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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250121BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250121BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20250121BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 175
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538075
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2022020772
(87)【国際公開番号】W WO2023121200
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183660
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】シン, ス-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ユンス
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA05
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033CA10
4K033DA01
4K033FA01
4K033FA03
4K033FA13
4K033FA14
4K033HA06
4K033JA09
4K033KA00
4K033KA02
5E041AA02
5E041AA19
5E041BD09
5E041CA04
5E041HB11
5E041NN01
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】本発明は、鋼板に比抵抗を高めるSi、Al、Mn、Cu、Cr成分と集合組織を改善するIn、Sn、Sb、P、及びMg成分を添加し、さらに工程条件も共に制御して、鋼板の強度及び鉄損を同時に優れるようにした無方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲に制御してスラブを製造する段階、前記スラブを加熱するスラブ加熱段階、前記スラブを最終仕上げ圧延する熱間圧延段階、前記熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍段階、前記熱延板を圧延する冷間圧延段階、及び前記冷延板を焼鈍する最終焼鈍段階を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFeとその他の不可避不純物からなることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記In、Sn、Sb、P、及びMgの含有量と結晶粒子の大きさが下記[数式1]の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【請求項3】
C:0.0040以下(0%除外)、
S:0.0040以下(0%除外)、
N:0.0040以下(0%除外)、及び
Ti:0.0040以下(0%除外)のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は50μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記無方向性電磁鋼板のND//<114>集合組織の分率が5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記無方向性電磁鋼板は、下記結晶方向別降伏強度関連[数式2]を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
[数式2]
Ys(RD*10.3)≦Ys(45゜)≦Ys(TD)
【請求項7】
製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲に制御してスラブを製造する段階、
前記スラブを加熱するスラブ加熱段階、
前記スラブを800℃以上で最終仕上げ圧延する熱間圧延段階、
前記熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍段階、
前記熱延板を70~95%圧下率で圧延する冷間圧延段階、及び
前記冷延板を800~1,000℃で焼鈍する最終焼鈍段階、を含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記無方向性電磁鋼板は、前記In、Sn、Sb、P、及びMgの含有量と結晶粒子の大きさが下記[数式1]を満足することを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【請求項9】
C:0.0040以下(0%除外)、
S:0.0040以下(0%除外)、
N:0.0040以下(0%除外)、及び
Ti:0.0040以下(0%除外)のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は50μΩ・cm以上またはND//<114>集合組織の分率が5%以上または下記降伏強度関連[数式2]の条件のうちのいずれか一つ以上を満足することを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
[数式2]
Ys(RD*1.03)≦Ys(45゜)≦Ys(TD)
【請求項11】
前記スラブ加熱段階は、1,100~1,250℃で加熱することを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記熱延板焼鈍段階は、850~1,150℃で焼鈍することを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、本発明は鋼板に比抵抗を高める成分と集合組織を改善する成分を添加し、さらに工程条件も共に制御して、鋼板の強度及び鉄損が同時に優れるようにした無方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、気候変化による地球環境保全のためにカーボンニュートラルのための世界的な関心と努力が加重されている。
カーボンニュートラルと関連してエネルギー節約、微小粒子状物質発生低減、及び温室効果ガス低減など地球環境改善のために電気エネルギーの効率的な使用が大きなイシューとなっている。
現在発電される全体電気エネルギーの50%以上が電動機で消費されているため、電気の効率的な使用のためには電動機の高効率化が必ず必要であるのが実情である。
最近は環境に優しい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池自動車)分野が急激に発展するにつれて高効率駆動モーターに対する関心が急増している。
電気自動車を中心にして急激に進んでいる自動車の電動化は駆動モーターの特性を高める方向に関心が集まっている。
【0003】
電気自動車用駆動モーターに要求される特性は、走行距離をさらに増やし、最高速度も同時に高めることである。このような目標は、駆動モーターに使用される電磁鋼板の低鉄損、高強度特性と直接的に関連する。電磁鋼板において降伏強度が高ければ駆動モーターの回転数を高めることができ、鉄損が低く、効率をさらに良くして走行距離をさらに増やすことができる。
したがって、電磁鋼板の高強度化及び高周波低鉄損特性は必須であり、このために電磁鋼板では通常Siの含有量よりさらに高くSiを含有させ、Al、Mn、Crも多量添加して高周波低鉄損及び高強度を同時に確保しようとする方向に努力している。
しかし、電磁鋼板にSi、Al、Mn、Crのような比抵抗元素を多量添加し結晶粒径を減少させて強度を高める方法のみでは日毎に高まる駆動モーターの限界最高速度特性と長距離走行特性を満足させるのに限界があり、このために電磁鋼板の物理的特性を改善するのにも限界がある。したがって、電気自動車駆動モーター用無方向性電磁鋼板の材料内組織を変更させて素材自体の特性を改善する必要性がさらに高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供するもので、具体的には鋼板に比抵抗を高めるSi、Al、Mn、Cu、Cr成分と集合組織を改善するIn、Sn、Sb、P、及びMg成分を添加し、さらに工程条件も共に制御して、鋼板の強度及び鉄損を同時に優れるようにした無方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFeとその他の不可避不純物からなる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、In、Sn、Sb、P、及びMgの含有量と結晶粒子の大きさが下記[数式1]の関係を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、C:0.0040以下(0%除外)、S:0.0040以下(0%除外)、N:0.0040以下(0%除外)、及びTi:0.0040以下(0%除外)のうちの1種以上をさらに含み
比抵抗は50μΩ・cm以上であり
また、ND//<114>集合組織の分率が5%以上であり、
下記結晶方向別降伏強度関連[数式2]を満足する。
[数式2]
Ys(RD*10.3)≦Ys(45゜)≦Ys(TD)
【0007】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲に制御してスラブを製造する段階、前記スラブを加熱するスラブ加熱段階、前記スラブを800℃以上で最終仕上げ圧延する熱間圧延段階、前記熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍段階、前記熱延板を70~95%圧下率で圧延する冷間圧延段階、及び前記冷延板を800~1,000℃で焼鈍する最終焼鈍段階、を含み、
下記[数式1]を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【0008】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、C:0.0040以下(0%除外)、S:0.0040以下(0%除外)、N:0.0040以下(0%除外)、及びTi:0.0040以下(0%除外)のうちの1種以上をさらに含み、
電磁鋼板の比抵抗は50μΩ・cm以上またはND//<114>集合組織の分率が5%以上または下記降伏強度関連[数式2]の条件のうちのいずれか一つ以上を満足し、。 [数式2]
Ys(RD*1.03)≦Ys(45゜)≦Ys(TD)
1,100~1,250℃でスラブを加熱し、
850~1,150℃で熱延板を焼鈍する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無方向性電磁鋼板によれば、比抵抗を高めるSi、Al、Mn、Cu、Crを基本成分とし、ここに偏析を助長するIn、Sn、Sb、Pを添加しながら同時に偏析を妨害するMgを添加した状態で製造工程条件を制御して結晶粒径による最適成分比率を導出して降伏強度と鉄損を同時に高めた優れた電気自動車駆動モーター用無方向性電磁鋼板を提供することができる。
また、降伏強度は圧延方向から圧延垂直方向に移動するにつれてさらに高まって高速回転にさらに適するように改善され、同時に鉄損も優れた特性を提供する技術的効果を実現する。
また、駆動モーターとして製造する時、高速回転時にも少ない電流でモータの駆動が可能でモータ効率も優れている。
窮極的に、環境に優しい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級電動機を製造することに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1、第2、及び第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層、及び/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層、またはセクションを他の部分、成分、領域、層、またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層、またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層、またはセクションと言及することができる。
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素、及び/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素、及び/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、またはその間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分の“真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0011】
異なって定義しなかったが、ここに使用される技術用語及び科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
本発明では、無方向性鋼板に比抵抗を高めるSi、Al、Mn、Cu、Cr成分を効率的に制御すると同時に偏析を助長するIn、Sn、Sb、P成分と偏析を妨害するMg成分も共に制御して集合組織を変化させることによって降伏強度と鉄損を同時に改善する。
【0012】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定理由から説明する。
【0013】
[Si:2.8~3.8重量%]
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低めながら高強度を確保する役割を果たすので、多量添加されなければならない。Siが過度に少なく添加される場合、高周波鉄損改善効果を期待することができず強度を確保するにも足りず、過度に多く添加される場合、材料の硬度が上昇して生産性及び打抜性が劣位になるので好ましくない。
したがって、Siは2.8~3.8重量%含むことができる。
【0014】
[Al:0.5~1.5重量%]
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低めながら同時に高強度を確保する役割を果たす。Alが過度に少なく添加されれば、高周波鉄損低減と高強度確保に効果がなく窒化物が微細に形成されて磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されれば、製鋼と連続鋳造などの工程上でモールドフラックスの物性を変化させる問題を発生させて生産性を大きく低下させることがある。したがって、前述の範囲でAlを添加することができる。さらに具体的に、Alを0.3~2.0重量%含むことができる。
【0015】
[Mn:0.3~2.0重量%]
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し硫化物を形成させる役割を果たす。Mnが過度に少なく添加されれば、MnSが微細に析出されて磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されれば、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少することがある。したがって、Mnは0.3~2.0重量%含むことが好ましい。
【0016】
[Cu:0.01~0.2重量%]
銅(Cu)は、マンガン(Mn)と共に硫化物を形成する役割を果たす。Cuが過度に少なく添加されれば、CuMnSが微細に析出されて磁性を劣化させることがある。逆に、Cuが過度に多く添加されれば、高温脆性が発生するようになって連続鋳造や熱間圧延工程で鋼板にクラックを形成することがある。したがって、Cuは0.01~0.2重量%含むことが好ましい。
【0017】
[Cr:0.01~0.50重量%]
クロム(Cr)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低める役割を果たす。Crが過度に少なく含まれれば、比抵抗向上効果がなく、Crを過度に多く添加すれば、磁束密度が低下して磁気的特性を低下させる。したがって、Crを0.01~0.50重量%含むことが好ましい。
【0018】
[In、Sn、Sb、Pの添加量]
インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、リン(P)は、焼鈍条件を適切に制御して結晶粒界に偏析させることができる。In、Sn、Sb、P添加による粒界偏析の効果を得るために、これら成分の濃度はIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、そしてP:0.0050~0.06%が好ましい。In、Sn、Sb、Pそれぞれの元素は添加量範囲以下では粒界偏析効果がなく、それ以上では材料の脆性を増加させる。したがって、提案した範囲で制限させることが好ましい。
【0019】
[Mg:0.002~0.1重量%]
マグネシウム(Mg)は、硫化物を粗大化するように形成して鉄損を改善する役割を果たす。Mgを過度に少なく添加する場合、その役割を十分に果たすことができなくて微細な硫化物を形成して磁性を劣化させる。逆に、Mgが過度に多く添加されれば、硫化物を形成することができず残留したMgが存在し鉄損を劣化させる。
そしてMgの添加範囲内にあるとしても、場合によっては偏析元素と化合物を形成して磁性を劣化させることがある。
したがって、Mg添加量は、添加範囲以内であるとしても下記[数式1]のように([In]*[Sn])/([Sb]*[P])値より少なく添加されるように制御することが好ましい。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
数式1の意味は、偏析元素の添加量を制御して偏析効果を極大化するために偏析を助長する元素と偏析を妨害する元素を適切に調節するということである。したがって、Mgの場合、偏析元素と結合して金属間化合物を形成する能力があるので、[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])の範囲で制限することが好ましい。
【0020】
Mgの添加量が[数式1]の範囲を超える程度に多く含まれれば、偏析効果がなくて磁性及び強度改善効果を期待するものだけ発現することが容易でない。
そして、偏析元素の添加によって結晶粒界偏析が形成される場合、鋼板の結晶粒子大きさ、即ち、粒径に影響を受ける。即ち、鋼板の結晶粒径が粗大化されれば、偏析量が減って偏析効果がないので、偏析元素の含量を結晶粒径関連[数式1]の範囲以内に制御することが好ましい。このように[数式1]による偏析元素の添加量関係式より結晶粒径が大きく成長すれば偏析効果を期待することが容易でない。
【0021】
本発明の無方向性電磁鋼板は、C:0.0040以下(0%除外)、S:0.0040以下(0%除外)、N:0.0040以下(0%除外)、及びTi:0.0040以下(0%除外)のうちの1種以上をさらに含むことができる。追加元素がさらに含まれる場合、残部のFeを代替して含むことができる。
ここで、C、N、Tiは炭窒化物を形成して磁区移動を妨害する役割を果たすので前記範囲以内に制限することが好ましく、Sは硫化物を形成して結晶粒成長性を劣位させるのでこのような理由で前記範囲以内に制限することが好ましい。
【0022】
本発明の無方向性電磁鋼板は、以上の成分以外に、その他の不可避的に含まれる元素をさらに含むことができる。
不可避不純物は、製鋼及び無方向性電磁鋼板の製造過程で意図的に投入されるか、または不可避的に混入される不純物を意味する。不可避不純物については広く知られているので、具体的な説明は省略する。また、本発明で前述の合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含まれてもよい。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0023】
[比抵抗:50μΩ・cm以上]
鋼板の比抵抗は、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2+[Cu]/2+[Cr]/2)から計算された値である。この時、[Si]、[Al]、[Mn]、[Cu]、[Cr]はそれぞれ、Si、Al、Mn、Cu、Crの含量(重量%)を示す。比抵抗が高いほど鉄損を低める役割を果たす。比抵抗が過度に低ければ、鉄損が劣位して高効率モータとして使用は難しく、過度に高ければ、磁束密度が劣位することがある。高速回転用モータに使用するために、比抵抗は50μΩ・cm以上に制御する必要がある。
【0024】
[ND//<114>分率:5%以上]
本発明の鋼板の圧延方向に垂直な厚さ方向(ND)に発達した<114>方向に対する集合組織の分率(ND//<114>分率)は5%以上であってもよい。
鋼板のND//<114>分率はSEM-EBSDを用いて許容誤差角度5゜以内で調査する。この方位は圧延方向(RD)及び圧延面に垂直な方向(TD)方位のヤング率(Young’smodulus)が大きいため、この方位が増えれば圧延方向降伏強度Ys(RD)に比べてYs(TD±α)の降伏強度値が大きくなるようになる。
偏析がよく起これば、ND//<114>分率が5%以上になってYs(RD)<Ys(TD±α)特性が確保される。この時、α値は5~90゜の範囲である。
[降伏強度:Ys]
本発明で、鋼板の各結晶方向による降伏強度は下記[数式2]を満足する。
[数式2]
Ys(RD*1.03)≦Ys(45゜)≦Ys(TD)
鋼板の降伏強度は引張試験で測定し、変形率速度の影響を排除するために2% off-set強度を使用した。[数式2]で、Ys(RD)は圧延方向の降伏強度であり、ここに指数1.03をかけた値を比較対象とし、Ys(TD)は圧延面方向に垂直な方向の降伏強度である。また、圧延方向から45度傾いた降伏強度はYs(45゜)と表現した。
本発明の一実施形態で、鋼板の降伏強度が[数式2]の条件を満足する場合、鉄損も改善された。
【0025】
以下では、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu:0.01~0.2%、Cr:0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲で制御してスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、及び冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
このような方法によって製造された無方向性電磁鋼板は、下記[数式1]を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【0026】
以下では、各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブを製造する段階について説明する。スラブ内の成分元素に対する限定理由は前述の無方向性電磁鋼板の組成限定理由と同一なので、繰り返される説明を省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成が実質的に同一である。
熱延板を製造する段階以前にスラブを加熱することができる。具体的に、スラブを加熱炉に装入して1,100~1,250℃で加熱する。1,250℃を超過する温度で加熱時、析出物が再溶解されて熱間圧延以後微細に析出されることがある。
【0027】
加熱されたスラブは2~2.3mmに熱間圧延して熱延板として製造される。熱延板を製造する段階で最終仕上げ圧延温度は800℃以上であってもよい。
熱延板を製造する段階以後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。この時、熱延板焼鈍温度は850~1,150℃であってもよい。熱延板焼鈍温度が850℃未満であれば、組織が成長しないか、または微細に成長して、磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1,150℃を超過すれば、磁気特性がむしろ低下し、板形状の変形によって圧延作業性が悪くなることがある。さらに具体的に、温度範囲は950~1,125℃であってもよい。熱延板焼鈍は必要によって磁性に有利な方位を増加させるために行われることであり、省略も可能である。
【0028】
その次に、熱延板を酸洗し所定の板厚さになるように冷間圧延する。熱延板厚さによって異なって適用されるが、70~95%の圧下率を適用して最終厚さが0.2~0.65mmになるように冷間圧延を行うことができる。圧下率を合わせるために1回冷間圧延または中間焼鈍を間に置いた2回以上の冷間圧延を行うことができる。
冷延板を製造する段階で、圧延最大速度が10m/s以上であってもよい。
最終冷間圧延された冷延板は最終焼鈍を実施する。最終焼鈍する段階で、800~1,000℃で均熱することができる。粒界偏析を最適化するためには、焼鈍温度は低い方がよいが、板厚さが薄くなれば焼鈍温度は増加しなければならない。均熱帯温度が800℃未満であれば、再結晶が十分に発生せず、最終焼鈍温度が1,000℃を超過するようになれば、偏析効果が無くなる。
均熱以後冷却時、均熱温度以後700℃まで冷却速度10~40℃/sで冷却することができる。冷却速度は、結晶粒径が過度に成長して高周波鉄損が劣位にならない範囲内で調節される。さらに具体的に、15~35℃/sの速度で冷却することができる。
その後、絶縁層を形成する段階をさらに含むことができる。絶縁層形成方法については無方向性電磁鋼板技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0029】
以下、本発明の好ましい実施例及び比較例を記載する。しかし、下記実施例は本発明の好ましい一実施形態に過ぎず、本発明が下記実施例に限定されるのではない。
【実施例
【0030】
実施例1
下記表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載した成分に制御し、残部はFeである。スラブを1,150℃で加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1,100℃で4分間焼鈍した後、酸洗した。
その次に、圧下率87.5%で冷間圧延して板厚さを0.25mmにした後、最終焼鈍を実施した。最終焼鈍は950℃で3分間実施した。
このように製造された無方向性電磁鋼板に対してそれぞれ鋼板の成分元から計算した比抵抗値と、面積法で測定した結晶粒子の大きさ、ND//<114>分率、そして集合組織の各方向別降伏強度を測定して下記表2に示した。
集合組織はSEM-EBSDを用いて測定し、集合組織は許容誤差強度5゜以内とし、降伏強度は2%off-set強度から算定した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1と表2に示すように、合金成分及び製造工程条件を満足する実施例は、ND//<114>の分率が5%以上になって、圧延方向から逸脱するほど降伏強度の増加比率が3%以上増加し、鉄損も優れているのを確認することができる。
反面、Mg含有量が([In]*[Sn])/([Sb]*[P])計算値よりさらに多く含有された鋼種4、10、13はND//<114>の分率が4%以下になって偏析効果が微小であり、これによって各方向別強度改善効果も微小であるということを確認することができる。
【0034】
そして鋼種1、3、5、7は本発明の実施例で規定した[数式1]の条件を満足していて各方向別降伏強度と関連する[数式2]の条件を全て満足し鉄損も十分に確保されているということが分かる。ここに加えて、鋼種1、3、5、7は比抵抗も全て50μΩ・cm以上であり、ND//<114>分率も5%以上であるということが分かった。
しかし、本発明の組成範囲を逸脱するか、または組成範囲内であるとしても[数式1]の条件を満足しない鋼種2、4、6、8~13はND//<114>分率が5%以下であるか、または集合組織の各方向別降伏強度値が[数式2]を満足していないということを確認することができる。
本発明は前記実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFeとその他の不可避不純物からなることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲に制御してスラブを製造する段階、
前記スラブを加熱するスラブ加熱段階、
前記スラブを800℃以上で最終仕上げ圧延する熱間圧延段階、
前記熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍段階、
前記熱延板を70~95%圧下率で圧延する冷間圧延段階、及び
前記冷延板を800~1,000℃で焼鈍する最終焼鈍段階、を含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFeとその他の不可避不純物からなる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、In、Sn、Sb、P、及びMgの含有量と結晶粒子の大きさが下記[数式1]の関係を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲に制御してスラブを製造する段階、前記スラブを加熱するスラブ加熱段階、前記スラブを800℃以上で最終仕上げ圧延する熱間圧延段階、前記熱延板を焼鈍する熱延板焼鈍段階、前記熱延板を70~95%圧下率で圧延する冷間圧延段階、及び前記冷延板を800~1,000℃で焼鈍する最終焼鈍段階、を含み、
下記[数式1]を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%成分にIn:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%、及びMg:0.002~0.05%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定理由から説明する。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
以下では、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、製鋼工程で、重量%でSi:2.8~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~2.0%、Cu0.01~0.2%、Cr0.01~0.5%、基本成分に、In:0.0005~0.015%、Sn:0.0050~0.08%、Sb:0.0050~0.05%、P:0.0050~0.06%を投入し、Mg:0.002~0.05%の範囲で制御してスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、及び冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
このような方法によって製造された無方向性電磁鋼板は、下記[数式1]を満足する。
[数式1]
[Mg]≦([In]*[Sn])/([Sb]*[P])≦結晶粒径(mm)*20
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
実施例1
下記表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載した成分に制御し、残部はFeである。スラブを1,150℃で加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1,100℃で4分間焼鈍した後、酸洗した。
その次に、圧下率87.5%で冷間圧延して板厚さを0.25mmにした後、最終焼鈍を実施した。最終焼鈍は950℃で3分間実施した。
このように製造された無方向性電磁鋼板に対してそれぞれ鋼板の成分元から計算した比抵抗値と、面積法で測定した結晶粒子の大きさ、ND//<114>分率、そして集合組織の各方向別降伏強度を測定して下記表2に示した。
集合組織はSEM-EBSDを用いて測定し、集合組織は許容誤差度5゜以内とし、降伏強度は2%off-set強度から算定した。
【国際調査報告】