(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】VEGFを調節する方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20250117BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250117BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250117BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20250117BHJP
C12N 9/22 20060101ALN20250117BHJP
C12N 15/88 20060101ALN20250117BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
C12N15/12 ZNA
C12N15/113 Z
C12N9/22
C12N15/88 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542251
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-09-11
(86)【国際出願番号】 CN2023071521
(87)【国際公開番号】W WO2023134658
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/071930
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524265552
【氏名又は名称】エピジェニック・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】EPIGENIC THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,チャンヤン
(72)【発明者】
【氏名】スン,イーディー
(72)【発明者】
【氏名】マオ,シャオシュアイ
(72)【発明者】
【氏名】ポン,ウェンボー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084DC01
4C084MA24
4C084MA41
4C084MA58
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZB211
4C084ZB212
4C087BC83
4C087CA12
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4C087MA41
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、特に少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子を含む組成物を提供し、融合分子はVEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内のゲノム領域を標的とし、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、前記VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供する。本発明はまた、インビボにおけるVEGF遺伝子産物の低減または排除の方法、およびそれらの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または前記融合分子をコードする核酸配列を含む組成物であって、前記融合分子がVEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内のゲノム領域を標的とし、遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、前記VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供し、
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、DNAデメチラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼもしくはその一部、またはジンクフィンガータンパク質系転写因子もしくはその一部、またはそれらの組合せを含み、
前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質が、Cas9、dCas9、Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、dCas9-FokIヌクレアーゼ、またはMegaTalヌクレアーゼである、組成物。
【請求項2】
前記VEGF遺伝子がVEGF-A遺伝子である、請求項2に記載の組成物。
【請求項3】
前記VEGF制御エレメントが、転写開始部位、コアプロモーター、近位プロモーター、遠位エンハンサー、サイレンサー、インシュレーターエレメント、境界エレメント、または遺伝子座制御領域である、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項4】
前記VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変が、前記VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流に位置している、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変が、前記VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内下流に位置している、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変が、前記VEGF遺伝子の転写開始部位の500bp上流から500bp下流まで以内に位置している、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
前記VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変が、前記VEGF遺伝子の転写開始部位の300bp上流から300bp下流まで以内に位置している、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変が、前記VEGF遺伝子の転写開始部位の1000bp以内上流から転写開始部位の300bp以内下流に位置している、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つのヌクレオチドの改変がDNAのメチル化である、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、ジンクフィンガータンパク質系転写因子、それらの一部、およびそれらの任意の組合せから選択される1つまたは複数を含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、DNAメチルトランスフェラーゼまたはその一部、およびジンクフィンガータンパク質系転写因子またはその一部を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記DNAメチルトランスフェラーゼが、DNMT3A、DNMT3B、DNMT3L、DNMT1、またはDNMT2である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
前記DNMT3Aが配列番号23のアミノ酸配列を含み、および/または前記DNMT3Lが配列番号24のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ジンクフィンガータンパク質系転写因子がKruppel関連抑制ボックス(KRAB)である、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項15】
前記KRABが配列番号22のアミノ酸配列を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記DNAメチルトランスフェラーゼがDNMT3AおよびDNMT3Lならびにそれらの組合せから選択され、ジンクフィンガータンパク質系転写因子がKRABである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質が、Cas9、dCas9、Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、dCas9-FokIヌクレアーゼ、またはMegaTalヌクレアーゼである、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質がdCas9である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記dCas9が、スタフィロコッカス・アウレウスdCas9、ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9、カンピロバクター・ジェジュニdCas9、コリネバクテリウム・ジフテリアdCas9、ユーバクテリウム・ベントリオスムdCas9、ストレプトコッカス・パスチュリアヌスdCas9、ラクトバチルス・ファルシミニスdCas9、スピロヘータ・グローブスdCas9、アゾスピリルム(例えばB510株)dCas9、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスdCas9、ネイセリア・シネレアdCas9、ロゼブリア・インテスティナリスdCas9、パルビバクルム・ラバメンチボランスdCas9、ニトラチフラクター・サルスギニス(例えばDSM 16511株)dCas9、カンピロバクター・ラリ(例えばCF89-12株)dCas9、ストレプトコッカス・サーモフィルス(例えばLMD-9株)dCas9を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記dCas9が配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記融合分子が、前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に融合した遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターを含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質に直接融合している、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、非モジュレーター、第2のモジュレーター、またはリンカーを介して、前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質と間接的に融合している、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記融合分子が、C末端でKRABと、N末端でDNMT3AおよびDNMT3Lと融合したdCas9を含む、請求項21から23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
前記融合分子が配列番号28のアミノ酸配列を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記融合分子が少なくとも1つの核局在化配列をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
前記少なくとも1つの核局在化配列が、前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に直接または間接的に融合している、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記融合分子をコードする核酸配列が、デオキシリボ核酸(DNA)またはメッセンジャーリボ核酸(mRNA)である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
前記VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の標的DNA配列と相補的である少なくとも1つのシングルガイドRNA(sgRNA)をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項30】
前記標的DNA配列が、VEGF(例えばVEGF-A)遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流または下流に位置している、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記sgRNAが配列番号29~58および60~84の核酸配列を含む、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
前記融合分子がリポソームまたは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされている、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項33】
前記融合分子およびsgRNAが、リポソームまたは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされている、請求項29から31のいずれかに記載の組成物。
【請求項34】
前記融合分子およびsgRNAが、同じリポソームもしくは脂質ナノ粒子、または異なるリポソームもしくは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされている、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記リポソームまたは脂質ナノ粒子が、イオン化可能な脂質(モル比20%~70%)、PEG化脂質(モル比0%~30%)、支持脂質(モル比30%~50%)、およびコレステロール(モル比10%~50%)からなっている、請求項32から34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記イオン化可能な脂質が、pH応答性のイオン化可能な脂質、熱応答性のイオン化可能な脂質、および光応答性のイオン化可能な脂質からなる群から選択される、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記融合分子がAAVベクターの中にパッケージングされている、請求項1から31のいずれかに記載の組成物。
【請求項38】
前記融合分子およびsgRNAが、AAVベクターの中にパッケージングされている、請求項29から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記融合分子およびsgRNAが、同じAAVベクターの中または異なるAAVベクターの中にパッケージングされている、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である、前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項41】
VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内に位置し、VEGF遺伝子の転写開始部位の500bp上流から500bp下流まで以内に位置してもよい、標的DNA配列と相補的な配列を含むsgRNA。
【請求項42】
配列番号29~58および60~84のいずれか1つの核酸配列を含み、配列番号59で説明されるtracr配列をさらに含んでもよい、請求項41に記載のsgRNA。
【請求項43】
前記VEGF遺伝子が、哺乳動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、およびウサギ由来のVEGF-A遺伝子である、請求項41または42に記載のsgRNA。
【請求項44】
請求項41から43のいずれか一項に記載のsgRNAをコードする核酸分子。
【請求項45】
(a)少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または前記融合分子をコードする核酸配列、および
(b)請求項41から43のいずれか一項に記載のsgRNAおよび前記少なくとも1つのDNA結合性タンパク質に結合することができるタンパク質結合配列を含むガイド分子、または前記ガイド分子をコードする核酸配列
を含む組成物であって、
遺伝子発現の前記少なくとも1つのモジュレーターが、前記VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内に少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供する、組成物。
【請求項46】
細胞におけるVEGF遺伝子産物の発現を低減または排除する方法であって、請求項1から40および44)のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞に導入し、それにより、前記細胞における前記VEGF遺伝子産物の発現を低減または排除する工程を含む方法。
【請求項47】
対象におけるVEGF遺伝子産物の発現を低減または排除するインビボの方法であって、請求項1から40および44のいずれか一項に記載の組成物を前記対象の細胞に導入し、それにより、前記対象における前記VEGF遺伝子産物の発現を低減または排除する工程を含む方法。
【請求項48】
対象におけるVEGF関連障害の症状を処置または軽減する方法であって、有効量の請求項1から40および44のいずれか一項に記載の組成物を前記対象の細胞に導入する工程を含む方法。
【請求項49】
前記対象が、哺乳動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウマ、ネコ、およびイヌである、請求項47または48のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記VEGF関連障害が血管新生を伴う、請求項48または49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記VEGF関連障害が新生血管障害、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を含む眼科新生血管障害である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記細胞が、網膜細胞、網膜色素上皮(RPE)細胞、または脈絡膜細胞である、請求項46から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記融合分子が眼内注射および硝子体内注射等の局所注射によって前記対象に送達される、請求項47から52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
対象におけるVEGF関連障害の症状の処置または軽減における使用のための、請求項1から40および44のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項55】
前記VEGF関連障害が新生血管障害、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を含む眼科新生血管障害である、請求項54に記載の使用のための組成物。
【請求項56】
対象におけるVEGF関連障害の症状の処置または軽減のための医薬の製造における、請求項1から40および44のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項57】
請求項1から40および44のいずれか一項に記載の組成物を含む容器を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、分子生物学、免疫学、および医学の分野に関する。より詳細には、本開示は、インビボ(in vivo)におけるVEGF遺伝子産物の標的化された低減または排除における使用のためのCRISPR/Cas9系融合分子およびその使用の方法に関する。
【0002】
本出願は、本出願とともに電子フォーマットで提出され、それにより参照により本明細書に組み込まれる配列表を含む。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物細胞内の任意の遺伝子を標的とするようにカスタマイズすることができる操作されたDNA結合性タンパク質は生医学研究における急速な進歩を可能にしており、遺伝子治療のための有望なプラットフォームである。RNAによってガイドされるCRISPR-Cas9システムは、プログラム可能な標的遺伝子制御のための有望なプラットフォームとして出現した。触媒として不活性な「デッド」Cas9(dCas9)のKruppel関連ボックス(KRAB)ドメインへの融合により、細胞培養実験における標的遺伝子の高度に特異的かつ強力な調節またはサイレンシングが可能な合成リプレッサーが生成される。
【0004】
しかし、合成dCas9-KRAB融合タンパク質を用いる内因性遺伝子の持続的な調節およびサイレンシングは、インビボ治療における使用のためには困難であった。合成リプレッサーは、ウイルス系ベクターデリバリー法におけるサイズパッケージングの限界を超えている。安全性、毒性、免疫原性、およびオフターゲット効果は、インビボにおける合成リプレッサーの使用を制限する他の困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子操作された合成遺伝子リプレッサーを生成するための代替のアプローチおよび治療薬としての使用のための合成遺伝子リプレッサーのインビボデリバリーに対するニーズが当技術で存在する。本開示は、当技術におけるこの満たされていないニーズに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本開示は、血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の転写開始部位の500bp上流から500bp下流まで以内に位置する標的DNA配列と相補的な配列を含むsgRNAを提供する。
【0007】
一部の実施形態では、sgRNAは、配列番号29~58および60~84のいずれか1つの核酸配列を含む。
【0008】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子は、哺乳動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、およびウサギ由来のVEGF-A遺伝子である。
【0009】
一態様では、本開示は、本明細書で開示するsgRNAをコードするDNA配列を提供する。
【0010】
一態様では、本開示は、
(a)少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列、および
(b)本明細書で開示するsgRNAおよび少なくとも1つのDNA結合性タンパク質に結合することができるタンパク質結合配列を含むガイド分子、またはガイド分子をコードする核酸配列
を含む組成物を提供し、
遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内に少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供する。
【0011】
一部の実施形態では、本明細書に記載する遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、VEGF遺伝子の転写開始部位の1,000bp上流から1,000bp下流まで以内に少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供する。
【0012】
一態様では、本開示は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列を含む組成物を提供し、融合分子はVEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内のゲノム領域を標的とし、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供する。
【0013】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、DNAデメチラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼもしくはその一部、またはジンクフィンガータンパク質系転写因子もしくはその一部、またはそれらの組合せを含む。
【0014】
一部の実施形態では、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質は、Cas9、dCas9、Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、dCas9-FokIヌクレアーゼ、またはMegaTalヌクレアーゼである。
【0015】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子は、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、またはVEGF-E遺伝子である。
【0016】
一部の実施形態では、VEGF制御エレメントは、転写開始部位、コアプロモーター、近位プロモーター、遠位エンハンサー、サイレンサー、インシュレーターエレメント、境界エレメント、または遺伝子座制御領域である。
【0017】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流または下流に位置している。
【0018】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の500bp以内上流または下流に位置している。
【0019】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の300bp以内上流または下流に位置している。
【0020】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の1000bp以内上流から転写開始部位の300bp以内下流に位置している。
【0021】
一部の実施形態では、少なくとも1つのヌクレオチドの改変はDNAのメチル化である。
【0022】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、ジンクフィンガータンパク質系転写因子、それらの一部、およびそれらの任意の組合せから選択される1つまたは複数を含む。DNAメチルトランスフェラーゼは、DNMT3A、DNMT3B、DNMT3L、DNMT1、および/またはDNMT2であってよい。
【0023】
一部の実施形態では、DNMT3Aは配列番号23のアミノ酸配列を含み、および/またはDNMT3Lは配列番号24のアミノ酸配列を含む。
【0024】
一部の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質系転写因子はKruppel関連抑制ボックス(KRAB)である。具体的には、KRABは配列番号22のアミノ酸配列を含んでよい。
【0025】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼまたはその一部、およびジンクフィンガータンパク質系転写因子またはその一部を含む。具体的には、DNAメチルトランスフェラーゼはDNMT3AおよびDNMT3Lならびにそれらの組合せから選択してよく、ジンクフィンガータンパク質系転写因子はKRABであってよい。
【0026】
一部の実施形態では、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質は、Cas9、dCas9、Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、dCas9-FokIヌクレアーゼ、またはMegaTalヌクレアーゼである。例えば、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質はdCas9である。
【0027】
一部の実施形態では、dCas9は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)dCas9、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)dCas9、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)dCas9、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)dCas9、ユーバクテリウム・ベントリオスム(Eubacterium ventriosum)dCas9、ストレプトコッカス・パスチュリアヌス(Streptococcus pasteurianus)dCas9、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)dCas9、スピロヘータ・グローブス(Sphaerochaeta globus)dCas9、アゾスピリルム(Azospirillum)(例えばB510株)dCas9、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)dCas9、ネイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)dCas9、ロゼブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)dCas9、パルビバクルム・ラバメンチボランス(Parvibaculum lavamentivorans)dCas9、ニトラチフラクター・サルスギニス(Nitratifractor salsuginis)(例えばDSM 16511株)dCas9、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)(例えばCF89-12株)dCas9、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(例えばLMD-9株)dCas9を含む。
【0028】
一部の実施形態では、dCas9は配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0029】
一部の実施形態では、本明細書で開示する融合分子は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に融合した遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む。
【0030】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質に直接融合している。
【0031】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、非モジュレーター、第2のモジュレーター、またはリンカーを介して、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質と間接的に融合している。
【0032】
一部の実施形態では、本明細書で開示する融合分子は、C末端でKRABと、N末端でDNMT3AおよびDNMT3Lと融合したdCas9を含む。
【0033】
一部の実施形態では、融合分子は配列番号28のアミノ酸配列を含む。
【0034】
一部の実施形態では、融合分子は少なくとも1つの核局在化配列をさらに含む。少なくとも1つの核局在化配列は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に直接または間接的に融合していてよい。
【0035】
一部の実施形態では、融合分子をコードする核酸配列は、デオキシリボ核酸(DNA)またはメッセンジャーリボ核酸(mRNA)である。
【0036】
一部の実施形態では、本明細書で開示する組成物は、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の標的DNA配列と相補的である少なくとも1つのシングルガイドRNA(sgRNA)をさらに含む。
【0037】
一部の実施形態では、標的DNA配列は、VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流または下流に位置している。
【0038】
一部の実施形態では、sgRNAは配列番号29~58および60~84の核酸配列を含む。
【0039】
一部の実施形態では、融合分子はリポソームまたは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされている。
【0040】
一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは、リポソームまたは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされている。融合分子およびsgRNAは、同じリポソームもしくは脂質ナノ粒子、または異なるリポソームもしくは脂質ナノ粒子の中にパッケージングされていてよい。
【0041】
一部の実施形態では、リポソームまたは脂質ナノ粒子は、イオン化可能な脂質(モル比20%~70%)、PEG化脂質(モル比0%~30%)、支持脂質(モル比30%~50%)、およびコレステロール(モル比10%~50%)からなっている。
【0042】
一部の実施形態では、イオン化可能な脂質は、pH応答性のイオン化可能な脂質、熱応答性のイオン化可能な脂質、および光応答性のイオン化可能な脂質からなる群から選択される。
【0043】
一部の実施形態では、融合分子はAAVベクターの中にパッケージングされている。
【0044】
一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは、AAVベクターの中にパッケージングされている。融合分子およびsgRNAは、同じAAVベクターの中または異なるAAVベクターの中にパッケージングされていてよい。
【0045】
一部の実施形態では、本明細書で開示する組成物は、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0046】
一態様では、本開示は、細胞におけるVEGF遺伝子産物の発現を調節する(例えば低減または排除する)方法であって、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列を細胞内に導入する工程を含む方法を提供し、遺伝子発現のモジュレーターはVEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供し、それにより、細胞におけるVEGF遺伝子産物の発現が調節される(例えば低減または排除される)。
【0047】
一態様では、本開示は、対象におけるVEGF遺伝子産物の発現を調節する(例えば低減または排除する)インビボの方法であって、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列を対象の細胞に導入する工程を含む方法を提供し、遺伝子発現のモジュレーターは、VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供し、それにより、対象におけるVEGF遺伝子産物の発現を調節する(例えば低減または排除する)。
【0048】
一態様では、本開示は、対象におけるVEGF関連障害の症状を処置または軽減するための方法であって、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列を対象の細胞に導入する工程を含む方法を提供し、遺伝子発現のモジュレーターは、VEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変を提供し、それにより、対象におけるVEGF関連障害の症状が処置または軽減される。
【0049】
一部の実施形態では、VEGF制御エレメントは、コアプロモーター、近位プロモーター、遠位エンハンサー、サイレンサー、インシュレーターエレメント、境界エレメント、または遺伝子座調節領域である。
【0050】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流に位置している。一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の1000bp以内上流に位置している。一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の300bp以内上流に位置している。
【0051】
一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内下流に位置している。一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の約300bp以内下流に位置している。一部の実施形態では、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内の少なくとも1つのヌクレオチドの改変は、VEGF遺伝子の転写開始部位の1000bp以内上流および転写開始部位の300bp以内下流に位置している。
【0052】
一部の実施形態では、少なくとも1つのヌクレオチドの改変はDNAのメチル化である。
【0053】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、DNAデメチラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼまたはその一部を含む。
【0054】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)またはその一部を含む。一部の実施形態では、DNAメチルトランスフェラーゼは、DNMT3A、DNMT3B、DNMT3L、DNMT1、またはDNMT2である。一部の実施形態では、DNMT3Aは配列番号23のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、DNMT3Lは配列番号24のアミノ酸配列を含む。
【0055】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、ジンクフィンガータンパク質系転写因子またはその一部を含む。一部の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質系転写因子はKruppel関連抑制ボックス(KRAB)である。一部の実施形態では、KRABは配列番号22のアミノ酸配列を含む。
【0056】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、DNAメチルトランスフェラーゼまたはその一部、およびジンクフィンガータンパク質系転写因子またはその一部を含む。一部の実施形態では、DNAメチルトランスフェラーゼはDNMT3AおよびDNMT3Lならびにそれらの組合せから選択され、ジンクフィンガータンパク質系転写因子はKRABである。
【0057】
一部の実施形態では、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質は、Cas9、dCas9、Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、dCas9-FokIヌクレアーゼ、またはMegaTalヌクレアーゼである。一部の実施形態では、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質はdCas9である。一部の実施形態では、dCas9は、スタフィロコッカス・アウレウスdCas9、ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9、カンピロバクター・ジェジュニdCas9、コリネバクテリウム・ジフテリアdCas9、ユーバクテリウム・ベントリオスムdCas9、ストレプトコッカス・パスチュリアヌスdCas9、ラクトバチルス・ファルシミニスdCas9、スピロヘータ・グローブスdCas9、アゾスピリルム(例えばB510株)dCas9、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスCas9、ネイセリア・シネラdCas9、ロゼブリア・インテスティナリスdCas9、パルビバクルム・ラバメンチボランスdCas9、ニトラチフラクター・サルスギニス(例えばDSM 16511株)dCas9、カンピロバクター・ラリ(例えばCF89-12株)dCas9、ストレプトコッカス・サーモフィルス(例えばLMD-9株)dCas9を含む。一部の実施形態では、dCas9は配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0058】
一部の実施形態では、融合分子は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に融合した遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む。
【0059】
一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質に直接融合している。一部の実施形態では、遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターは、非モジュレーター、第2のモジュレーター、またはリンカーを介して、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質と間接的に融合している。一部の実施形態では、融合分子は、C末端でKRABと、N末端でDNMT3AおよびDNMT3Lと融合したdCas9を含む。一部の実施形態では、融合分子は配列番号28のアミノ酸配列を含む。
【0060】
一部の実施形態では、融合分子は少なくとも1つの核局在化配列をさらに含む。一部の実施形態では、少なくとも1つの核局在化配列は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方に直接融合している。一部の実施形態では、少なくとも1つの核局在化配列は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質のC末端、N末端、またはその両方にリンカーを介して間接的に融合している。
【0061】
一部の実施形態では、融合分子をコードする核酸配列はデオキシリボ核酸(DNA)である。一部の実施形態では、融合分子をコードする核酸配列はメッセンジャーリボ核酸(mRNA)である。
【0062】
一部の実施形態では、本方法は、VEGF遺伝子近傍および/またはVEGF制御エレメント内のDNA配列と相補的である少なくとも1つのシングルガイドRNA(sgRNA)を導入し、それにより、VEGF遺伝子もしくはVEGF制御エレメントを融合分子の標的とし、またはsgRNAをコードするDNAを導入する工程をさらに含む。一部の実施形態では、sgRNAは配列番号29~58および60~84の核酸配列を含む。
【0063】
一部の実施形態では、融合分子はリポソームまたは脂質ナノ粒子の中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAはリポソームまたは脂質ナノ粒子の中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは同じリポソームまたは脂質ナノ粒子の中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは異なるリポソームまたは脂質ナノ粒子の中で製剤化される。
【0064】
一部の実施形態では、リポソームまたは脂質ナノ粒子は、イオン化可能な脂質(モル比20%~70%)、PEG化脂質(モル比0%~30%)、支持脂質(モル比30%~50%)、およびコレステロール(モル比10%~50%)からなっている。一部の実施形態では、イオン化可能な脂質は、pH応答性のイオン化可能な脂質、熱応答性のイオン化可能な脂質、および光応答性のイオン化可能な脂質からなる群から選択される。
【0065】
一部の実施形態では、融合分子はAAVベクターの中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは、AAVベクターの中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは、同じAAVベクターの中で製剤化される。一部の実施形態では、融合分子およびsgRNAは、異なるAAVベクターの中で製剤化される。
【0066】
一部の実施形態では、融合分子は、局所注射、全身注入、またはそれらの組合せで、細胞に送達される。一部の実施形態では、融合分子は、眼内注射または硝子体内注射によって、対象の眼に送達される。
【0067】
一部の実施形態では、対象は、哺乳動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウマ、ネコ、およびイヌである。
【0068】
一部の実施形態では、VEGF関連障害は血管新生を伴う。一部の実施形態では、VEGF関連障害は新生血管障害、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を含む眼科新生血管障害である。一部の実施形態では、VEGF関連障害は、ウェット型AMDまたはドライ型AMDである。
【0069】
本開示は、配列番号29~58および60~84のいずれか1つの核酸配列を含むsgRNAを提供する。本開示は、本明細書で開示するsgRNAのいずれか1つをコードするDNA配列を提供する。
【0070】
一態様では、対象におけるVEGF関連障害の症状の処置または軽減における使用のための上記の組成物が本明細書で提供される。
【0071】
一部の実施形態では、VEGF関連障害は新生血管障害、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を含む眼科新生血管障害である。
【0072】
一態様では、対象におけるVEGF関連障害の症状を処置または軽減するための医薬の製造における上記の組成物の使用が本明細書で提供される。
【0073】
一態様では、上記の組成物または融合分子を含む容器を含むキットが本明細書で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】
図1Aは、マウスVEGF-A発現を標的とする「EPICAS」二重プラスミドシステムおよびsgRNAタイリングスクリーンデザインを示す概略図である。第1のプラスミド(「触媒タンパク質」プラスミドまたは「融合分子」プラスミド)は、CAGプロモーターの制御下のDNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB、および2Aエレメントによって分離されたGFPマーカーをコードする。第2のプラスミド(「sgRNA」プラスミド)は、U6プロモーターの制御下のsgRNAスカフォールド、およびCMVプロモーターの制御下のmCherryマーカーを有している。タイリングスクリーンのsgRNAは、マウスVEGF-Aタンパク質コーディング配列(CDS)の転写開始部位(TSS)+250bp上流を標的としている。
図1Bは、触媒タンパク質プラスミドおよび種々の単一VEGF sgRNAプラスミドによるマウスN2A細胞株のトランスフェクションの48時間後の相対的mRNA発現を示す棒グラフである。
図1Cは、触媒タンパク質プラスミドおよび種々の単一VEGF sgRNAプラスミドまたはVEGF sgRNAプラスミドの混合物によるマウスN2A細胞株のトランスフェクションの1週間後の相対的mRNA発現を示す棒グラフである。
図1Dは、VEGF-A遺伝子座の亜硫酸水素塩PCR解析の結果を示す概略図である。それぞれの行は1つの単一クローンを表し、それぞれの列は1つの特定のゲノム位置を示す。黒点はメチル化が成功した部位を表す。
【
図2】
図2Aは、EPICAS mRNAプラスミドデザインを示す概略図である。EPICAS ORFは、DNMT3A-DNMT3L-dCas9-KRABカセットを含む。プラスミドはXbaIおよびBpiI制限部位で消化され、線状化されたプラスミドを形成することができる。
図2Bは、EPICAS mRNAプラスミドから発現され、精製されたmRNAの電気泳動図である。
図2Cは、EPICAS mRNAが初代マウス肝細胞内の内因性VEGFA遺伝子を成功裡にノックダウンできることを示す概略図である。左パネル:初代マウス肝細胞の顕微鏡写真、中央パネル:GFP-P2A-Casoff mRNAおよびsgRNA処理ありとなしでのトランスフェクションの72時間後のGFPの発現を示すフローサイトメトリーグラフ、右パネル:対照とGFP-P2A-Casoff mRNAおよびsgRNAで処理した群の間のGFP陽性細胞における相対的VEGFA mRNA発現。
【
図3】
図3Aは、脂質ナノ粒子(LNP)デザインの概略図である。遺伝子外CRISPR/CasエレメントおよびsgRNAエレメントは、LNPによってカプセル化することができる。
図3Bは、EPICASを含むLNPを示す透過電子顕微鏡画像である。
図3Cは、LNPの粒径分布を示すグラフである。
図3Dは、Ai9マウスの眼への脂質ナノ粒子の硝子体内注射によって送達されたルシフェラーゼmRNAのインビボ蛍光イメージングを示す一連の写真である。
図3Eは、EPICAS mRNAおよびマウスVEGFを標的とするsgRNAを含むLNPのデリバリーのためのインビボ実験デザインの概略図である。眼の後方領域への注射によってLNPをAi9マウスに投与し、注射の5日後に網膜および脈絡膜におけるVEGFA遺伝子の発現を解析した。
【
図4】
図4Aは、293Tレポーター細胞株におけるウサギVEGFAのsgRNAタイリングスクリーンデザインの概略図である。タイリングスクリーンのsgRNAは、ウサギVEGFA遺伝子の転写開始部位(TSS)の500bp上流および下流を標的とする。
図4Bは、EPICASプラスミドおよびウサギVEGFAを標的とするsgRNAによるトランスフェクションの72時間後のレポーター細胞の蛍光強度を示す一連のグラフである。
図4Cは、EPICASプラスミドとともに良好なノックダウン効果を有していた、ウサギ細胞内の内因性遺伝子VEGFAを標的とする6種のsgRNAのトランスフェクションの後の、ウサギRK-13細胞におけるVEGFAのmRNA発現を示す一連のグラフである。
【
図5】
図5Aは、ヒトおよびマウスのVEGF-Aの保存された領域、具体的にはヒトVEGFA遺伝子の転写開始部位(TSS)の300bp上流から300bp下流まで以内を標的とするsgRNAタイリングスクリーンの実験デザインを示す概略図である。
図5Bは、VEGFを標的とする種々のsgRNAを用いるEPICAS二重プラスミドシステムによるトランスフェクションの48時間後のVEGFA mRNA発現を示す一連のグラフである。
図5Cは、VEGFを標的とする種々のsgRNAを用いるEPICAS二重プラスミドシステムによるトランスフェクションの96時間後のVEGFA mRNA発現を示す一連のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
本開示は、インビボ遺伝子治療における使用のための細胞内の遺伝子産物(例えばVEGF)の標的化された低減または排除のための遺伝子操作された融合分子[例えばDNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB融合分子]を提供することによって、現行の技術に伴う課題を克服する。本開示の遺伝子操作された融合分子は、例えば肝臓の疾患、高コレステロールに伴う疾患、およびコレステロールの異常調節[例えば低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール]に伴う疾患を含む遺伝子疾患の処置のために有用である。したがって、インビボデリバリーにおける使用のための遺伝子操作された融合分子およびその医薬製剤(例えば脂質ナノ粒子製剤)を作製する方法も提供される。
【0076】
I.定義
本明細書で用いる場合、用語「コーディング配列」または「コーディング核酸」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(RNAまたはDNA分子)を意味する。コーディング配列は、核酸が投与される個体または哺乳動物の細胞内における発現を指令することができるプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含む制御エレメントに作動可能に連結された開始および終止のシグナルをさらに含み得る。コーディング配列はコドン最適化され得る。
【0077】
核酸に関連して本明細書で用いられる用語「相補体」または「相補的」は、核酸分子のヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログの間のWatson-Crick(例えばA-T/UおよびC-G)またはHoogsteen塩基対形成を意味し得る。「相補性」は、2つの核酸配列の間で共有された特性、例えばこれらが互いに逆平行に整列した場合を指し、それぞれの位置におけるヌクレオチド塩基は相補的になる。
【0078】
用語「修正する」、「ゲノム編集する」、および「復元する」は、変異型タンパク質または切断されたタンパク質をコードするか、またはタンパク質を全くコードしない変異型(mutant)遺伝子を変更して、完全長の機能性タンパク質または部分的に完全長の機能性タンパク質の発現が得られる変更を指す。変異型遺伝子の修正または復元は、変異を有する遺伝子の領域を置き換えること、または変異型遺伝子全体を相同組換え修復(HDR)等の修復機構によって変異を有しない遺伝子のコピーで置き換えることを含み得る。変異型遺伝子の修正または復元には、遺伝子に二本鎖切断を生成し、次いで非相同末端結合(NHEJ)を用いて修復することによって、早過ぎる終止コドン、異常なスプライスアクセプター部位、または異常なスプライスドナー部位を惹起するフレームシフト変異を修復することも含まれる。NHEJは、修復の間に少なくとも1つの塩基対を付加または削除して、適正なリーディングフレームを復元し、早すぎる終止コドンを排除することができる。変異型遺伝子の修正または復元には、異常なスプライスアクセプター部位またはスプライスドナー配列を破壊することも含まれる。変異型遺伝子の修正または復元には、2つのヌクレアーゼ標的部位の間のDNAを除去し、NHEJによってDNA切断を修復することによって適正なリーディングフレームを復元するために、同じDNA鎖上の2つのヌクレアーゼの同時の作用によって非必須遺伝子セグメントを削除することも含まれる。
【0079】
本明細書で用いる場合、用語「ドナーDNA」、「ドナー鋳型」、および「修復鋳型」は、目的の遺伝子の少なくとも一部を含む二本鎖DNA断片または分子を指す。ドナーDNAは完全機能性タンパク質または部分的機能性タンパク質をコードし得る。
【0080】
本明細書で用いる場合、用語「フレームシフト」または「フレームシフト変異」は相互交換可能に用いられ、1つまたは複数のヌクレオチドの付加または欠失がmRNAにおけるコドンのリーディングフレームにシフトを惹起する遺伝子変異の型を指す。リーディングフレームにおけるシフトは、タンパク質翻訳の際にミスセンス変異または早すぎる終止コドン等のアミノ酸配列の変化をもたらすことがある。
【0081】
本明細書で用いる場合、用語「機能性」および「完全機能性」は、生物学的活性を有するタンパク質を記述する。「機能性遺伝子」は、機能性タンパク質に翻訳されるmRNAに転写される遺伝子を指す。
【0082】
本明細書で用いる場合、用語「融合タンパク質」は、もともと個別のタンパク質をコードしていた2つ以上の遺伝子の共有または非共有の結合によって直接または間接的に創成されたキメラタンパク質を指す。一部の実施形態では、融合遺伝子の翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性を有する単一のポリペプチドをもたらす。
【0083】
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子コンストラクト」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNA分子を指す。コーディング配列は、細胞内での発現を指令することができるプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含む制御エレメントに作動可能に連結された開始および終止のシグナルを含む。
【0084】
本明細書で相互交換可能に用いられる用語「相同組換え修復」または「HDR」は、DNAの相同の片が主として細胞サイクルのG2およびS期において核の中に存在する場合に、二本鎖DNAの損傷を修復する細胞内の機構を指す。HDRはドナーDNA鋳型を用いて修復をガイドし、遺伝子全体の標的化された付加を含むゲノムへの特定の配列変更を創成するために用いられる。ドナー鋳型がCRISPR/Cas9系システムのような部位特異的なヌクレアーゼとともに提供されれば、細胞機構は相同組換えによって切断を修復することになり、これはDNA切断の存在下で数桁増強される。相同DNA片が存在しない場合には、その代わりに非相同末端結合が起こり得る。
【0085】
本明細書で用いる用語「ゲノム編集」は遺伝子を変更することを指す。ゲノム編集は、変異遺伝子を修正または復元することを含み得る。ゲノム編集は変異型遺伝子または正常な遺伝子等の遺伝子をノックアウトすることを含み得る。ゲノム編集は目的の遺伝子を変化させることによって疾患を処置するために用いられる。
【0086】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列に関連して本明細書で用いる用語「同一」または「同一性」は、その配列が指定された領域にわたって同じである残基の指定されたパーセンテージを有することを意味する。そのパーセンテージは、2つの配列を最適に整列させ、指定された領域にわたってその2つの配列を比較し、両方の配列において同一の残基が生じる位置の数を決定して一致した位置の数を得て、一致した位置の数を指定された領域における位置の全数で除し、その結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算できる。2つの配列が異なる長さである場合、または整列によって1つまたは複数の付着末端が生じて特定された比較領域が単一配列のみを含む場合には、単一配列の残基は計算の分母には含まれるが分子には含まれない。DNAおよびRNAを比較する場合、チミン(T)およびウラシル(U)は等価とみなしてよい。同一性は手計算で、またはBLASTもしくはBLAST 2.0等のコンピューター配列アルゴリズムを用いて実施してよい。関連するペプチドの同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。そのような方法には、それだけに限らないが、全体が参照により本明細書に組み込まれるComputational Molecular Biology,Lesk,A.M.編、Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.編、Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,パート1,Griffin,A.M.およびGriffin,H.G.編、Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.およびDevereux,J.編、M.Stockton Press,New York,1991;ならびにCarilloら、SIAM J.Applied Math.48,1073ページ(1988)に記載された方法が含まれる。
【0087】
本明細書で用いる場合、本明細書で相互交換可能に用いられる用語「変異型遺伝子」または「変異した遺伝子」は、検出可能な変異を受けた遺伝子を指す。変異型遺伝子は、遺伝子の正常な伝達および発現に影響する遺伝材料の喪失、獲得、または交換等の変更を受けている。本明細書で用いる「破壊された遺伝子」は、早過ぎる終止コドンを惹起する変異を有する変異型遺伝子を指す。破壊された遺伝子産物は、破壊されていない完全長の遺伝子産物に対して切り取られている。
【0088】
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子外改変のモジュレーター」は、遺伝子外改変を介して(例えばヒストンのアセチル化もしくはメチル化、または標的遺伝子の制御エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、または転写開始部位におけるDNAのメチル化を介して)遺伝子発現を標的とする薬剤を指す。クロマチンのリモデリングおよびDNAのメチル化は、遺伝子転写を制御する2つの主要な機構である。特定の遺伝子外マーク(例えばDNAのメチル化)は、構造的または生化学的に遺伝子の転写または遺伝子のサイレンシング/抑制を指令する。例えば、転写活性を制御する領域のDNAのメチル化は、基礎となるDNA配列を変更することなく遺伝子発現を変化させる。遺伝子外改変(例えばDNAのメチル化)を用いる転写制御は、他の遺伝子産物の発現に影響することなく、遺伝子発現の標的化された調節を可能にする。
【0089】
本明細書で用いる用語「非相同末端結合(NHEJ)経路」は、相同鋳型を必要とせずに切断末端を直接ライゲートすることによってDNAの二本鎖切断を修復する経路を指す。NHEJによるDNA末端の鋳型に依存しない再ライゲーションは、DNAの切断点にランダムなミクロ挿入およびミクロ欠失(インデル)を導入する確率論的で誤差を生じやすい修復プロセスである。この方法は、標的とされた遺伝子配列のリーディングフレームを意図的に破壊、欠失、または変化させるために用いられる。NHEJは、典型的には修復をガイドするマイクロホモロジーと称される短い相同のDNA配列を用いる。これらのマイクロホモロジーは、多くの場合、二本鎖切断の末端の一本鎖オーバーハングに存在する。オーバーハングが完全に適合する場合には、NHEJは通常、切断を正確に修復するが、ヌクレオチドの喪失をもたらす不完全な修復も起こり得る。しかしこれはオーバーハングが適合しない場合により一層一般的である。
【0090】
本明細書で用いる用語「正常な遺伝子」は、遺伝材料の喪失、獲得、または交換等の変更を受けていない遺伝子を指す。正常な遺伝子は正常な遺伝子伝達および遺伝子発現を受ける。
【0091】
本明細書で用いる用語「ヌクレアーゼ媒介NHEJ」は、cas9等のヌクレアーゼが二本鎖DNAを切断した後で開始されるNHEJを指す。
【0092】
本明細書で用いる場合、本明細書で用いる用語「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、一緒に共有的に連結された少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。一本鎖の描写は相補鎖の配列も画定する。即ち、核酸は描写された一本鎖の相補鎖も包含する。核酸の多くのバリアント(variant)を、所与の核酸として同じ目的のために用いてよい。即ち、核酸は実質的に同一の核酸およびその相補体も包含する。一本鎖は、厳格なハイブリダイゼーション条件の下で標的配列にハイブリダイズし得るプローブを提供する。即ち、核酸は、厳格なハイブリダイゼーション条件の下でハイブリダイズするプローブも包含する。核酸は一本鎖でも二本鎖でもよく、二本鎖および一本鎖の配列の両方の部分を含んでもよい。核酸はゲノムDNAとcDNAの両方であるDNA、RNA、またはハイブリッドであってもよく、核酸はデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの組合せならびにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、およびイソグアニンを含む組合せを含んでよい。核酸は化学合成法または組換え法によって得てよい。
【0093】
本明細書で用いる場合、用語「作動可能に連結された」は、2つ以上の目的の生物学的配列が、意図した様式で機能することを可能にする関係にあるように、スペーサーまたはリンカーを伴い、または伴わずに、並置されることを指す。ポリペプチドに関して用いられる場合、これは、連結された産生物が意図した生物学的機能を有することを可能にするようにポリペプチド配列が連結されていることを意味することを意図している。ポリヌクレオチドに関して用いられる場合、1つの例として、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが制御配列(例えばプロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列、その他)と作動可能に連結されている場合、これはポリヌクレオチド配列が、そのポリヌクレオチドからのポリペプチドの制御された発現を可能にするように連結されていることを意味することを意図している。一部の実施形態では、遺伝子の発現は、それが空間的に接続されているプロモーターの制御下にある。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)または3’(下流)にあり得る。プロモーターと遺伝子との間の距離は、それからプロモーターが誘導される遺伝子における、そのプロモーターとそれが制御する遺伝子との間の距離とほぼ同じであり得る。当技術で知られているように、この距離の変動は、プロモーター機能の喪失を伴わずに適応され得る。
【0094】
本明細書で用いる用語「部分的機能性」は、変異型遺伝子によってコードされ、機能性タンパク質より低いが、非機能性タンパク質よりは高い生物学的活性を有するタンパク質を記述している。一実施形態では、部分的機能性タンパク質は、対応する機能性タンパク質の生物学的活性の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、または30%未満の生物学的活性を示す。
【0095】
本明細書で相互交換可能に用いられる用語「早過ぎる終止コドン」または「アウトオブフレーム終止コドン」は、DNAの配列におけるナンセンス変異を指し、これは野生型遺伝子では通常見られない位置に終止コドンをもたらす。早過ぎる終止コドンは、タンパク質の完全長のバージョンと比較して、切り取られたまたは短いタンパク質を惹起し得る。
【0096】
本明細書で用いる用語「プロモーター」は、細胞内で核酸の発現を付与、活性化、または増強することができる合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに増強し、ならびに/または核酸の空間的な発現および/もしくは時間的な発現を変化させる、1つまたは複数の特定の転写制御配列を含んでよい。プロモーターは、遠位のエンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含むことがあり、これらは転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置することもある。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、および動物を含む源から誘導され得る。プロモーターは、構成的に、または発現が生じる細胞、組織、もしくは臓器に関して、または発現が生じる発達段階に関して、または生理学的ストレス、病原体、金属イオン、もしくは誘起剤等の外部刺激に応じて差別的に、遺伝子成分の発現を制御し得る。プロモーターの代表的な例には、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレータープロモーター、tacプロモーター、SV40レートプロモーター、SV40アーリープロモーター、RSV-LTRプロモーター、およびCMV IEプロモーターが含まれる。
【0097】
本明細書で用いる用語「標的遺伝子」は、既知または想定上の遺伝子産物をコードする任意のヌクレオチド配列を指す。標的遺伝子は遺伝的な疾患または障害に関与する変異した遺伝子であり得る。
【0098】
本明細書で用いる用語「標的領域」は、部位特異的ヌクレアーゼが結合するように設計された標的遺伝子の領域を指す。
【0099】
本明細書で用いる場合、用語「トランスジーン」は、1つの生命体から単離され、別の生命体に導入される遺伝子配列を含む遺伝子または遺伝材料を指す。あるいは、用語「トランスジーン」は、化学的に合成されて生命体に導入される遺伝子または遺伝材料も指す。このDNAの非天然セグメントは、トランスジェニックな生命体においてRNAまたはタンパク質を産生する能力を保持し得るか、またはトランスジェニックな生命体の遺伝コードの正常な機能を変化させ得る。トランスジーンの導入は、生命体の表現型を変更させる可能性を有している。
【0100】
本明細書で用いる場合、用語「バリアント」は、核酸に関連して用いられる場合には、(i)言及したヌクレオチド配列の一部または断片、(ii)言及したヌクレオチド配列またはその一部の相補体、(iii)言及した核酸またはその相補体と実質的に同一の核酸、または(iv)言及した核酸、その相補体、またはそれと実質的に同一の配列と厳格な条件下でハイブリダイズする核酸を意味する。アミノ酸の挿入、欠失、または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるペプチドまたはポリペプチドに関する「バリアント」は、しかし少なくとも1つの生物学的活性を保持している。
【0101】
バリアントは、少なくとも1つの生物学的活性を保持したアミノ酸配列を有する言及したタンパク質と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質も意味し得る。アミノ酸の保存的置換、即ち、アミノ酸を同様の特性(例えば親水性、荷電領域の程度および分布)を有する異なるアミノ酸で置き換えることは、当技術において典型的には軽微な変更を含むと認識される。これらの軽微な変更は、当技術で理解されているように、アミノ酸のハイドロパシー指数を考慮することによって部分的に同定され得る。全体が参照により本明細書に組み込まれるKyteら、J.Mol.Biol.157:105~132ぺージ(1982)。アミノ酸のハイドロパシー指数は、その疎水性および電荷の考慮に基づいている。同様のハイドロパシー指数を有するアミノ酸は置換され、それでもタンパク質の機能を保持していることが当技術で知られている。一態様では、±2のハイドロパシー指数を有するアミノ酸は置換される。生物学的機能を保持したタンパク質をもたらす置換を明らかにするためにアミノ酸の親水性も用いられる。ペプチドに関連してアミノ酸の親水性を考慮することによって、そのペプチドの最大局所平均親水性の計算が可能になる。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸について実施され得る。アミノ酸の疎水性指数と親水性値はいずれも、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響される。その観察と一致して、生物学的機能と適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、サイズ、およびその他の特性によって明らかになるように、アミノ酸の相対的な類似性、特にそれらのアミノ酸の側鎖に依存すると理解されている。
【0102】
本明細書で用いる場合、本明細書で用いる用語「ベクター」は、複製の起点を含む核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体、または酵母人工染色体であってよい。ベクターはDNAまたはRNAベクターであってよい。ベクターはDNAプラスミド等の自己複製型の染色体外ベクターであってよい。
【0103】
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子導入」、「遺伝子デリバリー」、および「遺伝子形質導入」は、特定のヌクレオチド配列(例えばDNAまたはRNA)、融合タンパク質、ポリペプチド等を標的細胞に確実に挿入するための方法またはシステムを指す。
【0104】
本明細書で用いる場合、用語「アデノウイルス随伴ウイルス(AAV)ベクター」、「AAV遺伝子治療ベクター」、および「遺伝子治療ベクター」は、機能性または部分的機能性ITR配列およびトランスジーンを有するベクターを指す。本明細書で用いる場合、用語「ITR」は、反転ターミナルリピート(ITR)を指す。ITR配列は、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、およびAAV-6を限定なく含む、アデノ随伴ウイルス血清型から誘導され得る。しかしITRは野生型ヌクレオチド配列でなくてもよく、配列が機能的レスキュー、複製、およびパッケージングを提供する機能を保持している限り、変化してもよい(例えばヌクレオチドの挿入、欠失、または置換によって)。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子の1つまたは複数、好ましくはrepおよび/またはcap遺伝子が全体としてまたは部分的に欠失していてもよいが、隣接する機能性ITR配列を保持している。機能性ITR配列は、例えばAAVのビリオンまたは粒子をレスキューし、複製し、パッケージングするように機能する。即ち、「AAVベクター」は、本明細書でトランスジーンを対象の細胞に挿入するために必要な配列を少なくとも含むと定義される。ウイルスの複製およびパッケージングのためにシスで必要な配列(例えば機能性ITR)が含まれてもよい。
【0105】
本明細書で用いる場合、用語「遺伝子治療」は、ポリペプチドまたは核酸配列が患者の細胞に移入され、それにより、特定の遺伝子の活性および/または発現が調節される、患者を処置する方法を指す。ある特定の実施形態では、遺伝子の発現が抑制される。ある特定の実施形態では、遺伝子の発現が増強される。ある特定の実施形態では、遺伝子の発現の時間的または空間的なパターンが調節される。
【0106】
「トランスジーン」は、トランスジェニックな配列または天然もしくは野生型のDNA配列を含み得る。トランスジーンは、霊長類対象のゲノムの一部になり得る。トランスジェニックな配列は、部分的にまたは全体として異種であってよい。即ち、トランスジェニックな配列またはその一部は、それが導入される細胞とは異なる種に由来してよい。
【0107】
本明細書で用いる場合、用語「安定的に維持された」は、細胞の多数の世代を通してそれらのトランスジェニックな要素(即ち所望の要素)の少なくとも1つを維持したトランスジェニックな対象(例えばヒトまたは非ヒト霊長類)の特徴を指す。例えば、この用語は、もともとトランスフェクトされた細胞の多くの細胞分裂サイクルを包含することを意図している。用語「安定なトランスフェクション」または「安定的にトランスフェクトされた」は、細胞のゲノムへの外来DNAの導入および一体化を指す。用語「安定なトランスフェクタント」は、ゲノムDNAに安定的に一体化された外来DNAを有する細胞を指す。
【0108】
本明細書で用いる場合、用語「トランスジーンコーディング」、「核酸分子コーディング」、「DNA配列コーディング」、および「DNAコーディング」は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順序または配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドの順序は、例えばポリペプチド(タンパク質)の鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定し得る。即ち、DNA配列はアミノ酸配列をコードし得る。
【0109】
本明細書で用いる場合、用語「野生型」(wt)は、天然に存在する源から単離された際にその遺伝子または遺伝子産物の特徴を有している遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、集団中で最も頻繁に観察され、したがって遺伝子の「正常な」または「野生型の」形態が任意に設計される遺伝子である。対照的に、用語「改変された」または「変異体」は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に配列および/または機能的特性の改変(即ち、変化した特徴)を呈する遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較した場合に変化した特徴の獲得によって特定される、天然に存在する変異体が単離され得ることが注目される。
【0110】
本明細書で用いる場合、用語「トランスフェクション」は、細胞による外来の核酸(例えばDNAまたはRNA)の取り込みを指す。外因性の核酸(DNAまたはRNA)が細胞膜の内部に導入された場合、細胞は「トランスフェクト」されている。当技術においていくつかのトランスフェクション手法が一般に知られている[例えば全体が参照により本明細書に組み込まれるGrahamら、Virol.,52:456ぺージ(1973);Sambrookら、Molecular Cloning,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York(1989);Davisら、Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier,(1986);およびChuら、Gene 13:197ぺージ(1981)を参照されたい]。そのような手法は、遺伝子移入ベクターおよびその他の核酸分子等の1つまたは複数の外因性DNA部分を好適な受容体細胞に導入するために用いてよい。
【0111】
本明細書で用いる場合、用語「安定なトランスフェクション」および「安定的にトランスフェクトされた」は、トランスフェクトされた細胞のゲノムへの外来DNAの導入および一体化を指す。用語「安定なトランスフェクタント」は、ゲノムDNAに安定的に一体化された外来DNAを有する細胞を指す。
【0112】
本明細書で用いる場合、用語「過渡的なトランスフェクション」または「過渡的にトランスフェクトされた」は、外来DNAがトランスフェクトされた細胞のゲノムの中に一体化されずにエピソームとして維持される、外来DNAの細胞への導入を指す。この間に、外来DNAは、染色体中の内因性遺伝子の発現を支配する規制的制御を受ける。用語「過渡的トランスフェクタント」は、外来DNAを取り込んだが、このDNAを一体化することができなかった細胞を指す。本明細書で用いる場合、用語「形質導入」は、複製欠損のウイルスベクターを介する、例えば組換えAAVビリオンを介する、インビボまたはインビトロ(in vitro)の受容体細胞へのDNA分子のデリバリーを意味する。
【0113】
本明細書で用いる場合、用語「受容体細胞」は、選択された目的のヌクレオチド配列を担持した核酸コンストラクトまたはベクターによってトランスフェクトもしくは形質導入された、またはトランスフェクトもしくは形質導入することができる細胞を指す。この用語は、選択したヌクレオチド配列が存在する限り、形態または遺伝的構成において元の親と同一であるか否かに関わらず、親細胞の子孫を含む。受容体細胞は、遺伝子治療粒子および/または遺伝子治療ベクターが投与された対象の細胞であってよい。
【0114】
本明細書で用いる場合、用語「組換えDNA分子」は、分子生物学手法によってともに結合されたDNAのセグメントからなるDNA分子を指す。
【0115】
本明細書で用いる場合、用語「制御エレメント」は、核酸配列の発現を制御することができる遺伝エレメントを指す。例えば、プロモーターは、作動可能に連結されたコーディング領域の転写の開始を容易にする制御エレメントである。その他の制御エレメントは、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終止シグナル、その他である。
【0116】
用語DNA「制御配列」は、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終止配列、上流制御ドメイン、複製の起点、内部リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー、その他等の制御エレメントを集合的に指し、これらは受容体細胞におけるコーディング配列の複製、転写、および翻訳を集合的に提供する。これらの制御配列の全てが存在する必要はない。
【0117】
真核生物中の転写制御シグナルは一般に、「プロモーター」および「エンハンサー」エレメントを含む。プロモーターおよびエンハンサーは、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用するDNA配列の短いアレイからなっている[全体が参照により本明細書に組み込まれるManiatisら、Science 236:1237ぺージ(1987)]。プロモーターおよびエンハンサーエレメントは、酵母、昆虫、および哺乳動物の細胞ならびにウイルスの遺伝子を含む多種の真核生物の源から単離されている(類似の対照配列、即ちプロモーターも、原核生物で見出されている)。特定のプロモーターおよびエンハンサーの選択は、受容体細胞の型による。一部の真核生物のプロモーターおよびエンハンサーは広い宿主範囲を有しているが、他は限定された細胞型のサブセットにおいて機能的である[例えば全体が参照により本明細書に組み込まれるVossら、Trends Biochem.Sci.,11:287ぺージ(1986);および総説としてManiatisら(上掲)を参照]。例えば、SV40アーリー遺伝子エンハンサーは、多くの哺乳動物種由来の多種の細胞型において極めて活性であり、広範囲の哺乳動物細胞内でタンパク質を発現させるために用いられてきた[全体が参照により本明細書に組み込まれるDijkemaら、EMBO J.4:761ぺージ(1985)]。ヒト伸長因子1-アルファ遺伝子 [Uetsukiら、J.Biol.Chem.,264:5791ぺージ(1989);Kimら、Gene 91:217ぺージ(1990);ならびにMizushimaおよびNagata,Nucl.Acids.Res.,18:5322ぺージ(1990)]、Rous肉腫ウイルスの長いターミナルリピート[Gormanら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 79:6777ぺージ(1982)]、ならびにヒトサイトメガロウイルス[Boshartら、Cell 41:521ぺージ(1985)]から誘導されるプロモーターおよびエンハンサーエレメントも多様な哺乳動物細胞型におけるタンパク質の発現のために有用であり、全体が参照により本明細書に組み込まれる。プロモーターおよびエンハンサーは、単独または一緒に、天然に見出すことができる。例えば、レトロウイルスの長いターミナルリピートはプロモーターとエンハンサーエレメントの両方を含む。一般にプロモーターおよびエンハンサーは転写または翻訳される遺伝子に依存しない。即ち、用いられるエンハンサーおよびプロモーターは、これらが作動可能に連結される遺伝子に関して「内因性」、「外因性」、または「異種」であってよい。「内因性」のエンハンサー/プロモーターは、ゲノム中の所与の遺伝子と天然に連結されたエンハンサー/プロモーターである。「外因性」または「異種」のエンハンサーまたはプロモーターは、その遺伝子の転写が連結されたエンハンサー/プロモーターによって指令されるように遺伝子操作(即ち分子生物学的手法)によって遺伝子に並置されたエンハンサー/プロモーターである。
【0118】
本明細書で用いられる場合、用語「組織特異的」は、核酸配列の発現が特定の細胞型または組織において実質的に大きい、プロモーター、エンハンサー等の制御エレメントまたは制御配列を指す。
【0119】
発現ベクター上の「スプライシングシグナル」の存在は、高いレベルの組換えトランスクリプトの発現をもたらすことが多い。スプライシングシグナルは、一次RNAトランスクリプトからのイントロンの除去を媒介し、スプライスドナーおよびアクセプター部位からなる[全体が参照により本明細書に組み込まれるSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1989),16.7~16.8ぺージ]。一般に用いられるスプライスドナーおよびアクセプター部位は、SV40の16S RNA由来のスプライスジャンクションである。
【0120】
転写終止シグナルは、一般にポリアデニル化シグナルの下流に見出され、数百ヌクレオチドの長さである。本明細書で用いられる用語「ポリA部位」または「ポリA配列」は、発生期のRNAトランスクリプトの終止とポリアデニル化の両方を指令するDNA配列を意味する。ポリAテイルを欠くトランスクリプトは不安定で急速に分解するので、組換えトランスクリプトの効率的なポリアデニル化が望ましい。発現ベクターにおいて利用されるポリAシグナルは、「異種」または「内因性」であってよい。内因性のポリAシグナルは、ゲノム中の所与の遺伝子のコーディング領域の3’末端に天然に見出されるシグナルである。異種ポリAシグナルは、1つの遺伝子から単離され、別の遺伝子の3’末端に作動可能に連結されたシグナルである。一般に用いられる異種ポリAシグナルは、SV40ポリAシグナルである。SV40ポリAシグナルは、237bpのBamHI/BclI制限断片上に含まれ、終止とポリアデニル化の両方を指令する(全体が参照により本明細書に組み込まれるSambrookら、上掲、16.6~16.7ぺージ)。
【0121】
本明細書で用いられる場合、用語「対象」および「患者」は本明細書で相互交換可能に用いられ、ヒトおよび非ヒト動物の両方を指す。本開示の用語「非ヒト動物」は、全ての脊椎動物、例えば哺乳動物および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類、その他を含む。
【0122】
本明細書で定義される場合、「治療有効量」または「治療有効用量」は、所望の様式でタンパク質の活性を調節するために十分な量の所望のタンパク質を産生し、それにより、臨床的介入のための緩和的なツールを提供することができる、融合タンパク質、ポリペプチド、核酸、脂質ナノ粒子、リポソーム、AAV粒子、またはビリオンの量または用量である。一部の実施形態では、本明細書に記載したトランスフェクトされた融合タンパク質、ポリペプチド、核酸、AAV粒子、またはビリオンの治療有効量または用量は、融合タンパク質/遺伝子治療コンストラクトによって標的とされる遺伝子の抑制を付与するために十分である。
【0123】
本明細書で用いられる場合、例えば障害を「処置する」という用語は、障害を有しているか、障害を有するリスクにあるか、および/または障害の症状を経験している対象(例えばヒト)が、一実施形態では、例えば本明細書に記載した融合分子もしくは融合分子をコードする核酸、および/またはgRNAもしくはgRNAをコードする核酸が投与された場合に、融合分子もしくは融合分子をコードする核酸、および/またはgRNAもしくはgRNAをコードする核酸が決して投与されなかった場合よりも重篤でない症状を有するか、および/または早く回復することを意味する。
【0124】
II.DNA結合性タンパク質
本開示によって本明細書で定義される方法および組成物におけるある特定の実施形態では、DNA結合性タンパク質(例えばDNA標的剤)は、(DNA)ヌクレアーゼ、例えば配列特異的な様式でDNAを標的とすることができるか、または配列特異的な様式でDNAを標的とするように指令または指示することができるヌクレアーゼ、例えばCRISPR-Casシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、またはメガヌクレアーゼを含む。一部の実施形態では、DNA結合性タンパク質は、CRISPR-Casシステムから誘導されるDNAヌクレアーゼである。
【0125】
転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システム
ある特定の実施形態では、核酸結合性タンパク質は、(改変された)転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システムである。転写アクチベーター様エフェクター(TALE)は、実際上任意の所望のDNA配列に結合するように操作することができる。TALENシステムを用いるゲノム編集の例示的な方法は、例えばそれぞれ全体が参照により組み込まれるCermak T.Doyle EL.Christian M.Wang L.Zhang Y.Schmidt Cら、Efficient design and assembly of custom TALEN and other TAL effector-based constructs for DNA targeting.Nucleic Acids Res.2011;39:e82ページ;Zhang F.Cong L.Lodato S.Kosuri S.Church GM.Arlotta P Efficient construction of sequence-specific TAL effectors for modulating mammalian transcription.Nat Biotechnol.2011;29:149~153ぺージ、ならびに米国特許第8,450,471号、第8,440,431号、および第8,440,432号で見出すことができる。
【0126】
さらなるガイダンスとして限定なく、天然に存在するTALEまたは「野生型TALE」は、数多くのプロテオバクテリアの種によって分泌される核酸結合性タンパク質である。TALEポリペプチドは、主として33、34、または35個のアミノ酸の長さで主としてアミノ酸の12位および13位で互いに異なる高度に保存されたモノマーポリペプチドのタンデムリピートからなる核酸結合ドメインを含む。一部の実施形態では、核酸はDNAである。
【0127】
本明細書で用いられる場合、用語「ポリペプチドモノマー」または「TALEモノマー」は、TALE核酸結合ドメインの中の高度に保存された反復ポリペプチド配列を指すために用いられ、用語「リピート可変二残基」または「RVD」は、ポリペプチドモノマーの12位および13位の高度に可変なアミノ酸を指すために用いられることになる。
【0128】
本開示を通して提供されるように、RVDのアミノ酸残基は、アミノ酸のIUPAC一文字コードを用いて表される。DNA結合ドメインの中に含まれるTALEモノマーの一般的な表示は、X1-11-(X12X13)-X14-33または34または35であり、ここで数字(subscript)はアミノ酸の位置を示し、Xは任意のアミノ酸を表す。X12X13はRVDを示す。一部のポリペプチドモノマーでは、13位の可変アミノ酸は失われているか存在せず、そのようなポリペプチドモノマーではRVDは単一のアミノ酸からなる。そのような場合には、RVDはその代わりにX*として表してよく、ここでXはX12を表し、(*)はX13が存在しないことを示す。DNA結合ドメインはTALEモノマーのいくつかの繰り返しを含み、これは[X1-ll-(X12X13)-X14-33または34または35]zとして表される。ここで有利な実施形態では、zは少なくとも5~40である。さらに有利な実施形態では、zは少なくとも10~26である。TALEモノマーは、そのRVDにおけるアミノ酸の同一性によって決定されるヌクレオチド結合親和性を有している。例えば、NIのRVDを有するポリペプチドモノマーはアデニン(A)に優先的に結合し、NGのRVDを有するポリペプチドモノマーはチミン(T)に優先的に結合し、HDのRVDを有するポリペプチドモノマーはシトシン(C)に優先的に結合し、NNのRVDを有するポリペプチドモノマーはアデニン(A)とグアニン(G)の両方に優先的に結合する。本開示のさらに別の実施形態では、IGのRVDを有するポリペプチドモノマーはTに優先的に結合する。即ち、TALEの核酸結合ドメインにおけるポリペプチドモノマーリピートの数および順序が、その核酸標的特異性を決定する。本開示のさらなる実施形態では、NSのRVDを有するポリペプチドモノマーは4つの塩基対全てを認識し、A、T、G、またはCに結合し得る。TALEの構造および機能は、例えばそれぞれ全体が参照により組み込まれるMoscouら、Science 326:1501ぺージ(2009);Bochら、Science 326:1509~1512ページ(2009);およびZhangら、Nature Biotechnology 29:149~153ぺージ(2011)にさらに記載されている。ある特定の実施形態では、標的化はポリ核酸結合TALEN断片によって達成される。ある特定の実施形態では、標的ドメインは、触媒的に不活性なTALENまたはその核酸結合断片を含むかまたはからなる。
【0129】
Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システム
ある特定の実施形態では、標的ドメインは、(改変された)ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システムを含むかまたはからなる。ZFNシステムは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインを所望のDNA配列を標的とするように操作することができるDNA切断ドメインに融合することによって生成される人工の制限酵素を用いる。ZFNを用いるゲノム編集の例示的な方法は、例えばそれぞれ全体が参照により組み込まれる米国特許第6,534,261号、第6,607,882号、第6,746,838号、第6,794,136号、第6,824,978号、第6,866,997号、第6,933,113号、第6,979,539号、第7,013,219号、第7,030,215号、第7,220,719号、第7,241,573号、第7,241,574号、第7,585,849号、第7,595,376号、第6,903,185号、および第6,479,626号で見出すことができる。さらなるガイダンスとして限定なく、人工のジンクフィンガー(ZF)技術は、ゲノム中の新規なDNA結合部位を標的とするZFモジュールのアレイを含む。ZFアレイ中のそれぞれのフィンガーモジュールは、3つのDNA塩基を標的とする。個別のジンクフィンガードメインのカスタム化されたアレイは、ZFタンパク質(ZFP)に組み立てられる。ZFPは機能性ドメインを含んでよい。最初の合成ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ZFタンパク質をIIS型制限酵素FokIの触媒ドメインに融合することによって開発された(Kim,Y.G.ら、1994,Chimeric restriction endonuclease,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 91,883~887ぺージ;Kim,Y.G.ら、1996,Hybrid restriction enzymes:zinc finger fusions to FokI cleavage domain.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 93,1156~1160ぺージ)。切断特異性の増大は、それぞれが短いスペーサーによって分離された異なるヌクレオチド配列を標的とするZFNヘテロダイマーの対を使用することによって、オフターゲット活性の低下とともに達成することができる。(Doyon,Y.ら、2011,Enhancing zinc-finger-nuclease activity with improved obligate heterodimeric architectures.Nat.Methods 8,74~79ぺージ)。ZFPは転写アクチベーターおよびリプレッサーとして設計することもでき、多種の生命体において多くの遺伝子を標的とするために用いられてきた。ある特定の実施形態では、標的ドメインは、核酸結合性ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはその核酸結合性断片を含むかまたはからなる。ある特定の実施形態では、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(の断片)に結合する核酸は触媒的に不活性である。
【0130】
メガヌクレアーゼ
ある特定の実施形態では、標的ドメインは(改変された)メガヌクレアーゼを含み、これは大きな認識部位(12~40塩基対の二本鎖DNA配列)によって特徴付けられるエンドデオキシリボヌクレアーゼである。メガヌクレアーゼを用いる例示的な方法は、それぞれ全体が参照により組み込まれる米国特許第8,163,514号、第8,133,697号、第8,021,867号、第8,119,361号、第8,119,381号、第8,124,369号、および第8,129,134号で見出すことができる。ある特定の実施形態では、標的化はポリ核酸結合性メガヌクレアーゼ断片によって達成される。ある特定の実施形態では、標的化はポリ核酸結合性で触媒的に不活性のメガヌクレアーゼ(断片)によって達成される。したがって特定の実施形態では、標的ドメインは核酸結合性メガヌクレアーゼまたはその核酸結合性断片を含むかまたはからなる。
【0131】
CRISPR-Casシステム
一部の実施形態では、本開示のDNA結合性タンパク質およびシングルガイドRNA配列は、CRISPR-Casシステムから誘導される。本開示は、ゲノム編集および遺伝疾患の処置における使用のための、CRISPR/Cas9に基づいて操作されるシステムを提供する。CRISPR/Cas9に基づく操作されたシステムは、遺伝疾患、肝疾患、およびLDL等のコレステロールの調節異常に関与する遺伝子を含む任意の遺伝子(例えばVEGF)を標的とするように設計してよい。本開示は、所望の特異性および活性(例えばVEGF遺伝子産物の発現を低減または排除すること)を有する、遺伝子操作されたCasタンパク質および/またはガイドRNAを含むCRISPR-Casシステムを提供する。CRISPR/Cas9系システムは、Cas9タンパク質、変異したCas9タンパク質、またはCas9融合タンパク質[例えばDNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB融合分子]および少なくとも1つのsgRNA(例えばVEGF sgRNA)を含んでよい。Cas9融合タンパク質は、Cas9に内在的であるものとは異なる活性を有するドメイン(例えばDNMT3A、DNMT3L、またはKRAB)を含んでよい。
【0132】
一般に、Casタンパク質(本明細書でCRISPRタンパク質、CRISPR酵素、CRISPR-Casタンパク質、CRISPR-Cas酵素、Cas、CRISPRエフェクター、またはCasエフェクタータンパク質と相互交換可能に用いられる)および/またはガイド配列が、CRISPR-Casシステムの成分である。CRISPR-CasシステムまたはCRISPRシステムは集合的に、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはその活性の指令に関与するトランスクリプトおよびその他のエレメントを指し、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(転写活性化CRISPR)配列(例えばtracrRNAまたは活性部分tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性CRISPRシステムに関連する「ダイレクトリピート」およびtracrRNA処理された部分ダイレクトリピートを包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムに関連して「スペーサー」とも称される)、またはここで用いられる用語としての「RNA」[例えばCasをガイドするRNA、例えばCRISPR RNAおよび転写活性化(tracr)RNA、またはシングルガイドRNA(別名sgRNA、キメラRNA)]、またはCRISPR遺伝子座由来のその他の配列およびトランスクリプトを含む。
【0133】
一般に、CRISPRシステムは、標的配列(内因性CRISPRシステムに関連してプロトスペーサーとも称される)の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントによって特徴付けられる。本開示の操作されたシステムにおいて、ダイレクトリピートは、天然に存在する配列または天然に存在しない配列を包含し得る。本開示のダイレクトリピートは、天然に存在する長さおよび配列に限定されない。さらに、本開示のダイレクトリピートは、アプタマーまたはアダプタータンパク質に結合する配列等のヌクレオチドの挿入を含んでよい(機能性ドメインとの会合のため)。ある特定の実施形態では、挿入等を含むダイレクトリピートの一端は短いDRのほぼ前半部分であり、末端は短いDRのほぼ後半部分である。
【0134】
CRISPR複合体の形成に関連して、「標的配列」または「標的ポリヌクレオチド」は、それに対してガイド配列が相補性を有するように設計される配列を指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。標的配列は任意のポリヌクレオチド、例えばDNAまたはRNAポリヌクレオチドを含んでよい。一部の実施形態では、標的配列は細胞の核または細胞質に位置している。
【0135】
一般に、ガイド配列(またはスペーサー配列)は、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体の標的配列への配列特異的な結合を指令するために十分な標的ポリヌクレオチド配列との相補性(例えば完全な相補性)を有する任意のポリヌクレオチド配列であってよい。一部の実施形態では、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適な整列アルゴリズムを用いて最適に整列させた場合、約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上である。
【0136】
ある特定の実施形態では、切断効率の調節は、ミスマッチ、例えばスペーサー/標的に沿ったミスマッチの位置を含めて、スペーサー配列と標的配列との間の1つまたは2つのミスマッチ等の、1つまたは複数のミスマッチの導入によって利用することができる。二重のミスマッチが例えばより中央部(即ち3’または5’ではなく)にあれば、切断効率がより大きく影響される。したがって、ミスマッチの位置をスペーサーに沿って選択することによって、切断効率を調節することができる。例として、標的の100%未満の切断が望ましい場合(例えば細胞集団において)には、スペーサーと標的配列との間の1つまたは複数、例えば好ましくは2つのミスマッチをスペーサー配列に導入してよい。ミスマッチの位置がスペーサーに沿ってより中心にあれば、切断パーセンテージはより低くなる。
【0137】
CRISPR-Casシステムまたはその成分を、標的の遺伝子座または核酸配列に1つまたは複数の変異を導入するために用いてよい。変異は、細胞のそれぞれの標的配列におけるガイドRNAまたはsgRNAを介する1つまたは複数のヌクレオチドの導入、欠失、または置換を含んでよい。変異は、前記細胞のそれぞれの標的配列におけるガイドRNAを介する1~75ヌクレオチドの導入、欠失、または置換を含んでよい。
【0138】
典型的には、内因性CRISPR-Casシステムに関連して、CRISPR複合体(標的配列とハイブリダイズし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合したガイド配列を含む)の形成は、標的配列の中またはその近傍(例えば標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれ以上の塩基対以内)における切断をもたらすが、特にRNA標的の場合には、例えば二次構造に依存することがある。一部の場合には、内因性CRISPRシステムに関連して、CRISPR複合体(標的配列とハイブリダイズし、1つまたは複数のCasタンパク質と複合したガイド配列を含む)の形成は、標的配列の中またはその近傍(例えば標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれ以上の塩基対以内)における1つまたは両方の鎖(適用可能であれば)の切断をもたらす。
【0139】
一部の実施形態では、ガイドRNA(Casを標的遺伝子座にガイドすることができる)は、(1)真核細胞内で標的遺伝子座(ポリヌクレオチド標的遺伝子座、例えばRNA標的遺伝子座)とハイブリダイズすることができるガイド配列、(2)ダイレクトリピート(DR)配列を含んでよく、これらは単一のRNA、即ちsgRNA(5’から3’への配向で配置された)またはcrRNAの中に存在する。
【0140】
本開示の実施において全て有用な、方法、材料、デリバリー媒体、ベクター、粒子、AAV、ならびにそれらの作製および使用を含み、量および処方を含む、CRISPR-Casシステム、その成分、およびそれらの成分のデリバリーに関する一般的な情報に関しては、それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,999,641号、第8,993,233号、第8,945,839号、第8,932,814号、第8,906,616号、第8,895,308号、第8,889,418号、第8,889,356号、第8,871,445号、第8,865,406号、第8,795,965号、第8,771,945号、および第8,697,359号、米国特許公開2014-0310830、2014-0287938 A1、2014-0273234 A1、2014-0273232 A1、2014-0273231 A1、2014-0256046 A1、2014-0248702 A1、2014-0242700 A1、2014-0242699 A1、2014-0242664 A1、2014-0234972 A1、2014-0227787 A1、2014-0189896 A1、2014-0186958、2014-0186919 A1、2014-0186843 A1、2014-0179770 A1、および2014-0179006 A1、2014-0170753、欧州特許2784162 B1および2771468 B1、欧州特許出願2771468、2764103、および2784162、ならびにPCT特許公開WO 2021/183807A1(PCT/US2021/021973)、WO 2014/093661(PCT/US2013/074743)、WO 2014/093694(PCT/US2013/074790)、WO 2014/093595(PCT/US2013/074611)、WO 2014/093718(PCT/US2013/074825)、WO 2014/093709(PCT/US2013/074812)、WO 2014/093622(PCT/US2013/074667)、WO 2014/093635(PCT/US2013/074691)、WO 2014/093655(PCT/US2013/074736)、WO 2014/093712(PCT/US2013/074819)、WO 2014/093701(PCT/US2013/074800)、WO 2014/018423(PCT/US2013/051418)、WO 2014/204723(PCT/US2014/041790)、WO 2014/204724(PCT/US2014/041800)、WO2014/204725(PCT/US2014/041803)、WO 2014/204726(PCT/US2014/041804)、WO 2014/204727(PCT/US2014/041806)、WO 2014/204728(PCT/US2014/041808)、WO 2014/204729(PCT/US2014/041809)を参照する。
【0141】
Casタンパク質
Casタンパク質(例えば操作されたCasタンパク質)は、野生型カウンターパートのCasタンパク質と実質的に同一の(例えば80%~100%、90%~100%、95%~100%、98%~100%、99%~100%、99.9%~100%、または約100%の)ヌクレアーゼ活性を有し得る。ある特定の場合には、操作されたCasタンパク質は、野生型カウンターパートのCasタンパク質より高い(例えば少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%高い)ヌクレアーゼ活性を有している。
【0142】
あるいはまたはさらに、Casタンパク質(例えば操作されたCasタンパク質)は、野生型のカウンターパートCasタンパク質より少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%高い特異性を有し得る。特定の例では、Casタンパク質(例えば操作されたCasタンパク質)は、野生型のカウンターパートCasタンパク質より少なくとも30%高い特異性を有し得る。本明細書で用いられる場合、Casの用語「特異性」は、オンターゲットおよびオフターゲットの事象を含む全てのポリヌクレオチド切断事象の数またはパーセンテージに対するオンターゲットのポリヌクレオチド切断事象の数またはパーセンテージに対応し得る。Casタンパク質の活性および特異性は、これもCasタンパク質の活性および特異性を検出するための方法の例を記載し、全体が参照により本明細書に組み込まれ、本明細書の他の箇所に詳細を記載した、Hsu PDら、DNA targeting specificity of RNA-guided Cas9 nucleases,Nat Biotechnol.2013 Sep;31(9):827~832ぺージ;およびSlaymaker IMら、Rationally engineered Cas9 nucleases with improved specificity,Science.2016 Jan l;351(6268):84~88ぺージに記載されたものと一致している。
【0143】
一部の実施形態では、Casタンパク質(例えばそのRuvCドメイン)は、1塩基だけ上流に(PAMに関して)スライドして付着切断を産生する。これは満たされて単一塩基の複製(即ち+1の挿入)をもたらし得る。+1挿入位置の例は、Zuo,Z.およびLiu,J.(2016).Cas9-catalyzed DNA Cleavage Generates Staggered Ends:Evidence from Molecular Dynamics Simulations.Scientific Reports 6,37584ぺージに記載されている。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質は、野生型カウンターパートのCasタンパク質と異なる+1挿入頻度を有する。例えば、グアニンがPAMに関して-2位に存在する場合の+1挿入頻度は、チミジン、シチジン、またはアデニンがPAMに関して-2位に存在する場合の+1挿入頻度より高い。一部の場合には、+1挿入はヒト細胞内の宿主機構による。一部の例では、Casタンパク質は付着切断を生成し得る。付着切断は1bpまたは1ヌクレオチドの5’オーバーハングであってよい。付着切断は1bpまたは1ヌクレオチドの3’オーバーハングであってよい。
【0144】
Casをコードする核酸分子は、コドン最適化してよい。コドン最適化配列の例は、この例において真核生物、例えばヒト(即ちヒトにおける発現のために最適化されている)、または本明細書で論じる別の真核生物、動物または哺乳動物における発現のために最適化された配列である。例えばWO 2014/093622(PCT/US2013/074667)におけるSaCas9ヒトコドン最適化配列を参照されたい。これは好ましいが、他の例も可能であることが認識され、ヒト以外の宿主種のためのコドン最適化、または特定の臓器のためのコドン最適化が知られている。一部の実施形態では、Casをコードする酵素コーディング配列は、真核生物細胞等の特定の細胞内での発現のためにコドン最適化される。真核生物細胞は、本明細書で論じるヒトまたは非ヒト真核生物、または動物もしくは哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、家畜、または非ヒト哺乳動物もしくは霊長類を含むがそれらに限らない哺乳動物等の特定の生命体の細胞であるか、それらから誘導されてよい。一部の実施形態では、人類の生殖細胞系の遺伝的同一性を改変するためのプロセスおよび/またはヒトもしくは動物への実質的な医学的恩恵を何ら伴わずに苦痛を与える可能性がある、動物の遺伝的同一性を改変するためのプロセス、ならびにこれらのプロセスに起因する動物は、除外してよい。一般に、コドン最適化は、天然のアミノ酸配列を維持しながら、天然の配列の少なくとも1つのコドン(例えば約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、またはそれ以上のコドン)を、その宿主細胞の遺伝子中でより頻繁にまたは最も頻繁に用いられるコドンで置き換えることによって、目的の宿主細胞内での発現を増強するために核酸配列を改変するプロセスを指す。多様な種が特定のアミノ酸のある特定のコドンへの特定の偏りを呈する。コドンの偏り(生命体の間でのコドンの使用の相違)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率と相関することが多く、これは(in tum)とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。細胞内の選択されたtRNAの優位性は一般に、ペプチド合成において最も頻繁に用いられるコドンの反映である。したがって、遺伝子は、所与の生命体においてコドン最適化に基づいて最適の遺伝子発現のために調整することができる。コドン使用表は、例えばwww.kazusa.orjp/codon/で入手できる「Codon Usage Database」で容易に入手することができ、これらの表はいくつかの方法で適応させることができる。Nakamura,Y.ら、「Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000」Nucl.Acids Res.28:292ぺージ(2000)を参照されたい。特定の宿主細胞内での発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムも利用可能で、例えばGene Forge(Aptagen社;Jacobus,PA)も利用可能である。一部の実施形態では、Casをコードする配列中の1つまたは複数のコドン(例えば1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、もしくはそれ以上、または全てのコドン)は、特定のアミノ酸について最も頻繁に用いられるコドンに対応している。
【0145】
一部の実施形態では、Casタンパク質は核酸切断活性を有し得る。Casタンパク質はRNA結合およびDNA切断の機能を有し得る。一部の実施形態では、Casは、標的配列の位置またはその近傍での、例えば標的配列の中および/もしくは標的配列の相補体の中での、または標的配列に付随する配列での、例えば標的配列の最初もしくは最後のヌクレオチドから約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500、もしくはそれ以上の塩基対の中での、1つまたは複数の核酸鎖の切断を指令し得る。一部の実施形態では、Casタンパク質は、標的配列の中での、および/または標的配列の相補体の中もしくは標的配列に付随する配列での、および/または標的配列の最初もしくは最後のヌクレオチドから約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500、もしくはそれ以上の塩基対の中での、1つもしくは2つの鎖の2つ以上の切断[例えば1つ(one)、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の切断]を指令し得る。一部の実施形態では、切断はブラントであってよく、即ち平滑末端を生成してよい。一部の実施形態では、切断はスタガードであってよく、即ち粘着末端を生成してよい。
【0146】
一部の実施形態では、ベクターは、対応する野生型酵素に対して変異することがある、核酸を標的とするCasタンパク質をコードし、それにより、核酸を標的とする変異したCasタンパク質は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの1つまたは2つの鎖を切断する能力を欠いている。例えば、全てのDNA切断活性を実質的に欠く変異したCasを産生するHNHドメインの変化または変異であり、例えば、変異した酵素のDNA切断活性は、非変異形の酵素の核酸切断活性の約25%、10%、5%、1%、0.1%、0.01%、またはそれ未満を超えない。例としては、変異形の核酸切断活性が全くないか、または非変異形と比較して無視できる程度である場合がある。本明細書で用いられる場合、酵素に関する用語「誘導された」は、誘導された酵素が高度の配列相同性を有しているという意味で主として野生型酵素に基づいているが、当技術で既知の方法または本明細書に記載した方法で変異している(改変されている)ことを意味する。
【0147】
典型的には、内因性の核酸標的システムに関連して、核酸標的複合体(標的配列とハイブリダイズし、核酸を標的とする1つまたは複数のエフェクタータンパク質と複合体を形成したガイドRNAまたはcrRNAを含む)の形成は、標的配列の中またはその近傍(例えば標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれ以上の塩基対以内)におけるDNA鎖の切断をもたらす。本明細書で用いられる場合、用語「目的の標的遺伝子座に付随する配列」は、標的配列の近傍(例えば標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれ以上の塩基対以内、ここで標的配列は目的の標的遺伝子座の中に含まれる)の配列を指す。
【0148】
エフェクタータンパク質は酵素に基づくか酵素から誘導され、したがって一部の実施形態では用語「エフェクタータンパク質」は確かに「酵素」を含むことが認識されよう。しかし、エフェクタータンパク質は、一部の実施形態で必要とされるように、デッドCasタンパク質機能を含めて、DNAまたはRNAとの結合活性を有するが、切断または傷付けの活性を必ずしも有しなくてよいことも認識されよう。
【0149】
一部の実施形態では、Casタンパク質は、誘導システムの成分を形成し得る。システムの誘導的性質は、エネルギーの形態を用いる遺伝子編集または遺伝子発現の空間時間的制御を可能にすることになる。エネルギーの形態には、それだけに限らないが、電磁放射、音響エネルギー、化学的エネルギー、および熱エネルギーが含まれる。誘導システムの例には、テトラサイクリン誘導プロモーター(Tet-OnまたはTet-Off)、小分子2ハイブリッド転写活性化システム(FKBP、ABA、その他)、または光誘導システム(Phytochrome、LOVドメイン、またはクリプトクローム)が含まれる。一実施形態では、CRISPRエフェクタータンパク質は、配列特異的な様式で転写活性の変更を指令する光誘導転写エフェクター(LITE)の一部であってよい。光(light)の成分は、CRISPRエフェクタータンパク質、光応答性チトクロームヘテロダイマー[例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来]、および転写活性化/抑制ドメインを含んでよい。誘導可能なDNA結合性タンパク質およびそれらの使用のための方法のさらなる例は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国61/736465および61/721,283、ならびにWO 2014018423 A2で提供されている。
【0150】
一部の実施形態では、変異したCasは、低減されたオフターゲット効果、例えばガイドRNAと複合した際に標的遺伝子座への改変を達成するが、オフターゲットに向かう活性を低減または排除する使用のために改善されたCRISPR酵素、ならびに例えばガイドRNAと複合した際にCRISPR酵素の活性を増大させるために改善されたCRISPR酵素をもたらす1つまたは複数の変異を有し得る。本明細書で以下に記載する変異した酵素は本明細書の他の箇所に記載した本開示による方法のいずれにおいても用い得ることを理解されたい。本明細書の他の箇所に記載した方法、製品、組成物、および使用のいずれも、以下にさらに詳細に述べるように、変異したCRISPR酵素とともに等しく適用可能である。
【0151】
オンターゲットとオフターゲットの活性および/もしくは特異性を増大または低減させるために、またはオンターゲットとオフターゲットの結合の結合および/もしくは特異性を増大または低減させるために、種々の組合せにおいて採用することができる方法および変異は、他の効果を促進するために行なわれる変異または改変を補償または増強するために用いることができる。他の効果を促進するために行なわれるそのような変異または改変は、Casへの変異もしくは改変、および/またはガイドRNAに行なわれる変異もしくは改変を含む。本開示の方法および変異は、Casヌクレアーゼの活性および/または化学的に改変されたガイドRNAとの結合を調整するために用いられる。
【0152】
ある特定の実施形態では、本開示のCasタンパク質の触媒活性は変化または改変される。触媒活性が対応する野生型Casタンパク質(例えば変異していないCasタンパク質)の触媒活性と異なれば、変異したCasは変化したまたは改変された触媒活性を有していると理解されたい。触媒活性は、当技術で既知の手段によって決定することができる。例として限定なく、触媒活性は、インデルのパーセンテージの決定(例えば所与の時間の後、または所与の用量での)によって、インビトロまたはインビボで決定することができる。ある特定の実施形態では、触媒活性は増大する。ある特定の実施形態では、触媒活性は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%増大する。ある特定の実施形態では、触媒活性は低下する。ある特定の実施形態では、触媒活性は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、例えば少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または(実質的に)100%低下する。本明細書における1つまたは複数の変異は触媒活性を不活化することがあり、それにより、全ての触媒活性が実質的に低下し、活性が検出可能なレベル未満に低下し、または測定できない触媒活性まで低下することがある。
【0153】
操作されたCasタンパク質の1つまたは複数の特徴は、対応する野生型Casタンパク質と異なることがある。そのような特徴の例には、触媒活性、gRNA結合、Casタンパク質の特異性(例えば定義された標的の編集の特異性)、Casタンパク質の安定性、オフターゲット結合、ターゲット結合、プロテアーゼ活性、ニッカーゼ活性、PFS認識が含まれる。一部の例では、操作されたCasタンパク質は、対応する野生型Casタンパク質の1つまたは複数の変異を含んでよい。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質の触媒活性は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質の触媒活性は、対応する野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質のgRNA結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質のgRNA結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、Casタンパク質の特異性は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、Casタンパク質の特異性は、野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、Casタンパク質の安定性は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、Casタンパク質の安定性は、対応する野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質は、触媒活性を不活化する1つまたは複数の変異をさらに含む。一部の実施形態では、Casタンパク質のオフターゲット結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、Casタンパク質のオフターゲット結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、Casタンパク質の標的結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して増大している。一部の実施形態では、Casタンパク質の標的結合は、対応する野生型Casタンパク質と比較して低下している。一部の実施形態では、操作されたCasタンパク質は、対応する野生型Casタンパク質と比較して高いプロテアーゼ活性またはポリヌクレオチド結合能力を有している。一部の実施形態では、PFS認識は対応する野生型Casタンパク質と比較して変化している。
【0154】
Casタンパク質の例
Casタンパク質の例には、クラスI(例えばI型、III型、およびIV型)、およびクラス2(例えばII型、V型、およびVI型)のCasタンパク質、例えばCas9、Cas12(例えばCas12a、Cas12b、Cas12c、Cas12d)、Cas13(例えばCas13a、Cas13b、Cas13c、Cas13d)、CasX、CasY、Cas14、それらのバリアント(例えば変異形、切断形)、それらのホモログ、およびそれらのオルソログが含まれる。用語「オルソログ」および「ホモログ」は当技術で周知である。さらなるガイダンスとして、本明細書で用いられるタンパク質の「ホモログ」は、それがホモログであるタンパク質と同じまたは同様の機能を発揮する同じ種のタンパク質である。ホモログタンパク質は構造的に関連していてよいが、関連していなくてもよく、または部分的にのみ構造的に関連している。本明細書で用いられるタンパク質の「オルソログ」は、それがオルソログであるタンパク質と同じまたは同様の機能を発揮する異なる種のタンパク質である。オルソログタンパク質は構造的に関連していてよいが、関連していなくてもよく、または部分的にのみ構造的に関連している。
【0155】
クラス2 Casタンパク質
一部の実施形態では、Casタンパク質はクラス2のCasタンパク質、即ちクラス2 CRISPR-CasシステムのCasタンパク質である。クラス2 CRISPR-Casシステムは、サブタイプ、例えばII-A型、II-B型、II-C型、V-A型、V-B型、V-C型、またはV-U型であってよい。一部の実施形態では、Casタンパク質はCas9、Cas12a、Cas12b、Cas12c、またはCas12dである。一部の実施形態では、Cas9は、SpCas9、SaCas9、StCas9、およびその他のCas9オルソログであってよい。Cas12は、FnCas12aを含むCas12a、Cas12b、およびCas12c、またはそれらのホモロジーもしくはオルソログであってよい。CRISPR-Casシステムの定義および例示的なメンバーには、Kira S.MakarovaおよびEugene V.Koonin,Annotation and Classification of CRISPR-Cas systems,Methods Mol Biol.2015;1311:47~75ぺージ;およびSergey Shmakovら、Diversity and evolution of class 2 CRISPR-Cas systems,Nat Rev Microbial.2017 Mar;15(3):169~182ぺージに記載されたものが含まれる。
【0156】
Casタンパク質リンカー
一部の例では、Casタンパク質は、少なくとも1つのRuvCドメインおよび少なくとも1つのHNHドメインを含む。Casタンパク質は、RuvCドメインとHNHドメインを接続する第1および第2のリンカードメインをさらに含んでよい。Cas9においてHNHドメインとRuvCドメインを接続する第1のリンカー(L1)および第2のリンカー(L2)は、Nishimasu,H.ら、「Crystal structure of Cas9 in complex with guide RNA and target RNA」Cell 156(Feb.27,2014):935~949ぺージおよびRibeiro,L.ら、(2018)「Protein engineering strategies to expand CRISPR- Cas9 applications」International Journal of Genomics 2018巻、論文ID 1652567(doi.org/10.1155/2018/1652567)による研究に記載されている。Ribeiroの
図1は、Cas9の全体の構成、構造、および機能を示しており、参照により具体的に本明細書に組み込まれる。具体的には、
図1Aは、本明細書に記載するように、リンカーL1(アミノ酸765~780にわたる)およびL2(アミノ酸906~918にわたる)を含むHNHドメインおよびRuvCドメインの遺伝子構築を示すSpCas9のドメイン構成の概略表現を示す。
【0157】
同様に、スタフィロコッカス・アウレウスのCas9(SaCas9)のドメイン構成を、第1および第2のリンカードメインを参照する際に利用することができる。一態様では、リンカー1ドメイン領域は残基481~519にわたり、SaCas9中のRuvC-IIドメインをHNHドメインに接続している。一部の実施形態では、リンカー2領域は残基629~649にわたり、SaCas9のRuvC-IIIドメインとHNHドメインを接続している。したがって、第1および/または第2のリンカードメインは、Cas9オルソログにおいて変異していてもよく、野生型SaCas9のアミノ酸に対応するアミノ酸残基を参照してよい。参照により本明細書に組み込まれるNishimasu,Cell.2015 Aug 27;162(5):1113~1126ぺージ;doi:10.1016/j.cell.2015.08.007を参照されたい。特に、Nishimasuの
図1、S1~S3はCas9タンパク質のドメイン構成の詳細を示しており、その教示のため、参照により具体的に本明細書に組み込まれる。
【0158】
第1および第2のリンカーは、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、またはそれ以上のアミノ酸を含んでよい。第1および第2のリンカーは、野生型リンカーに対応し得る。一部の態様では、第1および第2のリンカーは、第1および/または第2のリンカーに1つまたは複数の変異を含んでよい。一態様では、第1および/または第2のリンカーは、Cas9タンパク質の特異性を改善する1つまたは複数の変異を含む。
【0159】
一部の実施形態では、Cas9のHNHドメインとRuvCドメインを接続するリンカーL1およびL2は、野生型アミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、HNHドメインとRuvCドメインを接続するリンカーは、1つまたは複数のアミノ酸に変異を含む。例としての実施形態では、第1のリンカー(L1)は、SpCas9のアミノ酸T769Iに対応する変異を含み、および/または第2のリンカー(L2)は、SpCas9のアミノ酸G915Mに対応する変異を含む。例としての実施形態では、1つまたは複数のリンカー変異、例えばT769IおよびG915Mは、Cas9タンパク質に改善された特異性を付与する。
【0160】
一実施形態では、第1および第2のリンカーにおける1つまたは複数(more)の変異は、本明細書に記載したように、特異性のさらなる改善および/または野生型Cas9タンパク質と実質的に等価な活性の保持のために、Cas9タンパク質の他の部分における1つまたは複数の変異と組み合わせてよい。一実施形態では、リンカーにおける変異および/またはCasタンパク質内のさらなる変異は、特異性を増強/改善し、野生型Cas9の(to)野生型活性を実質的に保持する、本明細書に詳細を述べた方法を利用して、同定することができる。
【0161】
クラス2、II型Casタンパク質(例えばCas9)
一部の実施形態では、Casタンパク質は、クラス2、II型のCRISPR-CasシステムのCasタンパク質(II型Casタンパク質)であってよい。一部の実施形態では、Casタンパク質は、クラス2、II型のCasタンパク質、例えばCas9であってよい。一部の実施形態では、CRISPR/Cas9系システムは、Cas9タンパク質もしくはその断片、Cas9融合タンパク質、Cas9タンパク質もしくはその断片をコードする核酸、またはCas9融合タンパク質をコードする核酸を含んでよい。「Cas9(CRISPR付随タンパク質9)は、NCBI受託番号NP_269215と少なくとも約85%のアミノ酸同一性を有し、RNA結合活性、DNA結合活性、および/またはDNA切断活性(例えばエンドヌクレアーゼまたはニッカーゼ活性)を有するポリペプチドまたはその断片を意味する。「Cas9機能」は、例えば本明細書に記載したように、それだけに限らないが、蛍光分極に基づく核酸結合アッセイ、蛍光分極に基づくストランド侵入アッセイ、転写アッセイ、EGFP破壊アッセイ、DNA切断アッセイ、および/またはサーベイヤーアッセイを含むいくつかのアッセイのいずれかによって定義することができる。「Cas9核酸分子」は、Cas9ポリペプチドまたはその断片をコードするポリヌクレオチドを意味する。例示的なCas9核酸分子配列は、ゲノム配列番号NC_002737で提供されている。一部の実施形態では、Cas9、例えば天然に存在するS.ピオゲネスのCas9(SpCas9)またはS.アウレウスのCas9 (SaCas9)またはそれらのバリアントの阻害剤が本明細書で開示される。Cas9は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列およびガイドRNA(gRNA)による標的DNAの塩基対形成を用いて外来DNAを認識する。Cas9によって任意のゲノム遺伝子座において標的化された鎖切断を誘導することが比較的容易であるため、多数の細胞型および生命体における効率的なゲノム編集が可能になった。Cas9誘導体も、転写アクチベーター/リプレッサーとして用いることができる。
【0162】
一部の場合には、CRISPR-Casタンパク質は、Cas9またはそのバリアントである。一部の例では、Cas9は、天然に存在する任意の細菌性Cas9を含む野生型Cas9であってよい。Cas9オルソログは、典型的には3~4個のRuvCドメインおよびHNHドメインの一般的な構成を共有している。5’最末端のRuvCドメインは非相補鎖を切断し、HNHドメインは相補鎖を切断する。全ての表記はガイド配列に準拠している。5’RuvCドメインの触媒残基は、目的のCas9の他のCas9オルソログ[S.ピオゲネスII型CRISPR遺伝子座、S.サーモフィルスCRISPR遺伝子座1、S.サーモフィルスCRISPR遺伝子座3、およびフランシセラ・ノビシダ(Franciscilla novicida)II型CRISPR遺伝子座由来]との相同性比較によって同定され、保存されたAsp残基(D10)はアラニンに変異し、Cas9は相補鎖切断酵素に変換される。したがって、Cas酵素は、天然に存在する任意の細菌性Cas9を含む野生型Cas9であってよい。CRISPR、Cas、またはCas9酵素は、コドン最適化されていてよく、または任意のキメラ、変異体、ホモログ、またはオルソログを含む改変されたバージョンであってよい。本開示のさらなる態様では、Cas9酵素は1つまたは複数の変異を含んでよく、機能性ドメインとの融合を伴いまたは伴わずに、一般的なDNA結合性タンパク質として用いてよい。
【0163】
変異は、人工的に導入された変異、または機能獲得型変異、もしくは機能喪失型変異であってよい。一部の実施形態では、転写活性化ドメインはVP64であってよい。一部の実施形態では、転写リプレッサードメインはKRABまたはSID4Xであってよい。本開示のその他の態様は、ヌクレアーゼ、転写アクチベーター、リプレッサー、リコンビナーゼ、トランスポザーゼ、ヒストンリモデラー、デメチラーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ、クリプトクローム、光誘導性/制御性ドメインもしくは化学的誘導性/制御性ドメインを含むがそれらに限らないドメインと融合した、変異したCas9酵素に関する。本開示は、細胞内のこれらのRNAの性能を増強することを可能にするsgRNAもしくはtracrRNA、またはガイドもしくはキメラガイド配列を含んでよい。このII型CRISPR酵素は任意のCas酵素であってよい。一部の場合には、Cas9酵素はSpCas9またはSaCas9であるか、これらから誘導される。本明細書で用いる場合、酵素に関連する用語「誘導された」は、誘導された酵素が、高度の配列同一性を有しているという意味で主として野生型酵素に基づいているが、当技術で既知のまたは本明細書に記載したある方法で変異している(改変されている)ことを意味する。一例では、変異は第1のリンカードメイン、第2のリンカードメイン、および/またはタンパク質のその他の部分における1つまたは複数の変異を含んでよい。高度の配列同一性は、野生型酵素に対して少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上を含んでよい。
【0164】
Cas酵素は、同定されたCasであってよい。それは、これがII型CRISPRシステム由来の多数のヌクレアーゼドメインを有する最大のヌクレアーゼと相同性を共有する一般的な酵素のクラスを指し得るからである。一部の場合には、Cas9酵素は、SpCas9(S.ピオゲネスCas9)またはsaCas9(S.アウレウスCas9)由来またはそれらから誘導される。「StCas9」は、S.サーモフィルス由来の野生型Cas9(UniProt ID:G3ECR1)を指す。同様に、「SpCas9」は、S.ピオゲネス由来の野生型Cas9(UniProt ID:Q99ZW2)を指す。本明細書で用いる場合、酵素に関連する用語「誘導された」は、誘導された酵素が、高度の配列同一性を有しているという意味で主として野生型酵素に基づいているが、当技術で既知のまたは本明細書に記載したある方法で変異している(改変されている)ことを意味する。用語CasおよびCRISPR酵素は、他が明らかでない限り、本明細書で一般に相互交換可能に用いられることが認識されよう。上述のように、本明細書で用いる残基の番号付けの多くは、ストレプトコッカス・ピオゲネスにおけるII型CRISPR遺伝子座由来のCas9酵素を指す。
【0165】
特定の実施形態では、エフェクタータンパク質は、ストレプトコッカス、カンピロバクター、ニトラチフラクター、スタフィロコッカス、パルビバクルム、ロゼブリア、ネイセリア、グルコンアセトバクター、アゾスピリルム、スピロヘータ、ラクトバチルス、ユーバクテリウム、コリネバクテ、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、ロドバクター(Rhodobacter)、リステリア(Listeria)、パルジバクター(Paludibacter)、クロストリジウム(Clostridium)、ラクノスピラセアエ(Lachnospiraceae)、クロストリジアリジウム(Clostridiaridium)、レプトトリキア(Leptotrichia)、フランシセラ(Francisella)、レジオネラ(Legionella)、アリシクロバチルス(Alicyclobacillus)、メタノメチオフィルス(Methanomethyophilus)、ポルフィロモナス(Porphyromonas)、プレボテラ(Prevotella)、バクテロイデテス(Bacteroidetes)、ヘルココッカス(Helcococcus)、レトスピラ(Letospira)、デスルホビブリオ(Desulfovibrio)、デスルホナトロヌム(Desulfonatronum)、オピツタセアエ(Opitutaceae)、ツベリバチルス(Tuberibacillus)、バチルス(Bacillus)、ブレビバチルス(Brevibacilus)、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、またはアシダミノコッカス(Acidaminococcus)、ストレプトコッカス、カンピロバクター、ニトラチフラクター、スタフィロコッカス、パルビバクルム、ロゼブリア、ネイセリア、グルコンアセトバクター、アゾスピリルム、スピロヘータ、ラクトバチルス、ユーバクテリウム、コリネバクター(Corynebacter)、ステレラ(Sutterella)、レジオネラ、トレポネーマ(Treponema)、フィリファクター(Filifactor)、ユーバクテリウム、ストレプトコッカス、ラクトバチルス、マイコプラズマ(Mycoplasma)、バクテロイデス、フラビイボラ(Flaviivola)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、スピロヘータ、アゾスピリルム、グルコンアセトバクター、ネイセリア、ロゼブリア、パルビバクルム、スタフィロコッカス、ニトラチフラクター、マイコプラズマ、またはカンピロバクターを含む属由来の生命体に由来するかそれらに起源するCas9エフェクタータンパク質である。
【0166】
一部の実施形態では、Cas9タンパク質は、S.ミュータンス(S. mutans)、S.アガラクチアエ(S. agalactiae)、S.エキシミリス(S. equisimilis)、S.サングイニス(S. sanguinis)、S.ニューモニア(S. pneumonia)、C.ジェジュニ(C. jejuni)、C.コリ(C. coli)、N.サルスギニス(N salsuginis)、N.テルガルクス(N tergarcus)、S.アウリクラリス(S. auricularis)、S.カルノサス(S. carnosus)、N.メニンギチデス(N meningitides)、N.ゴノレアエ(N gonorrhoeae)、L.モノシトゲネス(L. monocytogenes)、L.イバノビイ(L. ivanovii)、C.ボツリヌム(C. botulinum)、C.ディフィシレ(C. difficile)、C.テタニ(C. tetani)、またはC.ソルデリイ(C. sordellii)、フランシセラ・ツラレンシス1(Francisella tularensis 1)、フランシセラ・ツラレンシス亜種ノビシダ(Francisella tularensis subsp. novicida)、プレボテラ・アルベンシス(Prevotella albensis)、ラクノスピラセアエ・バクテリウム(Lachnospiraceae bacterium)MC2017 1、ブチリビブリオ・プロテオクラスチクス(Butyrivibrio proteoclasticus)、ペレグリニバクテリア・バクテリウム(Peregrinibacteria bacterium)GW2011 GWA2_33_10、パルクバクテリア・バクテリウム(Parcubacteria bacterium)GW2011 GWC2_44_17、スミセラ(Smithella)亜種SCADC、アシダミノコッカス亜種BV3L6、ラクノスピラセアエ・バクテリウムMA2020、カンジダツス・メタノプラズマ・テルミツム(Candidatus Methanoplasma termitum)、ユーバクテリウム・エリゲンス(Eubacterium eligens)、モラケセラ・ボボクリ(Moraxella bovoculi)237、レプトスピラ・イナダイ(Leptospira inadai)、ラクノスピラセアエ・バクテリウムND2006、ポルフィロモナス・クレビオリカニス3(Porphyromonas crevioricanis 3)、プレボテラ・ディジエンス(Prevotella disiens)、およびポルフィロモナス・マカカエ(Porphyromonas macacae)から選択される生命体に由来するかそれらに起源する。一部の実施形態では、ストレプトコッカス・ピオゲネス、スタフィロコッカス・アウレウス、またはストレプトコッカス・サーモフィルスのCas9由来の生命体に由来するかそれらに起源するCas9エフェクタータンパク質。
【0167】
より好ましい実施形態では、Cas9タンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス、スタフィロコッカス・アウレウス、またはストレプトコッカス・サーモフィルスのCas9から選択される細菌種から誘導される。ある特定の実施形態では、Cas9は、フランシセラ・ツラレンシス1、プレボテラ・アルベンシス、ラクノスピラセアエ・バクテリウムMC20171、ブチリビブリオ・プロテオクラスチクス、ペレグリニバクテリア・バクテリウムGW2011 GWA2 33 JO、パルクバクテリア・バクテリウムGW2011 GWC2_44_17、スミセラ亜種SCADC、アシダミノコッカス亜種BV3L6、ラクノスピラセアエ・バクテリウムMA2020、カンジダツス・メタノプラズマ・テルミツム、ユーバクテリウム・エリゲンス、モラケセラ・ボボクリ237、レプトスピラ・イナダイ、ラクノスピラセアエ・バクテリウムND2006、ポルフィロモナス・クレビオリカニス3、プレボテラ・ディジエンス、およびポルフィロモナス・マカカエから選択される細菌種から誘導される。ある特定の実施形態では、Cas9タンパク質は、アシダミノコッカス亜種BV3L6、ラクノスピラセアエ・バクテリウムMA2020から選択される細菌種から誘導される。ある特定の実施形態では、エフェクタータンパク質は、フランシセラ・ツラレンシス亜種ノビシダを含むがそれだけに限らない、フランシセラ・ツラレンシス1の亜種に由来する。
【0168】
Cas9酵素は、S.ピオゲネス血清型M1(UniProt ID:Q99ZW2)、S.アウレウスCas9(UniProt ID:J7RUA5)、ユーバクテリウム・ベントリオスムCas9(UniProt ID:A5Z395)、アゾスピリルム(B510株)Cas9(UniProt ID:D3NT09)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(ATCC 49037株)Cas9(UnitProt ID:A9HKP2)、ナイセリア・シネレアCas9(UniProt ID:D0W2Z9)、ロゼブリア・インテスティナリスCas9(UniProt ID:C7G697)、パルビバクルム・ラバメンチボランス(DS-1株)Cas9(UniProt ID:A7HP89)、ニトラチフラクター・サルスギニス(DSM 16511株)Cas9(UniProt ID:E6WZS9)、カンピロバクター・ラリCas9(UniProt ID:G1UFN3)を含むが、それだけに限らない。
【0169】
ストレプトコッカス・ピオゲネスから誘導されるCas9または密接に関連する任意のCas9による酵素作用により、ガイド配列の20ヌクレオチドとハイブリダイズして標的配列の20ヌクレオチドの後にプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(例にはNGG/NRGまたは本明細書に記載したように決定することができるPAMが含まれる)を有する標的部位配列において二本鎖切断が生成される。部位特異的なDNA認識および切断のためのCas9によるCRISPR活性は、ガイド配列、部分的にガイド配列とハイブリダイズするtracr配列、およびPAM配列によって定義される。CRISPRシステムのさらなる態様は、KarginovおよびHannon,The CRISPR system:small RNA-guided defense in bacteria and archaea,Mole Cell 2010,January 15;37(1):7ぺージに記載されている。4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsnlのクラスター、ならびに2つの非コーディングRNAエレメント、tracrRNA、および非反復配列(スペーサー、それぞれ約30bp)の短いストレッチが挟まれた反復配列(ダイレクトリピート)の特徴的なアレイを含むストレプトコッカス・ピオゲネスSF370由来のII型CRISPR遺伝子座。このシステムにおいて、標的化されたDNA二本鎖切断(DSB)は、4つの逐次的ステップで生成する。第1に、2つの非コーディングRNA、即ちプレcrRNAアレイおよびtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートとハイブリダイズし、これが次に処理されて個別のスペーサー配列を含む成熟crRNAになる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体が、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロデュプレックス形成を介して、プロトスペーサーと対応するPAMとからなるDNA標的にCas9を方向付ける。最後に、Cas9がPAMの上流の標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサーの中にDSBを創成する。2つのダイレクトリピート(DR)に隣接する単一のスペーサーからなるプレcrRNAアレイも、用語「tracrメイト配列」に包含される。ある特定の実施形態では、Cas9は、構成的に存在するか、誘導的に存在するか、条件付きで存在するか、または投与もしくは送達してよい。Cas9の最適化を用いて機能を増強するか、または新たな機能を開発してよい。キメラCas9タンパク質を生成することができ、Cas9を一般的なDNA結合性タンパク質として用いてもよい。Cas9について提供される構造情報を用いてCRISPR-Casシステムをさらに操作および最適化してよく、これを拡張して他のCRISPR酵素システムにおける構造機能関係、特に他のII型CRISPR酵素またはCas9オルソログにおける構造機能関係を検討してもよい。結晶構造情報[2013年12月12日出願の米国仮出願61/915,251、2014年1月22日出願の61/930,214、2014年4月15日出願の61/980,012、およびNishimasuら、「Crystal Structure of Cas9 in Complex with Guide RNA and Target DNA」Cell 156(5):935~949ぺージ、DOI:ttp://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2014.02.001(2014)に記載され、そのそれぞれおよび全てが参照により本明細書に組み込まれる]は、誘導性CRISPR-Casシステムに組み込むことができるモジュラーまたはマルチパートのCRISPR酵素を切り詰め、創成するための構造情報を提供する。特に、構造情報はS.ピオゲネスCas9(SpCas9)について提供されており、これを他のCas9オルソログまたは他のII型CRISPR酵素に拡張してよい。Cas9遺伝子はいくつかの多様な細菌ゲノム、典型的にはcasl、cas2、およびcas4遺伝子、ならびにCRISPRカセットと同じ遺伝子座で見出されている。さらに、Cas9タンパク質は、トランスポゾンORF-Bと相同の容易に特定できるC末端領域を含み、活性RuvC様ヌクレアーゼ、アルギニンに富む領域を含む。
【0170】
dCas9
Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼ活性が不活化されないように変異させることができる。最近、エンドヌクレアーゼ活性を有しないS.ピオゲネス由来の不活化されたCas9タンパク質(iCas9、「dCas9」とも称する)が、立体障害によって遺伝子発現をサイレンシングするためにgRNAによって細菌、酵母、およびヒトの細胞内の遺伝子に対して標的化されている。本明細書で用いる場合、「dCas分子」は、dCasタンパク質またはその断片を指すことがある。本明細書で用いる場合、「dCas分子」は、dCasタンパク質またはその断片を指すことがある。本明細書で用いる場合、用語「iCas」および「dCas」は相互交換可能に用いられ、触媒的に不活性なCRISPR随伴タンパク質を指す。一実施形態では、dCas分子は、DNA切断ドメインに1つまたは複数の変異を含む。一実施形態では、dCas分子は、RuvCまたはドメインに1つまたは複数の変異を含む。一実施形態では、dCas分子は、RuvCとHNHドメインの両方に1つまたは複数の変異を含む。一実施形態では、dCas分子は、野生型Cas分子の断片である。一実施形態では、dCas分子は野生型Cas分子由来の機能性ドメインを含み、機能性ドメインは、Reelドメイン、架橋ヘリックスドメイン、またはPAM相互作用ドメインから選択される。一実施形態では、dCas分子のヌクレアーゼ活性は、対応する野生型Cas分子の活性と比較して少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%低減する。
【0171】
好適なdCas分子は、野生型Cas分子から誘導することができる。Cas分子は、I型、II型、またはIII型のCRISPR-Casシステム由来であってよい。一実施形態では、好適なdCas分子は、Cas1、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、またはCas10分子から誘導することができる。一実施形態では、dCas分子は、Cas9分子から誘導される。dCas9分子は、例えばDNA切断ドメイン、例えばヌクレアーゼドメイン、例えばRuvCおよび/またはHNHドメインにおいてCas9分子に点変異(例えば置換、欠失、または付加)を導入することによって得ることができる。例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれるJinekら、Science(2012)337:816~21ぺージを参照されたい。例えば、RuvCおよびHNHドメインに2つの点変異を導入することによって、Cas9のsgRNAおよびDNA結合活性を保持しながらCas9ヌクレアーゼ活性が低減される。一実施形態では、RuvCおよびHNHの活性部位内の2つの点変異は、S.ピオゲネスCas9分子のD10AおよびH840Aの変異である。あるいは、S.ピオゲネスCas9分子のsgRNAおよびDNA結合活性を保持しながら、Cas9ヌクレアーゼ活性を無効にするためにD10およびH840を欠失させることができる。一実施形態では、RuvCおよびHNH活性部位内の2つの点変異は、S.ピオゲネスCas9分子のD10AおよびN580A変異である。
【0172】
種々の実施形態では、本開示は、dCas分子またはそれらのバリアントのいずれかのバリアントもしくは変異体を含む。dCas9の全てのバリアントおよび変異体は、SpCas9(ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離されたCas9)、SaCas9(スタフィロコッカス・アウレウスから単離されたCas9)、StCas9(ストレプトコッカス・サーモフィルスから単離されたCas9)、NmCas9(ネイセリア・メニンギチデスから単離されたCas9)、FnCas9(フランシセラ・ノビシダから単離されたCas9)、CjCas9(カンピロバクター・ジェジュニから単離されたCas9)、ScCas9[ストレプトコッカス・カニス(Streptococcus canis)から単離されたCas9]、ならびに上記のCas9の任意のバリアントおよび変異体形、例えば高忠実度Cas9(Kleinstiverら、Nature.2016 Jan 28)および増強されたSpCas9(Slaymakerら、Sciences.2016 Jan 01)から誘導されたものを含むが、それだけに限らない、本明細書で開示する方法、組成物、またはキットにおいて用いることができる。このリストはいくつかの例示的選択肢を提供するためのみであって、排他的ではない。
【0173】
一実施形態では、dCas分子は、配列番号1に従って番号付けしてD10および/またはH840に変異を含むストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9分子である。一実施形態では、dCas分子は、配列番号1に従って番号付けしてD10Aおよび/またはH840Aの変異を含むストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9分子である。
【0174】
ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9
MDKKYSIGLAIGTNSVGWAVITDEYKVPSKKFKVLGNTDRHSIKKNLIGALLFDSGETAEATRLKRTARRRYTRRKNRICYLQEIFSNEMAKVDDSFFHRLEESFLVEEDKKHERHPIFGNIVDEVAYHEKYPTIYHLRKKLVDSTDKADLRLIYLALAHMIKFRGHFLIEGDLNPDNSDVDKLFIQLVQTYNQLFEENPINASGVDAKAILSARLSKSRRLENLIAQLPGEKKNGLFGNLIALSLGLTPNFKSNFDLAEDAKLQLSKDTYDDDLDNLLAQIGDQYADLFLAAKNLSDAILLSDILRVNTEITKAPLSASMIKRYDEHHQDLTLLKALVRQQLPEKYKEIFFDQSKNGYAGYIDGGASQEEFYKFIKPILEKMDGTEELLVKLNREDLLRKQRTFDNGSIPHQIHLGELHAILRRQEDFYPFLKDNREKIEKILTFRIPYYVGPLARGNSRFAWMTRKSEETITPWNFEEVVDKGASAQSFIERMTNFDKNLPNEKVLPKHSLLYEYFTVYNELTKVKYVTEGMRKPAFLSGEQKKAIVDLLFKTNRKVTVKQLKEDYFKKIECFDSVEISGVEDRFNASLGTYHDLLKIIKDKDFLDNEENEDILEDIVLTLTLFEDREMIEERLKTYAHLFDDKVMKQLKRRRYTGWGRLSRKLINGIRDKQSGKTILDFLKSDGFANRNFMQLIHDDSLTFKEDIQKAQVSGQGDSLHEHIANLAGSPAIKKGILQTVKVVDELVKVMGRHKPENIVIEMARENQTTQKGQKNSRERMKRIEEGIKELGSQILKEHPVENTQLQNEKLYLYYLQNGRDMYVDQELDINRLSDYDVDAIVPQSFLKDDSIDNKVLTRSDKNRGKSDNVPSEEVVKKMKNYWRQLLNAKLITQRKFDNLTKAERGGLSELDKAGFIKRQLVETRQITKHVAQILDSRMNTKYDENDKLIREVKVITLKSKLVSDFRKDFQFYKVREINNYHHAHDAYLNAVVGTALIKKYPKLESEFVYGDYKVYDVRKMIAKSEQEIGKATAKYFFYSNIMNFFKTEITLANGEIRKRPLIETNGETGEIVWDKGRDFATVRKVLSMPQVNIVKKTEVQTGGFSKESILPKRNSDKLIARKKDWDPKKYGGFDSPTVAYSVLVVAKVEKGKSKKLKSVKELLGITIMERSSFEKNPIDFLEAKGYKEVKKDLIIKLPKYSLFELENGRKRMLASAGELQKGNELALPSKYVNFLYLASHYEKLKGSPEDNEQKQLFVEQHKHYLDEIIEQISEFSKRVILADANLDKVLSAYNKHRDKPIREQAENIIHLFTLTNLGAPAAFKYFDTTIDRKRYTSTKEVLDATLIHQSITGLYETRIDLSQLGGD(配列番号1)
【0175】
一実施形態では、dCas9分子は、配列番号2もしくは3のアミノ酸配列、配列番号2もしくは3と実質的に同一(例えば配列同一性において少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上)の配列、または配列番号2もしくは3に対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくはそれ以上の変更、例えばアミノ酸の置換、挿入、もしくは欠失を有する配列、またはそれらの任意の断片を含むスタフィロコッカス・アウレウスdCas9分子である。
【0176】
天然に存在する他の任意のCas9(例えば他の種由来のCas9)または操作されたCas9分子に同様の変異を適用することもできる。ある特定の実施形態では、dCas9分子は、ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9分子、スタフィロコッカス・アウレウスdCas9分子、カンピロバクター・ジェジュニdCas9分子、コリネバクテリウム・ジフテリアdCas9分子、ユーバクテリウム・ベントリオスムdCas9分子、ストレプトコッカス・パスチュリアヌスdCas9分子、ラクトバチルス・ファルシミニスdCas9分子、スピロヘータ・グローブスdCas9分子、アゾスピリルム(B 510株)dCas9分子、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスdCas9分子、ネイセリア・シネレアdCas9分子、ロゼブリア・インテスティナリスdCas9分子、パルビバクルム・ラバメンチボランスdCas9分子、ニトラチフラクター・サルスギニス(DSM 1651 1株)dCas9分子、カンピロバクター・ラリ(CF89-12株)dCas9分子、ストレプトコッカス・サーモフィルス(LMD-9株)dCas9分子、またはそれらの断片を含む。
【0177】
ある特定の実施形態では、本開示は、ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9分子、スタフィロコッカス・アウレウスdCas9分子、カンピロバクター・ジェジュニdCas9分子、コリネバクテリウム・ジフテリアdCas9分子、ユーバクテリウム・ベントリオスムdCas9分子、ストレプトコッカス・パスチュリアヌスdCas9分子、ラクトバチルス・ファルシミニスdCas9分子、スピロヘータ・グローブスdCas9分子、アゾスピリルム(B 510株)dCas9分子、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスdCas9分子、ネイセリア・シネレアdCas9分子、ロゼブリア・インテスティナリスdCas9分子、パルビバクルム・ラバメンチボランスdCas9分子、ニトラチフラクター・サルスギニス(DSM 1651 1株)dCas9分子、カンピロバクター・ラリ(CF89-12株)dCas9分子、ストレプトコッカス・サーモフィルス(LMD-9株)dCas9分子、またはそれらの断片をコードするヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0178】
例示的なdCas9タンパク質は、表1に列挙したものを含むが、それらに限定されない。
【0179】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0180】
Cas9融合タンパク質
CRISPR/Cas9系システムは、融合分子[例えばDNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB]を含んでよい。融合分子は、少なくとも1つのDNA結合性タンパク質(例えばdCas9)および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーター(例えばKRAB、DNMT3A、DNMT3L、DNMT3A-DNMT3L融合ペプチド)を含んでよい。一部の実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、遺伝子発現のリプレッサー(例えばKRAB)、遺伝子発現のアクチベーター、または遺伝子外改変のモジュレーター(例えばDNMT3A、DNMT3L、DNMT3A-DNMT3L融合タンパク質)またはそれらの任意の組合せから選択される。当技術で遺伝子発現の様々なモジュレーターが知られている。例えば全体が参照により本明細書に組み込まれるThakoreら、Nat Methods.2016;13:127~37ぺージを参照されたい。
【0181】
遺伝子発現のリプレッサー
一部の実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、遺伝子発現のリプレッサーを含む。リプレッサーは、遺伝子発現の任意の既知のリプレッサー、例えばKruppel関連ボックス(KRAB)ドメイン、mSin3相互作用ドメイン(SID)、MAX-相互作用タンパク質1(MXI1)、クロモシャドウドメイン、EAR抑制ドメイン(SRDX)、真核生物放出因子1(ERFl)、真核生物放出因子3(ERF3)、テトラサイクリンリプレッサー、ladリプレッサー、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)Gボックス結合因子1および2、ショウジョウバエ(Drosophila Groucho)、トリパータイトモチーフ含有28(TRTM28)、核受容体共リプレッサー1、核受容体共リプレッサー2、またはそれらの断片もしくは融合体から選択されるリプレッサーであってよい。
【0182】
Kruppel関連ボックス(KRAB)
KRABドメインは、多くのジンクフィンガータンパク質系転写因子のN末端部分に存在する一種の転写抑制ドメインである。KRABドメインは、DNA結合ドメインによって標的DNAに繋がれた場合に、転写リプレッサーとして機能する。KRABドメインは荷電したアミノ酸が富化されており、サブドメインAおよびBに分割されていることがある。KRABのAおよびBのサブドメインは可変スペーサーセグメントによって分離されていることがあり、多くのKRABタンパク質はAサブドメインのみを含む。KRAB Aサブドメインにおける45アミノ酸の配列が、転写抑制に重要であることが示されてきた。Bサブドメインはそれ自体では転写を抑制しないが、KRAB Aサブドメインによって発揮される抑制を強化する。KRABドメインは、共リプレッサーKAP1(KRAB関連タンパク質1。転写仲介因子1ベータ、KRAB-A相互作用タンパク質、およびトリパータイトモチーフタンパク質28としても知られている)およびヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)、ならびにその他のクロマチン調節タンパク質を動員し、ヘテロクロマチンの形成を通して転写の抑制をもたらす。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、KRABドメインまたはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、KRABドメインまたはその断片は、dCas9分子のN末端に融合する。一実施形態では、KRABドメインまたはその断片は、dCas9分子のC末端に融合する。一実施形態では、KRABドメインまたはその断片は、dCas9分子のN末端とC末端の両方に融合する。一実施形態では、融合分子は、配列番号22の配列、配列番号22と実質的に同一(例えば少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%またはそれ以上同一)の配列、または配列番号22に対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つもしくはそれ以上の変更、例えばアミノ酸の置換、挿入、もしくは欠失を有する配列、またはそれらの任意の断片を含む。
【0183】
例示的なKRABドメイン配列:RTLVTFKDVFVDFTREEWKLLDTAQQIVYRNVMLENYKNLVSLGYQLTKPDVILRLEKGEEP(配列番号22)
【0184】
mSin3相互作用ドメイン(SID)
mSin3相互作用ドメイン(SID)は、いくつかの転写抑制タンパク質の上に存在する相互作用ドメインである。これは、mSin3の対形成した両親媒性アルファヘリックス2(PAH2)ドメイン、即ちmSin3 A共リプレッサー等の転写リプレッサータンパク質に結合した転写リプレッサードメインと相互作用する。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、mSin3相互作用ドメインまたはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、連結された4つのmSin3相互作用ドメイン(SID4X)と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、連結された4つのmSin3相互作用ドメイン(SID4X)は、dCas9分子のC末端に融合している。
【0185】
MAX相互作用タンパク質1(MXI1)
Mxi1はMYCのリプレッサーである。Mxi1は、おそらくMYCに結合してMYCが機能するために必要とされるMYC関連因子X(MAX)への結合について競合することによって、MYCの転写活性に拮抗する。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、Mxi1またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、Mxi1はdCas9分子のC末端に融合している。
【0186】
遺伝子発現のアクチベーター
一部の実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、遺伝子発現のアクチベーターを含む。アクチベーターは、遺伝子発現の任意の既知のアクチベーター、例えばVP16活性化ドメイン、VP64活性化ドメイン、p65活性化ドメイン、エプスタイン-バーウイルスRトランスアクチベーターRta分子、またはそれらの断片であってよい。dCas9分子とともに用い得る活性化は当技術で既知である。例えば全体が参照により本明細書に組み込まれるChavezら、Nat Methods.(2016)13:563~67ぺージを参照されたい。
【0187】
VP16、VP64、VP160
VP16は、転写アクチベーターを動員してプロモーターおよびエンハンサーにする16アミノ酸のウイルスタンパク質配列である。VP64は、VP16の4つのコピーを含む転写アクチベーター、例えばGly-Serリンカーによって接続されたVP16の4つのタンデムコピーを含む分子である。VP160は、VP16の10個のコピーを含む転写アクチベーターである。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、VP16の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のコピーと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、VP64と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、VP160と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一実施形態では、VP64は、dCas9分子のC末端、N末端、またはN末端とC末端の両方に融合している。
【0188】
p65活性化ドメイン(p65AD)
p65ADは、F-κB転写因子の核型の65kDaポリペプチドの主要なトランス活性化ドメインである。ヒト転写因子p65の例示的な配列は、Uniprotデータベースで受託番号Q04206の下に入手可能である。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、p65またはその断片、例えばp65ADと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0189】
エプスタイン-バーウイルス(EBV)Rトランスアクチベーター(Rta)
EBVの前初期タンパク質であるRtaは、溶菌遺伝子発現を誘導する転写アクチベーターであり、ウイルスの再活性化を誘発する。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、Rtaまたはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0190】
VP64、p65、Rta融合体
一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、VP64、p65、Rta、またはそれらの任意の組合せと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。その中で3つの転写活性化ドメインが短いアミノ酸リンカーを用いて融合されたトリパータイトアクチベーターVP64-p65-Rta(VPRとしても知られている)は、dCas9分子と融合した場合に効果的に標的遺伝子発現を上方制御することができる。一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、VPRと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0191】
相乗的活性化メディエーター(SAM)
一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、3つの成分、(1)dCas9-VP64融合体、(2)テトラループおよびステムループに2つのMS2 RNAアプタマーを組み込んだgRNA、および(3)MS2-P65-HSF1活性化ヘルパータンパク質を含むCRISPR-Casシステムを含む。このシステムは相乗的活性化メディエーター(SAM)と命名され、3つのアクチベータードメインVP64、P65、およびHSFlが一緒になっており、全体が参照により本明細書に組み込まれるKonermannら、Nature.2015;517:583~8ぺージに記載されている。
【0192】
Ldbl自己会合ドメイン
一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、Ldbl自己会合ドメインと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。Ldbl自己会合ドメインは、エンハンサー関連内因性Ldblを動員する。
【0193】
遺伝子外改変のモジュレーター
一実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、遺伝子発現のモジュレーターと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、遺伝子外改変のモジュレーターを含む。一実施形態では、融合分子は、標的遺伝子の制御エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー、または転写開始部位において、遺伝子外改変を介して、例えばヒストンのアセチル化もしくはメチル化、またはDNAのメチル化を介して、標的遺伝子の発現を調節する。モジュレーターは、遺伝子外改変の任意の既知のモジュレーター、例えばヒストンアセチルトランスフェラーゼ(例えばp300触媒ドメイン)、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ[例えばSUV39H1またはG9a(EHMT2)]、ヒストンデメチラーゼ(例えばLSD1)、DNAメチルトランスフェラーゼ(例えばDNMT3aまたはDNMT3a-DNMT3L)、DNAデメチラーゼ(例えばTET1触媒ドメインまたはTDG)、またはそれらの断片であってよい。
【0194】
ヒストン改変活性
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはヒストン改変活性を有し得る。ヒストン改変活性は、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、またはヒストンメチルトランスフェラーゼの活性を含んでよいが、それだけに限定されない。
【0195】
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有し得る。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、p300またはCREB結合性タンパク質(CBP)タンパク質またはその断片であってよい。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、アセチルトランスフェラーゼp300またはその断片、例えばp300の触媒コアと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、CREB結合性タンパク質(CBP)タンパク質またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0196】
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはヒストンデメチラーゼ活性を含んでよい。例えば、遺伝子外改変のモジュレーターは、核酸またはタンパク質(例えばヒストン)からメチル(CH3-)基を除去する酵素を含んでよい。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、Lys特異的ヒストンデメチラーゼ1(LSD1)またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0197】
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有し得る。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、SUV39H1またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、G9a(EHMT2)またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0198】
DNAデメチラーゼ活性
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはDNAデメチラーゼ活性を有し得る。例えば、遺伝子外改変のモジュレーターは、DNAを脱メチル化するための機構として、メチル基をヒドロキシメチルシトシンに変換(covert)し得る。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、10-11転座メチルシトシンジオキシゲナーゼ1(TET1)またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、チミンDNAグリコシラーゼ(TDG)またはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0199】
DNAメチラーゼ活性
一部の実施形態では、遺伝子外改変のモジュレーターはDNAメチラーゼ活性を有し得る。例えば、遺伝子外改変のモジュレーターは、メチル基のDNA、RNA、タンパク質、小分子、シトシン、またはアデニンへの転移に関与するメチラーゼ活性を有し得る。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、DNMT3Aまたはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、DNMT3Lまたはその断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、DNMT3LおよびDNMT3Lまたはそれらの断片と融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物は、DNMT3A-DNMT3L融合ペプチドと融合したdCas9分子を含む融合分子を含む。
【0200】
DNMT3A:
MNHDQEFDPPKVYPPVPAEKRKPIRVLSLFDGIATGLLVLKDLGIQVDRYIASEVCEDSITVGMVRHQGKIMYVGDVRSVTQKHIQEWGPFDLVIGGSPCNDLSIVNPARKGLYEGTGRLFFEFYRLLHDARPKEGDDRPFFWLFENVVAMGVSDKRDISRFLESNPVMIDAKEVSAAHRARYFWGNLPGMNRPLASTVNDKLELQECLEHGRIAKFSKVRTITTRSNSIKQGKDQHFPVFMNEKEDILWCTEMERVFGFPVHYTDVSNMSRLARQRLLGRSWSVPVIRHLFAPLKEYFACV(配列番号23)
【0201】
DNMT3L:
MGPMEIYKTVSAWKRQPVRVLSLFRNIDKVLKSLGFLESGSGSGGGTLKYVEDVTNVVRRDVEKWGPFDLVYGSTQPLGSSCDRCPGWYMFQFHRILQYALPRQESQRPFFWIFMDNLLLTEDDQETTTRFLQTEAVTLQDVRGRDYQNAMRVWSNIPGLKSKHAPLTPKEEEYLQAQVRSRSKLDAPKVDLLVKNCLLPLREYFKYFSQ NSLPL(配列番号24)
【0202】
DNMT3A-DNMT3L融合ペプチド
MNHDQEFDPPKVYPPVPAEKRKPIRVLSLFDGIATGLLVLKDLGIQVDRYIASEVCEDSITVGMVRHQGKIMYVGDVRSVTQKHIQEWGPFDLVIGGSPCNDLSIVNPARKGLYEGTGRLFFEFYRLLHDARPKEGDDRPFFWLFENVVAMGVSDKRDISRFLESNPVMIDAKEVSAAHRARYFWGNLPGMNRPLASTVNDKLELQECLEHGRIAKFSKVRTITTRSNSIKQGKDQHFPVFMNEKEDILWCTEMERVFGFPVHYTDVSNMSRLARQRLLGRSWSVPVIRHLFAPLKEYFACVSSGNSNANSRGPSFSSGLVPLSLRGSHMGPMEIYKTVSAWKRQPVRVLSLFRNIDKVLKSLGFLESGSGSGGGTLKYVEDVTNVVRRDVEKWGPFDLVYGSTQPLGSSCDRCPGWYMFQFHRILQYALPRQESQRPFFWIFMDNLLLTEDDQETTTRFLQTEAVTLQDVRGRDYQNAMRVWSNIPGLKSKHAPLTPKEEEYLQAQVRSRSKLDAPKVDLLVKNCLLPLREYFKYFSQNSLPL(配列番号27)
【0203】
一実施形態では、Cas9融合タンパク質は、核局在化配列(NLS)、例えばCas9のN末端及び/またはC末端に融合したLSも含む。
【0204】
核局在化配列は当技術で既知である。一実施形態では、NLSは、配列番号25もしくは26のアミノ酸配列、配列番号25もしくは26と実質的に同一(例えば少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%、またはそれ以上同一)の配列、または配列番号25もしくは26に対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の変更、例えばアミノ酸の置換、挿入、もしくは欠失を有する配列、またはそれらの任意の断片を含む。
【0205】
配列番号25(例示的な核局在化配列):
APKKKRKVGIHGVPAA
【0206】
配列番号26(例示的な核局在化配列):
KRPAATKKAGQAKKKK
【0207】
一部の実施形態では、CRISPR/Cas9系システムは、dCas9分子および遺伝子発現のモジュレーター、またはdCas9分子および遺伝子発現のモジュレーターをコードする核酸を含んでよい。一実施形態では、dCas9分子および遺伝子発現のモジュレーターは共有的に連結されている。一実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、dCas9分子に共有結合で直接融合している。一実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、非モジュレーターもしくはリンカーを介して、または第2のモジュレーターを介して、dCas9分子に共有結合で間接的に融合している。一実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、dCas9分子のN末端および/またはC末端にある。一実施形態では、dCas9分子および遺伝子発現のモジュレーターは、非共有結合で連結されている。例示的な配列には、それだけに限らないが、表2に列挙したものが含まれる。一部の実施形態では、dCas9と遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターの間のリンカーは、表2に列挙したリンカーに対応するアミノ酸配列を含む。
【0208】
【0209】
一実施形態では、dCas9分子は、第1のタグ、例えば第1のペプチドタグと融合している。一実施形態では、遺伝子発現のモジュレーターは、第2のタグ、例えば第2のペプチドタグと融合している。一実施形態では、第1および第2のタグ、例えば第1のペプチドタグおよび第2のペプチドタグは互いに非共有結合で相互作用し、それにより、dCas9分子と遺伝子発現のモジュレーターを緊密に接近させる。
【0210】
一実施形態では、CRISPR/Cas9系システムは、融合分子または融合分子をコードする核酸を含む。一実施形態では、融合分子は、遺伝子発現のモジュレーターと融合したdCas9を含む配列を含む。一実施形態では、dCas9分子は、ストレプトコッカス・ピオゲネスdCas9分子、スタフィロコッカス・アウレウスdCas9分子、カンピロバクター・ジェジュニdCas9分子、コリネバクテリウム・ジフテリアdCas9分子、ユーバクテリウム・ベントリオスムdCas9分子、ストレプトコッカス・パスチュリアヌスdCas9分子、ラクトバチルス・ファルシミニスdCas9分子、スピロヘータ・グローブスdCas9分子、アゾスピリルム(B510株)dCas9分子、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクスdCas9分子、ネイセリア・シネレアdCas9分子、ロゼブリア・インテスティナリスdCas9分子、パルビバクルム・ラバメンチボランスdCas9分子、ニトラチフラクター・サルスギニス(DSM 16511株)dCas9分子、カンピロバクター・ラリ(CF89-12株)dCas9分子、ストレプトコッカス・サーモフィルス(LMD-9株)dCas9分子、またはそれらの断片を含む。
【0211】
一実施形態では、融合分子は、N末端からC末端へ、直接または間接的に(例えばリンカーを介して)融合した、DNMT3A-DNMT3L融合ペプチド(3A3L)、dCas9ペプチド、およびKRABペプチドドメインを含む、DNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB融合分子である。
【0212】
一実施形態では、融合分子は、N末端からC末端へ、直接または間接的に(例えばリンカーを介して)融合した、DNMT3A-DNMT3L融合ペプチド(3A3L)、dCas9ペプチド、およびKRABペプチドドメインを含む、DNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB融合分子である。
【0213】
一実施形態では、融合分子は、配列番号28のアミノ酸配列、配列番号28と実質的に同一の(例えば配列同一性が少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い)配列、または配列番号28に対して1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の変更、例えば置換、挿入、もしくは欠失を有する配列、またはそれらの任意の断片を含む。
【0214】
DNMT3A-DNMT3L(3A3L)-dCas9-KRAB
【化1】
【0215】
gRNA
本明細書で用いる場合、CRISPR-Casシステムに関する用語「ガイド配列」は、標的核酸配列とハイブリダイズし、核酸標的複合体の標的核酸配列への配列特異的結合を指令するために十分な標的核酸配列との相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列を含む。ガイド配列は標的配列とデュプレックスを形成し得る。デュプレックスはDNAデュプレックス、RNAデュプレックス、またはRNA/DNAデュプレックスであってよい。用語「ガイド分子」および「ガイドRNA」および「シングルガイドRNA」は本明細書で相互交換可能に用いられ、CRISPR-Casタンパク質と複合体を形成することができ、標的核酸配列とハイブリダイズして複合体の標的核酸配列への配列特異的結合を指令するために十分な標的核酸配列との相補性を有するガイド配列を含むRNA系分子を指す。ガイド分子またはガイドRNAは、本明細書に記載したように、具体的には1つまたは複数の化学的(chemically)改変[例えば2つのリボヌクレオチドの化学的連結(chemical linking)または1つもしくは複数のリボヌクレオチドの1つもしくは複数のデオキシリボヌクレオチドによる置換え]を有するRNA系分子を包含する。
【0216】
CRISPR-Casタンパク質のガイド分子またはガイドRNAは、tracrメイト配列(内因性CRISPRシステムに関連して「ダイレクトリピート」を包含する)およびガイド配列(内因性CRISPRシステムに関連して「スペーサー」とも称する)を含んでよい。一部の実施形態では、本明細書に記載したCRISPRシステム-Casシステムまたは複合体は、tracr配列を含まず、および/またはその存在に依拠しない。ある特定の実施形態では、ガイド分子は、ガイド配列またはスペーサー配列と融合したまたはこれに連結されたダイレクトリピート配列を含むか本質的にこれからなるか、これからなってよい。一部の実施形態では、ガイド分子またはsgRNAは、配列番号59で説明されるtracr配列を含む。
【0217】
例示的なtracr配列:
gttttagagctaGAAAtagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtgc(配列番号59)
【0218】
一般に、CRISPR-Casシステムは、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントによって特徴付けられる。CRISPR複合体の形成に関連して、「標的配列」は、それに対してガイド配列が相補性を有するように設計された配列を指し、標的DNA配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。
【0219】
ある特定の実施形態では、ガイド分子のガイド配列またはスペーサーの長さは、長さ15~50ヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、ガイドRNAのスペーサーの長さは、少なくとも長さ15ヌクレオチドである。ある特定の実施形態では、スペーサーの長さは、長さ15~17ヌクレオチド、長さ17~20ヌクレオチド、長さ20~24ヌクレオチド、長さ23~25ヌクレオチド、長さ24~27ヌクレオチド、長さ27~30ヌクレオチド、長さ30~35ヌクレオチド、または長さ35ヌクレオチド超である。
【0220】
一部の実施形態では、ガイド配列は、長さ15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100ヌクレオチドである。
【0221】
一部の実施形態では、ガイド分子(ダイレクトリピートおよび/またはスペーサー)の配列は、ガイド分子内の二次構造の程度を低減するように選択される。一部の実施形態では、核酸を標的とするガイドRNAのヌクレオチドの約75%、50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、またはそれ未満が、最適に折り畳まれた場合に自己相補性塩基対形成に寄与する。最適な折り畳みは、任意の好適なポリヌクレオチド折り畳みアルゴリズムによって決定してよい。一部のプログラムは、最小ギブス自由エネルギーの計算に基づいている。そのようなアルゴリズムの一例は、ZukerおよびStiegler[Nucleic Acids Res.9(1981),133~148ぺージ]に記載されたmFoldである。折り畳みアルゴリズムの別の例は、Institute for Theoretical Chemistry at the University of Viennaで開発されたセントロイド構造予測アルゴリズムを用いるオンラインウェブサーバーRNAfoldである[例えばA.R.Gruberら、2008,Cell 106(1):23~24ぺージ;ならびにPA CarrおよびGM Church,2009,Nature Biotechnology 27(12):1151~62ページを参照]。
【0222】
上記のように、CRISPR/Cas9システムは、CRISPR/Cas9系システムの標的化を提供するgRNAを利用している。gRNAは2つの非コーディングRNA、即ちcrRNAとtracrRNAの融合体である。sgRNAは、相補性塩基対形成によって標的特異性を付与する20bpのプロトスペーサーをコードする配列を所望のDNA標的と交換することによって、所望の任意のDNA配列を標的とすることができる。gRNAは、II型エフェクターシステムに関与する天然に存在するcrRNA:tracrRNAデュプレックスを模倣している。このデュプレックスは、例えば42ヌクレオチドのcrRNAおよび75ヌクレオチドのtracrRNAを含んでよく、Cas9が標的核酸を切断するためのガイドとして作用する。
【0223】
本明細書で相互交換可能に用いられる用語「標的領域」、「標的配列」、または「プロトスペーサー」は、CRISPR/Cas9系システムが標的とする標的遺伝子の領域を指す。CRISPR/Cas9系システムは少なくとも1つのgRNAを含んでよく、gRNAは異なるDNA配列を標的とする。標的DNA配列は重複していてもよい。標的配列またはプロトスペーサーには、プロトスペーサーの3’末端にPAM配列が続く。異なるII型システムは異なるPAMを必要とする。例えば、S.ピオゲネスII型システムは「NGG」配列を用いており、ここで「N」は任意のヌクレオチドであってよい。
【0224】
一部の実施形態では、細胞に投与されるgRNAの数は、少なくとも1つのgRNA、少なくとも2つの異なるgRNA、少なくとも3つの異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA、少なくとも5つの異なるgRNA、少なくとも6つの異なるgRNA、少なくとも7つの異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA、少なくとも9つの異なるgRNA、少なくとも10の異なるgRNA、少なくとも11の異なるgRNA、少なくとも12の異なるgRNA、少なくとも13の異なるgRNA、少なくとも14の異なるgRNA、少なくとも15の異なるgRNA、少なくとも16の異なるgRNA、少なくとも17の異なるgRNA、少なくとも18の異なるgRNA、少なくとも19の異なるgRNA、少なくとも20の異なるgRNA、少なくとも25の異なるgRNA、少なくとも30の異なるgRNA、少なくとも35の異なるgRNA、少なくとも40の異なるgRNA、少なくとも45の異なるgRNA、または少なくとも50の異なるgRNAであってよい。
【0225】
一部の実施形態では、細胞に投与されるgRNAの数は、少なくとも1つのgRNA~少なくとも50の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも45の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも40の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも35の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも30の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも25の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも20の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも16の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも12の異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも8つの異なるgRNA、少なくとも1つのgRNA~少なくとも4つの異なるgRNA、少なくとも4つのgRNA~少なくとも50の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも45の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも40の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも35の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも30の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも25の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも20の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも16の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも12の異なるgRNA、少なくとも4つの異なるgRNA~少なくとも8つの異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも50の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも45の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも40の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも35の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも30の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも25の異なるgRNA、8つの異なるgRNA~少なくとも20の異なるgRNA、少なくとも8つの異なるgRNA~少なくとも16の異なるgRNA、または8つの異なるgRNA~少なくとも12の異なるgRNAの間でよい。
【0226】
一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写を増大または低減させるように選択される。一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子(例えばVEGF)の転写開始部位(TSS)の上流、例えば標的遺伝子の転写開始部位の0~1000bp上流の領域を標的とする。一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写開始部位の0~50bp、0~100bp、0~150bp、0~200bp、0~250bp、0~300bp、0~350bp、0~400bp、0~450bp、0~500bp、0~550bp、0~600bp、0~650bp、0~700bp、0~750bp、0~800bp、0~850bp、0~900bp、0~950bp、または0~1000bp上流の領域を標的とする。一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内上流の領域を標的とする。一実施形態では、gRNAは、標的遺伝子のTSSの0~300bp上流の領域を標的とする。
【0227】
一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写開始部位の下流、例えば標的遺伝子の転写開始部位の0~1000bp下流の領域を標的とする。一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写開始部位の0~50bp、0~100bp、0~150bp、0~200bp、0~250bp、0~300bp、0~350bp、0~400bp、0~450bp、0~500bp、0~550bp、0~600bp、0~650bp、0~700bp、0~750bp、0~800bp、0~850bp、0~900bp、0~950bp、または0~1000bp下流の領域を標的とする。一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子の転写開始部位の約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、約800bp、約900bp、約1000bp、約1100bp、約1200bp、約1300bp、約1400bp、または約1500bp以内下流の領域を標的とする。一実施形態では、gRNAは標的遺伝子のTSSの0~300bp下流の領域を標的とする。
【0228】
VEGF
本明細書で用いる場合、用語「VEGF」は、血管内皮増殖因子を指す。VEGF経路は血管の発達の多数の態様に関与しており、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-E、およびそれらの個別の受容体を含む血管新生アクチベーターとして作用するタンパク質のファミリーを含む。VEGF-AはVEGFまたは血管透過性因子(VPF)とも称され、抗血管新生療法のターゲットである。VEGF-Aは、単一のVEGF遺伝子、即ちVEGFm、VEGF45、VEGFies、VEGF189、およびVEGF206のmRNAの選択的スプライシングに起因する5つのアイソフォームに存在する。
【0229】
ヒトVEGFAは6p21.1の細胞遺伝学的位置を有し、ゲノム座標は第6染色体のフォワード鎖の43,770,209~43,786,487位に存在する。ヒトVEGFの配列の例は、NCBI遺伝子ID 7422およびEnsembl Gene ID ENSG00000112715で見出すことができる。VEGFAは血管内皮細胞の増殖および遊走を誘導し、生理学的および病理学的の両方の血管新生に重要である。マウスにおけるこの遺伝子の破壊は、胚血管形成の異常をもたらした。
【0230】
一部の実施形態では、本方法は、本明細書で開示するCRISPR/Cas9システムによるトランスフェクションの後で、VEGFAの発現レベルの有意な減少を示した。一部の実施形態では、対照(例えばVEGFAを標的としないsgRNAによるトランスフェクション)と比較して、VEGF発現レベルの低下は約80%以上、約85%以上、約90%以上、または約95%以上である。
【0231】
一部の実施形態では、VEGFA発現レベルの低下は、本明細書で開示するCRISPR/Cas9システムによるトランスフェクションの後、少なくとも約96時間、少なくとも約1週、少なくとも約2週、少なくとも約3週、少なくとも約4週、少なくとも約6週、少なくとも約2か月、またはそれ以上長く保持される。一部の実施形態では、VEGFレベルの低下は、約1週~約4週、約1週~約3週、約1週~約2週、約2週~約4週、約2週~約3週、または約3週~約4週、保持される。
【0232】
一部の実施形態では、VEGFAの発現レベルの低下は、ベースラインまたはVEGFAの所定のレベルの比較に基づいている。一部の実施形態では、VEGFAのレベルの低下は、対象からの第1の試料からのVEGFの第1のレベルと対象からの第2の試料からのVEGFの第2のレベルとの比較に基づいてよい。
【0233】
本開示は、マウスまたはウサギのVEGFA標的遺伝子を標的とするsgRNA配列を提供する。例示的なsgRNAは、表3aおよび表3bに列挙したものを含むが、それだけに限定されない。本開示は、ヒトVEGFAを標的とするsgRNA配列(これはサルVEGFAにおける相同領域も標的とする)も提供する。例示的なsgRNAは、表4に列挙したものを含むが、それだけに限定されない。
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
一部の実施形態では、gRNAは、標的遺伝子のプロモーター領域を標的とする。一実施形態では、gRNAは、標的遺伝子のエンハンサー領域を標的とする。gRNAは、標的結合領域、Cas9結合領域、および転写終止領域に分割することができる。標的結合領域は、標的遺伝子中の標的領域とハイブリダイズする。そのような標的結合領域を設計する方法は当技術で既知である。例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれるDoenchら、Nat Biotechnol.(2014)32:1262~7ぺージ;およびDoenchら、Nat Biotechnol.(2016)34:184~91ぺージを参照されたい。設計ツールは、例えばFeng Zhang lab’s target Finder、Michael Boutros lab’s Target Finder(E-CRISP)、RGEN Tools(Cas-OF Finder)、CasFinder、およびCRISPR Optimal Target Finderで入手可能である。ある特定の実施形態では、標的結合領域は、長さ約15~50ヌクレオチド(長さ約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または約50ヌクレオチド)の間であってよい。ある特定の実施形態では、標的結合領域は、長さ約19~約21ヌクレオチドの間であってよい。一実施形態では、標的結合領域は、長さ15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドである。
【0238】
一実施形態では、標的結合領域は、標的遺伝子内の標的領域と相補的、例えば完全に相補的である。一実施形態では、標的結合領域は、標的遺伝子内の標的領域と実質的に相補的である。一実施形態では、標的結合領域は、標的遺伝子内の標的領域と相補的でない1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以下のヌクレオチドを含む。
【0239】
一実施形態では、標的結合領域は、例えば非天然ヌクレオチドまたは改変されたヌクレオチドを標的結合領域に組み込むことによって、RNA不安定化配列エレメントを除去または改変することによって、RNA安定化配列エレメントを付加することによって、またはCas9/gRNA複合体の安定性を増大することによって、安定性を改善し、または半減期を延長させるように操作される。一実施形態では、標的結合領域は、その転写を増強するように操作される。一実施形態では、標的結合領域は、二次構造形成を低減するように操作される。一実施形態では、gRNAのCas9結合領域は、gRNAの転写を増強するように改変される。一実施形態では、gRNAのCas9結合領域は、Cas9/gRNA複合体の安定性またはアセンブリーを改善するように改変される。
【0240】
デリバリーシステム
本開示は、本明細書のシステムおよび組成物の成分を細胞、組織、器官、または生命体に導入するためのデリバリーシステムも提供する。デリバリーシステムは、1つまたは複数のデリバリー媒体および/またはカーゴを含んでよい。
【0241】
カーゴ
デリバリーシステムは、1つまたは複数のカーゴを含んでよい。カーゴは、本明細書のシステムおよび組成物の1つまたは複数の成分を含んでよい。カーゴは、以下の、i)1つまたは複数のCasタンパク質をコードするプラスミド、ii)1つまたは複数のガイドRNAをコードするプラスミド、iii)1つまたは複数のCasタンパク質のmRNA、iv)1つまたは複数のガイドRNA、v)1つまたは複数のCasタンパク質、vi)それらの任意の組合せの1つまたは複数を含んでよい。一部の例では、カーゴは、1つまたは複数のCasタンパク質および1つまたは複数の(例えば複数の)ガイドRNAをコードするプラスミドを含んでよい。一部の実施形態では、カーゴは、1つまたは複数のCasタンパク質および1つまたは複数のガイドRNAをコードするmRNAを含んでよい。
【0242】
一部の例では、カーゴは、1つまたは複数のCasタンパク質および1つまたは複数のガイドRNAを、例えばリボヌクレオプロテイン複合体(RNP)の形態で含んでよい。リボヌクレオプロテイン複合体は、本明細書の方法およびシステムによって送達してよい。一部の場合には、リボヌクレオプロテインは、ポリペプチド系のシャトル剤によって送達してよい。一例では、リボヌクレオプロテインは、例えばWO2016161516に記載されているように、細胞浸透ドメイン(CPD)に作動可能に連結されたエンドソームリーケージドメイン(ELD)を含む合成ペプチドを用いてヒスチジンリッチドメインおよびCPDに送達してよい。
【0243】
物理的デリバリー
一部の実施形態では、カーゴは、物理的デリバリー法によって細胞に導入してよい。物理的方法の例には、マイクロインジェクション、電気穿孔法、および水力学的デリバリーが含まれる。
【0244】
マイクロインジェクション
細胞へのカーゴの直接のマイクロインジェクションは、例えば90%超または約100%の高い効率を達成することができる。一部の実施形態では、マイクロインジェクションは、顕微鏡および細胞膜に穿刺して細胞内の目標部位にカーゴを直接送達するための針(例えば直径0.5~5.0μm)を用いて実施してよい。マイクロインジェクションは、インビトロおよびエクスビボ(ex vivo)のデリバリーのために用いてよい。
【0245】
Casタンパク質および/もしくはガイドRNAをコードする配列、mRNA、および/またはガイドRNAを含むプラスミドをマイクロインジェクションしてよい。一部の場合には、マイクロインジェクションは、i)DNAを細胞核に直接送達するため、および/またはii)mRNA(例えばインビトロで転写された)を細胞核または細胞質に送達するために用いてよい。ある特定の例では、マイクロインジェクションは、sgRNAを核に直接送達し、CasをコードするmRNAを細胞質に送達して、例えば翻訳および核へのCasのシャトリングを容易にするために用いてよい。
【0246】
マイクロインジェクションは、遺伝的子改変された動物を生成するために用いてよい。例えば、遺伝子編集カーゴを接合体に注射して、効率的な生殖細胞系列改変を可能にしてよい。そのようなアプローチによって、所望の改変を有する正常な胚および満期の子マウスを得ることができる。マイクロインジェクションは、例えばCRISPRaおよびCRISPRiを用いて、細胞のゲノム内の特定の遺伝子を過渡的に上方制御または下方制御するために用いることもできる。
【0247】
電気穿孔法
一部の実施形態では、カーゴおよび/またはデリバリー媒体は、電気穿孔法によって送達してよい。電気穿孔法は、高圧パルス電流を用いて、緩衝液中に懸濁された細胞の細胞膜内にナノメーターサイズの細孔を過渡的に開け、数十ナノメーターの水力学的直径を有する成分を細胞内に流入させることを可能にする。一部の場合には、電気穿孔法は種々の細胞型で用いられ、カーゴを効率的に細胞内に移入する。電気穿孔法はインビトロおよびエクスビボのデリバリーで用いてよい。
【0248】
電気穿孔法は、特定の電圧および薬剤を適用することによって、例えばヌクレオフェクションによって、哺乳動物細胞の核に(to)カーゴを送達するために用いてもよい。そのようなアプローチには、Wu Y,ら(2015).Cell Res 25:67~79ぺージ;Ye L,ら、(2014).Proc Natl Acad Sci USA 111:9591~6ぺージ;Choi PS,Meyerson M.(2014).Nat Commun 5:3728ぺージ;Wang J,Quake SR.(2014).Proc Natl Acad Sci 111:13157~62ぺージに記載されたものが含まれる。電気穿孔法は、例えばZuckermann M,ら(2015).Nat Commun 6:7391ぺージに記載された方法によって、カーゴをインビボで送達するために用いてもよい。
【0249】
水力学的デリバリー
水力学的デリバリーも、カーゴを送達するため、例えばインビボのデリバリーのために用いてよい。一部の例では、水力学的デリバリーは、対象(例えば動物またはヒト)の血流に、例えばマウスについては尾静脈を通じて、遺伝子編集カーゴを含む大量(例えば体重の8~10%)の溶液を迅速に押し込むことによって実施してよい。血液は非圧縮性であるので、一度に注入された大量の液体は水力学的圧力の増大をもたらし、これが内皮細胞および実質細胞への透過性を一時的に増強し、通常は細胞膜を横断できないカーゴの細胞内への通過を可能にする。このアプローチは、裸のDNAプラスミドおよびタンパク質を送達するために用いてよい。送達されたカーゴは、肝臓、腎臓、肺、筋肉、および/または心臓で富化される。
【0250】
トランスフェクション
カーゴ、例えば核酸は、核酸を細胞内に導入するためのトランスフェクション法によって細胞に導入してよい。トランスフェクション法の例には、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、カチオン性トランスフェクション、リポソームトランスフェクション、デンドリマートランスフェクション、熱ショックトランスフェクション、マグネトフェクション、リポフェクション、インパレフェクション、光学的トランスフェクション、独自の薬剤によって強化された核酸の取り込みが含まれる。
【0251】
デリバリー媒体
デリバリーシステムは、1つまたは複数のデリバリー媒体を含んでよい。デリバリー媒体は、カーゴを細胞、組織、器官、または生命体(例えば動物または植物)に送達し得る。カーゴは、包装され、運搬され、またはその他の方法でデリバリー媒体に付随してよい。デリバリー媒体は、送達すべきカーゴの型に基づいて選択され、ならびに/またはデリバリーはインビトロおよび/もしくはインビボである。デリバリー媒体の例には、ベクター、ウイルス、非ウイルス性媒体、および本明細書に記載したその他のデリバリー剤が含まれる。
【0252】
本開示によるデリバリー媒体は100ミクロン(μm)未満の最大寸法(例えば直径)を有してよい。一部の実施形態では、デリバリー媒体は10μm未満の最大寸法を有する。一部の実施形態では、デリバリー媒体は2000ナノメーター(nm)未満の最大寸法を有してよい。一部の実施形態では、デリバリー媒体は1000ナノメーター(nm)未満の最大寸法を有してよい。一部の実施形態では、デリバリー媒体は900nm未満、800nm未満、700nm未満、600nm未満、500nm未満、400nm未満、300nm未満、200nm未満、150nm未満、または100nm未満、50nm未満の最大寸法(例えば直径)を有してよい。一部の実施形態では、デリバリー媒体は、25nm~200nmの範囲の最大寸法を有してよい。
【0253】
一部の実施形態では、デリバリー媒体は粒子であるか、粒子を含んでよい。例えば、デリバリー媒体は、ナノ粒子[例えば1000nm以下の最大寸法(例えば直径)を有する粒子]であるか、ナノ粒子を含んでよい。粒子は様々な形態、例えば固体粒子(例えば銀、金、鉄、チタン等の金属、非金属、液体系固体、ポリマー)、粒子の懸濁液、またはそれらの組合せとして供給してよい。金属、誘電体、および半導体の粒子、ならびにハイブリッド構造(例えばコアシェル粒子)を調製してよい。
【0254】
ベクター
システム、組成物、および/またはデリバリーシステムは、1つまたは複数のベクターを含んでよい。本開示はベクターシステムも含む。ベクターシステムは1つまたは複数のベクターを含んでよい。一部の実施形態では、ベクターは、それが連結された別の核酸を輸送することができる核酸分子を指す。ベクターは、一本鎖、二本鎖、または部分的二本鎖の核酸分子、1つまたは複数の遊離末端を含むか遊離末端を含まない(例えば環状の)核酸分子、DNA、RNA、またはその両方を含む核酸分子、および当技術で既知の他の種々のポリヌクレオチドを含む。ベクターは、プラスミド、例えば標準的な分子クローニング手法によってその中にさらなるDNAセグメントを挿入することができる環状二本鎖DNAループであってよい。ある種のベクターは、それが導入された宿主細胞における自己複製が可能であってよい(例えば、細菌の複製の起点を有する細菌性ベクターおよびエピソーマル哺乳動物ベクター)。一部のベクター(例えば非エピソーマル哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入に際して宿主細胞のゲノムの中に一体化され、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。ある特定の例では、ベクターは、例えばそれが作動可能に連結された遺伝子の発現を指令することができる発現ベクターであってよい。一部の場合には、発現ベクターは、真核細胞における発現のためであってよい。組換えDNA手法において有用な一般的な発現ベクターはプラスミドの形態であることが多い。
【0255】
ベクターの例には、pGEX、pMAL、pRIT5、大腸菌(E.coli)発現ベクター(例えばpTrc、pET l ld)、酵母発現ベクター(例えばpYepSecl、pMFa、pJRY88、pYES2、およびpicZ)、バキュロウイルスベクター(例えばSF9細胞等の昆虫細胞内での発現のため)(例えばpAcシリーズおよびpVLシリーズ)、哺乳動物発現ベクター(例えばpCDM8およびpMT2PC)が含まれる。
【0256】
ベクターは、i)Casコーディング配列、および/またはii)単一の、もしくは少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも32、少なくとも48、少なくとも50のガイドRNAコーディング配列を含んでよい。単一のベクターにおいて、それぞれのRNAコーディング配列についてプロモーターが存在してよい。その代わりにまたはさらに、単一のベクターにおいて、多数のRNAコーディング配列を制御する(例えば転写および/または発現を駆動する)プロモーターが存在してもよい。
【0257】
制御エレメント
ベクターは、1つまたは複数の制御エレメントを含んでよい。制御エレメントは、Casタンパク質、アクセサリータンパク質、ガイドRNA(例えばシングルガイドRNA、crRNA、および/またはtracrRNA)、またはそれらの組合せのコーディング配列に作動可能に連結され得る。用語「作動可能に連結される」は、目的のヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で制御エレメントに連結されていること(例えばインビトロの転写/翻訳システムで、またはベクターが宿主細胞に導入される場合には宿主細胞内で)を意味することを意図している。ある特定の例では、ベクターは、Casタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された第1の制御エレメント、およびガイドRNAをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された第2の制御エレメントを含んでよい。
【0258】
制御エレメントの例には、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーマル進入部位(IRES)、およびその他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナルおよびポリU配列等の転写終止シグナル)が含まれる。そのような制御エレメントは、例えばGoeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif(1990)に記載されている。制御エレメントは、多くの型の宿主細胞内でヌクレオチド配列の構成的発現を指令する制御エレメント、およびある特定の宿主細胞内でのみヌクレオチド配列の発現を指令する制御エレメント(例えば組織特異的制御配列)を含む。組織特異的プロモーターは、主として所望の目的の組織、例えば筋肉、神経、骨、皮膚、血液、特定の器官(例えば肝臓、膵臓)、または特定の細胞型(例えばリンパ球)における発現を指令し得る。制御エレメントは、時間依存的な様式で、例えば細胞サイクル依存的または発達段階依存的な様式で、組織または細胞型に特異的であっても特異的でなくてもよい発現を指令し得る。
【0259】
プロモーターの例には、1つまたは複数のpol IIIプロモーター(例えば1、2、3、4、5、またはそれ以上のpol IIIプロモーター)、1つまたは複数のpol IIプロモーター(例えば1、2、3、4、5、またはそれ以上のpol IIプロモーター)、1つまたは複数のpol Iプロモーター(例えば1、2、3、4、5、またはそれ以上のpol Iプロモーター)、またはそれらの組合せが含まれる。pol IIIプロモーターの例には、それだけに限らないが、U6およびHIプロモーターが含まれる。pol IIプロモーターの例には、それだけに限らないが、レトロウイルスラウス肉腫ウイルスプロモーター(RSV)LTRプロモーター(RSVエンハンサーを含んでもよい)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMVエンハンサーを含んでもよい)、SV40プロモーター、ジヒドロフォレートリダクターゼプロモーター、アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1aプロモーターが含まれる。
【0260】
ウイルスベクター
カーゴはウイルスによって送達してよい。一部の実施形態では、ウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターは、ウイルス(例えばレトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)中へのパッケージングのためのウイルス由来のDNAまたはRNA配列を含んでよい。ウイルスベクターは、宿主細胞へのトランスフェクションのためにウイルスによって運搬されるポリヌクレオチドも含む。ウイルスおよびウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボ、および/またはインビボのデリバリーのために用いてよい。
【0261】
アデノ随伴ウイルス(AAV)
本明細書のシステムおよび組成物は、アデノ随伴ウイルス(AAV)によって送達してよい。AAVベクターをそのようなデリバリーのために用いてよい。デペンドウイルス属およびパルボビリダエファミリーのAAVは一本鎖DNAウイルスである。一部の実施形態では、AAVによって送達されたゲノム材料は、例えば外因性DNAとして細胞内に無期限に存在することができ、またはいくらかの改変を加えて宿主DNAに直接一体化することができるので、AAVは与えられたDNAの持続的な源を提供し得る。一部の実施形態では、AAVはヒトにおいて疾患を惹起せず、または疾患に関連しない。ウイルスそれ自体は、先天的もしくは適応的な免疫応答または付随する毒性を殆どまたは全く誘発せずに、細胞に効率的に感染することができる。
【0262】
本明細書で用いることができるAAVの例には、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-8、およびAAV-9が含まれる。AAVの型は標的とされる細胞に関して選択してよく、例えば脳または神経細胞を標的とするためにAAVの血清型1、2、5、またはハイブリッドカプシドAAVl、AAV2、AAV5、またはそれらの任意の組合せを選択することができ、心臓組織を標的とするためにはAAV4を選択することができる。AAV8は肝臓へのデリバリーのために有用である。AAV-2系ベクターは、もともとCFTRのCF気道へのデリバリーのために提案された。AAV-1、AAV-5、AAV-6、およびAAV-9等の他の血清型は、肺上皮組織の種々のモデルにおいて改善された遺伝子導入効率を呈する。AAVによって標的とされる細胞型の例は、全体が参照により本明細書に組み込まれるGrimm,D.ら、J.Virol.82:5887~5911ぺージ(2008)およびWO 2021/183807A1に記載されている。
【0263】
CRISPR-Cas AAV粒子は、HEK 293T細胞内で創成してよい。特定の向性を有する粒子が創成されれば、これらを用いて、天然のウイルス粒子と同じ方法で標的細胞株に感染させられる。これにより、感染した細胞型におけるCRISPR-Cas成分の持続的な存在が可能になり、このデリバリーのバージョンが長期発現の望ましい場合に特に適するようになる。用いることができるAAVの用量および処方の例には、米国特許第8,454,972号および第8,404,658号に記載されたものが含まれる。
【0264】
AAVを用いる本明細書のシステムおよび組成物によるデリバリーのために種々の戦略が用いられる。一部の例では、CasおよびgRNAのコーディング配列が1つのDNAプラスミドベクターに直接パッケージングされ、1つのAAV粒子を介して送達される。一部の例では、Casを発現するように既に操作された細胞にgRNAを送達するためにAAVを用いてよい。一部の例では、CasおよびgRNAのコーディング配列が分離された2つのAAV粒子の中で作製され、これが標的細胞の共トランスフェクションのために用いられる。一部の例では、マーカー、タグ、およびその他の配列を、Casおよび/またはgRNAのコーディング配列として同じAAV粒子の中にパッケージングしてよい。
【0265】
レンチウイルス
本明細書のシステムおよび組成物は、レンチウイルスによって送達してよい。レンチウイルスベクターをそのようなデリバリーのために用いてよい。レンチウイルスは、有糸分裂細胞と有糸分裂後の細胞の両方に感染してそれらの遺伝子を発現する能力を有する複雑なレトロウイルスである。
【0266】
レンチウイルスの例には、他のウイルスのエンベロープ糖タンパク質を用いて広範囲の細胞型を標的とし得るヒト免疫不全ウイルス(HIV)、眼科の治療に用いられるウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)系の最小非霊長類レンチウイルスベクターが含まれる。ある特定の実施形態では、HIV tat/revによって共有される共通のエクソンを標的とするsiRNA、核小体局在TARデコイ、および抗CCR5特異的ハンマーヘッドリボザイムを有する自己不活化レンチウイルスベクター[例えばDiGiustoら、(2010)Sci Transl Med 2:36ra43を参照]を、本明細書の核酸標的システムに用いて、および/または適合させてよい。
【0267】
レンチウイルスは、水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質等の他のウイルスタンパク質と疑似型化してよい。これを行なう場合、レンチウイルスの向細胞性を所望によって広くまたは狭くなるように変化させることができる。一部の場合には、安定性を改善するために、第2世代および第3世代のレンチウイルスシステムによって必須遺伝子を3つのプラスミドに分割してよく、これにより、細胞内での生きたウイルス粒子の偶発的な再構成の可能性が低減され得る。
【0268】
一部の例では、一体化能力を利用し、例えば遺伝子およびシグナル伝達経路のスクリーニングおよび/または研究のために、レンチウイルスを用いて種々の遺伝子改変を含む細胞のライブラリーを創成してよい。
【0269】
アデノウイルス
本明細書のシステムおよび組成物は、アデノウイルスによって送達してよい。アデノウイルスベクターをそのようなデリバリーのために用いてよい。アデノウイルスは、二本鎖DNAゲノムを含む20面体のヌクレオカプシドを有する非エンベロープウイルスを含む。アデノウイルスは、分裂性および非分裂性の細胞に感染し得る。一部の実施形態では、アデノウイルスは宿主細胞のゲノムに一体化されず、遺伝子編集の応用においてCRISPR-Casシステムのオフターゲット効果を制限するために用いてよい。
【0270】
非ウイルス媒体
デリバリー媒体は非ウイルス媒体を含んでよい。一般に、核酸および/またはタンパク質を送達することができる方法および媒体を、本明細書のシステム組成物を送達するために用いてよい。非ウイルス媒体の例には、脂質ナノ粒子、細胞浸透性ペプチド(CPP)、DNAナノクルー、金ナノ粒子、ストレプトリジン0、多機能性エンベロープ型ナノデバイス(MEND)、脂質コートメソポーラスシリカ粒子、およびその他の無機ナノ粒子が含まれる。
【0271】
脂質粒子
デリバリー媒体は、脂質粒子、例えば脂質ナノ粒子(LNP)およびリポソームを含んでよい。
【0272】
脂質ナノ粒子(LNP)
LNPは、カチオン性脂質粒子(例えばリポソーム)の中に核酸をカプセル化し、比較的容易に細胞へ送達され得る。一部の例では、脂質ナノ粒子はウイルス成分を何ら含まず、それにより、安全性および免疫原性の懸念を最小化することを助ける。脂質粒子は、インビトロ、エクスビボ、およびインビボのデリバリーのために用いてよい。脂質粒子は、種々のスケールの細胞集団に用いてよい。
【0273】
LNPは、当技術で既知の種々の方法、例えば有機相と水相を混合することによって、容易に調製することができる。2つの相の混合は、微小流体デバイスおよび衝突流反応器によって達成することができる。有機相と水相をより適切に混合することによって、LNPのより良い埋め込み速度と粒径分布が得られる。好ましくは、LNPの粒径は、有機相と水相の混合速度を変更することによって調節することができる。混合速度を速くすれば、より小さな粒径のLNPが調製される。埋め込み効率は、LNPシステムのN/P比を制御することによって最適化できる。一部の好ましい実施形態では、N/P比は1:1~9:1である。
【0274】
一部の例では、LNPは、DNA分子(例えばCasおよび/またはgRNAのコーディング配列を含むDNA分子)および/またはRNA分子(例えばCasのmRNA、gRNA)を送達するために用いてよい。ある特定の場合には、LNPは、Cas/gRNAのRNP複合体を送達するために用いてよい。
【0275】
一部の実施形態では、LNPは、mRNAおよびgRNA[例えばDNMT3A-DNMT3L(3A-3L)-dCas9-KRABを含むmRNA融合分子およびVEGFを標的とする少なくとも1つのsgRNA]を送達するために用いられる。
【0276】
LNPの成分は、カチオン性脂質、即ち1,2-ジリネオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DLinDAP)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレイルオキシケト-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinK-DMA)、l,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-を含んでよい。一部の実施形態では、LNPはイオン化可能な脂質を含んでよい。一部の実施形態では、イオン化可能な脂質には、それだけに限らないが、pH応答性のイオン化可能な脂質、熱応答性のイオン化可能な脂質、および光応答性のイオンが含まれる。一部の実施形態では、イオン化可能な脂質には、それだけに限らないが、pH、温度、または光等のある種の条件の下でイオン化されるカチオン性脂質およびアニオン性脂質が含まれる。一部の実施形態では、LNPのイオン化可能な脂質のモル比は、20%~70%(約20%~70%、約20%~65%、約20%~60%、約20%~55%、約20%~50%、約20%~45%、約20%~40%、約20%~35%、約20%~30%、約20%~25%、約30%~70%、約30%~65%、約30%~60%、約30%~55%、約30%~50%、約30%~45%、約30%~40%、約30%~35%、約40%~70%、約40%~65%、約40%~60%、約40%~55%、約40%~50%、約40%~45%、約50%~70%、約50%~65%、約50%~60%、約50%~55%、約60%~70%、または約60%~65%)である。
【0277】
一部の実施形態では、LNPは、PEG化された脂質を含んでよい。一部の実施形態では、LNP中のPEG化脂質のモル比は、0%~約30%(例えば約0%~約30%、約0%~約25%、約0%~約20%、約0%~約15%、約0%~約10%、約10%~約30%、約10%~約25%、約10%~約20%、約10%~約15%、約20%~約30%、または約20%~約25%)である。
【0278】
一部の実施形態では、LNPは支持脂質を含んでよい。一部の実施形態では、LNP中の支持脂質のモル比は、30%~約50%(例えば約30%~約50%、約30%~約45%、約30%~約40%、約30%~約35%、約40%~約50%、または約40%~約45%)である。
【0279】
一部の実施形態では、LNPはコレステロールを含んでよい。一部の実施形態では、LNP中のコレステロールのモル比は、10%~約50%(例えば約10%~約50%、約10%~約45%、約10%~約40%、約10%~約35%、約10%~約30%、約10%~約25%、約10%~約20%、約10%~約15%、約20%~約50%、約20%~約45%、約20%~約40%、約20%~約35%、約20%~約30%、約20%~約25%、約30%~約50%、約30%~約45%、約30%~約40%、約30%~約35%、約40%~約50%、または約40%~約45%)である。
【0280】
一部の実施形態では、LNPは、イオン化可能な脂質(モル比20%~70%)、PEG化された脂質(モル比0%~30%)、支持脂質(モル比30%~50%)、およびコレステロール(モル比10%~50%)の混合物を含んでよい。
【0281】
リポソーム
一部の実施形態では、脂質粒子はリポソームであってよい。リポソームは、内部の水性区画を取り囲む単層または多層の脂質二重層と、比較的非透過性の外側親油性リン脂質二重層からなる球状の小胞構造である。一部の実施形態では、リポソームは、生体親和性、非毒性であり、親水性と親油性の両方の薬物分子を送達し、それらのカーゴを血漿酵素による分解から保護し、それらのロードを生物学的膜および血液脳関門(BBB)を通して輸送することができる。
【0282】
リポソームは、いくつかの異なる型の脂質、例えばリン脂質から作製することができる。リポソームは、1,2-ジステアロリル(stearoryl)-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DSPC)、スフィンゴミエリン、卵ホスファチジルコリン、モノシアロガングリオシド、またはそれらの任意の組合せ等の、天然のリン脂質および脂質を含んでよい。
【0283】
リポソームの構造および特性を改変するために、他のいくつかの添加物をリポソームに加えてもよい。例えば、リポソームは、例えば安定性を増大するため、および/またはリポソームの内部カーゴの漏洩を防止するために、コレステロール、スフィンゴミエリン、および/または1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)をさらに含んでよい。
【0284】
安定な核酸-脂質粒子(SNALP)
一部の実施形態では、脂質粒子は、安定な核酸脂質粒子(SNALP)であってよい。SNALPは、イオン化可能な脂質(DLinDMA)(例えば低いpHでカチオン性)、中性ヘルパー脂質、コレステロール、拡散性のポリエチレングリコール(PEG)-脂質、またはそれらの任意の組合せを含んでよい。一部の例では、SNALPは、合成コレステロール、ジパルミトイルホスファチジルコリン、3-N-その他の脂質を含んでよい。
【0285】
脂質粒子は、他の1つまたは複数の型の脂質、例えばアミノ脂質2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-リポプレックスおよび/またはポリプレックス等のカチオン性脂質を含んでもよい。
【0286】
一部の実施形態では、デリバリー媒体は、リポプレックスおよび/またはポリプレックスを含む。リポプレックスは、陰性に荷電した細胞膜に結合し、細胞内にエンドサイトーシスを誘導する。リポプレックスの例には、脂質および非脂質成分を含む複合体があり得る。リポプレックスおよびポリプレックスの例には、FuGENE-6試薬、脂質およびその他の成分を含む非リポソーマル溶液、両性イオン性アミノ脂質(ZAL)、Ca2p(例えばDNA/Ca2+ミクロ複合体を形成する)、ポリエテンイミン(PEI)(例えば分枝PEI)、およびポリ(L-リジン)(PLL)が含まれる。
【0287】
細胞浸透性ペプチド
一部の実施形態では、デリバリー媒体は細胞浸透性ペプチド(CPP)を含む。CPPは、種々の分子カーゴ(例えばナノサイズの粒子から小さな化学分子およびDNAの大きな断片まで)の細胞内取り込みを容易にする短いペプチドである。
【0288】
CPPは、様々な寸法、アミノ酸配列、および電荷であってよい。一部の例では、CPPは原形質膜を転位させ、種々の分子カーゴの細胞質またはオルガネラへのデリバリーを容易にすることができる。CPPは、様々な機構、例えば膜における直接浸透、エンドサイトーシスによって媒介される進入、および過渡的構造の形成による転位を介して、細胞内に導入してよい。
【0289】
CPPは、高い相対的存在量のリジンまたはアルギニン等の陽性荷電のアミノ酸を含むか、または極性/荷電アミノ酸と非極性で疎水性のアミノ酸の交互のパターンを含む配列を有するアミノ酸組成を有し得る。これら2つの型の構造は、それぞれポリカチオン性または両親媒性と称される。第3のクラスのCPPは、低い正味電荷を有し非極性残基のみを含む疎水性ペプチドであるか、または細胞への取り込みに重要な疎水性アミノ酸基を含む。もう一つの型のCPPは、ヒト免疫不全ウイルスI(HIV-I)由来のトランス活性化転写アクチベーター(Tat)である。CPPの例には、ペネトラチン、Tat(48-60)、トランスポータン、および(R-AhX-R4)(Ahxはアミノヘキサノイルを指す)が含まれる。CPPの例および関連する応用には、米国特許第8,372,951号に記載されたものも含まれる。
【0290】
CPPは、インビトロおよびエクスビボの仕事に極めて容易に用いることができ、それぞれのカーゴおよび細胞型のための広範囲の最適化が通常、必要である。一部の例では、CPPはCasタンパク質に直接共有結合してよく、これは次にgRNAと複合体を形成して細胞に送達される。一部の例では、多数の細胞へのCPP-CasとCPP-gRNAの個別のデリバリーを実施してよい。CPPはRNPを送達する(delivery)ために用いてもよい。
【0291】
DNAナノクルー
一部の実施形態では、デリバリー媒体は、DNAナノクルーを含む。DNAナノクルーは、球状構造のDNA(例えばヤムイモの球の形状をもっている)を指す。ナノクルーは、構造の自己集合において助けとなる回文配列によるローリングサークル増幅によって合成してよい。次いで球にペイロードをロードしてよい。DNAナノクルーの例は、Sun Wら、J Am Chem Soc.2014 Oct 22;136(42):14722~5ぺージ;およびSun Wetら、Angew Chem Int Ed Engl.2015 Oct 5;54(41):12029~33ぺージに記載されている。DNAナノクルーは、Cas:gRNAリボヌクレオプロテイン複合体の中のgRNAと部分的に相補的であるべき回文配列を有し得る。DNAナノクルーは、エンドソーム脱出を誘導するためにコーティング、例えばPEIによってコーティングしてよい。
【0292】
金ナノ粒子
一部の実施形態では、デリバリー媒体は、金ナノ粒子(AuNPまたはコロイド状金とも称する)を含む。金ナノ粒子は、カーゴ、例えばCas:gRNA RNPと複合体を形成し得る。金ナノ粒子は、コーティング、例えばシリケートおよびエンドソーム破壊ポリマーPAsp(DET)によるコーティングを行なってよい。金ナノ粒子の例には、AuraSense Therapeutics社のSpherical Nucleic Acid[SNA(商標)]コンストラクト、およびMout R,ら(2017).ACS Nano 11:2452~8ぺージ;Lee K,ら(2017).Nat Biomed Eng 1:889~901ぺージに記載されたものが含まれる。
【0293】
iTOP
一部の実施形態では、デリバリー媒体はiTOPを含む。iTOPは、いずれの形質導入ペプチドにも依存せずに、天然のタンパク質の細胞内への高度に効率的なデリバリーを駆動する小分子の組合せを指す。iTOPは、オスモサイトーシスおよびプロパンベタインによる形質導入の誘導に用いられ、NaClに媒介される高浸透圧と形質導入化合物(プロパンベタイン)の併用によって、細胞外高分子の細胞内へのマクロピノサイトーシスによる取り込みを誘発する。iTOP法および試薬の例には、D’Astolfo DS,Pagliero RJ,Pras Aら、(2015)Cell 161:674~690ぺージに記載されたものが含まれる。
【0294】
ポリマー系粒子
一部の実施形態では、デリバリー媒体はポリマー系粒子(例えばナノ粒子)を含んでよい。一部の実施形態では、ポリマー系粒子は膜融合のウイルス機構を模倣し得る。ポリマー系粒子はインフルエンザウイルスの機構の合成コピーであってよく、酸性コンパートメントの形成が関与するプロセスであるエンドサイトーシス経路を介して細胞に取り込まれる種々の型の核酸(siRNA、miRNA、プラスミドDNA、またはshRNA、mRNA)とトランスフェクション複合体を形成する。後期エンドソームの低いpHは、粒子表面を疎水性にし、膜の横断を容易にする化学的スイッチとして作用する。いったんサイトゾルに入れば、粒子は細胞作用のためにそのペイロードを放出する。この活性エンドソーム脱出技術は天然の取り込み経路を用いているので、安全であり、トランスフェクション効率を最大化する。一部の実施形態では、ポリマー系粒子は、アルキル化およびカルボキシアルキル化された分枝ポリエチレンイミンを含んでよい。一部の例では、ポリマー系粒子は、VIROMER、例えばVIROMER RNAi、VIROMER RED、VIROMER mRNA、VIROMER CRISPRである。本明細書のシステムおよび組成物を送達する方法の例には、Bawage SSら、Synthetic mRNA expressed Casl3a mitigates RNA virus infections,www.biorxiv.org/content/l0.l l01/370460v1.full doi:doi.org/10.1101/370460、Viromer(登録商標)RED,a powerful tool for transfection of keratinocytes.doi:10.13140/RG.2.2.16993.61281、Viromer(登録商標)Transfection-Factbook 2018:technology,product overview,users’ data.,doi:10.13140/RG.2.2.23912.16642に記載されたものが含まれる。
【0295】
ストレプトリジンO(SLO)
デリバリー媒体はストレプトリジンO(SLO)であってよい。SLOは、哺乳動物の細胞膜に細孔を創成することによって働く、グループAストレップトコッカスによって産生される毒素である。SLOは可逆的な様式で作用し、全体の生存率を犠牲にすることなく、細胞のサイトゾルへのタンパク質(例えば100kDaまで)のデリバリーを可能にする。SLOの例には、Sierig Gら、(2003)Infect Immun 71:446~55ぺージ;Walev Iら、(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:3185~90ぺージ;Teng KWら、(2017)Elife 6:e25460に記載されたものが含まれる。
【0296】
多機能性エンベロープ型ナノデバイス(MEND)
デリバリー媒体は多機能性エンベロープ型ナノデバイス(MEND)を含んでよい。MENDは、凝縮プラスミドDNA、PLLコア、および脂質フィルムシェルを含んでよい。MENDは、細胞浸透性ペプチド(例えばステアリルオクタアルギニン)をさらに含んでよい。細胞浸透性ペプチドは、脂質シェルの中に存在してよい。脂質エンベロープは、1つまたは複数の機能性成分、例えばポリエチレングリコール(例えば血管循環時間を増大させるため)、特定の組織/細胞を標的化するためのリガンド、さらなる細胞浸透性ペプチド(例えば細胞デリバリーをより大きくするため)、エンドソーム脱出を増強するための脂質、および核デリバリータグの1つまたは複数によって改変してもよい。一部の例では、MENDはテトララメラMEND(T-MEND)であってよく、これは細胞核およびミトコンドリアを標的とし得る。ある特定の例では、MENDはPEG-ペプチド-DOPEコンジュゲートMEND(PPD-MEND)であってよく、これは膀胱がん細胞を標的とし得る。MENDの例には、Kogure Kら、(2004).J Control Release 98:317~23ぺージ;Nakamura Tら、(2012).Ace Chem Res 45:1113~21ぺージに記載されたものが含まれる。
【0297】
脂質コートメソポーラスシリカ粒子
デリバリー媒体は脂質コートメソポーラスシリカ粒子を含んでよい。脂質コートメソポーラスシリカ粒子は、メソポーラスシリカナノ粒子コアおよび脂質膜シェルを含んでよい。シリカコアは大きな内部表面積を有し、高いカーゴローディング容量をもたらし得る。一部の実施形態では、細孔径、細孔化学、および全体の粒子サイズを、様々な型のカーゴをロードするために改変してよい。粒子の脂質コーティングは、カーゴローディングを最大化し、循環時間を増大させ、正確な標的化およびカーゴ放出を提供するために、改変してもよい。脂質コートメソポーラスシリカ粒子の例には、Du Xら、(2014).Biomaterials 35:5580~90ぺージ;Durfee PNら、(2016).ACS Nano 10:8325~45ぺージに記載されたものが含まれる。
【0298】
無機ナノ粒子
デリバリー媒体は無機ナノ粒子を含んでよい。無機ナノ粒子の例には、炭素ナノチューブ (CNT)[例えばBates Kand Kostarelos K.(2013).Adv Drug Deliv Rev 65:2023~33ぺージに記載されている]、裸のメソポーラスシリカナノ粒子(MSNP)[例えばLuo GFら、(2014).Sci Rep 4:6064ぺージに記載されている]、および緻密なシリカナノ粒子(SiNP)[Luo DおよびSaltzman WM.(2000).Nat Biotechnol 18:893~5ぺージに記載されている]が含まれる。
【0299】
使用の方法
本明細書の組成物およびシステムは、植物および真菌等の非動物生命体の改変、および動物の改変、植物、動物、およびヒトにおける疾患の処置および診断を含む種々の適用のために用いてよい。一般に、組成物およびシステムを、細胞、組織、器官、または生命体に導入してよく、そこで1つまたは複数の遺伝子の発現および/または活性が改変される。
【0300】
細胞および生命体
本開示は、操作されたCasタンパク質、CRISPR-Casシステム、CRISPR-Casシステムの1つまたは複数の成分をコードするポリヌクレオチド、および/またはポリヌクレオチドを含むベクターを含む細胞、組織、生命体を提供する。本開示は、本明細書に記載した方法または組成物のいずれかにおける真核生物または真核細胞における発現のためにコドン最適化されたエフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列も提供する。本開示の一実施形態では、コドン最適化されたエフェクタータンパク質は、本明細書で論じる任意のCasタンパク質であり、真核細胞または生命体、例えば本明細書の他の箇所で述べた細胞または生命体、例えば限定するものではないが酵母細胞またはマウス細胞、ラット細胞、およびヒト細胞を含む哺乳動物の細胞もしくは生命体または非ヒト真核生命体、例えば植物における作動可能性のためにコドン最適化される。
【0301】
ある特定の実施形態では、目的の標的遺伝子座の改変は、少なくとも1つの遺伝子産物の変化した発現を含む真核細胞、少なくとも1つの遺伝子産物の発現が増大している、少なくとも1つの遺伝子産物の変化した発現を含む真核細胞、少なくとも1つの遺伝子産物の発現が減少している、少なくとも1つの遺伝子産物の変化した発現を含む真核細胞、または編集されたゲノムを含む真核細胞をもたらし得る。
【0302】
ある特定の実施形態では、真核細胞は哺乳動物細胞またはヒト細胞であってよい。
【0303】
さらなる実施形態では、本明細書に記載した天然に存在しないもしくは操作された組成物、ベクターシステム、またはデリバリーシステムを、部位特異的遺伝子ノックアウト、部位特異的ゲノム編集、RNA配列特異的干渉、またはマルチプレックスゲノム操作のために用いてよい。
【0304】
本明細書に記載した細胞、細胞株、または生命体からの遺伝子産物も提供される。ある特定の実施形態では、発現される遺伝子産物の量は、変化した発現または編集されたゲノムを有しない細胞からの遺伝子産物の量より多いことも少ないこともある。ある特定の実施形態では、遺伝子産物は、変化した発現または編集されたゲノムを有しない細胞からの遺伝子産物と比較して変化することがある。
【0305】
例示的な療法
本開示は、種々の疾患および障害における処置のためのCRISPR-Casシステムの使用を提供する。一部の実施形態では、本明細書に記載した本開示は、VEGF(例えばVEGFA)遺伝子を調節するために細胞がCRISPRまたは塩基エディターによってエクスビボで編集され、引き続いて編集された細胞がそれを必要とする患者に投与される、治療のための方法に関する。一部の実施形態では、編集は細胞内のVEGF(例えばVEGFA)遺伝子の発現をノッキングイン、ノッキングアウト、またはノッキングダウンすることを含む。
【0306】
一部の実施形態では、本明細書に記載したVEGFAを標的とするCRISPR-Casシステムは、VEGFAによって媒介される細胞プロセスを阻害するために有用であり、VEGFAまたはVEGFA関連受容体の作用によって刺激される異常な血管新生および/またはリンパ管新生に付随する障害(例えば種々の眼科障害およびがん)の予防または治療のための適応を有する。
【0307】
少なくとも1つのDNA結合性タンパク質および遺伝子発現の少なくとも1つのモジュレーターを含む融合分子、または融合分子をコードする核酸配列、およびVEGF遺伝子の近傍および/またはVEGF制御エレメント内のDNA配列を標的とするように設計されたsgRNAを含む、本明細書に記載したVEGFAを標的とするCRISPR-Casシステムは、VEGF-Aの除去、阻害、または低減によって改善され、改良され、阻害され、または防止される状態の任意の疾患を処置または防止するために治療的に有用である。
【0308】
VEGFAの阻害または低減によって改善される特定の条件の非網羅的なリストには、外傷、発作、もしくは腫瘍に伴う脳浮腫等の血管内皮細胞の過剰な増殖、血管透過性、浮腫、乾癬もしくはリウマチ性関節炎を含む関節炎等の炎症性障害に伴う浮腫、喘息、熱傷に伴う全身性浮腫、腫瘍、炎症、もしくは外傷に伴う腹水および胸水、慢性気道炎症、毛細血管漏出症候群、敗血症、タンパク質の漏出の増大に伴う腎疾患、ならびに加齢性黄斑変性症および糖尿病性網膜症等の眼科障害によって特徴付けられる臨床状態が含まれる。
【0309】
「新生血管障害」は、変化した、異常調節された、または調節されない血管新生によって特徴付けられる障害または疾患の状態である。新生血管障害の例には、新生形質転換(例えばがん)および糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性症を含む眼科の新生血管障害が含まれる。
【0310】
「眼科の新生血管障害」は、患者の眼における変化した、異常調節された、または調節されない血管新生によって特徴付けられる障害である。そのような障害には、視神経円板の血管新生、虹彩の血管新生、網膜の血管新生、脈絡膜の血管新生、角膜の血管新生、硝子体の血管新生、緑内障、パンヌス、翼状片、黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、血管性網膜症、網膜変性、ぶどう膜炎、網膜の炎症性疾患、および増殖性硝子体網膜症が含まれる。
【0311】
一部の実施形態では、本明細書で開示した組成物および方法によって処置されるべき疾患は、血管新生(血管の形成)を伴う。一部の実施形態では、疾患は新生血管障害、例えば加齢性黄斑変性(AMD)を含む眼科の血管新生障害であり、ドライAMDおよびウェットAMDを含む。
【実施例】
【0312】
[実施例1]
融合分子プラスミドの構築およびノックダウン効率
【0313】
「EPICAS」システムを形成するために2つのプラスミドを構築した(
図1A)。「融合分子」または「触媒タンパク質」プラスミドは、dCas9、DNMT3A、DNMT3L、およびKRABペプチドをコードする。融合したDNMT3AおよびDNMT3L(3A3L)ペプチドはdCas9のN末端に存在し、KRABはdCas9のC末端に存在する。即ち、融合分子は、N末端からC末端へ、3A3L-dCas9-KRABを有する。「sgRNA」プラスミドは、VEGFa遺伝子を標的とするsgRNA配列をコードする。「スカフォールド」は、VEGFA遺伝子の遺伝子またはプロモーターの配列である。マウスVEGFa遺伝子の転写開始部位(TSS)の上流および下流250bp以内の領域を標的とするために多数のsgRNAを設計した。具体的には、7種のsgRNA(配列番号29~35)を設計し、引き続くトランスフェクションのために対応するsgRNAプラスミドを生成した。
【0314】
個別のsgRNAプラスミドを、触媒タンパク質のプラスミドとともにマウスN2A細胞株(National collection of Authenticated Cell cultures)に共トランスフェクトした。48時間後、上位10%のGFP+およびmCherry+の細胞をFACSによって選別した。VEGFaのmRNA発現レベルを評価するためにRT-QPCR実験を実施した。試験した7種のsgRNA全てが、N2A細胞内で有意に下方制御されたVEGFの発現を示し、約80%のノックダウン効率を示した。その中で、sgRNA3、sgRNA5、およびsgRNA7をトランスフェクトした細胞が、約84%に達する最良のノックダウン効果を示した(
図1B)。
【0315】
次に、sgRNA3、sgRNA4、およびsgRNA5を、長期にわたるノックダウン効果の保持をさらに試験するために選択した。sgRNAプラスミドを、触媒タンパク質のプラスミドとともにマウスN2A細胞株に共トランスフェクトした。48時間後に、上位10%のGFP+およびmCherry+の細胞をFACSによって選別し、培養を継続した。1週間後に細胞を収集し、VEGFaのmRNA発現レベルを評価するためにRT-QPCR実験を実施した。結果は、遺伝子サイレンシング効果がトランスフェクションの48時間後と比較して保持され、改善さえされて、90%超に達したことを示した(
図1C)。VEGFa mRNAは細胞内で比較的長い半減期を有し、既存のVEGFa mRNAの分解および新たなVEGFa mRNAの合成の妨害の両方が、1週間後のVEGFa mRNAの低いレベルに寄与していることが推測される。
【0316】
さらに、2つ以上のsgRNAの組合せがN2A細胞におけるVEGFaの遺伝子発現レベルをさらに低減させ得るか否かを決定するために、sgRNA3、sgRNA4、およびsgRNA5の組合せ(sgMix)を試験した。結果は、sgMixがVEGFaの発現レベルを有意にノックダウンすることを示した(
図1C)。
[実施例2]
融合分子をコードするmRNAのインビトロ転写
【0317】
インビトロの転写および精製を用いて、EPICASシステムの融合分子または触媒タンパク質に対応するmRNAを産生した。最初に、5’UTR-DNMT3A-DNMT3L-dCas9-KRAB-3’UTR-ポリAのカセットを含む融合分子エレメントの全てを含むプラスミドを構築した。プラスミド配列は、XbaIおよびBpiI制限酵素消化によって直線化した(
図2A)。直線化したDNA鋳型、T7 RNAポリメラーゼ、NTP、およびキャップアナログを含むインビトロ転写反応を実施して、N1-メチルプソイドウリジンを含むmRNAを産生した。DNase IによってDNA鋳型を消化した後、mRNA産生物を精製して緩衝液を交換し、最終mRNA産生物の純度をキャピラリーゲル電気泳動によって評価した(
図2B)。100マーのsgRNAは、市販供給元(Genewiz社)による固相合成条件の下での最小末端改変によって化学合成した。
【0318】
インビトロで転写されたmRNAの機能を試験するため、HEK293T細胞内でSnrpn-GFPレポーターシステムを構築した。レポーターシステムは、合成のメチル化センシングプロモーター(刷り込み遺伝子Snrpnのプロモーター由来の保存された配列エレメント)を用いて、GFPの発現を制御する。このレポーターコンストラクトをゲノム遺伝子座に挿入することによって、近傍の配列のメチル化状態が示された。リポフェクタミンメッセンジャーMAXを用いて、上記のインビトロで転写されたmRNA(GFP-P2A-Casoff mRNA)を、Snrpn遺伝子を標的とするsgRNAとともにマウス一次肝細胞に共トランスフェクトクトした(
図2C、左パネル)。FACS解析によって、mRNAおよびsgRNAによるトランスフェクションの72時間後にGFP+細胞の割合が有意に増大することが示され、マウス肝細胞内でリポーターシステムが成功裡に確立されたことが示唆された(
図2C、中央パネル)。さらに、トランスフェクションの72時間後のVEGFA mRNAの発現レベルは明らかに低減していた(
図2C、右パネル)。
【0319】
総合して、これらの結果は、EPICAS mRNAが、過渡的トランスフェクションを用いて長期間にわたってVEGFAの発現をサイレンシングさせることができることを示している。
[実施例3]
融合分子をコードするmRNAおよびsgRNAの脂質ナノ粒子カプセル化
【0320】
当技術で既知の標準的な方法を用いて、融合分子mRNAおよびsgRNAをマウス脈絡膜に送達するためのLNPを製剤化した。LNPは、融合分子mRNAおよびVEGFA遺伝子を標的とするsgRNAを1:1の重量比で含んでいた(
図3A)。イオン化可能な脂質(モル比49.5%)、PEG化脂質(モル比2.5%)、支持脂質(DPPC)(モル比9.9%)、およびコレステロール(モル比38.1%)の混合物、即ち脂質ナノ粒子(LNP)を、適切に設計された衝突流反応器または微小流体デバイスを用いて製剤化した。イオン化可能な脂質の割合を変更することによって、sgRNAとmRNAの放出速度を改変することができる。イオン化可能な脂質の割合を多くすることによって(モル比55%超)、sgRNAはmRNAより速く放出された。透過型電子顕微鏡(TEM)画像により、LNPが球状でナノサイズの粒子であることが示された(
図3B)。LNPは、動的光散乱(NanoSZ社、Malvern)を用いて、均一なサイズ(78.2±5.2nm、PDI<0.10)を有していた(
図3C)。
【0321】
LNPがインビボでmRNAを後網膜および脈絡膜の領域に成功裡に送達することができるか否かを試験するため、ルシフェラーゼmRNAを含むLNPを産生し、Ai9マウス(Jax Lab社)の眼に硝子体内注射によって投与した。EF1A-Cre-GFPを発現するAAV8ウイルスを陽性対照として用い、PBSを陰性対照として用いた。蛍光のインビボイメージング結果により、LNPはmRNAを極めて効率的な様式で網膜色素上皮(RPE)および脈絡膜に送達できることが示された(
図3D)。陽性対照AAV8は、RPEおよび脈絡膜に効率的に感染できた。
[実施例4]
マウスにおける融合分子をコードするmRNAおよびsgRNAのLNPデリバリーを用いるVEGF遺伝子のサイレンシング
【0322】
LNPによって送達されるmRNAおよびsgRNAがVEGFa mRNAのレベルを成功裡にノックダウンできるか否かを試験するため、EPICAS mRNAおよびsgRNA3を含むLNPを産生し、Ai9マウスの眼に硝子体内注射によって投与した。注射の5日後にマウスを安楽死させ、網膜および脈絡膜を取得して、mRNAの精製のために処理した。RT-QPCR実験を実施して、VEGFaのmRNA発現レベルを評価した。
【0323】
結果は、対照PBS群と比較して、脈絡膜におけるVEGFaの有意に下方制御された発現を示し(
図3E)、インビボにおけるVEGF遺伝子発現をサイレンシングするEPICASシステムの有効性が示された。他方、網膜におけるVEGFaの発現の低減は対照群と比較して有意ではなく、遺伝子発現の低減における脈絡膜の潜在的な選好性が示された。
[実施例5]
ウサギ細胞におけるウサギVEGF遺伝子のサイレンシング
【0324】
ウサギVEGFa sgRNA(配列番号60~84)をスクリーニングするためのレポーターシステムを確立した。ウサギVEGFa遺伝子の転写開始部位(TSS)の上流500bpから第1エクソンまでおよび第1エクソンのC末端のGFPを含む人工配列を構築した(
図4A)。ピギーバックトランスポゾンシステムを用いて、人工配列を293T細胞のゲノムに一体化した。GFPを安定的にトランスフェクトした細胞株が得られ、これをsgRNAのスクリーニングに用いた。この実験において、レポーター細胞をEPICASプラスミドおよびsgRNAでトランスフェクトし、72時間後にレポーター細胞の蛍光強度を検出した。フローサイトメトリー解析の結果は、大部分のsgRNAがGFPの強度を有意に低下させたことを示した(
図4B)。良好なノックダウン効果を有していたsgRNAの6種のうち4種を、EPICASプラスミドとともにウサギRK-13細胞にトランスフェクトし、ウサギ細胞内の内因性遺伝子VEGFAを標的とした。QPCRの結果は、これらのsgRNAがRK-13細胞内のVEGFAのmRNA発現を有意に低減させたことを示した(
図4C)。
[実施例6]
ヒト細胞株におけるヒトVEGF遺伝子のサイレンシング
【0325】
ヒト細胞株におけるVEGF遺伝子サイレンシングの有効性を試験するため、レポーター細胞株を構築した。CMVプロモーターで駆動されるカセットを有するようにプラスミドを構築した。ここでカセットは以下のエレメントを5’から3’の方向で有していた。5’-pCMV-300bp-TSS-+300bp-VEGFエクソン1-2A-GFP-3’。このレポーターシステムにおいて、CMVプロモーターはVEGFおよびGFP蛍光の発現を駆動する。VEGFがサイレンシングされれば、GFPの転写が終止する。ピギーバックトランスポザーゼ(PBase)プラスミドとともに、レポータープラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。レポーターカセットの一体化に成功した細胞を、GFP蛍光の発現によってFACSで選別した。
【0326】
サルおよびヒトのVEGF遺伝子の転写開始部位(TSS)の上流および下流の300bp内の相同領域を標的とするように多数のsgRNAを設計した(
図5A)。23個のsgRNA(配列番号36~58)を、sgRNAのそれぞれ1つをコードするプラスミドの構築のために選択した。個別のsgRNAプラスミドを、触媒タンパク質(DNMT3A-DNMT3L-dCas9-KRAB)プラスミドとともにHEK293T細胞に共トランスフェクトした。48時間または96時間後、GFP+およびmCherry+二重陽性細胞をFACSによって選別した。RT-QPCR実験を実施して、VEGFaのmRNA発現レベルを評価した。
【0327】
試験した大部分のsgRNAは、293T細胞内で有意に下方制御されたVEGFaの発現を示した(
図5B)。sgRNA10、sgRNA19、sgRNA20、sgRNA21、sgRNA22、およびsgRNA23をトランスフェクトした細胞が、48時間後に50%を超えるVEGFaの下方制御をもたらした。96時間後にはVEGFAの発現レベルは低くなり、sgRNA19、sgRNA20、およびsgRNA22は80%を超える下方制御に達した。
【0328】
総合して、これらの結果は、EPICASシステムが、マウス細胞とヒト細胞の両方において高い効率および持続性でVEGFAの発現を成功裡にサイレンシングしたことを示し、遺伝子外編集によるVEGF遺伝子の発現のサイレンシングを支持している。LNPは、EPICASシステムをインビボで成功裡に送達するために用いられた。したがって、EPICASシステムのLNP製剤は、AMD等のVEGF関連疾患の処置に用いることができる。
【配列表】
【国際調査報告】