(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】COVID-19の治療のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/704 20060101AFI20250117BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20250117BHJP
C07H 15/24 20060101ALI20250117BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250117BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20250117BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20250117BHJP
C07J 7/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61K31/704
A61K45/00
A61K31/7048
A61K31/706
A61K31/519
C07H15/24
A61K39/395 N
A61P43/00 105
A61P11/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P9/00
A61P21/00
A61P17/00
A61P15/00
A61P43/00 121
C07J7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541694
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(85)【翻訳文提出日】2024-08-28
(86)【国際出願番号】 IL2023050077
(87)【国際公開番号】W WO2023144815
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524259883
【氏名又は名称】101 セラピューティックス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,アレク エム.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,サミュエル エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,ジェームズ アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,イザヤ ゼット.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドバーグ,マイケル エム.
【テーマコード(参考)】
4C057
4C084
4C085
4C086
4C091
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057CC01
4C057DD01
4C057JJ46
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA072
4C084ZA361
4C084ZA591
4C084ZA622
4C084ZA751
4C084ZA811
4C084ZA891
4C084ZA941
4C084ZB082
4C084ZB211
4C084ZB332
4C084ZB372
4C084ZC202
4C084ZC222
4C085AA14
4C085BB18
4C085CC23
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086EA15
4C086EA16
4C086EA19
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA94
4C086ZB21
4C086ZC75
4C091AA01
4C091BB03
4C091BB05
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE02
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH03
4C091JJ03
4C091KK12
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN04
4C091PA03
4C091PA05
4C091PA09
4C091PB02
4C091QQ01
(57)【要約】
本明細書に提供されるのは、治療線維症及びCOVID-19、好ましくは中等度COVID-19、の治療に使用するための組成物であって、化合物1又はその薬学的に許容される塩を含んでなる組成物である。
【化1】
また、本明細書には、COVID-19、好ましくは中等度COVID-19、の治療のための方法であって、それを必要とする罹患体に化合物1を10mg/日~30mg/日の量で投与することを含む、前記方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維症の治療における使用のための医薬組成物であって、前記組成物は、以下の構造:
【化1】
(式中、R
1は直接結合;又はフッ素、塩素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基又はベンジル基で任意に置換されたC1~C12直鎖アルキル基又は分枝アルキル基であり;R
2は水素又はフッ素であり;R
3は水素又はメチル基であり;及びR
4はヒドロキシル基又はケトン基であり;及び点線は単結合又は二重結合を示す。)
を有する化合物の治療有効量、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む、前記組成物。
【請求項2】
R
1は非置換C1~C10アルキル基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R
1は非置換(CH
2)
3基である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
R
2及びR
3はHであり、及びR
4はケトン基であり、及び点線は二重結合である、請求項1、2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
R
2はフッ素であり、R
3はメチル基であり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は二重結合である、請求項1、2又は3に記載の組成物。
【請求項6】
R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は単結合である、請求項1、2又は3に記載の組成物。
【請求項7】
R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はケトン基であり、及び点線は単結合である、請求項1、2又は3に記載の組成物。
【請求項8】
前記化合物は、以下の構造:
【化2】
を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
線維症は、肺、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、皮膚、卵巣又は精巣の線維症である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
線維症は肺の線維症である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
COVID-19に関連する肺線維症の治療のための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記化合物は10mg/日~30mg/日の量で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
以下の構造:
【化3】
を有する化合物1を、それを必要とする罹患体に10mg/日~30mg/日で投与することを含む、COVID-19の治療に使用するための組成物。
【請求項14】
罹患体は化合物1を20mg/日投与される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
罹患体は中等度COVID-19に罹患している、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
化合物1は少なくとも3日間連続して投与される、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
罹患体の回復はデキサメタゾンによる治療と比較して改善する、請求項13~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
罹患体は、さらに酸素富化、水分補給、解熱薬、鎮咳薬、マルチビタミン、共感染症用抗菌薬、イベルメクチン、レムデシビル、バリシチニブ、トファシチニブ、トシリズマブ、サリルマブのうちの少なくとも1つの治療を受けている、請求項13~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
化合物1は静脈内投与される、請求項13~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
罹患体は投与後に高血糖を経験しない、請求項13~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
罹患体は長期のCOVID-19の影響を受けている、請求項13~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
罹患体は標準治療をさらに行われる、請求項13~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
化合物1は3日間のみ投与される、請求項13~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
化合物1の投与は、漸減することなく、一定の割合で継続する、請求項13~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
治療有効量の化合物1を罹患体に投与することを含む、罹患体の線維症を治療するための方法。
【請求項26】
前記量は10mg/日~30mg/日である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記量は20mg/日である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
化合物1は静脈内投与される、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
線維症は、肺、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、皮膚、精巣又は卵巣の線維症である、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
線維症は肺の線維症である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
化合物1は3日間のみ投与される、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
化合物1の投与は、漸減することなく、一定の割合で継続する、請求項25~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
線維症は、COVID-19と関連している、請求項25~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
以下の構造を有する化合物:
【化4】
(式中、R
1は直接結合;又はフッ素、塩素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基又はベンジル基で任意に置換されたC1~C12直鎖アルキル基又は分枝アルキル基であり;R
2は水素又はフッ素であり;R
3は水素又はメチル基であり;及びR
4はヒドロキシル基又はケトン基であり;及び点線は単結合又は二重結合を表す。)及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体。
【請求項35】
R
1は非置換C1~C10アルキル基である、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
R
1は非置換(CH
2)
3基である、請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
R
2及びR
3はHであり、及びR
4はケトン基であり、及び点線は二重結合である、請求項34、35又は36に記載の化合物。
【請求項38】
R
2はフッ素であり、R
3はメチル基であり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は二重結合である、請求項34、35又は36に記載の化合物。
【請求項39】
R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は単結合である、請求項34、35又は36に記載の化合物。
【請求項40】
R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はケトン基であり、及び点線は単結合である、請求項34、35又は36に記載の化合物。
【請求項41】
前記化合物は、以下の構造:
【化5】
を有する、請求項34に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2022年1月25日出願の米国仮特許出願第63/302,575号に対して利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本開示はCOVID-19の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
コロナウイルス(Coronaviruse:CoV)はニドウイルス目(Nidovirales)のメンバーであり、ニドウイルス目には、感染細胞の細胞質での複製中に特徴的なネストされたサブゲノムmRNAのセットを生成する大きな(約30kb)プラスセンスの一本鎖RNAゲノムを持つエンベロープ型ウイルスが含まれる。コロナウイルスのゲノム構成は高度に保存されており、5’側から3分の2のゲノムがレプリカーゼポリタンパク質をコードしており、その後に標準的な構造タンパク質であるスパイク、エンベロープ、膜及びヌクレオカプシドをコードする配列が続いている。多くのCoVには、構造タンパク質の遺伝子の間に散在するアクセサリー遺伝子が含まれる。これらのアクセサリー遺伝子はウイルスの複製に必ずしも必要ではなく、一般にウイルスファミリー内で高度に保存されているわけではないが、多くは宿主の応答を調節するタンパク質をコードしている。興味深いことに、高度に保存されているコロナウイルスのレプリカーゼタンパク質は、感染に対する宿主の自然免疫応答を阻止したり、又は遅らせたりするアンタゴニストとして働くことも可能である。コロナウイルスにコードされた多数のアクセサリー及び非アクセサリータンパク質が宿主の抗ウイルス応答を形作ることが示されていることは、ウイルスを媒介した宿主防御の破壊が感染の重要な要素であることを示唆している。
【0004】
コロナウイルスの場合、SARS、MERS、SARS-CoV-2など、ヒトに影響を与える複数のウイルスが存在する。
【0005】
COVID-19の原因である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年後期に中国で出現した。COVID-19感染の大部分は無症状又は軽症のいずれかである。しかし、高齢の感染者のかなりの割合が、入院を必要とする呼吸器疾患を発症する。COVID-19は低酸素性呼吸不全を伴う重症疾患に急速に進行し得、長期の人工呼吸補助を必要とすることがある。重症COVID-19の病態生理は、広範なX線混濁を伴う急性肺炎のプロセスが支配的である。剖検では、びまん性肺胞損傷、炎症性浸潤及び微小血管血栓症が認められる。鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、及びパンデミック性及び季節性のインフルエンザでは、宿主の免疫反応が重要な役割を果たしていると考えられている。重症のCOVID-19では炎症性臓器障害が発生する可能性があり、一部の罹患体(patient)ではC反応性タンパク質、フェリチン及びインターロイキン1及び6などの炎症マーカーが著しく上昇している。ウイルス性肺炎の治療には、炎症性臓器傷害を軽減するためのいくつかの治療的介入が提案されてきたが、副腎皮質ステロイドの価値については広く議論されている。英国の病院に入院したCOVID-19罹患体のうち、症例の致死率は26%を超え、侵襲的機械的人工呼吸を必要とする罹患体では致死率は37%を超える。
【0006】
急性高血糖は重症罹患体の危険因子と見なされており、重症感染症、多臓器不全、死亡などのそのような罹患体の有害転帰の独立した危険因子として特定されている。急性高血糖症は、インスリンを分泌する膵島細胞に長期的な損傷を引き起こすこともわかっている。II型糖尿病又はメタボリックシンドロームの罹患体は、感染後に重度COVID-19に特に感受性である。急性高血糖症は、集中治療室の環境でのそのような罹患体のグルコースの制御を困難にする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rayman G, Lumb AN, Kennon B, Cottrell C, Nagi D, Page E, Voigt D, Courtney HC, Atkins H, Higgins K, Platts J, Dhatariya K, Patel M, Newland-Jones P, Narendran P, Kar P, Burr O, Thomas S, Stewart R.Dexamethasone therapy in COVID-19 patients:implications and guidance for the management of blood glucose in people with and without diabetes.Diabet Med.2021 Jan;38(1):e14378.doi:10.1111/dme.14378.Epub 2020 Sep 21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グルココルチコイドは、罹患体の血糖値を有意に上昇させることが知られている。デキサメタゾンをCOVID-19罹患体に投与したリカバリー(RECOVERY)試験では、糖尿病罹患体において血糖値が有意に上昇した(Rayman G, Lumb AN, Kennon B, Cottrell C, Nagi D, Page E, Voigt D, Courtney HC, Atkins H, Higgins K, Platts J, Dhatariya K, Patel M, Newland-Jones P, Narendran P, Kar P, Burr O, Thomas S, Stewart R.Dexamethasone therapy in COVID-19 patients:implications and guidance for the management of blood glucose in people with and without diabetes.Diabet Med.2021 Jan;38(1):e14378.doi:10.1111/dme.14378.Epub 2020 Sep 21)。デキサメタゾンがCOVID-19で有益であり得るが、糖尿病罹患体及びメタボリックシンドローム罹患体など急性高血糖症が特に問題となる罹患体への投与には細心の注意を払う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
本明細書には、化合物1又はその薬学的に許容される塩を含む、COVID-19、好ましくは中等度COVID-19、の治療に使用するための組成物が提供される。線維症の治療に用いる組成物もまた提供される。
【化1】
【0010】
また、本明細書には、COVID-19、好ましくは中等度COVID-19、の治療のための方法であって、それを必要とする罹患体(patient)に化合物1を10mg/日~30mg/日の量で投与することを含む、前記方法が提供される。
【0011】
上記及びその他の目的、特徴及び利点は、添付図を参照しながら進む以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による化合物1の早期(E)又は後期(L)投与と、デキサメタゾン(DEX)の投与のいずれかを行ったブレオマイシン肺線維症モデルのマウスの様々な群、ビヒクル群又はナイーブ群の生存のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
I.用語
特に説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」、「the」は、文脈で明確に別段の指示がない限り、複数形の参照語を含む。同様に、「又は(or)」という言葉は、文脈で明確に別段の指示がない限り、「及び」を含むことを意図している。「comprise(含む)」は、「include(含む)」を意味する。略語の「e.g.(例えば)」はラテン語の「exempli gratia」に由来し、本明細書では非限定的な例を示すために使用されている。したがって、「例えば(e.g.)」という略語は、「例えば(for example)」という用語と同義である。矛盾が生じた場合は、用語の説明を含む本明細書が優先される。さらに、すべての材料、方法、例は例示であり、限定を意図するものではない。
【0014】
投与:選択した経路で被験体に組成物を導入すること。活性化合物又は組成物の投与は、当業者に知られている任意の経路で行うことができる。投与は局所的又は全身的であり得る。局所投与の例には、局所投与、腫瘍内投与、皮下投与、筋肉内投与、髄腔内投与、眼内投与、局所眼科投与又は吸入投与による鼻粘膜又は肺への投与が含まれるが、これらに限定されない。さらに、局所投与には、例えば、特定の臓器の動脈供給のために血管内投与を対象とすることによる全身投与に通常使用される投与経路が含まれる。したがって、特定の実施形態において、局所投与には、投与が特定の器官に供給する血管系を標的とする場合、動脈内投与及び静脈内投与が含まれる。局所投与にはまた、活性化合物及び薬剤を移植可能なデバイス又はコンストラクト(本明細書に記載の薬物送達デバイスなど)に組み込むことも含まれ、これらは持続的な治療効果のために活性薬剤及び化合物を長時間にわたり放出する。移植可能なデバイスは、所定の治療領域である組織又は組織環境に挿入する技術分野で知られている任意の手段によって「移植」される。
【0015】
全身投与には、活性化合物又は組成物を循環系を介して身体に広く分布させるように設計されたあらゆる投与経路が含まれる。したがって、全身投与には動脈内投与及び静脈内投与が含まれるが、これらに限定されるものではない。全身投与にはまた、このような投与が、循環系による体全体の吸収及び分布を目的とする場合、局所投与、皮下投与、筋肉内投与又は吸入による投与も含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
線維症:線維組織が形成される病態であり、肺に限らず様々な臓器の組織の炎症又は損傷の結果として起こりうる。肺では、線維化は「肺線維症」と呼ばれる。COVID-19は肺線維症を誘発する可能性がある。さらに、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、放射線誘発肺損傷及び線維胸などの他の病態が肺線維症の原因となることもある。線維症は肝臓、心臓又は腎臓にも起こることがある。
【0017】
中等度COVID-19:中等度COVID-19に罹患している罹患体は、鼻咽頭又は口咽頭スワブ(ぬぐい液)においてSARS-CoV-2のRT-PCR検査で陽性と試験され;発熱、咳があり、のどの痛み/のどの炎症、体の痛み/頭痛、倦怠感/脱力感、下痢又は胃腸障害を伴う又は伴わず、食欲不振/吐き気/嘔吐を伴う又は伴わず、嗅覚及び/又は味覚の喪失、短い呼吸/息切れ及び呼吸困難を伴う又は伴わず;呼吸数は1分あたり24回超過30回未満、室内気でのSpO2は90~93%である。
【0018】
高血糖:血清中のグルコースが200mg/dlを超える高値の状態。
【0019】
薬学的に許容される塩:所定の化合物の「薬学的に許容される塩」という用語は、所定の化合物の生物学的効果及び特性を保持し、生物学的又はその他の点で望ましくないものではない塩を指す。薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸及び有機酸から調製することができる。無機酸由来の塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。有機酸由来の塩としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
標準治療(Standard of Care):科学的根拠に基づき、所与の適応症に対する適切な治療のガイドラインに規定されている承認済みの治療。
【0021】
被験体:脊椎動物を含む生きた多細胞生物であり、ヒトと非ヒトの哺乳類の両方を含むカテゴリー。
【0022】
疾患又は症状に感受性の被験体:疾患又は病状を発症する可能性がある、発症しやすい、又は発症しやすい素因を持つ被験体。疾患又は病状の症状をすでに有しているか又は示している被験体は、すでにそれをすでに発症しているため、「感受性(susceptible)」であると見なされることが理解される。
【0023】
治療有効量:治療される被験体において所望の効果を得るのに十分な化合物の量。化合物の有効量を単回投与で投与することもでき、又は治療期間中に数回に分けて、例えば毎日投与することもできる。しかしながら、有効量は、適用される化合物、治療される被験体、苦痛の重症度及び種類及び化合物の投与様式に依存するであろう。
【0024】
II.いくつかの実施形態の概要
本明細書において提供されるのは、化合物1を用いるCOVID-19の治療のための方法、及び化合物1を含むCOVID-19の治療に使用するための組成物である。また、本明細書において、COVID-19、特に中等度COVID-19、の治療のための方法であって、治療有効量の以下の構造:
【化2】
(式中、R
1は、直接結合;又はC1~C12直鎖アルキル基若しくは分枝アルキル基であり;R
2は、水素又はフッ素であり;R
3は、水素又はメチル基であり、及びR
4は、ヒドロキシル基又はケトン基である)を有する化合物、及び少なくとも1つの薬学的に受容可能な担体を投与することを含む方法が提供される。好ましくは、該化合物又はその薬学的に許容される塩は、10~30mg/日の量で投与される。本発明のさらなる態様は、線維症に関連する疾患、好ましくは肺、肝臓、腎臓又は心臓の線維症に関連する疾患、の治療のための前述の化合物に関する。任意に、肺の線維症が治療される。任意に、化合物1は疾患の治療のための方法に使用される薬剤である。マクロファージは、免疫系の働きに関与する白血球である。マクロファージは、病原体からの生体防御、創傷治癒及び免疫調節に関与している。マクロファージには、大きく分けて2つの表現型がある:M1マクロファージは、「古典的活性化」マクロファージとも呼ばれる。M1マクロファージは一般的に炎症誘発性であり、M2マクロファージは一般的に抗炎症性である。インターフェロンγなどのサイトカイン及びリポ多糖などの細菌性内毒素など、様々な薬剤がマクロファージの活性化を引き起こすことが可能である。マクロファージ機能の障害は異常修復につながり得、無制御な炎症性メディエーター及び成長因子の産生、抗炎症性マクロファージの生成不全、あるいはマクロファージと、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、幹細胞及び組織前駆細胞との間のコミュニケーション不全を伴い、これらのすべてが持続的な傷害状態に寄与し、病的線維症の発症につながる可能性がある(Immunity.2016 March 15;44(3):450-462)。
【0025】
マクロファージはSARS-CoV-2により感染され得、その感染は、免疫調節サイトカインの分泌及びM2型分子のアップレギュレーションを特徴とするマクロファージ特異的転写プログラムの誘導と関連している(J Infect Dis 2021 Aug 2;224(3):395-406)。マクロファージ、特にM2マクロファージは線維症の発症に重要な役割を果たしている(Semin Liver Dis.2010 August;30(3):245-257)。線維化促進マクロファージを抑制することは、線維症の治療又は予防のための合理的なアプローチを提供し得る。COVID-19を治療する他のアプローチとは対照的に、本明細書に記載の化合物は、M2マクロファージを特異的に標的とすることができるという点で、抗線維性であることが示唆される。線維性疾患及びCOVID-19の臨床の場では、これがM2マクロファージの線維化促進作用を改善することが示唆されている。
【0026】
一実施形態によれば、本明細書に記載されるのは、以下の構造:
【化3】
(式中、R
1は直接結合;又はフッ素、塩素及び臭素から選択される少なくとも1つのハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン基又はベンジル基で任意に置換されたC1~C12直鎖アルキル基又は分枝アルキル基であり;R
2は水素又はフッ素であり;R
3は、水素又はメチル基であり、及びR
4はヒドロキシル基又はケトン基であり;及び点線は単結合又は二重結合を表す)を有する化合物の治療有効量、及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。任意に、R
1は非置換C1~C10アルキル基である。任意に、R
1は非置換の(CH
2)
3基である。任意に、R
2及びR
3はHであり、R
4はケトン基であり、及び点線は二重結合である。任意に、R
2はフッ素であり、R
3はメチルであり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は二重結合である。任意に、R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はヒドロキシル基であり、及び点線は単結合である。任意に、R
2はHであり、R
3はHであり、及びR
4はケトン基であり、及び点線は単結合である。任意に、本化合物は以下の構造を有する:
【化4】
【0027】
任意に、本組成物は、線維症、任意に、肺、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、皮膚、卵巣又は精巣の線維症、好ましくは肺の線維症、の治療のためのものである。任意に、本組成物はCOVID-19に関連する肺線維症の治療のためのものである。任意に、本化合物は10mg/日~30mg/日の量で投与される。
【0028】
さらに、本明細書には、COVID-19の治療のための方法であって、それを必要とする罹患体に、以下の構造を有する化合物1を10mg/日~30mg/日で投与することを含む、前記方法が記載される:
【化5】
【0029】
任意に、罹患体に化合物1を20mg/日投与する。任意に、罹患体は中等度COVID-19に罹患している。任意に、化合物1を少なくとも3日間連続投与する。任意に、デキサメタゾンによる治療と比較して、罹患体の回復が改善する。任意に、罹患体はさらに、酸素富化、水分補給、解熱薬、鎮咳薬、マルチビタミン、共感染症用抗菌薬、イベルメクチン、レムデシビル、バリシチニブ、トファシチニブ、トシリズマブ、サリルマブのうちの少なくとも1つの治療を受けている。任意に、化合物1を静脈内投与する。任意に、罹患体は投与後に高血糖を経験しない。任意に、罹患体は長期のCOVID-19の影響を受けている。任意に、罹患体は標準治療をさらに行われる。
【0030】
本明細書にはさらに、治療上有効な量の化合物1を、任意に10mg/日~30mg/日、任意に20mg/日の量で罹患体に投与することを含む、罹患体の線維症を治療する方法が記載される。任意に、化合物1を静脈内投与する。任意に、線維症は肺、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、皮膚、精巣、卵巣の線維症である。任意に、線維症は肺の線維症である。任意に、化合物1は3日間のみ投与される。任意に、化合物1の投与は漸減せずに一定の割合で継続する。
【0031】
以下の実施例は、特定の特徴及び/又は実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、本開示を記載の特定の特徴又は実施形態に限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0032】
実施例1:化合物1の調製
化合物1は以下の手順で調製した。
【0033】
工程1:(2R,3R,4S,5S,6S)-2-(アセトキシメチル)-6-(3-ブロモプロポキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセテート(化合物R1)
【化6】
1,2,3,4,6-ペンタ-O-アセチル-D-マンノピラノシド(8gr、20.5mmol)をCH
2Cl
2(80mL)に溶解し、3-ブロモプロパン-1-オール(3.13gr、22.5mmol)を添加し、続いて三フッ化ホウ素エーテラート(10.1mL、82.0mmol)を添加した。反応物を窒素雰囲気下、暗所で24時間撹拌した。TLC分析(ヘキサン:EtOAc=1:1)を行った。新しいスポットが検出された。DCMを添加し、飽和NaHCO
3溶液を添加することにより反応混合物を中和した。相分離し、水相をDCMで洗浄した。合わせた有機相をNa
2SO
4上で乾燥させ、濾過及び蒸発させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(3:1~1:1の勾配-ヘキサン:EtOAc)で精製し、生成物を無色の油として収率64%で分離した。
【0034】
工程2:
(2R,3R,4S,5S,6S)-2-(アセトキシメチル)-6-(3-((1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシ)プロポキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセテート(化合物R2)
【化7】
化合物R1(3.5gr、7.5mmol)とN-ヒドロキシルフタルイミド(1.35gr、8.25mmol)のDMF(15mL)溶液に、DBU(1.1mL、8.25mmol)を加え、赤色溶液を窒素雰囲気下の室温で18時間攪拌した。反応をTLC(ヘキサン/EtOAc=1/1)及びLCMS(SB1090)でモニターしたところ、出発物質は残存していなかった。この黄橙色溶液を1N HCl(50mL)の溶液に滴下して添加した。白色固体を分離し、これをEtOACに溶解させた。水相をEtOAcで抽出し、Na
2SO
4上で乾燥させ、濾過して蒸発させた。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン中0~50%EtOAcの勾配)により精製した。3gr(収率73%)の白色固体を得た。
【0035】
工程3:(2R,3R,4S,5S,6S)-2-(アセトキシメチル)-6-(3-(アミノオキシ)プロポキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセテート(化合物R3)
【化8】
化合物R2(3.04gr、5.51mmol)をメタノール(100mL)に、溶解が困難なため30分かけて溶解し、ヒドラジン水和物1.5等量(0.401mL、8.27mmol)を添加した。攪拌を4時間続け、反応をTLC(EtOAc)及びLCMS(SB1090)でモニターした。溶媒を蒸発させて除去したところ、白色の固体が析出した(副生成物)。この粗生成物をEtOAcで洗浄し、懸濁液を濾過し、母液を蒸発させた。このEtOAcによる洗浄を4回繰り返し、続いてCHCl
3によるさらなる洗浄を行った。母液は蒸発させて乾燥させた。1.85gr(収率80%)の無色の油を得た。NMR及びLCMS(SB1090)の解析により、この構造を確認した。
【0036】
工程4:(2R,3R,4S,5S,6S)-2-(アセトキシメチル)-6-(3-(((8S,9R,10S,11S,13S,14S,16R,17R,E)-9-フルオロ-11,17-ジヒドロキシ-17-(2-ヒドロキシアセチル)-10,13,16-トリメチル-6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-ドデカヒドロ-3H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イリデン)アミノ)プロポキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセテート(化合物R4)
【化9】
【0037】
先に調製したオキシムR3(1.8gr、4.27mmol)を、デキサメタゾン(1.11gr、2.85mmol)のEtOH(25mL)溶液に添加し、続いてPTSA(0.27gr、1.42mmol)を添加した。LCMS(SB1090)によりモニターしながら、反応混合物を4時間還流させた。1時間後、95%の変換が検出された。また、酢酸基のモノ/ジ脱保護された生成物もLCMSにより観察した。反応混合物を室温まで冷却し、NaHCO3(1g)を加え、この懸濁液を5分間攪拌し、濾過した。EtOHを蒸発させて乾燥させた。カラムクロマトグラフィー(ヘキサン中のEtOAcの勾配50%~100%)による精製により、生成物と部分的に脱保護された副生成物との混合物を得た。収量:1.66gr。この混合物を次の工程で使用した。
【0038】
工程5:1-((8S,9R,10S,11S,13S,14S,16R,17R,E)-9-フルオロ-11,17-ジヒドロキシ-10,13,16-トリメチル-3-((3-(((2S,3S,4S,5S,6R)-3,4,5-トリヒドロキシ-6-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)プロポキシ)イミノ)-6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-ドデカヒドロ-3H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)-2-ヒドロキシエタン-1-オン(化合物1)
【化10】
化合物R4(1.66gr)をMeOH/Et
3N/H
2O(8:1:1)60mLに溶解した。反応混合物を室温で撹拌し、LCMS(SB1090)によりモニターした。4時間攪拌後、目的の生成物(m/z628)のみが観察された。溶媒を蒸発させ、生成物(粗生成物1.33g)をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、DCM/MeOH=85/15で溶出し、TLC(DCM/MeOH=80/20)でモニターした。0.7grの白色固体を単離し、構造を確認するNMR及びLCMS(SB1090)により特性評価した。
【0039】
実施例2:肺線維症のin vivoモデル
COVID-19感染後の肺線維症(pulmonary fibrosis:PF)は、持続的で異なる線維性の断層画像変化を有すると定義され、多くの場合、肺機能検査において障害を伴う。COVID-19感染後のPFの病態は部分的に知られているが、多因子性である可能性が高い。活性酸素種の過剰産生及び非保護的な機械的人工呼吸は、COVID-19感染後のPFの引き金となる可能性がある。肺線維症における化合物1の有益な効果を調べるために、ブレオマイシン誘発PFマウスモデルを利用した。ブレオマイシンは、急性炎症反応をもたらす肺傷害を誘発する能力で知られており、炎症期の後に線維性変化が起こる。このモデルでは、ブレオマイシンを肺に直接投与すると、広大な肺障害のために投与マウスの生存が減少する。試験は、C57BL/6マウスの5つの治療群(各群n=10~12)で行われ、化合物1(1mg/マウス)による早期又は後期治療、0.45mg/マウスのデキサメタゾン(DEX)による早期治療、ビヒクル群及びナイーブコントロール群が含まれた。早期治療は1日目で、ブレオマイシン投与と同じ日に開始した。後期治療は14日目に開始した。ビヒクル群、デキサメタゾン群及び化合物1の早期投与群では、1日目、2日目、3日目、7日目、14日目、21日目及び28日目に試験項目を注入した。後期治療群では、化合物1を14、15、16、21、28及び31日目に投与した。試験項目は、肺線維症モデル誘導(ブレオマイシン気管内投与(3.5U/kg)によりブレオマイシンを誘導)後、尾静脈から静脈注入した。動物は罹病率、死亡率、体重及び臨床的徴候をモニターした。選択された臨床的徴候(すなわち、身体的外観、活動性、外的刺激に応答する能力、眼球及び呼吸の質)が点数化され、臨床スコアが提供された。BALF(気管支肺胞洗浄液)(33日目)及び血清(17日目および32日目)のサイトカインレベルを測定した。
【0040】
図1に示すとおり、同様の死亡率が、ビヒクル(破線)、DEX(中空マーク付きの細線)及び化合物1早期(「E」と指定、二重線)の治療群において認められ、これはナイーブ(点線、中空マーク)コントロール群よりも高かった。化合物1の後期治療群(「L」と指定、実線)は、DEX及び化合物1の早期治療群よりも死亡率が低く、ナイーブ群と同程度の死亡率を示した。
【0041】
肺組織の広範な損傷は、肺線維症発症の前段階である。薬物、産業汚染物質、放射線又は急性肺炎への慢性的な曝露は、肺組織の損傷を引き起こし得、その結果として瘢痕化及び線維症を引き起こし得る。病理組織学的評価は、依然として肺線維症の重症度を評価する正確な方法である。血清及びBALFのサイトカインの分析の結果、17日目及び32日目に測定された血清サイトカイン値のほとんどに、群間で統計学的に有意な変化はみられなかった(データは示さず)。組織病理学的評価(試験終了33日目から)では、化合物1とDEXによる後期治療後の肺線維症が、ビヒクルコントロール群と比較して減少していることが明らかになった。化合物1による後期治療後の病理学的スコア及び線維化スコア、ならびにデジタル形態計測による肺線維化の割合は、以下の表1に示すとおり、DEX治療と比較してわずかに低かった。値は平均値±標準偏差で記載する。
【0042】
【0043】
ブレオマイシン後のH&E及びMT染色した肺切片の病理組織学的評価では、肺組織全体に亜急性の炎症及び線維化という典型的な病理学的特徴がみられた。全体として、化合物1による後期治療は、DEX又は化合物1による早期治療と比較して、ブレオマイシン肺線維症モデルにおいて、死亡率及び病理組織学的評価によって示される疾患の進行に関して、より深い効果をもたらすようである。このことは、化合物1が中等度から重度のCOVID-19の症例の治療としての可能性を示している。近年、肺線維症がCOVID-19の長期追跡管理における重要な合併症として浮上していることから、デキサメタゾンよりも線維症を抑制する効果の改善を有することが示されている化合物1は、肺障害が始まった後に投与する場合に有効な療法となることが期待できる。
【0044】
肺線維症の減少に加えて、心臓、肝臓又は腎臓の線維症などの他のタイプの線維症の治療が、化合物1を用いて改善又は予防される可能性が示唆される。
【0045】
実施例3:化合物1のヒトにおける安全性
健常人ボランティアにおける化合物1の安全性を評価するための第I相単施設非盲検用量漸増試験を開始した。この第I相試験では、COVID-19罹患体において試験前に化合物1の安全性を評価し、かつ用量制限毒性(dose-limiting toxicity:DLT)を同定するため、試験パート1では単回漸増投与、続いて試験パート2では3日間の反復投与に分けられる15名の健常人が含まれた。
【0046】
15名の被験体を含む第I相試験には、COVID-19罹患体の試験の前に健常人における化合物1の安全性を評価し、かつ用量制限毒性(DLT)を同定するために、単回漸増投与パート1試験に続いて3日間の反復投与のパート2試験を含むように計画した。
【0047】
最初に、3人の参加者をコホートに登録し、化合物1の10mgの単回用量の静脈内投与を行った。3人の参加者の第2のコホートには化合物1の20mgの単回用量の静脈内投与を行い、6人の参加者の第3のコホートには化合物1の30mgの単回用量の静脈内投与を行った。10、20及び30mgの投与量は、627.31g/molの分子量を有する化合物1及び392.464g/molの分子量を有するデキサメタゾンの分子量計算に基づき、6.3、12.5、及び18.8mgの遊離デキサメタゾンの当量に相当する。
【0048】
次の段階では、3人の参加者に化合物1を30mg、1日1回、3日間連続で投与した。試験期間中、合計33件の有害事象(Adverse Event:AE)が報告された。33件のAE中4件は治験薬(Investigational Product:IP)曝露前に、29件は曝露後に報告され、曝露後29件中6件のAEはIPに関連なし、13件のAEは関連あり、10件のAEはおそらく関連ありと評価した。23件の可能性又は確実性のあるAEへの関連性のうち、6件(26.1%)は血液学的AEであり、8件(34.8%)は化学的であり、2件(8.7%)は不眠症であり、2件(8.7%)は疲労報告であり、2件(8.7%)は皮膚発疹であり、1件(4.34%)は不安症であり、1件(4.34%)は高血圧であり、及び1件(4.34%)は非心臓性胸痛であった。すべてこれらの事象は軽度から中等度であった。すべてのボランティアは、プロトコールにより計画されたとおりの時点に退院した。この第1相試験の結果では、化合物1の用量漸増とAEの頻度又は重症度との間に相関は認められなかった。後天性の重篤な有害事象(Serious Adverse Event:SAE)又は重度のAEは検出されなかった。試験中にDLTは報告されなかった。
【0049】
文献によると、DEXによって最も頻繁に報告される副作用は不眠症の存在である。化合物1投与中に、不眠症2例、不安症1例、及び非心臓性胸痛1例が報告された。これらの事象は、入院又は臨床試験への参加による不快感によって説明することができるが、しかしながら、これらの事象の確率及び頻度を決定するためには、さらなる調査が必要である。高血糖が1例検出されたが、この事象は軽度かつ一過性のものであり(血糖値は一個人で97から105(mg/dL)に上昇)、化合物1の24回の投与のいずれかの投与後4時間に変化はみられなかった。
【0050】
実施例4:ヒト被験体のCOVID-19の治療における化合物1の有効性
中等度COVID-19疾患に対する化合物1とデキサメタゾンの安全性及び有効性を、標準治療に沿って評価する前向き無作為化多施設共同並行群間二重盲検適応第II相/第III相試験を実施する。全罹患体の治療投与の総期間は3日間である。本試験の評価項目は、中等度COVID-19罹患体における化合物1の有効性をデキサメタゾンと比較評価することである。
【0051】
化合物1はバイアルに収容され、各バイアルには20mgの化合物1が含まれ、5mlの溶液のボーラス静脈内注入(IV)用に生理食塩水(0.9%NaCl)に再構成する。
【0052】
本試験は、臨床症状、バイタルサイン及び検査値の変化を含む、治療に起因する有害事象(AE)及び重篤な有害事象(SAE)の割合を測定するように設計されている。また、これは臨床的リカバリー(回復)の期間(Time to Clinical Recovery:TTCR)[1日目~10日目]を決定するように設計され、リカバリーの日にち(Day of recovery)は、表2に記載されている11ポイントの順序尺度で、罹患体が(罹患体の最高スコアに対して)2ポイントの改善を示した最初の日と定義されている:
【0053】
【0054】
本試験のその他の評価項目には以下が含まれる:投与から28日目又は60日目の死亡率の低下;集中治療室(ICU)入室率の低下;機械的人工呼吸又は昇圧剤療法の低減(28日間の追跡調査);臨床的リカバリー率の改善[時間枠:10日目]-10日以内に回復した罹患体の割合であり、リカバリー(回復)とは、罹患体が11ポイントの順序尺度で2ポイント改善した場合に定義される;1日目、2日目、4日目、7日目の体温、心拍数、及び酸素飽和度の改善;3日目、5日目及び10日目の鼻咽頭スワブからのRT-PCRによる入院時レベルに対するウイルス量の減少;CRP、フェリチン及びCBC(鑑別あり)のレベルの変化;サイトカインプロファイルとリンパ球亜集団の変化;及びACTH及び朝コルチゾールのレベルの測定。
【0055】
罹患体には、人口統計学、バイタルサインを含む身体診察、COVID-19の徴候及び症状、内科的及び外科的病歴、投薬歴、RT-PCR、WHOの順序的スコア及び周期閾値(CT)の値の評価、尿妊娠検査(出産可能性のある女性のみ)、血液学、生化学、及び尿検査に対してスクリーニングが行われる。糖尿病、高血圧を含む心血管疾患、CAD、慢性肺/肝臓若しくは腎臓の疾患など、十分に管理されている病状のある罹患体は、治験責任医師の判断に基づき本試験に含まれる。
【0056】
約318名の適格罹患体が1:1の割合で2つの治療群のいずれかに無作為に割り付けられる。群1:1日あたり20mgの化合物1+標準治療。群2:デキサメタゾン6mg+標準治療。
【0057】
標準治療には、酸素富化、水分補給、解熱薬、鎮咳薬、マルチビタミン剤、共感染症用に対する抗菌薬、イベルメクチン、任意に1日12mg;レムデシビル、バリシチニブ、トファシチニブ、トシリズマブ、サリルマブのいずれか1つ又は2つ以上を含めることができる。任意に、レムデシビルを5日間投与し、初日は200mgを静脈内投与し、その後残りの4日間は1日100mgを静脈内投与する。
【0058】
期待される総試験期間は以下からなる約60日間である:無作為化の前7日間(-7日目から1日目)。治療期間:1日目から3日目まで。治療終了時の評価:3日目(化合物1を投与される罹患体に対して)及びX日目(治験責任医師の判断に基づき、デキサメタゾン群に対して)。治療後の追跡調査:4日目、5日目、10日目、14日目及び28日目。試験終了時の評価:60日目。各罹患体の総試験参加期間は、全スクリーニング手順の実施に必要な日数によって異なる場合がある。スクリーニングでは、以下のことが行われる:
罹患体はインフォームド・コンセント用紙に署名すること;組み入れ基準及び除外基準を確認すること;病歴、手術歴及び薬歴を記録すること;定性及び定量的の両方を含むSARS-COV-2検査(RT-PCR);人口統計学(年齢、性別)及び罹患体の特徴;該当する場合は尿による妊娠検査(妊娠可能な女性);及び身体検査。
【0059】
COVID-19:徴候及び症状は以下を用いて決定される:臨床検査値(血液学、C反応性タンパク質、フェリチン及びDダイマーを含む生化学、マルチプレックス法によるサイトカイン、逐次多重分析(SMA)、空腹時血漿グルコース(FPG)、朝コルチゾール、T細胞サブセット)、尿検査(ルーチン/顕微鏡);バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数及び体温)、及びパルスオキシメトリー(酸素飽和度[SpO2])、12誘導心電図、胸部X線/HRCT(治験責任医師の臨床的判断に基づく)、WHO臨床評価の11ポイントの順序尺度。
【0060】
1日目に罹患体が登録され、無作為化され、治療が開始される。1日目から3日目にかけて、以下の評価が行われる:COVID-19:徴候及び症状評価;バイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数及び体温)、及びパルスオキシメトリー(酸素飽和度[SpO2]);胸部X線/HRCT(治験責任医師の臨床的判断に基づく裁量に従う);臨床検査値(血液学、生化学(マルチプレックス法によるサイトカインを含む)、逐次多重分析(SMA)、空腹時血漿グルコース(FPG));尿検査(ルーチン/顕微鏡);WHO臨床評価の11ポイントの順序尺度。
【0061】
5日目及び10日目にも同様の評価を行う。有害事象及び重篤な有害事象は記録される。14日目、28日目及び60日目には、バイタルサイン及びWHO臨床評価の11ポイントの順序尺度が実施される。
【0062】
中等度COVID-19からの回復が、デキサメタゾン群に対して化合物1が投与される群で促進され得ることが期待される。また、高血糖はデキサメタゾン群に比べ、化合物1群の方が低いことが期待される。化合物1群では、死亡率の低下というパラメータが強化されることが期待される。
【0063】
開示された本発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮すると、図示された実施形態は本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって本発明者らは、これらの請求項の範囲及び精神に含まれるすべてのものを発明として主張する。
【国際調査報告】