IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 深▲セン▼鈞興生物科技有限公司の特許一覧

<>
  • 特表-細胞の輸送方法 図1
  • 特表-細胞の輸送方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】細胞の輸送方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
C12N1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541227
(86)(22)【出願日】2023-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-08
(86)【国際出願番号】 CN2023140565
(87)【国際公開番号】W WO2024140406
(87)【国際公開日】2024-07-04
(31)【優先権主張番号】202211673559.1
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524258668
【氏名又は名称】深▲セン▼鈞興生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN JUNXING BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 602, No. 27, Zone 2, Donglong New Village, Shangfen Community, Minzhi Street, Longhua District, Shenzhen, Guangdong 518110 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】杜 明春
(72)【発明者】
【氏名】曲 康寧
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BC46
4B065BD15
(57)【要約】
【要約】
本発明は、バイオテクノロジーに関するものであり、特に細胞の輸送方法に関する。本発明は、細胞を材料と混合した後常温で直接輸送することができ、または細胞を材料と混合して三次元培養を行った後常温で輸送することもでき、輸送中、細胞は80%以上の高い生存率を維持し、輸送後、細胞/材料混合物を直接使用することができるか、または細胞を分離して使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)生体材料水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、適量の生体材料水溶液を吸引し、細胞と均一に混合する工程、
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を細胞培養液で輸送する工程、
(4)工程(3)で輸送されたハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離する工程を順次含むことを特徴とする
細胞の輸送方法。
【請求項2】
(1)生体材料水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、適量の生体材料水溶液を吸引し、細胞と均一に混合する工程、
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を細胞培養液に置き、細胞インキュベーターで三次元細胞培養を行う工程、
(4)工程(3)で培養されたハイドロゲル構造を細胞培養液で輸送する工程、
(5)工程(4)で輸送されたハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離する工程を順次含むことを特徴とする
細胞の輸送方法。
【請求項3】
前記生体材料は、ポロキサマー、コラーゲン、ペプチド系材料、キトサンおよびその誘導体、デンプン系材料、血清アルブミン、クルペイン、ポリリシン、カルボマー、ポリメタクリル酸、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリアクリルアミド、アクリル酸、ゼラチンおよびその誘導体、ヒアルロン酸、ゲランガム、ポリビニルアルコール、フィブリノーゲン、ケラチン、フィブロネクチン、還元ケラチン、セルロース系材料、アルギン酸塩およびその誘導体、キシランのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする
請求項1または2に記載の細胞の輸送方法。
【請求項4】
前記生体材料の濃度は0.001~20wt.%の範囲であることを特徴とする
請求項3に記載の細胞の輸送方法。
【請求項5】
工程(1)において、生体材料水溶液中の細胞の密度は1×10~1×10個/mLの範囲であることを特徴とする
請求項1または2に記載の細胞の輸送方法。
【請求項6】
工程(3)において、三次元細胞培養の時間は3~30日間の範囲であることを特徴とする
請求項2に記載の細胞の輸送方法。
【請求項7】
細胞の輸送中の温度制御は4~37℃の範囲であることを特徴とする
請求項1または2に記載の細胞の輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーに関するものであり、特に細胞を輸送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞治療は、安全で効果的な治療法として、細胞の採取、培養増幅、遺伝子改変、細胞輸注/移植治療などの段階にかかわる免疫疾患、癌、遺伝病などの臨床研究に広く用いられている。各段階の実施場所や時間が一致していないため、多くの場合、治療に用いられる細胞を異なる場所間で時間通りに輸送する必要がある。細胞治療の成否を左右する重要な要因の一つは、細胞の輸送を効率的に解決することである。
【0003】
現在、細胞の輸送方法には主に凍結保存輸送と液体充填常温輸送の2種類がある。このうち、凍結保存輸送では、細胞を凍結後、液体窒素やドライアイスを満たした特殊な容器に入れて行われるものであり、保存効果は高いが、手順が複雑で長時間の輸送には適さず、一般的に空輸が用いられ、コストが高くなり、液体充填常温輸送は、細胞が接着した培養フラスコを細胞培養液で充填して行われるものであり、簡便で実用的であるが、輸送中、培養液が湧き起ることで細胞が剥離されやすくなり、細胞の活性に重大な影響を及ばす。
【0004】
そのため、低コストで簡単かつ容易に実施でき、輸送中の細胞の活性にほとんど影響を与えない細胞の輸送方法が急務とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的課題は、低コストで簡単かつ容易に実施でき、輸送中の細胞の活性にほとんど影響を与えない細胞の輸送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)生体材料水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、適量の生体材料水溶液を吸引し、細胞と均一に混合する工程、
【0007】
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
【0008】
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を細胞培養液で輸送する工程、
【0009】
(4)工程(3)で輸送されたハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離する工程を順次含むことを特徴とする、細胞の輸送方法である。
【0010】
(1)生体材料水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、適量の生体材料水溶液を吸引し、細胞と均一に混合する工程、
【0011】
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
【0012】
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を細胞培養液に置き、細胞インキュベーターで三次元細胞培養を行う工程、
【0013】
(4)工程(3)で培養されたハイドロゲル構造を細胞培養液で輸送する工程、
【0014】
(5)工程(4)で輸送されたハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離する工程を順次含む細胞の輸送方法である。
【0015】
本発明は、各方法における生体材料が、ポロキサマー、コラーゲン、ペプチド系材料、キトサンおよびその誘導体、デンプン系材料、血清アルブミン、クルペイン、ポリリシン、カルボマー、ポリメタクリル酸、ポリN-イソプロピルアクリルアミド、ポリアクリルアミド、アクリル酸、ゼラチンおよびその誘導体、ヒアルロン酸、ゲランガム、ポリビニルアルコール、フィブリノーゲン、ケラチン、フィブロネクチン、還元ケラチン、セルロース系材料、アルギン酸塩およびその誘導体、キシランのうち少なくとも1つを含む細胞の輸送方法である。
【0016】
本発明は、各方法において、生体材料の濃度は0.001~20wt.%の範囲である細胞の輸送方法である。
【0017】
本発明は、各方法の工程(1)において、生体材料水溶液中の細胞の密度が1×10~1×10個/mLの範囲である細胞の輸送方法である。
【0018】
本発明は、方法において、三次元細胞培養の時間が3~30日間の範囲である細胞の輸送方法である。
【0019】
本発明は、各方法において、細胞の輸送中の温度制御が4~37℃の範囲である細胞の輸送方法である。
【0020】
本発明は、各方法において、細胞生存率は70%以上100%以下であり、好ましくは、80%以上95%以下である細胞の輸送方法である。
【0021】
本発明は、各方法において、細胞の輸送後に材料を除去することなく、細胞含有ハイドロゲル構造を直接使用することができる細胞の輸送方法である。
【0022】
本発明の細胞の輸送方法は、従来の技術と比較して、穏やかな条件下で細胞を生体材料で内包することによって三次元ハイドロゲル構造を形成し、ハイドロゲルを細胞培養液に浸漬して輸送を行い、輸送後、生体材料を穏やかに除去して細胞分離を達成することができ、低コストで簡単かつ容易に実施でき、輸送中の細胞の活性にほとんど影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】は、実施例1のハイドロゲル構造における輸送前後の細胞の生/死細胞の染色の効果の図(図1Aは輸送前のサンプル、図1Bは輸送後のサンプル)である。
図2】は、実施例2のハイドロゲル構造における輸送前後の細胞の生/死細胞の染色の効果の図(図2Aは輸送前のサンプル、図2Bは輸送後のサンプル)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施例1
本実施例は、
(1)1%ポロキサマーと1%コラーゲンを含む生体材料の水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、1mL吸引してマウス大動脈血管平滑筋細胞と均一に混合し、細胞密度を1×10個/mLにする工程、
【0025】
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
【0026】
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を10%ウシ胎児血清を含む高糖DMEM細胞培地に入れて、常温で輸送する工程、
【0027】
(4)工程(3)で輸送後5日経過したハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離し、細胞生存率が90%になる工程を順次含む細胞の輸送方法である。
【0028】
ハイドロゲル構造内の細胞は、細胞の輸送前後に、AO/PI二重染色試薬を用いて、それぞれ生/死細胞として標識され、DAPI試薬を用いて、細胞核を標識し、蛍光顕微鏡の観察により細胞の生存率を記録した。このうち、アクリジンオレンジ(Acridine Orange、略称:AO)は完全な細胞膜を通過し、すべての細胞(生細胞と死細胞)の細胞核に取り込まれ、緑色の蛍光を発し、ヨウ化プロピジウム(Propidium iodide、略称:PI)は、不完全な細胞膜、すなわち死細胞の細胞膜のみを通過し、すべての死細胞の細胞核に取り込まれ、赤色の蛍光を発し、DAPIは、細胞膜を通過し、二本鎖DNAに結合し、青色の蛍光を発した。試験の結果は図1に示されている。試験から、細胞は輸送前後においてハイドロゲル構造内で大量の緑色の蛍光シグナルを示し、細胞は高い生存率を維持していることが明らかになった。
【0029】
実施例2
(1)5%ポリアクリルアミドと0.1%ポリリジンを含む生体材料水溶液を、4℃の冷蔵庫から取り出し、2mL吸引して、ヒト臍帯静脈内皮細胞と均一に混合し、細胞密度を1×10個/mLにする工程、
【0030】
(2)工程(1)の細胞/材料混合物を37℃に置き、細胞を内包するハイドロゲル構造を形成する工程、
【0031】
(3)工程(2)のハイドロゲル構造を10%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640細胞培地に入れて、細胞インキュベーターで三次元細胞培養を行い、培養時間を10日間にする工程、
【0032】
(4)工程(3)のハイドロゲル構造を10%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640細胞培地に入れて、37℃で輸送する工程、
【0033】
(5)工程(4)で輸送後3日経過したハイドロゲル構造を4℃に置き、材料を除去し、細胞を遠心分離することにより分離し、細胞生存率が80%になる工程を順次含む細胞の輸送方法である。
【0034】
本発明の細胞の輸送方法において、工程(3)の三次元細胞培養の時間は10日間に加えて、3から30日間の任意の期間を選択することができる。
【0035】
実施例2は、工程(2)でハイドロゲル構造を細胞培養液に入れて輸送する前に、まず細胞培養液に入れて細胞インキュベーターで三次元細胞培養を行うことが実施例1と異なる点である。細胞の輸送前に三次元細胞培養を行うどうかは、主に次の2つの点から考慮して選択する。
【0036】
1.ハイドロゲル構造内に内包された細胞の密度が輸送後の使用過程に必要な細胞の需要を満たすことができるかどうか。輸送前の細胞密度が輸送後の実際の細胞の需要を満たすことができれば、細胞は輸送前に三次元細胞培養を行わずに、輸送後に直接使用することができ、輸送前の細胞密度が輸送後の実際の細胞の需要を満たすことができなければ、細胞は輸送前に三次元細胞培養を行い、ハイドロゲル構造内の増殖挙動によりハイドロゲル構造内の細胞密度を増加させることによって、輸送後に直接使用して、実際の細胞の需要を満たすことができる。
【0037】
2.輸送後の場合、使用中の細胞の生存率に対する要求。輸送後、細胞の生存率に対する要求が高くない場合、例えば本発明における細胞生存率が70%の場合、細胞は、輸送前に三次元細胞培養を行う必要がなく、ハイドロゲル構造は、主に細胞の輸送のための三次元物理的支持を与え、細胞の増殖に適した微小環境を与えないため、輸送中の細胞の生存率に影響を与えなく、輸送後、細胞の生存率に対する要求が高い場合、例えば本発明はにおける細胞生存率が95%の場合、細胞は、輸送前に三次元細胞培養を行い、培養中に増殖し続け、また、細胞外マトリックスを分泌し続け、細胞の増殖に適した微小環境を構築するため、輸送中に細胞の高い生存率を維持するのに有利であって、ただし、三次元細胞の培養時間の長さは、異なる細胞の培養環境、細胞の増殖状態、細胞の所期の生存率、輸送後の細胞の使用形態などの要因に関連しており、異なる使用要件に応じて適切な培養時間を選択する。
【0038】
ハイドロゲル構造内の細胞は、細胞の輸送前後に、AO/PI二重染色試薬を用いて、それぞれ生/死細胞として標識され、DAPI試薬を用いて、細胞核を標識し、蛍光顕微鏡の観察により細胞の生存率を記録した。このうち、アクリジンオレンジ(Acridine Orange、略称:AO)は完全な細胞膜を通過し、すべての細胞(生細胞と死細胞)の細胞核に取り込まれ、緑色の蛍光を発し、ヨウ化プロピジウム(Propidium iodide、略称:PI)は、不完全な細胞膜、すなわち死細胞の細胞膜のみを通過し、すべての死細胞の細胞核に取り込まれ、赤色の蛍光を発し、DAPIは、細胞膜を通過し、二本鎖DNAに結合し、青色の蛍光を発した。試験の結果は図2に示されている。試験から、細胞は輸送前後においてハイドロゲル構造内で大量の緑色の蛍光シグナルを示し、細胞は高い生存率を維持していることが明らかになった。
【0039】
本発明は、穏やかな条件下で細胞を生体材料で内包することによって三次元ハイドロゲル構造を形成し、ハイドロゲルを細胞培養液に浸漬して輸送を4~37℃で行い、輸送後に、生体材料を穏やかに除去して細胞分離を(または、材料を除去せずに、細胞含有ハイドロゲル構造を直接使用する)達成することができる細胞の輸送方法であり、この方法は、低コストで簡単かつ容易に実施でき、輸送中の細胞の活性にほとんど影響を与えなく、試験から、細胞の輸送中の温度制御範囲を4~37℃に維持することを前提として、この方法による輸送後に、細胞の生存率が80%以上95%以下であることが確認された。
【0040】
以上の実施例は、本発明の好ましい実施形態の説明に過ぎず、本発明の設計の趣旨から逸脱することなく、当業者によって本発明の技術的解決策に対してなされる様々な変形および改良は、すべて本発明の特許請求の範囲によって決定される保護範囲に含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、低コストで簡単かつ容易に実施でき、輸送中の細胞の活性にほとんど影響を与えなく、細胞の治療に適用することが可能である細胞の輸送方法であって、細胞治療手段を免疫疾患、癌、遺伝病などの分野で円滑に実施するように成功させるための鍵となる。
図1
図2
【国際調査報告】