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特表2025-502098うつ病の治療のための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】うつ病の治療のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20250117BHJP
【FI】
G16H50/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541046
(86)(22)【出願日】2023-01-09
(85)【翻訳文提出日】2024-09-04
(86)【国際出願番号】 IB2023050172
(87)【国際公開番号】W WO2023131922
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】63/298,067
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514010601
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】ドレヴェッツ,ウェイン シー.
(72)【発明者】
【氏名】コルブ,ハートマス クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】サード,ジアド セルハル
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
本開示は、うつ病を治療する方法であって、それを必要とする患者に有効量のエスケタミンを鼻腔内投与することを含み、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定され、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定される場合に、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
うつ病を治療する方法であって、それを必要とする患者に有効量のエスケタミンを鼻腔内投与することを含み、前記患者がバイオマーカーサイン陽性として同定され、前記患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定された場合、前記患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、方法。
【請求項2】
前記方法は、導入期及び任意で、それに続く維持期を有し、前記導入期は、所与の頻度での導入期治療セッションを含み、前記維持期は、より少ない頻度で前記患者に投与される維持期治療セッションを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
導入期治療セッションごとに約28mg~約84mgのエスケタミンを前記患者に鼻腔内投与することであって、前記導入期治療セッションが前記導入期中に週2回の頻度で行われる、鼻腔内投与すること、及び任意で、
前記維持期治療セッションごとに約56mg~約84mgのエスケタミンを前記患者に鼻腔内投与することであって、前記維持期治療セッションが週1回又は隔週に1回の頻度で行われる、鼻腔内投与することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記導入期が少なくとも約4週間の期間を有する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
導入期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
維持期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エスケタミンを、前記導入期及び/又は前記維持期中に2回以上のスプレーで鼻腔内装置から送達する、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記導入期及び/又は維持期中に、治療有効量の経口抗うつ薬を前記患者に投与することを更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エスケタミンを、前記導入期及び/又は前記維持期中にその対応する塩酸塩として投与する、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記うつ病が、大うつ病性障害を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記大うつ病性障害が、自殺念慮又は行動を伴う大うつ病性障害である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記大うつ病性障害が、治療抵抗性うつ病である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記患者から得られた前記生体試料が
a.参照CRPレベルよりも高いCRPのレベル、及び
b.以下の、
i.参照TNF-αレベルよりも高いTNF-αのレベル、及び
ii.参照sIL6Rレベルよりも高いsIL6Rのレベル
の少なくとも1つを有すると同定された場合、前記患者はバイオマーカーサイン陽性と同定される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記参照CRPレベルが、約3mg/Lである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記参照TNF-αレベルが、約4pg/mLである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記参照sIL6Rレベルが、約25ng/mLである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2022年1月10日出願の米国特許仮出願第63/298,067号の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、エスケタミンを使用してうつ病を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
大うつ病性障害(Major Depressive Disorder、MDD)は、一般集団の約7~15%に影響を及ぼす。MDDは、有意な罹患率及び死亡率を伴い、世界中で、人を無力にする主な原因である。患者の約3分の1は、複数の抗うつ薬による治療にもかかわらず寛解を達成することができず、治療抵抗性うつ病(TRD)を有すると考えられる。経口抗うつ薬(antidepressant、AD)の恩恵を受けるそのような患者は、治療を継続しても高い再発率を有する。
【0004】
患者の生活に対するTRDの影響は、適切に説明することが困難である。多くの患者は、何年も続くうつ病性エピソードを有する。重度のうつ病患者は、彼らの人生を続ける意志を失い、自殺未遂が7倍増加する。平均余命は、10年短縮する。極端な場合では、彼らは、入浴若しくは食事、又は自分の世話などの基本的な身の回りの管理さえできず、それらのケアを、親、配偶者などに任せきりにする。これは、患者自身だけでなく、家族及び彼らに依存する者にも影響を及ぼす。彼らはまた、以前楽しんでいたことをすることに喜びを感じる能力を失い、これは、人生の本質及びその原動力となるものを人々から奪う。実際には、彼らの人生は、TRDによって彼らから取り去られる。

【0005】
うつ病を有する患者、特にTRDを有する患者のための改善された治療が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの態様では、本開示は、うつ病を治療するための方法であって、それを必要とする患者に有効量のエスケタミンを鼻腔内投与することを含み、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定され、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定される場合に、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、方法に関する。特定の実施形態では、本方法は、導入期及び任意で、それに続く維持期を有し、導入期は、所与の頻度での導入期治療セッションを含み、維持期は、より少ない頻度で患者に投与される維持期治療セッションを含む。
【0007】
更なる態様では、本方法は、導入期治療セッションごとに約28mg~約84mgのエスケタミンを患者に鼻腔内投与することであって、導入期治療セッションが導入期中に週2回の頻度で行われる、投与すること、及び任意で、維持期治療セッションごとに約56mg~約84mgのエスケタミンを患者に鼻腔内投与することであって、維持期治療セッションが週1回又は隔週1回の頻度で行われる、投与することを含む。特定の態様では、導入期は、約4週間の期間を有する。
【0008】
特定の態様では、導入期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する。更なる態様では、維持期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する。
【0009】
いくつかの実施形態では、エスケタミンを、導入期及び/又は維持期中に2回以上のスプレーで鼻腔内装置から送達する。特定の態様では、方法は、導入期及び/又は維持期中に治療有効量の経口抗うつ薬を患者に投与することを更に含む。特定の態様では、エスケタミンを、導入期及び/又は維持期中に、その対応する塩酸塩として投与する。
【0010】
なお更なる態様では、うつ病は大うつ病性障害を含む。特定の態様では、大うつ病性障害は、自殺念慮又は行動を伴う大うつ病性障害である。更なる態様では、大うつ病性障害は、治療抵抗性うつ病である。
【0011】
特定の態様では、患者から得られた生体試料が、(a)参照CRPレベルよりも高いCRPレベル、並びに(b)(i)参照TNF-αレベルよりも高いTNF-αのレベル、及び(ii)参照sIL6Rレベルよりも高いsIL6Rのレベルのうちの少なくとも1つを有すると同定された場合、患者は、バイオマーカーサイン陽性と同定される。
【0012】
特定の態様では、参照CRPレベルは約3mg/Lである。更なる態様では、参照TNF-αレベルは、約4pg/mLである。なお更なる態様では、参照sIL6Rレベルは、約25ng/mLである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の治験デザインである。試験への参入時に、編入非応答者対象は、ESKETINTRD3005試験において開始された同じ経口抗うつ薬を受け続けた。新たな経口ADは、直接参入の対象のみに対するものである。
図2】実施例1の観測症例データに基づくIND及びOP/MA期における経時的なMADRS合計スコアの平均を示す。
図3】ベースラインから≧50%低減した応答及びMADRS≦12の寛解を有する患者の応答を示す。
図4】実施例1の観測症例データに基づくIND及びOP/MA期における経時的なPHQ-9合計スコアの平均を示す。
図5】様々な臨床試験にわたる3MMの効果を示す。ESKETINTRD2003については、二重盲検の2つの期にわたって一貫した治療を受けた対象のみを考慮した。例示された治験の各々についてのClinicalTrials.gov識別子は以下の通りである:54135419SUI3001(NCT03039192);54135419SUI3002(NCT03097133)、ESKETINSUI2001(NCT02133001)、54135419TRD2005(NCT02918318)、ESKETINTRD2003(NCT01998958)、ESKETINTRD3001(NCT02417064)、及びESKETINTRD3002(NCT02418585)。
図6】様々な臨床試験についての、3MMバイオマーカーサイン陽性対象(TEサイン陽性)、バイオマーカーサイン陰性対象(TEサイン陰性)、及びサブタイプ間の差異(サインの利点)を示す。全体として、最終DBにおける3MM+患者における治療効果は7.8MADRSポイントであり、3MM-患者における2.0MADRSポイントの治療効果よりも有意に大きかった(p<0.01)。効果は、4つのTRD研究のうち3つで明らかだった。ESKETINTRD2003では、二重盲検の2つの期にわたって一貫した治療を受けた対象のみを考慮した。
図7A】ESKETINTRD2003試験におけるプラセボ(PBO)対治療(TRT)バイオマーカーサイン陽性患者についてのMADRSの変化を示すグラフである。
図7B】ESKETINTRD2003試験におけるプラセボ(PBO)対治療(TRT)バイオマーカーサイン陰性患者についてのMADRSの変化を示すグラフである。
図8A】様々な臨床試験にわたる2MMの効果を示す。
図8B】様々な臨床試験にわたる3MMの効果を示す。高い、差分(PBO-TRT)とはTEサイン陽性対象を指し、その他、差分(PBO-TRT)とはTEサイン陰性対象を指し、高い、差分-その他、差分(PBO-TRT)とはサインの利点を指す。例示された治験の各々についてのClinicalTrials.gov識別子は以下の通りである。CNTO136MDD2001(NCT02473289);67953964MDD2001(NCT03559192)、42847922MDD2001(NCT03227224)、42847922MDD2002(NCT03321526)、54135419SUI3001(NCT03039192)、54135419SUI3002(NCT03097133)、ESKETINSUI2001(NCT02133001)、54135419TRD2005(NCT02918318)、ESKETINTRD2003(NCT01998958)、ESKETINTRD3001(NCT02417064)、及びESKETINTRD3002(NCT02418585)。
図9】様々な臨床試験にわたるCRP効果を示す。高い、差分(PBO-TRT)とはTEサイン陽性対象を指し、その他、差分(PBO-TRT)とはTEサイン陰性対象を指し、高い、差分-その他、差分(PBO-TRT)とはサインの利点を指す。例示された治験の各々についてのClinicalTrials.gov識別子は以下の通りである。CNTO136MDD2001(NCT02473289);67953964MDD2001(NCT03559192)、42847922MDD2001(NCT03227224)、42847922MDD2002(NCT03321526)、54135419SUI3001(NCT03039192)、54135419SUI3002(NCT03097133)、ESKETINSUI2001(NCT02133001)、54135419TRD2005(NCT02918318)、ESKETINTRD2003(NCT01998958)、ESKETINTRD3001(NCT02417064)、及びESKETINTRD3002(NCT02418585)。
【発明の詳細な説明】
【0014】
本発明は、うつ病(例えば、大うつ病性障害)の治療を必要とする患者に、治療有効量のエスケタミンを投与することを含む、方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、治療難治性又は治療抵抗性うつ病の治療のためのものである。他の実施形態では、薬剤は、自殺念慮を治療するためのものである。これらの方法は、有利には、うつ病を有する患者に有効なレジメンを調整することを可能にする。そのような患者としては、MDD、TRDと既に診断されているか、自殺傾向があるか、又はそうでなければうつ病に対して未治療であった患者が挙げられる。例えば、本方法は、自殺念慮又は行動を伴う大うつ病性障害の患者を対象とする。
【0015】
本発明の一態様では、うつ病を治療する方法であって、それを必要とする患者に有効量のエスケタミンを鼻腔内投与することを含み、それから成り、又はそれから本質的に成り、患者はバイオマーカーサイン陽性として同定され、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定された場合、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、方法を提供する。
【0016】
本発明の更なる態様では、うつ病を治療する方法であって、それを必要とする患者に有効量のエスケタミンを鼻腔内投与することを含み、それから成り、又はそれから本質的に成り、患者はバイオマーカーサイン陽性であり、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性である、方法を提供する。
【0017】
有効量のエスケタミンを、それを必要とする患者に鼻腔内投与することを含み、それから成り、又はそれから本質的に成り、患者はバイオマーカーサイン陽性と同定され、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性と同定される、うつ病の治療に使用するためのエスケタミンが本明細書に更に記載される。
【0018】
有効量のエスケタミンを、それを必要とする患者に鼻腔内投与することを含み、それから成り、又はそれから本質的に成り、患者はバイオマーカーサイン陽性であり、患者から得られた生体試料が参照バイオマーカーレベルよりも高い又は低い少なくとも1つのバイオマーカーのレベルを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性である、うつ病の治療に使用するためのエスケタミンが本明細書に更に記載される。
【0019】
特定の実施形態では、患者は、バイオマーカーサイン陽性と同定される。
【0020】
特定の態様では、患者から得られた生体試料が、(a)参照CRPレベルよりも高いCRPレベル、並びに(b)(i)参照TNF-αレベルよりも高いTNF-αのレベル、及び(ii)参照sIL6Rレベルよりも高いsIL6Rのレベルのうちの少なくとも1つを有すると同定された場合、患者は、バイオマーカーサイン陽性と同定される。
【0021】
特定の実施態様では、対象がバイオマーカーサイン陽性である場合に患者をエスケタミンによる治療の候補として同定する方法であって、患者から得られた生体試料が、(a)参照CRPレベルよりも高いCRPのレベル、及び(b)(i)参照TNF-αレベルよりも高いTNF-αのレベル、及び(ii)参照sIL6Rレベルよりも高いsIL6Rのレベルのうちの少なくとも1つを有すると同定された場合に、患者がバイオマーカーサイン陽性と同定される、方法が本明細書に記載される。特定の実施形態では、この方法は、有効量のエスケタミンをこの患者に投与することを更に含む。
【0022】
特定の実施形態では、バイオマーカーサインは、CRP>3mg/L及び(TNFα>4pg/mL又はsIL6R>25ng/mL)によって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン(「3MM」)である。3MMバイオマーカーサインを利用する開示された方法では、患者から得られた生体試料が、(a)参照CRPレベルより高いCRPのレベル、及び(b)(i)参照TNF-αレベルより高いTNF-αのレベル、及び(ii)参照sIL6Rレベルより高いsIL6Rのレベルのうちの少なくとも1つを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性と同定される。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、プラセボによる治療を受けた患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、プラセボによる治療を受けた患者の比較集団と比べて、約7.8MADRSポイントの改善を示す。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、エスケタミンを投与されたがバイオマーカーサイン陽性ではない患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、エスケタミンを投与されたがバイオマーカーサイン陽性ではない患者の比較集団と比べて、約7.8MADRSポイントの改善を示す。
【0023】
特定の実施形態では、バイオマーカーサインは、CRP>3mg/L及びsIL6R>25ng/mL
によって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン(「2MM」)である。2MMバイオマーカーサインを利用する開示された方法では、患者から得られた生体試料が、参照CRPレベルよりも高いCRPのレベル、及び参照sIL6Rレベルよりも高いsIL6Rのレベルを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性と同定される。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、プラセボによる治療を受けた患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、エスケタミンを投与されたがバイオマーカーサイン陽性ではない患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。
【0024】
特定の実施形態では、バイオマーカーサインは、CRP>3mg/Lによって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン(「CRP」)である。CRPバイオマーカーサインを利用する開示された方法では、患者から得られた生体試料が、参照CRPレベルよりも高いCRPのレベルを有すると同定された場合、患者はバイオマーカーサイン陽性と同定される。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、プラセボによる治療を受けた患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。特定の実施形態では、バイオマーカーサイン陽性と同定された患者は、エスケタミンを投与されたがバイオマーカーサイン陽性ではない患者の比較集団と比べて、MADRSポイントの改善を示す。
【0025】
開示される実施形態のいずれにおいても、参照CRPレベルは、約3mg/Lである。
【0026】
開示される実施形態のいずれにおいても、参照TNF-αレベルは、約4pg/mLである。
【0027】
開示される実施形態のいずれにおいても、参照sIL6Rレベルは、約25ng/mLである。
【0028】
開示される実施形態のいずれにおいても、参照CRP、TNF-α、sIL6R及び/又はダイノルフィン参照レベルは、実施例に開示される方法に従って計算されてもよい。
【0029】
開示される実施形態のいずれにおいても、バイオマーカーのいずれかとのバイオマーカー相関物、例えば、CRP、TNF-α、sIL6R、又はダイノルフィンとのバイオマーカー相関物を使用してもよい。本明細書で使用される場合、バイオマーカーとの「バイオマーカー相関物」は、そのレベル又は活性がバイオマーカーのレベル又は活性と相関する別のマーカーである。例えば、バイオマーカーがXであり、YのレベルがXのレベルと相関する場合、Yは、Xのバイオマーカー相関物である。
【0030】
本明細書で使用される場合、「CRP」とは、C反応性タンパク質を指す。特定の実施形態では、CRPは、UniProtKB/Swiss-Prot番号P02741を有する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「TNF-α」とは、腫瘍壊死因子αを指す。特定の実施形態では、TNF-αは、UniProtKB/Swiss-Prot番号P01375を有する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「IL6R」とは、インターロイキン6受容体を指す。特定の実施形態では、IL6Rは、UniProtKB/Swiss-Prot番号P08887を有する。本明細書で使用される場合、「sIL6R」とは、IL6Rの可溶性形態を指す。
【0033】
本明細書に記載される治療方法の各々について、治療方法はまた、記載される適応症の治療のための医薬を製造する方法として、又は記載される適応症の治療に使用するためのエスケタミンとして、構成されてもよいことが理解されるであろう。
【0034】
最初の投与期の間に治療有効量のエスケタミンを投与した後に、うつ病を有する患者によって達成される安定した寛解又は安定した応答を維持する方法も記載される。そのような方法は、治療有効量のエスケタミンを、後続の投与期の間に少なくとも5ヶ月間、継続的に投与することを含む。
【0035】
前述の治療方法のいずれかの実施形態では、本方法は、導入及び、任意で、それに続く維持期を有し、導入期は、所与の頻度での導入期治療セッションを含み、維持期は、より少ない頻度で患者に投与される維持期治療セッションを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、患者におけるうつ病の長期治療のための方法も提供されてもよい。これらの方法は、治療を必要とする患者に、治療有効量のエスケタミンを少なくとも6ヶ月間投与することを含む。望ましくは、患者の認知能力は、6ヶ月間の治療後に、ベースライン測定に基づいて安定したままである。いくつかの実施形態では、治療は、少なくとも約1年、少なくとも約18ヶ月、又は少なくとも約2年の持続期間であってもよい。例えば、長期治療は、約6ヶ月~約2年の持続期間範囲を含んでもよい。治療はまた、主治医によって決定されるように、4、5、6、7、8、9、10年以上が挙げられるが、これらに限定されない、より長い期間にわたって継続されてもよい。いくつかの実施形態では、エスケタミンは、最初に導入期の間に最長4週間、週2回投与され、その後、週2回よりも少ない頻度で投与される。
【0037】
更なる態様では、本方法は、導入期治療セッションごとに約28mg~約84mgのエスケタミンを患者に鼻腔内投与することであって、導入期治療セッションが導入期中に週2回の頻度で行われる、投与すること、及び任意で、維持期治療セッションごとに約56mg~約84mgのエスケタミンを患者に鼻腔内投与することであって、維持期治療セッションが週1回又は隔週1回の頻度で行われる、投与することを含む。特定の態様では、導入期は、約4週間の期間を有する。
【0038】
特定の態様では、導入期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する。更なる態様では、維持期治療セッションごとに約56又は約84mgのエスケタミンを投与する。
【0039】
特定の実施形態では、エスケタミンは、本明細書に記載されるように、1種又は2種以上の抗うつ薬と組み合わせて、好ましくは1~3種の抗うつ薬と組み合わせて、より好ましくは1~2種の抗うつ薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0040】
特定の実施形態では、エスケタミンは、本明細書に記載される、1種以上の抗うつ薬と組み合わせて、更に1種以上の非定型抗精神病薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0041】
更なる実施形態では、本開示は、エスケタミン及び1種以上の抗うつ薬を含む併用療法に関し、エスケタミンは、急性治療として投与される。別の実施形態では、本開示は、エスケタミン及び1種以上の抗うつ薬を含む併用療法であって、エスケタミンは、急性治療として投与され、1種以上の抗うつ薬は、慢性治療として投与される、併用療法に関する。
【0042】
他の実施形態では、導入期の間など、エスケタミンは、単剤療法として使用されてもよく、任意の他の活性化合物と組み合わせて使用されなくてもよい。
【0043】
本明細書で与えられる量的表現の一部は、用語「約」で修飾されていない。用語「約」が明示的に用いられている/いないにかかわらず、本明細書において与えられる全ての量は実際の所与の値を指すことを意味し、またこのような所与の値の実験及び/又は測定条件による近似値を含む、当該技術分野における通常の技量に基づいて合理的に推測されるこのような所与の値の近似値を指すことも意味することが理解される。
【0044】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「エスケタミン」は、ケタミンの(S)-エナンチオマー、すなわち式(I):
【0045】
【化1】
の化合物を意味するものとし、これは、(S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノンとしても知られている。「エスケタミン」はまた、塩、例えば、ケタミンの(S)-エナンチオマーの塩酸塩などの塩化物塩、すなわち、式(II):
【0046】
【化2】
の化合物の塩酸塩などの塩化物塩も含み、これは、(S)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノン塩酸塩としても知られている。
【0047】
いくつかの実施形態では、エスケタミンは、ケタミンの(R)-エナンチオマー、すなわち、式(III):
【0048】
【化3】
の化合物を実質的に含まない。
【0049】
他の実施形態では、エスケタミンは、エスケタミンサンプルの重量に基づいて、約10重量%未満のケタミンの(R)-エナンチオマーを含有する。更なる実施形態では、エスケタミンは、エスケタミン試料の重量に基づいて、約10重量%未満、約9重量%未満、約8重量%未満、約7重量%未満、約6重量%未満、約5重量%未満、約4重量%未満、約3重量%未満、約2重量%未満、約1重量%未満、約0.5重量%未満、約0.1重量%未満、約0.005重量%未満、又は約0.001重量%未満のエスケタミンの(R)-エナンチオマーを含有する。更に他の実施形態では、エスケタミンは、エスケタミンサンプルの重量に基づいて、約0.001~約10重量%のケタミンの(R)-エナンチオマーを含有する。なお更なる実施形態では、エスケタミンは、エスケタミンサンプルの重量に基づいて、約0.001~約10%、約0.001~約5%、約0.001~約1、約0.001~約0.5、約0.001~約0.1、約0.1~約5、約0.1~約1、約0.1~約5、又は約0.5~約5重量%のエスケタミンの(R)-エナンチオマーを含有する。
【0050】
「エスケタミン」という用語はまた、当業者によって容易に選択され得る他の医薬的に許容されるその塩も含み得る。「医薬的に許容される塩」は、無毒であり、生物学的に忍容性であるか、又は別の点で対象への投与に生物学的に好適である、エスケタミンの塩を意味することが意図される。一般に、G.S.Paulekuhn,「Trends in Active Pharmaceutical Ingredient Salt Selection based on Analysis of the Orange Book Database」,J.Med.Chem.,2007,50:6665-72、S.M.Berge,「Pharmaceutical Salts」,J Pharm Sci.,1977,66:1-19,and Handbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth,Eds.,Wiley-VCH and VHCA,Zurich,2002を参照されたい。医薬的に許容される塩の例は、薬理学的に有効であり、かつ過度の毒性、刺激、又はアレルギー反応を伴わずに患者に投与するのに好適な塩である。
【0051】
他の医薬的に許容される塩の例としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、一水素-リン酸塩、二水素-リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、臭化物(臭化水素酸塩など)、ヨウ化物(ヨウ化水素酸塩など)、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-ジオ酸塩、ヘキシン-1,6-ジオ酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、及びマンデル酸塩が挙げられる。特に、エスケタミンの塩は、塩酸塩などの塩化物塩である。
【0052】
特定の実施形態では、エスケタミンは、鼻腔内投与される。他の実施形態では、エスケタミンは、その対応する塩酸塩として鼻腔内投与される。更なる実施形態では、エスケタミンは、16.14%重量/体積溶液の対応する塩酸塩(14%重量/体積のエスケタミン塩基に相当)として鼻腔内投与される。
【0053】
いくつかの実施形態では、エスケタミンを、導入期及び/又は維持期中に2回以上のスプレーで鼻腔内装置から送達する。特定の態様では、方法は、導入期及び/又は維持期中に治療有効量の経口抗うつ薬を患者に投与することを更に含む。特定の態様では、エスケタミンを、導入期及び/又は維持期中に、その対応する塩酸塩として投与する。
【0054】
特定の実施形態では、エスケタミンは、水中4.5のpHで、161.4mg/mLのエスケタミン塩酸塩(140mg/mLのエスケタミン塩基に相当)、0.12mg/mLのエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid、EDTA)、及び1.5mg/mLのクエン酸を含む溶液として鼻腔内投与される。他の実施形態では、エスケタミンは、鼻腔内投与され、鼻腔内送達によって、水中4.5のpHで、161.4mg/mLのエスケタミン塩酸塩(140mg/mLのエスケタミン塩基に相当)、0.12mg/mLのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及び1.5mg/mLのクエン酸を含む100μLの溶液が投与される。特定の実施形態では、エスケタミンを、点鼻スプレーポンプを使用して鼻腔内送達し、このポンプは、水中4.5のpHで、161.4mg/mLのエスケタミン塩酸塩(140mg/mLのエスケタミン塩基に相当)、0.12mg/mLのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及び1.5mg/mLのクエン酸を含む、100μLの溶液を送達する。
【0055】
一般に、点鼻スプレー装置からの単一のポンプは、約60μL、約70μL、約80μL、約90μL、約100μL、約110μL、約120μL、約130μL、約140μL、約150μL、約160μL、約170μL、約180μL、及び約200μLを含む約50μL~約200μLのエスケタミン溶液を対象の鼻孔に送達するように構成されてもよい。したがって、2つのポンプは、約100μL~約400μLを対象に送達する。
【0056】
なお更なる態様では、うつ病は大うつ病性障害を含む。特定の態様では、大うつ病性障害は、自殺念慮又は行動を伴う大うつ病性障害である。更なる態様では、大うつ病性障害は、治療抵抗性うつ病である。
【0057】
特定の実施形態では、治療有効量のエスケタミンによる治療を必要とする患者は、うつ病(例えば、大うつ病性障害)のエピソードに罹患している患者である。他の実施形態では、治療を必要とする患者は、うつ病(例えば、大うつ病性障害)のエピソードに罹患しており、うつ病(例えば、大うつ病性障害)のエピソードは、少なくとも2種の経口抗うつ薬による治療に応答していない(すなわち、患者は、少なくとも2種の経口抗うつ薬による治療に応答していない)。他の実施形態では、治療を必要とする老齢患者は、うつ病(例えば、大うつ病性障害)のエピソードに罹患しており、うつ病(例えば、大うつ病性障害)のエピソードは、2種の経口抗うつ薬による治療に応答していない(すなわち、老齢患者は、2種の経口抗うつ薬による治療に応答していない)。
【0058】
特定の実施形態では、治療を必要とする患者は、うつ病(例えば、大うつ病性障害)に罹患している。例えば、MADRSで測定して18以上のスコアを有するか、又はCGI尺度で4以上のスコアを有する患者。
【0059】
本明細書で使用するとき、用語「うつ病」は、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、季節性情動障害、産後うつ病、月経前不快気分障害、状況うつ病、無快感症、憂鬱、中年のうつ病、晩年のうつ病、特定可能なストレス因子によるうつ病、治療抵抗性うつ病、又はそれらの組み合わせを含む。特定の実施形態では、うつ病は、大うつ病性障害である。他の実施形態では、大うつ病性障害は、憂鬱の特徴又は不安による苦悩を伴う。更なる実施形態では、うつ病は、治療抵抗性うつ病である。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「非応答者」とは、抗うつ薬で完全には回復しない(例えば、合計MADRSスコアにおけるベースラインからの25%以下の変化)患者を意味する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「大うつ病性障害のエピソード」という用語は、患者が、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5thEdition:DSM 5)に規定されている大うつ病の基準を満たすのに十分な大うつ病性障害の症状を有する、連続した期間(例えば、約2週間以上)を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「自殺」は、「自身の命を奪う行為」である。http://en.wikipedia.org/wiki/Suicide-cite_note-7を参照されたい。自殺は、自殺未遂又は非致死性自殺行動を含み、これは自身の命を絶つという願望を伴う自傷であり、死をもたらさない。自殺未遂は、開始時に、一連の行為が自身の死につながるであろうことが予想される個人による自己開始型行動のシーケンスである。
【0063】
本明細書で使用するとき、「自殺念慮」は、自殺についての思考若しくは自殺への異常な執着、又は自身の命を終わらせたい若しくはこれ以上生きていたくないという思考を指すが、必ずしも自殺するために何らかの積極的な試みを行うわけではない。自殺念慮の範囲は、一過性のものから慢性的なもの及び詳細な計画、ロールプレイング、及び失敗した試みへの進展まで多岐にわたり、これらは、失敗するか若しくは発見されるように意図的に構成され得るか、又は死をもたらすように十分に意図され得る。いくつかの実施形態では、患者は、患者が約38以上の平均ベースラインMADRS合計スコアを有するとき、「自殺傾向」があるとして分類される。他の実施形態では、患者は、患者が22以上の平均ベースラインBBSSスコアを有するとき、自殺傾向があるとして分類される。更なる実施形態では、患者は、患者が自殺リスクのSIBAT臨床的全般判断において6以上のスコアを有するとき、自殺傾向があるとして分類される。更に他の実施形態では、患者は、これらのスコアのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを有する。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「同時療法」、「併用療法」、「補助治療」、「補助療法」、「併用治療」、及び「同時投与」は、エスケタミンを1種以上の抗うつ薬と組み合わせて投与することによる、それを必要とする患者の治療を意味するものとし、エスケタミン及び抗うつ薬は、任意の好適な手段によって投与される。いくつかの実施形態では、エスケタミンは、1~5種の抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。他の実施形態では、エスケタミンは、1、2、3、4、又は5種の抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。他の実施形態では、エスケタミンは、1種又は2種の抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。更なる実施形態では、エスケタミンは、現在患者に投与されている抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。他の実施形態では、エスケタミンは、異なる抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。なお更なる実施形態では、エスケタミンは、以前に患者に投与されていない抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。更に他の実施形態では、エスケタミンは、以前に患者に投与された抗うつ薬を用いたレジメンで投与される。エスケタミン及び抗うつ薬が個別の剤形で投与されるとき、各化合物について1日に投与される投薬回数は、同じでも異なっていてもよく、より典型的には、異なる。抗うつ薬は、主治医によって、及び/又はそのラベルによって処方されるように投与されてもよく、エスケタミンは、本明細書に記載されるように投与される。典型的には、患者は、抗うつ薬及びエスケタミンの両方を併用した同時治療下にあり、その両方は、それらの所定の投与レジメンによって投与される。
【0065】
エスケタミン及び抗うつ薬は、同一又は異なる投与経路を介して投与されてもよい。投与の好適な方法の例としては、経口、静脈内(iv)、鼻腔内(in)、筋肉内(im)、皮下(sc)、経皮、口腔内、又は直腸が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、エスケタミンは、鼻腔内投与される。
【0066】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「抗うつ薬」は、うつ病の治療に使用することができる任意の医薬品を意味するものとする。好適な例としては、モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI)、三環式抗うつ薬、セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンノルアドレナリン作動性再取り込み阻害薬、ノルアドレナリン作動性及び特異的セロトニン作動性薬剤、又は非定型抗精神病剤が挙げられるが、これらに限定されない。他の例としては、不可逆性MAOI(フェネルジン、トラニルシプロミン)、可逆性MAOI(モクロベミド)、及び同種のものなどのモノアミンオキシダーゼ阻害薬;イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミン、アモキサピンなどの三環系抗うつ薬;マプロチリンなどの四環系抗うつ薬;ノミフェンシンなどの非環式;トラゾドンなどのトリアゾロピリジン;フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、エスシトラプラム、フルボキサミン、及び同種のものなどのセロトニン再取り込み阻害薬、ネファザドン、チアネプチンなどのセロトニン受容体アンタゴニスト;ベンラファキシン、ミルナシプラン、デスベンラファキシン、デュロキセチン、レボミルナシプランなどのセロトニンノルアドレナリン作動性再取り込み阻害薬;ミルタザピンなどのノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬;レボキセチン、エディボキセチンなどのノルアドレナリン再取り込み阻害薬;抗コリン作動性薬、例えば、スコポラミン;リチウム;三重再取り込み阻害薬;ブプロピオンなどの非定型抗精神病薬;カヴァカヴァ、セイヨウオトギリソウなどの天然物;s-アデノシルメチオニンなどの栄養補助食品;及び甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンなどの神経ペプチド;ニューロキニン受容体アンタゴニストなどの神経ペプチド受容体を標的とした化合物;及びトリヨードサイロニンなどのホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、抗うつ薬は、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、マプロチライン、アモキサピン、トラゾドン、ブプロピオン、クロミプラミン、フルオキセチン、デュロキセチン、エスシタロプラム、シタロプラム、セルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、ネファザドン、ベンラファキシン、ミルナシプラン、レボキセチン、ミルタザピン、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、カヴァカヴァ、セイヨウオトギリソウ、s-アデノシルメチオニン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、ニューロキニン受容体アンタゴニスト、又はトリヨードチロニンである。好ましくは、抗うつ薬は、フルオキセチン、イミプラミン、ブプロピオン、ベンラファキシン、及びセルトラリンからなる群から選択される。好ましくは、エスケタミンは、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、三環系抗うつ薬、セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンノルアドレナリン作動性再取り込み阻害薬、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬、非定型抗精神病薬、及び/又は抗精神病薬(例えば、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、及びジプラプラドン)による補助療法から成る群から選択される1つ以上の化合物と組み合わせて投与される。より好ましくは、エスケタミンは、モノアミノオキシダーゼ阻害薬、三環系抗うつ薬、セロトニン再取り込み阻害薬、及びセロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬からなる群から選択される1つ以上の化合物と組み合わせて投与される。より好ましくは、エスケタミンは、セロトニン再取り込み阻害薬及びセロトニンノルエピネフリン再取り込み阻害薬からなる群から選択される1つ以上の化合物と組み合わせて投与される。他の実施形態では、抗うつ薬は、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミン、アモキサピン、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、フルボキサミン、ベンラファキシン、ミルナシプラン、ミルタザピン、ブプロピオン、甲状腺刺激ホルモン及びトリヨードチロニンである。更なる実施形態では、抗うつ薬は、リチウム、リルゾール、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミン、アモキサピン、フルオキセチン、セルトラリン、パラキセチン、シタロプラム、フルボキサミン、ベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、ミルタザピン及びブプロピオンである。より好ましくは、エスケタミンは、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、イミプラミン、アミトリプチリン、デシプラミン、ノルトリプチリン、ドキセピン、プロトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミン、アモキサピン、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、及びフルボキサミンからなる群から選択される1つ以上の化合物と組み合わせて投与される。より好ましくは、エスケタミンは、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチン、シタロプラム、エスシタロプラム、及びフルボキサミンからなる群から選択される1つ以上の化合物と組み合わせて投与される。
【0067】
抗うつ薬(例えば、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、三環系抗うつ薬、セロトニン再取り込み阻害薬、セロトニンノルアドレナリン作動性再取り込み阻害薬、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、天然物、栄養補助食品、神経ペプチド、神経ペプチド受容体を標的とした化合物、ホルモン、及び本明細書に開示の他の医薬品)の治療有効量/投与量レベル及び投薬レジメンは、当業者によって容易に決定されてもよい。例えば、販売が承認されている医薬品の治療的投与量及びレジメンは、一般的に入手可能であり、例えば、包装ラベル、標準的な投薬ガイドライン、Physician’s Desk Reference(Medical Economics Company若しくはhttp:///www.pdrel.comにてオンラインで)のような標準的な投薬参考文献、又は他の出典に列挙されている。
【0068】
本明細書で使用するとき、用語「抗精神病薬」には、以下が挙げられるが、これらに限定されない。
(a)典型的な又は旧来の抗精神病薬、例えば、フェノチアジン類(例えば、クロルプロマジン、チオリダジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフロペラジン、レボメプロマジン(levomepromazin))、チオキサンテン類(例えば、チオチキセン、フルペンチキソール)、ブチロフェノン類(例えば、ハロペリドール)、ジベンゾキサゼピン類(例えば、ロキサピン)、ジヒドロインドロン類(例えば、モリンドン)、置換ベンズアミド類(例えば、スルピリド(sulpride)、アミスルプリド)など;並びに
(b)非定型抗精神病薬及び気分安定薬、例えば、パリペリドン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ゾテピン、ジプラシドン、イロペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリン、セルチンドール、ORG-5222(Organon)など;及びその他、例えば、ソネピプラゾール、アリピプラゾール、ネモナプリド、SR-31742(Sanofi)、CX-516(Cortex)、SC-111(Scotia)、NE-100(Taisho)、ジバルプロエート(divalproate)(気分安定薬)など。
【0069】
ある実施形態では、「非定型抗精神病薬」は、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、及びパリペリドンからなる群から選択される。別の実施形態では、非定型抗精神病薬は、アリピプラゾール、クエチアピン、オランザピン、ブレクスピプラゾール、ルラシドン、及びリスペリドンから成る群から選択され、好ましくは、非定型抗精神病薬は、アリピプラゾール、クエチアピン、及びオランザピンからなる群から選択される。
【0070】
本明細書で使用するとき、用語「治療難治性又は治療抵抗性うつ病」及び略語「TRD」は、現在のうつ病性エピソードにおいて、少なくとも2種の異なる抗うつ薬、好ましくは2~5種の抗うつ薬に適切に応答しない患者における大うつ病性障害として定義されるものとする。他の実施形態では、TRDは、現在のうつ病性エピソードにおいて、適切な用量及び期間の少なくとも2種の経口抗うつ薬に対して応答しなかった患者における大うつ病性障害として定義される。
【0071】
他の実施形態では、うつ病の治療のための方法は、抗精神病療法、電気けいれん療法(electroconvulsive therapy、ECT)、経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation、TMS)、又はそれらの組み合わせなどの補助療法と組み合わせることができる。
【0072】
適切な一連の所与の抗うつ薬に対する無応答は、遡及的又は予期的に決定され得ることを、当業者は認識するであろう。実施形態では、適切な一連の抗うつ薬に対する無応答の少なくとも1つは、予期的に決定される。別の実施形態では、適切な一連の抗うつ薬に対する無応答の少なくとも2つは、予期的に決定される。別の実施形態では、適切な一連の抗うつ薬に対する無応答の少なくとも1つは、遡及的に決定される。別の実施形態では、適切な一連の抗うつ薬に対する無応答の少なくとも2つは、現在のうつ病性エピソードにおいて遡及的に決定される。
【0073】
「少なくとも2種の経口抗うつ薬」又は「少なくとも2種の異なる経口うつ薬」は、主治医によって決定され得る適切な用量で患者に投与されている。同様に、抗うつ薬は、主治医によって決定される好適な継続期間にわたって投与されている。
【0074】
本明細書で使用される場合、別途記載のない限り、用語「治療する」、「治療」などは、疾患、病状、又は障害と戦うことを目的とする、対象又は患者(好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)の管理及びケアを含み、症状若しくは合併症の発生の予防、症状若しくは合併症の緩和、又は疾患、病状、若しくは障害の排除のために本明細書に記載される化合物を投与することを含むものとする。
【0075】
本明細書で使用するとき、用語「治療有効量」は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医により求められている、治療されている疾患又は障害の症状の緩和を含む、組織系、動物又はヒト内で生体学的反応又は医薬反応を引き出す活性化合物又は医薬的薬剤の量を意味する。いくつかの実施形態では、抗うつ薬は、主治医によって決定される治療有効量で利用される。他の実施形態では、エスケタミンは、治療有効量で利用される。
【0076】
治療有効量のエスケタミン及び/又は抗うつ薬は、本明細書に記載されるように、初期及び/又は後期の間に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、エスケタミンの治療有効量は、約20~約100mgである。他の実施形態では、エスケタミンの治療有効量は、約30~約90mgである。更なる実施形態では、エスケタミンの治療有効量は、約40~約80mgである。更に他の実施形態では、エスケタミンの治療有効量は約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、又は約100mgである。更なる実施形態では、治療有効量は、約28mg、約56mg、又は約84mgである。他の実施形態では、治療有効量は、約56mg又は約84mgである。なお更なる実施形態では、エスケタミンの治療有効量は約28mgである。他の実施形態では、エスケタミンの治療有効量は、約56mgである。なお更なる実施形態では、エスケタミンの治療有効量は約84mgである。特に明記しない限り、エスケタミンの量は、エスケタミンの遊離塩基に対応する。
【0077】
本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、「対象」及び「患者」という用語は、治療、観察又は実験に付されている動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。好ましくは、対象又は患者は、治療及び/又は予防するべき疾患又は障害の少なくとも1つの症状を経験及び/又は示している。
【0078】
いくつかの実施形態では、対象又は患者は、成人である。本明細書で使用するとき、用語「成人」は、本明細書で使用するとき、約18歳~約65歳であるヒトを指す。
【0079】
他の実施形態では、対象又は患者は、老齢又は高齢である。本明細書で使用するとき、用語「老齢」及び「高齢」は、約65歳以上のヒト対象を指すために互換的に使用される。≧65歳~≦75歳の高齢患者は、≧75歳の患者よりも治療に対して応答性が良いと思われる。
【0080】
更なる実施形態では、対象又は患者は、小児の対象である。本明細書で使用するとき、用語「小児」は、約18歳よりも若いヒトの対象を指す。
【0081】
本明細書で使用するとき、用語「組成物」は、特定の成分を特定の量で含む生成物、並びに、特定の成分の特定の量での組み合わせから直接又は間接的に得られる任意の生成物を包含することを意図している。
【0082】
本明細書で使用するとき、「安定した寛解」とは、患者が導入期の間にエスケタミンに対する実質的に完全な応答を達成した後の最後の4週間のうち少なくとも3週間にわたってMADRS合計スコアが12点以下である患者を指す。本明細書におけるある特定の例示された実施形態では、「安定した寛解」の患者は、12より大きいMADRS合計スコアの1回の逸脱、又は導入期に続く13週目若しくは14週目のMADRS評価の1回の欠如を有する患者を含む。他の実施形態では、「安定した寛解」の患者は、導入期に続く15週目及び16週目に12以下のMADRS合計スコアを有する患者を含む。
【0083】
本明細書において使用される場合、「安定した応答」とは、患者のMADRS合計スコアが、ベースライン(導入期1日目;無作為化前/初回経鼻投与前)から最後の2週間の各々において50%以上減少し、その後、患者が導入期のエスケタミンに対する実質的に完全な応答を示したが、安定寛解の基準を満たさないことを指す。
【0084】
上述したように、患者におけるうつ病の治療方法について記載する。この方法は、エスケタミンを、1つ、2つ、又は任意に3つの期、すなわち、初期及び後続の投与期にエスケタミンを投与することを含む。いくつかの実施形態では、期は、初期導入期、延長導入期、維持期、又はこれらの任意の組み合わせを含む。したがって、有効量のエスケタミンは、各期において投与される。医師は、患者の状態を評価して、本明細書で指定される投与範囲及び投与頻度から、患者に対して最も有益な初期/導入及び維持用量を決定することができる。有効量のエスケタミンは、各期で同じであってもよく、又は異なってもよい。
【0085】
本明細書に記載される方法により、「最適化期」にうつ病を有する患者又はうつ病にかかりやすい患者に投与するためのエスケタミンの投与量を最適化することが可能になる。最適化は、導入期に続く維持期の一部とみなすことができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、エスケタミン投与量の調整を必要としない。実際、エスケタミンは、本明細書で述べられている期(例えば、導入期及び維持期)の間に、エスケタミン応答が患者において観察され、かつ維持される最も少ない投与頻度で投与され得る。有効量のエスケタミンは、約28~約84mgであることが見出されている。
【0086】
本明細書で使用するとき、「導入期」又は「急性投与期」は、エスケタミンが最初に患者に投与される期間である。いくつかの実施形態では、導入期は、抑うつ症状の堅牢で安定した低減を達成するのに十分な長さである。導入期は、特定の患者及び/又は患者の性別、年齢、体重、投与時間、投与頻度、及び付随する疾患を含むが、これらに限定されない因子に依存し得る。導入期は、初期導入期及び延長導入期を含んでもよい。導入期(初期及び延長期を合わせた)の合計は、約4~約12週間、約4~約11週間、約4~約10週間、約4~約9週間、約4~約8週間、約4~約7週間、約4~約6週間、約5~約12週間、約5~約11週間、約5~約10週間、約5~約9週間、約5~約8週間、約5~約7週間、約5~約6週間、約6~約12週間、約6~約11週間、約6~約10週間、約6~約9週間、約6~約8週間、約7~約12週間、約7~約11週間、約7~約10週間、約7~約9週間、約8~約12週間、約8~約11週間、又は約8~約10週間であり得る。いくつかの実施形態では、全導入期間は、約4~約8週間である。
【0087】
初期導入期間において、患者は、少なくとも週2回の所与の頻度で治療有効量のエスケタミンを投与される。いくつかの実施形態では、患者は、週3回の所与の頻度で治療有効量のエスケタミンを投与される。投与が週3回である限り、投与は、週の1日目、3日目、及び5日目±1日に行われる。初期導入期は、典型的には、患者が治療に応答性であることが示されるが、維持期に進行する準備ができていない期間である。その中の時点で、患者の応答は、当業者によって評価される。いくつかの実施形態では、患者の応答は、毎日評価される。他の実施形態では、患者の応答は、週2回評価される。更なる実施形態では、患者の応答は、隔日に評価される。更に他の実施形態では、患者の応答は、初期導入期の終了時に評価される。典型的には、患者の応答は、当業者に既知の技法及び検定を使用して評価され得る。いくつかの実施形態では、患者のMADRSスコアが決定され、初期導入期が終了したかどうかに関する決定として使用される。初期導入期は、望ましくは抑うつ症状の低減を達成するような長さである。いくつかの実施形態では、初期導入期は、約1~約4週間の期間である。他の実施形態では、導入期は、最長約1週間、最長約2週間、最長約3週間、又は最長約4週間の期間である。更なる実施形態では、初期導入期間は、約1~約3週間、約1~約2週間、約2~約4週間、約2~約3週間、約3~約4週間、1週間、2週間、3週間、4週間、最長1週間、最長2週間、最長3週間、又は最長4週間である。初期導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、主治医によって決定され得る。いくつかの実施形態では、初期導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、約28mgである。いくつかの実施形態では、初期導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、約56mgである。他の実施形態では、初期導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、約84mgである。
【0088】
本明細書で使用するとき、用語「週2回」は、1週間(7日)の期間で2回の頻度を指す。例えば、「週2回」は、本明細書においてエスケタミンの投与を指し得る。「週2回」はまた、本明細書で論じられる1つ以上の期において患者を監視する頻度を指し得る。いくつかの実施形態では、週2回は、週の1日目及び2日目である頻度を指す。他の実施形態では、週2回は、週の1日目及び3日目である頻度を指す。更なる実施形態では、週2回は、週の1日目及び4日目である頻度を指す。更に他の実施形態では、週2回は、週の1日目及び5日目である頻度を指す。「1日目」は、日曜日、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、又は土曜日を含む、週の任意の曜日であってもよい。典型的には、エスケタミンの投与に関して、週2回は、週の1日目及び4日目である頻度を指す。誤投与がある限り、その後可能な限り速やかに用量を摂取し、その後所定のレジメンを継続してもよい。
【0089】
いくつかの患者集団(高齢者など)では、初期導入期の間の抑うつ症状の低減は不十分であり、導入期の延長が必要である。延長した初期導入期では、少なくとも週2回の所与の頻度で治療有効量のエスケタミンの継続的投与が実施される。その中の時点で、患者の応答は、当業者によって再度評価される。いくつかの実施形態では、患者の応答は、毎日評価される。他の実施形態では、患者の応答は、週2回評価される。更なる実施形態では、患者の応答は、隔日に評価される。典型的には、患者の応答は、当業者に既知の技法及び検定を使用して評価され得る。いくつかの実施形態では、患者のMADRSスコアが決定され、延長導入期が終了したかどうかに関する決定として使用される。延長導入期は、望ましくは抑うつ症状の実質的な低減を達成する、したがってエスケタミンに対する実質的に完全な応答を達成するような長さである。
【0090】
本明細書で使用するとき、用語「エスケタミンに対する実質的に完全な応答」は、ベースラインから少なくとも50%の改善への、ベースラインからのMADRSスコアの低減を有する患者を指す。いくつかの実施形態では、エスケタミンに対する実質的に完全な応答は、ベースラインから少なくとも50%の改善か、又は患者ベースラインスコアよりも約-20低いかのいずれかのMADRSスコアを有する患者を指す。他の実施形態では、実質的に完全な応答は、MADRSスコアの約-20以下、-19以下、-18以下、-17以下、-16以下、-15以下、-14以下、-13以下、-12以下、-11以下、又は-10以下の低減を含む。更なる実施形態では、実質的に完全な応答は、MADRSベースラインスコアから約-15~約-20の低減を有する患者をもたらす。患者のMADRSスコアが、治療の開始時のMADRSスコアから約50%低減される場合、エスケタミンに対する実質的に完全な応答も得られ得る。そのような実質的に完全な応答は、エスケタミン治療の間の任意の時点で観察され得る。いくつかの実施形態では、患者が治療後4時間でベースラインからのMADRS合計スコアの低減を有するときに、実質的に完全な応答が観察される。他の実施形態では、患者が治療後2日でベースラインからのMADRS合計スコアの低減を有するときに、実質的に完全な応答が観察される。
【0091】
延長導入期は、エスケタミンに対する実質的に完全な応答をもたらす期間である。いくつかの実施形態では、延長導入期は、約1~約8週間である。他の実施形態では、延長導入期は、最長約1週間、最長約2週間、最長約3週間、最長約4週間、最長約5週間、最長約6週間、最長約7週間、又は最長約8週間の期間である。更なる実施形態では、延長導入期間は、約1~約8週間、約1~約7週間、約1~約6週間、約1~約5週間、約1~約4週間、約1~約3週間、約2~約8週間、約2~約7週間、約2~約7週間、約2~約6週間、約2~約5週間、約2~約4週間、約3~約8週間、約3~約7週間、約3~約6週間、約3~約5週間、約4~約8週間、約4~約7週間、約4~約6週間、約5~約8週間、約5~約7週間、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、又は約8週間である。延長導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、主治医によって決定され得る。いくつかの実施形態では、延長導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、約56mgである。他の実施形態では、延長導入期の間に投与されるエスケタミンの有効量は、約84mgである。
【0092】
投与は、導入期に続く最適化/維持期を更に含んでもよく、患者が導入期の間にエスケタミンに対する実質的に完全な応答を達成した後、エスケタミンは、最適化/維持期の間に週2回未満の頻度で投与される。いくつかの実施形態では、最適化期/維持期の間の投与の頻度は、毎週1回、2週間に1回、月1回、又はこれらの組み合わせである。
【0093】
導入期、最適化期、又は維持期のうちの1つ以上の間の任意のステージにおいて、治療に対する患者の応答は、本明細書に記載される技法を使用して評価され得る。この評価は、患者が治療レジメンに対する好適な応答を達成したと当業者によってみなされるまで実施され得る。いくつかの実施形態では、導入期間は、患者のMADRSスコアがベースラインから50%以上、又は約20から約13に低減されたときに完了したと言うことができる。他の実施形態では、患者のMADRSスコアは、約19、約18、約17、約16、約15、約14、又は約13であってもよい。MADRSスコアが12以下を有する患者は、寛解であるとみなされ、4週間安定している場合、維持期に移行又は維持されるべきである。
【0094】
導入期又は延長導入期の終了時に、治療医は、患者を評価して、「維持期」又は「長期療法期」などの任意のそれに続く投与期の投与量及び頻度を最適化するべきである。維持期などの後続投与の間の鼻腔内治療頻度は、導入期又は延長導入期(少なくとも週2回)における頻度から週1回の投与まで、少なくとも4週間にわたって低減されることが予想される。いくつかの実施形態では、維持期などの後続投与は、少なくとも約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約17週間、約18週間、約19週間、約20週間、約6ヶ月、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、約11ヶ月、1年、又は約2年である。いくつかの実施形態では、後続の投与期の間のエスケタミンの継続投与は、少なくとも6ヶ月間である。他の実施形態では、後続の投与期の間のエスケタミンの継続投与は、少なくとも1年である。更なる実施形態では、後続の投与期の間の投与の頻度は、毎週1回、若しくは2週間に1回、又はそれらの組み合わせである。更に他の実施形態では、後続の投与期の間のエスケタミンの投与頻度及び有効量は、安定した寛解又は安定した応答を維持するための最小頻度及び量である。
【0095】
維持期間などの後続投与は、患者の状態に応じてより長い期間を含んでもよい。いくつかの実施形態では、これらのより長い期間は、無期限を含めて、少なくとも約3年、約4年、約5年、約6年、約7年、約8年、約9年、約10年、又は約10年超であってもよい。例えば、TRDと診断された患者の場合、治療は無期限であってもよい。他の実施形態では、治療頻度は、隔週に低減される。更なる実施形態では、治療頻度は、3週間ごとに低減される。更に他の実施形態では、治療頻度は、月1回に低減される。患者は、患者が寛解を達成するか、応答を維持するか、又は治療に失敗するまで予定どおりに維持される。患者が、少なくとも4週間にわたって、週1回の治療で寛解を達成するか又は応答を維持する場合、鼻腔内治療セッションの頻度は、抑うつ症状の重症度に基づいて隔週の維持用量まで減少させることができ、いくつかの患者集団では、治療頻度は、上述のように約3週間又は4週間ごとに1回に低減され得る。
【0096】
当業者であれば、本明細書に記載される維持期は、例えば、うつ病の長期寛解(例えば、うつ病に伴う1つ又は複数の症状の寛解を含む)、通常若しくは発病前のレベルまでの社会的及び/又は職業上の機能改善、又はうつ病の他の既知の尺度によって示されるように、更なる治療が不要となるまで継続してもよいことを理解するであろう。
【0097】
有効量のエスケタミンが、維持期の間に患者に投与される。上述したように、維持期の間に投与されるエスケタミンの量は、導入期に関して上述した組織系内で生体学的反応又は医薬反応を引き起こす量である。特定の実施形態では、有効量のエスケタミンは、導入期において達成したエスケタミンの薬力学的定常状態を維持する量である。他の実施形態では、抑うつ症状が、隔週、3週間ごと、又は4週間ごとの治療を伴って悪化し始める場合、エスケタミンの投与は、患者を安定化させるために増加されることになる。例えば、患者が隔週で投与を受けており、それらの症状が悪化し始める場合、エスケタミンは、維持期の間に応答を維持するために1週間当たり1回投与され得る。再び、維持期中の任意の時点で、患者の応答を再評価することができる。
【0098】
高齢患者では、エスケタミンの推奨用量は、約28~約84mgである。初期用量(第1の治療セッションで)は、約28mgのエスケタミンであることが推奨される。約28mg用量の有効性及び耐容性に基づいて、次の治療セッションにおける用量は、約28mgのままであり得るか、又は約56mgまで増加され得る。約56mg用量の有効性及び耐容性に応じて、後続の治療セッションにおける用量は、約56mgのままであり得るか、又は約84mgまで増加され得るか、又は約28mgまで低減され得る。約84mg用量の耐容性に応じて、後続の治療セッションにおける用量は、約84mgのままであり得るか、又は約56mgまで低減され得る。
【0099】
肝障害患者では、エスケタミンの推奨用量は、約28~約56mgである。初期用量(第1の治療セッションで)は、約28mgのエスケタミンであることが推奨される。約28mg用量の有効性及び耐容性に基づいて、次の治療セッションにおける用量は、約28mgのままであり得るか、又は約56mgまで増加され得る。エスケタミンは、肝臓内で広範に代謝されるため、医師は、薬物耐容性について肝障害患者を定期的に監視すべきである。
【0100】
自殺念慮を有し、差し迫った自殺リスクにある大うつ病性障害を有する患者の治療では、病状の重症度のために投与がより積極的である。この方法は、1つ又は2つの期、すなわち初期導入期、及び任意で特定の状況では維持期中にエスケタミンを投与することを含む。患者の生命に対する差し迫ったリスクのために、エスケタミンの初期用量は、患者が導入期において週2回耐容し得る最高有効量のエスケタミンで投与される。いくつかの実施形態では、患者は、導入期の間のエスケタミンでの療法の開始と同時に、既存の(すなわち、現在開始されている)抗うつ薬による療法を継続する。他の実施形態では、患者は、導入期の間のエスケタミンでの療法の開始と同時に、新たな抗うつ薬での療法が開始される。更なる実施形態では、患者は、導入期の間のエスケタミンでの療法の開始と同時に、以前に投与された抗うつ薬による療法を継続する。抗うつ薬は、患者の状態/健康に適切な様式で、MDDの治療についてラベルに記載されるように投与されるべきである。導入期は、約4~約8週間、約4~約7週間、約4~約6週間、最も好ましくは約4週間であるべきである。導入期の終了時に、患者が治療に適切に応答するか、又は寛解している場合、エスケタミン投与は中止されるべきである。患者は、患者が安定したままである、又は抗うつ薬単独で寛解していることを保証するために監視されるべきである。患者が、エスケタミン及び抗うつ薬の第1の組み合わせで安定しないか、又はエスケタミンの投与を中止した後にエスケタミンと共に開始された抗うつ薬での治療に失敗した場合、第2の導入期が開始されてもよい。
【0101】
第2の導入期では、患者は、最高耐容用量のエスケタミンで、かつ同時に第2の新たな抗うつ薬を用いて再開される。あるいは、患者は、最高耐容用量のエスケタミンで、かつ同時に、以前の導入期の間に使用された同じ抗うつ薬を用いて再開される。エスケタミンは、週2回投与される。抗うつ薬は、患者の状態/健康に適切な様式で、MDDの治療についてラベルに記載されるように投与される。第2の導入期は、約4~約8週間、約4~約7週間、約4~約6週間、最も好ましくは約4週間であるべきである。第2の導入期の終了時に、患者が治療に適切に応答するか、又は寛解している場合、エスケタミン投与を中止すべきであり、患者は、患者が安定したままである/又は抗うつ薬単独で安定した寛解にあることを保証するために監視されるべきである。患者が、安定しないか、又はエスケタミンの投与を中止した後にエスケタミンと共に開始された抗うつ薬での治療に失敗した場合、第3の導入期が開始されてもよい。
【0102】
第3の導入期では、患者は、最高耐容用量のエスケタミンで、及び同時に第3の新たな抗うつ薬を用いて再開される。あるいは、患者は、最高耐容用量のエスケタミンで、及び同時に、第2の導入期の間に使用された同じ抗うつ薬を用いて再開される。エスケタミンは、週2回投与される。抗うつ薬は、患者の状態/健康に適切な様式で、MDDの治療についてラベルに記載されるように投与される。第3の導入期は、約4~約8週間、約4~約7週間、約4~約6週間、最も好ましくは約4週間であるべきである。第3の導入期の終了時に、患者はここでTRD患者として認定されるため、患者はTRDに指定された維持期に進む。本明細書に記載される方法により、うつ病を有する患者又はうつ病にかかりやすい患者に投与するためのエスケタミンの投与量を最適化することが可能になる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、エスケタミン投与量の調整を必要としない。
【0103】
一般に、患者は、最高耐容用量のエスケタミンで、かつ同時に任意の以前の導入期の間に使用された同じ抗うつ薬(患者が安定しなかったか、又はそうでなければ治療に失敗した抗うつ薬を含む)と同時に再開されてもよい。例えば、患者が現在のうつ病性エピソードにおいて少なくとも2種の経口抗うつ薬に応答していない、患者における治療抵抗性うつ病を治療するための方法において、患者は、エスケタミンを単独で、又は第1の導入期において以前に有効でなかった経口抗うつ薬と同じ若しくは異なる第1の経口抗うつ薬と共に、少なくとも週2回エスケタミンを投与されてもよい。患者がエスケタミンに対する実質的に完全な応答を達成できない程度で、患者は、最高耐容用量のエスケタミンを単独で、又は同時に第2の導入期における第1の経口抗うつ薬と同じ若しくは異なる第2の経口うつ薬と共に再開され得る。患者が第2の導入期の間にエスケタミンに対して実質的に完全な応答を達成する程度で、患者は次いで、後続の維持期の間に週2回未満で治療有効量のエスケタミンを投与され得る。
【0104】
本明細書に記載される期のうちのいずれかにおける1又は複数回の(例えば、2回の)用量のエスケタミンが投与されなかった場合、投与頻度レジメンに基づいて可能なときに次の用量が予定される。臨床的判断に従って2つより多くの用量が投与されなかった場合、エスケタミンの用量又は頻度の調整が必要となり得る。
【0105】
好ましい医薬組成物である、有効成分としてのS-ケタミン塩酸塩は、従来の医薬配合技法に従って、医薬担体、好ましくは水と共に十分に混合され、この担体は、投与に望まれる調剤の形態に応じて多種多様な形態をとってもよい。医薬的に許容される好適な担体は、当該技術分野において周知である。これらの医薬的に許容される担体のいくつかの説明は、米国薬剤師会及び英国薬剤師会によって出版されたThe Handbook of Pharmaceutical Excipientsに見出すことができる。
【0106】
医薬組成物を製剤化する方法は、Marcel Dekker,Inc.によって発行されたLiebermanら編のPharmaceutical Dosage Forms:Tablets,Second Edition,Revised and Expanded,Volumes 1-3;Avisら編のPharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Volumes 1-2;及びLiebermanら編のPharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems,Volumes 1-2などの多くの刊行物に記載されている。
【0107】
S-ケタミンの1つの好適な水性製剤は、水及びS-ケタミンを含み、S-ケタミンは、医薬組成物の総体積に基づいて、約25mg/mL~約250mg/mL、好ましくは約55mg/mL~約250mg/mL、若しくは約100mg/mL~約250mg/mLの範囲の量、又はその中の任意の量若しくは範囲で存在する。好ましくは、S-ケタミンは、約150mg/mL~約200mg/mLの範囲の量、又はその中の任意の量若しくは範囲で存在する。より好ましくは、S-ケタミンは、約150mg/mL~約175mg/mLの範囲の量、又はその中の任意の量若しくは範囲で存在する。より好ましくは、S-ケタミンは、約160mg/mL~約163mg/mLの範囲の量、例えば約161.4mg/mLの量で存在する。
【0108】
S-ケタミンの別の好適な水性製剤は水及びS-ケタミンを含み、S-ケタミンは、医薬組成物の総体積に基づいて、約eq.100mg/mL当量~約eq.250mg/mL当量の範囲の量で、又はその中の任意の量若しくは範囲で存在する。好ましくは、S-ケタミンは、約eq.125mg/mL当量~約eq.180mg/mL当量の範囲の量で、又はその中の任意の量若しくは範囲で存在する。より好ましくは、S-ケタミンは、約eq.140mg/mL当量~約eq.160mg/mL当量の範囲の量で、又はその中の任意の量若しくは範囲、例えば、約eq.140mg/mL当量である。
【0109】
本明細書で使用するのに好適な医薬組成物は、好ましくは水性製剤である。本明細書で使用するとき、特に断りがない限り、用語「水性」は、製剤の主要液体成分が水であることを意味するものとする。好ましくは、水は、医薬組成物の液体成分の約80重量%超、より好ましくは約90重量%超、より好ましくは約95重量%超、より好ましくは約98重量%を構成する。
【0110】
本明細書で使用するのに好適な医薬組成物において、組成物の含水量は、組成物の総重量に基づいて、85±14重量%、より好ましくは85±12重量%、更により好ましくは85±10重量%、最も好ましくは85±7.5重量%、特に85±5重量%の範囲内である。
【0111】
本明細書で使用するのに好適な医薬組成物では、好ましくは、組成物の含水量は、組成物の総重量に基づいて、90±14重量%、より好ましくは90±12重量%、更により好ましくは90±10重量%、最も好ましくは80±7.5重量%、特に90±5重量%の範囲内である。
【0112】
本明細書で使用するための別の医薬組成物において、組成物の含水量は、組成物の総重量に基づいて、95±4.75重量%、より好ましくは95±4.5重量%、更により好ましくは95±4重量%、なおもより好ましくは95±3.5重量%、最も好ましくは95±3重量%、特に95±2.5重量%の範囲内である。
【0113】
本明細書で使用するための別の医薬組成物において、組成物の含水量は、組成物の総重量に基づいて、75~99.99重量%、より好ましくは80~99.98重量%、更により好ましくは85~99.95重量%、なおもより好ましくは90~99.9重量%、最も好ましくは95~99.7重量%、特に96.5~99.5重量%の範囲内である。
【0114】
本明細書で使用するための別の医薬組成物では、組成物は、1又は複数種の緩衝剤及び/又は緩衝系(すなわち、共役酸-塩基対)を更に含む。
【0115】
本明細書で使用するとき、用語「緩衝剤」は、水性製剤に添加されるとき、当該製剤のpHを調整する任意の固体又は液体組成物(好ましくは水性液体組成物)を意味するものとする。当業者であれば、緩衝剤が、水性製剤のpHを任意の方向(より酸性、より塩基性、又はより中性のpHに向かって)調整し得ることを認識するであろう。好ましくは、緩衝剤は医薬的に許容されるものである。
【0116】
水性製剤に使用されてもよい緩衝剤の好適な例としては、クエン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸などを挙げてもよいが、これらに限定されない。好ましくは、緩衝剤又は緩衝系は、NaOH、クエン酸、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群から選択される。
【0117】
実施形態では、緩衝剤は、S-ケタミン塩酸塩医薬組成物(例えば、本明細書に記載される水性製剤)のpHを、約pH3.5~約pH6.5の範囲のpH、又はその中の任意の量若しくは範囲に調整するように選択される。好ましくは、緩衝剤は、S-ケタミン塩酸塩組成物のpHを、約pH4.0~約pH5.5の範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲、より好ましくは約pH4.5~約pH5.0の範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲に調整するように選択される。
【0118】
好ましくは、緩衝剤及び緩衝系、好ましくはNaOHの濃度は、それぞれ、十分な緩衝能を提供するように調整される。
【0119】
実施形態では、本開示は、S-ケタミン塩酸塩、水、及び緩衝剤又は緩衝系、好ましくはNaOHを含む医薬組成物に関し、緩衝剤又は緩衝系は、pHが約pH4.0~約pH6.0の範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲のpHを有する製剤を得るのに十分な量で存在する。
【0120】
任意選択で、医薬組成物は、防腐剤を含有していてもよい。本明細書で使用するとき、特に明記しない限り、用語「抗菌防腐剤」及び「防腐剤」は、好ましくは、微生物の分解又は微生物の増殖に対して医薬組成物を保護するために、通常医薬組成物に添加される任意の物質を指す。この点に関して、微生物の増殖は、典型的には必須の役割を果たす。すなわち、防腐剤は、微生物の汚染を回避するという主目的に役立つ。ある側面としては、それぞれ有効成分及び賦形剤に対する微生物のいかなる影響も回避すること、すなわち微生物の分解を回避することが望ましくてもよい。
【0121】
防腐剤の代表的な例としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、セチルピリジニウムクロリド、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、プロピオン酸ナトリウム、チメロサール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、ベンジルパラベン、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
その防腐剤特性により、所望の貯蔵寿命又は使用時の安定性が薬物自体の存在によって達成され得るようにS-ケタミン塩酸塩の含有量が十分に高い場合、本明細書で使用される医薬組成物中の防腐剤は完全に存在しないことが好ましい。好ましくは、これらの状況下で、S-ケタミン塩酸塩の濃度は、少なくともeq.120mg/mL当量、好ましくは約eq.120mg/mL当量~約eq.175mg/mL当量の範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲、より好ましくは約eq.125mg/mL当量~約eq.150mg/mL当量の範囲の量、又はその中の任意の量若しくは範囲、例えば約eq.126mg/mL当量又は約eq.140mg/mL当量である。
【0123】
本明細書で使用される場合、用語「浸透剤(penetration agent)」、「浸透促進剤」、及び「浸透剤(penetrant)」とは、医薬組成物の有効成分(例えば、S-ケタミン塩酸塩)の吸収及び/又は生物学的利用能を増加又は促進する任意の物質を指す。好ましくは、浸透剤は、鼻腔投与後に、医薬組成物の有効成分(例えば、S-ケタミン塩酸塩)の吸収及び/又は生物学的利用能を増加若しくは促進する(すなわち、粘膜を通じた有効成分の吸収及び/又は生物学的利用能を増加又は促進する)。
【0124】
好適な例としては、テトラデシルマルトシド、グリコルコール酸ナトリウム、タウロウルソデオキシコール酸(tauroursodeoxycholic acid、TUDCA)、レシチンなど;及びキトサン(及び塩)、並びに塩化ベンザルコニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル酸ナトリウム、ポリソルベート、ラウレス-9、オキシトキシノール、デオキシコール酸ナトリウム、ポリアルギニンなどの界面活性成分が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、浸透剤は、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)である。
【0125】
浸透剤は、例えば、膜流動性を増加させること、上皮細胞内に一過性の親水性細孔を形成すること、粘液層の粘度を低下させるか、又は密着接合部を開くことを含む、任意の機序を介して作用してもよい。いくつかの浸透剤(例えば、胆汁塩及びフシジン酸誘導体)はまた、膜における酵素活性を阻害し、それによって有効成分の生物学的利用能を向上させてもよい。
【0126】
好ましくは、浸透剤は、以下の一般的な要件のうちの1つ又は2つ以上、より好ましくは全てを満たすように選択される。
(a)有効成分の吸収(好ましくは鼻吸収)を、好ましくは一時的及び/又は可逆的な様式で増加させることにおいて有効である。
(b)薬理学的に不活性である。
(c)非アレルギー性、非毒性、及び/又は非刺激性である。
(d)非常に強力(少量で有効)である。
(e)医薬組成物の他の成分と適合性がある。
(f)無臭、無色、及び/又は無味である。
(g)規制当局によって容認されている。
(h)安価であり、高純度で入手可能である。
【0127】
一実施形態では、浸透剤は、鼻内刺激を伴わずに浸透(S-ケタミン塩酸塩の吸収及び/又は生物学的利用能)を増加させるように選択される。別の実施形態では、浸透剤は、S-ケタミン塩酸塩の吸収及び/又は生物学的利用能を改善するように選択され、更に、均一な投薬有効性を増強するように選択される。
【0128】
実施形態では、本開示は、S-ケタミン及び水を含む医薬組成物に関し、本明細書において、医薬組成物は、抗菌防腐剤を含有せず、医薬組成物は、浸透促進剤、好ましくはTUDCAを更に含有する。
【0129】
別の実施形態では、本開示は、S-ケタミン及び水を含む医薬組成物に関し、本明細書において、医薬組成物は、抗菌防腐剤を含有せず、医薬組成物は、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)を更に含有し、TUDCAは、約1.0mg/mL~約25.0mg/mLの範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲、好ましくは約2.5mg/mL~約15mg/mLの範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲、好ましくは約5mg/mL~約10mg/mLの範囲、又はその中の任意の量若しくは範囲の濃度で存在する。別の実施形態において、本開示は、TUDCAが約5mg/mLの濃度で存在する、医薬組成物に関する。別の実施形態において、本開示は、TUDCAが約10mg/mLの濃度で存在する、医薬組成物に関する。
【0130】
本明細書で使用するための医薬組成物は、1つ又は複数の追加の賦形剤、例えば、湿潤剤、界面活性剤成分、可溶化剤、増粘剤、着色剤、酸化防止剤成分などを更に含有していてもよい。
【0131】
好適な酸化防止剤成分の例としては、使用される場合、以下のもの、すなわち、亜硫酸塩;アスコルビン酸;アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、又はアスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸塩;パルミチン酸アスコルビル;フマル酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はそのナトリウム若しくはカルシウム塩;トコフェロール;没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、又は没食子酸ドデシルなどの没食子酸塩;ビタミンE;及びそれらの混合物のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。酸化防止剤成分は、液体組成物に長期安定性を提供する。酸化防止剤成分の添加は、組成物の安定性を強化及び保証する助けとなり得、40℃で6ヶ月後であっても組成物を安定させる。酸化防止剤成分の好適な量は、存在する場合、組成物の総重量の約0.01重量%~約3重量%、好ましくは約0.05重量%~約2重量%である。
【0132】
可溶化剤及び乳化剤は、液体担体に概ね可溶性ではない有効成分又は他の賦形剤のより均一な分散を促進するために含まれ得る。好適な乳化剤の例としては、使用される場合、例えば、ゼラチン、コレステロール、アカシア、トラガカント、ペクチン、メチルセルロース、カルボマー、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。好適な可溶化剤の例としては、ポリエチレングリコール、グリセリン、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリサミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0133】
好ましくは、可溶化剤は、グリセリンを含む。可溶化剤又は乳化剤は、一般に、担体中の有効成分、すなわちS-ケタミンを溶解又は分散させるのに十分な量で存在する。可溶化剤又は乳化剤が含まれる場合の典型的な量は、組成物の総重量の約1重量%~約80重量%、好ましくは約20重量%~約65重量%、より好ましくは約25重量%~約55重量%である。
【0134】
好適な等張化剤としては、使用される場合、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、グルコース、及びそれらの混合物が挙げられる。含まれる場合、等張化剤の好適な量は、典型的には、組成物の総重量の約0.01重量%~約15重量%、より好ましくは約0.3重量%~約4重量%、より好ましくは約0.5重量%~約3重量%である。
【0135】
例えば、鼻内滞留時間を増加させるために、懸濁剤又は増粘剤を医薬組成物に添加することができる。好適な例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、微結晶セルロース、カルボマー、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、キトサン塩、ジェランガム、ポロキサマー、ポリビニルピロリドン、キサンタンガムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
有利なことに、エスケタミンは、単回の1日用量で投与されてもよく、又は全1日用量は、1日2回、3回、若しくは4回、好ましくは1日2回の分割用量で投与されてもよい。典型的には、分割投与は、時間をより短くして行う必要がある。いくつかの実施形態では、分割用量は、互いに約20分以内、約15分以内、約10分以内、約5分以内、約4分以内、約3分以内、約2分以内、約1分以内、又はそれより短いうちに投与される。追加として、柔軟な投与レジメンでは、患者は毎日、週2回、週1回、隔週1回、又は月1回投与され得る。例えば、エスケタミンの1用量が1日目に投与され、エスケタミンの別の用量が2日目に投与されるか、又はエスケタミンの1用量が1日目に投与され、エスケタミンの別の用量が3日目に投与されるか、又はエスケタミンの1用量が1日目に投与され、エスケタミンの別の用量が4日目に投与されるか、又はエスケタミンの1用量が1日目に投与され、エスケタミンの別の用量が5日目に投与される。更に、エスケタミンは、好ましくは、鼻噴霧ポンプなどの好適な鼻腔内ビヒクルの局所使用を介して鼻腔内形態で投与される。
【0137】
代表的な点鼻スプレー装置は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,321,942号に開示されている。例えば、連続した部分排出量を噴霧として排出するための使い捨て噴霧器を利用して、本明細書に開示される方法を実行することができる。典型的には、そのような装置は、2回の連続するストロークで患者の両方の鼻孔に薬剤を噴霧することを可能にする。容器は、薬剤が媒体容器から排出される、そのまますぐに使用できるものであってもよい。装置は、典型的には、第1の排出ストロークを第2の排出ストロークから分離して、単一の動きで媒体容器を完全に空にすることを防止することができる。装置は、単回使用後に廃棄され、高い投与精度及び信頼性で個々の部分排出を可能にする、2回ストロークの使い捨てポンプの形態をとることができる。
【0138】
一実施形態では、鼻噴霧装置は、合計28mgのエスケタミンを2回の噴霧(鼻孔当たり1回噴霧)で送達する単回使用装置である。装置は、医療専門家の監督下で患者によって操作されてもよい。投与量に関して、1つの装置が28mg用量に使用されるか、2つの装置が56mg用量に使用されるか、又は3つの装置が84mg用量に使用されてもよい。また、各装置の使用の間に5分の間隔を有することが好ましい。実施例1に記載されるように、時間0は、第1の鼻腔内装置からの一方の鼻孔への最初の鼻腔内噴霧の投与の時間として定義される。
【0139】
本明細書で使用するとき、AD=抗うつ薬、ESK=エスケタミン鼻噴霧、PHQ-9=患者アドヒアランス質問票、SDS=シーハン障害尺度、CGI-S=臨床全般印象評価-重症度、MADRS=Montgomery-Åsbergうつ病評価尺度、SD=標準偏差、C-SSRS=コロンビア自殺重症度評価尺度、MDD=大うつ病性障害、MGH-ATRQ=Massachusetts General Hospital-抗うつ薬治療歴質問票、TRD=治療抵抗性うつ病。
【0140】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために記載するものであり、本明細書に付属する「特許請求の範囲」に記載される発明をいかなる意味においても限定することを目的としたものではなく、またそのように解釈されるべきではない。
【実施例
【0141】
これは、TRDを有する対象における鼻腔内エスケタミン+新たに開始された経口抗うつ薬の有効性を評価するための、非盲検、多施設、長期試験である(ESKETINTRD3002/NCT02418585)。
【0142】
治験薬情報
エスケタミンは、鼻噴霧ポンプにおいて、エスケタミン塩酸塩の無色透明な鼻腔内溶液として供給された(16.14重量/体積%[w/v]、14%w/vのエスケタミン塩基に相当)。溶液は、注射用水中0.12mg/mLのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び1.5mg/mLのクエン酸(pH4.5)に配合された161.4mg/mLのエスケタミン塩酸塩(140mgのエスケタミン塩基に相当)から構成された。点鼻スプレーポンプで提供され、ポンプは、100-μL噴霧当たり16.14mgエスケタミン塩酸塩(14mgエスケタミン塩基)を送達した。各個々の点鼻スプレーポンプ(装置)は、合計28mg(すなわち、2回分の噴霧液)を含有していた。
【0143】
プラセボ溶液は、注射用水の無色透明な鼻腔内溶液として供給され、苦味剤(最終濃度0.001mg/mLの安息香酸デナトニウム[Bitrex(登録商標)])を添加して、活性薬物を含む鼻腔内溶液の味をシミュレートした。プラセボ溶液は、一致する点鼻スプレーポンプ装置で提供された。塩化ベンザルコニウムを、防腐剤として0.3mg/mLの濃度で添加した。各個々の点鼻スプレーポンプ(装置)は、2回分の噴霧液を収容していた。
【0144】
鼻腔内治験薬
表1は、各鼻腔内治療セッションがどのように投与されたかを記載する。
【0145】
【表1】
【0146】
1日目に、鼻腔内エスケタミンに無作為化された対象は、56mgの用量で開始した。4日目に、用量を84mgに増加させるか、又は56mgのままとした。8日目に、用量を84mgに増加させ(4日目の用量が56mgであった場合)か、同じままであるか、又は56mgに減少させた(4日目の用量が84mgであった場合)。11日目に、用量を、84mgに増量させ(8日目の用量が56mgの場合)、同じままであるか、又は56mgに減少させた(8日目の用量が84mgの場合)。15日目に、耐容性の点から必要な場合には、84mgから56mgへの用量低減が許された。15日目の用量増加は許されなかった。15日目以降、用量は安定したままであった(変更されなかった)。
【0147】
経口抗うつ薬
デュロキセチン30mg、エスシタロプラム10mg、セルトラリン50mg及び25mg、並びにベンラファキシン75mg及び37.5mgを市販品から入手した。
【0148】
治療持続期間/治験持続期間
各対象は、最大4つの期に参加した:最長4週間のスクリーニング期(直接参入対象のみ)、4週間の非盲検導入(IND)期(直接参入対象及び編入非応答者対象)、48週間の非盲検の最適化/維持(OP/MA)期(現在の試験の非盲検IND期からの全ての応答者対象、及び編入応答者対象)、及び4週間のフォローアップ期。ESKETINTRD3004試験における対象の参加の最大持続期間は、直接参入対象については60週間であり、編入非応答者対象については56週間、及び編入応答者対象については52週間であった。750のサンプルサイズは、少なくとも300人の対象が鼻腔内エスケタミンで6ヶ月間、少なくとも100人の対象が12ヶ月間の治療を受けると推定された。更に、編入対象を3005試験から登録して、100人のエスケタミンを投与された高齢の対象を得た。試験計画については、図1を参照されたい。
【0149】
有効性の解析対象集団
有効性分析は、最大の(IND)解析対象集団及び最大の(OP/MA)解析対象集団に基づくものである。最大の(IND)解析対象集団は、(直接参入及び編入非応答者対象について)非盲検IND期に少なくとも1用量の鼻腔内治験薬又は1用量の経口抗うつ薬を受ける全ての対象として定義される。最大の(OP/MA)解析対象集団は、OP/MA期に少なくとも1用量の鼻腔内治験薬又は1用量の経口抗うつ薬を受ける全ての対象として定義される。有効性変数には、中核となる抑うつ症状の全てを網羅する10項目から成るMADRSが含まれ、各項目は、0(症状が存在しないか、又は正常である)~6(重度又は症状の継続的な存在)で採点される。全10項目のスコアを加算することによって合計スコア(0~60)を計算した。スコアが高いほど、より重度の状態であることを示す。
【0150】
対象及び治療情報
MDDのDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,5 th Edition)診断を有する802人の対象を登録した。802人の登録対象のうち、691人が直接参加対象であり、111人が研究ESKETINTRD3005からの編入対象であった。最大の(IND)解析対象集団におけるTRD3005試験からの779人の直接参入又は編入非応答者対象のうち、580人(74.5%)はIND期を完了した。OP/MA期に入った603人の対象のうち、150人(24.9%)がOP/MA期を完了した。合計357人の対象が、フォローアップ期に入り、326人(91.3%)が、フォローアップ期を完了した。
【0151】
802人の登録された対象のうち、1人の対象は、鼻腔内治験薬を受けなかったが、経口ADを受け、1人の対象は、鼻腔内治験薬を受けたが、経口ADを受けなかった。これらの対象は、全ての登録された解析対象集団に含まれる。表2及び表3を参照されたい。
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
対象は、最初の2週間に可変用量の鼻腔内ESKを受け、続いて固定用量(高齢の対象のみにおいて28mg、全ての年齢群において56mg又は84mg)+新たに開始された経口抗うつ薬(セルトラリン、エスシタロプラム、ベンラファキシンXR、又はフルオキセチン)を受けた。エスケタミンは、INDの間に週2回投与された。OP/MAでは、週1回の投与は、5~8週目で行われた。OP/MA期の9~52週目に、エスケタミンは、寛解を維持するために最も低い頻度を有することを目的としたMADRSスコアに応じて週1回又は隔週で投与された。隔週の治療に切り替えること(合計MADRSスコアが≦12であった場合)又は週1回の治療に戻ること(合計MADRSスコアが>12であった場合)は、8週目から開始して4週間の間隔で可能であった。15日目(<65歳の患者)又は18日目(≧65歳の患者)から、エスケタミン鼻噴霧の用量は同じままであった。用量漸増の初期期間後、経口抗うつ薬の用量は同じままであった。両薬剤とも忍容性に基づく用量低減が許可された。全ての登録された解析対象集団のベースライン精神病歴を表4に提示する。
【0155】
【表4-1】
【0156】
【表4-2】
【0157】
曝露の程度
IND期の間の鼻腔内治験薬の用量の数を表5に要約する。
【0158】
【表5】
【0159】
IND期の間の鼻腔内治験薬の平均、最頻、及び最終用量の要約を、表6に要約する。IND期の25日目に、675人中28人(4.1%)は、28mg用量のエスケタミンを受け、675人中298人(44.1%)は、56mg用量のエスケタミンを受け、675人中349人(51.7%)は、84mg用量のエスケタミンを受けていた。
【0160】
【表6】
【0161】
IND期及びOP/MA期の組み合わせの間の鼻腔内治験薬への曝露の程度を表7に要約する。
【0162】
【表7】
【0163】
エスケタミンへの6ヶ月及び12ヶ月の曝露を伴う対象の頻度を表8に示す。
【0164】
【表8】
【0165】
OP/MA期の間の鼻腔内治験薬の平均、最頻、及び最終用量の要約を、表9に要約する。
【0166】
【表9】
【0167】
OP/MA期の48週目に、143人中7人(4.9%)、143人中69人(48.3%)、143人中1人(0.7%)、及び143人中66人(46.2%)は、それぞれ28mg用量、56mg用量、70mg用量、及び84mg用量のエスケタミンを受けていた。4週目(OP/MA)から開始すると、鼻腔内治療セッション頻度は、固定された4週間の間隔で(適用可能であれば)調整することができた。OP/MA期の間に鼻腔内エスケタミンで治療された603人の対象のうち、275人(47.6%)の対象は、4週目(OP/MA)に週1回から隔週に切り替えた。表10を参照されたい。
【0168】
【表10】
【0169】
表11は、OP/MA期の間の投与レジメンの変化を示す。
【0170】
【表11】
【0171】
有効性解析
有効性分析は、それぞれの期において、少なくとも1用量の鼻腔内治験薬又は1用量の経口抗うつ薬治験薬を受けた全ての登録された対象を含む、IND期及びOP/MA期の最大の解析対象集団に対して実施した。
【0172】
Montgomery-Asbergうつ病評価尺度(MADRS)
MADRS合計スコアのベースライン(IND)からエンドポイント(IND)までの平均変化(SD)は、エスケタミン+経口ADについて-16.4(8.76)であった。MADRS合計スコアにおけるベースライン(OP/MA)からエンドポイント(OP/MA)までの平均変化は、エスケタミン+経口ADについて0.3(8.12)であった。図2を参照されたい。
【0173】
応答率(MADRS合計スコアにおけるベースライン(IND)からの≧50%改善)及び寛解率(MADRS合計スコアは≦12である)を、IND期及びOP/MA期について、それぞれ表12及び表13に提示する。
【0174】
IND期のエンドポイントでは、応答率は78.4%であり、寛解率は47.2%であった。OP/MA期に進む応答者のうち、エンドポイントで76.5%は応答者であり、58.2%は寛解者であった。SDSによって測定された機能回復に続き、気分の改善後にいくらかの遅延時間があった。INDのエンドポイントにおいて、寛解率は、IND期のエンドポイントにおいてSDSにより測定された(21.1%、観測症例)。寛解率は、OP/MA期を通して倍増した(4週目の25.2%から48週目の51.1%、観測症例)。図3を参照されたい。
【0175】
【表12】
【0176】
【表13】
【0177】
患者の健康質問(PHQ-9)合計スコア
PHQ-9合計スコアのベースライン(IND)からエンドポイント(IND)までの平均変化(SD)は、エスケタミン+経口ADについて-8.9(6.67)であった。PHQ-9合計スコアのベースライン(OP/MA)からエンドポイント(OP/MA)までの平均変化は、エスケタミン+経口ADについて-0.2(5.65)であった。図4を参照されたい。
【実施例
【0178】
静脈血の試料を、実施例1に記載された対象及び本明細書で参照される他の臨床試験からの患者及び健康な対照対象から得た。血清又は血漿を静脈血の試料から調製した。ヒトCRP及びIL-6-Rの測定を、キット#K151STD及びK151ALC(MesoScale Discovery,Rockville,MD)と共にMSD Sector 6000を用いて血清中で行った。ヒトTNFαを、キット#143(Quanterix,Lexington,MA)と共にSimoa HD-1分析装置を使用して血清中で定量した。全ての測定を、キット製造業者の推奨に従って実施した。
【0179】
以下のバイオマーカーアッセイ分析において使用される場合、治療(TRT)とは、鼻腔内エスケタミン+任意で経口抗うつ薬による治療を指し、プラセボ(PBO)とは、プラセボ+任意で経口抗うつ薬による治療を指す。
【0180】
以下のバイオマーカーサインを使用した。
3MM:CRP>3mg/L and(TNFα>4pg/mL or sIL6R>25ng/mL)によって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン。
2MM:CRP>3mg/L及びsIL6R>25ng/mLによって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン。
CRP:CRP>3mg/L/によって定義される陽性状態を有する炎症性バイオマーカーサイン。
【0181】
3MMサインを、治療抵抗性MDD(TRD)及び自殺念慮を伴うMDD(SUI)を含む補助的MDDについての臨床試験で試験した。臨床試験にわたる3MMの効果を図5に示す。有意性は、エスケタミン(ESK)TRD試験によって駆動された。エスケタミンTRDは、高炎症生物型((「CRP」>3mg/L及び(TNFα>4pg/mL又はsIL6R>25ng/mL))に関して最も堅牢な効果を示す。自殺念慮(SUI)を伴うエスケタミン試験では、ベースラインでの3MM状態は、治療効果を予測しなかった。エスケタミンTRD試験では、名目上有意な(事後、多重検定について補正なし)分化が見られた(図6参照)。色は被験者のnの範囲を表し、形状はp値を表し、灰色の網掛け領域は3ポイント未満のMADRS変化を示す。
【0182】
エスケタミンTRD試験全体で、バイオマーカーサイン陽性対象における有意に大きな治療効果は、4つの試験のうち3つで明らかであった:3MMバイオマーカーサイン陽性対象(TEサイン陽性図6の左パネル)は、二重盲検治療の終了時にプラセボに対して7.8MADRSポイント改善し、バイオマーカーサイン陰性対象(TEサイン陰性図6の中央パネル)よりも有意に大きい(p<0.01)治療効果であり、バイオマーカーサイン陰性対象は、2MADRSポイントしか改善せず、サブタイプ間で5.8ポイントの差が生じた(Signature advantage、図6の右パネル)。MADRSの11.69ポイントの変化という大きな治療効果は、バイオマーカーサイン陽性の日本人患者(nは小さいが、図7A)におけるTRD2003でも見られたのに対して、バイオマーカーサイン陰性の日本人患者では2.83ポイントであった(図7B)。
【0183】
TNFαを除去し、CRP及びsIL6Rのみを考慮することによって3MMを2MMに減少させた場合、同じ傾向が試験全体にわたって観察された。以下の2MM解析及びCRP解析には、シルクマブ(CNTO136MDD2001)、アチカプラント(67953964MDD2001)、及びセルトレキサント(42847922MDD2001及びNCT03321526)の投与を含む臨床試験CNTO136MDD2001、67953964MDD2001、42847922MDD2001、及び42847922MDD2002も含まれる。バイオマーカーサイン陽性群(図8A及び図8Bの左パネル)における全体的な効果は、2MMでのバイオマーカーサイン陰性群(図8A及び図8Bの中央パネル)における1.1ポイント及び3MMでの1.0ポイントと比較して、2MMでの全試験にわたるMADRSにおける4.2ポイントの改善(図8A)対3MMでの4.6ポイント(図8B)であり、2MMでの3ポイント対3MMでの3.6ポイントのサインの利点(図8A及び図8Bの右パネル)が生じる。したがって、モデルにTNFαを含めると、バイオマーカーサイン効果を最適化し、また、より多くのnの患者も捕捉する。図8Aでは、TRD2003及びTRD2003は、各研究における1人の個体の同一性を反転させるため、有意ではなくむしろ傾向にある。
【0184】
モデルをCRPレベルのみに低下させた場合、3MM又は2MMで観察された治療効果はより弱く、より変動しやすい。バイオマーカーサイン陽性群(図9の左パネル)における全体的な効果は、CRPのみのバイオマーカーサイン陰性群(図9の中央パネル)における1.2ポイント及び3MMでの1.0ポイントと比較して、CRPのみを用いた全試験にわたるMADRSにおける3.5ポイント(図9)対3MMを用いた4.6ポイント(図8B)の改善であり、CRPのみでのわずか2.3ポイント対3MMでの3.6ポイントのサインの利点(図9の右パネル)が生じる。したがって、単一マーカー(CRP)は、マーカーの組み合わせを使用するほど堅牢ではない。図9では、TRD3002は、3MMと比較して20人の対象のメンバーシップの違いのため傾向になっている。
【0185】
上記の明細書は、説明を目的として与えられる実施例と共に本発明の原理を教示するものであるが、本発明の実施には、以下の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内に含まれる全ての通常の変形例、適合例及び/又は改変例が包含される点が理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
【国際調査報告】