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特表2025-502508アイオノマーおよびプロトン交換膜用途の官能基化ポリベンゾイミダゾールポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】アイオノマーおよびプロトン交換膜用途の官能基化ポリベンゾイミダゾールポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/00 20060101AFI20250117BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250117BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20250117BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08G61/00
C08L101/00
C08L65/00
C08K3/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543923
(86)(22)【出願日】2023-01-25
(85)【翻訳文提出日】2024-09-05
(86)【国際出願番号】 US2023011508
(87)【国際公開番号】W WO2023146885
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】63/302,755
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522422218
【氏名又は名称】1エス1 エナジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】1S1 ENERGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】スカンタ バッタチャリャ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ソベク
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
【Fターム(参考)】
4J002AB01X
4J002AH00X
4J002BD15X
4J002CE00W
4J002CE00X
4J002DH056
4J002FD140
4J002GQ00
4J032BA12
4J032BA25
4J032BB01
4J032BB04
4J032BB06
4J032BD01
4J032BD05
4J032CG08
(57)【要約】
イオン交換官能基化ポリマー分子は、主鎖、側鎖、またはその両方の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を有する繰り返し単位を含む。イオン交換官能基化ポリマー分子は、繰り返し単位に連結されたイオン交換基も含む。イオン交換基は、4価のホウ素基または金属フッ化物であってもよく、また金属フッ化物は、多価の金属原子であってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換官能化ポリマー分子であって、
ベンゾイミダゾール単位を主鎖、側鎖またはその両方の少なくとも一部として含む繰り返し単位と、および
前記繰り返し単位に連結されたイオン交換基であり、前記イオン交換基は4価のホウ素基または金属フッ化物からなり、前記金属フッ化物は多価金属原子からなるものである、前記イオン交換基と、
を備える、イオン交換官能基化ポリマー分子。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記繰り返し単位の繰り返しは4F-PBIを構成する、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン交換官能基化ポリマー分子において、前記イオン交換基は4価のホウ素基を含む、イオン交換官能基化ポリマー分子。
【請求項4】
請求項3に記載のイオン交換官能基化ポリマー分子において、前記4価のホウ素基は3フッ化ホウ素基を含む、イオン交換官能基化ポリマー分子。
【請求項5】
請求項3に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記4価のホウ素基は、一般式-BXを有し、ここで、各Xは、独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、シアノ基、またはペンタフルオロフェニル基を含むものである、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項6】
請求項3に記載のイオン交換官能基化ポリマー分子において、前記4価のホウ素基のホウ素原子は、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子に共有結合している、イオン交換官能基化ポリマー分子。
【請求項7】
請求項1に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記イオン交換基は金属フッ化物を含む、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記多価金属原子は、第4族金属、第13族金属、または第14族金属を含む、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項9】
請求項7に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記多価金属原子は、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、またはスズ(Sn)を含む、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項10】
請求項7に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記多価金属原子は、第2級アミンの窒素原子に共有結合している、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項11】
請求項1に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記4価のホウ素基のホウ素原子または前記多価金属原子は、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子に共有結合している、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項12】
請求項1に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記イオン交換基は繰り返し単位のフェニル単位に結合している、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項13】
請求項1に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記イオン交換基は、リンカーを介して前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと連結している、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記リンカーは、アルキル鎖の骨格中に2~10個の原子を有するアルキル鎖を含む、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項15】
請求項14に記載のイオン交換官能化ポリマー分子において、前記リンカーがフッ素化されている、イオン交換官能化ポリマー分子。
【請求項16】
イオン交換官能化ポリマー分子を製造する方法であって、
イオン交換剤をポリマー分子の繰り返し単位と連結するステップであり、
前記ポリマー分子は、前記ポリマー分子の主鎖または側鎖の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を含み、また
前記イオン交換剤は、3価のホウ素化合物または金属フッ化物を含み、前記金属フッ化物は多価金属原子を含むものである、
前記イオン交換剤を繰り返し単位と連結するステップを備える、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記ポリマー分子がポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマー分子を含む、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記PBIポリマー分子は4F-PBIを含む、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法において、前記イオン交換剤は3価のホウ素化合物を含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記3価のホウ素化合物は3フッ化ホウ素を含む、方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法において、前記3価のホウ素化合物は、一般式-BXを有し、ここで、各Xが独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、シアノ基、またはペンタフルオロフェニル基を含む、方法。
【請求項22】
請求項19に記載の方法において、前記イオン交換剤を前記繰り返し単位と連結するステップは、前記3価のホウ素化合物のホウ素原子を、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子と共有結合させるステップを含む、方法。
【請求項23】
請求項16に記載の方法において、前記イオン交換剤は前記金属フッ化物を含む、方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記多価金属原子は、第4族金属、第13族金属、または第14族金属を含む、方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法において、前記多価金属原子は、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、またはスズ(Sn)を含む、方法。
【請求項26】
請求項23に記載の方法において、前記イオン交換剤を前記繰り返し単位と連結するステップは、前記金属フッ化物の前記多価金属原子を前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子と共有結合させるステップを含む、方法。
【請求項27】
請求項16に記載の方法において、前記イオン交換剤を前記繰り返し単位と連結するステップは、
前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと連結した中間リンカーを形成するステップであり、前記中間リンカーはペンダント酸基またはペンダントヒドロキシル基を含むものである、前記
中間リンカーを形成するステップと、および
前記イオン交換剤を前記ペンダント酸基または前記ペンダントヒドロキシル基と反応させるステップと、
を含む、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、前記ペンダント酸基はスルホン酸基を含む、方法。
【請求項29】
請求項27に記載の方法において、前記中間リンカーは、アルキル鎖の骨格中に2~10個の原子を有するアルキル鎖を含む、方法。
【請求項30】
請求項27に記載の方法において、前記中間リンカーを形成するステップは、連結剤を前記第2級アミンと結合させるステップを含む、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記連結剤はスルホン化化合物を含む、方法。
【請求項32】
請求項30に記載の方法において、前記連結剤はスルトンを含む、方法。
【請求項33】
請求項16記載の方法において、前記イオン交換剤を前記繰り返し単位と連結するステップは、
前記繰り返し単位のフェニル単位に連結されたペンダントスルホン酸基を含む中間リンカーを形成するプロセスと、および
前記イオン交換剤を前記中間リンカーの前記ペンダントスルホン酸基と反応させるステップと
を含む、方法。
【請求項34】
ポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーであって、
ベンゾイミダゾール単位からなる主鎖と、および
前記ベンゾイミダゾール単位に連結されたイオン交換基と
を備え、
前記イオン交換基は4価のホウ素基または金属フッ化物基を含み、各金属フッ化物基は多価金属原子からなるものである、
PBIポリマー。
【請求項35】
請求項34に記載のPBIポリマーであって、さらに、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと結合した側鎖を備え、
前記イオン交換基は側鎖に含まれるものである、
PBIポリマー。
【請求項36】
請求項34に記載のPBIポリマーイオン交換基は、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと結合した前記4価のホウ素基を含む、PBIポリマー。
【請求項37】
請求項34に記載のPBIポリマーにおいて、前記イオン交換基は、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと連結した前記金属フッ化物基を含む、PBIポリマー。
【請求項38】
4価のホウ素架橋によって第2のポリマーと架橋された第1のポリマーを備えるポリマー組成物であって、前記第1のポリマーは第1のポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーを含む、ポリマー組成物。
【請求項39】
請求項38に記載のポリマー組成物において、前記第1のPBIポリマーは、4F-PBIを含む、ポリマー組成物。
【請求項40】
請求項38に記載のポリマー組成物において、前記第2のポリマーは、第2のPBIポリマーを含む、ポリマー組成物。
【請求項41】
請求項38に記載のポリマー組成物において、前記第2のポリマーは、酸官能基化またはヒドロキシル官能基化ポリマーを含む、ポリマー組成物。
【請求項42】
請求項41に記載のポリマー組成物において、前記第2のポリマーは、ポリ(リン酸)(PPA)ポリマーを含む、ポリマー組成物。
【請求項43】
請求項38に記載のポリマー組成物において、前記4価のホウ素架橋は、前記第1のPBIポリマーのベンゾイミダゾール単位の窒素原子に共有結合したホウ素原子を含む、ポリマー組成物。
【請求項44】
請求項38に記載のポリマー組成物において、前記4価のホウ素架橋がフッ素化されている、ポリマー組成物。
【請求項45】
第1のポリマーおよび第2のポリマーを4価のホウ素架橋で架橋する方法であって、
前記第1のポリマー、前記第2のポリマー、および架橋剤を反応させるステップであり、
前記第1のポリマーは、主鎖の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を含む第1のポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーを含み、また
前記架橋剤は、ホウ酸、ボロン酸、またはボロン酸の誘導体を含む、
ものである、前記反応させるステップを備える、
方法。
【請求項46】
請求項45に記載の方法において、前記第1のPBIポリマーは4F-PBIを含む、方法。
【請求項47】
請求項45に記載の方法において、前記第2のポリマーは、第2のPBIポリマーを含む、方法。
【請求項48】
請求項45に記載の方法において、前記第2のポリマーは、酸官能基化またはヒドロキシル官能基化ポリマーを含む、方法。
【請求項49】
請求項48に記載の方法において、前記第2のポリマーは、ポリ(リン酸)(PPA)ポリマーを含む、方法。
【請求項50】
請求項45に記載の方法において、前記4価のホウ素架橋は、第1のPBIポリマーのベンゾイミダゾール単位の窒素原子に共有結合したホウ素原子を含む、方法。
【請求項51】
請求項45に記載の方法において、さらに、
前記4価のホウ素架橋体に対してフッ化物処理を行うステップを備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2022年1月25日に出願された米国仮特許出願第63/302,755号の優先権を主張するものであり、この出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本開示は、アイオノマーおよびプロトン交換膜用途の官能基化ポリベンゾイミダゾールポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
水素燃料電池および水電解システムなどの電気化学電池では、プロトンを選択的に輸送するためにプロトン交換膜(PEMs:proton exchange membranes)が使用される。プロトン交換膜(PEMs)は、プロトン(H)を輸送する半透膜であり、気体は透過しない。PEMsは一般に、強酸性の官能基を持つ多孔性骨格で構成されている。例えば、ポリフルオロスルホン酸ベースの電解質膜は、スルホン酸基を有するポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)多孔質骨格を含む。解離しやすいスルホン酸基は、膜中でプロトン輸送剤として機能する。水素燃料電池では、水素ガス(H)がアノードでプロトン(H)と電子に分離する。プロトンは電解質膜を通過し、カソードで酸素ガス(O)と結合して水を生成し、電子は外部回路を流れて電気を生成する。水の電気分解システムでは、電気がアノードで水を酸素ガス(O)とプロトン(H)に分解する。プロトンは電解質膜を通過し、カソードで電子と結合して水素ガス(H)を生成する。
【0003】
膜電極アセンブリ(MEA:membrane electrode assembly)は、第1の触媒層と第2の触媒層との間に配置された電解質膜を含むことができる。触媒層は、金属、金属合金、金属酸化物などの電気化学触媒が埋め込まれた導電性電極(アノードおよびカソード)である。触媒は、一般に導電性で高表面積の炭素(グラファイトまたはグラフェンなど)である触媒固体担体に結合していてもよい。電気化学触媒は、水電解用途における酸素発生反応(OER:oxygen evolution reaction)および水素発生反応(HER:hydrogen evolution reaction)、燃料電池用途における水素酸化反応(HOR:hydrogen oxidation reaction)および酸素還元反応(ORR:oxygen reduction reaction)など、電極での電気化学反応の実行に必要な活性化エネルギーを低減する。
【0004】
一部の用途では、触媒層はイオン伝導性ポリマーであるアイオノマーと混合された担持触媒を含む。アイオノマーは電極内の触媒を結合し、PEM上の触媒層を結合し、陽イオン(例えば、プロトン)の通路を提供し、陽イオン伝導性を向上させる。一部のMEAsでは、触媒層はPEMとは別に形成され、MEAスタック内のPEM上に積層される。他のMEAsでは、触媒層はPEM上にコーティングされ、触媒コーティング膜(CCMs:catalyst-coated membranes)を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PEMsおよびアイオノマー、そしてその中でプロトン輸送特性を担う分子官能基は、酸化還元ストレスという過酷な反応条件下でも堅牢であるべきである。水電解および燃料電池の用途でPEMsおよびアイオノマーとして使用される従来のポリマーは、そのほとんどがプロトン輸送剤としてスルホン酸官能基を含んでいる。解離しやすいスルホン酸基は、PEM中のプロトン輸送剤として機能する。しかし、水の電気分解および燃料電池の用途では、常温から高温、酸性の条件下で強い酸化還元化学反応を伴う。スルホン酸官能基は、主に硫黄の本質的な物理化学的特性により、電気化学的操作による酸化還元ストレスに耐える能力が限られている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の説明は、本明細書に記載される装置、組成物、および/または方法の1つまたは複数の態様の簡略化された要約を提示し、そのような態様の基本的な理解を提供することを目的とする。本概要は、全ての想定される態様の広範な概要ではなく、全ての態様の重要な要素または重要な要素を特定することも、いずれかまたは全ての態様の範囲を画定することも意図していない。その唯一の目的は、以下に提示されるより詳細な説明の前段階として、簡略化された形態で、本明細書に記載される装置、組成物、および/または方法の1つまたは複数の局面のいくつかの概念を提示することである。
【0007】
いくつかの例示的実施例において、イオン交換官能基化ポリマー分子は、主鎖、側鎖、またはその両方の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール基を含む繰り返し単位および繰り返し単位に連結されたイオン交換基を含み、イオン交換基は、4価のホウ素基または金属フッ化物からなり、金属フッ化物は、多価金属原子を備える。
【0008】
いくつかの例示的な実施例において、イオン交換官能化ポリマー分子を製造する方法は、イオン交換剤をポリマー分子の繰り返し単位と連結することを含み、前記ポリマー分子は、前記ポリマー分子の主鎖または側鎖の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を含み、前記イオン交換剤は、3価のホウ素化合物または金属フッ化物を含み、前記金属フッ化物は、多価の金属原子を含む。
【0009】
いくつかの例示的な実施例において、ポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーはベンゾイミダゾール単位を含む主鎖と、およびベンゾイミダゾール単位に連結されたイオン交換基を含み、イオン交換基は4価のホウ素基または金属フッ化物基を含み、各金属フッ化物基は多価金属原子を含む。
【0010】
いくつかの例示的な実施例において、ポリマー組成物は、4価のホウ素架橋によって第2のポリマーと架橋された第1のポリマーを含み、第1のポリマーは、第1のポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーを含む。
【0011】
いくつかの例示的な実施例において、第1のポリマーと第2のポリマーとを4価のホウ素架橋で架橋する方法は、第1のポリマー、第2のポリマー、および架橋剤を反応させることからなり、ここで第1のポリマーは、主鎖の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を含む第1のポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーからなり、架橋剤は、ホウ酸、ボロン酸、またはボロン酸の誘導体からなる。
【0012】
本明細書で説明する概念をより良く理解するために、様々な実施形態を、図面を参照して例示的にのみ説明する。図面は、様々な実施形態を例示し、本明細書の一部を構成する。図示された実施形態は単なる例示であり、本開示の範囲を限定するものではない。図面を通して、同一または類似の参照番号は、同一または類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための種々の例示的な反応スキームを示す。
図2】イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための種々の例示的な反応スキームを示す。
図3】イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための種々の例示的な反応スキームを示す。
図4A】イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための種々の例示的な反応スキームを示す。
図4B】イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための種々の例示的な反応スキームを示す。
図5】架橋剤としてホウ酸を使用して2つのPBIポリマー分子を架橋するための例示的な反応スキームを示す。
図6】架橋剤としてホウ酸を使用してPBIポリマー分子をヒドロキシル官能化PTFEポリマーと架橋するための例示的な反応スキームを示す。
図7】架橋剤としてアミノボロン酸を使用してPBIポリマー分子をヒドロキシル官能化PTFEポリマー分子と架橋するための例示的な反応スキームを示す。
図8】架橋剤としてホウ酸を使用してPBIポリマー分子をPPAポリマー分子と架橋するための例示的な反応スキームを示す。
図9】イオン交換官能化PBIポリマーを組み込んだ例示的なプロトン交換膜水電解システムを示す。
図10】イオン交換官能化PBIポリマーを組み込んだ例示的なプロトン交換膜燃料電池を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
イオン交換官能化ポリベンゾイミダゾール(PBI:polybenzimidazole)ポリマー、イオン交換官能化PBIポリマーの製造方法、およびイオン交換官能化PBIポリマーを使用するための方法および装置が、本明細書に記載される。本明細書に記載されるように、イオン交換官能化ポリマー分子は、繰り返し単位およびイオン交換基を含む。繰り返し単位は、主鎖、側鎖、またはその両方の少なくとも一部として、ベンゾイミダゾール単位を含む。イオン交換基は、前記繰り返し単位に連結されている。前記イオン交換基は、例えば、4価のホウ素基または多価の金属原子を有する金属フッ化物基であってよい。いくつかの例では、イオン交換基は、イオン交換基のホウ素原子または金属原子と第2級アミンの窒素原子との間の共有結合などによって、ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと直接結合している。他の例では、イオン交換基はリンカーを介して第2級アミンと間接的に結合している。さらなる例では、イオン交換基は、リンカーを介して繰り返し単位のフェニル単位に間接的に連結される。4価のホウ素基のホウ素原子または金属フッ化物基の多価原子は、拡大原子価を有し、したがって本質的にイオン性および酸性であり、イオン(例えば、プロトン)輸送剤として機能し得る。したがって、イオン交換官能基化PBIポリマーは、アイオノマーおよびPEM用途に使用することができる。
【0015】
また、本明細書では、4価のホウ素架橋を用いて、PBIポリマーを、別のPBIポリマー、官能化ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)分子、またはポリ(リン酸)(PPA)ポリマーなどの別のポリマーと架橋することも記載する。4価のホウ素架橋では、ホウ素原子は負の形式電荷を持つため、本質的にイオン性および酸性であり、イオン(例えば、プロトン)輸送剤として機能し得る。したがって、4価のホウ素架橋を有する架橋ポリマーは、アイオノマーおよびPEM用途に使用することができる。
【0016】
次に、本開示の様々な態様の理解を助けるために、様々な定義を規定する。本明細書で使用される場合、各用語または表現、例えばアルキル、m、nなどは、複数回使用される場合、本開示の他の箇所におけるその定義とは独立であることが意図される。参照により本明細書に組み込まれる特許出願または特許と矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先する。
【0017】
本明細書で使用される場合、「ポリマー(polymer)」とは、鎖長および/または特定の構造配置(例えば、モノマー単位の配向、末端基、および/または任意の側鎖または側基の位置および/または長さにおける不規則性)において同一サンプル内の他のポリマー分子と異なり得る同一ポリマー種のポリマー分子の混合物を含む、同一または異なるポリマー種のポリマー分子からなる物質を指す。「ポリマー(Polymer)」には、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、インターポリマーなどが含まれる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「ポリマー分子(polymer molecule)」または「高分子(macromolecule)」とは、相対分子量の高い分子を指し、その構造は、実際的または概念的に低相対分子量の分子(例えば、モノマー分子)に由来する単位(例えば、約100以上のモノマー単位)の比較的大きな繰り返しからなる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「重合(polymerization)」とは、モノマーまたはモノマーの混合物をポリマーに変換するプロセスを指す。
【0020】
本明細書で使用される場合、「オリゴマー(oligomer)」とは、オリゴマー分子からなる物質を指す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「オリゴマー分子(oligomer molecule)」とは、中程度の相対分子量の分子を指し、その構造は、実際的または概念的により低い相対分子量の分子(例えば、モノマー分子)に由来する、比較的小さい単位の繰り返し(例えば、約10~約100モノマー単位)からなる。
【0022】
本明細書で使用される場合、「オリゴマー化(oligomerization)」とは、モノマーまたはモノマーの混合物をオリゴマーに変換するプロセスを指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「アイオノマー(ionomer)」とは、アイオノマー分子からなるポリマーを指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「アイオノマー分子(ionomer molecule)」とは、構成単位の小さいが比較的有意な割合が、イオン化可能なまたはイオン性ペンダント基(本明細書に記載されるイオン交換基を含む)、またはその両方を有するポリマー分子を指す。一般に、イオン化可能なまたはイオン性ペンダント基を有する構成単位は、約15モルパーセント以下である。
【0025】
本明細書で使用される場合、「モノマー(monomer)」とは、モノマー分子からなる物質を指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「モノマー分子(monomer molecule)」とは、重合またはオリゴマー化を起こしてポリマー分子またはオリゴマー分子を形成することができる分子を指す。モノマー分子は、ポリマー分子またはオリゴマー分子の本質的な構造に構成単位に寄与する。
【0027】
本明細書で使用される場合、「コポリマー(copolymer)」とは、2種以上のモノマーから誘導されるポリマーを指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「構成単位(constitutional unit)」とは、ポリマー分子(またはオリゴマー分子、ブロック、または鎖)の構造の一部を構成する原子または原子団(ペンダント原子または基がある場合はそれを伴う)を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、「繰り返し単位(repeating unit)」とは、ポリマー分子(またはオリゴマー分子、ブロック、または鎖)を構成するその繰り返しの構成単位を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「モノマー単位(monomer unit)」とは、ポリマー分子またはオリゴマー分子の構造に単一のモノマー分子が寄与する最大の構成単位を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「ブロック(block)」とは、多数の構成単位からなり、隣接する部分には存在しない少なくとも1つの特徴を有するポリマー分子(またはオリゴマー分子)の部分を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、「鎖(chain)」とは、ポリマー分子(またはオリゴマー分子またはブロック)の全体または一部を指し、2つの境界構成単位相互間における構成単位の直鎖状または分枝状の配列からなり、その各々が、ポリマー分子の末端基、分岐点、またはその他の指定された特徴のいずれかである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「主鎖(main chain)」または「骨格(backbone)」とは、他の全ての鎖(長鎖または短鎖または両方)がペンダント(例えば、側鎖)であるとみなされ得るポリマー分子の鎖を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「側鎖(side chain)」とは、ポリマー分子の主鎖からのオリゴマー(短鎖)またはポリマー(長鎖)の分枝を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「側鎖基(side group)」または「ペンダント基(pendant group)」とは、鎖からの(例えば、主鎖からの)オリゴマー性でも重合性でもない分枝を指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「架橋(crosslink)」とは、少なくとも4つの鎖が発するポリマー分子中の小さな領域を指す。架橋は、一般に、既存のポリマー分子上の部位または基が関与する反応によって、または既存のポリマー分子間の相互作用によって形成される。
【0037】
用語「架橋された(crosslinked)」は、以前は別々のポリマー分子であったポリマー分子が、通常は共有結合によって、末端以外の点で互いに連結された状態を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「脂肪族(aliphatic)」化合物は、飽和または不飽和、非環式または環式、非分枝または分枝、非置換または1つまたは複数の置換基または官能基で置換された炭化水素である。当業者には理解されるように、「脂肪族(aliphatic)」は、本明細書において、アルキル、アルキニル、およびアルキニル部分を含むことが意図されるが、これらに限定されない。例示的な脂肪族基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、アリル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、sec-ペンチル、イソペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、およびsec-ヘキシル部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「アルキル(alkyl)」は、当該技術分野における通常の意味を与えられ、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む飽和脂肪族基を含み得る。類似の慣例が、「アルケニル(alkenyl)」、「アルキニル(alkynyl)」などのような他の一般的な用語に適用される。さらに、本明細書で使用される場合、用語「アルキル(alkyl)」、「アルケニル(alkenyl)」、「アルキニル(alkynyl)」などは、置換基および非置換基の両方を包含する。
【0040】
いくつかの実施形態において、直鎖または分岐アルキル鎖は、その骨格中に1~30個の炭素原子を有していてもよく、場合によっては、1~20個またはそれ以下である。いくつかの実施形態において、直鎖または分岐アルキル鎖は、その骨格中に1~10個の炭素原子(例えば、直鎖の場合はC1~C10、分岐鎖の場合はC3~C10)を有し、6個またはそれ以下の炭素原子を有し、または4個またはそれ以下の炭素原子を有する。シクロアルキルは、環構造中に3~10個の炭素原子を有していてもよく、場合によっては、環構造中に3~5個、6個または7個の炭素原子を有していてもよい。非環状アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル、n-ウンデシル、ドデシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。環状アルキル基の例としては、シクロプロピルシクロブチルおよびシクロヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
用語「アルケニル(alkenyl)」および「アルキニル(alkynyl)」は、上記のアルキルと長さおよび可能な置換基において類似するが、それぞれ少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む不飽和脂肪族基を指す。アルケニル基としては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキニル基の非限定的な例としては、エチニル、2-プロピニル(プロパルギル)、1-プロピニルなどが挙げられる。
【0042】
用語「ヘテロアルキル(heteroalkyl)」は、アルキル基の任意の炭素に結合した1つまたは複数の水素原子、または1つまたは複数の炭素原子がヘテロ原子で置換されたアルキル基を指す。ヘテロ原子とは炭素以外の原子のことである。いくつかの例では、ヘテロ原子は、N、O、P、B、S、Si、Sb、Al、Sn、As、SeおよびGeからなる群から選択される原子である。ヘテロアルキル基の例としては、限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、メトキシメチル基、およびシアノ基が挙げられる。
【0043】
用語「ヘテロアルケニル(heteroalkenyl)」および「ヘテロアルキニル基(heteroalkynyl)」は、上記のヘテロアルキルと長さおよび可能な置換基において類似するが、それぞれ少なくとも1つの二重結合または三重結合を含む不飽和脂肪族基を指す。
【0044】
用語「アリール(aryl)」は、少なくとも1つの環が芳香族(例えば、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、ナフチル、アントリル、またはフェナントリル)である、単一の環(例えば、フェニル)、複数の環(例えば、ビフェニル)、または複数の縮合環を有する、非置換または置換の芳香族炭素環式基を指す。すなわち、少なくとも1つの環は共役Pi電子系を有していてもよく、他の隣接する環はシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、および/またはヘテロシクリルであってもよい。「炭素環式アリール基(Carbocyclic aryl groups)」とは、芳香環上の環原子が炭素原子であるアリール基をいう。炭素環式アリール基には、単環式炭素環式アリール基、およびナフチル基のような多環式または縮合化合物(例えば、2つ以上の隣接する環原子が共通である)が含まれる。アリール基の例としては、これらに限定されないが、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、およびインデニルが挙げられる。
【0045】
用語「ヘテロアリール(heteroaryl)」は、複素環などの環原子として少なくとも1個のヘテロ原子を含むアリール基を指す。ヘテロアリール基の非限定的な例としては、限定されないが、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、キノリニル、およびイソキノリニルが挙げられる。
【0046】
本明細書で使用される用語「アルコキシル(alkoxyl)」または「アルコキシ基(alkoxy)」は、それに結合した酸素ラジカルを有するアルキル基を指し、一般式R-Oを有する。アルコキシル基の例としては、限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、およびtert-ブトキシ基が挙げられる。
【0047】
用語「アリールオキシ(aryloxy)」は、それに結合した酸素ラジカルを有するアリール基を指す。アルコキシル基の例としては、限定されないが、フェノキシ基が挙げられる。
【0048】
上記の基は、いずれも任意に置換されていてもよい。置換基の例としては、限定されないが、脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、ハロゲン、アジド、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、アルキルオキシカルボニル、シリル、エーテル、アルキルチオ、ヘテロアルキルチオ、ヘテロアリールチオ、スルホニル、スルホンアミド、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、-CF、-CN、アリール、アリールオキシ、パーハロアルコキシ、アラルコキシ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアラルコキシ、アジド、アミノ、ハロゲン化物、アルキルチオ、オキソ、アシルアルキル、カルボキシエステル、-カルボキサミド、アシルオキシ、アミノアルキル、アルキルアミノアリール、アルキルアリール、アルキルアミノアルキル、アルコキシアリール、アリールアミノ、アラルキルアミノ、アルキルスルホニル、-カルボキサミドアルキルアリール、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルキルアミノアルキルカルボキシ-、アミノカルボキサミドアルキル-、シアノ、アルコキシアルキル、パーハロアルキル、アリールアルキルオキシアルキル(例えば、SO4(R′))、リン酸塩(例えば、PO4(R′))、シラン(例えば、Si(R′))、ウレタン(例えば、R′O(CO)NH′)などが挙げられる。さらに、置換基は、F、Cl、Br、I、-OH、-NO、-CN、-NCO、-CF、-CHCF、-CHCl、-CHORx、-CHCHORx、-CHN(Rx)、-CHSOCH、-C(O)Rx、-O(Rx)、-CON(Rx)、-OC(O)Rx、-C(O)OC(O)Rx、-OCORx、-OCON(Rx)、-N(Rx)、-S(O)Rx、-OCORx、-NRx(CO)Rx、-NRx(CO)N(Rx)であり、ここで、Rxの各出現は、独立して、水素、脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、アリール、ヘテロアリール、アルキルアリール、またはアルキルヘテロアリールが挙げられるが、これらに限定されず、ここで、上記および本明細書に記載の脂肪族、脂環式、ヘテロ脂肪族、ヘテロ脂環式、アルキルアリール、またはアルキルヘテロアリール置換基のいずれかは、置換または非置換、分枝または非分枝、環式または非環式であってもよく、上記および本明細書に記載のアリールまたはヘテロアリール置換基のいずれかは、置換または非置換であってもよい。
【0049】
ポリベンゾイミダゾール(PBI)ポリマーは、PBIポリマー分子からなるポリマーの一種である。PBIポリマー分子は、主鎖の少なくとも一部としてベンゾイミダゾール単位を含む繰り返し単位を有する。ベンゾイミダゾール単位は、ベンゾイミダゾール部分またはその誘導体からなる。ベンゾイミダゾールは、環構造において2個の炭素原子を共有するフェニル基およびイミダゾール基を有するヘテロ脂環式芳香族有機化合物である。ベンゾイミダゾールの一般構造を下記式(I)に示す。
【化1】
【0050】
主鎖の繰り返し単位当たり1個のベンゾイミダゾール単位を有するPBIポリマーの例は、下記式(II)として示されるポリ(2,5-ベンゾイミダゾール)(AB-PBI)であり、主鎖の繰り返し単位当たり2個のベンゾイミダゾール単位を有するPBIポリマーの例は、下記式(III)として示されるポリ[2,2′-(m-フェニレン)-5,5′-ビベンゾイミダゾール](m-PBI)、および下記式(IV)として示される4F-PBI(m-PBIのフッ素化誘導体)である。
【化2】
【化3】
【化4】
【0051】
PBIポリマーの他の例としては、限定されないが、ポリ{2,6-(2,6-ナフチリデン)-1,7-ジヒドロベンゾ[1,2-d;4,5-d′]ジイミダゾール}、ポリ2,2′-(2,6-ナフチリデン)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(2,6-ピリジン)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(2,5-ピリジン)5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(2,2′-ビピリジン-5,5′)-5,5′-ビベンゾイミダゾール)、ポリ-2,2′-(3,5-ピラゾール)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(m-フェニレン)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(ピリジレン-3″,5″)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(フチレン-2″,5″)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2.2-(ナフタレン-1″,6″)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-(ビフェニレン-4″,4″)-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-アミレン-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,2′-オクタメチレン-5,5′-ビベンゾイミダゾール、ポリ-2,6-(m-フェニレン)-ジイミダゾールベンゼン、ポリ-2,2′-シクロヘキセニル-5,5′ジ(ベンゾイミダゾール)エーテル、ポリ-2,2′-(m-フェニレン)-5,5-ジ(ベンゾイミダゾール)スルフィド、ポリ-2,2′-(m-フェニレン)-5,5-ジ(ベンゾイミダゾール)スルホン、ポリ-2,2′-(m-フェニレン)-5,5-ジ(ベンゾイミダゾール)メタン、ポリ-2-2″-(m-フェニレン)-5″.5″-(ジ(ベンゾイミダゾール)プロパン)2.2、ポリ-2.2″-(m-フェニレン)-5′5″-ジ(ベンゾイミダゾール)エチレン-1,2、および前述のいずれかの誘導体(例えば、置換(フッ素化)および/または分岐誘導体)を含む。
【0052】
いくつかの例において、PBIポリマーは、主鎖、側鎖、またはその両方にベンゾイミダゾール単位を含んでも含まなくてもよい、1つまたは複数の付加的な繰り返し単位を含むコポリマーである。
【0053】
PBIポリマー分子において、ベンゾイミダゾール単位の第2級アミン基(例えば、C-NH-C基のN)は、直接または間接的にイオン交換剤と連結するために利用可能であり、それによって、PBIポリマー分子がイオン交換基で官能化されたイオン交換官能化PBIポリマー分子を形成する。直接結合では、イオン交換基のホウ素原子または金属原子が、第2級アミン基の窒素原子に共有結合する。間接結合のいくつかの例では、イオン交換基は、リンカー(例えば、アルキル鎖)を介して第2級アミンと結合している。間接的な連結の他の例では、イオン交換基は、スルホン酸リンカーによってベンゾイミダゾール単位のフェニル基に連結される。
【0054】
次に、例示的なイオン交換官能化PBIポリマー分子およびオリゴマー分子、ならびにイオン交換官能化PBIポリマー分子およびオリゴマー分子の製造方法について説明する。以下の説明において、ポリマー分子の議論およびポリマー分子への言及は、オリゴマー分子にも同様に適用され、ポリマー分子の議論およびポリマー分子への言及は、本明細書に記載されるポリマー分子からなるポリマー(およびオリゴマー)に拡張され得る。
【0055】
イオン交換官能基化PBIポリマーおよびポリマー分子について次に説明する。しかしながら、本明細書に記載する原理および概念は、PBIポリマーおよびポリマー分子に限定されるものではなく、主鎖、側鎖、またはその両方の少なくとも一部として、ベンゾイミダゾール単位、イミダゾール単位、またはフェニル単位(間接連結の場合)を有する任意のポリマーおよびポリマー分子に適用することができる。
【0056】
いくつかの態様において、イオン交換官能化PBIポリマー分子(またはオリゴマー分子)は、(i)ベンゾイミダゾール単位、および任意選択でフェニル単位を含む繰り返し単位、および(ii)ベンゾイミダゾール単位および/またはフェニル単位の第2級アミンに連結された少なくとも1つのイオン交換基を含む。
【0057】
イオン交換官能化PBIポリマー分子の繰り返し単位は、主鎖の少なくとも一部として、側鎖の少なくとも一部として、またはその両方として、ベンゾイミダゾール単位を含む。ベンゾイミダゾール単位は、式(I)を参照して上記で説明したように、ベンゾイミダゾール部分またはその誘導体からなる。繰り返し単位は、特定の実施に役立ち得る任意の付加的な部分および/または基を含んでもよい。いくつかの態様において、繰り返し単位は、上記のPBIポリマー分子の繰り返し単位、またはその誘導体からなる。m-PBI(式(III)参照)およびその誘導体などのいくつかの例では、繰り返し単位はまた、主鎖の少なくとも一部として、側鎖の少なくとも一部として、またはその両方として、別個のフェニル基を含む。
【0058】
少なくとも1つのイオン交換基は、4価のホウ素基または多価の金属原子からなる金属フッ化物基からなる。本明細書で使用される場合、「多価(multivalent)」とは、原子が特定の数の原子価結合に限定されず、それぞれが異なる数の原子価結合を有する複数の異なる原子価状態を有していてもよいことを意味する。したがって、多価である3価の原子は、1価~3価のように「価数を拡張(expand its valence state)」して、負の1価(-1)、負の2価(-2)、または負の3価(-3)の形式電荷を持つ4価、5価、または6価の構造を形成することができる。例えば、ホウ素は3つの価電子を持ち、基底状態の電子配置は1s2s2pである。ホウ素は一般に、ホウ素が3つの共有結合を持つ3価の中性化合物を形成する。そのため、ホウ素原子はp軌道が空でsp混成しており、3価のホウ素化合物は電子不足となる。しかし、ホウ素はp軌道が空であるため多価であり、4つの共有結合を持つ負電荷を帯びた4価の化合物を形成することができる。同様に、多価の金属原子は、その原子価を拡大して1つまたは複数の共有結合をさらに形成し、それによって正式な負電荷を得ることができる。
【0059】
前記4価のホウ素基は、一般式-BXを有し、ここで各Xは、独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、シアノ基、またはペンタフルオロフェニル基である。各Xがフルオロ基である実施形態において、4価のホウ素基は、一般式-BFを有する3フッ化ホウ素基である。
【0060】
前記4価のホウ素基のホウ素原子は、4価のホウ素基の各Xと、前記ベンゾイミダゾール単位の第2級アミン基と、または4価のホウ素基を第2級アミン基に連結するリンカー鎖と共有結合している。したがって、ホウ素原子は4つの共有結合を有し、ホウ素原子は本質的にイオン性である。その結果、4価のホウ素基はイオン交換基(例えば、プロトン輸送剤)として機能することができる。
【0061】
金属フッ化物基は、一般式-MFまたは-MFを有し、ここでMは多価金属原子である。本明細書で使用される場合、「金属原子(metal atom)」は、遷移金属原子、金属原子、またはメタロイド原子であり得る。いくつかの例において、Mは、第4族金属原子(例えば、ジルコニウム(Zr))、第13族金属原子(例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、またはインジウム(In))、または第14族金属原子(例えば、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、またはスズ(Sn))を含む。
【0062】
前述のように、いくつかの例において、4価のホウ素基のホウ素原子または金属フッ化物基の金属原子は、アルキルリンカーなどのリンカーを介して第2級アミン基に連結される。いくつかの例では、リンカーは、1~10個の原子を有するアルキル基であり、任意選択で、1つまたは複数の側基または側鎖で置換されていてもよく、これらの側基または側鎖は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ジアルキルアミノ基(NR、ここでRは水素または有機結合基、例えばメチル基(CH)を表し得る)、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸アミド基、エステル基、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であってもよい。
【0063】
さらなる例では、4価のホウ素基のホウ素原子または金属フッ化物基の金属原子は、スルホン酸エステルリンカー(例えば、スルホン酸の誘導体)などのリンカーを介して、繰り返し単位のフェニル基に間接的に連結される。以下に説明するように、フェニル基は、ペンダントスルホン酸基によるスルホン化によって活性化され、イオン交換剤と結合してイオン交換基を形成することができる。
【0064】
イオン交換官能化PBIポリマー分子は、任意の適切な方法で合成することができる。いくつかの例では、イオン交換官能化PBIポリマー分子は、後重合プロセス(例えば、PBIポリマー分子の合成後)によって合成される。
【0065】
いくつかの例では、後重合プロセスは、イオン交換剤をPBIポリマー分子と反応させる単一工程で実施することができる。イオン交換剤は3価のホウ素化合物または金属フッ化物からなり、PBIポリマー分子と連結するとイオン交換基を形成する。
【0066】
3価のホウ素化合物は、一般式BXを有し、ここでXは上述の通りである。この反応において、3価のホウ素化合物のホウ素原子はその原子価を拡大し、ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子と共有結合することにより、ホウ素原子がベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと直接結合したイオン交換基を形成する。
【0067】
金属フッ化物は、一般式MFまたはMFを有し、ここでMは、上述したように、多価金属原子からなる。反応において、金属フッ化物の多価金属原子は、その原子価を拡大し、ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンの窒素原子と共有結合し、したがって、金属原子がベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと直接連結したイオン交換基を形成する。
【0068】
他の例では、第2級アミンと間接的に連結するための後重合工程は、多段階工程で実施することができる。第1段階では、連結剤をPBIポリマー分子と反応させる。連結剤は、ベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと結合し、PBIポリマー分子と連結すると、2~10個の炭素原子の範囲の鎖長を有し、ペンダント酸基またはヒドロキシル基を呈する中間リンカーを形成する。
【0069】
いくつかの例では、連結剤はスルホン化化合物からなる。スルホン化化合物はスルホン酸のエステルであり、Rが電子対、水素、アルキル基、またはアリール基である一般式-S(=O)ORを有する。スルホン化化合物は、ベンゾイミダゾールの第2級アミンと結合し、末端スルホン酸基を有するリンカー鎖を形成する。スルホン化化合物の例示としては、特に限定されないが、メシレート(メタンスルホン酸塩)、トリフラート(トリフルオロメタンスルホン酸塩)、エタンスルホン酸塩(エシラート、エシラート)、トシレート(p-トルエンスルホネート)、ベンゼンスルホネート(ベシレート)、クロジレート(クロジレート、クロロベンゼンスルホネート)、カンファースルホネート(カムシレート、カムシレート)、ピプシレート(p-ヨードベンゼンスルホネート誘導体)などが挙げられる。
【0070】
いくつかの例では、スルホン化連結剤はスルトンからなる。スルトンは環状スルホン酸エステルであり、その多くは4~6員環(2~4個の炭素原子を有する)であるが、一部のスルトンは7員環以上(5個以上の炭素原子を有する)である。スルトンは、ベンゾイミダゾールの第2級アミンを含む第1級および第2級アミンと反応性がある。スルトンの例示としては、限定されないが、β-スルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、プロプ-1-エン-1,3-スルトン、3,4,4-トリフルオロ-3-(トリフルオロメチル)オキサチエタン2,2-ジオキシド、3,3,4,4-テトラフルオロ-1,2-オキサチエタン2,2-ジオキシド、ナフト[1,8-cd]-1,2-オキサチオール、2,2-ジオキシド、5-メチル-1,2-オキサチオラン、2,2-ジオキシド、3-メチル-1,2-オキサチオラン、2,2-ジオキシド、1,2-オキサチアン、6-ドデシル-、2,2-ジオキシド、4,6-ジメチル-1,2-オキサチイン、2,2-ジオキシド、フッ化アセチル、ジフルオロ(フルオロスルホニル)が挙げられる。スルトンとイダゾール単位の第2級アミンの反応により、末端スルホン酸基を持つアルキルリンカー鎖が開鎖する。
【0071】
他の例では、連結剤は、第2級アミンと反応し、ペンダント酸基(例えば、末端カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、硫酸基など)、またはヒドロキシル基(例えば、アルコールリンカー)とのリンカーを形成するアルキル連結剤からなる。いくつかの例において、アルキル連結剤は、2~10個の炭素鎖長を有する。例示的なアルキル連結剤としては、これらに限定されないが、ペンダント酸基または末端酸基を有するハロゲン化酸、アルコール、アルデヒド、およびケトンが挙げられる。いくつかの例において、アルキル連結剤は、ハロゲンが塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択されるハロゲン化カルボン酸からなる。ハロゲン化カルボン酸の例としては、特に限定されないが、ブロモ酢酸およびクロロ酢酸が挙げられる。連結剤は、リンカーについて上述したように、非置換であっても、全体的または部分的に置換されていてもよい。いくつかの例では、連結剤はフッ素で置換されている(例えば、テトラフルオロβ-スルトン)。
【0072】
第2段階では、イオン交換剤を中間リンカーのペンダント酸基またはペンダントヒドロキシル基と反応させる。イオン交換剤は、ペンダント酸基またはペンダントヒドロキシル基と容易に反応する。イオン交換剤は上述の通りであり、リンカー鎖を介してPBIポリマー分子と連結すると、イオン交換基を形成する。
【0073】
いくつかの例では、アルキルリンカーは、クロロアルキルスルホニルフルオリドまたはブロモアルキルスルホニルフルオリドなどのハロゲン化アルキルスルホニルフルオリドからなり、第1中間体スルホニルフルオリド末端アルキルリンカーを形成する。第2工程を実施する前に、スルホニルフルオリド末端アルキルリンカーを(任意の適切な方法により)スルホン酸に活性化し、その後、第2工程を実施してイオン交換剤をスルホン酸基と反応させる。
【0074】
他の例では、イオン交換基をPBIポリマー(例えば、m-PBI)のフェニル基と間接的に連結するための重合後工程は、多段階工程で実施することができる。第1段階では、PBIポリマーをフェニル単位でスルホン化(例えば、スルホン酸で活性化)して、中間のペンダントスルホン酸基を導入する。PBIポリマーは任意の適切な方法でスルホン化することができる。いくつかの例では、PBIポリマーを、三酸化硫黄(SO)および/または硫酸(HSO)などのスルホン化剤と組み合わせることによる直接スルホン化によってスルホン化する。
【0075】
第2の工程では、上記のように、イオン交換剤をペンダントスルホン酸基と反応させる。イオン交換剤はペンダントスルホン酸基と容易に反応する。イオン交換剤は上述の通りであり、ペンダントスルホン酸基を介してPBIポリマー分子と結合すると、イオン交換基を形成する。
【0076】
PBIポリマー分子をイオン交換基で官能基化する程度は、所望に応じて制御することができる。いくつかの例では、PBIポリマー分子は、繰り返し単位(またはベンゾイミダゾール単位またはフェニル単位)の約15モルパーセントがイオン交換基で官能化されたアイオノマー分子からなる。さらなる例では、繰り返し単位(またはベンゾイミダゾール単位またはフェニル単位)の約10モルパーセントがイオン交換基で官能化されている。さらに別の例では、繰り返し単位(またはベンゾイミダゾール単位またはフェニル単位)の約5モルパーセントがイオン交換基で官能基化されている。他の例では、繰り返し単位(またはベンゾイミダゾール単位またはフェニル単位)の15モル%以上がイオン交換基で官能化されており、例えば20モルパーセント以上、30モルパーセント以上、50モルパーセント以上、または75モルパーセント以上である。
【0077】
上述の例では、イオン交換官能化PBIポリマーは、PBIポリマーの重合後の官能基修飾によって形成される。他の例では、イオン交換官能化PBIポリマーは、ベンゾイミダゾール部分および任意選択でフェニル部分からなるモノマー分子の重合前の官能基修飾によって形成されてもよい。
【0078】
次に、イオン交換官能化PBIポリマーの例示、およびイオン交換官能化PBIポリマーを合成するための反応スキームを、図1~4Bを参照して示し、説明する。以下の実施例は単なる例示であり、限定するものではない。図面では、PBIポリマー分子の繰り返し単位のベンゾイミダゾール単位のみが示されているが、繰り返し単位は、特定の実施態様に役立ち得るような任意の他の単位および構造を有してもよい。
【0079】
図1は、イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための例示的な反応スキームを示す。第1段階で、テトラフルオロβ-スルトン連結剤がベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと反応して中間リンカー鎖を形成する。中間リンカー鎖は、末端にスルホン酸基を有するペルフルオロ2-炭素鎖である。第2段階として、BF(BFエーテラート(EtO)の形態)を用いてスルホン酸基を4価のホウ素基に変換し、イオン交換官能化PBIポリマー分子を生成する。4価のホウ素基のホウ素原子は負の形式電荷を持つため、イオン交換基は本質的にイオン性であり、それによってイオン(例えば、プロトン)交換が可能になる。図1ではパーフルオロ化(全フッ素化)されたスルトンの使用を示しているが、代替例ではスルトンはフッ素化されない。
【0080】
図2は、イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための別の例示的な反応スキームを示す。図2は、図2において、連結剤が1,3-プロパンスルトンであることを除いて、図1と同様である。第1段階として、1,3-プロパンスルトンがベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと反応して中間リンカー鎖を形成する。中間リンカー鎖は、末端にスルホン酸基を有する炭素数3の鎖である。第2段階として、スルホン酸基はBF(BFエーテレートの形態)を用いて4価のホウ素基に変換される。4価のホウ素基のホウ素原子は負の形式電荷を持つため、イオン交換基は本質的にイオン性であり、それによってイオン(例えば、プロトン)交換が可能になる。図2は、無置換のスルトンの使用を示しているが、代替例では、スルトンは、1つ以上のフッ素原子などで置換されていてもよい。
【0081】
図3は、イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための別の例示的な反応スキームを示す。図3は、図3において連結剤が1,4-ブタンスルトンであることを除いて、図1と同様である。第1段階として、1,4-ブタンスルトンがベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと反応して中間リンカー鎖を形成する。中間リンカー鎖は、末端にスルホン酸基を有する炭素数4個の鎖である。第2段階として、BFエーテレートを用いてスルホン酸基を4価のホウ素基に変換する。4価のホウ素基のホウ素原子は負の形式電荷を持つため、イオン交換基は本質的にイオン性であり、それによってイオン(例えば、プロトン)交換が可能になる。図3は、無置換のスルトンの使用を示しているが、代替例では、スルトンは、1つ以上のフッ素原子などで置換されていてもよい。
【0082】
図4Aは、イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための別の例示的な反応スキームを示す。図4は、図4において、連結剤が3フッ化ホウ素(BFエーテル酸塩の形態)であり、3価フッ化ホウ素がベンゾイミダゾール単位の第2級アミンと直接反応してイオン交換基(一般式-BFを有する4価のホウ素基)を形成することを除いて、図1と同様である。イオン交換基のホウ素原子は負の形式電荷を持つため、イオン交換基は本質的にイオン性かつ酸性であり、これによりイオン(例えばプロトン)交換が可能となる。
【0083】
図4Bは、イオン交換官能化PBIポリマー分子の合成のための別の例示的な反応スキームを示す。図4Bは、図4Bにおいて、イオン交換基が、一般式BXYZを有する3価のホウ素化合物であり、式中、X、YおよびZは、同一または異なり、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリール基、アリールオキシ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、シアノ基、またはペンタフルオロフェニル基を表すことを除いて、図4Aと同様である。3フッ化ホウ素は、ベンゾイミダゾール基の第2級アミンと直接反応してイオン交換基(一般式-BXYZを有する4価のホウ素基)を形成する。イオン交換基のホウ素原子は負の形式電荷を持つため、イオン交換基は本質的にイオン性かつ酸性であり、イオン(例えば、プロトン)交換を可能にする。4価のホウ素基の酸性特性は、X基、Y基、Z基の一部または全部を電気陰性度の高いフッ素原子で置換することによって調整することができる。
【0084】
他の実施例では、実施例1~4Bの反応スキームを、3フッ化ホウ素または3価ホウ素化合物の代わりに金属フッ化物(例えば、MFまたはMF)をイオン交換剤として使用することによって変更することができる。金属フッ化物は、上述した任意の金属フッ化物であってよい。
【0085】
いくつかの態様において、第1のポリマー分子を、4価のホウ素架橋を用いて第2のポリマー分子と架橋させて、架橋ポリマー組成物を形成してもよい。第1のポリマー分子は、本明細書に記載される任意のPBIポリマー分子を含む任意のPBIポリマー分子であってよい。いくつかの例において、第2のポリマー分子は第2のPBIポリマー分子であり、これは第1のPBIポリマー分子と同じであっても異なっていてもよい。さらなる例では、第2のポリマー分子は、酸基(例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基)またはヒドロキシル基で官能化されたポリマー分子である。酸官能基化およびヒドロキシル官能基化ポリマー分子の例としては、模倣するものではないが、官能基化ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)分子、ポリ(リン酸)(PPA)分子、セルロース、リグニンなどが挙げられる。
【0086】
4価のホウ素架橋は、一般式-BX-を有し、ここで各Xは異なるか同じであり、独立してヒドロキシル基またはフッ素もしくは塩素などのハロゲンである。ホウ素原子は、第1のPBIポリマー分子の第2級アミンと、第2のポリマー分子の第2級アミン、酸基、またはヒドロキシル基と共有結合している。この構成では、ホウ素原子は4価であり、形式的に負の電荷を持つため、4価のホウ素架橋は本質的にイオン性かつ酸性となる。したがって、4価のホウ素架橋は、イオン(例えば、カチオン)交換基としても機能し得る。
【0087】
いくつかの例において、PBIポリマー分子と第2のポリマー分子とを架橋する方法は、第1のPBIポリマー分子、第2のポリマー分子、および3価のホウ素化合物からなる架橋剤を組み合わせることを含む。
【0088】
4価のホウ素架橋を生成する任意の適切な架橋剤を使用することができる。いくつかの例では、架橋剤は、一般式B(OH)を有するホウ酸、または一般式R-B(OH)を有するボロン酸、またはボロン酸の誘導体である。架橋剤の例示としては、特に限定されないが、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸n-オクチル、ホウ酸トリデシル、ホウ酸トリテトラデシル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、トリメトキシシクロトリボロキサン、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリス(トリメチルシリル)ボレート、テトラアセチルジボレート、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ボレート、ビスピナコールジボロネート、ピナコールボロネート、アリルボロン酸ピナコールエステル、ジイソプロポキシメチルボランなどが挙げられる。架橋剤のホウ素原子は、第1のPBIポリマー分子の第2級アミンと、第2のポリマー分子の第2級アミン、酸基、またはヒドロキシル基と共有結合する。具体的には、ホウ素原子はその原子価を拡大して、第1のPBIポリマー分子の第2級アミンの窒素と共有結合する。ホウ素原子はまた、置換反応によって、第2のポリマー分子の第2級アミン、酸基、またはヒドロキシル基の窒素原子と反応する。
【0089】
いくつかの例では、フッ素処理を架橋後に行って、ヒドロキシル基の代わりにフッ素基を置換してもよい。
【0090】
架橋されたPBIポリマー分子の例示的な例、およびPBIポリマー分子を別のポリマー分子と架橋するための反応スキームを、次に図5~7を参照して示し、説明する。以下の例は単なる例示であり、限定するものではない。図面において、PBIポリマー分子の繰り返し単位のベンゾイミダゾール単位のみが示されているが、繰り返し単位は、特定の実施態様に役立ち得るような任意の他の単位および構造を有してもよい。
【0091】
図5は、架橋剤としてホウ酸(B(OH))を使用する、2つのPBIポリマー分子の分子内架橋のための例示的な反応スキームを示す。図5の反応スキームは、PBIポリマー層またはシートを架橋するために実施することができる。第1段階として、PBIポリマー分子をホウ酸と結合させる。ホウ酸はPBIポリマー分子の第2級アミンと反応して、一般式-B(OH)-を有する4価のホウ素架橋を形成する。ホウ素原子は4つの共有結合を持つため、負の形式電荷を獲得し、それにより4価のホウ素架橋は本質的にイオン性かつ酸性であり、イオン(例えば、陽イオン)輸送剤として機能することができる。いくつかの例では、ホウ酸は、架橋の程度および得られるイオン交換官能化PBIポリマー組成物のプロトン交換容量を制御するための制限試薬である。
【0092】
随意的な第2ステップでは、4価ホウ素架橋の酸性度をフッ化物処理によって高める。フッ化物処理は、架橋したPBIポリマー分子をフッ化ナトリウム(NaF)と結合させるなど、任意の適切な方法で行うことができる。
【0093】
図6は、架橋剤としてホウ酸を用いた、ヒドロキシ官能化PTFEポリマーによるPBIポリマー分子の分子内架橋の例示的な反応スキームを示す。示されるように、PTFE(開丸で表される)はX-OHで表される酸基で官能化され、Xはヒドロキシル基の酸素(O)原子に共有結合した硫黄(S)原子、炭素(C)原子、またはリン(P)原子を含む置換基である。酸基X-OHは、限定されないが、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、またはアルコールなどの任意の適切な酸基であってよい。いくつかの例において、置換基群Xは、C~C30アルキルリンカー鎖を含み、任意に、1つ以上のペンダント部分を有し、これらは、同一であっても異なっていてもよく、各々独立して、水素、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ジアルキルアミノ基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸アミド基、エステル基、アルキル基、アルコキシ基、およびアリール基からなる群より選択され得る。いくつかの例では、PTFEがヒドロキシル基のみで官能化されるように、置換基Xを省略することができる。図6は、PTFEが1つの酸基X-OHのみで官能基化されていることを示すが、PTFEは、特定の実施に役立つような任意の程度の官能基化を有していてもよい。
【0094】
第1段階において、PBIポリマー分子および酸官能化PTFEポリマー分子をホウ酸と結合させる。ホウ酸は、第1のPBIポリマー分子の第2級アミンおよび官能化PTFEのヒドロキシ基と反応して、一般式-B(OH)-を有する4価のホウ素架橋を形成する。ホウ素原子は4つの共有結合を持つため、負の形式電荷を獲得し、それにより4価のホウ素架橋は本質的にイオン性かつ酸性であり、イオン(例えば、陽イオン)輸送剤として機能することができる。いくつかの例では、ホウ酸は、架橋の程度、および得られるイオン交換官能化PBI/PTFEポリマー組成物のプロトン交換容量を制御するための制限試薬である。
【0095】
任意的な第2工程では、架橋したPBI/PTFEポリマー分子をフッ化ナトリウム(NaF)と結合させるなどのフッ化物処理によって、4価ホウ素架橋の酸性度を高める。
【0096】
図6は、PBIポリマー分子が官能化PTFEポリマー分子と架橋されていることを示すが、PBIポリマー分子は、合成ポリマー(例えば、ポリリン酸(PPA))または天然ポリマー(例えば、リグニン、セルロース、キチンなど)などの任意の他の適切な酸またはヒドロキシ官能化ポリマーと同様の方法で架橋されてもよい。例えば、PBIポリマーをPPA添加ポリマーで架橋してもよい。架橋されたPBIポリマーは、PPA添加ポリマーからのPPAドーパントの溶出を防止または低減する。
【0097】
図5および図6の例では、ホウ酸を用いて2つのポリマー分子を架橋している。これらの反応スキームの改変において、2つのポリマー分子は、ホウ酸誘導体、例えば、ボロン酸(例えば、(R-B(OH)または(R-B(OH)-R))または図4Bに関して上述したような一般式BXYZを有する3価のホウ素を用いて架橋されてもよい。
【0098】
図7は、架橋剤としてアミノボロン酸を使用して、PBIポリマー分子を官能化PTFEポリマー分子と架橋するための例示的な反応スキームを示す。
【0099】
第1ステップ702において、スルホニルフルオリド官能化PTFE704(PTFE骨格を開丸で表す)を4-アミノフェニルボロン酸706と結合させる。フッ化スルホニル官能化PTFE704は、アミノボロン酸と強い共有結合を形成し、中間のアミノボロン酸官能化PTFEポリマー分子708を形成する。フッ化水素(HF)を捕捉するために非水塩基を任意に添加することができ、反応平衡を右側(生成物側)にシフトさせるのに役立つ。アミノフェニル、アミノアリール、およびアミノアルキルボロン酸、またはボロン酸ピナコレートなどのボロン酸サロゲートを含むがこれらに限定されない、任意の他の適切なアミノボロン酸またはその誘導体を使用してもよいことが認識されるであろう。
【0100】
第2のステップ710では、アミノボロン酸官能化PTFEポリマー分子708をPBIポリマー分子712と結合させる。アミノボロン酸官能化PTFEポリマー分子708のホウ酸基は、PBIポリマー分子712の第2級アミンと反応し、それによってPBIポリマー分子708を官能化PTFEポリマー分子704と架橋する。4価のホウ素架橋のホウ素原子は4つの共有結合を有し、したがって負の形式電荷を獲得し、それによって4価のホウ素架橋を本質的にイオン性かつ酸性にし、イオン(例えば、陽イオン)輸送剤として機能させることができる。
【0101】
随意的な第3のステップ714では、架橋ポリマー分子をフッ化ナトリウム(NaF)と結合させるなどのフッ化物処理によって、4価ホウ素架橋体の酸性度を高めることができる。
【0102】
図7は、PBIポリマー分子712が官能化PTFEポリマー分子704と架橋されることを示すが、PBIポリマー分子712は、限定されないが、合成または天然ポリマー分子を含む任意の他の適切な活性化ポリマー分子と同様の方法で架橋されてもよい。
【0103】
図7に示すように、反応スキームは、スルホニルフルオリド官能化PTFEポリマー分子704から始まる。他の例(図示しない)では、反応スキームはスルホン酸官能基化PTFEポリマー分子(または他のポリマー分子)から始めてもよい。しかしながら、スルホン酸基は一般にアミノボロン酸の第1級アミンと直接共有結合しないので、スルホン酸基はアミノボロン酸の第1級アミンと反応させるためにフッ化スルホニル基(SOF)に活性化される。あるいは、スルホン酸基をスルホニルクロリド基(SOCl)に活性化して、アミノボロン酸の第1級アミンと反応させることもできる。
【0104】
図8は、架橋剤としてホウ酸を用いた、PBIポリマー分子とPPAポリマー分子との分子内架橋のための例示的な反応スキームを示す。PPAは、式(V)として以下に示す一般構造を有する。
【化5】

いくつかの例では、PPAは、4F-PBIなどのPBIポリマーのカチオン伝導性を向上させるためのドーパントとして使用される。しかし、PPAとPBIの直接結合は、PPAの酸性リン酸塩とPBIの塩基性イミダゾール窒素原子との間の弱い平衡酸塩基相互作用によってのみ起こる。その結果、酸性のリン酸残基がPEMおよびアイオノマーから溶出し、PBIポリマーの陽イオン交換性能が低下する。PBI/PPAポリマーの性能を向上させるために、図8の例に示すように、4価のホウ素架橋を用いてPBIポリマーをPPAポリマーと架橋してもよい。図8の例では、PPAポリマー分子の繰り返し単位のみが示されていることに留意されたい。しかしながら、架橋の程度は所望に応じて制御することができる。
【0105】
図8に示すように、第1段階でPBIポリマー分子とPPAポリマー分子をホウ酸と結合させる。ホウ酸は、PBIポリマー分子の第2級アミンおよびPPAポリマー分子のヒドロキシル基と反応して、一般式-B(OH)-を有する4価のホウ素架橋を形成する。ホウ素原子は、2つの水酸基に加えて、第2級アミンの窒素およびPPA分子の酸素原子とも結合する。したがって、ホウ素原子は4つの共有結合を持ち、負の形式電荷を得る。その結果、4価のホウ素架橋は本質的にイオン性かつ酸性であり、イオン(例えば、陽イオン)輸送剤として機能することができる。さらに、4価のホウ素原子を介した架橋は、複数のホウ素-酸素結合を介して起こるため、PPAを強く結合し、堅牢性を付与し、PPAの溶出を最小限に抑える。いくつかの例では、ホウ酸は、架橋の程度ならびに得られるイオン交換官能化PBI/PPA組成物のプロトン交換容量を制御するための制限試薬である。
【0106】
随意的な第2段階において、4価ホウ素架橋の酸性度は、架橋されたPBI/PPAポリマー分子をフッ化ナトリウム(NaF)と結合させるなどのフッ化物処理によって増大される。
【0107】
図8の例では、PBIおよびPPAポリマー分子は、ホウ酸を用いて架橋される。この反応スキームの改変において、PBIおよびPPAポリマー分子は、ホウ酸誘導体、例えば、ボロン酸(例えば、(R-B(OH)または(R-B(OH))-R)または図4Bに関して上述したような一般式BXYZを有する3価のホウ素を用いて架橋されてもよい。
【0108】
4価ホウ素架橋ポリマー組成物を含む、本明細書に記載のイオン交換官能基化PBIポリマーおよびポリマー組成物は、多孔性ポリマーネットワークとして形成されてもよく、および/またはアイオノマー、膜、および/またはPEMとして使用されてもよい。本明細書に記載のポリマー、アイオノマー、および膜(例えば、PEM)は、水電解システムおよび燃料電池、ならびに電池(例えば、分離膜として)、およびアンモニアの製造(例えば、ハーバーボッシュプロセスの前駆体としてのHの製造のため、および/または空気からの窒素ガスの分離のため、および/またはハーバーボッシュプロセス中に使用される発電のため)に使用され得る。次に、図9および図10を参照して、説明したイオン交換官能基化PBIポリマーの例示的な用途について説明する。
【0109】
図9は、例示的なプロトン交換膜水電解システム900(PEM水電解システム900)を示す。PEM水電解システム900は、電気を使用して、電気化学反応を介して水を酸素(O)と水素(H)とに分割する。PEM水電解システム900の構成は単なる例示であり、他の好適な構成および他の好適な水電解システムがホウ素含有多孔質膜を組み込んでもよいので、限定するものではない。
【0110】
図9に示すように、PEM水電解システム900は、膜電極アセンブリ902(MEA902)、多孔性輸送層904-1および904-2、バイポーラプレート906-1および906-2、ならびに電源908を含む。PEM水電解システム900はまた、特定の実施態様に役立ち得るように、図9に示されていない追加的または代替的な構成要素を含み得る。
【0111】
MEA902は、第1の触媒層912-1と第2の触媒層912-2との間に配置されたPEM910を含む。PEM910は、プロトン(H)のような陽イオンの選択的伝導性をもたらし、また水素および酸素のような気体に対して不透過性であるとともに、第1の触媒層912-1を第2の触媒層912-2から電気的に分離する。PEM910は、本明細書に記載される任意のPEMを含む任意の適切なPEMによって実施され得る。例えば、PEM910は、本明細書に記載されるイオン交換官能化PBIポリマーによって実施され得る。
【0112】
第1触媒層912-1および第2触媒層912-2は、白金、ルテニウム、および/または酸化セリウム(IV)などの電気化学触媒(図示しない)が埋め込まれた導電性電極である。いくつかの例では、第1の触媒層912-1および第2の触媒層912-2は、触媒ナノ粒子を結合させるためにアイオノマーを用いて形成される。第1の触媒層912-1および第2の触媒層912-2を形成するために使用されるアイオノマーは、本明細書に記載されるようなイオン交換官能化PBIポリマーを含み得る。
【0113】
MEA902は、多孔性輸送層904-1と多孔性輸送層904-2との間に配置され、これら多孔性輸送層904-1及び904-2は、バイポーラプレート906-1とバイポーラプレート906-2との間に配置され、バイポーラプレート906と多孔性輸送層904との間に流路914-1および914-2が配置される。
【0114】
MEA902では、第1の触媒層912-1がアノードとして機能し、第2の触媒層912-2がカソードとして機能する。PEM水電解システム900に電源908が供給されると、アノード912-1で酸素発生反応(OER)が起こり、以下の電気化学的半反応で表される。
2HO→O+4H+4e
【0115】
陽子はアノード912-1からカソード912-2へPEM910を通して伝導され、電子はアノード912-1からカソード912-2へとPEM910周りの伝導経路によって伝導される。PEM910はアノード912-1からカソード912-2へのプロトン(H)および水の輸送を可能にするが、酸素および水素に対しては不透過性である。カソード912-2では、以下の電気化学的半反応で表される水素発生反応(HER)でプロトンが電子と結合する。
4H+4e→2H
【0116】
OERとHERは、電気分解によって水を分解するための2つの相補的な電気化学反応であり、以下の水の電気分解反応全体で表される。
2HO→2H+O
【0117】
図10は、ホウ素含有多孔質膜を含む例示的なプロトン交換膜燃料電池1000(PEM燃料電池1000)を示す。PEM燃料電池1000は、電気化学反応の結果として電気を生成する。この例では、電気化学反応は、水素ガス(H)と酸素ガス(O)を反応させて水と電気を生成することを含む。PEM燃料電池1000の構成は単なる例示であり、他の好適な構成および他の好適なプロトン交換膜燃料電池がホウ素含有多孔質膜を組み込んでもよいので、限定するものではない。
【0118】
図10に示すように、PEM燃料電池1000は、膜電極アセンブリ1002(MEA1002)、多孔質輸送層1004-1および1004-2、バイポーラプレート1006-1および1006-2を含む。電気負荷1008は、MEA1002に電気的に接続され、PEM燃料電池1000によって駆動され得る。PEM燃料電池1000は、特定の実施態様に資するように、図10に示されていない追加的または代替的な構成要素を含むこともできる。
【0119】
MEA1002は、第1の触媒層1012-1と第2の触媒層1012-2との間に配置されたPEM1010を含む。PEM1010は、プロトン(H)などの陽イオンの選択的伝導性をもたらし、また水素および酸素などのガスに対して不透過性であるとともに、第1の触媒層1012-1を第2の触媒層1012-2から電気的に絶縁する。PEM1010は、本明細書に記載される任意のPEMを含む任意の適切なPEMによって実施され得る。例えば、PEM1010は、本明細書に記載のイオン交換官能化PBIポリマーによって実施することができる。
【0120】
第1触媒層1012-1および第2触媒層1012-2は、埋め込まれた電気化学触媒(図示しない)を有する導電性電極である。いくつかの実施例では、第1触媒層1012-1および第2触媒層1012-2は、触媒ナノ粒子を結合するためにアイオノマーを用いて形成される。いくつかの例では、第1の触媒層1012-1および第2の触媒層1004-2を形成するために使用されるアイオノマーは、本明細書に記載されるようなイオン交換官能化PBIポリマーからなる。
【0121】
MEA1002は、多孔性輸送層1004-1と多孔性輸送層1004-2との間に配置され、これら多孔性輸送層1004-1および1004-2は、バイポーラプレート1006-1とバイポーラプレート1006-2との間に配置され、多孔性輸送層とバイポーラプレートとの間に流路1014が配置される。MEA1002において、第1の触媒層1012-1はカソードとして機能し、第2の触媒層1012-2はアノードとして機能する。カソード1012-1およびアノード1012-2は負荷1008に電気的に接続され、PEM燃料電池1000によって生成された電気が負荷1008を駆動する。
【0122】
PEM燃料電池1000の動作中、水素ガス(H)はPEM燃料電池1000のアノード側に流入し、酸素ガス(O)はPEM燃料電池1000のカソード側に流入する。アノード1012-2では、以下の水素酸化反応(HOR)に従って、水素分子が触媒的にプロトン(H)と電子(e)に分割される。
2H→4H+4e
プロトンは、アノード1012-2からPEM1010を通ってカソード1012-1に伝導され、電子は、アノード1012-2から導電経路および負荷1008を通ってPEM1010の周囲のカソード1012-1に伝導される。カソード1012-1では、以下の酸素還元反応(ORR)に従って、プロトンと電子が酸素ガスと結合する。
+4H+4e→2H
したがって、PEM燃料電池1000の全体的な電気化学反応は以下のようになる。
2H+O→2H
【0123】
全体的な反応において、PEM燃料電池1000はカソード1012-1で水を生成する。水は、カソード1012-1からPEM1010通ってアノード1012-2に流れ、PEM燃料電池1000のカソード側および/またはアノード側の出口を通って除去される場合がある。全体的な反応により、負荷1008を駆動する電子がアノードで生成される。
【0124】
これまでの説明では、様々な例示的な実施形態を添付図面につき説明してきた。しかしながら、以下に続く特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更をそれらに加えてもよく、追加の実施形態を実施してもよいことは明らかであろう。例えば、本明細書に記載される1つの実施形態の特定の特徴を、本明細書に記載される別の実施形態の特徴と組み合わせてもよいし、本明細書に記載される別の実施形態の特徴と置き換えてもよい。したがって、本明細書および図面は、制限的な意味ではなく例示的な意味でみなされる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】