(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】エナボグリフロジンを含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/351 20060101AFI20250117BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61K31/351
A61P3/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543241
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2023001008
(87)【国際公開番号】W WO2023140682
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】10-2022-0008671
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513074792
【氏名又は名称】デーウン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン-ウ・イム
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ス・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ソク・パク
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086GA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA70
(57)【要約】
本発明は、エナボグリフロジンを有効成分として含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物に関する。前記組成物は、肥満犬のボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲および胴囲を減少させ、血清学的指標の改善効果にも優れているので、イヌ科動物の肥満予防または治療に有用に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナボグリフロジンを有効成分として含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記イヌ科動物は、ボディコンディションスコア(body condition score,BCS)が6以上である、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記イヌ科動物は、ボディコンディションスコア(BCS)が7以上である、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記エナボグリフロジンは、1日1回0.01~1mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記エナボグリフロジンは、1日1回0.05~0.7mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記エナボグリフロジンは、1日1回0.1~0.4mg/kgの用量で投与される、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物は、最小8週間投与される、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物は、ボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲、胴囲および安静時エネルギー要求量から成る群から選択される1つ以上の指標を改善させる、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物は、空腹血糖、血清インスリン濃度、ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(gamma-glutamyl transpeptidase,GGT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase,ALT)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)、クレアチンホスホキナーゼ(creatine phosphokinase,CPK)およびC反応性タンパク質(C-reactive protein,CRP)から成る群から選択される1つ以上の指標を減少させる、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記医薬組成物は、経口または非経口で投与される、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記イヌ科動物は、高血糖症、脂質異常症および脂肪肝から成る群から選択される代謝疾患を併存する、請求項1に記載のイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の医薬組成物を治療が必要なイヌ科動物に投与することを含むイヌ科動物の肥満治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナボグリフロジンを含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
愛玩犬を育てる人口が増え、飼料やおやつのような食べ物が多様化して豊富になっている。しかしながら、これは、愛玩犬の過食、誤った食習慣につながり、愛玩犬の過体重、肥満を誘導することができる。
【0003】
愛玩犬の肥満は、代謝異常、内分泌障害、整形外科障害、心肺疾患、泌尿生殖器系障害および腫瘍のような併存疾患を誘発し(J Nutr.2006 Jul;136(7 Suppl):1940S-1946S.)、また、老化を促進し、寿命を短縮する。例えば、ラブラドールレトリバー犬において中等度肥満は、期待寿命をほぼ2年短縮することが知られている(J Am Vet Med Assoc.2002 May 1;220(9):1315-20.)。したがって、愛玩犬と長く健康に暮らすためには、愛玩犬の肥満を積極的に管理しなければならない。
【0004】
なお、ナトリウム-グルコース共輸送体2(Sodium-glucose cotransporter 2,SGLT2)抑制剤は、抗高血糖薬であり、近位ネフロンでブドウ糖の再吸収を減少させて、インスリンと関係のないメカニズムを介してブドウ糖の排出を増加させることによって血糖上昇を抑制する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、肥満犬の肥満治療剤を開発するために、肥満犬にエナボグリフロジンを投与し、エナボグリフロジンが肥満犬のボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲および胴囲を減少させる効果に優れていることを確認し、本発明を完成した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、エナボグリフロジンを有効成分として含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヒトの同様に愛玩犬のようなイヌ科動物の肥満は、代謝異常、内分泌障害、骨関節炎、膝蓋骨脱臼、椎間板疾患(intervertebral disk disease)、心肺疾患および腫瘍などのような併存疾患を誘発する。
【0008】
愛玩犬の肥満度は、ボディコンディションスコア(body condition score,BCS)を基準として判断することができ、5段階または9段階に分けることができる。5段階基準では3段階、9段階基準では4~5段階が、標準体形を示す。9段階基準で6~7段階は軽度肥満、8段階は中等度肥満、9段階は高度肥満を示す。詳しい評価基準は、実施例の表1および
図1に提示されている。
【0009】
下記実施例から確認したように、エナボグリフロジンは、ボディコンディションスコアを基準として肥満犬においてボディコンディションスコアのような指標を減少させる効果を示した。
【0010】
したがって、本発明は、エナボグリフロジンを有効成分として含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0011】
前記イヌ科動物の代表的な例は、イヌである。イヌ以外にも、キツネ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル、ドール、タヌキなどがイヌ科動物に含まれる。
【0012】
本明細書に使用される「予防」という用語は、本発明による医薬組成物の投与によって肥満の発病を抑制させたり遅延させるすべての行為を意味する。
【0013】
また、本明細書に使用される「治療」という用語は、本発明による医薬組成物の投与によって肥満が好転したり有益に変更されるすべての行為を意味する。より具体的には、ボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲、胴囲および安静時エネルギー要求量から成る群から選択される指標の改善の有無で判断することができる。
【0014】
本発明の一具体例において、前記イヌ科動物は、ボディコンディションスコアが6または7以上でありうる。前述したように、9段階基準でボディコンディションスコアが6以上であれば、軽度肥満に該当する。
【0015】
イヌ科動物の肥満の予防または治療のために使用できるエナボグリフロジンの用量は、特に制限されず、投与対象であるイヌ科動物の肥満の重症度、体重、年齢、性別、その他併存疾患の有無などによって適宜調節することができる。
【0016】
下記実施例において、本発明者らは、エナボグリフロジンをそれぞれ0.2、0.5または1mg/kgの用量で肥満犬に8週間経口投与した。その結果、ボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲、胴囲および安静時エネルギー要求量から成る群から選択される指標が減少することを確認した(
図4、表2および表3)。
【0017】
特に、健常犬にエナボグリフロジンをそれぞれ高用量、中用量および低用量で13週または39週間投与したときは、投与用量依存的に体重が減少したのに対し(
図2および
図3)、肥満犬では、エナボグリフロジンを0.2mg/kgの用量で投与したとき、抗肥満効果に最も優れていた(
図4、表2~表5)。
【0018】
したがって、これに制限されるものではないが、本発明の一具体例において、前記エナボグリフロジンは、1日1回0.01~1mg/kg、好ましくは、1日1回0.05~0.7mg/kg、より具体的には、1日1回0.1~0.4mg/kgの用量で投与することができる。
【0019】
前記エナボグリフロジンを1日1回0.01~1mg/kgの用量で投与する場合、1日1回0.2、0.5または1.0mg/kgの用量で投与することができ、1日1回0.05~0.7mg/kgの用量で投与する場合には、0.2または0.5mg/kgの用量で投与することができる。また、エナボグリフロジンを1日1回0.1~0.4mg/kgの用量で投与する場合には、0.2mg/kgの用量で投与することができる。
【0020】
エナボグリフロジンの投与期間は、エナボグリフロジンの投与によるイヌ科動物の肥満の予防または治療効果に基づいて臨床医によって適宜調節可能である。これに制限されるものではないが、エナボグリフロジンを有効成分として含む医薬組成物は、イヌ科動物の肥満予防または治療のために最小8週間投与することができる。
【0021】
なお、前記医薬組成物の投与は、肥満犬において空腹血糖、血清インスリン濃度、ガンマ-グルタミントランスペプチダーゼ(gamma-glutamyl transpeptidase,GGT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase,ALT)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)、クレアチンホスホキナーゼ(creatine phosphokinase,CPK)、血中尿素窒素(blood urea nitrogen,BUN)、クレアチニン(creatinine,CRE)およびC反応性タンパク質(C-reactive protein,CRP)から成る群から選択される指標をも減少させる効果を示す。これは、エナボグリフロジンが、抗肥満効果だけでなく、高血糖症、脂質異常症および脂肪肝を改善することができ、肥満治療において大きなメリットを提供することを意味する。
【0022】
したがって、前記医薬組成物の投与が必要なイヌ科動物は、これに制限されるものではないが、肥満以外に高血糖症、脂質異常症および脂肪肝から成る群から選択される代謝疾患をさらに併存することができる。
【0023】
なお、本発明によるエナボグリフロジンを含む医薬組成物の投与方法は、これに制限されるものではないが、目的とする方法によって経口または非経口で投与することができる。経口投与のための製剤は、様々な形態、例えば、シロップ、錠剤、カプセル、クリームおよびトローチ剤を選択することができる。シロップ製剤は、一般的に任意に香味剤または着色剤を含む、液体担体における化合物の懸濁液または溶液、またはその塩、例えば、エタノール、ピーナッツオイル、オリーブオイル、グリセリンまたは水を含有する。
【0024】
前記組成物を錠剤形態で製造する場合、固体製剤を製造するために一般的に使用された薬学担体のうち任意の1つを使用することができる。このような担体の例としては、マグネシウムステアレート、テラアルバ、タルク、ゼラチン、アカシア、ステアリン酸、澱粉、ラクトースおよびスクロースがある。前記組成物をカプセル形態で製造する場合、一般的なカプセル化手続中の1つが使用できるが、例えば、硬質ゼラチンカプセルシェル(shell)内に前述した担体を使用することができる。前記組成物を軟質ゼラチンシェルカプセル形態で製造する。分散剤または懸濁液に一般的に使用される医薬組成物のうち任意の1つが水性ガム、セルロース、シリケートまたはオイルを使用して製造することができる。筋肉内または皮下投与のための製剤は、液体形態、例えば、水性溶媒、例えば、水、生理食塩水およびリンガー(Ringer)溶液、または親油性溶媒、例えば、脂肪油、ゴマ油、とうもろこし油および合成脂肪酸エステルを含む溶液、懸濁液およびエマルジョンを選択することができる。
【0025】
本発明は、また、前記エナボグリフロジンを有効成分として含む医薬組成物を治療が必要なイヌ科動物に投与することを含むイヌ科動物の肥満治療方法を提供する。
【0026】
前記肥満治療方法において言及された用語または要素のうち前記イヌ科動物の肥満の予防または治療用組成物に関する説明で言及されたようなものは、請求されたイヌ科動物の肥満の予防または治療用組成物に関する説明において同じ意味で使用される。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエナボグリフロジンを有効成分として含むイヌ科動物の肥満予防または治療用医薬組成物は、肥満犬においてボディコンディションスコア、体重、脂肪厚、体脂肪率、胸囲および胴囲を減少させ、血清学的指標の改善効果にも優れているので、イヌ科動物の肥満予防または治療に有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ボディコンディションスコアによる愛玩犬の体形を示す。
【
図2a】雄性健常犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で13週間投与しながら体重変化を確認した結果である。
【
図2b】雌性健常犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で13週間投与しながら体重変化を確認した結果である。
【
図3a】雄性健常犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で39週間投与しながら体重変化を確認した結果である。
【
図3b】雌性健常犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で39週間投与しながら体重変化を確認した結果である。
【
図4a】肥満犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で投与しながらボディコンディションスコアの変化を確認した結果である。
【
図4b】肥満犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で投与しながら体重の変化を確認した結果である。
【
図4c】肥満犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で投与しながら体脂肪の変化を確認した結果である。
【
図4d】肥満犬にエナボグリフロジンを互いに異なる用量で投与しながら脂肪厚の変化を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、1つ以上の具体例を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、1つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実験方法
【0031】
1.非臨床毒性試験
【0032】
6ヶ月齢の正常雌性ビーグル犬4匹、雄性4匹にエナボグリフロジンを13週間0(対照群、ゼラチンカプセル)、1、3、6mg/kg/日の用量で投与し、体重変化を確認した。エナボグリフロジンは、前記用量をゼラチンカプセルに充填して毎日投与した。
【0033】
また、6ヶ月齢の正常雌性ビーグル犬4匹、雄性4匹にエナボグリフロジンを39週間0 (対照群、ゼラチンカプセル)、0.3、1、3mg/kg/日の用量で投与し、体重変化を確認した。
【0034】
2.臨床試験動物選別、グループ化およびモニタリング
【0035】
品種、性別および状態変化(altered status)に関係なく、自然的に肥満であるが、他の面では健康な成犬を選別し、臨床試験の参加に対してイヌ保護者の事前同意を得た。
【0036】
すべてのイヌは、体重およびボディコンディションスコア(body conditions score;以下BCSという。合計9段階、
図1および表1)を含む身体検査結果、肥満と診断されるイヌを選別した。イヌの選別に使用したBCSは、合計9段階であり、BCSが6以上のイヌを選別し、詳細基準は、表1および
図1に示した。
【0037】
【0038】
選別されたイヌは、肝、心臓および/または腎臓の異常のような基底疾患なしに一般的に健康であり、個々の給食を確実にするために、家具当たり1匹のイヌだけを分析した。
【0039】
繁殖目的に使用されたり、持続性ステロイド、内分泌状態に影響を及ぼす薬物(例:脂質改善、コレステロール抑制剤、糖尿病薬物)または体重またはエネルギー消費に影響を及ぼす薬物(例:フェノバルビタール(phenobarbital))を臨床試験開始前30日内に投与を受けたイヌを除いた。
【0040】
合計20匹のイヌを選別して、各グループに5匹ずつ4個のグループに分けた:正常肥満対照群(OC(obese control);以下、対照群(OC)という)、エナボグリフロジン0.2投与群、エナボグリフロジン0.5投与群およびエナボグリフロジン1投与群。対照群には、一般飼料を供給し、エナボグリフロジン投与群には、エナボグリフロジンがそれぞれ0.2、0.5または1mg/kgの用量で補充された一般飼料を供給した。エナボグリフロジンは、8週間1日1回飼料に補充して、経口投与した。
【0041】
臨床試験に参加した犬種は、次の通りである:シェトランドシープドッグ(Shetland Sheepdog)(5/20)、マルチーズ(Maltese)(3/20)、ポムピツ(Pompitz)(2/20)、ビションフリーゼ(Bichon Frise)(1/20)、ボーダーコリー(Border Collie)(1/20)、コッカースパニエル(Cocker Spaniel)(1/20)、ジャパニーズスピッツ(Japanese Spitz)(1/20)、ラブラドールレトリバー犬(Labrador Retriever)(1/20)、プードル(Poodle)(1/20)、シーズー(Shih Tzu)(1/20)、ワイヤーフォクステリア(Wire Fox Terrier)(1/20)、ヨークシャーテリア(Yorkshire Terrier)(1/20)および混種(mixed)(1/20)。
【0042】
20匹のイヌのうちで10匹は、雄性であり、全部中性化され、10匹は、雌性であり、7匹が中性化された。年齢の範囲は、3歳から11歳の間であり、平均年齢は、7.15歳であった。20匹のイヌのうちで9匹は、6歳以下、8匹は、7~9歳、3匹は、10歳以上であった。
【0043】
臨床試験に参加したすべてのイヌは、試験が終るまで毎週1回獣医師に検査を受けた。
【0044】
3.体重、胸囲、胴囲および安静時エネルギー要求量の測定
【0045】
体重(body weight,BW)、胸囲および胴囲は、エナボグリフロジンが補充された飼料の最初の摂取直前に測定し、その後、10週間2週に1回ずつ測定した。胸囲および胴囲は、それぞれ胸の最も厚い部分と胸と後足の間の最も薄い部分をそれぞれ4回測定して、平均囲を求めた。安静時エネルギー要求量(resting energy requirement.RER)は、参考文献(Brooks et al.,Journal of the American Animal Hospital Association 50,1-11.(2014))の式1を用いて計算した。
【0046】
[式1]
RER(kcal/day)=70×(初期体重)0.75
【0047】
4.脂肪厚および体脂肪の測定
【0048】
脂肪厚は、エナボグリフロジン投与初日と投与4週、8週、10週後に撮影した放射線写真(Titan 2000 X-ray system,COMED Medical Systems Co.,Ltd.,Seoul,Korea)を用いてT10脊椎突起から皮膚までの直角距離を測定して評価した。体脂肪は、エナボグリフロジン投与開始後、合計10週間2週に1回ずつ体脂肪計測器で測定した。
【0049】
5.血液、血清および尿の検査
【0050】
血液学的検査は、エナボグリフロジン最初投与の前日、その後、10週間2週に1回ずつ施行した。検査当日に採取した血液の一部を抗凝固剤であるEDTA-2Kが入っているCBCチューブに保管して、赤血球(RBC)数値、ヘマトクリット(Hct)、ヘモグロビン濃度(Hb)、白血球(WBC)の数および血小板(PLT)の数を自動血液分析装置(ADVIA 2120iTM,Siemens Healthcare Diagnostics,Vienna,Austria)で評価した。
【0051】
生化学的分析は、次のように進めた。検査当日に採取した血液の一部を凝固活性剤が入っている真空管に移し、室温に15~20分間放置して固化させた後、3000rpmで遠心分離して血清を得た。血清の生化学的パラメータは、Hitachi 7180装置(Hitachi,Tokyo,Japan)で評価した。評価した生化学的指標は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase,AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase,ALT)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)、クレアチンホスホキナーゼ(creatine phosphokinase,CPK)、総ビリルビン(total bilirubin,TBIL)、ブドウ糖(glucose,GLU)、総コレステロール(total cholesterol,TC)、トリグリセリド(triglycerides,TG)、総タンパク質(total protein,TP)、アルブミン(albumin,ALB)、ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(gamma-glutamyl transpeptidase,GGT)、血中尿素窒素(blood urea nitrogen,BUN)、クレアチニン(creatinine,CRE)、無機リン(inorganic phosphorus,IP)、カルシウム(Ca)およびC反応性タンパク質(C-reactive protein,CRP)である。
【0052】
血清インスリン濃度は、製造社のプロトコルに基づいてQuantikine Canine Insulin ELISA Kit(カタログ番号:DINS00,R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)でエナボグリフロジン投与開始後2週、4週、6週、8週および10週に測定した。尿の生化学的パラメータは、エナボグリフロジン投与開始後2週、4週、6週、10週に尿検査紙で評価し、尿中ブドウ糖(GLU)の排出量は、UriSCAN Strip(登録商標)(YD Diagnostics CORP.,龍仁市、韓国)で測定した。
【0053】
6.統計分析
【0054】
データの統計分析には、Prism 5.03ソフトウェア(GraphPad Software Inc.,San Diego,CA,USA)を使用した。試験結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)で表示した。統計方法は、対応のたるスチューデントt-検定(paired Student’s t-test)またはウィルコクソンマッチドペア検定(Wilcoxon matched pairs test)を使用し、有意レベルは、p<0.05に設定した。
【0055】
実験結果
【0056】
1.非臨床毒性試験
【0057】
13週間エナボグリフロジンを反復経口投与した結果、対照群に比べて体重が減少した。具体的には、1、3、6mg/kg/日の用量別に雄性ビーグル犬は、体重がそれぞれ17.7%、16%、29.9%減少し(
図2a)、雌性ビーグル犬は、体重がそれぞれ19.6%、18.5%、33.2%減少し、エナボグリフロジンの投与用量依存的に体重が減少した(
図2b)。
【0058】
39週間エナボグリフロジンを反復経口投与したときにも、1、3、6mg/kg/日の用量別に雄性ビーグル犬は、体重がそれぞれ9.1%、12.7%、21.0%減少し(
図3a)、雌性ビーグル犬は、体重がそれぞれ7.6%、11.8%、11.3%減少した(
図3b)。
【0059】
2.BCS、体重、体脂肪、脂肪厚、胸囲および胴囲の変化
【0060】
エナボグリフロジンの投与が肥満犬のBCS、体重、体脂肪量、脂肪厚、胸および胴囲に及ぼす影響を評価した。
【0061】
エナボグリフロジン0.2投与群(DWP0.2)のBCSは、投与開始後4週、8週、10週に対照群(OC)より有意に低く(p<0.05)、エナボグリフロジン0.5投与群(DWP0.5)のBCSも、全体実験期間中に減少した。エナボグリフロジン1投与群(DWP1.0)のBCSは、対照群(OC)より若干増加したが、実験終了時点では、対照群(OC)より低かった(
図4a)。
【0062】
エナボグリフロジン0.2投与群の体重は、投与開始4週後から試験終了まで対照群(OC)に比べて有意に低く(p<0.05)、体重変化も、すべての群において最も低かった。エナボグリフロジン0.5投与群でも、同様の体重減少が発生し、体重は、試験2週と4週目に減少した後、ゆっくり増加した(
図4b)。体脂肪率は、すべての群において有意差がなかったが、エナボグリフロジン0.2投与群において最も低かった(
図4c)。脂肪厚は、すべての投与群において減少し、このような変化は、エナボグリフロジン0.2投与群の8週と10週で有意であった(
図4d)。胸囲と胴囲は、すべてのエナボグリフロジン投与群において減少した(表2)。下記表2に胸囲および胴囲の変化を記載した。
【0063】
【0064】
3.飼料摂取量および安静時エネルギー要求量の変化
【0065】
エナボグリフロジン投与10週目に飼料摂取量は、初期飼料摂取量と比較して対照群(OC)が101.35±2.56、エナボグリフロジン0.2投与群が166.59±4.72、エナボグリフロジン0.5投与群が98.47±1.44、エナボグリフロジン1.0投与群が123.15±2.45%であった。10週間の実験期間中に飼料摂取は、対照群(OC)に比べてエナボグリフロジン0.2投与群およびエナボグリフロジン1投与群では有意に増加し(p<0.001)、エナボグリフロジン0.5投与群では減少した(表3)。
【0066】
エナボグリフロジン投与開始後4週と8週に安静時エネルギー要求量(resting energy requirement;RER)を分析した結果、対照群(OC)と比較してエナボグリフロジン0.2投与群においてRERが有意に低かった(p<0.05;表3)。
【0067】
臨床試験期間中に各実験群の飼料摂取量と安静時エネルギー要求量の変化を表3に記載した。結果は、平均±標準偏差で記載し、*表示は、対照群(OC)と比較してp<0.05レベルで有意な結果を示すものである。
【0068】
【0069】
4.血液および血清の生化学的指標
【0070】
10週間の試験期間中に血小板(PLT)の数を除いて投与群間に血液学的指標は有意差がなかった。エナボグリフロジン1投与群の血小板(PLT)の数は、対照群(OC)より有意に低く(p<0.05)、エナボグリフロジン0.2投与群の血清総コレステロール(TC)およびトリグリセリド(TG)の濃度は、対照群(OC)より低かった(表4)。
【0071】
すべての投与群において空腹血糖(fasting glucose)および血清インスリン(insulin)濃度は、対照群(OC)に比べて減少したが、ブドウ糖(GLU)の濃度は、エナボグリフロジン1投与群だけで、インスリン濃度は、エナボグリフロジン0.5投与群だけで対照群(OC)より有意に低かった(表4)。
【0072】
エナボグリフロジン投与群の血清トリグリセリド(TG)の濃度は、それぞれエナボグリフロジン0.2投与群が142.00±95.55mg/dL、エナボグリフロジン0.5投与群が133.86±70.19mg/dL、およびエナボグリフロジン1投与群が282.60±419.03mg/dLであり、対照群(361.60±622.34mg/dL)より顕著に低かった。また、血清ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)およびC反応性タンパク質(CRP)の濃度は、対照群(OC)に比べてエナボグリフロジン0.2投与群において有意に減少した(表4)。
【0073】
表4で、結果は、平均±標準偏差で記載し、*表示は、対照群(OC)に比べて一元ANOVAによる事後検定(post hoc test)でp<0.05レベルで有意な結果を示すものである。
【0074】
【0075】
尿中ブドウ糖(GLU)の排出は、エナボグリフロジン投与群、特にエナボグリフロジン0.2投与群においてさらに多かった(表5)。
【0076】
【0077】
5.結論
【0078】
8週間のエナボグリフロジン投与は、肥満犬においてBCS、体重、体脂肪率、脂肪厚、胸および胴囲を減少させ、飼料にエナボグリフロジンを0.2mg/kgの濃度で補充したとき、最も効果的な結果が現れた。
【0079】
また、エナボグリフロジン投与群では、血糖濃度が減少し、尿中ブドウ糖の排出が増加し、肥満個体で上昇する血清総コレステロール(TC)、トリグリセリド(TG)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)、血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン(CRE)の濃度が全部減少した。総コレステロール(TC)とトリグリセリド(TG)の濃度の上昇は、脂質異常症の指標であり、血中尿素窒素(BUN)およびクレアチニン(CRE)の濃度の上昇は、腎臓障害で見ることができる。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびクレアチンホスホキナーゼ(CPK)濃度の増加は、脂肪肝の指標である。
【0080】
したがって、エナボグリフロジンは、肥満犬の状態を改善し、高血糖症、脂質異常症および脂肪肝の改善効果を有することが分かる。
【国際調査報告】