(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ヒトリンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)を標的とする3つの抗体候補の抗体配列
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20250117BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250117BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20250117BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20250117BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250117BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250117BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
A61P35/00
A61P15/08
A61P11/00
A61P15/14
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K39/395 T
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541942
(86)(22)【出願日】2023-01-11
(85)【翻訳文提出日】2024-09-12
(86)【国際出願番号】 SG2023050022
(87)【国際公開番号】W WO2023136779
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】10202200405Q
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(71)【出願人】
【識別番号】517009578
【氏名又は名称】イッサム リサーチ デベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】500545311
【氏名又は名称】ハダシット メディカル リサーチ サービシーズ アンド ディベロップメント リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Hadasit Medical Research Services and Development Ltd.
【住所又は居所原語表記】Jerusalem BioPark, Hadassah Ein Kerem Medical Center, P.O.B. 12000 Jerusalem 9112001, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】マッカリー,ポール,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ズーター,マヌエル,エイドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ラン,ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ヨアヴ モシェ
(72)【発明者】
【氏名】ネチュシュタン,ホヴァフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS33
4B065AA01X
4B065AA01Y
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4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC15
4C076CC17
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4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、リンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)に結合する単離された抗体、その断片および抗体薬物複合体と、LY6K陽性悪性細胞のスクリーニングのため、またはLY6K陽性悪性細胞の治療標的化のための、それらの使用に関する。
【選択図】
図10A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその断片であって、
少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと少なくとも1つの重鎖可変ドメインとを含み、
a)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1が、配列番号1に示されるアミノ酸配列KSSQSLLASDGKTYLNを含み;軽鎖CDR2が、配列番号2に示されるアミノ酸配列LVSKLDSを含み;軽鎖CDR3が、配列番号3に示されるアミノ酸配列WQGSHFPLTを含み;重鎖CDR1が、配列番号4に示されるアミノ酸配列SYWMHを含み;重鎖CDR2が、配列番号5に示されるアミノ酸配列EINPSNGGANYNEKFKRを含み;重鎖CDR3が、配列番号6に示されるアミノ酸配列GGNFFFAYを含むか;または
b)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1が、配列番号11に示されるアミノ酸配列RSSQSLVHTDGDTYLNを含み;軽鎖CDR2が、配列番号12に示されるアミノ酸配列KVSNRFSを含み;軽鎖CDR3が、配列番号13に示されるアミノ酸配列SQNTHVYTを含み;重鎖CDR1が、配列番号14に示されるアミノ酸配列SYGMSを含み;重鎖CDR2が、配列番号15に示されるアミノ酸配列TISSGGTYTYYSDSVKGを含み;重鎖CDR3が、配列番号16に示されるアミノ酸配列HDWDFFDYを含むか;または
c)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1が、配列番号21に示されるアミノ酸配列CRSSQTILHSNGNTYLEを含み;軽鎖CDR2が、配列番号22に示されるアミノ酸配列KVSNRLSを含み;軽鎖CDR3が、配列番号23に示されるアミノ酸配列FQGSHDPFTを含み;重鎖CDR1が、配列番号24に示されるアミノ酸配列NFAMNを含み;重鎖CDR2が、配列番号25に示されるアミノ酸配列WINTNTGEPTYVEEFKGを含み;重鎖CDR3が、配列番号26に示されるアミノ酸配列REWRRSYYFDYを含む、
単離された抗体またはその断片。
【請求項2】
a)前記軽鎖が、配列番号7および配列番号31を含む群から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号8および配列番号32を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか;
b)前記軽鎖が、配列番号17、配列番号35、配列番号36および配列番号37を含む群から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号18、配列番号38および配列番号39を含む群から選択されるアミノ酸配列を含むか;または
c)前記軽鎖が、配列番号27、配列番号45および配列番号46を含む群から選択されるアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号28、配列番号47および配列番号48を含む群から選択されるアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の単離された抗体またはその断片。
【請求項3】
抗体複合体である、請求項1または2に記載の単離された抗体またはその断片。
【請求項4】
細胞傷害薬、放射性部分または同定可能な部分に結合されている、請求項3に記載の単離された抗体またはその断片。
【請求項5】
前記抗体が、モノクローナルマウス抗体、モノクローナルヒト化抗体、またはモノクローナルキメラ抗体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその断片。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその断片と、薬学的に許容される添加剤、希釈剤、塩または担体とを含む、医薬組成物。
【請求項7】
LY6K陽性悪性細胞の治療において使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体もしくはその断片、または請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記LY6K陽性悪性細胞が、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、および乳がんを含む群から選択される、請求項7に記載の単離された抗体、その断片または医薬組成物。
【請求項9】
LY6K陽性悪性細胞疾患の治療用の医薬品の調製における、請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片の使用。
【請求項10】
前記LY6K陽性悪性細胞疾患が、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、乳がんなどの、がんからなる群から選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
LY6K陽性悪性細胞疾患を治療する方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはその断片を対象に投与する工程を含む方法。
【請求項12】
前記LY6K陽性悪性細胞疾患が、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、乳がんなどの、がんからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生体試料中のLY6K陽性悪性細胞を検出する方法であって、
i)少なくとも1つの生体試料を提供する工程;
ii)前記少なくとも1つの生体試料を、請求項1~3および5のいずれか1項に記載の抗体またはその断片と接触させる工程;
iii)特異的結合を検出する工程;ならびに
iv)工程iii)の特異的結合を対照と比較する工程
を含む、方法。
【請求項14】
単離された核酸分子であって、
(a)配列番号7および配列番号31からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、
(b)配列番号8および配列番号32からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインと
をコードするか;または
(c)配列番号17、配列番号35、配列番号36および配列番号37からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、
(d)配列番号18、配列番号38および配列番号39からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインと
をコードするか;または
(e)配列番号27、配列番号45および配列番号46からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、
(f)配列番号28、配列番号47および配列番号48からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインと
をコードする、
単離された核酸分子。
【請求項15】
i)前記(a)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、配列番号9および/もしくは配列番号33と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(b)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、配列番号10および/もしくは配列番号34と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するか;または
ii)前記(c)に記載の核酸配列が、配列番号19、配列番号40、配列番号41および/もしくは配列番号42と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(d)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、配列番号20、配列番号43および/もしくは配列番号44と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するか;または
iii)前記(e)に記載の核酸配列が、配列番号29、配列番号49および/もしくは配列番号50と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(f)に記載の少なくとも1つの核酸配列が、配列番号30、配列番号51および/もしくは配列番号52と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有する、
請求項14に記載の単離された核酸分子。
【請求項16】
請求項14または15に記載の少なくとも1つの単離された核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項17】
請求項16に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~5のいずれか1項に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)に結合する単離された抗体、その断片および抗体薬物複合体と、LY6K陽性悪性細胞のスクリーニングのため、またはLY6K陽性悪性細胞の治療標的化のための、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体ベースの治療は、特定の種類の血液腫瘍および固形悪性腫瘍に罹患した患者において非常に大きな臨床的有用性があることが示されている。一方で、抗体治療において最も大きな課題の1つとして、健常組織ではわずかに発現されているか、全く発現が見られないが、がんで特異的にアップレギュレートされている標的抗原を同定する必要があるという課題が存在する。がん/精巣抗原(CTA)は、がんに異常発現されることが多く、精巣や生殖細胞系細胞を除いては、健常組織の大部分では発現が見られない。したがって、CTAは、がんに対する免疫療法の標的抗原として有望である。しかし、CTAの大半が細胞内で発現されているという事実から、抗体ベースの治療戦略の開発は複雑なものになっている。
【0003】
したがって、改良された抗体を提供する必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題に対処するため、本発明者らは、バイオインフォマティクスアプローチを用いて、細胞表面に発現すると推定されるCTAの同定を試みた。いくつかのCTAが同定され、そのうち、リンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)は、標的抗原として、子宮頸部がん、舌がん、肺腺癌および肺扁平上皮癌において、最も一貫してアップレギュレートされていた。
【0005】
第1の態様によれば、本発明は、リンパ球抗原6ファミリーメンバーK(LY6K)の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその断片であって、
少なくとも1つの軽鎖可変ドメインに3つの相補性決定領域配列(CDR1、CDR2およびCDR3)を含み、かつ少なくとも1つの重鎖可変ドメインに3つの相補性決定領域配列(CDR1、CDR2およびCDR3)を含み、
a)前記軽鎖が、配列番号7および配列番号31を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号8および配列番号32を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または
b)前記軽鎖が、配列番号17、配列番号35、配列番号36および配列番号37を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号18、配列番号38および配列番号39を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または
c)前記軽鎖が、配列番号27、配列番号45および配列番号46を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインが、配列番号28、配列番号47および配列番号48を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
単離された抗体またはその断片を提供する。
【0006】
CDR配列の決定は、当技術分野で公知の方法に従って行うことができ、そのような方法としては、KABATの方法、Chothiaの方法またはIMGTの方法として知られている方法が挙げられるが、これらに限定されない。選択されたCDRのセットは、2つ以上の方法によって同定される配列を含んでいてもよく、すなわち、例えば、一部のCDR配列はKABATの方法を使用して決定されたものであってもよく、一部のCDR配列はIMGTの方法を使用して決定されたものであってもよい。
【0007】
いくつかの実施形態において、
a)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列KSSQSLLASDGKTYLNを含み;軽鎖CDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列LVSKLDSを含み;軽鎖CDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列WQGSHFPLTを含み;重鎖CDR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列SYWMHを含み;重鎖CDR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列EINPSNGGANYNEKFKRを含み;重鎖CDR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列GGNFFFAYを含むか;または
b)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1は、配列番号11に示されるアミノ酸配列RSSQSLVHTDGDTYLNを含み;軽鎖CDR2は、配列番号12に示されるアミノ酸配列KVSNRFSを含み;軽鎖CDR3は、配列番号13に示されるアミノ酸配列SQNTHVYTを含み;重鎖CDR1は、配列番号14に示されるアミノ酸配列SYGMSを含み;重鎖CDR2は、配列番号15に示されるアミノ酸配列TISSGGTYTYYSDSVKGを含み;重鎖CDR3は、配列番号16に示されるアミノ酸配列HDWDFFDYを含むか;または
c)前記軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、6つの相補性決定領域(CDR)を含み、軽鎖CDR1は、配列番号21に示されるアミノ酸配列CRSSQTILHSNGNTYLEを含み;軽鎖CDR2は、配列番号22に示されるアミノ酸配列KVSNRLSを含み;軽鎖CDR3は、配列番号23に示されるアミノ酸配列FQGSHDPFTを含み;重鎖CDR1は、配列番号24に示されるアミノ酸配列NFAMNを含み;重鎖CDR2は、配列番号25に示されるアミノ酸配列WINTNTGEPTYVEEFKGを含み;重鎖CDR3は、配列番号26に示されるアミノ酸配列REWRRSYYFDYを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、
a)前記軽鎖は、配列番号7および配列番号31を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインは、配列番号8および配列番号32を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または
b)前記軽鎖は、配列番号17、配列番号35、配列番号36および配列番号37を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインは、配列番号18、配列番号38および配列番号39を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか;または
c)前記軽鎖は、配列番号27、配列番号45および配列番号46を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ前記重鎖可変ドメインは、配列番号28、配列番号47および配列番号48を含む群から選択される軽鎖と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナルマウス抗体、モノクローナルヒト化抗体、またはモノクローナルキメラ抗体である。
【0010】
本発明の抗体は、それ自体に細胞傷害性があり、それ自体が細胞傷害性を持つことが判明した。治療抗体の抗腫瘍作用は、成長および増殖を抑制してアポトーシスを開始させるような下流のシグナル伝達事象を介して発揮させることができるか、あるいは患者の免疫系を活性化させて、補体依存性細胞傷害または抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することによって発揮させることができることが知られている[Chalouni, C., Doll, S. J Exp Clin Cancer Res 37: 20 (2018)]。
【0011】
抗体薬物複合体(ADC)は、一般に、ヒト化抗体またはキメラ抗体に細胞傷害薬を化学的に結合させたものであり、抗原陽性の悪性細胞に細胞傷害薬を特異的に送達することができる[Chalouni, C., Doll, S. J Exp Clin Cancer Res 37: 20 (2018)]。抗体の特異性と細胞傷害薬の局所放出が、抗腫瘍作用を増強させ、全身毒性を低減させるための主要なパラメーターとなる。したがって、ADCは、従来の化学療法と比べて治療域が広い。細胞傷害薬を抗体に結合させるために化学的リンカーが使用され、この化学的リンカーの物理化学的特性によって、ADCの薬物動態の大部分が決まる。リンカーは、一般に「切断可能」なリンカーと、「切断不能」なリンカーに分類される。リンカーは、全身毒性が制限されるように、血液循環中で安定性が高くなるように設計され、かつADCが細胞内の目的地に到達したら容易に切断されて、ペイロードを送達できるように設計される。「切断可能な」リンカーは、加水分解(低いpHでのジスルフィド結合の還元)またはタンパク質分解によって、薬物を放出できるように設計される。タンパク質分解されるように設計されたリンカーは、システインプロテアーゼのような特定の酵素によって特異的に認識される部位を含んでいる。「切断不能な」リンカーは、抗体自体の分解に依存して細胞傷害性ペイロードを放出する。細胞傷害薬は、主に微小管阻害薬とDNA損傷薬の2種類に分類される[Chalouni, C., Doll, S. J Exp Clin Cancer Res 37: 20 (2018)]。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記単離された抗体またはその断片は、抗体複合体である。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記単離された抗体またはその断片は、細胞傷害薬、放射性部分または同定可能な部分(例えば、蛍光タグやビオチンなど)に結合されている。
【0014】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載の単離された抗体もしくはその断片またはその薬物複合体と、薬学的に許容される添加剤、希釈剤、塩または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0015】
第3の態様によれば、本発明は、LY6K陽性悪性細胞の治療において使用するための、第1の態様に記載の単離された抗体もしくはその断片、または第2の態様に記載の医薬組成物を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記LY6K陽性悪性細胞は、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、および乳がんを含む群から選択される。
【0017】
第4の態様によれば、本発明は、LY6K陽性悪性細胞疾患の治療用の医薬品の調製における、第1の態様に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片の使用を提供する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記LY6K陽性悪性細胞疾患は、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、乳がんなどの、がんからなる群から選択される。
【0019】
第5の態様によれば、本発明は、LY6K陽性悪性細胞疾患を治療する方法であって、第1の態様に記載の抗体またはその断片を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記LY6K陽性悪性細胞疾患は、子宮頸がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(SCC)、舌扁平上皮癌(SCC)、頭頸部がん、乳がんなどの、がんからなる群から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記方法は、外科手術、化学療法、放射線療法および免疫療法から選択される追加の抗がん療法を投与する工程をさらに含む。
【0022】
第6の態様によれば、本発明は、生体試料中のLY6K陽性悪性細胞を検出する方法であって、
i)少なくとも1つの生体試料を提供する工程;
ii)前記少なくとも1つの生体試料を、第1の態様に記載の抗体またはその断片と接触させる工程;
iii)特異的結合を検出する工程;ならびに
iv)工程iii)の特異的結合を対照と比較する工程
を含む方法を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、本発明の抗体の軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインをコードするポリ核酸を提供する。
【0024】
第8態様によれば、本発明は、単離された核酸分子であって、
(a)配列番号7および配列番号31からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、(b)配列番号8および配列番号32からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインとをコードするか;または
(c)配列番号17、配列番号35、配列番号36および配列番号37からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、(d)配列番号18、配列番号38および配列番号39からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインとをコードするか;または
(e)配列番号27、配列番号45および配列番号46からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項2もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと、(f)配列番号28、配列番号47および配列番号48からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列を含む、請求項1もしくは5に記載の抗体の少なくとも1つの重鎖可変ドメインとをコードする、
単離された核酸分子を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、
i)前記(a)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、配列番号9および/もしくは配列番号33と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(b)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、配列番号10および/もしくは配列番号34と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するか;または
ii)前記(c)に記載の核酸配列は、配列番号19、配列番号40、配列番号41および/もしくは配列番号42と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(d)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、配列番号20、配列番号43および/もしくは配列番号44と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有するか;または
iii)前記(e)に記載の核酸配列は、配列番号29、配列番号49および/もしくは配列番号50と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有し;かつ前記(f)に記載の少なくとも1つの核酸配列は、配列番号30、配列番号51および/もしくは配列番号52と少なくとも80%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0026】
第9の態様によれば、本発明は、第8の態様に記載の少なくとも1つの単離された核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0027】
第10の態様によれば、本発明は、第9の態様に記載の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0028】
第11の態様によれば、本発明は、第1の態様に記載の少なくとも1つの抗体またはその断片を含むキットを提供する。
【0029】
本発明は、以下で詳細に述べる特定の実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A-C】LY6Kの細胞表面発現を示す。(A)LY6Kはヒトがん細胞株の細胞表面上に発現される。LY6Kの細胞表面発現は、フローサイトメトリーで評価した。2つの乳がん細胞株(MDA-MB-231およびMCF7)、1つの肺がん細胞株(Calu-1)ならびに1つの肝がん細胞株(HUH7)の代表的なヒストグラムを示す。LY6K(黒色の実線)は、乳がん細胞と肺がん細胞の細胞表面上に検出されたが、肝細胞では検出されなかった。アイソタイプ抗体を対照として使用した(塗りつぶしたヒストグラム)。(B)ヒトがん細胞株の細胞表面上のLY6Kの発現量の定量を示す。子宮頸部がん細胞株、頭頸部がん細胞株、および肺がん細胞株の細胞表面、ならびに一部の乳がん細胞株の細胞表面に、高発現量のLY6Kが検出された。血液がん細胞株、大腸がん細胞株、肝がん細胞株および膵がん細胞株では、低発現されていることが判明した。がん細胞株の由来組織を示している。データは、3つの独立した実験の平均値±s.e.mを示す。(C)共焦点顕微鏡法による細胞表面上のLY6Kの検出を示す。MDA-MB-231細胞およびMCF7細胞(いずれも乳房)、Calu-1細胞(肺)、およびHUH7細胞(肝臓)の細胞膜を、赤色の細胞膜色素(CellMask)と緑色の抗LY6K抗体を用いて染色した。スケールバーは20μmを示す。
【0031】
【
図2】発現されたモノクローナル抗LY6K抗体が組換えLY6Kに結合することを示す。ハイブリドーマ由来の重鎖と軽鎖を、pTT5LnX-MoG1v2発現ベクターとpTT5LnX-Kappa発現ベクターにそれぞれクローニングした。発現された抗体をSDS-PAGEゲルで泳動することによって純度を確認し、組換えLY6Kタンパク質を用いたELISA結合アッセイで試験した。組換えLY6Kは、ヒスチジンタグとStrepタグを有していたことから、対照としてHisとStrepを含めることにより、抗体がこれらのタグに結合しないようにした。
【0032】
【
図3】組換えLY6Kに対する抗体のリアルタイム結合特性の評価を示す。固定された組換えLY6Kへの様々な濃度の抗体の結合を示す代表的なセンサーグラムを示す。平衡解離定数(KD)から、いずれの抗体候補も、LY6Kに対して低ナノモルレベルの高い結合親和性を有することが示されている。結合部位(B
max)の最大数は、28C1抗体が最も多く、その次にG57抗体が多く、その次に22C-G8抗体が多いことが観察された。括弧内に標準誤差を示す。
【0033】
【
図4】抗LY6K抗体が様々なヒトがん細胞株に結合することを示す。フローサイトメトリー分析を行って、様々な組織に由来する様々なヒトがん細胞株に対する抗体候補の結合を評価した。(A):乳癌;(B):子宮頸癌;(C):肺癌;(D):膵癌を示す。アイソタイプコントロールを用いた場合と比較したLY6K発現細胞の割合を示し、各細胞株を示している。
【0034】
【
図5】抗LY6K抗体である22C-G8抗体と28C1抗体が、Ca Ski細胞の表面上に発現されたLY6Kに対して、4種の市販の抗体よりも高い結合を示すことを示す。LY6Kへの結合の評価は、子宮頸がん細胞株Ca Skiに対するフローサイトメトリーによって行い、代表的なヒストグラムを示している。アイソタイプ抗体(左側のヒストグラム)を、LY6K抗体による染色(右側のヒストグラム)の対照として使用した。22C-G8抗体と28C1抗体は、それぞれ90.4%および95.6%という、LY6Kに対して最も高い結合を示した。この次に、クローンG-11(Santa Cruz社)の結合が85.8%と高く、その次に27.7%を示したクローン#750747(R&Dシステムズ社)が高く、その次に4.64%を示したクローンCL2435(シグマ アルドリッチ社)が高く、その次に0.49%を示したクローンCL2433(インビトロジェン社)が高かった。
【0035】
【
図6】抗体を介した子宮頸がん細胞の補体依存性細胞傷害を示す。抗体候補であるG57抗体と28C1抗体は、10μg/mlと50μg/mlの濃度で、子宮頸がん細胞(Ca-Ski)に対して補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導した。これに対して、22C-G8抗体候補では、50μg/mlの濃度のみにおいて、わずかなCDC殺傷が観察された。陰性対照としてアイソタイプコントロール(ITC)を使用した。
【0036】
【
図7】抗LY6K抗体を使用した舌組織と肺組織のマイクロアレイの免疫組織化学分析を示す。ホルマリン固定してパラフィン包埋された、舌扁平上皮癌(SCC)、肺腺癌および肺SCCを抗体候補28C1で染色し、その結合をHRP標識二次抗体で検出した(濃い灰色の染色部位)。ヘマトキシリンを使用して試料を対比染色した(灰色の染色部位)。
【0037】
【
図8】抗LY6K抗体のヒト化を示す。抗LY6K抗体である22C-G8、G57および28C1のヒト化形態を発現させ、SDS-PAGEゲルで泳動してその純度を確認した。ELISA結合アッセイにより、組換えLY6Kに対するヒト化抗体の結合能を確認し、フローサイトメトリーアッセイにより、がん細胞株Calu-1に対するヒト化抗体の結合能を確認した。
【0038】
【
図9】がん細胞株パネルに対するヒト化22C-G8抗体およびヒト化28C1抗体の結合プロファイルを示す。ヒト化22C-G8抗体(濃い灰色の実線)とヒト化28C1抗体(灰色の実線)は、乳房、子宮頸部、肺および頭頸部を含む様々な臓器に由来するヒト腫瘍細胞株の表面に発現されたLY6Kへの結合を保持していた。LY6K細胞表面発現の評価は、Hu22CG8抗体またはHu28C1抗体を使用したフローサイトメトリー染色を行い、抗ヒトAlexaFluor 647二次抗体を使用して検出した。
【0039】
【
図10】Ca Ski細胞へのヒト化22C-G8抗体の細胞内移行を示す。(A)共焦点顕微鏡法により、Ca Ski細胞の赤色の蛍光の存在が示されたことから、ヒト化22C-G8抗体が細胞内移行することが示されている。アイソタイプ抗体またはヒト化22C-G8抗体を、共有結合を介してpHRodo Deep Red色素で標識することによって、酸性の後期エンドソームおよびリソソームにおいてのみ蛍光を発生する複合体を形成させた。標識した抗体(10μg/mL)を、Ca Ski細胞と18時間インキュベートし、緑色の細胞膜色素(CellMask)とHoechst 33342を用いて染色し、FV3000共焦点顕微鏡で画像化した。スケールバーは40μmを示す。(B)Ca Ski細胞における、濃度と時間に依存した抗体の細胞内移行の増加を示す。ヒト化22CG8抗体とアイソタイプコントロールを、Incucyte(登録商標) Human Fabfluor-pH Red Antibody Labeling Reagentで標識し、様々な濃度でCa Ski細胞に加えた。高精細度(HD)位相画像と赤色の蛍光画像を、20倍の倍率で1時間ごとに50時間まで撮影した。データは、t=0とアイソタイプコントロールで正規化した。データは、3回の反復の平均値±標準偏差を示す。
【0040】
【
図11】ヒト化22C-G8抗体とヒト化28C1抗体が抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介することを示す。(A)アイソタイプコントロールと比較して、Hu22CG8抗体およびHu28C1抗体の存在下での3種のE:T比におけるHEK293T-Ly6K過剰発現細胞の殺傷が増加したことを示す。HEK293T-Ly6K過剰発現細胞をEプレートに播種して一晩培養し、25μg/mLの濃度の各抗体を細胞に加えてインキュベートした。次に、免疫磁気ネガティブ選択によりPBMCから単離したNKエフェクター細胞を、4:1、8:1または16:1の3種のE:T比で各ウェルに加えた。RTCA xCELLigenceシステムを使用して、細胞の殺傷を60時間モニタリングした。(B)Hu22CG8抗体、Hu28C1抗体、またはHu22CG8抗体とHu28C1抗体の組み合わせにより誘導された特異的な細胞傷害性を示す。各細胞傷害曲線をアイソタイプコントロール曲線で正規化することによって特異的な細胞傷害性を計算し、経時的にプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0041】
簡便に参照できるように、本明細書に記載の参考文献を一覧にして、実施例の後ろに付記している。この一覧に記載の参考文献はいずれも参照によりその内容全体が本明細書に援用される。
【0042】
用語の定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用されている特定の用語を以下にまとめた。
【0043】
本明細書において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、これらの用語によって示される本明細書に記載の特徴、整数、工程または成分の存在を特定するものであると解釈されるが、1つ以上の別の特徴、整数、工程もしくは成分またはこれらの群の存在または付加を除外するものではない。また、本開示の文脈において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含する。したがって、「comprise」や「comprises」などの「含む(comprising)」という用語のバリエーション、および「include」や「includes」などの「含む(including)」という用語のバリエーションも同様に様々な意味を有する。
【0044】
本明細書において、「抗体」は、特異的なエピトープに結合する免疫グロブリンもしくはインタクトな分子、およびそれらの断片を指す。そのような抗体として、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、一本鎖可変領域断片(scFv)、ならびに全長抗体のFab断片、Fab’断片、F(ab)’断片および/またはF(v)部分が挙げられるが、これらに限定されない。「モノクローナル抗体」を「Mab」と呼ぶ場合もある。本発明の抗体は、ハイブリドーマ細胞株または組換え技術によって生成される22C-G8抗体、G57抗体および28C1抗体を含む。22C-G8抗体、G57抗体および28C1抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、もしくは一本鎖抗体、または親抗体の抗原結合機能を保持しているそれらの断片であってもよい。22C-G8抗体、G57抗体および28C1抗体は、LY6Kに特異的に結合するものであり、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および一本鎖抗体、ならびに親抗体の抗原結合機能を保持しているそれらの断片を含む。
【0045】
本明細書において、「抗体断片」は、抗体の全長配列に由来し、親抗体の抗原結合機能を保持している不完全な部分または単離された部分を指す。抗体断片としては、scFv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片およびFv断片;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。22C-G8抗体、G57抗体および28C1抗体の断片は、全長抗体の所望の親和性を保持している限り、本発明に包含される。
【0046】
本明細書において、「ヒト化抗体」は、ヒト抗体との類似性を高めるために非抗原結合領域のアミノ酸配列が改変されているが、元の結合能力を保持している少なくとも1つの抗体分子を指す。そのような抗体も表1に示している。
【0047】
本明細書において、「ハイブリドーマ」は、所望の抗体を大量生産するために作製された細胞を指す。例えば、少なくとも1つのハイブリドーマを作製するには、関連する抗原でチャレンジした動物の脾臓からB細胞を採取し、少なくとも1つの不死化細胞と融合させる。この融合は、細胞膜の透過性を向上させることにより行う。融合させたハイブリッド細胞(「ハイブリドーマ」と呼ばれる)は、急速に無制限に増殖して、少なくとも1種の抗体を産生する。
【0048】
本明細書において、「単離された」は、ある生物学的成分(例えば、核酸、ペプチドまたはタンパク質)が、自然界においてその生物学的成分を産生する生物の細胞内のその他の生物学的成分(すなわち、その他の染色体DNA、染色体外DNA、染色体RNA、染色体外RNA、およびタンパク質)から実質的に分離されているか、これらのその他の生物学的成分から実質的に別個に産生されるか、これらのその他の生物学的成分から実質的に精製されていることを意味する。したがって、単離された核酸、ペプチドおよびタンパク質は、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質を含む。さらに、「単離された」という用語は、宿主細胞での組換え発現によって生成された核酸、ペプチドおよびタンパク質、ならびに化学合成された核酸を含む。
【0049】
本明細書において、「試料」という用語は、最も広い意味で使用される。LY6Kを含む疑いのある生体試料は、体液;細胞抽出物;細胞から単離された染色体、細胞小器官もしくは細胞膜;細胞;(溶液または固体担体に結合された状態の)ゲノムDNA、RNAまたはcDNA;組織;組織プリントなどを含んでいてもよい。より具体的な目的とする試料は、LY6K陽性悪性細胞を含んでいる可能性のある試料である。
【0050】
本明細書において、「対象」は脊椎動物として定義され、具体的には哺乳動物、より具体的にはヒトを指す。より具体的には、研究を目的とする場合、対象は、少なくとも1種の動物モデル、例えば、マウスやラットなどであってもよい。具体的には、LY6K関連疾患の治療を受ける対象は、LY6K陽性がん細胞を有するヒトであってもよい。
【0051】
本発明の組成物または組み合わせは、通常、目的の投与経路および標準的な薬学実務を十分に考慮に入れて選択してもよい薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体と混合して医薬製剤として投与される。そのような薬学的に許容される担体は、活性化合物に対して化学的に不活性であってもよく、使用される条件下で有害な副作用や毒性を有していないものであってもよい。好適な医薬製剤は、例えば、Remington The Science and Practice of Pharmacy, 19th ed., Mack Printing Company, Easton, Pennsylvania (1995)に記載されているものであってもよい。非経口投与では、非経口的に許容される水溶液を使用してもよく、この水溶液は、パイロジェンフリーであり、必要とされるpH、等張性および安定性を有するものである。好適な水溶液は当業者によく知られており、様々な文献に多数の方法が記載されている。薬剤送達方法に関する簡潔な説明は、例えば、Langer(Science 249: 1527 (1990))にも記載されている。
【0052】
あるいは、好適な製剤の調製は、慣用の技術を利用して、かつ/または標準的な薬学実務および/もしくは一般的に認められている薬学実務に従って、当業者により慣用的に行ってもよい。
【0053】
本発明に従って使用される医薬製剤中に含まれる組成物または組み合わせの量は、治療を受ける病態の重症度、治療を受ける特定の患者、使用される単一または複数の化合物などの様々な要因に左右される。いくつかの実施形態において、BMC-VLPは、その表面上に抗原分子を提示し、ワクチンとして機能する。いずれの場合でも、製剤中に含まれる組成物または組み合わせの量は、当業者により慣用的に決定してもよい。
【0054】
例えば、錠剤やカプセル剤などの経口固形組成物は、1~99%(w/w)の有効成分;0~99%(w/w)の希釈剤または充填剤;0~20%(w/w)の崩壊剤;0~5%(w/w)の滑沢剤;0~5%(w/w)の流動促進剤;0~50%(w/w)の造粒剤または結合剤;0~5%(w/w)の酸化防止剤;および0~5%(w/w)の色素を含んでいてもよい。放出制御錠剤は、0~90%(w/w)の放出制御性ポリマーをさらに含んでいてもよい。
【0055】
非経口製剤(注射用の液剤もしくは懸濁剤または点滴用液剤)は、1~50%(w/w)の有効成分;50%(w/w)~99%(w/w)の液体または半固形の担体または溶媒(例えば、水などの溶媒);および0~20%(w/w)の1種以上のその他の添加剤(例えば、緩衝剤、酸化防止剤、懸濁安定剤、等張化剤、保存剤など)を含んでいてもよい。
【0056】
しかしながら、本発明の文脈において、哺乳動物に投与される用量、特にヒトに投与される用量は、合理的な時間枠内で哺乳動物において治療応答を発揮するのに十分な量であるべきである。当業者であれば、正確な用量および組成ならびに最適な送達レジメンの選択は、製剤の薬理学的特性、治療の対象となる病態の特性および重症度、レシピエントの身体状況および精神機能、特定の化合物の効力、治療を受ける患者の年齢、状態、体重、性別および応答などの影響を受けることを認識しているだろう。
【0057】
本発明の概要を述べてきたが、説明を目的として記載された以下の実施例を参照することによって、本発明をさらに容易に理解することができる。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0058】
本明細書において具体的には述べていない当技術分野で公知の標準的な分子生物学的技術は、Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (2001)の記載に概ね準じた。
【0059】
実施例1:
バイオインフォマティクスアプローチを用いて、細胞表面に発現すると推定されるがん/精巣抗原(CTA)の同定を行った。細胞膜に発現すると推定されるCTAがいくつか同定され、そのうち、LY6Kは、標的抗原として、子宮頸部がん、舌がん、肺腺癌および肺扁平上皮癌において、最も一貫してアップレギュレートされていた。LY6Kは、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質であることから、細胞表面上に発現すると考えられる。フローサイトメトリー分析と共焦点顕微鏡法を用いて、様々なヒトがん細胞株の細胞膜上におけるLY6Kの有無を評価した(
図1)。その結果、子宮頸部がん細胞株、頭頸部がん細胞株、および肺がん細胞株の細胞表面、ならびに試験した一部の乳がん細胞株の細胞表面に、LY6Kが存在することが判明した(
図1Aおよび
図1B)。血液がん細胞株、大腸がん細胞株、肝がん細胞株および膵がん細胞株では、LY6Kは発現されていないか、発現量が極めて少ないことが示された。これらの知見を裏付けるため、赤血球膜色素(CellMask)と抗LY6K抗体を用いて、2つの乳がん細胞株(MDA-MB-231およびMCF7)、1つの肺がん細胞株(Calu-1)ならびに1つの肝がん細胞株(HUH7)を染色し、共焦点顕微鏡法で観察した(
図1C)。LY6Kのシグナルは、細胞膜染色とオーバーラップしていることが明瞭に示されたことから、LY6Kが細胞膜上に局在するという先の知見が裏付けられた。
【0060】
実施例2:
次に、ハイブリドーマ技術を利用して、LY6Kを標的とするユニークな3種の抗体(それぞれ22C-G8、G57、28C1と呼ぶ)を構築した。重鎖の抗体可変断片と軽鎖の抗体可変断片を、発現ベクターにクローニングした。発現された抗体をSDS-PAGEゲルで泳動することによって純度を確認し(
図2)、ELISA結合アッセイにより、組換えLY6Kに対する結合能を試験した(
図2)。次に、水晶振動子微小天秤法(QCM)バイオセンサーを使用して、固定したLY6K抗原に対する結合親和性を評価した。各抗体のセンサーグラムを
図3に示し、それぞれの平衡解離定数(KD)を示す。いずれの抗体のKDも、低ナノモルレベルの範囲であったことから、これらの抗体がいずれもLY6Kに強く結合することが示された。結合部位の最大数(B
max)は、28C1抗体候補が最も多かったことから、この抗体が、存在量が多いエピトープまたはより容易にアクセス可能なエピトープに結合することが示唆された。
【0061】
実施例3:
次に、乳房、子宮頸部、肺および膵臓に由来するヒト腫瘍細胞株に対する22C-G8抗体、G57抗体および28C1抗体の結合能を試験した。22C-G8抗体は、試験したすべての細胞株に高い結合を示し、G57抗体も試験したすべての細胞株に結合したが、G57抗体の各細胞株への結合は22C-G8抗体よりも低かった。28C1抗体は、MDA-MB-157細胞株のみに強く結合した(
図4A)。また、いずれの抗体も、試験したすべての子宮頸がん細胞株に強く結合した(
図4B)。肺がん細胞株への結合は様々に変動した。22C-G8抗体は、試験したすべての細胞株に強く結合したが、28C1抗体は非常に弱い結合プロファイルを示した。Calu-1細胞に対して最も強い結合が観察された。また、G57抗体は、Calu-1細胞に強く結合したが、A549細胞やH2170細胞には弱い結合しか示さなかった(
図4C)。膵細胞株は、その細胞表面上に十分な量のLY6Kを発現していないことから、陰性対照として使用した。CRL2553細胞株に強く結合した22CG8抗体以外の抗体候補は、試験した3種の膵細胞株のいずれにもほとんど結合しなかった(
図4D)。
【0062】
実施例4:
子宮頸がん細胞株Ca Ski上に発現されたLY6Kに対する22C-G8抗体の結合と28C1抗体の結合を、市販のLY6K抗体クローンと比較した。フローサイトメトリー分析を行ったところ、22C-G8抗体と28C1抗体はいずれも、Ca Ski細胞の細胞表面上に発現されたLY6Kに対して市販の抗体よりも優れた結合を示した(
図5)。22C-G8抗体と28C1抗体は、LY6Kに対して最も高い結合を示した抗体に含まれていた。クローンG-11(Santa Cruz社)は、LY6Kに対して、これらの抗体と同程度の結合を示した。これらの抗体と比較して、その他の抗体、すなわち、クローン#750747(R&Dシステムズ社)、クローンCL2435(シグマ アルドリッチ社)およびクローンCL2433(インビトロジェン社)は、非常に弱い結合プロファイルを示した。がん細胞の細胞表面上に天然の立体構造で発現されたLY6Kに対する強力な結合は、抗体を治療適用するために重要な必要条件であることから、この結果は有意義なものであった。
【0063】
実施例5:
さらに、抗LY6K抗体が、補体依存性細胞傷害を介して腫瘍細胞を殺傷できるかどうかを評価した。G57抗体と28C1抗体は、10μg/mlと50μg/mlの抗体濃度において、子宮頸がん細胞(Ca-Ski細胞)を殺傷できることが判明した。22C-G8抗体では、50μg/mlの濃度でわずかに殺傷が観察された(
図6)。
【0064】
実施例6:
がんの診断(およびその治療)に抗LY6K抗体を使用するには、健常組織への抗体の結合を最小限に抑えなければならない。これを踏まえて、舌扁平上皮癌(SCC)、肺腺癌および肺SCCの組織切片、ならびに健常な舌組織切片および健常な肺組織切片の免疫組織化学分析を行った(
図7)。抗LY6K抗体候補である28C1は、悪性舌組織と悪性肺組織を染色したが、これらの健常組織は染色しなかったことから、28C1抗体が、悪性組織試料と健常組織試料を区別できることが示された。
【0065】
実施例7:
上記のマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒトのフレームワーク領域に移植することによって、各マウス抗体をヒト化した。これらのヒト化抗体を発現させ、それらの純度をSDS-PAGEで確認した(
図8)。組換えLY6Kに対する各ヒト化抗体の結合能をELISAアッセイで評価した。ヒト化22C-G8抗体とヒト化28C1抗体は、組換えLY6Kに対して、それらのマウス抗体形態と類似した結合能を示したが、ヒト化G57抗体は、LY6Kに対する結合親和性が低下したことが示された。フローサイトメトリー分析から、ヒト化22C-G8抗体は、Calu-1細胞に対して強力な結合能を保持していたことが示されたが、ヒト化された形態のG57抗体と28C1抗体は、親和性の一部が失われた。
【0066】
がん細胞の表面に発現されたLY6Kに対するヒト化抗体の結合能をさらに検証したところ、ヒト化22C-G8抗体とヒト化28C1抗体が、乳房、子宮頸部、肺および頭頸部を含む様々な臓器に由来するヒト腫瘍細胞株パネルの表面に発現されたLY6Kへの結合を保持していることが確認された(
図9)。
【0067】
実施例8:
抗体薬物複合体としてのヒト化抗LY6K抗体の潜在的な能力をさらに調査するため、この抗体が細胞内に取り込まれるかどうかを試験した。顕微鏡画像において蛍光シグナルが斑点状に分布していたことから、22C-G8抗体がエンドソームに局在していたことが示され、このことから、22C-G8抗体がCa Ski細胞に取り込まれることが分かった(
図10A)。さらに、蛍光強度を経時的にリアルタイムでモニタリングしたところ、細胞内への移行が濃度と時間に依存することが示された(
図10B)。抗体の細胞内移行は、抗体薬物複合体に抗体を組み込む際に必要とされる条件であることから、抗LY6K抗体は、LY6K陽性の悪性細胞への細胞傷害薬の送達用の抗体薬物複合体として使用できる可能性が高いことが示された。
【0068】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、標的化抗体を用いた免疫療法アプローチの基本となる極めて重要な機構であることから、ADCCを介してLY6K発現細胞をターゲティングし、これらを殺傷する潜在的な能力について、Hu22CG8抗体とHu28C1抗体を調べた(
図11)。その結果、いずれのヒト化抗体も、LY6Kを高発現する細胞において、ADCCを媒介し、腫瘍細胞を効果的に排除することが示され、Hu28C1抗体の方が高い細胞傷害性を示した。この知見から、腫瘍細胞上に発現されたLY6Kが、エフェクター免疫細胞の存在下において、モノクローナル抗体によってターゲティングできることが示唆されたことから、この結果は有意義なものであった。
【0069】
【0070】
まとめ
LY6Kが、様々なヒトがんの細胞表面上に発現されるCTAであることが判明したことから、LY6Kが、抗体ベースの方法の標的抗原として魅力的なものであることが示された。また、3種のユニークな抗LY6K抗体を作製し、これらの抗体が、がんの診断および/または治療に有用である可能性があることを示すエビデンスを提供することができた。
【0071】
参照文献
本明細書で引用された過去に発表されている文献の一覧およびこれらに記載の考察は、当技術分野の技術水準や技術常識の一部を構成するものであると認識する必要は必ずしもない。
1. Chalouni, C., Doll, S. Fate of Antibody-Drug Conjugates in Cancer Cells. J Exp Clin Cancer Res 37, 20 (2018).
2. Langer R. New methods of drug delivery. Science. 249(4976): 1527-33 (1990).
3. Remington J.P. and Gennaro A.R. The Science and Practice of Pharmacy, 19th ed., Easton, PA : Mack Publishing (1995).
4. Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (2001).
【配列表】
【国際調査報告】