(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】モリブデン及びフェロクロムを用いた高強度・高成形性チタン合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20250121BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20250121BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20250121BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20250121BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22C27/06
C22F1/18 H
C22C1/02 503E
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539777
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 KR2022019715
(87)【国際公開番号】W WO2023128355
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0191856
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521103510
【氏名又は名称】コリア インスティテュート オブ マテリアルズ サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】ヨム,ジョンテク
(72)【発明者】
【氏名】パク,チァンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジェクン
(57)【要約】
モリブデンとフェロクロムを用いた高強度・高成形性チタン合金及びその製造方法について開示する。本発明によるチタン合金の製造方法は、TiとMoの合金または混合物にCr、Fe、Si、及びCを含むフェロクロムを添加し、これを溶解及び冷却して、チタン合金母材を形成した後、形成されたチタン合金母材を熱間成形する。このとき、Moは、1~15重量%、フェロクロムは、4重量%未満添加する。
【選択図】
図4a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~1.98重量%、鉄(Fe):0.1~0.93重量%、シリコン(Si):0.01~0.09重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含むものの、クロム(Cr)の含量が鉄(Fe)の含量よりもさらに大きく、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、
1109~1510MPaの引張強度を有することを特徴とする、
チタン合金。
【請求項2】
前記クロムの含量は、前記鉄の含量の1.7~4倍であることを特徴とする、
請求項1に記載のチタン合金。
【請求項3】
前記チタン合金は、以下の式1で表されるモリブデン当量([Mo]eq.)が5.5~20であり、670~815℃のβ変態点を有することを特徴とする、
請求項1に記載のチタン合金。
[式1]
[Mo]eq.=[Mo]+0.2[Ta]+0.28[Nb]+0.4[W]+0.67[V]+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
【請求項4】
前記チタン合金は、545~1420MPaの降伏強度及び80~110GPaのヤング率を有することを特徴とする、
請求項1に記載のチタン合金。
【請求項5】
(a)チタン(Ti)とモリブデンの合金または混合物にクロム(Cr)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、及び炭素(C)を含むフェロクロムを添加する段階と、
(b)上記(a)段階の結果物を溶解させた後に冷却して、チタン合金母材を形成する段階と、
(c)チタン合金母材を熱間成形する段階と、
を含み、
前記フェロクロムは、鉄(Fe):20~35重量%、シリコン(Si):1~4重量%、炭素(C):0.15重量%以下を含み、残部クロム(Cr)および不可避不純物からなり、
チタン合金全体の重量に対して、前記モリブデンを1~15重量%、前記フェロクロムを4重量%未満添加することを特徴とする、
チタン合金の製造方法。
【請求項6】
前記チタン合金全体の重量に対して、前記フェロクロムを0.5~2重量%添加することを特徴とする、
請求項5に記載のチタン合金の製造方法。
【請求項7】
前記熱間成形は、800~850℃で、90%以下の成形率で行われることを特徴とする、
請求項5に記載のチタン合金の製造方法。
【請求項8】
製造されるチタン合金は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~1.98重量%、鉄(Fe):0.1~0.93重量%、シリコン(Si):0.01~0.09重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含み、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、1109~1510MPaの引張強度を有することを特徴とする、
請求項5に記載のチタン合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン及びその製造方法に関する。より詳細は、本発明は、モリブデンとフェロクロムを用いて高強度及び高成形性を有するチタン合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンとその合金は、高強度、高耐食性及び高い生体適合性に起因して、航空宇宙、国防、エネルギー産業、医療、及び生活消費財などのような広範囲な産業分野で広く活用されている。
【0003】
通常、チタン合金の種類は、常温での安定性を基準に純チタン、α合金、α-β合金、β合金に区分される。このうちα合金は、クリープ強さと溶接性などに優れ、β合金の場合、加工性が増加することが知られている。
【0004】
今まで、チタン合金の場合、一般産業用の純チタンと、航空、国防用のα-β合金であるTi-6Al-4V合金が主に使用されてきており、医療及び生活消費財における低弾性係数と高強度が得られる一部のTi-Zr合金、Ti-Nb合金、Ti-Mo合金が使用されており、低弾性係数と高強度を向上させるための研究が継続して行われている。しかし、これら合金の特性の限界により、使用は拡大していない。
【0005】
純チタンは、コストの側面から他のチタン合金に比べて安値であり、成形性、溶接性、加工性、耐食性に優れるものの、強度が低くて、応用分野における限界を有し、α-βチタン合金であるTi-6Al-4Vは、強度が高い反面、コストが高く、純チタンに比べて、強度を除くあらゆる特性が落ちる傾向を有する。また、β合金は、合金添加の元素を制御することによって、所望の特性を具現することができるものの、純チタンはもちろん、Ti-6Al-4V合金に比べて、コストが相当高いという短所を有する。特に、医療用インプラント及び眼鏡フレームなどは、優れた生体適合性、低弾性係数と高強度の特性を要求し、この場合、これらの特性を併せて発現するために、チタンにNb、Taなどの高価な金属原素を多量添加しなければならない問題を引き起こしている。
【0006】
よって、コスト上昇を最小化しつつ、優れた強度、成形性、溶接性、加工性、耐食性、生体適合性、低弾性係数などの特性を制御することができる、比較的に安値の元素からなるチタン合金とその製造方法に関する開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、モリブデンとフェロクロムを用いた高強度・高成形性チタン合金を提供することである。
【0008】
また、本発明が解決しようとする課題は、フェロクロムを合金添加材として用いて、チタン合金の製造コストを下げることができるだけでなく、強度及び延伸率を確保する側面からも有利な高強度・高成形性チタン合金を製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の課題は、以上で言及した課題に限らず、言及していない本発明の他の課題及び長所は、下記の説明によって理解することができ、本発明の実施例によってより明らかに理解することができる。また、本発明の課題及び長所は、請求の範囲に示した手段及びその組み合わせによって実現できることが容易に理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため本発明の実施例によるチタン合金は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~3.0重量%、鉄(Fe):0.1~1.0重量%、シリコン(Si):0.01~0.1重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含み、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなることを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施例によるチタン合金は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~1.98重量%、鉄(Fe):0.1~0.93重量%、シリコン(Si):0.01~0.09重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含むものの、クロム(Cr)の含量が鉄(Fe)の含量よりもさらに大きく、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、1109~1510MPaの引張強度を有することを特徴とする。
【0012】
前記クロムの含量は、前記鉄の含量の1.7~4倍であってもよい。
【0013】
前記チタン合金は、以下の式1で表されるモリブデン当量([Mo]eq.)が5.5~20であり、670~815℃のβ変態点を有するものであってもよい(式1における[]は、該成分の重量%)。
【0014】
[式1]
[Mo]eq.=[Mo]+0.2[Ta]+0.28[Nb]+0.4[W]+0.67[V]+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
【0015】
前記チタン合金は、750~1510MPaの引張強度、545~1420MPaの降伏強度、及び80~110GPaのヤング率を有するものであってもよい。
【0016】
前記の課題を解決するため本発明の実施例によるチタン合金の製造方法は、(a)チタン(Ti)とモリブデンの合金または混合物にクロム(Cr)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、及び炭素(C)を含むフェロクロムを添加する段階と、(b)上記(a)段階の結果物を溶解させた後に冷却して、チタン合金母材を形成する段階と、(c)チタン合金母材を熱間成形する段階と、を含み、チタン合金全体の重量に対して、前記モリブデンを1~15重量%、前記フェロクロムを4重量%未満添加することを特徴とする。
【0017】
本発明の好ましい実施例によるチタン合金の製造方法は、(a)チタン(Ti)とモリブデンの合金または混合物にクロム(Cr)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、及び炭素(C)を含むフェロクロムを添加する段階と、(b)上記(a)段階の結果物を溶解させた後に冷却して、チタン合金母材を形成する段階と、(c)チタン合金母材を熱間成形する段階と、を含み、前記フェロクロムは、鉄(Fe):20~35重量%、シリコン(Si):1~4重量%、炭素(C):0.15重量%以下を含み、残部クロム(Cr)および不可避不純物からなり、チタン合金全体の重量に対して、前記モリブデンを1~15重量%、前記フェロクロムを4重量%未満添加することを特徴とする。この場合、製造されるチタン合金は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~1.98重量%、鉄(Fe):0.1~0.93重量%、シリコン(Si):0.01~0.09重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含み、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、1109~1510MPaの引張強度を有するものであってもよい。
【0018】
前記チタン合金全体の重量に対して、前記フェロクロムを0.5~2重量%添加するのがより好ましい。
【0019】
前記チタン合金全体の重量に対して、酸素(O)を0.4重量%以下含むものであってもよい。
【0020】
前記フェロクロムは、鉄(Fe):20~35重量%、シリコン(Si):1~4重量%、炭素(C):0.15重量%以下を含み、残部クロム(Cr)および不可避不純物からなるものであってもよい。
【0021】
前記熱間成形は、800~850℃で、最大90%の成形率で行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による高強度・高成形性チタン合金の製造方法によれば、人体に無害な元素(Cr、Fe、Siなど)からなる低炭素フェロクロム(low-carbon ferrochrome)をチタン-モリブデン合金材の添加材として活用することで、Cr、Fe、Siなどのような個別元素に添加することに比べて、原材料コストの側面から、かつ、工程の側面からコストを下げることができる。
【0023】
また、本発明による高強度・高成形性チタン合金は、フェロクロムの含量を制御することによって、優れた強度と共に優れた成形性を提供することができる。
【0024】
上述した効果並びに本発明の具体的な効果は、以下の発明を実施するための形態を説明すると共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1a】チタンに5重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図1b】チタンに5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図1c】チタンに5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図2a】チタンに9.5重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図2b】チタンに9.5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図2c】チタンに9.5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図3a】チタンに15重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図3b】チタンに15重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図3c】チタンに15重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示した図である。
【
図4a】比較例の試片1、4及び実施例の試片1~4に対する機械的特性を示した図である。
【
図4b】比較例の試片2、5及び実施例の試片5~8に対する機械的特性を示した図である。
【
図4c】比較例の試片3、6及び実施例の試片9~12に対する機械的特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前述した目的、特徴及び長所は、詳細に後述し、これによって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想を容易に実施することができる。本発明の説明にあたり、本発明に係る公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には、詳細な説明を省略する。以下では、添付の図面を参照して、本発明による好ましい実施例を詳説することとする。
【0027】
以下では、本発明の幾つかの実施例によるモリブデン及びフェロクロムを用いた高強度・高成形性チタン合金及びその製造方法について説明することとする。
【0028】
純チタンの強度を増加する方法では、合金元素を添加して強度を高める方法と、塑性加工及び熱処理によって内部の結晶粒を小さくして強度を高める方法と、がある。しかし、これらの方法は、合金元素を添加して、別途結晶粒の微細化工程が加わるため、コスト上昇の原因になる。また、塑性加工及び熱処理によって結晶粒を微細化する方法の場合、工程に応じて製造されるチタン合金の機械的特性の変化が大きく発生し、実際の生産工程に直接適用しにくい工程が導出し得る短所がある。
【0029】
よって、塑性加工及び熱処理によって結晶粒を微細化する方法よりは、合金元素を添加する方法がさらに有利であると言える。特に、安値の合金元素を選択して合金化することが、コスト上昇を最小化して、強度を増加させるため最も好ましい方法であると言える。さらに、生体安定性を確保するために、毒性のある元素であるCo、Cu、Ni、Vなどを添加していないのが好ましく、本発明によるチタン合金にはこれら元素が含まれておらず、例外的に不純物として不可避に含まれることはある。
【0030】
本発明者らは、長い研究の結果、チタンと全率固溶体(液相と固相で互いに完全な溶解度を示す系)を形成する元素(Mo、V、Nbなど)のうち安値であり、毒性のないMoを選定して、Ti-Mo合金を基地として選択しており、Mo当量にMoよりも大きい影響(1よりも大きいMo当量)を及ぼし、比較的に安値であり、毒性のない合金元素としてFe、Crを選定した。また、合金元素であるFe、Crなどを個別添加する場合、溶解の際、揮発などで均一な組成を合わせにくい短所を克服するために、Fe、Cr、Siなどが含まれているフェロクロム(Ferrochrome)を添加して合金化する方法を開発した。特に、フェロクロム(Ferrochrome)に含まれている元素であるSiの場合、溶解の際、核生成サイトを提供して、溶解されたインゴットの結晶粒を微細化する特徴をさらに期待することができる。これによって、本発明者らは、チタン-モリブデン(Ti-Mo)合金を基地とした新しいTi-Mo-Cr-Fe-Si合金を開発した。
【0031】
以下では、モリブデン及びフェロクロムを用いた高強度チタン合金の製造方法についてより詳説することとする。
【0032】
本発明による高強度チタン合金の製造方法は、チタン(Ti)とモリブデン(Mo)の合金または混合物にクロム(Cr)、鉄(Fe)、シリコン(Si)、及び炭素(C)を含むフェロクロムを添加する段階と、チタンとフェロクロムを溶解させた後に冷却して、チタン合金母材を形成する段階と、チタン合金母材を熱間成形する段階と、を含む。
【0033】
チタン、モリブデンとフェロクロムの溶解は、真空溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマアーク溶解法、非消耗電極式アーク溶解法または誘導スカル溶解法などのような公知の様々な方法を用いることができる。熱間成形は、熱間圧延、熱間鍛造などの方式で行うことができる。熱間成形は、800~850℃で、90%以下の成形率(forming ratio)で行うことができる。成形率は、圧延の場合、圧下率で表することができる。本発明の場合、以下で説明するように、モリブデンを1~15重量%、フェロクロムを4重量%未満添加し、その結果、800~850℃で、90%の成形率で成形を行っても、クラックが発生しない効果を提供することができる。
【0034】
熱間成形後、冷却は、水冷、空冷、炉冷などのような様々な方法を用いることができる。冷却方式は、熱間成形後、さらなる熱間工程の有無によって決定され得るが、例えば、さらなる熱間工程が存在しなければ、熱間成形後、水冷を行うことができる。熱間成形後は、均質化処理、溶体化処理、時効処理などの熱処理をさらに行うことができる。
【0035】
フェロクロムの溶解に係る1つの特徴は、フェロクロムを溶解する際の温度がクロム、鉄、シリコンなどを個別溶解する際よりも顕著に低く、チタンの融点と類似である点である。これによって、フェロクロムは、相対的に低い温度で、チタンと共に溶解可能であり、これによって、チタン合金の製造コストを低減することができる。
【0036】
本発明では、フェロクロムの添加量は、チタン合金全体の重量に対して4重量%未満であるのが好ましい。より好ましくは、3重量%以下であり、最も好ましくは、0.5~2重量%である。フェロクロムを添加すると、フェロクロムを添加していないチタン合金に比べて強度が増加し得る。但し、フェロクロムの添加量は、4重量%以上である場合は、延伸率が非常に低くて、クラックが発生する恐れがある。
【0037】
フェロクロムは、鉄(Fe):20~35重量%、シリコン(Si):1~4重量%、炭素(C):0.15重量%以下を含み、残部クロム(Cr)および不可避不純物からなるものであってもよい。フェロクロムの特徴は、Crの含量がFeの含量よりもさらに多い点である。フェロクロムにおけるCrの含量は、Feの含量の1.7~4倍、例えば、2~4倍であってもよい。
【0038】
フェロクロムの含量が4重量%未満である場合、チタン合金における上記のようなクロム、鉄、シリコンの好ましい含量の範囲を満たすことができる。
【0039】
上記のような方法によって本発明は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~3.0重量%、鉄(Fe):0.1~1.0重量%、シリコン(Si):0.01~0.1重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含み、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなることを特徴とする、チタン合金を提供することができる。より好ましくは、本発明は、モリブデン(Mo):1.0~15.0重量%、クロム(Cr):0.1~1.98重量%、鉄(Fe):0.1~0.93重量%、シリコン(Si):0.01~0.09重量%、酸素(O):0.4重量%以下を含むものの、クロム(Cr)の含量が鉄(Fe)の含量よりもさらに大きく、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなることを特徴とする、チタン合金を提供することができる。
【0040】
モリブデン(Mo)は、毒性のないβ相安定化元素である。モリブデンは、固溶強化効果により強度を増加させる役割を行う。但し、モリブデンが15重量%を超えて添加しすぎると、合金の弾性係数を大きく増加させる問題点がある。
【0041】
クロム(Cr)は、毒性のない元素であって、チタン合金におけるモリブデン(Mo)よりも高いβ相安定化元素である。チタンにクロムを添加すると、固溶強化効果により強度が増加し得る。これらの効果のためクロムは、0.1重量%以上添加する必要がある。但し、クロムが3.0重量%を超えて添加し過ぎると、Laves Phase(TiCr2)相の形成により、成形工程で破断する可能性が大きい。よって、クロムの含量は、3.0重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは、1.98重量%以下である。
【0042】
鉄(Fe)は、クロム(Cr)と同じく毒性がないし、モリブデンよりも高いβ相安定化元素である。チタンに鉄を添加すると、固溶強化効果により強度が増加し得る。これらの効果のため鉄は、0.1重量%以上添加する必要がある。但し、鉄を1.0重量%超えて添加したチタン合金を溶解するとき、マクロまたはミクロ偏析を誘導することができ、一定温度で熱処理する場合、非常に弱い相であるTiFe相を形成することができる。よって、鉄の含量は、1.0重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは、0.9重量%以下である。
【0043】
シリコン(Si)は、毒性のない元素であって、チタン合金を溶解するとき、核生成サイトを多く形成して、結晶粒の微細化を誘導する。また、シリコンは、チタン合金の静的強度(static strength)を増加させることに寄与する。このような効果のためシリコンは、0.01重量%以上添加する必要がある。但し、シリコンの含量が0.1重量%を超えると、脆性に強いシリサイドの形成により、クラックの発生を促進させることができる。よって、シリコンの含量は、0.1重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは、0.09重量%以下である。
【0044】
本発明によるチタン合金におけるCr、Fe及びSiの含量は、フェロクロムの添加量によって決定され、フェロクロムの添加量は、4重量%未満、より好ましくは、3.0重量%以下、最も好ましくは、0.5~2.0重量%であることによって、上記のようなCr、Fe及びSiの含量を満たすことができる。
【0045】
本発明によるチタン合金には、酸素(O)がチタン合金全体の重量に対して、0.4重量%以下含まれていてもよい。酸素は、侵入型元素であって、腐食抵抗性に大きな影響を及ぼさない、かつ、格子を強化させる固溶強化合金元素である。但し、酸素を0.4重量%超えて含みすぎると、低温での双晶変形を抑制させることにより、衝撃抵抗を急激に減少させることができる。
【0046】
本発明によるチタン合金は、後述する実施例から分かるように、以下の式1で表されるモリブデン当量([Mo]eq.)が5.5~20であってもよい(式1における[]は、該成分の重量%)。
【0047】
[式1]
[Mo]eq.=[Mo]+0.2[Ta]+0.28[Nb]+0.4[W]+0.67[V]+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
【0048】
また、本発明による高強度チタン合金は、670~815℃のβ変態点を有するものであってもよい。
【0049】
さらに、実験の結果、本発明による高強度チタン合金は、750~1510MPa、下記の実施例によるときの延伸率まで考慮すると、より好ましくは、1109~1510MPaの引張強度、545~1420MPaの降伏強度、及び80~110GPaのヤング率を有するものであってもよい。
【0050】
実施例
以下では、本発明の好ましい実施例によって本発明の構成及び作用をより詳説することとする。但し、これは、本発明の好ましい例示として挙げられたものであり、いずれの意味でも、これによって本発明が制限されるとは解釈されない。以下の実施例に記載していない内容は、この技術分野における熟練者であれば、技術的に十分類推することができるため、その説明を省略することとする。
【0051】
1.フェロクロムの分析
3個のフェロクロム試片について、次のように成分分析を行った。10mm×10mmサイズの各試片の3か所(Left、Center、Right)についてそれぞれ3回ずつEDS分析を行い、その結果を表1に示した。
【0052】
【0053】
3個の試片は、いずれも約66重量%のCrと、約31%のFeと、約3重量%のSiを含有し、成分の含量差は大きくないことが分かる。
【0054】
以下では、フェロクロム試片#1を対象に実験を行った。
【0055】
フェロクロム試片#1の表面酸化層を除去した後、EDSによってO、N、H、Cの含量を分析した結果を表2に示した。
【0056】
【0057】
フェロクロムは、炭素の含量によって低炭素フェロクロム、中炭素フェロクロム、高炭素フェロクロムに区分されるが、このうち低炭素フェロクロムは、炭素の含量が0.2重量%以下または0.15重量%以下であることを意味する。上記で分析されたフェロクロム試片#1の場合、炭素の含量が約0.1重量%であり、クロムの含量が約67%であるところ、低炭素フェロクロムに相当する。
【0058】
Cr、Fe及びSiの融点は、それぞれ1907℃、1538℃及び1414℃であるものの、炭素の含量が0.15重量%以下である低炭素フェロクロムの融点は、約1620℃であることが知られている。また、チタンの融点は、1668℃である。
【0059】
チタンにおけるO、N、C、Hなどは、破壊延性を低下させる主な元素であって、特別な管理が要求される。純チタンにおけるこれら元素は、表3に示されている重量%以下に管理しなければならない(国家別許容値の極少量差あり)。特に、Hは、少量の添加時にも、破壊延性を低下させるため、他の元素に比べて特別な管理が要求される。
【0060】
【0061】
上記で分析されたフェロクロム試片#1の場合、低炭素フェロクロムであって、表3のO、N、C、Hなどの元素に対する最大重量%以下を満たしている。
【0062】
チタン合金試片の製造
チタン(Ti-0.02O)と表4記載の含量のモリブデン及びフェロクロムを誘導スカル溶解炉で溶解し、チタン合金を形成した後に冷却して、幅10mm×長さ30mm×厚さ10mmのインゴットを製造した。
【0063】
インゴットを830℃±20℃で、表4記載の約90%の成形率(forming ratio)で成形した後に水冷して、比較例1~3及び実施例1~12によるチタン合金試片を製造した。
【0064】
表4は、比較例1~3及び実施例1~12に従って製造されたチタン合金試片において、フェロクロムの含量によるMo当量とβ変態点を示したものである。そして、表5は、実施例1~12に従うチタン合金試片を添加したフェロクロムによるCr、Fe及びSiの含量を示したものである。
【0065】
【0066】
【0067】
図1aは、チタンに5重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示したものである。
図1bは、チタンに5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
図1cは、チタンに5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
【0068】
図1a~
図1cを参照すると、チタンに5重量%のモリブデンを添加した試片と、チタンに5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、TiCr
2析出相をほぼ示していない反面、チタンに5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、約5.63重量%のTiCr
2析出相を示すことが分かる。前述したように、TiCr
2が多すぎると、成形工程で破断する可能性があるところ、フェロクロムは、4.0重量%未満、より好ましくは、3.0重量%以下、さらに好ましくは、0.5~2.0重量%添加する必要がある。
【0069】
図2aは、チタンに9.5重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示したものである。
図2bは、チタンに9.5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
図2cは、チタンに9.5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
【0070】
図2a~
図2cを参照すると、チタンに9.5重量%のモリブデンを添加した試片と、チタンに9.5重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、TiCr
2析出相をほぼ示していない反面、チタンに9.5重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、約5.63重量%のTiCr
2析出相を示すことが分かる。
【0071】
図3aは、チタンに15重量%のモリブデンを添加した試片の相分率を示したものである。
図3bは、チタンに15重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
図3cは、チタンに15重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の相分率を示したものである。
【0072】
図3a~
図3cを参照すると、チタンに15重量%のモリブデンを添加した試片と、チタンに15重量%のモリブデン及び0.5重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、TiCr
2析出相をほぼ示していない反面、チタンに15重量%のモリブデン及び4.0重量%のフェロクロムを添加した試片の場合、約5.63重量%のTiCr
2析出相を示すことが分かる。
【0073】
図4a~
図4cは、比較例の試片1~6及び実施例の試片1~12に対する機械的特性を示したものである。具体的には、
図4aは、モリブデンの含量が5.0重量%である比較例の試片1、4及び実施例の試片1~4に対する機械的特性を示したものであり、
図4bは、モリブデンの含量が9.5重量%である比較例の試片2、5及び実施例の試片5~8に対する機械的特性を示したものであり、
図4cは、モリブデンの含量が15重量%である比較例の試片3、6及び実施例の試片9~12に対する機械的特性を示したものである。
【0074】
比較例4による試片は、モリブデンを5.0重量%及びフェロクロムを4重量%添加して製造されたチタン合金試片であり、比較例5による試片は、モリブデンを9.5重量%及びフェロクロムを4重量%添加して製造されたチタン合金試片であり、モリブデンを15重量%及びフェロクロムを4重量%添加して製造されたチタン合金試片である。
【0075】
機械的特性は、各チタン合金試片に対して、常温で、変形速度1.5mm/minの条件で引張試験を行って得た。
【0076】
比較例の試片1~3及び実施例の試片1~12に対する機械的特性を表6に示した。
【0077】
【0078】
表6を参照すると、フェロクロムを添加していない比較例1~3によるチタン-モリブデン合金試片の場合、786~1064MPaの引張強度と712~855MPaの降伏強度を示すことが分かる。これに反して、チタン-モリブデン合金にフェロクロムを3.0重量%以下添加して製造されたチタン合金試片の場合、引張強度が最大1510MPa、降伏強度が最大1420MPaに上昇したことが分かる。すなわち、フェロクロムを添加して製造されたチタン合金の場合、そうでないチタン合金に比べて強度が上昇することが分かる。
【0079】
特に、表6を参照すると、実施例2~4の場合、1109~1510MPaの引張強度を有し、かつ、良好な延伸率を有することが分かる。
【0080】
表7は、比較例4~6による試片と実施例1~12による試片の延伸率の測定結果及びクラック発生の観察結果を示したものである。
【0081】
【0082】
図4a~
図4c及び表7を参照すると、比較例4~6の場合、チタンにモリブデンを5~15重量%添加したチタン合金において、フェロクロムを4.0重量%添加した場合、延伸率が1.4~2.3%に急激に減少したことが分かる。これに反して、実施例1~12の場合、チタンにモリブデンを5~15重量%添加したチタン合金に4.0重量%未満のフェロクロムを添加した場合、急激な延伸率の減少なしに延伸率の範囲が2.4~49%と表されることが分かる。さらに、フェロクロムの添加量が0.5~2.0重量%である場合、さらに高い延伸率を示しているところ、強度及び延伸率をいずれも考慮すると、フェロクロムの添加量は、0.5~2.0重量%であるのが最も好ましいと言える。
【0083】
また、表7を参照すると、比較例4及び比較例6によるチタン合金試片の場合、クラックが発生しているが、実施例1~12によるチタン合金試片の場合、クラックが発生していないことが分かる。
【0084】
以上のように、本発明について例示の図面を参照して説明したが、本発明は、本明細書に開示の実施例と図面によって限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内における通常の技術者にとって様々な変形を行えることは明らかである。さらに、本発明の実施例を前述しながら、本発明の構成による作用効果を明示的に記載して説明しなかったとしても、該構成によって予測可能な効果も認めるべきであることは当然である。
【国際調査報告】