(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】革新的充填剤としての新規なヒアルロン酸誘導体
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20250117BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20250117BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20250117BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/136 20060101ALI20250117BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20250117BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K31/728
A61P29/00
A61P19/02
A61P17/00
A61P23/02
A61K31/136
A61L27/20
A61L27/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541667
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2023050456
(87)【国際公開番号】W WO2023135135
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524259687
【氏名又は名称】ワイコ・エセペア
【氏名又は名称原語表記】WiQo S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カステラーナ,ロッサーナ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C086
4C090
4C206
【Fターム(参考)】
4C081AB11
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4C206NA03
4C206NA05
4C206ZA05
4C206ZA96
4C206ZB11
(57)【要約】
本発明は、抗炎症性及び/又は抗酸化特性を有する天然由来の分子とコンジュゲーションした新規なヒアルロン酸誘導体並びにそれを製造するための方法に関する。これらの生体活性分子とヒアルロン酸との共有結合及びそれによる網状化の程度により、生体活性分子の制御された放出及び粘弾性特性に関して固有の特徴が与えられ、得られたヒアルロン酸誘導体は、化学的及び酵素的分解に対して安定化される。これらの新規なヒアルロン酸誘導体は、軟組織充填剤、例えば、真皮及び皮下充填剤として有効な注射用真皮充填剤組成物の製造に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリダチン、没食子酸、クロロゲン酸、エラグ酸及びフロリジンから選択される植物ポリフェノールの活性化誘導体で架橋された、
ヒアルロン酸。
【請求項2】
該植物ポリフェノールの該活性化誘導体が、グリシジルエーテル(オキシラン-2-イル-メチルエーテル)又は2-クロロアセチルエステルである、請求項1記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項3】
該活性化誘導体が、ジグリシダート化(diglycidated)ポリダチン、ヘキサ-クロロアセチルポリダチン、モノ-、ジ-、トリ-及びテトラ-2-クロロアセチルポリダチンエステルの混合物、没食子酸の3,4,5-トリス(2-クロロアセチル)エステル、オキシラン-2-イルメチル 3、4,5-トリス(オキシラン-2-イルメトキシ)ベンゾアート、フロリジンのヘプタ-2-クロロアセチル誘導体、クロロゲン酸のペンタ-クロロアセチル誘導体、オキシラン-2-イルメチル 3,4,5-トリス(オキシラン-2-イルメトキシ)ベンゾアート、3,4,5-トリス(2-クロロアセトキシ)安息香酸から選択される、請求項2記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項4】
該活性化誘導体が、ポリダチン又は没食子酸のグリシジルエーテル又は2-クロロアセチルエステルである、請求項3記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項5】
モノ-、ジ-、トリ-及びテトラ-2-クロロアセチルポリダチンエステルの相対モル比が、17±3.4%/44.3±8.8%/17.7±3.6%/1.9±0.4%である、請求項3記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項6】
80~110kDaの平均分子量Mnを有するヒアルロン酸から得られた、請求項1~5のいずれか一項記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項7】
250~450kDaの平均分子量Mnを有するヒアルロン酸から得られた、請求項1~5のいずれか一項記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項8】
1.5~3.0MDaの平均分子量Mnを有するヒアルロン酸から得られる、請求項1~5のいずれか一項記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項9】
1.0未満の弾性率(G’)に対する粘性率(G’’)の比が与えられるような架橋度を有する、請求項1~8のいずれか一項又は複数項記載の架橋ヒアルロン酸。
【請求項10】
水溶液中の架橋ヒアルロン酸をジメチルスルホキシド溶液中の植物ポリフェノールの活性化誘導体と、30~80℃、好ましくは、50~80℃の範囲の温度で反応させることを含む、
請求項1~9の架橋ヒアルロン酸を製造するための方法。
【請求項11】
ヒアルロン酸に対する活性化ポリフェノール誘導体のモル比が、1:1~1:10の範囲である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1~9記載の架橋ヒアルロン酸を含み、無菌ゲルの形態にある、
皮内又は関節内注射用組成物。
【請求項13】
種々の分子量の架橋ヒアルロン酸の混合物を含む、請求項12記載の注射用組成物。
【請求項14】
請求項6、7及び8記載の架橋ヒアルロン酸を含む、請求項13記載の注射用組成物。
【請求項15】
1mg/ml~50mg/ml 架橋ヒアルロン酸を場合により、0.1~0.4重量/体積%の濃度の麻酔剤、好ましくは、リドカインの存在下で含む、請求項12~14のいずれか一項記載の注射用組成物。
【請求項16】
式
【化18】
で示される化合物(2R,3S,4S,5R,6S)-2-(ヒドロキシメチル)-6-(3-(オキシラン-2-イルメトキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール。
【請求項17】
式
【化19】
で示されるポリダチンヘキサ-2クロロアセチル。
【請求項18】
式
【化20】
で示されるヘプタ-2-クロロアセチルフロリジン。
【請求項19】
式
【化21】
で示されるペンタ-2-クロロアセチルクロロゲン酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、多糖類の分野に関する。より具体的には、本発明は、種々の分子量のヒアルロン酸(HA)を抗炎症性及び/又は抗酸化特性を有する天然由来の官能化分子で架橋する新規な方法並びに架橋HA製品を製造する方法に関する。これらの方法により得られたヒアルロン酸誘導体を含有する注射可能な一相性ゲルは美容外科及び審美医療の分野において、組織充填剤として、また組織増強に利用することができる。
【0002】
発明の背景
ヒアルロン酸(HA)は、β-1,4グリコシド結合を介して直鎖状に互いに結合した繰り返しモノマー(グルクロン酸ナトリウム塩及びN-アセチルグルコサミン二糖類単位)からなる多糖類であり、下記構造(式1)
【化1】
を有するグリコサミノグリカンのクラスに属する。
【0003】
HAは、細胞外マトリックス、硝子体液及び軟骨に見られる天然由来のポリマーである。標準体重の人間(70kg)に見られるHAの総量は、約15gであり、その平均回転速度は、5g/日である。人体中のHA総量の約50%は、皮膚に存在し、その半減期は、24~48時間である。HAは、動物組織の基本成分の1つであり、皮膚レベルでは、遊離型及びタンパク質との結合型の両方で存在する。HAは、その保水能力により、皮膚に潤いを与え、細胞外マトリックス(真皮を「圧縮」する物質)を凝集させる性質により張りを与える。HAが欠乏すると、皮膚の「足場」が弱くなり、その結果、トーン、潤い及び抵抗が低下する。純粋に審美的な基準によれば、「シワの形成」の元となるものであると考えることができる。
【0004】
また、HAは、水の存在下では液体でありゲルではないため、生体力学的特性を有さない。HAの溶液をしわの下に注入して持ち上げても効果はなく、さらに、液体であるため、数時間以内に組織に吸収されてしまうであろう。純粋なHAは、いわゆる、「バイオ刺激」の注射剤として使用される。液体であるため、それ自体が刺激となり、注射された組織に速やかに吸収される。
【0005】
組織の重量を支え、持ち上げることが可能なゲルを得るために(皮膚のしわの場合だけでなく、関節、例えば、膝の悪化の場合にも)、HAは、ゲルに化学的に変換されなければならない。充填剤のヒアルロン酸ゲル(医療装置として販売され、使用されているもの)は、生体力学的特性(粘性及び弾性)を獲得し、組織と一体化するように、工業的プロセスを経て調製される。
【0006】
ヒアルロン酸ゲル充填剤の製造プロセスの間に、架橋剤とも呼ばれる化学リンカーが使用される。最も使用されるリンカーの1つは、ヒアルロン酸フィラメント間に(多かれ少なかれ安定な)結合を形成可能な1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BBDE)である(Dermatol Surg 2013;39:1758-1766; DOI: 10.1111/dsu.12301)。互いに結合した鎖は、コンパクトな編目構造のように安定になり、全体が固形のゲルになる。架橋したヒアルロン酸は、典型的には粘性であり、触るとゼラチン状で、弾力性があり、意図された注入部位(すなわち、頬、唇、鼻唇溝等)に応じて「テーラーメイド」された種々の度合いの硬さ又は柔らかさを有する。注入後、種々の持続期間を示し、数か月間定量性を示すこれらの充填剤は、組織と一体化し、それにより「形状」が与えられ、「長期間持続」する。架橋分子の数及びそれらが形成する結合の種類により、ゲルは柔らかくなり、密になり又は硬くなるであろう。結合が強く、数が多いほど、ゲルの剛性及び硬度は高くなり、反対に、結合が弱く、数が少ないほど、ゲルは柔らかくなるであろう。これらの架橋HA充填剤の特異なレオロジー特性をその弾性率(G’)、その粘性(G’’)及び膨潤係数(SwF)により測定することができる(Barnes HA; Handbook of Elementary Rheology, Institute of Non-Newtonian Fluid Mechanics, University of Wales, 2000)。この最後のレオロジーパラメーターには、膨潤係数と処置後の膨潤とを結びつける臨床データが存在しない。組織の膨潤を決定するのに寄与する場合がある要因は、独自の架橋技術、注入技術、組織の質等、多岐にわたる場合があるためである。
【0007】
架橋剤としてBBDEを使用して調製されたヒアルロン酸ゲル充填剤の例は、国際特許出願WO第2017/016917号及び同第2005/097218号;同第2012/062775号、同第2013/028904号、同第2013/040242号、同第2016/051219号及び同第2009/018076号;同第2017/001056号、同第2017/162676号、同第2016/074794号、同第2013/185934号、同第2017/001057号、同第2018/083195号及び同第2017/076495号に開示されている。
【0008】
加水分解されたBDDEの代謝は、文献には記載されていないが、チトクロムP450と呼ばれる酵素ファミリーによるエーテル結合の開裂により進行すると理解されている。これらの酵素は、有機分子の酸化的分解に関与しており、エーテル結合のアルコールへの開裂を触媒する場合がある。分解後、2つの主な生成物:グリセロール及び1-4-ブタンジオールが生じる場合がある。全てのジオールエーテルと同様に、加水分解されたBDDEも、尿中に排出されることが公知である(Dermatol Surg 2013;39:1758-1766)。1,4-ブタンジオールは、非変異原性、非感作性であり、わずかに刺激性であることが公知である(Ishikawa K. 1,4-butanediol. OECD SIDS CAS No 110-63-4 2000:1-60;NICNAS 1,4-butanediol. Existing chemical hazard assessment report ISBN 978-0-9803124-7-8 2009. pp. 1-25)。その代謝物について行われた試験によっては、発ガン性の可能性は特定されていない。神経毒性有害作用が動物で観察され、有害作用が観察されないレベル(NOAEL)は、100mg/kg/日であった(マウスにおける経口投与により決定)。1,4-ブタンジオールの致死量の中央値(LD50)は、1,525mg/kgである(マウスにおける経口投与により決定)。ただし、工業用溶媒として利用されている合成化合物である1-4-ブタンジオールの長期的な影響は不明である。摂取すると、γ-ヒドロキシブチラートに変換されることが公知であり、これは、主に中枢神経系に抑うつ作用を及ぼす乱用薬物である(N Engl J Med, Vol. 344, No. 2 January 11, 2001, 87-94)。
【0009】
ヒアルロンゲル充填剤の調製に利用される他の架橋剤は、可逆的結合を生成するアルキルボロン酸ヘミエステルのクラスに属するボロン酸誘導体(WO第2018/024795号);ジアミン及びポリアミン(ヘキサメチレンジアミン、リシンモノメチルエステル及び3-[3-(3-アミノプロポキシ)-2,2-ビス(3-アミノ-プロポキシメチル)-プロポキシ]-プロピルアミン)及びカルボジイミド(WO第2013/040242号);クエン酸(WO第2018/087272号);内因性アミン、例えば、スペルミン及びスペルミジン並びにカップリング剤として、N-エチル,N-(ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(WO第2014/064632号);ジビニルスルホン(WO第2005/066215号);カルボキシル基が活性化されて、同じ多糖鎖上又は近傍の他の多糖鎖上に存在するアルコール基と反応する自己組織化により得られるヒアルロン酸ゲル(EP第0341745号);HA又は誘導体の部分的N-脱アセチル化に由来するカルボキシ基及びアミノ基をアルデヒド及びイソシアニドと反応させることにより得られる多成分縮合生成物(WO第0218450号);ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ポリアンヒドリド、ポリアルデヒド、多価アルコール、カルボジイミド、カルボン酸クロリド、スルホン酸クロリド、エピクロロヒドリン、エチレングリコール、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及び好ましくは、ブタンジオールジグリシジルエーテル又はジビニルスルホンの存在下でのビス-又はポリエポキシド(EP第1837347号)を含む。
【0010】
KR第20180010361号には、ヒアルロン酸を1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)及びカテキンと反応させることにより得られた架橋ヒアルロン酸が開示されている。この架橋結合は、エーテル型のものである。
【0011】
KR第20160031081号には、ポリフェノールにより官能化されたヒアルロン酸が開示されており、ここで、ポリフェノール部分は、架橋剤として作用しない。
【0012】
皮膚充填剤としてのHAの別の特徴は、生理学的条件下でのその急速な分解である。HAの分解は、グリコシド結合の開裂により媒介される脱重合プロセスとして説明することができる。この脱重合は、高分子レベルでのポリマー鎖の解離(溶解及び拡散)に先行する場合がある。HAの脱重合は、文献的において十分に特徴付けられており、主に2つのメカニズム:酵素的分解及びフリーラジカル分解が関与している。ヒアルロニダーゼと総称される大きなクラスの酵素により、HAの酵素的分解が媒介され、さらに、文献中の幾つかの報告に、HAのフリーラジカル媒介性分解が、グリコシド結合の開裂を介して進行することが示されている。HAの異化は、in situ(例えば、細胞外マトリックス中)、細胞内又はリンパ節への移動後に起こり、長いHA鎖(多糖類)がより小さなHA単位(オリゴ糖)に変換される。種々の物理化学的特性を有する各種のBDDE架橋HA充填剤を使用した2つの別々の研究から、BDDE修飾は、HAの本来の酵素的分解メカニズムを妨げないことが示された(Jones D, et al. Dermatol Surg 2010;36:804-9、Sall I et al. Polym Degrad Stab 2007; 92:915-9)。
【0013】
近年、皮膚充填剤の使用は、顕著に増加しており、2000年には、年間650.000件であったものが、2015年には、240万件を超え、その結果、合併症の増加につながっている(American Society of Plastic Surgeons, 2014 Plastic surgery statistics report. https://www.plasticsurgery.org/news/plastic-surgery-statistics ?sub=2014+Plastic+Surgery+Statistics、2017年6月1日アクセス)。ほとんどの場合、充填剤は、患者に臨床的に重大な合併症を起こすことなく使用されているが、使用量の増加並びに臨床医の訓練及び経験の大きなばらつきにより、合併症の全体的な数は増加している(Haneke E. Managing complications of fillers: rare and not-so-rare.J Cutan Aesthet Surg. 2015;8(4): 198-210)。US Food and Drug Administration(FDA)のmanufacturer and user device experience(MAUDE)データベースによれば、HAベースの充填剤であるRestylane(登録商標)、Belotero(登録商標)、Juvederm(登録商標)及びJuvederm Voluma(登録商標)の合併症は、膨潤、感染及び結節形成を含む。
【0014】
これらの合併症が、HA充填剤用の全注射の0.01%であると推定されるとしても、より安全なHAベースの充填剤の必要性と、安全性、脱重合に対する安定性及びテーラーメイドのレオロジー特性の向上した特性を有する、新規な架橋HA充填剤を開発する可能性とが求められている。実際、一部の完全合成架橋剤の一部の公知の代謝物、例えば、BDDEにより生成される可能性のある1-4ブタンジオール等の長期的影響は、完全には解明されておらず、より安全で、天然由来の架橋剤の研究が促されている。
【0015】
発明の説明
本発明は、架橋ヒアルロン酸(HA)ゲル製品を製造するための新規な方法を開示しており、この製品は、下記要求:抗炎症性及び/又は抗酸化特性を有する架橋剤の効率的な組み込み、移植時の変形及び移動に抵抗するのに十分なゲル強度並びに利用されるネイティブなHAに対する滅菌の熱処理及び酵素的加水分解に対する安定性の向上を満たす。したがって、本発明により、驚くほど低いHAの化学修飾による、非架橋HAに対する増強された強度及び限定された膨潤度を有するゲルの製造が可能となる。
【0016】
本発明の更なる目的は、架橋反応のモジュール効率を有する方法を提供することである。本発明の更なる目的は、所望のゲル強度を有するHAゲル製品を得るのに必要な修飾の程度を最少にすることである。本発明の更なる目的は、非架橋HAに対してin vivoでの持続性が向上し、同時に、構造修飾の程度が限定されたHAゲル製品を得ることである。また、本発明の目的は、粘弾性ゲル特性及び副産物及び残留物からの純度を含む有用な移植特性を有するHAゲル製品を得ることでもある。
【0017】
本発明の特許請求された架橋ヒアルロン酸(HA)ゲル製品を、下記分子量を有する3種類のヒアルロン酸から調製した。
・低分子量画分:8~15kDa-コンジュゲーション及び新規な非架橋誘導体の形成に優先的に使用し又はより粘性の高い特性を付与する架橋マトリックスの一部として使用した。
中分子量画分:500~750kDa-これらの画分には、分子量範囲を絞り込み、可能な限りその上限に近づけるために、クロスフローろ過によるターゲット化精製を受けさせる場合があり又はそのまま架橋に使用した。
高分子量画分:1.5~3.0MDa-これらの画分を、より弾性的な特性を付与する充填剤自体の構造を支持する機能を持つ配合を完成させるのに使用した。
【0018】
この新規な三峰性(又は三成分)充填剤の調製には、天然かつ安全な生体活性剤、例えば、ポリダチン、没食子酸、クロロゲン酸及びフロリジンを誘導体又は架橋剤として利用した。
【0019】
これらの化合物は、抗炎症性及び/又は抗酸化特性を有し、水溶性であり、後続の修飾及びその結果としてのヒアルロン酸との結合に有用な、適切な官能基(すなわち、ヒドロキシル及び/又はカルボキシル官能基)を有する、食品及び飲料に一般的に存在する天然分子であるという共通の特徴を有する。
【0020】
特に、ポリダチン(化学名:β-D-グルコピラノシド,3-ヒドロキシ-5-[2-(4-ヒドロキシフェニル)エテニル]フェニル;式2)は、ブドウ果汁の主成分であり、自然界で最も豊富な形態のレスベラトロールである。この分子は、抗炎症作用、抗酸化作用、抗ガン作用、神経保護作用、肝保護作用、腎保護作用及び免疫賦活作用を含む幅広い生体活性を示す(Didem Sohretoglu et al., Recent advances in chemistry, therapeutic properties and sources of polydatin. Phytochemistry Reviews volume 17, 973-1005 (2018))。
【化2】
【0021】
この分子は、スチルベノイドであり、3位がβ-D-グルコシド残基により置換されているtrans-レスベラトロールである。ポリダチンは、6つのヒドロキシル基を有し、そのうちの2つは、種々の反応性を有するフェノール型であり、これを後続の誘導体化のためのアンカーポイントとして使用することができる。trans型は、cis型と異なり、生体活性であるため、二重結合の存在が活性を方向付ける。この分子を架橋剤及びヒアルロン酸鎖の誘導体化の両方として使用可能なように、誘導体化を、2つのヒドロキシル基(フェノール部分)又は全てのヒドロキシル基を修飾するように取り組んだ。
【0022】
没食子酸(化学名:3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸;式3)は、種々の植物、野菜、ナッツ及び果物、例えば、没食子、ウルシ、アメリカマンサク、茶葉及びオーク樹皮に見出される天然由来の二次代謝物である。
【化3】
【0023】
没食子酸は、抗炎症活性及び/又は抗酸化活性を有する化合物であり、入手可能な文献データに基づくと、動物実験又は臨床試験において、毒性はほとんど示されていないため、炎症関連疾患における長期的使用に有用である可能性がある(Nouri, F. Heibati, E. Heidarian, Gallic acid exerts anti-inflammatory, anti-oxidative stress, and nephroprotective effects against paraquat-induced renal injury in male rats, Naunyn Schmiedebergs Arch. Pharmacol. 2020)。文献の毒性データから、没食子酸は、低濃度ではほとんどの細胞に対して安全であり、比較的高濃度でのみ毒性を示すことが確認されている。アルビノマウスにおける没食子酸の急性毒性は、LD50が2000mg/kg超であることが示された(B.C. Variya, et al., Acute and 28-days repeated dose sub-acute toxicity study of gallic acid in albino mice, Regul. Toxicol. Pharmacol 101 (2019) 71-78)。
【0024】
クロロゲン酸(化学名:3-[[3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-1-オキソ-2-プロペン-1-イル]オキシ]-1,4,5-トリヒドロキシ-シクロヘキサンカルボン酸,(1S,3R,4R,5R);式4)は、trans-カフェ酸のカルボキシ基とキナ酸の3-ヒドロキシ基との型通りの縮合により得られたシンナマートエステルであり、コーヒー生豆から最初に単離された(Freudenberg, Ber. 53, 237, 1920)。この化合物は、フリーラジカルを消去する。これにより、DNAの損傷が抑制され、発ガンの誘引から保護することができる。加えて、この作用物質により、免疫系の活性化に関与する遺伝子の発現がアップレギュレーションされる場合があり、細胞傷害性Tリンパ球、マクロファージ及びナチュラルキラー細胞の活性化及び増殖が促進される。
【化4】
【0025】
フロリジン(化学名:1-[2-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4,6-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)-1-プロパノン;式5)は、ポリフェノールのクラスに属するファイトケミカルである。フロリジンは、リンゴ、サクランボ及びナシを含むバラ科の植物の茎、根及び樹皮に見出されるグルコシドである。フロリジンについての潜在的かつ研究的使用は、2型糖尿病のアジュバント処置、肥満のための減量剤及び高血糖の急性管理を含む(Diabetes Metab Res Rev 2005; 21: 31-38)。
【化5】
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】HAとPODGとの網状化反応におけるPODGの定量に利用されるUV分析。
【
図2】HAとPO
caとの網状化反応におけるPO
caの定量に利用されたUV分析。
【
図3】HAとPO
caとの網状化反応におけるPO
caの定量に利用されたUV分析。
【
図4】1H-NMRスペクトル1を
図Fにおいて、上から下に、NaOD溶液中のHA、NaOD溶液中のポリダチン及び充填剤PR032Dについて報告する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
上記言及された生体活性剤とコンジュゲーションした溶液中の低分子量HA誘導体を得るために、これらの化合物は、エピクロロヒドリン又は2-クロロ酢酸無水物により誘導体化されている。低分子量HAとの共有結合によっては、三次元網状化は生じず、水中での最終的な誘導体は、ゲルの特徴を示さないが、最終的な充填剤の最終的な三峰性(又は3成分)構造の1成分として使用される均質溶液の態様を示した。
【0028】
中分子量HA鎖間の架橋を得るために、生体活性剤は、少なくとも2つの反応性基であるエピクロロヒドリン又は2-クロロ酢酸無水物を導入することにより修飾され、後続のヒアルロン酸鎖との架橋反応を促進する。この場合、中分子量のHAに共有結合したポリダチン、没食子酸、クロロゲン酸及びフロリジンは、2つの役割:生体活性分子及び網状化剤を有する。
【0029】
グリシジルポリダチン誘導体の調製は、試薬としてエピクロロヒドリン(EP)と、溶媒と、相間移動触媒として有機アンモニウム塩とを使用することにより行う。具体的には、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)又はベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(BTEACl)を使用した。ポリダチンのジグリシジラート化誘導体を得るのに使用された合成スキームを以下に報告する(スキーム1)。
【化6】
【0030】
ポリダチンのジグリシジル誘導体(化学名:(2R,3S,4S,5R,6S)-2-(ヒドロキシメチル)-6-(3-(オキシラン-2-イルメトキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール)を得るために、下記実験条件を利用した。反応を20モル当量 EP、ポリダチン1モル当たりに0.1当量 TBACl(又はBTEACl)を使用して、100℃の温度で進行させる。さらに、これらの条件では、最大変換率に達するのに、3時間の反応時間で十分である。この時間の後、この反応混合物を室温で冷却し、ついで、激しい撹拌下で、非プロトン性有機溶媒、好ましくは、ジ-イソプロピルエーテルを加えて、白色の固体を得る。これを回収する。得られた粗製の反応物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーによりさらに精製して、ポリダチンジグリシダートを与えることができた。
【0031】
本発明者らが知る限り、(2R,3S,4S,5R,6S)-2-(ヒドロキシメチル)-6-(3-(オキシラン-2-イルメトキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール;ポリダチンジグリシダート)は新規である。反応原料は、(2S,3R,4S,5S,6R)-2-(3-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロポキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールと特定された副生成物を含有するため、純粋な生成物を得るためには、クロマトグラフィー精製が不可欠である。
【0032】
2-クロロ酢酸無水物を使用したポリダチン誘導体の調製を下記合成スキームに従って行った(スキーム2)。
【化7】
【0033】
2-クロロアセチル化生成物を得るために、種々の溶媒を評価した。酢酸エチル(AcOEt)中での反応は、溶媒交換を必要とせず、反応混合物から直接分子又は分子の混合物を精製することが可能であるため、最も有利であることが見出された。反応を無水条件下かつ不活性雰囲気(窒素)下で行った。ポリダチン(1当量)をAcOEtに懸濁させ、ついで、室温での撹拌下、6~12当量モノクロロ酢酸無水物を加えた。この反応混合物を5~10時間還流させ、ついで、冷却し、撹拌下、室温で24時間放置した。ついで、この反応混合物を水で希釈して、吸引により回収された白色の固体沈殿物を与えた。これを水で洗浄し、室温において、真空下で乾燥させて、ポリダチンのヘキサ-クロロアセチル誘導体を収率91%で与えた。本発明者らが知る限り、この化合物は新規である。得ることができたモノ-、ジ-、トリ-及びテトラ-2-クロロアセチルポリダチンエステルの混合物は、17±3.4%/44.3±8.8%/17.7±3.6%/1.9±0.4%である。
【0034】
没食子酸と2-クロロ酢酸無水物とを反応させて、対応する3,4,5-トリス(2-クロロアセトキシ)安息香酸を与えたことを下記スキームで報告する(スキーム3)。
【化8】
【0035】
一般的な合成手順は、没食子酸と4~8ミリ当量、好ましくは、6ミリ当量 2-クロロ酢酸無水物とを酢酸エチル中で反応させることを含む。反応温度は、10~30℃、好ましくは、20~25℃の範囲である。この反応は、通常、約24時間で完了する。まず、有機相を酸性水溶液、好ましくは、0.5M HCl、ついで、ブラインで洗浄し、続けて、Na2SO4で乾燥させ、ろ過し、ろ液を真空下で蒸発させて、油状の残留物を与える。ついで、この油状物を水で処理して、白色の固体を与える。ついで、これを真空下で乾燥させる。全体のモル収率は、79%である。本発明者らが知る限り、この没食子酸誘導体は新規である。
【0036】
没食子酸とエピクロロヒドリンとの反応を下記合成スキームに従って行う(スキーム4)。
【化9】
【0037】
グリシジル誘導体の調製を、相間移動触媒としての有機塩(テトラブチルアンモニウムクロリド、TBACl)の存在下、没食子酸(GA)とEPとを混合することにより行った。この反応において、EPは、試薬と溶媒との両方として機能する。GAとEPとの間の相対モル比は、1/14~1/18の範囲に含まれ、好ましくは、1/16である。この手順は、GA、TBACl及びEPを順次加え、続けて、この混合物を60~100℃の温度範囲、好ましくは、100℃で6時間放置することを含む。ついで、この反応混合物を室温に冷却し、20%w/w NaOH溶液(2モル当量/OH)及び0.1モル当量TBAClで処理した。得られた白色の懸濁液を室温で激しく振とうし、ついで、この反応混合物を水で4回希釈し、AcOEtで3回抽出する。合わせた有機相を飽和NaCl溶液で洗浄し、無水Na2SO4で脱水し、減圧で蒸発させて、粗製物を与える。これをクロマトグラフィーによりさらに精製して、所望の生成物を与えることができる。
【0038】
同様に、クロロゲン酸及びフロリジンのグリシジル及び2-クロロアセチル誘導体を得た。
【0039】
ついで、上記言及されたポリダチン誘導体と中分子量のヒアルロン酸とをコンジュゲーションさせることによる機能性マトリックスの調製を行った。
【0040】
これらの新規なヒアルロン酸誘導体を調製するのに重要なパラメーターを以下に報告する。利用される反応溶媒の種類、反応温度及び時間並びに活性化分子(すなわち、エピクロロヒドリン及び2-クロロ酢酸により誘導体化されたポリダチン、没食子酸、クロロゲン酸及びフロリジン)とヒアルロン酸との間の相対モル比に応じて、粘性、弾性及び安定性(熱的及び酵素的)の異なる特性が得られた。
【0041】
溶媒の種類
補助分子(ポリダチン、没食子酸、クロロゲン酸及びフロリジン)を誘導体化すると、水溶性が著しく低下するため、それらの可溶化には、有機溶媒を使用する必要があった。本発明者らの実験では、使用溶媒は、毒性が低く、極性で水溶性の溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)とした。一方、ヒアルロン酸は、そのナトリウム塩の形態では、完全に水に溶け、DMSOへの溶解度は、あまり高くなく、限定的であることが実証されている。これらの考察に基づいて、種々の反応条件をDMSO、H2O及びDMSO/H2O混合物の使用に基づいて評価した。実験的証拠から、水単独での使用はコンジュゲーション反応を促進しないことが示される。固有の反応溶媒としてDMSOを使用することにより、一旦水に溶解させると、溶液を形成するコンジュゲートを生成することにより、反応を進行させることが可能となる。
【0042】
驚くべきことに、DMSO/H2O混合物を使用すると、使用されるH2Oの割合に応じて、水溶性コンジュゲート及び真のゲルの両方を調製するのに有利であることが見出された。特に、1:1の比での溶媒混合物を使用すると、ゲルの形成に有利である。
【0043】
反応温度
反応温度は、多糖鎖の置換度を指示する。考慮される範囲は、30~80℃の範囲に含まれる。この範囲の下限では、コンジュゲーションは起こらないが、50℃では、反応が生じ始める。この温度において、コンジュゲーション及びゲル形成の証拠があるため、50℃の温度を、この反応を行うのに最良の温度として選択した。構造が変化する可能性がある一方で、上限の80℃での作業により、ゲルの性質も有するコンジュゲート構造が得られる。
【0044】
反応時間
反応条件の設定の初期段階において、前述の条件下での反応の進行を評価するために、インプロセス制御(IPC)を行った。反応速度はかなり遅く、最初のコンジュゲーションの証拠は、3時間後に生じ、15時間前後でかなりの置換が生じた。上記言及されたように、1:1の比での溶媒混合物を使用することにより、反応速度プロセスを2時間以内に早めることが可能となった。
【0045】
誘導体化された補助分子とヒアルロン酸との間のモル比
反応に使用される量、特に、それらの間のモル比により、ポリマー鎖上での置換度がレギュレーションされる。使用された比を、誘導体化された補助分子(例えば、ポリダチン誘導体)のモル数とヒアルロン酸鎖を構成する二量体単位のモル数との間で表わされる1/1、1/5及び1/10とした。本発明者らは、1/5及び1/1の比により、コンジュゲーションされた補助分子のロードが増加することを見出した。
【0046】
3種類の分子量(HMW、MMW及びLMW)のヒアルロン酸とジグリシジラートポリダチン(PODG)とを使用したゲルの調製に利用された反応条件及び特徴決定について、以下に述べる。
【0047】
これらの反応条件を本発明の補助分子(すなわち、没食子酸、クロロゲン酸及びフロリジン)の全てのグリシジル誘導体に対して、小さな変更を加えて適用した。
【0048】
架橋度
架橋度は、好ましくは、1.0未満の弾性率(G’)に対する粘性率(G’’)の比を与えるように選択される。架橋剤として2-クロロアセチル化ポリダチンを使用する場合、HAの繰り返し単位のモル数に対する2-クロロアセチル化ポリダチンのモル比が1:5~1:10に含まれる場合、得られる架橋度は、70~80%に含まれる。架橋剤としてジグリシダート化ポリダチンを使用する場合、HAの繰り返し単位のモル数に対するジグリシダート化ポリダチンのモル比が1:5~1:1に含まれる場合、得られる架橋度は、15~55%に含まれる。
【0049】
架橋反応に関連する下記の重要な反応パラメーターを調べた。
・PODGとヒアルロン酸との間の相対モル比;下記分子比を調べた:5/1;1/1;1/5;1/10。
・3つの画分のヒアルロン酸を試験した:HMW、MMW、LMW。
・1時間及び4時間、好ましくは、2時間の反応時間を検討した。
【0050】
他のプロセスパラメーターを一定に維持した:反応温度を常に、50℃とし、使用溶媒を、H2O/DMSO混合物とし、v/v比を1:3又は1:1で一定にした。
【0051】
予備的な一般的架橋手順は、規定された分子量のヒアルロン酸を室温で可溶化する0.25M NaOH水溶液の使用を含む(ヒアルロン酸を分解させないためには、塩基性溶液の使用と温度との間のバランスが関連している)。したがって、調製段階において、ヒアルロン酸を室温で塩基性環境下に可変時間(分子量に応じて、HMWで1時間~LMWで30分)置いた。
【0052】
これと並行して、DMSO中のPODG溶液を調製した。ポリダチンをエポキシ基で誘導体化すると、水への溶解度が著しく低下し、その溶解度自体は全く低い。したがって、反応の共溶媒としてDMSOを使用する必要があった。両方の成分(ヒアルロン酸及びPODG)が溶解すると、DMSO溶液を0.25M NaOH中のヒアルロン酸溶液に注ぎ、温度を50℃に上昇させる。この反応を撹拌下で、1時間又は4時間維持する。反応終了時、ポリマーを沈殿させて、過剰な試薬を除去する必要がある。PODGで架橋した場合、反応の進行は、低分子量アルコール、好ましくは、エタノールの添加を必要とする。これらの実験条件では、ポリマーは、沈殿物として現われ、遠心分離により単離することができる。最終段階で、脱イオン水(MilliQ水)中で沈殿物を水和させ、その後、まだ存在する塩を透析により精製する。ついで、ヒアルロン酸誘導体の最終的な単離を凍結乾燥により行う。
【0053】
MMW及びLMWを有するHAを同じ反応条件で使用した結果、PODGを含むゲルを得るためには、最適なPODG/HA比は、1/1であり、反応温度は、50℃であり、反応時間は、1~4時間に含まれることが確認された。
【0054】
得られたゲルサンプルの加熱滅菌について予備試験を行った結果、安定な無菌ゲル製剤の開発に関連する更なる示唆が与えられた。実際に、ポリ2-クロロアセチル化ポリダチンブレンドで製造されたゲルは、熱ストレスに耐えられない。この処理により、滅菌サイクルの終わりには溶液が生成され、もはやゲルではなくなる。このプロセスにより、おそらく、架橋を生じさせる、熱に特に不安定なエステル結合の加水分解により、これらのゲルにおける脱構築が誘引される。一方、ジグリシジラート化ポリダチン(PODG)で製造されたゲルは、架橋を生じさせるエーテル結合が熱分解をほとんど受けないため、このような広範囲に加えられる熱ストレスの影響を受けない。
【0055】
これらの滅菌結果に基づいて、湿熱滅菌に対して、もっぱらグリシジラート化架橋剤をベースにしたゲル調製物が開発され、一方、ガンマ線滅菌には、2-クロロアクチル化補助架橋剤が好ましかった。
【0056】
本発明の架橋ヒアルロン酸は、場合により、0.1~0.4重量/体積%に含まれる最終濃度での麻酔剤、好ましくは、リドカインの存在下、1mg/ml~50mg/mlの間の量で皮膚充填剤組成物に有用である。この組成物は、美容目的で生体組織を置き換えもしくは充填するための方法又は生体組織の容積を増加させるための方法に使用されるであろう。
【0057】
本発明の注射用組成物は、無菌ゲルの形態で皮内又は関節内に投与される。種々の分子量の架橋ヒアルロン酸の混合物を使用することができる。
【0058】
該組成物を、使用説明書及び場合により、他の有用な薬剤を含む、キットの形態で提供することができる。
【0059】
本発明を下記実施例に詳述する。
【0060】
実施例1-ポリダチンジグリシジラート(2R,3S,4S,5R,6S)-2-(ヒドロキシメチル)-6-(3-(オキシラン-2-イルメトキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールの調製
【化10】
【0061】
この反応を不活性雰囲気(アルゴン)下で行った。58mg BTEACl(0.256mmol、0.1モル当量)及びエピクロロヒドリン4mL(51.2mmol、20モル当量)を1.0g ポリダチン(2.56mmol)に加えた。得られた懸濁液を攪拌下で、100℃に加熱した。100℃で30分後、この懸濁液は、透明な淡黄色の溶液となり、加熱を3時間続け、室温に冷却した。この反応混合物が固化する前に、ジイソプロピルエーテル 40mLを激しく攪拌しながら加えた。白色の固体を直ちに分離し、同じ溶媒 5mLで洗浄することによりろ過した。TLC分析(CH2Cl2/MeOH 90/10)により、得られた固体(1.18g)は、2種の化合物からなる。
【0062】
得られた粗製の固体をMeOH20mLに(わずかに加熱しながら)溶解させ、7gSiO2をこの溶液に加え、溶媒をロタバポレーターで蒸発させた。機械的真空ポンプにより、MeOHを完全に除去した後に得られた粉末をSiO2フラッシュクロマトグラフィーカラムにロードし、CH2Cl2/MeOH 90/10v/vで溶出した。最初に溶出した生成物は、ポリダチン3の所望のジグリシジラート化誘導体であり、そのうちの449mg(モル収率35%)をエタノール25mLから結晶化させた。この化合物は、m.p.167~170℃、[α]D25℃=-50°(MeOH中のc0.5)及び[α]D25℃=-36°(DMSO中のc1)を有した。この化合物をNMR分析(1H、13C、H,H COSY、ETCORR)に供した。これらは、全てのシグナルの割り当てが可能であり、構造を確認することが可能であった。番号は、式6で報告される式を参照する。
【0063】
【0064】
1H NMR (500 MHz, DMSOd6): δ 7.51 (2H, d, J = 8.8 Hz, H-10 e 14), 7.19 (1H, d, J = 16.4 Hz, H-8), 7.00 (1H, J = 16.4 Hz, H-7), 6.98 (2H, d, J = 8.8 Hz, H-11 e 13), 6.88 (1H, br s, H-6), 6.82 (1H, br s, H-4), 6:55 (1H, m, H-2), 5.31 (1H, d, J = 4.9 Hz, OH on C-2’), 5.12 (1H, d, J = 4.4, OH on C-3’), 5.05 (1H, d, J = 5.2 Hz, OH on C-4’), 4.87 (1H, d, J= 7.0 Hz, H-1’), 4.67 (1H, dd, J = 5.1 e 5.1 Hz, OH on C-6’), 4.36 (2H, dd, J = 11.4 e 2.6 Hz, H-1a” x 2), 3.84 (2H, dd, J = 11.4 e 6.6 Hz, H-1b” x 2), 3.74 (1H, dd, J = 10.4 e 5.2 Hz, H6a’), 3.46 (1H, m, H-6b’), 3.40-3.32 (3H, 重複, H-5’ e H-2” x 2), 3.31-3.22 (2H, 重複, H-2’ e H-3’) 3.15 (1H, dd, J = 8.8 e 5.1 Hz, H-4’), 2.85 (2H, m, H-3a”x 2), 2.71 (2H, m, H-3b” x 2);13C NMR (125 MHz, DMSOd6): δ 159.3 (C-12), 158.7 (C-1), 157.9 (C-3), 139.3 (C-5), 129.8 (C-9), 128.6 (C-8), 127.8 (C-10 e C-14), 126.0 (C-7), 114.7 (C-11 e C-13), 106.9 (C-6), 106.1 (C-4), 102.0 (C-2), 100.5(C-1’), 77.1 (C-5’), 76.7 (C-3’), 73.2 (C-2’), 69.8 (C-4’), 68.9(C-1” x 2), 60.7 (C-6’), 49.6 (C-2” x 2), 43.7 (C-3” x 2)。Ms分光分析(ESI)は、m/z=525.8にピークを示す。これは、分子イオンへのNa+の付加に相当する。
【0065】
2番目に溶出した生成物は、副産物(261mg)であった。これをイソプロピルアルコール 15mLから結晶化させて、m.p.138~141℃(dec.)、[α]D25℃=-43°(MeOH中のc1)を示す固体を与えた。
【0066】
この化合物をNMR分析(1H、13C、H,H COSY、ETCORR)に供し、非常によく似た(かつクロマトグラフ上分離不可能な)2つの化合物の混合物(約3:1の比)からなり、この2つの化合物は、グリシジル置換基及びクロロアルコール置換基の位置が異なることが見出された。主成分4AのNMRデータを以下に報告する。付番方式を式7(化学名:(2S,3R,4S,5S,6R)-2-(3-(3-クロロ-2-ヒドロキシプロポキシ)-5-((E)-4-(オキシラン-2-イルメトキシ)スチリル)フェノキシ)-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール)で報告する。
【0067】
【0068】
1H NMR (500 MHz, DMSOd6): δ 7.53 (2H, d, J = 8.5 Hz, H-10 e 13), 7.19 (1H, d, J = 16.4 Hz, H-8), 7.02 (1H, d, J = 16.4 Hz, H-7), 6.98 (2H, d, J = 8.5 Hz, H-11 e 13), 6.89 (1H, br s, H-6), 6.81 (1H, br s, H-4), 6.52 (1H, br s, H-2), 5.58 (1H, d, J = 4.0 Hz, OH in 3”’), 5.30 ( 1H, d, J = 4.7 Hz, OH in 2’), 5.11 (1H, d, J = 4.0 Hz, OH in 3’), 5.05 (1H, d, J = 4.9 Hz, OH in 4’), 4.88 (1H, d, J = 7.3 Hz, H-1’), 4.67 (1H, dd, J = 5.0 e 5.0 Hz), 4.35 (1H, dd, J = 11.4 e 2.1 Hz, H-1”a), 4.03 (1H,m, H-2”’), 4.01 (2H, m, H-1”’a e 1”’b), 3.85 (1H, dd, J = 11.4 e 6.5 Hz, H”b), 3.75 (1H, dd, J = 11.1 e 4.4 Hz, H-3”’a), 3.73 (1H, m, H-6’a), 3.68 (1H, dd, J = 11.1 e 5.1 Hz, H-3”’b), 3.47 (1H, dd, J = 11.7 e 5.9 Hz, H-6’b), 3.38-3.33 (2H, 重複, H-2” e 5’), 3.28 (1H, m, H-3’), 3.26 (1H, m, H-2’), 3.15 (1H, m, H-4’), 2.85 (1H, m. H-3”a), 2.71 (1H, m, H-3”b);13C NMR (125 MHz, DMSOd6): δ 159.5 (C-3), 158.7 (C-1), 157.9 (C-12), 139.3 (C-%), 129.8 (C-9), 128.6 (C-8), 127.8 (2C, C-10 e 14), 126.0 (C-7), 114.7 (2C, C-11 e 13), 106.8 (C-6), 106.2 (C4), 102.1 (C-2), 100.6 (C-1’), 77.1 (C-5’), 76.6 (C-3’), 73.2 (C-2’), 69.8(C-4’), 69.1 (C-1”’), 68.9(C-1”), 68.6 (C-2”’), 60.7 (C-6’), 49.6 (C-2”), 46.7 (C-3”’), 43.7 (C-3”)。
【0069】
実施例2-ポリダチンヘキサ-2-クロロアセチル誘導体の調製
【化13】
【0070】
この反応を無水条件で、不活性雰囲気(窒素)下で行った。ポリダチン(2.0g、5.13mmol)をAcOEt(16ml)に懸濁させ、ついで、室温で撹拌しながら、モノクロロ酢酸無水物(8.7g、51.2mmol)を加えた。この反応を還流させ、45分後に、溶解が観察された。この反応混合物をさらに6時間15分還流させ、ついで、冷却し、室温で24時間撹拌した。ついで、H2O20mLを加え、得られた混合物を30分間撹拌した。白色固体の沈殿物の形成が観察された。この固体を吸引ろ過し、水(20mL×3)で洗浄した。白色の固体を室温で48時間真空下で乾燥させ、4.3g 生成物を与えた(収率91%)。
【0071】
特徴決定:[α]D
25=-12.00(c=1.0;CHCl3);1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 7.51 (重複, 2H, H-10 and H-14), 7.16 (重複, 2H, H-11 and H-13), 7.07 (d, J7,8 =16.2 Hz, 1H, H-7), 7.04 (s, 1H, H-6), 7.01 (s, 1H, H-8), 6.97 (d, J7,8 = 16.2 Hz, 1H, H-8), 6.78 (s, 1H, H-2), 5.43 (t, J = 9.3 Hz, 1H, H-3’), 5.37 (t, J = 9.3 Hz, 1H, H-2’), 5.25 (t app, J = 9.3 Hz, 1H, H-4’), 5.20 (d, J = 7.6 Hz, 1H, H-1’), 4.39-4.35(重複, 2H; H-6a’ and H-6b’), 4.33-4,29 (重複, 4H, 2 x CH2Cl), 4.10 (s, 2H, CH2Cl), 4.07 (s, 2H, CH2Cl), 4.06-4.00 (重複, 5H, 2 x CH2Cl and H-5);13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 166.9 (2C, CO at C6’ and CO at C3’), 166.2 (CO at C4’), 160.0 (CO at C2’), 165.8 and 165.7 (2C, 2 x CO at Ph), 157.1 (C1), 151.3 (C3), 150.1 (C12), 140.0(C5), 134.7 (C9), 129.9 (C7 or C8) 127.8 (2C, C10 and C14), 127.3 (C7 or C8), 121.5 (2C, C11 and C13), 114.3 (C6), 113.6 (C4), 109.2 (C2), 98.5 (C1’), 73.6 (C3’), 72.1 (C2’), 71.6 (C5’), 69.5 (C4’), 63.2 (C6’), 40.8 (2C, CH2Cl), 40.5 (CH2Cl), 40.3(CH2Cl), 40.2 (CH2Cl), 40.1 (CH2Cl)。MS(ESIポジティブ):m/z:851.0[M+H]+。
【0072】
実施例3-没食子酸からの3,4,5-トリス(2-クロロアセトキシ)安息香酸の調製
【化14】
【0073】
酢酸エチル(3ml)中の没食子酸(0.5g;2.94mmol)の懸濁液に、2-クロロ酢酸無水物(3g;17.6mmol)を攪拌下、室温で加えた。この反応は、室温で進行し、24時間後に完了した。ついで、この反応混合物を0.5M HCl水溶液(6ml)で処理し、0.5時間撹拌して、過剰の無水物を分解した。有機相を分離し、ブラインで洗浄(3回)した。有機相をNa2SO4で乾燥させ、ろ過し、ろ液を真空下で蒸発させて、油状の残留物を与えた。ついで、この油状物を水で処理して、白色の固体を与えた。これを真空下で乾燥させて(25℃で10時間及び50℃で3時間)、0.925g生成物を白色の固体として与えた(2.3mmol;モル収率79%)。物理化学的性質:m.p.158~159℃;1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): δ 7.92 (重複, 2H, C3 and C7), 4.83 (s, 2H, CH2Cl), 4.77-4.73 (重複, 4H, 2 x CH2Cl); 13C NMR (125 MHz, DMSO-d6): δ 165.2 (2C, COCH2Cl at C4 and C6), 164.9 (C1), 164.3 (COCH2Cl at C5), 142.6 (2C, C4 and C6), 137.2 (C5), 129.7 (C2), 122.3 (C3 and C7), 40.9 (2C, COCH2Cl at C4 and C6), 40.3 (COCH2Cl at C5)。質量分光分析により、C13H9Cl3O8に相当する分子量が確認された。MS(ESIネガティブ)[M-H]- m/z:396.6(100%)、398.7(100%)、400.3(45%)。
【0074】
実施例4-没食子酸からのオキシラン-2-イルメチル 3,4,5-トリス(オキシラン-2-イルメトキシ)ベンゾアートの調製
【化15】
【0075】
没食子酸が酸化されるおそれを避けるために、この反応を不活性雰囲気(アルゴン)下で行った。2.0g(11.76mmol) 没食子酸とTBACl(266mg、1.18mmol、0.1モル当量)との混合物に、エピクロロヒドリン(187.6mmol、没食子酸/エピクロロヒドリンのモル比 1:16)14.68mLを加え、得られた白色の懸濁液を100℃で撹拌した。30分後、淡黄色の溶液が得られ、撹拌を100℃で6時間続けた。室温に冷却した後、20%w/wNaOH溶液(2モル当量/OH) 15.4mL及び266mg TBAClを加えた。得られた白色の懸濁液を室温で90分間激しく振とうし、ついで、水 60mLを加え、AcOEtで抽出(3×60mL)した。合わせた有機相を飽和NaCl溶液で洗浄(2×80mL)し、無水Na2SO4で脱水し、減圧下、70℃で蒸発させて、2.50g 粗製物を淡黄色の油状物として与えた。この粗製物をクロマトグラフィー(フラッシュクロマトグラフィー)により精製した。石油エーテル/AcOEt 20/80での溶出により、所望の生成物(1.01g;収率22%)を得た。得られたサンプルについての13C-NMRスペクトルのデータは、公表されている文献データ(Aouf, Chahinez; Tetrahedron 2013, 69(4),1345-1353)と一致している。
【0076】
実施例5-フロリジンのヘプタ-クロロアセチル誘導体の調製
【化16】
【0077】
この系をアルゴン下で乾燥させ、フロリジン(200mg、0.51mmol)及びモノクロロ酢酸無水物(0.7g、4.09mmol)をAcOEtに懸濁させ、この反応を還流(80℃)させて、数分後に溶液を与えた。これを撹拌下、還流で3時間、室温で一晩放置した。この期間の後、モノクロロ酢酸無水物(0.3g、1.75mmol)を加え、この反応を4時間還流した。0.5M HCl 6mLを加え、30分間撹拌した。有機相をAcOEtで3回抽出(10mL×3)し、合わせた有機相を飽和NaCl溶液(ブライン、12mL)で洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥させ、真空下で濃縮した。H2O 6mLを油状の残留物に加え、氷上に放置し、20分後、さらに、水 6mLを加えた。NaHCO3、ついで、ブラインでさらに洗浄した後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空下で濃縮した。所望の生成物を白色の固体残留物として得た(345mg、79%)。m.p.145~148℃;[α]D
25=-19.00(c=1.0;CHCl3);1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 7.27 (重複, 2H, H-11 and H-14), 7.05 (重複, 2H, H-12 and H-14), 6.96 (d, J2,4 = 1.9 Hz, 1H, H-2), 6.82 (d, J4,2 = 1.9 Hz, 1H, H-4), 5.39 (t app, J3’,2’ = 9.4 Hz, 1H, H-3’), 5.31 (dd, J2’,1’ = 7.8, J2’,3’ = 9.4 Hz, 1H, H-2’), 5.17 (t app, J = 9.6 Hz, 1H, H-4’), 5.07 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H- 1’), 4.35 (dd, J3’,2’ = 2.5, J6a’,6b’ = 12.4 Hz, 1H, H-6a’), 4.33-4,28 (重複, 5H, 2 x CH2Cl and H-6b’), 4.14 (s, 2H, CH2Cl), 4.05-4.00 (重複, 5H, 2 x CH2Cl and H-5), 4.04 (s, 2H, CH2Cl), 3.98 (s, 2H, CH2Cl), 3.13-3.04 (m, 2H, H8a and H8b), 3.04-2.87 (m, 2H, H9a and H9b);13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 199.9 (C7), 166.9, 166.7 (2C, CO at C6’ and CO at C3’), 166.2, 160.0 (2C, CO at C4’ and CO at C2’), 165.1 and 165.0 (2C, 2 x CO at Ph), 154.0 (C1), 151.5 (C3), 148.6 (C13), 147.3 (C5), 139.0 (C10), 129.8 (2C, C11 and C15), 123.7 (C6), 121.1 (2C, C12 and C14), 111.5 (C4), 107.7 (C2), 99.3 (C1’), 73.1 (C3’), 71.9 (C5’), 71.3 (C2’), 69.3 (C4’), 63.2 (C6’), 46.0 (C8), 40.9 (CH2Cl), 40.7 (CH2Cl), 40.5 (CH2Cl), 40.3(CH2Cl), 40.2 (2C, CH2Cl), 40.1 (CH2Cl), 28.4 (C9)。MS(ESIポジティブ):m/z 973.1[M+H]+。
【0078】
実施例6-クロロゲン酸のペンタ(クロロアセチル)誘導体の調製
【化17】
【0079】
この系をアルゴン下で乾燥させ、クロロゲン酸(200mg、0.56mmol)及びモノクロロ酢酸無水物(0.677g、3.96mmol)をAcOEtに懸濁させ、この反応を還流(バス80℃)させ、15分後に溶液を与えた。この混合物を撹拌下で、6時間放置し、ついで、0.5M HCl 6mLを加え、この混合物をさらに30分間撹拌した。この反応混合物をAcOEtで3回抽出(10mL×3)し、プールした有機相を飽和NaCl溶液(12mL)で洗浄した。有機相をNa2SO4で乾燥させ、真空下で濃縮した。H2O 6mLを油状の残留物に加え、0℃に冷却して、所望の生成物を粉末として与えた(224mg、収率40%)。m.p.118~122℃;[α]D
25=-21.00(c=1.0;CHCl3);1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ = 7.81 (d, J5',9' = 1.8 Hz, 1H, H-5'), 7.74 (dd, J9',5' = 1.8, J9',8' = 8.8 Hz, 1H, H-9'), 7.63 (d, J3',2' = 16.0 Hz, 1H, H-3'), 7.43 (d, J8',9' = 8.8 Hz, 1H, H-8'), 6.62 (d, J2',3' = 16.0 Hz, 1H, H-2'), 5.55-5.52 (m, 1H, H-6), 5.42-5.36 (重複, 2H, H-4 and H-5), 7.78-7.71 (重複, 4H, 2 x CH2Cl), 4.60-4.23 (重複, 6H, 3 x CH2Cl), 2.62 (dd, J7a,6 = 3.4, J7a,7b = 16.0 Hz, 1H, H-7a), 2.56-2.51 (重複, 2H, H-3a and H-7b), 2.19 (dd, J3b,4 = 9.9, J3b,3a = 12.9 Hz, 1H, H-3b);13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ = 170.3 (C1), 166.9, 166.4, 166.1, 165.4, 165.3, 164.8 (6C, C1', CO at C2, CO at C6, CO at C5, CO at C6', CO at C7'), 143.2 (C3'), 142.7 (C7'), 141.6 (C6'), 133.2 (4'), 127.7 (9'), 124.0 (8'), 123.0 (5'), 118.9 (C2'), 80.0 (2), 72.1 (C4), 69.5 (C6), 66.5 (C5), 41.4 (CH2C), 40.9 (CH2Cl), 40.8 (CH2Cl), 40.7 (2C, 2 x CH2Cl), 35.8 (C3), 31.3 (C7);MS(ESIネガティブ):m/z 734.9(100%)[M-H]-、737.0(80%)[M-H]-、733.1(65%)[M-H]-。
【0080】
グリシダート化化合物を使用した架橋のための一般的手順:グリシダート化ポリダチンによるヒアルロン酸の架橋
100mg ヒアルロン酸ナトリウム塩(HANa)を0.25M NaOH 2又は4mL(Col A 表1)に加え、この混合物をボルテックスし、r.tで15分間放置する。ついで、DMSO 1又は2mL(Col D)に溶解させた0、25、50又は78.2mg(Col C 表1) ポリダチンジグリシジラート(PODG)を加える。PO PODG:HANa(繰り返し単位)のモル比は、Col Fに示されている。この混合物を撹拌下、50℃で2時間加熱する。ついで、1M HClで中和する(pH約7)(0.25M NaOH 4mLの場合、約0.95mL及び0.25M NaOH 2mLの場合、約0.4mL)。EtOH 5又は10mL(Col G)を加えて、ポリマーを沈殿させ、2分間ボルテックスし、4000gで10分間遠心分離する。上清(surn1)をUV分光光度計で分析して、存在するPODG(ヒアルロン酸に未結合及びヒアルロン酸と架橋したPODGの割合の差による;表1)を決定する(mg単位)。
【0081】
【0082】
遠心分離中に沈殿したゲルをEtOH/H2O(4:1) 5mLでボルテックスすることにより洗浄する。前と同様に遠心分離し、上清(surn2)を得る。洗浄をEtOH 4mLで複数回繰り返し、対応する上清を得る。この上清をUVにより分析して、結合せずに存在するPODG量(Col Mにおける%)を測定する。洗浄後の上清がわずかに不透明に見え、UV分析に不適切なコロイド分散液である可能性が示された場合、30mg 細かく粉砕されたNaClを加え、4000gで10分間再度遠心分離し、ついで、UV分析した。最後の洗浄後、ゲルをH2O 5mLで一晩水和する。ついで、-20℃で凍結させ、凍結乾燥させる。上清のUV分析結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
HAとPO
DGとの網状化反応におけるPO
DGの定量に利用されるUV分析
読み取りをλ=322nmで行い、surn1及び2について、読み取りをEtOH/H
2Oの4:1混合物に対して行い、surn3以降について、EtOHに対して行い、検量線を使用して、以下に報告する(
図A~C)。
【0087】
クロロアセチル化化合物を使用した架橋反応のための一般的手順:ポリダチンヘキサクロロアセチル誘導体(パークロロアセチル化ポリダチン)によるヒアルロン酸の架橋
中分子量(MMW、500~750kDa)又は低分子量(LMW、8~15kDa)のヒアルロン酸-ナトリウム塩(HA)を使用した。架橋反応を両方とも、25及び50mg/mLの濃度のヒアルロン酸を使用して行った。行われた試験を以下に、「一般的手順」及び表1に詳細に報告した。洗浄及び遠心分離後の上清(surn)を、結合しなかった架橋剤の量を示す、存在するパークロロアセチル化ポリダチン(POca)の総量(mg)を評価するのに分析し、差から、HA上の架橋POcaを評価した。結果を表2に示す。
【0088】
一般的手順
100mg ヒアルロン酸ナトリウム塩(HA)をH2O 2又は4mLに加え、この混合物をボルテックスし、70℃で15分間放置する。ついで、DMSO 2又は4mL中に溶解させた0、21、42mg パークロロアセチル化ポリダチン(POca)の溶液を加える。POca:HANa(繰り返し単位)のモル比を列Fに示す(1:5又は1:10)。この混合物を撹拌下、70℃で15時間加熱する。ついで、室温に冷却し、EtOH 5もしくは10mL又はEtOH+2CH3CN 10mL(Col I)を加えて、ポリマーを沈殿させ、2分間ボルテックスし、4000gで10分間遠心分離する。上清(surn1)をUV分光光度計で分析して、存在するPOca(mg)を決定する。ゲルをEtOH/H2O 4:1 5mLでボルテックスすることにより洗浄し又は直接CN3CN 4mLで洗浄する。前と同様に遠心分離し、上清を得る(surn2)。この洗浄をEtOH 4mLで複数回繰り返し、対応する上清を得る。この上清をUVにより分析して、結合しなかった、存在するPOcaの量を測定する(表1’のP列の%)。場合によっては、POcaがより可溶性を示すCH3CN 4mLで洗浄する。洗浄液の上清がわずかに不透明に見え、UV分析に不適切なコロイド分散液である可能性が示された場合、30mgの細かく粉砕されたNaClを加え、4000gで10分間再度遠心分離し、ついで、UV分析した。最後の洗浄後、ゲルをH2O 5又は10又は20mLで一晩水和する。ついで、冷凍庫において-20℃で凍結させ、凍結乾燥させる。
【0089】
上清のPOcaについてのUV定量分析結果を表2’に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
HAとPO
caとの網状化反応におけるPO
caの定量に利用されたUV分析
読み取りをλ=313nmで行い、surn1及び2について、読み取りを4:1 EtOH/H
2O混合物に対して行い、surn3以降について、EtOHに対して行い、検量線を使用して以下に示した。表に示される場合では、EtOH:CH
3CN 10:2又はCH
3CNに対して行った(
図A’~
図E’を参照のこと)。
【0094】
得られた充填剤のHPLC_SEC分析:ヒアルロン酸と架橋したPODG
ヒアルロン酸、ジグリシジラート化ポリダチン並びにバッチ番号PR019、PR015及びPR008の充填剤を、HPLC Column BioSep(5um SEC-s3000 290A)を使用し、移動相としてH2O;流速1mL/分を使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析した。中分子量HAを0.5mg/mLの濃度で注入し(1uL、5uL、10uL、25uL)、スペクトルを322nm(この波長では、PODGの吸収が最大であり、HAはほとんどない)と、HAの吸収が最大である220nm及び215nmとで取得した。これらの溶液 25uLを注入し、ついで、0.5mg/mLの濃度で適切に可溶化して調製された幾つかのサンプルを注入することにより進行させた。
【0095】
【0096】
表1’’に報告された結果から、バッチ番号PR015、PR008及びPR019のPODGによるHAの架橋誘導体には、分別可能な量のポリダチンが含まれることが確認され、さらに、表2で報告された充填剤に存在するポリダチンの実測割合が支持されることが確認された。
【0097】
ヒアルロン酸(種々の分子量)とポリダチンヘキサクロロアセチル誘導体(POca)との反応により得られた充填剤の網状化度のNMRによる評価
ヒアルロン酸(種々の分子量)とポリダチンヘキサクロロアセチル誘導体(POca)との反応により得られた充填剤の網状化も、加水分解を重水素化水酸化ナトリウム(NaOD)中で行った後に、充填剤のNMR分光分析法を使用して調べた。結果をヒアルロン酸(HA)のN-アセチルグルコサミンのCH3関連シグナル(d1.80±0.5ppm)とポリダチン(PO)の二重結合にtrans(JH,H=16.0)にあるプロトン(6.93±0.5ppm e 6.67±0.5ppm)(充填剤PR032Dについての1H-NMRスペクトル1に示す)との間の比として表わす。表2’に報告されたデータにより、表1’に報告されたヒアルロン酸に結合したポリダチンの割合の結果がさらに支持される。
【0098】
NMRのデータから、
・得られた充填剤は、強い塩基性加水分解により充填剤からポリダチン(PO)及びヒアルロン酸(HA)が表1’に報告された相対比と一致した相対比(% 結合POca)で放出されるため、高度のアセチル化ポリダチンで架橋されている、
・POcaとHAとの間の相対モル比(HAのモル比は、グルクロン酸ナトリウム塩とN-アセチルグルコサミンとの繰り返し二糖単位を指すと考慮される)を1:10に対して1:5で使用した場合、MMW及びLMWヒアルロン酸の両方で、これらの充填剤のより高い網状化度が得られる、
という仮説が確認される。
【0099】
材料及び方法
3mgの充填剤を0.5M NaOD 0.7mLに可溶化した(一部の実験では、サンプルを0.25M NaODにも可溶化したが、実質的な差はなかった。より希釈された条件で作業した場合、可溶化時間は、数分長くなった)。NaODをアルゴン雰囲気下、氷上で、適切な無水容器中で、金属NaをD2Oに可溶化することにより、濃度1Mで調製した(重水素化されていない水の干渉の可能性を避けるため)。ついで、1M NaOD溶液をD2Oで1:1v/vに希釈して、0.5M 最終溶液又は1:4v/vに希釈して、0.25M 最終溶液を与えた。1H-NMR(500MHz)スペクトルをスキャン数16以上で取得した。ポリマーのスペクトルを0.25M NaOD又は0.5M NaOD中の中分子量ヒアルロン酸単独のもの、0.5M NaOD中のPR030A(パークロロアセチル化ポリダチンを加えずに、反応を行った;表1’を参照のこと)のもの、0.5M NaOD中のポリダチン単独又はパークロロアセチル化ポリダチン単独(0.5M NaOD中のパークロロアセチル化ポリダチンは、遊離ポリダチンに加水分解されるため、後者の2つは明らかに一致する)のものと比較した。
【0100】
ヒアルロン酸のN-アセチルグルコサミンのCH3関連シグナルとポリダチンの芳香族プロトンとの間の関係を評価した。
【0101】
1H-NMRスペクトル1を
図Fにおいて、上から下に、NaOD溶液中のHA、NaOD溶液中のポリダチン及び充填剤PR032Dについて報告する。
【0102】
【国際調査報告】