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特表2025-502168リチウム金属リン酸塩(LMP)カソード材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】リチウム金属リン酸塩(LMP)カソード材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20250117BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20250117BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024541664
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 CA2023050056
(87)【国際公開番号】W WO2023137546
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】63/301,767
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515256187
【氏名又は名称】ナノ ワン マテリアルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】ハディディ,リダ
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル,ステファン エー.
(72)【発明者】
【氏名】セップ,アダム ジョン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050DA02
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
リチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための改善された方法が提供される。この方法は、金属源、リン酸等のリン酸塩含有酸、及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することを含む。リチウム源を溶媒に添加し、沈殿物を形成させる。沈殿物は、乾燥され、か焼され、それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料を形成し、ここでリチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、リチウム金属リン酸塩カソード材料(lithium metal phosphate cathode material)を形成するための方法:
金属源、リン酸塩含有酸(phosphate containing acid)及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することと、
前記溶媒にリチウム源を加えることと、
沈殿物を形成させることと、
前記沈殿物を乾燥させることと、
前記沈殿物をか焼し、それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料(lithium iron phosphate cathode material)を形成すること;ここで前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【請求項2】
前記金属源が、ゼロ価金属を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項3】
前記ゼロ価金属が、Fe、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される、請求項2に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項4】
前記金属源が、元素鉄又は鉄を含む合金を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項5】
前記鉄を含む合金が、鋼である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項6】
前記リン酸塩含有酸が、リン酸及びリン酸エステルからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項7】
前記リン酸塩含有酸が、リン酸である、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項8】
前記リン酸塩含有酸が、以下の式で表される、リン酸エステルである、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法:
【化1】
式中:
R1~R6の各々は、H及び-PO(OR7)2から独立して選択され、ここで、各R7は独立して、H、1~20個の炭素の置換若しくは非置換アルキル、6~20個の炭素の置換若しくは非置換アリール、又は7~21個の炭素のアルキルアリールから選択され;
ただし、R1~R6の少なくとも1つは、-PO(OH)2である。
【請求項9】
R1~R6の少なくとも2つは、-PO(OH)2である、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法
【請求項10】
R1~R6の少なくとも3つは、-PO(OH)2である、請求項9に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項11】
R1~R6の少なくとも4つは、-PO(OH)2である、請求項10に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項12】
R1~R6の少なくとも5つは、-PO(OH)2である、請求項11に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項13】
前記リン酸エステルがフィチン酸である、請求項7に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項14】
R7が、非置換アルキル、アリール若しくはアルキルアリールであるか、又は、R7が、リチウムである、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項15】
前記溶媒が、水である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項16】
前記有機酸が、少なくとも1つのカルボキシル基を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項17】
前記有機酸が、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、スクロース及びポリビニル酸からなる群より選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項18】
前記有機酸が、シュウ酸及びクエン酸からなる群から選択される、請求項17に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項19】
前記有機酸が、シュウ酸であり、前記リン酸塩含有酸の添加前に、該シュウ酸が前記金属源と反応する、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項20】
クエン酸の添加をさらに含む、請求項19に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項21】
当該反応が、少なくとも60℃の温度で行われる、請求項20に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項22】
前記反応が、不活性雰囲気中で行われる、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項23】
前記反応が、不活性雰囲気中ではない、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項24】
前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料が、以下の式を持つ、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法:
LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1;
0 < z ≦ 1;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【請求項25】
xが、0.5 ≦ x ≦ 1である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項26】
xが、0.9 ≦ x ≦ 1である、請求項25に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項27】
yが、0 ≦ y ≦ 0.5である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項28】
zが、0 ≦ z ≦ 0.5である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項29】
前記炭素は、コーティングである、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項30】
少なくとも1重量%の炭素を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項31】
2.5重量%以下の炭素を含む、請求項30に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項32】
1.4~1.7重量%の炭素を含む、請求項31に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項33】
前記乾燥が、薄膜乾燥及び蒸発乾燥から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項34】
前記蒸発乾燥が、150℃~180℃の入口温度での噴霧乾燥を含む、請求項33に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項35】
前記薄膜乾燥が、ドラム乾燥機中での乾燥を含み、該ドラム乾燥機が、加熱されたドラムと、該ドラムの外部の代替熱源とを含む、請求項33に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項36】
前記代替熱源が、赤外線、レーザー熱、及びUV熱から選択される、請求項35に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項37】
前記か焼が、580℃~700℃の温度で行われる、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項38】
前記か焼が、前記乾燥中に前記粉末を回転させることを含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項39】
前記乾燥の前に、前記沈殿物を湿式粉砕することをさらに含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項40】
前記湿式粉砕が、約5~10分/kgの滞留時間で、約10~15m/sのチップ速度で、1~1.2mmのジルコニアビーズを用いて粉砕することを含む、請求項39に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項41】
金属源、リン酸及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することと、
前記溶媒にリチウム源を加えることと、
沈殿物を形成させることと、
前記沈殿物を乾燥させることと、
前記沈殿物を焼成し、それによって前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料を形成し、ここで前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は3重量%までの炭素を含むことと、
を含むリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項42】
前記金属源が、ゼロ価金属を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項43】
前記ゼロ価金属が、Fe、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される、請求項42に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項44】
前記金属源が、元素鉄又は鉄を含む合金を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項45】
鉄を含む前記合金が、鋼である、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項46】
前記溶媒が、水である、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項47】
前記有機酸が、少なくとも1つのカルボキシル基を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項48】
前記有機酸が、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、スクロース及びポリビニル酸からなる群より選択される、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項49】
前記有機酸が、シュウ酸及びクエン酸からなる群から選択される、請求項48に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項50】
前記有機酸が、シュウ酸であり、前記リン酸塩含有酸の添加前に前記シュウ酸が前記金属源と反応する、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項51】
クエン酸の添加をさらに含む、請求項50に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項52】
当該反応が、少なくとも60℃の温度で行われる、請求項51に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項53】
前記反応が、不活性雰囲気中で行われる、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項54】
前記反応が、不活性雰囲気中ではない、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項55】
前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料が、以下の式もつ、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法:
LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1;
0 < z ≦ 1;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【請求項56】
xが、0.5 ≦ x ≦ 1である、請求項55に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項57】
xが、0.9 ≦ x ≦ 1である、請求項56に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項58】
yが、0 ≦ y ≦ 0.5である、請求項55に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項59】
zが、0 ≦ z ≦ 0.5である、請求項56に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項60】
前記炭素が、コーティングである、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項61】
少なくとも1重量%の炭素を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項62】
2.5重量%以下の炭素を含む、請求項61に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項63】
1.4~1.7重量%の炭素を含む、請求項62に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項64】
前記乾燥が、薄膜乾燥及び蒸発乾燥から選択される、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項65】
前記蒸発乾燥が、150℃~180℃の入口温度での噴霧乾燥を含む、請求項64に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項66】
前記薄膜乾燥がドラム乾燥機中での乾燥を含み、前記ドラム乾燥機が、加熱されたドラムと、前記ドラムの外部の代替熱源とを含む、請求項64に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項67】
前記代替熱源が、赤外線、レーザー熱、及びUV熱から選択される、請求項66に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項68】
前記か焼が、580℃~700℃の温度で行われる、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項69】
前記か焼が、前記乾燥中に前記粉末を回転させることを含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項70】
前記乾燥の前に前記沈殿物を湿式粉砕することをさらに含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項71】
前記湿式粉砕が、約5~10分/kgの滞留時間で、約10~15m/sのチップ速度で、1~1.2mmのジルコニアビーズを用いて粉砕することを含む、請求項70に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属リン酸塩LiMPO4(以下、LMPと略すこともある)カソード材料に関し、ここで、Mは、Fe、Mn、Ni又はCo及びそれらの組み合わせを表す。本発明は、又、LMPの合成のための改善された方法に関する。より具体的には、本発明は、低コスト材料からの、カソード材料、LiFePO4(以下、LFPと略すこともある)である、特に好ましいLMPの合成に関する。さらにより好ましくは、本発明は、好ましくはコーティングとして炭素を含む、LMP、特にLFP、の改良された合成に関する。
【0002】
関連出願への相互参照
本出願は、2022年1月21日に出願された係属中の米国仮特許出願第63/301,767号の優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
LMP、より具体的にはLFPは、リチウムイオン電池のための広く使用されているカソード材料である。LFPは、固体プロセス(solid-state process)又は水熱プロセス(hydrothermal process)のいずれかによって商業的に合成され、その両方は複数の時間のかかる工程又は高価な前駆体を必要とする。固体プロセス及び水熱プロセスの両方が、望ましくない不純物を形成することが知られている。最終的なカソード材料は、典型的には導電性を増加させるために炭素源でコーティングされ、それによって、炭素の化学量論が、略記表記LiFePO4/C又は対応する表記LFP/Cで表されないという理解で、炭素コーティングされたリチウム鉄リン酸塩を表す、当技術分野でLiFePO4/Cと呼ばれる材料を形成する。本開示の目的のために、表記LMP/Cは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩であるLiMPO4/Cを指す類似の表記である。
【0004】
固体プロセスは、均一な粒子分布を有する均質な混合物を必要とする。均一な粒子分布を製造スケールで達成することは困難である。高温で大量の固体を機械的に混合及び粉砕することは、望ましくない不純物の形成をもたらす工業環境において制御することが困難なプロセスである。
【0005】
水熱法は、過剰のLiOHを必要とし、副生成物としてLi2SO4廃棄物を生成する。水酸化リチウムは、比較的高価なリチウム源であり、Li2SO4は、リサイクルを必要とする望ましくない副生成物である。Li2SO4をリサイクルする必要性は、製造プロセス全体を複雑にし、コストを増加させる。水熱法は、又、高温での高圧オートクレーブ反応器の使用を必要とし、これは、高容量での高価なプロセスである。
【0006】
合成に伴う困難さを伴っても、LFPは、電池のための好ましいカソード材料として世界中で依然として広く受け入れられている。リチウムイオン電池、特にLFPカソードでの成長が期待される。製造プロセスに対する環境影響、及びLFPの合成に関連するコスト及び困難性についての継続的な認識のために、当業者は、より低コストの原料を使用することができ、より少ない処理を必要とする合成方法に対する長年の要望を有してきた。改良された合成方法が本明細書において提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、好ましくはコーティングとして炭素をさらに含む金属リン酸リチウムを含み、より具体的には、好ましくはコーティングとして炭素を含むリチウム鉄リン酸塩を含むカソード材料の改良された製造方法に関する。
【0008】
より具体的には、本発明は、より低コストの原料又は出発材料を使用するリチウム鉄リン酸塩/炭素(LFP/C)材料の合成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特定の特徴は、元素鉄又は鋼などのゼロ価鉄を含む供給源からLiFePO4/Cを製造することである。
【0010】
これら及び他の実施態様は、実現されるように、リチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するためのプロセスにおいて提供される。
本方法は、以下の工程を含む、リチウム金属リン酸塩カソード材料(lithium metal phosphate cathode material)を形成することを含む:
金属源、リン酸塩含有酸及び有機酸を溶媒中で反応させて金属リン酸塩を形成する工程;
溶媒へのリチウム源の添加;
沈殿物を形成させる;
前記沈殿物を乾燥させる工程;及び
前記沈殿物をか焼する工程、を含み、
それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料(lithium iron phosphate cathode material)を形成し、前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【0011】
さらに別の実施態様は、以下の工程を含むリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するためのプロセスにおいて提供される:
金属源、リン酸及び有機酸を溶媒中で反応させて金属リン酸塩を形成する工程;
溶媒へのリチウム源の添加;
沈殿物を形成させる;
前記沈殿物を乾燥させる工程;及び
前記沈殿物をか焼する工程、を含み、
それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料を形成し、前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、前駆体材料のx線回折(XRD)パターンである。
【0013】
図2図2は、焼成材料のXRDパターンである。
【0014】
図3図3は、C/10~10Cの半電池における速度能力試験のグラフ表示である。
【0015】
図4図4は、100サイクルまでの半電池における1Cサイクルのグラフ表示である。
【0016】
図5図5は、C/10速度での半電池における第1充放電電圧プロファイルのグラフ表示である。
【0017】
図6図6は、代表的な焼成プロファイルのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、より低コストの原料及び最小限の処理を利用する、LMP/C、より具体的にはLiFePO4/Cの改良された合成法に関する。より具体的には、本発明は、鉄又は鉄を含む合金、例えば、鋼(スチールともいう)から直接、元素金属又はゼロ酸化状態の金属を使用してLiFePO4/Cを形成する方法に関する。
【0019】
LiMPO4を合成するための方法は、好ましくは、溶媒中、最も好ましくは水中で、酸及び有機酸を含有するリン酸塩と金属源との反応を利用して、金属リン酸塩、好ましくはリン酸鉄を形成する。次いで、炭酸リチウム又は水酸化リチウム等のリチウム源を添加し、続いて乾燥及びか焼する。有機酸は、炭素を提供し、それによってLMPO4/C、好ましくは、リチウムイオン電池に特に適したカソード材料であるLiFePO4/Cを形成する。
【0020】
本明細書では、便宜上、鉄をニッケル、マンガン、コバルト、又はそれらの組み合わせで等モル基準で置き換えて、同じ方法によって、好適にコーティングとして、好適に炭素を含む、オリビンリチウム金属リン酸塩を達成することができるという理解のもと、リチウム鉄リン酸塩の形成のための方法が記載されており、ここで、リチウム金属リン酸塩又はLFPは、以下の一般式を持つ:

LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1、より好ましくは0.5 ≦ x ≦ 1、最も好ましくは0.9 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1、より好ましくは0 ≦ y ≦ 0.5;
0 < z ≦ 1、より好ましくは0 ≦ z ≦ 0.5;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【0021】
コーティングとして好適に、炭素は、導電性、タップ密度、リチウムイオン拡散、最適な粒径及び相純度等の良好な電気化学的性能を得るために、望ましい。炭素含有量は、又、焼成中のLMPの結晶成長を制御し、粒径は炭素含有量と逆相関する。タップ密度は、又、炭素含有量と逆相関する。さらに、高炭素含有量では、鉄の還元により不純物が出現する。炭素含有量が不十分な場合、鉄の酸化により不純物が形成される。LMPO4/C中の最終炭素含有量は、少なくとも1重量%~3重量%以下であることが、十分なタップ密度及び粒径を有する最適な導電率を達成するために好ましい。
最も好ましくは、LMPO4/C中の炭素含有量は、少なくとも1. 3重量%~2. 5重量%以下であり、1. 4~1. 7重量%が最も好ましい。
LMPO4/C中の炭素含有量が、約2重量%を超えると、電気伝導率は目に見えて改善されず、炭素コーティングの厚さが増加することにつれて、リチウムイオン拡散速度が損なわれる可能性がある。これらの理由から、及び、タップ密度を最大にするために、LMPO4/C中の炭素含有量は、約2重量%以下、より好ましくは約1. 7重量%以下に制限することが好ましい。
【0022】
合成方法は、以下のステップを含む。好適には鉄を含む金属源は、好適にはリン酸を含む水溶液であるリン酸塩含有酸と、結合される。水中で反応させることが好ましく、従って、40重量%リン酸溶液を、それに限定されることなく使用することができる。乾燥中に除去される水の量を最小限にするために、水を最小限にすることが好ましい。有機酸は、好適には、リン酸の前、後、又はリン酸と一緒に添加され、クエン酸又はシュウ酸が好ましい。金属源、リン酸塩含有酸及び有機酸の反応生成物は、金属リン酸塩である。好ましい金属としての鉄では、鉄は主に、最も好ましくは、もっぱら+2酸化状態である。
【0023】
金属源は、元素金属、特に元素鉄、又は鋼(スチール)等のゼロ価金属を含む合金であり得る。
【0024】
別の実施態様では、金属源をシュウ酸と反応させた後、リン酸等のリン酸塩含有酸を添加して、金属リン酸塩を形成する。
【0025】
リン酸塩含有酸は、好ましくはリン酸又は下記式で表されるリン酸エステルである:
【化1】
式中:
R1~R6の各々は、H及び-PO(OR7)2から独立して選択され、ここで、各R7は独立して、H、1~20個の炭素の置換若しくは非置換アルキル、6~20個の炭素の置換若しくは非置換アリール、又は7~21個の炭素のアルキルアリールから選択され;
ただし、R1~R6の少なくとも1つは、-PO(OH)2である。
好ましくは、R1~R6の少なくとも2つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも3つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも4つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも5つは、-PO(OH)2である。
最も好ましくは、R1~R6のそれぞれは、-PO(OH)2であり、ここで、リン酸エステルは、特に好ましくは、フィチン酸である。
R7は、非置換アルキル、アリール若しくはアルキルアリールであることができ、又は、R7は、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウムから選択されるアルカリ金属であることができ、好ましくはリチウムである。
【0026】
リチウム源は、金属リン酸塩に添加され、好ましいリチウム源は、炭酸リチウム又は水酸化リチウムである。
【0027】
金属、特に、鉄は、+2酸化状態に保持され、好ましくは、金属リン酸鉄は、少なくとも50重量%のFe3(PO4)2、より好ましくは、少なくとも75重量%のFe3(PO4)2、最も好ましくは、少なくとも90重量%のFe3(PO4)2であることが好ましい。
【0028】
約90℃以下のような低温での、リン酸鉄の生成のようなFe+3の生成を阻害する状態を、又は、コストの考慮から好ましい、窒素を伴う不活性ガスのような、低レベルの酸素を含む非酸化性雰囲気(不活性雰囲気ともいう)を、利用することが好ましい。
【0029】
シュウ酸が使用される場合、金属はシュウ酸鉄等のシュウ酸塩を形成する。シュウ酸を使用する場合、Fe2+のFe3+への酸化を緩和するために、クエン酸等の還元酸を利用することが好ましい。シュウ酸をクエン酸と組み合わせて使用する場合、約60℃を超える反応温度が特に好ましい。
【0030】
特に好ましい炭素源は、有機酸であり、好ましくはカルボン酸、特に好ましくはジカルボン酸若しくはトリカルボン酸である。約10未満の、好ましくはアルキルの、炭素原子を有するジ及びトリカルボン酸が最も好ましい。特に好ましい酸は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸及びスクロースからなる群から選択される。
クエン酸及びシュウ酸は、それらの低コスト及び広範な入手可能性のために好ましい。特に好適な炭素源としては、シュウ酸、クエン酸又はポリビニル酸が挙げられ、シュウ酸又は“クエン酸とシュウ酸との混合物”が特に好適である。シュウ酸は、反応スラリーの取り扱い特性を改善する。シュウ酸を用いない反応は、焼成後の炭素が不十分である傾向がある。シュウ酸を含まない反応スラリーは、ホットプレート上で加熱されたとき、右の写真に示されるように、厚く、粘性になり、これは、材料の乾燥の容易さに関係する。ポリビニルアルコールも適切な炭素源である。
【0031】
有機酸は、好ましくは、クエン酸一水和物(C6H8O7-H2O)及び、特に好ましくは、シュウ酸二水和物(H2C2O4-2H2O)である。
【0032】
本発明の実証のための特に適切な乾燥方法は、加熱ドラム、好ましくは内部加熱ドラムを含む加熱ドラム乾燥機を、ドラムの外部に赤外線、レーザー熱、又はUVヒーター等の代替熱源と共に組み込む。代替熱源スポットは、ドラムの反対側の表面上の材料を加熱して、特性を変化させるか、又は、特定の材料の乾燥度で反応を引き起こす。
【0033】
薄膜乾燥は、約150~250℃の温度で表面からの伝導を有する生成物を乾燥させることによってバッチプロセスとして達成することができる。材料は、表面から擦り落とされる前に、約1ms~数秒間、表面に固定されたままである。これは、材料が結晶性になり、乾燥後に粘着性にならないことを可能にする。このプロセスでは、水和のさらなる水が除去され、シュウ酸塩分解及びリン酸鉄同素体転化等のいくつかの部分反応が起こり得る。ドラム乾燥は、同様の挙動を有する薄膜乾燥の連続的な変化である。
【0034】
トレイ内での蒸発乾燥は、薄膜乾燥方法と同様の挙動をもたらす。スラリーを、ビーカー上の反応器中で、「泥状」になるまで約90℃で混合しながら乾燥させ、次いで、泥を乾燥対流オーブンに移し、約90℃で一晩処理する。結晶性は、X線回折(XRD)に基づく薄膜乾燥と同様であり、生成物挙動は同様の電気化学的特性を有する。この低温結晶性は、結晶性が、約90℃の温度で経時的に形成されることを示している。
【0035】
比較的低温の乾燥空気雰囲気中での噴霧乾燥は、粉末材料をもたらす。理論に束縛されるものではないが、混合物の好適な粉末の成分のいくつかのガラス転移温度Tg未満にとどまることができると仮定される。入口温度は、約150~180℃、出口温度は、約110~130℃が本発明の実証に適している。
【0036】
金属リン酸塩、リチウム源及び炭素源を含む乾燥粉末を焼成して、LMP/C、好ましくはLiFePO4/Cを得る。不活性ガス(不活性雰囲気ともいう)下での580~700℃のか焼温度が好ましい。約740℃以上では、Fe3P不純物が観察された。約600℃で、好ましくは1~10時間、場合によりN2(g)下での粉末の焼成(firing)若しくはか焼(calcining)が、本発明を実証するために例示される。約1時間未満では、か焼は、不完全であり得る。約10時間を超えると、リン酸塩は分解し始める。約4時間~約10時間のか焼時間が好ましい。不活性ガスは、0.01重量%未満の酸素を含むことが好ましい。
【0037】
シュウ酸リチウムは、556~585℃の範囲で分解するが、一部は、Li2CO3に分解する。Li2CO3をシュウ酸リチウムに変換することによって、LFPが580~700℃の好ましい範囲内で焼成される温度範囲で、該分解を行うことができる。LFP中のFeは、この温度窓(temperature window)においてもLi2CO3及びシュウ酸リチウムの分解を触媒する可能性が高い。
【0038】
約600℃のようなより低温の焼成は、生成物の金属汚染をもたらすことなく、匣鉢を有するローラハース炉(roller hearth with saggars)の代わりに、金属ロータリーキルンを使用することを可能にし得、及び、粉末へのガス曝露の増加により、より良好な生成物品質をもたらす(Lower temperature firing, such as about 600oC, may allow a metal rotary kiln to be used instead of roller hearth with saggars without resulting in metal contamination of product and better product quality due to an increase in gas exposure to the powder.)。
【0039】
4~10時間、580~700℃で最適な焼成を行う。焼成時間は、製造コストを決定する際の温度よりも重要なパラメータであり、これは、炉のスループット(furnace throughput)における制限要因である。
【0040】
分解生成物は、一次分解生成物がか焼温度のガスであるので、必ずしも監視される必要はない。予想される分解生成物には、CO2、CO及びH2Oが含まれる。
【0041】
合成によって達成される一次粒径は、典型的には十分に均一な粒径分布を有する、直径が約200~400nmである。
【0042】
ボールミリング(ball milling)は、粒子の一部を圧縮し、非常に多分散の粒径分布をもたらすので、好ましくない。ボールミリングは、又、リチウムイオン電池の最終製品において典型的に望まれない高い表面積の材料をもたらすが、それはコンデンサ等の他の用途に有用であり得る。
【0043】
中程度のエネルギー入力及び短い滞留時間を有する湿式ビーズミリング(wet bead milling)は、高品質LFPを作製するために特に好ましい。滞留時間約5~10分/kgでの、1~1.2mmジルコニアビーズを用いた湿式粉砕は、本発明の実証に適している。
【0044】
チップ速度(Tip Speed)は、10~15m/sと低くすることができ、これは、このタイプの動作に典型的に使用されるよりも低く、それによって、より高い先端速度での動作よりもエネルギー効率が高い。又、遅いチップ速度は、ビーズ及び機械の摩耗及び裂けを低減する。又、チップ速度を遅くすると、ビーズの破損による生成物のコンタミネーションが減少する。湿式ビーズミルのチップ速度は、湿式ビーズミルが商用スケール単位にスケールアップされるので、ほぼ一定である。
【0045】
焼成又はか焼の間、粉末を回転させることが好ましい。サガー(saggar:炉)内で材料を焼成すると、サガーの各単位体積が、焼成サイクル中に異なる温度及び雰囲気結果を経験するため、サガーを通る材料品質の勾配が生じる。これは、最適以下の平均性能を有する材料をもたらす。サガーの頂部、中央、及び底部の間で、特に深いサガー負荷で、炭素含有量の大きな差が観察される。均一な高品質材料を製造するために、理想的な焼成方法は、材料が焼成されるときに材料を撹拌する方法を含む。
これは、実際にはロータリーキルンにおいて、又は、開放端部とキルン内で材料が回転するときに材料を収容するための幾何学的形状を有する回転セラミック若しくは金属カプセルにおいて、達成することができる(This can be accomplished practically in a rotary kiln or in a rotating ceramic or metal capsule with open ends and a geometry to contain the material as it rotates in the kiln.)。
【0046】
か焼化粉末(calcined powder)は、シーバー(siever:篩)の使用等による、サイズによって、又は必要に応じてジェットミリングによって、セグメント化することができる。
【0047】
サガー焼成化材料との比較において、回転カプセル(rotary capsule)で焼成された材料によって、同様の電気化学容量が得られる。該カプセルは、より均一な特性を有することが見出され、理論的には、最適に焼成されたとき、カプセル材料(カプセルで処理された材料?)がより高い全体的な性能を達成することができると予想される。
【0048】
鉄塩とリン酸塩との反応は、Fe(II)の酸化を防止するために不活性ガス(不活性雰囲気ともいう)中で行うことができる。本発明の目的のために、不活性ガスは、Fe(II)を酸化しないガスとして定義される。好適なガスとしては、N2及び貴ガス(noble gas)が挙げられるが、これらに限定されない。N2 好ましくは0.01重量%未満の酸素で、比較的低コストであり、広範囲の利用可能性のために、特に好ましい。
【0049】
本明細書全体を通して、化学量論量は、実験誤差内の適切な化学量論で得られる生成物を形成するのに十分な量での反応物の添加を指す。本明細書で定義される化学量論量は、所望の理論的化学量論的等量(theoretical stoichiometric equivalent desired)の少なくとも5モル%以内、好ましくは所望の理論的化学量論量の1モル%以内である。例として、化学量論的等量のリチウム及びリン酸塩は、好ましくは0.95:1~1.05:1、好ましくは0.99:1~1.01:1のリチウム対リン酸塩のモル比を有する。
【0050】
このプロセスは、現在利用可能な装置及び/又は本産業装置の革新を使用する大規模製造のために容易に拡張可能である。本発明のカソードは、バッテリに組み込まれ、バッテリは、本明細書に限定されないアノード、本明細書に限定されないセパレータ、及び本明細書に限定されない誘電体(dielectric:絶縁体)を含む。本明細書に記載される本発明のカソード、アノード、セパレータ及び誘電体からのバッテリの形成は、当業者に周知であり、さらなる詳細は、本明細書では必要ではない。
【実施例
【0051】
LiFePO4/Cへの前駆体は、脱イオン水中のH3PO4の25重量%溶液196gに、ゼロ価鉄金属粉末28.00gを添加することにより調製した。この混合物を、2Lガラスジャケット反応器中、20℃で、オーバーヘッドミキサーを用いて撹拌した。鉄金属粉末の該添加から15分後に、12.61gのH2C2O4・2H2Oを加え、該鉄金属粉末から20分後に、24.01gのC6H8O7を加えた。
別のビーカーにおいて、19.03gのLi2CO3を250mLの脱イオン水に添加して懸濁液を形成した。この懸濁液を、ジャケット付き反応器中の溶液に、鉄金属粉末の該添加の45分後から開始して、0.38g Li2CO3/分の添加速度でポンプ液滴(pump dropwise)した。次いで、この溶液を、ジャケット付き反応器中で80℃に加熱し、22時間反応させた。当該最終混合物をポンプで送り出し、噴霧乾燥して前駆体粉末を得た。
9gの該前駆体粉末を、N2流速100cc/minのN2雰囲気下、石英管炉中のサガー中で焼成した。30分間の保持時間で、100℃まで昇温した後、8時間の保持時間で、600℃まで昇温した。5℃/分のランプ率(ramp rate:傾斜率)を、焼成プロセス全体を通して使用した。
水和物として提示された前駆体材料のXRDを図1に示す。焼成材料のXRDを図2に示す。図3に、C/10~10の半電池で試験した速度能力を示す。図4には、100サイクルまでの半電池における1Cサイクルが提供されており、エラーバーは3つの電池の標準偏差を表す。図5に、C/10レートのハーフセルにおける第1充放電電圧プロファイルを示す。時間の関数としての焼成温度のグラフ表示を図6に示す。
表1:物理的特性の要約
【表1】
【0052】
本発明は、好ましい実施態様を参照して説明されたが、それらに限定されない。本明細書に具体的に記載されていないが、本明細書に添付の特許請求の範囲により具体的に記載されている本発明の範囲内にある、さらなる実施態様及び改良が実現され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-12-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、リチウム金属リン酸塩カソード材料(lithium metal phosphate cathode material)を形成するための方法:
元素金属源、リン酸塩含有酸(phosphate containing acid)及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することと、
前記溶媒にリチウム源を加えることと、
沈殿物を形成させることと、
前記沈殿物を乾燥させることと、
前記沈殿物をか焼し(calcining)、それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料(lithium iron phosphate cathode material)を形成すること;ここで前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【請求項2】
前記元素金属源が、ゼロ価金属を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項3】
前記ゼロ価金属が、Fe、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される、請求項2に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項4】
前記元素金属源が、元素鉄又は鉄を含む合金を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項5】
前記鉄を含む合金が、鋼である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項6】
前記リン酸塩含有酸が、リン酸及びリン酸エステルからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項7】
前記リン酸塩含有酸が、リン酸である、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項8】
前記リン酸塩含有酸が、以下の式で表される、リン酸エステルである、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法:
【化1】
式中:
R1~R6の各々は、H及び-PO(OR7)2から独立して選択され、ここで、各R7は独立して、H、リチウム、1~20個の炭素の置換若しくは非置換アルキル、6~20個の炭素の置換若しくは非置換アリール、又は7~21個の炭素のアルキルアリールから選択され;
ただし、R1~R6の少なくとも1つは、-PO(OH)2である。
【請求項9】
R1~R6の少なくとも2つは、-PO(OH)2である、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法
【請求項10】
R1~R6の少なくとも3つは、-PO(OH)2である、請求項9に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項11】
R1~R6の少なくとも4つは、-PO(OH)2である、請求項10に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項12】
R1~R6の少なくとも5つは、-PO(OH)2である、請求項11に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項13】
前記リン酸エステルがフィチン酸である、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項14】
R7が、1~20個の炭素の非置換アルキル、6~20個の炭素のアリール、1~20個の炭素のアルキルアリールであるか、又は、R7が、リチウムである、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項15】
前記溶媒が、水である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項16】
前記有機酸が、少なくとも1つのカルボキシル基を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項17】
前記有機酸がシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、スクロース及びポリビニル酸からなる群より選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項18】
前記有機酸が、シュウ酸及びクエン酸からなる群から選択される、請求項17に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項19】
前記有機酸が、シュウ酸であり、前記リン酸塩含有酸の添加前に、該シュウ酸が前記元素金属源と反応する、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項20】
クエン酸の添加をさらに含む、請求項19に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項21】
当該反応が、少なくとも60℃の温度で行われる、請求項20に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項22】
当該反応が、不活性雰囲気中で行われる、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項23】
当該反応が、不活性雰囲気中ではない、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項24】
前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料が、以下の式を持つ、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法:
LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1;
0 < z ≦ 1;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【請求項25】
xが、0.5 ≦ x ≦ 1である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項26】
xが、0.9 ≦ x ≦ 1である、請求項25に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項27】
yが、0 < y ≦ 0.5である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項28】
zが、0 < z ≦ 0.5である、請求項24に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項29】
前記炭素は、コーティングである、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項30】
少なくとも1重量%の炭素を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項31】
2.5重量%以下の炭素を含む、請求項30に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項32】
1.4~1.7重量%の炭素を含む、請求項31に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項33】
前記乾燥が、薄膜乾燥及び蒸発乾燥から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項34】
前記蒸発乾燥が、150℃~180℃の入口温度での噴霧乾燥を含む、請求項33に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項35】
前記薄膜乾燥が、ドラム乾燥機中での乾燥を含み、該ドラム乾燥機が、加熱されたドラムと、該ドラムの外部の代替熱源とを含む、請求項33に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項36】
前記代替熱源が、赤外線、レーザー熱、及びUV熱から選択される、請求項35に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項37】
前記か焼が、580℃~700℃の温度で行われる、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項38】
前記か焼が、前記乾燥中に前記粉末を回転させることを含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項39】
前記乾燥の前に、前記沈殿物を湿式粉砕することをさらに含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項40】
前記湿式粉砕が、約5~10分/kgの滞留時間で、約10~15m/sのチップ速度で、1~1.2mmのジルコニアビーズを用いて粉砕することを含む、請求項39に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項41】
元素金属源、リン酸及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することと、
前記溶媒にリチウム源を加えることと、
沈殿物を形成させることと、
前記沈殿物を乾燥させることと、
前記沈殿物を焼成し、それによって前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料を形成し、ここで前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は3重量%までの炭素を含むことと、
を含むリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項42】
前記元素金属源が、ゼロ価金属を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項43】
前記ゼロ価金属が、Fe、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される、請求項42に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項44】
前記元素金属源が、元素鉄又は鉄を含む合金を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項45】
鉄を含む前記合金が、鋼である、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項46】
前記溶媒が、水である、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項47】
前記有機酸が、少なくとも1つのカルボキシル基を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項48】
前記有機酸がシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、スクロース及びポリビニル酸からなる群より選択される、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項49】
前記有機酸が、シュウ酸及びクエン酸からなる群から選択される、請求項48に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項50】
前記有機酸が、シュウ酸であり、前記リン酸塩含有酸の添加前に前記シュウ酸が前記元素金属源と反応する、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項51】
クエン酸の添加をさらに含む、請求項50に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項52】
当該反応が、少なくとも60℃の温度で行われる、請求項51に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項53】
前記反応が、不活性雰囲気中で行われる、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項54】
前記反応が、不活性雰囲気中ではない、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項55】
前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料が、以下の式もつ、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法:
LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1;
0 < z ≦ 1;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【請求項56】
xが、0.5 ≦ x ≦ 1である、請求項55に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項57】
xが、0.9 ≦ x ≦ 1である、請求項56に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項58】
yが、0 < y ≦ 0.5である、請求項55に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項59】
zが、0 < z ≦ 0.5である、請求項56に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項60】
前記炭素が、コーティングである、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項61】
少なくとも1重量%の炭素を含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項62】
2.5重量%以下の炭素を含む、請求項61に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項63】
1.4~1.7重量%の炭素を含む、請求項62に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項64】
前記乾燥が、薄膜乾燥及び蒸発乾燥から選択される、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項65】
前記蒸発乾燥が、150℃~180℃の入口温度での噴霧乾燥を含む、請求項64に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項66】
前記薄膜乾燥がドラム乾燥機中での乾燥を含み、前記ドラム乾燥機が、加熱されたドラムと、前記ドラムの外部の代替熱源とを含む、請求項64に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項67】
前記代替熱源が、赤外線、レーザー熱、及びUV熱から選択される、請求項66に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項68】
前記か焼が、580℃~700℃の温度で行われる、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の形成方法。
【請求項69】
前記か焼が、前記乾燥中に前記粉末を回転させることを含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項70】
前記乾燥の前に前記沈殿物を湿式粉砕することをさらに含む、請求項41に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項71】
前記湿式粉砕が、約5~10分/kgの滞留時間で、約10~15m/sのチップ速度で、1~1.2mmのジルコニアビーズを用いて粉砕することを含む、請求項70に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属リン酸塩LiMPO4(LMP)カソード材料に関し、ここで、Mは、Fe、Mn、Ni又はCo及びそれらの組み合わせを表す。本発明は、又、LMPの合成のための改善された方法に関する。より具体的には、本発明は、低コスト材料からの、カソード材料、LiFePO4(LFP)である、特に好ましいLMPの合成に関する。さらにより好ましくは、本発明は、好ましくはコーティングとして炭素を含む、LMP、特にLFP、の改良された合成に関する。
【0002】
関連出願への相互参照
本出願は、2022年1月21日に出願された係属中の米国仮特許出願第63/301,767号の優先権を主張するものであり、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
LMP、より具体的にはLFPは、リチウムイオン電池のための広く使用されているカソード材料である。LFPは、固体プロセス(solid-state process)又は水熱プロセス(hydrothermal process)のいずれかによって商業的に合成され、その両方は複数の時間のかかる工程又は高価な前駆体を必要とする。固体プロセス及び水熱プロセスの両方が、望ましくない不純物を形成することが知られている。最終的なカソード材料は、典型的には導電性を増加させるために炭素源でコーティングされ、それによって、炭素の化学量論が、略記表記LiFePO4/C又は対応する表記LFP/Cで表されないという理解で、炭素コーティングされたリチウム鉄リン酸塩を表す、当技術分野でLiFePO4/Cと呼ばれる材料を形成する。本開示の目的のために、表記LMP/Cは、炭素被覆リチウム金属リン酸塩であるLiMPO4/Cを指す類似の表記である。
【0004】
固体プロセスは、均一な粒子分布を有する均質な混合物を必要とする。均一な粒子分布を製造スケールで達成することは困難である。高温で大量の固体を機械的に混合及び粉砕することは、望ましくない不純物の形成をもたらす工業環境において制御することが困難なプロセスである。
【0005】
水熱法は、過剰のLiOHを必要とし、副生成物としてLi2SO4廃棄物を生成する。水酸化リチウムは、比較的高価なリチウム源であり、Li2SO4は、リサイクルを必要とする望ましくない副生成物である。Li2SO4をリサイクルする必要性は、製造プロセス全体を複雑にし、コストを増加させる。水熱法は、又、高温での高圧オートクレーブ反応器の使用を必要とし、これは、高容量での高価なプロセスである。
【0006】
合成に伴う困難さを伴っても、LFPは、電池のための好ましいカソード材料として世界中で依然として広く受け入れられている。リチウムイオン電池、特にLFPカソードでの成長が期待される。製造プロセスに対する環境影響、及びLFPの合成に関連するコスト及び困難性についての継続的な認識のために、当業者は、より低コストの原料を使用することができ、より少ない処理を必要とする合成方法に対する長年の要望を有してきた。改良された合成方法が本明細書において提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、好ましくはコーティングとして炭素をさらに含む金属リン酸リチウムを含み、より具体的には、好ましくはコーティングとして炭素を含むリチウム鉄リン酸塩を含むカソード材料の改良された製造方法に関する。
【0008】
より具体的には、本発明は、より低コストの原料又は出発材料を使用するリチウム鉄リン酸塩/炭素(LFP/C)材料の合成方法に関する。
となる入力位置を目視確認できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特定の特徴は、元素鉄又は鋼などのゼロ価鉄を含む供給源からLiFePO4/Cを製造することである。
【0010】
これら及び他の実施態様は、実現されるように、リチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するためのプロセスにおいて提供される。
本方法は、以下の工程を含む、リチウム金属リン酸塩カソード材料(lithium metal phosphate cathode material)を形成することを含む:
金属源、リン酸塩含有酸及び有機酸を溶媒中で反応させて金属リン酸塩を形成する工程;
溶媒へのリチウム源の添加;
沈殿物を形成させる;
前記沈殿物を乾燥させる工程;及び
前記沈殿物をか焼する工程、を含み、
それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料(lithium iron phosphate cathode material)を形成し、前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【0011】
さらに別の実施態様は、以下の工程を含むリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するためのプロセスにおいて提供される:
金属源、リン酸及び有機酸を溶媒中で反応させて金属リン酸塩を形成する工程;
溶媒へのリチウム源の添加;
沈殿物を形成させる;
前記沈殿物を乾燥させる工程;及び
前記沈殿物をか焼する工程、を含み、
それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料を形成し、前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、前駆体材料のx線回折(XRD)パターンである。
【0013】
図2図2は、焼成材料のXRDパターンである。
【0014】
図3図3は、C/10~10Cの半電池における速度能力試験のグラフ表示である。
【0015】
図4図4は、100サイクルまでの半電池における1Cサイクルのグラフ表示である。
【0016】
図5図5は、C/10速度での半電池における第1充放電電圧プロファイルのグラフ表示である。
【0017】
図6図6は、代表的な焼成プロファイルのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、より低コストの原料及び最小限の処理を利用する、LMP/C、より具体的にはLiFePO4/Cの改良された合成法に関する。より具体的には、本発明は、鉄又は鉄を含む合金、例えば、鋼(スチールともいう)から直接、元素金属又はゼロ酸化状態の金属を使用してLiFePO4/Cを形成する方法に関する。
【0019】
LiMPO4を合成するための方法は、好ましくは、溶媒中、最も好ましくは水中で、酸及び有機酸を含有するリン酸塩と金属源との反応を利用して、金属リン酸塩、好ましくはリン酸鉄を形成する。次いで、炭酸リチウム又は水酸化リチウム等のリチウム源を添加し、続いて乾燥及びか焼する。有機酸は、炭素を提供し、それによってLMPO4/C、好ましくは、リチウムイオン電池に特に適したカソード材料であるLiFePO4/Cを形成する。
【0020】
本明細書では、便宜上、鉄をニッケル、マンガン、コバルト、又はそれらの組み合わせで等モル基準で置き換えて、同じ方法によって、好適にコーティングとして、好適に炭素を含む、オリビンリチウム金属リン酸塩を達成することができるという理解のもと、リチウム鉄リン酸塩の形成のための方法が記載されており、ここで、リチウム金属リン酸塩又はLFPは、以下の一般式を持つ:

LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1、より好ましくは0.5 ≦ x ≦ 1、最も好ましくは0.9 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1、より好ましくは0 ≦ y ≦ 0.5;
0 < z ≦ 1、より好ましくは0 ≦ z ≦ 0.5;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【0021】
コーティングとして好適に、炭素は、導電性、タップ密度、リチウムイオン拡散、最適な粒径及び相純度等の良好な電気化学的性能を得るために望ましい。炭素含有量は、又、焼成中のLMPの結晶成長を制御し、粒径は炭素含有量と逆相関する。タップ密度は、又、炭素含有量と逆相関する。さらに、高炭素含有量では、鉄の還元により不純物が出現する。炭素含有量が不十分な場合、鉄の酸化により不純物が形成される。LMPO4/C中の最終炭素含有量は、少なくとも1重量%~3重量%以下であることが、十分なタップ密度及び粒径を有する最適な導電率を達成するために好ましい。
最も好ましくは、LMPO4/C中の炭素含有量は、少なくとも1. 3重量%~2. 5重量%以下であり、1. 4~1. 7重量%が最も好ましい。
LMPO4/C中の炭素含有量が、約2重量%を超えると、電気伝導率は目に見えて改善されず、炭素コーティングの厚さが増加することにつれて、リチウムイオン拡散速度が損なわれる可能性がある。これらの理由から、及び、タップ密度を最大にするために、LMPO4/C中の炭素含有量は、約2重量%以下、より好ましくは約1. 7重量%以下に制限することが好ましい。
【0022】
合成方法は、以下のステップを含む。好適には鉄を含む金属源は、好適にはリン酸を含む水溶液であるリン酸塩含有酸と、結合される。水中で反応させることが好ましく、従って、40重量%リン酸溶液を、それに限定されることなく使用することができる。乾燥中に除去される水の量を最小限にするために、水を最小限にすることが好ましい。有機酸は、好適には、リン酸の前、後、又はリン酸と一緒に添加され、クエン酸又はシュウ酸が好ましい。金属源、リン酸塩含有酸及び有機酸の反応生成物は、金属リン酸塩である。好ましい金属としての鉄について、鉄は、主に、最も好ましくは、もっぱら+2酸化状態である。
【0023】
金属源は、元素金属、特に元素鉄、又は鋼(スチール)等のゼロ価金属を含む合金であり得る。
【0024】
別の実施態様では、金属源をシュウ酸と反応させた後、リン酸等のリン酸塩含有酸を添加して、金属リン酸塩を形成する。
【0025】
リン酸塩含有酸は、好ましくはリン酸又は下記式で表されるリン酸エステルである:
【化1】
式中:
R1~R6の各々は、H及び-PO(OR7)2から独立して選択され、ここで、各R7は独立して、H、1~20個の炭素の置換若しくは非置換アルキル、6~20個の炭素の置換若しくは非置換アリール、又は7~21個の炭素のアルキルアリールから選択され;
ただし、R1~R6の少なくとも1つは、-PO(OH)2である。
好ましくは、R1~R6の少なくとも2つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも3つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも4つは、-PO(OH)2である。
より好ましくは、R1~R6の少なくとも5つは、-PO(OH)2である。
最も好ましくは、R1~R6のそれぞれは、-PO(OH)2であり、ここで、リン酸エステルは、特に好ましくは、フィチン酸である。
R7は、非置換アルキル、アリール若しくはアルキルアリールであることができ、又は、R7は、好ましくはリチウム、ナトリウム及びカリウムから選択されるアルカリ金属であることができ、好ましくはリチウムである。
【0026】
リチウム源は、金属リン酸塩に添加され、好ましいリチウム源は、炭酸リチウム又は水酸化リチウムである。
【0027】
金属、特に、鉄は、+2酸化状態に保持され、好ましくは、金属リン酸鉄は、少なくとも50重量%のFe3(PO4)2、より好ましくは、少なくとも75重量%のFe3(PO4)2、最も好ましくは、少なくとも90重量%のFe3(PO4)2であることが好ましい。
【0028】
約90℃以下のような低温での、リン酸鉄の生成のようなFe+3の生成を阻害する状態を、又は、コストの考慮から好ましい、窒素を伴う不活性ガスのような、低レベルの酸素を含む非酸化性雰囲気(不活性雰囲気ともいう)を、利用することが好ましい。
【0029】
シュウ酸が使用される場合、金属はシュウ酸鉄等のシュウ酸塩を形成する。シュウ酸を使用する場合、Fe2+のFe3+への酸化を緩和するために、クエン酸等の還元酸を利用することが好ましい。シュウ酸をクエン酸と組み合わせて使用する場合、約60℃を超える反応温度が特に好ましい。
【0030】
特に好ましい炭素源は、有機酸であり、好ましくはカルボン酸、特に好ましくはジカルボン酸若しくはトリカルボン酸である。約10未満の、好ましくはアルキルの、炭素原子を有するジ及びトリカルボン酸が最も好ましい。特に好ましい酸は、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸及びスクロースからなる群から選択される。
クエン酸及びシュウ酸は、それらの低コスト及び広範な入手可能性のために好ましい。特に好適な炭素源としては、シュウ酸、クエン酸又はポリビニル酸が挙げられ、シュウ酸又は“クエン酸とシュウ酸との混合物”が特に好適である。シュウ酸は、反応スラリーの取り扱い特性を改善する。シュウ酸を用いない反応は、焼成後の炭素が不十分である傾向がある。シュウ酸を含まない反応スラリーは、ホットプレート上で加熱されたとき、右の写真に示されるように、厚く、粘性になり、これは、材料の乾燥の容易さに関係する。ポリビニルアルコールも適切な炭素源である。
【0031】
有機酸は、好ましくは、クエン酸一水和物(C6H8O7-H2O)であり、及び、シュウ酸二水和物(H2C2O4-2H2O)が特に好ましい。
【0032】
本発明の実証のための特に適切な乾燥方法は、加熱ドラム、好ましくは内部加熱ドラムを含む加熱ドラム乾燥機を、ドラムの外部に赤外線、レーザー熱、又はUVヒーター等の代替熱源と共に組み込む。代替熱源スポットは、ドラムの反対側の表面上の材料を加熱して、特性を変化させるか、又は、特定の材料の乾燥度で反応を引き起こす。
【0033】
薄膜乾燥は、約150~250℃の温度で表面からの伝導を有する生成物を乾燥させることによってバッチプロセスとして達成することができる。材料は、表面から擦り落とされる前に、約1ms~数秒間、表面に固定されたままである。これは、材料が結晶性になり、乾燥後に粘着性にならないことを可能にする。このプロセスでは、水和のさらなる水が除去され、シュウ酸塩分解及びリン酸鉄同素体転化等のいくつかの部分反応が起こり得る。ドラム乾燥は、同様の挙動を有する薄膜乾燥の連続的な変化である。
【0034】
トレイ内での蒸発乾燥は、薄膜乾燥方法と同様の挙動をもたらす。スラリーを、ビーカー上の反応器中で、「泥状」になるまで約90℃で混合しながら乾燥させ、次いで、泥を乾燥対流オーブンに移し、約90℃で一晩処理する。結晶性は、X線回折(XRD)に基づく薄膜乾燥と同様であり、生成物挙動は同様の電気化学的特性を有する。この低温結晶性は、結晶性が、約90℃の温度で経時的に形成されることを示している。
【0035】
比較的低温の乾燥空気雰囲気中での噴霧乾燥は、粉末材料をもたらす。理論に束縛されるものではないが、混合物の好適な粉末の成分のいくつかのガラス転移温度Tg未満にとどまることができると仮定される。入口温度は、約150~180℃、出口温度は、約110~130℃が本発明の実証に適している。
【0036】
金属リン酸塩、リチウム源及び炭素源を含む乾燥粉末を焼成して、LMP/C、好ましくはLiFePO4/Cを得る。不活性ガス(不活性雰囲気ともいう)下での580~700℃のか焼温度が好ましい。約740℃以上では、Fe3P不純物が観察された。約600℃で、好ましくは1~10時間、場合によりN2(g)下での粉末の焼成(firing)若しくはか焼(calcining)が、本発明を実証するために例示される。約1時間未満では、か焼は、不完全であり得る。約10時間を超えると、リン酸塩は分解し始める。約4時間~約10時間のか焼時間が好ましい。不活性ガスは、0.01重量%未満の酸素を含むことが好ましい。
【0037】
シュウ酸リチウムは、556~585℃の範囲で分解するが、一部は、Li2CO3に分解する。Li2CO3をシュウ酸リチウムに変換することによって、LFPが580~700℃の好ましい範囲内で焼成される温度範囲で、該分解を行うことができる。LFP中のFeは、この温度窓(temperature window)においてもLi2CO3及びシュウ酸リチウムの分解を触媒する可能性が高い。
【0038】
約600℃のようなより低温の焼成は、生成物の金属汚染をもたらすことなく、匣鉢を有するローラハース炉(roller hearth with saggars)の代わりに、金属ロータリーキルンを使用することを可能にし得、及び、粉末へのガス曝露の増加により、より良好な生成物品質をもたらす(Lower temperature firing, such as about 600oC, may allow a metal rotary kiln to be used instead of roller hearth with saggars without resulting in metal contamination of product and better product quality due to an increase in gas exposure to the powder.)。
【0039】
4~10時間、580~700℃で最適な焼成を行う。焼成時間は、製造コストを決定する際の温度よりも重要なパラメータであり、これは、炉のスループット(furnace throughput)における制限要因である。
【0040】
分解生成物は、一次分解生成物がか焼温度のガスであるので、必ずしも監視される必要はない。予想される分解生成物には、CO2、CO及びH2Oが含まれる。
【0041】
合成によって達成される一次粒径は、典型的には十分に均一な粒径分布を有する、直径が約200~400nmである。
【0042】
ボールミリング(ball milling)は、粒子の一部を圧縮し、非常に多分散の粒径分布をもたらすので、好ましくない。ボールミリングは、又、リチウムイオン電池の最終製品において典型的に望まれない高い表面積の材料をもたらすが、それはコンデンサ等の他の用途に有用であり得る。
【0043】
中程度のエネルギー入力及び短い滞留時間を有する湿式ビーズミリング(wet bead milling)は、高品質LFPを作製するために特に好ましい。滞留時間約5~10分/kgでの、1~1.2mmジルコニアビーズを用いた湿式粉砕は、本発明の実証に適している。
【0044】
チップ速度(Tip Speed)は、10~15m/sと低くすることができ、これは、このタイプの動作に典型的に使用されるよりも低く、それによって、より高い先端速度での動作よりもエネルギー効率が高い。又、遅いチップ速度は、ビーズ及び機械の摩耗及び裂けを低減する。又、チップ速度を遅くすると、ビーズの破損による生成物のコンタミネーションが減少する。湿式ビーズミルのチップ速度は、湿式ビーズミルが商用スケール単位にスケールアップされるので、ほぼ一定である。
【0045】
焼成又はか焼の間、粉末を回転させることが好ましい。サガー(saggar:炉)内で材料を焼成すると、サガーの各単位体積が、焼成サイクル中に異なる温度及び雰囲気結果を経験するため、サガーを通る材料品質の勾配が生じる。これは、最適以下の平均性能を有する材料をもたらす。サガーの頂部、中央、及び底部の間で、特に深いサガー負荷で、炭素含有量の大きな差が観察される。均一な高品質材料を製造するために、理想的な焼成方法は、材料が焼成されるときに材料を撹拌する方法を含む。
これは、実際にはロータリーキルンにおいて、又は、開放端部とキルン内で材料が回転するときに材料を収容するための幾何学的形状を有する回転セラミック若しくは金属カプセルにおいて、達成することができる(This can be accomplished practically in a rotary kiln or in a rotating ceramic or metal capsule with open ends and a geometry to contain the material as it rotates in the kiln).。
【0046】
か焼化粉末(calcined powder)は、シーバー(siever:篩)の使用等による、サイズによって、又は必要に応じてジェットミリングによって、セグメント化することができる。
【0047】
サガー焼成化材料との比較において、回転カプセル(rotary capsule)で焼成された材料によって、同様の電気化学容量が得られる。該カプセルは、より均一な特性を有することが見出され、理論的には、最適に焼成されたとき、カプセル材料(カプセルで処理された材料?)がより高い全体的な性能を達成することができると予想される。
【0048】
鉄塩とリン酸塩との反応は、Fe(II)の酸化を防止するために不活性ガス(不活性雰囲気ともいう)中で行うことができる。本発明の目的のために、不活性ガスは、Fe(II)を酸化しないガスとして定義される。好適なガスとしては、N2及び貴ガス(noble gas)が挙げられるが、これらに限定されない。N2 好ましくは0.01重量%未満の酸素で、比較的低コストであり、広範囲の利用可能性のために、特に好ましい。
【0049】
本明細書全体を通して、化学量論量は、実験誤差内の適切な化学量論で得られる生成物を形成するのに十分な量での反応物の添加を指す。本明細書で定義される化学量論量は、所望の理論的化学量論的等量(theoretical stoichiometric equivalent desired)の少なくとも5モル%以内、好ましくは所望の理論的化学量論量の1モル%以内である。例として、化学量論的等量のリチウム及びリン酸塩は、好ましくは0.95:1~1.05:1、好ましくは0.99:1~1.01:1のリチウム対リン酸塩のモル比を有する。
【0050】
このプロセスは、現在利用可能な装置及び/又は本産業装置の革新を使用する大規模製造のために容易に拡張可能である。本発明のカソードは、バッテリに組み込まれ、バッテリは、本明細書に限定されないアノード、本明細書に限定されないセパレータ、及び本明細書に限定されない誘電体(dielectric:絶縁体)を含む。本明細書に記載される本発明のカソード、アノード、セパレータ及び誘電体からのバッテリの形成は、当業者に周知であり、さらなる詳細は、本明細書では必要ではない。
【実施例
【0051】
LiFePO4/Cへの前駆体は、脱イオン水中のH3PO4の25重量%溶液196gに、ゼロ価鉄金属粉末28.00gを添加することにより調製した。この混合物を、2Lガラスジャケット反応器中、20℃で、オーバーヘッドミキサーを用いて撹拌した。鉄金属粉末の該添加から15分後に、12.61gのH2C2O4・2H2Oを加え、該鉄金属粉末から20分後に、24.01gのC6H8O7を加えた。
別のビーカーにおいて、19.03gのLi2CO3を250mLの脱イオン水に添加して懸濁液を形成した。この懸濁液を、ジャケット付き反応器中の溶液に、鉄金属粉末の該添加の45分後から開始して、0.38g Li2CO3/分の添加速度でポンプ液滴(pump dropwise)した。次いで、この溶液を、ジャケット付き反応器中で80℃に加熱し、22時間反応させた。当該最終混合物をポンプで送り出し、噴霧乾燥して前駆体粉末を得た。
9gの該前駆体粉末を、N2流速100cc/minのN2雰囲気下、石英管炉中のサガー中で焼成した。30分間の保持時間で、100℃まで昇温した後、8時間の保持時間で、600℃まで昇温した。5℃/分のランプ率(ramp rate:傾斜率)を焼成プロセス全体を通して使用した。
水和物として提示された前駆体材料のXRDを図1に示す。焼成材料のXRDを図2に示す。図3に、C/10~10の半電池で試験した速度能力を示す。図4には、100サイクルまでの半電池における1Cサイクルが提供されており、エラーバーは3つの電池の標準偏差を表す。図5に、C/10レートのハーフセルにおける第1充放電電圧プロファイルを示す。時間の関数としての焼成温度のグラフ表示を図6に示す。
表1:物理的特性の要約
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、リチウム金属リン酸塩カソード材料(lithium metal phosphate cathode material)を形成するための方法:
元素金属源、リン酸塩含有酸(phosphate containing acid)若しくはリン酸及び有機酸を溶媒中で反応させて、金属リン酸塩を形成することと、
前記溶媒にリチウム源を加えることと、
沈殿物を形成させることと、
前記沈殿物を乾燥させることと、
前記沈殿物をか焼し(calcining)、それによってリチウム鉄リン酸塩カソード材料(lithium iron phosphate cathode material)を形成すること;ここで前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料は、3重量%までの炭素を含む。
【請求項2】
前記元素金属源が、ゼロ価金属を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項3】
前記ゼロ価金属が、Fe、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される、請求項2に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項4】
前記元素金属源が、元素鉄又は鉄を含む合金を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項5】
前記鉄を含む合金が、鋼である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項6】
前記リン酸塩含有酸若しくはリン酸が、リン酸及びリン酸エステルからなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項7】
前記リン酸塩含有酸が、リン酸である、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項8】
前記リン酸塩含有酸が、以下の式で表される、リン酸エステルである、請求項6に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法:
【化1】
式中:
R1~R6の各々は、H及び-PO(OR7)2から独立して選択され、ここで、各R7は独立して、H、リチウム、1~20個の炭素の置換若しくは非置換アルキル、6~20個の炭素の置換若しくは非置換アリール、又は7~21個の炭素のアルキルアリールから選択され;
ただし、R1~R6の少なくとも1つは、-PO(OH)2である。
【請求項9】
R1~R6の少なくとも2つは、若しくは少なくとも3つは、若しくは少なくとも4つは、若しくは少なくとも5つは、-PO(OH)2である、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法
【請求項10】
前記リン酸エステルが、フィチン酸である、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項11】
R7が、1~20個の炭素の非置換アルキル、6~20個の炭素のアリール、7~21個の炭素のアルキルアリール、又は、リチウムである、請求項8に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項12】
前記溶媒が、水である、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成する方法。
【請求項13】
前記有機酸が、少なくとも1つのカルボキシル基を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項14】
前記有機酸が、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3-トリカルボン酸、スクロース及びポリビニル酸からなる群より選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項15】
前記有機酸が、シュウ酸及びクエン酸からなる群から選択される、請求項14に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項16】
前記有機酸が、シュウ酸であり、前記リン酸塩含有酸の添加前に、該シュウ酸が前記元素金属源と反応する、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項17】
クエン酸の添加をさらに含む、請求項16に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項18】
当該反応が、少なくとも60℃の温度で行われる、請求項17に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項19】
当該反応が、不活性雰囲気中で行われる、又は不活性雰囲気中ではない、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項20】
前記リチウム鉄リン酸塩カソード材料が、以下の式を持つ、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法:
LiFexNiaMnyCozPO4
ここで、 x + a + y + z = 1であり、
式中:
0 ≦ x ≦ 1;
0 < y ≦ 1;
0 < z ≦ 1;及び
0 < a ≦ 0.1である。
【請求項21】
xが、0.5 ≦ x ≦ 1である、又は0.9 ≦ x ≦ 1である、請求項20に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項22】
yが、0 < y ≦ 0.5である、請求項20に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項23】
zが、0 < z ≦ 0.5である、請求項20に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項24】
前記炭素は、コーティングである、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項25】
少なくとも1重量%の炭素を含む、又は2.5重量%以下の炭素を含む、又は1.4~1.7重量%の炭素を含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項26】
前記乾燥が、薄膜乾燥及び蒸発乾燥から選択される、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項27】
前記蒸発乾燥が、150℃~180℃の入口温度での噴霧乾燥を含む、請求項26に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項28】
前記薄膜乾燥が、ドラム乾燥機中での乾燥を含み、該ドラム乾燥機が、加熱されたドラムと、該ドラムの外部の代替熱源とを含む、請求項26に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項29】
前記代替熱源が、赤外線、レーザー熱、及びUV熱から選択される、請求項28に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項30】
前記か焼が、580℃~700℃の温度で行われる、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料の製造方法。
【請求項31】
前記か焼が、前記乾燥中に前記粉末を回転させることを含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項32】
前記乾燥の前に、前記沈殿物を湿式粉砕することをさらに含む、請求項1に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【請求項33】
前記湿式粉砕が、約5~10分/kgの滞留時間で、約10~15m/sのチップ速度で、1~1.2mmのジルコニアビーズを用いて粉砕することを含む、請求項32に記載のリチウム金属リン酸塩カソード材料を形成するための方法。
【国際調査報告】