(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】真空ポンプおよび真空システム
(51)【国際特許分類】
F04B 37/14 20060101AFI20250121BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20250121BHJP
F04C 25/02 20060101ALI20250121BHJP
F04B 49/06 20060101ALI20250121BHJP
F04B 49/20 20060101ALI20250121BHJP
F04B 51/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
F04B37/14
F04D19/04 H
F04C25/02 B
F04B49/06 321A
F04B49/20
F04B51/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540558
(86)(22)【出願日】2023-01-03
(85)【翻訳文提出日】2024-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2023050036
(87)【国際公開番号】W WO2023131592
(87)【国際公開日】2023-07-13
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511148259
【氏名又は名称】ファイファー バキユーム
(71)【出願人】
【識別番号】391043675
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003292
【氏名又は名称】弁理士法人三栄国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン キュモン
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ モヴェ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック コリン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ジーベン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルベルト シュタムラー
【テーマコード(参考)】
3H076
3H129
3H131
3H145
【Fターム(参考)】
3H076AA16
3H076AA21
3H076BB26
3H076BB43
3H076BB45
3H076CC07
3H076CC98
3H129AA10
3H129AA18
3H129AB06
3H129BB34
3H129BB42
3H129BB60
3H129CC27
3H129CC53
3H129CC55
3H129CC56
3H129CC58
3H131AA08
3H131BA11
3H145AA06
3H145AA13
3H145AA26
3H145AA38
3H145AA42
3H145BA19
3H145BA39
3H145CA02
3H145CA06
3H145CA09
3H145CA19
3H145CA30
3H145DA05
3H145DA47
3H145EA13
3H145EA14
3H145EA16
3H145EA17
3H145EA38
3H145EA50
3H145FA03
3H145FA15
3H145FA25
3H145FA28
(57)【要約】
本発明は、以下を備えた真空ポンプ(1)に関する:
- 上記真空ポンプ(1)の状態に関連するパラメーターを測定するために構成された複数のセンサ(11,13,15,17,19)、および
- 上記複数のセンサ(11,13,15,17,19)から測定値を取得し、上記取得した測定値と、複数の動作モードの中からユーザーにより選択された上記真空ポンプ(1)の動作モードとに基づいて、上記真空ポンプ(1)の動作点を経時的および再帰的に決定し、上記決定した動作点を適用するように構成された制御ユニット(21)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を備えていることを特徴とする真空ポンプ(1):
- 前記真空ポンプ(1)の状態に関連するパラメーターを測定するために構成された複数のセンサ(11,13,15,17,19)、および
- 前記複数のセンサ(11,13,15,17,19)から測定値を取得し、前記取得した測定値と、複数の動作モードの中からユーザーにより選択された前記真空ポンプ(1)の動作モードとに基づいて、前記真空ポンプ(1)の動作点を経時的および再帰的に決定し、前記決定した動作点を適用するように構成された制御ユニット(21)。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプ(1)において、前記真空ポンプ(1)の状態に関連するパラメーターの少なくとも一部は、相互相関パラメーターであることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記複数の動作モードは、以下の動作モードを意味することを特徴とする真空ポンプ(1):
- 前記真空ポンプ(1)の性能を最適化するように構成されたモード、
- 前記真空ポンプ(1)の耐用期間を最大化するように構成されたモード、および
- 前記真空ポンプ(1)の機能コストを制限するように構成されたモード。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記制御ユニット(21)は、前記取得した測定値にファジィ論理を適用して、前記真空ポンプ(1)の前記動作点を決定するように構成されていることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記制御ユニット(21)は、前記取得した測定値に基づいて前記真空ポンプ(1)の動作点を決定するように構成されたニューラルネットワークを備えていることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記真空ポンプ(1)の状態に関連するパラメーターは、以下から選択されることを特徴とする真空ポンプ(1):
- 前記真空ポンプ(1)の温度、
- 前記真空ポンプ(1)のローター(5)の回転速度、
- 冷却流体の流量、
- パージガス(F2)の流量、
- 前記真空ポンプ(1)の入力部(1a)または前記真空ポンプ(1)に連結されたチャンバ内の圧力レベル、
- バルブの設定、
- 前記真空ポンプ(1)の一部の振動、
- 前記真空ポンプ(1)のモーターの強度、
- 前記真空ポンプ(1)の騒音レベル、および
- 前記真空ポンプ(1)からの超音波。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記決定した動作点の適用には、ローター(5)の回転速度を制御する供給電流の制御と、冷却流体の流量の制御が含まれることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記制御ユニット(21)は、前記真空ポンプ(1)の動作点を決定するために、現在および過去に取得した測定値を考慮するように構成されていることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の真空ポンプ(1)において、前記制御ユニット(21)は、経時的に適用される前記動作点に従って前記真空ポンプ(1)または前記真空ポンプ(1)の部品の残存耐用期間を評価し、決定された前記残存耐用期間が所定の閾値を下回る場合に警告信号を発するように構成されていることを特徴とする真空ポンプ(1)。
【請求項10】
以下を備えていることを特徴とする真空システム(100):
真空チャンバ(115)と、
少なくとも1基の真空ポンプ(101,103,107)と、
前記真空システム(100)の状態に関連するパラメーターを測定するために構成された複数のセンサ(111,113)と、
前記複数のセンサ(111,113)から測定値を取得し、前記取得した測定値と、複数の動作モードの中からユーザーにより選択された前記真空システム(100)の動作モードとに基づいて、前記真空システム(100)の動作点を経時的および再帰的に決定し、前記決定した動作点を適用するように構成された制御ユニット(21)。
【請求項11】
請求項10に記載の真空システム(100)において、前記複数のセンサ(111,113)は、前記真空システム(100)の異なる部分に配置された圧力センサ(111,113)、前記真空システム(100)の異なる部分に配置された温度センサ、前記少なくとも1基の真空ポンプ(101,103,107)のローターの回転速度を測定するように構成されたセンサ、および少なくとも1本のバルブの設定を測定するように構成されたセンサを指すことを特徴とする真空システム(100)。
【請求項12】
請求項10に記載の真空システム(100)において、前記制御ユニット(21)は、前記取得した測定値に基づいて前記真空システム(100)の動作点を決定するように構成されたニューラルネットワークを含むことを特徴とする真空システム(100)。
【請求項13】
請求項12に記載の真空システム(100)において、前記ニューラルネットワークは、前記真空システム(100)の以前の状態に応じて、経時的に前記動作点の適応を生成するように構成されていることを特徴とする真空システム(100)。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の真空システム(100)において、前記ニューラルネットワークは、前記真空システム(100)の過去の測定値および過去の状態に基づいて前記真空システム(100)の異なる構成要素の位置および機能を決定するように構成されており、さらに前記ニューラルネットワークは、新しい構成要素が前記真空システム(100)に導入されたときに前記真空システム(100)の動作点を適応させるように構成されていることを特徴とする真空システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理チャンバ、例えば半導体製造用の処理チャンバを、真空下に置くように構成された真空装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
用途に応じて、真空装置、特に真空ポンプは様々な方法において需要がある。実際、ある用途では、所定の時間経過内に、例えば半導体などの処理個数を最適化するために、真空チャンバ内の圧力を繰り返し高速に低下させる必要があるが、他の用途では、そのような高速の圧力低下を必要としないため、真空ポンプへの制約が少なくなることがある。したがって、真空ポンプの設定が製造時にされて、ユーザーの要求に応じて調整されない場合、真空ポンプは、高性能(圧力の速い低下)を求めるユーザーにとっては最適ではない収率をもたらし、そのような高性能を求めないユーザーにとっては、短寿命化もしくは高運転コスト化をもたらす。さらに、真空装置の多くのパラメーターが、装置の状態に影響する可能性があり、最適動作点を決定するために考慮されなければならない。しかし、これらのパラメーターには相互相関があるため、複雑な真空装置に対して最適動作点を決定するのは特に困難となる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の目的は、ユーザーの要求に応じた動作点を提供するために、真空装置の設定を恒久的に適合させることを可能とする解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、以下を備えた真空ポンプに関する:
- 上記真空ポンプの状態に関連するパラメーターを測定するために構成された複数のセンサ、および
- 上記複数のセンサから測定値を取得し、取得した測定値と、複数の動作モードの中からユーザーにより選択された上記真空ポンプの動作モードとに基づいて、上記真空ポンプの動作点を経時的および再帰的に決定し、決定した動作点を適用するように構成された制御ユニット。
【0005】
測定値および選択されたモードに基づいて、動作点を経時的および再帰的に決定および適用することにより、ユーザーの要求に応じて動作点を最適化することが可能となり、したがって、真空ポンプの構成を顧客の要求に適合させるために、製造中における真空ポンプの時間のかかる煩雑な構成を必要とすることなく、真空ポンプの制御を特定の用途に適合させることができる。
【0006】
本発明の別の態様によれば、上記真空ポンプの状態に関連するパラメーターの少なくとも一部は、相互相関パラメーターである。
【0007】
本発明のさらに別の態様によれば、上記複数の動作モードは以下の動作モードを意味する:
- 上記真空ポンプの性能を最適化するように構成されたモード、
- 上記真空ポンプの耐用期間を最大化するように構成されたモード、
- 上記真空ポンプの機能コストを制限するように構成されたモード、および
- エネルギー消費および/または物資消費を制限するように構成されたモード。
【0008】
本発明のさらに別の態様によれば、上記制御ユニットは、上記取得した測定値にファジィ論理を適用して、上記真空ポンプの動作点を決定するように構成されている。
【0009】
本発明のさらに別の態様によれば、上記制御ユニットは、上記取得した測定値に基づいて上記真空ポンプの動作点を決定するように構成されたニューラルネットワークを備えている。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、上記真空ポンプの状態に関連するパラメーターは、以下から選択される:
- 上記真空ポンプの温度、
- 上記真空ポンプのローターの回転速度、
- 冷却流体の流量、
- パージガスの流量、
- 上記真空ポンプの入力部または上記真空ポンプに連結されたチャンバ内の圧力レベル、
- バルブの設定、
- 上記真空ポンプの一部の振動、
- 上記真空ポンプのモーターの強度、
- 上記真空ポンプの騒音レベル、および
- 上記真空ポンプからの超音波。
【0011】
本発明のさらに別の態様によれば、上記決定した動作点の適用には、ローターの回転速度を制御する供給電流の制御と、冷却流体の流量の制御が含まれる。
【0012】
本発明のさらに別の態様によれば、上記制御ユニットは、上記真空ポンプの動作点を決定するために、現在および過去に取得した測定値を考慮するように構成されている。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、上記制御ユニットは、経時的に適用される上記動作点に従って上記真空ポンプまたは上記真空ポンプの部品の残存使用耐用期間を評価し、決定された上記残存使用耐用期間が所定の閾値を下回る場合に警告信号を発するように構成されている。
【0014】
本発明はまた、以下を備えた真空システムに関する:
真空チャンバと、
少なくとも1基の真空ポンプと、
上記真空システムの状態に関連するパラメーターを測定するために構成された複数のセンサと、
上記複数のセンサから測定値を取得し、取得した測定値と、複数の動作モードの中からユーザーにより選択された上記真空システムの動作モードとに基づいて、上記真空システムの動作点を経時的および再帰的に決定し、上記決定した動作点を適用するように構成された制御ユニット。
【0015】
本発明の別の態様によれば、上記複数のセンサは、上記真空システムの様々な部分に配置された圧力センサ、上記真空システムの様々な部分に配置された温度センサ、上記少なくとも1基の真空ポンプのローターの回転速度を測定するように構成されたセンサ、および少なくとも1本のバルブの設定を測定するように構成されたセンサを指す。
【0016】
本発明のさらに別の態様によれば、上記制御ユニットは、上記取得した測定値に基づいて上記真空システムの動作点を決定するように構成されたニューラルネットワークを含む。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、上記ニューラルネットワークは、上記真空システムの以前の状態に応じて、経時的に上記動作点の適応を生成するように構成されている。
【0018】
本発明のさらに別の態様によれば、上記ニューラルネットワークは、上記真空システムの過去の測定値および過去の状態に基づいて上記真空システムの異なる構成要素の位置および機能を決定するように構成されており、さらに上記ニューラルネットワークは、新しい構成要素が上記真空システムに導入されたときに上記真空システムの動作点を適応させるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の真空ポンプを示す模式図である。
【
図2】
図2は、ローター温度に関連するファジィ論理修飾子の定義の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の真空システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の業績は一例である。本明細書は1つまたは複数の実施形態を参照しているが、各参照が同じ実施形態を参照していることを意味するものではなく、あるいは特徴が単一の実施形態にのみ適用されることを意味するものではない。異なる実施形態の単純な特徴を組み合わせて他の実施形態を提供することもできる。
【0021】
本発明は、一般的に処理チャンバである真空チャンバを真空下に置くように構成された真空装置に関する。真空装置とは、特に真空ポンプを指すか、1基または数基の真空ポンプおよび真空ポンプに付随する追加部品を備えた真空システムを指す。以下、真空ポンプまたは真空システムに基づいて実施形態または特徴を説明するが、機能は任意の真空装置に適用することができる。
【0022】
図1は、真空ポンプ1の一例を示す模式図である。真空ポンプ1は、
図1に示すように、出力1bが大気圧で排気されるように構成されたドライポンプなどの一次ポンプとすることができる。あるいは、本発明は、一次ポンプまたは当業者に公知の他のタイプの真空ポンプと結合するように構成されたターボ分子ポンプに適用することもできる。
【0023】
図1の場合、真空ポンプ1は、真空を設定する必要がある真空チャンバに連結されるように構成された入力部1aを備えている。真空ポンプ1は、2本の平行な軸Xを中心に回転する2基のローター5(
図1では、第2のローターは第1のローターに隠れている)であって、T1,T2,T3,T4,T5と記した、この例では5基の複数のポンプ段を定めている両ローター5が配置されたステーター3を有する。両ローター5は、入力部1aにおいて、F1と記したガスを吸引し、ガスF1を圧縮し、真空ポンプ1の出力1bに向けて排出するように構成されている。真空ポンプ1はまた、両ローター5を回転させるように構成された電気モーター7を有する。ポンプ段T1~T5は、ガスF1が異なる段T1~T5を通して送られるように、直列に連結されている。
【0024】
真空ポンプ1はまた、パージガス供給源に連結されるように構成された少なくとも1本のダクトを含む、パージガス注入装置9を備えている。パージガスをF2と記す。この例では、パージガス注入装置9は、真空ポンプ1の異なる段T1~T5に連結された幾つかのダクトを有する。ダクトの1つは、ベアリング11にも連結されている。パージガスF2を注入することにより、攻撃的で真空ポンプ1を損傷する可能性がある吸入ガスF1に接触する真空ポンプ1の様々な部品を保護することができる。真空ポンプ1はまた、ステーター3内、例えば両ローター5に隣接して、またはベアリング11に隣接して、冷却流体を循環させるように構成された流体回路(図示せず)を備えることができる。
【0025】
真空ポンプ1はまた、真空ポンプ1の状態に関連するパラメーターを測定するように構成された複数のセンサを備えており、これらのパラメーターは相互相関を有することがある。複数のセンサとして、下記リストのものが使用可能である:
- 異なるポンプ段に隣接したり、ベアリング11に隣接したりして、真空ポンプ1の様々な部品に配置することができる温度センサ13、
- 真空ポンプ1の両ローター5の回転速度を測定するように構成された回転速度センサ15、
- パージガスの流量を測定するように構成された流量センサ17、
- 冷却流体の流量を測定するように構成された流量計、
- 真空ポンプ1の入力部1aもしくは出力部1b等の真空ポンプの異なる部品、または真空ポンプ1の入力部に連結された真空チャンバに配置することができる圧力センサ19、
- 冷却流体の流量を制御するように構成されたバルブ等のバルブ設定に応じて異なる信号を送信するように構成されたバルブ設定センサ、
- 真空ポンプ1のステータ3などの部品に配置された加速度計等の振動センサ、
- 真空ポンプ1の電磁ベアリングを制御するように構成された磁場センサ、
- 真空ポンプのモーターに供給される電流の強度を測定する電流センサ、
- 真空ポンプに関連する騒音レベルを測定する音響センサ、
- 真空ポンプにより発生する超音波を測定する超音波センサ。
【0026】
真空ポンプ1はまた、前述の複数のセンサから測定値を取得するように構成された制御ユニット21を備えている。制御ユニット21はまた、取得した測定値と、ユーザーにより選択された真空ポンプ1の動作モードとに基づいて、真空ポンプ1の動作点を決定するように構成されている。複数の動作モードは、真空ポンプ1の製造時に、予め設定されていてもよい。予め設定されるモードの1つは、その用途に応じて、ユーザーにより選択される。様々な動作モードとして、例えば以下の動作モードのいずれかが挙げられる:
- 真空ポンプが、真空ポンプの入力部において、または真空ポンプの入力部に連結された真空チャンバ内で、目標圧力を可能な限り早く得るように構成された実行モード、
- 真空ポンプが、ローターの温度閾値のような、パラメーターにおいて起こり得る損傷レベルに達したときに、その性能を制限するように構成された耐用期間向上モード、
- 真空ポンプの機能コストを最小化するように構成されたコスト制限モードであって、真空ポンプが、エネルギー消費と、パージガス量などの物資消費を制限するように制御されるコスト制限モード、
- 実行モードより長い耐用期間を提供しながら、耐用期間向上モードより高い性能を提供するように構成された平均モード。
【0027】
ユーザーにとって興味深いその他のモードも、あらかじめ設定しておくことができる。
【0028】
制御ユニット21はまた、例えば、電気モーター7を介して両ローター5の回転速度を制御したり、様々なバルブを設定したり、パージガス流量や冷却流体の流量を制御したりすることにより、決定した動作点を適用するように構成されている。
【0029】
このような動作点の決定と適用は、例えば所定の周波数で、経時的および再帰的に行われる。この周波数は、異なる構成要素の容量に応じて選択することができ、数Hzであってもよい。このような時間の経過に伴う再帰的な決定により、測定された様々なパラメーターの変化に応じて動作点を適合させ、真空ポンプ1の制御を最適化することができる。
【0030】
第1の実施形態によれば、制御ユニット21は、動作点を決定するためにファジー論理コマンドを適用するように構成されている。
【0031】
ファジィ論理コマンドは、真空ポンプ1の異なる状態に関連する所定の閾値に関して測定されたパラメータの値に依存する所定の規則の適用を指す。さらに、異なる閾値は、真空ポンプ1の2つの状態間の移行が漸進的になるように、互いに重なり得る値の範囲を指すことがある。
【0032】
図2は、ローター温度に関連するファジィ論理規則の例を示す。
図2中、横軸はローター5の温度を示し、縦軸は設定するメンバーシップ、すなわち異なる温度範囲に関連する修飾子または変数を示す。この例では、ローター5の全温度範囲をカバーするために5個の修飾子を用いたが、必要な精度に応じて任意の数の修飾子を用いることができる。異なる修飾子はそれぞれ、30℃以下の冷状態、約45℃の低温状態、約60℃の中温状態、約75℃の温暖状態、90℃以上の高温状態を指す。
図2からわかるように、ある状態は隣接する状態と重なり合っている。
【0033】
同様に、真空ポンプ1の状態を決定する種々のパラメーターを修飾子でマッピングすることができる。修飾子の数はパラメーターによって異なることがある。したがって、異なる動作モードに対して異なるルールセットを定義し、選択されたモードに関連するルールセットを真空ポンプ1の制御に適用することができる。
【0034】
例えば、ロータ5の速度、ロータ5の温度、および真空ポンプ1の上流に接続された真空チャンバ内の圧力に関連するパラメーターを有する真空ポンプ1を考える。これらのパラメーターの値は、それぞれのセンサーによって提供され、低変数、名目変数、および高変数にマッピングされる。この例では、単純さを保つために、パラメータの数を限定し、各パラメータに対する修飾子の数を限定しているが、実際には、上述の複数のセンサのリストによって示されるように、真空ポンプ1の他のパラメータも考慮に入れることができる。ルールセットの第1の目標は、望ましい温度を満たすこと、またはそれを下回ることである。第2の目標は、可能であればローター速度を低下させることによってエネルギーを節約し、摩耗を減少させることである。しかし、ローターが冷えていれば、ブーストモードを使用して性能を向上させ、真空チャンバーが十分に排気されるまでの所要時間を短縮することができる。
【0035】
通常モードに関連する第1の可能なルールセットは以下の通りである:
圧力が高く、ローター温度が低い場合、ローター速度を高く設定し、
圧力が高く、ローター温度が高い場合、ローター速度を通常に設定し、
圧力が通常である場合、ローター速度を通常に設定し、
圧力が低い場合、ローター速度を低く設定する。
【0036】
実行モードに関連する第2の可能なルールセットは以下の通りである:
圧力が高く、ローター温度が低い場合、ローター速度を高く設定し、
圧力が高く、ローター温度が高い場合、ローター速度を高く設定し、
圧力が通常である場合、ローター速度を通常に設定し、
圧力が低い場合、ローター速度を低く設定する。
【0037】
このように、動作点は、複数のセンサの測定値と、選択された動作モードのルールセットに基づいて、制御ユニット21により決定される。そして、制御ユニット21は、決定した動作点を適用するように構成されている。決定した動作点の適用は、例えば、ローター5の回転速度を制御する供給電流の制御を意味する。このような適用は、冷却流体の流量の制御や、真空ポンプ1のその他の制御パラメーターの制御を指す場合もある。ファジー論理を適用することにより、様々なパラメーター間の相互相関を考慮するための重要な処理手段を必要とすることなく、最適な動作点に到達するように、真空ポンプを効率的に制御することができる。
【0038】
別の実施形態によれば、制御ユニット21は、取得した測定値に基いて、真空ポンプ1の動作点を決定するように構成されたニューラルネットワークを備えている。ニューラルネットワークは、様々な制御パラメーターの影響を決定するために、真空ポンプ1の状態の変化、および経時的に測定したパラメーターの変化を分析するように構成されている。ニューラルネットワークをセットアップするために、ポンプの様々な特徴の活性化の連続的なステップを含む学習フェーズが必要な場合がある。ニューラルネットワークにより達成される恒久的な分析は、探索された目標と様々な制約条件に従って最適な動作点を決定することを可能にする。先の実施形態と同様に、これらの制約条件は、例えば、耐用期間を最大化する動作モードの温度閾値が、性能(所望の圧力に到達する最小時間)を最大化する動作モードに関連する温度閾値より低くなるなど、様々なパラメーターに関連する様々な閾値を設定するためにユーザーにより選択される好ましい動作モードを指す。
【0039】
制御ユニット21は、真空ポンプ1の動作点を決定するために取得した現在および過去の測定値を考慮するように構成されることがある。さらに、各新しい測定値は、閾値を更新するため、または真空ポンプ1の状態に対するパラメーターの影響を更新するために使用することができる。
【0040】
真空ポンプ1の状態の変化、および様々なパラメーターの経時的な影響を分析することにより、ニューラルネットワークは、真空ポンプ1の様々な構成要素の相互の構成および機能を決定することができる。
【0041】
第3の実施形態によれば、制御ユニット21は、ルールセットを定義するファジー論理と、ルールセットで定義された修飾子に関連する値を適応させるように構成されたニューラルネットワークとの組み合わせを備えている。動作点は、現在および以前の測定値、並びに経時的に適合された修飾子に関連する値に基づき定義される。さらに、制御ユニット21は、新しい構成要素が交換された構成要素と異なる特徴を有する場合であっても、真空ポンプ1の構成要素の交換に対して動作点の決定を自動的に適合させることができる。
【0042】
制御ユニット21は、ソフトウェアを実行可能なハードウェアだけでなく、専用のハードウェアを用いて提供されてもよい。プロセッサを備えている場合、制御ユニット21は、単一の専用プロセッサを備えていてもよいし、単一の共有プロセッサを備えていてもよいし、複数の個別プロセッサを備えていてもよく、個別プロセッサのうちのいくつかは共有されてもよい。さらに、用語「プロセッサ」の明示的な使用は、ソフトウェアを実行することができるハードウェアのみを指すものと解釈されるべきではなく、マイクロコントローラー、デジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ソフトウェアを格納するためのリードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および不揮発性記憶装置を暗黙的に含むが、これらに限定されない。従来のおよび/またはカスタムの他のハードウェアを含んでもよい。
【0043】
さらに、真空ポンプ1は、真空ポンプ1の様々な構成要素間、特に制御ユニット21と様々なセンサとの間、および制御ユニット21と、真空ポンプ1への動作点の適用を可能にする制御手段(両ローター5の回転速度の制御等)との間の通信を可能にする無線通信手段であることがある通信手段を備えている。
【0044】
先に開示したように、本発明は、1基または数基の真空ポンプと、場合によってはバルブのような追加構成要素を含む真空システムにも適用することができる。真空ポンプ1について説明した様々な特徴は、真空システム1にも適用可能である。
【0045】
図3は、粗引ポンプ101と、第1の電子バルブ105を介して粗引ポンプ101に連結された第1のターボ分子ポンプ103と、第2の電子バルブ109を介して第1のターボ分子ポンプ103に連結された第2のターボ分子ポンプ107と、第2のターボ分子ポンプ107に連結された真空チャンバ115を備えた真空システム100であって、3基のポンプ101,103,107が直列に接続された真空システム100の一例を示す。真空システム100はまた、粗引ポンプ101と第1のターボ分子ポンプ103の間に配置された第1の圧力計111、および第1のターボ分子ポンプ103と第2のターボ分子ポンプ107の間に配置された第2の圧力計113を備えている。
図3に示す真空システム100は、分かりやすくするために単純なままであるが、実際には、このような真空システム100は、異なる真空ポンプ101,103,107内に配置された温度センサや、異なる真空ポンプ101,103,107のパージガス供給装置または冷却流体回路に関連する流量センサや、先に開示したような他のタイプのセンサなど、他の多くのセンサを備えている。
【0046】
真空システム100はまた、真空ポンプ1の場合について先に開示したような、ファジィ論理および/またはニューラルネットワークを適用することができる制御ユニット21を備えており、真空システムの様々なセンサから取得される様々な測定値に基づいて、かつユーザーにより選択された動作モードに従って、真空システムの動作点(様々なポンプの駆動および制御、並びに様々なバルブの制御)を再帰的に決定するように構成されている。
【0047】
以下の例では、制御ユニット21はニューラルネットワークを備えている。
【0048】
真空チャンバ115の吸引を開始するとき、粗引ポンプ101をオンにする。これにより第1および第2の両方の圧力計111,113の圧力が降下する。
【0049】
次いで、第1のターボ分子ポンプ103をオンにする。これにより第2の圧力計113の圧力は降下するが、第1の圧力計111の圧力は降下しない。
【0050】
その結果、制御ユニット21のニューラルネットワークは、第1の圧力計111が、粗引ポンプ101と第1のターボ分子ポンプ103の間に位置すると判断することができる。
【0051】
プロセスの次の工程では、第2のターボ分子ポンプ107をオンにするが、第1の圧力計111および第2の圧力計113のいずれの圧力も降下しない。ニューラルネットワークは、第2の圧力計113が、第1のターボ分子ポンプ103と第2のターボ分子ポンプ107の間に位置すると判断することができる。
【0052】
真空システム100の異なる部品のこの分析に基づき、真空システム100に関連する制御ユニット21のニューラルネットワークは、真空システム100を制御する幾つかの規則を確立することができる。例えば、制御ユニット21は、第1のターボ分子ポンプ103に関連する摩耗および電力消費を減少させるために、第2の圧力計113における圧力または第2のターボ分子ポンプ107の駆動力が著しく増加しない限り、第1のターボ分子ポンプ103をスタンバイモードに設定することを決定することができる。
【0053】
しかしながら、第2のターボ分子ポンプ107をスタンバイモードに切り替えることはできない。スタンバイモードにおけるそのような適応の影響を監視する圧力計がないためである。真空システム100の挙動のこのような監視は、制御ユニット21がプロセス中の変化に適応できるように、経時的に常に達成することができる。例えば、真空チャンバ115から排気されるガス負荷の増加が発生した場合、真空システム100の安全性を確保するために、第1のターボ分子ポンプ103のスタンバイモードを無効にすることができる。
【0054】
さらに、真空システム100に変更があった場合、例えば、メンテナンスによる真空システム100の要素の交換や、より新しい要素へのアップグレードの場合、制御ユニット21は、そのような交換を検出し、新しい要素の特徴を考慮するように、規則と動作点の決定を適合させることができる。真空システム100は、真空システム100の耐用期間に生じ得る如何なる変更にも常に適合するようになっている。
【0055】
さらに、先に開示した異なる実施形態において、制御ユニット21は、経時的に適用した動作点および/または経時的に獲得した測定値に基づき、真空ポンプ1または真空ポンプ1の部品の残存使用耐用期間を評価するように、かつ決定した残存使用耐用期間が所定の閾値より低いときに警告信号を発信するように構成されていてもよい。残存使用耐用期間の推定において、真空ポンプ1の様々な状態が経時的に考慮されるので、この評価は非常に正確であり得、故障のリスクを抑制しながら、部品の耐用期間が最適化される。
【0056】
制御ユニット21のこのような特徴は、真空システム100の要素、例えば真空ポンプ101,103,107、バルブ105,109、真空システム100のその他のいずれかの要素等の残存使用耐用期間を評価するために、真空システム100の場合にも適用することができる。
【0057】
このように、真空ポンプまたは真空システムの状態を、そのような状態に影響を及ぼすパラメーターを測定するように構成された複数のセンサによって監視し、これらのパラメーター測定値を使用して、ファジィ論理および/またはニューラルネットワーク処理手段を使用して、選択されたモードに関連する動作点を決定することによって、本発明は、用途およびユーザーの要求に従って、真空システムの真空ポンプの機能を最適化することを可能にする。さらに、ユーザーの要求に対する真空装置のこのような適合は、真空装置により自動的に達成され、用途およびユーザーの要求に対して上記装置の構成を適合させるために、製造時に真空装置のオーダーメードの構成を必要としない。
【0058】
さらに、ニューラルネットワーク処理手段の使用により、真空装置の構成における如何なる変更にも、真空装置の制御を適合させることができる。本発明はまた、故障が起きる前に要素がメンテナンスまたは交換を必要とするとき、ユーザーに警告するために、残存使用耐用期間の正確な推定を提供する。
【符号の説明】
【0059】
1・・・真空ポンプ
1a・・・入力部
1b・・・出力部
3・・・ステーター
5・・・ローター
7・・・電気モーター
9・・・パージガス注入装置
11・・・ベアリング
13・・・温度センサ
15・・・回転速度センサ
17・・・流量センサ
19・・・圧力センサ
21・・・制御ユニット
100・・・真空システム
101・・・粗引ポンプ
103・・・第1のターボ分子ポンプ
105・・・第1の電子バルブ
107・・・第2のターボ分子ポンプ
109・・・第2の電子バルブ
111・・・第1の圧力計
113・・・第2の圧力計
115・・・真空チャンバ
F1・・・ガス
F2・・・パージガス
T1,T2,T3,T4,T5・・・ポンプ段
【国際調査報告】