(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】強化保護層用のコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20250117BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250117BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250117BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20250117BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20250117BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20250117BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20250117BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20250117BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D163/00
C09D133/14
C09D167/00
C09D175/04
C09D5/00 D
C23C26/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024541606
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2023050986
(87)【国際公開番号】W WO2023135327
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500286643
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッセル,ピーター
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038CH121
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG001
4J038HA066
4J038HA196
4J038HA216
4J038HA276
4J038HA286
4J038HA406
4J038HA476
4J038JB32
4J038JC02
4J038JC38
4J038JC40
4J038NA03
4J038PA06
4J038PA19
4J038PC02
4K044AA06
4K044BA11
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系と、b)樹脂系の固形分重量を基準として少なくとも1.3重量%のリチウムの量の、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される、20℃で0.01~120g/Lの範囲の水への溶解度を有するリチウム塩と、c)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩とを含むコーティング組成物に関する。DMTDの亜鉛塩は、コーティング組成物中のリチウム塩の存在に起因してコーティング欠陥に形成される保護層のバリア特性の強化に及ぼす相乗効果を有することが示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で前記有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系と、
b)前記樹脂系の固形分重量を基準として少なくとも1.3重量%のリチウムの量の、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される、20℃で0.01~120g/Lの範囲の水への溶解度を有するリチウム塩と、
c)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩であって、前記DMTDの亜鉛塩は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)である、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩と
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
前記組成物が、前記DMTDの亜鉛塩以外の任意の亜鉛含有化合物を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸化亜鉛、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される亜鉛含有化合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記リチウム塩b)が、炭酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から、好ましくは炭酸リチウムおよびシュウ酸リチウムからなる群から選択され、より好ましくは炭酸リチウムである、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リチウム塩b)がリン酸リチウムであり、前記リン酸リチウムが、前記樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも2.0重量%、好ましくは少なくとも3.0重量%、より好ましくは少なくとも4.0重量%のリチウムの量で存在する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記DMTDの亜鉛塩が、前記樹脂系の固形分重量を基準として0.05~20重量%のDMTDの量で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記皮膜形成樹脂が、エポキシ樹脂、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリオール、およびポリウレタンからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択されるマグネシウム化合物をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)以外のチオールまたはアゾールをさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた層を含む、金属基材上の多層コーティング系。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた前記層が、前記金属基材上のプライマー層である、請求項10に記載の多層コーティング系。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか1項に記載の前記コーティング組成物でコーティングされた金属基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護特性を有する、特に金属基材に有用なコーティング組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
保護コーティングは、基材、特に金属基材を腐食から保護するために広く使用されている。六価クロム化合物が、保護コーティングおよび金属表面の化成処理における腐食防止剤として長い間使用されてきた。しかしながら、六価クロムは有毒であり、そのため、環境、作業者の安全性、および規制上の理由から段階的に廃止される予定である。クロムを含まない代替的な阻害剤が近年提案されているが、多くの配合物は、特に工業的な耐食性基準を満たすのに苦労している。
【0003】
防食コーティングにおけるクロム置換において多くの進歩がなされているが、従来のCr含有コーティングと同等またはそれよりも良好な改善された長期耐食性特性を有するCr不含コーティングを提供することが依然として望まれている。
【0004】
最近、リチウム塩を有するコーティング組成物が、Cr含有コーティングの代替物として提案されている。例えば、非特許文献1を参照されたい。この論文に記載されているように、リチウム塩を有するコーティング組成物は、リチウム塩を有するコーティング組成物から堆積されたコーティングが欠陥を有する場所で素地金属上に保護層が形成されることにより、防食活性を有することが実証されている。そのような層は、コーティングから浸出したアルミニウム、酸素およびリチウムも含むことが分かった。保護層は、コーティング欠陥における金属表面と腐食環境との間にバリアを提供する。このバリア機能およびこの保護層の強度は、長期保護のために重要であり得る。形成された保護層の不十分なバリア機能または低い強度が、局所的な金属欠陥および腐食をもたらす可能性がある。
【0005】
改善されたバリア特性を有するコーティング組成物を提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
Visser, P. ,Liu, Y., Terryn, H. et al. “Lithium salts as leachable corrosion inhibitors and potential replacement for hexavalent chromium in organic coatings for the protection of aluminum alloys” J Coat Technol Res 13, 557-566 (2016)
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、コーティング組成物が2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩も含む場合、リチウム塩の作用によりコーティング欠陥に形成された保護層が、電気化学インピーダンス分光法(EIS)によって観察されるように、著しく高いバリア機能を示すことを見出した。DMTDの亜鉛塩は、露出した金属表面上に形成された保護層のバリア機能の強化剤として作用する。
【0008】
したがって、本発明は、第1の態様において、
a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系と、
b)樹脂系の固形分重量を基準として少なくとも1.3重量%のリチウム量の、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される、20℃で0.01~120g/Lの範囲の水への溶解度を有するリチウム塩と、
c)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩であって、DMTDの亜鉛塩は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)である、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩と
を含むコーティング組成物を提供する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、金属基材上の多層コーティング系であって、該コーティング系は、本発明の第1の態様によるコーティング組成物から得られた層を含む、金属基材上の多層コーティング系を提供する。
【0010】
更なる態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるコーティング組成物でコーティングされた金属基材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のいくつかの実施形態によるコーティング組成物のEIS測定の結果を示す。
【
図2】本発明のいくつかの実施形態によるコーティング組成物のEIS測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
驚くべきことに、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択されるリチウム塩を含むコーティング組成物中でDMTDの亜鉛塩を使用すると、コーティング欠陥において、コーティング組成物が適用される金属表面上のリチウム塩のリチウムイオンによって形成された保護層が強化されることが見出された。リチウムイオンによる保護層の形成は、リチウム塩の防食作用のメカニズムであることが以前に示されている。硬化したコーティングにコーティング欠陥が存在し、そうして金属基材が露出して腐食しやすくなると、コーティングからリチウムイオンが金属表面に浸出し、表面の保護層の形成に寄与する。そのような保護層の存在は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して決定することができ、そのバリア特性を定量化することができる。非特許文献1を参照されたい。この電気化学的方法は、加速腐食試験(例えば、中性塩噴霧曝露)への曝露後にコーティングの能動的保護メカニズム(浸出)によって生成された損傷領域(スクライブ)における保護層のバリア特性を定量化することを可能にする。
【0013】
バリア関数の大きさは、電気化学インピーダンススペクトルから導出される。インピーダンス係数プロットは、周波数範囲(Hz)の関数としてのインピーダンス係数(Ωcm2)を示す。中間周波数範囲10Hzにおけるインピーダンス係数の増加は、損傷領域(スクライブ)における保護層の形成に関連し得る。低周波数(10mHz)でのインピーダンス係数の増加は、基材での腐食プロセスの抑制に関連し得る。EISを使用する重要な利点は、視覚的方法では観察または定量化できないコーティング配合物間の差を定量化できることである。
【0014】
本発明者らは、多くの化合物を試験し、リチウム塩によって形成された保護層が著しく高いバリア機能を発揮することを可能にする強化剤を見出した。本発明者らは、そのような強化保護層が金属基材のより良好なかつ/またはより長期の保護を提供すると考えている。ここで、より高いバリア関数とは、同じ周波数範囲(Hz)に対するより高いインピーダンス弾性率(Ωcm2)、特に、EISによって測定される10Hzおよび10mHzの周波数に対するより高いインピーダンス弾性率を意味する。強化効果は相乗的であり、これは、効果が個々の成分に基づいて予想されるよりもはるかに高いことを意味する。特に、個々の成分(この場合、リチウム塩およびDMTDの亜鉛塩)の効果よりも2倍以上高いことが好ましく、3倍以上高いことがより好ましい。
【0015】
本発明によるコーティング組成物は、好ましくはクロムを含まない。「クロムを含まない」とは、特に、Cr(VI)化合物、例えばクロム酸塩からの任意のCr化合物を含まないことを意味する。
【0016】
本発明によるコーティング組成物は、a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系を含む。本明細書内で、「皮膜形成樹脂」という用語は、ポリマーだけでなく、コーティングの硬化中にポリマー系を形成するモノマーまたはオリゴマーも含む。有機皮膜形成樹脂とは、ポリマー、モノマーまたはオリゴマーが有機性(炭素含有化合物)であることを意味する。コーティング組成物は、好ましくはポリシロキサンを含まない。コーティング組成物は、好ましくはゾルゲル組成物ではない。
【0017】
皮膜形成樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ヒドロキシ官能性樹脂(ポリエステルおよびポリ(メタ)アクリレートなど)、1つ以上のブロック化ヒドロキシル基を有する樹脂(アセタールなど)、オキサゾリジン樹脂、カルボン酸官能性樹脂、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアスパラギン酸エステル、(ブロック化)イソシアネート、チオール官能性樹脂、アミン官能性樹脂、アミド官能性樹脂、イミド官能性樹脂(例えば、マレイミド)、アルキド樹脂、少なくとも1つのオレフィン性不飽和結合を含む樹脂、シラン含有樹脂、ポリシロキサン樹脂、アセト酢酸樹脂、官能性(硬化性)フッ素化樹脂、ならびにそれらの混合物およびハイブリッドから選択することができる。
【0018】
好ましくは、皮膜形成樹脂は、エポキシ樹脂およびヒドロキシ官能性樹脂、例えばヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレートまたはポリエステルポリオール、ならびにポリウレタンからなる群から選択される。エポキシ樹脂は、エポキシ当量が1よりも大きく、通常は約2のエポキシ官能性ポリマーである。最も一般的に使用されるエポキシ官能性ポリマーは、環状ポリオールのポリグリシジルエーテル、例えばビスフェノールA、レゾルシノール、ヒドロキノンおよびカテコール、またはポリオールのポリグリシジルエーテル、例えば1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオールおよび1,2-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンである。
【0019】
ヒドロキシ官能性樹脂は、好ましくは、2.1~3.5のヒドロキシ官能性および少なくとも200g/molの当量重量を有する。
【0020】
エポキシ樹脂およびポリウレタンは、本発明による組成物に使用するための好ましい皮膜形成樹脂である。
【0021】
皮膜形成樹脂は、好ましくは、本発明によるコーティング組成物中に、コーティング組成物の不揮発性成分の総重量を基準として1~98.7重量%、より好ましくは10~90重量%。さらにより好ましくは20~80重量%の量で存在する。
【0022】
コーティング組成物は、皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤を含有してもよい。硬化剤は、樹脂の官能基に対して反応性である官能基を含む。硬化剤の種類は、皮膜形成樹脂の性質に依存する。特定の皮膜形成樹脂に適した硬化剤は、当業者にとっての常識である。例えば、アセトアセテート樹脂系コーティング組成物は、好ましくはケチミン系硬化剤を含有する。
【0023】
エポキシ樹脂含有組成物は、好ましくは、脂肪族または芳香族アミン硬化剤、ポリアミド硬化剤、チオール系硬化剤を含有する。適切なエポキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールA/F、ノボラックおよび脂肪族エポキシ樹脂である。適切なアミン硬化剤は、脂肪族アミンおよびその付加物(例えば、Ancamine(登録商標)2021)、フェナルカミン、環式脂肪族アミン(例えば、Ancamine(登録商標)2196)、アミドアミン(例えば、Ancamide(登録商標)2426)、ポリアミドおよびその付加物、ならびにそれらの混合物である。エポキシアミン型コーティング組成物中のエポキシ/NHモル比は、好ましくは、0.6~2.0、より好ましくは0.8~1.7の範囲である。溶媒系エポキシアミンコーティング組成物の場合、エポキシ/NHモル比は、好ましくは、0.6~1.4、より好ましくは0.8~1.2、最も好ましくは0.85~1.1の範囲である。水性コーティング組成物の場合、エポキシ/NHモル比は、好ましくは、0.6~2.0、より好ましくは0.9~1.7、最も好ましくは1.3~1.7の範囲である。
【0024】
ヒドロキシ官能性樹脂のための好ましい硬化剤は、イソシアネートおよびイソシアヌレートである。適切なイソシアネート硬化剤は、脂肪族、脂環式および芳香族ポリイソシアネート、例えばトリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、α,α’-ジプロピルエーテルジイソシアネート、1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,2-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシレンジイソシアネートメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシレンジイソシアネートメタン、m-およびp-フェニレンジイソシアネート、1,3-および1,4-ビス(イソシアネートメチル)ベンゼン、1,5-ジメチル-2、4-ビス(イソシアネートメチル)ベンゼン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4,6-トルエンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルo-、m-、およびp-キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニレンジイソシアネートメタン、4,4’-ジフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジフェニレンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トランスビニリデンジイソシアネート、ならびに前述のポリイソシアネートの混合物である。
【0025】
ポリイソシアネートの付加物も適切な硬化剤、例えばビウレット、イソシアヌレート、アロファネート(allophonates)、ウレトジオンおよびそれらの混合物である。そのような付加物の例は、ジオール、例えばエチレングリコールへの2分子のヘキサメチレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートの付加物、3分子のヘキサメチレンジイソシアネートと1分子の水との反応生成物、3分子のイソホロンジイソシアネートへの1分子のトリメチロールプロパンの付加物、4分子のトルエンジイソシアネートへの1分子のペンタエリスリトールの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Desmodur(登録商標)N3390、旧Bayer社)、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン(Desmodur(登録商標)N3400、旧Bayer社)、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート(allophonate)(Desmodur(登録商標)LS 2101、旧Bayer社)、およびイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート(Vestanate(登録商標)T1890、旧Huels社)である。さらに、イソシアネート官能性モノマーの(コ)ポリマー、例えばα,α’-ジメチル-m-イソプロペニルベンジルイソシアネートが使用に適している。最後に、上述のイソシアネートおよびその付加物は、ブロック化または潜在性イソシアネートの形態で存在してもよい。
【0026】
好ましい一実施形態において、皮膜形成樹脂はヒドロキシル官能性樹脂であり、硬化剤はイソシアネート官能基を含む。別の好ましい実施形態において、皮膜形成樹脂はエポキシ官能基を含み、硬化剤はアミン官能基を含む。
【0027】
コーティング組成物は、1成分もしくは2成分(2K)組成物、または3つ以上の成分を有する組成物であってもよい。好ましくは、組成物は2K組成物である。2Kコーティング組成物は、別々に貯蔵され、基材への適用の直前に混合される2つの成分からなる。典型的には、第1の成分は有機皮膜形成樹脂を含み、第2の成分は硬化剤を含む。
【0028】
本発明によるコーティング組成物は、水への溶解度が制限されたリチウム塩を含む。
【0029】
リチウム塩は、20℃の水中で測定して、少なくとも0.01、好ましくは0.05、より好ましくは少なくとも0.1g/Lの水への溶解度を有する。少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも1、さらにより好ましくは少なくとも5g/Lの溶解度を有するリチウム塩は、特に良好な結果を示す。0.01g/L未満の溶解度を有するリチウム塩は、十分な活性を示さない。リチウム塩の溶解度は、120g/L未満、好ましくは100g/L未満、より好ましくは85g/L未満である。溶解度が高すぎると、コーティング組成物、例えば不均一なコーティング組成物の配合に問題が生じる可能性があり、適用に問題が生じる可能性がある。リチウム塩は、20℃の水中で測定して0.01~120g/Lの範囲の溶解度を有する。溶解度は、好ましくは1~100g/Lの範囲である。水への溶解度は、飽和溶液の調製を記載するOECDガイドラインNo.105、EU method A.6(フラスコ法、手順§23)に従って測定され、その後、溶液中の濃度は適切な分析方法で測定される。関連イオンの濃度を決定するための適切な分析方法は当業者に公知であり、イオンに応じて選択することができる。特に、リチウム塩については、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-OES)法が使用される。
【0030】
リチウム塩は、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される。本明細書におけるリン酸塩への言及は、別段の指示がない限り、オルトリン酸塩への言及である。炭酸リチウムの水への溶解度は、すべて20℃で13g/L、リン酸リチウム0.39g/L、シュウ酸リチウム62g/L、四ホウ酸リチウム28g/Lである。好ましくは、リチウム塩は、炭酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、およびそれらの2つ以上の任意の混合物からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、炭酸リチウムが好ましい塩である。それは、単独で、または他のリチウム塩、例えば、炭酸リチウムおよびリン酸リチウムと混合して使用することができる。他の実施形態において、リン酸リチウムが好ましい場合がある。
【0031】
コーティング組成物は、20℃で0.01g/L未満の溶解度を有するリチウム塩を含まないことが好ましい。他の実施形態において、コーティング組成物は、20℃で120g/Lを超える水への溶解度を有するリチウム塩、例えば、塩化リチウムまたは硝酸リチウムを含まないことが好ましい。好ましくは、コーティング組成物は、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウム以外の任意のリチウム塩を含まない。
【0032】
炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択されるリチウム塩は、樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも1.3重量%、好ましくは少なくとも1.6重量%、より好ましくは少なくとも2重量%、さらにより好ましくは少なくとも2.5重量%、そのうえより好ましくは少なくとも3重量%のリチウムの量でコーティング組成物中に存在する。「樹脂系の固形分重量」は、樹脂系、すなわち、コーティング組成物中のすべての皮膜形成樹脂と、存在する場合は硬化剤との総固形分重量を指す。コーティング組成物中の炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択されるリチウム塩の量は、リチウムの重量が、樹脂系の固形分重量を基準として、好ましくは1.3~40重量%の範囲になるような量である。コーティング組成物は、好ましくは、樹脂系の固形分重量を基準として、40重量%超、または30重量%超、または25重量%超、または20重量%超、または15重量%超、または10重量%超のリチウムを含まない。リチウムが1.3重量%未満では、特にリチウム塩として炭酸リチウムを使用した場合、保護層の強化が不十分となる可能性がある。上限については、コストの増加に起因して、かつ低濃度で既に効果が達成されているため、より多くのリチウムを組成物に含ませることは現実的でない場合がある。リチウム塩がリン酸リチウムである場合、リン酸リチウムは、好ましくは、樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも2.0重量%、より好ましくは少なくとも3.0重量%、さらにより好ましくは少なくとも4.0重量%、そのうえさらにより好ましくは少なくとも5.0重量%のリチウムの量で存在する。
【0033】
コーティング組成物は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩をさらに含む。DMTDの亜鉛塩は、それ自体で、またはハイブリッド化合物の一部として存在してもよい。本明細書におけるハイブリッド化合物(ハイブリッド顔料と呼ばれることもある)への言及は、典型的には共沈殿によって形成される、有機化合物と無機化合物との両方を含む2つ以上の固体化合物の分離不可能な密接なブレンドである。ハイブリッド化合物の例としては、ホスト-ゲスト化合物が挙げられ、ホストマトリックスは無機であり、層状構造を有し、ゲスト化合物は有機である。しかしながら、いくつかの実施形態において、DMTDの亜鉛塩はハイブリッド顔料の一部を形成しないことが好ましい場合がある。
【0034】
DMTDの亜鉛塩は、2,5-ジメルカプト-1,3,4チアジアゾール亜鉛塩(VII)(CAS 63813-27-4)であり、これはZnとDMTDとの1:2塩である。「1:2塩」という記載は、ここでは、1モルのZnと2モルのDMTDとから形成されていることを意味する。塩は、本明細書ではさらにZn(DMTD)2または「DMTDの亜鉛塩」と呼ばれる。DMTDの亜鉛塩は、公知の方法によって、例えば、国際公開第02/092880号の実施例1に記載されているようにZnOとDMTDとを反応させることによって得ることができる。DMTDの亜鉛塩は、例えば、WPC Technologies社からInhibicor 1000の一部として市販されている。Zn(DMTD)2の水への溶解度は、24℃で0.4g/Lであると報告されている。
【0035】
いくつかの実施形態において、DMTDの亜鉛塩は、酸化亜鉛および/または亜鉛塩、例えばオルトリン酸亜鉛またはシアナミド亜鉛(CH2N2Zn)などの更なる任意の亜鉛含有化合物の非存在下でコーティング組成物中に存在する。特に、コーティング組成物は、ZnO、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛またはこれらの任意の組み合わせのいずれも含まない。いくつかの実施形態において、コーティング組成物はZnOを含まない。いくつかの実施形態において、コーティング組成物はオルトリン酸亜鉛を含まない。さらに他の実施形態において、コーティング組成物は亜鉛シアナミドを含まない。いくつかの実施形態において、組成物は、ZnO、オルトリン酸亜鉛およびシアナミド亜鉛を含まない。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、Zn(DMTD)2のみが、リチウム塩中のリチウムイオンによって形成される保護層のバリア特性を強化する役割を果たすと考えられ、したがって、他のZn化合物の存在は必要ではない。
【0036】
しかしながら、他の実施形態において、コーティング組成物が、ZnO、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛またはこれらの任意の組み合わせなどの更なる亜鉛含有化合物を含むことが有益であり得る。組み合わせの例は、Zn(DMTD)2とZnO、またはZn(DMTD)2とオルトリン酸亜鉛、またはZn(DMTD)2とシアナミド亜鉛である。Zn(DMTD)2が更なる亜鉛化合物と組み合わせて存在する場合、Zn(DMTD)2の量は、亜鉛化合物の総重量を基準として1~99重量%、好ましくは10~98重量%、より好ましくは20~95重量%、最も好ましくは30~90重量%である。
【0037】
いくつかの実施形態において、他の亜鉛化合物との混合物中のZn(DMTD)2の含有量は、混合物の固形分重量を基準として、50重量%、好ましくは60重量%超、より好ましくは70重量%超、最も好ましくは80重量%超、より好ましくは90重量%超であり得る。適切な混合物の例は、混合物の固形分重量を基準として、1~30重量%のオルトリン酸Znと、1~20重量%のZnOと、少なくとも50重量%、例えば50~98重量%のZn(DMTD)2とである。Zn化合物混合物中のZn(DMTD)2の含有量がはるかに低いと、特に、コーティング組成物中のDMTD含有量が、樹脂系の固形分重量を基準として0.05重量%未満の場合、保護作用が不十分になる可能性がある。
【0038】
いくつかの実施形態において、Zn(DTMD)2は、他の亜鉛化合物、例えばZnO、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛またはこれらの任意の組み合わせと組み合わせて存在し、前述の混合物中のZn(DTMD)2の量は、混合物の固形分重量を基準として、50重量%超、好ましくは60重量%超、より好ましくは80重量%超、最も好ましくは90重量%超であり、コーティング組成物中のDMTD含有量は、樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%である。
【0039】
好ましくは、DMTDの亜鉛塩は、樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも0.05重量%のDMTD、より好ましくは少なくとも0.1重量%、さらにより好ましくは少なくとも0.4重量%、または少なくとも0.6重量%、または少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%または少なくとも4重量%のDMTDを提供するようにコーティング組成物中に存在する。好ましくは、その量は、樹脂系の固形分重量を基準として、50重量%未満、または40重量%未満、または30重量%未満、または20重量%未満のDMTDである。0.05重量%未満の量で使用される場合。リチウムとの相乗作用は、実際に何らかの利益をもたらすには低すぎると考えられる。50重量%超の量を使用することは、例えば、配合上の潜在的な問題または高コストのために現実的ではないと考えられている。
【0040】
コーティング組成物は、好ましくは、DMTDに対するリチウムの重量比が、DMTD含有量に対するリチウム含有量の重量比として計算して、0.01~20、好ましくは0.1~10であるような量でリチウム塩およびDMTDの亜鉛塩を含有する。いくつかの実施形態において、DMTDの含有量(DMTDの亜鉛塩として存在する)は、リチウムの含有量(リチウム塩として存在する)以上であることが好ましい場合がある。他の実施形態において、DMTDの含有量(DMTDの亜鉛塩として存在する)は、リチウムの含有量(リチウム塩として存在する)以下であることが好ましい場合がある。
【0041】
本発明者らによって発見され、実施例で実証されたように、有機コーティング中のリチウム塩とDMTDの亜鉛塩との組み合わせは、露出した金属基材上に形成される保護層のバリア特性の予想外の強化を示す。保護層は、コーティング欠陥が発生する位置に形成され、これは、実施例では、コーティングを貫通して素地金属を環境に露出させるスクライブによってシミュレートされる。他の周知の腐食防止剤とは異なり、リチウム塩は、コーティングマトリックスからの浸出のメカニズムを介して金属基材(例えば、アルミニウム合金)上に不可逆的な保護層を形成することが知られている。保護層は、金属基材と環境との間にバリアを提供する。この層によるバリア機能は、目視では確認できないが、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して測定することができる。コーティング組成物中に、リチウム塩および有機皮膜形成樹脂とともにZn(DMTD)2が存在すると、リチウム塩のみを使用する場合、またはリチウム塩を他のスクリーニングされた潜在的に活性な化合物とともに使用する場合よりも、保護層のインピーダンス値がはるかに高くなる。より高いインピーダンス値は、保護層がより高いバリア機能を有するか、または「強化されている」ことを意味する。強化保護層は、改善されたまたはより長期の保護をもたらすことができる。保護層のこの強化は、以下の実施例によって示されるように、Zn(DMTD)2がバリア特性を示さず、保護層自体も形成しないため、予想外である。
【0042】
コーティング組成物は、少なくとも1つのマグネシウム化合物をさらに含むことができる。適切なマグネシウム化合物は、マグネシウム含有材料、例えばマグネシウム金属、酸化マグネシウム、マグネシウムのオキシアミノホスフェート塩(例えば、Pigmentan(登録商標)465M)、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムである。マグネシウム金属は、粒子の形態、例えば、粉末、フレーク、球体またはスフェロイドの形態で好適に使用される。マグネシウム金属およびマグネシウム金属合金粒子は、水性コーティング組成物に使用される場合、特定の安定剤を必要とすることに留意されたい。そのような安定剤は、一般に公知であり、市販されている。好ましくは、マグネシウム化合物として酸化マグネシウムが使用される。
【0043】
マグネシウム化合物は、好ましくは、コーティング組成物中に、コーティング組成物の乾燥重量(コーティング組成物の不揮発性成分の重量の合計)を基準として、0.1~50重量%、より好ましくは1~35重量%、最も好ましくは5~20重量%の量で存在する。
【0044】
酸化マグネシウムまたはマグネシウム塩は、好ましくは、Mg:Liの重量比が少なくとも0.1:1、より好ましくは少なくとも0.5:1、さらにより好ましくは少なくとも1:1、そのうえさらにより好ましくは少なくとも3:1であるような量で存在する。この比は、好ましくは30:1未満、より好ましくは25:1未満、さらにより好ましくは15:1未満、そのうえさらにより好ましくは10:1未満、最も好ましくは8:1未満である。
【0045】
マグネシウム金属または合金が本発明による組成物中に存在する場合、重量比Mg:Liは、好ましくは500:1未満、より好ましくは300:1未満、さらにより好ましくは250:1未満、さらにより好ましくは100:1未満、さらにより好ましくは50:1未満、最も好ましくは25:1未満である。
【0046】
好ましくは、組成物は、上記のリチウム塩と、酸化マグネシウムとDMTDの亜鉛塩との組み合わせを含有する。これらの化合物は、好ましくは、リチウム塩と、酸化マグネシウムと、DMTDの亜鉛塩について、それぞれ、(1-5):(1-2):1、好ましくは約3:1.5:1の重量比で存在する。
【0047】
いくつかの実施形態において、コーティング組成物は、1つ以上の追加の腐食防止剤をさらに含む。追加の腐食防止剤は、有機または無機であり得る。無機阻害剤の例は、リン酸塩、例えばオルトリン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛水和物、オルトリン酸亜鉛アルミニウム;ポリリン酸塩、例えばポリリン酸ストロンチウムアルミニウム水和物、ポリリン酸亜鉛アルミニウム水和物、ポリリン酸マグネシウムアルミニウム、三リン酸亜鉛アルミニウム、および三リン酸マグネシウムアルミニウムである。阻害剤には、金属酸化物、例えば亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、モリブデン酸塩、ストロンチウム、セリウム、およびそれらの混合物の酸化物:金属Zn、金属Mg、およびMg合金のような金属がさらに含まれる。有機阻害剤の例は、チオール化合物およびアゾール、例えばイミダゾール、チアゾール、テトラゾール、トリアゾール、例えば(置換)ベンゾトリアゾール、および2-メルカプトベンゾチアゾールである。
【0048】
いくつかの実施形態において、付加腐食防止剤は、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)以外のチオール化合物またはアゾールである。アゾールは、環の一部として窒素原子および少なくとも1つの他の非炭素原子(すなわち、窒素、硫黄または酸素)を含有する5員環N-複素環式化合物である。適切な化合物の例としては、5-メチルベンゾトリアゾールおよび2-メルカプトベンゾチアゾール(2-MBT)が挙げられる。好ましくは、2-MBTが追加の腐食防止剤として存在する。
【0049】
本発明によるコーティング組成物中に存在し得る他の化合物は、着色顔料(例えば、二酸化チタンまたは黄色酸化鉄)、増量剤(例えば、タルカム、硫酸バリウム、雲母、炭酸カルシウム、シリカ、またはウォラストナイト)、レオロジー調整剤(例えば、ベントンSD 2または有機レオロジー調整剤)、流動剤およびレベリング剤(例えば、ポリシロキサンおよびポリアクリレートレベリング添加剤)、ならびに溶媒(例えば、メチルイソブチルケトンなどのケトン、キシレンなどの芳香族、ベンジルアルコールなどのアルコール、酢酸ブチルなどのエステル、および脂肪族溶媒)である。
【0050】
好ましい実施形態において、本発明によるコーティング組成物は、液状コーティング組成物である。組成物は、揮発性液体希釈剤、例えば揮発性有機溶媒または水を含んでもよい。組成物は、水系、溶媒系、または無溶媒であり得る。「無溶媒」という用語は、水および有機溶媒を含む5重量%未満の揮発性液体希釈剤の全含有量を含むものとして定義される。「水系」という用語は、(水と有機溶媒との両方を含む)揮発性液体希釈剤の総重量の少なくとも50重量%の水を含むものとして定義される。「溶媒系」という用語は、(水と有機溶媒との両方を含む)揮発性液体希釈剤の総重量の少なくとも50重量%の量の有機溶媒を含むものとして定義される。コーティング組成物は、好ましくは溶媒系である。
【0051】
いくつかの実施形態において、コーティング組成物は、実質的に水を含まない(非水性)ことができ、これは、含水量が、コーティング組成物の総重量を基準として、1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であることを意味する。より好ましくは、コーティング組成物は完全に水を含まない。
【0052】
本発明によるコーティング組成物は、好ましくは低温硬化性組成物であり、これは、120℃未満、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満、さらにより好ましくは50℃未満の温度、最も好ましくは周囲条件で硬化可能である、すなわちネットワークを形成することができることを意味する。他の実施形態において、コーティング組成物は、高温硬化性組成物であり、例えば120℃以上、好ましくは140℃以上の温度で硬化可能であり得る。
【0053】
コーティング組成物の不揮発分含有量は、好ましくは10~95重量%、より好ましくは25~75重量%、さらにより好ましくは30~70重量%である。水性コーティング組成物の場合、不揮発分含有量は、好ましくは30~60重量%の範囲である。
【0054】
コーティング組成物の揮発性有機物含有量(VOC)(ASTM D3960に従って測定)は、好ましくは700g/L未満、例えば500g/L未満、より好ましくは300g/L未満である。
【0055】
本発明によるコーティング組成物は、非鉄金属基材、例えばマグネシウム、マグネシウム合金、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金、およびリチウム-アルミニウム合金基材をコーティングするための防食プライマーとして使用することができる。好ましい非鉄金属基材はアルミニウム合金である。適切なアルミニウム合金の例は、2024-T3(素地またはクラッド)、7075-T6(素地またはクラッド)、2098、2099、2198、6061、6111、6022、5052、5083、5251、5454、7475、7017、および7020である。
【0056】
本発明によるコーティング組成物は、鉄基材をコーティングするのにも適している。適切な鉄基材の例は、冷間および熱間圧延鋼、ステンレス304、B952(リン酸亜鉛変性)、B1000(リン酸鉄変性)、ならびに亜鉛変性鋼、例えばEZG 60G、リン酸亜鉛変性を有するEZG 60G、G90、およびGalvanneal HIA Zn/Fe A45である。
【0057】
本発明によるコーティング組成物は、プライマー、結合用プライマー、セルフプライミングトップコート、中間コートおよび/またはトップコートとして使用することができる。少なくとも2つの層が本開示に記載される組成を有するコーティング系で使用することもできる。
【0058】
コーティング組成物は、AC-(登録商標)131(AC Tech社)、PreKote(登録商標)(Pantheon Chemical社)などのゾルゲル系、または化成処理などの六価クロム不含前処理の使用の有無にかかわらず、基材に適用することができる。
【0059】
コーティング組成物は、陽極酸化表面、例えばクロム酸陽極酸化(CAA)表面、酒石酸硫酸陽極酸化(TSA)表面、硫酸陽極酸化(SAA)表面、リン酸陽極酸化(PAA)表面、リン酸硫酸陽極酸化(PSA)表面およびホウ硫酸陽極酸化(BSAA)表面に適用することもできる。
【0060】
コーティング組成物は、非鉄金属基材のプライマーコーティングとして有利に使用することができる。それは単層または多層として適用することができる。好ましい実施形態において、コーティング組成物は、多層コーティング系において少なくとも1つのプライマー層を形成するために基材に適用される。プライマー層の上に適用されるトップコート層は、クリアコートまたは着色トップコートであってもよい。代替的に、コーティング系はまた、プライマー層上に適用された色および/または効果を付与するベースコートと、ベースコートの上に適用されたクリアコートとを含むことができる。組成物はトップコートとして使用することもでき、トップコートは透明または着色されているかのいずれかであり得る。
【0061】
本発明はまた、本発明の第1の態様によるコーティング組成物から得られた少なくとも1つの層を含む、すなわち、樹脂系a)、リチウム塩b)および亜鉛塩c)を含む多層コーティング系に関する。適用後、成分a)、b)およびc)は単層内に存在する。好ましくは、コーティング組成物から形成された層は、基材に適用されるプライマー層として使用され、この基材は、任意選択で前処理される。トップコートは、クリアコートもしくは着色されたトップコートであってもよく、またはトップコートがプライマー層上に適用された色および/または効果を付与するベースコートを含む場合、クリアコートはベースコート層の上に適用される。
【0062】
本発明は、本発明によるコーティング組成物でコーティングされた金属基材をさらに提供する。金属基材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの非鉄金属基材であってもよい。代替的に、金属基材は鉄系金属基材であってもよい。基材は、外部または内部での使用を意図していてもよい。例としては、航空機の構造部品、航空機客室の部品または乗り物が挙げられる。
【0063】
コーティング組成物は、航空宇宙、自動車またはコイルコーティング産業での使用に特に適している。
【実施例】
【0064】
使用した化学物質
炭酸リチウム-ACS試薬、≧99.0%、Sigma Aldrich社
【0065】
Desmophen 650 MPA-Covestro AG社からの分岐したヒドロキシル担持ポリエステル、1-メトキシプロピルアセテート-2(MPA)中65重量%、5.3%OH含有量
【0066】
Tioxide TR 92-Huntsman社からの二酸化チタン
【0067】
Zn(DMTD)2-国際公開第02/092880(A1)号の実施例1に従って調製
【0068】
ハイブリッド1-45重量%のZn(DMTD)2、32重量%のZn3(PO4)2.H2O、23重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有する、国際公開第02/092880(A1)号の実施例2に従って調製されたハイブリッド顔料
【0069】
ハイブリッド2-DMTDの二ナトリウム塩(Na2(DMTD))で中和されたZn(DMTD)2の中和塩を含有し、推定含有量97重量%Zn(DMTD)2の、国際公開第2008/140648(A9)号の実施例1に従って調製されたハイブリッド顔料
【0070】
ハイブリッド3-ハイブリッド1として調製されるが、75重量%のZn(DMTD)2、14重量%のZn3(PO4)2.H2O、11重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0071】
ハイブリッド4-ハイブリッド1として調製されるが、15重量%のZn(DMTD)2、49重量%のZn3(PO4)2.H2O、36重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0072】
ハイブリッド5-ハイブリッド1として調製されるが、0重量%のZn(DMTD)2、58重量%のZn3(PO4)2.H2O、42重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)ハイブリッド6-ハイブリッド1として調製されるが、リン酸を含まず、75重量%のZn(DMTD)2および25重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0073】
ハイブリッド7-ハイブリッド1として調製されるが、リン酸を含まず、45重量%のZn(DMTD)2および55重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0074】
ハイブリッド8-ハイブリッド1として調製されるが、リン酸を含まず、15重量%のZn(DMTD)2および85重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0075】
ハイブリッド9-ハイブリッド1として調製されるが、リン酸を含まず、7重量%のZn(DMTD)2および93重量%のZnO(混合物の総重量を基準とした重量%)を含有するハイブリッド顔料
【0076】
Airwhite AW 15-Sibelco Specialty Minerals社からの硫酸バリウム
【0077】
Desmodur N-75 MPA/X-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)に基づき、Covestro AG社からの酢酸n-ブチルおよびキシレン(1:1)に溶解した脂肪族ポリイソシアネート樹脂、固形分含有量75重量%、NCO含有量16.5%
【0078】
Silquest A-187-Momentive Performance Materials社からのエポキシ官能性シラン
【0079】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)
欠陥領域における保護層のバリア特性は、非特許文献1に記載されているように、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して定量化および評価した。非特許文献1:Visser, P. ,Liu, Y., Terryn, H. et al. “Lithium salts as leachable corrosion inhibitors and potential replacement for hexavalent chromium in organic coatings for the protection of aluminum alloys” J Coat Technol Res 13, 557-566 (2016)
【0080】
EIS測定は、0.01Hz~30000Hzの周波数範囲にわたってコンピュータ制御ポテンショスタットを使用して開回路電位(OCP)で行い、周波数が10倍する間に7点を測定し、10mVの正弦波振幅を印加した。0.05M NaCl電解質を使用して、参照電極として飽和カロメル電極(SCE)、対極として白金ガーゼ、および作用電極としてスクライブパネルを備えたファラデーケージ内の三電極構成を使用して測定を実行した。電解質に曝露された面積は12.5cm2であり、有効裸電極(すなわち、コーティング欠陥)面積は0.48cm2であり、電解質の体積は60cm3であった。少なくとも3つのサンプルについて、0.05 M NaCl電解質への2時間の曝露後に測定値を記録した。
【0081】
実施例の結果は、10mHzおよび10HzでのZmod値を有する表の形態で表示される。インピーダンス値が高いほど、保護層はより強化される。
【0082】
試験パネルの調製
特に明記しない限り、試験パネルは、航空宇宙要件(AIPI 02-01-003)に従って酒石酸硫酸(TSA)中で陽極酸化された、典型的には7.0cm×7cm(3×6インチ)および厚さ0.8mmのAA2024-T3素地アルミニウム合金である。
【0083】
コーティングを、大容量低圧(HVLP)スプレーガンを用いて周囲条件(23℃、55%RH)で適用した。コーティングおよび1時間のフラッシュオフ期間の後、コーティングされたパネルを80℃で1時間硬化させ、周囲条件下で7日間乾燥させた。乾燥後のコーティングの乾燥皮膜厚は20~25μmであった。コーティングされたパネルを、機械的フライス加工装置を用いてスクライブ(クロススクライブ2cm×2cm)し、幅1mmおよび深さ100~150μmのU字形スクライブ(クロススクライブ2cm×2cm)を残した。スクライブ後、サンプルを中性塩水噴霧試験(ASTM-B117)に168時間曝露した。
【0084】
実施例1:Li塩とZn(DTMD)2との相乗効果
配合物1-1~1-4を、表1に列挙した成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。また、活性成分LiおよびDMTDの含有量は、樹脂系固形分に対する重量%として示される。
【0085】
成分Aの原料を370mlのガラスジャーに撹拌しながら順次添加した。その後、顔料の粉砕および分散のために、400グラムのZirconoxパール(1.7~2.4mm)を混合物に添加した。Skandexペイントシェーカーでサンプルを20分間振盪して、25μm未満の粉砕度を達成した。振盪後、パールをコーティングから分離した。成分Bは、混合によって別々に調製した。
【0086】
成分Bは、均一なサンプルを得るのに十分な混合を確実にするために撹拌下で成分Aに添加した。別々の成分の混合後、コーティングを30分間誘導させた。
【0087】
【0088】
配合物1-1、1-2、1-3は比較配合物であり、配合物1-4は本発明によるものである。EIS測定の結果を
図1および表1に示す。
【0089】
Zn(DMTD)2とLi塩(1-4)との両方を含むコーティングは、活性成分を含まない配合物(1-1)、またはZn(DMTD)2のみを含む配合物(1-2)またはLi塩のみを含む配合物(1-3)よりも、著しく高いインピーダンス|Z|(「Zmod」とも呼ばれる)値を示すことが分かる。この効果は、Li塩(1-3)およびZn(DMTD)2(1-2)の個々の効果の合計よりもはるかに強く、したがって相乗効果である。
【0090】
この結果はまた、Zn(DMTD)2単独(1-2)が欠陥領域における保護層の形成に影響を及ぼさないことを示している。特に、コーティング1-2は、コーティングなし(ネガティブリファレンス)(1-1)と同等の低いインピーダンス値を有する。
【0091】
実施例2:他のアゾールとの比較
配合物2-1~2-7を、実施例1と同じ様式であるが、表2に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の含有量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。アゾールのモル量は、この実施例のすべての配合物にわたって同じである。BTAはベンゾトリアゾールであり、2-MBTは2-メルカプトベンゾチアゾールである。
【0092】
【0093】
配合物2-1、2-2、2-3、2-4、2-5、2-6は比較配合物であり、配合物2-7は本発明によるものである。EIS測定の結果を
図2に示し、表2に列挙する。
【0094】
結果はまた、Li塩と他のアゾール(BTAまたは2-MBT)との組み合わせが、Zn(DMTD)2との組み合わせと同じ相乗効果を有しないことを示す。Li塩とZn(DMTD)2との組み合わせは、欠陥領域における保護層の強化に関連するはるかに高いインピーダンス値を提供する。
【0095】
実施例3:ハイブリッド顔料中のZn(DMTD)2
配合物3-1~3-7を、実施例1と同じ様式であるが、表3に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0096】
【0097】
配合物3-1、3-2、3-3および3-4は比較配合物であり、配合物3-5、3-6および3-7は本発明によるものである。EIS測定の結果を表3に列挙する。
【0098】
この結果は、Zn(DMTD)2をハイブリッド顔料に組み込んだ場合に、純粋な成分として使用したZn(DMTD)2と同じ効果をリチウム塩とともに示すことを示している。すべての配合物において、コーティング中のZn(DMTD)2の総量は同じである。
【0099】
実施例4:ハイブリッド顔料中のZn(DMTD)2の異なる比率
配合物4-1~4-7を、実施例1と同じ様式であるが、表4に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0100】
【0101】
配合物4-1、4-2および4-6は比較配合物であり、配合物4-3、4-4、4-5および4-7は本発明によるものである。EIS測定の結果を表4に列挙する。
【0102】
これらの実施例では、ハイブリッド顔料中のZn(DMTD)2の重量比は低いものから高いものまで様々であるが、コーティング中のZn(DMTD)2の量は同じである。Zn(DMTD)2を含有するハイブリッド顔料を用いたすべての実施例は、欠陥領域における保護層の強化効果を示す。異なるハイブリッド顔料の強化に差はほとんどない。したがって、この効果は、ZnOまたはZn3(PO4)2の存在およびそれらの量に依存しない。
【0103】
実施例5:代替ハイブリッド顔料;ZnOとZn(DMTD)2との組み合わせ
配合物5-1~5-7を、実施例1と同じ様式であるが、表5に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0104】
【0105】
配合物5-1および5-2は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表5に列挙する。
【0106】
これらの例では、Li塩は、Zn(DMTD)2およびZnOのみに基づくハイブリッド顔料と組み合わされる。Zn(DMTD)2の量はすべての実施例で同じであり、すべてのサンプルが保護層の強化の同じ効果を示す。ZnOの存在は、LiとZn(DTMD)2との相乗効果に影響を及ぼさないと結論付けることができる。相乗効果は、Li塩とZn(DMTD)2との組み合わせによるものである。
【0107】
実施例6:代替ハイブリッド顔料;ZnOとZn3(PO4)2との組み合わせ
配合物6-1~6-5を、実施例1と同じ様式であるが、表6に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0108】
これらの実験では、Zn(DTMD)2を含む場合と含まない場合の、ZnOとZn3(PO4)2とを含む代替ハイブリッド顔料の性能が研究される。
【0109】
【0110】
配合物6-1、6-2および6-3は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表6に列挙する。
【0111】
ZnOとZn3(PO4)2とのハイブリッド顔料とLi塩との組み合わせは、保護層のバリア効果に及ぼす相乗効果を有しないと結論付けることができる。この配合物中のZn(DMTD)2の存在のみが本発明による効果を提供する。
【0112】
実施例7:ZnOの効果
配合物7-1~7-6を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表7に示すとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0113】
これらの実験では、ZnOの効果を調べている。実施例は、Li塩および/またはZn(DTMD)2を含むおよび含まないZnOを含む。それらは、ハイブリッド顔料の一部としてではなく、物理的混合物の形態で使用される。
【0114】
【0115】
配合物7-1、7-2、7-3および7-4は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表7に列挙する。
【0116】
EISの結果から分かるように、ZnO単独ではLi塩との相乗効果は見られない。この実施例から、保護層に及ぼす強化効果を有するためにはZn(DMTD)2が必要であると結論付けることができる。
【0117】
実施例8:Zn3(PO4)2の効果
配合物8-1~8-6を、実施例1と同じ様式であるが、表8に示されるような成分を用いて調製した。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0118】
これらの実験では、例示的な配合物は、Zn3(PO4)2、Liの有無およびZn(DTMD)2を含む。それらは、ハイブリッド顔料の一部としてではなく、物理的混合物の形態で使用される。
【0119】
【0120】
配合物8-1、8-2、8-3および8-4は比較配合物であり、8-5および8-6は本発明によるものである。EIS測定の結果を表8に列挙する。
【0121】
この結果から分かるように、欠陥領域における保護層の形成において、Zn3(PO4)2単独ではLi塩との強化効果は見られなかった。Li塩を含む配合物へのZn(DMTD)2の添加は、保護層のバリア特性に及ぼす相乗的な強化効果を有するために必要である。
【0122】
実施例9:ZnOとZn3(PO4)2との組み合わせ
配合物9-1~9-6を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表9のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0123】
これらの実験では、コーティング組成物は、ZnOとZn3(PO4)2、Liの有無、およびZn(DTMD)2を含む。Zn3(PO4)2に対するZnOの比は、ハイブリッド1と同じであるが、ハイブリッド顔料の一部としてではなく、物理的混合物の形態で使用される。
【0124】
【0125】
配合物9-1、9-2、9-3および9-4は比較配合物であり、9-5および9-6は本発明によるものである。EIS測定の結果を表9に列挙する。
【0126】
この結果から分かるように、ZnOとZn3(PO4)2との組み合わせは、Li塩とのいかなる強化効果も示さない。欠陥領域における保護層の強化効果を得るためには、Zn(DMTD)2の添加が必要である。
【0127】
実施例10:異なる濃度のLi塩
配合物10-1~10-8を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表10のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0128】
これらの実験では、配合物はLi塩およびZn(DTMD)2を含み、Li塩の濃度は様々である。
【0129】
【0130】
配合物10-1、10-2、10-3、10-4および10-5は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表10に列挙する。
【0131】
Li塩のみを含むサンプルと比較した、Zn(DMTD)2と組み合わせた樹脂系固形分に対して少なくとも1.3重量%のLiを含有する組成物について、著しく高いインピーダンス値が得られることが分かる。
【0132】
実施例11:異なる濃度のZn(DMTD)2
配合物11-1~11-8を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表11のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0133】
これらの実験では、活性材料はLi塩およびZn(DTMD)2を含み、Zn(DTMD)2の濃度は様々である。
【0134】
【0135】
配合物11-1、11-2および11-3は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表11に列挙する。
【0136】
Zn(DTMD)2は、0.6重量%などの非常に少量のDMTDであっても、任意の量のLi塩と相乗効果を示すと結論付けることができる。これらの低濃度のDMTDにおいても、欠陥領域における保護層のバリア特性の明らかな改善(強化効果)がある。
【0137】
実施例12:異なるLi塩(4.4% Li)
配合物12-1~12-8を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表12のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0138】
これらの実験では、コーティング組成物は、異なる可溶性Li塩を含み、Li含有量は樹脂系固形分に対して4.4重量%である。リチウム塩は、異なる溶解度で選択されている。
【0139】
【0140】
配合物12-1~12-5は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表12に列挙する。
【0141】
Zn(DTMD)2は、Li塩との強化効果を示すと結論付けることができる。リン酸リチウムに及ぼす中程度の効果は、水への溶解度が低いためであると考えられる。
【0142】
実施例13:異なるLi塩(1.3重量%Li)
配合物13-1~13-6を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表13のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0143】
これらの実験では、コーティング組成物は、異なる可溶性Li塩を含み、Li含有量は樹脂系固形分に対して1.3重量%である。
【0144】
【0145】
配合物13-1~13-3は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。EIS測定の結果を表13に列挙する。
【0146】
Zn(DTMD)2は、リン酸リチウムを除いて、実施例12よりも少ない量で使用した場合にも、ほとんどのLi塩で保護層の強化を示すと結論付けることができる。リン酸リチウムについては、より高いLi含有量(実施例12および15)でより良好な結果が達成されたが、これは水への溶解度が低いためであると考えられる。
【0147】
実施例14:酸化マグネシウムなし
配合物14-1~14-4を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表14のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0148】
これらの実験では、強化効果が酸化マグネシウムを含まない組成物にも存在するかどうかを試験する。
【0149】
【0150】
配合物14-1~14-3は比較配合物であり、14-4は本発明によるものである。EIS測定の結果を表14に列挙する。
【0151】
強化効果はMgOの非存在下でも存在し、純粋にリチウム塩とZn(DMTD)2との組み合わせに起因すると結論付けることができる。
【0152】
実施例15:異なる濃度のリン酸リチウム
配合物15-1~15-6を実施例1と同じ方法で調製したが、成分は表15のとおりであった。成分の含有量は重量部(g)で示す。活性成分の量は、樹脂系固形分に対する重量%でも示される。
【0153】
これらの実験では、リン酸リチウムの濃度は、樹脂系固形分のLi含有量が2.0~7.0重量となるように変化させる。
【0154】
【0155】
配合物15-1~15-3は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。試験パネルを上記のように調製し、スクライブした。スクライブ後、サンプルを中性塩水噴霧試験(ASTM-B117)に96時間曝露した。EIS測定の結果を表15に列挙する。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で前記有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系と、
b)前記樹脂系の固形分重量を基準として少なくとも1.3重量%のリチウムの量の、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される、20℃で0.01~120g/Lの範囲の水への溶解度を有するリチウム塩と、
c)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩であって、前記DMTDの亜鉛塩は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)である、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩と
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
前記組成物が、前記DMTDの亜鉛塩以外の任意の亜鉛含有化合物を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸化亜鉛、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される亜鉛含有化合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記リチウム塩b)が、炭酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から、好ましくは炭酸リチウムおよびシュウ酸リチウムからなる群から選択され、より好ましくは炭酸リチウムである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記リチウム塩b)がリン酸リチウムであり、前記リン酸リチウムが、前記樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも2.0重量%、好ましくは少なくとも3.0重量%、より好ましくは少なくとも4.0重量%のリチウムの量で存在する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記DMTDの亜鉛塩が、前記樹脂系の固形分重量を基準として0.05~20重量%のDMTDの量で存在する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記皮膜形成樹脂が、エポキシ樹脂、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリオール、およびポリウレタンからなる群から選択される、
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択されるマグネシウム化合物をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)以外のチオールまたはアゾールをさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた層を含む、金属基材上の多層コーティング系。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた前記層が、前記金属基材上のプライマー層である、請求項10に記載の多層コーティング系。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか1項に記載の前記コーティング組成物でコーティングされた金属基材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0155
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0155】
配合物15-1~15-3は比較配合物であり、他の配合物は本発明によるものである。試験パネルを上記のように調製し、スクライブした。スクライブ後、サンプルを中性塩水噴霧試験(ASTM-B117)に96時間曝露した。EIS測定の結果を表15に列挙する。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
a)有機皮膜形成樹脂と、任意選択で前記有機皮膜形成樹脂と反応性の硬化剤とを含む樹脂系と、
b)前記樹脂系の固形分重量を基準として少なくとも1.3重量%のリチウムの量の、炭酸リチウム、リン酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から選択される、20℃で0.01~120g/Lの範囲の水への溶解度を有するリチウム塩と、
c)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩であって、前記DMTDの亜鉛塩は2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)である、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)の亜鉛塩と
を含むコーティング組成物。
項2.
前記組成物が、前記DMTDの亜鉛塩以外の任意の亜鉛含有化合物を含まない、項1に記載の組成物。
項3.
酸化亜鉛、オルトリン酸亜鉛、シアナミド亜鉛、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される亜鉛含有化合物をさらに含む、項1に記載の組成物。
項4.
前記リチウム塩b)が、炭酸リチウム、重炭酸リチウム、四ホウ酸リチウム、およびシュウ酸リチウムからなる群から、好ましくは炭酸リチウムおよびシュウ酸リチウムからなる群から選択され、より好ましくは炭酸リチウムである、項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
項5.
前記リチウム塩b)がリン酸リチウムであり、前記リン酸リチウムが、前記樹脂系の固形分重量を基準として、少なくとも2.0重量%、好ましくは少なくとも3.0重量%、より好ましくは少なくとも4.0重量%のリチウムの量で存在する、項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
項6.
前記DMTDの亜鉛塩が、前記樹脂系の固形分重量を基準として0.05~20重量%のDMTDの量で存在する、項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
項7.
前記皮膜形成樹脂が、エポキシ樹脂、ヒドロキシ官能性ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリオール、およびポリウレタンからなる群から選択される、項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
項8.
マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムのオキシアミノリン酸塩、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択されるマグネシウム化合物をさらに含む、項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
項9.
2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール亜鉛塩(VII)以外のチオールまたはアゾールをさらに含む、項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
項10.
項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた層を含む、金属基材上の多層コーティング系。
項11.
項1から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物から得られた前記層が、前記金属基材上のプライマー層である、項10に記載の多層コーティング系。
項12.
項1から9のいずれか1項に記載の前記コーティング組成物でコーティングされた金属基材。
【国際調査報告】