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特表2025-502284耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングガラス基板
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  • 特表-耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングガラス基板 図1
  • 特表-耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングガラス基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/23 20060101AFI20250117BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20250117BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20250117BHJP
   A47K 3/30 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C03C17/23
C03C17/245 A
C03C17/34 Z
C03C17/245 Z
A47K3/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542071
(86)(22)【出願日】2023-01-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 GB2023050051
(87)【国際公開番号】W WO2023135421
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】2200403.0
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アスピナル
(72)【発明者】
【氏名】アナ ルイーズ コリー
(72)【発明者】
【氏名】チャーリー ジェームス パトリクソン
(72)【発明者】
【氏名】河津 光宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 瑶子
【テーマコード(参考)】
2D132
4G059
【Fターム(参考)】
2D132FB00
2D132FB01
2D132FB02
2D132FH17
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC18
4G059AC22
4G059EA01
4G059EA05
4G059EA07
4G059EB02
4G059EB04
4G059GA01
4G059GA12
(57)【要約】
本発明は、全成分に基づいて0.5~20原子%のセリウムを含む最外層を備えた耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板、およびセリウムを含むスパッタリングターゲットをスパッタリングして第1の表面上に直接または間接的にセリウム酸化物を含む層を形成するステップを含む耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板の製造方法に関する。本発明はまた、ガラス基板上の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングとしてのセリウム酸化物を含む層の使用、および耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板を備えたバススクリーン、シャワースクリーンおよび/またはスプラッシュスクリーンに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板であって、
第1の表面を有するガラス基板と、
前記第1の表面上に直接または間接的に酸化セリウムを含む層と、を備え、
酸化セリウムを含む前記層は、前記第1の表面上の最外層であり、
酸化セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて0.5~20原子%のセリウムを含む、
耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板。
【請求項2】
前記コーティングされたガラス基板は、23℃で1MのNaOHまたは1MのHClに2時間浸漬した後、1%以下のヘイズの増加を示す、請求項1に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項3】
酸化セリウムを含む前記層は、1nm~500nm、好ましくは5nm~250nm、より好ましくは10nm~100nmの厚さを有する、請求項1または2に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項4】
酸化セリウムを含む前記層は、2.28~2.44の範囲の屈折率を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項5】
酸化セリウムを含む前記層は、前記第1の表面上の唯一の層である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項6】
酸化セリウムを含む前記層と前記第1の表面との間に下層をさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項7】
前記下層は、シリコン酸化物を含み、好ましくはシリコン酸化物を含む前記下層は、前記第1の表面上に直接存在し、より好ましくはシリコン酸化物を含む前記下層は、前記第1の表面上に直接存在し、セリウム酸化物を含む前記層は、前記下層上に直接存在する、請求項6に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項8】
酸化セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて1~10原子%のセリウムを含み、好ましくは全成分に基づいて2~8原子%のセリウムを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項9】
酸化セリウムを含む前記層は、酸素が準化学量論比未満である、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項10】
酸化セリウムを含む前記層は、さらにチタンを含み、好ましくは酸化セリウムを含む前記層は、チタンおよびセリウムに基づいて50~95原子%のチタンを含み、より好ましくは酸化セリウムを含む前記層は、チタンおよびセリウムに基づいて70~90原子%のチタンを含み、さらに好ましくは酸化セリウムを含む前記層は、チタンおよびセリウムに基づいて75~85原子%のチタンを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項11】
酸化セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて10原子%未満のシリコンを含み、好ましくは、セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて1原子%未満のシリコンを含み、より好ましくは、セリウムを含む前記層は、本質的にシリコンを含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項12】
酸化セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて10原子%未満のアルミニウムを含み、好ましくは、セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて1原子%未満のアルミニウムを含み、より好ましくは、セリウムを含む前記層は、本質的にアルミニウムを含まない、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項13】
前記コーティングされたガラス基板は、30°より大きい、好ましくは50°より大きい、さらに好ましくは60°より大きい水接触角を示す、請求項1から12のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項14】
前記基板は、強化ガラスである、請求項1から13のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項15】
耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板、好ましくは、請求項1から14のいずれか一項に記載の耐腐食性コーティングガラス基板、を製造する方法であって、
第1の表面を有するガラス基板を準備するステップと、
セリウムを含むスパッタリングターゲットを準備するステップと、
セリウムを含むスパッタリングターゲットをスパッタリングして、前記第1の表面上に直接または間接的に酸化セリウムを含む層を提供するステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記スパッタリングターゲットは、チタンを含み、好ましくはチタンおよびセリウムに基づいて50~95原子%のチタンを含み、より好ましくは、前記スパッタリングターゲットは、チタンおよびセリウムに基づいて70~90原子%のチタンを含み、さらに好ましくは、前記スパッタリングターゲットは、チタンおよびセリウムに基づいて75~85原子%のチタンを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップは、希ガスを含む雰囲気中で行われ、好ましくは、前記希ガスは、アルゴンまたはクリプトンである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップの前に表面を洗浄するステップをさらに含み、好ましくは、前記表面を洗浄するステップは、セリアによる研磨、アルカリ水溶液による洗浄、脱イオン水によるすすぎ、およびプラズマ処理のうちの1つ以上を含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記スパッタリングターゲットは、円筒形スパッタリングターゲットである、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記スパッタリングターゲットを前記スパッタリングするステップの後にソーダ石灰シリカガラス基板を熱処理するステップをさらに含み、好ましくは、前記ソーダ石灰シリカガラス基板を熱処理するステップは、前記ソーダ石灰シリカガラス基板を少なくとも600℃で少なくとも5分間加熱することを含む、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップの前に前記第1の表面に下層を適用するステップをさらに含み、好ましくは、前記下層を適用するステップは、化学蒸着、物理蒸着、または液体堆積によって、好ましくは化学蒸着によってシリカを含む層を堆積することを含む、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ガラス基板上の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングとしての酸化セリウムを含む層の使用であって、
前記ガラス基板は、第1の表面を備え、
酸化セリウムを含む前記層は、前記第1の表面上に直接または間接的に存在し、
酸化セリウムを含む前記層は、前記第1の表面上の最外層であり、
酸化セリウムを含む前記層は、全成分に基づいて0.5~20原子%のセリウムを含む、
ガラス基板上の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングとしての酸化セリウムを含む層の使用。
【請求項23】
請求項1から14のいずれか一項に記載の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板を含む、または請求項15から21のいずれか一項に記載の方法に従って製造された、バススクリーン、シャワースクリーンおよび/またはスプラッシュスクリーン。
【請求項24】
前記バススクリーンおよび/またはシャワースクリーンを使用位置に固定するための固定具をさらに備え、好ましくは、前記固定具は、前記固定具を前記スプラッシュスクリーンに取り付けるための接着部分または機械的取り付け部分を備える、請求項23に記載のバススクリーン、シャワースクリーン、および/またはスプラッシュスクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板、耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板の製造方法、ガラス基板上の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングとしての酸化セリウムを含む層の使用、ならびに耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板を含むバススクリーン、シャワースクリーンおよび/またはスプラッシュスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
基板、特にガラス基板へのコーティングは、基板の特性を変更するために使用され得る。ガラス基板にコーティングを堆積させるには、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティングを含む液体ベースの方法、化学蒸着法(CVD)、および物理蒸着法(PVD)など、さまざまな方法が使用され得る。物理蒸着法はスパッタリングとも呼ばれる。
【0003】
暖かく湿った環境または濡れた環境にあるガラスは、時間の経過とともに掃除が難しくなり、見た目がくすみ、曇るようになる。これは、ガラスが湿った環境または濡れた環境にさらされる比較的厳しい条件に起因する。暖かく湿った環境は、ガラスの表面に斑点、変色、腐食を引き起こし得る。硬水、石鹸カス、および洗浄剤は、問題を悪化させ得る。ガラスの腐食は、ガラス表面に回復不可能な損傷をもたらす。
【0004】
ガラスの腐食は、2段階で起こる。第1の段階は、水性腐食であり、ガラス表面と接触した水によって発生し、ガラスからアルカリイオンが浸出する。第2の段階は、比較的弱いアルカリ条件下でも腐食が発生し、ガラス表面の溶解につながることを含む。ガラス表面を洗浄する洗浄剤および洗剤、石鹸は、弱アルカリ性または強アルカリ性の場合があり得る。
【0005】
ガラスの腐食を軽減または防止するために、ガラスに表面処理および/またはコーティングを施す試みがなされてきた。
【0006】
特開平8-208275号公報は、ガラス表面をフッ化水素酸で約4μm~6μmの深さにエッチングし、その後、有機シラザン系で処理して表面を撥水性にした耐候性および耐水性のガラス製品を開示している。
【0007】
欧州特許出願公開第2647606号明細書は、スパッタリングによって堆積されたシリカ層を使用することによって、石灰スケールまたは腐食を軽減することを目的としたガラス製の浴槽またはシャワースクリーンに関する。この文書では、ガラスの腐食を防ぐために、シリカを8原子%以上ドーピングする必要があることを開示している。
【0008】
欧州特許出願公開第2559670号明細書は、多孔度が制御されたアルミナ、チタニア、ジルコニア、またはフッ化マグネシウムで作られたガラス上の防食コーティングを開示している。
【0009】
国際公開第2013/003130号は、ダイヤモンド状炭素(DLC)およびZn、AlN、ZnN、またはZrOを含む犠牲フィルムの保護フィルム(例えば、シャワーガラスドア用)を開示している。このフィルムは、使用前に熱処理を受けることを意図している。
【0010】
米国特許出願公開第2004/023080号明細書は、機能性コーティング上の保護コーティングを開示しており、保護コーティングは、スパッタリングされ、SiOを含むAlおよびAlを含むSiOの2つの層を有する。
【0011】
米国特許出願公開第20200079687号明細書は、基板、基板の少なくとも1つの面の少なくとも一部に物理蒸着法で堆積された1つ以上の層を含む軟質コーティング、および軟質コーティングの上方の当該面の少なくとも一部に提供されたゾルゲルコーティングを含む、コーティングされた基板を開示しており、ゾルゲルコーティングは、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ケイ素酸化物、および必要に応じてビスマス酸化物および/またはセリウム酸化物の混合物を、理論重量比で、チタン酸化物TiO2/ケイ素酸化物SiO2が0.10~3の範囲、ジルコニウム酸化物ZrO2/ケイ素酸化物SiO2が0.10~3の範囲、ビスマス酸化物Bi2O3/ケイ素酸化物SiO2が0~0.03の範囲、およびセリウム酸化物CeO2/ケイ素酸化物SiO2が0~0.03の範囲で含む。
【0012】
米国特許出願公開第2018319701号明細書は、基板の表面上の加水分解性ネットワーク形成シリカゲルコーティングの機械的および化学的耐性を高める方法を開示しており、この方法は、ビスマスまたはセリウム酸化物の前駆体をドープした加水分解性ネットワーク形成シリカゲルを含むコーティング組成物を表面に塗布することを含む。
【0013】
さらに、ガラスおよびグレージング製品の洗浄性を高めることも望まれる。洗浄性の向上は、高い水接触角と関連している。洗浄性を向上させる製品または方法には、例えば、ハイブリッド有機無機前駆体のゾルゲル配合物、ゾルゲル添加剤を有する改質シラン、または表面処理後に化学的に架橋する改質シランなどを使用して表面を疎水性にする表面処理が含まれる。その他の製品には、表面を洗浄しやすいポリマーコーティングでコーティングする反応性シリコーン液、またはメンテナンスの手間がかからず非粘着性の表面を提供するポリマー樹脂などを含む。ただし、これらの処理の多くは、ガラスシートの寿命まで持続しない。
【0014】
したがって、特に湿気の多い環境向けに、長期間の耐腐食性能と洗浄性能を備えた耐腐食性ガラス基板を提供する必要性が依然として残っている。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、既知の製品または方法に伴う問題を解決し、腐食傾向が全くないかまたは腐食傾向が低減され、および洗浄性が改善されたガラス基板を製造することである。
【0016】
特に、上記の利点を提供する、バススクリーン、シャワースクリーン、スプラッシュスクリーン、洗車用のビュースクリーン、水中ビュースクリーン、水槽などの湿気の多い環境用のガラス基板を提供することが望ましい。
【0017】
第1の態様において、本発明は、耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板であって、
第1の表面を有するガラス基板と、
第1の表面上に直接または間接的に酸化セリウムを含む層と、を備え、
酸化セリウムを含む層は、第1の表面上の最外層であり、
酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて0.5~20原子%のセリウムを含む、
耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板を提供する。
【0018】
好ましくは、ガラス基板は、ソーダ石灰シリカガラス基板である。あるいは、ホウケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ホウアルミノケイ酸塩などの他のガラス組成物を使用し得る。
【0019】
セリウム酸化物を含む層は、第1の表面上の最外層である。セリウム酸化物を含む層が第1の表面上の最外層である場合、セリウム酸化物を含む層は、耐腐食性ガラス基板の環境に直接さらされる。酸化セリウムを含む層が第1の表面の最外層である場合、酸化セリウムを含む層は、洗浄性および耐久性を向上させ、ガラス表面の腐食を低減または防止するのに非常に効果的であることがわかった。したがって、本発明の耐腐食コーティングガラス基板は、バススクリーン、シャワースクリーン、スプラッシュスクリーン、洗車用のビュースクリーン、水中ビュースクリーン、水槽などの湿気の多い環境での使用に特に適している。
【0020】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、セリウムが均質である。セリウムが均質である酸化セリウムを含む層は、コーティング層全体にわたって均一な程度に分散されたセリウム原子を含む。好ましくは、セリウム原子は、スパッタリングによって提供されるものなど、第1の表面に塗布された非晶質または半非晶質コーティング層内に存在し、そのコーティング層を構成する。好ましくは、セリウム原子は、ナノ粒子内に存在せず、好ましくは、酸化セリウムを含む層は、粒子および/またはナノ粒子を含まない。
【0021】
有利なことに、コーティングされたガラスは耐腐食性があり、風化後の曇りの増加が比較的少ないことがその証拠ある。風化は高湿度、熱、または高温/低温サイクルによって加速され得、試験目的では、所定の期間、高湿度でガラスを高温に保つことによって風化をシミュレートし得る。通常、コーティングされたガラスの測定されたヘイズ(例えばヘイズメーターを使用)は、98%の相対湿度および60℃で50日後に25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%、最も好ましくは5%以下となる。好ましくは、耐腐食コーティングされたガラス基板は、相対湿度98%、60℃で50日経過後に、ヘイズの増加が55%以下、より好ましくは35%以下、最も好ましくは24%以下である。ヘイズの増加は、風化の前後で測定されたヘイズを比較することによって計算し得る。
【0022】
通常、酸化セリウムを含む層の厚さは、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、最も好ましくは30nm以上である。コーティングが薄すぎると、耐久性や効果が十分でない場合があり得る。酸化セリウムを含む層の厚さは、500nm以下、好ましくは250nm以下、より好ましくは100nm以下、最も好ましくは50nm以下であることが好ましい。コーティングが厚すぎると、熱処理または強化処理中にひび割れが生じ得、製造が不経済になり得る。
【0023】
したがって、好ましくは、酸化セリウムを含む層は、1nm~500nm、好ましくは5~250nm、より好ましくは10~100nmの範囲の厚さを有する。このような厚さは、腐食防止、耐久性および生産の経済性の間の良好なバランスを提供するため有利である。
【0024】
酸化セリウムを含む層の屈折率は、通常2.28~2.44の範囲を有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、酸化セリウムを含む層が第1の表面上の唯一の層であることが好ましい。しかし、代替実施形態では、酸化セリウムを含む層と第1の表面との間に下層を設けることが好ましい。好ましくは、下層は、シリコン酸化物を含む。このような下層は、酸化セリウムを含む層の接着性および耐久性を向上させ得る。好ましくは、酸化シリコンを含む下層は、第1の表面上に直接配置される。これによって、基板上のコーティングの接着性および耐久性がさらに向上する。
【0026】
好ましい一実施形態では、シリコン酸化物を含む下層は、第1の表面上に直接配置され、セリウム酸化物を含む層は、シリコン酸化物を含む下層上に直接配置される。この層の配置によって、コーティング層の優れた接着性および耐久性が効率的に得られる。
【0027】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて1~10原子%のセリウムを含み、好ましくは全成分に基づいて2~8原子%のセリウムを含む。このような範囲は、優れた耐腐食性および洗浄性を提供することが示されている。
【0028】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、酸素が準化学量論比未満である。
【0029】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、チタンをさらに含み、好ましくは、酸化セリウムを含む層は、チタンおよびセリウムに基づいて50~95原子%のチタンを含み、より好ましくは、酸化セリウムを含む層は、チタンおよびセリウムに基づいて70~90原子%のチタンを含み、さらに好ましくは、酸化セリウムを含む層は、チタンおよびセリウムに基づいて75~85原子%のチタンを含む。
【0030】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて10原子%未満のシリコンを含み、好ましくは、酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて1原子%未満のシリコンを含み、より好ましくは、酸化セリウムを含む層は、本質的にシリコンを含まない。
【0031】
好ましくは、酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて10原子%未満のアルミニウムを含み、好ましくは、酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて1原子%未満のアルミニウムを含み、より好ましくは、酸化セリウムを含む層は、本質的にアルミニウムを含まない。
【0032】
好ましくは、コーティングされたガラス基板は、30°を超える水接触角、好ましくは50°を超える水接触角、さらに好ましくは60°を超える水接触角を示す。このような水接触角は、良好な洗浄性と関連している。したがって、本明細書によれば、基板は、30°を超える水接触角、好ましくは50°を超える水接触角、さらに好ましくは60°を超える水接触角を示す場合に洗浄可能である。
【0033】
基板は、強化ガラスであることが好ましい。強化ガラス基板は、例えばシャワーまたはバスのスクリーン、および本発明の他の用途において、ユーザーの安全性を高めるため特に有利である。場合によっては、法律を遵守するために強化ガラスの使用が求められ得る。安全上の理由から、基板を強化することが望ましい。基板に少なくとも1つの穴が開けられている場合、基板は、穴を開けた後に強化され得る。
【0034】
ただし、基板は、非強化フロートガラスであり得、コーティングされたガラス基板は、製造業者に供給され、必要に応じて切断および/または強化され得る。基板が非強化フロートガラスである場合、コーティングされたガラス基板は、「熱処理可能」または「強化可能」と呼ばれ得る。
【0035】
基板は、使用時に基板を所定の位置に固定するための固定具を保持するように適合され得る。基板は、少なくとも1つの穴(例えば、1つの穴、2つの穴、3つの穴、4つの穴、または4つ以上の穴)を基板に開けることによって固定具を保持するように適合され得る。
【0036】
基板は、好ましくはエッジ加工されている。
【0037】
本発明の第2の態様によれば、耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板、好ましくは、本発明の第1の態様に記載の耐腐食性コーティングガラス基板、を製造する方法であって、
第1の表面を有するガラス基板を準備するステップと、
セリウムを含むスパッタリングターゲットを準備するステップと、
セリウムを含むスパッタリングターゲットをスパッタリングして、第1の表面上に直接または間接的に酸化セリウムを含む層を提供するステップと、
を含む、方法を提供する。
【0038】
このようなプロセスによって、耐腐食性のコーティングされたガラス基板が提供される。
【0039】
好ましくは、ガラス基板は、ソーダ石灰シリカガラス基板である。あるいは、ホウケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ホウアルミノケイ酸塩などの他のガラス組成物を使用し得る。
【0040】
好ましくは、スパッタリングターゲットは、チタンを含み、好ましくはチタンおよびセリウムに基づいて50~95原子%のチタンを含み、より好ましくは、スパッタリングターゲットは、チタンおよびセリウムに基づいて70~90原子%のチタンを含み、さらに好ましくは、スパッタリングターゲットは、チタンおよびセリウムに基づいて75~85原子%のチタンを含む。スパッタリングターゲットにチタンを含めると、スパッタリングターゲットの導電性が向上し、スパッタリングプロセスの速度が向上する。
【0041】
好ましくは、スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップは、10体積%未満の酸素、好ましくは5体積%未満の酸素、さらに好ましくは1体積%未満の酸素を含む雰囲気中で行われる。当業者は、スパッタリング雰囲気ガスの流量に基づいてスパッタリング雰囲気を評価し得る。好ましくは、スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップは、希ガスを含む雰囲気中で行われ、好ましくは、希ガスは、アルゴンまたはクリプトンである。好ましくは、スパッタリング雰囲気は、50体積%超の希ガスであり、好ましくはアルゴンであり、さらに好ましくは90体積%超の希ガスであり、好ましくはアルゴンである。
【0042】
スパッタリングステップが酸素の少ない雰囲気で行われる場合、コーティングに供給される酸素原子はターゲットから供給され得る。酸素をかなりの割合で含むスパッタリングターゲットは、「セラミック」とみなされ得る。したがって、スパッタリングターゲットは、セラミックスパッタリングターゲットであることが好ましい。
【0043】
好ましくは、スパッタリングステップは、プラズマスパッタリングステップである。プラズマスパッタリング法を用いると、均一な品質の膜が得られ得、膜の密着力も高い。場合によっては、大規模なターゲットを使用し得るため、大きなガラスサイズに膜を作製することが可能である。プラズマスパッタリング法は、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリングを含む。好ましくは、セリウム酸化物を含む層は、マグネトロンスパッタリングによって生成される。まず、ターゲット材が設置されたカソードに電圧を印加し得る適切な量のアルゴンガスおよび必要に応じて酸素ガスを真空チャンバ内に導入する。このとき、カソードから放出された電子がArガスのガス原子と衝突し、それによってArガス原子がArイオンにイオン化する。このとき、アルゴンが励起されて電子が放出され、エネルギーが放出される。そのため、グロー放電が発生する。グロー放電によって、イオンと電子とが共存するプラズマが形成される。プラズマ中のArイオンは大きな電位差によってカソードターゲットに向かって加速し、ターゲットの表面に衝突する。その結果、ターゲット原子は変位して基板に向かって追い出され、コーティング層が形成される。
【0044】
好ましくは、この方法は、スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップの前に表面を洗浄するステップをさらに含む。このようなステップは、コーティング層の耐久性および/または外観を改善し得る。好ましくは、表面の洗浄は、セリアによる研磨、アルカリ水溶液による洗浄、脱イオン水によるすすぎ、およびプラズマ処理のうちの1つ以上を含む。加えて、または代わりに、当業者に知られているような他の洗浄方法を使用し得る。
【0045】
好ましくは、スパッタリングターゲットは円筒形のスパッタリングターゲットである。円筒形のスパッタリングターゲットは、生成されるコーティング層の均一性を向上させるため、および/または繰り返し可能な方法で高品質のコーティングを提供するために使用し得る。
【0046】
基板は、酸化セリウムを含む層を塗布する前に強化され得る。しかしながら、酸化セリウムを含む層を塗布した後に熱処理ステップによって強化されることが最も好ましい。したがって、好ましくは、このプロセスは、スパッタリングターゲットをスパッタリングするステップの後に、ソーダ石灰シリカガラス基板を熱処理するステップをさらに含み、好ましくは、ソーダ石灰シリカガラス基板を熱処理するステップは、ソーダ石灰シリカガラス基板を少なくとも600℃で少なくとも5分間加熱することを含む。
【0047】
本発明者らは、本方法によって製造された酸化セリウムを含む層は、熱処理後の透明性、ヘイズ、耐久性の変化が最小限であることからわかるように、大きな損傷を受けないため、このような熱処理に適していることを発見した。そのため、酸化セリウムを含む層は「熱処理可能」であると考えられる。これは、ガラス製造業者がコーティングを大規模に塗布し、その後、バススクリーン、シャワースクリーンなどの製造業者の必要に応じて切断して強化できるため、非常に有益である。したがって、製造業者の処理手順を変更することなく、高品質の耐腐食性コーティングを製造業者に提供し得る。
【0048】
上記のように、いくつかの実施形態では、耐腐食性コーティングされたガラス基板は、酸化セリウムを含む層と第1の表面との間に下層を備え得、好ましくは、下層は酸化シリコンを含む。コーティングされたガラス基板が下層を備える場合、これは、酸化セリウムを含む層のコーティング方法と同じかまたは異なるコーティング方法によって形成され得る。
【0049】
一実施形態では、下層、好ましくは、シリコン酸化物下層は、スパッタリング法によって製造され、酸化セリウムを含む層はス、パッタリング法によって製造される。これによって、高品質の製品を得ることが可能になる。当業者は、スパッタリングによって下層などの層を設ける方法について既知である。
【0050】
別の実施形態では、下層、好ましくはシリコン酸化物下層は、フロートプロセス中に化学蒸着法、好ましくは「オンライン」化学蒸着法によって生成され、酸化セリウムを含む層はスパッタリング法によって生成される。これによって、製品の製造速度を向上させ得る。熱分解堆積としても知られる化学蒸着法を使用したシリコン酸化物層の堆積は、本明細書に参照として組み込まれている米国特許出願公開第2018118613号に開示されているように実行され得る。通常、下層の熱分解堆積は、シリコン源、酸素源、および必要に応じてラジカルスカベンジャーを含む前駆体混合物と基板の表面を接触させることを含む。シリコン源は、例えばシリコンアルコキシド(例えばテトラエチルオルトシリケート、TEOS)および/またはシリコンハロゲン化物(例えばシリコン塩化物)などの酸素化シリコン化合物を含み得る。しかしながら、好ましくは、シリコン源は、シラン、より好ましくはモノシラン、SiHを含む。シリコン酸化物の熱分解堆積は、周知のフロートガラス製造プロセスにおけるガラス基板の製造と組み合わせて有利に実施され得る。化学蒸着法で製造されたシリコン酸化物下層は、スパッタリング法で製造されたシリコン酸化物下層と比較して、コーティングの耐久性が向上することがわかった。さらに、セリウム酸化物を含むコーティングの測定された水接触角は、スパッタリング法で製造されたシリコン酸化物を含む下層を有するセリウム酸化物を含むコーティングと比較して、化学蒸着法で製造されたシリコン酸化物を含む下層を用いて改善された。
【0051】
いくつかの実施形態では、下層は、液体コーティング前駆体、好ましくはシラザン、好ましくはポリシラザン、またはオルトケイ酸塩、好ましくはテトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)を含む液体コーティング前駆体を塗布することによって第1の表面に適用され得る。ポリシラザンを含む液体コーティング前駆体から下層を製造する方法は、例えば、本明細書に参照として組み込まれる国際公開第2017187173号に開示されている。液体コーティング前駆体を表面に塗布する方法は通常重要ではなく、さまざまな技術を使用し得る。表面をコーティング組成物と接触させる方法は、例えば、ディップコーティング、スピンコーティング、ローラーコーティング、スプレーコーティング、空気噴霧スプレー、超音波スプレー、および/またはスロットダイコーティングから選択される方法を含み得る。好ましくは、液体コーティング前駆体は、塗布後に硬化されてコーティングを形成する。
【0052】
本発明の第3の態様によれば、ガラス基板上の耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングとしての酸化セリウムを含む層の使用であって、
ガラス基板は、第1の表面を備え、
酸化セリウムを含む層は、第1の表面上に直接または間接的に存在し、
酸化セリウムを含む層は、第1の表面上の最外層であり、
酸化セリウムを含む層は、全成分に基づいて0.5~20原子%のセリウムを含む、使用を提供する。
【0053】
好ましくは、ガラス基板は、ソーダ石灰シリカガラス基板である。あるいは、ホウケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、ホウアルミノケイ酸塩などの他のガラス組成物を使用し得る。
【0054】
本発明の第4の態様によれば、第1の態様に従ってまたは第2の態様に従って製造された耐腐食性および/または洗浄可能なコーティングされたガラス基板を含むバススクリーン、シャワースクリーンおよび/またはスプラッシュスクリーンが提供される。
【0055】
好ましくは、バススクリーンおよび/またはシャワースクリーンは、バススクリーンおよび/またはシャワースクリーンを使用位置に固定するための固定具をさらに備える。通常、固定具は、固定具をスプラッシュスクリーンに取り付けるための接着部分または機械的取り付け部分を備える。このような固定具には、ヒンジ固定具が含まれ得る。固定具は、接着(例えば、スプラッシュスクリーンの少なくとも1つの表面および固定具に接着パッドを取り付ける)および/または機械的取り付け(例えば、ボルト)によってスプラッシュスクリーンに取り付けられ得る。このとき、スプラッシュスクリーンの穴を貫通するかまたは穴に取り付けられる。このような穴は、ドリルで開けた穴であり得る。
【0056】
当業者であれば、本発明の態様の任意または好ましい特徴が、その必要性および要件に応じて他の態様にも適用できることを理解するであろう。
【0057】
下記、本発明を、添付の図面を参照して、例示のみを目的として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明の一実施形態に係るコーティングされた基板を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る下層を備えるコーティングされた基板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1は、第1の表面21を有するソーダ石灰シリカガラス2の基板と第1の表面21上に直接形成された酸化セリウムを含む層3とを備えるコーティングされたガラス基板1を概略的に図示しており、酸化セリウムを含む層3は、第1の表面21上の最外層である。
【0060】
図2は、第1の表面21を有するソーダ石灰シリカガラス2の基板と第1の表面21上に間接的に設けられる酸化セリウムを含む層3とを備えるコーティングされたガラス基板1を概略的に図示しており、酸化セリウムを含む層3は、第1の表面21上の最外層であり、酸化セリウムを含む層3と第1の表面21との間に下層4をさらに備え、下層4は、第1の表面21上に直接設けられている。好ましくは、下層4は、酸化シリコンを含む。
【実施例
【0061】
本発明は、下記の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明による実施例を、65重量%のTiOおよび35重量%のCeO(セリウムおよびチタンを基準にすると80.0原子%のチタンおよび20.0原子%のセリウムに相当し、全成分を基準にすると26.7原子%のチタン、6.7原子%のセリウム、および66.7原子%の酸素に相当)を含む、長さ23インチおよび直径5.914インチの、回転可能なセラミックターゲットをスパッタリングすることによって調製した。セリウム、チタン、および酸素CeTiOを含む層を形成した。
【0063】
実施例1から3を、CeTiOを含む層をソーダ石灰シリカガラス基板上に直接スパッタリングすることによって調製し、実施例4から6を、CeTiOを含む層を、シリコン酸化物を含む下層上にスパッタリングすることによって製造した。これらの実施例では、シリコン酸化物を含む下層は、厚さ20~30nmの化学蒸着法を使用して調製した。
【0064】
実施例および比較例を熱処理にかけた場合、これは650℃の温度で5分間であった。
【0065】
(実施例の説明)
コーティングされた基板を、光学特性(ISO 9050準拠)、水接触角(50μlの脱イオン水滴)、および湿度による腐食に対する耐性について試験した。
【0066】
表1は、堆積後(AD)、熱処理後および大気中で2週間のエージング(HT 2週間)、ならびに熱処理後および大気中で3週間のエージング(HT 3週間)後に測定された10x10cmのサンプルの平均水接触角(n=5)を示す。水接触角は、FTA32ソフトウェアを搭載したFTA200を使用して脱イオン水を用いて測定した。これらは両方とも米国カリフォルニア州ニューアークのFirst Ten Angstromsから入手可能である。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、未処理ガラスが25°の水接触角を有するのと比較して、CeTiOを使用すると、驚くほど高い60°を超える水接触角を有する基板が得られることがわかり得る。高い水接触角は、洗浄性の向上につながる。このように、本発明のコーティングを適用することによって、洗浄可能な基板が製造される。
【0069】
実際、わずか10nmの厚さのコーティングを用いて高い水接触角が得られ得、これは、驚くほど長持ちする。一方、50nmのCeTiOコーティングでは驚くほど高い水接触角のコーティングが得られ、このようなコーティングのエージング性能は、シリコン酸化物下層の存在によって著しく向上する。同様に、25nmのCeTiOコーティングのエージング性能は、シリコン酸化物下層の存在によって向上する。
【0070】
したがって、シリコン酸化物下層が望ましい実施形態では、CeTiO層の厚さは、10nmより大きく、好ましくは25nm以上、より好ましくは50nm以上、例えば10nm~500nm、好ましくは25nm~250nm、より好ましくは50nm~100nmであることが望ましい。水接触角はエージングとともに安定した値まで増加することが確認された。
【0071】
実施例および比較例は、アルカリ腐食試験にかけられ、熱処理されたサンプルは、1MのNaOHに23℃で2時間浸漬された。ヘイズの変化を、表2に示すようにASTM D1003に従って評価し(BYK Gardner Haze-gard plus)、透過率の変化を表3に示すように評価した。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表2は、測定したすべてのサンプルが、試験開始時およびアルカリ腐食試験後の両方で非常に低いヘイズを示し、CeTiOコーティングによる優れた耐腐食性を示していることを示す。同様に、表3は、CeTiOコーティングの厚さが増すと透過率が低下するが、しかしシリコン酸化物下層の存在によって透過率が増加するかまたはわずかに低下するだけであることを示す。アルカリ腐食試験による透過率の変化は、ごくわずかである。
【0075】
実施例および比較例は、酸腐食試験にかけられ、熱処理されたサンプルは、1MのHClに23℃で2時間浸漬された。ヘイズの変化を、表2に示すようにASTM D1003に従って評価し(BYK Gardner Haze-gard plus)、透過率の変化を表3に示すように評価した。
【0076】
【表4】
【0077】
表4は、測定したすべてのサンプルが、試験開始時および酸腐食試験後の両方で極めて低いヘイズを示し、CeTiOコーティングによる優れた耐腐食性を示していることを示す。
【0078】
【表5】
【0079】
表5は、酸腐食試験による透過率の変化が無視できる程度であることを示す。
【0080】
したがって、CeTiOコーティングは、優れた洗浄性および優れた耐腐食性を備えた熱処理コーティングガラス基板の製造に使用され得る。さらに、コーティングされたガラス基板は熱処理に非常によく反応するため、熱処理可能なコーティングガラス基板が提供され、これを熱処理して、優れた洗浄性と優れた耐腐食性を備えた熱処理コーティングガラス基板を製造し得る。
図1
図2
【国際調査報告】