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特表2025-502470電離放射線による代謝活性化による増加した脂質生産
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】電離放射線による代謝活性化による増加した脂質生産
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20250117BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20250117BHJP
   C12P 7/6431 20220101ALI20250117BHJP
   C12P 7/6427 20220101ALI20250117BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12P7/64
C12P7/6431
C12P7/6427
C12M1/00 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543413
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-18
(86)【国際出願番号】 US2023060954
(87)【国際公開番号】W WO2023141544
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】63/301,789
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524274185
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・ベオグラード-インスティテュート・フォー・マルチディシプリナリー・リサーチ
【氏名又は名称原語表記】University of Belgrade - Institute for Multidisciplinary Research
(71)【出願人】
【識別番号】514239372
【氏名又は名称】ベイラー ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】505395858
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
(71)【出願人】
【識別番号】524274196
【氏名又は名称】バリコン・アクア・ソリューションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Varicon Aqua Solutions Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】スパソイェヴィッチ,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ツェヒマン,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ピットマン,ジョン ケイ
(72)【発明者】
【氏名】リズル,アレッサンドロ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】スタニッチ,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】イェフトヴィッチ,ミマ
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリイェヴィッチ,ミレナ
(72)【発明者】
【氏名】ルコヴィッチ,イェレナ ダニロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォイヴォディッチ,スネジャナ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029DF10
4B029DG10
4B064AD85
4B064AD88
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BC50
4B065CA13
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA49
4B065CA50
4B065CA60
(57)【要約】
通常条件下で維持された場合の未処理の培養物または生物と比較して、細胞および保存された代謝経路を有する他の生物の微細藻類培養物の脂質、バイオマス、および代謝産物の収量を増加させる方法およびシステムが提供される。該方法は、生物細胞における迅速かつ再現可能なホルミシス代謝活性化を誘導するために電磁イオン化放射線を照射することを含む。一実施形態において、照射は微細藻類の成長の指数期または定常期に適用することができる。ホルミシス効果は、脂質の生合成に関与する酵素をコードする脂質代謝遺伝子の発現の上方制御を含み、脂質の形でのエネルギー貯蔵の蓄積および/または他の代謝産物の蓄積を伴う。該方法は、既存の微細藻類培養プラットフォーム、標準的な微細藻類培養条件、標準的な微細藻類培養タイプとインターフェースでき、同様に増殖基質に保存された代謝経路を有する生物ともインターフェースできるシステムにおいて実装できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射による生物の代謝活性化方法であって、
生物にホルミシスを生じさせるX線およびガンマ線のうちの少なくとも1つを照射すること、ここに、該生物は、微細藻類株および保存された代謝経路を有する生物のうちの少なくとも1つである;および
該生物を代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の同じ種の未処理生物と比較して、より高い脂質収量、より高いバイオマス収量、およびより高い代謝産物収量のうちの少なくとも1つのホルミシス効果を生じること
を含む、方法。
【請求項2】
ホルミシス効果が、培養微細藻類細胞内で生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホルミシス効果が、バイオマス収量に対する対照と比較してバイオマス収量の有意な減少なしに生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
培養物が、照射時に特定の微細藻類細胞の株の培養のための通常条件にさらされ、および培養物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
培養物が、照射時に増殖の定常期にある、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
照射が、生物からのより高い脂質収量のホルミシス効果を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
培養物が、照射時に特定の微細藻類株の株の培養のための通常条件にさらされ、および培養物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
生物が、
珪藻類(珪藻)、緑藻類(緑藻)、シアノバクテリア(藍藻)、ハプト藻類(主に円石を含む海藻)、褐藻類(褐藻)、パイロ藻類(渦鞭毛藻)、紅藻類(紅藻)を含む、淡水藻類および海藻類を含む微細藻類株;および
ビギラ(トラウストキトリドを含む)、ストレプト藻類(コケ類を含む植物)、子嚢菌類(酵母を含む菌類)、担子菌類(キノコを含む菌類)、細菌、および古細菌を含む、脂質収量に関連する微細藻類株のような保存された代謝経路を有する生物
の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
生物が、照射時に培養のために推奨される通常条件にさらされ;および
生物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
ホルミシス効果が、微細藻類および脂質収量に関連する保存された代謝経路を有する生物における脂質の生合成に関与する酵素をコードする脂質代謝遺伝子の発現の上方制御を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
脂質代謝遺伝子が、脂肪滴中の脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生成のための脂質代謝遺伝子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生物が、
珪藻類(珪藻)、緑藻類(緑藻)、シアノバクテリア(藍藻)、ハプト藻類(主に円石を含む海藻)、褐藻類(褐藻)、渦鞭毛藻類(渦鞭毛藻)、紅藻類(紅藻)を含む、淡水藻類および海藻類を含む微細藻類株;および
ビギラ(トラウストキトリドを含む)、ストレプト藻類(コケ類を含む植物)、子嚢菌類(酵母を含む菌類)、担子菌類(キノコを含む菌類)、細菌、および古細菌を含む、脂質収量に関連する微細藻類株のような保存された代謝経路を有する生物
の少なくとも1つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
生物が、照射時に培養のために推奨される通常条件にさらされ;および
生物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
生物が、照射時に指数増殖期にある、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
培養物が、照射時に特定の微細藻類細胞の株の培養のために推奨される通常条件にさらされ、および培養物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
照射が、より高いバイオマス収量のホルミシス効果を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
代謝産物収量が、オメガ3脂肪酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
オメガ3脂肪酸が、アルファ-リノール酸を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のうち少なくとも1つの培養物の性能を照射によって向上させるシステムであって、
レースウェイ池、光バイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、バブルカラムバイオリアクター、発酵バイオリアクター、およびバイオフィルムリアクターのうち少なくとも1つを含む、培養プラットフォーム;
該培養プラットフォームに結合された、X線およびガンマ線のうち少なくとも1つの線源を有する照射システム;および
該線源の活性化を制御して、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つを培養の所定の期で、一定期間および線量率で照射し、かつ、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つを代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つの同じ株の未処理培養物と比較して、培養物のより高い脂質収量、より高いバイオマス収量、およびより高い代謝産物収量の少なくとも1つのホルミシス効果を生じるように構成されたコントローラー
を含む、システム。
【請求項20】
微細藻類細胞および微細藻類培養プラットフォームの少なくとも1つのパラメーターを決定し、かつ、コントローラーに信号を提供して照射システムの活性化を制御するように構成されたセンサーをさらに含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
培養物が、照射時に特定の微細藻類細胞の株の培養のために推奨される通常条件にさらされ;および
培養物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される
請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
保存された代謝経路を有する生物の性能を照射によって向上させるシステムであって、
該生物の増殖基質;
該生物に操作上近接するX線またはガンマ線のうち少なくとも1つの線源を有する照射システム;および
該照射システムの活性化を制御して、一定期間および線量率で該生物を照射し、かつ、該生物を代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の同じ種の未処理生物と比較して、より高い脂質収量、より高いバイオマス収量、およびより高い代謝産物収量の少なくとも1つのホルミシス効果を生じるように構成されたコントローラー
を含む、システム。
【請求項23】
培養物が、照射時に生物の培養のために推奨される通常条件にさらされ;および
生物が、照射後に収穫までの一定期間、該通常条件下で維持される、
請求項22に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2022年1月21日に出願された「Increased Lipid Production In Microalgae Through Ionizing Radiation」と題する米国仮出願番号63/301,789の利益を主張するものであり、この出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府が後援する研究または開発に関する声明
【0003】
該当なし。
【0004】
付録への参照
【0005】
該当なし。
【背景技術】
【0006】
発明の分野
本開示は、一般に、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の性能を向上させるための新規なホルミシスプロセスに関する。より具体的には、本開示は、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の性能を向上させるためのホルミシスプロセスに関するものであり、ホルミシスに有益な電離放射線量により脂質収量、バイオマス収量、および/または代謝産物収量を増加させる。
【0007】
関連技術の説明
【0008】
微細藻類および保存された代謝経路を有する多くの生物は、バイオ燃料、飼料、栄養、化粧品および医薬品、ならびに他のさまざまな製品に適用される脂質、バイオマス、および代謝産物の商業生産に利用されている。増殖率、脂質収量、および代謝産物収量は、微細藻類の養殖の経済的性能に最も大きな影響を与えるパラメーターであり、保存された代謝経路を有する生物内および関連するバイオテクノロジー分野内でも重要である。多くの場合、バイオ製品、バイオ燃料、バイオマス生産の商業的実現可能性に到達するには、これらのパラメーターを改善する必要がある。これらのパラメーターの性能を向上させるために、さまざまなプロセスが使用されてきた。しかしながら、既存のプロセスでは、これらのパラメーターの1つを改善するために、もう1つが犠牲になることがよくある。たとえば、微細藻類内で脂質生産性を高めるための既存の培養プロセスでは、栄養素(通常は窒素またはリン、「栄養飢餓」)を制限して細胞に脂質生産モードのストレスを与え、全体的な増殖率を低下させることがよくある。かかるプロセスでは、段階的な生産アプローチの使用、またはさまざまな生産段階で異なる培養培地の使用が必要になる場合があり、プロセスの複雑さおよびコストが増加する。ストレスによって増殖率およびバイオマス収量に悪影響がもたらされるため、脂質含有量が増加しても脂質収量が高くならない場合がある。高線量放射線は、脂質生産性が向上した遺伝子変異株として新しい生物を開発するために使用されてきた。しかしながら、かかる変異体は分離が困難で手間がかかり、他の有害な背景変異を有する場合がある。高線量放射線は、微細藻類およびその他の資源からのバイオマスを処理して、単糖類やその他の生成物の含有量を増やす研究に使用されてきた。しかしながら、かかる処理は生体分子の分解に基づいており、脂質またはバイオマスの収量に直接影響するものではない。
【0009】
微細藻類や保存された代謝経路を有するさまざまな生物における脂質、バイオマス、代謝産物の収量を、全体的な生産性に悪影響を与えることなく増やすという課題が、当技術分野に残っている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、通常条件下で維持された場合の未処理の生物と比較して、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の性能、特に脂質、バイオマス、および代謝産物の収量を向上させる方法を提供する。該方法は、特定の吸収線量および吸収線量率で生物に適用される放射線のホルミシス効果を介して、迅速かつ再現可能な代謝活性化を誘導するために電磁電離放射線を使用することを含む。少なくとも1つの実施形態において、放射線は、微細藻類の増殖指数増殖期または定常期に適用される。電磁電離放射線のホルミシス効果は、脂質の生合成および脂質の形でのエネルギー貯蔵の蓄積および/または他の異なる代謝産物の蓄積および/またはバイオマスの増加に関与する酵素をコードする脂質代謝遺伝子の発現の上方制御を含む。該方法は、増殖培養レースウェイ池、光バイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、バブルカラムバイオリアクター、発酵バイオリアクター、バイオフィルムリアクター、および他の培養/増殖基質上で培養する微細藻類および生物のための他のバイオフィルム培養を含むがこれらに限定されない既存のバイオテクノロジー培養プラットフォームを使用して、バッチ、半連続、連続を含むがこれらに限定されない標準的な培養/収穫アプローチを使用して、光独立栄養、従属栄養、混合栄養培養を含むがこれらに限定されない標準的な培養条件下で実施することができる。適用可能な生物は、限定されないが、珪藻(Bacillariophyta)、緑藻類(Chlorophyta)(緑藻)、シアノバクテリア(Cyanobacteria)(藍藻類)、ハプト藻類(Haptophyta)(主に円石を含む海藻類)、褐藻類(Phaeophyta)(褐藻)、渦鞭毛藻類(Pyrrophycophyta)(渦鞭毛藻)、紅藻類(Rhodophyta)(紅藻)などの淡水藻類および海藻類を含む微細藻類株のクラス、および限定されないがビギラ(Bigyra)(トラウストキトリドを含む)、ストレプト藻類(Streptophyta)(コケ類を含む植物)、子嚢菌類(Ascomycota)(酵母を含む菌類)、担子菌類(Basidiomycota)(キノコを含む菌類)、細菌、および古細菌などの、保存された代謝経路を有する生物を含む。本発明は、細胞内でホルミシスを生じ;および同じ条件下で維持された場合の同じ株のかかる細胞の未処理培養物と比較して、所定の条件下で培養物においてホルミシス効果を生じるかかる生物の細胞の代謝活性化を生じる少なくとも1つのX線およびガンマ線を用いて典型的な細胞とインターフェースすることができる。
【0011】
本開示は、生物の代謝活性化の方法を提供し、該方法は、生物においてホルミシスを生じるX線およびガンマ線の少なくとも1つを生物に照射すること、および該生物を代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の未処理生物と比較して、ホルミシス効果を生じることを含む。
【0012】
本開示は、照射による生物の代謝活性化の方法を提供し、該方法は、生物においてホルミシスを生じるX線およびガンマ線の少なくとも1つを生物に照射すること、ここに、該生物は微細藻類株および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つである;および該生物を代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の同じ種の未処理の生物と比較して、より高い脂質収量、より高いバイオマス収量、およびより高い代謝産物収量のうちの少なくとも1つのホルミシス効果を生じることを含む。
【0013】
本開示はまた、照射によって、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つの培養物の性能を向上させるシステムを提供し、該システムは、レースウェイ池、光バイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、バブルカラムバイオリアクター、発酵バイオリアクター、およびバイオフィルムリアクターのうち少なくとも1つを含む培養プラットフォーム;該培養プラットフォームに結合された、X線およびガンマ線の少なくとも1つの線源を有する照射システム;および該線源の活性化を制御して、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つを培養の所定の期で、一定期間および線量率で照射し、かつ、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つを代謝的にプライミングして、所定の条件下で、同じ条件下で維持された場合の微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の少なくとも1つの同じ株の未処理培養物と比較して、培養物のより高い脂質収量、より高いバイオマス収量、およびより高い代謝産物収量の少なくとも1つのホルミシス効果を生じるように構成されたコントローラーを含む。
【0014】
本開示は、保存された代謝経路を有する生物の性能を照射によって向上させるシステムをさらに提供し、このシステムは、生物の増殖基質、生物に動作上近接する少なくとも1つのX線またはガンマ線源を有する照射システム;および照射システムの起動を制御して、一定期間および一定速度で生物を照射し、生物を代謝的にプライミングして、同じ条件下で維持された同じ種の未処理生物と比較して、特定の条件下でより高い脂質収量、バイオマス収量、および代謝産物収量の少なくとも1つのホルミシス効果を生じるように構成されたコントローラーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面のいくつかのビューの簡単な説明
図1図1は、脂質収量に関連する微細藻類および保存された代謝経路を有する他の単細胞生物の増殖の定常期に本発明の方法を使用する少なくとも1つの実施形態の例のフローチャートである。
【0016】
図2A図2Aは、図1のプロセスで本発明のホルミシスX線照射にさらされた生物の増殖曲線の例を示すグラフである。
【0017】
図2B図2Bは、図2Aの生物の脂質収量に、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合の統計的に有意なプラスの影響の例を示すグラフである。
【0018】
図2C図2Cは、図2Aの生物のバイオマス収量に、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合の対照群と比較して統計的に有意な影響がない例を示すグラフである。
【0019】
図2D図2Dは、図2Aの生物の細胞の脂質滴に、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合の統計的に有意なプラスの影響の例を示すグラフである。
【0020】
図2E-1】図2E1は、脂質滴の数が制限された図2Aの生物の未処理細胞の顕微鏡写真である。
【0021】
図2E-2】図2E2は、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂質滴が増加していることを示す、所定の照射量および照射率で処理した図2Aの生物の細胞の顕微鏡写真である。
【0022】
図2E-3】図2E3は、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂質滴が増加していることを示す、所定の照射量および照射率で処理した図2Aの生物の細胞の顕微鏡写真である。
【0023】
図2E-4】図2E4は、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂質滴が増加していることを示す、所定の照射量および照射率で処理した図2Aの生物の細胞の顕微鏡写真である。
【0024】
図2F図2Fは、さまざまな照射率で所定の照射量を照射した場合の、図2Aの生物の細胞の脂肪酸プロファイルに対する対照群と統計的に有意な影響がない例のグラフである。
【0025】
図2G図2Gは、図2Aの生物のバイオマス中の代謝産物アルファ-リノール酸(オメガ-3脂肪酸)含有量に対する、所定の照射量率での例示的な照射量に対する統計的に有意なプラスの影響の例を示すグラフである。
【0026】
図2H図2Hは、図1のプロセスで本発明のX線照射にさらされた別の生物の増殖曲線の例を示すグラフである。
【0027】
図2I図2Iは、図2Hの生物の相対脂質収量に対する、さまざまな照射率での所定の照射量に対する統計的に有意なプラスの影響の例を示すグラフである。
【0028】
図2J図2Jは、図2Hの生物のバイオマス収量に対する、さまざまな照射率での所定の照射量に対する対照に対する統計的に有意な影響がない例を示すグラフである。
【0029】
図2K図2Kは、図2Aの生物における脂質代謝遺伝子を含む様々なクラスの遺伝子の発現の上方制御に対する本発明の放射線照射のプラスの影響の一例を示すグラフである。
【0030】
図2L図2Lは、図2Aの生物における脂肪滴中の脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生成のための脂質代謝遺伝子の発現の上方制御の一例を示すグラフである。
【0031】
図2M図2Mは、図2Aの生物の細胞への照射による脂肪滴中の脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生成のための脂質代謝遺伝子の代謝活性化および発現の上方制御のプロセスの一例を説明する図である。
【0032】
図2N図2Nは、図2Aおよび図2Hの緑藻類生物を含む脂肪滴中の脂肪酸の合成のための脂質代謝遺伝子アセチルCoAカルボキシラーゼ、ビオチンカルボキシラーゼ(ACCase)の系統樹の一例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、および古細菌を含む、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス間で高度な進化的保存性を示している。
【0033】
図2O図2Oは、図2Aおよび図2Hの緑藻類生物を含む、脂肪滴中の脂肪酸の合成のための脂質代謝遺伝子長鎖アシルCoA合成酵素(LACS)の系統樹の一例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス全体にわたって高度な進化的保存性を示している。
【0034】
図2P図2Pは、図2Aおよび図2Hの緑藻類生物を含む、脂肪滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)の系統樹の一例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス全体にわたって高度な進化的保存性を示している。
【0035】
図2Q図2Qは、図2Aおよび図2Hの緑藻類生物を含む、脂肪滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子ホスファチジン酸ホスファターゼ(PAP)の系統樹の一例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス全体にわたって高度な進化的保存性を示している。
【0036】
図2R図2Rは、図2Aおよび図2Hの緑藻類生物を含む脂質滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)の系統樹の一例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス全体にわたって高度な進化的保存性を示している。
【0037】
図3図3は、脂質収量に関連する微細藻類および保存された代謝経路を有するその他の生物の指数増期で本発明の方法を使用する少なくとも1つの実施形態の一例のフローチャートである。
【0038】
図4A図4Aは、図2A-2Gの生物の増殖曲線の一例であるが、図3のプロセスで本発明のホルミシスX線照射にさらされた生物の増殖曲線の一例である。
【0039】
図4B図4Bは、様々な照射率で所定の照射量を与えた場合の図4Aの生物の細胞密度に対するプラスの影響の一例である。
【0040】
図4C図4Cは、様々な照射率で所定の照射量を与えた場合の図4Aの生物の増殖率に対する統計的に有意なプラスの影響の一例である。
【0041】
図4D図4Dは、様々な照射率で所定の照射量を与えた場合の、図4Aの生物のバイオマス収量に対する統計的に有意なプラスの影響の例を示すグラフである。
【0042】
図5A図5Aは、レースウェイ池に取り付けられた照射システムの一例の上面概略図である。
【0043】
図5B図5Bは、図5Aの照射システムの拡大上面概略図である。
【0044】
図5C図5Cは、図5Aの照射システムの縦断面を通した拡大側面断面図概略図である。
【0045】
図5D図5Dは、図5Aの照射システムの横断面を通した拡大側面断面図概略図である。
【0046】
図5E図5Eは、図5Aの照射システムの縦断面を通した照射ビームの照射範囲の拡大側面断面図概略図である。
【0047】
図6A図6Aは、光バイオリアクターに搭載された照射システムの別の例の側面概略図である。
【0048】
図6B図6Bは、図6Aの照射システムの拡大上面概略図である。
【0049】
図6C図6Cは、図6Aの照射システムの縦断面を通した拡大側面断面図概略図である。
【0050】
図6D図6Dは、図6Aの照射システムの横断面を通した拡大側面断面図概略図である。
【0051】
図6E図6Eは、図6Aの照射システムの縦断面を通した照射ビームの照射範囲の拡大側面断面図概略図である。
【0052】
図7A図7Aは、エアリフトバイオリアクターに搭載された照射システムの別の例の側面概略図である。
【0053】
図7B図7Bは、図7Aの照射システムの拡大上面概略図である。
【0054】
図7C図7Cは、図7Aの照射システムの縦断面を通した拡大側面断面図の概略図である。
【0055】
図7D図7Dは、図7Aの照射システムの縦断面を通した照射ビームの照射範囲の拡大側面断面図の概略図である。
【0056】
図8A図8Aは、発酵バイオリアクターの壁に取り付けられた照射システムの別の例の側面概略図である。
【0057】
図8B図8Bは、図8Aの照射システムの拡大上面概略図である。
【0058】
図8C図8Cは、図8Aの照射システムの縦断面を通した拡大側面断面図の概略図である。
【0059】
図8D図8Dは、図8Aの照射システムの縦断面を通した照射ビームの照射範囲の拡大側面断面図の概略図である。
【0060】
図9A図9Aは、バイオフィルムリアクターに搭載された照射システムの別の例の側面概略図である。
【0061】
図9B図9Bは、図9Aの照射システムの縦断面を拡大した側断面図の概略図である。
【0062】
図10A図10Aは、脂質収量に関連する保存された代謝経路を有する生物を処理するための多目的可動性を有する照射システムの別の例の側面概略図である。
【0063】
図10B図10Bは、図10Aの照射システムの拡大上面概略図である。
【0064】
図10C図10Cは、図10Aの照射システムの縦断面を拡大した側断面図の概略図である。
【0065】
詳細な説明
上述の図および下記の特定の構造および機能の記述は、出願人が発明したものの範囲または添付の請求項の範囲を制限するために提示されたものではない。むしろ、図および記述は、特許保護を求める発明の作製方法および使用方法を当業者に教示するために提供される。当業者は、本発明の商用実施形態のすべての特徴が明瞭性および理解のために記述または示されているわけではないことを理解する。当業者はまた、本開示の側面を組み込んだ実際の商用実施形態の開発には、商用実施形態に対する開発者の最終目標を達成するために多数の実装固有の決定が必要であることを理解する。かかる実装固有の決定は、システム関連、ビジネス関連、政府関連、およびその他の制約への準拠を含むが、これらに限定されない可能性があり、これらは特定の実装、場所、または時間によって変化する可能性がある。開発者の努力は絶対的な意味では複雑で時間のかかるものかもしれないが、かかる努力は、本開示の恩恵を受ける当業者にとっては日常的な仕事である。本明細書で開示および教示される発明は、多数のさまざまな修正および代替形態が可能であることを理解する必要がある。「a」などの単数形の用語の使用は、項目の数を制限することを意図するものではない。さらに、システムのさまざまな方法および実施形態は、開示された方法および実施形態のバリエーションを作成するために、互いに組み合わせて含めることができる。単数要素の説明には複数の要素を含むことができ、その逆も同様である。少なくとも1つの項目への参照には、1つ以上の項目を含むことができる。また、実施形態のさまざまな側面は、本開示の理解された目標を達成するために、互いに組み合わせて使用できる。文脈上別段の定めがない限り、「含む(comprise)」という用語、または「含む(comprises)」または「含む(comprising)」などの変形は、少なくとも記載された要素または工程、要素または工程の群、あるいはそれらの同等物を含むことを意味するものと理解されるべきであり、より大きな数値、またはその他の要素または工程、要素または工程の群、あるいはそれらの同等物が除外されることを意味するものではない。デバイスまたはシステムは、さまざまな方向および向きで使用できる。「上面」、「上」、「上方」、「下面」、「下」、「下方」などの方向を表す用語は、図およびそれらの図示された向きに対する方向を示すために使用され、商業的に使用される地球などの固定された基準に対する絶対的なものではない。「内側」、「内向き」、「内部」などの用語は、アセンブリまたは構成要素の中央部分に向かう方向、例えばアセンブリまたは構成要素の縦方向の中心線を指し、「外側」、「外向き」、「外部」などの用語は、アセンブリまたは構成要素の中央部分から離れる方向を指す。「結合された」、「結合」、「連結器」などの用語は、本明細書では広義に使用され、例えば機械的、磁気的、電気的、化学的、操作可能、直接的または間接的に中間要素、1つ以上のピースまたはメンバーを固定、結合、接着、締結、取り付け、接合、挿入、形成、通信、またはその他の方法で関連付けるための任意の方法またはデバイスを含むことができ、さらに、1つの機能メンバーを別の機能メンバーと一体的に一体形成することも含むが、これらに限定されない。結合は、回転方向を含む任意の方向に発生することができる。特に制限されない限り、工程の順序は、さまざまな順序で発生することができる。本明細書で説明されているさまざまな工程は、他の工程と組み合わせたり、記載されている工程に挿入されたり、複数の工程に分割したりすることができる。同様に、要素は機能的に説明されており、個別の構成要素として具体化することも、複数の機能を有する構成要素に組み合わせることもできる。一部の要素は、簡潔にするためにデバイス名で指定されており、当業者に知られており、具体的に説明されない可能性のある関連構成要素のシステムを含むことが理解される。一部の要素は、簡潔にするためにデバイス名で指定されており、当業者に知られており、具体的に説明されない可能性のある関連構成要素のシステムを含むことが理解される。説明および図には、さまざまな機能を実行し、形状、サイズ、説明が限定されないさまざまな例が提供されているが、本明細書に含有される教示を考慮すると、当業者に知られているように変更できる例示的な構造として機能する。したがって、「例示的な」という用語の使用は、名詞「例」の形容詞形であり、同様に例示的な構造を指し、必ずしも好ましい実施形態を指すものではない。「A」、「B」などの接尾辞文字付きの要素番号、または1、1’、1’’などのプライム、ダブルプライムなどの数字付きの番号は、同様の構造または機能を有する同様の要素の群内の異なる要素を指定するものであり、文字なしの対応する要素番号は、一般に、1つまたは複数の同様の要素を指すものである。出願で開示された要素に対応する請求項内の要素番号は、同様の要素にさまざまな要素番号を使用するいくつかの実施形態が開示されているため、例示的であり、排他的ではない。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されている方法、材料、および/またはシステムと同様または同等の方法、材料、および/またはシステムを本開示の実施に使用することができるが、適切な方法、材料、および/または材料を以下に記載する。さらに、特に明記されない限り、方法、材料、および/またはシステムは例示的であり、限定することを意図するものではない。本書で言及されている出版物、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれるが、矛盾が生じた場合は、定義を含む本明細書が優先される。
【0066】
一般的に、本発明は、通常条件下で維持された場合の未処理の生物と比較して、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の性能、特に脂質、バイオマス、および代謝産物の収量を向上させる方法を提供する。該方法は、特定の吸収線量および吸収線量率で生物に適用される放射線のホルミシス効果を介して、迅速かつ再現可能な代謝活性化を誘導するために電磁電離放射線を使用することを含む。少なくとも1つの実施形態において、放射線は微細藻類の増殖指数増殖期または定常期に適用される。電磁電離放射線のホルミシス効果は、脂質の生合成および脂質の形でのエネルギー貯蔵の蓄積、および/または他の異なる代謝産物の蓄積、および/またはバイオマスの増加に関与する酵素をコードする脂質代謝遺伝子の発現の上方制御を含む。該方法は、レースウェイ池、光バイオリアクター、エアリフトバイオリアクター、バブルカラムバイオリアクター、発酵バイオリアクター、バイオフィルムリアクター、および他の培養/増殖基質上で培養する微細藻類および生物のための懸濁培養またはバイオフィルム培養を含むがこれらに限定されない既存のバイオテクノロジー培養プラットフォーム、光独立栄養培養、従属栄養培養および混合栄養培養を含むがこれらに限定されない標準培養条件、バッチ培養、半連続培養および連続培養を含むがこれらに限定されない標準培養タイプ、およびその他のプラットフォームを使用して実施することができる。適用可能な生物は、限定するものではないが、淡水藻類および海藻類を含む微細藻類株のクラス、例えば、限定されないが、珪藻類、緑藻類、シアノバクテリア、藍藻類、ハプト藻類(主に円石を含む海藻類)、褐藻類(褐藻)、渦鞭毛藻類、紅藻類(紅藻)、および保存された代謝経路を有する生物、例えば、限定されないが、ビギラ(トラウストキトリドを含む)、ストレプト藻類(コケ類を含む植物)、子嚢菌類(酵母を含む菌類)、担子菌類(キノコを含む菌類)、細菌、および古細菌)を含む。本発明は、細胞内でホルミシスを生じるX線およびガンマ線の少なくとも1つを用いて典型的な細胞とインターフェースすることができ、かかる生物の細胞の代謝活性化により、所定の条件下での培養物において、同じ条件下で維持された場合のかかる細胞の同じ株の未処理培養物と比較して、ホルミシス効果を生じさせる生じ。一般に、照射システムは、本明細書に記載のホルミシス効果を生じさせるために、生物に操作上近接して配置される。
【0067】
本明細書では、以下の用語およびその派生語が適用される。
【0068】
「バイオマス収量」とは、微細藻類培養物の体積当たりに収穫された細胞集団の乾燥質量を指す。バイオマスを収穫することは、細胞を水性媒体から分離することを意味する。バイオマス収量の増加は、一般にバイオマスの生産性の向上の結果であり、ここで生産性とは、バイオマスが生産される速度を意味するものとする。
【0069】
「乾燥させること」は、収穫されたバイオマスから水分を実質的に除去することを意味する。
【0070】
「電磁電離放射線」は、X線およびガンマ線など、水分子の溶解を引き起こすのに十分なエネルギーの電磁放射線を指す。電磁電離放射線の照射は、微細藻類培養物または他の生物を特定速度で特定の線量の放射線に均一にさらすことを含む。線量は、連続的にまたは分割して照射することができる。放射線源の1つは、選択された電圧、電流、およびフィルターを有し、1つ以上の特定の線量および速度を照射するX線管である。
【0071】
「指数期」は、細胞密度またはバイオマスの指数関数的増加を示す微細藻類培養増殖の初期段階を指し、本発明の目的上、当業者に知られている遅延期、初期指数期、および後期指数期を含む。
【0072】
「増殖率」は、1日あたりの細胞密度またはバイオマスの速度変化を指す。細胞密度は、当業者に知られているOD750を測定する測光法によって確立される750nmでの光学密度(OD750)と1に近い相関係数を示す。
【0073】
「ホルミシス」は、高用量では毒性または致死性となる薬剤を低用量でさらすことで、増殖の改善、ストレス耐性、またはその他のプライミング関連の代謝活性化(エネルギー貯蔵の蓄積または特定の代謝物の蓄積など)などの有益な効果が得られる生物学的現象を指す。ホルミシスのこれらの有益な効果は、mRNA転写、転写後修飾、および代謝経路の調節を伴う可能性のある「代謝活性化」によるものであり、遺伝子変異によるものではない。
【0074】
「脂質代謝遺伝子」とは、脂肪酸およびトリアシルグリセロール合成を含む脂質代謝に関与する酵素をコードする遺伝子を指す。
【0075】
「脂質収量」は、培養物1体積あたりに収穫されるバイオマス中の脂質の総質量を指す。一般的な脂質は、トリグリセリド、ジグリセリド、遊離脂肪酸、およびリン脂質を含む。脂質は、当業者に知られており利用可能な、機械的粉砕または超音波処理、有機溶媒および加熱による抽出、または超臨界二酸化炭素による抽出を含む標準的な方法によって抽出することができる。脂質収量の増加は、脂質の生産性の向上の結果である。脂質収量は、バイオマス内の脂質の割合を指す脂質含有量とは異なり、従来の照射方法で大幅に減少する可能性のある収穫バイオマス収量は考慮されず、減少したバイオマスからの脂質収量の純損失につながる可能性がある。
【0076】
「代謝産物収量」は、培養液の容積当たりに収穫されるバイオマス中の代謝産物の総質量を指す。一般的な代謝産物は、色素、抗酸化物質、栄養素、薬物前駆体、オメガ3脂肪酸、タンパク質、炭水化物、および一次代謝および二次代謝のその他の産物を含むが、これらに限定されない。代謝産物は、当業者に知られている機械的粉砕および選択された溶媒および加熱による抽出を含むがこれらに限定されない標準的な方法によって抽出することができる。
【0077】
「微細藻類」は、光合成を行うか、系統発生的に光合成を行う遺伝子から派生した単細胞の真核生物および原核生物の微生物を指し、緑藻類、渦鞭毛藻類、珪藻類、褐藻類、海藻類(円石を含む)、シアノバクテリア、および紅藻類を含むがこれらに限定されない。
【0078】
「微細藻類培養」は、商業、研究、またはその他の用途のために、通常条件下で水性培地または固体培地中で培養する微細藻類を指す。
【0079】
「通常条件」は、特定の微細藻類株の光合成独立栄養、従属栄養または混合栄養培養、または特定の培養プラットフォームおよび培養タイプのために保存された代謝経路を有する生物の培養のために推奨される条件を含むが、これらに限定されない、当業者に一般的に知られている条件を指す。通常条件は、栄養素を意図的に制限しない、一般的に使用される培地または増殖基質、および当業者に知られている推奨温度範囲、栄養素濃度、光強度、およびレジームを含む。
【0080】
「保存された代謝経路を有する生物」は、植物、真菌、酵母、トラウストキトリド、細菌、および古細菌を含むがこれらに限定されない、微細藻類と同様に代謝を制御する機能的に同等の遺伝子の存在を指す。
【0081】
増殖の「定常期」は、一般にゼロに近い増殖率を示すか、ゼロ値付近で日々変動を示す微細藻類培養増殖の後期を指す。定常期は指数期に続くものであり、本発明の目的上、当業者に知られている前定常期、初期定常期、後期定常期、および死滅期(または溶解期)を含む。
【0082】
「転写の上方制御」は、特定の刺激に応答してメッセンジャーRNAのコピーの有意に増加した数を意味する。
【0083】
本発明の少なくとも1つの態様において、ホルミシス様式で生物を照射することにより、同じ通常条件下で維持された場合の未処理の生物と比較して、バイオマス収量に実質的な変化(すなわち、統計的に有意でない変化)を与えることなく、生物における代謝活性化を誘導して脂質収量を増加させる方法が提供される。ホルミシス照射は、脂質を合成する酵素の遺伝子を含む脂質代謝遺伝子の発現の上方制御をもたらす。生物は、微細藻類および脂質収量に関連する保存された代謝経路を有する生物を含む。脂質収量は、オメガ3脂肪酸の収量を含む。該方法は、増殖の定常期にある微細藻類をさらすことなど、生物の特定の増殖期間における照射を含む。
【0084】
本発明の少なくとも別の態様において、微細藻類や保存された代謝経路を有する生物などの生物において代謝活性化を誘導する方法が提供され、これにより、同じ通常条件下で維持された場合の未処理の培養物と比較して増加した増殖率およびバイオマス収量が得られる。該方法は、指数増殖期にある微細藻類培養物などの特定の増殖期間における生物のホルミシス照射を含む。
【0085】
本発明はまた、異常な条件下で増殖および/または維持される微細藻類培養物において、本明細書に記載された方法のいずれかによって増加される脂質およびバイオマス収量を特徴としている。
【0086】
本発明はまた、本明細書に記載された方法のいずれかによって保存された代謝経路を有する生物において脂質を合成し脂質収量を増加させる酵素をコードする脂質代謝遺伝子の発現を上方制御することを特徴としている。
【0087】
本発明はまた、本明細書に記載された方法のいずれかによって他の代謝産物および生成物を生じる能力のために、他の代謝経路に関与する遺伝子の調節を特徴とする。
【0088】
例示目的のため、本明細書および実施形態は微細藻類に焦点を当てているが、本明細書に記載された方法および原理は、保存された代謝経路を有する他の生物にも適用できることを理解している。
【0089】
図1は、脂質収量に関連する微細藻類および保存された代謝経路を有する他の生物の増殖の定常期において本発明の方法を使用する少なくとも1つの実施形態の例のフローチャートである。
【0090】
一般に、本発明の少なくとも1つの実施形態において、微細藻類培養物は、通常条件下で培地に最初に接種した後、増殖の定常期に達するまで培養させることができる。培養物は、定常期にある間に、X線などの電磁電離放射線に短時間さらすことができる。培養は、微細藻類細胞が収集されるバイオマス収穫まで、通常条件下で維持することができる。バイオマス処理では、脂質をバイオマスから抽出することができる。本発明の教示を使用すると、照射された微細藻類培養は、同じ条件下で培養する同じ微細藻類株の未処理培養と比較して、より高い脂質収量を示す。
【0091】
より具体的には、方法10は、選択された微細藻類株のために推奨される培地に細胞を接種することによって微細藻類培養物を形成できる接種工程12を含むことができる。培養物は、一連の増殖期を経るのに必要な通常条件下で維持することができる。培養物は指数期14に入り、その後に定常期16が続く。バイオマスは定常期で最も高く、この期では大きく変化しない。照射工程18では、定常期中に微細藻類培養物を電磁電離放射線の適用線量で照射することができる。照射は連続的にまたは分割して適用することができる。一例として、微細藻類培養物を、吸収線量1分あたり0.05Gyから2Gyの間の照射率で、総吸収線量1から15GyのX線にさらされることができるが、これに限定されるわけではない。照射後、微細藻類は、照射から最適な期間、例えば6時間から10日間、維持工程20で維持することができる。維持後、微細藻類は、微細藻類細胞を収集することを含むバイオマス収穫工程22を受けることができる。収穫後、バイオマス処理工程24は、微細藻類細胞の機械的破壊を含むことができる。脂質抽出工程26および/または代謝産物抽出工程28は、有機溶媒の混合物および高温の使用、または選択された微細藻類培養物に特有の超臨界二酸化炭素抽出プロトコルの使用などによって行われ、当業者によって最適化することができる。
【0092】
したがって、少なくとも1つの実施形態において、本発明は、同じ条件下で維持された場合の同じ株の未処理培養物と比較して、培養物中の脂質収量および/または代謝産物収量を増加させる方法を提供する。
【0093】
図2A-2Lは、本発明の例示的な方法の電磁電離放射線を、その他の通常条件下での微細藻類の増殖の定常期に適用することに基づく実際のテストデータの例示的なグラフ、写真、および概略図である。
【0094】
定常期についての実験1
【0095】
図2Aは、図1のプロセスで本発明のホルミシスX線にさらされた生物の増殖曲線の例を示すグラフである。図2Bは、さまざまな照射率での所定の照射量に対して、図2Aの生物の脂質収量に統計的に有意なプラスの影響が見られる例を示すグラフである。図2Cは、さまざまな照射率での所定の照射量に対して、図2Aの生物のバイオマス収量に有意なマイナスの影響が見られなかった例を示すグラフである。
【0096】
緑藻株の一例である微細藻類Chlorella sorokiniana(CCAP 211/8K、別名UTEX 1230)の培養を、3N-BBM+V培地(レシピはhttps://www.ccap.ac.uk/media/documents/3N_BBM_V.pdfで入手可能)中、22℃、オービタルシェーカー(120rpm)、および120μmol m-2-1の連続光子束で通常条件下で培養させた。微細藻類培養物を0.5×106細胞/mLで新鮮培地に接種し、増殖とともに指数関数的増殖期を経て、20日目に定常期に達した(図2A)。微細藻類培養物に、20日目に照射工程18で、CellRadシステム(FaxitronBioptics LLC、管出力:750W、濾過:1.6mmBeおよび0.5mm Al、エネルギー120kV、線量および速度は電流を変更して調整)を使用してX線を照射した。吸収線量は1、2、または5Gyであった。吸収速度は0.25または0.5Gy/分であった。照射された培養物を、さらに同じ通常条件下で24時間維持した。バイオマスを、21日目にバイオマス収穫工程22で、5000gで5分間遠心分離し、ペレットを50°Cで24時間乾燥することによって収穫した。(増加した脂質を、照射後、相当の期間保存する。)バイオマスを、機械的に粉砕し、脂質を、クロロホルムとメタノールの2/1(v/v)混合物およびソックスレー抽出器を使用して80°Cで4時間作動させて抽出した。抽出された脂質を、50°Cで12時間乾燥した。照射された試料は、同じ通常条件下で培養された未処理の培養物と比較して、わずか24時間で脂質収量が22%~29%大幅に増加した(図2B)。照射によってバイオマス収量の減少は引き起こされなかった(図2C)。
【0097】
図2Dは、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合、図2Aの生物の細胞の脂質滴に統計的に有意なプラスの影響があった例のグラフである。図2E1は、脂質滴の数が限られている図2Aの生物の未処理細胞の顕微鏡写真である。図2E2は、図2Aの生物の細胞を所定の照射量および照射率で処理した顕微鏡写真であり、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂肪滴が増加していることを示している。図2E3は、図2Aの生物の細胞を所定の照射量および照射率で処理した顕微鏡写真であり、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂肪滴が増加していることを示している。図2E4は、図2Aの生物の細胞を所定の照射量および照射率で処理した顕微鏡写真であり、図2E1の生物の未処理細胞よりも脂肪滴が増加していることを示している。
【0098】
細胞を、バイオマス収穫直前に同じ試料から収集し、透過型電子顕微鏡を使用して分析した。照射された細胞は、同じ通常条件下で増殖した未処理細胞よりも多くの脂肪滴27を含有した(図2D)。図2Cに示されている照射量に対する反応としての脂肪滴27の蓄積を、透過型電子顕微鏡で、未処理細胞(図2E1)と、0.25Gy/分の線量率で1Gyの線量で処理した細胞(図2E2)、0.25/分で2Gyで処理した細胞(図2E3)、および0.5Gy/分で5Gyで処理した細胞(図2E4)を比較することによってさらに確認した。
【0099】
図2Fは、さまざまな線量率で与えられた照射量に対して、図2Aの生物の細胞の脂肪酸プロファイルに実質的な影響がない例のグラフである。図2Gは、与えられた線量率での例示的な照射量に対して、図2Aの生物のバイオマス中の代謝物アルファ-リノール酸(オメガ3脂肪酸)含有量に統計的に有意なプラスの影響がある例のグラフである。
【0100】
抽出脂質の脂肪酸プロファイルをガスクロマトグラフィーで測定した。抽出脂質中の脂肪酸はメタノール硫酸プロトコルでエステル交換し、ヘキサンで集めてジクロロメタンに溶解して分析した。照射によって脂肪酸プロファイル(飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)および飽和度(図2F)に変化は見られなかった。これらはいずれもバイオディーゼル生産およびその他の用途に関連するパラメーターである。0.5Gy/分で5Gy照射した細胞は、同じ通常条件下で培養した未処理細胞よりも増加した量のアルファ-リノール酸を含有した(図2G)。アルファ-リノール酸は、ヒトの栄養に不可欠なオメガ3脂肪酸であり、他のオメガ3脂肪酸の前駆体である。
【0101】
定常期についての実験2
【0102】
図2Hは、図1のプロセスで本発明のX線照射にさらされた別の生物の増殖曲線の例を示すグラフである。図2Iは、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合、図2Hの生物の脂質収量に統計的に有意なプラスの影響があった例を示すグラフである。図2Jは、さまざまな照射率で所定の照射量を与えた場合、図2Hの生物のバイオマス収量に有意なマイナスの影響がなかった例を示すグラフである。
【0103】
2番目の実験において、微細藻類Chlamydomonas reinhardtii(CCAP11/32C株)の培養物を、TAP培地(レシピはHarris, E.H.(1989)The Chlamydomonas Sourcebook. Academic Press, San Diegoで入手可能)中で、22℃、オービタルシェーカー(120rpm)で、120μmol m-2-1の連続光子束で通常条件下で培養した。微細藻類培養物に2x10細胞/mLを接種し、増殖とともに指数期を経て、40日目に定常期に達した(図2H)。微細藻類培養物に、CellRadシステムを使用して、40日目に照射工程18でX線を照射した。吸収線量は、5または12Gyで、吸収率はそれぞれ0.25または0.5Gy/分であった。照射試料を、同じ通常条件下でさらに24時間培養した。バイオマスを収穫した(工程22)。相対脂質収量を、ナイルレッド蛍光染料アッセイを使用して微細藻類培養で測定した。微細藻類培養における530nmで励起し570nmで発光するこの染料の蛍光強度は、体積あたりの脂質量に比例する。照射培養試料の蛍光を、非照射培養の蛍光に対して正規化し、相対脂質収量を測定した。微細藻類培養へのX線照射は、同じ通常条件下で培養された未処理培養と比較して、脂質収量の約21%~26%の大幅な増加を引き起こした(図2I)。照射はバイオマス収量に有意な悪影響を及ぼさなかった(図2J)。バイオマス収量は、5000gで5分間遠心分離し、ペレットを50°Cで24時間乾燥して収穫した。
【0104】
遺伝子発現に関する実験3
【0105】
図2Kは、図2Aの生物における脂質代謝遺伝子を含むさまざまなクラスの遺伝子の発現の上方制御に対する本発明の照射のプラスの影響の例を示すグラフである。図2Lは、図2Aの生物における脂肪滴中の脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生成のための脂質代謝遺伝子の発現の上方制御の例を示すグラフである。図2Mは、図2Aの生物の細胞への照射による代謝活性化のプロセスと、脂肪滴中の脂肪酸およびトリアシルグリセロールの生成のための脂質代謝遺伝子の発現の上方制御の例を説明する図である。図2Nは、図2Aおよび図2Hの緑藻類を含む脂肪滴中の脂肪酸合成のための脂質代謝遺伝子アセチルCoAカルボキシラーゼ、ビオチンカルボキシラーゼ(ACCase)の系統樹の一例を示した図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス間で高い進化的保存性を示している。図2Oは、図2Aの緑藻類を含む脂肪滴中の脂肪酸合成のための脂質代謝遺伝子長鎖アシルCoAシンテターゼ(LACS)の系統樹の一例を示した図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス間で高い進化的保存性を示している。図2Pは、図2Aの緑藻類を含む脂質滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子リゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)の系統樹の一例を示した図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス間で高度な進化的保存性を示している。図2Qは、図2Aの緑藻類を含む脂質滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子ホスファチジン酸ホスファターゼ(PAP)の系統樹の一例を示した図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む微細藻類および保存された代謝経路を有する生物のクラス間で高度な進化的保存性を示している。図2Rは、図2Aの緑藻類生物を含む脂肪滴中のトリアシルグリセロールの合成のための脂質代謝遺伝子ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)の系統樹の例の図であり、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌を含む代謝経路が保存されている微細藻類および生物のクラス全体で高度な進化的保存性を示している。
【0106】
例えば、C.sorokinianaにおける0.5Gy/分で5Gyの放射線照射に対する応答として遺伝子発現プロファイルおよび転写上および下方制御された代謝遺伝子の同定は、抽出されたメッセンジャーRNA(mRNA)の配列決定によって決定された。RNA抽出は、TRIzol試薬およびクロロホルムでインキュベートし、12,000gおよび4°Cで15分間遠心分離して上層を収集し、イソプロパノールでRNA沈殿させることによって行われた。RNAペレットを2回洗浄し、4°Cで12,000g/5分間遠心分離し、滅菌脱イオン水に再懸濁した。RNAライブラリを、製造元Illumina,Inc.のプロトコルに従ってTruSeq(登録商標)Stranded mRNAアッセイを使用して生成した。照射された細胞では、脂肪滴に蓄積するトリアシルグリセロールの合成に重要な酵素をコードする遺伝子を含む30を超える脂質代謝遺伝子の発現が上昇し、その他の重要な代謝および細胞機能に関連する多数の遺伝子も上昇した(図2K~2M)。この緑藻株の放射線照射に反応して発現が上昇する脂質代謝遺伝子の進化的保存性を、基本ローカルアライメント検索ツールを使用して、紅藻、褐藻、海藻(円石を含む)、珪藻類、渦鞭毛藻類、シアノバクテリアなどの他の微細藻類生物、および保存された代謝経路を有するトラウストキトリド、植物、酵母、真菌、細菌、古細菌などの他の生物の関連遺伝子の遺伝子配列検索を実行することによって決定した。アミノ酸配列アライメントと最大尤度による系統解析を実行して、各遺伝子の系統樹のセットを作成した。脂肪酸とトリアシルグリセロールの合成とその調節に重要な酵素をコードする上方制御された遺伝子(図2L)は、微細藻類や、保存された代謝経路を有する生物(大型藻類や植物を含むがこれらに限定されない)において、進化的に高度に保存されていることが示されている(図2N-2R)。
【0107】
代表的な緑藻株Chlorella sorokiniana由来のアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)遺伝子を、試験した他の生物由来の代表的遺伝子と比較すると、平均46%の配列類似性があり、多くの生物が43~72%の高い配列類似性を示した(図2N)。例えば、紅藻Porphyra umbilicalis由来およびシアノバクテリアNostoc punctiforme由来のACCase遺伝子は、それぞれC.sorokiniana ACCaseと58%および68%の配列類似性を示した。C.sorokiniana(緑藻)由来の長鎖アシルCoAシンテターゼ(LACS)遺伝子を、他の生物由来のLACS遺伝子と比較すると、36~64%の高い配列類似性を示した(図2O)。例えば、トラウストキトリドのSchizochytrium aggregatumおよび植物Arabidopsis thaliana由来のLACS遺伝子は、それぞれC.sorokiniana LACSと52%および64%の配列類似性を示した。C.sorokiniana(緑藻)由来のリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT)遺伝子と他の生物由来のLPAAT遺伝子の比較では、35~43%の高い配列類似性を示した(図2P)。例えば、酵母Saccharomyces cerevisiaeおよび渦鞭毛藻Symbiodinium microadriaticum由来のLPAAT遺伝子は、それぞれC.sorokinianaLPAATと40%および43%の配列類似性を示した。C.sorokiniana(緑藻)のホスファチジン酸ホスファターゼ(PAP)遺伝子を他の生物のPAP遺伝子と比較すると、33~46%の高い配列類似性値を示した(図2Q)。たとえば、褐藻Ectocarpus siliculosusおよび植物Beta vulgarisのPAP遺伝子は、それぞれC.sorokiniana PAPと40%および46%の配列類似性を示した。C.sorokiniana (緑藻)のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)遺伝子を他の生物のDGAT遺伝子と比較すると、平均配列類似性は42%で、高い配列類似性値は35~54%を示した(図2R)。たとえば、珪藻類Phaeodactylum tricornutumおよび菌類Rhizoctonia solaniのDGAT遺伝子は、それぞれC.sorokiniana DGATと43%および45%の配列類似性を示した。これらの高い配列類似性値(>40%)はすべて、調査したさまざまな生物クラスにわたって高度な進化的保存性を示している。
【0108】
さらに、他の微細藻類や保存された代謝経路を有する生物におけるこれらの脂質代謝遺伝子も、ストレス条件に反応して上方制御され、ストレス下で脂肪滴に蓄積するトリアシルグリセロールの蓄積に関与していることが実証されている。例えば、塩分ストレス下の珪藻では、ACCase、LACS、およびDGATなどの遺伝子が上方制御される(Cheng, R.L., et al., 2014, Transcriptome and gene expression analysis of an oleaginous diatom under different salinity conditions. BioEnergy Research, vol. 7, pp. 195-205)。例えば、紅藻類では窒素飢餓下でPAPやDGATなどの遺伝子が上方制御される(Imamura, S., et al., 2015, Target of rapamycin (TOR) plays a critical role in triacylglycerol acceleration in microalgae. Plant Molecular Biology, vol. 89, pp. 309-318)。例えば、窒素飢餓に反応した渦鞭毛藻類では、DGATなどの遺伝子が上方制御される(Shi, X., et al., 2021, Transcriptome response of the dinoflagellate Karenia mikimotoidriven by nitrogen deficiency. Harmful Algae, vol. 103, article 101977)。例えば、糸状菌では、LPAATやDGATなどのTAG代謝に必要な遺伝子が窒素飢餓に応じて上方制御される(Chen, Y., et al., 2018, Nitrogen-starvation triggers cellular accumulation of triacylglycerol in Metarhizium robertsii. Fungal Biology vol. 122, pp. 410-419)。例えば、マイコバクテリアでは、トリアシルグリセロールの蓄積に必要なDGAT遺伝子が、酸ストレスや低酸素ストレスなどのストレスによって誘導される(Sirakova, T.D., et al., 2006, Identification of a diacylglycerol acyltransferase gene involved in accumulation of triacylglycerol in Mycobacterium tuberculosis under stress. Microbiology, vol. 152, pp. 2717-2725)。電離放射線制御による代謝活性化のメカニズム(図2M)には、シグナル分子として作用し、転写因子活性化によって代謝経路を制御できる活性酸素種の生成が関与する。ストレスに応答した活性酸素種依存性シグナル伝達経路は、植物や藻類を含む多くの生物で文書化されている(たとえば、Foyer, C.H. et al., 2018, Redox regulation of cell proliferation: bioinformatics and redox proteomics approach to identify redox-sensitive cell cycle generators. Free Radical Biology and Medicine, vol. 122, pp. 137-149;およびPokora, W., et al., 2022, Cross talk between hydroperoxide and nitric oxygen in the unicellular green algae cell cycle: how does it work? Cells, vol. 11, article 2425で説明されているように)。少なくとも10個の転写因子遺伝子が照射を受けた微細藻類で有意に上方制御され(「DNA結合および転写」内に群化、図2K)、他の代謝および細胞機能遺伝子の上方制御と一致していた。これらのChlorella sorokiniana転写因子は、生涯にわたって保存されている転写因子遺伝子ファミリーに属している。総合的に、これは、電離放射線に反応して代謝遺伝子が増加するメカニズムおよび代謝活性化の調節が、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物全体で高度に保存されているという証拠となる。
【0109】
指数期についての実験4
【0110】
図3は、脂質収量に関連する微細藻類および保存された代謝経路を有する他の生物の指数期の増殖において本発明の方法を使用する少なくとも1つの実施形態の例のフローチャートである。一般に、本発明の少なくとも1つの実施形態において、微細藻類培養物は、培地への最初の接種後に通常条件下で培養させて指数期の増殖に到達させることができる。培養物は、指数期にある間に、電磁電離放射線、例えばX線に短時間さらすことができる。培養物は、バッチ培養タイプで培養物全体のバイオマス収穫が行われるまで、または半連続培養タイプなどで培養物の一部のバイオマス収穫が行われ、培養物の残りは培養させてから再度照射されるまで放置されるまで、通常条件下でさらに培養させることができる。バイオマスは、さらなる使用の要件に従って処理することができる。本発明の教示によれば、照射を受けた微細藻類培養物は、同じ条件下で培養した同じ微細藻類の未処理培養物と比較して、より高い増殖率およびバイオマス収量を示す。
【0111】
より具体的には、方法10’は、接種工程12を含むことができ、ここで、選択された微細藻類株のために推奨される培地に細胞を接種することによって微細藻類培養物を形成することができる。培養物は、一連の増殖期を経るのに必要な通常条件下で維持することができる。培養物は、指数期14に入ることができ、その場合、照射工程18は、一般に指数期の初期段階で適用される。微細藻類培養物は、電磁電離放射線の適用線量で照射することができる。照射は、連続的にまたは部分的に適用することができる。一例として、微細藻類培養物は、約0.05~2Gy/分の速度で約1~15Gyの線量のX線にさらされることができるが、これに限定されるわけではない。微細藻類培養は、維持工程20で、定常期16への移行を含む、さらに1日から50日間の通常条件下で維持することができる。維持期間の後、バイオマス収穫22が行われる。収穫後、バイオマス処理24が実行され、さらなる使用の要件に応じた任意の処理を含むことができる。
【0112】
図4A~4Dは、微細藻類の増殖の指数期に、本発明の例示的な方法の電磁電離放射線を適用した実際のテストデータの例示的なグラフである。図4Aは、図2A~2Gの生物の増殖曲線の例であるが、図3のプロセスで本発明のホルミシスX線にさらされている。図4Bは、さまざまな線量率で所定の放射線線量を照射した場合の、図4Aの生物の細胞密度へのプラスの影響の例を示すグラフである。図4Cは、さまざまな照射率で所定の照射量を照射した場合、図4Aの生物の増殖率に統計的に有意なプラスの影響が見られるグラフである。図4Dは、さまざまな照射率で所定の照射量を照射した場合、図4Aの生物のバイオマス収量に統計的に有意なプラスの影響が見られる例のグラフである。
【0113】
微細藻類Chlorella sorokiniana(CCAP211/8K、別名UTEX1230)の培養を、3N-BBM+V培地中、22℃、オービタルシェーカー(120rpm)、120μmol m-2-1の連続光子束で通常条件下で行った。微細藻類培養物には、0.5×106細胞/mLを接種した。微細藻類培養物に、指数期の3日目に、照射工程18でCellRadシステムを使用してX線を照射した。吸収線量は1または2Gyであった。吸収率は0.25または0.05Gy/分であった。照射試料を、同じ通常条件下でさらに24日間培養した。細胞密度を毎日分析した(図4A)。指数期の微細藻類培養物に放射線を照射すると、増殖率にプラスの影響が生じた(図4B-4C)。照射後25日の定常期のバイオマス収穫工程22で、5000gで5分間遠心分離し、ペレットを50°Cで24時間乾燥させてバイオマスを収穫した。同じ条件下で培養した同じ微細藻類株の未処理培養物と比較した場合、放射線を照射した微細藻類培養物ではバイオマス収量が25%増加した(図4D)。
【0114】
図5A-10Cは、微細藻類および保存された代謝経路を有する生物について、本明細書で説明する本発明の側面を使用するシステムのさまざまな実施形態を示している。微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の増殖基質は、無機および有機材料、栄養素などを含む。
【0115】
図5A~5Eは、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図であり、他の点では正常な条件下で、レースウェイ池の既存の微細藻類培養プラットフォームに例示的な方法を適用するように構成されている。図5Aは、レースウェイ池に取り付けられた照射システムの一例の上面概略図である。図5Bは、図5Aの照射システムの拡大上面概略図である。図5Cは、図5Aの照射システムの縦断面を通る拡大側面断面図概略図である。図5Dは、図5Aの照射システムの横断面を通る拡大側面断面図概略図である。図5Eは、図5Aの照射システムの縦断面を通る照射ビームの適用範囲の拡大側面断面図である。
【0116】
標準的なレースウェイ池プラットフォームは、当業者に知られており、一般的に、容器32を含み、この容器32は、容器の周囲にフロー回路35を形成するために中央バッフル34によってチャネル(製造または地中に形成された)に分割された一定量の水の増殖基質56、フロー回路の周囲に容器内の微細藻類培養物37を動かすためのパドルホイールなどの動力36、および培養条件(監視する期および他のパラメーターなど)を感知するためのセンサー38を含む。少なくとも1つの実施形態において、照射レースウェイ池システム50は、微細藻類培養物を照射するために照射システム40Aをレースウェイ池プラットフォームと結合することによって開示された方法を実施するための本発明の実施形態を含むことができる(図5A)。関連する制御システム50を有する照射システム40Aは、これに限定されないが、例えば、冷却システムと、放熱用のオイルを有する鉛箱などの照射ケース44内に配置できる、X線管などの照射装置42を含有する電気設備を有するハウジング46を含む(図5B~5D)。照射システム40Aは、センサーに接続して照射システムの起動を制御するために使用できるコントローラー50を含有することができる。センサーは、光学密度プローブまたは濁度センサーであるが、これらに限定されない。センサーは、コントローラー50に信号を提供して、光学密度の事前定義値または選択した他のパラメーターで照射装置42を起動できる。ハウジング46は、取り付けと安定性のためにサポート48を有するフレームワーク上に配置できる。ハウジングに結合された0.5mmの鉛層などの放射線シールド52(「スカート」)によって、放射線からの追加の保護を提供できる(図5B~5D)。X線などの放射線は、BeおよびAlウィンドウなどの照射ウィンドウ54を通じて、照射システム40Aのそばを流れる培養物37に照射できる。ビーム角度θおよび線源からの距離は、ビーム間の間隔Sとともに最適化でき、広い表面をカバーし、レースウェイ池で通常20~40cmの深さDであるが、これに限定されない微細藻類培養物へのX線の浸透を最大限にすることができる(図5E)。少なくとも1つの実施形態において、照射システム40Aは、他のレースウェイ池を照射するために移動可能である。少なくとも別の実施形態において、照射システム40Aはレースウェイ池に固定して設置できる。システムには電源が必要である。照射レースウェイ池システムの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0117】
図6A~6Eは、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図であり、他の通常条件下で、光バイオリアクターの既存の微細藻類培養プラットフォームに例示的な方法を適用するように構成されている。図6Aは、光バイオリアクターに取り付けられた照射システムの別の例の側面概略図である。図6Bは、図6Aの照射システムの拡大上面概略図である。図6Cは、図6Aの照射システムの縦断面を通る拡大側面断面図概略図である。図6Dは、図6Aの照射システムの横断面を通る拡大側面断面図概略図である。図6Eは、図6Aの照射システムの縦断面を通る照射ビームの適用範囲の拡大側面断面図である。
【0118】
標準的な光バイオリアクターは、当業者に知られており、一般的に、太陽光収集アレイ64を流れる水性増殖基質56用のフロー回路66を提供するためのガラスまたはプラスチックチューブなどの導管62、フロー回路の周りの導管内の微細藻類培養物63を動かすためのポンプなどの動力65、供給および脱ガス容器67、および培養条件、例えば監視する期および他のパラメーターを感知するためのセンサー68を含む。少なくとも1つの実施形態において、照射光バイオリアクターシステム60は、例えば、導管62の近くの光バイオリアクターに照射システム40Bを結合することによって、方法を実施するための本発明の実施形態を含むことができる(図6A)。関連するコントローラー50を有する照射システム40Bは、例えば、冷却システムと、放熱用のオイルを有する鉛箱などの照射ケース44内に配置できる、X線管などの照射装置42を含有する電気設備を有するハウジング46を含む(ただしこれに限定されない)(図6B~6D)。照射システム40Bは、センサーに接続して照射システムの起動を制御するために使用できるコントローラー50を含有することができる。センサーは、光学密度プローブまたは濁度センサーであるが、これらに限定されない。センサーは、コントローラー50に信号を提供して、光学密度の事前定義値または選択した他のパラメーターで照射装置42を起動できる。ハウジング46は、取り付けと安定性のためにサポート48を有するフレームワーク上に配置できる。ハウジングに結合された0.5mmの鉛層などの放射線シールド52(「スカート」)によって、放射線からの追加の保護を提供できる(図6C~6D)。放射線、例えばX線は、BeおよびAlウィンドウなどの照射ウィンドウ54を通して、照射システム40Bのそばを流れる培養物37に照射することができる。ビーム角度θおよび線源からの距離は、チューブの断面をカバーできるように最適化することができる(図6E)。少なくとも1つの実施形態において、照射システム40Bは、他の光バイオリアクターを照射するために移動可能である。少なくとも別の実施形態において、照射システム40Bは、光バイオリアクター上に固定して設置することができる。システムには電源が必要である。照射光バイオリアクターシステムの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0119】
図7A-7Dは、通常条件下で、エアリフトまたはバブルカラムバイオリアクターの既存の微細藻類培養プラットフォームに例示的な方法を適用するように構成された、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図である。図7Aは、エアリフトバイオリアクターに搭載された照射システムの別の例の側面概略図である。図7Bは、図7Aの照射システムの拡大上面概略図である。図7Cは、図7Aの照射システムの縦断面を通した拡大側面断面図概略図である。図7Dは、図7Aの照射システムの縦断面を通した照射ビームの照射範囲の拡大側面断面図概略図である。
【0120】
標準的なエアリフトまたはバブルカラムバイオリアクターは、当業者に知られており、一般的に、バイオリアクターカラムを形成する容器72、バイオリアクターカラム内の微細藻類培養物76用の水性増殖基質56にガスを注入して気泡を形成し、カラムまたはチャネル内の微細藻類培養物を撹拌および混合するエアポンプなどの動力74、および培養条件、例えば監視する期および他のパラメーターを感知するセンサー78を含む。少なくとも1つの実施形態において、照射エアリフトまたはバブルカラムバイオリアクター70は、容器72内の透明なガラスまたはプラスチック表面を通して培養物を照射するための照射システム40Cを結合することによって開示された方法を実施するための本発明の実施形態を含むことができる(図7A)。関連する制御システム50を有する照射システム40Cは、例えば、冷却システムと電気設備を有するシステムハウジング46を含み、その中には、放熱用のオイルを有する鉛箱などの照射ケース44内に配置できるX線管などの照射装置42を含有する(図7B~7C)。照射システム40Cは、センサーに接続して照射システムの起動を制御するために使用できるコントローラー50を含有することができる。センサーは、光学密度プローブまたは濁度センサーであるが、これらに限定されない。センサーは、コントローラー50に信号を提供して、光学密度の事前定義値または選択した他のパラメーターで照射装置42を起動できる。ハウジング46は、取り付けおよび安定性のためにサポート48を有するフレームワーク上に配置できる。X線などの放射線は、BeおよびAlウィンドウなどの照射ウィンドウ54を介して、エアリフトバイオリアクターカラム内の培養物76に放射できる。ビーム角度θと線源からの距離は、広い表面をカバーし、微細藻類培養物へのX線の最大浸透を可能にするために最適化することができる(図7D)。0.5mmの鉛層などの放射線シールド52は、X線からの保護を提供することができ、照射システムと比較してエアリフトまたはバブルカラムバイオリアクターの反対側に配置することができる。少なくとも1つの実施形態において、照射システム40Cは、他のエアリフトバイオリアクターを照射するために移動可能である。少なくとも別の実施形態において、照射システム40Cは、エアリフトバイオリアクターに固定して設置することができる。システムには電源が必要である。照射エアリフトまたはバブルカラムバイオリアクターシステムの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0121】
図8A~8Dは、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図であり、他の通常条件下で、発酵バイオリアクターの既存の微細藻類培養プラットフォームに例示的な方法を適用するように構成されている。図8Aは、発酵バイオリアクターの壁に取り付けられた照射システムの別の例の側面概略図である。図8Bは、図8Aの照射システムの拡大上面概略図である。図8Cは、図8Aの照射システムの縦断面を通る拡大側面断面図概略図である。図8Dは、図8Aの照射システムの縦断面を通る照射ビームの適用範囲の拡大側面断面図概略図である。
【0122】
標準的な発酵バイオリアクターは、当業者に公知であり、一般に、撹拌システム84を有する水性増殖基質56を有する容器82、容器内の微細藻類培養物88に空気などのガスを注入するためのポンプなどの動力86、換気用の空気シャフト90、排出バルブ92、および培養条件(監視する期および他のパラメーターなど)を感知するためのセンサー94を含む。少なくとも1つの実施形態において、照射発酵バイオリアクター80は、例えば、照射システム40Dを容器82に接続することにより、本発明の方法を実施するための実施形態を含むことができる。関連する制御システム50を有する照射システム40Dは、例えば、これに限定されないが、放熱用のオイルを有する鉛箱などの照射ケース44内に配置することができるX線管などの照射装置42を含有する冷却システムおよび電気設備を有するハウジング46を含むことができる(図8B~8C)。照射システムは、BeおよびAlウィンドウなどのウィンドウ54を通して照射するように配置することができ、このウィンドウ54によって、X線などの放射線が微細藻類培養物に到達できるようになる(図8Aおよび8D)。X線は、発酵バイオリアクタータンクの容積の一部のみを照射することができる。培養物を撹拌することにより、微細藻類培養物の照射をより均一に行うことができる(図8Aおよび8D)。0.5mmの鉛層などの放射線シールド52は、容器上に配置できるX線からの保護を提供することができる。照射システム40Dには、センサーに接続して照射システムの起動を制御するために使用できるコントローラー50を含むことができる。センサーは、光学密度プローブまたは濁度センサーであるが、これらに限定されない。センサーは、コントローラー50に信号を提供し、光学密度の事前定義値または選択した他のパラメーターで照射装置42を起動することができる。ハウジング46は、容器に結合されることも、取り付けおよび安定性のためのサポートを有するフレームワーク上に配置することもできる。ビーム角度θおよび線源からの距離を最適化することで、広い表面をカバーし、微細藻類培養物へのX線の浸透を最大限にすることができる(図8E)。少なくとも1つの実施形態において、照射システム40Dは、他の発酵バイオリアクターを照射するために運搬可能である。少なくとも別の実施形態において、照射システム40Dは、コンテナ上に固定して設置することができる。このシステムには、電源が必要である。照射発酵バイオリアクターシステムの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0123】
図9A-9Bは、通常条件下でバイオフィルムリアクターの既存の微細藻類培養プラットフォームに例示的な方法を適用するように構成された、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図である。図9Aは、バイオフィルムリアクターに取り付けられた照射システムの別の例の側面概略図である。図9Bは、図9Aの照射システムの縦断面の拡大側面断面概略図である。
【0124】
標準的なバイオフィルムリアクターは、当業者に知られており、一般的には、支持面102としての源層を含み、その上に水およびガス透過性/多孔質面106が取り付けられ、水およびガスがそこを流れて増殖基質56を提供し、微細藻類107が面106の片側に保持される。水およびガスは、ポンプまたはインジェクターなどの動力104と、ポンプおよび他の機器の制御に適した生物の状態を感知するセンサー108によって循環させることができる。少なくとも1つの実施形態において、照射バイオフィルムリアクターシステム100は、例えば、微細藻類を含む支持面102の近傍でバイオフィルムリアクターに照射システム40Eを結合することによって、本発明の方法を実施するための実施形態を含むことができる(図9A)。関連するコントローラー50を有する照射システム40Eは、例えば、冷却システムと電気設備を有するハウジング46を含み、その中には、放熱用のオイルを有する鉛箱などの照射ケース44内に配置できる、X線管などの照射装置42を含む(図9B)。ハウジングと結合されたハンドルなどのサポート48’は、照射システムの移動を補助する。照射システム40Eは、センサーに接続して照射装置42の起動を所定の値で制御するために使用できるコントローラー50を含む。ハウジング46は、取り付けおよび安定性のためにサポート48上に配置できる。放射線からの追加の保護は、照射システム40Eからサポート面102の遠位側に取り付けられた0.5mmの鉛層などの放射線シールド52によって提供できる(図9A)。X線などの放射線は、BeおよびAlウィンドウなどの照射ウィンドウ54を通して微細藻類107に照射できる。ビーム角度θおよび線源からの距離は、微細藻類を照射できるように最適化できる(図9A)。少なくとも1つの実施形態において、照射システム40Eは、他のバイオフィルムリアクターを照射するために移動可能である。少なくとも別の実施形態において、照射システム40Eは、バイオフィルムリアクターに固定して設置できる。このシステムには電源が必要である。膜通気バイオフィルムリアクター、移動床バイオフィルムリアクターなどの他のタイプのバイオフィルムリアクターは、ここで説明した原理を使用して適応でき、バイオフィルムリアクターの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0125】
図10A-10Cは、植物または保存された代謝経路を有する他の生物の培養に例示的な方法を適用するように構成された、本発明の照射システムの少なくとも1つの実施形態の例示的な概略図である。図10Aは、脂質収量に関連する保存された代謝経路を有する生物の処理のための多目的移動性を有する照射システムの別の例の側面概略図である。図10Bは、図10Aの照射システムの拡大された上面概略図である。図10Cは、図10Aの照射システムの縦断面を通る拡大された側部断面概略図である。
【0126】
脂質およびその他の代謝産物の生産に関連する微細藻類および保存された代謝経路を有するその他の生物の培養は、当業者に知られている。少なくとも1つの実施形態において、照射システムを有する移動プラットフォームを使用して、該方法を実施することができる。例えば、移動式照射システム110は、トラックやその他の車両などの移動式プラットフォーム114を使用して吊り上げ装置112と結合できる照射システム40Fの使用を含む(図10A)。少なくとも1つの実施形態において、吊り上げ装置112は、照射システムを移動するためのクレーンまたはレールシステムを含む。照射システム40Fは、照射のために増殖基質56によって支持された生物116の近くで移動できる。関連する制御システム50を有する照射システム40Fは、例えば、冷却システムと電気設備を有するハウジング46を含む。このハウジング46には、X線管などの照射装置42が含まれ、鉛箱などの照射ケース44内に、熱放散用のオイルとともに配置できる(図10B-10C)。照射システム40Fは、照射装置を操作するためのコントローラー50を含む。少なくとも1つの実施形態において、照射システムは、照射システムの起動を制御するために使用されるセンサー118に結合できる。センサーは、照射の起動に関連する特定の生物の1つ以上のパラメーターを感知するのに適している。センサーは、コントローラー50に適切な信号(有線または無線)を提供して、照射装置42を起動できる。ハウジング46は、持ち上げ装置112に結合できるスイベルなどのサポート48’に結合できる。ハウジングに結合された0.5mmの鉛層などの放射線シールド52(「スカート」)によって、放射線からの追加の保護を提供できる(図10C)。X線などの放射線は、照射システム40Fによって、BeおよびAlウィンドウなどの照射ウィンドウ54を介して生物116に放射できる。ビーム角度θと源からの距離は、広い表面をカバーできるように最適化できる(図10A)。このシステムは、移動式プラットフォームを使用して、さまざまな増殖培養物およびシステムを照射するために簡単に運搬できる。このシステムには電源が必要である。移動式照射システムの他の実施形態も可能であり、検討されている。
【0127】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解している意味と同じ意味を有する。本明細書では適切な方法および材料について説明されているが、本明細書で説明されている方法および材料と類似または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができる。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれている。矛盾が生じた場合は、本明細書の定義を含む本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は例示的なものであり、限定を意図するものではない。
【0128】
出願人の発明の精神から逸脱することなく、上記の本発明の1つまたは複数の側面を利用する他の実施形態およびさらなる実施形態を考案することができる。例えば、照射システムでX線の代わりにガンマ線を使用すること、保存された代謝経路を有する生物に照射すること、液体培地の代わりに固体培地で培養する生物に照射すること、複数回照射すること、代替の微細藻類培養プラットフォームまたは他の植物および微生培養培システム用の照射システム、移動式ではないがバイオリアクターおよび他のプラットフォームに統合された照射システム、代謝産物の収量を増やすための電磁電離放射線の使用、さまざまな増殖基質、ここで提供される定義によれば正常ではない条件下での微細藻類および保存された代謝経路を有する生物の増殖、他の培養プラットフォームで培養する微細藻類、培養条件、培養タイプ、他の線量、照射と収穫の間の速度および期間、他の関連微生物および無関係の微生物、ならびに他のバリエーションは、特許請求の範囲内で起こり得る。
【0129】
本発明は、好ましい実施形態およびその他の実施形態の文脈で説明されており、本発明のすべての実施形態について説明されているわけではない。方法およびシステムの明らかな変更は、本明細書の教示を前提として、当業者が思いつくであろうバリエーションを含む。開示されている実施形態および開示されていない実施形態は、出願人が考案した発明の範囲または適用性を限定または制限することを意図したものではなく、むしろ特許法に準拠している。出願人は、以下の請求の範囲内にあるかかる変更および改良をすべて完全に保護することを意図している。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E-1】
図2E-2】
図2E-3】
図2E-4】
図2F
図2G
図2H
図2I
図2J
図2K
図2L
図2M
図2N
図2O
図2P
図2Q
図2R
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
【国際調査報告】