(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】エチレンを1,2-ジクロロエタンにオキシ塩素化するための触媒及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/78 20060101AFI20250117BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20250117BHJP
B01J 35/40 20240101ALI20250117BHJP
C07C 17/02 20060101ALI20250117BHJP
C07C 19/045 20060101ALI20250117BHJP
C07C 17/08 20060101ALN20250117BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
B01J23/78 M
B01J35/61
B01J35/40
C07C17/02
C07C19/045
C07C17/08
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542148
(86)(22)【出願日】2023-01-19
(85)【翻訳文提出日】2024-09-06
(86)【国際出願番号】 US2023011116
(87)【国際公開番号】W WO2023141191
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョンラク
(72)【発明者】
【氏名】ザクゼスキー,ジョセフ,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パルフレスク,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ビショフ,ハンネス
(72)【発明者】
【氏名】トムパース,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】クレマー,キース
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB08C
4G169BB10C
4G169BB16C
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC08A
4G169BC10A
4G169BC10B
4G169BC31A
4G169BC31B
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4G169BC51B
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4G169CB26
4G169CB68
4G169DA08
4G169EA02X
4G169EA04X
4G169EA06
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02X
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169EC06Y
4G169EC22X
4G169FB13
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC30
4H006BA05
4H006BA06
4H006BA10
4H006BA55
4H006BA60
4H006BC10
4H006BC40
4H006BE01
4H006BE30
4H006EA02
4H039CA52
4H039CF10
(57)【要約】
高いエチレン転化率、高いジクロロエタン選択率及び高い粗純度を提供することができる、エチレンのジクロロエタン(DCE)へのオキシ塩素化のための触媒組成物が開示されている。また、触媒組成物の調製方法及び使用方法も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体、及び
前記担体上の触媒金属化合物
を含む触媒組成物であって、
前記触媒金属化合物が銅化合物及びジルコニウム化合物を含み、
前記担体が約50m
2/g~約250m
2/gのBET表面積を有する、触媒組成物。
【請求項2】
前記担体がアルミナを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記担体がガンマアルミナを含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記触媒金属化合物が前記担体に含侵されている、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記触媒金属化合物が前記担体に吸着されている、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記銅化合物が銅塩を含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記銅塩が塩化銅、硝酸銅、臭素酸銅、炭酸銅、硫酸銅及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記触媒金属化合物が、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物をさらに含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物がマグネシウム塩を含む、請求項8に記載の触媒組成物。
【請求項10】
前記マグネシウム塩が、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、臭素酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の触媒組成物。
【請求項11】
前記ジルコニウム化合物がジルコニウム塩を含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項12】
前記ジルコニウム塩が、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の触媒組成物。
【請求項13】
前記触媒組成物の総質量に基づいて約1.0質量%~約10.0質量%の銅金属を含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項14】
前記触媒金属化合物が、前記触媒組成物の総質量に基づいて約0.5質量%~約5.0質量%のマグネシウム金属をさらに含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項15】
前記触媒組成物の総質量に基づいて約0.1質量%~約3.0質量%のジルコニウム金属を含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項16】
前記触媒組成物が、約200℃~約250℃の温度で塩酸、エチレン及び酸素と接触させた場合に、約95モル%~約99.9モル%のエチレンジクロリド選択率を有する、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項17】
前記触媒組成物が、エチレンのオキシ塩素化に使用した場合に、約99.2質量%~約99.9質量%のジクロロエタン粗純度を提供する、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項18】
前記担体が、複数の粒子、顆粒、球体、錠剤又は押出成形物の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項19】
前記担体が、(a)約90~約100体積%の粒子が約150μm未満であり;(b)約50~約60体積%の粒子が約75μm未満であり;そして(c)約20~約35体積%の粒子が約45μm未満である粒径分布を有し、粒径分布が、Malvern Instrumentsのレーザー回折分析装置によって約20℃~約25℃及び約1atmで測定され、ここで、マグネチックスターラーを用いて、前記担体のサンプル5gを100mLの脱イオン水に1分間分散させて懸濁液を形成し、4mLの懸濁液を130mLの脱イオン水で希釈し、前記分析装置を用いて2500回転/分で分析する、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項20】
シリカを含まない、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項21】
前記担体が活性化されていないか、又は前記担体が活性化アルミナを含まない、請求項1又は2に記載の触媒組成物。
【請求項22】
担体、及び
前記担体上の触媒金属化合物
を含む触媒組成物であって、
前記触媒金属化合物が銅化合物及びジルコニウム化合物を含み、
前記担体が、(a)約90~約100体積%の粒子が約150μm未満であり;(b)約50~約60体積%の粒子が約75μm未満であり;そして(c)約20~約35体積%の粒子が約45μm未満である粒径分布を有し、粒径分布が、Malvern Instrumentsのレーザー回折分析装置によって約20℃~約25℃及び約1atmで測定され、ここで、マグネチックスターラーを用いて、前記担体のサンプル5gを100mLの脱イオン水に1分間分散させて懸濁液を形成し、4mLの懸濁液を130mLの脱イオン水で希釈し、前記分析装置を用いて2500回転/分で分析する、触媒組成物。
【請求項23】
前記担体がアルミナを含む、請求項22に記載の触媒組成物。
【請求項24】
前記担体がガンマアルミナを含む、請求項23に記載の触媒組成物。
【請求項25】
前記触媒金属化合物が前記担体に含侵されている、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項26】
前記触媒金属化合物が前記担体に吸着されている、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項27】
前記銅化合物が銅塩を含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項28】
前記銅塩が塩化銅、硝酸銅、臭素酸銅、炭酸銅、硫酸銅及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項27に記載の触媒組成物。
【請求項29】
前記触媒金属化合物が、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物をさらに含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項30】
前記少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物がマグネシウム塩を含む、請求項29に記載の触媒組成物。
【請求項31】
前記マグネシウム塩が、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、臭素酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項30に記載の触媒組成物。
【請求項32】
前記ジルコニウム化合物がジルコニウム塩を含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項33】
前記ジルコニウム塩が、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項32に記載の触媒組成物。
【請求項34】
前記触媒組成物の総質量に基づいて約1.0質量%~約10.0質量%の銅金属を含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項35】
前記触媒組成物の総質量に基づいて約0.5質量%~約5.0質量%のマグネシウム金属を含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項36】
前記触媒組成物の総質量に基づいて約0.1質量%~約3.0質量%のジルコニウム金属を含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項37】
前記触媒組成物が、約200℃~約250℃の温度で塩酸、エチレン及び酸素と接触させた場合に、約95モル%~約99.9モル%のエチレンジクロリド選択率を有する、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項38】
前記触媒組成物が、エチレンのオキシ塩素化に使用した場合に、約99.20質量%~約99.80質量%のジクロロエタン粗純度を提供する、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項39】
前記担体が、複数の粒子、顆粒、球体、錠剤又は押出成形物の少なくとも1つを含む、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項40】
シリカを含まない、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項41】
前記担体が活性化されていないか、又は前記担体が活性化アルミナを含まない、請求項22又は23に記載の触媒組成物。
【請求項42】
銅化合物、及びジルコニウムを含む少なくとも1種の化合物を、約20℃~約80℃の温度で攪拌しながら溶媒に溶解して、溶液を形成する工程と;
前記溶液を約50m
2/g~約250m
2/gのBET表面積を含む担体上に投与する工程であって、前記担体が約50回転/分(rpm)~約150rpmで回転される、工程と;
遊離水を除去するために、コーティングされた担体を約75℃~約180℃の温度で約1時間~約20時間乾燥させて、触媒組成物を生成する工程と
を含む、触媒組成物を製造する方法。
【請求項43】
前記銅化合物が銅塩を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記銅塩が塩化銅、硝酸銅、臭素酸銅、炭酸銅、硫酸銅及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
触媒金属化合物が、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物をさらに含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項46】
マグネシウム化合物がマグネシウム塩を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記マグネシウム塩が、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、臭素酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
ジルコニウム化合物がジルコニウム塩を含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項49】
前記ジルコニウム塩が、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記溶媒が、脱イオン水、アルコール、イソプロピルアルコール、酢酸、塩酸、鉱酸、硝酸及び硫酸からなる群から選択される、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項51】
前記担体がアルミナを含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項52】
前記担体がガンマアルミナを含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項53】
前記担体が、複数の粒子、顆粒、球体、錠剤又は押出成形物の少なくとも1つを含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項54】
撹拌が約200rpm~約700rpmでの撹拌を含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項55】
溶解が約30℃~約70℃の温度で行われる、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項56】
溶液を投与することが、前記担体を含有する容器に前記溶液を滴下添加することを含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項57】
前記コーティングされた担体が、その中に含浸されるか又はその上に吸着された銅化合物、マグネシウム化合物及びジルコニウム化合物を含む、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項58】
投与中、前記担体がタンブラー内にある、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項59】
前記担体が、5秒当たり約1回転~5秒当たり約5回転で回転される、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項60】
前記担体が、(a)約90~約100体積%の粒子が約150μm未満であり;(b)約50~約60体積%の粒子が約75μm未満であり;そして(c)約20~約35体積%の粒子が約45μm未満である粒径分布を有し、粒径分布が、Malvern Instrumentsのレーザー回折分析装置によって約20℃~約25℃及び約1atmで測定され、ここで、マグネチックスターラーを用いて、前記担体のサンプル5gを100mLの脱イオン水に1分間分散させて懸濁液を形成し、4mLの懸濁液を130mLの脱イオン水で希釈し、前記分析装置を用いて2500回転/分で分析する、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項61】
前記触媒組成物がシリカを含まない、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項62】
前記担体が活性化されていないか、又は前記担体が活性化アルミナを含まない、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項63】
触媒組成物の存在下で、オキシ塩素化プロセスを用いてエチレンをジクロロエタンに変換すること
を含む、請求項1又は2に記載の触媒組成物を使用する方法。
【請求項64】
約200℃~約250℃の温度で塩酸、エチレン及び酸素と接触させた場合に、約95モル%~約99.9モル%のエチレンジクロリド選択率を提供する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
オキシ塩素化プロセスに使用した場合に、約99.2質量%~約99.9質量%のジクロロエタン粗純度を提供する、請求項63に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年1月19日に出願された米国仮特許出願第63/300,870号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、高いエチレン転化率、高いジクロロエタン選択率、及び高いDCE粗純度を提供できる、エチレンを1,2-ジクロロエタン(DCE)にオキシ塩素化するための触媒に関する。本開示はまた、このような触媒の調製方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
1,2-ジクロロエタンを製造するための最も一般的な方法は、エチレンを塩酸(HCl)と酸素(又は酸素含有ガス)で転化して、1,2-ジクロロエタンと水を生成するエチレンのオキシ塩素化である。この反応では、固定床と流動床プロセスが開発され、現在使用されている。この反応に基づく様々なプロセスは、空気、又は多かれ少なかれ純酸素のような酸素富化ガスを使用して行われる。後者は、少量の不純物、例えばAr、N2、CO、CO2などを含むことができる。
【0004】
固定床反応器を使用するプロセスでは、チューブ内に局所的なホットスポットが存在するため、固定床の温度制御が困難である。流動床オキシ塩素化反応器を使用するプロセスでは、反応器内で特定の触媒を使用すると、特に比較的低温又は高いHCl分圧で触媒が固着することがあり、その結果、触媒粒子が凝集して触媒の流動性が失われ、サイクロンが詰まることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い活性(低い反応温度を可能にする)、優れたDCE選択率、及び特に高いDCE粗純度(望ましくない塩素化副生成物の低い選択率)を提供する、エチレンをDCEにオキシ塩素化するための触媒を提供することである。このような触媒が流動床プロセスにおいて粉末の形態で使用される場合、さらなる目的は、触媒を工業的条件下で最小限の固着リスクで運転できることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、本明細書に記載されるのは、担体、及び担体上の触媒金属化合物を含む触媒組成物である。触媒金属化合物は、銅化合物;及びジルコニウム化合物を含むことができ、担体は、約50m2/g~約250m2/gのBET表面積を有する。
【0007】
さらなる実施形態によれば、本明細書に記載されるのは、(a)銅化合物、及び(b)ジルコニウム化合物を、攪拌しながら、約20℃~約80℃の温度で溶媒に溶解して溶液を形成する工程;この溶液を、約50m2/g~約250m2/gのBET表面積を有する担体上に投与する工程であって、支持体が毎分約50回転(rpm)~約150rpmで回転される工程;及びコーティングされた担体を約75℃~約180℃の温度で約1時間~約20時間乾燥させて遊離水を除去する工程を含む、触媒組成物を製造する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
以下に記載する図面は、説明のためのものである。図面は、本開示の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【
図1】
図1は、約220~240℃の温度で測定した場合の、比較用触媒(比較例1~4)に対する本発明による触媒(実施例1~5)のDCE選択率を示すチャートである。
【
図2】
図2は、約220~240℃の温度で測定した場合の、比較用触媒(比較例1~4)に対する本発明による触媒(実施例1~5)の塩素副生成物に対する選択率を示すチャートである。
【
図3】
図3は、約220~240℃の温度で測定した場合の、比較用触媒(比較例1~4)に対する本発明による触媒(実施例1~5)のDCE純度を示すチャートである。
【
図4】
図4は、約220~240℃の温度で測定した場合の、比較用触媒(比較例1~4)に対する本発明による触媒(実施例1~5)のエチレン転化率を示すチャートである。
【
図5】
図5は、約220~240℃の温度で測定した場合の、比較用触媒(比較例1~4)に対する本発明による触媒(実施例1~5)の塩酸転化率を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書には、エチレンを1,2-ジクロロエタン(DCE)にオキシ塩素化するのに使用するための触媒組成物及びその製造方法が記載される。実施形態によれば、触媒組成物は、銅化合物、マグネシウムを含むアルカリ土類金属化合物、及びジルコニウムを含む遷移金属化合物を含む。驚くべきことに、高いエチレン転化率で塩素化副生成物に対する選択性が低下するため、DCE生成物の純度を向上させることが可能である、エチレンのDCEへのオキシ塩素化のための触媒を得ることが可能であることが見出された。
【0010】
空気が酸素含有ガスとして使用される場合、工業プロセスはしばしば、反応器流出液(effluent)の一部を反応器入口に送るリサイクル流がない、シングルパスモードで運転される。その場合、空気を使用する場合、エチレンと塩化水素は通常、ほぼ化学量論比で反応器に供給され、エチレンと塩化水素の両方をほぼ完全に転化することができる。実際には、反応器流出液中の転化されていない塩化水の素レベルを最小化するために、通常、エチレンをわずかに過剰に供給する。酸素含有ガスとして多かれ少なかれ純酸素が使用される場合、一般に、エチレンと塩化水素の比率は非常に異なって反応器に供給される。典型的には、エチレンは非常に過剰に供給され、塩化水素はほぼ完全に転化されるが、エチレンは部分的にしか転化されない。EDC、塩化水素、一部の水及び副生成物を分離した後、パージ流を除去した後の残りのガス流を反応器にリサイクルする。このリサイクルプロセスでは、エチレンの1パスあたりの転化率は通常かなり低く保たれる(例えば、約90%未満から約96%未満)。
【0011】
オキシ塩素化プロセスに使用される触媒は、有効成分として塩化銅を含有することができる。活性、選択性及び/又は操作性を改善するために、さらなる促進剤を触媒製剤に導入することができる。最も一般的に使用されるのは、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化セシウム及び/又は希土類塩化物である。活性銅種及び促進剤は、珪藻土、粘土、フラー土、シリカ又はアルミナなどの高表面積の担体上に堆積させることができる。一般に、銅及び促進剤は、すべての金属を塩化物の形態で含有する溶液によって担体に含浸される。場合によっては、成分を担体と共沈させることもある。
【0012】
固定床反応器では、触媒は上下のチューブシートに保持された垂直合金チューブに充填される。固定床触媒は通常、小粒のペレット、顆粒、円筒、又は中空円筒(リング)などの成形体である。各チューブ内の圧力損失、流動、大尾滞留時間を均一にするためには、チューブ内に触媒を均一に充填することが重要である。好適な触媒の形状及びサイズは、使用する反応器によって異なる。しかしながら、固定床では、チューブ内に局所的なホットスポットが発生するため、温度制御は依然として困難である。
【0013】
ホットスポットの形成を最小化するため、不活性希釈剤は、入口では触媒活性が低く、出口では触媒活性が最大になるように、チューブの長さに沿って異なる割合で触媒ペレットと混合される。別の方法として、チューブの長さに沿って活性勾配を形成するように、銅化合物の担持量を徐々に高くなる触媒をチューブに充填する。
【0014】
固定床オキシ塩素化では、直列に接続された複数の反応器も使用され、これは主に、空気又は酸素の供給を段階的に行うことにより熱放出を制御するためである。それぞれの連続した反応器には、塩化銅の担持量が徐々に高くなる触媒が含まれることもある。一般に、固定床オキシ塩素化は、より高い温度(230~300℃)とゲージ圧(150~1400kPa)で運転される。固定床反応器は、触媒床のファウリング又はコーキングにより触媒寿命に限りがあるため、定期的な触媒の完全交換が必要となる。
【0015】
流動床オキシ塩素化反応器は典型的に、良好な流動化及び供給分布を提供するように設計された支持グリッド及び供給スパージャーシステムを備えた縦型円筒容器である。流動床触媒は、約20ミクロン~約200ミクロンの範囲の粒径を有する微粉末である。運転中の触媒キャリーオーバーは内部又は外部サイクロンで回収され、反応熱は内部冷却コイルで除去される。
【0016】
固定床プロセスと比較して、流動床は輸送特性が向上するため、反応器全体に均一な温度分布が得られ、より低い圧力及び温度で運転することができる。流動床反応器の典型的な運転温度及びゲージ圧は、それぞれ220~245℃及び150~500kPaである。市販の流動床反応器は、99.5~99.8%のHCl転化率で運転することができる。1,2-ジクロロエタンの選択率は典型的に96~97.5%である。
【0017】
固定床反応器とは対照的に、一部の触媒を使用した流動床反応器では、特に比較的低温又は高い塩酸分圧で触媒の固着に悩まされることがあり、その結果、触媒粒子が凝集して触媒の流動性が失われ、サイクロンが詰まったことをもたらす。このような触媒の固着は、生産プラントに大きな経済的損害を与えるため、あらゆる手段で回避しなければならない。触媒の固着は、不適切な運転条件又は触媒自体の特性によって引き起こされる。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属、例えばカリウム及びマグネシウムを触媒性剤に添加することは、触媒の固着に対する耐性が向上することが知られている。
【0018】
オキシ塩素化プロセスで生成される副生成物は、炭素酸化物(CO+CO2)及び塩素化炭化水素である。これらの塩素化副生成物のうち、1,1,2-トリクロロエタン、コラール、エチルクロリド、クロロホルム及び四塩化炭素が最も一般的である。一般に、炭素酸化物及び塩素化副生成物に対する選択性は、運転温度が上昇するにつれて高くなる。すべての副生成物はエチレン効率の低下につながるため、エチレンのオキシ塩素化におけるこれらの副生成物に対する選択性を最小限に抑えなければならない。CO及びCO2はDCE生成物から容易に分離されるため、製品の品質に悪影響を与えることはないが、重塩素化有機副生成物は容易に分離されない。これらの重塩素化有機副生成物は有害である可能性があり、DCE製品中に存在するとDCE製品の品質と価値を低下させる。
【0019】
本発明は、以下の説明に記載されている構造又はプロセス工程の詳細に限定されるものではないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で行われる又は実施されることが可能である。
【0020】
本明細書全体を通して「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」又は「実施形態」に言及することは、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、材料、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な箇所で「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、又は「実施形態において」といった表現が現れるのは、必ずしも本発明の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0021】
本明細書で使用する場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「触媒材料」への言及は、単一の触媒材料だけでなく、2つ以上の異なる触媒材料の混合物も含む。
【0022】
本明細書で使用する場合、測定された量に関連する「約」という用語は、当業者が測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度に見合った注意レベルを行使する際に予想されるその測定された量の通常の変動を指す。特定の実施形態において、「約」という用語は記載された数値±±10%を含み、例えば、「約10」が9~11を含む。
【0023】
測定された量に関連する「少なくとも約」という用語は、当業者が測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度に見合った注意レベルを行使する際に予想される測定された量の通常の変動及びそれよりも高い量を指す。特定の実施形態において、「少なくとも約」という用語は記載された数から10%を引いた数及びそれより大きい量を含み、例えば、「少なくとも約10」が9及び9を超えるものを含む。この用語は、「約10以上」と表現することもできる。同様に、「約未満」という用語は、典型的には、記載された数に10%を加えた数及びより低い量を含み、例えば、「約10未満」が11及び11未満のものを含む。この用語は、「約10以下」と表現することもできる。
【0024】
特に明記しない限り、すべての部及び%は質量によるものである。質量パーセント(質量%)は、特に明記しない場合、組成物全体に基づくものである。
【0025】
本明細書における開示は、特定の実施形態を参照しているが、これらの実施形態は、本発明の原理及び適用を単に例示するものであることを理解されたい。当業者には、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、組成物及び方法に様々な修正及び変形を加えることができることが明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物の範囲内にある変更及び変形を含むことが意図される。
【0026】
触媒組成物
本明細書に記載の触媒組成物は、高いエチレン及びHCl転化率を達成しながら、DCE選択率及び製品純度を向上させる。特に、望ましくない重塩素化副生成物の量が少ないため、精製コストを低減し、環境を保護しながら、製品の品質及び価値が向上する。いくつかの実施形態において、本明細書の実施形態による触媒組成物は、約200℃~約250℃の温度で塩酸、エチレン及び酸素と接触させた場合に、約95モル%~約99.9モル%のエチレンジクロリド選択率を有する。
【0027】
1つ以上の実施形態によれば、本明細書に記載の触媒組成物は担体材料を用いる。流動床触媒の場合、金属は、例えば高表面積担体などの担体上に堆積させることができる。高表面積担体を使用する理由の一つは、金属を広い面積に分散させることができるため、触媒の固着を低減させることである。
【0028】
高表面積担体の例としては、シリカ、マグネシア、ケイソウ土、粘土、フラー土、アルミナ、ゼオライト又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。1つ以上の実施形態によれば、担体は、例えば、流動可能な担体に適した、粒子、顆粒及び/又は球体(例えば、非晶質又はコロイド形態のアルミナ微小球又はナノ球)を含む高表面積粉末(例えば、ガンマ、デルタ又はシータアルミナ粉末)であり得、本明細書において「担体」と呼ばれる。実施形態において、アルミナ担体は、水和又はヒドロキシル化前駆体アルミナの焼成によって生成される活性化アルミナ又は遷移アルミナであり得る。これらの活性化アルミナは、X線回折パターンによって観察可能な秩序構造によって同定することができ、この秩序構造は、低表面積又は結晶相αアルミナを最小又は全く含有しない混合相材料を示す。いくつかの実施形態において、担体は、固定床反応器に適した形態であってよく、錠剤及び/又は押出物の形態であってよい。例えば、錠剤又は押出物は、上記のように、圧縮又は押出された粒子、顆粒及び/又は球体で形成することができる。錠剤及び/又は押出物は、約1mm~約100mm、又はこの範囲内の任意の好適な値又はサブ範囲の断面寸法を有することができる。
【0029】
アルファアルミナは、X線回折によって定義された結晶相によって同定される。高表面積の活性化アルミナは、遷移アルミナとして定義されることが多いが、相転移は、所望の担体表面積を達成するために選択された焼成温度に基づいて、ガンマ相、デルタ相及びシータ相(これらに限定されない)などの複数の混合相の割合が変化する連続体であり得る。実施形態によれば、ガンマアルミナ担体を使用することができる。実施形態において、ガンマアルミナ担体は、少なくとも約95%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%、又は少なくとも約99.995%のガンマ相、及び約50m2/g~約250m2/g、又は約70m2/g~約225m2/g、又は約100m2/g~約215m2/g、又は約150m2/g~約205m2/gの表面積を有する粉末である。実施形態によれば、担体(例えば、ガンマアルミナ粉末)は、金属負荷を適切に分散させ、固着の傾向を低減するために、少なくとも約80m2/gの表面積を有する。以下、触媒を流動化可能なアルミナ担体(例えば、ガンマアルミナ粉末)の観点から説明する。これは例示的なものであり、限定的なものではない。
【0030】
実施形態によれば、アルミナ担体材料は、約0.5g/cm3~約4.0g/cm3、又は約0.75g/cm3~約3.0g/cm3、又は約1.0g/cm3~約2.0g/cm3、又は約0.7g/cm3~約1.3g/cm3、又は約3.65g/cm3の圧縮嵩密度を有する。流動化可能なアルミナ担体材料は、約0.1cm3/g~約2cm3/g、又は約0.2cm3/g~約1cm3/g、又は約0.3cm3/g~約0.75cm3/gの細孔容積を有することができる。実施形態によれば、流動化可能なアルミナ担体材料は、(a)約90~約100体積%の粒子の直径が約150μm未満、又は約140μm未満、又は約125μm未満、又は約110μm未満であり;(b)約50~約60体積%の粒子が、約75μm未満、又は約70μm未満、又は約65μm未満、又は約60μm未満であり;そして(c)約20~約35体積%の粒子が、約45μm未満、又は約40μm未満、又は約35μm未満、又は約30μm未満である粒径分布を有することができる。粒径分布は、Malvern Instruments,Ltd.のFraunhoferレーザー回折(光散乱)分析装置によって測定され、ここで、室温(約20℃~約25℃)及び大気圧(約1atm)で、マグネチックスターラーを用いて、材料のサンプル5gを100mLの脱イオン水に1分間分散させて懸濁液を形成し、4mLの懸濁液を130mLの脱イオン水で希釈し、分析装置を用いて2500回転/分(室温及び大気圧)で分析する。このようなアルミナ担体材料は、容易に流動化でき、比較的安定で、機械的に強く、摩耗に耐性がある。担体として有用なアルミナは、例えばSasol製品のPuralox(登録商標)SCCa-57/170及びCatalox(登録商標)SCCa-25/200高純度活性化アルミナである。
【0031】
さらに、アルミナ担体は、完成した触媒が使用されるようになった後の活性化アルミナ相の望ましくない変化を防止するために、当該技術分野における任意の手段によって安定化することができる。このような安定化成分の例としては、活性触媒製剤の含浸前にアルミナ担体全体に分散される微量成分として、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ケイ素(Si)などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、アルミナ担体には、約0.005質量%~約0.50質量%、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、1種以上の安定化成分を含むことができる。
【0032】
一部のアルミナ担体材料は、酸化アルミニウム(Al2O3)に加えて、金属酸化物のような他の金属の少量の不純物、例えば、約0.02質量%未満の酸化ナトリウム、約0.05質量%未満の酸化鉄(Fe2O3)、約0.3質量%未満の二酸化チタン、約0.2質量%未満の二酸化ケイ素などを含有してもよいことが認識されている。Ti化合物は、アルミナの物理化学的特性に大きな影響を及ぼすことなく、アルミナ製造プロセスから意図せずにアルミナ中に残存する可能性がある。いくつかの実施形態において、担体はチタンを含まないか又は実質的に含まない、例えば、担体は1500ppm(質量)未満、1000ppm未満、500ppm未満又は0ppm、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、チタンを含有することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、触媒組成物は、シリカを含まないか、又は実質的に含まない。例えば、いくつかの実施形態において、担体はシリカを含有せず、及び/又は組成物は全体としてシリカを含有せず、又は500ppm未満、400ppm未満、300ppm未満、200ppm未満、100ppm未満(質量)、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲のシリカを含有する。特定の理論に拘束されることなく、シリカは、エチレンのジクロロエタンへのオキシ塩素化における触媒の活性を低下させる可能性があると考えられる。
【0034】
いくつかの実施形態では、担体は活性化されず、及び/又は担体は活性化アルミナを含まない。例えば、触媒金属の含浸及び/又は吸着の前に、担体は、高温、例えば約100℃、約200℃、約300℃、約400℃、約500℃、約600℃、約700℃、約1000℃、又は約600℃~約1200℃、またはこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲を超える温度で加熱されない。特定の理論に拘束されることなく、担体を高温で予備加熱することにより、例えば、焼結及び相転移によって、担体のBET表面積を約25%~約75%減少させることができると考えられる。このような担体の表面積の減少は、オキシ塩素化プロセスによるエチレンのジクロロエタンへの転化における触媒の性能に影響を与えることができる。
【0035】
特定の理論に拘束されることなく、Cu、及びZrを含む少なくとも1種の遷移金属の担持量の特定の範囲のみが、上述の高性能特性のすべてをもたらすと考えられる。活性金属の特定の担持量の範囲外では、すべての点で高性能が達成されない可能性がある。例えば、Cuの含有量を増加すると触媒活性は向上するが、触媒が固着しやすくなる。Mgの含有量を増加すると、触媒は固着しにくくなるが、さらなるMgは触媒活性とDCE粗純度を低下させる。Zrの含有量を増加すると、触媒は固着しにくくなり、DCE粗純度も増加するが、触媒活性はわずかに低下する。開示された範囲外の金属担持量は、触媒活性(すなわち、エチレン及びHCl転化率)、触媒選択率、DCE生成物純度、及び/又は固着性を含む1つ以上の特性において、触媒性能の低下をもたらす。実施形態によれば、本明細書に記載の触媒は、流出液を再利用することなく、空気ベースの流動床反応器におけるエチレンのオキシ塩素化のためのプロセスにおいて採用された場合に、約99.20質量%~約99.90質量%、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、ジクロロエタン粗純度を提供する。
【0036】
銅化合物は水溶性塩の形態で使用され、塩化銅の形態で使用することができる。しかしながら、オキシ塩素化プロセス中に塩化物に変換することができる他の銅塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、又は臭化物塩のような他のハロゲン化物塩を使用することもできる。銅塩は、上述したのと同じ技術を用いてアルミナ担体上に堆積させる。堆積した銅金属の量は、所望の活性、及び流動床触媒用途の担体の特定の流動化特性に基づいて決定される。
【0037】
本明細書の実施形態によれば、記載されるような触媒は、触媒組成物の総質量に基づいて、約1質量%~約10質量%、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の銅金属を含むことができる。実施形態において、銅塩は塩化銅(例えば、塩化銅II)である。銅金属の最小量は、触媒の総質量に基づいて、約2.0質量%、又は約3.0質量%、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲であり得る。銅金属の最大量は、触媒の総質量に基づいて、約6.0質量%、約8.0質量%、約10質量%、又はこの範囲内の個別値又はサブ範囲であることができる。
【0038】
少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物はマグネシウムを含み、追加のアルカリ土類金属、例えばカルシウム、ストロンチウム、バリウム、又はそれらの混合物を含むことができる。1つ以上の実施形態において、少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物は、マグネシウムを含み、他のアルカリ土類金属/化合物を含まないか、又は微量(例えば、1ppm未満)しか含まない。少なくとも1種のアルカリ土類金属は、水溶性塩の形態で使用され、アルカリ土類金属塩化物の形態で使用することができる。しかしながら、オキシ塩素化プロセス中に塩化物塩に変換することができる他のアルカリ土類金属塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、又は臭化物塩のような他のハロゲン化物塩も使用することができる。実施形態によれば、少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、臭素酸マグネシウム、炭酸マグネシウム又は硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩を含む。実施形態において、少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物は、塩化マグネシウムを含む。少なくとも1種のアルカリ土類金属は、触媒組成物の総質量に基づいて、約0.5質量%~約5.0質量%、又は約0.75質量%~約4.0質量%、又は約1.0質量%~約3.0質量%(金属として)、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の金属としてのマグネシウムを含むことができる。実施形態によれば、触媒は、触媒組成物の総質量に基づいて、約5.0質量%未満、約4.0質量%未満、約3.0質量%未満、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の量で、金属マグネシウムを含むことができる。追加のアルカリ土類金属が含まれる場合、触媒は、約0.005質量%~約10.0質量%、又はこの範囲内の個別値又はサブ範囲の、追加のアルカリ土類金属を含むことができる。
【0039】
少なくとも1種の遷移金属化合物はジルコニウムを含み、追加の遷移金属、例えばSc、Tl、V、Y、Nb、La、Hf、Ta、Ac、Rf、Ha、Mn又はそれらの混合物を含むことができる。1つ以上の実施形態において、少なくとも1種の遷移金属化合物は、ジルコニウムを含み、他の遷移金属/化合物を含まないか、又は微量(例えば、0.05質量%未満)しか含まない。1つ以上の実施形態において、触媒組成物はジルコニウムを含み、マンガン(Mn)又はレニウム(Re)を含まない。少なくとも1種の遷移金属化合物は、水溶性塩、例えば遷移金属塩化物(例えば、オキシ塩化物)の形態で使用することができる。しかしながら、オキシ塩素化プロセス中に塩化物塩に変換することができる他の塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、又は臭化物塩のような他のハロゲン化物塩も使用することができる。実施形態によれば、少なくとも1種の遷移金属化合物は、ジルコニウム塩、例えば塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムを含む。これらのジルコニウム塩は、約0.05質量%~約1.0質量%、又はこの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、不純物として他の遷移金属、例えばHfを含むことができる。少なくとも1種の遷移金属は、触媒組成物の総質量に基づいて、約0.1質量%~約3.0質量%、又は約0.5質量%~約2.0質量%、又は約0.75質量%~約1.0質量%の範囲、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、金属としてのジルコニウムを含むことができる。実施形態によれば、触媒は、触媒組成物の総質に基づいて、約3.0質量%未満、約2.0質量%未満、約1.0質量%未満、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の量でジルコニウム金属を含むことができる。追加の遷移金属が含まれる場合、触媒は、約0.005質量%~約10.0質量%、又はこの範囲内の個別値又はサブ範囲の、追加の遷移金属を含むことができる。
【0040】
銅化合物、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属化合物、及びジルコニウムを含む少なくとも1種の遷移金属化合物を含有する最終的な触媒組成物は、容易に流動化できる。他の金属、例えば希土類金属及び/又はジルコニウム以外の遷移金属は、比較的少量又は微量で触媒組成物中に存在することができる。典型的には、これらの金属は、存在する場合、触媒組成物の総質量に基づいて約0.05質量%未満の量で存在する。
【0041】
触媒組成物の調製
金属(例えば、Cu、Mg及びZr)をアルミナ担体上に添加する1つの方法は、金属の水溶性塩の水溶液を担体に含浸させ、次いで湿潤した担体を乾燥させることによって達成される。マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属、及びジルコニウムを含む少なくとも1種の遷移金属(及び任意の追加金属)は、流動化可能な触媒を製造するために、銅化合物を堆積させる前に担体上で焼成することができるが、必ずしも焼成する必要はない。実施形態によれば、所望量の金属塩を60℃の温度で激しく攪拌しながら水に溶解する。溶解後、金属塩溶液を、例えば毎分90回転のタンブラーでアルミナ担体にゆっくりと導入する。含浸後、湿潤触媒は、約100℃~約180℃、又はこの範囲内の個別値又はサブ範囲に加熱された乾燥オーブン中で約2時間~約30時間、又は約10時間~約28時間、又は約20時間~約25時間、又はこの範囲内の個別値又はサブ範囲で乾燥させることができる。乾燥した触媒は、500μmのふるいを用いて熱間ふるい分けことができる。
【0042】
特定の特性、例えば表面積及び細孔容積は、金属塩の堆積を介して変更することができる。本明細書に記載の触媒組成物は、約20~約220m2/g、又は約60~約180m2/g、又は約70~約170m2/g、又は約80m2/g~約150m2/g、又は約150m2/g~約215m2/g、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲の、最終的な表面積を有することができる。
【0043】
実施形態によれば、触媒組成物は、上述のように、アルミナ担体材料を所望の金属の塩の水溶液で湿潤させることによって調製することができる。次いで、湿潤させたアルミナを、約75℃~約180℃、約90℃~約200℃、約100℃~約180℃、又はこれらの範囲内の個別値又はサブ範囲の温度でゆっくりと乾燥させて、水を除去する。金属塩の量は、最終触媒が約1.0質量%~約10質量%の銅、約0.5質量%~約5.0質量%のマグネシウム、及び約0.1質量%~約3.0質量%のジルコニウム、又はこれらの範囲内の個別値又はサブ範囲を含有するように選択される。すべての金属は、触媒担体、金属、及び任意の金属添加剤に関連する配位子又は対アニオンを含む触媒組成物の総質量に基づいて計算される。水溶液中で使用される金属塩は、塩化物塩又はオキシ塩化物塩のような、先に記載したような任意の水溶性塩、又は当業者に公知の任意の塩の形態であることができる。
【0044】
使用される塩は、一般に塩化銅(CuCl2*2H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2*6H2O)、及びオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2*8H2O)である。これらの塩を秤量し、その後、攪拌しながら(例えば、約100rpmでインペラーを使用して)60℃で脱イオン水に溶解する。使用する担体は、約50m2/g~約250m2/g、又は約70m2/g~約225m2/g、又は約100m2/g~約215m2/g、又は約150m2/g~約205m2/gの表面積、0.3~約0.6cm3/gの細孔容積、約10μm~約115μm、又は約20μm~約110μm、又は約25μm~約100μm、又は約30μm~約80μmの粒径分布、又はこれらの範囲内の個別値又はサブ範囲を有するガンマアルミナ粉末であることができる。担体は、毎分約90回転で回転されるバッフル付き容器又はタンブラーに移される。塩溶液は30分以内で担体上に滴下される。
【0045】
含浸後、湿潤触媒は、オーブン中、約100℃~約200℃の温度で、約1時間~約10時間乾燥させることができ、例えば、湿潤触媒は、100℃で約4時間、110℃で16時間、130℃で2時間、150℃で2時間、及び180℃で4時間、又はこれらの範囲内の任意の個別値又はサブ範囲で乾燥させることができる。乾燥した触媒は、500μmのふるい、又は475μmのふるい、又は450μmのふるい、又は400μmのふるい、又は350μmのふるい、又は300μmのふるい、又はこれらの範囲内の個別値又はサブ範囲を使用して、約100℃~約200℃の温度、例えば130℃の温度で熱間ふるい分けすることができる。
【0046】
触媒組成物の使用方法
また、本明細書には、DCEを形成するためのエチレンのオキシ塩素化のために、本明細書に記載の触媒組成物を使用する方法が記載される。この方法は、反応ゾーンにおいて、エチレン、酸素又は酸素含有ガス、及び塩化水素(HCl)を、本明細書に記載の触媒組成物と接触させること、及び反応ゾーンの流出液を回収することを含む。採用される触媒は、銅、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属、及びジルコニウムを含む少なくとも1種の遷移金属を含む。金属は、流動床用途の高表面積担体上に堆積される。
【0047】
DCE製造前に触媒組成物をオキシ塩素化反応器に最初に装入する又は再装入する場合、触媒床は一般に、エチレンを投与する前に、空気、酸素富化空気、又は窒素富化空気で最初に加熱及び流動化される(貫流プロセスとして運転する場合)。ベントガスを反応器にリサイクルするプロセスでは、窒素、酸素と窒素の混合ガス、又は窒素、酸素、二酸化炭素を含有する混合ガスのいずれかを使用することができる。
【0048】
本明細書に記載の触媒組成物は、比較用組成物の最適操作温度以上でも操作することができる。しかしながら、十分なエチレン効率でより高い粗純度のDCEを製造する能力を利用するためには、比較用組成物に対してより低い操作温度で触媒組成物を操作すべきである。本明細書に記載の触媒組成物は、比較用組成物よりも約0℃~約15℃、又は約2℃~約10℃、又は約3℃~約7℃低い温度で操作することができる。驚くべきことに、HCl及びエチレンの転化率が低下したり、触媒の固着に起因する流動性が低下したりすることなく、より低い温度で運転しながら、より高いDCE粗生成物純度が達成される。
【0049】
本明細書に記載の触媒組成物は、エチレンをDCEにオキシ塩素化するための高効率触媒である。反応プロセス温度は、約180℃から約260℃、又は約210℃から約250℃まで変化することができる。反応圧力は、約大気圧から約200psigまで変化することができる。流動床触媒及び固定床触媒における接触時間(接触時間は、触媒によって取り込まれる反応器体積と、反応器制御温度及び最高圧力における供給ガスの体積流量との比として定義される)は、約10秒~約50秒で変化することができ、約20秒~約35秒であることができる。反応器に供給されるHClのモルに基づくエチレン、HCl及び酸素反応物の比は、2.0モルのHCl当たり、約1.0モル~約2.0モルのエチレン及び約0.5モル~約0.9モルの範囲の酸素であり得る。典型的なオキシ塩素化プロセスは、1モルのエチレンに対して約1モル~約2モルのHClの化学量論比の範囲内で運転しようとするものである。
【実施例】
【0050】
以下に示す実施例は、本明細書に記載の触媒組成物及び方法の独特で予期しない特性を例示するものであり、本発明を限定することを意図するものではない。実施例は、塩化銅、マグネシウムを含む少なくとも1種のアルカリ土類金属、及びジルコニウムを含む少なくとも1種の遷移金属の組合せを使用する実施形態の臨界条件を特に指摘する。全ての実施例において、流動床オキシ塩素化反応は、実験室規模の流動床反応器を用いて実施される。反応器の容積、反応器に装入する触媒の量、流体密度、反応物の流量、温度及び圧力はすべて、反応物と触媒との接触時間に影響する。反応器の高さと直径の比も、反応転化率、選択率、及び効率に影響する。したがって、触媒性能の測定結果の違いが、反応器形状又は反応器条件の違いによるのではなく、触媒固有の特性の違いによるものであることを確認するために、全ての触媒性能評価は、実質的に同一の実験室規模の反応器で、同一の反応接触時間、同一の供給条件、同一の反応器制御方法を用いて実施される。反応器には、ガス状のエチレン、酸素、窒素、及びHClを反応器ゾーンに供給する手段、反応物の量と反応条件を制御する手段、及びHCl転化率(パーセント)、DCEの収率(パーセント)、エチレン効率(パーセント)及びDCE生成物の純度を決定するために流出ガスの組成を測定及び確認するための手段が備えている。
【0051】
反応器の説明
触媒性能の試験には、内径2cmの管状ガラス反応器を使用した。反応器は4バールで運転し、流動床の高さが約115cmになる量の触媒を充填した。供給ガスは、45.5NL/hのN2、14.95NL/hのエチレン、28.40NL/hのHC1、10.15NL/hのO2から構成し、HCl/エチレン、O2/HCl、O2/エチレンのモル比は、それぞれ1.9、0.35、0.68であった。反応温度は、流動床内の中心熱電対で測定し、外部電気加熱で調節した。反応温度は、広範囲内で変化することができ、典型的に215~240℃である。供給ガス及び生成ガス中の塩酸は滴定で測定し、N2、エチレン、O2、CO、塩素化炭化水素はガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。分析結果と供給ガス量に基づき、HCl転化率、エチレン転化率、DCE選択率、さまざまな酸化及び塩素化副生成物の選択率を計算した。化学的性能は、HCl転化率が一般的に97%超であった215℃を超える温度で評価した。固着耐性は、温度を195℃又は流動床全体の圧力降下が100ミリバールに達する点まで徐々に下げて評価した。典型的な流動化又は非粘着性の条件下では、触媒は反応器内を自由かつ円滑に移動し、流出ガスの出口速度はかなり一定しており、ベッド内で観察されたガス状ポケット又は気泡は直径が小さく、量もごくわずかであった。この視覚的観察は、良好な流動化又は非粘着性条件下で観察された、差圧値にほとんどノイズ又は変動を含まない差圧測定値に対応している。非粘着性の運転条件下では、約78±2ミリバールの典型的な圧力低下が観察された。結果を直接比較することができるため、すべての触媒を同じ条件で試験した。
【0052】
実施例1
触媒は、Sassol社製のアルミナ担体(Catalox(登録商標)SCCa-25/200)に塩化金属水溶液を含浸させ、この塩化金属水溶液は、塩化銅(CuCl2・2H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)、塩化カリウム(KCl2・2H2O)、及びオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2・8H2O)を、激しく攪拌しながら60℃で水に溶解して調製した。使用した担体は、表面積が180~200m2/gであり、細孔容積が0.4~0.5cm3/gであり、粒径分布が約20μm~約100μm(粒子の約4.0%が22μmより小さく、粒子の約10%が31μmより小さく、粒子の約29%が44μmより小さく、粒子の約85%が88μmより小さく、粒子の約98%が125μmより小さい)であることを特徴とした。さらに、担体材料は、製造プロセスからの不純物として、金属の形態で表されるTiを約0.1~0.2%含有する。調製した触媒の金属組成は、4.5質量%のCu、1.9質量%のMg、0.25質量%のK、及び1.0質量%のZrであった。
【0053】
実施例2
実施例1と同様の原料を用いて、Cu、Mg、Zrなどの金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.5質量%のCu、2.0質量%のMg、及び1.0質量%のZrであった。
【0054】
実施例3
金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.5質量%のCu、1.6質量%のMg、及び1.0質量%のZrであった。
【0055】
実施例4
金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.5質量%のCu、1.0質量%のMg、及び1.0質量%のZrであった。
【0056】
実施例5
金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.5質量%のCu、1.3質量%のMg、及び1.0質量%のZrであった。
【0057】
比較例1
金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.15質量%のCu及び2.12質量%のMgであった。
【0058】
比較例2
金属塩化物をCatalox(登録商標)SCCa-25/200に含浸させた。金属組成は、4.3質量%のCu、1.3質量%のMg、1.0質量%のMn、及び1.0質量%のKであった。
【0059】
比較例3
実施例1と同様に触媒を調製したが、金属塩化物溶液中のZr含有量は除外した。金属組成は、4.5質量%のCu、1.9質量%のMg、及び0.25質量%のKであった。
【0060】
比較例4
実施例5と同様に触媒を調製したが、金属塩化物溶液中のZr含有量は除外した。金属組成は、4.5質量%のCu、及び1.3質量%のMgであった。
【0061】
【0062】
すべての本発明の実施例及び比較例の触媒性能を、220~240℃で測定し、
図1~5にプロットした。
図1では、実施例1と比較例3を比較することで、触媒組成物に1.0質量%のZrを添加することによりDCE選択率(対エチレン転化率)は向上することが明らかになったが、実施例1の活性は比較例3と同程度であった(
図4及び5)。
図2に示すように、実施例1のDCE純度の向上は、主に塩素化副生成物に対する選択率の低下に起因するが、これに限定されるものではない。その結果、実施例1のDCE生成物の純度は、全体的なエチレン転化率を通じて、比較例3よりも約0.2%ポイント高くなった(
図2)。
【0063】
DCE生成物の純度(対エチレン転化率)は、触媒組成中のMgの含有量を変更すること、例えばMgの含有量を1.9質量%から1.0質量%に低減することによっても改善することができる(
図2の実施例2~5)。しかしながら、この場合、DCE純度(対エチレン転化率)の向上は、主に、塩素化副生成物に対する選択率が低下するより低い運転温度(230℃未満)での触媒活性の向上によるものである。
【0064】
Zr化合物が塩素化副生成物に対する選択性に及ぼす影響、ひいてはDCE純度に及ぼす影響は、Zr含有量以外は実施例5と同じ触媒処方を有する比較例4と実施例5の触媒性能を比較した際に、改めて認識された。両サンプルとも同等の触媒活性を示すが、実施例5のDCE純度は、上記で実施例1と比較例3の比較で示したように、比較例4よりも約0.1~0.2%ポイント高い。その結果、Zr含有量は、エチレンの1,2-ジクロロエタンへのオキ塩素化において、触媒活性を調整することなくDCE生成物の純度を向上させることができる促進剤であると考えられる。
【0065】
さらに、上記で紹介した本発明の実施例は、比較例1及び比較例2と比較して、DCE純度が優れていることを示している。
【0066】
反応温度を2℃又は3℃/ステップ下げて対応する触媒の活性試験に続く粘着性試験により、本発明の実施例は反応条件下で195℃まで十分な流動性を示すことが明らかになった。このことは、本発明の実施例の一部は、230℃未満で運転される商業プラントに適用できることを示している。
【0067】
前述の説明では、本発明のいくつかの実施形態をよく理解できるように、特定のシステム、構成要素、方法などの例など、多数の具体的な詳細を示した。しかしながら、当業者には、本発明の少なくとも一部の実施形態が、これらの具体的な詳細なしに実施できることが明らかであろう。他の場合では、本発明を不必要に不明瞭にすることを避けるために、周知の構成要素又は方法は詳細に記載されていない。したがって、記載された特定の詳細は例示的なものである。特定の実施形態は、これらの例示的な詳細とは異なっていても、本発明の範囲内であると考えられる。
【0068】
本明細書における方法の操作は特定の順序で説明されているが、各方法の操作の順序は、特定の操作を逆の順序で実行するように、又は特定の操作を少なくとも部分的に他の操作と同時に実行するように変更されてもよい。別の実施形態では、別個の操作の指示又はサブ操作は、断続的及び/又は交互の方法で行われてもよい。
【0069】
上記の説明は、例示を意図したものであり、制限的なものではないことを理解されたい。他の多くの実施形態は、上記の説明を読んで理解すれば、当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲と、そのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲を参照して決定されるべきである。
【国際調査報告】