(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】MUC-1に特異的に結合する抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20250117BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20250117BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250117BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543379
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 KR2022001255
(87)【国際公開番号】W WO2023140412
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】10-2022-0010120
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524273638
【氏名又は名称】サイロン セラピューティクス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ユー リ
(72)【発明者】
【氏名】ユーン,サンスーン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,テ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ア ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ソ ダム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA92Y
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB44
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
抗-MUC1抗体、抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体、およびこれを含む癌の予防および/または治療用薬学的組成物が提供される。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、
配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、
配列番号16のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、
配列番号19のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、
配列番号27のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および
配列番号33のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)
を含む、抗-MUC1(Mucin-1)抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号2~6からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、
配列番号8~15からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、
配列番号17~18からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、
配列番号20~26からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、
配列番号28~32からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および
配列番号34~38からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)
を含む、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
配列番号77~86からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;および
配列番号87~96からなる群より選択されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、MUC1を発現する癌細胞の細胞死滅を誘導する活性を有するものである、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗-MUC1抗体は、単クローン抗体である、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
配列番号109のアミノ酸配列を含むペプチドを特異的に認識するものである、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗原結合断片は、前記抗-MUC1抗体のscFv、(scFv)2、Fab、Fab’およびF(ab’)2からなる群より選択されるものである、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗-MUC1抗体は、マウス由来抗体、マウス-ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体である、請求項1に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のMUC1抗体またはその抗原結合断片、およびT細胞活性化抗原に対して特異的な1つ以上の抗原結合部位を含む、二重特異抗体。
【請求項10】
T細胞活性化抗原がCD3 T細胞補助受容体(CD3)抗原である、請求項9に記載の二重特異抗体。
【請求項11】
前記二重特異抗体は、CD3抗原に対する抗原結合部位を含む抗-CD3抗体またはその抗原結合断片を含み、
前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、OKT3抗体またはその抗原結合断片、UCHT-1抗体またはその結合断片、またはSP34抗体またはその抗原結合断片である、請求項10に記載の二重特異抗体。
【請求項12】
前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片のC末端またはN末端に連結されたものである、請求項11に記載の二重特異抗体。
【請求項13】
前記抗-CD3抗体の抗原結合断片は、抗-CD3抗体のscFv、(scFv)2、Fab、Fab’およびF(ab’)2からなる群より選択されるものである、請求項11に記載の二重特異抗体。
【請求項14】
前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号97のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、
配列番号98のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、
配列番号99のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、
配列番号100のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、
配列番号101のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および
配列番号102のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)
を含むものである、請求項11に記載の二重特異抗体。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または請求項9~14のいずれか1項に記載の二重特異抗体を含む、癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項16】
前記癌は、血液癌、骨髄癌、甲状腺癌、子宮癌、皮膚癌、黒色腫、乳癌、大腸癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、および膵臓癌からなる群より選択される1種以上の癌である、請求項15に記載の癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または請求項9~14のいずれか1項に記載の二重特異抗体を暗号化するポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項17に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の組換えベクターを含む、組換え細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
抗-MUC1抗体、抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体、およびこれを含む癌の予防および/または治療用薬学組成物が提供される。
【背景技術】
【0002】
MUC1(mucin-1)はムチン(mucin)糖タンパク質の一種であり、多数の糖化された細胞外ドメインを含む膜貫通糖タンパク質である。MUC1の長さは細胞表面で200~500nmであり、MUC1は正常上皮細胞の頂端膜に位置する。MUC1は、乳房、胃、食道、膵臓、尿道、肺、腎臓および胆嚢のような多くの臓器の腺上または内腔上皮細胞で発現する。ムチンは膵臓、肺、乳房、卵巣などの癌を含み、多くの癌腫で過発現する。ムチンと癌の病的関連性について多くの研究が進められてきており、特に、MUC1に対するいくつかの抗体が当分野で公知である。
【0003】
しかし、これらの治療的効能は依然として改善させることができ、このため、本出願は、改善された特徴を有する抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一態様は、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0005】
他の態様は、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片と、抗-CD3抗体またはその抗原結合断片を含む、抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を提供する。
【0006】
さらに他の態様は、(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0007】
さらに他の態様は、(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を癌の予防または治療を必要とする対象に投与する段階を含む、癌の予防または治療方法を提供する。
【0008】
さらに他の態様は、(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の癌の予防または治療に使用するための用途または抗癌剤の製造に使用するための用途を提供する。
【0009】
さらに他の態様は、(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を暗号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターおよび/または前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0010】
さらに他の態様は、前記(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を暗号化するポリヌクレオチドを発現させる段階を含む、(i)抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または(ii)前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
用語の定義
所望の抗原を被免疫動物に免疫させて生産する動物由来抗体は、一般に、治療目的でヒトに投与時、免疫拒絶反応が起こることがあり、このような免疫拒絶反応を抑制すべくキメラ抗体(chimeric antibody)が開発された。キメラ抗体は、遺伝工学的方法を利用して、抗-アイソタイプ(anti-isotype)反応の原因になる動物由来抗体の不変領域をヒト抗体の不変領域に置換したものである。キメラ抗体は、動物由来抗体に比べて抗-アイソタイプ反応において相当部分改善されたが、依然として動物由来アミノ酸が可変領域に存在していて、潜在的な抗-イディオタイプ(anti-idiotypic)反応に対する副作用を含んでいる。このような副作用を改善すべく開発されたものがヒト化抗体(humanized antibody)である。これは、キメラ抗体の可変領域のうち抗原の結合に重要な役割を果たすCDR(complementaritiy determining regions)部位をヒト抗体骨格(framework)に移植して作製される。
【0012】
一具体例において、前記抗-MUC1抗体は、動物由来抗体(例えば、マウス由来抗体)、キメラ抗体(例えば、マウス-ヒトキメラ抗体)、またはヒト化抗体であってもよい。前記抗体または抗原結合断片は、生体から分離されたもの、または非自然的に生産(non-naturally occurring)されたものであってもよい。前記抗体または抗原結合断片は、組換え的または合成的に生産されたものであってもよい。前記抗体または抗原結合断片は、生体から分離されたもの、または非自然的に生成された(non-naturally occurring)ものであってもよい。前記抗体または抗原結合断片は、合成的または組換え的に生成されたものであってもよい。
【0013】
他の例において、前記抗体は、ヒトを含む哺乳動物、鳥類などを含む任意の動物に由来(分離)するものであってもよい。例えば、前記抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリの抗体であってもよい。ここで、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体であって、ヒト免疫グロブリンライブラリーから分離された抗体または1つ以上のヒト免疫グロブリンに対して形質移植され、内在的免疫グロブリンは発現しない動物から分離された抗体を含む。
【0014】
抗-MUC1抗体は、単クローン抗体または多クローン抗体であってもよいし、例えば、単クローン抗体であってもよい。単クローン抗体は、当業界で広く知られた方法の通りに製造できる。例えば、phage display手法を用いて製造されてもよい。あるいは、抗-MUC1抗体は、マウス由来の単クローン抗体で製造されてもよい。
【0015】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片において先に定義した重鎖CDRおよび軽鎖CDR部位、または重鎖可変領域および軽鎖可変領域を除いた残りの部位は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)に由来するものであってもよく、例えば、前記すべてのサブタイプの免疫グロブリンのフレームワーク部位、および/または軽鎖不変領域および/または重鎖不変領域に由来するものであってもよい。
【0016】
完全な抗体(例えば、IgGタイプ)は、2個の全長(full length)軽鎖および2個の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と軽鎖不変領域とに分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)およびイプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとして、ガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを有する。
【0017】
用語、「重鎖(heavy chain)」は、抗原に特異性を付与するために十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVHおよび3個の不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3とヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。また、用語「軽鎖(light chain)」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVLおよび不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖およびその断片をすべて含む意味で解釈される。
【0018】
用語、「CDR(complementarity determining region)」は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する。重鎖および軽鎖は、それぞれ3個のCDRを含むことができる(CDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは、抗体が抗原またはエピトープに結合するにあたり、主な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語、「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常公知の意味と同一のものであって、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的反応をすることを意味する。
【0019】
用語「ヒンジ領域(hinge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1およびCH2領域の間に存在し、抗体中の抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能をする領域を意味する。
【0020】
動物由来抗体がキメラ化(chimerization)過程を経ると、動物由来のIgG1ヒンジはヒトIgG1ヒンジで置換されるが、動物由来IgG1ヒンジは、ヒトIgG1ヒンジに比べてその長さが短く、2個の重鎖の間の二硫化結合(disulfide bond)が3個から2個に減少して、ヒンジの硬直性(rigidity)が互いに異なる効果を示す。したがって、ヒンジ領域の変形(modification)は、ヒト化抗体の抗原結合効率性を増加させることができる。前記ヒンジ領域のアミノ酸配列を変形させるためのアミノ酸の欠失、付加または置換方法は当業者によく知られている。
【0021】
前記「抗原結合断片」は、免疫グロブリン全体構造に対するその断片で、抗原が結合できる部分を含むポリペプチドの一部を意味する。例えば、scFv、(scFv)2、scFvFc、Fab、Fab’またはF(ab’)2であってもよいが、これに限定しない。本発明における抗体の抗原結合断片は、前記相補性決定領域を1つ以上含む抗体断片、例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’およびF(ab’)2からなる群より選択されるものであってもよい。前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabを得ることができ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片を得ることができる)、遺伝子組換え技術により作製することができる。
【0022】
前記抗原結合断片のうちFabは、軽鎖および重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域および重鎖の1番目の不変領域(CH1)を有する構造で、1個の抗原結合部位を有する。
【0023】
Fab’は、重鎖CH1ドメインのC-末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点で、Fabと差がある。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなして生成される。
【0024】
Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域だけを有している最小の抗体片で、Fv断片を生成する組換え技術は当業界で幅広く公知である。二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv;scFv)は、一般に、ペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と単鎖の可変領域とが共有結合で連結されるか、またはC-末端で直ちに連結されていて、二重鎖Fvのようにダイマーのような構造をなすことができる。前記ペプチドリンカーは先に説明した通りであり、例えば、1~100個のアミノ酸の長さ、例えば、2~50個のアミノ酸の長さまたは5~25個のアミノ酸の長さであってもよいし、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。
【0025】
前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabを得ることができ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片を得ることができる)、遺伝子組換え技術により作製することができる。
【0026】
抗原結合断片、例えば、scFVにおいて、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、リンカー、例えば、ペプチドリンカーを介したり、介さずに連結可能である。前記ペプチドリンカーは、1~100個または2~50個の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってもよいし、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。前記ペプチドリンカーは、例えば、Gly、Asnおよび/またはSer残基を含むことができ、Thrおよび/またはAlaのような中性アミノ酸も含まれる。前記リンカーは、前記二重特異抗体の機能に影響を与えない限度内で、その長さを多様に決定可能である。例えば、前記ペプチドリンカーは、Gly、Asn、Ser、ThrおよびAlaからなる群より選択された1種以上のアミノ酸を計1~100個、2~50個、または5~25個含んでなるものであってもよい。一例において、前記ペプチドリンカーは、(G4S)n(nは(G4S)の繰り返し数)であって、1~10の整数、例えば、2~5の整数)で表されるものであってもよい。
【0027】
用語「拮抗剤(antagonist)」は、標的物(例えば、MUC1)の生物学的活性の1つ以上を部分的ながら完全に遮断、抑制または中和させるすべての分子を含む概念で解釈される。例えば、「拮抗剤」抗体は、抗体が結合する抗原(例えば、MUC1)の生物学的活性を抑制または減少させる抗体を意味する。拮抗剤は、リガンド(標的)に対する受容体に結合して、受容体リン酸化(phosphorylation)を減少させたり、リガンドによって活性化されていた細胞を無能力化させたり、または死滅させる作用が可能である。また、拮抗剤は、受容体-リガンド間の相互作用を完全に断絶させたり、リガンドと競争的に受容体に結合したり、受容体の三次構造の変化または下向調節(downre gulation)によって前記受容体-リガンド間の相互作用を実質的に減少させることができる。
【0028】
抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片
本発明の一例は、MUC1(Mucin-1)を特異的に認識したり、および/または特異的に結合可能なポリペプチドを提供する。
【0029】
前記MUC1は、ヒトMUC1、サル、イヌ、ラット、またはマウスなどのMUC1であってもよい。一例において、前記ヒトMUC1は、MUC1 isoform M2(identifier:A6ZID5;NCBI reference number:ABS01294.1)、MUC1 isoform1(identifier:P15941-1)、MUC1 isoform2(identifier:P15941-2)、MUC1 isoform3(identifier:P15941-3)、MUC1 isoform4(identifier:P15941-4)、MUC1 isoform5(identifier:P15941-5)、MUC1 isoform6(identifier:P15941-6)、MUC1 isoform Y(identifier:P15941-7)、MUC1 isoform8(identifier:P15941-8)、MUC1 isoform9(identifier:P15941-9)、MUC1 isoform F(identifier:P15941-10)、MUC1 isoform Y-LSP(identifier:P15941-11)、MUC1 isoform S2(identifier:P15941-12)、MUC1 isoform M6(identifier:P15941-13)、MUC1 isoform ZD(identifier:P15941-14)、MUC1 isoform T10(identifier:P15941-15)、MUC1 isoform E2(identifier:P15941-16)、またはMUC1 isoform J13(identifier:P15941-17)などであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0030】
一例において、前記ヒトMUC1は、NCBI Reference Sequence:NP_001018016.1、NP_001018017.1、NP_001037855.1、NP_001037856.1、NP_001037857.1、NP_001037858.1、NP_001191214.1、NP_001191215.1、NP_001191216.1、NP_001191217.1、NP_001191218.1、NP_001191219.1、NP_001191220.1、NP_001191221.1、NP_001191222.1、NP_001191223.1、NP_001191224.1、NP_001191225.1、NP_001191226.1、NP_002447.4などで提供されるアミノ酸配列を有することができるが、これに制限されるわけではなく、それぞれのアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence:NM_001018016.2、NM_001018017.2、NM_001044390.2、NM_001044391.2、NM_001044392.2、NM_001044393.2、NM_001204285.1、NM_001204286.1、NM_001204287.1、NM_001204288.1、NM_001204289.1、NM_001204290.1、NM_001204291.1、NM_001204292.1、NM_001204293.1、NM_001204294.1、NM_001204295.1、NM_001204296.1、NM_001204297.1、NM_002456.5などで提供されるヌクレオチド配列(mRNA)によって暗号化されるものであってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0031】
本明細書において、タンパク質、ポリペプチド、またはポリヌクレオチドがアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有するいうのは、タンパク質、ポリペプチド、またはポリヌクレオチドが前記配列を含むか、前記配列を必須的に含むか、前記配列からなることをすべて意味するために使用できる。
【0032】
これらのポリペプチドは、抗-MUC1抗体の相補性決定部位(complementarity determining region、CDR)として使用可能である。この時、前記相補性決定部位は、通常のすべての方法により決定可能であり、例えば、IMGT definition(http://www.imgt.org/IMGT_vquest/share/textes/)またはKabat definition(http://www.bioinf.org.uk/abs/)により決定できるが、これに制限されるわけではない。
【0033】
他の例において、前記ポリペプチドからなる群より選択された1種以上を含むMUC1標的ポリペプチド分子が提供される。
【0034】
前記MUC1標的ポリペプチド分子は、先に説明した抗-MUC1抗体の重鎖相補性決定部位、軽鎖相補性決定部位、またはこれらの組み合わせ;または前記重鎖相補性決定部位を含む重鎖可変領域、前記軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせを含むものであってもよい。
【0035】
前記MUC1標的ポリペプチド分子は、これに限定されないが、抗-MUC1抗体、前記抗体の抗原結合断片、または抗-MUC1抗体類似体(抗体と類似の骨格と機能を有する構造体;例えば、ペプチボディ、ナノボディなど)、または多重結合抗体などの前駆体または構成部分(例えば、CDR)として役割を果たすことができる。
【0036】
用語「ペプチボディ(peptide+antibody)」は、ペプチドと抗体のFc部分などの不変部位の全部または一部が融合した融合タンパク質であって、抗体と類似の骨格と機能を有するタンパク質を意味する。ここで、先に説明した1種以上のペプチドが抗原結合部位(重鎖および/または軽鎖CDRまたは可変領域)として作用できる。
【0037】
用語「ナノボディ」は、単一-ドメイン抗体(single-domain antibody)とも呼ばれ、抗体の単一可変ドメインをモノマー形態で含む抗体断片を意味し、完全な構造の抗体と類似に、特定の抗原に対して選択的に結合する特性を有する。ナノボディの分子量は、一般に約12kDa~約15kDa程度で、完全な抗体(2個の重鎖と2個の軽鎖を含む)の一般的な分子量(約150kDa~約160kDa)と比較して非常に小さく、場合によっては、Fab断片やscFv断片より小さい。
【0038】
具体的には、本発明は、MUC1を特異的に認識したり、および/または特異的に結合可能なポリペプチドを提供する。前記ポリペプチドは、配列番号1、配列番号7、配列番号16、配列番号19、配列番号27、および配列番号33からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を含むことができ、さらに詳しくは、配列番号2~6、配列番号8~15、配列番号17~18、配列番号20~26、配列番号28~32、および配列番号34および配列番号38からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0039】
前記ポリペプチドおよびこれらの適用可能な相補性決定部位を下記表1にまとめた。下記表1中、V
H-CDR1、V
H-CDR2、およびV
H-CDR3は、重鎖相補性決定部位を意味し、V
L-CDR1、V
L-CDR2、およびV
L-CDR3は、軽鎖相補性決定部位を意味する。
【表1-1】
【0040】
【0041】
一例において、前記ポリペプチドからなる群より選択された1種以上を相補性決定部位として含む抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片が提供される。
【0042】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖の相補性決定部位であって、
配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、
配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および
配列番号16のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)
からなる群より選択される1種以上を含むものであってもよい。
【0043】
前記配列番号1のアミノ酸配列は、下記一般式1のアミノ酸配列の通りである:
[一般式1](配列番号1)
X1-Y-W-M-X2
X1はDまたはS、
X2はN、S、またはHである。
【0044】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の重鎖CDR1として使用可能な配列番号1のポリペプチドは、例えば、配列番号2~6からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0045】
前記配列番号7のアミノ酸配列は、下記一般式2のアミノ酸配列の通りである:
[一般式2](配列番号7)
X3-I-X4-X5-K-X6-Y-X7-X8-X9-X10-X11-Y-X12-X13-S-V-K-G
X3はQ、F、またはV、
X4はRまたはK、
X5はN、S、Q、またはY、
X6はPまたはA、
X7はNまたはG、
X8はY、G、またはS、
X9はEまたはT、
X10はTまたはK、
X11はYまたはE、
X12はS、A、またはV、
X13はN、Q、またはAである。
【0046】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の重鎖CDR2として使用可能な配列番号7のポリペプチドは、例えば、配列番号8~15からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0047】
前記配列番号16のアミノ酸配列は、下記一般式3のアミノ酸配列の通りである:
[一般式3](配列番号16)
A-M-I-T-S-D-G-Y-A-X14-D-Y
X14はMまたはFである。
【0048】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の重鎖CDR3として使用可能な配列番号16のポリペプチドは、例えば、配列番号17~18からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0049】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖の相補性決定部位であって、
配列番号19のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、
配列番号27のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および
配列番号33のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)
からなる群より選択される1種以上を含むものであってもよい。
【0050】
前記配列番号19のアミノ酸配列は、下記一般式4のアミノ酸配列の通りである:
[一般式4](配列番号19)
X15-X16-S-Q-S-X17-L-X18-S-S-X19-X20-X21-N-Y-L-A
X15はKまたはR、
X16はSまたはA、
X17はLまたはV、
X18はL、Y、またはH、
X19はNまたはS、
X20はQまたはG、
X21はKまたはYである。
【0051】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の軽鎖CDR1として使用可能な配列番号19のポリペプチドは、例えば、配列番号20~26からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0052】
前記配列番号27のアミノ酸配列は、下記一般式5のアミノ酸配列の通りである:
[一般式5](配列番号27)
W-X22-S-X23-R-X24-X25
X22はAまたはG、
X23はTまたはS、
X24はEまたはA、
X25はSまたはTである。
【0053】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の軽鎖CDR2として使用可能な配列番号27のポリペプチドは、例えば、配列番号28~32からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0054】
前記配列番号33のアミノ酸配列は、下記一般式6のアミノ酸配列の通りである:
[一般式6](配列番号33)
Q-Q-X26-F-X27-X28-P-X29-T
X26はCまたはS、
X27はSまたはQ、
X28はY、T、またはS、
X29はLまたはYである。
【0055】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の軽鎖CDR3として使用可能な配列番号27のポリペプチドは、例えば、配列番号34~38からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を有するものであってもよいし、詳しい配列を前記表1と配列リストに記載されており、記載されたアミノ酸配列において太字の下線部分は変形されたアミノ酸を表す。
【0056】
一例において、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
【0057】
配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および配列番号16のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)からなる群より選択された1つ以上の重鎖相補性決定部位、または前記1つ以上の重鎖相補性決定部位を含む重鎖可変領域;
【0058】
配列番号19のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号27のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号33のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)からなる群より選択された1つ以上の軽鎖相補性決定部位、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖可変領域;
前記重鎖相補性決定部位と軽鎖相補性決定部位との組み合わせ;または
前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせを含むものであってもよい。
【0059】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号2~6からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8~16からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および配列番号17~18からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)からなる群より選択された1種以上の重鎖相補性決定部位、または前記1つ以上の重鎖相補性決定部位を含む重鎖可変領域;
配列番号20~26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28~32からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号34~38からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)からなる群より選択された1種以上の軽鎖相補性決定部位、または前記1つ以上の軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖可変領域;
前記重鎖相補性決定部位と軽鎖相補性決定部位との組み合わせ;または
前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせを含むものであってもよい。
【0060】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号2~6からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8~16からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および配列番号17~18からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)を含む重鎖可変領域;および
配列番号20~26からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28~32からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号34~38からなる群より選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)を含む軽鎖可変領域を含むものであってもよい。
【0061】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、下記表2および表3に組み合わされた重鎖可変領域のCDR配列と軽鎖可変領域のCDR配列とを含むものであってもよい。
【表2】
【0062】
【0063】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号2または配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8、配列番号9、または配列番号14のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)を含む重鎖相補性決定部位、または前記重鎖相補性決定部位を含む重鎖可変領域;
配列番号21、配列番号22、配列番号23、または配列番号24のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28、配列番号29、または配列番号31のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号34、配列番号35、または配列番号36のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)を含む軽鎖相補性決定部位、または前記軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖可変領域;
前記重鎖相補性決定部位と軽鎖相補性決定部位との組み合わせ;または
前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせを含むものであってもよい。
【0064】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、および配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)を含む重鎖相補性決定部位、または前記重鎖相補性決定部位を含む重鎖可変領域;
配列番号21、配列番号23、または配列番号24のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28または配列番号29のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号34または配列番号35のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)を含む軽鎖相補性決定部位、または前記軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖可変領域;
前記重鎖相補性決定部位と軽鎖相補性決定部位との組み合わせ;または
前記重鎖可変領域と軽鎖可変領域との組み合わせを含むものであってもよい。
【0065】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
1)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、配列番号21のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号35のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3);
2)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、配列番号23のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号36のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3);
3)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号9のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、配列番号24のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号29のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号35のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3);
4)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、配列番号23のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号28のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号34のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3);または
5)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、配列番号8のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、配列番号17のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、配列番号24のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、配列番号29のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および配列番号35のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3);
を含むものであってもよい。
【0066】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、一般式1~6の相補性決定部位からなる群より選択された1種以上の相補性決定部位に加えて、1つ以上の重鎖可変領域のフレームワーク配列、1つ以上の軽鎖可変領域のフレームワーク配列、または1つ以上の重鎖可変領域のフレームワーク配列と1つ以上の軽鎖可変領域のフレームワーク配列とを含むことができる。前記軽鎖可変領域のフレームワーク配列と軽鎖可変領域のフレームワーク配列の一例は下記表4~表7に示す。
【表4】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
一例において、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
前記重鎖相補性決定部位(前記表2中、VH0~VH9)を含む重鎖可変領域、前記軽鎖相補性決定部位(前記表3中、VL0~VL9)を含む軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせであってもよい。例えば、前記重鎖可変領域は、配列番号77~86からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むものであってもよいし、前記軽鎖可変領域は、配列番号87~96からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0071】
したがって、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号77~86からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する重鎖可変領域;
配列番号87~96からなる群より選択されたアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;または
これらの組み合わせを含むものであってもよい。
【0072】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号78、配列番号81、配列番号84、または配列番号85のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域;および
配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号94、または配列番号95のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むものであってもよい。
【0073】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号78、配列番号81、または配列番号84のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域;および
配列番号89、配列番号91、または配列番号92のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むものであってもよい。
【0074】
一例において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、
1)配列番号78のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号89のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
2)配列番号78のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号91のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
3)配列番号78のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号92のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
4)配列番号81のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号91のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
5)配列番号81のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号92のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;または
6)配列番号84のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域および配列番号91のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域;
を含むものであってもよい。
【0075】
用語、「エピトープ(epitope)」は、抗原決定部位(antigenic determinant)であって、抗体によって認知される抗原の一部分を意味すると解釈される。一具体例によれば、前記エピトープは、MUC1タンパク質内の部位、例えば、配列番号109のアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0076】
したがって、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号109のアミノ酸配列を含むエピトープに特異的に結合するものであってもよい。
【0077】
多重結合抗体
本発明の一例は、MUC1を特異的に認識したり、および/または特異的に結合可能なポリペプチドを含む多重結合抗体または多重特異的抗体に関し、さらに詳しくは、MUC1を特異的に認識したり、および/または特異的に結合可能なポリペプチドと共に、第2ターゲットを特異的に認識したり、および/または特異的に結合可能なポリペプチドを含む二重特異抗体であってもよい。
【0078】
本明細書において、用語「多重結合抗体」は、2つまたはそれ以上の異なる抗原を認識および/または結合したり、同一の抗原の互いに異なる部位を認識および/または結合する抗体を意味するもので、前記多重結合抗体のうちの1つの抗原結合部位が先に説明したポリペプチドを含むものであってもよい。
【0079】
本発明の他の例は、MUC1に特異的に結合する第1抗原-結合ドメインおよびCD3に特異的に結合する第2抗原-結合ドメインを含む二重特異抗原-結合分子に関する。詳しくは、本発明の一例は、本発明によるMUC1抗体またはその抗原結合断片、およびT細胞活性化抗原に対して特異的な1つ以上の抗原結合部位を含む、二重特異抗体に関する。
【0080】
前記二重特異抗体において、前記T細胞活性化抗原がCD3 T細胞補助受容体(CD3;cluster of differentiation3)抗原(例えば、抗-CD3 epsilon(ε)抗原)であってもよいし、前記二重特異抗体は、CD3抗原に対する抗原結合部位を含む抗-CD3抗体またはその抗原結合断片を含むことができる。
【0081】
具体的には、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片と、抗-CD3抗体またはその抗原結合断片とを含む二重特異抗体(つまり、抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体)に関する。前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、それぞれの抗原であるMUC1およびCD3に対する親和度および活性を維持しながら上昇効果を発揮することができる。
【0082】
前記二重特異抗体は、第1抗原のMUC1に特異的に結合し、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片を含むことができる。前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片は、前述したものと同一のものであってもよい。
【0083】
また、前記二重特異抗体は、第2抗原のCD3に特異的に結合し、具体的には、抗-CD3抗体またはその抗原結合断片を含むことができる。前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、ヒト、サル、マウスなどのCD3に結合する、抗体またはその抗原-結合断片であってもよい。前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、例えば、T細胞-媒介の細胞死滅が有利または好ましい環境下、CD3を発現するT細胞を標的化したり、T細胞活性化を刺激するのに有用である。本発明の抗-CD3抗体、またはその抗原結合断片は、特定の細胞タイプ、例えば、腫瘍細胞または感染性病原体(infectious agent)に対してCD3-媒介のT細胞活性化を指示する二重特異抗体の部分として含まれる。
【0084】
前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、CD3に特異的に結合する抗体であれば制限なく使用可能であり、例えば、OKT3抗体またはその抗原結合断片、UCHT-1抗体またはその抗原結合断片、SP34抗体またはその抗原結合断片などを使用することができるが、これに制限されるわけではない。前記OKT3抗体は、マウスまたはヒト化された免疫グロブリンIgG2aアイソタイプの単クローン抗体であってもよい。前記UCHT-1抗体は、ヒトT細胞受容体(TCR)/CD3複合体の~20kDa CD3ε小単位と反応することが知られており、SP34抗体は、CD3ε小単位に結合することが知られている。前記OKT3抗体、UCHT-1抗体、またはSP34抗体の入手方法は、通常、当業界でよく知られている。
【0085】
一具体例において、前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、下記のポリペプチドからなる群より選択された1種以上のCDR配列、好ましくは6個のCDR配列を含むことができる(下記表8参照):
配列番号97のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR1)、
配列番号98のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR2)、
配列番号99のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VH-CDR3)、
配列番号100のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR1)、
配列番号101のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR2)、および
配列番号102のアミノ酸配列を有するポリペプチド(VL-CDR3)。
【0086】
さらに詳しくは、前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号103のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号104または配列番号105のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含むものであってもよい。
【表8】
【0087】
前記抗-CD3抗体の抗原結合断片は、抗-CD3抗体のscFv、(scFv)2、Fab、Fab’およびF(ab’)2からなる群より選択されるものであってもよい。
【0088】
本発明による抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、前記抗-CD3抗体またはその抗原結合断片が、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片のC末端またはN末端に連結されたものであってもよい。
【0089】
例えば、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の重鎖N末端またはC末端に結合した抗CD3抗体scFv(anti-MUC1 heavy chain N-term-anti-CD3 scFvまたはanti-MUC1 heavy chain C-term-anti-CD3 scFv)、抗-MUC1軽鎖N末端またはC末端に結合した抗CD3抗体scFv(anti-MUC1 light chain N-term-anti-CD3 scFvまたはanti-MUC1 light chain C-term-anti-CD3 scFv)であってもよい。また、抗-CD3 scFvがmonovalentまたはdivalentで結合している二重抗体を含むことで抗-MUC1抗体の抗原結合部位と抗-CD3抗体の抗原結合部位が1つずつあったり(1+1)、2つと1つずつあって1つの二重抗体内に3つの抗原結合部位があったり(1+2または2+1)、抗原結合部位が2つずつ4つある(2+2)形態の二重特異抗体であってもよいが、これに制限されるわけではない。
【0090】
一例において、前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、および前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端、例えば、軽鎖のN末端に連結された抗-CD3抗体またはその抗原結合断片を含むものであってもよい。一例において、前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、MUC1に対する完全な抗体(例えば、IgG型抗体)および前記抗体の軽鎖のN末端に連結された抗-CD3抗体の抗原結合断片(例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’およびF(ab’)2)を含むものであってもよい。
【0091】
前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体において、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片と抗-CD3抗体またはその抗原結合断片は、リンカー、例えば、ペプチドリンカーを介したり、介さずに連結可能である。また、抗原結合断片内の重鎖部分と軽鎖部分、例えば、scFv断片内の重鎖可変領域と軽鎖可変領域もペプチドリンカーを介したり、介さずに連結可能である。前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片と抗-CD3抗体またはその抗原結合断片とを連結するペプチドリンカーと、抗原結合断片内の重鎖部分と軽鎖部分とを連結するペプチドリンカーは、同一でも異なっていてもよい。前記ペプチドリンカーは、1~100個または2~50個の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであってもよいし、その含まれているアミノ酸の種類は制限がない。前記ペプチドリンカーは、例えば、Gly、Asnおよび/またはSer残基を含むことができ、Thrおよび/またはAlaのような中性アミノ酸も含まれる。ペプチドリンカーに適したアミノ酸配列は当業界で公知である。一方、前記リンカーは、前記二重特異抗体の機能に影響を与えない限度内で、その長さを多様に決定可能である。例えば、前記ペプチドリンカーは、Gly、Asn、Ser、ThrおよびAlaからなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を、計1~100個、2~50個、または5~25個を含んでなるものであってもよい。一例において、前記ペプチドリンカーは、(G4S)n(nは(GGGGS)の繰り返し数)であって、1~10の整数、例えば、2~5の整数)で表されるものであってもよい。
【0092】
一例において、前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片に位置する軽鎖のN末端に結合した抗CD3抗体のscFv形態であってもよい。前記のように、抗CD3抗体scFvが抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片に位置する軽鎖のN末端に結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、抗CD3抗体scFvが抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片に位置する軽鎖のC末端に結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体より、癌細胞に対する細胞毒性、癌細胞増殖抑制効果、および/または癌の治療効果にさらに優れることができる。
【0093】
医薬用途(medical use)
他の態様は、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片を含む、癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0094】
他の態様は、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌の予防または治療を必要とする対象に投与する段階を含む、癌の予防または治療方法を提供する。前記癌の予防および/または治療方法は、前記投与する段階の前に、癌の予防および/または治療を必要とする患者を確認する段階を追加的に含むことができる。
【0095】
前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片は、癌の予防または治療に有用に使用することができる。本明細書で提供される前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片は、MUC1の作用剤(agonist)としての機能を示すので、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片が効能(例えば、癌細胞死滅などの抗癌効能)を十分に発揮するために、適用対象癌は、当該癌細胞がMUC1を発現することが有利であり得、例えば、MUC1を発現する固形癌であってもよい。具体的には、本発明の一例は、固形癌標的指向および治療が向上したMUC-1に特異的に結合する新規な抗体およびその用途に関する。一例において、前記癌は、血液癌(例えば、B細胞リンパ腫など)、骨髄癌、甲状腺癌、子宮癌(例えば、子宮頸癌)、皮膚癌、黒色腫、乳癌、大腸癌、肺癌、胃癌、前立腺癌、および膵臓癌、または抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片が特異的に結合する抗原のエピトープが30%以上発現する固形癌からなる群より選択される1種以上を含むが、これに制限されるわけではない。
【0096】
前記薬学的組成物または方法において、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量は、薬学的に許容される担体、希釈剤、および賦形剤などからなる群より選択された1種以上の添加剤と共に提供できる。
【0097】
前記薬学的に許容される担体は、抗体の製剤化に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどからなる群より選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。前記薬学的組成物は、前記成分のほか、薬学的組成物の製造に通常用いられる希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択された1種以上を追加的に含むことができる。
【0098】
前記薬学的組成物、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片は、経口または非経口投与可能である。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与および直腸内投与などで投与することができる。経口投与時、タンパク質またはペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングしたり、胃での分解から保護されるように剤形化されなければならない。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置によって投与されてもよい。
【0099】
前記薬学的組成物、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方可能である。例えば、前記薬学的組成物、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の1日投与量は、0.001~1000mg/kg、具体的には0.01~100mg/kg、より具体的には0.1~50mg/kgの範囲であってもよいが、これに制限されるわけではない。前記1日投与量は、単位容量形態で1つの製剤に製剤化されるか、適切に分量して製剤化されるか、多用量容器内に入れて製造されてもよい。用語「薬学的有効量」は、前記有効成分(つまり、前記抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片)が所望の効果、つまり、癌を予防および/または治療する効果を示すことのできる量を意味し、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因によって多様に処方可能である。
【0100】
前記薬学的組成物は、当該当業者が容易に実施できる方法により、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することによって、単位用量形態に製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてもよい。この時、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよいし、分散剤または安定化剤を追加的に含むことができる。
【0101】
また、前記薬学的組成物は、個別治療剤として投与されたり、他の治療剤と併用して投与され、従来の治療剤とは順次的または同時に投与されてもよい。
【0102】
一方、前記薬学的組成物は、抗体または抗原結合断片を含むので、免疫リポソームに剤形化されてもよい。抗体を含むリポソームは、当業界で広く知られた方法により製造できる。前記免疫リポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびポリエチレングリコール-誘導体化されたホスファチジルエタノールアミンを含む脂質組成物として逆相蒸発法により製造できる。例えば、抗体のFab’断片は、ジスルフィド-切替反応によりリポソームに接合される。ドキソルビシンのような化学治療剤が追加的にリポソーム内に含まれてもよい。
【0103】
前記薬学的組成物の投与対象または前記予防および/または治療方法の投与対象患者は、哺乳類、例えば、ヒト、サルなどの霊長類、またはラット、マウスなどの齧歯類などであってもよいが、これに制限されるわけではなく、既存の抗癌剤、例えば、前記標的細胞膜タンパク質(例えば、MUC1に対する拮抗剤に対して耐性が生じた癌患者であってもよい。
【0104】
ポリペプチド、組換えベクター、および抗体の製造方法
本発明の他の例は、前記のようなポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチドを提供する。一具体例において、前記ポリヌクレオチドは、配列番号2~6、配列番号8~15、配列番号17~18、配列番号20~26、配列番号28~32、および配列番号34および配列番号38からなる群より選択された1種以上のアミノ酸配列を含むポリペプチドを暗号化するものであってもよい。
【0105】
さらに他の具体例において、前記ポリヌクレオチドは、配列番号77~96からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを暗号化するものであってもよい。
【0106】
さらに他の例は、前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。
【0107】
さらに他の例は、前記組換えベクターで形質転換された組換え細胞を提供する。
【0108】
用語「ベクター(vector)」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための手段を意味する。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクターおよびバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ-関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターを含む。前記組換えベクターとして使用可能なベクターは、当業界で時々使用されるプラスミド(例えば、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズおよびpUC19など)、ファージ(例えば、λgt4λB、λ-Charon、λΔz1およびM13など)またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して作製できるが、これに制限されない。
【0109】
前記組換えベクターにおいて、前記ポリヌクレオチドは、プロモーターに作動的に連結可能である。用語「作動可能に連結された(operatively linked)」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記調節配列は、「作動可能に連結(operatively linked)」されることによって、他のヌクレオチド配列の転写および/または解読を調節することができる。
【0110】
前記組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築される。前記発現用ベクターは、当業界において植物、動物または微生物で外来のタンパク質を発現するのに用いられる通常のものを使用可能である。前記組換えベクターは、当業界で公知の多様な方法により構築できる。
【0111】
前記組換えベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主として構築される。例えば、使用されるベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させることができる強力なプロモーター(例えば、pLλプロモーター、CMV promoter、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなど)、解読の開始のためのリボソーム結合サイトおよび転写/解読終結配列を含むことが一般的である。真核細胞を宿主とする場合には、ベクターに含まれる真核細胞で作動する複製起点は、f1複製起点、SV40複製起点、pMB1複製起点、アデノ複製起点、AAV複製起点およびBBV複製起点などを含むか、これに限定されるものではない。また、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター)または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクチニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーターおよびHSVのtkプロモーター)が用いられてもよいし、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般に有する。
【0112】
前記組換え細胞は、前記組換えベクターを適切な宿主細胞に導入させることによって得られたものであってもよい。前記宿主細胞は、前記組換えベクターを安定かつ連続的にクローニングまたは発現させることができる細胞として当業界で公知のいかなる宿主細胞も用いることができ、原核細胞としては、例えば、E.coli JM109、E.coli BL21、E.coli RR1、E.coli LE392、E.coli B、E.coli X1776、E.coli W3110、バチルスサブチリス、バチルスチューリンゲンシスのようなバチルス属菌株、そしてサルモネラチフィリウム、セラチアマルセッセンスおよび多様なシュードモナス種のような腸内菌と菌株などがあり、真核細胞に形質転換させる場合には、宿主細胞として、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞、植物細胞および動物細胞、例えば、Sp2/0、CHO(Chinese hamster ovary)K1、CHO DG44、PER.C6、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、Huh7、3T3、RIN、MDCK細胞株などが用いられるが、これに制限されるわけではない。
【0113】
前記ポリヌクレオチドまたはこれを含む組換えベクターの宿主細胞内への運搬(導入)は、当業界で広く知られた運搬方法を使用することができる。前記運搬方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞の場合、CaCl2方法または電気穿孔方法などを使用することができ、宿主細胞が真核細胞の場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポソーム-媒介形質感染法および遺伝子ボンバードメントなどを使用することができるが、これに限定しない。
【0114】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を用いて、当業界で広く知られた方法により容易に実施できる。例えば、前記選択標識が特定の抗生剤耐性遺伝子の場合には、前記抗生剤が含まれている培地で形質転換体を培養することによって、形質転換体を容易に選別することができる。
【0115】
さらに他の例は、前記組換え細胞で前記ポリヌクレオチドを発現させる段階を含むポリペプチドまたは抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記ポリヌクレオチドを発現させる段階は、前記組換え細胞をこれに含まれているポリヌクレオチドの発現を許容する条件下で培養する段階を含むものであってもよい。前記ポリペプチドまたは抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片の製造方法は、前記発現させる段階または培養する段階の後に、ポリペプチドまたは抗-MUC1抗体またはその抗原結合断片、または前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体またはその抗原結合断片を分離および/または精製する段階を追加的に含むことができる。
【発明の効果】
【0116】
抗-MUC1抗体、および抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、癌細胞の成長を効果的に阻害できるので、癌の予防または治療効果に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【
図1】
図1は、膵臓癌特異的なMP1単クローン抗体の末梢血液および正常膵臓上皮細胞と膵臓癌細胞の結合反応を示す。(顆粒球(granulocytes)、リンパ球(lymphocytes)、単核細胞(monocytes)、正常膵臓上皮細胞(H6C7)、5種の膵臓癌細胞株(AsPC1、BxPC3、Capan-1、Capan-2、PANC-1))
【
図2A】
図2Aは、膵臓癌組織における免疫組織化学染色(Immunohistochemistry、IHC)結果であり、
図2Bは、乳癌組織におけるIHC結果を示し、図面内のTは、Tumor部位を示す。
【
図3】
図3は、MP1単クローン抗体のウェスタンブロット(western blot)結果を示す。
【
図4】
図4は、LC-MS/MSで分析して同定されたMUC1のアミノ酸配列を示す。
【
図5】
図5は、MUC1抗原に対するMP1単クローン抗体の反応度検定(ELISA)結果を示す。
【
図6】
図6は、MUC1抗原に対するMP1単クローン抗体の反応度検定(IP-Western blot(IB))結果を示す。
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、MP1に反応する膵臓癌細胞株表面の抗原定量結果を示す。
図7Cおよび
図7Dは、circular peptide array方法を用いたMP1単クローン抗体のエピトープマッピング結果を示す。
【
図8】
図8は、MP1ヒト化抗体の膵臓癌細胞結合反応を示し、染色細胞株はCapan-2であり、重鎖および軽鎖抗体遺伝子の組み合わせおよび細胞結合陽性度(%)を記載した。
【
図9】
図9は、LCCタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の構造を示す。
【
図10A】
図10Aおよび
図10Bは、LCCタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の膵臓癌細胞のAsPC1に対して細胞表面結合を示す結果である。
【
図11】
図11は、LCCタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の膵臓癌細胞のCapan-2およびAsPC1に対してcytotoxicityを示す結果である。
【
図12】
図12は、LCNタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の構造を示す。
【
図13】
図13は、LCNタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の膵臓癌細胞のCapan-1に対してcytotoxicityを示す結果である。
【
図14】
図14は、LCNタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の膵臓癌細胞のAsPC1に対してcytotoxicityを示す結果である。
【
図15】
図15は、LCNタイプの抗-MUC1/OKT3抗体の膵臓癌細胞のCapan-2およびAsPC1、胃癌細胞のSNU-601、乳癌細胞のT47Dに対してcytotoxicityを示す結果である。
【
図16】
図16は、膵臓癌細胞のAsPC-1を注射して腫瘍を誘導したNOGマウス動物モデルに抗-MUC1/OKT3抗体を投与して癌細胞の治療効果を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0118】
以下、本発明を以下の実施例によってより具体的に説明する。しかし、これらは本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるわけではない。
【0119】
実施例1.MP1単クローン抗体の発掘
膵臓癌に特異的な新たな抗体を開発するために次のような実験を行い、開発抗体は、膵臓癌だけでなく、乳癌と胃癌においても一部発現し、固形癌特異的抗体でMP1と命名することにした。
【0120】
実施例1-1.MP単クローン抗体作製のためのターゲット部位の設計および選定方法
膵臓癌で発現する特異的な抗原に対する単クローン抗体を開発するために、多様な膵臓癌細胞株AsPC1、BxPC3、Capan-1、Capan-2、PANC-1をマウスに免疫化した後、これに対する単クローン抗体を細胞融合方法で確立した。この後、ハイブリドーマ選別過程で膵臓癌細胞株に陽性でかつ正常膵臓細胞株のH6C7と末梢血液に陰性の抗体を選んで選別した。
【0121】
実施例1-2.ハイブリドーマ製造抗体の選別
膵臓癌特異的単クローン抗体を開発するために、5種の膵臓癌細胞株(AsPC1、BxPC3、Capan-1、Capan-2、PANC-1)を同数で混合して、6週齢のBalb/c雌マウス1匹あたり1×107の数だけマウス腹腔(IP;intraperitoneal cavity)に3週間の間隔で3回注入して免疫化した。前記のように免疫化されたマウスの脾臓を切除して単一細胞浮遊液を得て、RPMI1640で2回程度洗浄した後、0.4%trypan blue(sigma)を1:1(v/v)で混合した後、顕微鏡で染色されない細胞を測定するトリパンブルー(trypan blue)染色法で細胞数を計数した。細胞融合partner細胞としてはX63 mouse myeloma細胞株(ATCC CRL-1580)を用い、前記脾臓細胞と同一に洗浄後、細胞数を計数した。前記骨髄(myeloma)細胞と脾臓細胞とを混合した後、PEG(polyethylene glycol)1500を添加して細胞を融合させた後、細胞を遠心分離した。融合したハイブリドーマ細胞は1xHATが含まれているRPMI(20%FBS、hypoxanthine-aminopterin-thymidine)に懸濁させて96-ウェルプレートに150ul分注した後、37℃5%CO2培養器で培養した。前記融合後、一定期間、HATが含まれている培地で選別過程を進行させ、群落を形成したウェルが観察されると、HT培地に切り替えて37℃5%CO2培養器で48時間培養後、正常膵臓細胞株H6C7と免疫に使用された5種の膵臓癌細胞株AsPC1、BxPC3、Capan-1、Capan-2、PANC-1をそれぞれ次のように蛍光染色を実行し、フローサイトメトリー分析した。準備された細胞にハイブリドーマ培養上澄液を100ulずつ入れて4℃で30分間反応させた後、PBS3mlを入れて1700rpmで3分間遠心分離して、結合しない抗体を水洗し、結合した抗体を確認するために、二次抗体のgoat anti-Mouse Ig-FITC(Jackson ImmunoResearch、USA)を200倍希釈して入れた後、4℃で15分間反応させた後、PBS3mlで前記と同様の方法で水洗した後、フローサイトメトリー測定した。
【0122】
実施例1-3.
末梢血液に対する結合程度を確認するために、PBMC(peripheral blood mononuclear cells、Zenbio)にハイブリドーマ上澄液を100ul入れて4℃で30分間反応させた後、PBS3mlを入れて1700rpmで3分間遠心分離して、結合しない抗体を洗浄し、結合した抗体を確認するために、二次抗体のgoat anti-Mouse Ig-FITC(Jackson ImmunoResearch、USA)を200倍希釈して入れた後、4℃で15分間反応させた後、PBS3mlで前記と同様の方法で洗浄した後、フローサイトメトリー測定してその結果を記載した(
図1)。
図1は、膵臓癌特異的なMP1単クローン抗体の末梢血液と正常膵臓上皮細胞(H6C7)および多様な種類の膵臓癌細胞との反応度検査結果を示す。
【0123】
図1に示されているように、前記方法で多様な膵臓癌細胞株に陽性でかつ正常膵臓上皮細胞のH6C7と末梢血液の顆粒球(granulocytes)とリンパ球(lymphocytes)および単核細胞(monocytes)にすべて陰性の単クローン抗体(以下、MP1と命名する)を選別し、最終的に制限希釈(limiting dilution)により単一コロニーのMP1ハイブリドーマ細胞を確保した。
【0124】
実施例2.多様な細胞株における抗体発現分析
実施例2-1.多様な細胞株における抗体発現
KCLB(Korean Cell Line Bank)とATCC(American Type Culture Collection)により確保した多様な癌細胞株におけるMP1単クローン抗体の結合の有無をフローサイトメトリー(flow cytometry)で確認した。具体的には、癌細胞株は、KCLB(Korean Cell Line Bank)とATCC(American Type Culture Collection)で提示された培養培地と方法により、10%heat inactivated FBSが添加されたRPMI1640培地あるいはDMEM培地を用いて、37℃で5%CO2状態の培養器を用いて培養した。また、ヒト膵臓上皮細胞株のH6C7はkerafast社から購入して、Keratinocyte SFM(Invitrogen Cat#:17005042)を用いて、37℃で5%CO2状態の培養器を用いて培養した。
【0125】
前記培養された多様な癌細胞に本発明のMP1単クローン抗体をそれぞれ入れて4℃で30分間反応させた後、PBSで水洗し、FITC-conjugated goat anti mouse IgG(Jackson ImmunoResearch、USA)を入れて4℃で15分間培養した。再びPBSで水洗した後、FACS caliber(Becton Dickinson、USA)で分析して、多様な固形癌細胞株におけるMP1抗体の反応度を確認した(表9)。
【0126】
下記表9と表10に記載しているように、MP1単クローン抗体は、膵臓癌および胃癌、乳癌、肺癌細胞株の一部と皮膚癌、前立腺癌細胞株では高く結合するのに対し、正常膵臓上皮細胞株のH6C7を含むT細胞、B細胞および脳癌、胆道癌、大腸癌細胞株では結合しなかったり、結合が弱く現れることを確認した。PBMCは正常血液細胞には陰性であることを示したものである。
【0127】
MP1は、多様な膵臓癌細胞で陽性反応を示し、正常膵臓上皮細胞には陰性反応を示して、膵臓癌治療剤として使用できることを示す。
【表9-1】
【0128】
【0129】
【0130】
実施例2-2.IHC(Immunohistochemistry)分析
人体の膵臓癌および乳癌組織においてMP1単クローン抗体の結合抗原分布を免疫組織化学染色(Immunohistochemistry、IHC)法で確認した。人体の膵臓癌および乳癌組織は韓国の忠北(チュンブク)大学病院から得ており、忠北大学病院病理課でパラフィン切片を作製した。
【0131】
染色しようとする人体の乳癌組織を通常の方法でホルマリン固定後、パラフィン包埋してマイクロarray切片を作製した。その後、スライド上に載せて、染色読取用の単一組織スライドを作製した。次に、MP1抗体を用いて、次のような方法で免疫組織化学染色を行った。キシレン(Xylene)を10分ずつ3回処理し、エタノールを100%、80%、50%の順に処理し、最後に蒸留水で洗浄することによって脱パラフィン過程を進行させた。1XTBSで洗浄後、10mM Citric acid(pH6.0)抗原再生溶液にスライドを入れて20分間電子レンジで抗原再生した。水道水を用いて徐々にスライド温度を下げ、1XTBSに10分間保管した。一次抗体としてマウスMP1抗体を組織に処理して常温1時間反応後、1XTBSで3回洗浄し、二次抗体として抗マウス抗体-HRP接合体を常温で30分間反応させた。1XTBSで3回洗浄し、DAB発色を1分30秒間行い、1XTBSで3回洗浄し、Counter stainingを45秒間行い、流れる水道水にスライドを入れて10分間洗浄した。脱水過程は脱パラフィン過程の逆順に進行させ、封入して、顕微鏡読取または写真撮影をした。
【0132】
図2Aおよび
図2Bに示すように、MP1単クローン抗体が認知する抗原は正常組織には分布しておらず、癌組織特異的に発現することを確認した。
【0133】
実施例3.MP1単クローン抗体に対する抗原分析
実施例3-1.MP1単クローン抗体の抗原サイズの確認
本発明のMP1単クローン抗体が認知する抗原のタンパク質サイズを調べるために、ウェスタンブロット(western blot)を実行した。MP1に対する抗原発現の高い膵臓癌細胞株Capan-2にprotease inhibitor cocktail(Sigma、Cat.#:1136170001)が含まれている細胞溶解溶液(NP40 cell lysis buffer、Thermo Fisher Scientific)に溶解(lysis)させた後、8%SDS polyacrylamide gelに電気泳動させて、Immobilon-P membrane(Millipore Corporation、Billerica、MA、USA)にtransferした。以後、精製されたMP1単クローン抗体をmembraneに処理した後、ECL system(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)で発色させてバンドを確認した(
図3)。
図3から確認できるように、測定結果、MP1単クローン抗体が認知する抗原のサイズは約300kDa近傍と確認された。
【0134】
実施例3-2.MP1単クローン抗原の分離分析
本発明のMP1単クローン抗体が認知する抗原を同定するために、免疫沈降法(Immunoprecipitation)を行った。まず、MP1単クローン抗体に対する反応性の高い細胞株のCapan-2細胞株を1×10
7cells/mlで細胞溶解溶液(NP40 cell lysis buffer、Thermo Fisher Scientific)に溶解(lysis)させた後、遠心分離により細胞残存物を除去し、上澄液を集めて、MP1抗体が認知する抗原分離材料として使用した。タンパク質-Gセファロース(Protein-G Sepharose)にMP1単クローン抗体を入れて4℃で4時間混合後、1XPBSに2回洗浄した後、予め作っておいたCapan-2ライセート(lysate)を入れて4℃で4時間混合後、1XPBSで2回洗浄した。これから得られた免疫複合体(immune complex)をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-polyacrylamide gel electrophoresis)を行った後、gelをCoomassie Brilliant Blue G-250染色後、300kDa近傍のMP1に対する抗原と推定されるbandを切断して、LC-MS/MS分析をProteomeTechに同定依頼した。同定はLC-MS/MSで分析して得られた結果をMASCOTでプロセシングした。このような一連の分析で得られたprotein hit100種を細胞表面に発現しながら、300kDa近傍のタンパク質サイズを有する抗原に分析範囲を限定して選別した結果、MUC1をMP1単クローン抗体に対する抗原として選定することができた(
図4)。MP1から分離されたペプチド配列はQGGFLGLSNIK(配列番号107)である。
【0135】
実施例3-3.ELISAによるMP1単クローン抗体の抗原同定結果の検証
LC-MS/MSで得られた抗原同定結果を検証するために、組換えタンパク質MUC1(Sino Biological、Cat.#:12123-HCCH)に対するMUC1単クローン抗体の反応性をELISAおよびWestern blotting assayで確認した。
【0136】
Maxisorp ELISA plateにwellあたりの組換えタンパク質MUC1を100ng入れて37℃で1時間反応させて抗原をコーティングした後、1xblocking溶液(sigma)をwellあたり200ul入れて37℃で1時間反応させてブロッキングした。前記準備されたプレートにMP1単クローン抗体および対照群抗体、PBS100ulをそれぞれ入れた後、37℃で1時間反応させ、PBSで水洗して、結合しない抗体は除去した。以後、Goat anti-Mouse IgG-HRP(Jackson ImmunoResearch、USA)を希釈して入れて30分間反応させた後、PBSで水洗した後、TMB溶液をwellあたり50ulずつ入れて10分間反応させた後、硫酸50ulを入れて反応を中止させ、450nmで吸光度を測定した。組換えタンパク質MUC1に対して、MP1単クローン抗体は
図5のように反応性を示した。
図5は、MP1単クローン抗体に対する抗原がMUC1であることをELISAで検証した結果である。
【0137】
実施例3-4.IPおよびIBによるMP1単クローン抗体の抗原同定結果の検証
前記実験において、MP1単クローン抗体がMUC1を抗原として認知することをウェスタンブロット(western blot)でもう一度検定した。実施例3-2に記述したものと同様に、多様な膵臓癌細胞株BXPC3、Capan-1、Capan-2、PANC1溶解液を準備し、タンパク質-Gセファロース(Protein-G Sepharose)に商用化されたMUC1抗体(BioXCell、Cat.#C595(NCRC48))とMP1単クローン抗体をそれぞれ4℃で4時間混合後、1XPBSで2回洗浄した後、予め作っておいたライセート(lysate)を入れて4℃で4時間混合後、1XPBSで2回洗浄した。これから得られた免疫複合体(immune complex)を10分間沸かした後、8%SDS polyacrylamide gelに電気泳動させて、Immobilon P membrane(Millipore Corporation、Billerica、MA、USA)にtransferした。以後、精製されたMP1単クローン抗体をmembraneに処理した後、ECL system(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)で発色させてバンドを確認した。商用化されたMUC1抗体と膵臓癌細胞株とを反応させた免疫複合体(immune complex)をMP1抗体でwestern blottingをした結果、Capan-2ライセート単独およびMP1と膵臓癌細胞株ライセートとの免疫複合体(immune complex)サンプルと同一の300kDaの位置でバンドを確認することができた。
図6は、MP1単クローン抗体に対する抗原がMUC1であることをウェスタンブロット(western blot)で検証した結果である。
【0138】
実施例4.細胞表面抗原の定量化
膵臓癌細胞表面上のMP1単クローン抗体に結合する抗原の発現レベルは、細胞表面抗原を測定するための定量的流動細胞測定法キットのQIFIKIT(Dako、Cat.#:K0078)を用いて測定した。算定グラフによるBeadの平均蛍光強度(MFI)の比較で細胞株の抗体結合能力(ABC、Antibody Binding affinity)を計算することができる。
図7Aは、MP1単クローン抗体をQIFIKITを用いて多様な膵臓癌細胞株(AsPC1、BxPC3、Capan-1、Capan-2、PANC1)の細胞表面上で検出されたMP1に反応する抗原の発現レベルを示す結果である。
【0139】
実施例5.エピトープマッピング(epitope mapping)
次に、エピトープマッピングに使用したMUC-1抗原の一部の配列(アミノ酸895~1264番目のアミノ酸配列である)である(表11)。抗原同定検証に使用した組換えMUC-1抗原のアミノ酸配列を含む部位を選定して、circular peptide arrayによりエピトープマッピングを進行させた。
【0140】
図7Bから確認できるように、MP1抗体は、PAHGVTS配列を含むペプチドに用量依存的に結合し、よって、MP1の抗原結合部位つまり、エピトープはPAHGVTS(配列番号109)と確認された。
【表11】
【0141】
実施例6.MP1抗体可変領域の配列およびアイソタイプ(isotype)分析
実施例6-1.アイソタイプ(isotype)の決定
実施例1で製造されたMP1単クローン抗体のアイソタイプを決定するために、mouse immunoglobulin isotyping ELISA kit(BD Biosciences、USA)で分析した。その結果、MP1単クローン抗体はmouse IgG2a/kappa light chainと確認された。
【0142】
実施例6-2.MP1抗体可変領域配列分析
MP1抗体遺伝子はMouse Ig-Primer Set(Merck Millipore、Cat.#:69831)を用いてクローニングした。MP1ハイブリドーマから分離したRNAからMouse Ig-Primer Setを用いてPCRを行い、これをpGEM-Tベクター(Promega、Cat.#:A3600)に挿入した後、シーケンシングによりDNA塩基配列を確認し、IMGT site(www.imgt.org)を通してマウス抗体遺伝子を確認した。表12は、分析されたMP1抗体の重鎖および軽鎖可変領域における配列を示す。下記記載のアミノ酸配列において太字の下線部分は相補性決定部位を示す。下記表12中、配列位置はKabat numbering systemの基準によって作成したものである。
【表12】
【0143】
実施例7.MP1ヒト化抗体(humanized antibody)の開発
二重抗体を製造するに先立ち、マウス起源の抗体の人体投与時、ヒト抗-マウス抗体(human anti-mouse antibody;HAMA)反応によって現れる免疫原性を減少させ、Druggabilityの高い抗体を確保するために、MP1可変領域(variable region)と残りの部分をヒトのFcに代替したヒト化抗体を作製した。選別したヒト化抗体は、抗原特異性および親和度が本来のマウス由来MP1抗体と類似していることを確認した。
【0144】
実施例7.1 In silico Humanizationによる組換え抗体の配列選定
マウス抗体MP1(重鎖アミノ酸配列:SEQ ID NO77;軽鎖アミノ酸配列:SEQ ID NO:87)の重鎖および軽鎖それぞれのCDR部位配列は、VH-CDR1:SEQ ID NO:2(DYWMN);VH-CDR2:SEQ ID NO:8(QIRNKPYNYETYYSNSVKG);VH-CDR3:SEQ ID NO:17(AMITSDGYAMDY);VL-CDR1:SEQ ID NO:20(KSSQSLLLSSNQKNYLA);VL-CDR2:SEQ ID NO:28(WASTRES);VL-CDR3:SEQ ID NO:34(QQCFSYPLT)である。マウス抗体MP1の重鎖と軽鎖アミノ酸配列を最大限に類似に維持しながら、抗原結合力が同等であったり優れたヒト化抗体を、ヒト抗体遺伝子をコードしているgermlineの配列に基づいてFramework regionに対する配列部位をin silico方法で組換え選別した。マウス抗体MP1の重鎖、軽鎖それぞれの配列と最も類似性が高くて、ヒト化組換え抗体配列のbackboneとして用いたヒト抗体Germline遺伝子は下記表13の通りである。
【0145】
前記選別されたヒト化抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を下記表14に示した。下記記載のアミノ酸配列において太字の下線部分は相補性決定部位を示す。
【表13】
【0146】
【0147】
【0148】
実施例7.2ヒト化組換え抗体の発現および分析
前記表14の重鎖9種(VH1~VH9を含む)と軽鎖9種(VL1~VL9を含む)の発現遺伝子に相当するアミノ酸配列をcodon-optimizationしてDNA配列を合成し、合成したDNAを用いて、ヒトFc部位遺伝子(重鎖はヒトIgG1 Fc遺伝子、軽鎖はヒトIg kappa constant遺伝子)にoverlap PCRで連結させて、ExpiCHO-S Expression system kit(Gibco、USA)に含まれているpcDNA3.4 vectorにクローニングした。作製されたヒト化MP1抗体の軽鎖および重鎖発現プラスミドを、ExpiCHO-S expression system kit(Invitrogen/Life technologies)を用いて、ExpiCHO-S細胞株にtransfectionさせて、48ウェルスケールで一時発現生産した。
【0149】
発現したヒト化抗体培養液を用いて、1)膵臓癌細胞株Capan-2に染色して細胞表面の結合の有無を、2)抗-human Ig抗体sandwich ELISAによりヒト化抗体の発現の有無を確認した。全体81種の重鎖、軽鎖の組み合わせ(つまり、表14に記載された9種の重鎖可変領域から選択されたいずれか1つの重鎖可変領域を含む重鎖、および表14に記載された9種の軽鎖可変領域から選択されたいずれか1つの軽鎖可変領域を含む軽鎖を含む抗体の組み合わせ)の中から、元のマウス抗体またはキメラ抗体の細胞表面結合と類似のパターンの結合を示すヒト化抗体の組み合わせを確認することができ、一時発現させたヒト化抗体の発現程度を確認したsandwich ELISA結果に基づいて全般的に抗体発現したことを確認することができた(表15)。
【表15】
【0150】
前記表15中、細胞表面結合(%)は、陰性対照群に比べて細胞表面に抗体が結合した陽性率を%で表したものであり、expression(sandwich ELISA)はsandwich ELISAの450nm OD valueである。
【0151】
前記表15に作製した81種の抗体のうちCapan-2の細胞表面結合(%)が高い20個の抗体を示した。表12から確認できるように、VH8/VL3(重鎖8番/軽鎖3番の組み合わせの抗体;つまり、表14の重鎖可変領域VH8を含む重鎖、および表14の軽鎖可変領域VL3を含む軽鎖を含む抗体;以下、同一である)、VH1/VL5、VH4/VL4、VH4/VL5、VH1/VL4、VH8/VL4、VH1/VL2、VH7/VL4、VH7/VL3、VH8/VL2、VH4/VL8、およびVH4/VL7抗体がCapan-2の細胞表面結合に優れていた。
【0152】
一次の一時発現において陽性度の高いヒト化抗体の重鎖および軽鎖の組み合わせの抗体遺伝子を48ウェルから6ウェルスケールに拡張して一時発現を再び実行した後、発現した抗体はCapan-2膵臓癌細胞株との結合力を再確認した(
図8)。
【0153】
図8のように、VH1/VL5、VH4/VL4、VH4/VL5、VH1/VL4、VH1/VL2、およびVH7/VL4抗体がCapan-2の細胞表面結合に優れていた。
【0154】
実施例8.in vitro efficacy:T-cell engaging bispecific Ab/format optimization
実施例8-1.ヒト化MP1抗体を用いたT cell engaging二重抗体の発現
多様な二重抗体形態のうちT細胞活性および高い抗癌機能を示し、同時に、Fc部位を保有して半減期が元の抗体に近く維持されるtetravalent bispecific antibodyを発現させた。T細胞活性のための抗-CD3抗体は、T細胞活性を示すOKT3抗体のヒト化抗体可変領域を用いた。ヒト化OKT3抗体の配列はUS20090202532A1特許から引用して用い、下記表13中の配列番号103、配列番号105および配列番号106に相当する配列である。配列番号103は、ヒト化OKT3抗体の重鎖可変領域アミノ酸配列であり、配列番号104は、ヒト化OKT3抗体の軽鎖可変領域アミノ酸配列であり、配列番号105は、ヒト化OKT3抗体のscFv抗体のアミノ酸配列を示す。ヒト化OKT3抗体は、重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列の間に[GGGS]n=5linkerで連結されたsingle chain Fv(scFv)で構成し、ヒト化MP1抗体の軽鎖N末端(LCN version)またはC末端(LCC version)に[GGGS]n=3linkerで連結されるようにした。
【0155】
ヒト化OKT3 scFvは、interdomain disulfide結合を誘導してstabilityを高めるために、重鎖可変領域の44番目グリシン(glycine)と軽鎖可変領域の100番目グリシン(glycine)をシステイン(cysteine)に切り替えた(Protein Engineering、Design&Selection vol.25no.7pp.321-329、2012)。
【0156】
二重抗体として発現させるために、ヒト化MP1重鎖遺伝子(前記表11中、VH1~VH9のいずれか1つの重鎖を暗号化する遺伝子)plasmidとLCNまたはLCCタイプのヒト化MP1軽鎖-OKT3scFv遺伝子(前記表11中、VL4またはVL5の軽鎖相補性決定部位を含む軽鎖配列を暗号化する遺伝子-OKT3scFv遺伝子)plasmidを1:1.7の比率でExpiCHO-S細胞にtransfectionした。7日または10日経過後、transfectionさせた二重抗体培養液を用いて抗体発現(抗human Igを用いたsandwich ELISA)、細胞株結合(細胞表面染色およびFlow cytometer分析)、Cytotoxicity assayを行い、活性が確認された二重抗体培養液はProtein A affinity chromatography方法で精製した。
【0157】
前記のように作製した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の配列(抗-MUC1抗体の軽鎖配列および抗-CD3抗体のscFv配列)を下記表13に示した。抗-CD3抗体(OKT3 scFv)が抗-MUC1抗体の軽鎖のC末端に結合した形態をLCC、軽鎖のN末端に結合した形態をLCNと表記した。
【0158】
下記表16中、LCCタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体として(
図9参照)、LCC version humanized MP1 Light chain #4-OKT3scFvは、表14の軽鎖4番(VL4)の軽鎖可変領域(配列番号91)を含む軽鎖配列(配列番号110)のC末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の軽鎖配列(配列番号112)を示す。LCC version humanized MP1 Light chain #5-OKT3scFvは、表14の軽鎖5番(VL5)の軽鎖可変領域(配列番号92)を含む軽鎖配列(配列番号111)のC末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の軽鎖配列(配列番号113)を示す。
【0159】
下記表16中、LCNタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体として(
図12参照)、LCN version humanized MP1 Light chain #4-OKT3scFvは、表14の軽鎖4番(VL4)の軽鎖可変領域(配列番号91)を含む軽鎖配列(配列番号110)のN末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の軽鎖配列(配列番号114)を示す。LCN version humanized MP1 Light chain #4-OKT3scFvは、表14の軽鎖5番(VL5)の軽鎖可変領域(配列番号92)を含む軽鎖配列(配列番号111)のC末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の軽鎖配列(配列番号115)を示す。
【0160】
前記4種の抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の軽鎖配列において抗-MUC1抗体の軽鎖とヒト化OKT3 scFv抗体との間は[GGGS]n=3linkerで連結した。抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の重鎖は、表14の重鎖1番~重鎖9番(VH1~VH9)の重鎖可変領域(配列番号78~配列番号86)を含む重鎖配列を使用した。
【表16-1】
【0161】
【0162】
実施例8-2.LCCタイプのヒト化MP1二重抗体の機能分析
実施例8-1で製造したLCCタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体に対して、MUC1抗原に対して陽性のAsPC1膵臓癌の細胞表面結合力と細胞毒性分析(Cytotoxicity assay)を行った。前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体がタンパク質レベルで発現することを、抗human Ig/抗human Ig-HRPを用いたSandwich ELISAで確認し(表17)、これらの二重抗体はMUC1抗原陽性の膵臓癌細胞のAsPC1に結合することを、細胞表面染色およびフローサイトメーターにより確認した(
図10)。
【0163】
対照群としては、抗-mesothelin/OKTscFvヒト化二重抗体(MSTN-OKT3)を使用した。前記MSTN-OKT3は、国際公開公報(WO2012/087962)に記載されたh7D9.v3抗体の配列を用いて、前記h7D9.v3抗体の軽鎖のC末端にヒト化OKT3 scFv配列(配列番号106)が結合したLCCタイプの二重特異抗体である。
【表17】
【0164】
前記表17中、expression(sandwich ELISA)は、sandwich ELISAの450nm OD valueであり、一例において、抗体「VH1/VL5」は、表14の重鎖1番(VH1)の重鎖可変領域(配列番号78)を含む重鎖、および表14の軽鎖5番(VL5)の軽鎖可変領域(配列番号92)のC末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した軽鎖(配列番号113)を含む抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を意味する。
【0165】
前記表17で抗体が発現したにもかかわらず、
図10でフローサイトメーターで陰性を示すのは、ヒト化抗体の組み合わせ過程で元の抗体の親和力(affinity)を消失したからである。また、
図10から確認できるように、二重特異抗体の組み合わせのうち軽鎖4番-OKT3 scFv抗体と一緒に発現させた二重特異抗体の組み合わせ(つまり、表14の重鎖1番~重鎖9番のいずれか1つの重鎖可変領域と軽鎖4番の軽鎖可変領域のC末端にヒト化OKT3 scFv抗体が結合した軽鎖を含む二重特異抗体)はすべて細胞表面結合が現れたが、軽鎖5番-OKT3 scFv抗体と一緒に発現させた二重特異抗体の組み合わせは、重鎖1番/軽鎖5番、重鎖2番/軽鎖5番、重鎖7番/軽鎖5番の組み合わせだけが細胞表面結合が現れた。
【0166】
発現させた二重特異抗体は、ターゲット細胞としてCapan-2とAsPC-1細胞株を、エフェクター細胞(effector cell)としてヒトT細胞を用いてCytotoxicity assayを行った。ターゲット細胞とエフェクター細胞との比率は1:10とし、二重抗体の投入量は1ug/mlと同一にした。48時間後、ターゲット細胞の死滅の有無はEZ-Cytox(DogenBio、Cat.#:EZ-1000)を用いて測定し、次のような公式で%Cytotoxicityを計算し、これを
図11に示した。
【0167】
%Cytotoxicity=(1-(抗体投与ウェルの測定値/ターゲットおよび効能細胞ウェルの測定値))X100
【0168】
図11から確認できるように、実施例8-2で製造したLCCタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、対照群抗体(MSTN-OKT3)より効果が低く、Cytotoxicityが30%未満と効果がよく見られなかった。
【0169】
実施例8-3.LCNタイプのヒト化MP1二重抗体の機能分析(1)
実施例8-1で製造したLCNタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体に対して、MUC1抗原に対して陽性のCapan-1、AsPC1膵臓癌の細胞表面結合力と細胞毒性分析(Cytotoxicity assay)を行った。
【0170】
前記表16のように発現させたLCNタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体がタンパク質レベルで発現することを、抗human Ig/抗human Ig-HRPを用いたSandwich ELISAで確認し、これらの二重特異抗体はMUC1抗原陽性の膵臓癌細胞のCapan-1、AsPC1に結合することを、細胞表面染色およびフローサイトメーターにより確認した。
【0171】
このような結果を
図13および
図14に示した。対照群としては、表12のマウスMUC1抗体の重鎖可変領域(配列番号77)を含む重鎖、および表14の軽鎖4番(VL4)の軽鎖可変領域(配列番号91)を含む軽鎖配列(配列番号110)のN末端にヒト化OKT3 scFv抗体が結合した軽鎖を含む抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体(chi/4)を使用した。
【0172】
図13および
図14に示されているように、重鎖1番/軽鎖4番(「1/4」、つまり、表14の重鎖1番(VH1)の重鎖可変領域(配列番号78)を含む重鎖、および表14の軽鎖4番(VL4)の軽鎖可変領域(配列番号91)のN末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した軽鎖(配列番号114)を含む抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体;以下、同一である。)、重鎖4番/軽鎖4番(「4/4」)、重鎖7番/軽鎖4番(「7/4」)の組み合わせの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体が、対照群と比較して癌細胞に対する毒性効果に優れていることを確認した。
【0173】
このような結果は、LCCタイプの二重特異抗体(実施例8-2)よりLCNタイプの二重特異抗体(実施例8-3)がCytotoxicityを示すのに容易な癌細胞とT細胞との間の微細距離をより近く維持して結合することができ、これによってより高いCytotoxicityを示すことができることを示す。
【0174】
実施例8-4.LCNタイプのヒト化MP1二重抗体の機能分析(2)
実施例8-1で製造したLCNタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体に対して、MUC1抗原に対して陽性のAsPC-1およびCapan-2(膵臓癌細胞株)、SNU-601(胃癌細胞株)、T47D(乳癌細胞株)細胞株に対してCytotoxicity assayを行って、in vitro細胞毒性効果を確認し、その結果を
図15に示した。
【0175】
抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体としては、ヒト化比率がより高い重鎖1番/軽鎖5番の組み合わせの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体、つまり、表14の重鎖1番(VH1)の重鎖可変領域(配列番号78)を含む重鎖、および表14の軽鎖5番(VL5)の軽鎖可変領域(配列番号92)のN末端にヒト化OKT3 scFv抗体(配列番号106)が結合した軽鎖(配列番号115)を含む抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を使用した。
【0176】
図15に示されているように、投与したLCNタイプの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の濃度に比例して、癌細胞に対する細胞毒性効果を示すことを確認した。
【0177】
実施例9.膵臓癌マウス実験モデルを用いたヒト化二重抗体の治療効果評価
抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体のin vivo免疫抗癌効果を確認するために、人体由来の膵臓癌細胞株のAsPC-1を移植したNOGマウス動物モデルを対象に抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体の投与による腫瘍の大きさ減少の有無を評価した。前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体は、実施例8-4で用いた抗体と同一の抗体を使用した(LCNタイプの重鎖1番/軽鎖5番の組み合わせの抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体)。
【0178】
マウスモデルの準備
マウスは、実質的なヒト免疫細胞による抗体の抗癌効果を評価するために、T細胞、B細胞、NK細胞および大食細胞、樹状細胞の機能が欠乏しているNOGマウス(NOD/Shi-scid、IL-2RγKO mice、KOATECH)を使用した。5×106個の膵臓癌細胞株AsPC-1を8週齢のNOGマウス横腹に皮下注射(I.P.、intraperitoneal injection)し、1-2週経過後に、100~150mm3の腫瘍の体積が形成されたマウスを、各グループあたり5匹ずつを選別して実験に使用した。
【0179】
Human PBMCの準備
Zenbio社から購入したHuman Cryopreserved Peripheral Blood Mononuclear Cell(PBMC)は、抗体注入10日前に10%FBSが含まれているRPMI1640(GeneDireX、Cat#:CC112-0500)で解凍後、1日目にIFN-r(jwクレアジェン、Cat#:HIFNG-100)250ng/ml処理し、2日目にIL-2(jwクレアジェン、JW-H031-0100)30ng/ml、OKT3抗体(Miltenyi Biotec、Cat#:130-093-387)50ng/mlを添加した後、5日間放置した。その後、培養6日目から培養16日目までIL-2 30ng/ml、IFN-r50ng/mlを、10%FBSが添加されたRPMI1640培地で培養してPBMCの数を拡張させた。
【0180】
ヒト化MP1二重抗体の抗癌効能評価
腫瘍が形成されたNOGマウスは6グループに分けて、0日目に1グループはPBS200μlを腹腔(intraperitoneal)に注入し、5グループのマウスは1匹あたり5×106細胞数のPBMCを腹腔に注入した(つまり、1XPBSで5×106cells/0.2mLとなるように懸濁液を調製して腹腔に注入した)。この後、4グループのマウスに前記抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体をそれぞれ1mg/kg、3mg/kgでPBMC注入後、3、7、10、14日目に計4回静脈内注射(I.V.、intravenous injection)した後、皮下注入した癌細胞の大きさを観察および測定した。
【0181】
図16は、抗-MUC1/抗-CD3二重特異抗体を用いたヒトPBMCを注入したヒト化条件のマウス膵臓癌動物モデルにおけるin vivo抗癌効能を示す結果である。PBMCのみ投与群(Control-PBMC)に比べて抗体投与群(MP1-1mg/kgおよびMP1-3mg/kg)の高い抗癌効果(Tumor growth inhibition;TGI)を示した。
【0182】
以上の説明から、本発明の属する技術分野における当業者は本発明がその技術的思想や必須的特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。これに関連して、以上に述べた実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。本発明の範囲は上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【配列表】
【国際調査報告】