(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セリン/スレオニンライゲーションによる強力で安定なポリペプチド類似体
(51)【国際特許分類】
C07K 14/605 20060101AFI20250117BHJP
C07K 14/635 20060101ALI20250117BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20250117BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20250117BHJP
A61K 38/29 20060101ALI20250117BHJP
A61K 38/26 20060101ALI20250117BHJP
A61K 47/50 20170101ALI20250117BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20250117BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250117BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20250117BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20250117BHJP
【FI】
C07K14/605 ZNA
C07K14/635
A61K38/02
A61K38/16
A61K38/29
A61K38/26
A61K47/50
A61K47/60
A61K47/68
A61K47/64
A61K47/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541675
(86)(22)【出願日】2023-01-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2023060522
(87)【国際公開番号】W WO2023137355
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514104933
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】クラヴェン,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】リヴィン,ポール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF65
4C084BA02
4C084BA03
4C084BA19
4C084CA59
4C084DB32
4C084DB35
4C084NA03
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA55
4H045BA57
4H045DA30
4H045EA28
4H045FA50
(57)【要約】
N6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチド、修飾ポリペプチドを含むバイオコンジュゲート、およびバイオコンジュゲートを製造するための方法が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチド。
【請求項2】
前記N
6-L-セリル-官能化リジン(例えば、
【化1】
または、前記N
6-L-セリル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化2】
を含む、請求項1に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項3】
前記N
6-L-スレオニル-官能化リジン(例えば、
【化3】
または、前記N
6-L-スレオニル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化4】
を含む、請求項1に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、グルカゴン様ペプチド1フラグメント7-37(GLP-1(7-37))と少なくとも90%、または92%、または94%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、副甲状腺ホルモンフラグメント1-34(PTH(1-34))と少なくとも90%、または92%、または94%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む、または、前記ポリペプチドは、ペプチドYY3-36(PYY(3-36))と少なくとも85%、または90%、または92%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドはN
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を含むように修飾された、表1に列挙される治療ペプチドからなる群より選択されるペプチド治療薬を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項7】
前記N
6-官能化リジンまたはその誘導体は、天然リジンの代わりに前記アミノ酸配列に組み込まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項8】
前記N
6-官能化リジンまたはその誘導体は、リジン以外の天然アミノ酸の代わりに前記アミノ酸配列に組み込まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項9】
前記天然アミノ酸はセリンである、請求項8に記載の修飾ポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の修飾ポリペプチドおよび官能性部分を含むバイオコンジュゲートであって、前記官能性部分は前記修飾ポリペプチドに、前記N
6-官能化リジンまたはその誘導体上のセリルまたはスレオニル基でコンジュゲートされる、バイオコンジュゲート。
【請求項11】
前記官能性部分は、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載のバイオコンジュゲート。
【請求項12】
前記官能性部分は蛍光分子、ビオチン、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、またはそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載のバイオコンジュゲート。
【請求項13】
前記官能性部分は下記を含む、請求項10に記載のバイオコンジュゲート:
【化5】
(例えば、
【化6】
(例えば、
【化7】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化8】
【請求項14】
前記官能性部分は、前記バイオコンジュゲートの生体内安定性を、前記天然ポリペプチドの生体内安定性と比べて増加させる、請求項10-13のいずれか一項に記載のバイオコンジュゲート。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の1つ以上のポリペプチドおよび/またはバイオコンジュゲート、ならびに薬学的に許容される担体、溶媒、アジュバント、および/または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項16】
バイオコンジュゲートを調製する方法であって、
N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチドを官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させること
を含み、
前記サリチルアルデヒドエステルは、前記N
6-官能化リジンまたはその誘導体上の前記セリルまたはスレオニル基と反応し、前記バイオコンジュゲートが得られる、方法。
【請求項17】
前記官能化サリチルアルデヒドエステルは下記式を有し:
【化9】
式中、Rは、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせ;または蛍光分子、ビオチン、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、またはそれらの組み合わせ)を含む部分である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記官能化サリチルアルデヒドエステルは下記式を有する、請求項16に記載の方法:
【化10】
(例えば、
【化11】
(例えば、
【化12】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化13】
【請求項19】
R部分は、前記バイオコンジュゲートの生体内安定性を、前記修飾ポリペプチドの生体内安定性と比べて増加させる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記修飾ポリペプチドは請求項2~9のいずれかに記載される通りである、請求項16~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記修飾ポリペプチドは、前記官能化サリチルアルデヒドエステルとピリジン/酢酸溶液中で接触させられる;または、前記修飾ポリペプチドは前記官能化サリチルアルデヒドエステルと1:1v/v比のピリジン/酢酸溶液中で接触させられる、請求項16~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記修飾ポリペプチドは、前記官能化サリチルアルデヒドエステルと、約18℃~27℃の範囲の温度で、N,O-ベンジリデンアセタール中間体を形成するのに十分な期間の間、接触させられる、請求項16~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記N,O-ベンジリデンアセタール中間体は、酸性条件下で、前記バイオコンジュゲートが形成させるのに十分な期間の間、反応させられる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
トリフルオロ酢酸が使用される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
N
6-セリル-リジンまたはその誘導体あるいはN
6-スレオニル-リジンまたはその誘導体を、前記修飾ポリペプチド合成中に導入することをさらに含む、請求項16~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記修飾ポリペプチドは、N末端セリンまたはスレオニンを含み、前記方法は、前記N末端セリンまたはスレオニンを保護基で、前記官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させる前に保護することをさらに含む、請求項16~24のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記保護基は、アリルセリンおよびN末端アセチル化から選択される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2022年1月14日に出願された米国仮特許出願番号第63/299,884号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
配列表ステートメント
配列表のコンピュータ可読形態が本出願と共に、電子申請により出願され、参照により全体として本出願に組み込まれる。配列表は、ファイル名「21-1624-WO.xml」を有する、2022年12月23日に作成されたファイルに含まれ、サイズが7kbである。
【背景技術】
【0003】
ペプチド治療薬は、高い親和性および特異性でそれらの標的に結合するそれらの能力のために、臨床使用が急速に認可されつつある。多くのペプチド薬物、例えば、テリパラチドおよびアンジオテンシンIIが米国食品医薬品局(FDA)によって認可されているが、それらはしばしば、内在性酵素によるタンパク質分解から生じる可能性のある、インビボでの不十分な薬物動態プロファイルに苦しんでいる。例えば、GLP-1(7-37)はN末端アラニン8でのジペプチジルペプチダーゼ(DPP-4)切断による分解のために、たった約2分の半減期を有する。安定性の問題に対処することを目指した現在の戦略は不十分であり、というのも、それらはしばしば、安定性を犠牲にして効力を損なうからである。
【発明の概要】
【0004】
1つの態様では、本開示は、N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチドを提供する。様々な実施形態では、修飾ポリペプチドは、N
6-L-セリル-官能化リジン(例えば、
【化1】
N
6-L-セリル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化2】
N
6-L-スレオニル-官能化リジン(例えば、
【化3】
またはN
6-L-スレオニル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化4】
を含む。
【0005】
ある一定の実施形態では、ポリペプチドは、グルカゴン様ペプチド1フラグメント7-37(GLP-1(7-37))、副甲状腺ホルモンフラグメント1-34(PTH(1-34))、またはペプチドYY3-36(PYY(3-36))と少なくとも90%、または92%、または94%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む。他の実施形態では、ポリペプチドは、N6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を含むように修飾された、表1に列挙される治療ペプチドからなる群より選択されるペプチド治療薬を含む。様々な実施形態では、N6-官能化リジンまたはその誘導体は天然リジンの代わりに、またはリジン以外の天然アミノ酸、例えば、限定はされないが、セリンの代わりに、アミノ酸配列に組み込まれる。
【0006】
別の実施形態では、本開示は、本明細書における任意の実施形態または実施形態の組み合わせの修飾ポリペプチドおよび官能性部分を含むバイオコンジュゲートを提供し、官能性部分は、N
6-官能化リジンまたはその誘導体上のセリルまたはスレオニル基で修飾ポリペプチドにコンジュゲートされる。様々な実施形態では、官能性部分は、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせを含むことができる。ある一定の実施形態では、官能性部分は下記を含む:
【化5】
(例えば、
【化6】
(例えば、
【化7】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化8】
【0007】
本開示はまた、本明細書における任意の実施形態または実施形態の組み合わせによる1つ以上のポリペプチドおよび/またはバイオコンジュゲートならびに薬学的に許容される担体、溶媒、アジュバント、および/または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0008】
別の態様では、本開示は、バイオコンジュゲートを調製する方法を提供し、方法は、N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチドを官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させることを含み、サリチルアルデヒドエステルは、N
6-官能化リジンまたはその誘導体上のセリルまたはスレオニル基と反応し、バイオコンジュゲートが得られる。1つの実施形態では、官能化サリチルアルデヒドエステルは下記式を有し:
【化9】
式中、Rは、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせ;または蛍光分子、ビオチン、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、またはそれらの組み合わせ)を含む部分である。
【0009】
別の実施形態では、官能化サリチルアルデヒドエステルは下記式を有し:
【化10】
(例えば、
【化11】
(例えば、
【化12】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化13】
【0010】
様々な実施形態では、方法は、修飾ポリペプチド合成中に、N6-セリル-リジンまたはその誘導体またはN6-スレオニル-リジンまたはその誘導体を導入することをさらに含む。他の実施形態では、修飾ポリペプチドは、N末端セリンまたはスレオニンを含み、方法は、N末端セリンまたはスレオニンを保護基で、官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させる前に保護することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セリンでの化学ライゲーションを示す。(上部)以前の取り組みでは主に、タンパク質化学合成、半合成、またはペプチド環化においてセリン/スレオニンライゲーション(STL)を使用した。(下部)ライゲーションに必要な1-アミノ-2-ヒドロキシ官能基を含む非標準アミノ酸を使用し、部位特異的修飾を内部で生成する方法のカートゥーン。
【
図2】GLP-1ペプチド類似体の設計。GLP-1(SEQ ID NO:1)およびセマグルチド(SEQ ID NO:4)の一次配列。ここでSTLを介して合成した、ペプチドG1(SEQ ID NO:5)およびG2(SEQ ID NO:6)は、位置26のC
18-PEG
4修飾を、位置8のAib残基と共に、または、位置18のC
18-PEG
4修飾のみを含む。
【
図3】脂質化は細胞活性に影響を与えず、GLP-1をタンパク質分解から安定化し、インビボでのグルコースクリアランスを改善する。(a)脂質単独、または、Aib置換と共に、未修飾GLP-1(n=3)と比べて、cAMP生成のEC
50に影響しない。()全長(b)GLP-1R-セマグルチド、(c)GLP-1R-G1、および(d)GLP-1R-G2複合体のモデル。
【
図4】スキーム1.STLによる非保護モデルペプチドの部位特異的な修飾。全ての反応をピリジン/酢酸(1:1v/v)中10mMの濃度で実施し、続いて、TFA/H
2O/i-Pr
3SiH(94/5/1、v/v/v)を使用して切断した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
引用される参考文献は全て、本明細書でその全体が参照により組み込まれる。
【0013】
本明細書では、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈で明確に別記されない限り、複数の指示対象を含む。「および」は本明細書では、明示的に別段の記載がない限り、「または」と同じ意味で使用される。
【0014】
本明細書では、アミノ酸残基は下記のように省略される:アラニン(Ala;A)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、アルギニン(Arg;R)、システイン(Cys;C)、グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gln;Q)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)、バリン(Val;V)、およびαアミノイソ酪酸(AIB、B)。
【0015】
発明の任意の態様の全ての実施形態は、文脈で明確に別記されない限り、組み合わせて使用することができる。
【0016】
第1の態様では、本開示は、N6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチドを提供する。下記実施例に示されるように、発明者らは、そのような修飾ポリペプチドは、化学生物学における様々な用途のために容易に内部的、および、部位特異的に修飾することができることを証明しており、セマグルチドを用いた研究により非限定的に例示される強力で安定な変異体の生成が含まれる。
【0017】
ポリペプチドは官能化リジンまたは官能化リジン誘導体を含むことができる。N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化することができる任意のリジン誘導体が使用され得る。様々な実施形態では、リジンの誘導体としては、下記が挙げられるが、それらに限定されない:
【化14】
【0018】
例えば、ある一定の実施形態では、修飾ポリペプチドは、下記を含む:N
6-L-セリル-官能化リジン(例えば、
【化15】
または、N
6-L-セリル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化16】
ある一定の実施形態では、修飾ポリペプチドは、下記を含む:N
6-L-スレオニル-官能化リジン(例えば、
【化17】
またはN
6-L-スレオニル-官能化リジン誘導体(例えば、
【化18】
いくつかの実施形態では、N
6-官能化リジンまたはその誘導体は保護基を含む。例えば、N
6-官能化リジンは、Boc-保護基またはt-ブチル保護基、またはそれらの組み合わせをさらに含み得る。
【0019】
好適なN6-官能化リジンは当技術分野で知られているように調製することができる。例えば、ある一定の官能化リジンペプチド、例えば、セリン-リジンコンジュゲートの調製は、C. H. P. Cheung, J. Xu, C. L. Lee, Y. Zhang, R. Wei, D. Bierer, X. Hunag, and X. Li, Chem. Sci., 2021, 12, 7091(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において見出すことができる。
【0020】
当業者により理解されるように、N6-官能化リジンまたはその誘導体は天然リジンの代わりに、または、別の天然アミノ酸の代わりにアミノ酸配列に組み込まれる。N6-官能化リジンまたはその誘導体は未修飾ポリペプチドにおける任意のアミノ酸の代わりに組み込まれ得る。1つの実施形態では、N6-官能化リジンまたはその誘導体は、未修飾ポリペプチドにおけるリジン残基の代わりに組み込まれる。別の実施形態では、N6-官能化リジンまたはその誘導体は、未修飾ポリペプチドにおけるセリン残基の代わりに組み込まれる。1つの実施形態では、修飾ポリペプチドは2つ以上のN6-官能化リジンまたはその誘導体を含むことができる。
【0021】
ポリペプチドは、官能化から利益を得ることができ、安定性または他のポリペプチド特性が改善される任意のポリペプチドであってもよい。様々な非限定的実施形態では、ポリペプチドは、N
6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を含むように修飾された、表1に列挙される治療ペプチドからなる群より選択されるペプチド治療薬の改変バージョンを含むことができる。いくつかの実施形態では、修飾ポリペプチドは、未修飾ポリペプチドのアミノ酸配列と、少なくとも90%、または92%、または94%、または95%、または96%、または97%、または98%またはそれ以上同一である
【表1】
【0022】
1つの非限定的実施形態では、修飾ポリペプチドは、グルカゴン様ペプチド1フラグメント7-37(GLP-1(7-37))(SEQ ID NO:1)と少なくとも90%、または92%、または94%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む。GLP-1(7-37)のアミノ酸配列が
図2に示される。
【0023】
別の実施形態では、ポリペプチドは、副甲状腺ホルモンフラグメント1-34(PTH(1-34))(SEQ ID NO:2)と少なくとも90%、または92%、または94%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む。
SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF(SEQ ID NO:2)
【0024】
さらなる実施形態では、ポリペプチドは、ペプチドYY3-36(PYY(3-36))(SEQ ID NO:3)と少なくとも85%、または90%、または92%、または95%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含む。
IKPEAPGEDASPEELNRYYASLRHYLNLVTRQRY(SEQ ID NO:3)
【0025】
別の態様では、本開示は、本明細書で記載される本開示の修飾ポリペプチド、および、N
6-官能化リジンまたはその誘導体上のセリルまたはスレオニル基で修飾ポリペプチドにコンジュゲートされる官能性部分を含むバイオコンジュゲートを提供する。本開示の修飾ポリペプチドは使用目的に適切と見なされる任意の官能性部分を受容することができる。非限定的実施形態では、官能性部分はポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせを含むことができる。1つの特定の実施形態では、官能性部分は蛍光分子、ビオチン、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、またはそれらの組み合わせを含むことができる。他の実施形態では、官能性部分は下記からなる群より選択される部分を含むことができる:
【化19】
(例えば、
【化20】
(例えば、
【化21】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化22】
【0026】
様々なこれらの実施形態では、官能性部分はバイオコンジュゲートの生体内安定性を、天然(未修飾)ポリペプチドの生体内安定性と比べて増加させる。下記実施例に示されるように、セマグルチドを用いた研究により非限定的に例示される、本開示のバイオコンジュゲートは未修飾ポリペプチドの強力で安定な類似体であり、未修飾ポリペプチドに比べ改善された安定性を有する。
【0027】
本開示はまた、本明細書で記載される本開示による1つ以上のポリペプチドおよび/またはバイオコンジュゲートを含む医薬組成物を提供し、修飾ポリペプチドは、治療タンパク質またはペプチド、および薬学的に許容される担体、溶媒、アジュバント、および/または希釈剤を含む。本開示の医薬組成物は、例えば、ポリペプチドが治療するように設計されている障害のための治療の必要がある被験体を治療するための方法において使用することができる。医薬組成物は本開示のポリペプチドまたはバイオコンジュゲートに加えて(a)凍結乾燥保護剤;(b)界面活性剤;(c)増量剤;(d)張度調整剤;(e)安定剤;(f)保存剤および/または(g)緩衝液を含むことができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、医薬組成物中の緩衝液はTris緩衝液、ヒスチジン緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液または酢酸緩衝液である。医薬組成物はまた、凍結乾燥保護剤、例えばスクロース、ソルビトールまたはトレハロースを含んでもよい。ある一定の実施形態では、医薬組成物は、保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、o-クレゾール、p-クレゾール、クロロクレゾール、硝酸フェニル水銀、チメロサール、安息香酸、およびそれらの様々な混合物を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、グリシンのような増量剤を含む。さらに他の実施形態では、医薬組成物は、界面活性剤、例えば、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-65、ポリソルベート-80、ポリソルベート-85、ポロクサマー-188、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミタート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート(trioleaste)、またはそれらの組み合わせを含む。医薬組成物はまた、張度調整剤、例えば、製剤をヒト血液と実質的に等張または等浸透圧にする化合物を含み得る。例示的な張度調整剤としては、スクロース、ソルビトール、グリシン、メチオニン、マンニトール、デキストロース、イノシトール、塩化ナトリウム、アルギニンおよびアルギニン塩酸塩が挙げられる。他の実施形態では、医薬組成物はさらに、安定剤、例えば、対象となるタンパク質と合わせられると、凍結乾燥または液体形態の対象となるタンパク質の化学および/または物理的不安定性を実質的に防止または低減させる分子を含む。例示的な安定剤としては、スクロース、ソルビトール、グリシン、イノシトール、塩化ナトリウム、メチオニン、アルギニン、およびアルギニン塩酸塩が挙げられる。
【0029】
ポリペプチドおよび/またはバイオコンジュゲートは医薬組成物中の唯一の活性剤であってもよく、または、組成物は、使用目的に好適な1つ以上の他の活性剤をさらに含み得る。
【0030】
別の態様では、本開示は、本明細書で記載される本開示のバイオコンジュゲートを調製する方法を提供する。そのような方法は、N6でセリルまたはスレオニル基により官能化されたリジンまたはその誘導体を有するアミノ酸配列を含む修飾ポリペプチドを官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させることを含み、サリチルアルデヒドエステルは、N6-官能化リジンまたはその誘導体上のセリルまたはスレオニル基と反応し、バイオコンジュゲートが得られる。修飾ポリペプチドが、保護基を含む実施形態では、バイオコンジュゲートを調製する方法は、修飾ポリペプチドを処理して、保護基を除去する工程をさらに含み得る。
【0031】
任意の好適な官能化サリチルアルデヒドエステルが、方法において使用され得る。1つの実施形態では、官能化サリチルアルデヒドエステルは下記式を有し:
【化23】
式中、Rは、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、蛍光分子、化学発光分子、リン光分子、放射性同位体、酵素、酵素基質、親和性分子、リガンド、抗原、ハプテン、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド模倣物、タンパク質、発色性基質、造影剤、MRI造影剤、PET標識、リン光標識、またはそれらの組み合わせを含む部分である。
【0032】
1つの実施形態では、Rは蛍光分子、ビオチン、ポリエチレングリコール分子、脂質分子、またはそれらの組み合わせである。別の実施形態では、官能化サリチルアルデヒドエステルは下記からなる群より選択される式を有する:
【化24】
(例えば、
【化25】
(例えば、
【化26】
(式中、R=NH
2、OH、またはOCH
3である)(例えば、
【化27】
【0033】
多くのペプチド系治療薬はプロテアーゼ触媒分解のために不安定である。さらなる実施形態では、R部分はバイオコンジュゲートの生体内安定性を、修飾ポリペプチドの生体内安定性と比べて増加させる。修飾ポリペプチドは、本明細書で記載される任意の実施形態または実施形態の組み合わせに従ってもよい。生体内安定性は、ペプチドをヒト血清中でインキュベートし、ペプチドをクロマトグラフィー、例えば、逆相HPLCによりモニタすることにより決定することができる。特定の実施形態では、バイオコンジュゲートは、ヒト血清中で少なくとも12時間、例えば、少なくとも16時間、または少なくとも24時間、または少なくとも30時間の半減期を有する。
【0034】
修飾ポリペプチドは、任意の好適な溶液中で、官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させることができる。1つの実施形態では、修飾ポリペプチドは、窒素塩基および有機酸を含む溶液、例えば、ピリジン/酢酸溶液中で、官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させられる。ピリジン/酢酸は溶液中で任意の好適な比であってもよく、例えば、0.2:1~5:1v/vピリジン:酢酸の範囲、例えば、限定はされないが、1:1v/v比である。
【0035】
修飾ポリペプチドは、任意の好適な温度範囲で、官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させられてもよい。1つの実施形態では、修飾ポリペプチドは官能化サリチルアルデヒドエステルと、約18℃~27℃の範囲の温度でN,O-ベンジリデンアセタール中間体を形成するのに十分な期間の間、接触させられる。さらなる実施形態では、N,O-ベンジリデンアセタール中間体は酸性条件下でバイオコンジュゲートを形成するのに十分な期間の間反応させられる。任意の好適な酸性条件が使用され得る。1つの実施形態では、酸性条件はトリフルオロ酢酸の使用を含む。
【0036】
さらなる実施形態では、方法は、N6-セリル-リジンまたはその誘導体またはN6-スレオニル-リジンまたはその誘導体を修飾ポリペプチド合成中に導入することをさらに含む。
【0037】
別の実施形態では、修飾ポリペプチドが、N末端セリンまたはスレオニンを含む場合、方法は、N末端セリンまたはスレオニンを保護基で、官能化サリチルアルデヒドエステルと接触させる前に保護することをさらに含み得る。任意の好適な保護基が使用でき、アリルセリンまたはN末端アセチル化が挙げられるが、それに限定されない。
【0038】
対象化合物、ポリペプチド、またはバイオコンジュゲートの調製のためのプロセスのいずれか中、関係する分子のいずれか上の感受性基または反応基を保護することが必要である、および/または望ましい可能性がある。これは、標準研究、例えば、J. F. W. McOmie, “Protective Groups in Organic Chemistry,” Plenum Press, London and New York 1973, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, “Protective Groups in Organic Synthesis,” 第3版, Wiley, New York 1999,“The Peptides”; Volume 3 (編集者: E. Gross and J. Meienhofer), Academic Press, London and New York 1981,“Methoden der organischen Chemie,” Houben-Weyl, 4.sup.th edition, Vol. 15/l, Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974, in H.-D. Jakubke and H. Jescheit, “Aminosauren, Peptide, Proteine,” Verlag Chemie, Weinheim, Deerfield Beach, and Basel 1982,および/またはJochen Lehmann, “Chemie der Kohlenhydrate: Monosaccharide and Derivate,” Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974において記載される従来の保護基により達成することができる。保護基は、好都合なその後の段階で、当技術分野で公知の方法を使用して除去することができる。
【0039】
実施例
ペプチドおよびタンパク質バイオコンジュゲーションにより、異なる用途、例えば、プロテオミクスおよび高分解能撮像のための様々な官能基の部位特異的な導入が可能になる。1つのそのような方法はSer/Thrライゲーション(STL)であり、これはC末端サリチルアルデヒドエステルと、アルデヒド捕獲を介して可逆イミン形成を受けるセリンまたはスレオニン残基を含むN末端フラグメントの間で起こる化学選択的反応である。アシルシフト後、安定なN,O-ベンジリデンアセタール中間体が、酸により切断され、ライゲーション部位で天然セリン/スレオニン結合が解放される。例えば、N-末端セリンまたはスレオニンのために存在する、1-アミノ-2-ヒドロキシ官能基の存在下では、N,O-ベンジリデンアセタール中間体のみが形成する。ここで我々は、1-アミノ-2-ヒドロキシ官能基を含む非標準アミノ酸を使用し、化学生物学における様々な用途、例えば、GLP-1(7-37)の強力で安定な変異体の生成のためにペプチドを内部的に、および、部位特異的に修飾する(
図1)。
【0040】
このアプローチの範囲および普遍性を評価するために、我々は最初に市販開始材料から一段階でビオチン、シアニン-3、パルミチン酸類似体、および単分散ポリエチレングリコールサリチルアルデヒドエステルを合成した。ついで、全てのプローブを1-アミノ-2-ヒドロキシ非標準アミノ酸を含むモデルペプチド上に部位特異的に組み込んだ(スキーム1;
図4)。高速液体クロマトグラフィーによりモニタした、バイオコンジュゲーション後に、全ての生成物をエレクトロスプレーイオン化質量分析により特徴付けた。
【0041】
次に、我々はどのようにこのバイオコンジュゲーション戦略を利用して、ペプチド治療薬の安定性を増強させることができるか調査した。ペプチドおよびタンパク質治療薬の半減期を延ばす最も一般的な戦略はペグ化および脂質化である。2つのGLP-1(7-37)薬物、セマグルチドおよびリラグルチドは脂質化され、現在のところ、2型糖尿病の治療のために血糖を管理するように使用されている。ペグ化および脂質化はどちらも、プロテアーゼ触媒分解からの保護を提供する。加えて、脂質化は循環ヒトアルブミンへの結合を促進し、これにより、遅い一定の速度で薬物が放出される。
【0042】
この点を考慮して、我々はSTLを使用して、ハイブリッドPEGおよび脂肪酸側鎖を含む、セマグルチドに類似するGLP-1の2つの類似体を合成した(
図2)。第1のペプチド(G1)はリジン26、セマグルチドと同じ位置で修飾した。この部位はアラニン8のDPP-4切断部位からさらに離れているので、我々はまたアラニン8の代わりに2-アミノイソ酪酸(AIB)を含め(セマグルチドと同様)、追加の安定性を提供した。セマグルチドとG1の間の主な違いは、わずかな側鎖修飾の他に、G1は天然リジン34を維持することであり、コンジュゲーションがSTLにより部位特異的であるからである。第2のペプチド(G2)はセリン18で修飾した。この特別な場合、アラニン8でAibを省略することを選択する。というのも、脂質がN末端により近く、タンパク質分解をより良好の遮蔽する可能性があるからでる。2つの類似体についてのキャラクタリゼーションデータは表2にまとめて示される。
【表2】
【0043】
多くの生化学および構造研究により、GLP-1内の拡張両親媒性α-ヘリックスがGLP受容体の細胞外ドメインとの高親和性結合相互作用に関与することが示されている。これらの修飾がどのように二次構造を破壊するかを評価するために、我々は円二色性(CD)分光法を使用して、GLP-1に対する変化を観察した。GLP-1(特徴的ならせん状折り畳みを示す)に対して、G1およびG2はどちらもまた、らせん構造を示すが、しかしながら天然GLP-1より少ない。このデータは、セマグルチド上で見出される脂質修飾と一致し、この構造の損失は脂質修飾によって誘導されると考えられる。
【0044】
GLP-1のGLP-1Rへの内在性結合は細胞内再配列という結果になり、これにより、G-タンパク質の動員が可能になり、その後、ATPからのサイクリックAMP(cAMP)の産生を刺激し、グルコース刺激性インスリン分泌につながる。
19脂質修飾GLP-1類似体G1およびG2の、ヒトGLP-1Rを活性化する能力を評価するために、cAMP蓄積をヒトGLP-1Rを過剰発現するCHO-K1細胞において測定した。細胞を最初に、参照アゴニストとして天然GLP-1およびセマグルチドで処理した。それらは、それぞれ、3.3±0.6nMおよび0.60±0.2nM(平均±s.e.m.、n=3)のEC
50を示した(
図3a)。比較すると、G1およびG2はどちらも未修飾ペプチドよりも良好に作用し、セマグルチドと大体等価であり、それぞれ、0.97±0.2nMおよび0.73±0.2nMのEC
50を有した(平均±s.e.m.、n=3)。このデータにより、Lys26またはSer18上の脂質修飾はどちらも内在性機能を著しくは乱さないことが示唆される。脂質修飾GLP-1類似体G1およびG2のインビトロ薬理学的プロファイリングを補完するために、ヒト血清における天然GLP-1およびセマグルチドに対する化合物の安定性を、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用して比較した(データ示さず)。予想通りに、天然GLP-1はこのアッセイにおいて比較的短い半減期を示し、t
1/2=約3.5時間、というのも、N末端Ala8残基が容易に切断されるからである。対照的に、セマグルチドは48時間まで分解の兆候をほとんど示さず、というのも、その安定性がAla8でのAib付加および脂質修飾により著しく増強されるからである。これらの半減期は前の報告と一致する。天然GLP-1に対して、G1は著しく改善された安定性プロファイル、t
1/2=約40時間を示した。G1はDPP4による切断を防止するためにAla8で置換されたAibを含むが、このデータにより、ヒト血清中に存在する他のプロテアーゼは、他の部位でG1を分解することができることが示唆される。最後に、G2は、非常に安定であることが証明され、天然GLP-1に対して安定性が14倍以上増加し、セマグルチドに非常に匹敵する。
【0045】
有望な活性化および安定性データを考慮して、ペプチドをインビボで、標準ブドウ糖負荷試験(GTT)を使用して試験した。G1およびG2はどちらも、未修飾GLP-1(データ示さず)に比べ改善されたグルコース処理効率を示し、それらのインビトロデータと一致した。これらのデータは、脂質化の、効力を損なわないで安定性を著しく増加させる能力を強調し、よって、グルコース処理のマウスモデルにおける改善されたインビボ活性が得られる。
【0046】
どのようにG1およびG2がGLP-1Rと相互作用するかについての分子洞察を得るために、我々は、実験的方法で記載されるように、対応するリガンド-受容体複合体の計算モデリングを実施した。GLP-1Rペプチド結合モデルは、未修飾GLP-1ペプチドと複合体化されたGLP-1Rの、最近公開されたCryo-EM構造に基づいている。GLP-1Rとのそれらの複合体におけるセマグルチド、G1、およびG2の作成されたモデルにより、セリン18かまたはリジン26のいずれかでの脂質化は溶媒曝露され、おそらく、結合または活性化に関与する重要な接触を妨害しないであろうことが示唆される(
図3b-d)。加えて、G1の脂質修飾はペプチドのN末端により近く、おそらく、C末端Aib残基と脂質修飾の間に曝露される分解部位が存在することが示唆される。
【0047】
結論として、我々は、「セリンライゲーション」に頼る強固な部位特異的なバイオコンジュゲーション戦略を導入する。多数のサリチルアルデヒド(salicyaldehyde)エステルプローブが市販のカルボン酸から一段階で容易に合成することができ、化学生物学および医薬における様々な用途のための安定な結合を有するペプチドが生成される。セマグルチド上で脂質官能基を導入するために現在のところ使用されている化学選択的化学(これは、天然配列における任意の他の天然リジン残基の突然変異を伴う)とは異なり、我々の部位特異的な戦略はこれを必要としない。ペプチドにおけるN末端セリンまたはスレオニン残基は修飾のために競合する可能性があり;しかしながら、これは、単純な保護基戦略、例えば、アリルセリンまたはN末端アセチル化を使用することにより回避することができる。我々はこの技術を適用して、広く使用される糖尿病薬セマグルチドに類似するハイブリッドPEGおよび脂肪酸側鎖を取り付けた、強力で安定なGLP-1類似体を生成させた。どちらの化合物も、GLP-1Rを活性化するそれらの能力において、セマグルチドと等しい効力を有し、天然GLP-1に対してヒト血清中で著しく改善された安定性プロファイルを示し、インビボでGLP-1をしのいだ。
【0048】
ある一定の実施形態では、STLバイオコンジュゲーション戦略が他のGPCR、例えば、PTH(1-34)の強力で安定な類似体を作製するために使用され得る。加えて、ある一定の実施形態では、STLバイオコンジュゲーションをアンバー終止コドン技術と組み合わせ、固相ペプチド合成を排除することにより本開示の修飾ペプチドの生成を拡大させる。このアプローチは、治療ペプチドに重点をおいて、様々な用途のペプチドを作製する可能性を証明する。
【0049】
略語
GPCR、Gタンパク質共役受容体;DPP-4、ジペプチジルペプチダーゼ;STL、Ser/Thrライゲーション;Aib、2-アミノイソ酪酸;GTT、ブドウ糖負荷試験。
【0050】
材料:ビオチンをSigma Aldrichから購入した。Cyanine3酸をlumiprobeから購入した。C18-PEG4-COOHおよびt-boc-N-アミド-sPEG8-酸を、それぞれ、creative PEGworksおよびQuanta Biodesignから購入した。セマグルチド酢酸塩をBachemから購入した。Lys-Serジペプチドの合成を、WuXi AppTecにより前に報告されたように実施した(C. H. P. Cheung, J. Xu, C. L. Lee, Y. Zhang, R. Wei, D. Bierer, X. Hunag, and X. Li, Chem. Sci., 2021, 12, 7091)。全ての他の試薬を商業的供給元から入手し、さらに精製せずに使用した。全ての水溶液を、社内ELGA水精製システムから得られた、超高純度研究室グレード水(脱イオン、濾過、および滅菌)を使用して調製した。逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を、ダイオードアレイ検出器を備えたAgilent Technologies 1260シリーズHPLC機器を用いて実施した。分析解析のために、C18逆相HPLCカラムを使用した(Higgins)。試料を5-95%アセトニトリル/水グラジエント(0.1%TFA)を用いて45分で、1mL/分の流速で溶出し、214nmでモニタした。精製のために、セミ分取C18逆相HPLCカラムを使用した(Higgins)。試料を5-65%または25-95%アセトニトリル/水グラジエント(0.1%TFA)を用いて35分で、5.0mL/分の流速で溶出し、220nmでモニタした。質量スペクトルを、Agilent LC-TOFまたはThermo ESI direct inject mass specで取得した。
【0051】
ペプチド合成:全てのペプチドを、標準Fmoc固相化学を使用し、2-Chlorotrityl ProTide(CEM、0.45mmol/g)またはRink amide ChemMatrix(PCAS BioMatrix、0.45mmol/g)樹脂のいずれか上で、CEM製のLiberty Blueペプチドシンセサイザーを使用して合成した。カップリングをDIC(5当量、Novabiochem)およびOxyma(10当量、Sigma)をDMF中で使用して実施し、続いて、20%ピペリジンを用いてFmoc脱保護を実施した。次いで、全てのペプチドを(95:2.5:2.5TFA/H2O/トリイソプロピルシラン)3.5時間室温で切断し、冷エーテルから沈殿させ、逆相HPLCにより、分取クロマトグラフィーを使用して精製した。全てのペプチドを質量分析によりESI-MSを使用して特徴づけ、配列純度を分析用HPLCにより評価した。
【0052】
円二色性分光法:円二色性スペクトルを、Jasco J-1500 CD分光計上で記録した。ペプチドを新たに、試料測定前に10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中50μMの最終濃度まで希釈した。スペクトルを250から190nmまで0.1nmデータピッチ、50nm分-1走査速度、4秒データ統合時間、1nmバンド幅、および1mmパス長で、3蓄積を用いて、25℃で記録した。全てのデータは、リン酸緩衝液のみを含む試料からバックグラウンド減算した。
【0053】
GLP-1 cAMP蓄積アッセイ:GLP-1受容体活性化を、cAMP Hunter eXpressアッセイキット(Eurofins DiscoverX Corporation、#95-0062E2CP2M)を使用してヒトGLP1Rを過剰発現するCHO-K1細胞中で測定した。全ての試薬を別記されない限りアッセイキット由来とした。全てを製造者の指示に従い実施した。全てのデータをPrism8.3.0(GraphPad Software Inc., San Diego, CA)を使用して解析した。
【0054】
サリチルアルデヒドエステルの合成およびライゲーション反応条件:
サリチルアルデヒドエステルの合成:ビオチン、Cyanine3、C18-PEG4-COOH、およびt-boc-N-アミド-sPEG8-酸をサリチルアルデヒド(1.1eq.)、DIC(1.2eq)、およびDMAP(0.1eq)を含む乾燥DCM(2-4mL)に添加した。反応(複数可)を一晩進行させると、サリチルアルデヒドエステルが得られ、これらをセミ分取HPLCにより精製した。
【0055】
モデルペプチドへのライゲーションのための一般手順:サリチルアルデヒドエステル(1当量)およびペプチド断片(1.0当量)をピリジン/酢酸(1:1v/v)に溶解し、約0.025-0.05Mの最終濃度とした。反応物(複数可)を室温で撹拌し、LC/MSを使用してモニタした。反応の完了後、溶媒を凍結乾燥により除去し、中間生成物をTFA/H2O/i-Pr3SiH(94/5/1、v/v/v)で10分間(bocを有するPegについては2時間)処理し、ライゲーション部位に天然アミド結合を含む生成物を得た。
【0056】
GLP-1(7-37)へのライゲーションのための一般手順:GLP-1(7-37)(10mg)をピリジン/酢酸(1:1v/v)に溶解し、約10mMの最終濃度とし、対応するサリチルアルデヒドエステル(1当量)を添加した。反応物を室温で撹拌し、HPLCを使用してモニタした。反応の完了後、溶媒を凍結乾燥により除去し、中間体をTFA/H2O/i-Pr3SiH(94/5/1、v/v/v)で15分間、Boc保護PEGについては2時間処理し、ライゲーション部位に天然アミド結合を含む生成物を得た。
【0057】
参考文献
(1)Muttenthaller, M.; King, G. F.; Adams, D. J.; Alewood, P. F. Trends in Peptide Discovery. Nat. Rev. Drug Discov. 2021, 20, 309-325。
(2)Trujillo, J. M.; Nuffer, W.; Ellis, S. L. GLP-1 Receptor Agonists: a Review of Head-to-Head Clinical Studies. Ther. Adv. Endocrinol. Metab. 2015, 6 (1), 19-28。
(3)Al-Merani, A. S.; Brooks, P. D.; Chapman, J. B.; Munday, A. K. The Half-Lives of Angiotensin II, Angiotensin II-Amide, Angiotensin III, Sar1-Ala8- Angiotensin II and Renin in the Circulatory System of the Rat. J. Physiol. 1978, 278, 471-490。
(4)Lovshin, J. A.; Drucker, D. J. Incretin-Based Therapies for Type 2 Diabetes Mellitus. Nat. Rev. Endocrinol. 2009, 5 (5), 262-269。
(5)Green, B. D.; Mooney, M. H.; Gault, V. A.; Irwin, N.; Bailey, C. J.; Harriott, P.; Greer, B.; O’Harte, F. P. M.; Flatt, P. R. N-Terminal His(7)-Modification of Glucagon-Like Peptide-1(7-36) Amide Generates Dipeptidyl Peptidase IV-Stable Analogues with Potent Antihyperglycaemic Activity. J. Endocrinol. 2004, 180 (3), 379-388。
(6)Chen, X.; Mietlicki-Baase, E. G.; Barrett, T. M.; McGrath, L. E.; Koch-Laskowski, K.; Ferrie, J. J.; Hayes, M. R.; Petersson, E. J. Thioamide Substitution Selectively Modulates Proteolysis and Receptor Activity of Therapeutic Peptide Hormones. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139 (46), 16688-16695。
(7)Lin, S., Yang, X., Jia, S., Weeks, A. M., Hornsby, M., Lee, P. S., Nichiporuk, R. V., Iavarone, A. T., Wells, J. A., Toste, F. D., and Chang, C. J. Redox-Based Reagents for Chemoselective Methionine Bioconjugation. Science. 2017, 355, 597-602。
(8)Gupta, A.; Rivera-Molina, F.; Xi, Z.; Toomre, D.; Schepartz, A. Endosome Motility Defects Revealed at Super-Resolution in Live Cells Using HIDE Probes. Nat. Chem. Biol. 2020, 16, 408-414。
(9)Zhang, Y.; Xu, C.; Lam, H. Y.; Lee, C. L.; Li, X. Protein Chemical Synthesis by Serine and Threonine Ligation. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2013, 110 (37), 6657-6662。
(10)Levine, P. M.; Craven, T. W.; Bonneau, R.; Kirshenbaum, K. emi-Synthesis of Peptoid-Protein Hybrids by Chemical Ligation at Serine. Org. Lett. 2014, 16 (2), 512-515。
(11)Knudsen, L. B., Nielsen, P. F.; Huusfeldt, P. O.; Johansen, N. L.; Madsen, K.; Pedersen, F. Z.; Thoegersen, H.; Wilken, M.; Agersoe, H. Potent Derivatives of Glucagon-Like Peptide-1 with Pharmacokinetic Properties Suitable for Once Daily Administration. J. Med. Chem. 2000, 43 (9), 1664-1669。
(12)Jensen, L.; Helleberg, H.; Roffel, A.; Van Lier J. J.; Bjoernsdottir, I.; Pedersen, P. J.; Rowe, E.; Derving Karsbol, J.; Pedersen, M. L.; Absorption, Metabolism and Excretion of the GLP-1 Analogue Semaglutide in Humans and Nonclinical Species. Eur. J. Pharm. Sci. 2017, 104, 31-41。
(13)Menacho-Melgar, R.; Decker, J. S.; Hennigan, J. N.; Lynch, M. D.; A Review of Lipidation in the Development of Advanced Protein and Peptide Therapeutics. J. Control. Release. 2019, 10 (295), 1-12。
(14)Spector, A. A. Fatty Acid Binding to Plasma Albumin. J. Lipi. Res. 1975, 16 (3), 165-179。
(15)Zhang, Y.; Sun, B.; Feng, D.; Hu, H.; Chu, M.; Qu, Q.; Tarrasch, J. T.; Li, S.; Sun Kobilka, T.; Kobilka, B. K.; Skiniotis, G. Cryo-EM Structure of the Activated GLP-1 Receptor in Complex with a G Protein. Nature. 2017, 546 (7657), 248-253。
(16)Levine, P. M.; Balana, A. T.; Sturchler, E.; Koole, C.; Noda, H.; Zarzycka, B.; Daley, E. J.; Truong, T. T.; Katritch, V.; Gardella, T. J.; Wootten, D.; Sexton, P. M.; McDonald, P.; Pratt, M. R. O-GlcNAc Engineering of GPCR Peptide-Agonists Improves Their Stability and In Vivo Activity. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 14210-14219。
(17)Adelhorst, K.; Hedegaard, B. B.; Knudsen, L. B., Kirk, O. Structure Activity Studies of Glucagon-like Peptide-1. J. Biol. Chem. 1994, 269 (9), 6275-6278。
(18)Venanzi, M.; Savioli, M.; Cimino, R.; Gatto, E.; Palleschi, A.; Ripani, G.; Cicero, D.; Placidi, E.; Orvieto, F.; Bianchi, E. A Spectroscopic and Molecular Dynamics Study on the Aggregation Process of a Long-Lasting Lipidated Therapeutic Peptide: The Case of Semaglutide. Soft Matter. 2020, 16, 10122-10131。
(19)Zhang, R.; Xie, X. Tools for GPCR Drug Discovery. Acta Pharmacol. Sin. 2012, 33 (3), 372-384。
(20)Fraher, L. J.; Klein, K.; Marier, R.; Freeman, D.; Hendy, G. N.; Goltzman, D.; Hodsman, A. B. Comparison of the Pharmacokinetics of Parenteral Parathyroid Hormone-(1-34) [PTH-(1-34)] and PTH-Related Peptide-(1-34) in Healthy Young Humans. J. Clin. Endocrinol. Metab. 1995, 80 (1), 60-64。
【配列表】
【国際調査報告】