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特表2025-502814アルコールフリービールを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】アルコールフリービールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20250121BHJP
【FI】
A23L2/38 103
A23L2/38 J
A23L2/38 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539679
(86)(22)【出願日】2023-01-02
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2023050024
(87)【国際公開番号】W WO2023126540
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】21218501.1
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508343478
【氏名又は名称】ハイネケン・サプライ・チェーン・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Burgemeester Smeetsweg 1,NL-2382 PH Zoeterwoude, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリンク・スフールマン、トム・ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】オフォドゥ、イケチュクウ・フィクトル
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LC14
4B117LE08
4B117LG16
4B117LK23
4B117LP05
(57)【要約】
本発明は、アルコールフリービールを製造する方法であって:・麦汁を含有する容器を提供する工程;・酵母を麦汁に接種し、その酵母によって容器の底に沈降層又は麦汁の表面下に浮動層が形成する工程;・温度-3~5℃にて少なくとも8時間、接種麦汁を発酵させて、発酵麦汁を生成する工程;・酵母から発酵麦汁を分離して、アルコールフリービールを生成する工程;を含み、(a)接種麦汁への追加の酵母の1つ又は複数のピッチングを発酵中に適用する;又は(b)酵母の層の1つ又は複数の破壊が、発酵中に適用される;又は(c)発酵の最初に、麦汁1mL当たり少なくとも3×10酵母細胞を麦汁に接種する、方法を提供する。本発明の方法は、望ましくない「麦汁の」フレーバーノートが実質的に低減されたアルコールフリービールが得られるという利点を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールフリービールを製造する方法であって:
・比重5~25°Pを有する麦汁を少なくとも10hL含有する容器を提供する工程;
・少なくとも10細胞/mLの酵母を前記麦汁に接種し、前記酵母によって前記容器の底に沈降層又は前記麦汁の表面下に浮動層が形成する工程;
・-3~5℃の温度にて少なくとも8時間、前記麦汁を発酵させて、発酵麦汁を生成する工程;
・前記酵母から前記発酵麦汁を分離して、アルコールフリービールを生成する工程;
を含み、
(a)前記接種麦汁への追加の酵母の1つ又は複数のピッチングを前記発酵中に適用して、前記1つ又は複数のピッチングそれぞれが、麦汁1mL当たりに10~5×10酵母細胞の用量を提供し、且つ前記1つ又は複数のピッチングのうちの少なくとも1つが、前記接種から少なくとも1時間後に適用され;或いは
(b)酵母の前記層の1つ又は複数の破壊が、前記発酵中に適用され、前記1つ又は複数の破壊のうちの少なくとも1つが、前記接種から少なくとも1時間後に適用されるか、又は前記接種後少なくとも1時間まで続けられ;或いは
(c)前記発酵の最初に、麦汁1mL当たり少なくとも3×10酵母細胞を前記麦汁に接種し:且つ
2-メチルブタナール、3-メチルブタナール及びメチオナールから選択されるストレッカーアルデヒドの添加を含まない、方法。
【請求項2】
前記麦汁が、2-メチルブタナールを少なくとも20μg/L含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記麦汁が、3-メチルブタナールを少なくとも40μg/L含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記麦汁が、メチオナールを少なくとも16μg/L含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酵母が、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)及びその組み合わせから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酵母がサッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酵母が下面発酵酵母であり、且つ前記酵母が、接種後の発酵槽の底に層を形成することを可能にする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酵母の前記層が、少なくとも0.1mmの厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
麦汁1mL当たりに10~5×10酵母細胞の用量で追加の酵母の1~100のピッチングを含み、且つ前記接種と、前記1~100のピッチングの最初との時間間隔及び連続的な追加のピッチングの間の時間間隔が0.5~50時間の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酵母の前記層の1~1,000の破壊を含み、且つ前記接種と、前記1~1,0000の破壊の最初との時間間隔及び連続的な破壊の間の時間間隔が0.1~50時間の範囲である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酵母層が、少なくとも0.5時間にわたって、前記発酵中に連続的に破壊される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
0.5体積%未満のエタノール含有率を有するアルコールフリービールであって:
・グルコース、マルトース、マルトトリオース及びその組み合わせから選択される発酵性糖20~90g/L;
・2-メチルブタナール0~6μg/L;
・3-メチルブタナール0~14μg/L;
・2-メチルプロパナール0~12μg/L;
・メチオナール0~6μg/L;
・フェニルアセトアルデヒド8~100μg/L;及び
・フルフラール30~500μg/L;
を含み、
2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール及びメチオナールの組み合わせが、Xμg/Lの合わせた濃度で存在し;フェニルアセトアルデヒドが、Yμg/Lの濃度で存在し、及びフルフラールが、Zμg/Lの濃度で存在し;且つ
X:Y≦1:2であり;及び/又は
X:Z≦1:20である、アルコールフリービール。
【請求項13】
マルトースを15~60g/L含む、請求項12に記載のアルコールフリービール。
【請求項14】
メチオナールを0.2~3μg/L含む、請求項12又は13に記載のアルコールフリービール。
【請求項15】
メチオナール及びフルフラールが、1:30未満の重量比で存在する、請求項12~14のいずれか一項に記載のアルコールフリービール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる「低温接触発酵」を用いたアルコールフリービールの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、望ましくない「麦汁(worty)」フレーバーノートが実質的に低減されたアルコールフリービールを製造する、このような方法を提供する。
【0002】
本発明は、かかるプロセスによって得ることができるアルコールフリービールにも関する。
【背景技術】
【0003】
ビールは、世界中で消費される、広く人気のある飲料である。近年、ビール市場は、アルコールフリービールの消費の著しい増加を示している。この増加は、健康及び安全性についての懸念によって引き起こされ、アルコールフリービールの品質を実質的に向上させた技術革新によって促進される。
【0004】
アルコールフリービールは、2つの基本的プロセスによって製造される。伝統的な醸造プロセスに続いて、逆浸透、透析又は蒸発などの技術によるアルコール除去が適用される。他のアプローチは、アルコールの発酵性製造を最小限にする条件下にて、煮沸した麦汁を酵母と接触させることによる、発酵中のアルコール形成の低減を目的とする。このタイプのプロセスは、「制限(restricted)アルコール発酵」と一般に呼ばれる。
【0005】
低温接触発酵(又は低温接触プロセス)は、低い発酵温度と、延長された発酵接触時間の組み合わせを用いた制限アルコール発酵の形態である。低温接触発酵を用いて製造されているアルコールフリービールは通常、「麦汁の(worty)」と一般に呼ばれるオフフレーバーノートを有する。この麦汁のフレーバーノートは、麦汁煮沸中に形成されるアルデヒド、特にメチオナール(3-メチルチオプロピオンアルデヒド)、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールに起因している。
【0006】
メチオナールは、ストレッカー分解(Strecker degradation)反応を介して、α-ジカルボニル化合物(メイラード反応における中間生成物)とメチオニンとの相互作用によって形成される。同様に、3-メチルブタナール、2-メチルブタナール及び2-メチルプロパナールは、ロイシン、イソロイシン及びバリンそれぞれと、α-ジカルボニル化合物との相互作用によって形成される。これらのアルデヒドはストレッカー分解反応を介して形成されるため、時として「ストレッカー(Strecker)アルデヒド」と呼ばれる。
【0007】
低温接触発酵によって製造されたアルコールフリービールにおいて、ビールの全体的なフレーバーへの、前述の麦汁フレーバー物質の寄与は、非常に顕著である。これは一部、かかるアルコールフリービール中のこれらのフレーバー物質の濃度が、アルコールビールよりも高いという事実によるものである。さらに、アルコールフリービール中にアルコールが存在しないことによって、これらのフレーバーが消費者によって感知される強度が増加する。
【0008】
Gernatら(Aldehydes as Wort Off-Flavours in Alcohol-Free Beers-Origin and Control,Food and Bioprocess Technology(2019),13(2),195-216.)は、アルコールフリービールのアルデヒド含有量を低減する異なる技術を考察している。これらの技術は:
・種々の吸着物質を用いた吸着性除去;
・抽出による分離;
・浸透気化法による除去;
・脱アルコール中の除去;
・低温接触発酵中のアルデヒドの還元;
を含む。
【0009】
Perpeteら(How to improve the enzymatic worty flavour reduction in a cold contact fermentation,Food Chemistry(2000),70,457-462)は、ビール酵母、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)によるストレッカーアルデヒドの酵素的除去は常に、いかなる発酵条件でも初期濃度の60~85%に限定されることを報告している。著者によると、この漸近的低減パターンは、アルコールフリービールに既知の不快な麦汁味を与える、残留濃度を引き起こす。フラボノイドへの低エネルギー結合は、低温接触発酵プロセスにおいてより完全な酵素的還元を妨げることが示されている。
【0010】
Chandrasekharら(Production of Low Alcohol Beer and Alcohol-free Beer using a Combination of High Temperature Mashing and Cold Contact Fermentation,FERMENT,INSTITUTE OF BREWING,GB,vol.7,no.4,1 January 1994,pages 241-244)は、低温接触発酵によって製造された低アルコールビールの品質に対するマッシング温度の作用を調べた研究について記述している。実験の1つにおいて、二酸化炭素パーコレーションでセットアップされた発酵槽が使用された。
【0011】
米国特許出願公開第2013/0280399号明細書に、テルペン、例えばテルピノレンを添加することによって、麦汁由来のオフフレーバーを低減することを含む、アルコールフリービール様麦芽飲料を製造する方法が記載されている。
【0012】
国際公開第2020/055233号パンフレットには、ABV1.0%未満のアルコール含有量を有するノンアルコール発酵ビールを製造するプロセスであって、その発酵によってノンアルコール発酵麦汁が生成されるか、又はその発酵によってアルコール発酵麦汁が生成され、続いてアルコールが除去されて、ノンアルコール発酵麦汁若しくはノンアルコールビールが生成され;且つ加熱麦汁、ノンアルコール発酵麦汁及び/又はノンアルコールビールを、少なくとも15のモル比でSiO及びAlを含有する疎水性シリケートベースの分子ふるいと接触させる、プロセスが記述される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は意外なことに、低温接触発酵において、ストレッカーアルデヒドの濃度が非常に有効に:
(a)発酵中に麦汁中に追加の酵母をピッチングすること:又は
(b)スパージング、再循環若しくは機械的作用によって、発酵中に酵母の層を破壊すこと;又は
(c)かなり大量の酵母を麦汁に接種すること;
によって低減され得ることを発見した。
【0014】
本発明者は理論によって束縛されないが、発酵中に酵母細胞が、発酵槽の底又は麦汁の表面下に形成されている静止(quiescent)層に含有されるという事実のために、低温接触発酵中にストレッカーアルデヒドを除去する酵母の能力が制限されると思われる。本発明者は、酵母細胞がさらに、酵母層と麦汁との間の界面から除去されると、ストレッカーアルデヒドの除去に寄与し得る酵母細胞が少なくなり得ると考える。さらに、ストレッカーアルデヒドを除去する酵母細胞の能力が制限されると考えられる。結果として、ストレッカーアルデヒドを除去する酵母の能力の一部分のみが低温接触発酵中に利用される。界面に近い酵母細胞がその除去能力の限界に達したら、ストレッカーアルデヒドの更なる低減は達成されない。
【0015】
本発明者は、低温接触発酵中にストレッカーアルデヒドを除去する酵母の能力が、発酵中の追加の酵母のピッチングによって、又はスパージング、再循環若しくは機械的作用による発酵中の酵母層の破壊によって、実質的に増加することができることを見出した。非常に大量の酵母の接種もまた、ストレッカーアルデヒドの除去を増加することが見出された。
【0016】
したがって、本発明は、アルコールフリービールを製造する方法であって、
・5~25°P(プラトー)の比重を有する麦汁を少なくとも10hL含有する容器を提供すること;
・少なくとも10細胞/mLの酵母を麦汁に接種し、酵母によって、容器の底に沈降層又は麦汁の表面下に浮動層が形成されること;
・-3~5℃の温度で接種麦汁を少なくとも8時間発酵させて、発酵麦汁を生成すること;
・酵母から発酵麦汁を分離して、アルコールフリービールを生成すること;
を含み、
(a)接種麦汁への追加の酵母の1つ又は複数のピッチングを発酵中に適用して、前記1つ又は複数のピッチングが、麦汁1mL当たりに10~5×10酵母細胞の用量を提供し、且つ前記1つ又は複数のピッチングそれぞれが、接種から少なくとも1時間後に適用され;或いは
(b)酵母の層の1つ又は複数の破壊が、発酵中に適用され、その1つ又は複数の破壊のうちの少なくとも1つが、接種から少なくとも1時間後に適用されるか、又は接種後少なくとも1時間まで続けられ;或いは
(c)発酵の最初に、麦汁1mL当たり少なくとも3×10酵母細胞を麦汁に接種し:且つ
その方法が、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール及びメチオナールから選択されるストレッカーアルデヒドの添加を含まない、方法を提供する。
【0017】
0.5体積%未満のエタノール含有量を有するアルコールフリービールも提供され、前記アルコールフリービールが:
・グルコース、マルトース、マルトトリオース及びその組み合わせから選択される発酵性糖20~90g/L;
・2-メチルブタナール0~6μg/L;
・3-メチルブタナール0~14μg/L
・2-メチルプロパナール0~12μg/L;
・メチオナール0~6μg/L;
・フェニルアセトアルデヒド8~100μg/L;及び
・フルフラール30~500μg/L;
を含み、
2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール及びメチオナールの組み合わせが、合わせた濃度Xμg/Lで存在し;フェニルアセトアルデヒドが濃度Yμg/Lで存在し、且つフルフラールが濃度Zμg/Lで存在し;且つ
X:Y≦1:2;及び/又は
X:Z≦1:20である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の態様は、アルコールフリービールを製造する方法に関し、前記方法は:
・5~25°Pの比重を有する麦汁を少なくとも10hL含有する容器を提供すること;
・少なくとも10細胞/mLの酵母を麦汁に接種し、酵母によって、容器の底に沈降層又は麦汁の表面下に浮動層が形成されること;
・-3~5℃の温度で接種麦汁を少なくとも8時間発酵させて、発酵麦汁を生成すること;
・酵母から発酵麦汁を分離して、アルコールフリービールを生成すること;
を含み、
(a)接種麦汁への追加の酵母の1つ又は複数のピッチングを発酵中に適用して、前記1つ又は複数のピッチングそれぞれが、麦汁1mL当たりに10~5×10酵母細胞の用量を提供し、且つ前記1つ又は複数のピッチングのうちの1つが、接種から少なくとも1時間後に適用され;或いは
(b)酵母の層の1つ又は複数の破壊が、発酵中に適用され、その1つ又は複数の破壊のうちの少なくとも1つが、接種から少なくとも1時間後に適用されるか、又は接種後少なくとも1時間まで続けられ;或いは
(c)発酵の最初に、麦汁1mL当たり少なくとも3×10酵母細胞を麦汁に接種し:且つ
その方法は、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール及びメチオナールから選択されるストレッカーアルデヒドの添加を含まない。
【0019】
本明細書で使用される「又は」という用語は、別段の指定がない限り、「及び/又は」として解釈されるべきである。
【0020】
本明細書で使用される「1つ」又は「1種類」という用語は、別段の指定がない限り、「少なくとも1つの(1種類の)」と定義される。
【0021】
本発明の方法で用いられる麦汁は、好ましくは8~22°Pの比重、より好ましくは10~20°Pの比重を有する。
【0022】
接種の時点で、麦汁は、2-メチルブタナールを好ましくは少なくとも20μg/L、より好ましくは少なくとも30μg/L、最も好ましくは50~300μg/L含有する。
【0023】
接種の時点で、麦汁は、3-メチルブタナールを好ましくは少なくとも40μg/L、より好ましくは少なくとも60μg/L、最も好ましくは100~600μg/L含有する。
【0024】
接種の時点で、麦汁は、2-メチルプロパナールを好ましくは少なくとも20μg/L、より好ましくは少なくとも30μg/L、最も好ましくは80~600μg/L含有する。
【0025】
メチオナールは、接種の時点で、少なくとも16μg/L、より好ましくは少なくとも40μg/L、最も好ましくは60~300μg/Lの濃度で麦汁中に含有される。
【0026】
本発明の方法において接種される麦汁は、好ましくは少なくとも1.0mg/Lのイソα酸、より好ましくは少なくとも1.5mg/L及び最も好ましくは2.0~80mg/Lのイソα酸を含有するホップ麦汁であり、前記イソα酸は、イソフムロン、イソアドフムロン(isoadhumulone)、イソコフムロン、これらのイソα酸の還元バージョン及びその組み合わせから選択される。イソα酸の還元バージョンは、テトラヒドロイソα酸及びヘキサヒドロイソα酸である。
【0027】
本発明の方法は、工業的規模にて適切に操作され得る。好ましくは、容器内に収容される麦汁の量は少なくとも20hL、最も好ましくは30~5,000hLである。
【0028】
本発明の方法で用いられる酵母は好ましくは、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)及びその組み合わせから選択される。最も好ましくは、酵母はサッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)である。
【0029】
本発明の方法は、発酵槽の底で酵母層を形成する下面発酵(bottom-fermenting)酵母、又は麦汁の表面で浮動層を形成する上面発酵酵母のいずれかを用いて行われ得る。好ましくは、酵母は、下面発酵酵母であり、その酵母は、接種後に発酵槽の底に層を形成することを可能にする。
【0030】
乾燥酵母又は湿潤酵母の状態で酵母が麦汁に接種され得る。好ましくは、この方法で用いられる酵母は湿潤酵母である。用いられる湿潤酵母は、好ましくは0~3重量%、より好ましくは0~1重量%のエタノール含有率を有する。
【0031】
好ましい実施形態において、接種に使用される酵母は、アルコールビールの製造から得られ、エタノールは、接種前に洗浄によってそこから除去される。
【0032】
接種後に形成される酵母の層は、好ましくは少なくとも0.1mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは1~40mmの厚さを有する。
【0033】
万一に備えて、本発明の方法は、追加の酵母のピッチング又は酵母層の破壊を含み、酵母を好ましくは少なくとも3×10細胞/mL、より好ましくは10~10細胞/mL、麦汁に接種する。
【0034】
本発明の方法は、好ましくは少なくとも16時間、より好ましくは20~120時間、最も好ましくは24~72時間の発酵期間を用いる。
【0035】
本発明の方法において、接種麦汁を、好ましくは温度-2~4℃で少なくとも16時間、より好ましくは20~120時間、最も好ましくは24~72時間発酵させる。
【0036】
特に好ましい実施形態に従って、接種麦汁を、温度-1~2℃にて、少なくとも16時間、より好ましくは20~120時間、最も好ましくは24~72時間発酵させる。
【0037】
当技術分野で公知の固液分離技術を用いて、発酵麦汁から酵母が分離され得る。好ましくは、酵母は、ろ過、遠心分離又はデカントによって発酵麦汁から分離される。
【0038】
発酵中の追加の酵母の1つ又は複数のピッチングの適用を含む、本発明の方法の実施形態において、この方法は好ましくは、10~5×10酵母細胞/mL麦汁の用量を提供する、1~100ピッチングを含む。より好ましくは、その方法は、10~5×10酵母細胞/mL麦汁の用量を提供する、2~50ピッチングを含む。最も好ましくは、その方法は、10~5×10酵母細胞/mL麦汁の用量を提供する、3~20ピッチングを含む。
【0039】
接種と、1つ又は複数のピッチングの最初のピッチングとの時間間隔、及び連続的な追加のピッチング間の時間間隔は、好ましくは0.5~50時間、より好ましくは1~30時間の範囲である。
【0040】
酵母層の1つ又は複数の破壊を含む本発明の方法の実施形態において、酵母層の1つ又は複数の破壊は、好ましくは、スパージング、再循環又は機械的作用によって達成される。
【0041】
本発明の方法の好ましい一実施形態に従って、酵母層は、少なくとも0.5時間、より好ましくは少なくとも1時間、またより好ましくは少なくとも2時間にわたって、最も好ましくは3~120時間にわたって発酵中に連続的に破壊される。
【0042】
別の好ましい実施形態に従って、酵母層は間欠的に破壊される。好ましくは、この実施形態に従って、この方法は好ましくは、酵母層のかかる1~1,000の破壊を含む。より好ましくは、この方法は、酵母層の2~200の破壊を含む。最も好ましくは、この方法は、酵母層の3~60の破壊を含む。
【0043】
接種と、酵母層の1つ又は複数の破壊の最初の破壊との時間間隔、及び酵母層の連続的な破壊の間の時間間隔は、好ましくは0.1~50時間、より好ましくは0.5~30時間の範囲である。
【0044】
スパージングによる酵母層の破壊は好ましくは、窒素又は二酸化炭素でのスパージングを含む。最も好ましくは、二酸化炭素がスパージングに使用される。
【0045】
再循環による破壊は、容器の外に麦汁をポンプ排出し、酵母層が破壊されるように容器内に麦汁を再導入することによって、適切に達成され得る。
【0046】
酵母層を破壊するために使用され得る機械的作用の例は、攪拌、振とう、及び切断である。
【0047】
非常に多量の酵母が麦汁に接種される本発明の実施形態において、好ましくは、少なくとも5×10酵母細胞/mL麦汁、より好ましくは10~10酵母細胞/mLが、麦汁に接種される。
【0048】
麦汁中の2-メチルブタナールの濃度は、発酵工程によって、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%低減される。
【0049】
麦汁中の3-メチルブタナールの濃度は、発酵工程によって、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%低減される。
【0050】
麦汁中の2-メチルプロパナールの濃度は、発酵工程によって、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%低減される。
【0051】
麦汁中のメチオナールの濃度は、発酵工程によって、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%低減される。
【0052】
本発明の方法の発酵工程中に、酵母によって実質的にはエタノールは生成されない。したがって、発酵前の麦汁中に存在する発酵性糖のバルクもまた、本発明による方法によって得られるアルコールフリービールに存在する。したがって好ましい実施形態において、アルコールフリービールは、グルコース、マルトース、マルトトリオース及びその組み合わせから選択される発酵性糖を20~90g/L、より好ましくは25~80g/L及び最も好ましくは30~65g/L含有する。
【0053】
特に好ましい実施形態に従って、本発明の方法では、
・2-メチルブタナール0~6μg/L、好ましくは0~5μg/L;
・3-メチルブタナール0~14μg/L、好ましくは0~7μg/L;
・2-メチルプロパナール0~12μg/L、好ましくは0~6μg/L;及び
・メチオナール0~6μg/L、好ましくは0~4μg/L;
を含むアルコールフリービールが生成される。
【0054】
本発明の方法によって得られるアルコールフリービールのエタノール含有率は、好ましくは0~0.5体積%、より好ましくは0~0.2体積%、最も好ましくは0~0.1体積%である。
【0055】
本発明の別の態様は、0.5体積%未満のエタノール含有率を有するアルコールフリービールに関し、前記アルコールフリービールは:
・グルコース、マルトース、マルトトリオース及びその組み合わせから選択される発酵性糖20~90g/L;
・2-メチルブタナール0~6μg/L;
・3-メチルブタナール0~14μg/L;
・2-メチルプロパナール0~12μg/L;
・メチオナール0~6μg/L;
・フェニルアセトアルデヒド8~100μg/L;及び
・フルフラール30~500μg/L;
を含み、
2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2-メチルプロパナール及びメチオナールの組み合わせが、Xμg/Lの合わせた濃度で存在し;フェニルアセトアルデヒドが、Yμg/Lの濃度で存在し、フルフラールが、Zμg/Lの濃度で存在し;且つ
X:Y≦1:2であり;及び/又は
X:Z≦1:20である。
【0056】
本発明のアルコールフリービールは好ましくは、得ることが可能であり、より好ましくは、アルコールフリービールは本明細書に上述の製造方法によって得られる。
【0057】
好ましくは、アルコールフリービールは、グルコース、マルトース、マルトトリオース及びその組み合わせから選択される発酵性糖を25~80g/L、より好ましくは30~65g/L及び最も好ましくは35~60g/L含有する。
【0058】
特に好ましい実施形態に従って、アルコールフリービールは、マルトースを15~60g/L、より好ましくは20~50g/L及び最も好ましくは25~45g/L含有する。
【0059】
本発明のアルコールフリービールは、2-メチルブタナールを好ましくは0~5μg/L、より好ましくは0.2~3μg/L含有する。
【0060】
アルコールフリービールは、3-メチルブタナールを好ましくは0~7μg/L、より好ましくは0.2~5μg/L含有する。
【0061】
アルコールフリービールは、2-メチルプロパナールを好ましくは0~6μg/L、より好ましくは0.2~4μg/L含有する。
【0062】
アルコールフリービールは、メチオナールを好ましくは0~4μg/L、より好ましくは0.2~3μg/L含有する。
【0063】
フルフラールはアルデヒドであり、麦汁煮沸中に形成されるメイラード反応生成物である。ストレッカーアルデヒドと異なり、フルフラールの濃度は、本発明の方法の発酵工程中に実質的に低減されない。好ましくは、アルコールフリービールは、フルフラールを40~400μg/L、より好ましくは50~300μg/L含有する。
【0064】
フェニルアセトアルデヒドは、フェニルアラニンから誘導されるストレッカーアルデヒドである。フェニルアセトアルデヒドは、低温接触発酵中に酵母によって、上記の少量のストレッカーアルデヒドほどには、効率的に除去されない。好ましくは、アルコールフリービールは、フルフラールを10~80μg/L、より好ましくは、フェニルアセトアルデヒドを12~50μg/L含有する。
【0065】
アルコールフリービールの特に好ましい実施形態に従って、メチオナール及びフルフラールは、1:30未満の重量比で、より好ましくは1:50~1:300の重量比で存在する。
【0066】
特に好ましい実施形態に従って、上記のX:Y比は1:3を超えない。最も好ましくは、X;Y比は、1:20~1:4の範囲にある。
【0067】
特に好ましい実施形態に従って、上記のX:Z比は1:30を超えない。最も好ましくは、X:Z比は1:200~1:40の範囲にある。
【0068】
本発明のアルコールフリービールは、イソα酸を好ましくは少なくとも1.0mg/L、より好ましくは少なくとも1.5mg/L、最も好ましくはイソα酸を2.0~80mg/L含有し、前記イソα酸は、イソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、これらのイソα酸の還元バージョン及びその組み合わせから選択される。イソα酸の還元バージョンは、テトラヒドロイソ-α酸及びヘキサヒドロイソ-α酸である。
【0069】
アルコールフリービールのエタノール含有率は、好ましくは0~0.2体積%、より好ましくは0~0.1体積%、最も好ましくは0.001~0.05体積%である。
【0070】
特に好ましい実施形態に従って、本発明のアルコールフリービールは、アルコールフリーのラガービールである。
【0071】
好ましくは、アルコールフリービールは、4~15EBC単位、より好ましくは5~11EBC単位と測定されるペール(pale)ビールである。
【0072】
本発明はさらに、以下の非制限的な実施例によって説明される。
【実施例
【0073】
実施例1
下面発酵、ラガービール酵母を使用して、異なる低温接触発酵プロセスによって、同じ麦汁(15°P)からアルコールフリーのラガービールを製造した。
【0074】
Veselyら(Analysis of Aldehydes in Beer Using Solid-Phase Microextraction with On-Fiber Derivatization and Gas Chromatography/Mass Spectrometry,Journal of Agricultural and Food Chemistry(2003);51(24),6941-6944.)から適応された方法を用いて、ヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)によって、発酵の最後にGC-MS(Agilent7890A及び5975C MSD)及び30cm×0.25mm×0.25μm VF17MSカラムにおいてス、ストレッカーアルデヒド(メチオナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、2メチルプロパナール)を分析した。O-(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンジル)-ヒドロキシルアミン(PFBOA)で誘導体化反応を行った。ヘリウムをキャリアーガスとして流量1mL/分で使用した。
【0075】
低温接触発酵の最初に、麦汁に湿潤酵母50g/hL(レギュラーラガービール発酵の最後に回収される)を接種することによって、ビールA(対照)を製造した。温度を0~2℃に維持し、発酵時間が48時間であり、その後、膜ろ過によってビールから酵母を除去した。
【0076】
24時間後に、膜ろ過によって酵母を除去したことを除いては、ビールAと同じ方法でビール1を製造し、その後、麦汁に湿潤酵母125g/hL(レギュラーラガービール発酵の最後に回収される)をピッチングして、温度0~2℃にて再び第2発酵を24時間開始した。
【0077】
洗浄された酵母150g/hLを麦汁に接種したこと、及び24時間後に酵母を除去したことを除いては、ビール1と同じ方法でビール2を製造し、麦汁に洗浄酵母150g/hLをピッチングした。レギュラーラガービール発酵の最後に酵母を回収することによって、洗浄酵母を調製した。遠心分離、及びそれに続く脱気冷水中での再懸濁によって、液体(ビール)を除去することにより、この酵母を2回洗浄した。
【0078】
上述の同じ方法で調製された洗浄酵母300g/hLを麦汁に接種したことを除いては、ビールAと同じ方法でビール3を製造した。
【0079】
湿潤酵母1グラムは、約2.8×10酵母細胞に相当する。
【0080】
4つのストレッカーアルデヒドの濃度をビールA.1、2及び3それぞれにおいて決定した。その結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例2
異なる低温接触発酵プロセスによって、同じ麦汁(15°P)から、アルコールフリーのラガービールを製造した。再び、4つのストレッカーアルデヒドの合わせた濃度を、ビールそれぞれに対して決定した。
【0083】
麦汁に湿潤酵母175g/hL(レギュラーラガービール発酵の最後に回収される)を接種することによって、ビール1を製造した。温度は0~2℃であり、発酵時間は48時間であり、その後、膜ろ過によってビールから酵母を除去した。
【0084】
発酵麦汁を間欠的に、24時間にわたり、2時間ごとに15分間COでスパージして、酵母層を乱したことを除いては、ビール1と同じ方法でビール2を製造した。24時間後に、COスパージングを止めた。
【0085】
4つのストレッカーアルデヒドの濃度を、ビール1及び2それぞれにおいて決定した。その結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【国際調査報告】