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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ラクチドを処理する方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20250117BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542972
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2023051360
(87)【国際公開番号】W WO2023139207
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】22152812.8
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100166718
【弁理士】
【氏名又は名称】石渡 保敬
(72)【発明者】
【氏名】ド フリース,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ゴビウス デュサート,ヘリット
(72)【発明者】
【氏名】ファン クリーケン,ヤン
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB07
4J029AC01
4J029AE01
4J029EH03
4J029JA061
4J029JB122
4J029JB123
4J029JB131
4J029JB171
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF181
4J029JF371
4J029JF381
4J029JF471
4J029KA03
4J029KE06
4J029KE07
4J029KE13
4J029KG01
4J029KG02
4J029KG03
(57)【要約】
本発明は、粗ラクチドを処理する方法であって、該方法は、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーを含むオリゴマー含有流れを形成すること;並びに、前記オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成することの工程を含む上記の方法に関する。本発明はまた、ポリラクチドを製造する方法に、及び(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を製造する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗ラクチド流れを処理する方法であって、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーを含むオリゴマー含有流れを形成すること;並びに、
前記オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること
の工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記方法が、前記生成物流れを1以上の工程で分離して、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを形成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生成物流れが、蒸留、晶析、又はそれらの組み合わせ、好ましくは、溶媒晶析、溶融晶析、又は蒸留に続く(溶媒又は溶融)晶析、によって分離される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、メソラクチドを含む第2の流れを、前記粗ラクチド流れを分離する工程及び/又は前記メソラクチド流れをオリゴマー化する工程に再利用することを更に含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記乳酸オリゴマーが、滴定によって決定される末端基の濃度から計算される場合に、2~80、好ましくは5~20、の重合度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生成物流れが、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)40~90重量%の、L-ラクチドとD-ラクチドとの合計量を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れが、滴定によって決定される、25meq/kg未満、好ましくは10meq/kg未満、の遊離酸含有量を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記粗ラクチド流れが、
乳酸オリゴマーを形成すること;及び、
前記乳酸オリゴマーを解重合して、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む前記粗ラクチド流れを形成すること
の工程によって得られる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴマー化がバッチ方式で操作され、及び前記方法が、オリゴマー化の前に、前記メソラクチド流れを不活性雰囲気下、好ましくはN2雰囲気下、50~80℃の温度で、所定時間、好ましくは30分~12時間、保持タンク中に貯蔵する工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ポリラクチドを製造する方法であって、前記方法が、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法に従って生成物流れを得ること、前記流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成することの工程を含む、前記方法。
【請求項11】
前記方法が、
a)請求項1~9のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する少なくとも1つの精製された流れを得て、前記少なくも1つの精製された流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成すること;及び/又は、
b)請求項2~9のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを得ること、前記流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成すること
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する前記少なくとも1つの精製された流れを得ること;
請求項2~9のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを得ること;
L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する前記少なくとも1つの精製された流れの少なくとも一部と、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れの少なくとも一部とを一緒にして、重合可能な流れを形成すること;及び、
前記重合可能な流れを重合してポリラクチドを形成すること、任意的に、ここで、前記重合可能な流れが、(前記流れ中のラクチドの総量に基づいて)1~20重量%のD-ラクチドを含んでいてもよい、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を製造する方法であって、該方法が、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法に従って得られた、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れの少なくとも一部を加水分解して、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を形成することを含む、前記方法。
【請求項14】
(S)-乳酸と(R)-乳酸との前記ラセミ混合物が、直接的に又は間接的にオリゴマー化反応器又は解重合反応器に供給される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
オリゴマー組成物であって、
2~80、好ましくは3~50、より好ましくは4~30、更により好ましくは5~20、の重合度、
0.25:1~4:1、特には0.3:1~3:1、より特には0.5:1~2:1、なおより特には0.7:1~1.4:1、更により特には0.8:1~1.25:1、更により特には0.9:1~1.1:1、又は更には0.95:1~1.05:1、の範囲で(S)-乳酸単位と(R)-乳酸単位との全体比
を有することを特徴とする、前記オリゴマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗ラクチド流れを処理する方法に、ポリラクチドを製造する方法に、及び(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリラクチド(ポリ(乳酸)又はPLAとしても知られている)は、包装から使い捨て食器まで、様々な分野において応用されているポリマーである。ポリラクチドは乳酸由来のポリマーである。乳酸はキラル分子であり、従って、(S)-乳酸又は(R)-乳酸のいずれかとして存在する。商業的に入手可能なポリラクチドは一般的に、(S)-乳酸単位の割合が多く、及び通常は、(S)-乳酸の二量体である(主に)L-ラクチドの開環重合によって得られる。
【0003】
ラクチドは、は、乳酸をオリゴマー化して、重縮合反応を介して乳酸オリゴマーを形成することによって合成されるのが一般的である。次に、これらのオリゴマーが解重合されて、L-ラクチド((S,S)-ラクチド)とD-ラクチド((R,R)-ラクチド)とメソラクチド((S,R)-ラクチド)とを含む粗ラクチドを形成する。例えば、米国特許第US5,357,035号明細書、米国特許第US5,521,278号明細書、国際公開第WO2010/105143号、及び米国特許出願公開第US2014/031566号明細書を参照されたい。オリゴマーが(S)-乳酸から合成される場合に、結果として得られたオリゴマーは、大部分が(S)-乳酸単位を含むであろう。そのようなオリゴマーを解重合することにより、L-ラクチドが優勢な立体異性体である粗ラクチドをもたらすであろう。或る条件下で、ラクチドはラセミ化プロセスによって異なる立体異性体に転化されることができる。
【0004】
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドは、様々な比で重合反応器に送られることができる。各L-ラクチド分子はポリマーに2つの(S)-乳酸単位を与え、各D-ラクチド分子はポリマーに2つの(R)-乳酸単位を与え、及び各メソラクチド分子はポリマーに1つの(S)-乳酸単位と1つの(R)-乳酸単位とを与える故に、該ラクチドが重合反応器に送られる比は、ポリマー中の(S)-乳酸単位と(R)-乳酸単位との比を決定する。ポリマー中の(R)-乳酸単位に対する(S)-乳酸単位の比は重要であり、なぜならば、ポリラクチドの物性の大部分を決定するからである。(S)-乳酸単位を主に含み、(R)-乳酸単位を例えば10%含むポリラクチドは、(S)-乳酸単位のみを含むポリラクチドよりも結晶性が低くなる。
【0005】
しかしながら、ポリマー中の(R)-乳酸単位に対する(S)-乳酸単位の比は、ポリラクチドの物性に寄与する唯一の要因でない。別の重要な要因は、重合反応器に送られるラクチド流れ中の不純物、例えばヒドロキシル含有不純物、の存在又は非存在である。ヒドロキシル基含有不純物は、重合されるラクチド流れ中に存在する場合に、米国特許第US5,357,035号に記載されているように、結果として得られるポリラクチドの平均分子量を低下させる。不純物はまた、ポリラクチドの色、その熱安定性、食品接触用途の為のその適性に影響を与えうる。
【0006】
国際公開第WO2010/105143号は、メソラクチドが粗ラクチドから分離され、そして、(重縮合反応を介する乳酸のオリゴマー化の為の)オリゴマー化反応器及び/又は解重合反応器に再利用されるプロセスを記載する。これらの反応器における条件は、再利用されたメソラクチドの一部がL-又はD-ラクチドに転化されるようなものである。そうする理由は2つある。第一に、メソラクチドの再利用は、メソラクチドが再利用されないプロセスと比較して、非優性(non-predominant)ラクチド(D-ラクチド又はL-ラクチドであり、ラクチド合成が(S)-乳酸から始まったか又は(R)-乳酸から始まったかに依存する)における増加をもたらす。このことは、(R)-乳酸単位が、メソラクチドを経由する代わりに、D-ラクチドを経由してポリラクチド内に導入されることができる為に、有利であると言われている。第二に、国際公開第WO2010/105143号において得られたメソラクチド流れは、所謂「中間沸騰不純物」(intermediate-boiling impurities)に富んでおり、それは重合反応器に送られるラクチド流れ中に存在する場合に、該ポリラクチドの変色を結果として生じる。メソラクチドをオリゴマー化反応器及び/又は解重合反応器に再利用することにより、該不純物は部分的に該重合反応器から遠ざけられ、そして、増加した量のD-ラクチドが分離され、そして、精製されたL-及びD-ラクチド流れで直接的に重合の為に使用されうる。
【0007】
従って、要するに、国際公開第WO2010/105143号において記載されている方法は、メソラクチドをL-及びD-ラクチドへと再利用及び転化することによって、該重合反応器に送られるラクチド流れ中のメソラクチドを使用する為の必要性を減らすことを目的としている。この方法の第一の欠点は、メソラクチドからL-及びD-ラクチドへの転化が、L-及びD-ラクチドからメソラクチドへの転化をまた結果としてもたらす条件下で行われることであり、これは該方法の全体的な効率を制限する。該方法の第二の欠点は、不純物が再利用されるメソラクチド流れ中に濃縮される為に、メソラクチド流れの再利用が主ラクチド合成反応器を汚染することでありうる。その上、最後の蒸留工程から該重合反応器に(直接的に)送られるメソラクチドは幾らかの不純物を含み得、その結果、合成される生成物の変色を結果としてもたらすであろう。この方法の更なる欠点は、ラクチドが該方法の最初に再利用され続ける故に、該方法においてあまり支配的でないラクチドが蓄積される結果をもたらすことである。
【0008】
当技術分野において、メソラクチド流れがラセミ化に供される方法がまた記載されている。米国特許出願公開第US2014/031566号明細書は、メソラクチドが粗ラクチド流れから分離されて、メソラクチド流れを形成する方法を記載されている。次に、該メソラクチドがラセミ化に付され、それによって、L-及びD-ラクチドを形成する。ここにおいても、該ラセミ化の条件は、L-及びD-ラクチドからメソラクチドへの転化が生じるようなものである。該ラセミ化された混合物からは、富化されたメソラクチド流れが残り得、及び様々な方法で処理されることができる。該流れは廃棄されてもよく、又は価値の低い用途において使用されてもよい。該富化されたメソラクチド流れ中に存在する「中間沸点不純物」は、抽出又は化学処理法方法によって除去されうると言われている。化学処理法は、「中間沸騰不純物」又はメソラクチドを異なる化学種のいずれかに転化することを含む。この異なる化学種は、「中間沸騰不純物」又はメソラクチドからより容易に分離されることができると言われている。分離を容易にする為に、「中間沸点不純物」やメソラクチドがどのような化学種に転化されるべきであるかについて言及されていない。
【0009】
国際公開第WO2010/105142号は、ラクチド流れを触媒的ラセミ化工程に供することによってラクチドを回収する方法に向けられている。また、メソラクチドを残りのラクチド流れから除去して、非優性ラクチド及び不純物を除去することがまた記載されている。好ましい実施態様において、このメソラクチド画分がラセミ化工程に供される。この場合も、ラセミ化の間の条件は、L-及びD-ラクチドからメソラクチドへの変換が生じ、収率における低下を結果として生じるようなものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メソラクチドをL-ラクチド及びD-ラクチドに特異的に転化し(すなわち、L-及びD-ラクチドのかなりの部分がメソラクチドへとまた転化すること無しに)、酸含有不純物の封じ込めと該方法からのそれらの容易な除去を可能にすること及び非優性のラクチドの蓄積を伴わないところの方法に対する必要性が当技術分野において存在する。本発明は、そのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの観点において、本発明は、粗ラクチド流れを処理する方法であって、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーを含むオリゴマー含有流れを形成すること;並びに、
前記オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること
の工程を含む上記方法に関する。
【0012】
本発明の重要な特徴は、本発明に従う方法において使用されるオリゴマー化-解重合シーケンスが、(乳酸オリゴマーを介して)少なくとも50重量%のメソラクチド含有流れを、かなりの部分のL-及びD-ラクチドへと特異的に転化することである。オリゴマー化は、一般に専用のオリゴマー化反応器において、相当量のL-及びD-ラクチドの非存在下で行われる為に、これらの化合物のメソラクチドへの望ましくない転化は制限される。このことは、相対的に価値の低い中間体(メソラクチド)を価値の高い中間体(L-及びD-ラクチド)へと転化する為にエネルギーが効率的に費やされることを意味する。事実、実施例において示されているように、メソラクチドからL-及びD-ラクチドへの転化は高度に生じる。そのような高い転化は、メソラクチドが再利用され、そして、ラセミ化工程、例えば国際公開第国際公開第WO2010/105143号、国際公開第WO2010/105142号及び米国特許出願公開第US2014/031566号明細書において記載されているようなラセミ化工程、に供された場合には達成されない。
【0013】
加えて、本発明の方法において、乳酸単位はラセミ化ではなく中間オリゴマーを介して再配列される為に(特定の画分のラセミ化は排除されないが)、メソラクチドがラセミ化工程に供される場合に生じる収率損失が防止される。更に、本発明の方法において、非優性乳酸エナンチオマーの蓄積が防止されると同時に、高価値の中間体(L-及びD-ラクチド)が生成される。
【0014】
本発明に従う方法はまた、再利用されたメソラクチド及び/又は不純物で主ラクチド合成反応器を汚染すること無しに、メソラクチドをL-及びD-ラクチドに転化することを可能にする。メソラクチド及び/又は不純物は該反応器の他の部分に含まれており、それらは主ラクチド合成を妨げない。このことは、より安定な方法を結果としてもたらし、主ラクチド合成の内容物(例えば、粗ラクチド流れの内容物)が驚くほど長期間一貫していることを意味する。
【0015】
別の観点において、本発明は、ポリラクチドを製造する方法であって、前記方法が、本発明に従う粗ラクチドを処理する方法に従う少なくとも1つの流れを得ること、中間体の処理の有無に関わらず少なくとも1つのストリームの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及び少なくとも1つの流れを重合して、ポリラクチドを形成することを含む上記の方法に関する。
【0016】
更に別の観点において、本発明は、乳酸のラセミ混合物を製造する方法であって、該方法は、本発明に従う粗ラクチドを処理する方法に従って得られたL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れのうちの少なくとも一部を加水分解して、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を形成することを含む上記の方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1において、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れ(1)は分離装置(2)に送られ、該分離装置(2)は、例えば蒸留装置又は晶析装置であってもよい。
図2図2において、メソラクチド流れ(3)のオリゴマー化と、そのようにして得られた乳酸オリゴマーの解重合とが同じ反応器内で生じるところの好ましい方法が図示されている。
図3図3において、図2に従う方法が図示されており、ここで、L-ラクチド流れ(4a)と、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)とが一緒にされて、重合可能な流れ(15)が形成され、そして、該重合可能な流れ(15)が重合反応器(16)に送られ、そこで反応されてポリラクチドが形成される。
図4図4において、図3に従う方法が図示されており、ここで、該方法は、バッチ方式で運転され、及びメソラクチドはオリゴマー化の前に保持タンク内に集められる。
図5図5において、図2に従う方法が図示されており、ここで、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)のうちの少なくとも一部が加水分解反応器(19)に送られ、そこで、該流れは水で加水分解されて、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物(20)を形成し、該ラセミ混合物は、例えば、オリゴマー化反応器(特には、重縮合反応器)に又は粗ラクチドを調製する為に使用される解重合反応器に(部分的に)送られてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の観点が以下においてより詳細に説明されるであろう。該方法の特定の利点、並びにその特定の実施態様が、更なる明細書から明らかになるであろう。
【0019】
粗ラクチドを処理する方法
【0020】
上述されているように、本明細書において開示されるのは、粗ラクチド流れを処理する方法であって、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーを含むオリゴマー含有流れを形成すること;並びに、
前記オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること
の工程を含む。
【0021】
前記粗ラクチド流れが、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む。該粗ラクチドは、L-ラクチドの75~95重量%(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)、好ましくは80~95重量%、を含みうる。該粗ラクチドは、D-ラクチドの0.01~5重量(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含みうる。該粗ラクチドは、メソラクチドの1~25重量%(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含みうる。組成物中のメソラクチドの量は、HPLCによって、例えば、溶離液として水/アセトニトリルの混合物及びUV検出器を使用して、決定されうる。乳酸及びラクトイル乳酸が最初に溶離し、次にL-及びD-乳酸が溶離し、そして次に、乳酸のオリゴマーが溶離するであろう。前記粗ラクチド流れは、残留量の乳酸、乳酸エステル及び/又は水を含んでいてもよく、それらは、蒸留、晶析又は抽出によって除去されることができる。これらの残留量は、存在する場合に、分離工程の前又は分離工程の間に除去されうるが、好ましくは該分離工程の前に除去される。該粗ラクチド流れは、酸含有不純物、例えば、ラクトイル乳酸、コハク酸及び酢酸、を含んでいてもよい。該酸含有不純物は、該粗ラクチド流れが少なくとも20meq/kg、特には少なくとも50meq/kg、及び/又は150meq/kg以下、の遊離酸含有量を有するような量で、該粗ラクチド流れ中に存在してもよい。最大として、該酸含有不純物は、該粗ラクチド流れ中に250meq/kg以下の量で存在してもよい。本明細書において使用される遊離酸含量は、滴定、例えば、無水メタノール中でナトリウムメチラート又はカリウムメチラートを使用する滴定、によって決定されることができる。
【0022】
前記粗ラクチド流れは、任意の好適な分離技術によって分離されうる。該粗ラクチド流れは、蒸留又は晶析(例えば、溶媒晶析又は溶融晶析)、又はその両方の任意の組み合わせによって分離されることが好ましい。これらの分離技術により、メソラクチドと、存在する場合には酸含有不純物の少なくとも一部とがL-及びD-ラクチドから分離される。このことは、メソラクチド(及び任意的に、酸含有不純物)を含むメソラクチド流れと、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れの形成を結果として生じる。好ましい方法において、該粗ラクチド流れを分離する為に少なくとも1つの蒸留工程が使用される。蒸留が使用される場合に、該蒸留から取り出される他の流れは、パージ流れ(purge streams)、例えば揮発性成分(例えば、水、乳酸、ギ酸及び酢酸)を含むオーバーヘッド流れ(overhead stream)、として処理されてもよい。
【0023】
D-ラクチド及び/又はL-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れは、粗ラクチドと比較された場合に、比較的純粋である。特には、少なくとも1つの精製されたラクチド流れ中のメソラクチドの量及び(揮発性)酸含有不純物の量は、該粗ラクチド流れよりも少ない。例えば、少なくとも1つの精製されたD-及び/又はL-ラクチド流れ中のメソラクチドの量は、該粗ラクチド流れ中のメソラクチドの量の50%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、であってもよい。
【0024】
少なくとも1つの精製されたラクチド流れは、主にL-ラクチドを含むことが好ましい。それ故に、1以上の該精製されたラクチド流れは、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)少なくとも80重量%のL-ラクチド、好ましくは少なくとも85重量%のL-ラクチド、より好ましくは少なくとも90重量%のL-ラクチド、更により好ましくは少なくとも95重量%のL-ラクチド、を含んでいてもよい。より好ましい実施態様において、該精製されたラクチド流れのうちの少なくとも1つは、上記で定義されたL-ラクチド量(すなわち、該流れ中のラクチドの総重量に基づいて、少なくとも80重量%、又は上記で定義された好ましい量、のL-ラクチド)、D-ラクチドの5重量%以下、好ましくはD-ラクチドの3重量%以下、より好ましくはD-ラクチドの1重量%以下のD-ラクチド、を含む。更により好ましい実施態様において、該精製されたラクチド流れのうちの少なくとも1つは、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)5重量%以下のメソラクチド、好ましくは4重量%以下のメソラクチド、より好ましくは3重量%以下のメソラクチド、更により好ましくは2重量%以下のメソラクチド(好ましくは、上記で特定された好ましい量のL-ラクチドと組み合わせて、好ましくは(また)上記で特定された好ましい量のD-ラクチドと組み合わせて)、を含む。
【0025】
該少なくとも1つの精製されたラクチド流れ中の酸含有不純物の量は、該粗ラクチド流れ中の酸含有不純物の量と比較された場合に低い。該酸含有不純物は、各精製されたラクチド流れが100meq/kg以下、特には50meq/kg以下、より特には25meq/kg以下、更に特には10meq/kg以下、の遊離酸含有量を有するような量で、少なくとも1つの精製されたラクチド流れ中に存在してもよい。
【0026】
残存するメソラクチド及び/又は酸含有不純物を該少なくとも1つの精製されたラクチド流れから除去する為に、該精製されたラクチド流れが1以上の精製工程に供されてもよい。好適な精製工程は、蒸留及び晶析を包含する。晶析により、実質的に純粋な(すなわち、>99%の純度)L-及び/又はD-ラクチド流れ、好ましくは実質的に純粋なL-ラクチド流れ、を得ることができる故に、晶析アプローチ(例えば、溶媒晶析又は溶融晶析)が好ましい場合がある。典型的には、ラクチド生成物は、<10meq/kgのオーダーの非常に低い遊離酸価で得られてもよい。このことは有利であり、なぜならば、そのようなL-及び/又はD-ラクチド流れは、少ない重合触媒及び触媒失活剤を使用してポリラクチドを形成する為に重合反応器に送られることができ、それらの全てが高い熱安定性及び少ない変色を有するポリラクチドを結果としてもたらすからである。
【0027】
前記メソラクチド流れは、少なくとも50重量%のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含み、好ましくは少なくとも80重量%のメソラクチド、より好ましくは少なくとも85重量%のメソラクチド、更に好ましくは少なくとも90重量%のメソラクチド、を含む。最大として、該メソラクチド流れは100重量%のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含んでいてもよい。該メソラクチド流れは、該粗ラクチド流れ中に存在することができる酸含有不純物を更に含んでいてもよい。これらの酸含有不純物は、該粗ラクチド流れ中に存在する酸含有不純物の量と比較された場合に、該メソラクチド流れ中で濃縮されてもよい。特には、該メソラクチド流れ中の酸含有不純物の量(該メソラクチド流れの総重量に基づく重量%)は、該粗ラクチド流れ中の酸含有不純物の量(該粗ラクチド流れの総重量に基づく重量%)の1.1~25倍、好ましくは2~20倍、より好ましくは5~15倍、であってもよい。該酸含有不純物は、該メソラクチド流れが50~500meq/kg、特には75~350meq/kg、より特には100~250meq/kg、の遊離酸含量を有するような量で該メソラクチド流れ中に存在してもよい。
【0028】
分離工程によって得られたメソラクチド流れはオリゴマー化工程に供される。該オリゴマー化は、該メソラクチド流れの開環重合によって行われる。乳酸オリゴマーは典型的には、乳酸の重縮合によって調製される故に、そのような開環オリゴマー化の為に適した方法は、乳酸オリゴマーを調製する為に使用される慣用的な方法と異なる。本発明に従う方法において使用される開環オリゴマー化は特に有用であり、なぜならば、該オリゴマー化反応の副生成物として水が形成されない為である。その結果として、形成されるオリゴマーの重合度を驚くほど正確に予測し及び制御することが可能である。その結果、このことにより、低い重合度を有する乳酸オリゴマーを安定して得ることができ、従って、メソラクチドをL-及びD-ラクチドに転化する為に必要な総時間を最適化することが可能である。その上、オリゴマー化反応を進行させる為に反応器から水が除去される必要がない為に、乳酸の重縮合に依存し及び副産物として水を生成するところの慣用的な方法によって要求されるよりも、オリゴマー化の為に必要とされるエネルギーが少なくなる。
【0029】
該分離工程によって得られたメソラクチド流れは、直接的に又は間接的に(好ましくは直接的に)オリゴマー化工程に送られてもよい。該オリゴマー化工程に供される前に、該メソラクチド流れが精製されてもよく又は精製されなくてもよい(好ましくは精製されない)。
【0030】
該分離工程によって得られたメソラクチド流れは、該オリゴマー化工程において更なるラクチド流れと一緒にされてもよく又は一緒にされなくてもよい。更なるラクチド流れは、少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%、ラクチドを含む流れである。更なるラクチド流れは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、のメソラクチドを含むことが好ましい。
【0031】
該オリゴマー化工程への供給物は、該分離工程から直接的に又は間接的に得られる少なくとも60重量%のメソラクチド流れ及び40重量%以下の更なるラクチド流れから構成されることが好ましい。処理効率の理由の為に、更なるラクチド流れの重量%は、該オリゴマー化工程への供給物の20重量%以下、特には10重量%以下、より特には5重量%以下、更に好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、であることが好ましい場合がある。1つの実施態様において、該オリゴマー化工程に更なるラクチド流れは添加されず、特には、該オリゴマー化工程への供給物は、該分離工程から得られたメソラクチド流れからなる。
【0032】
1つの実施態様において、該オリゴマー化工程に提供される全ての流れは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、更により好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも90重量%、のメソラクチドを含む。
【0033】
オリゴマー化工程においてオリゴマー化された流れは、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)少なくとも50重量%のメソラクチドを含み、好ましくは少なくとも80重量%のメソラクチド、より好ましくは少なくとも85重量%のメソラクチド、更により好ましくは少なくとも90重量%、のメソラクチドを含む。最大として、該メソラクチド流れは、100重量%のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含んでいてもよい。
【0034】
該オリゴマー化工程に提供される供給物は一般的に、相対的に低い乳酸含量を有することに留意されたい。該オリゴマー化工程に提供される供給物は一般的に、乳酸含量が10重量%以下、特には5重量%以下、より特には2重量%以下、であり、多くの場合はるかに低い。幾分かの乳酸が、処理特性及び流動性を向上させる為に添加されてもよいが、これは必須でなく、添加量が最小限でありうる。このことは、国際公開第WO2010/105143号の方法におけるオリゴマー化工程に提供される供給物との実質的な相違点である。
【0035】
幾つかの実施態様において、前記メソラクチド流れの前記オリゴマー化は、専用のオリゴマー化反応器中で行われる。本明細書において使用される場合に「専用オリゴマー化反応器」は、少なくとも50重量%のメソラクチドからなる供給物が提供されるオリゴマー化反応器である。特には、専用オリゴマー化反応器に提供される供給物は、少なくとも80重量%、より特には少なくとも90重量%、のメソラクチドからなりうる。
【0036】
開始剤は、乳酸オリゴマーの鎖長を制御する為に使用されてもよく、当技術分野で既知の開始剤から選択されうる。好適な開始剤は、第一級モノアルコール(例えば、第一級C3~20アルキルアルコール、例えば、1-ヘキサノール、1-デカノール、2-エチル-1-ヘキサノール及び1-ペンタデカノール)、多官能性アルコール(例えば、C3~20アルキルジ-及び/又はトリ-オール、例えば、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオール)、並びにヒドロキシ酸(例えば、C3~20ヒドロキシ酸グリコール酸、例えば、マンデル酸及び乳酸)から選択されうる。乳酸は、100%乳酸ベースのオリゴマーを可能にする故に、本発明の為に特に好ましい。該オリゴマー化反応器における許容反応時間に依存して、開環オリゴマー化速度を増加させる為に触媒が使用されてもよい。好適な触媒は当技術分野において十分に確立されており、以下に説明されるであろう。
【0037】
前記オリゴマー化は、連続的、半連続的、又はバッチ方式で実施されることができる。連続攪拌タンク反応器、チューブ反応器、及びパイプ反応器が好適な反応器タイプである。該反応器は直列で使用されてもよい。ラクチドプロセスの他の部分と比較してフローが小さい故に、及び粘度が低い故に、該オリゴマー化は好ましくは、攪拌タンク反応器において又は底部再循環ポンプを備えたタンク反応器において行われる。
【0038】
前記オリゴマー化は好ましくは、バッチ方式で実施される。このことにより、同じ反応器内で乳酸オリゴマーを解重合することを可能にし、従って、運転コストを最小限に抑えることを可能にするからである。該反応器のバッチ式操作を容易にする為に、粗ラクチドを分離することによって得られたメソラクチド流れが直接的に又は間接的に(好ましくは、直接的に)保持タンクに送られてもよく、そこでメソラクチドが回収され、そして、一般的に不活性雰囲気下(例えば、N2雰囲気下又はAr雰囲気下)で所定時間(例えば、30分~12時間)貯蔵されてもよい。該保持タンクでの貯蔵は、メソラクチドが実質的に反応したり分解したりしないような条件下で行われるべきである。保持時間に依存して、メソラクチドが80℃以下、特には70℃以下、より特には60℃以下、の温度で貯蔵することが好ましい場合がある。ラクチドは液状で貯蔵されることが好ましい。それ故に、貯蔵の間の温度はメソラクチドの融点超、例えば50℃超、である。所望の量のメソラクチドが該保持タンク内に一旦集められると、該集められたメソラクチドは(専用のオリゴマー化反応器中で)オリゴマー化されることができる。本発明に従う方法をこのように操作することによって、より優れた規模の経済性が達成される。貯蔵条件を上記されたように選択することによって、オリゴマー化が防止され、及び遊離酸レベルにおける上昇(酸、例えば酢酸及びピルビン酸、の生成による)が回避される。
【0039】
前記オリゴマー化反応は好ましくは、50~220℃、より好ましくは50~180℃、更により好ましくは80~150℃、の範囲の温度で行われる。圧力は好ましくは、1~10バール、特には1~5バール、より特には1~2バール、の範囲である。亜大気圧での運転は必要とされない。該オリゴマー化反応器におけるメソラクチドと乳酸オリゴマーとの混合物の滞留時間は好ましくは、100~130℃である。該滞留時間は、形成されるオリゴマーが所望の分子量を有するように選択される。形成される乳酸オリゴマーは、2~80、好ましくは3~50、より好ましくは4~30、更に好ましくは5~20、の重合度を有しうる。これらの低い重合度が好ましく、なぜならば、低い重合度を有する乳酸オリゴマーは、ヒドロキシル末端基のそれらの本質的に高い濃度の故に、より容易に解重合されることができるからである。このことにより、解重合反応器におけるオリゴマー含有流れの滞留時間を短縮することが可能であり、従って、解重合の為に使用される反応器をより効率的に使用することを可能にする。該重合度は、当業者によって知られているように、滴定によって決定される場合に、末端基の濃度から計算される。例として、遊離酸末端基(例えば、乳酸)を含む開始剤が開始剤として使用される場合に、1キログラム当たりのモル当量での末端基の量は、1キログラム当たりのオリゴマー鎖の平均モル量に等しい。この値の逆数は平均分子量を示し、それは72g/モルで割ることによって重合度が与えられる。遊離酸の値は典型的には、無水メタノール中で、ナトリウムメチラート又はカリウムメチラートを用いた滴定によって達成される。
【0040】
メソラクチドの該オリゴマー化は通常、触媒の存在下で行われる。好適な触媒は、塩化スズ(II)、臭化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(IV)、酸化スズ(II)、ビス(2-エチルヘキサノエート)スズ(II)、ブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズジラウレート、テトラフェニルスズ、酸化鉛(II)、ステアリン酸亜鉛、三酢酸アンチモン、アンチモン(2-エチルヘキサノエート)、ビスマス(2-エチルヘキサノエート)、ステアリン酸カルシウム、及びステアリン酸マグネシウムを包含する。上述されているような金属含有触媒は、20~2000ppm(反応混合物の重量に基づいて計算)の量で使用されてもよい。メソラクチドの該オリゴマー化の為に溶媒が使用されてもよい。好適な溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン及びテトラヒドロフランである。
【0041】
該オリゴマー化工程において形成されたオリゴマー含有流れは、少なくとも80重量%の乳酸オリゴマー(該流れ中のオリゴマー及びラクチドの総重量に基づく)、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、更に好ましくは少なくとも95重量%、を含んでいてもよい。該オリゴマー含有流れは依然として、残存量のメソラクチドを含んでいてもよい。しかしながら、該オリゴマー含有流れは好ましくは、15重量%以下のメソラクチド、より好ましくは10重量%以下のメソラクチド、更により好ましくは5重量%以下のメソラクチド、を含む。
【0042】
該オリゴマー化工程において形成された乳酸オリゴマーは、(依然として)酸含有不純物で汚染されている場合がある。幾つかの実施態様において、これらの酸含有不純物は、乳酸オリゴマーが解重合されて該生成物流れを形成する前に、乳酸オリゴマー(lactic oligomer)から除去される。このことは、或る酸含有不純物が該オリゴマーから容易に除去されることができるが、メソラクチドからは困難である為である。従って、粗ラクチド流れを処理する為の好ましい方法が本明細書においてまた開示されており、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド、メソラクチド及び酸含有不純物を含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)を含むメソラクチド流れと、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーと酸含有不純物とを含むオリゴマー含有流れを形成すること;
前記オリゴマー含有流れから酸含有不純物を除去して、を形成すること;並びに、
前記精製されたオリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること
の工程を含む。
【0043】
前記オリゴマー化工程は、中間体としてオリゴマー組成物の形成を結果として生じる。該オリゴマー組成物はまた、該オリゴマー化工程において形成されたオリゴマー含有流れとして本明細書において示されている。
【0044】
1つの実施態様において、本発明はオリゴマー組成物に関し、該オリゴマー組成物は、
2~80、好ましくは3~50、より好ましくは4~30、更により好ましくは5~20、の重合度、
0.25:1~4:1、特には0.3:1~3:1、より特には0.5:1~2:1、なおより特には0.7:1~1.4:1、更により特には0.8:1~1.25:1、更により特には0.9:1~1.1:1、又は更には0.95:1~1.05:1、の範囲の(S)-乳酸単位と(R)-乳酸単位との全体比
を有することおいて特徴付けられる。
【0045】
該オリゴマー組成物は好ましくは、15重量%以下の残留メソラクチドモノマーを含み、より好ましくは10重量%以下、更により好ましくは5重量%以下、である。1つの実施態様において、該オリゴマー組成物は好ましくは、15重量%以下のラクチドモノマー(メソ、L及びDの合計)、より好ましくは10重量%以下のラクチドモノマー、更により好ましくは5重量%以下のラクチドモノマー、を含む。オリゴマー組成物は、少なくとも80重量%の乳酸オリゴマー(流れ中のオリゴマー及びラクチドの総重量に基づく)、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、更に好ましくは少なくとも95重量%を含むことが更に好ましい。該オリゴマー化工程において形成されたオリゴマー含有流れの為の上記に示された好ましい態様は、任意的な精製工程の後であるかどうかにかかわらず、ここにおいても適用される。
【0046】
1つの実施態様において、該オリゴマー組成物は、CDCl3中のメチン脱共役プロトンNMR測定を使用して定量されうるように、ゼロではない量の交互メソラクチド結合(non-zero amount of alternating meso-lactide linkages)を含む。1つの実施態様において、メチン積分全体の積分の関数としてのsss、iss及びssiテトラッド(tetrad)の積分の割合(the fraction of the integral)は、少なくとも0.05である。メチン積分全体の積分の関数としてのiss/ssiテトラッドの積分の分数は、例えば、少なくとも0.1、又は少なくとも0.2、であってもよい。1つの実施態様において、メチン積分全体の積分の関数としてのiss/ssiテトラッドの積分の割合は、0.9以下である。
【0047】
(任意に精製された)オリゴマー含有流れ中の乳酸オリゴマーは解重合されて、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成する。乳酸オリゴマーを解重合する方法は当業者において知られている。これらの方法は、解重合触媒の存在下で乳酸オリゴマーを解重合することを含む。該解重合触媒は、該オリゴマー化反応の為にまた使用される金属触媒(すなわち、上記で定義されたた金属含有触媒)であってもよい。スズ(II)ビス(2-エチルヘキサノエート)は、しばしば商業的に使用され、従って、解重合反応の為の好ましい触媒である。該解重合反応は好ましくは、160~260℃の温度、0.5~10.0kPa(5~100mbar)の圧力、及び10分~8時間の滞留時間で行われる。該解重合は、特にはオリゴマー化工程及び解重合工程がバッチ方式で行われる場合に、乳酸オリゴマーを合成する為に使用された同じ反応器内で行われることが好ましい。該方法の該バッチ式による操作により、設備を設置する為に必要とされる投資が有意に削減される為に好ましい。
【0048】
解重合工程において、生成されるL-ラクチド、D-ラクチド、メソラクチドの量は温度に幾分依存する。L-ラクチドとD-ラクチドの比率は一定に保たれるが、メソラクチドの量は合成温度を下げることによって最適化(最小化)される可能性がある。したがって、解重合反応器は好ましくは、160~260℃の温度で、より好ましくは160~240℃の温度で、更により好ましくは160~220℃の温度で、なおより好ましくは160~200℃の温度で、行われる。
【0049】
1つの実施態様において、該解重合反応の間に合成されるL-ラクチド及びD-ラクチドの量を増加させる為に、必要に応じてラセミ化剤が添加されてもよい。好適なラセミ化剤としては、水酸化物塩(例えば、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH2)等、好ましくはNaOH)及び酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム)を包含する。他の好適なラセミ化剤は当技術分野において知られており、アルキルアルコールの金属塩(すなわち、構造X-O-Rの塩、ここで、XはLi、Na及びKからなる群から選択される金属であり、並びにRは置換又は非置換のC1~8アルキル、例えばtert-ブトキシド塩、である)、ピリジン(好ましくは、1,4-ルチジン、2,6-ルチジン、3,5-ルチジン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、又は4-ジメチルアミノピリジン)、及び非求核塩基(例えば、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノン-5-エン(DBN)等)、である。該ラセミ化剤は、500~5000ppm、好ましくは750~2500ppm、より好ましくは900~1100ppm、の量で添加されうる。
【0050】
前記生成物流れは、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む。前記生成物流れ中のメソラクチドの量は、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)10~60重量%、特には15~50重量%、より特には25~40重量%、でありうる。従って、該生成物流れは、40~90重量%、特には50~85重量%、より特には60~75重量%、のL-ラクチド及びD-ラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく合計重量)、を含んでいてもよい。該生成物流れは一般的に、等量のL-及びD-ラクチドを含むことが認識されるであろう、従って、上記された特定の重量%はまた、該生成物流れ中のrac-ラクチドの重量%として言及されうる。メソラクチドの量に対する他のラクチド(すなわち、L-ラクチド及びD-ラクチド)の量は、HPLCによって決定されることができ、1~6の比、好ましくは1.1~3の比、より好ましくは1.5~3の比、でありうる。高い比はメソラクチドからL-及びD-ラクチドへの効率的な転化を示す故に、高い比が望ましい。該生成物流れ中のオリゴマーの低い量は、該生成物流れの下流(downstream)の処理(例えば、L-及びD-ラクチドからのメソラクチドの分離)を簡単にする故に望ましい。それ故に、該生成物流れ中の乳酸オリゴマー量は好ましくは、5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、更により好ましくは1重量%未満、である(該生成物流れの総重量に対して計算)。前記生成物流れは、50~500meq/kg、特には75~350meq/kg、より特には100~250meq/kg、の遊離酸含量を有しうる。
【0051】
メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れは、1以上の工程で分離されて、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れと、メソラクチドを含む第2の流れとを形成しうる。該生成物流れは、蒸留又は晶析(例えば、溶媒晶析又は溶融晶析)によって分離されることが好ましい。特にはラセミ体ラクチドの量が少なすぎて経済的な晶析操作ができない場合には、蒸留が好ましい場合がある。当業者は、該生成物流れが、専用の蒸留プロセスにおいて分離されるか、又は蒸留上流(upstream)、例えば粗ラクチドをメソラクチド含有流れとL-及びD-ラクチド流れとに分離する為に使用される蒸留セクション、に戻されるかのいずれかであることを認識するであろう。該生成物流れがあまりにも多くの色形成種(color-forming species)を含み及び蒸留があまりにも非効率的になる実施態様において、晶析が好ましい場合がある。晶析はまた、例えば静的溶融晶析プロセスにおいて、晶析における長いバッチ時間が許容されることができるほど該生成物流れの流れの流量が十分に小さい場合に好ましい場合がある。
【0052】
従って、粗ラクチド流れを処理する為の好ましい方法が本明細書においてまた開示されており、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチド(並びに任意的に、酸含有不純物)を含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)(並びに任意的に、酸含有不純物)を含むメソラクチド流れと、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れと形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマー(及び任意的に、酸含有不純物)を含むオリゴマー含有流れを形成すること;
任意的に、前記オリゴマー含有流れから酸含有不純物を除去して、生成されたオリゴマー含有流れを形成すること;
前記(任意的に精製されていてもよい)オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること;並びに、
前記生成物流れを1以上の工程で分離して、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れと、メソラクチドを含む第2の流れとを形成すること
の工程を含む。
【0053】
追加的に又は代替的に、蒸留セクションから来るL-ラクチド及びD-ラクチド流れ中、例えば、本明細書において定義されている精製されたL-ラクチド及び/又はD-ラクチド流れ中、のD-ラクチドの含有量を増加させることが所望されうる。このことにより、前記生成物流れのうちの少なくとも一部をそのような蒸留セクションに再利用することによって達成され得、その量は、蒸留セクションを出る流れ中、例えば精製されたL-ラクチド及び/又はD-ラクチド流れ中、のD-ラクチド、L-ラクチド及びメソラクチドの目標比に依存する。
【0054】
L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れは、L-ラクチド及びD-ラクチドが該流れの少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、更により好ましくは少なくとも95重量%、を占める流れであってもよい。好ましい実施態様において、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れは、5重量%以下のメソラクチド(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)、好ましくは4重量%以下のメソラクチド、より好ましくは3重量%以下のメソラクチド、更により好ましくは2重量%以下のメソラクチド、を含む。該酸含有不純物は、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ中に、該流れが1~50meq/kg、特には1~25meq/kg、より特には1~10meq/kg、更により特には1~10meq/kg、の遊離酸含量を有するような量で存在してもよい。
【0055】
L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ中において残存するメソラクチド及び/又は酸含有不純物は、1以上の精製工程によって除去されうる。好適な精製方法は、蒸留及び晶析を包含する。晶析により実質的に純粋な(すなわち、>99%の純度)ラセミL-及びD-ラクチド流れを得ることができる故に、晶析アプローチ(例えば、溶媒晶析又は溶融晶析)が好ましい場合がある。このことは、そのような純粋なラセミL-及びD-流れが重合反応器に送られて、ほぼ無色のポリラクチドを形成することができる故に有利である。蒸留と晶析との組み合わせがまた所望され、例えば、蒸留が使用されて、残存するメソラクチドの少なくとも一部を除去し、そして、その結果、供給物を精製して、rac-ラクチド(すなわち、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物)の晶析を可能にする。
【0056】
メソラクチドを含む第2の流れは、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)少なくとも50重量%のメソラクチド、好ましくは少なくとも80重量%のメソラクチド、より好ましくは少なくとも85重量%のメソラクチド、より好ましくは少なくとも90重量%のメソラクチド、更により好ましくは少なくとも95重量%のメソラクチド、を含んでいてもよい。好ましい実施態様において、該酸含有不純物は、メソラクチドを含む第2の流れにおいて濃縮され、従って、該第2の流れは10~500meq/kg、特には20~250meq/kg、より特には50~100meq/kg、の遊離酸含有量を有する。メソラクチドを含む第2の流れ中の酸含有不純物の総量は、4重量%未満(該第2の流れの総重量に基づく)であってもよい。一般的に第2の流れ中に含まれる不純物の例は、(モノマー)乳酸、酢酸及びコハク酸である。
【0057】
メソラクチドを含む第2の流れのうちの少なくとも一部は、直接的又は間接的に、該方法の初期段階に再利用されてもよい。例えば、該第2の流れのうちの少なくとも一部は、粗ラクチドを分離するための分離装置、保持タンク(ここで、メソラクチドは、それがオリゴマー化されるまで貯蔵されうる)、及び/又はオリゴマー化工程に再利用されうる。該方法がバッチ方式で操作される場合、第2の流れを保持タンクに再利用することが好ましい場合がある。該オリゴマー含有流れが酸含有不純物を含み及びこれらの不純物が除去されない場合に、該第2の流れの再利用が特には好ましい場合がある。追加的に又は代替的に、メソラクチドを含む第2の流れのうちの少なくとも一部がパージされてもよい。
【0058】
該第2の流れ中において残存するL-及び/又はD-ラクチド並びに残存する酸含有不純物は、1以上の精製工程によって除去されてもよい。残存するL-ラクチド及び/又はD-ラクチドは、蒸留又は晶析を介して除去されることができる。残存する酸含有不純物は例えば、欧州特許出願第EP21195962.2号において実証されているように、溶媒晶析又は溶融晶析によって除去されてもよい。結果として得られた精製されたメソラクチド流れは、単独で又は精製されたL-ラクチド及び/又はD-ラクチド流れ及び/又は本明細書において定義されたL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れと一緒にされて、重合に供されてもよい。酸含有不純物が該オリゴマー含有流れ又はメソラクチドを含む第2の流れから除去される場合に、メソラクチドを含む該第2の流れのうちの少なくとも一部が重合反応器へと送られうる。重合反応器において、メソラクチドが後述される重合条件に供されて(無色の)非晶質ポリラクチドを形成するか、又はL-及び/又はD-ラクチドと一緒にされてより結晶性のポリラクチドを形成することができる。
【0059】
完全性の為に、本発明に従う方法は、ラクチドを製造する為の包括的なプロセスのうちの一部でありうることに留意されたい。従って、幾つかの実施態様において、本発明に従う方法は、
乳酸オリゴマーを形成すること;
該乳酸オリゴマーを解重合して、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチド(及び任意的に、酸含有不純物)を含む粗ラクチド流れを形成すること;
前記粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマー(及び任意的に、酸含有不純物)を含むオリゴマー含有流れを形成すること;
任意的に、前記オリゴマー含有流れから酸含有不純物を除去して、精製されたオリゴマー含有流れを形成すること;
前記(任意的に精製されていてもよい)オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること;並びに、
前記生成物流れを1以上の工程で分離して、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れと、メソラクチドを含む第2の流れとを形成すること
の工程を含む。
【0060】
この包括的な方法の第1工程において形成される乳酸オリゴマーは、該オリゴマー含有流れの乳酸オリゴマーについて上記で定義されたものと同じ特徴を有し得、オリゴマー化反応器において形成される。これらの乳酸オリゴマーは好ましくは、乳酸の重縮合によって形成される。この第1の工程において形成された乳酸オリゴマーの解重合は、該オリゴマー含有流れの解重合について上記で定義されたものと同じ条件下で行われてもよく、一般的に、専用の解重合反応器内で行われる。この包括的な方法の他の工程の好適な態様は、上記で定義されたものと同じである。
【0061】
また、本発明に従う粗ラクチド流れを処理する方法によって得られるラクチド、好ましくはL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物、が本明細書において開示されている。
【0062】
ポリラクチドを製造する為の方法
【0063】
上述された粗ラクチドを処理する為の方法により、商業グレードのポリラクチドの合成の為に適した多数のラクチド流れの形成が結果としてもたらされる。それ故に、ポリラクチドを製造する為の方法であって、該方法は、本発明に従う粗ラクチドを処理する為の方法に従って少なくとも1つの流れを得ること、該少なくとも1つの流れのうちの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成することを含む上記の方法が本明細書においてまた開示されている。
【0064】
幾つかの実施態様において、ポリラクチドを製造する方法は、
a)本発明に従う粗ラクチドを処理する方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製された流れを得ること、該少なくとも1つの精製された流れのうちの少なくとも一部を、直接的に又は間接的に重合反応器に提供すること、そしてポリラクチドを形成すること;及び/又は、
b)本発明に従う粗ラクチドを処理する法に従って、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れを得ること、該流れうちの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、そしてポリラクチドを形成すること
の工程を含む。
【0065】
上述されているように、ポリラクチドの特性は、ポリマー中の (R)-乳酸単位に対する(S)-乳酸単位の比によってほぼ決定される。それ故に、該ポリラクチド中の乳酸モノマーの少なくとも80%(特には、少なくとも90%)が(S)-乳酸単位又は(R)-乳酸単位、好ましくは(S)-乳酸単位、であり、該ポリラクチド中の乳酸モノマーの残りが反対のエナンチオマーであることが好ましい。これらの量の(S)-及び(R)-乳酸単位を有するポリラクチドを得る為に、粗ラクチドを処理する方法に従って得られる様々な流れが、該方法に従って得られる他の流れと一緒に、又は備蓄されたL-ラクチド、D-ラクチド及び/又はメソラクチドと一緒にされてもよい。例えば、該ポリラクチドは、0~20重量%、好ましくは5~20重量%、のメソラクチドと、80~100重量%、好ましくは80~95重量%、のL-及び/又はD-ラクチド、好ましくはL-ラクチド、とを含む混合物から合成されうる。ユニークなことに、本発明の方法により、メソラクチドによる収率の有意な低下無しに、L-ラクチドとrac-ラクチドのみを用いてポリラクチドを製造することが可能になる。このことは、メソラクチド流れが典型的には最も着色を形成する不純物を含むことが知られている故に、望ましいことである。
【0066】
該生成物中のメソラクチド量が少ない場合(例えば、2重量%未満)、それはパージされて、ラセミ体ラクチドとL-ラクチド、及び任意的にD-ラクチドの組み合わせ(のみ)からポリ乳酸が製造されうる。次に、市販のPLA製品は、重合の為の最終混合物中に典型的には2~15%のD-ラクチドを要求する。本発明に従うポリラクチドを製造する方法は、
本発明に従う粗ラクチド流れを処理する方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製された流れを得ること;
本発明に従う粗ラクチド流れを処理する方法に従って、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを得ること;
L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む前記少なくとも1つの精製された流れのうちの少なくとも一部を、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む前記流れのうちの少なくとも一部と一緒にして、重合可能な流れを形成すること;並びに、
前記重合可能な流れを重合してポリラクチドを形成すること、任意的に、ここで、該重合可能な流れが1~20重量%のD-ラクチド(該流れ中のラクチドの総量に基づく)、好ましくは2~15重量%のD-ラクチド、を含む、
の工程を含む。
【0067】
一般的に、重合は、ラクチドを重合反応器に提供し、そこで該ラクチドは、通常重合触媒の存在下、重合条件に付されることによって実施される。好適な重合条件は当技術分野において知られている。該好適な重合条件は例えば、100~225℃、特には120~220℃、より特には130~210℃、の温度でラクチドを反応させることを含みうる。好適な重合触媒がまた、当技術分野において知られている。メソラクチドのオリゴマー化について上述された触媒がここにおいても使用され得、及び任意的に、触媒的に有効な量、例えば1~2000ppm(モノマーの重量に基づいて計算)で使用されうる。該重合反応は通常、残留ラクチドの支配的な熱平衡濃度に達するまで続けられることが可能であり、典型的には、上述された温度で3~8重量%である。所望の転化率が一旦達成されると、触媒不活性化剤の添加によって重合触媒が失活されることが多く、このことにより、触媒によるバックバインディング(catalyzed back-biting)に対してポリラクチド生成物が安定化され、0.5重量%未満という低い残留ラクチドレベルを可能にし、従って、最終生成物に熱安定性を与え、PLAコンバーター(PLA converters)での溶融処理の為の適合性を保証する為である。結果として得られるポリラクチドは、光散乱検出を用いたゲル浸透クロマトグラフィーによって決定される20~150kg/モル、好ましくは35~100kg/モル、の絶対数平均分子量(Mn)を有しうる。
【0068】
幾つかの実施態様において、粗ラクチドを処理する方法及びポリラクチドを製造する方法が、統合された方法を形成するように組み合わされる。ポリラクチドを製造する為のそのような統合された方法は、
乳酸オリゴマーを形成すること;
該乳酸オリゴマーを解重合して、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチド(並びに任意的に、酸含有不純物)を含む粗ラクチド流れを形成すること;
前記粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)(及び任意的に、酸含有不純物)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマー(及び任意的に、酸含有不純物)を含むオリゴマー含有流れを形成すること;
任意的に、前記オリゴマー含有流れから酸含有不純物を除去して、精製されたオリゴマー含有流れを形成すること;
前記(任意的に精製されていてもよい)オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること;
前記生成物流れを1以上の工程で分離して、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れと、メソラクチドを含む第2の流れとを形成すること;
任意的に、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む前記流れを精製すること;
L-ラクチド(例えば、前記粗ラクチドを分離することによって得られるところのL-ラクチドを含む精製されたラクチド流れ)と、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む前記(精製された)流れのうちの少なくとも一部とを一緒にして、重合可能な流れ(任意的に、前記重合可能な流れの総重量に対して計算して、2.0~15重量%のD-ラクチドを含む)を形成すること;並びに
前記重合可能な流れを重合化して、ポリラクチドを形成すること
の工程を含みうる。
【0069】
この統合された方法の第1工程において形成される乳酸オリゴマーは、該オリゴマー含有流れの乳酸オリゴマーについて上記で定義されたものと同じ特徴を有し得、オリゴマー化反応器において形成される。これらの乳酸オリゴマーは好ましくは、乳酸の重縮合によって形成される。この第1の工程において形成された乳酸オリゴマーの解重合は、該オリゴマー含有流れの解重合について上記で定義されたものと同じ条件下で行われてもよく、一般的に、専用の解重合反応器内で行われる。この統合された方法の他の工程の好適な態様は、上記で定義されたものと同じである。
【0070】
また、本発明に従うポリラクチドを製造する方法によって得られることができるポリラクチドが本明細書において開示されている。
【0071】
乳酸を製造する為の方法
【0072】
本発明に従って得られるところのL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む前記流れは、実質的に純粋であってもよい(すなわち、上述されたように、10meg/kg以下の遊離酸含量を有する)。この流れを加水分解することによって、非常に純粋な、乳酸のラセミ混合物が得ることができ、それは食品用途の為にでさえも適している。
【0073】
それ故に、乳酸のラセミ混合物を製造する方法がまた開示されており、該方法は、本発明に従う粗ラクチドを処理する方法に従って得られたL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れのうちの少なくとも一部を加水分解して、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を形成することを含む。ラクチドを加水分解する為に適した条件は、当技術分野において知られている。
【0074】
幾つかの実施態様において、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物は、直接的に又は間接的に、オリゴマー化反応器又は解重合反応器に提供される。
【0075】
また、本発明に従う(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を製造する方法によって得られることができる(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物が本明細書において開示されている。
【0076】
上記で開示された方法は、それらに又はそれらによって限定されること無しに、図1図5を参照して説明されるであろう。
【0077】
図1において、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れ(1)は分離装置(2)に送られ、該分離装置(2)は、例えば蒸留装置又は晶析装置であってもよい。粗ラクチド流れ(1)は分離されて、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(3)(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-及び/又はD-ラクチド及び任意的に少量のメソラクチド(例えば、流れ(4)中のラクチドの総重量に基づく、2重量%未満)を含む少なくとも1つの精製されたL-及び/又はD-ラクチド流れ(4)とを形成する。精製されたL-及び/又はD-ラクチド流れ(4)が1つのみ示されている。この精製されたL-及び/又はD-ラクチド流れ(4)は、精製ユニット(5)において精製工程、例えば溶媒晶析又は溶融晶析、に付されて、実質的に純粋なL-ラクチド流れ(4a)及びL-及び/又はD-ラクチドを含む更なる流れ(4b)が得られてもよい。これら両方の流れは、所望により単離され、そして、処理されてもよい。メソラクチド流れ(3)はオリゴマー化反応器(6)に送られ、乳酸オリゴマー(及び任意的に、酸含有不純物)を含むオリゴマー含有流れ(7)の形成を結果として生じる。このオリゴマー含有流れ(7)は、1以上の任意的な精製工程に付されてもよい。例えば、オリゴマー含有流れ(7)は、該オリゴマー含有流れ(7)中に存在する酸含有不純物を除去する為に、任意的な精製ユニット(8)に送られてもよい。該オリゴマー含有流れ(7)(又は、精製されたオリゴマー含有流れ(7a))は、解重合反応器(9)(それは、オリゴマー化反応器(6)と同じ反応器であってもよい)に送られ、ここで、該乳酸オリゴマーが解重合されて、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れ(10)を形成する。該生成物の流れ(10)は、該生成物の流れ(10)を、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れ(12)と、メソラクチドを含む第2の流れ(13)とに分離する為に、更なる分離装置(11)、例えば蒸留装置又は晶析装置、へと送られうる。メソラクチドを含む第2の流れ(13)は、(図1において図示されているように)オリゴマー化反応器(6)及び/又は分離装置(2)に(部分的に)再利用されてもよく、及び/又は精製工程に(部分的に)付されてもよく、その後、結果として得られた精製されたメソラクチド流れは、L-ラクチド流れ(4a)及び/又はL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)と共に重合の為に重合反応器に送られてもよい。
【0078】
図2において、メソラクチド流れ(3)のオリゴマー化と、そのようにして得られた乳酸オリゴマーの解重合とが同じ反応器内で生じるところの好ましい方法が図示されている。従って、図2において、メソラクチド流れ(3)は反応器(14)に提供され、ここで、該メソラクチド流れはオリゴマー化されて、乳酸オリゴマーを形成する。次に、乳酸オリゴマーが同じ反応器(14)において解重合されて、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れ(10)を形成する。生成物の流れ(10)は、図1にあるように、L-ラクチド及びD-ラクチドのラセミ混合物を含む流れ(12)と、メソラクチドを含む第2の流れ(13)とに分離する為に、更なる分離装置(11)、例えば蒸留装置又は晶析装置、へと送られうる。メソラクチドを含む第2の流れ(13)は、反応器(14)及び/又は分離装置(2)に再利用されてもよく、及び/又は精製工程に(部分的に)付されてもよく、その後、結果として得られた精製されたメソラクチド流れは、L-ラクチド流れ(4a)及び/又はL-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)と共に重合の為に重合反応器に送られてもよい。
【0079】
図3において、図2に従う方法が図示されており、ここで、L-ラクチド流れ(4a)と、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)とが一緒にされて、重合可能な流れ(15)が形成され、そして、該重合可能な流れ(15)が重合反応器(16)に送られ、そこで反応されてポリラクチドが形成される。これらの流れは、重合反応器(16)に入る前に(図3において図示されているように)一緒にされてもよく、又は重合反応器(16)の内部で一緒にされてもよい。該ポリ乳酸生成物は、ライン(17)を通じて重合反応器(16)から取り出され、そして、所望により処理されてもよい。
【0080】
図4において、図3に従う方法が図示されており、ここで、該方法は、バッチ方式で運転され、及びメソラクチドはオリゴマー化の前に保持タンク内に集められる。特には、該メソラクチド流れ(3)は保持タンク(18)内に集められ、そこで、それは、N2又はAr下、50~60℃の温度で所定時間貯蔵される。例えば、所望の量のメソラクチドが回収されるまで、該メソラクチド流れが貯蔵されうる。次に、該回収されたメソラクチド流れ(3a)は反応器(14)に送られ、そこで、該メソラクチドは本発明に従うオリゴマー化-解重合シーケンスに付され、生成物流れ(10)を形成する。幾つかの実施態様において、反応器(14)は、保持タンク(18)として使用されうる。
【0081】
図5において、図2に従う方法が図示されており、ここで、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れ(12)のうちの少なくとも一部が加水分解反応器(19)に送られ、そこで、該流れは水で加水分解されて、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物(20)を形成し、該ラセミ混合物は、例えば、オリゴマー化反応器(特には、重縮合反応器)に又は粗ラクチドを調製する為に使用される解重合反応器に(部分的に)送られてもよい。(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物(19)はまた、単離され、そして、所望により、例えば食品用途において、処理されうる。
【0082】
量、濃度、寸法及び他のパラメータが、範囲、好ましい範囲、上限値、下限値、又は好ましい上限値及び下限値の形態で表される場合、得られた範囲が文脈において明確に言及されているか否かにかかわらず、任意の上限値又は好ましい値を任意の下限値又は好ましい値と組み合わせることによって得られる任意の範囲がまた、具体的に開示されることが理解されるべきである。加えて、本明細書において言及されているパーセンテージは全て、別段の指定がない限り、重量パーセントであることが理解されるべきである。
【0083】
本明細書において言及される全ての文書は、参照によってそれらの全体が組み込まれるか、又はその代わりに、特に依拠された開示を提供する為に組み込まれる。
【0084】
実施例
下記の実施例は、幾つかの好ましい実施態様における本発明の実施を説明するものであり、限定を意図するものでない。本発明の範囲内の他の実施態様は、当業者には明らかであろう。
【0085】
化学薬品及び方法
【0086】
これらの試験の為に使用されたメソラクチドは、Total Corbion PLA bvから入手され、該メソラクチドは、0.85の遊離酸含量(乳酸として表示)及び90%超の純度を示した。重合度を制御する為に、Corbionからの熱安定性乳酸(HS100)が使用された。
【0087】
実施例1:開環オリゴマー化
【0088】
四つ口丸底フラスコに、温度プローブ、温度制御装置、オーバーヘッド攪拌装置、リービッヒ冷却器(Liebig condenser)及び加熱マントルが備えられている。該冷却器は水道水によって冷却されて、生成した水を凝縮させる。
【0089】
オリゴマー化を開始する為に、温度プローブとオーバーヘッド攪拌装置とを取り付けられた丸底フラスコが、メソラクチドと7.7重量%の熱安定性乳酸(HS100,Corbion,入荷時)で満たされた。引き続き、600ppmのスズ(II)ビス(2-エチルヘキサノエート)が添加され、そして、混合物が攪拌されながら180℃に加熱され、この温度で4時間保持された。反応は大気圧で行われた。
【0090】
熱源を取り除き、そして、混合物を室温まで冷却することによって反応が停止される。このようにして得られたオリゴマー含有流れにおける重合度は、10~12の範囲で再現性よく得ることができた。該オリゴマー含有流れ中のラクチドモノマー(メソ、L-及びD-)の総量は典型的には、2.2重量%であった。
【0091】
この実施例は、予測可能な重合度を有するメソラクチドから乳酸オリゴマーを製造するというコンセプトを示す。
【0092】
実施例2:スズ(II)ビス(2-エチルヘキサノエート)(のみ)を使用したラクチド合成
【0093】
オリゴマー化の為に使用されたものと同じ丸底フラスコに、10cmのVigreuxカラムとリービッヒ冷却器が取り付けられ、該丸底フラスコが96℃に設定されてラクチドを凝縮させる。該冷却器はメスシリンダーに接続され、そこで、該ラクチドが回収される。このシリンダーの上部は、コールドトラップを通じて真空ポンプに接続されている。
【0094】
ラクチド合成を開始する為に、オリゴマー含有流れ(ここでは、実施例1の生成物)が210℃まで徐々に加熱され、一旦溶融されると、オーバーヘッド攪拌が開始され、そして、100rpmまでゆっくりと上昇される。溶融温度210℃で、真空が毎分100mbarの速度で5mbarまで下げられる。真空度が5mbarに達した瞬間がt=0とされた。固化したラクチドによるセットアップの目詰まりを防ぐ為に、赤外線加熱ライトがあらゆるコールドスポットに配置された。
【0095】
設定した時間間隔で、該シリンダー内のラクチドの量(体積)、並びに実験のメルト温度とトップ温度、及び真空度が測定される。合成の140分後、熱源を除去することによって反応が停止される。このようにして得られた生成物の流れ中に含まれるラクチドが、立体化学的純度、メソラクチドの量、及びL-ラクチドとD-ラクチドとの和に関して分析された。ラクチドが94%の収率で得られ(オリゴマーの出発量に基づく)、その立体化学的純度は55%のL-ラクチドであった。該ラクチドには、55.5重量%のメソラクチド及び40.6重量%のL-及びD-ラクチド、並びに幾分かの少量の他の化合物(合計で4重量%未満)が含まれており、そのほとんどは乳酸とより小さなオリゴマーであった。
【0096】
この実施例は、本発明に従う方法を用いると、ラクチドへの高い転化率が得られ、約40.6重量%のメソラクチドがrac-ラクチドに転化されることができることを示している。
【0097】
実施例3:オクタン酸スズと水酸化ナトリウムを用いてラセミ化する粗ラクチドの合成
【0098】
実施例1のプロトコルが繰り返されたが、600ppmのオクタン酸スズの添加と同時に、1000ppmの水酸化ナトリウムが四つ口丸底フラスコに添加される。反応時間180℃で4時間後、オリゴマー化反応は終了し、そして、実施例2の粗ラクチドプロトコールが繰り返された。合成時間の140分後、粗ラクチドが再び、わずかに低いとはいえ高い収率(75%)で得られたが、L-及びD-ラクチドの割合が有意に高く(55.4%)、従って、メソラクチドの量は少なかった(39%)。
【0099】
この実施例は、ラセミ化剤の添加によって、生成するrac-ラクチドの量が更に増加しうることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗ラクチド流れを処理する方法であって、該方法は、
L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む粗ラクチド流れを1以上の工程で分離して、少なくとも50重量%のメソラクチドを含むメソラクチド流れ(該流れ中のラクチドの総重量に基づく)と、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含む少なくとも1つの精製されたラクチド流れとを形成すること;
前記メソラクチド流れをオリゴマー化して、乳酸オリゴマーを含むオリゴマー含有流れを形成すること;並びに、
前記オリゴマー含有流れを解重合して、メソラクチド、L-ラクチド及びD-ラクチドを含む生成物流れを形成すること
の工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記方法が、前記生成物流れを1以上の工程で分離して、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを形成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生成物流れが、蒸留、晶析、又はそれらの組み合わせよって分離される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、メソラクチドを含む第2の流れを、前記粗ラクチド流れを分離する工程及び/又は前記メソラクチド流れをオリゴマー化する工程に再利用することを更に含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記乳酸オリゴマーが、滴定によって決定される末端基の濃度から計算される場合に、2~80重合度を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生成物流れが、(該流れ中のラクチドの総重量に基づいて)40~90重量%の、L-ラクチドとD-ラクチドとの合計量を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れが、滴定によって決定される、25meq/kg未満遊離酸含有量を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記粗ラクチド流れが、
乳酸オリゴマーを形成すること;及び、
前記乳酸オリゴマーを解重合して、L-ラクチド、D-ラクチド及びメソラクチドを含む前記粗ラクチド流れを形成すること
の工程によって得られる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴマー化がバッチ方式で操作され、及び前記方法が、オリゴマー化の前に、前記メソラクチド流れを不活性雰囲気下50~80℃の温度で、所定時間保持タンク中に貯蔵する工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ポリラクチドを製造する方法であって、前記方法が、請求項1~のいずれか1項に記載の方法に従って生成物流れを得ること、前記流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成することの工程を含む、前記方法。
【請求項11】
前記方法が、
a)請求項1~のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する少なくとも1つの精製された流れを得て、前記少なくも1つの精製された流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成すること;及び/又は、
b)請求項2又は3のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを得ること、前記流れの少なくとも一部を直接的に又は間接的に重合反応器に供給すること、及びポリラクチドを形成すること
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、
請求項1~のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する前記少なくとも1つの精製された流れを得ること;
請求項2又は3のいずれか1項に記載の方法に従って、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れを得ること;
L-ラクチド及び/又はD-ラクチドを含有する前記少なくとも1つの精製された流れの少なくとも一部と、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れの少なくとも一部とを一緒にして、重合可能な流れを形成すること;及び、
前記重合可能な流れを重合してポリラクチドを形成すること、任意的に、ここで、前記重合可能な流れが、(前記流れ中のラクチドの総量に基づいて)1~20重量%のD-ラクチドを含んでいてもよい、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を製造する方法であって、該方法が、請求項2又は3のいずれか1項に記載の方法に従って得られた、L-ラクチドとD-ラクチドとのラセミ混合物を含む流れの少なくとも一部を加水分解して、(S)-乳酸と(R)-乳酸とのラセミ混合物を形成することを含む、前記方法。
【請求項14】
(S)-乳酸と(R)-乳酸との前記ラセミ混合物が、直接的に又は間接的にオリゴマー化反応器又は解重合反応器に供給される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
オリゴマー組成物であって、
2~80重合度、
0.25:1~4:1範囲で(S)-乳酸単位と(R)-乳酸単位との全体比
を有することを特徴とする、前記オリゴマー組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5
【国際調査報告】