(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】シリコン部品の回収のための方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20250117BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C22B7/00 G
C22B1/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544938
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-09-27
(86)【国際出願番号】 DE2022200312
(87)【国際公開番号】W WO2023147804
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】102022102309.5
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524207817
【氏名又は名称】フラクステク・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ツァイカ・オーラフ
(72)【発明者】
【氏名】ホイシュケル・ミヒャエル・ルードルフ
(72)【発明者】
【氏名】グロース・ハーラルト
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA02
4K001AA17
4K001AA20
4K001AA23
4K001AA24
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA08
(57)【要約】
本発明は、電子廃棄物のリサイクル時に発生するシリコン部品の原料の回収のための方法に関する。時間、プラント技術およびエネルギーの点で効果的な回収プロセスを提示するために、プロセス圧力pにおいて、50℃からプロセス圧力pにおけるアルカリ溶液の沸点以上の範囲内の第1の懸濁液温度で、シリコン部品をアルカリ溶液に溶解することが提案される。シリコンが溶解した後、得られた懸濁液を濾過してメタ-、ジ-、オリゴシリケートを分離し、濾過中の第2の懸濁液温度は、50℃からアルカリ溶液の沸点未満の所定の温度範囲に維持される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン部品に含まれる材料を回収するための方法であって、以下の連続したプロセスのステップを含む方法:
- シリコンが溶解するアルカリ溶液を反応器に提供するステップ、
- 反応器内のプロセス圧力pと、プロセス圧力pにおいて50℃から前記アルカリ溶液の沸騰温度未満までの範囲にあるアルカリ溶液温度TLを調整するステップ、
- シリコン部品を前記アルカリ溶液に供給し、前記シリコン部品のシリコンを前記アルカリ溶液に溶解し、第1の懸濁液温度TS1を発生および維持し、メタ-、ジ-及びオリゴシリケートを含む懸濁液を形成するステップ、
- ここで、第1の懸濁液温度TS1は、プロセス圧力pにおいて50℃から前記アルカリ溶液の沸点以上までの範囲にあり、
- 前記懸濁液を濾過し、第2の懸濁液温度TS2でメタ-、ジ-およびオリゴシリケートを濾液から分離するステップ、
- ここで、前記懸濁液の第2の懸濁液温度TS2は、その濾過の間、プロセス圧力pにおいて50℃から前記アルカリ溶液の沸点未満までの範囲に維持される。
【請求項2】
シリコンを溶解するために、以下のリスト、すなわちアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物のアルカリ溶液または水酸化アンモニウムのアルカリ溶液からの少なくとも1種のアルカリ溶液を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも第1の懸濁液温度TS1および/または第2の懸濁液温度TS2の調整が、前記シリコンの溶解の発エルゴン反応からの熱エネルギーを使用して実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルカリ溶液温度TLの調整が、先行するまたは進行中のプロセスの前記シリコンの溶解の発エルゴン反応からの熱エネルギーを使用して得られる、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
第1の懸濁液温度TS1および/または第2の懸濁液温度TS2が、アルカリ金属水酸化物および/または金属水酸化物の計量添加によって調整および/または維持される、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
超音波を、超音波源によって前記アルカリ溶液または懸濁液に導入する、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
シリコンの溶解中に前記懸濁液が撹拌される、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記濾液を洗浄してメタ-、ジ-およびオリゴシリケートを得る、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記シリコン部品が前記アルカリ溶液に添加される前に粉砕される、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記シリコン部品が貴金属を含み、この貴金属が濾過ケーク中に捕捉される、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ溶液に、アルカリ溶液による前記シリコン部品の濡れを改善するのに適した補助物質を添加する、請求項1~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
シリコン部品のアルカリ溶液への溶解の結果としての水素の生成をモニターし、生じた水素の量に基づいてシリコンの溶解プロセスの完了を決定する、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記シリコン部品のアルカリ溶液への溶解の結果として生成された水素が捕捉され、エネルギー利用へ供給される、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
2つの圧力段階を用いて実施され、第2の圧力段階が第1の圧力段階よりも高い圧力を有し、反応器の出口側に存在する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
出発物質の連続的な供給および前記懸濁液の連続的な除去を伴って連続的に、または出発物質の供給および/もしくは前記懸濁液の除去が不連続的に行われる準連続的に実施される、請求項2~10のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、二次原料を得るための電子廃棄物のリサイクル時に発生するシリコン部品の原料の回収のための方法に関する。また、この方法は、シリコン部品のエネルギー回収、特に太陽電池モジュールのリサイクル時に生成されるソーラーウエハのエネルギー回収に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン部品の材料回収は、部品に含まれる材料を回収して製品に利用するものである。材料とそれを所望の純度に分離するのに必要な労力に応じて、回収された材料は元の原材料と同様の形態で得られる(原材料回収)か、別の用途のために改良された材料または新しい材料として回収できる(材料回収)。
【0003】
回収されるシリコン部品とは、カバー箔を含む、ハウジングまたは同等のカバー基板やキャリア基板から解放され、電子部品の構成部品を意味し、本質的にシリコンとそれに塗布された金属層や誘電体層/導体トラックで構成される層スタックのみを含むものであると理解される。半導体シリコンに加えて、最も一般的に回収される材料は、アルミニウム、銀、モリブデン及び他の金属並びに窒化ケイ素のような誘電層である。電子部品によっては、より多くの異なる材料が存在する可能性がある。シリコン部品の残りの層スタックは、その層が広範囲にわたって互いに連結されており、電子コンポーネントの実際の機能に使用される。
【0004】
電子廃棄物、特にシリコン部品から高純度の半導体シリコンを得ようとする試みは数多くある。
【0005】
回収されるシリコン部品の層スタックは、例えば、電子部品からハウジングを取り除いた後に得られるものであり、通常はポリマー、または、その被膜、例えば、ガラスおよび/またはプラスチからなる。太陽電池モジュールにおいては、シリコン部品はガラスやプラスチックの層で覆われている。例えば、製造される太陽電池モジュールの約85%は、ガラス板/上層のプラスチックフィルム/ガラス板と平行な面内で隣り合う複数のシリコンウエハ(ウエハとフィルムの複合体を電気的に接触させるための金属化層を含む)、というように、連続する材料を積層した複合体から本質的に構成されている。後者は複数のプラスチックフィルムからなる。ウエハ層を箔およびガラスから分離するために、様々な適切なプロセスを使用することができる。例えば、WO2018/137735A1においては、光起電力モジュールの前面側に、フラッシュランプからの強い可視光を、前面側のガラスパネルを通して1秒未満照射する。入射光は、1つの平面上に隣り合うシリコンウエハによって形成される下層の材料層によって吸収される。光の吸収により材料層が加熱され、シリコン層とプラスチック層の界面で発生する熱分解ガスの圧力により、隣接するプラスチックフィルムが剥離する。
【0006】
純粋な半導体を取り出すには、金属に加えてドーピング層も除去しなければならないが、通常は一連の化学プロセスを用いる。さらに、ドーピングの種類とレベルを見極めるには非常に時間がかかるため、シリコン部品の回収に必要な純度の半導体をリサイクルすることは、環境保護にも経済的にも意味がないように考えられる。
【0007】
シリコン部品中に存在する銀を得るために、WO2020240126A1においては、銀は、いわゆる「リフトオフプロセス」と呼ばれる先行プロセスにおいて、表面エッチングによって固体として分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2018/137735A1
【特許文献2】WO2020/240126A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、シリコンウエハ、特に太陽電池モジュールのシリコンウエハを取り替える必要があるため、リサイクルの需要が高まっている。しかし、既知の多段階プロセスでは、リサイクルは複雑でコストがかかりすぎる。
【0010】
そのため、時間、プラント技術、エネルギーの面で効果的で、大量のシリコン部品を回収でき、部品に含まれるさまざまな材料をこれまで以上に回収できる回収プロセスが必要とされている。
【0011】
これには、方法から得られる材料が、合理的な努力で可能かつ実現可能な限り、互いに分離されていることが含まれる。合理的な努力という限定には、高純度結晶シリコンのように、シリコン部品の製造時に添加されたものと同じ材料または材料組成物が得られるとは限らないことも含まれる。つまり、シリコン部品の複数の成分からなる材料組成物や、利用プロセスの過程で添加された材料組成物でも、元の材料が得られるということである。
【0012】
エネルギー的に効率的な回収が必要ということは、一次エネルギーの供給がほんの少ししか必要とされないか、まったく必要とされないように、方法を管理する必要があるということを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
問題を解決するための請求項1に記載の方法が与えられる。本方法の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0014】
本発明による方法においては、少なくとも1つのシリコン部品、または工業的規模ではその複数をアルカリ溶液に溶解する。
【0015】
原則として、シリコン部品を溶解できるアルカリ溶液であれば、どのようなものでも使用できる。例えば、電子シリコン部品の製造においてシリコンをエッチングするために使用されるアルカリ溶液を使用することができる。あるいは、有機アルカリ水溶液を含む他のアルカリ水溶液を使用することもできるが、材料、特にシリコン、貴金属および卑金属に対する挙動が、以下に説明する無機アルカリ水溶液の挙動に対応していれば使用することができる。
【0016】
本方法の一実施形態によれば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物であるアルカリまたはアルカリの混合物が使用される。後者は、前者と同様にシリコンと金属に対して同様の挙動を示すが、弱められた形態である。あるいは、水酸化アンモニウムのアルカリ溶液を使用することもできる。アルカリ溶液は、例えば、製造する水ガラスおよび/またはシリコン部品のパラメータ(材料組成、層厚など)に応じて選択することができる。アルカリ溶液の選択基準としては、コスト、プロセスに必要な時間やエネルギー、健康被害なども挙げられる。
【0017】
例えば、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムの水溶液を用いることができるが、これらに限定されるものではない。特に、苛性ソーダ(水酸化ナトリウムの水溶液)や苛性カリ(水酸化カリウムの水溶液)を使用することができる。使用できるアルカリの種類が多いため、安価で大量に供給できるが健康に有害な苛性ソーダ(水酸化ナトリウム水溶液)の使用を避けることができる。特に苛性ソーダは、低コストで大量に供給できるという利点がある。
【0018】
苛性カリ水溶液や苛性ソーダ水溶液を製造するには、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムを水に溶解する。苛性カリ水溶液を使ってシリコン部品を回収する場合の化学反応式は以下の通りである。
2Si+2KOH+3H2O→K2SiO5+4H2
【0019】
使用するアルカリ溶液、アルカリ溶液と懸濁液の温度に加えて、当該方法は他のパラメータによっても影響を受ける。
【0020】
アルカリ溶液に添加されるシリコン部品の粒子の種類、形状およびサイズも方法に影響を及ぼすので、方法のさらなる実施形態によれば、シリコン部品はアルカリ溶液に添加される前に粉砕され、懸濁液の粘度に影響を及ぼすことがある。溶解プロセスの特に顕著な加速は、最大寸法が1cm未満の粒子サイズで達成される。好ましくは、粉砕は0.5cm未満、より好ましくは2mm未満、さらに好ましくは1mm未満または0.5mmの粒子まで実施できる。従って、シリコン部品のフラグメント(破壊物)を製造するために様々な方法を使用することができる。
【0021】
粒子そのものと合わせて、懸濁液をより効果的に攪拌することも、顕著な促進効果をもたらす。ここで、撹拌機の形状、位置、数、速度によって、溶解プロセスを最適化することができる。粒子を添加する際の懸濁液の混合についても同様である。さらに、アルカリ溶液を粉砕してまたは全部をシリコン部品に添加する場合、またはその逆の場合にも、異なるプロセス順序を達成することができる。
【0022】
この目的のために、アルカリ溶液中で粉砕され、あるいは粉砕されずそのままの大きさで、アルカリ溶液温度が室温以上でアルカリ溶液の沸騰温度以下、任意で水の沸騰温度以下であるアルカリ溶液の浴に入れられる。技術的な環境では、一般に20℃の室温が想定される。このようなアルカリ溶液の初期温度は、以下に詳細に説明するように、得られる懸濁液の温度がプロセスの過程で、アルカリ溶液の沸騰温度を超えて上昇することを妨げるものではない。
【0023】
プロセス中の温度段階を区別するため、アルカリ溶液の初期設定温度をアルカリ溶液温度と呼ぶ。シリコン部品の分解プロセス(以下、溶液または溶解プロセス(溶解工程)ともいう)が始まると、化学反応が始まるため温度が変化し、溶解プロセスの反応生成物も含む懸濁液が形成される。溶解プロセスが進むにつれて変化する温度を、ここでは懸濁液温度、特に第1の懸濁液温度と呼ぶ。これは、以下に説明するように、後のプロセスで設定または調整される第2の懸濁液温度とは区別される。
【0024】
アルカリ溶液の温度範囲は、50℃から、シリコン部品の添加中に沸騰し始めない程度にアルカリ溶液の沸騰温度よりはるかに低い温度までが、効果的な溶解プロセスに有利であることが証明されている。
【0025】
アルカリ溶液の温度の選択は、使用するアルカリ溶液、添加するシリコン部品の量、大きさ、状態(シリコン片または元素全体、表面特性など)、所望の反応速度、反応器内の実現可能な所望の圧力など、様々な条件によって決まる。アルカリ溶液の温度を設定する際には、添加する材料の溶解プロセスに必要な第1の懸濁液温度も考慮する必要がある。初期のアルカリ溶液温度と懸濁液温度の両方は、基材の溶解速度に影響を与えるのに適しており、より高い温度はプロセスを加速するのに適している。アルカリ溶液の温度は、試行を通じて最適化することにより、各プロセスの用途に適合させなければならない。
【0026】
当該方法に影響を与えるもう一つのパラメータは、溶解中の反応器内のプロセス圧力である。圧力は、例えば、アルカリ溶液と懸濁液の両方の沸騰温度に積極的に影響を与え、溶解プロセスの反応速度に影響を与えるために使用することができる。方法の説明においてアルカリ溶液の沸点に言及する場合、これは常に、反応器内で選択または設定されたプロセス圧力における値に対応する沸点を意味すると理解される。
【0027】
反応器という用語は、ある特定の反応が、特にアルカリ溶液、温度、圧力などの規定された条件下で起こり、それらに影響を与え、制御できるように特別に設計・製造された、容器で区切られた空間を表すためにここで使用される。
【0028】
ここでいう溶解とは、問題のシリコン部品がアルカリ溶液中で崩壊・分解し、その結果、反応して異なる化学化合物を形成する過程を指す。成分のケイ素が完全に分解することが好ましい。アルカリ溶液と溶解プロセスの反応生成物の混合物を、ここでは懸濁液と示す。シリコン部品は、シリコンが溶解するまで懸濁液中に留まり、これにより得られる反応溶液は、本方法の一実施形態によるプロセス中に撹拌される。
【0029】
第1の懸濁液温度は、沸騰温度によって上限が制限される温度範囲内にあるか、または任意にアルカリ溶液の沸点より上(沸点を超える)にあることもできるように、シリコン部品の溶解プロセス全体にわたって維持される。また、第1の懸濁液温度の温度範囲を沸点より一桁低い温度で制限することも可能である。また、沸点より上の第1の懸濁液温度の上昇は、好ましくは一桁の量だけであることが、反応を制御下に保つために望ましいことは明らかである。沸点より一桁低いまたは高い温度は、10ケルビン未満の任意の値で可能であり、それにより最も有利な値は、反応速度と反応の制御性の間の最適化から生じる。
【0030】
第1の懸濁液温度によって、その有効性、特に反応速度に関して方法に影響を与えることが可能である。さらに、アルカリ溶液の沸点を超える温度でアルカリ溶液中において生じる相転移に必要なエネルギーがプロセス自体によってカバーされるため、第1の懸濁液温度はそれ以上上昇することはなく、反応が進行するのを防ぐことができるという点で、プロセス自体によって第1の懸濁液温度を制限することができる。
【0031】
とりわけ、当該温度はシリコン部品が溶解する速度に影響し、それによって可能な限り高い温度が必ずしも最良の結果をもたらすとは限らない。従って、常圧下で運転されるプロセス中の懸濁液温度は、好ましくは60~90℃の範囲、より好ましくは70~85℃の範囲、さらに好ましくは80~85℃の範囲とすることができ、これにより、数度の範囲、すなわち5度未満の範囲の偏差は、結果に大きな影響を与えることなく可能である。より高い沸騰温度では、懸濁液温度の範囲は、上記の範囲指定および水の沸騰温度に関連する沸騰温度までの記載の間隔に類似して、より高くすることができる。
【0032】
シリコン部品が溶解した後、懸濁液は、シリコンがメタ-、ジ-、オリゴシリケートとして含まれる粘性のある反応溶液として存在する。溶解したシリコン部品の種類によっては、反応溶液に他の成分が含まれることもある。太陽電池モジュールのウエハ層や電子半導体部品のような電気的に接触するシリコン部品の場合、反応溶液中に堆積物としての貴金属や不純物としての卑金属が含まれることもある。純粋なウエハスクラップを溶解する場合、懸濁液は主に、または専らメタ-、ジ-、オリゴシリケートを含み、不純物はないか、またはわずかである。
【0033】
懸濁液からメタシリケート(メタケイ酸塩)、ジシリケート(ジケイ酸塩)およびオリゴシリケート(オリゴケイ酸塩)を分離するために、適切なフィルターを介して、例えば熱間吸引によって、高温で除去される。この混合物が「高温」で除去されるのは、第2の懸濁液温度を有する場合であり、この第2の懸濁液温度は、濾過中、50℃からプロセス圧力pにおけるアルカリ溶液の沸点未満の範囲に維持される。第2の懸濁液温度は、第1の分離温度と同じにすることも、それとは異なるようにすることもできる。これは、懸濁液温度が濾過前または濾過中に積極的に影響を受けるか、または濾過開始時の値に基づいて所望の濾過結果が得られる温度範囲に留まることを意味する。
【0034】
フィルターは、懸濁液のあらなる成分、特に固体成分、例えば貴金属やシリコン部品の他の上述した不純物を濾過ケーク(フィルターケーク)として保持し、懸濁液を濾液として通過させる孔径を有していれば、この方法に適している。適切なフィルターは、懸濁液を試験または分析することによって容易に決定することができる。
【0035】
メタシリケート、ジシリケートおよびオリゴシリケートは、濾過した懸濁液から洗浄によって得ることができる。オプションとして、これを乾燥させ、水ガラスとして様々な用途に使用することもできる。
【0036】
本方法の様々な実施形態によれば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物のアルカリ溶液、または水酸化アンモニウムのアルカリ溶液、またはそれらの混合物がケイ素を溶解するために使用される場合、メタシリケート、ジシリケートおよびオリゴシリケートは、異なる組成および水和物形態のシリケート(ケイ酸塩)に変換することができる。例えば、(Na2SiO3)は、ケイ酸カリウム(K2SiO3)および/またはケイ酸カルシウム(CaSiO3)と混合することができる。さらに、例えばH2SO4やHClなどの酸による酸性化や、CO2を用いた空気中への暴露によってpH値を下げると、ケイ酸が分子間で水を分割し、ケイ素原子間に酸素橋を形成する傾向があるため、様々なオリゴシリケートやポリシリケートが形成される可能性がある。これは、鎖延長(分岐および非分岐)および鎖閉鎖(環形成)縮合反応につながり、アルカリ-シリカ反応の複雑さを考慮しなければならない。
【0037】
水ガラスは、組成M2O・nSiO2、n=1~4のガラス状、すなわち非晶質、非結晶性の水溶性ケイ酸塩として知られている。例えば、以下のような用途に使用される、
ケイ酸カリウムまたはケイ酸ナトリウム(後者)は、有害な影響から保護するために適切な措置が講じられている条件下で使用される。水溶性ケイ酸塩は、例えば、建設産業、バインダー、防火材料、化学薬品(例えば、H2O2)の緩衝剤および安定剤、石炭のブリケット化、紙のリサイクル、紙のコーティング、金属の脱脂、その他多くの分野で使用されている。また、これらは、洗剤、漂白剤、石鹸、洗浄剤、セメント、モルタル、セラミック製品、塗料、化粧品にも含まれている。ケイ酸カリウムは、バインダー、接着剤(鉱物性塗料やプラスター、耐火モルタル、建築材料)として使用され、木材の防火材料、いわゆる植物強化剤として使用される。
【0038】
本方法のさらなる実施形態によれば、例えば、アルカリ溶液によるシリコン部品またはその粒子の濡れ性を向上させる補助物質の添加も、溶解プロセスを促進することができる。この目的には、例えばイソプロパノールが適している。塩基性界面活性剤または第4級アンモニウム塩のような相間移動触媒の使用も可能である。あるいは、アルカリ溶液の表面張力を低下させ、濡れ性を向上させるのに適した他の材料を使用することもできる。
【0039】
最適な反応速度による効果的なプロセス制御に加えて、発エルゴン反応による可能な限り高いエネルギー利得も望まれており、これは、前述の温度範囲内でより高い懸濁液温度によっても可能である。
【0040】
メタシリケート、ジシリケートおよびオリゴシリケートの生成は、特に上記のアルカリ、特に水酸化カリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液では、非常に発エルゴン性である。これは、反応生成物の自由エンタルピーが出発物質の自由エンタルピーの合計よりも低いことを意味し、そのためプロセス中に熱が放出される。その結果、50℃以上の第1および/または第2の懸濁液温度、任意でアルカリ溶液温度、上記のプロセスで規定された温度を設定、すなわち生成および維持するためのエネルギーは、部分的に、主に、あるいは専らエネルギー利得からまかなうことができる。この目的のために使用できるエネルギーは、本発明の方法から、または特に設定される初期のアルカリ溶液温度の場合には、本発明による先行プロセスから得ることができる。
【0041】
進行中のプロセスからのエネルギー獲得は、例えば、以下に説明するように、連続的なプロセスシーケンスで実現することができる。あるいは、本方法の一実施形態によれば、懸濁液温度TS1または懸濁液温度TS2またはその両方を、アルカリおよび/または金属水酸化物の計量添加によって調節すること、および/またはプロセスの過程でそれらを維持することによって、進行中のプロセスに積極的に影響を及ぼすこともできる。例えば、水酸化カリウムの固体は、-57.1kJ/molの高い溶液エンタルピーを有する。反応エンタルピーは-424KJ/mol、反応エントロピーは159J/Kである。80℃では、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)の自由反応エンタルピーは約-480KJ/molとなる。
【0042】
これに基づき、本方法の一実施形態によれば、攪拌しながら水酸化物を水に溶解してアルカリ溶液を生成することにより、アルカリ溶液の初期温度を上記温度範囲内の所望の温度に生成することができる。水酸化物を水に加える間の温度を計算および/またはモニター(監視)するだけで、任意に、外部エネルギー供給なしに初期温度を達成することができる。
【0043】
プロセス中、第1の懸濁液の温度を維持することも同様である。この目的のために、水酸化物を懸濁液に計量添加することもできる。添加量は、試験および/または温度モニタリング、よび/または計算によって決定することができる。上述したプロセスシーケンスと、それに関連した第1の懸濁液による第2の懸濁液温度の影響により、上記は第2の懸濁液温度にも間接的に適用される。しかしながら、外部からのエネルギー供給が排除されるわけではない。例えば、フィルター中のシリケートの沈殿は、濾過中の再加熱によって回避されるか、少なくとも著しく低減され得る。
【0044】
さらなる実施形態においては、適切な超音波源によってアルカリ溶液または懸濁液に超音波を導入し、第1の場合には反応を開始させ、第2の場合には反応を支援または促進させることができる。部分的な外部エネルギー供給は、大規模なプロセスをより効果的に実施することができる。
【0045】
シリコン部品に貴金属が含まれている場合、懸濁液を濾過する際に貴金属を濾過ケークに回収することにより、本方法の一実施形態において、これらを懸濁液から分離することができる。シリコン部品の貴金属、例えば銀や金などは、アルカリ溶液と反応せず、その密度のために反応器の床に固体として蓄積する。これらの貴金属は、元素の状態、すなわち酸化状態0で存在し、「固体沈殿物」として分離することができる。本方法の一実施形態によれば、貴金属はその後精製され、金属によっては、濃縮される。
【0046】
精製は、例えば電極上への電気化学的析出によって行うことができる。しかし、固体の沈殿物は、硝酸またはメチルスルホン酸を塩として水に溶解し、ハロゲン化物、硫化物または硫酸塩として沈殿させることもできる。また、貴金属をシアン化物、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、アミンなどの錯化剤と反応させ、上記の物質で精製したものを沈殿させることもできる。銀は、塩化鉄(III)をクロロ錯体として生理食塩水や塩化カルシウム溶液などの塩溶液に溶解し、水で希釈して再び沈殿させることができる。シリコン部品中に存在する、銀と金、他の貴金属を精製するための他の方法は、当業者に知られている。
【0047】
アルミニウム、スズ、鉛など、シリコン部品に含まれる卑金属も、好ましくは完全にアルカリ溶液に溶解し、水素が生成される。これらの材料は太陽電池モジュール中に少量しか存在しないため、メタシリケート、ジシリケートおよびオリゴシリケート中に不純物として残留し、有害な影響を及ぼすことはない。例えば、ソーラーウエハの裏面接触に由来する鉛や酸化アルミニウムは、建材産業用の水ガラス製造には無害である。
【0048】
シリコン部品のもうひとつのプラスの回収効果は、アルカリ溶液中でシリコン部品のシリコンと卑金属が溶解する結果、エネルギー担体として水素が発生することである。
【0049】
上記の水酸化カリウム水溶液にケイ素を溶かすための上記式は、2モルのケイ素が1モルの二ケイ酸カリウムと4モルの水素を生成することを示している。水素の生成は、上記の各アルカリ溶液に当てはまる。この反応結果には、少なくとも2つの利点がある。
【0050】
一実施形態においては、シリコン部品のアルカリ溶液への溶解は、水素生成に基づいて検出することができ、次のプロセス工程を開始することができる。従って、本方法のさらなる実施形態においては、水素の生成はモニターされ、その完了はセンサーによって示される。一方、水素そのものをエネルギー源として利用することもできる。
【0051】
この方法で生成される水素は主にシリコンから生成され、これが最大の体積を占める。つまり、1kgのシリコンから約1600リットル、144gの水素を製造することができる。最新の太陽電池モジュールを利用した場合に、明らかにその効果は最大となる。
【0052】
水素は、例えば、アルカリ溶液の浴のベル型カバーを使って回収および抽出することができる。圧縮された水素は、加圧容器に充填され、新たな用途に供給される。本方法のさらなる実施形態によれば、シリコン部品のエネルギー的利用のために、反応器の出口で水素の第1の圧縮段階をすでに実現することができ、その結果、生じる水素の貯蔵、輸送、液化が支援される。例えば、圧縮装置をフランジによって反応器のガス出口に接続することができ、水素を第2の高圧レベルまで圧縮することができる。水素は圧縮装置内で乾燥および冷却することもできる。
【0053】
本方法のさらなる実施形態において、出発物質および懸濁液は、溶解プロセスを中断することなく、連続的に供給または排出することができる(連続プロセス)。あるいは、プロセスは中断されないが、出発物質および最終生成物の少なくとも一方は不連続的に供給または排出される(準連続プロセス)ように実施することもできる。両方の変形例は、方法の大規模工業的な応用において有利である。なぜなら、対称的に、不連続プロセスにおいては、各バッチ後に反応器を停止し、空にして出発原料を再装填し、再びプロセスパラメーターを上昇させなければならないダウンタイムを避けられないからである。
【0054】
添加され、まだ溶解していないシリコン片は、すでに形成された懸濁液の表面に浮遊している一方、銀や他の貴金属は底のスラッジとして沈殿することによって、次のプロセスステップで処理される懸濁液とその不純物を、反応中にまだ溶解するシリコン片から分離することを可能にする。強い発エルゴン反応の速度決定の要因(律速因子)は、連続的または準連続的なプロセス制御に関連し、特に、熱の迅速な除去、水素の捕捉、およびこれに関連したシリコン片または他の出発原料の供給に関連する。
【0055】
要約すると、本発明による方法の材料的およびエネルギー的な利点は、以下のように説明できる:
-この方法は、アルカリ溶液を使用して、電子廃棄物から半導体シリコンを好ましくは完全に溶解することからなる。
-その後の貴金属の洗浄を除けば、必要な化学物質は1種類のみであり、すなわちアルカリ溶液、例えば水酸化カリウム溶液または水酸化ナトリウム溶液である。フッ化水素酸や固形物を溶解するための他の化学物質は、本発明による方法では使用しない。
-多くの方法の変形例において、シリコン部品の回収は、様々な形態の水ガラス抽出と関連している。水ガラスは、産業界や多くの製品に幅広く使用されている素材である。
-貴金属、例えば、銀は、その密度の高さゆえに、濃い色の沈殿物として反応器の底に固体として沈殿する。一方、シリコンは、すでに形成された懸濁液の表面に浮遊するため、濾過によって両材料を分離することができる。
-この方法においては、(アルカリ溶液の生成による)溶液のエンタルピーと反応物の反応エンタルピーが高いため、この方法は発エルゴン的に行われることができ、熱を回収して方法を実施するか他の用途に用いることができる。
-この方法においては水素が発生し、これを回収してエネルギー源として利用することができる。リサイクル用に生産される太陽電池モジュールは大量にあるため、回収できる水素の量は有効利用可能な量に相当する。
-卑金属、例えば、半導体シリコン表面のアルミニウムなどはアルカリ溶液に溶け、水素生成にも寄与する。
-また、この方法は、アルカリ溶液中に浮遊するシリコンスラリーを懸濁液から分離するため、連続運転または少なくとも準連続運転が可能であり、大規模な工業用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図は実施形態の一例としてフローチャートを用いて本発明をより詳細に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、実施形態の一例としてフローチャート(図)を用いて本発明をより詳細に説明する。プロセスの順序の説明は、本発明の理解に必要な範囲でのみ行う。また、本説明は、プロセスの順序の完全な説明であることを主張するものではない。
【0058】
この方法は様々な方法で開始することができる。まず、上述した水酸化物と水を混合し、その中にシリコン部品のフラグメント(以下、略してシリコン片ともいう)を制御された方法で添加する。あるいは、シリコン片と水の懸濁液を方法の出発点とすることもできる。この場合、水酸化物はその後のプロセスで制御された方法で添加される。いずれの場合も、水、アルカリ溶液、およびシリコン部品がプロセスの必須出発原料であり、場合によっては、この方法の唯一の出発原料である。
【0059】
後述の例示的な実施形態例では、上述の2つの選択肢のうち、第1の選択肢をより詳細に説明する。第2の選択肢は、その後に制御される、すなわち温度に依存する添加物質が、シリコン片の代わりに水酸化物であるという点でのみ、さらなるプロセス順序において第1の選択肢と異なる。
【0060】
実施形態の例においては、シリコンを溶解するのに適したアルカリ溶液1、例えば水酸化ナトリウムが、攪拌3によって常圧下で水2に溶解され、これによって両出発材料の比率は、この溶液温度が発エルゴン反応(発熱反応)によってほぼT=80℃まで上昇するように計算される。次に、粒径<1cm(1cm未満)の「BE」と略記されるシリコン部品の粉砕されたフラグメント4を部分的に添加し、現在存在する懸濁液温度Tが95℃を超えないように、また形成される泡が反応器から離れないように、温度測定5によってモニター監視する。シリコン片4の添加中に懸濁液温度Tが85℃6を大きく上回った場合、その供給は低減される7。
【0061】
シリコン片4を完全に添加した後、銀以外の固体が溶解するまで80℃でさらに4時間撹拌する。メタ-、ジ-、オリゴケイ酸ナトリウムと貴金属、場合によってはその他の重要ではない不純物を含む懸濁液8が得られる。
【0062】
シリコンの分解中に生成された水素9は、外部に貯蔵するために除去される。水素9の生成は、水素の生成の完了に基づいて、添加されたシリコン片の溶解を検出できるように、モニター10される。実施形態の例においては、約380gのシリコンが溶解した結果、ガスメーターを用いて測定した結果、608リットルを超える水素が生成された。
【0063】
次に、シリコン片4の銀は、熱間濾過(高温濾過)11によって懸濁液8から分離される。例えば、これに限定するものではないが、銀は、貴金属粒子に適合した孔径を有する適当なフィルターを介して熱間で抽出され、熱水、すなわち上述の温度範囲の水温で再度洗浄され、必要に応じて乾燥される。洗浄水を含まない濾液は、実施形態の例ではメタ、ジ、オリゴケイ酸ナトリウムの水ガラス12として使用できる。
【0064】
例えば、G3タイプのフリットをフィルターとして使用することができる。フリットとは、多孔質ガラスや多孔質セラミック製のフィルターのことであり、濾過される銀が微細な孔に留まるようになっている。G3タイプとは孔径のことで、16~40μmの範囲にある。その結果、フィルターを通過し、溶解したシリコンを含む濾液と、フィルターに残った残渣、いわゆる濾過ケークができ、この場合は貴金属13銀が含まれる。
【0065】
銀を含む濾過ケークを、攪拌しながら60℃で20~30%の半濃縮硝酸に溶解する。その後、G4フリット(孔径10~16μm)を吸引濾過に使用し、濾液を生理食塩水と混合する。形成された塩化銀沈殿物をG4フリットに通じて吸引濾過し、水14で十分に洗浄する。沈殿物を希水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、スクロースで金属銀に還元する。銀沈殿物を取り出し、乾燥させる。この方法で形成される水素は、空気圧で回収することもでき(図示せず)、この方法のエネルギーバランスをさらに改善することができる。銀を含む濾過ケークを陽極板に通して圧搾し、銀を電解精製するなど、他の銀抽出方法も可能である。この変形例では、金、白金、パラジウムなどの貴金属成分が陽極スラッジ中に濃縮され、上述のようにそこから回収される。
【国際調査報告】