、光検出器を動作させることを含む。
【0077】
EEE7は、EEE1~6のいずれかのシステムであって、さらに、光エミッタを備え、光エミッタは、柔軟な光ファイバっを介して、光フェーズドアレイへ結合されている。
【0078】
EEE8は、EEE1~7のいずれかのシステムであって、入力光ビームは、380ナノメートルから2400ナノメートルの間の波長を有する光を含む。
【0079】
EEE9は、EEE1~8のいずれかのシステムであって、第1光拡大素子は、第1領域および第2領域を備え、少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々は、各エミッタ回折格子がビームスプリッタから入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信するそれぞれのテーパ状の光導波路に関連付けられ、少なくとも2つのエミッタ回折格子は、第1領域内に配置され、テーパ状の光導波路およびビームスプリッタは、第2領域内に配置され、第1領域の面積と第2領域の面積との間の比は、19:1より大きい。
【0080】
EEE10は、EEE1~9のいずれかのシステムであって、複合出力光ビームの第2口径は、5センチメートルより大きい。
【0081】
EEE11は、EEE1~10のいずれかのシステムであって、請求項1に記載のシステムであって、システムは、人工衛星システムであり、システムは、さらに、光フェーズドアレイによって受信される入力光ビームを生成するよう構成されている光エミッタと、コントローラと、を備える。コントローラは、コントローラ動作を実行するよう構成されており、コントローラ動作は、ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させ、第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させ、それにより、第1情報をターゲットへ光学的に送信することを含む。
【0082】
EEE12は、EEE1~11のいずれかのシステムであって、さらに、光検出器を備え、光検出器は、出力光ビームの方向から光フェーズドアレイによって受信された光を、複数の光拡大素子を介して受信するように、光フェーズドアレイへ光学的に結合され、光検出器はアバランシェフォトダイオードである。
【0083】
EEE13は、方法であって、(i)ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させる工程であって、ステアリングアクチュエータは、光フェーズドアレイへ機械的に結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されている、工程と、(ii)第1期間中に、光フェーズドアレイの出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第1方向に制御するよう、光フェーズドアレイの複数の位相シフタを動作させる工程と、(iii)第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信する工程であって、第1期間中に第1情報をターゲットへ光学的に送信する工程は、(a)第1情報をエンコードする光のビームを生成するよう、光エミッタを動作させる工程と、(b)光フェーズドアレイがターゲットに向かって方向付けられている間に、光エミッタによって生成された光のビームを光フェーズドアレイによって入力光ビームとして受信する工程と、を含む、工程と、(iv)第2期間中に、出力光ビームの方向を光フェーズドアレイに対して第2方向に制御するよう、複数の位相シフタを動作させる工程であって、第2方向は、第1方向とは異なる、工程と、(v)第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信する工程であって、第2期間中にターゲットから第2情報を光学的に受信する工程は、ターゲットから光学的に送信されて光フェーズドアレイを介して受信された第2情報を検出するよう、光フェーズドアレイへ光学的に結合された光検出器を動作させる工程を含む、工程と、を備える。
【0084】
EEE14は、EEE13の方法であって、ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングおよび複数のコイルを備え、磁気ベアリングは、複数の磁石と、複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備え、ターゲットに向かって光フェーズドアレイを方向付けるよう、ステアリングアクチュエータを動作させる工程は、複数の磁石に力をかけるために複数のコイルへ供給される電流を制御することにより、光フェーズドアレイの向きを調整する工程を含む。
【0085】
EEE15は、EEE13~14のいずれかの方法であって、光検出器は、アバランシェフォトダイオードである。
【0086】
EEE16は、EEE13~15のいずれかの方法であって、出力光ビームは、5センチメートルより大きい口径を有する。
【0087】
EEE17は、EEE13~16のいずれかの方法であって、光フェーズドアレイは、少なくとも2つのエミッタ回折格子とビームスプリッタとを有する第1光拡大素子を備え、少なくとも2つのエミッタ回折格子は、ビームスプリッタを介して、入力光ビームのそれぞれ対応する部分を受信し、光フェーズドアレイの複合出力光ビームのそれぞれ対応する部分を放射するよう構成され、入力光ビームは、複合出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有し、少なくとも2つのエミッタ回折格子の各々から放射された光の間の相対位相は静的である。
【0088】
EEE18は、EEE13~17のいずれかの方法であって、第1情報をエンコードする光のビームは、380ナノメートルから2400ナノメートルの間の波長を有する光を含む。
【0089】
EEE19は、コンピュータ読み取り可能媒体を含む製品であって、コンピュータ読み取り可能媒体は、コンピュータデバイスによって実行されると、EEE13~18のいずれかの方法に影響を与えるための動作をコンピュータデバイスに実行させるプログラム命令を格納されている。
【0090】
EEE20は、システムであって、(i)入力光ビームを受信し、出力光ビームを放射するよう構成されている光フェーズドアレイであって、入力光ビームは、出力光ビームの第2口径よりも小さい第1口径を有する、光フェーズドアレイと、(ii)光フェーズドアレイへ結合され、光フェーズドアレイの向きを調整するよう構成されているステアリングアクチュエータであって、ステアリングアクチュエータは、磁気ベアリングを備え、磁気ベアリングは、複数の磁石と、複数の磁石に反発するよう構成されている反磁性材料の層と、を備える、ステアリングアクチュエータと、を備える。
【0091】
V.結び
図に示した特定の配置は、限定と見なすべきではない。別の実施形態が、所与の図に示した各要素を多くまたは少なく備えてもよいことを理解されたい。さらに、図示した要素の一部は、組み合わせられてもよいし、省略されてもよい。さらにまた、一実施形態例が、図示されていない要素を備えてもよい。
【0092】
さらに、様々な態様および実施形態を本明細書で開示したが、別の態様および実施形態が当業者にとっては明らかである。本明細書に開示した様々な態様および実施形態は、例示を目的としたものであり、限定の意図はなく、真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。本明細書に提示された主題の精神または範囲から逸脱することなしに、他の実施形態が用いられてもよく、その他の変更がなされてもよい。本明細書に概略的に記載され、図に示されている本開示の態様は、幅広い異なる構成で、配置、置換、組みあわせ、分離、および、設計されてよく、それらのすべてが、本明細書内で想定されていることが容易に理解される。
【国際調査報告】