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特表2025-502279ポリマーを解重合して再利用可能な原料にする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ポリマーを解重合して再利用可能な原料にする方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/28 20060101AFI20250117BHJP
   C07C 69/82 20060101ALI20250117BHJP
   B01J 38/00 20060101ALI20250117BHJP
   B01J 35/45 20240101ALI20250117BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C07C67/28
C07C69/82 B
B01J38/00 301U
B01J38/00 301Z
B01J35/45
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542051
(86)(22)【出願日】2023-01-12
(85)【翻訳文提出日】2024-09-09
(86)【国際出願番号】 NL2023050009
(87)【国際公開番号】W WO2023136721
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】2030566
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517222797
【氏名又は名称】イオニカ・テクノロジーズ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エゴール・ヴァシリエヴィッチ・フファチェフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨースト・ロベルト・ヴォルテルス
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA10
4G169BA47A
4G169BB04A
4G169BB05A
4G169BB06A
4G169BC66A
4G169CB35
4G169DA05
4G169EB19
4G169GA20
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC41
4H006AC91
4H006BA02
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA21
4H006BA29
4H006BA30
4H006BA55
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC34
4H006BC35
4H006BC51
4H006BD36
4H006BD60
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BP10
4H006KA03
4H006KA30
4H039CA60
4H039CE10
4H039CL30
(57)【要約】
本発明は、ポリマーを分解することによってモノマーを得る方法であって、前記ポリマーが、前記のモノマーのホモポリマー又はコポリマーであり、その方法が、ポリマー及び溶媒を反応混合物として反応器内に供給する工程であって、溶媒が、ポリマーと反応してポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる反応原料である、工程と、ポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる再利用可能な触媒を供給する工程と、触媒を使用して反応条件で反応混合物中のポリマーを分解して、モノマーを形成する工程と、反応混合物から触媒を回収する工程とを含み、反応工程の少なくとも1つにおいて塩基を添加することを更に含む方法に関する。本発明は更に、反応条件で反応混合物中のポリマーを分解する触媒の助触媒としての、塩基の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを分解することによってモノマーを得る方法であって、前記ポリマーが前記モノマーのホモポリマー又はコポリマーであり、その方法が、
a.前記ポリマー及び溶媒を反応混合物として反応器内に供給する工程であって、前記溶媒が、ポリマーと反応してポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる反応原料である工程;
b.前記ポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる再利用可能な触媒を供給する工程;
c.前記触媒を使用する反応条件で、反応混合物中のポリマーを分解して、少なくとも1種のモノマーを形成する工程;及び
d.反応混合物から前記触媒を回収する工程
を含み、反応工程a~dの少なくとも1つにおいて、反応混合物に少なくとも1種の塩基を添加することを更に含む、方法。
【請求項2】
触媒の回収前又は回収中に、反応混合物に水を添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水の、溶媒に対する質量比が、0.2から5.0、好ましくは0.5から1.5、より好ましくは0.7から1.3、更により好ましくは0.9から1.1の範囲になる量で、水を反応混合物に添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
塩基の、水に対する質量比が、0.01から1.0、好ましくは0.05から0.5、より好ましくは0.08から0.12の範囲になる量で、塩基を反応混合物に添加する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
触媒の、ポリマーの量に対する量が、0.001:10から1:10、好ましくは0.005:10から0.3:10、より好ましくは0.008から0.015:10の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
塩基の量と触媒の量が、0.1:1から40:1、好ましくは1:1から35:1、より好ましくは2:1から5:1の範囲のとなる量で、塩基を反応混合物に添加する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
塩基が、アンモニア及び/又はトリアルキルアミンの水溶液を含む揮発性塩基である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
塩基が、金属水酸化物を含む不揮発性塩基である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
金属水酸化物が、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))、水酸化テトラメチルアンモニウム(N(CHOH)、及びグアニジン(HNC(NH)のうちの少なくとも1種を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程a又は工程bにおいて塩基を添加する、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程dにおいて触媒の回収前に、反応混合物に水を添加する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
分解工程の後、反応混合物を170℃未満に冷却する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程dでの触媒の回収前又は回収中における、反応混合物への水の添加を、160℃未満、好ましくは100℃未満の温度で実施する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
反応混合物のpHを6より高くまで上昇させる量で塩基を添加する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
回収工程が、反応混合物から触媒を分離することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
分離工程を、遠心分離機を使用して実施する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
分離工程を、磁気分離及び/又は電界の印加を使用して実施する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記の分離を、60℃から100℃の間、好ましくは75℃から95℃の間の温度で実施する、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
再利用可能な触媒が、触媒実体、金属含有ナノ粒子、及び触媒実体を磁性ナノ粒子に結合する架橋部分を含む触媒複合体を含み、触媒実体が、正電荷を有するカチオン性部分と、負電荷を有する、好ましくは負の対イオンを提供するアニオン性部分とを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
溶媒、好ましくはエチレングリコールのポリマーに対する質量比が、20:10から100:10、より好ましくは40:10から90:10、最も好ましくは60:10から80:10の範囲である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
分散体中のポリマー濃度が、反応混合物の総質量の1~30質量%である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
分解工程cが、170℃より高い温度、好ましくは最大で250℃の温度で、1.0barより高い圧力、好ましくは3.0bar未満の圧力でモノマーを形成する工程を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
反応条件において反応混合物中のポリマーを分解する触媒の助触媒としての、請求項7~9のいずれか一項に規定の塩基の使用。
【請求項24】
塩基が、不揮発性塩基である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
請求項19に規定する触媒の助触媒としての、請求項23又は24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を使用してポリマーを解重合して、再利用可能な原料、例えばテレフタレートモノマー及びオリゴマーにする方法に関する。本発明は更に、反応混合物からの触媒の回収に関する。本発明はまた、触媒を使用する解重合反応における助触媒としての、塩基の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリマーを解重合して再利用可能な原料にすることは、産業界で高い関心を集めている分野である。リサイクル対象となるポリマー群の例の1つはテレフタレートポリマーであり、テレフタレートポリマーは、骨格にテレフタレートを含むポリエステル群である。テレフタレートポリマーの最も一般的な例は、ポリエチレンテレフタレートであり、PETとしても知られている。別の例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリペンタエリスリチルテレフタレート、及びこれらのコポリマー、例えば、エチレンテレフタレート及びポリグリコールのコポリマー、例えば、ポリオキシエチレングリコール及びポリ(テトラメチレングリコール)コポリマーが挙げられる。PETは最も一般的なポリマーの1つであり、解重合して再利用可能な原料にすることによって、PETをリサイクルすることが強く望まれている。
【0003】
解重合の好ましい方法の1つはグリコール分解であり、これは好ましくは触媒によるものである。典型的には、エチレングリコール等のアルコールを使用することにより、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を含む少なくとも1種のモノマーを含む反応混合物が形成され得る。グリコール分解による好適な解重合の一例は、本出願人名義の国際公開第2016/105200号によって知られている。この方法によれば、テレフタレートポリマーは、触媒の存在下でグリコール分解によって解重合される。解重合プロセスの最後に水を添加し、相分離が起こる。これにより、BHETモノマーを含む第1の相を、触媒、オリゴマー及び添加剤を含む第2の相から分離することが可能になる。第1の相は、溶解した形態の不純物及び、分散粒子としての不純物を含む場合がある。BHETモノマーは、結晶化によって純粋な形態で得ることができる。
【0004】
解重合した原料の再利用には、高い純度が必要とされる。周知のように、汚染物質は、その後の、原料からの重合反応に影響を与える可能性がある。更に、テレフタレートポリマーは食品及び医療用途にも使用されるため、健康上の問題を防ぐために厳格な規則が適用される。
【0005】
国際公開第2016/105200号による本出願人の方法により、テレフタレートポリマーの転化率が非常に高くなり、BHETモノマーからのさまざまな添加剤の分離も容易になるが、解重合反応を更に最適化しうる。更に、反応混合物からの触媒の回収を、更に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/105200号
【特許文献2】国際公開第2017/111602号
【特許文献3】国際公開第2015056377A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、新たなポリマーの調製に適したものとなるように、ポリマーを解重合して純度の高い再利用可能な原料にする方法を提供する必要がある。ポリマーの例の1つとしては、テレフタレートポリマーが挙げられる。このような方法では、ポリマーの転化率が常に非常に高くなるとは限らないが、許容可能な転化(率)が達成されうる。転化率を向上させるために、触媒が使用されている。これらの触媒はモノマーから分離され、分離後に再利用される。本発明の目的は、接触解重合方法(触媒による解重合方法)を更に改善し、触媒の分離及び回収を更に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、ポリマーを分解することによってモノマーを得る方法であって、ポリマーがモノマーのホモポリマー又はコポリマーであり、その方法が、
a.ポリマー及び溶媒を反応混合物として反応器内に供給する工程であって、この溶媒が、ポリマーと反応してポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる反応原料である工程;
b.ポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる再利用可能な触媒を供給する工程;
c.上記の触媒を使用する反応条件で、反応混合物中のポリマーを分解して、少なくとも1種のモノマーを形成する工程;及び
d.反応混合物から触媒を回収する工程、
を含み、反応工程a~dの少なくとも1つにおいて、反応混合物に少なくとも1種の塩基を添加することを更に含む方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、本発明は更に、反応条件において反応混合物中のポリマーを分解する触媒のための助触媒としての、塩基の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
別段の規定がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本発明の明細書で使用される術語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。
【0011】
本発明は、ポリマーを分解することによってモノマーを得る方法であって、そのポリマーはモノマーのホモポリマー又はコポリマーである。ポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる再利用可能な触媒を使用する。触媒をより容易に、かつより多く回収するために、反応工程a~dの少なくとも1つにおいて、少なくとも1種の塩基を反応混合物に添加する。更に、塩基は、工程c中又は工程cより前に反応混合物に添加した場合、ポリマーの、より小さな分子への接触分解(触媒分解)を改善することが確立されている。反応時間及び選択性が向上する。
【0012】
ポリマー及び溶媒を反応混合物として反応器内に供給するが、この溶媒は、ポリマーと反応してポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーに分解することができる反応原料である。ポリエステルの解重合は、より好ましくは加溶媒分解(solvolysis)によって起こり、溶媒は反応原料として作用する。典型的な溶媒は、アルカノール及びアルカンジオール、例えば、エチレングリコール、メタノール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールである。エチレングリコールは、その物理的性質(約200℃の沸点等)の観点から好適であることが判明している。PETの解重合では、エチレングリコールを使用すると、主な解重合生成物としてビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)をもたらす。二量体、三量体、及び更なるオリゴマーも得られる。BHET及びその二量体は、結晶化によって十分な純度で精製され、得ることができる。その1つの方法は、上述したように、プロセス下流の容器に水及び/又は水溶液を添加した後に得られる水相を処理し、遠心分離機で第2の相から分離することである。この例は、上で述べた国際公開第2017/111602号において特定されており、この国際公開公報を参照により本明細書に援用する。
【0013】
有利には、溶媒、好ましくはエチレングリコールとポリマーの質量比は、10:10から100:10、より好ましくは20:10から90:10、最も好ましくは40:10から60:10の範囲である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、分散液中のポリマー濃度は、反応混合物の総質量の1~30質量%である。
【0015】
ポリマーをオリゴマー及び少なくとも1種のモノマーへと分解することができる再利用可能な触媒を、反応混合物に供給する。本発明は、この目的に好適な任意の触媒を使用して行うことができる。
【0016】
一実施形態による解重合方法では、工程c中に、触媒が反応混合物中で分散体を形成する。
【0017】
近年、解重合触媒としてナノ粒子が注目されている。液体中での拡散速度は気体の拡散速度と比較して数桁小さいので、液相中での反応には小さな粒子が必要である。このようなナノ粒子は、直径が小さく、表面積が0.5から200m/gの範囲である。ナノ粒子は高活性であるため、より速い解重合をもたらし、それによって経済的に実現可能な方法をもたらすと考えられている。このようなナノ粒子を分離するためには、いくつかの選択肢が利用可能である。考え得る解重合触媒のいくつかは、強磁性材料及び/又はフェリ磁性材料をベースにしている。また、反強磁性材料、合成磁性材料、常磁性材料、超常磁性材料、例えば、Fe、Co、Ni、Gd、Dy、Mn、Nd、Smの少なくとも1種を含む材料、及び好ましくはO、B、C、Nの少なくとも1種を含む材料、例えば、酸化鉄、例えば、フェライト、例えば、マグネタイト、ヘマタイト、及びマグヘマイトを使用することができる。磁性材料を使用すると、主に磁力による分離が可能となるが、多くのナノ粒子は非常に小さいため、それ自体が十分に引き付けられない可能性がある。ただし、磁場をかけると、ナノ粒子が磁気クラスタを形成することができ、磁力によってより容易に分離される。磁性ナノ粒子触媒及び非磁性ナノ粒子触媒の両方で、他の化合物を添加することにより、より大きなサイズのナノ粒子のクラスタを生成することもできる。本発明により、改善された解決策が提供される。
【0018】
好適な触媒の1つの種類には、金属又はイオン型の遷移金属が含まれる。イオン型には、溶液中及びイオン結合中又は共有結合中の自由イオンが含まれる。イオン結合は、ある原子が別の原子に1つ又は複数の電子を与えた場合に形成される。共有結合は、2つの原子間で電子対を共有することで生じる原子間結合で形成される。遷移金属は、3d軌道遷移金属としても知られる第一遷移金属から選択されてもよい。より具体的には、遷移金属は、鉄、ニッケル、及びコバルトから選択される。ただし、コバルトは健康に有害であり、鉄及びニッケルの粒子は純粋な形態で形成され得るため、鉄及びニッケルの粒子が最も好ましい。更に、個々の遷移金属の合金を使用することもできる。
【0019】
本ナノ粒子は、好ましくは磁性を有するものであり、磁性材料を含むか、又は本方法で適用するような比較的緩やかな磁場のもとで十分に磁化される能力を有する。好適には、磁性ナノ粒子は、鉄、ニッケル及び/又はコバルトを、酸化形態若しくは金属形態、又はそれらの組み合わせで含有する。酸化鉄は、これに限らないが、例えば、Feの形態が好ましい。別の好適な例は、Feである。合金からの好適な例は、CoFeである。他の好ましい例は、NiFe、NiFe、又はNiOである。
【0020】
ナノ粒子が金属からできている場合は、酸化物表面を伴って提供される可能性があり、これによって触媒作用を更に強化することができる。酸化物表面は、空気と接触するか、水と接触してそれ自体によって形成されうるか、又は酸化物表面を意図的に施してもよい。
【0021】
ナノ粒子は、触媒複合体が、ポリマーをより小さな単位に分解する触媒として作用するように十分に小さくなければならず、この場合、ポリマーのより小さな単位、特にそのモノマーの収率は、商業上の理由で十分に高いことが判明している。更に、本触媒を回収することによって再利用できるようにするためには、ナノ粒子が十分に大きくなければならないことが判明している。廃棄物又は得られた分解生成物のいずれかとともに触媒が除去されてしまうことは、経済的に好ましくない。好適なナノ粒子は、2から500nmの範囲、より好ましくは3から200nmの範囲、更により好ましくは4から100nmの平均直径を有する。例えば、触媒複合体の収率及び回収の観点から、5~10nmというかなり小さいサイズの粒子が最適であることが判明している。用語「サイズ」は、粒子の平均直径に関するものであり、粒子の実際の直径は、その特性により多少異なる場合があることに留意されたい。更に、凝集体が、例えば溶液中で形成される場合がある。これらの凝集体は、典型的には50~200nm、例えば、80~150nmの範囲のサイズ、例えば、約100nmのサイズを有する。酸化鉄を含むナノ粒子を使用することが好ましい。
【0022】
粒径及びその分布は、Malvern社の動的光散乱装置、例えばNS500シリーズを使用して、光散乱によって測定され得る。典型的には小さな粒径に適用され、大きなサイズにも同様に適用できる、より労力を要する方法では、代表的な電子顕微鏡写真を撮影し、その写真上で個々の粒子のサイズを測定する。平均粒径については、数質量平均をとることができる。概算では、平均値を粒子の数が最も多いサイズ、又は中央サイズとしてとることができる。
【0023】
最も好ましいのは、鉄又は鉄含有粒子の使用である。鉄及び鉄を含有する粒子は磁性を有するだけでなく、触媒負荷及びPET/溶媒比等の他の処理要因にもよるが、最大6時間の許容反応時間内に、PETの解重合を触媒してモノマーへの転化率が例えば70~90%になることが判明している。必要な触媒濃度は、PETの量に対して1質量%以下である。触媒添加量が、PETの量に対して0.2質量%未満、更には0.1質量%未満でも良好な結果が得られた。このように触媒の負荷が低いことは非常に有益であり、本発明の方法は、増大した量のナノ粒子触媒を回収することを可能にする。
【0024】
非多孔質金属粒子、特に遷移金属粒子は、カルボニル錯体、例えば、鉄ペンタカルボニル及びニッケルテトラカルボニルの熱分解によって好適に調製され得る。或いは、金属を例えば400℃以上の高温で酸素に曝すことにより、酸化鉄及び酸化ニッケルを調製することができる。アルコールへの粒子の曝露が少ない可能性があるので、非多孔質粒子は、多孔質粒子よりも好適である可能性があり、したがって、粒子の腐食も少なく、触媒作用のためにより頻繁に粒子を再利用できる。更に、表面積が限られているため、表面での酸化により金属イオンの量が少なくなり、それに伴って除去すべき汚染物質として生成物流に存在するイオンのレベルが低下し得る。
【0025】
本発明による非多孔質粒子は、表面積が好適には10m/g未満、より好ましくは高くとも5m/g、更により好ましくは高くとも1m/gである。多孔性は、好適には10-2cm/g未満、又は例えば多くとも10-3cm/g未満である。
【0026】
別の種類の好適な触媒としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)から選択されるアルカリ土類元素、並びにこれらの酸化物をベースとするナノ粒子が挙げられる。好ましいアルカリ土類金属酸化物は、酸化マグネシウム(MgO)である。他の好適な金属には、これらに限定されないが、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、及びアンチモン(Sb)、及びこれらの酸化物、並びに更にこれらの合金が含まれる。また、パラジウム(Pd)及びプラチナ(Pt)等の貴金属が好適である。MgO及びZnOは、触媒添加量及びPET/溶媒比等の他の処理要因にもよるが、許容反応時間内にPETの解重合を触媒してモノマーへの転化率が例えば70~90%になることが判明している。また、ハイドロタルサイトをベースにした好適な触媒が考えられる。
【0027】
好ましくは、ナノ粒子は、100℃を超える高温でも(アルコール性)反応性溶媒に実質的に不溶であるように選択される。エチレングリコール等のアルコール中に高温で容易に溶解する傾向がある酸化物、例えばアモルファスSiOはあまり適していない。
【0028】
本発明による好適な触媒は、コーティングされていてもよい。例えば、Fe粒子は、異なる磁気特性を備えるFeへの酸化から粒子を保護するための材料でコーティングされていてもよい。したがって、触媒粒子の表面は、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリエチレングリコール(PEG)、シリコンオイル、オレイン酸又はステアリン酸等の脂肪酸、シラン、鉱油、アミノ酸、又はポリアクリル酸、又はポリビニルピロリドン(PVP)等の材料でコーティングされていてもよい。炭素もコーティング材として可能である。
【0029】
コーティングは、触媒反応の前又は反応の最中に除去され得る。コーティングを除去する方法は、例えば、反応器中で使用する前に別途、溶剤洗浄工程を使用するか、又は空気中で燃焼させることによる。
【0030】
特に好ましい触媒は、触媒複合体(ABC)に関連するものであり、それは以下の3つの識別可能な要素を含む:(ナノ)粒子(A)、共有結合等によって化学的に、又は吸着等によって物理的に粒子に結合した架橋部分/結合基(B)、及び化学的な結合、例えば共有結合等によって粒子(A)と結合している触媒実体(catalyst entity)(C)。結合基は、好ましくは、コアシェル粒子のようにナノ粒子表面を完全に覆わない。この触媒複合体のナノ粒子は、好ましくは強磁性及び/又はフェリ磁性材料をベースとする。また、反強磁性材料、合成磁性材料、常磁性材料、超常磁性材料、例えば、Fe、Co、Ni、Gd、Dy、Mn、Nd、Smの少なくとも1種を含む材料、及び好ましくはO、B、C、Nの少なくとも1種を含む材料、例えば、酸化鉄、例えばフェライト、例えばマグネタイト、ヘマタイト、及びマグヘマイトを使用することができる。コストの観点から、本触媒複合体を完全に又は大部分回収する場合でさえ、鉄を含む粒子等の比較的安価な粒子が好ましい。鉄又は酸化鉄の粒子の更なる利点は、最も高い飽和磁化を有するため、磁選機を介して粒子を分離しやすくなることである。更により重要なことには、酸化鉄ナノ粒子が分解反応にプラスの影響を与えることである。酸化鉄は、追加の元素、例えば、コバルト及び/又はマンガンをさらに含んでいてもよく、例えばCoFeである。
【0031】
好ましくは、ナノ粒子は、100℃を超える高温でも(アルコール性)反応性溶媒に実質的に不溶であるように選択される。エチレングリコール等のアルコールに高温で容易に溶解する傾向がある酸化物、例えばアモルファスSiOはあまり適していない。
【0032】
架橋部分の官能基は、例えば、カルボン酸又はジカルボン酸等の弱有機酸であるが、好ましくはシランジオール及びシラントリオール等のシラノール類である。架橋部分は、シリルエーテル等のシリル含有基、例えばトリエトキシシリルプロピルハライドの形態の反応原料として導入されてもよい。結合基は、例えばアルキレン鎖であり、アルキレンは典型的には、CからC10の間であり、好ましくはC~C、すなわちプロピレン、ブチレン、ペンチレンである。プロピレンが好ましい。架橋部分は、好適には反応原料として提供され、この場合、結合基は触媒実体との化学反応のために官能化されている一方、その官能基は保護がされている。例えば、結合基の好適な官能化は、置換されたハロゲン化アルキルとして提供することである。官能基の好適な保護は、エステル又はアルコキシシランの形態であってもよい。アルコキシ基は、好ましくはエトキシであるが、メトキシ又はプロポキシは除外されない。
【0033】
更なる一実施形態では、アルコキシシランは、結合基を構成する1つのアルキレン基を有するトリアルコキシシランとして提供される。別の実施形態では、アルキル基のうちの1つが結合基であるジアルキル-ジアルコキシシランが使用される。更に別の実施形態では、アルキル基のうちの1つが結合基であるモノアルコキシ-トリアルキルシランが使用される。後者の場合、アルキル基は、好ましくはC~Cアルキル等の低級アルキルであり、したがってメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチルである。アルキルのうちの少なくとも1つは、上で規定したように、例えばハロゲン化物等で、次いで官能化される。立体障害を制限するには、直鎖状アルキルが好ましいと考えられる。
【0034】
ジアルキル-ジアルコキシシラン及び/又はモノアルコキシ-トリアルキルシランの使用は、一実施形態において親水性溶液と第2の相の間のより良好な分離を生じさせ、また、相分離を使用する一実施形態においては、複合体が失われることになる親水性溶液よりむしろ、複合体が第2の相に入ることを確実にするために有益であることが理解されている。トリアルコキシシランのすべてのアルコキシ基が、ナノ粒子凝集体の表面に結合するわけではないと考えられている。一部のアルコキシ基は、保護されたままである可能性がある。ただし、複合体に水を添加すると保護基が除去される可能性がある。その結果、複合体の親水性が高まる可能性がある。アルコキシ基の少ないシランを使用することにより、残りの基は本質的に無極性になり、脱保護されることにはならない。したがって、複合体全体がより疎水性になる。シランカップリング剤としても知られる1種類の架橋部分だけでなく、それらの混合物、例えばアルキルトリアルコキシシラン及びジアルキル-ジアルコキシシランの混合物を使用してもよく、この場合、アルキル基のうちの1つがハロゲン化物として官能化されていて触媒実体と反応し、その後、両方の反応後に、触媒実体を担う。ジアルキルジアルコキシシランを添加すると、表面に結合した基の層のサイズを良好に低減することができる。これは不利益とはみなされない。
【0035】
この部分は、芳香族でも脂肪族でもよく、複素環式でもよい。芳香族複素環部分は、好適には少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの窒素原子を有する複素環を含む。複素環は、5個又は6個の原子、好ましくは5個の原子を有してもよい。好適な芳香族複素環は、ピリミジン、イミダゾール、ピペリジン、ピリジン、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾール、メチマゾール、ベンゾトリアゾール、イソキノール、及びビオロゲン系化合物(例えば、2つの結合ピリジン環構造を有する)である。特に好ましいのは、イミダゾリウムイオンを生成するイミダゾール構造である。負に帯電した部分は、アニオン錯体に関連する場合もあるが、それに代わり、ハロゲン化物等の単純なイオンに関連する場合もある。好ましくは、架橋部分のハロゲン化アルキルと、少なくとも1個の窒素原子を含む非荷電芳香族複素環部分との反応により、芳香族部分、特にその中の窒素原子に正電荷が発生し、負のハロゲン化物が生成される。負に帯電したハロゲン化物は、その後、ルイス酸を添加することによって強化され、金属塩錯体を形成し得る。一例としては、塩化物(塩素イオン)のFeCl への転化が挙げられる。芳香族部分は、一例では、少なくとも1つの尾部を有する。この少なくとも1つの尾部は、好ましくはC~C10、例えばC~Cの長さを有し、少なくとも一方の尾部は、好適には窒素原子に結合している。この尾部は、より具体的にはキャリア液中に延び、架橋部分からは離れている尾部である。尾部が長いほど、その複合体の疎水性を高めるのに有益であるとみなされる。これにより、複合体が親水相に入る傾向を抑制できる。
【0036】
本発明によれば、架橋部分及びこれに結合している触媒実体は、5×10-6~0.1、好ましくは1×10-5~0.01、より好ましくは2×10-5~10-3、例えば4×10-5~10-4の量(架橋部分(モル)/磁性粒子(g))で提供される。触媒複合体の効果的な選択的回収という観点からは、比較的大量に利用できるのが好ましいが、触媒の量及びコストの観点からは、幾分少ない量がより好ましい場合がある。
【0037】
有効な触媒を得るには、ナノ粒子又はこのような粒子の凝集体の表面を触媒基で限定的に覆うだけで十分であることが判明している。所定量(モル)の架橋部分が所定量(g)に結合した場合、実質的にすべての架橋部分がナノ粒子に結合し、本方法の間は実質的に結合したままであると推定される。
【0038】
この方法の工程cでは、ポリマーの分解は、触媒を使用する反応条件において反応混合物中で起こり、モノマーを形成する。反応混合物は、好適な温度に好ましくは加熱され、この温度は好ましくは解重合中、維持される。その温度は、170℃~250℃の範囲で選択され得る。好ましい実施形態では、分解工程は、185℃~225℃の範囲の温度でモノマーを形成する工程を含んでもよい。反応器内の好適な圧力は1~5barであり、1.0barより高い圧力が好ましく、より好ましくは3.0bar未満である。
【0039】
触媒は、溶媒中に溶解しておらず不均一な程度であれば、大部分を回収できる。工程dにおいて、反応混合物から触媒を回収する。分離を、例えば遠心分離機で行う。凝集体の存在は有利であるとみなされ、なぜならそれは相分離をより効果的にしうるからである。
【0040】
本方法は、反応工程a、b、c、又はdの少なくとも1つにおいて、少なくとも1種の塩基を更に添加することを含む。塩基の添加の効果は、反応時間の短縮、及び/又は副生成物の形成の減少により、ポリマーのオリゴマー及びモノマーへの分解反応が改善されることである。塩基は、ポリマー若しくは溶媒とともに、又は別々に工程aに添加することができる。塩基は、塩基の性質に応じて、固体として添加しても、水又は溶媒に溶解してもよい。不揮発性塩基を使用する場合、塩基を固体形態で添加するか、又は本方法の工程aですでに使用した溶媒に少なくとも部分的に溶解した状態で添加することが好ましい。揮発性塩基を添加する場合は、それを好ましくは水又は反応混合物の溶媒に溶解する。塩基は、本方法の工程bにおいて、再利用可能な触媒とともに、又は別々に添加することもできる。塩基は更に、反応混合物中のポリマーの分解前又は分解中に、本方法の工程cにおいて添加することができる。
【0041】
塩基は、反応混合物からの触媒の回収前又は回収中に、本方法の工程dにおいて添加することもできる。塩基は、反応混合物からの触媒の分離に効果がある。分離性が向上し、触媒がより容易に回収される。
【0042】
反応混合物に添加される塩基の量と、触媒の量は、0.1:1から40:1、より好ましくは1:1から35:1、最も好ましくは2:1から5:1の範囲である。
【0043】
有利には、水は触媒の回収前又は回収中に、反応混合物に添加される。水は別々に、又は塩基とともに添加され得る。前記の反応混合物に、塩基の有無にかかわらず水を添加する工程により、モノマー及び二量体を含む第1の水相と、オリゴマー、触媒複合体及び凝集体を含む第2の相とが生じ、第2の相から第1の相が分離される。これは、さまざまな汚染物質を除去する効果的な方法であることがわかった。本明細書における好ましい実施では、第2の相を処理して含水量を減らし、その後、反応容器にリサイクルする。含水量の低減は、種々の方法で、例えば、蒸留及び/又は膜蒸留等の蒸発によって行われ得る。
【0044】
本方法による回収工程は、好ましくは触媒を反応混合物から分離する工程を含む。分離工程は、より好ましくは遠心分離機を使用して実施される。或いは、分離工程は、好ましくは磁気分離及び/又は電界の印加を使用して実施される。反応混合物に水を添加する好ましい実施形態では、分離は、好ましくは60℃~100℃の間、より好ましくは75℃~95℃の間の温度で実施される。水が存在しない場合は、分離はより高い温度で実施され得る。
【0045】
有利には、触媒の回収前又は回収中に反応混合物に添加される水又は水溶液は、冷却剤として作用することができる。それは、室温又は任意のより高い温度で提供されてよく、好ましくは液体である。それでもなお、個別の冷却手段を備えていることは除外されない。水又は水溶液の添加により、2つの相が現れ、そのうち第1の相は、溶媒、モノマー、並びに少なくとも一部の二量体及び三量体を含む水相である。第2の相は、触媒、オリゴマー、三量体、及び溶媒等のさまざまな固体を含むスラリーである。
【0046】
工程dにおいて反応混合物に添加される水は、好ましくは溶媒に対する水の質量比が、0.2から5.0、より好ましくは0.5から1.5、更により好ましくは0.7から1.3、最も好ましくは0.9から1.1の範囲になるような量である。通常、水を多く加えるほど、より多くの触媒及びオリゴマーの沈殿が生じる。ただし、これは概して、触媒及びオリゴマーを分離又は再利用するために、より多くの水を蒸留する必要があることも意味する。
【0047】
塩基及び水の両方が添加される好ましい実施形態では、水に対する塩基の質量比が、0.01から1.0、より好ましくは0.05から0.5、最も好ましくは0.08から0.12の範囲である。好ましくは、水及び/又は塩基は、反応混合物のpHを6より上に上昇させる量で添加される。
【0048】
触媒の、ポリマーの量に対する量は、かなり少ない。好ましくは、0.001:10から1:10、より好ましくは、0.005:10から0.3:10、最も好ましくは、0.008から0.015:10の範囲である。
【0049】
反応工程のうちの少なくとも1つに添加される塩基は、好ましくは揮発性塩基であり、これにはアンモニア及び/又はトリアルキルアミンの水溶液が含まれる。好適なアミン含有化合物は、例えば、国際公開第2015056377A1号に開示されており、記載されているアミン含有化合物に関する限り、本明細書に明示的に援用する。水相がリサイクルされ、生成物の元素汚染がほとんど又はまったく観察されないので、揮発性塩基の使用は有利である。
【0050】
別の実施形態では、触媒の回収前又は回収中に反応混合物に添加される塩基は、好ましくは不揮発性塩基であり、これには金属水酸化物が含まれる。より好ましくは、金属水酸化物には、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))、水酸化テトラメチルアンモニウム(N(CHOH)、カリウムtert-ブトキシド、重炭酸ナトリウム、及びグアニジン(HNC(NH)が含まれる。
【0051】
塩基が、金属水酸化物を包含する不揮発性塩基である場合、塩基は好ましくは、この方法の工程a又は工程bにおいて添加される。更に、この方法の工程dにおいて不揮発性又は揮発性塩基を更に添加して、反応混合物からの触媒の回収を向上させることが可能である。したがって、塩基は同じ塩基でもよいか、又は工程dにおいて添加される塩基が揮発性塩基であってもよい。工程a又はbにおいて添加される塩基は、解重合反応の助触媒として作用する。塩基の存在により解重合速度が速くなり、また副生成物の形成が抑制される。
【0052】
本発明の他の実施形態によれば、回収工程dは、好ましくは水及び/又は塩基添加の直後に実施される。
【0053】
本発明の一実施形態では、工程dでの触媒の回収前又は回収中における、反応混合物への水及び塩基の添加は、160℃未満、好ましくは100℃未満の温度で実施される。最適な凝集体の形成及びオリゴマーの沈殿のために、この添加は低温において実施すると有利である。
【0054】
有利には、分解工程の後、水及び/又は塩基を添加する工程の前に反応混合物を170℃未満に冷却する。水は、好ましくは、少なくとも85℃の温度の水である。
【0055】
本発明は、反応混合物中のポリマーを分解する触媒の助触媒としての、上記の塩基の使用を更に対象とする。塩基はこの反応において活性であり、好ましくは系内に留まるので、解重合反応及び触媒の回収の両方に影響を与える可能性がある。
【0056】
例えば、NaOHを添加すると解重合反応における解重合触媒の活性が高まる一方、例えばBHEETの生成は不変であるため、NaOHは有望な助触媒であることが判明した。また、触媒の分離性は、NaOHを添加すると向上する。
【0057】
解重合中に、反応器内でBHEETが過剰に生成するのを回避することが重要であり得る。BHEETは下記式Iによって定義される。
【0058】
【化1】
【0059】
本願の特許請求の範囲に記載した触媒、すなわち、ポリマーをオリゴマー及び/又はモノマーに分解することができる再利用可能な触媒複合体であって、好ましくは触媒実体、金属含有粒子、及び触媒実体を磁性粒子に接続するための架橋部分、及び塩基を含む触媒複合体は、他の触媒と比較した場合、同じBHET収率で、生成するBHETの量が低下することが判明した。
【0060】
添付の図面と併せて読むと、本発明の特徴及び目的の、上記及び他の利点がより明らかになり、以下の詳細な説明から本発明をよりよく理解できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、種々の塩基を添加した触媒の分離効率を示すグラフである。
図2図2は、試験11の結果であるBHETの収率を示すグラフである。
図3図3は、副生成物であるBHEETの形成を示すグラフである。
図4図4は、他の塩基を添加したABC触媒複合体の分離効率を示すグラフである。
図5図5は、特定の塩基を添加したABC触媒複合体の分離効率を示すグラフである。
【0062】
本発明を説明するために、以下の非限定的な実施例を提供する。
【実施例
【0063】
試験
<比較試験A:分離効率-触媒ABC>
分離試験は、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。
【0064】
フラスコを80~100℃に加熱し、その温度で混合してBHETの溶解が確実となるようにした。解重合した混合物を、50mLの遠心分離管に移した。混合物を、4000rpmで3分間遠心分離した。上清をデカンテーションにより分離し、その後冷却して上清に存在するBHET生成物を結晶化させた。BHET結晶は、ブフナー型ろ過器を使用して母液からろ過し、60℃の真空オーブンで乾燥させた。次いで、乾燥BHET及び母液をXRFによって分析して、混合物からの触媒の分離性を推定した。存在する本触媒の%としての分離効率を、図1に示す。
【0065】
<例1:分離効率-触媒ABC+アンモニア>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。28%アンモニア溶液0.125gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0066】
<例2:分離効率-触媒ABC+NaOH>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。水酸化ナトリウム0.05gをその混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0067】
<例3:分離効率-触媒ABC+LiOH>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。水酸化リチウム0.1gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0068】
<例4:分離効率-触媒ABC+NaCO
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。炭酸ナトリウム0.5gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0069】
<例5:分離効率-触媒ABC+トリエチルアミン(TEA)>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。トリエチルアミン0.5gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0070】
<例6:分離効率-触媒ABC+トリプロピルアミン(TPA)>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。トリプロピルアミン0.05gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0071】
<例7:分離効率-触媒ABC+1-メチルイミダゾール(NMI)>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。1-メチルイミダゾール0.05gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0072】
<例8:分離効率-触媒ABC+N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量の鉄ベースのABC触媒複合体を、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。N”-ペンタメチルジエチレントリアミン0.5gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0073】
比較試験B:分離効率-Fe
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量のFeを、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。本触媒の%としての分離効率を、図1に示す。
【0074】
<例9:分離効率-Fe+NaOH>
分離試験を、600mlのフラスコを使用して行った。0.017gの量のFeを、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)16.7gと組み合わせて使用した。反応混合物に、エチレングリコール(EG)125g及び水125gを添加した。水酸化ナトリウム0.05gを混合物に添加した。比較試験Aに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。存在する触媒の、%としての分離効率を、図1に示す。
【0075】
<例10:解重合反応>
解重合試験を、500mlの丸底フラスコを使用して行った。鉄ベースのABC触媒複合体0.034g、又はNaOH 0.05、又はこれらの組み合わせを、ポリエチレンテレフタレート(PET)フレーク(0.3×0.3cmの断片)33.4g及びエチレングリコール250gとともに使用した。丸底フラスコを加熱装置に設置した。加熱を開始し、20分後、反応混合物は197℃の反応温度に達した。反応に続いて、遅れずに処理中の対照サンプルを採取して、時間の関数として生成されるモノマーの(ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート、又はBHET)及び副生成物(例えば、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート又はBHEET)の濃度を測定した。BHET及びBHEETの濃度を、HPLCで測定した。
【0076】
結果を図2及び図3に示す。図2では、さまざまな触媒系での、反応時間の関数としてのBHETの収率を示す。NaOHを助触媒として伴うABC触媒は、ポリマーからBHETへの変換がより速い。図3では、さまざまな触媒系での、反応時間の関数としての副生成物であるBHEETの形成を示す。BHEETの形成は、助触媒としてのNaOHの存在によって明らかに抑制されている。
【0077】
<比較例C:分離効率-触媒ABC>
鉄ベースのABC触媒複合体0.034gを用いて、例10に記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。197℃で240分後、160℃未満に冷却することによって、反応を停止した。反応混合物をふるいフィルターを通してビーカーに移し、残りの固体を除去した。水を添加して、1:1の水:EG比を得た。混合物を混合した。遠心分離前のサンプルを採取した。混合物を遠心管に移し、4000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後のサンプルを採取した。サンプルをXRFによって分析し、分離性を推定した。結果を図4に示す。
【0078】
<例11:分離効率-触媒ABC+NaOH及び水>
鉄ベースのABC触媒複合体0.034g及びNaOH 0.05を用いて、例10に記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。197℃で240分後、160℃未満に冷却することによって、反応を停止した。反応混合物をふるいフィルターを通してビーカーに移し、残りの固体を除去した。水を添加して、1:1の水:EG比を得た。混合物を混合した。遠心分離前のサンプルを採取した。混合物を遠心管に移し、4000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後のサンプルを採取した。サンプルをXRFによって分析し、分離性を推定した。結果を図4に示す。
【0079】
<例12:分離効率-触媒ABC+NaOH(水なし)>
鉄ベースのABC触媒複合体0.034g及びNaOH0.05を用いて、例10に記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。197℃で240分後、160℃未満に冷却することによって、反応を停止した。反応混合物をふるいフィルターを通してビーカーに移し、残りの固体を除去した。混合物を混合した。遠心分離前のサンプルを採取した。混合物を遠心管に移し、4000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後のサンプルを採取した。サンプルをXRFによって分析し、分離性を推定した。結果を図4に示す。
【0080】
<例13:分離効率-触媒ABC+KOH(水なし)>
鉄ベースのABC触媒複合体0.034g及びKOH0.05gを用いて、例10に記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。197℃で240分後、160℃未満に冷却することによって、反応を停止した。反応混合物をふるいフィルターを通してビーカーに移し、残りの固体を除去した。混合物を混合した。遠心分離前のサンプルを採取した。混合物を遠心管に移し、4000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後のサンプルを採取した。サンプルをXRFによって分析し、分離性を推定した。結果を図4に示す。
【0081】
<比較例D:触媒ABC>
解重合試験を、600mlのステンレス鋼高圧反応器を使用して行った。鉄ベースのABC触媒複合体0.4gを、ポリエチレンテレフタレート(PET)フレーク(0.1×0.02cmの小片)40g及びエチレングリコール300gとともに使用した。反応器を加熱装置に設置した。加熱を開始し、25分後、反応混合物は210℃の反応温度に達した。210℃で240分後、160℃未満に冷却することによって、反応を停止した。反応混合物をふるいフィルターを通してビーカーに移し、残りの固体を除去した。水を添加して、0.8:1の水:EG比を得た。混合物を混合した。遠心分離前のサンプルを採取した。混合物を遠心管に移し、4000rpmで3分間遠心分離した。遠心分離後のサンプルを採取した。サンプルをXRFによって分析し、分離性を推定した。図1に、分離効率を示す。
【0082】
<例14:触媒ABC+NaOH>
鉄ベースのABC触媒複合体0.4g及びNaOH0.6gを用いて、比較例Dに記載したのと同じ解重合反応の手順を使用した。図5は、比較例D及び実施例14で得られた分離効率を示す。ABC触媒の分離効率は、NaOHを添加すると210℃という高い反応温度でも、劇的に向上することがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】