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特表2025-502566セルフリーDNAの後の解析のために保存した血液を解析するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セルフリーDNAの後の解析のために保存した血液を解析するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20250117BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20250117BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024563757
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(85)【翻訳文提出日】2024-09-05
(86)【国際出願番号】 IB2023000022
(87)【国際公開番号】W WO2023135487
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】63/300,256
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524269756
【氏名又は名称】リトル スティーブン
【氏名又は名称原語表記】LITTLE, STEPHEN
(71)【出願人】
【識別番号】524269767
【氏名又は名称】リズリー マイケル ディー.
【氏名又は名称原語表記】RISLEY, MICHAEL, D.
(71)【出願人】
【識別番号】524269778
【氏名又は名称】メーソン ジョアン エヌ.
【氏名又は名称原語表記】MASON, JOANNE, N.
(71)【出願人】
【識別番号】524269789
【氏名又は名称】ルソー フランソワ
【氏名又は名称原語表記】ROUSSEAU, FRANCOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】リトル スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】リズリー マイケル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】メーソン ジョアン エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ルソー フランソワ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QS08
4B063QS10
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は、血液、例えば、母体血又はがんスクリーニングのための血液の保存、及びこの血液由来のセルフリーDNA(cfDNA)における異常についての検査に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、血液試料から得られた核酸配列を解析して配列情報を提供するための方法。
a.サイズ選択したセルフリーDNAの核酸配列を解析して配列情報を検出するステップであって、
前記サイズ選択したセルフリーDNAが、血液試料から得られたものであり、
前記血液試料が、固定剤を含まない血液採取デバイスに採取されたものであり、
前記血液試料が、血漿から前記セルフリーDNAを単離する前に-20℃超かつ35℃未満の温度で固定剤を使用せずに保存されたものであり、
前記血漿が、保存前又は後のいずれかに、前記血液試料に存在する血液細胞から分離されたものであり、
セルフリーDNAが、対象から前記血液試料を採取してから少なくとも48時間後に前記血漿から単離されたものであり、
解析される前記サイズ選択したセルフリーDNAが、抽出した前記セルフリーDNAをサイズにより分離し、抽出した前記セルフリーDNAから300bp未満のセルフリーDNAを単離することによって得られたものである、前記ステップ;
【請求項2】
以下のステップを含む、血液試料から得られた核酸配列を解析して配列情報を提供するための方法。
a.サイズ選択したセルフリーDNAの核酸配列を解析して配列情報を検出するステップであって、
前記サイズ選択したセルフリーDNAが、血液試料から得られたものであり、
前記血液試料が、その中に1又は2以上の組成物のみを有する容器を含む血液採取デバイスに採取されたものであり、1又は2以上の前記組成物が、1又は2以上の抗凝固剤、並びにカリウム、リチウム、及びナトリウムから選択される金属イオンからなり、
前記血液試料が、血漿から前記セルフリーDNAを単離する前に-20℃超かつ35℃未満の温度で前記血液採取デバイスに保存されたものであり、
前記血漿が、保存前又は後のいずれかに、前記血液試料に存在する血液細胞から分離されたものであり、
セルフリーDNAが、対象から前記血液試料を採取してから少なくとも48時間後に前記血漿から単離されたものであり、
解析される前記サイズ選択したセルフリーDNAが、抽出した前記セルフリーDNAをサイズにより分離し、抽出した前記セルフリーDNAから300bp未満のセルフリーDNAを単離することによって得られたものである、前記ステップ;
【請求項3】
以下のステップを含む、血液試料から得られた核酸配列を解析して配列情報を提供するための方法。
a.サイズ選択したセルフリーDNAの核酸配列を解析して配列情報を検出するステップであって、
前記サイズ選択したセルフリーDNAが、血液試料から得られたものであり、
前記血液試料が、その中に1又は2以上の組成物のみを有する容器と、分離ゲルとを含む血液採取デバイスに採取されたものであり、1又は2以上の前記組成物が、1又は2以上の抗凝固剤、並びにカリウム、リチウム、及びナトリウムから選択される金属イオンからなり、
前記血液試料が、血漿から前記セルフリーDNAを単離する前に-20℃超かつ35℃未満の温度で前記血液採取デバイスに保存されたものであり、
前記血漿が、保存前又は後のいずれかに、前記血液試料に存在する血液細胞から分離されたものであり、
セルフリーDNAが、対象から前記血液試料を採取してから少なくとも48時間後に前記血漿から単離されたものであり、
解析される前記サイズ選択したセルフリーDNAが、抽出した前記セルフリーDNAをサイズにより分離し、抽出した前記セルフリーDNAから300bp未満のセルフリーDNAを単離することによって得られたものである、前記ステップ;
【請求項4】
cfDNAが、血液採取から少なくとも3、4、5、6、7又は8日後に血漿から単離されたものである、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
血漿が、血液採取後、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8日間保存した後に血液から分離されたものである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
血漿が、血液採取後、少なくとも2、3、4、5若しくは6日間保存した後又は3~6日間保存した後又は3、4若しくは5日間保存した後に血液から分離されたものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血液試料が、血漿からセルフリーDNAを単離する前に、0℃超かつ35℃未満又は30℃未満又は25℃未満又は20℃未満の温度で血液採取デバイスに保存されたものである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
血液試料が、血液から血漿を分離する前に、0℃超かつ35℃未満又は30℃未満又は25℃未満又は20℃未満の温度で血液採取デバイスに保存されたものである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
血液試料が、血漿からセルフリーDNAを単離する前に、0℃超又は2℃超かつ15℃未満又は10℃未満又は8℃未満又は6℃未満の温度で血液採取デバイスに保存されたものである、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
血液試料が、血液から血漿を分離する前に、0℃超又は2℃超かつ15℃未満又は10℃未満又は8℃未満又は6℃未満の温度で血液採取デバイスに保存されたものである、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
血液試料が、血液から血漿を単離する前に、環境温度で血液採取デバイスに保存されたものである、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
単離したセルフリーDNAの核酸配列が、胎児DNAにおける遺伝子異常の存在を決定するために解析される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の方法であって、配列情報が複数の配列タグの配列を含み、前記方法が、
複数の前記配列タグの前記配列を解析して、胎児のDNAにおける少なくとも1つの目的の配列の存在を決定するステップであって、複数の前記配列タグの少なくとも一部が、少なくとも1つの前記目的の配列にマッピングする、前記ステップをさらに含む、前記方法。
【請求項14】
配列情報が遺伝子に遺伝的変異を含み、
前記遺伝子が、BRCA1、BRCA2、MSH6、MSH2、MLH1、RET、PTEN、ATM、H-RAS、p53、ELAC2、CDH1、APC、AR、PMS2、MLH3、CYP1A1、GSTP1、GSTM1、AXIN2、CYP19、MET、NAT1、CDKN2A、NQ01、trc8、RAD51、PMS1、TGFBR2、VHL、MC4R、POMC、NROB2、UCP2、PCSK1、PPARG、ADRB2、UCP3、glur1、cart、SORBS1、LEP、LEPR、SIM1、TNF、IL-6、IL-1、IL-2、IL-3、IL1A、TAP2、THPO、THRB、NBS1、RBM15、LIE、MPL、RUNX1、Her-2、グルココルチコイド受容体、エストロゲン受容体、甲状腺受容体、p21、p27、K-RAS、N-RAS、網膜芽細胞腫タンパク質、ウィスコット・アルドリッチ(WAS)遺伝子、第V因子ライデン、第II因子(プロトロンビン)、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、嚢胞性線維症、LDL受容体、HDL受容体、スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子、及びSHOX遺伝子からなる群から選択されても、又は
前記遺伝子が、一酸化窒素調節に関与する遺伝子、細胞周期調節に関与する遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、癌遺伝子、及び神経変性と関連する遺伝子から選択されてもよい、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
遺伝的変異が、一種のがんのマーカーである、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
分離ステップが、ゲル電気泳動を使用して実施されたものである、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
血漿試料由来のcfDNAの部分が、185bp未満又は180bp未満又は165bp未満である、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
血漿試料由来のcfDNAの部分が、155bp未満又は150bp未満である、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
血漿試料由来のcfDNAの部分が、50bp超又は80bp超又は90bp超又は100bp超である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
固定剤が、架橋剤、代謝阻害剤又は膜安定剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
採取デバイスが、EDTA、及びカリウムから選択される金属イオンを含む、請求項1~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
採取デバイスが、分離ゲルをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
試料が、ヒトソースから得られたものである、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
対象が、妊婦又はがん診断を必要とする患者である、請求項1~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
セルフリーDNAを含む配列ライブラリが、cfDNAを単離し、サイズにより分離する前又は後に生成されたものである、請求項1~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
セルフリーDNAが、配列ライブラリを形成する前又は後に増幅されたものである、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
分離ステップが、ビーズに基づく結合マトリックス、カラムクロマトグラフィー又は膜フィルタを使用して実施されたものである、請求項1~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
血漿からセルフリーDNAを抽出する前の血液採取デバイスが、8℃以下の温度で保存されたものである、請求項1~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
血漿からセルフリーDNAを抽出する前の血液採取デバイスが、25℃以下の温度で保存されたものである、請求項1~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
血漿からセルフリーDNAを抽出する前の血液採取デバイスが、30℃以下の温度で保存されたものである、請求項1~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
血液採取デバイスが、血漿からセルフリーDNAを抽出する前に0℃を超える温度で保存されたものである、請求項1~30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
単離したセルフリーDNAの核酸配列を解析して配列情報を検出するステップが、単離した前記セルフリーDNAをシーケンシングするか又は前記セルフリーDNAの少なくとも一部をシーケンシングして、単離した前記セルフリーDNAにおける1又は2以上のポリヌクレオチドの核酸配列を決定するステップを含む、請求項1~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
配列情報が、参照配列と比較して挿入、欠失、クロモスリプシス又はメチル化を有する核酸配列を含む、請求項1~32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
単離したセルフリーDNAの核酸配列を、染色体数異常について又はXX染色体若しくはXY染色体の存在について、染色体比を算出することにより解析する、請求項1~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
試料と関連するシーケンシング情報から第1の正規化断片サイズプロファイルを生成し、前記断片サイズプロファイルにおける1又は2以上の値を、複数の妥当性断片サイズプロファイルを含む参照パラメータのセットから得られる対応する値の範囲の1又は2以上と比較し、前記試料と関連する前記断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つが、対応する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は試料と関連する前記断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つ(若しくは、すべて)が、対応する値の範囲外である場合、前記配列情報が拒否される、請求項1~34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
第1の正規化断片サイズプロファイルが、185bp未満若しくは180bp未満若しくは165bp未満若しくは155bp未満若しくは150bp未満の断片サイズを含むか又はこれからなる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
第1の正規化断片サイズプロファイルが、50bp超又は80bp超又は90bp超又は100bp超の断片サイズを含むか又はこれからなる、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
配列情報が拒否された試料により、患者の再採血の依頼が送信される、請求項35~37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
試料と関連するシーケンシング情報から第1の相対断片サイズ頻度値を算出し、前記第1の相対断片サイズ頻度値を、複数の妥当性相対断片サイズ頻度を含む参照相対断片サイズ頻度のセットと比較し、前記試料と関連する前記第1の断片サイズ頻度が、前記参照セットにおける特定する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は前記試料と関連する前記第1の断片サイズ頻度が、前記参照セットにおける特定する値の範囲外である場合、前記配列情報及び前記その解析結果が拒否される、請求項1~38のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
第1の相対断片サイズ頻度値が、185bp未満又は180bp未満又は165bp未満又は155bp未満又は150bp未満の断片サイズである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
第1の相対断片サイズ頻度値が、50bp超又は80bp超又は90bp超又は100bp超の断片サイズである、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
配列情報が拒否された試料により、患者の再採血の依頼が送信される、請求項39~41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
第1の断片サイズ頻度とは異なるbp値の第2の相対断片サイズ頻度値について、請求項39に記載の算出及び比較を実施するステップを含み、試料と関連する前記第2の断片サイズ頻度値のすべて(若しくは1つ)が、参照セットにおける特定する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析が許容されるか、又は前記試料と関連する前記第2の断片サイズ頻度のすべて(若しくは1つ、2つ、又は3つ)が、前記参照セットにおける特定する値の範囲外である場合、前記配列情報が拒否される、請求項39~42のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、例えば、母体血又はがん患者若しくはがんのスクリーニングを受ける患者における血液の保存と、血漿、例えば、母体血又はがん患者若しくはがんのスクリーニングを受ける患者における血液中の血漿由来のセルフリーDNA(cfDNA,cell free DNA)における異常についての検査に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年の臨床ケアへの導入以来(Ehrich, 2011 and Palomaki, 2011を参照)、非侵襲的出生前検査(NIPT,noninvasive prenatal test)により、種々の国々の多くの妊婦に、胎児異数性のリスクについての情報が提供されることとなった。いずれのプラットフォームを使用し、いずれのプロトコルに従うとしても、殆どの検査施設では、0~25%の失敗率が報告される(Badeau, 2017)。失敗は、通常、胎児画分が低すぎて信頼できないためである(Blais, 2018)。低胎児画分の一部の理由が知られており、例えば、早期在胎期間、高BMI(肥満度指数)、一部の胎児又は胎盤性異常の存在、T18、及び妊娠齢が挙げられる(Hou, 2019; Ashoor, 2013)。
【0003】
在胎期間の延長は、胎児画分の上昇と関連するが、スクリーニング検査は、妊娠初期に有用であり、胎児画分の上昇は、妊娠後期に主に観察される(Wang, 2013)。分子レベルでは、胎児cfDNAは、断片が短く(Fan, 2010; Shi, 2020)、特定のゲノム位置において高メチル化及び濃縮されている(Wang, 2013)という事実により母体cfDNAと識別することができる。最近では、いくつかの試験により、高濃度アガロースゲル電気泳動を使用して、シーケンシング前にcfDNAから調製したライブラリの最短断片を選択することによって、胎児画分が有意味に上昇することが報告された(Welker, 2021; Qiao, 2019; Xue, 2020; Qiao, 2019; Hu, 2019)。また、この手順により、がんとの関連において、稀な変異アレルの検出が向上するとみられた(Underhill, 2021)。
【0004】
また、腫瘍循環セルフリーDNAは、健常細胞由来のcfDNAよりも短いことが示された(Jiang, 2015)。両適用では、種々の系を使用して、プレキャストゲル、例えば、Invitrogenの2%E-gel EX(Thermofisher社)、BluePippinの2~3%アガロースカセット(Sage Bioscience社)、及びYourgene Health Canada, Inc.社の3%アガロースカセットを使用する電気泳動により、このような短い断片を単離又は濃縮した(Underhill, 2021)。
【0005】
有意味なシーケンシングに十分な割合のcfDNAを得るために、宿主ゲノムDNAの夾雑を回避するのに幾分注意して血漿を調製しなければならない。血液試料は、採取後4~8時間以内に処理する必要を有し、血漿調製のために、さらなる高速遠心分離ステップを行うことが好ましいことがある(Barrett, 2011)。しかし、血漿試料の高速遠心分離を実行した後、中央検査施設への輸送のため試料を凍結させるのに、採取施設の設備が常に整っているとは限らないため、これは常に可能とは限らない。殆どの採血施設により採用される解法は、例えば、架橋剤を使用して細胞膜を安定化することにより、cfDNAの完全性を維持するように設計された特殊なチューブを使用することである。このような特殊なチューブの例は、Streck(登録商標)血液採取チューブである。特殊なチューブを使わず血液を長期間保存するとゲノム材料が崩壊するため、cfDNAが経時的に増加する(Fernando 2018)。特殊なチューブにより血液試料が安定し、試料を、試料処理設備を有する検査施設に移すのに、時間を割くことが可能となる。しかし、このような特殊なチューブは、高価である。
【0006】
バキュテイナKEDTAをゲルとともに使用して血漿を採取する分子診断により、NIPTグレードのcfDNAを得ることが可能であると最近報告された(Giroux, 2021)。このようなチューブの使用後、濾過することにより、対費用効果が高く、検査施設において時間を要するステップを削減するのに効率的となることが示された。しかし、殆どの施設が血液チューブを遠心分離可能であるという事実にもかかわらず、多くの施設が、血液チューブを開口し、血漿を濾過する設備やスタッフを備えていない。
【0007】
したがって、全血試料を保存し、血液を処理して、有意味なcfDNA配列解析を行うための代替手法の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ehrich, 2011 and Palomaki, 2011
【非特許文献2】Badeau, 2017
【非特許文献3】Blais, 2018
【非特許文献4】Hou, 2019
【非特許文献5】Ashoor, 2013
【非特許文献6】Wang, 2013
【非特許文献7】Fan, 2010
【非特許文献8】Shi, 2020
【非特許文献9】Welker, 2021
【非特許文献10】Qiao, 2019
【非特許文献11】Xue, 2020
【非特許文献12】Hu, 2019
【非特許文献13】Underhill, 2021
【非特許文献14】Jiang, 2015
【非特許文献15】Barrett, 2011
【非特許文献16】Fernando 2018
【非特許文献17】Giroux, 2021
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施形態は、血液試料を血液採取デバイス内に採取するステップであって、上記血液採取デバイスが、固定剤を含まない、ステップと、血漿からセルフリーDNAを単離する前に-20℃超かつ35℃未満の温度(例えば、室温又は冷蔵温度)で固定剤を使用せずに血液を保存するステップと、保存前又は後のいずれかに、血液試料に存在する血液細胞から血漿を分離するステップと、対象からの血液採取から24時間より後に血漿からセルフリーDNAを単離するステップと、セルフリーDNAをセルフリーDNAのサイズにより分離し、300bp未満のセルフリーDNAを単離するステップと、単離したセルフリーDNAの核酸配列を解析して配列情報を検出するステップとを含む、血液試料から得られた核酸配列を解析して配列情報を提供するための方法に関する。血液は、長期間、固定剤を使用せずに保存した後、血漿からcfDNAを単離することができる。この期間は、血液採取後最大3、4、5、6、7、8又は9日であり得る。
【0010】
本発明による使用に適する採取デバイスは、その中に1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、1又は2以上の抗凝固剤、並びにカリウム、リチウム、及びナトリウムから選択される金属イオンからなる、容器を含むことができる。このようなデバイスの例は、KEDTAチューブである。或いは、血液採取デバイスは、その中に1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、1又は2以上の抗凝固剤、並びにカリウム、リチウム、及びナトリウムから選択される金属イオンからなる、容器と、分離ゲルとを含み得る。他の実施形態では、採取デバイスは、その中に1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、凝固剤を含むか又はこれからなる、容器を含むことができる。
【0011】
上述のように、分離ステップを使用して、単離したcfDNAの試料において300bp未満のcfDNAを単離することができる。一部の実施形態では、サイズ分離ステップにおいて単離するcfDNAは、185bp以下又は165bp以下である。他の実施形態では、サイズ分離ステップにおいて単離するcfDNAは、155bp以下又は150bp以下である。さらなる実施形態では、血漿試料から単離するcfDNAの部分は、50bp以上又は80bp以上である。分離ステップは、当技術分野において公知の適するさまざまなポリヌクレオチドサイズ選択技術により実施することができ、これは、ゲル電気泳動、クロマトグラフィー、ビーズに基づく分離、又は所望の閾値よりも大型のサイズのポリヌクレオチドの通過を妨害するポアサイズを有する膜フィルタを含む。
【0012】
サイズ選択後、単離したセルフリーDNAの核酸配列は、シーケンシング及び解析して、胎児DNAにおける遺伝子異常の存在を決定するか、或いは対象における癌性細胞の存在について、配列情報を決定するか又は腫瘍原性若しくは悪性腫瘍と関連する1若しくは2以上の遺伝子マーカーの存在に基づいて確認することができる。単離したcfDNAについての配列情報を得るために、配列ライブラリを調製する必要を有することがあり、cfDNAを増幅する必要を有し得る。サイズ選択及びライブラリ調製が完了すると、試料を解析して配列情報を得ることができる。配列情報を解析して、変異及び染色体異常を検出することができ、これらには、転座、塩基転換、モノソミー、トリソミー、及び他の異数性、欠失、挿入、メチル化、増幅、断片、転座、並びに再配列又はクロモスリプシスが挙げられるが、制限されない。また、配列情報を使用して、遺伝子配列におけるあらゆる変更を参照配列と比較して検出することができる。
【0013】
本開示の別の態様は、サイズ選択ステップの実施異常又は許容できない試料分解を検出することが可能な、配列妥当性検査である。cfDNAを含むDNA試料のサイズ選択及びサイズ選択後の試料DNAのシーケンシングを含む方法では、方法は、シーケンシングステップから得られる配列情報の配列妥当性検査を含み得る。妥当性検査は、試料と関連するシーケンシング情報から第1の正規化断片サイズプロファイルを生成するステップと、断片サイズプロファイルにおける1又は2以上の値を、複数の妥当性断片サイズプロファイルを含む参照パラメータのセットから得られる対応する値の範囲の1又は2以上と比較するステップと、試料と関連する断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つが、対応する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は試料と関連する断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つが、対応する値の範囲外である場合、配列情報が拒否されるステップとを含む。また、妥当性検査は、試料と関連するシーケンシング情報から第1の相対断片サイズ頻度値を算出するステップと、第1の相対断片サイズ頻度値を、複数の妥当性相対断片サイズ頻度を含む参照相対断片サイズ頻度値のセットと比較するステップと、試料と関連する第1の断片サイズ頻度が、参照セットにおける特定する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は試料と関連する第1の断片サイズ頻度が、参照セットにおける特定する値の範囲外である場合、配列情報及びその解析結果が拒否されるステップとを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】血漿調製チューブ又はStreck(登録商標)チューブに保存し、2~9日間保存した試料についての種々のタイムポイントにおける種々の試料の胎児画分を示すプロットを表す。
図2A】男児の妊娠における染色体X断片の減少から算出した胎児画分を示すプロットを表す。
図2B】男児のみにおける染色体Y断片数により評価した胎児画分を表す。
図3】ペアエンドシーケンシングのマッピングから算出したシーケンシング断片のサイズを例示するプロットを表す。灰色は、サイズ選択前の断片であり、青色は、サイズ選択後の断片である。
図4】実施例3に記載の試験の試験模式図を表す。登録時に、各参加者は20mLの献血を行った。血液を5mLのEDTAバキュテイナに採取し、保存場所に運送し、目的の検査施設に向けて処理した。血液は、バキュテイナ中環境温度で0~8時間、72時間、120時間又は168時間保存した後、2回の遠心分離により処理してEDTA血漿を得た。血漿は、-80℃で保存し、実行に十分な試料が採取されると間隔を置いて処理した。
図5-1】~
図5-2】シーケンシング後の268の妥当性試料についての未加工の推定胎児画分のOne-wayANOVAを表し、タイムポイントによる胎児画分推定データを示す。ここで、すべてのタイムポイントにおける平均値を水平線により示し、緑色はANOVAを表し、青色は±標準偏差を表す。また、ANOVA、平均値、及び標準偏差の解析を示す。タイムポイント1=0~8時間、タイムポイント2=72時間、タイムポイント3=120時間、及びタイムポイント4=168時間。
図6-1】~
図6-2】この試験における275の妥当性ライブラリに加えて、実行5による試料M056(タイムポイント1;2.49ng/μL)の平均値、標準偏差、及びウェルチANOVA。PCR後ライブラリ定量(ng/μL)データをタイムポイントにより提示する。注意:4回の等分散検定により、分散のデータが、タイムポイントにわたって等しくないことが実証され、これにより、ウェルチANOVAをANOVAの代わりに実施した。タイムポイント1=0~8時間、タイムポイント2=72時間、タイムポイント3=120時間、及びタイムポイント4=168時間。ウェルチANOVA P<0.0001は、試験の4つのタイムポイントにわたるライブラリ濃度データにおける有意な分散を示す(P<0.05)。
図7A】患者試料M047についての各タイムポイントにおけるサイズプロファイル分布及び頻度。ここで、タイムポイント1=赤色/TP1(YGL013-6)、タイムポイント2=オレンジ色/TP2(YGL015-6)、タイムポイント3=青色/TP3(YGL038-6)、及びタイムポイント4=緑色/TP4(YGL012-6)。
図7B】患者試料M100についての各タイムポイントにおけるサイズプロファイル分布及び頻度。ここで、タイムポイント1=赤色/TP1(YGL026R-12)、タイムポイント2=オレンジ色/TP2(YGL003-12)、タイムポイント3=青色/TP3(YGL021-12)、及びタイムポイント4=緑色/TP4(YGL012-12)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
シーケンシングするcfDNAを含む血液を保存する方法を本明細書において記載する。本開示によれば、固定剤を含まない血液採取デバイスにおいて24時間を超える長期間、全血試料を保存した後、血液又は血漿からcfDNAを単離して、配列情報を得る。方法は、単離したDNAのサイズ選択ステップを実施して、特定のサイズ未満、例えば、185bp以下のcfDNAを選択した後、サイズ選択したcfDNAについての配列情報を得ることを含む。例えば、185bp以下のヌクレオチド長を有するcfDNAを選択することにより、cfDNA試料における胎児cfDNAの画分が上昇し、これによって試料の質が向上して有意味な配列解析が可能となる。
【0016】
定義
「血液試料」は、本明細書において、その構成成分に分画又は分離されていない全血試料を指す。
【0017】
「固定」は、血液試料における細胞及び/又は亜細胞成分、例えば、細胞小器官(例えば、核)の構造の維持に役立つ技術である。固定によって、細胞成分の化学的又は生物学的構造を、例えば、これらを架橋結合することにより修飾する。固定により、全細胞及び細胞小器官の溶解が妨害され、これにより周囲の培地への細胞核酸の放出が阻害される。例えば、固定により、全血の遠心分離中に白血球由来の核DNAの血漿画分への放出が阻害され得る。
【0018】
「固定剤」は、血液試料の固定に使用する物質である。
【0019】
「目的の配列」は、健常者対患者の配列提示における差と関連する核酸配列を指す。目的の配列は、病的又は遺伝的症状において誤って提示された、即ち、過剰提示又は過小提示された、染色体上の配列であり得る。目的の配列は、染色体の一部、即ち、染色体セグメント、又は全染色体であり得る。例えば、目的の配列は、異数性症状において過剰提示された染色体、又はがんにおいて過小提示された、腫瘍抑制因子をコードする遺伝子であり得る。目的の配列は、対象の細胞の全集団又は亜集団において過剰又は過小提示された配列を含む。また、目的の配列は、特定の表現型、例えば、疾患と関連する遺伝子型の「マーカー」と呼び得る。
【0020】
「配列タグ」は、cfDNA鎖由来の少なくとも30bpリードの配列を指す。一部の実施形態では、タグは、より大型の配列、例えば、参照ゲノムに、アラインメントによって特異的に割り当て、即ち、マッピングした。
【0021】
cfDNAの一部の画分を上昇させ、これを解析するための方法
本開示の実施形態は、血漿、例えば、母体血試料又はがん診断のための血液試料由来のcfDNAの一部の画分を上昇させ、画分の核酸配列を解析して、配列情報を提供する方法を対象とする。方法は、血液試料を血液採取デバイス内に採取するステップを含む。血液採取デバイスは、固定剤を含まない。一部の実施形態では、血液採取デバイスは、1又は2以上の抗凝固剤、並びにカリウム、ナトリウム、及びリチウムから選択される金属イオンを有する、容器からなる。一部の実施形態では、血液採取デバイスは、1又は2以上の抗凝固剤、及び金属イオン、例えば、カリウム、ナトリウム又はリチウムを有する容器、並びに分離ゲルからなる。
【0022】
血液試料は、固定剤を使用しない保存の前又は後に遠心分離して、血液細胞から血漿を分離する。血漿を分離する前又は後に、血液試料は、-20℃~35℃の範囲の温度、例えば、室温又は環境温度、冷蔵温度、又は室温から冷蔵温度で、試料をさらに処理可能となるまで保存することができる。血液採取から24~216時間、例えば、48/72~216時間又は48/72~192時間又は48/72~168時間又は48/72~144時間後に試料が処理可能となるとき、cfDNAを血漿から単離する。cfDNAの一部の画分を上昇させるために、cfDNAは、例えば、ゲル電気泳動によって、サイズにより分離し、300bp未満(例えば、185、165、160、155又は150bp未満)のcfDNAを単離する。サイズ選択の前又は後のいずれかに、cfDNA試料を調製して、任意に増幅し、cfDNAを含む配列ライブラリを生成することにより、シーケンシングすることができる。次いで、サイズ選択及び単離したcfDNAは、解析して配列情報を検出することができる。本明細書に記載のステップは、単一の実体でも複数の実体でも実施し得る。
【0023】
血液採取デバイス
血液試料は、採取デバイスに採取する。採取デバイスは、真空採取容器、通常、チューブであり得る。本開示によれば、血液採取デバイスは、固定剤を含まない。適する血液採取デバイスの例としては、分離ゲル有り無しのK2又はK3EDTA血液採取チューブが挙げられる。
【0024】
上に定義するように、固定剤は、血液試料の固定に使用する物質である。固定剤の例としては、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、及びこれらの誘導体)、ホルマリン、アルコール、スルフヒドリル反応性架橋剤、炭水化物反応性架橋剤、カルボキシル反応性架橋剤、光反応性架橋剤、切断可能性架橋剤、AEDP(3-[(2-アミノエチル)ジチオ]プロピオン酸HCl)、APG(p-アジドフェニルグリオキサール一水和物)、BASED、BM(PEO)(1,8-ビス-マレイミド-PEO)、BM(PEO)(1,8-ビス-マレイミド-PEO)、BMB(1,4-ビスマレイミドブタン)、BMDB(1,4-ビス-マレイミジル-2,3-ジヒドロキシブタン)、BMH(ビス-マレイミドヘキサン)、BMOE(ビス-マレイミドエタン)、BS3(ビス(スルホスクシンイミジル)スベリン酸)、BSOCOES(ビス(2-[スクシンイミドキシカルボニルオキシ]エチル)スルホン)、DFDNB(1-5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)、DMA(ジメチルアジプイミド酸・2HCl)、DMP(ジメチルピメルイミド酸・2HCl)、DMS(ジメチルスベルイミド酸・2HCl)、DPDPB(1,4-ジ-(3’-[2’ピリジルジチオ]プロピオンアミド)ブタン)、DSG(ジスクシンイミジルグルタル酸)、DSP(ジチオビス(スクシンイミジルプロピオン酸)(Lomant試薬))、DSS(ジスクシンイミジルスベリン酸)、DST(ジスクシンイミジル酒石酸)、DTBP(ジメチル3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸・2HC)、DTME(ジチオビス-マレイミドエタン)、DTSSP(3,3’-ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオン酸))、EGS(エチレングリコールビス(スクシンイミジルコハク酸))、HBVS(1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホン)、スルホ-BSOCOES、スルホ-DST、及びスルホ-EGSが挙げられる。
【0025】
他の固定剤は、細胞膜の安定剤、例えば、DMAE(ジメチルアミノエタノール)、コレステロール、コレステロール誘導体、高濃度のマグネシウム、ビタミンE、及びビタミンE誘導体、カルシウム、カルシウムグルコネート、タウリン、ナイアシン、ヒドロキシルアミン誘導体、ビモクロモール、スクロース、アスタキサンチン、グルコース、アミトリプチリン、異性体Aホパンテトラールフェニルアセテート、異性体Bホパンテトラールフェニルアセテート、シチコリン、イノシトール、ビタミンB、ビタミンB複合体、コレステロールヘミコハク酸、ソルビトール、カルシウム、コエンザイムQ、ユビキノン、ビタミンK、ビタミンK複合体、メナキノン、ゾネグラン(zonegran)、亜鉛、イチョウ(ginkgo biloba)抽出物、ジフェニルヒダントイン、ペルフトラン(perftoran)、ポリビニルピロリドン、ホスファチジルセリン、テグレトール、PABA、ジナトリウムクロモグリク酸、ネドクロミルナトリウム、フェニロイン(phenyloin)、クエン酸亜鉛、メキシチール、ディランチン、ナトリウムヒアルロン酸又はポロキサマー188であり得る。
【0026】
他の固定剤は、ホルムアルデヒド放出保存物質、例えば、ジアゾリジニル尿素、イミダゾリジニル尿素、ジメトイロール-5,5-ジメチルヒダントイン、ジメチロール尿素、2-ブロモ-2.-ニトロプロパン-1,3-ジオール、オキサゾリジン、ナトリウムヒドロキシメチルグリシン酸、5-ヒドロキシメトキシメチル-1-1アザ-3,7-ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン、5-ヒドロキシメチル-1-1アザ-3,7ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン、5-ヒドロキシポリ[メチレンオキシ]メチル-1-1アザ-3,7ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン、第四級アダマンチン(adamantine)、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択されるものである。
【0027】
さらなる実施形態では、EDTA及び/又はヘパリン以外で、血液採取デバイスは、DNAの分解を減少させる物質、例えば、ヌクレアーゼ阻害剤を含まなくてもよい。ヌクレアーゼ阻害剤の例としては、ジエチルピロカルボネート、エタノール、アウリントリカルボン酸(ATA)、ホルムアミド、バナジル-リボヌクレオシド複合体、マカロイド(macaloid)、プロテイナーゼK、ヒドロキシルアミン-酸素-第2銅イオン、ベントナイト、硫酸アンモニウム、ジチオトレイトール(DTT)、ベータ-メルカプトエタノール、システイン、ジチオエリトリトール、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、及び二価カチオン、例えば、Mg+2、Mn+2、Zn+2、Fe+2、Ca+2、Cu+2が挙げられる。また、DNAの分解を減少させる他の物質、例えば、塩化亜鉛、グアニジンHCl、グアニジンイソチオシアネート、N-ラウロイルサルコシン、及びNa-ドデシル硫酸をデバイスから除外し得る。
【0028】
本開示では、上記の固定剤のいかなる特定の組合せも、上記の固定剤及び/又はDNAの分解を減少させる物質、例えば、ヌクレアーゼ阻害剤のいかなる特定の組合せも、除外することを検討する。
【0029】
一部の実施形態では、採取デバイスは、抗凝固剤を含む。抗凝固剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、クエン酸、シュウ酸、及びこれらの任意の組合せから選択され得る。一部の実施形態では、抗凝固剤は、採取デバイスの壁上で噴霧乾燥させることができる。他の実施形態では、抗凝固剤は、デバイス内の溶液である。適するソルベントとしては、水、生理食塩水、ジメチルスルホキシド、アルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。実施形態では、採取デバイスは、1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、抗凝固剤、及び金属イオン、例えば、アルカリ又はアルカリ土類金属から選択されるものからなる、容器を含む。特には、金属イオンは、カルシウム、ナトリウム、リチウム、及びカリウムから選択され得る。
【0030】
EDTAを用いた実施形態では、EDTAは、カリウム、リチウム、及びナトリウムから選択され、典型的には、カリウムである、金属イオンによりキレート化することができる。一部の実施形態では、血液採取デバイスは、1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、キレートEDTAからなる、容器を含む。
【0031】
一部の実施形態では、採取デバイスは、分離ゲルを含む。このようなゲルは、血清分離チューブ(SST)において一般に使用して血漿調製を行う(例えば、BDバキュテイナ(登録商標)SST(商標)及びPST(商標)、Becton, Dickinson, and Company社を参照)。ゲルは、血中細胞の密度及び血液の液相の密度に対して中間の密度(それぞれ1.09g/cm3及び1.03g/cm3の密度)を有する。この密度により、分離ゲルは、遠心分離後に赤血球及び白血球から血液の液体成分(血漿)を物理的に分離し、液相と細胞との間のバリアとして作用する。分離ゲルは、不活性ゲル、例えば、ポリエステルゲル又はシリコーンゲルである。他の適するゲルとしては、ジアクリル酸オリゴマー中のソルビトールに基づくゲル化剤が挙げられる。
【0032】
一部の実施形態では、血液採取デバイスは、1又は2以上の組成物のみを有する容器であって、1又は2以上の組成物が、抗凝固剤、及び金属イオン、例えば、キレートEDTAからなる、容器、並びに分離ゲルを含む。
【0033】
一部の実施形態では、採取デバイスは、凝固剤を含む。
【0034】
血液採取デバイスの保存及び血漿からの大型分子の除去
一部の実施形態では、患者から血液試料を採取後、血液は、-20℃~35℃の温度、例えば、標準的環境温度(25℃)、室温(20~24℃)、冷蔵温度(1~8℃)又はこれらの間の任意の温度で最大7~9日の期間保存した後、遠心分離して細胞画分から血漿を分離し、DNAを抽出することができる。遠心分離前の保存時間は、2、3、4、5、6、7、8又は9日であり得る。保存温度は、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃又はこれらの間の一部の値若しくはこれらの範囲であり得る。他の実施形態では、保存温度は、9~23℃、20~25℃、25~30℃又は30~35℃の範囲内であり得る。一部の実施形態では、保存時間は、7日以下か、又は2~5日、2~6日、2~7日、3~5日、3~6日、4~6日、3~7日若しくは4~7日である。一部の実施形態では、保存時間は、2~7日又は3~7日であり、冷蔵温度、室温又はこれらの間の一部の温度で保存する。
【0035】
保存場所、例えば、冷蔵庫から取り出した時点で、試料を分画して大型サイズの微粒子を除去することができる。このような技術は、Pos et al., Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 8634、標題"Technical and Methodological Aspects of Cell-Free Nucleic Acids Analyzes"に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。一実施形態では、これは、遠心分離により行う。遠心分離は、1段階又は2段階のプロセスであり得る。一部の実施形態では、遠心分離は、冷蔵温度で行う。他の実施形態では、室温で行う。第1の遠心分離ステップでは、試料を低速遠心分離に供する。低速分画試料から血漿を採取する。第2のステップでは、血漿を低速又は高速遠心分離ステップに供する。標準的実践では、高速ステップを行う。低速遠心分離パラメータは、血液試料中の細胞成分からの血漿の分離に一般に使用するパラメータである。例えば、低速ステップでは、回転速度は、1,000~2,000×gであってもよく、回転時間は、8、9、10、11、12分又はこれらの間の一部の時間若しくはこれらの範囲であり得る。一部の実施形態では、回転速度は、1,500~1,900×g又は1,600~1,800×gであってもよく、回転時間は、9~11分又は10分であり得る。高速ステップでは、回転速度は、同一時間の低速ステップのおよそ3~10倍であり得る。例えば、高速遠心分離は、3,000~18,000×gであり得る。
【0036】
また、第2の遠心分離ステップの代わりに、精密濾過ステップを使用して、血漿から大型の粒子を除去することができる。一部の実施形態では、精密濾過ステップは、平均分子量200kDa超、100kDa超、75kDa超又は65kDa超を有する粒子を、3、2又は1μm未満のポアサイズを有する膜を使用して除去する膜分離プロセスを含む。一部の実施形態では、精密濾過膜フィルタは、0.55μM、0.50μM又は0.45μM以下のポアサイズを有する。
【0037】
他の実施形態では、血液試料を採取デバイスで、例えば、分離ゲルを有する採取デバイスにより採取し、採取直後に低速で遠心分離して血液試料の細胞画分から血漿を分離する。実施形態では、このステップは、試料採取から6~8時間以内に行ってもよく、その後、その中に分画した試料を有する採取デバイスを保存し得る(即ち、血漿の即時単離を必要としない)。或いは、血漿は、採取デバイスから取り出して、固定剤を含まない第2の採取デバイスに保存し得る。低速遠心分離パラメータは、上記のパラメータと同一である。保存温度及び保存時間は、上記と同一である。保存前に除去しなかった場合、保存場所から取り出した時点で、血漿を採取デバイスから除去し、上記のパラメータに従って、第2の遠心分離ステップ又は濾過ステップに供し得る。
【0038】
cfDNAの単離
上記のように血漿画分を採取した後、血漿からcfDNAを単離/抽出する。抽出は、実際は、多段階プロセスであり、血漿からDNAをカラム又は他の固相結合マトリックスに分離するステップを含む。抽出したcfDNAは、通常、母体及び胎児の両cfDNAを含む。一部の実施形態では、単離は、次の操作により実施し得る。
A.血漿中のタンパク質を変性及び/又は分解し(例えば、プロテアーゼと接触させる)、グアニジン塩酸塩又は他のカオトロピック試薬を溶液に加える(溶液からのcfDNAの抽出を容易とするため)。
B.処理した血漿を、コーティングした支持マトリックス、例えば、膜又はカラム内のビーズ又は超常磁性粒子と接触させて、核酸に選択的に結合させる。このようなコーティングは、シリカ、カルボキシル、アミン、イミダゾール又はこれらの組合せを含み得る。
C.支持マトリックスを洗浄する。
D.放出溶液によりマトリックスからcfDNAを放出させ、cfDNAを回収して下流のプロセス(例えば、インデックス付きライブラリの調製)及び統計学的解析を行う。
【0039】
このcfDNA単離手順の第1の部分は、ヌクレオソームタンパク質を変性又は分解するステップを含み、さもなければ、ヌクレオソームからDNAを遊離させるステップを行う。この単離を達成するのに使用する典型的な試薬混合物としては、界面活性剤、プロテアーゼ、及びカオトロピック物質、例えば、グアニン塩酸塩が挙げられる。プロテアーゼは、ヌクレオソームタンパク質並びに血漿中のバックグラウンドタンパク質、例えば、アルブミン及び免疫グロブリンを分解するように作用する。カオトロピック物質は、非共有結合力、例えば、水素結合により媒介される分子内相互作用に干渉することにより高分子の構造を破壊する。また、カオトロピック物質は、血漿成分、例えば、タンパク質を負荷電とする。負電荷は、培地を負荷電DNAとエネルギー的に幾分不適合とする。カオトロピック物質を使用してDNA精製を容易とする手法は、Boom et al., “Rapid and Simple Method for Purification of Nucleic Acids”, J. Clin. Microbiology, v. 28, No. 3, 1990に記載されている。
【0040】
ヌクレオソームタンパク質からDNAコイルを少なくとも部分的に遊離させる、このタンパク質分解処理の後、生じた溶液は、カラムを通過させるか、又はさもなければ、処理した血漿中のcfDNAを選択的に接着させる支持マトリックスに曝露する。培地成分に付与された負電荷は、支持マトリックスのポアへのDNAの吸着を容易とする。
【0041】
処理した血漿が支持マトリックスを通過した後、cfDNAが結合した支持マトリックスを洗浄して、タンパク質及び試料の他の不必要な成分を除去する。洗浄後、cfDNAをマトリックスから遊離させ、回収する。例として、アミン又はイミダゾール官能基を有するビーズの場合、酸性溶液では、cfDNAは、正に荷電したアミン又はイミダゾール部分に吸着する。塩基性溶液では、アミン部分及びイミダゾール部分は、負に荷電し、cfDNAは、吸着されない。したがって、試料の不必要な成分を除去するために、磁気ビーズを磁石で固定し、ビーズを酸性洗浄により洗浄する。洗浄後、ビーズを磁石から分離し、高pHの溶液で洗浄することによりcfDNAを回収し得る。同様のプロセスは、カルボキシルコーティングビーズにも使用する。カルボキシルコーティングビーズの場合、その塩濃度に応じて、ポリエチレングリコール(PEG)の存在下でcfDNAをビーズに可逆的に結合させる。
【0042】
このようなDNA抽出プロセスにより、利用可能なDNAの画分が血漿から典型的に大幅に失われる。支持マトリックスはcfDNAに対する高い親和性を有し、これによりマトリックスから容易に分離可能なcfDNAの量が制限される。結果として、cfDNA抽出ステップの収率は、かなり低くなり得る。典型的には、効率は、50%をはるかに下回る(例えば、cfDNAの典型的収率は、利用可能な血漿約30ng/mlから血漿4~12ng/mlであることが見出されている)。
【0043】
手動及び自動によるcfDNA分離用の市販のキット、例えば、QIAamp DNA Microキット(Qiagen社、Valencia、CA)又はNucleoSpin Plasmaキット(Macherey-Nagel社、Duren、独国)を使用することができる。cfDNAの単離プロセスは、米国特許第10,837,055号に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
配列ライブラリの調製
上記の単離/抽出手順から得られた精製cfDNAを使用して、シーケンシング用ライブラリを調製することができる。2本鎖DNA断片の集団を、超並列シーケンシング系を使用してシーケンシングするために、DNA断片は、公知のアダプタ配列と隣接させなければならない。いずれかの末端にアダプタを有する、このようなDNA断片のコレクションをシーケンシングライブラリと呼ぶ。精製DNAからのシーケンシングライブラリの生成に適する方法の2つの例は、(1)公知のアダプタを断片化DNAのいずれかの末端にライゲーションに基づいて結合する方法、及び(2)アダプタ配列をトランスポザーゼの媒介により挿入する方法である。
【0045】
配列ライブラリを生成するための方法は、Illumina Cambridge, Ltd社の米国特許出願公開第2007/0128624号、標題"Methods for preparing libraries of template polynucleotides";Natera, Inc.社の米国特許出願公開第2013/0123120号、標題"Highly Multiplex PCR Methods and Compositions";J.F. Hess, et al., Library preparation for next generation sequencing: A review of automation strategies, Biotechnology Advances, Volume 41, 2020, 107537, ISSN 0734-9750, https://doi.org/10.1016/j.biotechadv.2020.107537;及びHead, Steven R et al. Library construction for next-generation sequencing: overviews and challenges, BioTechniques vol. 56,2 61-4, 66, 68, passim. 1 Feb. 2014, doi:10.2144/000114133に記載されており、これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。当業者は、適する多くの超並列シーケンシング技術が存在することを理解するであろう。
【0046】
シーケンシングライブラリは、正規化して、当業者に公知の技術を使用する試料の容量測定的プールを容易とし得る。
【0047】
cfDNAの増幅
一部の実施形態では、試料中に存在するcfDNAは、配列ライブラリの調製前又は後のいずれかに増幅することができる。増幅は、適する任意の技術、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はリコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)に基づく方法により実施することができる。このような技術は、当業者に公知である。RPAは、Lobato, et al., Recombinase polymerase amplification: Basics, applications and recent advances, Trends in analytical chemistry: TRAC vol. 98 (2018): 19-35. doi:10.1016/j.trac.2017.10.015に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
PCRを使用してDNAのセグメントを増幅するために、はじめに試料を加熱して、DNAを変性させるか、1本鎖DNAの2つの断片に分離する。次いで、「Taqポリメラーゼ」と呼ばれる酵素が、オリジナルの鎖を鋳型として使用して2つの新たなDNA鎖を合成、即ち、構築する。このプロセスにより、新たな分子のそれぞれが旧DNA鎖1つ及び新DNA鎖1つを含む、オリジナルのDNAが複製される。次いで、このような鎖のそれぞれを使用して、新たな2つのコピー等々を生成することができる。新たなDNAを変性及び合成するサイクルは、反復する。一部の実施形態では、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20回の増幅サイクルを実施する。PCRは、Lorenz, Todd C., Polymerase chain reaction: basic protocol plus troubleshooting and optimization strategies, Journal of Visualized Experiments, 63 e3998. 22 May. 2012, doi:10.3791/3998により詳細に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
サイズ選択
増幅前又は後に、サイズ選択を実施して、試料中の胎児画分のパーセンテージを上昇させ、これによりシーケンシングする場合のシグナルを増加させる。サイズ選択により単離するcfDNAの所望の配列長最大値は、185bp、180bp、170bp、175bp、170bp、165bp、160bp、155bp、150bp若しくは145bp又はその間の一部の値であり得る。一部の実施形態では、cfDNAの所望のサイズは、80~160bp、80~155bp、80~150bp、90~160bp、90~155bp、90~150bp、100~150bp、100~155bp、100~160bp、110~150bp、110~155bp、110~160bp、80~170bp又は80~185bpの範囲である。一部の実施形態では、cfDNAの所望のサイズは、100~200bp、150~250bp、200~300bp、及び250-300bpの範囲である。
【0050】
サイズ選択は、サイズにより高分子を分離するための任意の技術、例えば、ゲル電気泳動、クロマトグラフィー、ビーズ結合マトリックス又は膜濾過によって実施し得る。ゲル電気泳動の場合、所望のサイズ範囲は、手動で、又は機器、例えば、LightBench若しくはYourgene Health Canada Inc.社のNIMBUS Selectを使用して自動で、回収することができる。
【0051】
電気泳動ゲルからDNAを回収する手動の方法としては、(1)特定の長さのDNA分子のバンドに対応するゲルの切片を切り取った後、ゲル切片からDNAを抽出し、DNAを沈殿させる方法、及び(2)一定分量又は一組の一定分量を、当技術分野において「抽出ウェル」として公知の、電気泳動ゲルからゲルのピペットに接触可能な点で直接採取した後、DNAを沈殿させる方法が挙げられる。
【0052】
サイズ選択に使用可能な自動化電気泳動系は、Yourgene Health Canada Inc.社所有の米国特許第10,775,344号に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。電気泳動系は、各ゲルチャネルに電力を分配するように構成してもよく、各チャネルの上記電力を電流帰還のモニタリングに基づいて調節し得る。ある実施形態では、系は、複数のチャネルを含む、連結するカセットを含み、この系は、電気泳動操作を制御するための外部コンピュータデバイスから少なくとも1つの制御シグナルを受信するためのロボットワークステーションを含み、このロボットワークステーションは、少なくとも1つのピペット及びオンボード電力モジュールを含むアーム、ロボットワークステーション上に電気的に結合して受信する第1のモジュラー台、この台に格納されるか又は台上に位置する連結するカセットを含み、連結するカセットは、複数のチャネルを含み、一対の電気接点は、この複数のチャネルのそれぞれと結合し、第1のモジュラー台は、電力モジュールから独立的に制御可能な電力シグナルを各チャネルに分配する複数の導電ケーブル又はワイヤーを含み、この台は、プロセッサ及びメモリを含み、このプロセッサは、電力モジュールから電力シグナルを受信するように、第1のモジュラー台の連結するカセットに指定された少なくとも1つの上記制御シグナルを受信するように、また電力シグナルを制御シグナルに基づいて調節して第1のモジュラー台の連結するカセットの各チャネルに定義された独立的に制御可能な電力シグナルを生成するように構成される。ある実施形態では、プロセッサは、メモリ上に保存され、上記各カセットチャネルと関連する、電気泳動パラメータに基づいて、電力シグナルをさらに調節するように構成される。この系は、少なくとも第2のモジュラー台、及び電力モジュールに電気的に結合する電力転送モジュールをさらに含んでもよく、この電力転送モジュールは、電力モジュール及び上記第1のモジュラー台及び少なくとも上記第2のモジュラー台の間で電力シグナルを一斉同報として通信するように構成される。制御シグナルは、上記各カセットチャネルを多重化によりユニークに同定可能である。電力シグナルの調節は、アナログ電圧制御、パルス幅調節、パルス幅調節のための負荷サイクル制御、及びパルス幅調節のための周波数制御の少なくとも1つを使用する調節を含み得る。特定の実施形態では、プロセッサは、(i.)上記各チャネルの電流帰還をモニターするように、また(ii.)上記各チャネルの調節された電力シグナルを上記モニタリングに基づいて調整するように、さらに構成される。
【0053】
他の電気泳動技術は、次のように記載されている。自己コーティングの低粘度ポリマーマトリックスによるキャピラリー電気泳動が、Du M, Flanagan J H Jr, Lin B, Ma Y, Electrophoresis 2003 September; 24 (18): 3147-53)に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれ、微細加工電気泳動デバイスによる選択的抽出が、Lin R, Burke D T, Burn M A, J. Chromatogr. A. 2003 Aug. 29; 1010(2): 255-68に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれ、還元粘度ポリマーマトリックス上でのマイクロチップ電気泳動が、Xu F, Jabasini M, Liu S, Baba Y, Analyst. 2003 June; 128(6): 589-92)に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
また、cfDNAのサイズ選択は、クロマトグラフィー、例えば、アガロース又はポリアクリルアミドゲル上でのクロマトグラフィー、イオン対逆相高速液体クロマトグラフィー(IP RP HPLC、Hecker K H, Green S M, Kobayashi K, J. Biochem. Biophys. Methods 2000 Nov. 20; 46(1-2): 83-93を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)、吸着膜クロマトグラフィー(Teeters M A, Conrardy S E, Thomas B L, Root T W, Lightfoot E N, J. Chromatogr. A. 2003 Mar. 7; 989(1): 165-73を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)、密度勾配遠心分離(Raptis L, Menard H A, J. Clin. Invest. 1980 December; 66(6): 1391-9を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)、及びナノテクノロジーによる手段を利用する方法、例えば、微細加工エントロピートラップアレイ(Han J, Craighead H G, Analytical Chemistry, Vol. 74, No. 2, Jan. 15, 2002を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)により行うことができる。さらに使用可能な、ビーズに基づくcfDNAのサイズ選択のための技術は、Raymond et al., UltraPrep is a scalable, cost-effective, bead-based method for purifying cell-free DNA. PLoS ONE 15(6) (2020): e0231854. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0231854に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
サイズ選択ステップを配列ライブラリ調製後に実施する場合、所望のcfDNA長最大値(例えば、160bp未満)又は長さの範囲は、同一であるが、サイズ選択デバイスから生じた適切なバンドを単離する目的では、単離する標的最大値又は範囲は、cfDNA上にライゲートするか又はcfDNAに挿入するアダプタ又は他のポリヌクレオチドを考慮して調整しなければならない。例えば、アダプタの使用によりcfDNAポリヌクレオチドの長さに100bpが加えられ、標的最大値が160bp未満である場合、サイズ選択パラメータは、260bp未満となる。
【0056】
妊婦由来の試料に対してサイズ選択ステップを実施することにより、配列情報を解析する試料中の胎児cfDNAのパーセンテージは、サイズ選択前のパーセンテージと比較して30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%又は200%上昇する。実施例1及び図3に示すように、SeqFFにより推定した場合の胎児cfDNAのパーセンテージは、同一期間Streck(登録商標)チューブに保存した試料中の胎児cfDNAのパーセンテージとほぼ同一であるか又はこれを超える(SeqFFは、シーケンシングした総cfDNAのパーセンテージとして表す胎児画分であり、配列リード数から算出する。Kim SK, et al.: Determination of fetal DNA fraction from the plasma of pregnant women using sequence read counts. Prenat Diagn 2015, 35:810-815を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)。同様に、男児のみの試料を調べると、サイズ選択した試料は、すべての試料について高パーセンテージのcfDNAを有する。
【0057】
同様に、がん診断のための試料に対してサイズ選択ステップを実施することにより、配列情報を解析する試料中のがん細胞由来cfDNAのパーセンテージは、サイズ選択前のパーセンテージと比較して30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%又は200%上昇する。
【0058】
cfDNAを解析して配列情報を得る
サイズ選択及びライブラリ調製が完了すると、試料を解析して配列情報を得ることができる。配列情報を解析して、変異及び染色体異常を検出することができ、これらには、転座、塩基転換、モノソミー、トリソミー、及び他の異数性、欠失、挿入、メチル化、増幅、断片、転座、並びに再配列又はクロモスリプシスが挙げられるが、制限されない。また、配列情報を使用して、遺伝子配列におけるあらゆる変更を参照配列と比較して検出することができる。
【0059】
ある実施形態では、目的の配列を決定するため及びコピー数の変動(CNV,copy number variation)を評価するための手順の部分として試料をシーケンシングする。多くのシーケンシング技術のいずれかを利用することができ、「第1世代」シーケンシング、次世代シーケンシング、ロングリードシーケンシング又はナノポアシーケンシングが挙げられる。
【0060】
一部のシーケンシング技術は、市販されており、例えば、Affymetrix Inc.社(Sunnyvale, Calif.)のハイブリダイゼーションプラットフォームによるシーケンシング、Illumina, Inc.社(Hayward, Calif.)の合成プラットフォームによるシーケンシング、及びComplete Genomics社(SanJose、CA)のナノボールに基づくシーケンシングが挙げられる。他の単一分子シーケンシング技術としては、Pacific Biosciences社のSMRT(商標)技術(Anthony Rhoads et al., PacBio Sequencing and Its Applications, Genomics, Proteomics & Bioinformatics, Volume 13, Issue 5, 2015, page 278-289, ISSN 1672-0229, https://doi.org/10.1016/j.gpb.2015.08.002を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)、ION TORRENT(商標)技術、及び例えば、Oxford Nanopore Technologies社により開発されたナノポアシーケンシング(Soni G V and Meller A. Clin Chem 53: 1996-2001 [2007]を参照、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0061】
自動化サンガー法は、「第1世代」技術であると考えられるが、自動化サンガーシーケンシングを含むサンガーシーケンシングも、本明細書に記載の方法において利用することができる。適するさらなるシーケンシング方法としては、核酸イメージング技術、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0062】
例として、Illumina社のシーケンシング技術を使用して、cfDNAをシーケンシングすることができる。Illumina社の技術は、オリゴヌクレオチドアンカーが結合する平面の、任意で透明な表面へのcfDNAの結合に依存している。鋳型DNAは、末端修復して5’リン酸化平滑末端を生成し、クレノウ断片のポリメラーゼ活性を使用して平滑リン酸化DNA断片の3’末端に単一のA塩基を加える。この付加によりDNA断片を調製して、ライゲーション効率を高めるように3’末端に単一のT塩基のオーバーハングを有するオリゴヌクレオチドアダプタにライゲーションする。アダプタオリゴヌクレオチドは、フローセルアンカーに対して相補性である。限界希釈条件下では、アダプタ修飾1本鎖鋳型DNAをフローセルに加え、アンカーへのハイブリダイゼーションにより固定する。結合したDNA断片を伸長し、ブリッジ増幅して、数億のクラスターを有する超高密度シーケンシングフローセルを作製し、このそれぞれは1,000コピーの同一鋳型を含む。一実施形態では、PCRを使用してcfDNAを増幅した後、クラスター増幅に供する。或いは、無増幅ゲノムライブラリ調製を使用し、クラスター増幅のみを使用してcfDNAを濃縮する(Kozarewa et al., Nature Methods 6:291-295 (2009))。可逆性ターミネータを除去可能な蛍光色素とともに利用する、強固な4色DNAの合成によるシーケンシング技術を使用して、鋳型をシーケンシングする。高感度蛍光検出は、レーザー励起及び全内部反射光学を使用して達成する。約20~300bp、例えば、150bpの短い配列リードは、反復配列をマスクした参照ゲノムに対してアラインメントしてもよく、参照ゲノムに対する短い配列リードのユニークなマッピングを、特別に開発したデータ解析パイプラインソフトウェアを使用して同定する。反復配列をマスクしない参照ゲノムも使用し得る。使用参照ゲノムの反復配列をマスクしたか否かにかかわらず、参照ゲノムにユニークにマッピングしたリードのみを計数する。第1の読取りの完了後、鋳型をインサイチュで再生して、断片の逆末端からの第2の読取りを可能とすることができる。したがって、DNA断片のシングルエンドシーケンシング及びペアエンドシーケンシングのいずれも使用することができる。試料中に存在するDNA断片の部分的シーケンシングを実施し、公知の参照ゲノムにマッピングした、所定の長さ、例えば、36bpのリードを含む配列タグを計数する。一実施形態では、参照ゲノム配列は、NCBI36/hg18配列であり、genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGateway?org=Human&db=hg18&hgsid=166260105のワールドワイドウェブ上で入手可能である。或いは、参照ゲノム配列は、GRCh37/hg19であり、genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgGatewayのワールドワイドウェブ上で入手可能である。公開配列情報の他のソースとしては、GenBank、dbEST、dbSTS、EMBL(欧州分子生物学研究所)、及びDDBJ(日本DNAデータバンク)が挙げられる。多くのコンピュータアルゴリズムが配列のアラインメントに利用可能であり、BLAST(Altschul et al., 1990)、BLITZ(MPsrch)(Sturrock & Collins, 1993)、FASTA(Person & Lipman, 1988)又はBOWTIE(Langmead et al., Genome Biology 10:R25.1-R25.10 (2009))が挙げられるが、これらに制限されず、これらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
別の例として、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNA又はがんについてスクリーニングする対象におけるcfDNAの配列情報は、454シーケンシング(Roche社)を使用して得ることができる(例えば、Margulies, M. et al. Nature 437:376-380 [2005]に記載、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)。454シーケンシングは、2つのステップを典型的に含む。第1のステップでは、DNAをおよそ300~800塩基対の断片に剪断し、断片の末端を平滑化する。次いで、オリゴヌクレオチドアダプタを断片の末端にライゲーションする。アダプタは、断片の増幅及びシーケンシングのプライマーとして作用する。断片をDNA捕捉ビーズ、例えば、ストレプトアビジンコーティングビーズに、例えば、5’ビオチンタグを含むアダプタBを使用して結合し得る。ビーズに結合した断片は、油水乳濁液の液滴中でPCR増幅する。これにより、各ビーズ上にクローン的に増幅したDNA断片の複数のコピーが生じる。第2のステップでは、ビーズをウェル(例えば、ピコリットルサイズのウェル)内に捕捉する。パイロシーケンシングを各DNA断片に対して並行して実施する。1又は2以上のヌクレオチドの付加により光シグナルが生成され、これをシーケンシング機器においてCCDカメラにより記録する。シグナル強度は、組み込まれたヌクレオチドの数に比例する。パイロシーケンシングでは、ヌクレオチド付加時に放出されるピロリン酸(PPi)を利用する。PPiは、アデノシン5’ホスホ硫酸の存在下でATPスルフリラーゼによりATPに変換される。ルシフェラーゼは、ATPを使用してルシフェリンをオキシルシフェリンに変換し、この反応により光が生成され、これを測定及び解析する。
【0064】
例示的であるが、非制限的な別の実施形態では、ライゲーションによるシーケンシングを実施することにより配列情報を得ることができ、ここでは、ゲノムDNAを断片に剪断し、アダプタを断片の5’末端及び3’末端に結合して断片ライブラリを生成する。或いは、アダプタを断片の5’末端及び3’末端にライゲートし、断片を環状化し、環状化断片を消化して内部アダプタを生成し、アダプタを、生じた断片の5’末端及び3’末端に結合してメイトペアライブラリを生成することにより、内部アダプタを導入し得る。次いで、クローンビーズ集団を、ビーズ、プライマー、鋳型、及びPCR成分を含むマイクロリアクター内で調製する。PCR後、鋳型を変性させ、ビーズを濃縮して伸長した鋳型によりビーズを分離する。選択されたビーズ上の鋳型を3’修飾に供し、これによりスライドガラスへの結合を可能とする。配列は、部分的にランダムなオリゴヌクレオチドと、特異的フルオロフォアにより同定される中央決定塩基(又は塩基対)との連続的ハイブリダイゼーション及びライゲーションにより決定することができる。色を記録した後、ライゲートしたオリゴヌクレオチドを切断及び除去し、次いで、プロセスを反復する。
【0065】
別の実施形態では、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNA、がんについてスクリーニングする対象におけるcfDNAの配列情報は、Pacific Biosciences社の単一分子リアルタイム(SMRT(商標))シーケンシング技術を使用して得ることができる。SMRTシーケンシングでは、色素標識ヌクレオチドの持続的組込みをDNA合成中に画像化する。単一のDNAポリメラーゼ分子を個々のゼロモード波長検出器(ZMW検出器)の底面に結合させ、これによりリン酸結合ヌクレオチドが伸長するプライマー鎖に組み込まれる間の配列情報を得る。ZMW検出器は限局構造を含み、これにより、ZMW内外に急速に拡散する(例えば、数マイクロ秒以内に)蛍光ヌクレオチドのバックグラウンドに対して、DNAポリメラーゼによる単一ヌクレオチドの組込みの観察が可能となる。伸長する鎖へのヌクレオチドの組込みに、典型的には数ミリ秒かかる。この間に、蛍光標識を励起し、蛍光シグナルを生成し、蛍光タグを切断する。対応する色素蛍光の測定値は、組み込まれた塩基を示す。このプロセスを反復してシーケンシングを可能とする。
【0066】
別の実施形態では、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNA又はがんについてスクリーニングする対象におけるcfDNAの配列情報は、ナノポアシーケンシングを使用することにより得る。ナノポアシーケンシングDNA解析技術は、例えば、Oxford Nanopore Technologies社(Oxford、英国)、Sequenom社、及びNABsys社を含む多くの企業により開発されている。ナノポアシーケンシングは、単一分子シーケンシング技術であり、これにより、DNAの単一分子をナノポア通過時に直接シーケンシングする。ナノポアは、小型の穴であり、典型的に、直径は1ナノメートルオーダーである。ナノポアを伝導性流体に浸漬し、それに対して電位(電圧)を印加すると、イオンがナノポアを導通することにより、わずかな電流が生じる。流れる電流量は、ナノポアのサイズ及び形状に対して感受性である。DNA分子がナノポアを通過するため、DNA分子上の各ヌクレオチドは、ナノポアをさまざまな程度で妨げ、ナノポアを通過する電流の大きさをさまざまな程度で変化させる。したがって、DNA分子のナノポア通過時の電流のこの変化により、DNA配列の読取りが可能となる。
【0067】
別の実施形態では、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNA又はがんについてスクリーニングする対象におけるcfDNAの配列情報は、化学物質感受性電界効果トランジスタ(chemFET)アレイを使用することにより得ることができる(例えば、米国特許出願公開第2009/0026082号に記載、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)。この技術の一例では、DNA分子は、反応チャンバ内に配置してもよく、鋳型分子を、ポリメラーゼに結合するシーケンシングプライマーにハイブリダイズし得る。新たな核酸鎖のシーケンシングプライマーの3’末端への1又は2以上の3リン酸の組込みは、電流の変化としてchemFETにより見分けることができる。アレイは、複数のchemFETセンサを有することができる。別の例では、単一の核酸をビーズに結合させてもよく、核酸をビーズ上で増幅してもよく、個々のビーズを、各チャンバがchemFETセンサを有するchemFETアレイ上の個々の反応チャンバに移してもよく、核酸をシーケンシングし得る。
【0068】
別の実施形態では、配列情報は、Ion Torrent単一分子シーケンシングを使用して得られ、ここでは、半導体技術を単純なシーケンシング化学と組み合わせて、化学的にコードされた情報(A、C、G、T)をデジタル情報(0、1)に半導体チップ上で直接翻訳する。実際は、ヌクレオチドをポリメラーゼによりDNA鎖に組み込む場合、水素イオンが副産物として放出される。Ion Torrentでは、マイクロマシンウェルの高密度アレイを使用してこの生物化学的プロセスを超並列的方法により実施する。各ウェルは、異なるDNA分子を保持する。ウェルの下にはイオン感受性層が存在し、その下にはイオンセンサが存在する。ヌクレオチド、例えば、CをDNA鋳型に加え、次いで、DNA鎖に組み込む場合、水素イオンが放出される。このイオンの電荷は、溶液のpHを変化させ、これは、Ion Torrentのイオンセンサにより検出され得る。本質的に世界最小の固体pHメータであるシーケンサにより塩基が呼び出され、化学情報からデジタル情報へ直接変換される。次いで、Ion personal Genome Machine(PGM(商標))シーケンサにより、チップに大量のヌクレオチドを次々と連続的に送り込む。チップに送り込まれた次のヌクレオチドが適合しない場合、電圧変化は記録されず、塩基は呼び出されない。DNA鎖上に2つの同一の塩基が存在する場合、電圧は2倍となり、チップは呼び出された2つの同一の塩基を記録する。直接的検出により、ヌクレオチド組込みの記録が数秒で可能となる。
【0069】
別の実施形態では、本発明の方法は、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNAの配列情報を、ハイブリダイゼーションによるシーケンシングを使用して得るステップを含む。ハイブリダイゼーションによるシーケンシングは、複数のポリヌクレオチド配列を複数のポリヌクレオチドプローブと接触させるステップを含み、ここで、複数のポリヌクレオチドプローブのそれぞれは、基質に繋留していてもよい。基質は、公知のヌクレオチド配列のアレイを含む平面であり得る。アレイへのハイブリダイゼーションのパターンを使用して、試料中に存在するポリヌクレオチド配列を決定し得る。他の実施形態では、各プローブをビーズ、例えば、磁気ビーズ等に繋留する。ビーズへのハイブリダイゼーションを決定し、使用して、試料における複数のポリヌクレオチド配列を同定することができる。
【0070】
別の実施形態では、本発明の方法は、検査試料中の核酸、例えば、母体検査試料中のcfDNAの配列情報を、Illumina社の合成によるシーケンシング及び可逆性ターミネータに基づくシーケンシング化学を使用する、数百万のDNA断片の超並列シーケンシングにより得るステップを含む(例えば、Bentley et al., Nature 6:53-59 [2009]に記載、その全体は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0071】
配列タグのマッピングは、タグ配列を参照配列と比較して、シーケンシングした核酸分子(この場合、cfDNA)の染色体起点を決定することにより達成し、特定の遺伝子配列情報は、必要としない。わずかな不適合(1配列タグあたり不適合0~2つ)が、参照ゲノムと混合試料中のゲノムとの間に存在し得る軽微な多型を説明するのに許容され得る。
【0072】
複数の配列タグは、1試料毎に典型的に得る。配列タグは、20~185bp、例えば、100bpのリードを含む。一実施形態では、すべての配列リードを参照ゲノムのすべての領域にマッピングする。一実施形態では、参照ゲノムのすべての領域、例えば、すべての染色体にマッピングしたタグを計数し、混合DNA試料中の目的の配列、例えば、染色体又はこの部分のCNV、即ち、過剰又は過小提示を決定する。方法は、2つのゲノム間の分化を必要としない。
【0073】
CNV、例えば、異数性、倍数性、及び欠失が試料中に存在するか否かの正確な決定に必要とされる精度は、参照ゲノムにマッピングする配列タグ数の試料間におけるシーケンシング実行中の変動(染色体間可変性)、及び参照ゲノムにマッピングする配列タグ数の種々のシーケンシングの実行による変動(シーケンシング間可変性)に基づく。例えば、変動は、高GC又は低GC参照配列にマッピングするタグでは、特に明白であり得る。他の変動は、核酸の抽出及び精製、シーケンシングライブラリの調製、及び種々のシーケンシングプラットフォームの使用のための種々のプロトコルを使用することにより生じ得る。本発明の方法では、正規化配列(正規化染色体配列又は正規化セグメント配列)の知識に基づく配列用量(染色体用量又はセグメント用量)を使用して、染色体間(実行内)及びシーケンシング間(実行間)由来の生じた可変性、並びにプラットフォーム依存的可変性を本質的に説明する。染色体用量は、正規化染色体配列の知識に基づき、この配列は、染色体1~22、X、及びYから選択される単一の染色体又は2若しくは3以上の染色体で構成され得る。或いは、正規化染色体配列は、単一の染色体セグメント、或いは1つの染色体又は2若しくは3以上の染色体の2又は3以上のセグメントで構成され得る。セグメント用量は、正規化セグメント配列の知識に基づき、この配列は、染色体1~22、X、及びYのいずれか1つの染色体の単一のセグメント、又は染色体1~22、X、及びYのいずれか2若しくは3以上の2若しくは3以上のセグメントで構成され得る。
【0074】
ある実施形態では、cfDNAは、シーケンシングして、試料における目的の座位のアレル配列を決定する。この配列から、目的のヘテロ接合座位を同定し、アレルの比率を定量する。この比率は、染色体異常の存在又は非存在を示す。
【0075】
一部の実施形態では、方法はまた、胎児の少なくとも1つの目的の配列から胎児が遺伝性疾患を有するかどうかを決定するステップを含む。一部の実施形態では、これは、母親が同一アレルにおいてヘテロ接合性である場合、胎児が目的の配列内の疾患を生じるアレルにおいてホモ接合性であるかどうかを決定するステップを含む。一部の実施形態では、疾患を生じるアレルは、目的の配列内の1塩基多型(SNP)のアレルである。一部の実施形態では、疾患を生じるアレルは、目的の配列内の短いタンデム反復配列(STR)のアレルである。
【0076】
一部の実施形態では、少なくとも1つの目的の配列は、疾患と関連するアレルの部位を含む。少なくとも1つの目的の配列は、次:1塩基多型、タンデム反復配列、微小欠失、挿入、及びインデルの1又は2以上を含み得る。一部の実施形態では、方法は、胎児が疾患関連アレルについてホモ接合性であるか又はヘテロ接合性であるかを決定するステップをさらに含む。
【0077】
一部の実施形態では、方法は、配列タグを計数して、染色体配列のコピー数の変動(CNV)を決定するステップ、及び/又は配列タグの配列を調べて、染色体配列の非コピー数の変動を検出するステップをさらに含む。一部の実施形態は、胎児における多型又は染色体異常の存在又は非存在を決定するステップをさらに含む。一部の実施形態では、方法は、胎児におけるSNP、タンデム反復配列、挿入、欠失、インデル、転座、重複、逆位、CNV、部分的異数性、及び/又は完全異数性の存在又は非存在を決定するステップをさらに含む。完全染色体異数性は、重複、多重複、又は完全染色体の喪失であり得る。一部の実施形態では、方法は、部分的異数性を局在化させるステップをさらに含む。一部の実施形態では、SNPは、単一SNP及びタンデムSNPから選択される。一部の実施形態では、タンデム反復配列は、2塩基反復配列及び3塩基反復配列から選択される。
【0078】
一部の実施形態では、方法は、目的の染色体配列の正規化染色体配列値を決定するステップと、配列値を上下の閾値と比較するステップであって、上下の閾値を超える配列値により、CNVの存在又は非存在をそれぞれ決定する、ステップとをさらに含む。
【0079】
一部の実施形態では、複数の配列タグを解析するステップは、染色体1~22、X、及びYの染色体異常の存在又は非存在を決定するステップを含む。一部の実施形態は、胎児が目的の配列内のアレルにおいてホモ接合性であるかどうかを決定するステップ、又は母親がヘテロ接合性であり、胎児がホモ接合性であることを決定するステップをさらに含む。一部の実施形態は、cfDNAの胎児画分を決定するステップをさらに含む。
【0080】
cfDNAを解析するための方法及び系は、米国特許第10,837,055号に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0081】
本開示の別の態様は、サイズ選択ステップの実施異常又は許容できない試料分解を検出することが可能な、配列妥当性検査である。この検査の実施形態は、実施例4に記載し、これを使用して実施例3の試料の適合性を評価した。実施例3では、K2EDTAチューブとの使用と関連する方法の使用を記載するが、この妥当性検査を使用して、採取チューブの種類又は保存時間若しくは条件にかかわらず、サイズ選択ステップを実施する場合の試料の完全性を評価し得ることが理解される。cfDNAを含むDNA試料のサイズ選択及びサイズ選択後の試料DNAのシーケンシングを含む方法では、方法は、シーケンシングステップから得られる配列情報の配列妥当性検査を含み得る。妥当性検査は、試料と関連するシーケンシング情報から第1の正規化断片サイズプロファイルを生成するステップと、断片サイズプロファイルにおける1又は2以上の値を、複数の妥当性断片サイズプロファイルを含む参照パラメータのセットから得られる対応する値の範囲の1又は2以上に対して比較するステップと、試料と関連する断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つが、対応する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は試料と関連する断片サイズプロファイルにおける1若しくは2以上の値のうちの1つが、対応する値の範囲外である場合、配列情報が拒否されるステップとを含む。また、妥当性検査は、試料と関連するシーケンシング情報から第1の相対断片サイズ頻度値を算出するステップと、第1の相対断片サイズ頻度値を、複数の妥当性相対断片サイズ頻度を含む参照相対断片サイズ頻度値のセットと比較するステップと、試料と関連する第1の断片サイズ頻度が、参照セットにおける特定する値の範囲内である場合、配列情報及びその解析結果が許容されるか、又は試料と関連する第1の断片サイズ頻度が、参照セットにおける特定する値の範囲外である場合、配列情報及びその解析結果が拒否されるステップとを含み得る。
[実施例]
【実施例1】
【0082】
この試験は、ゲルを有するKEDTAチューブ(低遠心分離後)及び非遠心分離Streckチューブに保存及び移動した血液から回収したcfDNAの質を評価する比較試験である。これまでの研究では、EDTAゲルチューブは、血液を採取し、同日に血液を処理する場合に胎児画分を低下させることなくcfDNAを調製してNIPTを行うのに、Streckチューブと同等に優れていることが示された(Giroux, 2021)。この試験では、遠心分離チューブを5日間4℃に維持し、4800km離れたシーケンシング検査施設に低温で輸送する可能性を検査する。
【0083】
妊婦は、この試験への参加同意後にバンクーバーにおいて排他的に採用された。採用された妊婦はすべて、妊娠齢10~14週であった。試験集団の詳細は、表1に示す。
【表1】
【0084】
各参加者につき、末梢血試料10mlを2つのStreckチューブCat#218997(Streck社、NB、米国)で採取し、8mlを分子診断用K2EDTAゲル血液チューブCat#GR-455040(Greiner社、オーストリア国)で採取した。試料採取から6時間以内に(製造者により推奨)EDTAゲルチューブを1800gで10分間遠心分離し、次いで、1週間に1回ケベックシティの検査施設へ低温で輸送するまで4℃に維持した。Streckチューブで採取した血液は、1週間に2回同一の検査施設に室温で輸送した。合計61試料がバンクーバーで採取され、4800kmにわたってケベックシティの検査施設まで輸送された。
【0085】
血液採取から2~5日後に1mlのトランスファーピペットを使用してStreckチューブから血漿を慎重に採取した。血漿は、Milliporeの0.45μM HPF-Millex-PVDF-Durapore(Merck社、MA、米国)により、5mlのシリンジを使用して濾過した。KEDTAチューブ内の血漿を5mlシリンジのシリンダー内にデカントし、これまでに報告のように(Giroux, 2021)、以上と同一型のフィルタを使用して濾過した。EDTAゲルチューブでは、血液採取から濾過まで2~9日かかった。
【0086】
cfDNAは、血漿2~5mlから、QIAamp Circulating Nucleic AcidキットCat# 55114(Qiagen社、独国)を使用して調製した。DNA 50又は70μlを回収し、蛍光光度法により、Qubit dsDNA HS Assay Kit Cat# Q32851(Thermofisher社、MA、米国)を使用して定量した。cfDNA 2~15ngを含む容量15~25μlを使用し、KAPA Hyper PrepキットCat# 07962363001(Roche社、スイス国)を、一部を改変した製造者の指示に従って使用してライブラリを調製した。すべてのステップにおいて、容量は半分に減少した。Kapa Unique Dual-indexedアダプタCat #08861919702(Roche社、スイス国)を最終濃度0.5μMで使用した。増幅を10サイクル実施し、増幅後のクリーンアップを0.6×~1×のKapaビーズCat #07983298001(Roche社、スイス国)により実施した。
【0087】
一試料群では、ライブラリを蛍光光度法により、上記のようにQubit dsDNA HS Assay Kitを使用して定量した。モル濃度は、平均サイズ325塩基対(bp)を使用して算出した。最大17の等モルライブラリのプールを調製して、Illumina社のNext-Seq 550機器上で、中出力のフローセルCat#20024909(Illumina社、CA、米国)を用いてペアエンドシーケンシングを150サイクル行った。
【0088】
第2の試料群では、ライブラリをYourgene Health Canada Inc.社(Manchester、英国)のLightBenchを使用してサイズ選択した。試料25μlにローディングバッファー及び200bp/300bpの標識マーカーを加え、ともに3%のプレキャストゲル上で実行した。ソフトウェアは、229bp~286bpの範囲のDNAを抽出するようにプログラムした。回収したDNAをQubitで定量し、平均サイズ275bpを使用して質量をモル濃度に変換した。最大25のライブラリのプールを調製し、上記の中出力フローセル上でシーケンシングした。
【0089】
結果
標準的手順をStreckチューブとともに使用すると、試料は5日以内に室温で到着した。妊婦7名の胎児画分が4%未満であり、このうち6名が70kgを超える体重又は25を超えるBMIを有した。
【0090】
EDTAゲルチューブでは、試料はやはり5日以内に到着したが、低温に維持しなければならなかった。試料の殆どが、選択された運送業者による速達便によって2日以内に到着した。しかし、14の試料を含む2つの輸送物が、4日及び5日遅延し、このような試料は、もはや低温には維持されなかった。このような14の試料は、運送による損害を受け、胎児画分が予想よりもはるかに低下した。これらの胎児画分は、Streckチューブにより得られるものと比較して4.6%の平均低下率であった。2日以下以内に低温で到着したEDTAゲルチューブ(N=47)の胎児画分は、Streckチューブにより観察されたものと同様であったが、平均で1.1%低下した。4℃で費やした時間(チューブは輸送まで冷蔵庫に維持した)と胎児画分の低下の程度との間に傾向が存在した。我々は、処理前の経時的な胎児画分低下の亢進を、2~3日における0.75%の低下から6日以上における1.41%の低下まで観察した。
【0091】
EDTAゲルチューブの血漿から単離したDNAから調製したすべてのライブラリは、Yourgene Health Canada Inc.社のLightBench(商標)機器を使用して3%ゲル電気泳動を実行した。ソフトウェアは、229塩基対から286塩基対の断片を採取するように設定し、この断片は、cfDNA鎖に136bpを加えるアダプタを構成する。採取した材料をシーケンシングし、胎児画分を通常どおりSeqFFにより評価した。5つの試料を除いて、胎児画分の上昇が観察された。上昇を示さなかった5つは、胎児画分が初期に高くなった。運送が5日間遅延した試料は、Streckチューブの結果と比較してそれほど上昇しなかった。2つの試料は、Streckチューブと比較して胎児画分がそれぞれ0.4%及び3%低かったが、サイズ選択前のEDTAゲルチューブと比較して胎児画分が向上し、他の12の試料は、0.1~1.5%上昇した(図1、左の試料)。残りの47の試料はすべて0.8~10.2%の範囲に及び、平均で5.4%上昇したが、例外として、3つの試料は、10%超を維持するが、サイズ選択前のStreck、さらにはEDTAゲルと比較して低下した(図1、星印の試料)。SeqFFによる胎児画分の決定によって大まかな推定値が得られるが、それにもかかわらず、この決定は、女児の妊娠において非常に有用である。男児の妊娠においてもChrX断片の低下から算出する胎児画分が決定され、解析した各試料について重要な上昇が見出された(図2A)。SeqFFによる胎児画分が低い試料でさえも、この算出方法により、はるかに高くなるとみられた(図1及び図2Aにおける青色の星印)。男児の妊娠(n=25)における染色体Y由来のリードの増加も観察されたため、使用したチューブ及び3%アガロース上での選択がSeqFFによる計数に干渉することによって、胎児画分が人為現象的に上昇することはなかった(補遺、図2B)。
【0092】
図3は、ペアエンドシーケンシングのマッピングから算出したシーケンシング断片のサイズを示す。灰色は、サイズ選択前の断片であり、青色は、サイズ選択後の断片である。
【表2】
【実施例2】
【0093】
この第2の試験の目的は、KEDTAチューブで採取した全血の遠心分離前の保存時間の延長の、胎児cfDNAの検出に対する影響を評価することである。各参加者から単回採血した別々のチューブを、ある範囲のタイムポイントにおいてインキュベートし、遠心分離して血漿を得、次いで、DNAの単離処理及び増幅処理を行い、サイズ選択を実施し、DNAライブラリを生成し、cfDNAをシーケンシングする。胎児画分パーセンテージ及び染色体比を使用して、遠心分離前の保存時間の作用を決定する。これにより、可変血液保存時間の、胎児画分パーセンテージに対する影響の測定が可能となる。
【0094】
試料は、次のタイムポイント以内に処理する:タイムポイント1 - 0~8時間、タイムポイント2 - 72時間、タイムポイント3 - 120時間、及びタイムポイント4 - 168時間。この間、試料の一部を冷蔵温度で保存し、一部を室温で保存する。適切なタイムポイントで、血漿を全血から遠心分離により分離する。試料採取から6時間以内に、すべてのチューブを1600g×10分で遠心分離した。EDTAチューブ由来の血漿をシリンジシリンダーに注ぎ、0.45μmのMilliporeフィルタにより濾過した。単離した血漿試料は、少なくとも96の試料を採取するまで-80℃で保存し、このタイムポイントで、DNA抽出を開始する。この温度での保存により、試料が抽出まで保たれる。cfDNAの抽出は、QIAamp Circulating Nucleic AcidキットCat# 55114(Qiagen社、独国)により実施することができる。Yourgene Health Canada Inc.社のLightBench(登録商標)を使用して、試料中の特定のサイズのcfDNAを選択する。サイズ選択パラメータは、実施例1と同一である。NGSシーケンシングライブラリを調製し、Illumina系上でシーケンシングした。胎児画分は、SeqFFを使用して推定した。
【実施例3】
【0095】
また、この第3の試験の目的は、KEDTA血液チューブ(KEDTAバキュテイナとしても知られる)で採取した全血の遠心分離前の保存時間の延長の、胎児cfDNAの検出に対する影響を評価することである。各参加者から単回採血した別々のチューブを、タイムポイント1~4においてインキュベートし、2回遠心分離して血漿を得、次いで、DNAの単離処理及び増幅処理を行い、DNAシーケンシングライブラリを生成し、シーケンシングライブラリをプールし、サイズ選択を実行し、cfDNAをシーケンシングする。胎児画分パーセンテージ及び染色体比を使用して、遠心分離前の保存時間の作用を決定する。これにより、可変血液保存時間の、胎児画分パーセンテージに対する影響、及び血漿単離が遅延した標準的血液チューブによるNIPT検査の質の測定が可能となる。
【0096】
試料は、環境温度で保存し、次のタイムポイント以内に処理した:タイムポイント1 - 0~8時間、タイムポイント2 - 72時間、タイムポイント3 - 120時間、及びタイムポイント4 - 168時間。環境温度は、20℃~35℃の範囲に及んだ。適切なタイムポイントで、血漿を全血から2回の遠心分離により分離した。血漿単離遠心分離プロセスは、1600rpmで10分間の第1の遠心分離ステップと、3000rpmで10分間の第2の遠心分離ステップとを含む。第1の遠心分離後、K2EDTAチューブ由来の血漿を第2のチューブに移し、第2の遠心分離ステップに供した。第2のステップ後、第2のチューブから血漿を除去し、第3のチューブに移し、48未満の試料の実行を開始するのに十分な試料を採取するまで-80℃で保存し、このタイムポイントで、DNA抽出を開始した。単離した血漿試料は、約48の試料を採取するまで-80℃で保存し、このタイムポイントで、DNA抽出のプロセスを開始した。この温度での保存により、試料が抽出まで保たれる。
【0097】
cfDNAの抽出は、MagMAX(商標)Cell-Free DNA Isolation Kitにより実施した。Streckチューブの不使用にもかかわらず、溶解ステップをこのスクリプトの一部として実行し、EDTAチューブに採取した試料に対して有害な作用は有しない。Yourgene Health Canada Inc.社のQS250(商標)を使用して、試料中の特定のサイズのcfDNAを選択した。サイズ選択パラメータは、106~146bp(値はアダプタ長を含まない)であり、回収範囲は、約100~186bp(断片長平均値は約143~146bp)であった。NGSシーケンシングライブラリを調製し、Illumina系上でシーケンシングした。胎児画分は、SeqFFを使用して推定した。
【0098】
試料セット詳細
この試験では、105の臨床試料の適合したセットを採取した。在胎期間、身長、体重、及びBMIが既知の試料を採取した。各参加者から単回採血した別々のバキュテイナを、タイムポイント1~4においてインキュベートし、遠心分離して血漿を得、次いで、IONA(登録商標)Nxワークフローを通しで実行した。胎児画分パーセンテージ及び染色体比を使用して、遠心分離前の保存時間の作用を決定した。
【0099】
ほぼすべての参加者について、患者ボランティア105名(妊娠期間10+0週を超える妊婦)のそれぞれの参加者から血液検体(適合検体と名付ける)5mLを4回、BDバキュテイナ(商標)プラスチックKEDTAチューブに採取した。各参加者の適合した一定分量5mLを、環境温度によるインキュベーション後のタイムポイント1~4のそれぞれにおいて遠心分離に供した。次の表3では、採取した試料の要約を提供する。参加者から20mL未満を得るため、105の試料から逸脱するタイムポイントは、105試料未満である。
【表3】
【0100】
参加者は、M029~M105と名付けた。次の試料は、2回の遠心分離ではなく、誤って、IONA Nxプロトコルにおいて標準の単回遠心分離に供した。
M029~M30 タイムポイント1~3
M031~M032 タイムポイント1~2
このような試料は、血漿調製に単回回転方法を使用したため、この報告から除外した。
【0101】
残りの試料は、2回の遠心分離に供し、以下に要約する。
M029~M030 タイムポイント4
M031~M032 タイムポイント3及びタイムポイント4
M033~M105 タイムポイント1、タイムポイント2、タイムポイント3、及びタイムポイント4
上記の試料は、解析に含んだ試料である。
【0102】
参加者の除外基準及び組入れ基準
組入れ基準及び除外基準は次のとおりであった。
組入れ基準
18歳以上の妊婦
インフォームドコンセントの理解及び提供が可能な女性
単生児妊娠で妊娠期間10+0週以上、妊娠期間カットオフ値の上限なし、即ち、出産予定日まで
除外基準
母体異数性又は母体のがんを有することが既知である者
双胎又は双胎一児死亡例
感染性疾患、例えば、流行中のCOVID-19感染症を有するか又はCOVID-19隔離期間中であること、HepB/B型肝炎を有することが既知である者
社会的弱者に属すると思われる者
臓器又は幹細胞移植の経験を有することが既知の者
過去12カ月に輸血の経験を有することが既知の者
【0103】
結果
試料の要約
この試験で使用した4つのタイムポイントにおける2回回転の患者試料すべてのQC妥当性ステータスの要約を以下の表4に示す。
【表4】




【0104】
ライブラリ妥当性
ライブラリ調製(:LP,Library Preparation)妥当性率を各実行及び各タイムポイントのそれぞれについて算出し、ここで、2.5ng/μL以上のPCR後定量値によるライブラリを妥当であると考えた。
【0105】
試験における各タイムポイントのすべての試料に対する初回ライブラリ総妥当性及び1×再検査後の妥当性率を、以下の5に示す。
【表5】
【0106】
要約統計量(平均値及び標準偏差)並びにウェルチANOVA検定を、1×再検査後の275の妥当性ライブラリ(5を参照)に加えて、ライブラリ妥当性基準(2.49ng/μL)をほぼ満たすためサイズ選択の試料プールに含まれた、実行5による試料M056(タイムポイント1)について実施した。276の試料すべてのデータは、図6に示す。
【0107】
不等分散検定により各タイムポイントのデータの標準偏差が等しくないことが実証され(図6を参照)、したがって、この検査が等分散を想定したため、ANOVAは適切な解析方法ではなかったことにより、ウェルチANOVA検定をANOVAの代わりに実施した。
【0108】
視覚的には、データにより、遠心分離前のK2EDTAチューブにおいて高ライブラリ濃度の変化が、試料保存時間の延長に伴って実証される。タイムポイント4により、最大ライブラリ濃度平均値が実証され(11.31ng/μL、図6)、一方、タイムポイント1により、最小濃度平均値が実証された(6.12ng/μL、図6)。タイムポイント2では、最大標準偏差が提示され(SD=2.90、図6)、タイムポイント4では、最小標準偏差が提示された(SD=1.48、図6)。タイムポイント1は標準偏差2.48、タイムポイント2は標準偏差2.90、及びタイムポイント3は標準偏差2.35をそれぞれ有し、このようなタイムポイントにわたって匹敵する分散が存在することを示唆した。このような知見は、EDTAチューブにおける試料の保存時間の延長により、ライブラリ調製反応へのDNA入力の増加が生じ、したがって、後のタイムポイントでは、高ライブラリ濃度が返されることが予想されるという仮説と一致する。
【0109】
6におけるウェルチANOVA p値<0.0001は、タイムポイント間のライブラリ定量データにおいて統計学的に有意な分散が存在することを示す。
【0110】
出発試料由来の任意の大型DNA断片(1kb超)は、理論上は、サイズ単独に基づくライブラリ調製ワークフローの試料クリーンアップステップ中に保持され、アダプタライゲーション/増幅の成功と無関係であり得ることに注意されたい。したがって、このような材料は、ライブラリ蛍光定量アッセイにおける蛍光シグナルに寄与し、後のタイムポイントにおけるライブラリ濃度の上昇及びこの試験における試料保存時間の延長に寄与し得る(図6)。
【0111】
上述の276のデータポイントのライブラリ濃度データは、主作用解析により、JMPの可変性規格データ品質評価を使用して処理することによって、試験変数(EDTA保存時間)及び実施した実行に起因し得る、ライブラリ濃度データにおける可変性の割合を推定した。この検査から生じる分散成分は、以下の表6に示す。
【表6】
【0112】
分散成分解析により、試験変数であるEDTA保存時間(タイムポイント)が、ライブラリ濃度データにおいてみられる分散の50%に寄与することが示された(表6)。したがって、ライブラリ濃度データにおいて観察される分散の50%は、他のワークフロー変数に由来しており、この分散の10%は、実行毎の可変性に起因し、残りの40%は、この解析/試験では詳細に調査しない変数に起因する(表6)。可能性変数としては、異なるタイムポイントにおいて試料遠心分離及び血漿単離を実施する複数の操作者の存在、実行1~9にわたる検査施設/ワークフロー可変性(例えば、サービス検査施設による実行1~3対R&Dによる実行4~9)、並びに試料を採取した患者自身に関する可変性が挙げられ得るが、これらに制限されない。
【0113】
シーケンシング妥当性
DNA試料の質を評価し、シーケンシング結果の質に影響するシーケンシングプロセスに問題を有するあらゆる試料を除外するために、シーケンシングした各試料を、いくつかのパラメータ、主に、実行制御及び実行全体のシーケンシング品質管理、断片計数、断片サイズプロファイル(cfDNAサイズ選択シーケンシングライブラリについて予想したものと比較した場合)、GCプロファイル胎児画分、並びに一貫性のチェックについて解析した。すべての試料は、少なくとも2%以上の胎児画分を有しなければならない。加えて、偽陰性又は偽陽性結果のリスクを有するすべての試料を、我々が所有権を有する動的胎児画分評価を使用して評価する。これにより、試料に必要とされる胎児画分のレベルを、その質及びこれを裏づけるシーケンシングデータの質に適応させる。
【0114】
検査したすべての試料(11の試料は1回再検査)の総シーケンシング妥当性率は、272/274(99.27%)であった。試料妥当性が初回に失敗となった11の試料を、後続の実行について再検査したところ、このような試料のうち9つが、再検査について妥当性結果を返した。
【0115】
各タイムポイントにわたる初回及び1×再検査によるシーケンシング妥当性率を以下の表7に提示する。
【表7】
【0116】
1×再検査の後、合計8つの試料において、シーケンシング妥当性チェックが失敗となった。
【0117】
このうち6つの試料は、シーケンシングが失敗となり、再検査しなかった。
2×シーケンシングの失敗は、160bp位置における断片サイズプロファイルの失敗のためであった(M080、タイムポイント4及びM085、タイムポイント4)。
4×シーケンシングの失敗は、180bp位置における断片サイズプロファイルの失敗のためであった(M089、タイムポイント4;M101、タイムポイント3;M101、タイムポイント4;及びM102、タイムポイント4)。
このうちの2つの試料は、1×再検査後のシーケンシング妥当性が失敗となった。
1×シーケンシングの失敗は、180bp位置における断片サイズプロファイルの失敗のためであった(M068、タイムポイント3)。
1×シーケンシングの失敗は、120bp及び180bpの両位置における断片サイズプロファイルの失敗のためであった(M076、タイムポイント3)。
【0118】
後のタイムポイントにおいてシーケンシングQCチェック(特には、「断片サイズプロファイル異常」チェック)が失敗となった試料数の増加は、EDTAチューブにおける試料保存時間の延長の結果としてDNAの入力が増加したことにより、後のPCRサイクルにおいてPCRプラトー及びライブラリ断片のヘテロ2本鎖形成が生じたためである可能性を有する。したがって、サイズ選択(QS250上での)による試料濃縮後のヘテロ2本鎖ライブラリ断片のシーケンシングは、試料のIONAソフトウェアのQCチェックが失敗となるリスクを高めることが予想され、実際、タイムポイント4では、最も一般には、「断片サイズプロファイル異常」についての初回シーケンシング妥当性及び1×再検査後のシーケンシング妥当性が失敗となる試料の発生頻度は、最高である(表)。それにもかかわらず、試料のライブラリ調製及びシーケンシングを通した反復により、妥当性結果をもたらすことが可能であった。
【0119】
遠心分離前の保存時間の延長に伴う断片サイズ頻度の変化の例は、各タイムポイントにおいて妥当性結果が返された患者2名において観察することができる。
【0120】
図7A及び図7Bにおいて、患者試料M047及びM100について4つすべてのタイムポイントにわたって実証された、断片プロファイルにおける右(即ち、大型のDNAライブラリ挿入サイズ)への代表的変化は、ヘテロ2本鎖形成による予想どおりの結果であり、それ自体がEDTAチューブにおける試料保存時間の延長によるライブラリ調製へのDNAの入力増加の結果である。図7A及び図7Bのプロファイルにより表すアラインメントしたすべてのDNA断片が、モノヌクレオソームcfDNA単位の予想サイズの範囲内であり、遠心分離及び血漿単離の前の保存時間の延長の結果として細胞溶解物から生じる予想DNA断片ではないことに注意すべきである。
【0121】
胎児画分パーセンテージ
「IONA FF」方法では、アルゴリズムの2つのうちの1つを適用して、染色体数解析から測定した値に応じて推定する。IONA FFでは、X及びY染色体の割合を調べる。次いで、
- 試料が男性胎児のものであるという非常に高い程度の信頼が存在する場合、「E1」推定アルゴリズムを使用する。ここでは、線形モデルを使用して、開発中に較正したモデルによりX及びYの染色体データからFFを推定する。
- さもなければ(即ち、試料が男性胎児のものであると信頼できない場合)、試料に「E2」アルゴリズムを使用する。この方法では、長及び短の断片の相対頻度をFFと関連づけるモデルから推定する。これも線形モデルであるが、実行毎に既に算出したE1(X/Yに基づく)推定値を使用して較正する。これにより、測定プロセスにおける実行毎の変動を除去することによって、サイズに基づく推定値の精度が、静的モデルの使用に対して向上する。
【0122】
次いで、推定値は、妥当性チェッカーによりやはり使用する、測定不確実性の内部推定値とともに、残りの系に出力する。胎児画分を算出する別の方法は、SeqFFとして当技術分野において周知のアルゴリズムによる方法である。
【0123】
胎児画分パーセンテージは、IONAソフトウェアによる解析後に268の妥当性すべての試料のデータから決定した。また、One-wayANOVAを未加工の胎児画分データ(未加工のシーケンシングデータから得た推定濃縮胎児画分)について実施して、各タイムポイント間の比較を評価した。すべての胎児画分データのANOVAは、図5に示す。
【0124】
視覚的には、データにより、遠心分離前の保存時間の延長に伴う低胎児画分パーセンテージの変化の傾向が実証される。すべてのタイムポイントでは、268の推定胎児画分すべてを解析する場合、上述の不等分散検定により裏づけられる同様の標準偏差が提示され、このようなタイムポイントにわたって匹敵する分散が存在することを示唆した。
【0125】
図5におけるANOVA p値<0.0001は、タイムポイント間の胎児画分パーセンテージにおいて有意な分散が存在することを示す。
【0126】
それにもかかわらず、268のうち267の試料が、NIPT検査に適用する一般的閾値である4%を超える胎児画分を有し、すべてがIONA Nx FFカットオフ値を超えた。
【0127】
稀な常染色体異数性(Rare Autosomal Aneuploidy)解析
272すべて(100%)の妥当性試料が、「不検出」の妥当性RAAプラグイン結果を返し、異数性が検出されなかったことを示した。
【0128】
一致解析
この試験における妥当性試料についての各タイムポイントにわたる一致解析を、別のそれぞれのタイムポイントについての結果が存在しなくても(即ち、ライブラリからの結果又はシーケンシングの失敗)、妥当性ベースライン結果(タイムポイント1)が返された場合にのみ実施し、ここで、これに関連する不適性結果は、SCA/FSD決定に関して「不算出」の結果を指す。また、4つすべてのタイムポイントにおいて妥当性結果を返した患者試料について、一致解析を実施した。
【0129】
RAA一致解析
ベースライン(タイムポイント1)に匹敵するRAAステータスについての一致解析を以下の表11に要約する。試料は、タイムポイント1の妥当性RAA結果が、少なくとも1つの他のタイムポイントと並んで利用可能であると考えた。
【表8】
【0130】
タイムポイント2 - 60/60(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
タイムポイント3 - 62/62(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
タイムポイント4 - 59/59(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
【0131】
4つすべてのタイムポイントにおいて妥当性結果を返した55の患者試料のベースラインに匹敵するRAAステータスについての一致解析は、以下の表12に要約する。
【表9】
【0132】
タイムポイント2 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
タイムポイント3 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
タイムポイント4 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「不検出」のRAA結果を返した。
【0133】
T13/18/21一致解析
ベースライン(タイムポイント1)に匹敵するT13/18/21異数性ステータスについての一致解析を以下の表に要約する。
【表10】
【0134】
タイムポイント2 - 60/60(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
タイムポイント3 - 62/62(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
タイムポイント4 - 59/59(100%)の患者試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
【0135】
4つすべてのタイムポイントにおいて妥当性結果を返した55の患者試料のベースラインに匹敵するT13/18/21異数性ステータスについての一致解析は、以下の表に要約する。
【表11】
【0136】
タイムポイント2 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
タイムポイント3 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
タイムポイント4 - 55/55(100%)の試料が、ベースラインと一致して「低リスク」の結果を返した。
【実施例4】
【0137】
この実施例では、断片サイズプロファイルを調べ、プロファイルが正常であるか又は異常であるかを決定する、配列妥当性チェックのパラメータの実施形態を提供する。このチェックの目的は、試料分解及び/又は胎児DNAサイズ選択ステップ(胎児DNA濃縮とも呼ぶ)の有効性の低下によるNIPT検査の性能低下のリスクを、濃縮不十分である場合を検出し、対応する試料解析を不適として検査結果を生成しないことによって低下させることである。また、この検査を使用して、セルフリーDNAにおけるがん細胞配列を検査することができる。
【0138】
胎児セルフリーDNAは、母体セルフリーDNAのそれとは異なる特定のサイズ範囲内に存在することが知られている。したがって、濃縮無効及び/又は試料分解過剰である場合を、試料と関連するシーケンシングデータから正規化断片サイズプロファイルを計算し、このパラメータを、有効な濃縮を無効な濃縮及び/又は試料分解過剰から識別することが可能な、事前に算出した参照パラメータのセットと比較することにより検出することが可能である。
【0139】
サイズプロファイル妥当性チェックは、例えば、次を確実とするように設計する。
1.母体セルフリーDNAの胎児セルフリーDNA成分の濃縮が有効であり、胎児のものである可能性が高いサイズ範囲内の断片の優先的選択を確実とすることにより、本明細書に記載のサイズ選択によって濃縮を適用し得る。及び/又は
2.試料シーケンシングデータが、妊婦から採取した血漿から抽出するセルフリーDNA材料の生物学的特性と一致したDNA断片サイズプロファイルを有する。
【0140】
1又は2以上のサイズ包絡線を、目的の特定の断片サイズ値において定義する(実施例3では、目的のサイズ断片サイズ値は120bp及び180bpの断片であった)。特には、各包絡線は、妥当であると考えられるポイントの断片サイズプロファイルを含む。したがって、入力される断片サイズプロファイルが、そのように定義する包絡線の少なくとも1つによる包含の条件を満たす場合、サイズプロファイル妥当性チェックは、対応する試料として合格したと考える。
【0141】
構成パラメータ:妥当性チェックパラメータのこの実施形態を構成するために、次のパラメータを必要とする。これらは、効率的な階層構造的表示により(例えば、XMLに基づくフォーマットを使用して)保存すべきである。
- 定義するサイズ包絡線の数 - Nenv(整数、必須)。108、
- サイズ包絡線のアレイ - SizeEnv[・]。エントリー毎に:
- サイズチェックポイントの数 - Nchk(整数、必須)。
- サイズチェックポイントのアレイ - SizeChk[・]。エントリー毎に:
- 定義する断片サイズ - schk(整数、必須)。
- 妥当性相対頻度範囲 - 下限 - z(実数、任意)。
注意:値をzに代入するという条件で、この値を省略してもよく、この場合、下限は0であると理解される。
- 妥当性相対頻度範囲 - 上限 - z(実数、任意)。
注意:値をzに代入するという条件で、この値を省略してもよく、この場合、上限は1であると理解される。
【0142】
検査入力データ:入力データは、シーケンシングデータにおける測定した断片サイズ値のアレイである。
【0143】
検査出力:方法により、次のように単一の出力を生成する:サイズプロファイル妥当性ステータス - VSP(ブール値、必須)。
【0144】
試料サイズプロファイルの算出:第1に、相対頻度分布は、解析コアパイプラインにより、使用中のシーケンシングプラットフォームに適切な方法によって生成した場合に、試料について生成した断片サイズ測定値のアレイから形成する。この分布は、生じる各サイズの頻度で構成されるアレイとして計算し、分布に含まれる断片の総数に従って正規化するものである。したがって、
【数1】
ここで、nは、すべての断片サイズs∈Sにおいて、サイズsの存在する断片の数であり、Sは、シーケンシングデータから測定した、すべての断片サイズのセットであり、ここで、寄与する断片は、13、18、21、X、及びY以外の染色体に対してユニークにアラインメントした(重複排除に従って)もののみと考える。N断片が同一ゲノム位置にアラインメントされ、これにより重複排除ツールを配置することが見出された場合、サイズsの各断片は、断片数nに1/N寄与することに注意されたい。
【0145】
表示されていない任意のサイズ値(即ち、
【数2】
)では、対応する相対頻度分布値Z[s]は、0であると理解される。
【0146】
試料妥当性ステータスの算出:試料について計算した相対頻度分布Zを、構成パラメータのセットに定義する包絡線のそれぞれと順番に比較する。各包絡線では、この比較は次のように進行する。
1.各サイズチェックポイントでは、対応するサイズ値schkを使用して、試料について計算した分布におけるサイズの相対頻度の値を調べる:即ち、Z[schk]。
2.そのように得られた分布値を、妥当性頻度範囲パラメータと比較する:z及びz。間隔[z,z)、即ち、Z[schk]<z又はZ[schk]≧zに入らない場合、チェックポイントの比較を失敗としてマークする。分布値が間隔[z,z)に入る場合、比較は合格したものとしてマークする。
【0147】
比較は、残りがなくなるまで、この包絡線において次のサイズチェックポイントに進行する。
【0148】
次いで、包絡線の比較結果を、構成するすべてのチェックポイント結果の論理値「and」として算出する。即ち、包絡線の比較は、構成するすべてのチェックポイントに合格した場合にのみ、合格したと考える。
【0149】
任意の単一包絡線の比較が合格したものと見出された場合、サイズプロファイル妥当性チェックによる試料妥当性について妥当性結果が生成され、値VSP=真で終了する。唯一の包絡線の比較は、全体としての妥当性チェックのために継続して妥当性結果をもたらすのに必要とされる。
【0150】
すべての包絡線の比較の完了後、構成するすべてのチェックポイントにおいて合格したものが皆無であることが見出された場合、サイズプロファイル妥当性チェックによる試料妥当性についての不適性結果が生成され、値VSP=偽で終了する。これは、異常断片サイズプロファイルと等しく、試料は、配列妥当性チェックに合格せず、拒否される。再採血が必要とされる。
【0151】
等価物
本発明では、この特定の実施形態に関して詳細に記載するが、機能的に等価な変形形態が、本発明の範囲内に存在することが理解される。実際、本明細書に指示及び記載するものに加えて本発明の種々の変更形態は、前述の明細書及び添付の図面から当業者に明らかとなる。このような変更形態は、添付の特許請求の範囲に入ることを意図する。当業者は、わずかに日常的実験を使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか又は確かめることが可能である。このような等価物は、次の特許請求の範囲により包含することを意図する。
【0152】
本明細書に言及するすべての公表文献は、個々の公表文献をそれぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれるものと詳細かつ個別に指示する場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0153】
本発明の多くの変更形態及び変形形態は、当業者に明らかなように、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく成され得る。本明細書に記載の特定の実施形態は、単なる例として提供し、本発明は、添付の特許請求の範囲の請求項によってのみ制限されるとともに、等価物の全範囲は、このような特許請求の範囲により権利を有するものである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7A
図7B
【国際調査報告】