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特表2025-502479一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離する方法、そのための固相の使用、及び二本鎖RNA分子をサイズにより分離する方法
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  • 特表-一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離する方法、そのための固相の使用、及び二本鎖RNA分子をサイズにより分離する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離する方法、そのための固相の使用、及び二本鎖RNA分子をサイズにより分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20250117BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20250117BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20250117BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12N15/10 112Z
B01J20/281 X
G01N30/34 E
G01N30/88 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543457
(86)(22)【出願日】2023-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2023051334
(87)【国際公開番号】W WO2023139196
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】22152930.8
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521262714
【氏名又は名称】ザルトリウス ビーアイエー セパレーションズ ディー.オー.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェルニゴイ ウル
(72)【発明者】
【氏名】ブラジュ バカラ
(72)【発明者】
【氏名】ミクラヴチック ロク
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン ピーター スタンリー
(72)【発明者】
【氏名】ドレンク ダルコ
(57)【要約】
本発明は、一本鎖RNA(ssRNA)分子を他の核酸種から分離する方法、及びssRNA分子を他の核酸種から分離するための固相の使用に関する。本発明は、1)室温において高い生成物回収率で、2)中性に近いpHにおいて、3)有害な添加物を含まずに、含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子を含む固相媒体から、上昇pH勾配でssRNAを溶出することができたことを主張している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離する方法であって、
a)4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子を含む固相を準備する工程であって、前記マルチモーダル配位子が含窒素複素環を含む、工程と、
b)前記固相に試料をロードする工程であって、前記試料が、分離される前記標的一本鎖RNA分子を含む、工程と、
c)前記マルチモーダル配位子の前記pKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用することにより、前記標的一本鎖RNA分子を分離し、溶出する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記マルチモーダル配位子が、5.0~8.0のpKa値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記含窒素複素環が、芳香族含窒素複素環である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記含窒素複素環が、プリン、ピリミジン、ピリジン、ジアゾール、トリアゾール、モルホリン、及びテトラゾールからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記含窒素複素環が、イミダゾール、イミダゾール誘導体、ピリジン又はピリジン誘導体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記固相が、固体固定相を含むクロマトグラフィーカラムである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、前記マルチモーダル配位子の前記pKaより低いpHで前記固相にロードされる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記標的一本鎖RNA分子が、mRNA分子、又は一本鎖RNA若しくはmRNA分子の誘導体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固相にロードされる前記試料が、前記他の核酸種として、一本鎖DNA分子、二本鎖DNA分子、二本鎖RNA分子及びプラスミドのうちの1つ以上を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の後、かつ工程c)の前に、未結合種を洗い流す工程b1)を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b1)の後、かつ工程c)の前に、工程b)において前記固相への前記試料のロードに使用した溶液よりも高いpH値を有するが、前記標的一本鎖RNA分子の溶出pHよりも低い溶液で洗浄する工程b2)を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記上昇pH勾配が、前記マルチモーダル配位子の前記pKa値より少なくとも1pH単位低いpH値で開始し、前記マルチモーダル配位子の前記pKa値より少なくとも1pH単位高いpH値で終了する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記標的一本鎖RNA分子の分離及び溶出が、前記上昇pH勾配と組み合わせて上昇塩勾配を適用することにより行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離するための、4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子を含む固相の使用であって、前記マルチモーダル配位子が、含窒素複素環を含む、使用。
【請求項15】
前記マルチモーダル配位子が、イミダゾール又はイミダゾール誘導体である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
二本鎖RNA分子をサイズによって分離する方法であって、
a)4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子を含む固相を準備する工程であって、前記マルチモーダル配位子が含窒素複素環を含む、工程と、
b)前記固相に試料をロードする工程であって、前記試料が、長さの異なる2以上の二本鎖RNA分子を含む、工程と、
c)前記マルチモーダル配位子の前記pKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用することにより、前記二本鎖RNA分子をサイズにより分離し溶出する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本鎖RNA(ssRNA)分子を他の核酸種、特に二本鎖RNA(dsRNA)種から分離する方法、並びに一本鎖RNAを他の核酸種から分離するための固相の使用及びそれに付随する方法に関する。本発明は更に、二本鎖RNA分子をサイズによって分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品業界の原薬製造のためのRNA及びDNA関連のプロセスでは、より多様な分離方法の必要性が高まっている。一例として、メッセンジャーRNA(mRNA)の生産では、最近のCOVID-19の流行に見られるように、mRNAベースのワクチンの急速な開発とその大量生産がますます重要になってきている。in vitro転写(IVT)による遺伝子治療及びワクチン接種用途のmRNAの合成は、限定されるものではないが、所望の一本鎖(ss)RNAに加え、二本鎖(ds)RNAを含む、種々の核酸種の望ましくない亜集団を含有する調製物をもたらす。dsRNAは対象に注射されると望ましくない免疫反応を引き起こすため、dsRNAの除去は、特に精製の目的となっている。mRNA調製物はまた、mRNAの合成に使用されたプラスミド鋳型(pDNA)からの残留dsDNAも含有する。dsDNAレベルは転写後のヌクレアーゼ酵素処理によって低下させることができるが、dsDNA断片はまだ調製物中に存在する可能性がある。mRNA調製物は更に、タンパク質を含有し、患者がタンパク質に対して非特異的な免疫反応を起こす可能性を低くするためにタンパク質を除去しなければならない。これらのタンパク質としては、転写後にdsDNA鋳型を分解するのに用いられるRNAポリメラーゼ、ピロホスファターゼ、及びヌクレアーゼ等の酵素が挙げられる。
【0003】
RNAの標準的な実験室での精製は、DNAを分解するためにDNアーゼ酵素処理を採用し、続いてRNAを精製し、濃縮するためにLiCl沈殿を行う。このアプローチは、RNAの安価かつ迅速な精製を提供するが、化学的には過酷で、スケールアップが困難であり、その後ヌクレアーゼを除去する必要がある。
【0004】
mRNA調製物からdsRNAの含量を減らす方法が知られている。例えば、セルロースベースのクロマトグラフィー媒体上の親和吸着クロマトグラフィーにより、dsRNAの混入レベルを低減することができる。かかる方法は実験室規模では単純で効果的であるが、結合能が非常に低いため、スケールアップの負担になる。一方、クロマトグラフィーは、高純度の調製物を製造するための選択的で容易に拡張可能なアプローチを提供する。以下に記載するように、RNA精製には様々なアプローチが開発されている。
【0005】
mRNA調製物中のdsRNA及びdsDNAのレベルは、オリゴデオキシチミジン(dT)官能基化固相を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって低減され得る。このアプローチは、核酸のポリアデニン(A)領域とハイブリダイズする特異的なオリゴdTリガンドを利用し、ポリAテイルに起因するmRNAの分離を可能にする。しかしながら、ポリA領域は鋳型dsDNA及び生成されたdsRNA集団にも存在し、それらは全て少なくとも部分的には標的mRNAの配列を共有しており、条件によってはmRNAから完全には分離しない。さらに、オリゴdTリガンドの生産は、mRNA治療薬へのニーズの高まりにより、世界規模のボトルネックになる可能性がある。このアプローチのもう一つの欠点は、無視できないサブグループであるポリAテイルを欠くssRNAの分離には使えないことである。
【0006】
第一級及び第二級アミンベースのクロマトグラフィーにより、オリゴヌクレオチド、酵素及びDNAからmRNAを室温で分離することができる。かかる方法は、pH9.5超の範囲でssRNAを溶出するためにpH勾配を採用するが、mRNAは高濃度のOHイオンで加水分解を起こしやすいという欠点がある。
【0007】
さらに、ピロリン酸アニオングラジエントを第一級及び第二級アミンベースのクロマトグラフィーに用いることができ、周囲温度にて中性pHでssRNAを溶出することを可能にする。ピロリン酸は、クロマトグラフィーでは一般的なアニオンとして広く認識されておらず、少なくとも分取用途では負担となっている。加えて、水溶液中では加水分解的に安定ではないため、広く使用される可能性は低くなる。
【0008】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)は移動相に高濃度の塩を使用するため、溶液中又はカラム上でmRNAの沈殿が生じる可能性がある。高塩濃度のバッファーはまた、クロマトグラフィーシステムにかかる圧力を増加させ、流量をより低い値に制限する。一方、逆相クロマトグラフィーは、GMP製造には避けた方が良い有機溶媒を採用し、またリボ核酸の結合及び溶出を成功させるために高温を使用するが、これらは、ヒト使用のためのバイオ医薬品製造において大きな障害となる。
【0009】
標準的なイオン交換体、具体的には第四級及び第三級アミンイオン交換体は、上昇NaCl勾配でのdsRNA分離に使用されてきたが、ssRNAの回収率は低かった。標準的なイオン交換体からの1000塩基超のssRNAの溶出を成功させるためには、高温(例えば65℃)又は高濃度の有毒な有機変性剤(例えばアセトニトリル)を使用しなければならない。
【0010】
現行の技術水準では、更に、含窒素複素環で誘導体化された固相媒体、例えばヒスタミン修飾クロマトグラフィーカラムが、例えば大腸菌(E. coli)溶解液中に存在するような断片化RNAからのdsDNA(pDNA)の分離に成功裏に適用されていることも教示されている。一例では、HIC原理を単独で又は下降pH勾配と組み合わせて、ヒスタミン及びヒスチジン修飾クロマトグラフィーカラムと共に使用された。特に1000塩基を超えるssRNAでは、適用濃度範囲の硫酸アンモニウムを含有するバッファーにおいてmRNAの沈殿が起こるため、同じ原理を直接適用することができない。ヒスタミン修飾クロマトグラフィーカラムを用いた別の用途では、pDNAの分離に上昇塩勾配でのイオン交換条件が適用された。mRNAの場合、標準的なアニオン交換体での分離効率と同様にカラムからのmRNA回収率が低いため、同じ原理を適用することができない。
【0011】
驚くべきことに、先行技術の教示とは対照的に、本発明者らは、含窒素複素環を含む固相が前述の問題を解決し得ることを見出し、かかる固相が前述の予想とは異なる挙動をすることを示すことができた。含窒素複素環は固相表面に存在し、マルチモーダル配位子として作用する。特に、本発明の発明者らは、含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子で誘導体化した固相媒体が、ssRNAを他の核酸から分離する既存の方法に関連するいくつかの実用的な制限を克服することができる方法の開発を可能にすることを発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のことから、本発明の目的は、温和な作業条件、すなわち15℃~30℃の周囲温度にて、中性に近いpHで、GMP製造上避けるべき化学物質を使用せずに、ssRNAの高い分離分解能と高い回収率を達成する、ssRNAを他の核酸及び生体分子から分離する、簡便、低リスク、かつ安価な方法を提供することである。かかる化学物質は、例えば、欧州医薬品庁(EMA)のEMA/CHMP/ICH/82260/2006-不純物に関するICHガイドラインQ3C(R8):残留溶媒に関するガイドライン等のガイドラインに要約されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、上記の目的は、一本鎖RNAを他の核酸種から分離する方法であって、
a)4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子を含む固相を準備する工程であって、マルチモーダル配位子が少なくとも含窒素複素環を含む、工程と、
b)固相に試料をロードする工程であって、試料が、分離される標的一本鎖RNA分子を含む、工程と、
c)マルチモーダル配位子のpKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用することにより、標的一本鎖RNA分子を分離し、溶出する工程と、
を含む、方法を提供することにより達成される。
【0014】
本発明の驚くべき利点としては、1)室温で高い製品回収率で、2)中性に近いpHで、3)有害な添加物を含まずに、含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子を含む固相からssRNAを溶出できることが挙げられる。この3つ全ての利点の組み合わせは、従来技術では知られていない。
【0015】
次に、本発明を、好ましい実施形態を含めて、添付の図面と共に更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ヒスタミン修飾モノリスを用いた、周囲温度での上昇pH勾配による、mRNAからのdsRNA及びプラスミドdsDNAの分離(実施例2)を示す図である。
図2】ヒスタミン修飾モノリスを用いた、周囲温度での上昇pH勾配による、dsRNA及びNTPのサイズ分離(実施例3)を示す図である。
図3】4-メルカプトピリジンモノリスを用いた、周囲温度での上昇pH勾配による、mRNAからのプラスミドdsDNAの分離(実施例5)を示す図である。
図4】CIM PrimaHモノリスを用いた、mRNAからプラスミドdsDNAを分離するための周囲温度での塩洗浄の適用(実施例6)を示す図である。
図5】CIM PrimaHモノリスを用いた、周囲温度でのpHと塩勾配との組み合わせによる、プラスミドDNA及びmRNAの分離(実施例7)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の分離方法は、マルチモーダル配位子を含む固相を採用する。マルチモーダル配位子は、上記のように少なくとも1つの含窒素複素環を含む。好ましい実施形態において、固相は、マルチモーダル配位子が結合する支持マトリックスである。固相の種類は、液体クロマトグラフィーでの使用に適しており、マルチモーダル配位子を含むことができるものであれば特に限定されない。
【0018】
好ましくは、固相はその表面に化学官能基を有し、これにマルチモーダル配位子が結合するか、又はマルチモーダル配位子を結合させることができる。これらの基は、固相の表面に既に存在していてもよく、又は適切な方法で導入することもできる。したがって、本発明によれば、元々官能基を含むクロマトグラフィー固相(グリシジル含有ポリメタクリレート等)を使用するか、又は当業者に知られている表面修飾によって適切な官能基を導入することができるクロマトグラフィー支持体を使用することができる。これに関連して、既知の表面修飾の例としては、置換反応及び付加反応、官能性エポキシド、活性化酸又は活性エステルとの反応、プラズマ処理、eビーム(電子ビーム)処理、ガンマ線照射、コーティング、加水分解、アミノリシス、酸化、還元、官能性カルベン及び/又はニトレンとの反応による活性化等が挙げられる。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、固相は、天然又は合成繊維、(ポリマー)膜、天然又は合成多孔質粒子、天然又は合成非多孔質粒子、天然又は合成灌流ベース粒子、天然又は合成モノリス固体支持体、ポリマーゲル、フィルム、不織布及び織布で構成される群から選択される少なくとも1つの材料を含む。固相は、有機材料であってもよく、又は無機材料であってもよい。好ましい実施形態では、固相は、有機ベースのモノリス固体支持体又は膜である。
【0020】
固相の材料として使用することができる天然繊維又は合成繊維の例としては、電界紡糸セルロース繊維(Cytiva製の「Fibro」等)、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されるAllasso Industries社製の「Winged Fibers」又はポリエチレンテレフタレートで構成されるFiber Innovation Technology社製の「4DG(商標)Fibers」等)、並びに構造化成分としてセルロース誘導体、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、スルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)及びポリスルホンを含む繊維が挙げられ、これらの材料は個別に又は対応する組み合わせで使用することができる。
【0021】
固相の材料として使用することができる(ポリマー)膜の例としては、構造化成分として、セルロース、セルロース誘導体、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、スルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、及びポリスルホンを含む膜が挙げられ、これらの材料を、単独で又は対応する組み合わせで使用することができる。好ましくは、セルロース及びセルロース誘導体をベースとする膜、特にセルロース水和物膜、又はポリエチレン膜が使用される。
【0022】
固相の材料として使用することができるポリマーゲルの例としては、アガロース、デキストラン、セルロース、ポリメタクリレート、ポリビニルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリスチレン-ジビニルベンゼン共重合体、シリカデキストラン、アガロースアクリルアミド、及びデキストランアクリルアミドが挙げられる。
【0023】
固相の材料として使用することができるフィルム及び織布の例としては、(ポリマー)膜に使用できる上述のポリマー材料で構成されるフィルム及び織布が挙げられる。固相の材料として使用することができる不織布の例としては、ポリエステル/ポリプロピレン/ポリアミド不織布(Freudenberg社製の「Pluratexx 2317 S」等)、及び(ポリマー)膜に使用することできる上記のポリマー材料が挙げられる。
【0024】
モノリス固体支持体の例としては、例えば、ポリ(グリシジルメタクリレート-コ-エチレンジメタクリレート)で構成される単一ポリマー混合物、又はポリスチレン-ジビニルベンゼンで構成される単一ポリマー混合物から合成される成形モノリスが挙げられる。特定の例は、Sartorius BIA Separations製のCIMモノリシッククロマトグラフィーカラムである。別の例は、いわゆるハイドロゲルであり、これはまずマクロ骨格としてモノリスを合成し、その上に二次的な配位子担持ポリマー相を合成したものである。固体支持体を、クロマトグラフィーの実施を容易にするために、ハウジング内に設けてもよい。
【0025】
上記の材料は、マルチモーダル配位子を本質的に含んでもよく、又はマルチモーダル配位子で官能基化されてもよい。マルチモーダル配位子の結合は、非共有結合又は共有結合を介して達成され得て、好ましくは共有結合が使用される。本発明によれば、少なくとも1つの含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子は、固相を形成するように、固相の材料の表面に直接又は高分子スペーサー要素を介して結合される。
【0026】
本発明の方法において使用される固相において、マルチモーダル配位子は、好ましくは、固相の材料の表面とマルチモーダル配位子との間に高分子スペーサー要素を介して結合され、固相を形成する。固相の材料の表面とスペーサー要素との間の結合は、好ましくは、もともと存在する官能基を介して、又は固相の表面修飾によって生成された官能基を介して起こるか、又は起こっている。固相の材料の表面と固相中のマルチモーダル配位子との間の結合ユニットとしての役割を果たし得る高分子スペーサー要素により、有利には、標的物質に対する高い結合能を可能にする高い配位子密度を得ることができる。
【0027】
本発明の意味において、「マルチモーダル」という用語は、配位子が2つ以上の異なる官能基を含むため、異なる化学的及び/又は物理的メカニズムに基づいて標的一本鎖RNA分子との相互作用を経て、その結果、標的一本鎖RNA分子が固相に結合することを意味すると理解される。これらの相互作用の例としては、疎水性相互作用、静電相互作用、イオン性相互作用、水素結合、及びπ-π相互作用が挙げられる。
【0028】
pKaは酸解離定数(酸性度定数又は酸イオン化定数とも呼ばれる)であり、溶液中の酸の強さの定量的尺度である。本出願の範囲におけるpKaは、含窒素複素環の一部である官能基の半分が正に帯電し、半分が帯電していない、標準条件におけるpH値として定義される。マルチモーダル配位子のpKa値は、例えば、周囲温度での電位差滴定によって決定することができる。
【0029】
本発明によれば、マルチモーダル配位子は、4.0~8.5のpKa値を有し、少なくとも1つの含窒素複素環を含む。本発明によれば、4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子とは、少なくとも1つの含窒素複素環が、共役酸のpKa値が4.0~8.5の範囲にある少なくとも1つの窒素原子を有することを意味する。
【0030】
含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子は、3つの重要な理由により、化学的に類似したRNA/DNA種の分離を微調整できるマルチモーダル相互作用が可能である:
【0031】
第1に、含窒素複素環を含むマルチモーダル配位子は、特定のpHで中性又は正に帯電することができる。それらのpKa値は、環内の窒素原子の数及び位置、並びに環の大きさに依存する。本発明によれば、環構造は、固相に結合したときのマルチモーダル配位子のpKaが4.0~8.5となるようなものである。好ましい実施形態において、pKa値は5.0~8.0である。マルチモーダル配位子の電荷は、pHによって変化する。pHがpKa未満の場合、マルチモーダル配位子は正に荷電している(核酸に対する「結合モード」)。pHがマルチモーダル配位子のpKa値より2単位高くなると、電荷は実質的にゼロまで減少する(「溶出モード」)。正電荷は、固相上のマルチモーダル配位子に含まれる含窒素複素環が核酸の骨格、特に負に帯電したリン酸骨格と相互作用するのを助ける。一本鎖RNA分子は高いpH条件に長時間曝露されると不安定になるため、電荷スイッチポイントが中性pHに近いかそれよりわずかに低いことが、最適な溶出条件のための重要な特徴である。結合した核酸の溶出は、ランニングバッファーの導電性を一定に保ちながら、マルチモーダル配位子のpKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配によって達成される。別の実施形態では、上昇pH勾配は、上昇する塩勾配又は下降する塩勾配と組み合わせて行われる。したがって、中性pH範囲での溶出が可能である。
【0032】
本発明によれば、マルチモーダル配位子のpKa値に近いpH勾配とは、マルチモーダル配位子のpKa値未満のpH値から開始し、マルチモーダル配位子のpKa値に近いがマルチモーダル配位子のpKa値に達しないpH値で終了するpH勾配である。同様に、マルチモーダル配位子のpKa値を越えるpH勾配とは、マルチモーダル配位子のpKa値未満のpH値から開始し、マルチモーダル配位子のpKa値と等しいか又はそれよりも高いpH値で終了するpH勾配である。
【0033】
第2に、含窒素複素環は、核酸残基と水素結合を形成することができる。この相互作用の様式は、結合の強さを微調整し、mRNA、直鎖DNA(linDNA)、dsRNA、pDNA等のそれ以外は化学的に非常に類似した種を分離するのに役立つが、これはそれぞれの種が異なるプロファイル及び水素結合の可能性を持っているためである。水素結合の相対的な強さはpHが低いほど高いため、優先的な溶出メカニズムとして上昇pH勾配が可能になる。しかしながら、このタイプの相互作用は、第四級アンモニウム基では不可能である。
【0034】
第3に、含窒素複素環は芳香族性を有し得るため、塩排除条件下で核酸の芳香族塩基と疎水性相互作用を示すことがある。塩排除に基づく相互作用の可能性は「鎖の柔軟性」に大きく影響され、ssRNA(mRNA)の方が二本鎖の相対物であるdsRNA及びlinDNAに比べて高く、これは、構造上はるかに硬く、疎水性相互作用の可能性を溝に限定する。
【0035】
塩排除に基づく相互作用の相対的強度は、含窒素複素環の脱プロトン化により、pHが高いほど高くなる。したがってpH勾配は、相対的な疎水性に基づく核酸種の分離を可能にする。
【0036】
したがって、本発明の方法は、少なくとも核酸分子をその電荷及び水素結合形成能力に基づいて選択的に分離することができる。本発明の方法は更に、疎水性相互作用によって核酸を分離することができる。
【0037】
好ましい実施形態において、含窒素複素環は、芳香族含窒素複素環である。この場合、マルチモーダル配位子は、更に核酸分子の芳香族特性に感受性である。
【0038】
特に、芳香族含窒素複素環の重要な態様は、電荷を非局在化する能力であり、かかる能力を持たない第一級、第二級、第三級、第四級のアンモニウム配位子を含む他のアミン配位子と比べて、相互作用特性が変化する。
【0039】
本発明によれば、マルチモーダル配位子のpKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配が使用される。従来、タンパク質のバイオクロマトグラフィーで使用されるpH勾配は、固定相が帯電して安定なpH範囲内で、マルチモーダル配位子のpKaを越えないように適用される。したがって、アニオン交換体では、電気陰性タンパク質が正に帯電した固定相に結合する高いpHから開始し、次いで、タンパク質が、より電気陽性になり静電反発によって溶出するまでpHを下げることが望ましい。初期pH値及び最終pH値は、いずれもマルチモーダル配位子のpKa未満である。分離メカニズムは、分子のそれぞれの等電点(pI)に従って、分析物の電荷の変化に従う。しかしながら、核酸のpIは非常に低く(2~3)、RNA分子とDNA分子では同様であるため、この原理は核酸では機能しない。
【0040】
本発明によれば、マルチモーダル配位子は、4.0~8.5のpKa値を有する。マルチモーダル配位子のpKaに近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用すると、マルチモーダル配位子は電荷を失い、それによってマルチモーダル配位子と核酸との間の相互作用が低下する。強力なアニオン交換体では、それらは電荷を失わないため、このメカニズムは不可能である。一方、pKaが8.5を超える単純なアミン配位子(例えば、ジエチルアミノエチル、ジエチルアミノプロピル等)のような弱いアニオン交換体では、核酸の脱離は高いpH(10超)で起こる。かかるアルカリ性pHに長時間曝露されると、一本鎖RNAの化学的安定性が低下するため望ましくない。本発明によれば、マルチモーダル配位子は4.0~8.5のpKa値を有するため、中性又は弱酸性の条件下で正電荷から中性電荷に遷移する。これにより、核酸、特にmRNAが比較的安定な弱酸性/中性から弱アルカリ性pH(pH9未満)での核酸の溶出が可能になる。さらに、特定の条件下では、物質は、pKaより1pH単位高いところでは、正に帯電した基の10%をまだ維持していることから、mRNA及び他の核酸もpKaを超えるpH値で固相に結合することができる。したがって、pKa値を超えて開始するため、pKa値を越えない、又はpKa値近くのpH勾配で核酸を分離することは技術的に可能である。しかしながら、このアプローチの実際的な限界は、核酸を結合できるリガンド基が少ないため、固相の結合能が低くなることである。
【0041】
ここで、電荷遷移は核酸を溶出させるが、それだけではDNA分子又はRNA分子の異なるグループ間の実質的な分離を達成するには不十分であるということを強調することが重要である。このため、これらの非常に類似した化学種の分離を微調整し、改善するためには、更なるマルチモーダルな相互作用が必要である。
【0042】
したがって、本発明は、特異的なマルチモーダル配位子と上昇pH勾配の組み合わせに基づく核酸分離を提供する。配位子の電荷損失が起こるpH範囲にわたって上昇勾配を使用することは、水素結合、塩排除及び疎水性に基づく相互作用、並びにその他の上述の相互作用に影響を与えると共に、「結合」と「溶出」の明確な操作モードを可能にし、それにより類似種(RNA及びDNA)が細かく分離される。
【0043】
本発明によれば、他の核酸からのssRNAの分離は、少なくとも部分的には、マルチモーダル配位子に含まれる含窒素複素環の共役酸の孤立電子対又は酸性水素と、核酸上の種々の官能基との間の水素結合に基づく。これらの相互作用はpHが低いほど強くなるため、上昇勾配によって結合分子の脱離が可能になる。dsRNA/DNA分子は、塩基が対になっており、その結果二重らせんのコアに隠れている。さらに、二本鎖種はより強固であり、マルチモーダル配位子が結合した固相表面に容易に適合することができず、結果として固相との弱い相互作用を有する。また、塩基対合した塩基は、固相上でマルチモーダル配位子との水素結合相互作用に十分利用できないため、dsRNA/DNAは静電相互作用を通じて固相とより大きく相互作用する。これは核酸塩基がより多く露出するため、固相と分析物の間の水素結合の寄与が相対的に大きくなるssRNA及びssDNAとは対照的であり、このためssRNA及びssDNAの支持体からの脱離が遅れる。
【0044】
本発明によれば、含窒素複素環は、限定するものではないが、酸素及び/又は硫黄等の他のヘテロ原子を更に含んでもよい。含窒素複素環は、好ましくは、プリン、ピリミジン、ピリジン、ジアゾール、トリアゾール、モルホリン及びテトラゾール、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される。かかる化合物の例としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、キノリン、イソキノリン、及びインドリンが挙げられる。
【0045】
更に好ましい実施形態において、含窒素複素環は、イミダゾール、イミダゾール誘導体、ピリジン及びピリジン誘導体からなる群から選択される。好ましいイミダゾール誘導体としては、ヒスチジン及びヒスタミンが挙げられる。好ましいピリジン誘導体は、4-メルカプトピリジンである。
【0046】
好ましくは、本発明による固相は、1種類のマルチモーダル配位子のみを含み、これは同一の配位子のみが固相に含まれることを意味する。これにより固相の官能基化が容易になり、標的物質が各マルチモーダル配位子に同じように結合するため、標的一本鎖RNA分子を溶出する際により高い分解能を可能とする。したがって、標的物質は全てのマルチモーダル配位子から同様の条件で脱離する。
【0047】
本発明の方法によれば、工程b)として、固相に標的ssRNAを含む試料をロードする。標的ssRNAは、本発明の方法によって他の核酸種から分離することを意図したssRNAである。
【0048】
標的ssRNAのサイズ及びコンフォメーションは、特に限定されない。典型的には、標的ssRNAは、1000塩基~25000塩基の長さのサイズを有する。同様に、標的ssRNAのコンフォメーションは特に限定されず、標的ssRNAは直鎖状、環状等の種々のコンフォメーションで存在し得る。本発明の好ましい実施形態において、標的ssRNAのサイズ及びコンフォメーションは1つの試料を通して同一である。これにより、標的ssRNAを1つの溶出ピークで明確に分離し、溶出することができる。
【0049】
標的一本鎖RNA分子を含む試料は、例えば、in vitro転写プロセスの結果であってもよく、又は細胞懸濁液のアルカリ溶解の結果であってもよい。さらに、標的一本鎖RNA分子を含む試料は、化学合成の結果であってもよく、又は生物学的試料に由来するものであってもよい。試料は得られたものをそのまま使用してもよく、又はタンパク質及びその他の非核酸分子を除去するために前精製プロセスに供してもよい。
【0050】
更に好ましい実施形態において、標的一本鎖RNA分子は、mRNA分子である。
【0051】
ssRNAに加えて、固相にロードされる試料は、他の核酸種として、一本鎖DNA分子、二本鎖DNA分子、二本鎖RNA分子、及びプラスミドのうちの1つ以上を含み得る。試料はまた、他の生物学的分子(炭水化物、脂質、タンパク質等)及び/又は低分子有機化合物(ヌクレオチド、糖等)を含有し得る。
【0052】
試料を固相にロードする前に、試料を適切なpH値に平衡化してもよい。ここで選択されるpH値は、使用される固相と、固相に含まれるマルチモーダル配位子の種類に依存する。好ましくは、試料は、固相に含まれるマルチモーダル配位子の理論的又は決定されたpKaより2単位低いpH値に平衡化される。
【0053】
使用するバッファーの種類は特に限定されず、上記のpH条件を満たすものであれば、液体クロマトグラフィーに使用される従来のバッファーを使用することができる。使用されるバッファーとしては、とりわけ、TRIS、ビス-TRIS-プロパン、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、リン酸塩、酢酸塩を挙げることができる。さらに、平衡化バッファー及びローディングバッファーは、必要に応じて、本明細書において以下に記載されるような添加物を含んでもよい。
【0054】
さらに、固相に試料をロードする前に、固相を適切なpH値、好ましくはマルチモーダル配位子の理論的又は決定されたpKa値より2単位低いpH値に平衡化し、マルチモーダル配位子の電荷及び容量を最大にすることができる。好ましい実施形態では、固相は固相にロードされる試料と同じpH値に調整される。こうすることで、試料と固相との間の酸塩基反応を避けることができる。
【0055】
加えて、又は代替案として、平衡化バッファー及び/又はローディングバッファーに種々の塩を含めることが好ましい。例えば、50mMリン酸ナトリウム又は塩化ナトリウムをバッファーに含めてもよい。
【0056】
試料をロードした後、未結合の種を、清浄な平衡化バッファーで固相をすすぐことによって洗い流すことができる。この平衡化バッファーは、好ましくは、固相及び試料溶液を平衡化するために使用されたバッファーと同じ組成を有する。
【0057】
未結合の種を洗い流す最初の洗浄工程の後、固相が平衡化されたpH値より高いpH値であるが、標的ssRNAの溶出pH未満で、第2の洗浄工程を適用してもよい。この洗浄工程は、標的ssRNAよりも固相への結合が緩やかな他の核酸又はタンパク質等の汚染物質を除去することができる。
【0058】
加えて、又は代替案として、タンパク質及び/又は他の汚染種を選択的に溶出するが、標的ssRNAは溶出しないように、高塩濃度を有するバッファーで第2の洗浄工程を実施してもよい。例えば、高いNaCl濃度(0.2M超)で洗浄すると、ゆるく結合したいくつかの汚染物質、例えば、dsRNA分子及びdsDNA分子を表面から溶出させることができる。洗浄バッファー中の塩の濃度は、溶出バッファーのイオン強度と比較して、高いイオン強度又は低いイオン強度を有することができる。
【0059】
本発明の方法の最終工程では、マルチモーダル配位子のpKaに近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用することにより、標的一本鎖RNA分子を選択的に分離し、溶出する。この上昇pH勾配は、連続的な方法、段階的な方法、又は連続的な部分と段階的な部分とを含む方法で適用され得る。
【0060】
溶出バッファーは、試料及び固相を平衡化するために使用されるバッファーと同様の組成を有してもよく、少なくともそのpH値が異なる。さらに、塩濃度及び/又はバッファーに含まれる塩の種類、導電率及び/又は添加される添加物が異なる場合がある。
【0061】
上記で概説したように、マルチモーダル配位子のpKaに近づくか又はそれを越える溶出バッファーのpH値を上げると、マルチモーダル配位子は徐々に正電荷を失い、それにより核酸種に対するイオン交換結合力が低下する。しかしながら、この電荷損失は、pKa値を越えるときに、全てのマルチモーダル配位子で同時に協調的に起こるのではなく、その変化は、マルチモーダル配位子のpKa値付近で、正電荷から中性への、マルチモーダル配位子の統計的な遷移を表している。電荷損失のpH範囲は、マルチモーダル配位子分子の99%が正に帯電している配位子のpKa値より約2pH単位低いところから、マルチモーダル配位子分子の99%が帯電していない配位子のpKa値より約2pH単位高いところまでである。pKaは固定値ではなく、温度、バッファー組成、塩濃度、固定化されたマルチモーダル配位子の密度等に依存するため、配位子が電荷を失う最適なpH範囲は実験的に決定する必要がある。上記の観点から、pH勾配の開始値及び終了値は、pH勾配が上昇する限り、すなわち、最初のpHよりも低いpHから開始し、高いpHで終了する限り、特に限定されない。しかしながら、これは必ずしも、pH勾配がpKa値の範囲の真ん中を越えることを意味しない。
【0062】
固相と核酸との間の静電的、水素結合的及び疎水的相互作用の累積効果により、標的一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離することができる。
【0063】
好ましい実施形態では、pH勾配はマルチモーダル配位子のpKa値より下から始まり、pKa値より上で終わり、pH勾配はおよそ4pH単位で達成される。しかしながら、これは必ずしも、pH勾配がpKa値の真ん中を越えることを意味しない。
【0064】
本発明の一実施形態において、標的一本鎖RNA分子の分離及び溶出は、上昇pH勾配と組み合わせて追加の上昇塩勾配を適用することによって行われる。塩濃度の増加は、マルチモーダル配位子と核酸種との間の静電的相互作用を減少させ、したがって標的一本鎖RNAの溶出に必要なpHを低下させるため、この変化は本発明の方法の分離効率を更に高めることができる。
【0065】
本発明の一実施形態において、標的一本鎖RNA分子の分離及び溶出は、塩濃度を維持しながら上昇pH勾配を適用することにより行われ、初期pHでは標的ssRNAは溶出しない。例えば、2Mまでの塩濃度のNaCl又は他の種類の塩を採用してもよい。塩の存在は生体分子とマルチモーダル配位子との間の静電的相互作用を弱めるため、この変化は標的ssRNA分子の溶出pHを低下させる可能性がある。
【0066】
使用する塩は特に限定されず、従来からクロマトグラフィーに使用されている任意の塩を採用することができ、Hofmeisterシリーズからの任意のイオンを含む。好ましくは、塩は、一価又は二価の塩である。塩のカチオンは、好ましくは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン及び窒素ベースのカチオンから選択される。塩のアニオンは、好ましくは、ハロゲンアニオン(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物等)、又は無機酸アニオン(例えば、リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、炭酸塩等)、又は有機酸アニオン(酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩等)から選択される。具体的な実施形態では、塩はNaHPO又はNaClである。
【0067】
本発明による方法では、溶出種間の分解能を高め、分離選択性を向上させるために、Mg2+、Zn2+、Ca2+等の多価カチオンをローディングバッファー及び溶出バッファーに添加してもよい。
【0068】
さらに、本発明による方法では、溶出種間の分解能を高め、分離選択性を変化させるために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、トリス(2-アミノエチル)アミン(TREN)等の金属キレート剤をローディングバッファー及び溶出バッファーに添加してもよい。
【0069】
さらに、本発明による方法では、生体分子自体の間及び/又は固相と生体分子との間の相互作用を変化させる添加物を、ローディングバッファー及び/又は溶出バッファーに添加してもよい。かかる添加物の例としては、アミノ酸(例えばアルギニン)、炭水化物(例えばソルビトール)、変性剤(例えば尿素、グアニジン)、有機酸、含窒素複素環(例えばイミダゾール)及び有機溶媒(例えばイソプロパノール)が挙げられる。
【0070】
上記で概説したように、記載される方法は、二本鎖RNA分子をサイズにより分離することも可能である。したがって、本発明は、二本鎖RNA分子をサイズによって分離する方法であって、
a)4.0~8.5のpKa値を有するマルチモーダル配位子を含む固相を準備する工程であって、マルチモーダル配位子が含窒素複素環を含む、工程と、
b)固相に試料をロードする工程であって、試料が、長さの異なる2以上の二本鎖RNA分子を含む、工程と、
c)マルチモーダル配位子のpKa値に近づくか又はそれを越える上昇pH勾配を適用することにより、二本鎖RNA分子をサイズにより分離し溶出する工程と、
を含む、方法を更に含む。
【0071】
この方法の更なる変形形態は、上述の一本鎖RNA分子を他の核酸種から分離する方法について記載したものと同じものを含む。
【0072】
要約すると、本発明の方法は、分析的又は分取的用途を行う目的で採用され得る。特定のクロマトグラフィー条件及び種々のDNA/RNA種間の分離の程度は、核酸のコンフォメーション及び長さ、また使用する配位子の違いによって異なる場合がある。これは、高分解能化(分析)及び/又は生物学的分子の高純度化(分取スケール)を達成することを目的とした、より効率的な分離に利用することができる。
【0073】
本発明を以下の実施例において更に説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0074】
実施例1:ヒスタミン修飾モノリスの調製
ヒスタミン修飾モノリスを、以下の例示的な手順を用いて調製した。簡潔には、0.1mL CIMmic-CDIモノリス(Sartorius BIA Separations d.o.o.、カタログ番号103.8000-2)を用い、カルボキシイミダゾール(CDI)活性化化学を介してヒスタミンをモノリスに固定化した。固定化手順は、ヒスタミン溶液(10gのヒスタミン二塩酸塩を100mlの1.0M NaOHに溶解)をモノリスカラムにポンプを使用して通し、続いてカラムを48時間にわたって25℃に温度を調節することからなるものであった。修飾後、モノリス表面を0.5M NaOHに曝露し、残存するCDI基を不活性化させた。
【0075】
実施例2:周囲温度での上昇pH勾配によるヒスタミン修飾モノリスを用いたmRNAからのdsRNA及びプラスミドdsDNAの分離
0.1mLのモノリス型クロマトグラフィー装置の形態のヒスタミン修飾固相を、PATfix HPLCシステム(Sartorius BIA Separations d.o.o)と組み合わせて使用した。システムを周囲温度で作動させた。ヒスタミンモノリスを10mM Tris、10mM BTP、pH6.0で平衡化した。21bpから500bpの範囲のdsRNAラダー分子、7300bpのプラスミドdsDNA、1000bp mRNA ssRNAを含む試料を、10mM Tris、10mM BTP、pH6.0中に希釈して調製し、ヒスタミン修飾モノリスに適用した。次いで、10mM Tris、10mM BTP、pH6.0で5CV洗浄を適用し、モノリス内のチャネルから未結合物質を取り除いた。次いで、モノリスを10mM Tris、10mM BTP、pH9.5へのリニアグラジエントにより、周囲温度で10CV/分の流量にて、100CVで溶出した。
【0076】
図1に示すように、全てのdsRNA分子及びプラスミドdsDNAは、mRNA ssRNAが結合したままのpHで溶出した。mRNA ssRNAは、dsRNA分子及びプラスミドdsDNAよりも高いpH値で溶出した。試料中に存在するヌクレオチドを更に分離することで、dsRNA分子間でいくつかのサイズ分離が観察され、これは、核酸ポリマーと比較して相互作用がはるかに弱いため、他の核酸分子と同様に、より低いpHで溶出した。分離に使用した全ての核酸の溶出回収率は、85%より高かった。
【0077】
実施例3:周囲温度での上昇pH勾配によるヒスタミン修飾モノリスを用いたdsRNA及びNTPのサイズ分離
0.1mLモノリス型クロマトグラフィー装置の形態のヒスタミン修飾固相を、PATfix HPLCシステム(Sartorius BIA Separations d.o.o)と組み合わせて使用した。システムを周囲温度で作動させた。ヒスタミンモノリスを10mM Tris、10mM BTP、20mM塩化グアニジニウム、pH6.0で平衡化した。21bpから500bpの範囲のdsRNAラダー分子(NEB、N0363S)、又は個々のヌクレオチド三リン酸(NTP)であるアデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP)及びウリジン三リン酸(UTP)を含有する試料を、10mM Tris、10mM BTP、20mM塩化グアニジニウム、pH6.0中で希釈して調製し、ヒスタミン修飾モノリスに適用した。次いで、10mM Tris、10mM BTP、20mM塩化グアニジニウム、pH6.0による洗浄を適用し、モノリス内のチャネルから未結合物質を取り除いた。次いで、モノリスを10mM Tris、10mM BTP、20mM塩化グアニジニウム、pH9.5へのリニアグラジエントにより、周囲温度で10CV/分の流量にて、100CVで溶出した。
【0078】
図2に示されるように、dsRNA分子のサイズ分離を改善するために、カオトロピックグアニジニウムを分離手順全体に含めた。プリンNTPはピリミジンNTPと明らかに分離し、プリンNTPはより高いpH値で溶出する。さらに、NTPは、NTPよりも低いpH値で溶出する微量ヌクレオチド二リン酸(NDP)から分離する。
【0079】
以上のことから、本発明の方法は、最終生成物であるssRNAを鋳型分子であるdsDNA及び反応基質として使用されるヌクレオチドから分離するため、IVT反応によるssRNA産生のモニタリングに適用することができる。
【0080】
実施例4:4-メルカプトピリジン修飾モノリスの調製
4-メルカプトピリジン修飾モノリスを、エポキシド担持CIMモノリス(Sartorius BIA Separations d.o.o.)に4-メルカプトピリジンを共有結合させることにより調製した。簡潔には、0.1mL CIMmicエポキシモノリス(Sartorius BIA Separations d.o.o.)を用い、エポキシ活性化化学を介して4-メルカプトピリジンをモノリスに固定化した。固定化手順は、4-メルカプトピリジン溶液(96%EtOH中10%(v/v)4-メルカプトピリジン溶液)をモノリスカラムにポンプを使用して通し、続いてカラムを48時間にわたって50℃に温度を調節することからなるものであった。修飾後、モノリス表面を0.5M HSOに65℃で5時間曝露し、残留エポキシ基を不活性化させた。
【0081】
実施例5:周囲温度での上昇pH勾配による4-メルカプトピリジンモノリスを用いたmRNAからのプラスミドdsDNAの分離
0.1mLモノリス型クロマトグラフィー装置の形態の4-メルカプトピリジン修飾固相を、PATfix HPLCシステム(Sartorius BIA Separations d.o.o)と組み合わせて使用した。システムを周囲温度で作動させ、結果を図3に示す。4-メルカプトピリジンモノリスを10mM MES、10mM HEPES、7%(v/v)イソプロパノール、pH5.5で平衡化した。プラスミドdsDNA及びmRNAを含む試料を、10mM MES、10mM HEPES、7%(v/v)イソプロパノール、pH5.5中に希釈して調製し、4-メルカプトピリジン修飾モノリスに適用した。次いで、10mM MES、10mM HEPES、7%(v/v)イソプロパノール、pH5.5による洗浄を適用し、モノリス内のチャネルから未結合物質を取り除いた。次いで、モノリスを10mM MES、10mM HEPES、7%(v/v)イソプロパノール、pH8.0へのリニアグラジエントにより、周囲温度で10CV/分の流量にて、100CVで溶出した。
【0082】
配位子の疎水性が比較的高いため、核酸の溶出形状を改善するために、イソプロパノールを分離手順に含めた。この実施例は、本発明の方法がピリジンベースのマルチモーダル配位子にも適用可能であることを実証するが、これに限定されるものではない。さらに、この実施例は、バッファー組成及びpHを含む分離条件を、異なる配位子の特性に合うように調整できることを実証する。
【0083】
実施例6:周囲温度での塩洗浄によるCIM PrimaHモノリスを用いたmRNAからのプラスミドdsDNAの分離
0.1mLクロマトグラフィー装置の形態のCIM PrimaHモノリスをPATfix HPLCシステム(Sartorius BIA Separations d.o.o)と組み合わせて使用した。システムを流量1mL/分及び周囲温度で作動させ、結果を図4に示す。モノリスを20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0で平衡化した。プラスミドdsDNA又はmRNAを含む試料を、20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0中に希釈して調製し、CIM PrimaHモノリスに適用した。次いで、20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0による洗浄を適用し、モノリス内のチャネルから未結合物質を取り除いた。溶出を2つの方法で行った。まず、プラスミドdsDNAを20CVの20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、1M NaCl、pH5.0による塩洗浄により溶出した。次に、25CVの20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0でカラムを平衡化した。最後に、mRNAを50CVの20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH7.5のステップpH勾配で溶出した。
【0084】
実施例7:周囲温度でのpHと塩勾配との組み合わせによるCIM PrimaHモノリスを用いたプラスミドdsDNA及びmRNAの分離
0.1mLクロマトグラフィー装置の形態のCIM PrimaHモノリスをPATfix HPLCシステム(Sartorius BIA Separations d.o.o)と組み合わせて使用した。システムを流量1mL/分及び周囲温度で作動させ、結果を図5に示す。モノリスを20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0で平衡化した。プラスミドdsDNA又はmRNAを含む試料を、20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0中に希釈して調製し、CIM PrimaHモノリスに適用した。次いで、20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、pH5.0による洗浄を適用し、モノリス内のチャネルから未結合物質を取り除いた。次いで、モノリスを20mMクエン酸塩、20mMリン酸塩、150mM NaCl、pH7.5へのリニアグラジエントにより、周囲温度で10CV/分の流量にて、50CVで溶出した。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】