IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2025-502690大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250121BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250121BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
C22C38/00 301B
C22C38/58
B23K9/173 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537313
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 KR2022020863
(87)【国際公開番号】W WO2023121236
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184090
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン, ギュテ
(72)【発明者】
【氏名】ファン, ウォンテク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ボヨン
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB10
4E001CA05
4E001EA02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、微細組織を制御することにより、大入熱靭性を向上させた高強度溶接継手部を提供することである。
【解決手段】本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、
面積分率で、針状フェライト85%以上、粒界フェライト14%以下及び上部ベイナイト0.1%以下を含むことを特徴とする大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項2】
下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
(前記式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。)
【請求項3】
MA(島状マルテンサイト-オーステナイト)相が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項4】
降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項5】
引張強度が610~770MPaであることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項6】
延伸率が21%以上であることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項7】
-20℃衝撃靭性が50J以上であることを特徴とする請求項1に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部。
【請求項8】
重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下の鋼材を、エレクトロガス溶接する段階を含むことを特徴とする大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法。
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
(前記式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する)。
【請求項9】
前記エレクトロガス溶接は、160KJ/cm以上の入熱量で行うことを特徴とする請求項8に記載の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部に係り、より詳細には、微細組織を制御することにより、大入熱靭性を向上させた高強度溶接継手部に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による気温上昇により北極海氷面積が急速に減少するにつれて、北極航路の開設に対する関心が高まっている。北極航路の運行を行うためには、海氷を壊して航路を開拓できる砕氷船の建造が必須である。
【0003】
砕氷船の船体に使用される鋼材は、低温で優れた衝撃靭性を持たなければならず、砕氷時の衝撃から船体を保護するために高強度が要求される。したがって、砕氷船用鋼材及び溶接継手部は、微細な高強度の低温変態相組織から構成されなければならず、そのために多量の合金元素が添加される。
【0004】
最近、造船会社では、砕氷船の建造時の生産性を向上させるためにエレクトロガス溶接を適用できる鋼材及び溶接継手部を持続的に要求している。しかし、多量の合金元素を添加する場合には、溶接継手部及び熱影響部のベイナイト単相の生成による溶接部の靭性が急落するという問題が発生することがある。したがって、エレクトロガス溶接を適用できる大入熱溶接用高強度鋼材及び溶接継手部に対する発明がほとんどないのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した問題を解決するための本発明の目的は、針状フェライト分率を最大化し、粒界フェライト及び上部ベイナイト分率を最小化して結晶粒度を微細化することにより、低温衝撃靭性と高強度を同時に具現できる、大入熱靭性を向上させた高強度溶接継手部及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、面積分率で、針状フェライト85%以上、粒界フェライト14%以下及び上部ベイナイト0.1%以下を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下である。
【0008】
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0009】
前記式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0010】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、MA(島状マルテンサイト-オーステナイト)相が0.5%以下である。
【0011】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、降伏強度が500MPa以上である。
【0012】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、引張強度が610~770MPaである。
【0013】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、延伸率が21%以上である。
【0014】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、-20℃衝撃靭性が50J以上である。
【0015】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下の鋼材を、エレクトロガス溶接する段階を含むことを特徴とする。
【0016】
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0017】
前記式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0018】
また、本発明の大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法において、前記エレクトロガス溶接は、160KJ/cm以上の入熱量で行う。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、針状フェライト分率を最大化し、粒界フェライト及び上部ベイナイト分率を最小化して結晶粒度を微細化することにより、低温衝撃靭性と高強度を同時に具現できる、大入熱靭性を向上させた高強度溶接継手部及びその製造方法を提供しうる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、面積分率で、針状フェライト85%以上、粒界フェライト14%以下及び上部ベイナイト0.1%以下を含んでもよい。
【0021】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現してもよい。
【0022】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0023】
単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0024】
以下、本発明の実施例における合金成分含量の数値限定理由について説明する。以下、特に言及しない限り、単位は、重量%である。
【0025】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなることが好ましい。
【0026】
C(炭素)の含量は、0.03%以上0.045%以下であってもよい。
【0027】
Cは、固溶強化による材料強度の増加に有効な元素である。これを考慮して、Cは、0.03%以上添加されてもよい。しかし、Cの含量が過剰な場合、硬化能が過度に向上し、上部ベイナイト分率が上昇することがある。また、Cの含量が過剰な場合、大量の島状マルテンサイト相が生成して靭性が低下することがある。これを考慮して、C含量の上限は、0.045%に制限されてもよい。好ましくは、Cの含量は、0.032%以上0.043%以下であってもよい。
【0028】
Mn(マンガン)の含量は、1.45%以上1.55%以下であってもよい。
【0029】
Mnは、固溶強化により強度を向上させ、低温変態相が生成されるように硬化能を向上させるのに有効な元素である。これを考慮して、Mnは、1.45%以上添加されてもよい。しかし、Mnの含量が過剰な場合、過度な硬化能の増加により、溶接熱影響部及び母材組織内に上部ベイナイト及び島状マルテンサイトの生成が促進され得る。したがって、Mnの含量が過剰な場合、衝撃靭性を大きく低下させることがある。これを考慮して、Mn含量の上限は、1.55%に制限されてもよい。好ましくは、Mnの含量は、1.49%以上1.55%以下であってもよい。
【0030】
Si(シリコン)の含量は、0.3%以上0.4%以下であってもよい。
【0031】
Siは、製鋼及び溶接継手部内の溶存酸素をスラグ状に析出させることにより、脱酸作業を行うのに必須の元素である。これを考慮して、Siは、0.3%以上添加されてもよい。しかし、Siの含量が過剰な場合、酸化物が粗大に生成されるか、又は微細組織内に非金属介在物又は粗大な島状マルテンサイトを多量生成させることがある。これを考慮して、Si含量の上限は、0.4%に制限されてもよい。好ましくは、Siの含量は、0.34%以上0.4%以下であってもよい。
【0032】
Al(アルミニウム)の含量は、0.02%以上0.03%以下であってもよい。
【0033】
Alは、Siと同様に、脱酸作業を行うのに有効な元素である。これを考慮して、Alは、0.02%以上添加されてもよい。しかし、Alの含量が過剰な場合、粗大な酸化物又は粗大な島状マルテンサイトを生成させることがある。これを考慮して、Al含量の上限は、0.03%に制限されてもよい。好ましくは、Alの含量は0.022%以上0.025%以下であってもよい。
【0034】
Ni(ニッケル)の含量は、1.55%以上1.70%以下であってもよい。
【0035】
Niは、低温衝撃靭性を向上させて強度を向上させるのに重要な元素である。これを考慮して、Niは、1.55%以上添加されてもよい。しかし、Niの含量が過剰な場合、過度な硬化能の上昇によって上部ベイナイトが生成することにより、靭性が低下することがある。また、Niの含量が過剰な場合、製造原価が上昇することがある。これを考慮して、Ni含量の上限は、1.70%に制限されてもよい。好ましくは、Niの含量は、1.57%以上1.69%以下であってもよい。
【0036】
Cr(クロム)の含量は、0.05%以上0.07%以下であってもよい。
【0037】
Crは、焼入れ性の向上により強度を確保するのに有効な元素である。これを考慮して、Crは、0.05%以上添加されてもよい。しかし、Crの含量が過剰な場合、過度な硬化能の上昇により上部ベイナイトが生成されることにより、靭性が低下することがある。また、Crの含量が過剰な場合、製造原価が上昇することがある。これを考慮して、Cr含量の上限は、0.07%に制限されてもよい。好ましくは、Crの含量は、0.052%以上0.061%以下であってもよい。
【0038】
Cu(銅)の含量は、0.05%以上0.08%以下であってもよい。
【0039】
Cuは、強度向上とともに低温靭性を確保するのに有効な元素である。これを考慮して、Cuは、0.05%以上添加されてもよい。しかし、Cuの含量が過剰な場合、製造原価が上昇することがある。これを考慮して、Cu含量の上限は、0.08%に制限されてもよい。好ましくは、Cuの含量は、0.057%以上0.071%以下であってもよい。
【0040】
Mo(モリブデン)の含量は、0.14%以上0.2%以下であってもよい。
【0041】
Moは、焼入れ性の向上により強度を確保するのに有効な元素である。これを考慮して、Moは、0.14%以上添加されてもよい。しかし、Moの含量が過剰な場合、過度な硬化能の上昇により上部ベイナイトが生成されることにより、靭性が低下することがある。また、Moの含量が過剰な場合、製造原価が上昇することがある。これを考慮して、Mo含量の上限は、0.2%に制限されてもよい。好ましくは、Moの含量は、0.146%以上0.196%以下であってもよい。
【0042】
Ti(チタン)の含量は、0.06%以上0.07%以下であってもよい。
【0043】
Tiは、溶接継手部でTi酸化物(TiO)の晶出を通じて粒内針状フェライトの核生成を促進するのに有効な元素である。また、Tiは、炭窒化物の析出を通じて結晶粒を微細化するのに有効な元素である。これを考慮して、Tiは、0.06%以上添加されてもよい。しかし、Tiの含量が過剰な場合、過度な酸化物の生成を引き起こすことにより、低温衝撃靭性を低下させることがある。これを考慮して、Ti含量の上限は、0.07%に制限されてもよい。好ましくは、Tiの含量は、0.06%以上0.063%以下であってもよい。
【0044】
Nb(ニオブ)の含量は、0.004%以上0.005%以下であってもよい。
【0045】
Nbは、C及びNと結合してNb系析出物を形成することにより、強度を向上させるのに有効な元素である。これを考慮して、Nbは、0.004%以上添加されてもよい。しかし、Nbの含量が過剰な場合、溶接継手部に多量の島状マルテンサイトが生成し、靭性が低下することがある。これを考慮して、Nb含量の上限は、0.005%に制限されてもよい。
【0046】
O(酸素)の含量は、0.035%以上0.05%以下であってもよい。
【0047】
Oは、溶接溶湯の中でTiと反応してTi酸化物を形成させる元素である。Ti酸化物は、溶接部で粒内針状フェライトの核生成を促進して結晶粒を微細化するのに有効な役割を果たすことができる。これを考慮して、Oは、0.035%以上添加されてもよい。しかし、Oの含量が過剰な場合、粗大なTi酸化物及びその他の酸化物の不必要な生成によって溶接部の衝撃靭性を悪化させる。これを考慮して、O含量の上限は、0.05%に制限されてもよい。
【0048】
N(窒素)の含量は、40ppm以上180ppm以下であってもよい。
【0049】
Nは、TiNを析出させて旧オーステナイト結晶粒が成長するのを防ぐことにより、結晶粒度を微細化する効果を示す元素である。これを考慮して、Nは、40ppm以上添加されてもよい。しかし、Nの含量が過剰な場合、フリー窒素(Free Nitrogen)が生成されて靭性が低下し、AlNの析出によるスラブのクラックを引き起こすことがある。これを考慮して、N含量の上限は、180ppmに制限されてもよい。好ましくは、Nは90ppm以上170ppm以下であってもよい。
【0050】
P(リン)は、0ppm超過80ppm以下であってもよい。
【0051】
Pは、結晶粒界に脆性を引き起こす元素である。したがって、脆性亀裂伝播抵抗性を向上させるために、P含量の上限は、80ppmに制限されてもよい。
【0052】
S(硫黄)は、0ppm超過90ppm以下であってもよい。
【0053】
Sは、粗大な介在物を形成させることにより、脆性を引き起こす元素である。したがって、伝播抵抗性を向上させるために、S含量の上限は、90ppmに制限されてもよい。
【0054】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入するおそれがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及していない。
【0055】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下であってもよい。
【0056】
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0057】
式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0058】
炭素当量(Ceq)が0.45%未満の場合には、粒界フェライト相が増加して低温衝撃靭性が劣化することがある。しかし、炭素当量(Ceq)が0.50%を超過する場合には、上部ベイナイト相の増加により低温衝撃靭性が低下することがある。
【0059】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の微細組織は、面積分率で針状フェライト85%以上、粒界フェライト14%以下及び上部ベイナイト0.1%以下を含んでもよい。
【0060】
大入熱溶接継手部の強度及び靭性を同時に確保するためには、組織微細化が必須である。したがって、低温衝撃靭性を低下させる粒界フェライト相及び上部ベイナイト相を最小化し、針状フェライト相を最大化する必要がある。
【0061】
針状フェライト相は、チタン酸化物生成量を高めることで最大化することができる。また、粒界フェライト相及び上部ベイナイト相は、本発明の一例による溶接において炭素当量Ceqを適切に制御することにより、最小化することができる。すなわち、合金成分及び製造方法を制御して微細組織を確保することにより、低温衝撃靭性と高強度を同時に確保しうる。
【0062】
さらに、MA相は、低温衝撃靭性を低下させるので、最小化する必要がある。したがって、本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、MA(島状マルテンサイト-オーステナイト)相が0.5%以下であってもよい。
【0063】
MA相は、C、Si、NbなどMA相の生成を促進させる合金元素を減らすことにより、最小化することができる。
【0064】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、微細組織を制御することにより、降伏強度が500MPa以上であり、引張強度が610~770MPaであってもよい。また、本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部は、延伸率が21%以上であり、-20℃衝撃靭性が50J以上であってもよい。
【0065】
次に、本発明の他の一態様による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法について説明する。
【0066】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法は、重量%で、C:0.03%以上0.045%以下、Mn:1.45%以上1.55%以下、Si:0.3%以上0.4%以下、Al:0.02%以上0.03%以下、Ni:1.55%以上1.70%以下、Cr:0.05%以上0.07%以下、Cu:0.05%以上0.08%以下、Mo:0.14%以上0.2%以下、Ti:0.06%以上0.07%以下、Nb:0.004%以上0.005%以下、O:0.035%以上0.05%以下、N:40ppm以上180ppm以下、P:0ppm超過80ppm以下、S:0ppm超過90ppm以下を含み、残りが鉄(Fe)及びその他の不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される炭素当量(Ceq)が0.45%以上0.50%以下の鋼材を、エレクトロガス溶接する段階を含んでもよい。
【0067】
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0068】
式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0069】
各合金組成の成分範囲及び式(1)の数値限定理由は、上述した通りであり、以下、製造方法についてより詳細に説明する。
【0070】
本発明の一実施例による大入熱靭性が向上した高強度溶接継手部の製造方法は、溶接継手部の生産性を向上させるために、エレクトロガス溶接する段階を含んでもよい。
【0071】
エレクトロガス溶接は、160KJ/cm以上の入熱量で行ってもよい。
【0072】
一般に、多量の合金元素が添加される場合には、溶接継手部及び熱影響部のベイナイト単相生成により、入熱量の増加時に溶接部の靭性が低下する。しかし、本発明では、微細組織を制御することにより、160KJ/cm以上の高い入熱量においても靭性に優れた溶接継手部を具現しうる。
【0073】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に推論される事項によって決定されるものであるからである。
【0074】
{実施例}
下記表1に示す様々な合金成分範囲を有する鋼材に対して、160KJ/cmの入熱量でエレクトロガス溶接を行うことにより、溶接継手部を製造した。
【0075】
【表1】
【0076】
下記表2には、炭素当量、針状フェライト面積分率、粒界フェライト面積分率、上部ベイナイト面積分率及びMA面積分率を示した。
【0077】
炭素当量は、下記式(1)を計算して示した。
【0078】
式(1):[C]+[Mn]/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15
【0079】
式(1)において、C、Mn、Cr、Mo、Ni及びCuは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0080】
針状フェライト面積分率、粒界フェライト面積分率、上部ベイナイト面積分率及びMA面積分率は、光学顕微鏡の撮影後、ASTM E562-11の方法により測定した。
【0081】
【表2】
【0082】
下記表3には、降伏強度、引張強度、延伸率及び-20℃衝撃靭性を示した。
【0083】
降伏強度、引張強度及び延伸率は、Zwick/Roell社のZWICK Z250引張試験機を通じて常温で測定した。
【0084】
-20℃衝撃靭性は、Zwick Roell社の衝撃試験機を通じて-20℃の低温で測定した。
【0085】
【表3】
【0086】
表2及び表3に示すとおり、実施例1及び2は、本発明で提示する合金組成、成分範囲、式(1)及び微細組織分率を満たした。したがって、実施例1及び2は、降伏強度が500MPa以上、引張強度が610~770MPa、延伸率が21%以上及び-20℃の衝撃靭性が50J以上を満たした。すなわち、実施例1及び2は、低温衝撃靭性と高強度を同時に具現した。
【0087】
しかし、比較例1及び2は、Ni及びTi含量が低く、炭素当量が比較的低かった。したがって、比較例1及び2は、粒界フェライト分率が高く、本発明で提示する降伏強度及び引張強度を満たすことができなかった。
【0088】
また、比較例3は、Ni及びTi含量が低く、降伏強度に劣っていた。また、比較例3は、炭素当量が高かったため、高い上部ベイナイト分率により衝撃靭性に劣っていた。
【0089】
また、比較例4及び5は、C、Mn及び/又はMoの含量が高く、炭素当量が高かった。したがって、比較例4及び5は、上部ベイナイト分率が高く、延伸率及び-20℃衝撃靭性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、微細組織を制御して結晶粒度を微細化することにより、低温衝撃靭性と高強度を同時に具現できる、大入熱靭性を向上させた高強度溶接継手部及びその製造方法を提供しうる。したがって、各種家電製品など様々な産業分野において使用することができる。
【国際調査報告】