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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】リポソームの捕捉容量の測定
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20250101AFI20250121BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250121BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20250121BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250121BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/10
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539802
(86)(22)【出願日】2023-01-01
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 IL2023050003
(87)【国際公開番号】W WO2023126947
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/295,896
(32)【優先日】2022-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524245587
【氏名又は名称】モエビウス・メディカル・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】517272482
【氏名又は名称】イッスム リサーチ デヴェロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニヴァーシティー オブ エルサレム,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM, LTD.
【住所又は居所原語表記】Hi-Tech Park, Edmond J.Safra Campus Givat-Ram, P.O.Box 39135,Jerusalem 91390,Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】バレンホルツ,イェチェズケル
(72)【発明者】
【氏名】トゥルジェマン,ケレン
(72)【発明者】
【氏名】ピンクス,ロン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
【Fターム(参考)】
2G045DA60
2G045DA61
2G045FB08
4C076AA19
4C076DD38
4C076DD60Z
4C076DD63
4C076DD67
4C076DD70
(57)【要約】
本発明は、リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉容量及び捕捉水容量を決定する方法に関する。その方法は、リポソーム内に捕捉された医薬有効成分の濃度を計算し、予め形成されたリポソーム組成物の品質を保証するために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を決定する方法であって、
(i)流体媒体中に懸濁又は分散された所定の脂質濃度で複数のリポソームを含むリポソーム組成物を得る段階;
(ii)前記リポソーム組成物にマーカーを添加する段階[前記マーカーはリポソーム不浸透性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(iii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iv)前記複数のリポソームから前記流体媒体を分離することで、流体媒体と、複数のリポソームとリポソーム間の間隙媒体とを含む沈殿とを得る段階;
(v)段階(iv)の前記分離された流体媒体中の前記マーカーによって誘導されたシグナルを測定することで、前記流体媒体及び前記間隙媒体の容量を求める段階;
(vi)任意に、段階(iv)の複数のリポソームと複数のリポソーム間の間隙媒体とを含む前記沈殿中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記沈澱中のリポソーム間の前記間隙容量を求める段階;及び
(vii)段階(iii)及び(v)で測定された容量、又は段階(iii)、(v)及び(vi)で測定された容量と段階(i)の所定濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法。
【請求項2】
リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉容量(Vt)を決定することが、特定の捕捉容量を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉水容量を決定することが、特定の捕捉水容量を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
段階(vi)を実行し、段階(vii)が、段階(iii)、(v)、(vi)で決定した容量、及び段階(i)の所定の濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
段階(vi)は行わず、段階(vii)が、段階(iii)、(v)で決定した容量、及び段階(i)の所定濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
段階(vii)が、段階(iv)後の前記流体媒体中の前記マーカーによって誘導されるシグナルと、段階(iv)前の前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルとの比を計算することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記マーカーが水溶性である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記マーカーが少なくとも約2kDaの分子量を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マーカーが放射性マーカーである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記マーカーが14C-カルボキシイヌリンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リポソーム組成物が単ラメラ小胞(SUV)、大単ラメラ小胞(LUV)、巨大単ラメラ小胞(GUV)、オリゴラメラ小胞(OLV)、多ラメラ小胞(MLV)、多小胞リポソーム(MVL)、及びこれらの混合物若しくは組み合わせからなる群から選択される複数のリポソームを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記リポソーム組成物が約0.3μm~約50μmの範囲のサイズの複数のリポソームを含む、請求項1~11のいずれか1項mに記載の方法。
【請求項13】
前記リポソーム組成物が約1μm~約40μmの範囲のサイズの複数のリポソームを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記リポソーム組成物が脂質濃度が約50mM~約300mMである複数のリポソームを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記リポソーム組成物が脂質濃度が約100mM~約200mMである複数のリポソームを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記リポソーム組成物が医薬活性剤を本質的に含まない複数の空リポソームを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記リポソーム組成物が医薬有効成分を封入した複数のリポソームを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記複数のリポソームに封入された前記医薬有効成分の濃度を決定することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
段階(iv)が、リポソームを実質的に含まない流体媒体を提供する、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
段階(iv)を、遠心、濾過又はデカンテーションによって行う、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
段階(iv)を遠心によって行う、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
段階(iv)を約10,000~約30,000(×g)の相対遠心力で行う、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
段階(iv)を約2℃~約25℃の温度で行う、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
段階(iv)を約10分~約100分間にわたって行う、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
リポソーム組成物の品質を管理する方法であって、
(i)請求項1~24のいずれか1項に記載のリポソーム組成物中の複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を決定すること;
(ii)前記決定された捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を基準捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)値と比較すること;及び
(iii)前記決定された捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)が前記基準値から±10%を超えて異なる場合、前記リポソーム組成物を不合格とすること
を含む方法。
【請求項26】
複数のリポソーム内に封入された医薬有効成分を含むリポソーム組成物の品質を管理する方法であって、
(i)請求項18に記載のリポソーム組成物中の複数のリポソーム内に封入された前記医薬有効成分の濃度を決定すること;
(ii)前記決定された医薬有効成分濃度を基準医薬有効成分濃度と比較すること;及び
(iii)前記決定された医薬有効成分濃度が前記基準医薬有効成分濃度から±10%を超えて異なる場合には、前記リポソーム組成物を不合格とすること
を含む方法。
【請求項27】
流体媒体;ポリオール等張化剤;及び約45:55の比率での1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から本質的になる複数のリポソームを含む関節内投与用に製剤化されたリポソーム組成物であって、当該組成物が、医薬活性剤を本質的に含まず、前記複数のリポソームが、
(i)前記リポソーム組成物にマーカーを加える段階[前記マーカーはリポソーム不透過性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(ii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iii)前記流体媒体を前記複数のリポソームから分離し、分離後に、前記流体媒体中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで得られる前記流体媒体及びリポソーム間の前記間隙媒体の容量を決定する段階;及び
(iv)段階(ii)及び(iii)で測定される容量及び前記リポソームを形成する脂質の濃度に基づいて前記複数のリポソームの捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法によって決定される、約1~約4μL/mg脂質の範囲の特定の捕捉水容量を特徴とするリポソーム組成物。
【請求項28】
段階(iii)がさらに、分離後の沈澱中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで沈澱中のリポソーム間の前記間隙容量を決定することを含む、請求項27に記載のリポソーム組成物。
【請求項29】
前記マーカーが少なくとも約2kDaの分子量を有する、請求項27又は28に記載のリポソーム組成物。
【請求項30】
前記マーカーが水溶性である、請求項27~29のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項31】
前記マーカーが放射性マーカーである、請求項27~30のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項32】
前記マーカーが14C-カルボキシイヌリンである、請求項31に記載のリポソーム組成物。
【請求項33】
前記複数のリポソームからの前記流体媒体の分離を遠心によって行う、請求項27~32のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項34】
前記複数のリポソームが単ラメラ小胞(SUV)、大単ラメラ小胞(LUV)、巨大単ラメラ小胞(GUV)、オリゴラメラ小胞(OLV)、多ラメラ小胞(MLV)、多小胞リポソーム(MVL)、及びこれらの混合物又は組み合わせからなる群から選択される、請求項27~33のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項35】
前記複数のリポソームが多ラメラ小胞(MLV)である、請求項34に記載のリポソーム組成物。
【請求項36】
前記複数のリポソームが約0.3μm~約50μmの範囲のサイズを有する、請求項27~35のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項37】
前記複数のリポソームが約1μm~約40μmの範囲のサイズを有する、請求項36に記載のリポソーム組成物。
【請求項38】
前記リポソームを形成する前記脂質の濃度が約50mM~約300mMの範囲である、請求項27~37のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項39】
前記リポソームを形成する前記脂質の濃度が約100mM~約200mMの範囲である、請求項38に記載のリポソーム組成物。
【請求項40】
約5~約8のpHを有する、請求項27~39のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項41】
前記流体媒体がヒスチジン緩衝液である、請求項27~40のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項42】
前記ポリオールが直鎖ポリオールである、請求項27~41のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項43】
前記ポリオールがマンニトール、デキストロース、ラクトース、トレハロース及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項27~42のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項44】
前記ポリオールがマンニトールである、請求項43に記載のリポソーム組成物。
【請求項45】
DMPCが約1重量%~約10重量%の範囲の重量パーセントで前記組成物中に存在し、DPPCが約2重量%~約12重量%の範囲の量パーセントで前記組成物中に存在する、請求項27~44のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項46】
前記特定の捕捉水容量が約1.5~約3.5μL/mg脂質の範囲である、請求項27~45のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項47】
前記特定の捕捉水容量が約2~約3μL/mg脂質の範囲である、請求項46に記載のリポソーム組成物。
【請求項48】
前記捕捉水容量が約10%~約35%の範囲である、請求項27~45のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項49】
前記捕捉水容量が約20%~約30%の範囲である、請求項48に記載のリポソーム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソームの捕捉容量を決定する方法、及びリポソームの特性決定におけるそれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームの捕捉容量(Vt)と捕捉水容量(Vtaq)は、特にそれらが有効医薬品成分(API)のカプセル化に利用できる容量を定義することから、リポソーム特性決定において重要なパラメータである。したがって、VtとVtaqを決定することで、リポソーム組成物におけるリポソーム内に封入されたAPIの濃度を計算することができる。空のリポソームを含む組成物では、捕捉容量と捕捉水容量は、リポソームの構造とそれの特性の重要な特徴である。
【0003】
リポソームの捕捉容量は各種方法で決定でき、そのほとんどの方法で、捕捉されていないマーカーの除去後にリポソーム内に捕捉されたマーカーが測定される。このアプローチは、マーカーがリポソームから漏れず、リポソームとリポソーム外の媒体との間の良好な分離がなされている限り、すべてのタイプのリポソームに適している可能性がある。しかしながら、このアプローチでは、リポソーム調製時にマーカーをカプセル化する必要がある。したがって、臨床使用を指定されたバッチの特性決定には使用できない。
【0004】
Okuら(Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Biomembranes, 691(2), 1982, 332-340)は、蛍光色素カルセインを使用してリポソームの水性コンパートメントの容量を測定する方法について報告している。リポソーム内の総容量の割合は、カルセインによってキレート化されると蛍光を消光するコバルト(II)イオンを加えた後に残る蛍光の割合として得られる。
【0005】
Perkinsら(Chemistry and Physics of Lipids, 64, 1993, 197-217)は、リポソーム捕捉容量を定量するいくつかの方法を報告している。第1の方法は、Oと14C-グルコースを使用して、総水容量と外部容量をマークした。この方法は、14C-グルコースと比較したOの膜透過性の速度論における差に依存するものであった。この方法は、4℃で実行して、グルコースの結合と透過を防ぎ、O蒸気吸入のリスクを低下させた。ViVoと呼ばれる第2の方法は、ESRスピンプローブ4-トリメチルアンモニウムTEMPO(CAT1)を総容量1mLのサンプルに加え、次に標準曲線を使用して、遠心したペレットの上にある上清中のプローブ濃度と総容量中のプローブ濃度を比較することによって実行された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Oku et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Biomembranes, 691(2), 1982, 332-340.
【非特許文献2】Perkins et al., Chemistry and Physics of Lipids, 64, 1993, 197-217.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床使用に適したリポソーム組成物の特性決定を行うために使用できる、リポソームの捕捉容量を製造後に正確に測定するニーズがまだ満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リポソームの捕捉容量及び捕捉水容量を決定する製造後方法、並びに臨床使用のためのリポソームの特性決定及びそれのバッチ製造の品質管理におけるそれの使用を開示する。
【0009】
本発明は、簡単で正確かつ再現性のあるリポソームの捕捉容量及び捕捉水容量の決定方法の発見に一部基づいている。この方法は、リポソームを貫通せず、脂質膜に統合又は結合されることもなく、外部水相にのみ存在する、分子量が1kDa以上のマーカーを使用する。リポソームを懸濁液から分離すると(例えば、遠心を使用)、脂質膜及びリポソーム内水系媒体の両方が分散容量の一部を占有するがマーカーを取り込まないことから、液体中のマーカー濃度の増加を測定する。この濃度増加は捕捉容量を示す。捕捉容量の計算は、リポソームの分離後の懸濁液中のマーカーによって誘導される信号と分離前の全信号との比から推定される外部水系媒体の容量に基づいて行われる。一部の実施形態において、計算はさらに、分離前のマーカーによって誘導される全信号と比較した、分離後の懸濁液中及びリポソームを含む沈殿物中のマーカーによって誘導される信号の測定に基づいてさらに行われてもよい。
【0010】
製造後法として適していないか、脂質二重層を透過し、リポソームのゼータ電位及び表面電荷に依存するプローブを使用するこれまで知られている方法とは逆に、本発明の方法は、感度が高く、再現性があり、マーカー濃度、濁度、クエンチングなどへの依存度が低い製造後法である。それはまた、実行が比較的容易で、よりアクセスしやすい。
【0011】
第1の態様によれば、リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を決定する方法であって、
(i)流体媒体中に懸濁又は分散された所定の脂質濃度で複数のリポソームを含むリポソーム組成物を得る段階;
(ii)前記リポソーム組成物にマーカーを添加する段階[前記マーカーはリポソーム不浸透性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(iii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iv)前記複数のリポソームから前記流体媒体を分離することで、流体媒体と、複数のリポソームとリポソーム間の間隙媒体とを含む沈殿とを得る段階;
(v)段階(iv)の前記分離された流体媒体中の前記マーカーによって誘導されたシグナルを測定することで、前記流体媒体及び前記間隙媒体の容量を求める段階;
(vi)任意に、段階(iv)の複数のリポソームと複数のリポソーム間の間隙媒体とを含む前記沈殿中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記沈澱中のリポソーム間の前記間隙容量を求める段階;及び
(vii)段階(iii)及び(v)で測定された容量、又は段階(iii)、(v)及び(vi)で測定された容量と段階(i)の所定濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法が提供される。
【0012】
理解すべき点として、段階(vi)を行う場合、段階(vii)は、段階(iii)、(v)、及び(vi)で測定された容量と段階(i)の所定の濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算することを含む。
【0013】
別の態様によれば、リポソーム組成物中の複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を求める方法であって、
(i)流体媒体中に懸濁又は分散された所定の脂質濃度で複数のリポソームを含むリポソーム組成物を得る段階;
(ii)前記リポソーム組成物にマーカーを添加する段階[前記マーカーはリポソーム不浸透性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(iii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iv)前記複数のリポソームから前記流体媒体を分離することで、流体媒体と、複数のリポソームとリポソーム間の間隙媒体とを含む沈殿とを得る段階;
(v)段階(iv)の前記分離された流体媒体中の前記マーカーによって誘導されたシグナルを測定することで、前記流体媒体及び前記間隙媒体の容量を求める段階;
(vi)段階(iii)及び(v)で測定された容量と段階(i)の所定濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法が提供される。
【0014】
理解すべき点として、段階(iii)及び(v)で測定された容量に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算することは、段階(iv)後の前記分離された流体媒体中の前記マーカーのシグナルと、段階(iv)前の前記リポソーム組成物中のそれのシグナルとの比を計算することを含む。
【0015】
さらに別の態様によれば、リポソーム組成物中の複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を求める方法であって、
(i)流体媒体中に懸濁又は分散された所定の脂質濃度で複数のリポソームを含むリポソーム組成物を得る段階;
(ii)前記リポソーム組成物にマーカーを添加する段階[前記マーカーはリポソーム不浸透性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(iii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iv)前記複数のリポソームから前記流体媒体を分離することで、流体媒体と、複数のリポソームとリポソーム間の間隙媒体とを含む沈殿とを得る段階;
(v)段階(iv)の前記分離された流体媒体中の前記マーカーによって誘導されたシグナルを測定することで、前記流体媒体及び前記間隙媒体の容量を求める段階;
(vi)段階(iv)の複数のリポソームと複数のリポソーム間の間隙媒体とを含む前記沈殿中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記沈澱中のリポソーム間の前記間隙容量を求める段階;及び
(vii)段階(iii)、(v)及び(vi)で測定された容量と段階(i)の所定濃度に基づいて、前記複数のリポソームの前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法が提供される。
【0016】
1実施形態において、前記捕捉容量(Vt)及び前記捕捉水容量(Vtaq)の決定は、それぞれ特定の捕捉容量及び特定の捕捉水容量の決定を含む。
【0017】
一部の実施形態によれば、マーカーは水溶性である。他の実施形態によれば、マーカーは少なくとも約2kDaの分子量を有する。特定の実施形態において、マーカーは放射性マーカーである。特定の実施形態において、マーカーはイヌリンである。他の特定の実施形態において、マーカーは14C-カルボキシイヌリンである。
【0018】
さらなる実施形態において、マーカーによって誘導されるシグナルは、放射線検出、熱量測定、蛍光、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC連結質量分析(GC-MS)、赤外分光法、ラマン分光法、NMR、比色分析、UV-VIS分光法、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも一つの技術を使用して測定される。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0019】
各種実施形態において、リポソーム組成物は、単ラメラ小胞(SUV)、大単ラメラ小胞(LUV)、巨大単ラメラ小胞(GUV)、オリゴラメラ小胞(OLV)、多ラメラ小胞(MLV)、多小胞リポソーム(MVL)、及びそれらの混合物又は組み合わせからなる群から選択される複数のリポソームを含む。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0020】
特定の実施形態において、リポソーム組成物は、約0.3μm~約50μmの範囲のサイズを有する複数のリポソームを含み、指定された範囲内の各値を含む。他の実施形態において、リポソーム組成物は、約1μm~約40μmの範囲のサイズを有する複数のリポソームを含み、指定された範囲内の各値を含む。
【0021】
各種実施形態において、リポソーム組成物は、約50mM~約200mMの脂質濃度を有する複数のリポソームを含み、指定範囲内の各値を含む。特定の実施形態において、リポソーム組成物は、約100mM~約150mMの脂質濃度を有する複数のリポソームを含み、指定範囲内の各値を含む。
【0022】
一部の実施形態において、リポソーム組成物は、本質的に医薬有効成分を含まない複数の空のリポソームを含む。他の実施形態において、リポソーム組成物は、医薬有効成分を封入した複数のリポソームを含む。後者の実施形態によれば、本発明の方法はさらに、前記複数のリポソームによって封入された医薬有効成分の濃度を求めることを含む。
【0023】
各種実施形態において、流体媒体の前記複数のリポソームからの分離は、遠心分離、濾過、又はデカンテーションによって行われる。各可能性は、別個の実施形態を表す。1実施形態において、前記流体媒体の前記複数のリポソームからの分離により、リポソームが実質的に存在しない流体媒体が提供される。
【0024】
現在好ましい実施形態において、前記流体媒体の前記複数のリポソームからの分離は、遠心分離によって行われる。
【0025】
一部の実施形態において、前記リポソーム組成物の遠心分離は、約10,000~約30,000(×g)の相対遠心力で実行され、指定範囲内の各値を含む。
【0026】
さらなる実施形態において、前記リポソーム組成物の遠心分離は約2℃~約25℃の温度で行われ、指定範囲内の各値を含む。
【0027】
追加の実施形態において、リポソーム組成物の遠心は約10分~約100分間にわたって実行され、指定範囲内の各値を含む。
【0028】
各種実施形態において、本明細書で開示された方法は、リポソーム組成物の品質を管理するのに有用である。これらの実施形態によれば、当該方法はさらに、測定された捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を基準捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)値と比較し、測定された捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)が基準値から±10%を超えて異なる場合、前記リポソーム組成物を不合格とすることを含む。
【0029】
他の実施形態において、本明細書で開示の方法は、複数のリポソーム内に封入された医薬有効成分(API)を含むリポソーム組成物の品質を管理するのに有用であり、その方法は、本明細書に開示された捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)からリポソーム組成物中の複数のリポソーム内に封入されたAPIの濃度を決定すること、その決定されたAPI濃度を基準API濃度と比較すること、及び前記決定されたAPI濃度が前記基準API濃度と±10%を超えて異なる場合に、前記リポソーム組成物を不合格とすることを含む。
【0030】
一部の実施形態によれば、ポリオール等張化剤;及び約45:55の比率での1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から本質的になる複数のリポソームとを含む関節内投与用に製剤されたリポソーム組成物が提供され、その組成物は本質的に医薬活性剤を含まず、前記複数のリポソームは、本明細書に開示された方法のいずれか一つによって決定される、約1~約4μl/mg脂質の範囲の特定の捕捉水容量(指定範囲内の各値を含む)を特徴とする。
【0031】
別の態様によれば、流体媒体;ポリオール等張化剤;及び約45:55の比率での1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から本質的になる複数のリポソームを含む関節内投与用に製剤されたリポソーム組成物が提供され、その組成物は、医薬活性剤を本質的に含まず、前記複数のリポソームは、
(i)前記リポソーム組成物にマーカーを加える段階[前記マーカーはリポソーム不透過性であり、1kDa以上の分子量を有する。];
(ii)前記リポソーム組成物中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで、前記リポソーム組成物の総容量を求める段階;
(iii)前記流体媒体を前記複数のリポソームから分離し、分離後に、前記流体媒体中の前記マーカーによって誘導されるシグナルを測定することで得られる前記流体媒体及びリポソーム間の前記間隙媒体の容量を決定する段階;及び
(iv)段階(ii)及び(iii)で決定される容量及び前記リポソームを形成する脂質の濃度に基づいて前記複数のリポソームの捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を計算する段階
を含む方法によって測定される、約1~約4μL/mg脂質(指定の範囲内の各値を含む)の範囲の特定の捕捉水容量を特徴とする。
【0032】
各種実施形態によれば、流体媒体及びリポソーム間の間隙媒体の容量を決定する段階(iii)はさらに、流体媒体からの分離後に沈澱中のマーカーによって誘導されるシグナルを測定することにより、沈澱中のリポソーム間の間隙容量を求めることを含む。1実施形態において、分離は遠心によって行われる。
【0033】
一部の実施形態によれば、流体媒体はヒスチジン緩衝液を含む。他の実施形態によれば、ポリオールは直鎖ポリオールである。さらに他の実施形態によれば、ポリオールはマンニトール、デキストロース、ラクトース、トレハロース、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。各可能性は、別個の実施形態を表す。特定の実施形態によれば、ポリオールはマンニトールである。各種実施形態によれば、複数のリポソームとポリオール等張化剤との重量比は、約6:1~約2:1の範囲であり、指定された範囲内の比率のすべての値を含む。
【0034】
さらなる実施形態によれば、前記複数のリポソームは、本質的には、DMPCとDPPCの組み合わせからなり、DMPCは、約1%(重量)~約10%(重量)の範囲の重量パーセントで存在し、DPPCは、約2%(重量)~約12%(重量)の範囲の重量パーセントで存在し、指定された範囲内の各値が含まれる。特定の実施形態によれば、リポソーム組成物は、約5~約8の範囲のpHを有し、指定された範囲内の各値が含まれる。他の実施形態によれば、前記複数のリポソームは、約1.5~約3.5μL/mg脂質の特定の捕捉水容量を特徴とし、指定された範囲内の各値が含まれる。さらに他の実施形態によれば、前記複数のリポソームは、約2~約3μL/mg脂質の特定の捕捉水容量によって特徴付けられ、指定された範囲内の各値が含まれる。さらなる実施形態によれば、前記複数のリポソームは、約10%~約35%の捕捉水容量によって特徴付けられ、指定された範囲内の各値が含まれる。追加の実施形態によれば、前記複数のリポソームは、約20%~約30%の捕捉水容量によって特徴付けられ、指定された範囲内の各値が含まれる。
【0035】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が関係する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で説明されているものと同様又は同等の方法及び材料を本発明の実施形態の実施又は試験に使用できるが、例示的な方法及び/又は材料を以下で説明する。これらの例示的な方法及び/又は材料は、必ずしも限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の特定の実施形態に従って捕捉容量を計算するために使用される異なる容量を示す、遠心後のエッペンドルフバイアルの概略図である。
図2】水及びHMB中の波長420nmでのフェリシアン化物の光学密度の検量線である。
図3】フェリシアン化物色素を使用して測定した、各種サンプルの上相の捕捉容量及びと濁度を示した図である。A-3mM脂質;B-52mM脂質;C-122mM脂質;D-160mM脂質;E-206mM脂質;F-305mM脂質;G-10mM NaCl;H-100mM NaCl;I-150mM NaCl;J-3000mM NaCl;K-MLVs;L-LMVVs;及びM-MLVs。
図4】上清と総容量(左)、及び上清とペレット(右)を使用して求められた特定の捕捉水容量(ライトグレー)及び特定の捕捉容量(ダークグレー)を示す図である。
図5】異なる脂質濃度における%捕捉水容量及び%RSDを示すグラフである。得られた結果は、上清の放射能に基づいている(n=3)。
図6】脂質濃度に対する特定の捕捉水容量(捕捉容量μL/脂質mg)を示すグラフである。特定の捕捉水容量の平均は、2±0.1μL/mg脂質(n=15)であった。
図7】異なる14C-カルボキシイヌリン濃度における特定の捕捉水容量を示すグラフである(CPMはサンプル総重量に対して正規化されている)。
図8】HSPC及びコレステロールを含むリポソーム組成物、又はHSPC単独を含むリポソーム組成物の特定の捕捉水容量の倍数変化を示す図である(n=2)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、リポソーム組成物の捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を非破壊的に決定する方法に関する。この方法を用いて、リポソーム組成物の製造の品質を、精度及び再現性を向上させて管理することができる。
【0038】
リポソームの捕捉容量を測定するために現在使用されている方法では、リポソーム内にマーカーを封入する必要があるが、本発明は異なるアプローチを定義する。このアプローチでは、放射性マーカー14C-カルボキシイヌリンなどの、分子量が≧1kDaのリポソーム不透性であるマーカーを使用する。脂質膜を通過できないマーカーを使用する場合、マーカーはリポソームの外部水相にのみ分布する。リポソームから流体媒体を分離すると(たとえば、遠心を使用して)、リポソームの沈殿が起こることで、上清にリポソームが実質的に残らない。上清中のマーカーの濃度を測定して、外部水相の容量を計算することができる。リポソーム間の間隙容量を含む外部水相の容量と計算された脂質容量をリポソーム組成物の全容量から引くと、リポソーム捕捉容量に相当する。
【0039】
この方法は、既に形成されたリポソームの少量部分に使用できる製造後法であり、臨床使用に適さなくするリポソーム内へのマーカーの封入が関与しないことから、前述のアプローチの限界を克服するものである。また、捕捉されたマーカーを使用して捕捉容量を測定する場合、すべての水性コンパートメント中にマーカーが均一に分布している必要がある。しかしながら、多ラメラ小胞(MLV)では、捕捉された溶質は、溶質と水透過性との間の違いにより、必ずしも均一に分布しているとは限らないことが知られている。本明細書に開示された方法は、MLVを含む各種リポソームの捕捉容量の正確な測定を提供し、リポソーム構造を変更することなく実行できる。この方法は、脂質二重層を透過しない高分子量極性マーカーを使用するため、捕捉容量及び捕捉水容量の正確で再現性のある測定が可能になる。本発明の方法は、空のリポソーム及びAPIを充填したリポソームのバッチ製造の品質管理及び物理的評価に使用できる。
【0040】
本発明の一部の実施形態は、添付の図面を参照して本明細書で説明される。その説明は、図面とともに、一部の実施形態がどのように実施できるかを当業者に明らかにするものである。その図面は、例示的な説明を目的としており、本発明の基本的な理解に必要な範囲を超えて、より詳細に実施形態の構造を示す試みはなされていない。明瞭性のため、図面に描かれた一部の対象物は、縮尺通りではない。
【0041】
本発明は、いくつかの段階を含む、リポソーム組成物中の複数のリポソームの捕捉容量(Vt)及び捕捉水容量(Vtaq)を決定する方法を提供し、その段階の一部は、任意の順序で順次又は同時に実行することができ、各可能性は、別々の実施形態を表す。本明細書で使用される場合、「捕捉容量」という用語は、リポソームを構成する脂質膜が占める容量及びリポソーム内水性媒体の容量の合計を指す。一部の態様及び実施形態において、本明細書に開示の方法は、捕捉水容量の測定を含む。本明細書で使用される「捕捉水容量」という用語は、リポソーム内水性媒体の容量を指す。さらなる態様及び実施形態において、本発明の方法は、脂質の重量で正規化された、それぞれ捕捉容量及び捕捉水容量である特定の捕捉容量及び特定の捕捉水容量の測定を提供する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「リポソーム」という用語は、代表的にはリン脂質二重層を含む脂質膜に囲まれた内部水性中心を特徴とする小胞を指す。例示的なリン脂質には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、又はそれらの任意の誘導体若しくは組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別々の実施形態を表す。本発明の範囲内の好適なホスファチジルコリンには、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、及びこれらの混合物又は組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。好適なホスファチジルエタノールアミンには、1,2-ジラウロイル-L-ホスファチジル-エタノールアミン(DLPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジフィタノイル(diphytanoyl)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DphPE)、1,3-ジパルミトイル-sn-グリセロ-2-ホスホエタノールアミン(1,3-DPPE)、1-パルミトイル-3-オレオイル-sn-グリセロ-2-ホスホエタノールアミン(1,3-POPE)、ビオチン-ホスファチジルエタノールアミン、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、及びこれらの混合物又は組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。好適なホスファチジルグリセロールには、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-(ホスホ-rac-(1-グリセロール))(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(DPPG)、1,2-ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、及びこれらの混合物又は組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0043】
本発明の原理によれば、本明細書で開示の方法は、単ラメラ小胞(SUV)、大単ラメラ小胞(LUV)、巨大単ラメラ小胞(GUV)、オリゴラメラ小胞(OLV)、多ラメラ小胞(MLV)、多小胞リポソームs(MVL)、及びこれらの混合物又は組み合わせを含む構造を有するリポソームの捕捉容量を決定するのに使用することができる。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0044】
本発明の方法は、空のリポソームに対して実施することができるか、医薬有効成分(API)を封入したリポソームに対して実施することができる。各可能性は、別個の実施形態を表す。本発明の原理によるマーカーはリポソームに取り込まれないため、リポソーム内に封入された医薬有効成分の存在は、捕捉容量の決定を妨害しない。捕捉容量とリポソーム内に封入された医薬有効成分の濃度との間の相関関係により、API濃度の測定を得ることができる。したがって、リポソームの捕捉容量の決定により、その中に封入された医薬有効成分の濃度を評価することができる。したがって、本発明はさらに、本明細書に開示の方法に従って医薬有効成分を封入した複数のリポソームの捕捉容量及び/又は捕捉水容量を決定することを含む、リポソーム組成物中の複数のリポソーム内に封入された医薬有効成分の濃度を決定する方法を提供する。
【0045】
一部の態様及び実施形態において、本発明の方法は、代表的には重量単位で表す所定濃度の脂質で流体媒体及び複数のリポソームを含むリポソーム組成物を使用する。本明細書で使用される「リポソーム組成物」という用語は、好適な液体媒体、例えば緩衝液などの水性媒体に懸濁又は分散させた複数のリポソームを含む組成物を指す。リポソーム組成物を指す場合、理解すべき点として、組成物全体の捕捉容量に関する情報を提供するためにサンプリングされた前記組成物の一部への言及を含む。代表的には、リポソーム組成物中の脂質の濃度は、約50mM~約200mMの範囲であり、指定範囲内の各値が含まれる。本発明の範囲内に含まれる例示的な濃度範囲は、約50mM~約150mM、約50mM~約100mM、及び約100mM~約200mMであり、指定範囲内の各値が含まれる。本発明の原理によれば、リポソーム組成物中の脂質の濃度により、組成物中のリポソーム脂質膜が占める容量を求めることができる。脂質の容量は、脂質の重量をその密度で割ることによって計算することができる。代表的には、リポソーム膜を形成する脂質の密度は、好適な密度計(例えば、アントンパール密度計)を使用して測定することができる。或いは、密度は、基準サンプルから得ることができるか、各種モデルに従って計算することができる。
【0046】
特定の態様及び実施形態において、分子量が1kDa以上のマーカーを組成物に加える。本発明の原理によれば、マーカーはリポソームによって内部化されず、リポソーム膜と相互作用しないことで、リポソーム不浸透性である化合物である。一部の実施形態によれば、マーカーは好ましくは水溶性である極性分子である。本発明の範囲内のマーカーには、スペクトル測定などの既知の技術によって測定及び定量化できるシグナルを誘導する検出可能な部分を含む化合物などがある。好適なマーカーには、放射性剤、発色団、蛍光化合物、リン光化合物、磁性化合物、及び重金属クラスターなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。例示的なマーカーは、測定可能なシグナルとして放射線を放出する放射性同位体を含む放射性マーカーである。追加の例示的なマーカーは、外部光源からの放射線への曝露時に特定の波長の光を発する蛍光化合物であり、前記発せられた光は、測定可能なシグナルとして使用することができる。マーカーによって誘導されるシグナルは、例えば、各種の検出器及びモニターを使用して、当該技術分野で知られている方法に従って測定することができる。シグナルを測定するために使用できる技術には、放射線検出、熱量測定、蛍光、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC/MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC連結質量分析(GC-MS)、赤外分光法、ラマン分光法、NMR、比色法、UV-VIS分光法、及びそれらの組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0047】
本発明の原理によれば、マーカーは、少なくとも1kDa、好ましくは少なくとも2kDaの分子量を有する化合物を含む。代表的には、マーカーの分子量は1kDa~1,000kDaの範囲であり、指定範囲内の各値が含まれる。マーカーの例示的な分子量としては、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa、5kDa、6kDa、7kDa、8kDa、9kDa、10kDa、15kDa、20kDa、25kDa、30kDa、35kDa、40kDa、45kDa、50kDa、55kDa、60kDa、65kDa、70kDa、75kDa、80kDa、85kDa、90kDa、95kDa、100kDa、150kDa、200kDa、250kDa、300kDa、350kDa、400kDa、450kDa、500kDa、550kDa、600kDa、650kDa、700kDa、750kDa、800kDa、850kDa、900kDa、950kDa、又は1,000kDaなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0048】
一部の態様及び実施形態において、マーカーは、イヌリン、FITC-イヌリン、デキストラン、FITC-デキストラン、及びそれらの誘導体など(これらに限定されるものではない)などの多糖類を含む。各可能性は、別個の実施形態を表す。他の態様及び実施形態において、マーカーは、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)など(これらに限定されるものではない)の炭水化物、ポリペプチド又は合成ポリマーを含む。各可能性は、別個の実施形態を表す。本発明の範囲内のマーカーは代表的には、少なくとも1kDaの分子量を有するが、理解すべき点として、リポソームを貫通せず、脂質膜に統合又は結合しない1kDa未満の分子量を有するマーカーも、本発明の原理に従って捕捉された容量の正確な測定を提供すると予想される。このようなマーカーには、ショ糖などの二糖類、三糖類、及びオリゴ糖類などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0049】
一部の現在好ましい態様及び実施形態において、本発明の方法では、放射性マーカーが使用される。本発明の範囲内の例示的な放射性マーカーには、14C-カルボキシル-イヌリン、125I-ポリビニルピロリドン、及び放射性炭水化物などがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。14C-カルボキシル-イヌリンなどの放射性マーカーはリポソームと相互作用しないことから、約0.1マイクロキュリー(μci)/mL~約10μci/mLの濃度で添加することができ、指定範囲内の各値が含まれる。本発明の範囲内に含まれる例示的な濃度範囲は、約0.1μci/mL~約5μci/mL、約0.5μci/mL~約5μci/mL、及び約0.5μci/mL~約3μci/mLであり、指定範囲内の各値が含まれる。
【0050】
本明細書で提供される原理によれば、マーカーは、リポソーム内容量には利用できない。したがって、それをリポソーム組成物と混合すると、リポソーム外媒体中のそれの濃度が増加する。一部の態様及び実施形態において、本発明の方法は、リポソーム組成物中のマーカーによって誘導されるシグナルを測定することを含む。たとえば、放射性マーカーを使用する場合、その方法は、全リポソーム組成物の放射能/重量(1分あたりの崩壊率(DPM)/gr)を測定することを含む。使用されるリン脂質の密度は1に非常に近い(1.05未満)ため、このようなリポソームの場合、放射能/重量は放射能/容量(DPM/mL)と実質的に互換的である。全リポソーム分散液の(DPM/mL)である(DPM/ml)totalを測定することで、リポソーム組成物の容量が求められる。
【0051】
放射能の測定は、当該技術分野で知られているように、例えば、Packard 1900 TRシンチレーションカウンター、Packard Tri-Carb液体シンチレーションカウンターなどの好適な液体シンチレーションカウンターを使用して実行できる。
【0052】
リポソーム組成物全体が占める容量を測定した後、流体媒体を前記複数のリポソームから分離する。複数のリポソームからの流体媒体の分離は、当該技術分野で知られているように、例えば遠心、濾過、又はデカンテーションによって行うことができる。各可能性は、別個の実施形態を表す。代表的には、マーカーを補充したリポソーム組成物を遠心して、前記複数のリポソームを沈殿させる。本発明の原理によれば、遠心は、上清溶液にリポソームが実質的に含まれないように行われる。代表的には、約0.3μm~約50μmの範囲、例えば約1μm~約40μmの範囲のサイズのリポソームは、十分な遠心で沈殿させることができる。組成物が小さいリポソームを含む一部の実施形態において、超遠心を用いて、完全な沈殿を達成すべきである。一部の態様及び実施形態において、リポソーム組成物の遠心は、約10,000~約30,000(×g)の相対遠心力で実行され、指定範囲内の各値が含まれる。例示的な相対遠心力には、約10,000、約11,000、約12,000、約13,000、約14,000、約15,000、約16,000、約17,000、約18,000、約19,000、約20,000、約21,000、約22,000、約23,000、約24,000、約25,000、約26,000、約27,000、約28,000、約29,000、又は約30,000(×g)があるが、これらに限定されるものではなく、各可能性は、別個の実施形態を表す。遠心は室温で行ってもよいが、より低温での遠心も本発明の範囲内で想定される。代表的には、約2℃~約25℃の温度範囲で行われ、指定範囲内の各値が含まれる。例示的な温度には、約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、約10℃、約11℃、約12℃、約13℃、約14℃、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、又は約25℃などがあるが、これらに限定されるものではなく、各可能性は、別個の実施形態を表す。代表的には、上記相対遠心力での約10分~約100分間にわたる遠心が、実質的にリポソームがない上清を得るのに十分である。遠心の例示的な期間には、約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、又は約100分などがあるが、これらに限定されるものではなく、各可能性は、別個の実施形態を表す。
【0053】
遠心及びリポソームのほぼ完全な沈殿に続いて、上清を回収し、マーカーによって誘導されたシグナルを測定することにより、リポソーム外媒体(上清又は分離された流体媒体と、沈殿したリポソーム間に存在する間隙容量)の容量を求めることができる。例えば、放射性マーカーを使用する場合、上清の放射能(DPM/mL)supを測定する。本発明の原理によれば、(DPM/mL)supは、リポソーム外媒体の放射能/mL、すなわち、上清の容量及び沈澱の間隙(リポソーム間に捕捉された)リポソーム外媒体の容量を表す。したがって、リポソームが形成された後に放射性トレーサーがリポソーム分散液に添加される場合、(DPM/mL)totalと(DPM/mL)supの比率を使用して、リポソームの外部の全水分容量(Vfree、式1)を求める。
【0054】
次に、分散液の総容量からリポソームの外部の容量を減算することによってリポソームに捕捉された容量(Vt)を求める(式2)。捕捉水容量(Vtaq)は、リポソーム捕捉容量からリポソーム脂質の容量(Vlipids)を減算することによって計算される(式3)。Vlipidsは、既知のリポソーム脂質重量と既知の脂質密度から求められる。リポソームを調製するために使用される脂質に対するVt又はVtaqの比率は、それぞれ特定のVt及び特定のVtaqを表す。これらは、リポソーム分散液中のリポソームの最も関連のある記述子である。各成分(脂質、遊離(間隙容量も含む非リポソーム容量)、及びリポソーム内水相(Vtaq))が占める異なる容量の定義とともにエッペンドルフ試験管の図を図1に示している。
【0055】
【数1】
【0056】
任意に、複数のリポソームとリポソーム間の間隙媒体とを含む沈澱中のマーカーによって誘導されるシグナルをさらに測定し、それを用いて、沈澱中のリポソーム間の間隙容量を求めることができる。
【0057】
リポソームを含む分散液の品質の記述子として、求めたVt及びVtaq並びに特定のVt及び特定のVtaqを用いることは本発明の範囲内である。これらの実施形態によれば、本発明の方法はさらに、求めた捕捉容量を基準捕捉容量値と比較し、前記求めた捕捉容量が基準捕捉容量値からプラス又はマイナス10%以上異なる場合に、前記リポソーム組成物を不合格とすることを含む。求めた捕捉容量を基準捕捉容量値と比較する場合、それを臨床使用に許容されることが知られている標準捕捉容量と比較することができる。標準捕捉容量は、正確な数値であってもよく、又は範囲であってもよい。たとえば、それは、絶対量と許容されるパーセンテージ偏差、すなわち±10%、±5%などであってもよい。計算された捕捉容量を標準捕捉容量範囲と比較し、±10%を超えてその範囲外である場合には、そのリポソーム組成物は不合格とされる。代表的には、基準捕捉容量値は、リポソーム組成物の仕様に従って許容される値の範囲に相当し、差はその範囲の下限から10%を超えて低い値、又はその範囲の上限から10%を超えて高い値に相当する場合に不合格となる。リポソーム組成物の代表的な標準捕捉容量は、例えば、約0.1~約10μL/mg脂質、約0.3~約5μL/mg脂質、又は約1~約4μL/mg脂質などであることができ、各値は指定範囲内の各値を含む。標準捕捉容量は、品質管理が望まれるリポソーム組成物の捕捉容量の測定前、測定中、又は測定後に測定できる対照サンプルから得ることができる。さらなる代替法として、標準捕捉容量は、以前の分析に基づく絶対値であってもよい。測定された捕捉容量が標準基準値と大幅に異なる場合(±10%を超えて)、この差は製造不良を示す。
【0058】
さらに又は或いは、捕捉容量を用いて、リポソーム内に封入されたAPIの濃度を計算することができる。次に、APIの濃度は、基準濃度とそれを比較し、測定されたAPI濃度が基準濃度と±10%を超えて異なる場合に、前記リポソーム組成物を不合格にすることによって、リポソーム組成物の品質を管理するのに使用することができる。基準API濃度は、前記APIで治療される患者に治療効果を発揮するのに許容されることが知られている量であることができる。基準API濃度は、正確な数値であってもよく、範囲であってもよい。たとえば、許容可能なパーセンテージ偏差を有する絶対量であってもよく、又は標準的なAPI濃度範囲であってもよい。本発明の方法によって求めたリポソーム組成物のAPI濃度が基準濃度の範囲から±10%を超えて外れている場合、そのリポソーム組成物は不合格となる。
【0059】
上述のように、本発明の方法は、有利なことに、捕捉容量の製造後測定を提供する。したがって、サンプルのごく一部だけを本発明の方法で使用するために収集し、残りの組成物を臨床及びその他の用途に使用することができる。代表的には、実験偏差、不均一な収集、及び/又はサンプルの非代表的収集の影響を最小限に抑えるため、捕捉容量の測定のために複数のサンプルを収集する。したがって、平均値と基準値との比較が本発明の範囲内である。
【0060】
流体媒体;ポリオール等張化剤;及び医薬有効成分を本質的に含まない約45:55の比で1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から本質的になる複数のリポソームを含む関節内投与用に製剤されたリポソーム組成物も本発明の範囲に含まれる。本明細書で使用される場合、「実質的に医薬有効成分を含まない」という用語は、一部の実施形態において、関節の潤滑、関節機能不全の治療、関節痛、刺激及び/又は摩耗の軽減、又はそれらの任意の組み合わせに使用することが知られている、治療上有効量未満の医薬有効成分を含むリポソーム組成物を指す。一部の実施形態において、リポソーム組成物は、潤滑剤、例えば、とりわけグリコサミノグリカン、又は薬学的に許容されるその塩、エステル、又は誘導体、例えばヒアルロン酸、又はヒアルロン酸含有塩若しくはエステルを含まない。前記リポソーム組成物中の複数のリポソームは、本明細書に開示されたいずれかの方法によって測定される約1~約4μL/mg脂質の範囲の特定の捕捉水容量を特徴とし、指定範囲内の各値を含む。
【0061】
一部の態様及び実施形態によれば、流体媒体はヒスチジン緩衝液を含む。他の態様及び実施形態によれば、ポリオールは直鎖ポリオールである。追加の態様及び実施形態によれば、ポリオールは少なくとも五つのヒドロキシル基を有する糖又は糖アルコールである。例示的なポリオールには、マンニトール、デキストロース、ラクトース、トレハロース、及びそれらの組み合わせなどがあるが、これらに限定されるものではない。各可能性は、別個の実施形態を表す。現在、ポリオールとしてマンニトールを使用することが好ましい。各種実施形態によれば、複数のリポソームとポリオールの重量比は、約6:1~約2:1の範囲であり、指定範囲内の比率のすべての反復を含む。
【0062】
本明細書に開示された方法のいずれかによって測定された約1~約4μL/mg脂質の範囲の特定の捕捉水容量を有するリポソーム組成物であって、流体媒体、ポリオール、及びDMPC及びDPPCの組み合わせから本質的になる複数のリポソームを含み、DMPCが約1%(重量)~約10%(重量)の範囲の重量パーセントで存在し、DPPCが約2%(重量)~約12%(重量)の範囲の重量パーセントで存在し、各値は指定範囲内の各値を含むリポソーム組成物が本発明によって包含される。代表的には、前記リポソーム組成物は約5~約8の範囲のpHを有し、各値は指定範囲内の各値を含む。
【0063】
特定の態様及び実施形態において、前記リポソーム組成物中の複数のリポソームは、約1.5~約3.5μL/mg脂質、又は約2~約3μL/mg脂質の範囲(指定範囲内の各値を含む)の特定の捕捉水容量を特徴とする。他の態様及び実施形態において、前記リポソーム組成物中の複数のリポソームは、約10%~約35%、又は約20%~約30%の範囲(指定範囲内の各値を含む)の捕捉水容量を特徴とする。
【0064】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の定めがない限り、複数形も含む。したがって、たとえば「脂質」への言及は、複数のそのような脂質を含む。留意すべき点とて、「及び(and)」という用語又は「又は(or)」という用語は、文脈上明らかに別段の定めがない限り、一般に「及び/又は(and/or)」を含む意味で使用されている。本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、±10%の変動を包含することを意味する。
【0065】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより完全に説明するために提供されたものである。ただし、これらの実施例は、本発明の広い範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、本明細書に開示の原理の多くのバリエーションや変更を容易に考案できる。
【実施例
【0066】
比較例:フェリシアン化カリウム色素を用いたリポソームの捕捉水相の測定
10mMヒスチジン緩衝液pH6.5を含む4%マンニトール中溶液でリン脂質含有混合物を水和することで約45:55の比率での1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から形成された空のリポソームを含むリポソーム組成物の捕捉水容量(Vtaq)を評価した。
【0067】
捕捉されたVtとVtaqを決定するのに使用される一般的な方法は、フェリシアン化カリウムなどの、リポソーム膜と相互作用せず、リポソームを透過しない色素の使用に基づくものである。Vtの測定のためのフェリシアン化カリウムの使用を、以下に記載のように行った。
【0068】
フェリシアン化カリウムの標準溶液(0.2mg/mL)を調製し、リポソーム組成物(薬物を含まない空のリポソームを含む)の予め計量したサンプルと混合した。小さい(サブミクロン)リポソームを除去するために、サンプルを14,000rpmで10~30分間遠心した。次に上清を取り出し、計量した。フェリシアン化カリウムの標準溶液をリポソーム含有沈澱に1:1の重量比で加え、続いて渦攪拌を使用して混合し、14,000rpmで30~60分間遠心した。注目すべき点として、混合が困難であったため、長時間の渦攪拌、加熱、及び超音波処理を使用した。次に上清溶液を収集した。フェリシアン化物色素の吸光度を、420nmでのUV-VIS分光光度計を使用して測定し、フェリシアン化物の濃度を同じ条件下で作成された検量線に基づいて計算した(図2)。
【0069】
代替手順も採用した。フェリシアン化カリウムの標準溶液(1.25~50mg/mL)を調製し、空の(薬剤を含まない)リポソームのリポソーム分散液の計量済みサンプル約1グラムに加え、続いて渦攪拌を使用して混合し、14,000rpmで1~3時間遠心した。上清溶液を収集し、フェリシアン化物濃縮物の吸光度を、420nm及び600nmでUV-VIS分光光度計を使用して測定した。フェリシアン化物は600nmで光を吸収しないため、この波長での吸光度は上清中の小リポソームの濁度の寄与によるものと考えられる(Barenholz et al., Liposome Technology 1, 1993, 527-616)。濁度が非常に高かったため、リポソーム分散液全体の吸光度を測定できなかったことから、Vtを計算するために、上清の吸光度を、リポソームを含まない同じ容量の基準分散液に対して420nmで読み取った。リポソーム分散液の上清の濁度により、420nmでの一貫した吸光度値が得られず、従ってこの方法を用いてはVtとVtaqの信頼できる値を全く測定できなかった(上清(フェリシアン化物なし)のOD420nmは0.065であったのに対し、ヒスチジンマンニトール緩衝液単独の場合は0.049であった)。
【0070】
結果(図3)は、上清の濁度が420nmでの吸光度に及ぼす影響を示している。特に、2時間の遠心後でも濁度は比較的高く、すなわち上相のリポソームの600nmでの光学密度値が0.055~0.063であった。600nmでの吸光度は、420nmではるかに大きな濁度が存在することを示している。したがって、この方法で得られたVtの値は偽値である。したがって、このアプローチでは、DMPC/DPPCリン脂質を含むMLV組成物のVtを計算することはできない。
【0071】
実施例1:14C-カルボキシル-イヌリンを用いるリポソームの捕捉容量及び捕捉水容量の決定
従って、吸光度に依存しない代替アプローチを開発した。リポソームと相互作用せず、及び/又はリポソームを透過しない14C-カルボキシルイヌリンをトレーサー/マーカーとして選択した。
【0072】
10mMヒスチジン緩衝液pH6.5を含む4%マンニトール中溶液でリン脂質含有混合物を水和することで約45:55の比率での1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、及び1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)から形成された空のリポソームを含むリポソーム組成物の捕捉水容量(Vtaq)を、放射性マーカーとして14C-カルボキシル-イヌリンを用いて評価した。リポソーム組成物のVtとVtaq及び特定のVt及びVtaqの測定を、上清及びペレットに基づく二つのアプローチを使用して行った(図4)。
【0073】
14C-カルボキシル-イヌリン溶液(水溶液)を、リポソーム組成物を含む予め計量したサンプルに加えた。サンプルの一部(100~200mg)を予め計量した20mLシンチレーションバイアルに移し、計量した。別の一部(250~350mg)をエッペンドルフ管に移し、20817相対遠心力(rcf)で30分間、4℃で遠心した(遠心機5810R、エッペンドルフ、ドイツ)。水性上清を収集し、予め計量したエッペンドルフ管に移し、再度計量した。約100~200mgの範囲の上清の部分を、予め計量したシンチレーションバイアルに移し、計量した。可溶化剤(solvable)を加え、溶液を50℃で約1時間混合してリポソームを溶解させた。各バイアルに液体シンチレーションカクテル(Opti-Fluor)を加え、バイアルを5~8℃で遮光して一晩保管した。1分あたりの崩壊数(DPM)としての放射能カウントを、液体シンチレーションβカウンタ(Packard 1900 TRシンチレーションカウンター)で測定した。
【0074】
捕捉水容量(Vtaq)を二つの方法で計算した(図4)。第1の方法では、リポソームが占める総捕捉容量(Vt)(脂質容量と捕捉水容量Vtaqを含むVt)を、上清のDPM/mLと総リポソーム分散液(リポソーム沈殿前)のDPM/mLの比率から計算した。この比率により、リポソーム分散液の総量からリポソームが占める総容量の%を計算することができる。上記の比率を容量に変換することができる。次に、Vtから脂質容量を減算してVtaqを計算した。Vtaqを上記の式1~3に従って計算し、式中、Vfreeは上清と間質液の容量の合計であり;Vinterstitialは遠心後の沈殿リポソーム間の自由(非リポソーム)水容量であり、Vlipidsは、脂質の質量を密度で割って計算した脂質の容量である。Vfree(Vinterstitialも含む))は等式1に従って計算した。
【0075】
相対標準偏差(%RSD)を、この測定のために計算した(n=5)。上相(上清)の放射能に基づいて計算された特定の捕捉水容量(Vtaq)は1.9±0.06μL/mg脂質であった。上相の放射能に基づいて計算された特定の捕捉容量(Vt)は2.9±0.06μL/mg脂質で、%RSDは2.9%であった(図4)。
【0076】
実施例2:異なる脂質濃度での捕捉容量の決定
リポソームサンプルを、4%マンニトール中の10mM等浸透圧ヒスチジン緩衝液pH6.5で希釈した。上清のDPM/mLと全リポソーム分散液のDPM/mLの比率に基づいて、実施例1に記載の方法に従って、特定の捕捉水容量を測定した。総脂質濃度と%捕捉水容量の間には直線的な相関が認められた。相対標準偏差は、脂質濃度が低下するにつれて指数関数的に増加した(図5)。脂質重量で正規化して、特定の捕捉水容量(n=15)(捕捉容量μL/脂質mg)の平均を求めることによって、リポソームサンプルの特定のVtaqを計算した。得られた特定のVtaqは、2.0±0.3μL/脂質mgであった(図6)。その結果は、同じリポソーム組成物における全脂質濃度に関係なく、特定のVtaq(μL/脂質mg)が同じままであることを明確に示している。したがって、当該捕捉容量の測定方法は一貫性があり、信頼性がある。特定の捕捉容量が脂質(リポソーム)濃度に依存しないという事実は、14C-カルボキシイヌリンとリポソームの間に相互作用がないことを明確に裏付けている。
【0077】
実施例3:異なる14C-カルボキシル-イヌリン濃度での捕捉用量の決定
捕捉水容量(Vtaq)の測定が14C-カルボキシル-イヌリンのリポソームとの相互作用によって影響を受けないことを検証するために、異なる14C-カルボキシル-イヌリン濃度における捕捉水容量を、上清の放射能に基づいて実施例1で説明した方法に従って測定した。図7は、特定の捕捉水容量の平均(n=6)が2.2%±0.1でRSDが4.3%であったことを示しており、これは、14C-カルボキシル-イヌリンを、予め形成されたリポソーム分散液に添加した場合、リポソーム膜と相互作用せず、リポソームに浸透しないことを示している。これは、Schafer et al., American Journal of Physiology-Legacy Content 206, 1964, 985-991でも確認されている。
【0078】
実施例4:多ラメラ小胞(MLVs)と大型多小胞小胞(LMVV)の捕捉容量の決定
リポソーム分散液の品質の信頼できる記述子としてのVt及びVtaqを決定するための14C-イヌリンアプローチの有用性を実証するために、多ラメラ小胞(MLV)及び大型多小胞小胞(LMVV)を含むリポソーム組成物のVtとVtaqの間の比較を行った。LMVVリポソーム組成物は、Cohen et al., Journal of Controlled Release 160, 2012, 346-352に記載の方法と同様にして、凍結と解凍の繰り返しサイクルによってMLVから調製した。
【0079】
MLVからなるリポソーム組成物は、次のようにして調製した。モル比2:1での水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)とコレステロール又はHSPCのみのMLVは、65~70℃でホスファチジルコリン(コレステロールあり/なし)をエタノール中で混合し、その後水溶液(水又は生理食塩水)に注入することによって生理食塩水中で調製した。そのリポソーム組成物は、約75mMのホスファチジルコリン濃度を含んでいた。次に、組成物の一部を10サイクルの凍結と解凍にかけて、MLVからLMVVへの変換を誘導した。リポソームの凍結-解凍を繰り返すと、捕捉水容量が劇的に増加することが知られている(Sriwongsitanont et al., The Open Colloid Science Journal, 4, 2010, 1-6; Elorza et al., Journal of microencapsulation, 10(2), 1993、237-248; Mayer et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Biomembranes, 817(1), 1985, 193-196)。凍結時に、リポソームの二重層は破壊され不安定化する(MacDonald et al., Liposome Technology, 1, 1993, 209-228)が、解凍時には、露出した疎水性コアが融合して、ラメラの数が減少した新しい小胞を形成する(Pick, Archives of biochemistry and biophysics, 212(1), 1981, 186-194)。
【0080】
リポソームを、サイズ分布とホスファチジルコリン濃度によって特性決定した。MLV及びLMVVを含むサンプル(同じ脂質組成)は両方とも同じ脂質濃度と類似の平均直径(サイズ分布は多少異なるが)であったが、遠心後のバイアルの肉眼検査では、MLVと比較してLMVVのペレット容量が大幅に増加していることが明らかになった。LMVVの捕捉容量(Vt)と、なおさら捕捉水容量Vtaqも、MLVより大幅に大きいことが認められた。
【0081】
結果を表1にまとめ、図8に示している。
表1.
【表1】
【0082】
したがって、本発明の方法は、Vt、Vtaq、特定のVt、及び特定のVtaqの正確な測定を提供し、LMVVと比較してMLVの捕捉容量に有意差があることを示している。特に、LMVVの捕捉容量はMLVの捕捉容量より有意に高かった。
【0083】
実施例5:本発明の方法及びカルシウムイオンを捕捉マーカーとして利用する方法を用いて測定した捕捉容量の比較
14C-イヌリンに基づくVtaq決定法のさらなるバリデーションのため、脂質水和時にリポソームの水相内にマーカーを封入することにより捕捉容量を直接決定する方法を適用し、本発明の方法と比較した。特に、45:55モル比でのDMPC/DPPCから構成されるMLVのVtaqを直接決定するために、水溶性膜不透過性マーカーとしてカルシウムイオンを選択した。脂質のエタノール混合物を、4%マンニトール(ヒスチジンマンニトール緩衝液、HMB)中の20mMカルシウムイオン(酢酸カルシウムとして)を含む水性媒体に注入することにより、リポソームを調製した。緩衝液の交換及びエタノール及び封入されていないカルシウムイオンの除去を、沈殿(遠心による)及び酢酸カルシウムを含まない同じHMBを使用したリポソームの繰り返し洗浄の繰り返しサイクルにより行った。沈殿及びMLVの洗浄のこれらの繰り返しサイクルは、カルシウムを含む外部媒体をほぼ完全に除去し、それを等浸透圧HMBに置き換えるために実行した。洗浄媒体及び酢酸カルシウムを含む水和媒体のpH及び浸透圧は、それぞれ6.5、272、及び279mOsmo/kgに調節した。カルシウムイオンを含む外部媒体を、遠心及び洗浄の段階を5回連続で行うことでHMB媒体に置き換えた。最終的なリポソーム分散液の脂質濃度及び浸透圧は、それぞれ148mM総PC(105mg/mL)と279mOsmo/kgであった。リポソーム内に捕捉されたカルシウムイオンの濃度を、誘導結合プラズマ(IPC)-発光分光法(ICP-OES)を使用して測定した。間隙容量を補正し、その寄与をリポソーム内カルシウム量から減算するために、リポソーム調製後のリポソーム分散液に添加した14C-イヌリンを使用して間隙容量を測定した(上記のように、複数のリポソーム及びリポソーム間の間隙媒体を含む沈澱の放射能を測定することによって)。比較のために、同じリポソーム組成物の捕捉水容量も、実施例1で説明したように14C-イヌリン外部マーカーを使用して、(DPM/mL)supと(DPM/mL)totalの比から測定した。
【0084】
カルシウム濃度は、緩衝液交換と、遠心及び洗浄の繰り返しサイクルによるリポソーム外媒体からのエタノール及びカルシウムイオンの除去の前後にICP-OESを使用して測定した。遠心後の外部媒体に残留するカルシウム濃度も、リポソームの上相で測定した。有機負荷が高いため、リポソームサンプルは200℃で4時間酸分解処理したが、それはカルシウム測定には影響がないと考えられる。総脂質濃度は、改良バートレット法(Shmeeda H. et al., Methods in enzymology, 367, 2003, 272)を使用して測定した。
【0085】
捕捉水容量(Vtaq)は下記式に従って計算した。
【数2】
式中、カルシウム及びカルシウムは、それぞれ緩衝液交換の前後の総カルシウム濃度であり;脂質及び脂質は、それぞれ緩衝液交換の前後の総脂質濃度であり;カルシウムは、緩衝液交換後の外部容量中の残留カルシウムの濃度であり;Vinterstitialは、ペレット中の14C-イヌリンによって測定された間隙液の容量であり;Vlipidsは、密度約1と仮定して既知の脂質濃度から計算される。これら異なるサンプルのカルシウム濃度及び脂質濃度の結果を表2にまとめてある。
【0086】
表2.
【表2】
【0087】
捕捉されたカルシウムマーカーによって測定された捕捉水容量(Vtaq)は24.42%(%Vtaq=((6.034-0.109)/148×202/19.27)×100%-7.1%-10.45%=24.42%)で、特定の捕捉水容量(Vtaq)は2.3μL/mg脂質、特定の捕捉容量(Vt)は4μL/mg脂質であった。外部容量も緩衝液交換前の外部カルシウム濃度を使用して計算し、58%と測定された。両方の結果を、14C-イヌリンマーカーを用いる本発明の方法と以下のように比較した。リポソームの捕捉水容量を、二つの異なるアプローチを使用して測定した。1-上清の放射能と総放射能の比率に基づくもの、及び2-ペレットの放射能(間質液の放射能)に基づくものである。両方のアプローチを使用して同様の結果が得られた。相対標準偏差(%RSD)を、両方のアプローチについて計算した(n=5)。計算された特定の捕捉水容量(Vtaq)及び特定の捕捉容量(Vt)の結果を、表3にまとめた。
【0088】
表3.
【表3】
【0089】
このように、(リポソーム内部の)捕捉されたカルシウムイオンをマーカーとして用いて得られたリポソームの捕捉水容量(Vtaq)の結果は、放射性14C-イヌリン外部マーカーによって得られた結果とほぼ同一である。したがって、本発明の特定の実施形態によるリポソーム分散液のVt及びVtaqを決定するために14C-イヌリン外部リポソーム媒体マーカーを使用すると、容易で、簡単な、高感度で、信頼性のある、正確な、再現性のある方法が得られる。この方法は、予め形成されたリポソーム分散液に適用することができ、リポソーム内部のマーカーを含めることを必要としない。また、この方法は、リポソーム沈殿後の上清の濁度に依存しないことが明らかになっており、したがって、低分子量発色団をマーカーとしてリポソーム外媒体を測定する際に遭遇することが多い問題を克服するものである。この方法はVtとVtaqの両方の決定を可能とすることから、リポソーム特性の重要な記述子であり、事前に形成されたリポソームの品質保証に使用することができる。
【0090】
以上、本発明の特定の実施形態について図示及び説明したが、本発明は本明細書に記載の実施形態に限定されるものではないことは明らかである。下記の特許請求の範囲に記載される本発明の精神及び範囲を逸脱しない限りにおいて、多くの修正、変更、変形、置換及び均等物が当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】