(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-28
(54)【発明の名称】植物におけるフルクトースの感知およびシグナル伝達
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20250121BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250121BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20250121BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20250121BHJP
A01H 6/02 20180101ALI20250121BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20250121BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20250121BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20250121BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20250121BHJP
A01H 6/20 20180101ALI20250121BHJP
A01H 6/14 20180101ALI20250121BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20250121BHJP
A01H 6/46 20180101ALI20250121BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N5/10
A01H5/00 A
A01H5/10
A01H6/02
C12N5/04
C12P19/02
C12P19/04
C12N15/82 122Z
A01H6/20
A01H6/14
A01H6/82
A01H6/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540749
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2023050160
(87)【国際公開番号】W WO2023131639
(87)【国際公開日】2023-07-13
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519275560
【氏名又は名称】カー・ヴェー・エス ザート エス・エー ウント コー. カー・ゲー・アー・アー
【氏名又は名称原語表記】KWS SAAT SE & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Grimsehlstrasse 31, 37574 Einbeck, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】カーン、 アズキア
(72)【発明者】
【氏名】ノイハウス、 エッケハルド
(72)【発明者】
【氏名】ポメルレニグ、 ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ルドウィグ、 フランク
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF02
4B064AF03
4B064AF11
4B064CA11
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA53
(57)【要約】
本発明は、植物特性を改善するための植物におけるフルクトース感知およびシグナル伝達機序に関する。特に、本発明は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする核酸分子を含むベクターまたは可動遺伝因子に関する。さらに本発明は、宿主細胞、植物、種子、植物の生産方法、植物貯蔵化合物の収量を増加させる方法、植物における干ばつ耐性を増加させる方法、植物貯蔵化合物の濃度を増加させるための植物における液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の使用、または増加したフルクトースレベルを有する植物を選択する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子を含むベクターまたは可動遺伝因子であって、前記核酸分子が液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードし、前記核酸分子が、
a) 配列番号40、39、1、および129~152に記載の配列のいずれか1つからなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも50%の核酸配列同一性を有する核酸分子、
b) a) 記載の核酸分子と相補的であるかまたはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列を有する核酸分子、および
c) 配列番号58、57、22、および77~128に記載の配列のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列を有する核酸分子
からなる群より選択される、ベクターまたは可動遺伝因子。
【請求項2】
請求項1に記載のベクターまたは可動遺伝因子を含む、宿主細胞。
【請求項3】
少なくとも1つの請求項2に記載の宿主細胞を含む、植物または植物の一部分。
【請求項4】
それが由来する野生型植物に比べてサイトゾル中のフルクトースの上昇したレベルを含むように改変された植物。
【請求項5】
それが由来する野生型植物に比べて液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現する、請求項4に記載の植物。
【請求項6】
i) 前記植物が、前記過剰発現される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする内因性遺伝子の改変されたプロモーターを含み、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されるか、
ii) 前記植物が、前記過剰発現される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする核酸の少なくとも1つの追加コピーを含み、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されるか、または、
iii) 前記植物が、異種の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする異種核酸を含み、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が異種的に過剰発現される、
請求項5に記載の植物。
【請求項7】
請求項1に記載のベクターまたは可動遺伝因子を含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の植物。
【請求項8】
請求項3~7のいずれか一項に記載の植物の種子。
【請求項9】
a) それが由来する野生型植物細胞に比べてサイトゾル中のフルクトースの上昇したレベルを含む少なくとも1つの植物細胞が産生されるように、少なくとも1つの植物細胞を改変する工程;および
b) 工程a) の改変された植物細胞から植物を再生する工程であって、ここで前記植物は、それが由来する野生型植物に比べてサイトゾル中のフルクトースの上昇したレベルを含む、工程
を含む、植物を生産する方法。
【請求項10】
前記工程a) において前記少なくとも1つの植物細胞を改変する工程が、
i) 液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする内因性遺伝子のプロモーターを改変し、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が過剰発現されること、
ii) 液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする核酸の少なくとも1つの追加コピーを前記植物細胞に導入し、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されこと、または
iii) 異種液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする異種核酸を前記植物細胞に導入し、それにより前記液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されること
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のベクターまたは可動遺伝因子が、前記少なくとも1つの植物細胞に導入される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
植物のサイトゾル中のフルクトースの濃度を増加させることを含む、植物貯蔵化合物の収量を増加させる方法。
【請求項13】
i) 前記植物貯蔵化合物を生産する前記植物が、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法により生産され、および/または
ii) 前記植物貯蔵化合物を生産する前記植物が、請求項3~7のいずれか一項に記載の植物である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記植物貯蔵化合物が、糖、好ましくはスクロース、デンプン、タンパク質または脂質から選択される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
i) 前記植物貯蔵化合物を含む少なくとも一つの植物器官のバイオマスが増加し、好ましくは前記植物器官は果実、種子、根または貯蔵器官であるか、または、
ii) 少なくとも一つの植物器官における前記植物貯蔵化合物の濃度が増加し、好ましくは前記植物器官は果実、種子、根または貯蔵器官である、
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
植物のサイトゾル中のフルクトースの濃度を増加させることを含む、植物の干ばつ耐性を増加させる方法。
【請求項17】
i) 干ばつ耐性を増加させた植物が、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法により生産される、および/または
ii) 干ばつ耐性を増加させた植物が、請求項3~7のいずれか一項に記載の植物である、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記植物が、テンサイ(Beta vulgaris)、キャベツ類(Brassica rapa)、アブラナ(Brassica napus)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sp.、例えばOryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライムギ(Secale cereale)、またはソルガム(Sorghum sp.)からなる群より選択され、好ましくはテンサイである、請求項3~7のいずれか一項に記載の植物および請求項9~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記植物がテンサイであり、前記植物器官がテンサイ主根であり、前記植物貯蔵化合物がスクロースである、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
植物器官における植物貯蔵化合物の濃度を増加させるための、植物における液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の使用であって、任意で、前記植物貯蔵化合物は、糖、好ましくはスクロース、デンプン、タンパク質、または脂質から選択され、前記植物は、テンサイ(Beta vulgaris)、キャベツ類(Brassica rapa)、アブラナ(Brassica napus)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sp.、例えばOryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライムギ(Secale cereale)、またはソルガム(Sorghum sp.)からなる群より選択され、好ましくは前記植物はテンサイであり前記植物器官はテンサイ主根である、使用。
【請求項21】
植物のサイトゾル中のフルクトースレベルが増加した植物を選択する方法であって、
i) 植物を生育させること;
ii) 前記植物の少なくとも1つの植物細胞中のフルクトースレベルを測定すること;
iii) 測定されたフルクトースレベルを少なくとも1つのフルクトース参照レベルと比較すること;および
iv) 少なくとも1つの参照レベルに対してフルクトースレベルが増加した植物を選択すること
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、有益な特性を有する植物を提供し、生成することに関する。特に、本発明は、増加した量のバイオマスおよび/または増加した量の所望の植物貯蔵化合物(複数可)、例えば、スクロース等の糖、デンプン、脂質および/またはタンパク質を生産し、および/または干ばつ等の不利な環境条件に対する増加した耐性を有する、作物植物を提供することおよび生成することに関する。
【0002】
本発明者らは、驚くべきことに、植物のサイトゾルにおけるフルクトース濃度を増加させることが、植物において、例えば植物の葉において、糖シグナル伝達を変化させ、これが、例えば植物の師部におけるスクロースのような、糖の長距離輸送の変化をもたらすことを見出した。特に、より多くの糖が炭水化物合成の植物部位 (ソース) から植物貯蔵化合物の貯蔵の植物部位 (シンク) に輸送されるように、植物における長距離輸送が変化する。植物貯蔵化合物のシンクとして機能する植物器官において、そのような化合物は、他の植物貯蔵化合物に変換され得る。例えば、糖は、植物器官においてデンプンまたはセルロースに変換され得る。植物貯蔵化合物には、スクロースなどの糖、デンプン、タンパク質および/または脂質が含まれ得るが、これらに限定されない。さらに、本発明者らは、植物のサイトゾルにおけるフルクトースの濃度を増加させること(特に、例えばEDRL4などの液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現させることによって)が、植物のバイオマスを増加させることを見出した。
【0003】
本発明者らの観察は、サイトゾルのフルクトースレベルの増加が異なる植物コンパートメントにおいて植物によって感知されることができ、それによって糖の長距離輸送に変化をもたらし、それがバイオマス生産、干ばつ(drought)抵抗性、および特に植物貯蔵化合物(例えばスクロース)の植物器官(果実、種子、根、または貯蔵器官など)への蓄積に対してプラスの効果を有することを強く示唆している。植物のスクロース貯蔵コンパートメントにおけるスクロースの量を増加させることは、テンサイなどの作物植物の場合に特に望ましい。したがって、当業者が理解するように、植物のサイトゾルにおけるフルクトース濃度を増加させる任意の手段を用いて、本明細書に記載の有益な効果を達成することができる。
【発明の概要】
【0004】
1つの態様において、本発明は、核酸分子を含むベクターまたは可動遺伝因子(mobile genetic element)に関し、ここで、該核酸分子は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする。特に、該核酸分子は、a) 配列番号40、39、1、および129-152による配列のいずれか1つからなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも50%の核酸配列同一性を有する核酸分子、b) a) による核酸分子に対して相補的であるかまたはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列を有する核酸分子、およびc) 配列番号58、57、22、および77-128による配列のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列を有する核酸分子からなる群より選択される。
【0005】
さらなる態様において、本発明は、上記ベクターまたは可動遺伝因子を含む宿主細胞を含む。
【0006】
本発明はまた、本明細書に記載の少なくとも1つの宿主細胞を含む植物または植物の一部分を含む。本発明の植物は、遺伝子改変された植物であり得る。植物は、トランスジェニック植物であってもよい。
【0007】
1つの実施形態では、それが由来する野生型植物と比較してサイトゾル中に増加されたレベルのフルクトースを含むように遺伝子改変された植物が提供される。本発明の植物は、それが由来する野生型植物と比較して、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現し得る。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明の植物は、以下のように特徴付けられる。
i) 前記植物は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的(homologously)に過剰発現されるように、過剰発現される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする内因性遺伝子の改変されたプロモーターを含み、
ii) 前記植物は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されるように、過剰発現される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする核酸の少なくとも1つの追加コピーを含み、または
iii) 前記植物は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が異種的に過剰発現されるように、異種(heterologous)の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする異種核酸を含む。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、前記植物は、本発明のベクターまたは可動遺伝因子を含む。ベクターまたは可動遺伝因子は、本明細書に記載されているように、引用文献に記載されているように、および当業者に知られる任意の他の手段によって、植物に導入され得る。
【0010】
本発明はまた、本発明による植物の種子を含む。前記種子は、本発明による植物を提供するために植えることができる。植物は、本明細書に記載された技術的課題を解決するために、例えば、植物貯蔵化合物の収量を増加させるために、バイオマスを増加させるために、少なくとも1つの植物器官における植物貯蔵化合物の濃度を増加させるために、または植物の干ばつ耐性を増加させるために、栽培され得る。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、以下の工程を含む、植物を生産する方法を含む:a) 少なくとも1つの植物細胞を遺伝子改変して、それが由来する野生型植物細胞に比べてサイトゾル中に増加されたレベルのフルクトースを含む少なくとも1つの植物細胞を生産する工程;およびb) 工程a) の遺伝子改変された植物細胞から植物を再生させる工程。ここで、該植物は、それが由来する野生型植物に比べてサイトゾル中に増加したレベルのフルクトースを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの植物細胞を遺伝子改変する工程(例えば工程a) において)は、
i) 液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が過剰発現されるように、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする内因性遺伝子のプロモーターを改変すること、
ii) 液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が相同的に過剰発現されるように、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする核酸の少なくとも1つの追加コピーを植物細胞に導入すること、または
iii) 液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が異種的に過剰発現されるように、異種の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする異種核酸を植物細胞に導入すること
を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明のベクターまたは可動遺伝因子は、少なくとも1つの植物細胞に導入される。
【0014】
本発明はまた、植物のサイトゾル中のフルクトースの濃度を増加させることを含む、植物貯蔵化合物の収量を増加させる方法を含む。いくつかの実施形態において、植物貯蔵化合物を生産する植物は、本明細書に記載されるように生産される。いくつかの実施形態において、植物貯蔵化合物を生産する植物は、本明細書に記載されるような植物である。植物のサイトゾル中のフルクトースの濃度は、本明細書に記載されるように増加させることができる。
【0015】
植物貯蔵化合物は、糖、好ましくはスクロース、デンプン、タンパク質または脂質から選択され得る。特に、糖は、テンサイ、大豆またはトマト果実に存在するような糖であり得、脂質は、ヒマワリ種子またはアブラナに存在する脂質であり得、タンパク質は、大豆に存在するタンパク質であり得る。好ましくは、植物貯蔵化合物はスクロースである。
【0016】
植物貯蔵化合物の収量を増加させる方法は、以下のことを含み得る。
i) その植物貯蔵化合物を含む少なくとも1つの植物器官のバイオマスが増加し、好ましくは、植物器官が果実、種子、根または貯蔵器官であるか、または
ii) 少なくとも1つの植物器官における植物貯蔵化合物の濃度が増加し、好ましくは、植物器官が果実、種子、根または貯蔵器官である。
【0017】
いくつかの実施形態において、植物貯蔵化合物の収量は、果実、種子、根または貯蔵器官などの少なくとも1つの植物器官のバイオマスを増加させることによって増加する。いくつかの実施形態において、植物貯蔵化合物の収量は、果実、種子、根または貯蔵器官などの少なくとも1つの植物器官における植物貯蔵化合物の濃度を増加させることによって増加する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、植物のサイトゾルにおけるフルクトースの濃度を増加させることを含む、植物における干ばつ耐性を増加させる方法を提供する。前記方法は、
i)干ばつ耐性が増加した前記植物が、本発明の方法に従って生産されること、および/または
ii)干ばつ耐性が増加した前記植物は、本発明の植物であること
を含みうる。
【0019】
前記植物は、作物植物であってもよい。いくつかの実施形態において、前記植物は、テンサイ(Beta vulgaris)、キャベツ類(Brassica rapa)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sp.、例えばOryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライ麦(Secale cereale)、またはソルガム(Sorghum sp.、例えばSorghum bicolor)からなる群から選択され、好ましくは前記植物はテンサイである。
【0020】
好ましい実施形態において、前記植物はテンサイであり、前記植物器官はテンサイ主根であり、前記植物貯蔵化合物はスクロースである。
【0021】
本発明はまた、植物器官における植物貯蔵化合物の濃度を増加させるための、植物における液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の使用を提供し、任意で、前記植物貯蔵化合物は、糖、好ましくはスクロース、デンプン、タンパク質または脂質から選択され、前記植物は、テンサイ(Beta vulgaris)、キャベツ類(Brassica rapa)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sp.、例えばOryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライ麦(Secale cereale)、またはソルガム(Sorghum sp.、例えばSorghum bicolor)からなる群から選択され、好ましくは植物はテンサイであり、植物器官はテンサイ主根である。
【0022】
本発明はまた、植物のサイトゾルにおいてフルクトースのレベルが増加した植物を選択する方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:
i) 植物を栽培すること;
ii) 前記植物の少なくとも1つの植物細胞におけるフルクトースレベルを測定すること;
iii) 測定されたフルクトースのレベルを少なくとも1つのフルクトース参照レベルと比較すること;および
iv) 前記少なくとも1つの参照レベルと比較してフルクトースのレベルが増加した植物を選択すること。
【0023】
参照レベルは、参照植物のサイトゾルにおけるフルクトースのレベルであってもよい。参照植物は、前記植物が由来するところの植物であってもよい。参照植物は、同じ種の植物であってもよい。例えば、植物が遺伝子改変されている場合、参照植物は、その植物が由来するところの野生型植物であり得る。いくつかの実施形態において、植物は、例えば本明細書に記載されるベクターまたは遺伝因子を含む、本発明の植物である。植物はまた、本明細書に記載されるように、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現したものであってもよい。いくつかの実施形態において、参照フルクトースレベルは、同じ植物器官および/または同じ植物細胞型において決定される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】MSTトランスポーターファミリーの系統樹 (
図1A) 。図はPommerrenig et al. (2018) から引用した。53種類のアラビドプシスMSTファミリータンパク質のヌクレオチド配列に基づく系統樹。ノードにおける数字はノードサポート値を示す。100未満の値のみを示している。MSTサブファミリーは以下のように略記される。PMT, POLYOL MONOSACCHARIDE TRANSPORTER(ポリオール単糖トランスポーター); VGT, VACUOLAR GLUCOSE TRANSPORTER(液胞グルコーストランスポーター); TST, TONOPLAST SUGAR TRANSPORTER(液胞膜糖トランスポーター); ERDL, EARLY-RESPONSE TO DEHYDRATION SIX-LIKE protein(脱水初期応答6様タンパク質); STP, SUGAR TRANSPORTER(糖トランスポーター); pHT, PLASTIDIC HEXOSE TRANSPORTER(プラスチドヘキソーストランスポーター); INT, INOSITOL TRANSPORTER(イノシトールトランスポーター)。個々の輸送タンパク質の名称が、アラビドプシスの識別名(図中括弧内)とともに示されている。円の外側の文字は、タンパク質の細胞内局在を示す:PM、細胞膜;T、液胞膜;C、葉緑体;G、ゴルジ体。*印は、葉緑体移行ペプチド配列(ChloroP 1.1; Emanuelsson et al. 1999)の同定により予想される葉緑体局在を示す。括弧内の文字は推定される局在を示す(例えば異種系で局在が示されている場合)。クエスチョンマークは細胞内局在未知を表す。各サブファミリーについて、試験された、および推定された輸送基質を記載している。フォントサイズが大きいほど、基質に対するサブファミリーメンバーの親和性が高いことを示す。MSTヌクレオチド配列は、aramemnonデータベース(Schwacke et al. 2003)から得た。すべてのMST配列についての複数配列アラインメントは、Clustal Omega(Sievers et al. 2011)を用いて構築した。ベイズ系統進化解析は、HKY+I+Gモデルを用いたMrBayes version 3.2.6(Ronquist and Huelsenbeck 2003)で行った。MrBayesは、200万世代について四つの鎖を用いた二つの並行するメトロポリス結合モンテカルロマルコフ連鎖解析を実施することによって実行した。分割頻度のSDは<0.01であった。ツリーファイルはFigTree v.1.4.3を使用して可視化した。
図1BはAtERDL4遺伝子を含む部分の拡大図である。
【
図2】GFPとのERDL4のN末端融合体の液胞膜局在。A-F) PromoterUBQ10-ERDL4-GFPコンストラクトで形質転換したタバコ葉肉プロトプラストの共焦点画像。スケールバーは10μm。A-F) ERDL4-GFP融合体を発現するタバコプロトプラストの画像。同じプロトプラストの異なる共焦点チャンネルを示す。A) 明視野画像 B) 葉緑体(球)の位置を示す、クロロフィル由来の自己蛍光 C) ERDL4-GFP融合タンパク質の位置を示すGFP由来蛍光 D) クロロフィルとGFP蛍光のオーバーレイ。 EおよびF) ERDL4-GFP蛍光を発現する溶解されたプロトプラストの画像 E) 液胞膜(トノプラスト)におけるGFP由来の蛍光 F) GFP蛍光と明視野画像のオーバーレイ。C~Fにおける白い三角形は液胞膜を指している。G) ERDL4タンパク質のC末端でGFPに融合された、ERDL4タンパク質の2D構造の模式図。タンパク質構造内の異なる数字は、ERDL4タンパク質の異なる膜貫通ヘリックスを示す。黒い三角形は、予想されるリン酸化部位であるセリンまたはトレオニン残基を指している。
【
図3】ERDL4の局在と提案された機能の模式図。糖すなわちグルコース (glc)、フルクトース (frc)、およびスクロース (suc) のTST2およびVGT1/2依存性輸送は、サイトゾルのフルクトースによって刺激される。TSTによる輸入または液胞suc加水分解に由来する液胞frcは、ERDL4を介してサイトゾル(cytosol)に輸送され、TST2およびVGT1/2活性を活性化する(模式図のTST2およびVGT1/2輸送体上の星印で示す)。ERDL4のfrcに対する特異性が高いため、総じて液胞には高濃度のsucとglcが蓄積するがfrcは蓄積しない。
【
図4】異なるerdl4突然変異体およびERDL4過剰発現植物の表現型と新鮮重(fresh weight)。A) 短日条件下の土壌基質で生育した4週齢のWT、35S-ERDL4、およびerdl4ノックアウト植物の表現型。B) (A) に示した植物の新鮮重に基づくシュートバイオマスの定量化。棒グラフはn=12の独立の植物からの平均値±SEを示す。アステリスクはスチューデントt検定によるWTとの有意差を示す (*p<0.05) 。
【
図5】さまざまなerdl4突然変異体およびERDL4過剰発現植物の根パラメータの特徴。A) 水耕栽培で育てた5週齢のWT、35S-ERDL4、およびerdl4ノックアウト植物のロゼットと根の典型的写真。ERDL4過剰発現植物はより根が長く、よりバイオマスが大きい。B) (A) に示した植物からの根の乾燥バイオマス。棒グラフはn=6の根からの平均値±SEを示す。アステリスクはスチューデントt検定によるWTとの有意差を示す。C) 6日間にわたって測定された、WTおよび35S-ERDL4植物の一次根の長さ。
【
図6】ERDL4過剰発現植物では1,000個種子重量が増加する。WT、erdl4ノックアウト変異体およびERDL4過剰発現植物からの乾燥成熟種子の1000個種子重量。棒グラフは、1系統あたりn=6植物個体の1000個種子重量の平均値を示す。アステリスクはスチューデントのt検定による有意差を示す(**=p<0.01;***=p<0.001)。
【
図7】erdl4ノックアウト変異体およびERDL4過剰発現植物からの乾燥成熟種子の種子脂質(seed lipids)含量。棒グラフは1系統あたりn=6植物個体からの平均値を示す。アステリスクはスチューデントt検定による有意差を示す(*=p<0.05;**=p<0.01;***=p<0.001)。
【
図8】ERDL4過剰発現株の分離された葉からの師部糖(phloem sugar)流量の増加。五週齢のWT、35S-ERDL4、およびerdl4ノックアウト植物の分離された葉から採取された師部滲出液中の糖をヘキソース当量として測定。棒グラフは少なくともn=12の葉からの平均値±SEである。アステリスクはスチューデントt検定によるWTとの有意差を示す。
【
図9】WT、ERDL4過剰発現植物、および突然変異体植物における全体および細胞内の糖蓄積。A) シュートにおけるグルコース (glc)、フルクトース (frc)、スクロース (suc) の含量。B~D) WT、ERDL4過剰発現植物、および突然変異体植物からのシュートの液胞(vacuole)、葉緑体(chloroplast)およびサイトゾル(cytosol)画分におけるグルコース (B)、フルクトース (C)、スクロース (D) の細胞内含量(非水性分画により得た)。棒グラフはn=5の植物の平均値±SEを示す。棒グラフの上の異なる文字は、post-hoc Tukey検定による一元配置分散分析に基づく有意差を示す (p<0.05) 。nd=定量可能な量が検出されなかった。
【
図10】CIPK6発現はフルクトースによって、そしてERDL4過剰発現系統においても増加する。A) 異なる糖またはマンニトールに応答したCIPK6 (At4g30960) およびTST2 (At4g35300) の相対発現(Relative Expression)。Arabidopsis thalianaの供給源葉から切り出した葉片を、それぞれの糖またはマンニトールを添加しない (対照) または2%添加した半強度MS培地中にインキュベートすることによって糖処理を行った。発現はRT-qPCRで定量し、AtACT2の発現に対して正規化した。B) WTおよび二つの35S-ERDL4系統におけるCIPK6 (At4g30960) の相対発現。A-B) 棒グラフはn=4反復の平均値±SEを示す。アステリスクはスチューデントt検定による有意差を示す(*=p<0.05;**=p<0.005;***=p<0.001)。
【
図11】Arabidopsis thalianaの葉における糖含量の低温順化と脱順化の動態。低温ストレス(4℃)および脱順化(20℃)下でのCol-0、tst1-2ダブルノックアウト、および2つのBvIMP2(=BvERDL4)過剰発現系統について経時変化を記録した。A) グルコース(glucose)含量 B) フルクトース(fructose)含量 C) スクロース(sucrose)含量。各時点は、系統あたり少なくとも3個体の植物からの平均値を表す。エラーバーはSEを示す。アステリスクは、所与の時点でのWTと比較したBvIMP2過剰発現系統の有意な変化を示す。異なる色のアステリスクは対応する系統との関係を示す(グレー=BvIMP2 OX1、黒=BvIMP2 OX2)。
【
図12】対照条件または干ばつ条件下で生育した植物の新鮮重量(Fresh Weight)。干ばつストレスは土壌基質の圃場容水量 (FC) に基づいて適用された。(A) 100% FC=対照、十分に水を与えた条件;(B) 60% FC=軽度の干ばつストレス;(C) 40% FC= Arabidopsis thaliana Col-0(Wt、コントロール)、2つのERDL4過剰発現系統(Oex1、Oex2)、およびerdl4ノックアウト系統(KO1、KO2)に対する重度の干ばつストレス。植物は100% FC下で7日間栽培された後にストレスを受け、それぞれのFC下で3.5週間栽培された。棒グラフは少なくともn=6植物の平均値±SEを示す。アステリスクはスチューデントt検定によるWTとの比較における有意差を示す(*=p<0.05;**=p<0.005;***=p<0.001)。
【
図13】ERDL4過剰発現植物およびWT植物、ならびにフルクトース (Frc) またはグルコース (Glc) およびマンニトール (Man=対照) でインキュベートされた葉ディスクからの、差次的に発現した遺伝子(DEG)間のベン図および相関分析。A) およびC) はDEGのベン図を示す。円の中の数字はDEGの数を表す(三つの反復の両側t検定によりp<0.001で有意)。484個の35S-ERDL4依存性DEG、4340個のFrc依存性DEG、5148個のGlc依存性DEGが存在した。A) 35S-ERDL4とFrc処理からのDEGの重複を示す図。ERDL4過剰発現とFrcの両方によって制御されたDEGが130個存在した。B) 35S-ERDL4(WTに対する)およびFrc(Manに対する)の間の、130個のDEGの相対発現(log2倍変化に基づく)間の相関。r = ERDL4/WTおよびFrc/Manマトリックスから計算されたピアソン係数。C) 35S-ERDL4およびGlc処理からのDEGの重複を示す図。ERDL4過剰発現とGlcの両方によって制御される155個のDEGが存在した。D) 35S-ERDL4(WTに対する)およびFrc(Manに対する)の間の、155個のDEGの相対発現(log2倍変化に基づく)間の相関。r = ERDL4/WTおよびGlc/Manマトリックスから計算されたピアソン係数。
【
図14】
図14は、ERDL4のBeta vulgaris遺伝子(BvERDL4 ;2 (BvIMP2; Bv6_128840_qhip.t1)、配列番号76)のゲノム配列を示す。プロモーター領域はイタリック体で示され、5’-UTRおよび3’-UTR領域は太字で示され、CDS領域は下線で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において引用される、特許、特許出願および科学刊行物を含むがこれらに限定されない全ての刊行物は、個々の刊行物が各々参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されているかのように、全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる。
【0026】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者により一般的に理解される意味を有する。
【0027】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形も包含することを意図している。
【0028】
本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目の1つ以上のあらゆる可能な組み合わせを、また、代替的に解釈される場合(「または」)には組み合わせの欠如を、表し、包含する。
【0029】
用語「含む(comprising)」並びに「comprises」および「comprised」のような他の文法的形態の使用は、限定的ではない。用語「含む(comprising)」、「comprises」および「comprised」は、明示的に記載された技術的特徴に加えて、追加の技術的特徴を含み得るが、必ずしも含む必要はない、本発明の実施形態のオープンエンドの記述を表すものとして理解されるべきである。同様の意味で、用語「含む(involving)」並びに「involves」および「involved」のような他の対応する文法的形態の使用は、限定的ではない。同じことが、「含む(including)」という用語、並びに「includes」および「included」などの他の文法形態にも適用される。
【0030】
明細書全体にわたりセクション見出しは、まとめることのみを目的とする。特に、それらは、そこに記載される様々な実施形態を限定する意図のものではなく、1つの小見出しの下に記載される実施形態 (およびその中の特徴) は、別の小見出しの下に記載される実施形態 (およびその中の特徴) と自由に組み合わせることができることが理解されるべきである。
【0031】
さらに、「comprising」、「involving」および「including」という用語、およびそのあらゆる文法的形態は、明示的に記載されたものに対して追加の特徴を含む実施形態のみを指すと解釈されるべきではない。これらの用語は、明示的に言及された特徴のみからなる実施形態も同様に表す。
【0032】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」は、天然に存在するまたは修飾されたヌクレオチドのオリゴマーまたはポリマーを指す。核酸はまた、参照配列に対するヌクレオチド置換を含むことができる。例えば、核酸は、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のヌクレオチド置換を含むことができる。核酸は、参照配列に対して100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%または50%の配列同一性を有し得る。参照配列は、配列番号1~配列番号152による配列を有する核酸であり得る。核酸は、リボ核酸 (RNA)、もしくはデオキシリボ核酸 (DNA)、またはRNAとDNAのハイブリッドであってよい。核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖核酸は、RNA-RNA、RNA-DNA (ハイブリッド)、またはDNA-DNAであってもよい。二本鎖形成は、例えば、ワトソン-クリック塩基対形成による水素結合を介して生じる。核酸は、1つまたは2つの3’オーバーハングを有してもよい。核酸は、1つまたは2つの5’オーバーハングを有してもよい。核酸は、1つまたは2つのブラントエンドを有してもよい。上記のオーバーハングまたはブラントエンドの組み合わせも含まれる。
【0033】
核酸は、ヌクレオチドの塩基についての一般に受け入れられている文字コード、すなわちA (アデニン)、C (シトシン)、G (グアニン)、T (チミン) およびU (ウラシル)で示されるヌクレオチドの配列によって定義され得る。本明細書において使用されるところの「配列」は、ヌクレオチドの配列またはアミノ酸の配列を指す。
【0034】
アミノ酸の配列は、参照配列に対して100%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%または50%の配列同一性を有し得、および/または参照配列に対してアミノ酸置換を含み得る。
【0035】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、ストリンジェントな条件下、例えば、約50°C、51°C、53°C、54°C、55°C、56°C、57°C、58°C、59°C、60°C、61°C、62°C、63°C、64°C、65°C、66°C、67°C、68°C、69°Cまたは70°C以上のTm (融解温度) に相当する条件下でハイブリダイズすることができることを意味する。
【0036】
「スクロース濃度の増加」または「増加されたスクロース濃度」または「植物のスクロース貯蔵器官のより高いスクロース濃度」とは、同一条件下で培養された基準植物と比較した場合において、少なくとも0.2%、0.4%、0.6%、0.8%または1%、好ましくは少なくとも1.2%、1.4%、1.6%、1.8%または2%、特に好ましくは少なくとも2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、6%、7%、8%または10%、最も好ましくは少なくとも15%の、スクロース貯蔵器官の新鮮重量に基づく平均スクロース濃度の増加を意味する。
【0037】
ある実施形態において、植物貯蔵化合物の収量の増加は、スクロース濃度の増加である。
【0038】
「植物貯蔵化合物の収量の増加」とは、収量が基準植物に対して増加することを意味する。基準植物は、本明細書で定義される基準植物、例えば、収量の増加した植物が由来するところの野生型植物であり得る。収量の増加した植物は、遺伝的に改変されたものであり得、例えば、植物は、本発明のベクターまたは可動遺伝因子を含んでもよい。植物貯蔵化合物の収量は、当該技術分野において一般的なやり方で決定される。例えば、収量は、栽培面積当たりの植物貯蔵化合物の質量であってもよい。
【0039】
貯蔵器官は、植物貯蔵化合物を貯蔵する植物器官である。貯蔵器官は、糖貯蔵器官であってもよい。本明細書において使用される「糖貯蔵器官」は、植物がスクロースなどの糖を貯蔵し、収穫されることができる、植物の一部分である。特に、糖貯蔵器官は、ビート、またはトウモロコシ核などの果実であり得る。
【0040】
「植物」は、作物植物であり得、特に、テンサイ (Beta vulgaris)、キャベツ類 (Brassica rapa)、セイヨウアブラナ (Brassica napus)、ヒマワリ (Helianthus annuus)、ジャガイモ (Solanum tuberosum)、トウモロコシ (Zea mays)、イネ (Oryza sp.、例えばOryza sativa)、オオムギ (Hordeum vulgare)、ライムギ (Secale cereale)、モロコシ (Sorghum sp.、例えばSorghum bicolor)、Brassica oleracea capitata、ダイズ(Glycine max) およびエンドウ (Pisum sativum) などのタンパク質植物、コムギ (Triticum aestivum) を含む他の穀物、アルファルファ (Medicago satvia) などのサイレージ作物、ホワイトマスタード (Sinapis alba) などの間作物、ダイコン (Raphanus sativus)、ファセリアなどの顕花植物、ソバ (Fagopyrum esculentum)、野生カブ (Brassica rapa) または以下のものを含むその他の野菜であり得る:ホウレンソウ (Spinacia oleracea)、レッドビート (Beta vulgaris ssp. vulgaris)、スイスチャード (Beta vulgaris ssp. vulgaris)、トマト (Lycopersicum esculentum)、インゲン (Phaseolus vigna spp.)、ペッパー類 (Capsicum annuum)、キュウリ (Cucumis sativus)、スイカ (Citrullus lanatus) およびメロン (Cucumis melo)。いくつかの実施形態において、植物はトランスジェニック植物である。いくつかの実施形態において、植物は改変されており、特に遺伝的に改変されている。いくつかの実施形態において、植物の改変は、特に、その改変された植物が由来するところの野生型植物などの参照植物と比較して、植物のサイトゾルにおけるフルクトースのレベルの増加をもたらす。フルクトースレベルの増加は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体、例えば本明細書に教示される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体のいずれか1つを過剰発現することによって達成され得る。
【0041】
用語「液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現する」は、植物、植物細胞または液胞膜における液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の量が、過剰発現するように改変されていない参照植物、植物細胞または液胞膜よりも多いことを意味する。例えば、その植物が由来するところの野生型植物と比較して液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現する場合、その植物は、野生型の植物、植物細胞または液胞膜よりも植物、植物細胞または液胞膜においてより多くの量の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を含む。
【0042】
「液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体(symporter)」は、液胞膜に位置し、液胞からサイトゾルにプロトンおよびフルクトースを輸送するコトランスポーター(co-transporter)タンパク質である。
【0043】
本発明は、核酸分子を含む、ベクターまたは可動遺伝因子を含み、前記核酸分子は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードし、前記核酸分子は、以下のものからなる群より選択される:
a) 配列番号40、39、1、および129-152に記載の配列のいずれか1つからなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも50%の核酸配列同一性を有する核酸分子、
b) a) に記載の核酸分子と相補的であるかまたはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列を有する核酸分子、
c) 配列番号58、57、22、および77-128に記載の配列のいずれか1つからなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも50%のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質をコードする核酸配列を有する核酸分子。
【0044】
一実施形態において、ベクターまたは可動遺伝因子に含まれる核酸分子は、配列番号40、39、1、および129-152に記載の配列のいずれか1つからなる群より選択される核酸配列に対して少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%の配列同一性を有する。
【0045】
一実施形態において、核酸分子によってコードされるタンパク質は、配列番号58、57、22、および77-128に記載の配列のいずれか一つからなる群より選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%の配列同一性を有する。
【0046】
ベクターまたは可動遺伝因子は、さらに、配列番号1-152に記載の核酸配列のいずれか1つ以上、または配列番号1-152に記載の核酸配列のいずれか1つからなる群から選択される核酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有する核酸分子を含むことができる。
【0047】
ベクターまたは可動遺伝因子は、さらに、配列番号1-152に記載のアミノ酸配列のいずれか1つをコードする1以上の核酸配列、または配列番号1-152に記載のアミノ酸配列のいずれか1つからなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする1以上の核酸配列を含み得る。
【0048】
ベクターまたは可動遺伝因子は、本明細書に教示される方法および使用において、例えば、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現を達成するために、使用され得る。例えば、ベクターまたは可動遺伝因子は、本明細書に記載される宿主細胞を産生するために使用することができ、その結果、宿主細胞、例えば植物細胞は、そのベクターまたは可動遺伝因子を含むことになる。ベクターまたは可動遺伝因子は、本明細書に記載される植物を産生するために使用され得る。特に、本明細書に記載される植物は、ベクターまたは可動遺伝因子を含むことができる。ベクターまたは可動遺伝因子は、植物貯蔵化合物の収量を増加させるために使用することができる。ベクターまたは可動遺伝因子は、植物のバイオマス、特に、植物の少なくとも1つの器官のバイオマスを増加させるために使用することができる。ベクターまたは可動遺伝因子は、植物の少なくとも1つの器官における少なくとも1つの植物貯蔵化合物の濃度を増加させるために使用することができる。いくつかの実施形態において、植物貯蔵化合物の収量は、植物の少なくとも1つの器官のバイオマスを増加させることによって、もしくは少なくとも1つの植物器官における植物貯蔵化合物の濃度を増加させることによって、または前記バイオマスおよび濃度を増加させることの両方の組み合わせによって、増加させることができる。さらに、ベクターまたは可動遺伝因子は、本明細書に記載されているように、植物のスクロース貯蔵器官におけるスクロース濃度を増加させるために使用することができ、特に、本明細書に記載されているように、植物のスクロース貯蔵器官におけるスクロース濃度を増加させる方法においてそのベクターまたは可動遺伝因子を使用することによってそれを行うことができる。ベクターまたは可動遺伝因子はまた、植物における液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の記載された使用に適用して、例えば植物の細胞にそのベクターまたは可動遺伝因子を導入することによって、植物のスクロース貯蔵器官におけるスクロース濃度を増加させることができる。ベクターまたは可動遺伝因子はまた、植物のバイオマスを増加させる記載された方法において使用することができる。特に、ベクターまたは可動遺伝因子に含まれる核酸分子によってコードされる本明細書に記載の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現させると、ベクターまたは可動遺伝因子を含む植物のバイオマスの生産の増加がもたらされる。ベクターまたは可動遺伝因子は、植物に含まれる場合、本明細書に記載されているように、スクロース濃度の増加ももたらす。
【0049】
ベクターまたは可動遺伝因子は、形質転換、トランスフェクション、または当技術分野で公知の他の手段によって、真核細胞または原核細胞などの細胞に導入することができる。例えば、ベクターまたは可動遺伝因子は、そのベクターまたは可動遺伝因子を含有するAgrobacterium tumefaciensを植物細胞に感染させることによって植物細胞に導入することができる。ベクターまたは可動遺伝因子は、バイオリスティック移入またはプロトプラスト形質転換によって植物細胞に導入することもできる。好ましくは、ベクターまたは可動遺伝因子を細胞のゲノムに組み込むことによって、ベクターまたは可動遺伝因子が細胞内で安定に維持される。ベクターまたは可動遺伝因子を植物細胞などの細胞のゲノムに安定に組み込むことによって、ベクターまたは可動遺伝因子を安定に保持する細胞から植物体を再生することができ、それによってトランスジェニック植物を生産することができる。
【0050】
ゲノム編集を使用して、ベクターまたは可動遺伝因子を植物ゲノムに導入することができる。ゲノム編集を使用して、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体をコードする内因性遺伝子のプロモーターを改変して、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体が過剰発現されるようにすることができる。ゲノム編集には、例えばCRISPR-ヌクレアーゼ系を使用したCRSIPR遺伝子編集が含まれる。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、ベクターまたは可動遺伝因子を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、本明細書に記載の細胞、特に本明細書に記載の植物の植物細胞であり得る。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、少なくとも1つの宿主細胞を含む植物または植物の一部分に関する。ここで、宿主細胞は、好ましくは、本明細書に記載のベクターまたは可動遺伝因子を含む。
【0053】
本明細書に記載の植物は、特に、それが由来する野生型植物と比較してサイトゾルにおいて上昇されたレベルのフルクトースを含むように遺伝子改変されていることで特徴付けられる。植物のサイトゾルにおけるフルクトースのレベルは、野生型植物のサイトゾルにおけるフルクトースのレベルよりも少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、少なくとも160%、少なくとも170%、少なくとも180%、少なくとも190%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%、または少なくとも500%高くすることができる。
【0054】
植物、例えばトランスジェニック植物の、サイトゾルにおけるフルクトースのレベルの上昇は、異なる方法で達成することができる。例えば、植物のサイトゾルにおけるフルクトースのレベルの上昇は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体、特に本明細書に開示されている液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現をもたらす任意の方法で達成することができる。
【0055】
液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現は、例えば、内因性の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体遺伝子のプロモーターを活性化することによって達成することができる。プロモーターのTATAボックスは、過剰発現を達成するために改変され得る。過剰発現を達成するために、例えば、本明細書に記載された、および当業者に知られたゲノム編集を介して、シス調節エレメントを導入することができる。植物におけるプロモーター活性化は、例えば、EP 3 546 582に記載されているようにして達成することができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の少なくとも1つの追加コピーを植物細胞に導入することによって達成される。液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の追加コピーは、内因性の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の追加コピーまたは異種性の液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の追加コピーであり得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体は、本明細書に開示されている液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体のいずれか1つであり得、例えば、Arabidopsis thaliana (At)のERDL4(配列番号1および配列番号22)、Beta vulgaris (Bv)のBvIMP(配列番号39および配列番号57)、Beta vulgarisのBvIMP2(配列番号40および配列番号58)、または配列番号77-128に記載の配列のいずれか1つであり得る。好ましくは、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体は、本明細書の実施例で特定された候補のいずれか1つであり得る。より好ましくは、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体は、Arabidopsis thalianaのERDL4、Beta vulgarisのBvIMP、またはBeta vulgarisのBvIMP2であり得る。
【0058】
特に好ましい実施形態において、植物は、BvIMPまたはBvIMP2などの液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現するBeta vulgarisである。
【0059】
いくつかの実施形態において、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体は、本明細書に教示される液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体アミノ酸配列のいずれか、特に配列番号58、57、22、および77-128のいずれかに対して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0060】
液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現することに加えて、本発明の有益な効果を達成するために、サイトゾル中のフルクトースのレベルを増加させるために他の手段を適用してもよい。
【0061】
例えば、SWEET(Sugars Will Eventually be Exported Transporter 17)の発現の下方調節は、サイトゾル中のフルクトースの量を増加させ得る。SWEET17は、液胞膜を通してフルクトースを輸送することができる。ある実施形態において、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現は、SWEET17の発現の下方調節と組み合わせられ得る。SWEET17の発現の下方調節は、様々な手段で、例えば、SWEET17遺伝子を遺伝的にノックアウトするか、またはRNAiを使用することによって達成され得る。ある実施形態において、SWEET17は、Arabidopsis thalianaのSWEET17 (配列番号5、28)またはBeta vulgarisのSWEET17 (配列番号45、64)である。SWEET17の下方調節は、任意の植物に、特にSWEET17のオーソログを有する作物植物に適用することができる。
【0062】
フルクトースをリン酸化してサイトゾル中の遊離フルクトースの量を減少させるフルクトースキナーゼおよび/またはヘキソキナーゼの活性を減少させることによっても、サイトゾル中のフルクトースのレベルを増加させることができる。したがって、フルクトキナーゼおよび/またはヘキソキナーゼの発現レベルを減少させて(例えば下方調節やノックアウトによって)サイトゾル中のフルクトースのレベルを増加させることが企図される。いくつかの実施形態において、フルクトキナーゼおよび/またはヘキソキナーゼは、本明細書に開示されたフルクトキナーゼおよび/またはヘキソキナーゼの群から選択される。好ましくは、フルクトキナーゼおよび/またはヘキソキナーゼの発現レベルの減少は、液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体の過剰発現および/またはSWEET17の発現の下方調節と組み合わせられ得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、エチルメタンスルホネート (EMS) などの化学的変異原を使用するTILLING(Targeting Induced Local Lesions in Genomes)を適用して、増加されたフルクトースのサイトゾルレベルを有する変異体植物を同定することができる。例えば、いくつかの実施形態において、TILLINGを使用して、ERDL4、BvIMPまたはBvIMP2などの液胞膜プロトン-フルクトース共輸送体を過剰発現する植物を同定することができる。
【0064】
植物貯蔵化合物の収量を増加させることは、本明細書に教示された植物ではない対応する植物、特に、サイトゾル中のフルクトースレベルがより低い対応する植物、および/または本技術的教示に従って改変されていない植物に対して、植物貯蔵化合物の収量を増加させることを指す。対応する植物は、同じ種の植物である。
【0065】
本発明の方法および使用、例えば、植物を生産する方法、植物貯蔵化合物の収量を増加させる方法、および植物の干ばつ抵抗性を増加させる方法は、植物を成長させる工程を含み得る。
【実施例】
【0066】
実施例1:ERDL4の過剰発現はサイトゾルのフルクトースを増加させる
ERDL4 (Early Response to Dehydration-Like 4) と呼ばれる、液胞膜に局在するトランスポーターは、MSTファミリーのトランスポーターの大きなサブグループに属し(
図1;Buettner, 2007)液胞からサイトゾルにフルクトースを輸出するプロトン共輸送体であるが(
図2および3)、その過剰発現は、サイトゾルにおけるフルクトースの増加をもたらす。他の糖も輸送されるかどうかはまだ解明されていない。
【0067】
フルクトースが感知され、そのことにより核内シグナル伝達に寄与するためには、フルクトースはサイトゾルに存在しなければならない。そうでなければ、液胞は細胞の「外側」とみなされ核には細胞の外側は見えないため、転写制御は起こらない。非水性分画(NAF:non-aqueous fractionation)実験において、ERDL4を過剰発現しているArabidopsis thaliana植物ではフルクトース含量がサイトゾルで特異的に増加していることを示すことができた(
図9)。
【0068】
ERDL4 Oex(過剰発現)系統の生成。
ERDL4の全長コード領域を、プライマーERDL4_Fwd: (5′-ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttaATGAGTTTTAGGGATGATAATACG-3′) およびERDL4_Rev: (5′-ggggaccactttgtacaagaaagctgggtaTCATCTGAACAAAGCTTGGATCTC-3′)で増幅し、pDON/Zeo中にクローニングし、pK2GW7 GatewayTMベクターにサブクローン化して(Karimi et al., 2002)、Col-0バックグラウンドで過剰発現系統を作製した。形質転換にはAgrobacterium tumefaciens GV3101株を用いた。Arabidopsis Col-0株をフローラルディップ法(Clough and Bent, 1998)で形質転換した。陽性系統をカナマイシン抗生物質耐性によりスクリーニングし、さらにRT-PCRを用いて最強系統を選抜した。
【0069】
代謝産物の定量
凍結し細かく粉砕した植物材料100 mgに1mlの80%エタノールを加え、80℃で30分間、可溶性糖の抽出を行った。抽出物を回収し、真空濃縮器(Eppendorf, Hamburg, Germany)中で蒸発させた。得られたペレットをddH2Oに溶解し、96ウェルプレートリーダー(Tecan Infinite 200; Tecan Group)を介してNADP結合酵素試験(Stitt et al., 1989)を用いて定量した。
【0070】
実施例2:サイトゾルフルクトースの増加は植物バイオマス生産に有益である。
Arabidopsis thaliana ERDL4過剰発現植物は、より大きな葉ロゼット (
図4) とより高い根バイオマス (
図5) を有し、対照植物よりも1000種子重量が高く (
図6)、種子の脂質含量が高い (
図7) 。さらに、師部を介して葉から輸出される糖フラックス(flux)が対照植物より高い (
図8) 。
【0071】
ERDL4過剰発現株のロゼットサイズの増加、根バイオマスおよび種子重量:
21℃、短日(10時間明/14時間暗)の条件下、土壌基質ED73(Patzer Einheitserde, Sinntal-Altengronau, Germany)上で生育させた4週齢植物体からのロゼットの新鮮重量(rossette fresh weight)を測定することによりロゼットのサイズを決定した。ロゼットは胚軸上で切断し、土壌粒子を除去した。
【0072】
水耕栽培システムで生育させた4週齢植物体から根バイオマスを測定した。植物体を水耕栽培システムから除去し、個々の植物体の根を胚軸下で切断した。切断された根株をペーパータオル上で前後に転がして、余分な水分を除去した。根の新鮮重は精密天秤(Sartorius, Goettingen, Germany)を用いて測定した。新鮮重測定後、根を55℃のオーブンで一晩乾燥させ、再び重量を測定した。
【0073】
種子重量測定のために、異なる系統の植物体を21℃の短日(10時間明/14時間暗)下で五週間生育させた後、21℃の長日(18時間明/6時間暗)に移して種子成熟に至らせた。WT、二つのERDL4過剰発現系統、および二つのerdl4突然変異系統からの少なくとも四つの植物体の約1000個の成熟種子を計数し、重量を測定した。1000個種子重量は、収穫した種子の重量を種子数で割り、その値を1000倍することにより計算した。
【0074】
脂質含量の測定:
脂質の定量は以前に最適化されたプロトコール(Reiser et al., 2004)に従って行った。100 mgの種子を液体窒素を有する乳鉢中でホモジナイズした。ホモジネートに1.5 mlのイソプロパノールを加え、種子をさらにホモジナイズした。それを1.5 mlのエッペンドルフチューブに移し、4℃で12時間、100 rpmにてインキュベートした。試料を13,000 gで10分間遠心分離した。次に、上清を、あらかじめ秤量した1.5 mlのエッペンドルフチューブに移し、60℃で8時間蒸発させた。残った脂質ペレットを重量法で定量した。
【0075】
師部滲出液の測定:
師部滲出液は、若干の変更を加えたXu et al. [2019] のプロトコールに従って採取した。6週齢の十分に水を与えた植物から得た同じ発達段階のソース(source)葉を、葉柄の基部にて鋭いカミソリの刃で切断した。葉柄を20 mMのK2-EDTA溶液に浸漬した。同じ系統の葉を重ね、EDTA溶液に浸漬しながら葉柄を再切断した。次に葉を、500 ulのEDTA溶液を有する1.5 mlエッペンドルフチューブに移した。暗く高湿のチャンバー内で滲出液を6時間収集した。葉の重量を量り、滲出液を真空濃縮器で乾燥させた。糖定量のためにペレットを100 ulのddH2O中に可溶化した。
【0076】
実施例3:サイトゾルのフルクトースの増加は核で感知され、転写調節を引き起こす
ERDL4の過剰発現はサイトゾルのフルクトースを増加させ、それは核で感知される。いくつかの遺伝子の転写は、サイトゾルにおける増加したフルクトースの存在によって脱調節される。そのような遺伝子の一例がCIPK6(カルシニューリンB様タンパク質 (CBL) 相互作用プロテインキナーゼ6;
図10)であり、そのタンパク質はリン酸化を介してTST2(Tonoplast Sugar Transporter 2)を活性化し、それがその後、さらなる単糖を液胞に取り込む(Deng et al., 2020)。このTST2の活性化が、フルクトース感知を通じたバイオマス増加の説明の一部となるかどうかは、まだ解明されていない。CIPK6の過剰発現は、これを検証するための一つの可能性である。一方、ERDL4過剰発現体におけるCIPK6のノックアウトは、TST2の転写的および翻訳後的な活性化の解明におそらくつながり、これらの活性化のいずれかが、ERDL4過剰発現表現型にとって重要であるかどうか、重要だとすればそれはどれか、のヒントを与えるかもしれない。しかし、Arabidopsis thalianaにおけるTSTの過剰発現は、バイオマス増加を伴う同様の表現型をもたらすことが示されている(Wormit et al., 2006; Wingenter et al., 2010)。他の遺伝子も、ERDL4過剰発現体および/または高サイトゾルフルクトース植物において脱調節される。これらもまた、見受けられる表現型の説明の一部となり得る。
【0077】
RNA-Seq解析のために、土壌基質ED73(Einheitserde Patzer, Sinntal-Altengronau, Germany)上で短日(21℃で10時間明、14時間暗)下で生育させた6週齢植物のソース葉から、RNEasy KIT(Qiagen, Hilden, Germany)を用いてRNAを単離した。手短に述べると、凍結および粉砕した組織約100 mgを、2 mlのエッペンドルフカップ中の1.5 mlのQiazol溶解試薬で抽出し、4℃、12.000 gで遠心分離した。RNEasyスピンカラムを用いて上清を精製した。RNA濃度はNanodrop 2000/2000c(Thermo Fisher, Germany)を用いて計算した。約5マイクログラムの全RNAをNOVOGENE(Cambridge, UK)に輸送し、RNAライブラリーの構築とバイオインフォマティクスRNaseq解析を行った(https://en.novogene.com)。
【0078】
実施例4:植物バイオマス生産を増加させるための、フルクトキナーゼとヘキソキナーゼの活性を低下させることによるサイトゾルフルクトースの増加
さらに、フルクトースを炭素代謝に戻すためにフルクトースをF6Pにリン酸化するいくつかの酵素が存在する ― したがって、発現のノックアウトまたは下方調節によってもたらされる特定のフルクトキナーゼ (FrcKs) とヘキソキナーゼ (HxKs) の活性低下も、より高いフルクトース濃度をもたらし、それによって、フルクトース感知および植物バイオマス産生の増加をもたらし得る。
【0079】
実施例5:ERDL4の過剰発現とSWEET17の下方調節が相乗効果をもたらし、サイトゾルフルクトースレベルを増加させて植物バイオマス産生を増加させる
さらに、シロイヌナズナのSWEET17(Sugars Will Eventually be Exported Transporter 17)は、液胞膜を越えてフルクトースを輸送する能力を有する。しかし、SWEET17は活性化されたトランスポーターではなくファシリテーターであるため、フルクトースはサイトゾルに蓄積されない(Chardon et al., 2013; Guo et al., 2014; Klemens et al., 2014; Valifard et al., 2021)。液胞膜を越えて潜在的に存在するフルクトース勾配(液胞 対 サイトゾルにおけるフルクトースの濃度)は、均等化されることしかできない。したがって、ERDL4の過剰発現とSWEET17の下方調節を同時に起こすと、より一層高いサイトゾルのフルクトースレベルがもたらされると予想される。例えばテンサイについては、BvERDL4;2(配列は付録を参照)とBvSWEET17(Arabidopsis thaliana由来のSWEET17の最も近いオーソログの配列が付録に記載されている)を改変して、サイトゾルのフルクトースを増加させ得る。
【0080】
実施例6:植物バイオマス産生の増加のための、作物植物におけるERDL4ホモログの過剰発現
・導入遺伝子を用いた過剰発現
改良を目指す作物の例として、テンサイについて企図される実験を記述する。しかしながら他の作物の改良も企図される。Arabidopsis thaliana ERDL4のテンサイオーソログの過剰発現は、増加されたバイオマスと収量につながると予測される。BvERDL4;2(BvIMP2)は、その過剰発現が液胞からのフルクトース輸出をもたらすことから(実験7;
図11)、適切な機能を持つ対応オーソログである可能性が高い。構成的プロモーター(例えば35S-CaMVプロモーターもしくはユビキチンプロモーター)または葉もしくは緑色組織特異的プロモーター(例えばそれぞれ、クロロフィルa/b結合タンパク質プロモーターもしくはStLS1プロモーター)の制御下でのBvIMP2の発現は、Arabidopsis thaliana ERDL4過剰発現表現型を模倣すると考えられる。
【0081】
・内因性遺伝子のプロモーター活性化による過剰発現
上記のGMアプローチの代替法は、TATAボックスのようなコアプロモーターエレメントを改変するか、またはゲノム編集によってシス調節エレメントを導入することにより、BvIMP2のプロモーターを活性化することである。このような改変されたプロモーターは、BvIMP2のより高い発現をもたらし、ひいては上述した表現型をもたらす。
【0082】
・ERDL4の過剰発現をもたらすTILLING変異体
さらに、プロモーターの活性化は変異誘発によっても、例えばコアプロモーターエレメントを改善する単一点変異によってももたらすことができる。さらに、コード配列または他の隣接する調節配列(まだ決定されていない)の変異誘発が、液胞からのフルクトース輸出を増強する活性の改善につながる可能性がある。
【0083】
・BvERDL4;1の変異誘発によるフルクトース輸送機能の獲得
BvERDL4;1(BvIMP)の配列はBvIMP2と類似していることから、変異誘発によってその機能をフルクトース輸送に向けることができるのが合理的と考えられる。このような余分のなフルクトース輸送体は、サイトゾルのフルクトースの増加をもたらし、上記と同様の表現型をもたらし得る。
【0084】
・ERDL4の過剰発現と、それに加えたSWEET17の下方調節/ノックアウト
上述したことと同様に、sweet17変異体のバックグラウンドにおけるBvIMP2の過剰発現(突然変異誘発またはゲノム編集によってもたらされる)は、さらに高いサイトゾルのフルクトース含量をもたらし得る(実験4参照)。あるいは、BvIMP2の過剰発現とBvSWEET17に対するRNAiを組み合わせてこの目的を達成することもできる。
【0085】
・ERDL4の天然の過剰発現体についての植物集団のスクリーニングと、その後の育種プールにおける対立遺伝子の増加
テンサイ(および他の作物)のエリートまたは外来性の育種材料の集団を、増加したBvIMP2発現を有する遺伝子型についてスクリーニングする。このようなスクリーニングは、葉のRNaseqを介して行われる。天然の過剰発現体の検出は、エリート材料への交配に使用され、育種プールにおけるその対応するアリルを増加させる。これは最終的に収量の増加につながるはずである。
【0086】
実施例7:Arabidopsisにおける潜在的テンサイERDL4ホモログの過剰発現は液胞からのフルクトース輸出を示す
低温ストレス(4℃)および再順化(20℃;
図11)下でのArabidopsis thaliana(Col-0、attst1-2、BvIMP2 OX1およびOX2)における糖およびデンプン含量の推移を解析したところ、AtERDL4のテンサイオーソログであるBvIMP2(Bv6_128840_qhip.t1)を液胞フルクトース輸出機能に割り当てることができた。14日間に亘るグルコース (a)、フルクトース (b)、スクロース (c) およびデンプン (d) の含量を示す。BvIMP2 OX1およびOX2のフルクトース含量は対照植物におけるフルクトースのレベルには達しず、対照植物よりも早く減少した。これは、BvIMP2が(内因的AtERDL4に加わって)液胞からフルクトースを輸出することを示している。サイトゾルのフルクトースはそれから代謝に送られ、同化反応に利用され得る。ここで、余分のフルクトースはデンプンを蓄積するための前駆体であると考えられる。
【0087】
低温ストレス(4℃)および再順化(20℃)の下でのArabidopsis thaliana(Col-0、attst1-2、BvIMP2 OX1およびOX2)における糖およびデンプン含量を分析するためには、50lの土に15lの砂を混合した標準土(ED-73;DIN1154080T)で植物を栽培した。実験に先立ち、植物を20℃(10時間明/14時間暗)110μmol m-2 s-1にて21日間生育させた。3週間後、植物を同じ明暗条件下の4℃に移した。4℃処理の前、4℃に移した1、2、4および7日後に植物材料を収穫した。7日間全体に亘る4℃処理の後、残った植物を20℃に戻し、戻した4日後および7日後に植物材料を収穫した。各4つの植物ロゼットのプールからなる4つの生物学的複製物を、光開始直後の午前10時に収穫した。収穫された植物材料を液体窒素に移して粉砕し、使用するまで-80℃で保存した。
【0088】
可溶性糖を凍結材料から抽出した。この目的のために、約50 mgの粉末化植物材料を秤量して80% EtOH溶液1 mlとし、80% EtOH溶液1 mlで80℃で1時間、350 rpmで振とうして2回抽出した。各抽出ステップの後、不溶性成分を14,000 rpmで10分間遠心分離し、その上清を2 mlの反応チューブ中にまとめた。次に、そのまとめた代謝産物抽出物を濃縮器兼真空遠心分離機(Eppendorf, Hamburg, Germany)で蒸発させた。蒸発済のペレットを1 mlのddH2Oに溶解し、測定まで-20℃で保存した。抽出後に残ったペレットを500μlの80% EtOHと1 mlのddH2Oで洗浄し、デンプン抽出のために使用した。
【0089】
デンプンの抽出のために、可溶性代謝物を抽出した後に残った洗浄ペレットを200μlのddH2Oと混合し、121℃で40分間オートクレーブした。その後、ペレット中に存在するデンプン鎖を加水分解的に消化した。デンプンの加水分解開裂のために、オートクレーブしたペレットに200μlの酵素混合物(5 U αアミラーゼ、Sigma-Aldrich, Munich, Germany;5 U アミログルコシダーゼ、Roche, Mannheim, Germany;200 mM酢酸ナトリウム;pH 4.8)を添加し、37℃で少なくとも4時間インキュベートした。酵素反応を停止するために、試料をその後95℃で10分間加熱した。14,000 rpmで10分間の最終の遠心分離後、上清を用いてデンプンを定量した。
【0090】
糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)および加水分解デンプンの濃度は、Stitt et al., 1989に記載されているようにNAD+カップリング化酵素アッセイにより測定した。この目的のために、190μlのプレミックスを10~20μlの試料に添加した。グルコース、フルクトースおよびスクロースは、酵素ヘキソキナーゼ(Roche, Mannheim, Germany)、ホスホグルコイソメラーゼ(Roche, Mannheim, Germany)およびインベルターゼ(Sigma-Aldrich, Munich, Germany)を添加した後、Infinite(登録商標)M Nanoマイクロプレートリーダー(Tecan, Maennedorf, Switzerland)を用いて波長340 nmで測光測定した。その後、糖含量をLambert-Beerの法則に従って計算した。
【0091】
糖定量用のプレミックスの組成:HEPES (pH 7.5) 100mM, MgCl2 10mM, ATP 2mM, NADP 1mM、およびLeuconostoc mesenteroides由来のグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ0.5 U。
【0092】
【0093】
実施例8:干ばつ耐性を高めるためのERDL4の過剰発現
ERDL4過剰発現体であるArabidopsis植物体は、十分に水を与えたコントロール条件下(100%圃場容水量;
図4を比較)ですでに、より高いバイオマスを有している。植物を軽度(60%圃場容水量)またはより厳しい(40%圃場容水量)干ばつストレスにさらすと、新鮮重量バイオマスは減少する。しかしながら過剰発現体植物では、バイオマス減少が対照ほど顕著ではなかった(
図12)。過剰発現体(Oex)と対照の新鮮重量比を計算すると、次のことが示される。
100%圃場容水量 ― Oex1/Wt =1.38; Oex2/Wt = 1.29
60%圃場容水量 ― Oex1/Wt = 1.72; Oex2/Wt = 2.01
40%圃場容水量 ― Oex1/Wt = 1.66; Oex2/Wt = 1.49
【0094】
干ばつ耐性のためのERDL4過剰発現の有益な効果は、過剰発現体植物の改善された根成長で説明でき(
図5を比較)、過剰発現体植物は、その伸長された根系を利用して、対照植物、さらにはerdl4変異体(KO1、KO2)よりも、よく水を採ることができる。結果として、より小さな根系を持つ変異体は特に干ばつに敏感である。
【0095】
土壌基質で生育する植物への干ばつストレスの適用:
植物を、土壌圃場容水量(field capacity:FC)(Bouzid et al., 2019)に基づいて干ばつ条件に晒した。植物は収穫まで、48時間の灌漑間隔によって、決められた土壌水分含量で維持された(対照=100%、60%、40% FC)。野生型およびERDL4過剰発現系統の種子を標準土壌(ED-73; Einheitserde Patzer; Sinntal-Altengronau, Germany)で発芽させ、植物を一週間生育させた後、対照土壌 (100%) と比較して60%の水分/圃場容水量 (FC) の土壌に移植した。浸透圧ショックを防ぐために、実生は100% FCから40% FCに直接は移植しなかった。その代わりに、100% FCで一週間および60% FCで一週間生育させた二週齢実生に、土壌水分が40%に達するまで水を与えなかった。その後、土壌水分レベルは、48時間間隔でポット重量(Xt)をモニターすること(精密天秤を用いて精度0.01g)によって一定に保たれた。土壌の圃場容水量を計算するために、3つのポットに、対応する土壌を充填した後、60℃のオーブンで4日間乾燥させ、各ポットの乾燥土壌重量(X0)を測定した。その結果として、さらに3つのポットに同じ量の土壌を充填し、乾燥させた後、土壌が飽和するまで水を与えた(Xf)。その後、ポットをグロースチャンバーに移した。48時間後、再びポットの重量を測定した(Xt)。土壌の圃場容水量に関するパーセンテージは、次の式を用いて計算した:[(Xt-X0)/(Xf-X0)] *100 (Bouzid et al., 2019)。
【0096】
土壌の圃場容水量に基づいて干ばつストレスを適用した(100%、60%、40%)。植物は発芽7日後にストレスに付された。ストレスは3.5週間適用した。収穫直後のロゼットの新鮮重量をもって新鮮重量を決定した。
【0097】
実施例9:Arabidopsis thalianaのERDL4過剰発現体で脱制御された多くの遺伝子は、グルコース浮遊ではなくフルクトース浮遊されたArabidopsis thalianaの葉ディスクでも脱制御されている
ERDL4の過剰発現はサイトゾルにおけるフルクトースとグルコースレベルの上昇をもたらすため、細胞内糖分布の変化によって引き起こされるグローバルな遺伝子発現への影響をRNASeq分析によってチェックすることが合理的である。ERDL4過剰発現体のトランスクリプトームの変化が細胞内グルコースまたはフルクトースの蓄積によって引き起こされるかどうかを試験するために、成熟したArabidopsisの葉から切除したディスクを、1%グルコース、1%フルクトース、または1%マンニトール(浸透圧コントロールとして)を補足したpH 5.7の0.5 MSバッファー溶液中で一晩インキュベートする対照実験を行った。これらの条件下では、補足された糖はアポプラズムを介して無傷の葉肉細胞に拡散し、そこでサイトゾルに取り込まれる。このような純粋な糖種によるフラッディング(flooding)は、遺伝子発現レベルで糖種特異的な応答を引き起こすことが示されている(Wormit et al., 2006; Luo et al., 2012)。異なる植物系統間または異なる処理間で有意な差次的発現を示す遺伝子は、「差次的発現遺伝子」(differentially expressed genes:DEGs)と呼ばれる。ERDL4過剰発現体と野生型 (WT) との間のDEGは、個々の遺伝子の発現の有意差を両側t検定により検定することによって同定されている。フルクトースとマンニトールのインキュベーション間またはグルコースとマンニトールのインキュベーション間のDEGは、個々の遺伝子の発現の有意差を両側t検定により検定することによって同定されている。条件解析により、ERDL4過剰発現体とフルクトース処理で重複するDEG、またはERDL4過剰発現体とグルコース処理で重複するDEGが同定された (
図13) 。全体で、ERDL4過剰発現体とフルクトース処理の間で130の共通DEGが、およびERDL4過剰発現体とグルコース処理の間で155の共通DEGが同定された (
図13) 。ERDL4過剰発現体とフルクトース処理からの130の共通DEG、およびERDL4過剰発現体とグルコース処理からの155の共通DEGの、遺伝子発現変化の個々の振幅に基づく相関分析により、ERDL4過剰発現体とフルクトース処理、およびERDL4過剰発現体とグルコース処理についてのピアソン係数はそれぞれr=0.48 (r
2=0.23) およびr=0.15 (r
2=0.0225) であった。この分析により、ERDL4過剰発現依存的遺伝子発現変化およびフルクトース依存的遺伝子発現変化の間には、ERDL4過剰発現依存的遺伝子発現変化およびグルコース依存的遺伝子発現と比較して十倍高い相関があることが明らかになり、ERDL4過剰発現体で記録された転写変化は、グルコースシグナル伝達の変化ではなくフルクトースの変化によって引き起こされたことが示された。
【0098】
実施例10:いくつかの双子葉植物および単子葉植物作物種におけるAtERDL4のオーソログ配列の同定
Arabidopsis thalianaのERDL4遺伝子とオーソロガスな作物遺伝子を同定するために、これらの遺伝子の対応するタンパク質 (アミノ酸) 配列を用いて一連の配列比較を行った。テンサイ (Beta vulgaris)、キャベツ類 (Brassica rapa)、アブラナ (Brassica napus)、ヒマワリ (Helianthus annuus)、ジャガイモ (Solanum tuberosum)、トウモロコシ (Zea mays)、イネ (Oryza sativa)、オオムギ (Hordeum vulgare)、ライムギ (Secale cereale) およびソルガム (Sorghum bicolor) の遺伝子/タンパク質を分析した。Arabidopsis thalianaタンパク質がBLAST検索(Altschul et al., 1997;標準的条件:Expect: 10; Matrix: BLOSUM62 でペアワイズのアラインメントを生成)を用いて互いに識別できることを示すために、AtERDL4、6および7のあいだの比較を最初に行った(表2、
図1も比較)。スコアが高いほど、配列はより類似している。ERDL6および7を解析に含めた理由は、ERDL6がArabidopsis thalianaにおいてERDL4の最も類似したパラログであり、ERDL7は2番目に類似したものであるもののERDL4および6とはすでにかなり異なっているためである(
図1も比較)。
【0099】
表2.Arabidopsis thaliana ERDL4、6および7の相互比較
【表2】
【0100】
AtERDL4、6および7は相互に識別可能である。
【0101】
Brassica rapaにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Brassica rapaゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。得られたBLASTスコアを表3に示す。
【0102】
表3.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とBrassica rapaタンパク質との比較
【表3】
【0103】
BrAおよびBrB(付録の全配列参照)はキャベツにおけるAtERDL4オーソログの候補であり、BrC、BrD、BrEはAtERDL6についての候補である。BrFはAtERDL7についての候補オーソログである。Arabidopsis thaliana由来の他の配列も解析に含めることができる (
図1) 。しかし、ここでの配列比較の目的は、(すべてのAtERDLタンパク質ではなく)AtERDL4のオーソログの最も可能性の高い候補を定義することだけである。
【0104】
Brassica napusにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4, (ii) AtERDL6および(iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Brassica napusゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。結果のBLASTスコアを表4に示す。
【0105】
表4.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とBrassica napusタンパク質との比較
【表4】
【0106】
BnA、BnB、BnCおよびBnDはアブラナにおけるAtERDL4オーソログの候補である。BnE、BnF、BnGおよびBrHはAtERDL6のオーソログである可能性がより高い。BnIおよびBnJはAtERDL4のオーソログの候補ではない可能性が高い。
【0107】
Beta vulgarisにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4, (ii) AtERDL6および(iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Beta vulgarisゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。得られたBLASTスコアを表5に示す。
【0108】
表5.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とBeta vulgarisタンパク質との比較
【表5】
【0109】
BvIMPおよびBvIMP2は、テンサイにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) オーソログの候補である。BvCはAtERDL4または6のオーソログの候補ではないようである。これらのデータはBvIMP2の機能解析によって支持され、それはBvIMP2がAtERDL4の機能的オーソログであることを示している(
図11参照)。
【0110】
Helianthus annuusにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4, (ii) AtERDL6,および(iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Helianthus annuusゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。結果のBLASTスコアを表6に示す。
【0111】
表6.それぞれAtERDL4、AtERDL6、およびAtERDL7とHelianthus annuusタンパク質との比較
【表6】
【0112】
HaAおよびHaBは、ヒマワリにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) オーソログの候補である。HaDはAtERDL4や6のオーソログ候補ではないようである。
【0113】
Solanum tuberosumにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Solanum tuberosumゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を実施した。得られたBLASTスコアを表7に示す。
【0114】
表7.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とSolanum tuberosumタンパク質との比較
【表7】
【0115】
StAおよびStBは、ジャガイモにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) オーソログの候補である。StFは、AtERDL4または6のオーソログの候補ではないようである。
【0116】
いくつかの単子葉植物種におけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、いくつかの単子葉植物種のゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を実施した。得られたBLASTスコアを下記の表に示す。Zea maysにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Zea maysゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を実施した。得られたBLASTスコアを以下の表8に示す。
【0117】
表8.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とZea maysタンパク質との比較
【表8】
【0118】
ZmAおよびZmBはトウモロコシにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) オーソログの最良の候補である。ZmFはAtERDL4や6のオーソログの候補ではない。
【0119】
Oryza sativaにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Oryza sativaゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。得られたBLASTスコアを表9に示す。
【0120】
表9.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とOryza sativaタンパク質との比較
【表9】
【0121】
OsA、OsBおよびOsCはイネにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である。OsD、OsEおよびOsFはAtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である可能性は低い。
【0122】
Hordeum vulgareにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Hordeum vulgareゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。得られたBLASTスコアを表10に示す。
【0123】
表10.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とHordeum vulgareタンパク質との比較
【表10】
【0124】
HvA、HvBまたはHvCは、オオムギにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である。HvDは、AtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補ではない。
【0125】
Secale cerealeにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Secale cerealeゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。結果のBLASTスコアを表11に示す。
【0126】
表11.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とSecale cerealeタンパク質との比較
【表11】
【0127】
ScA、ScBまたはScCは、ライムギにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である。ScDおよび特にScEは、AtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である可能性は低い。
【0128】
Sorghum bicolorにおけるAtERDL4の推定オーソログを定義するために、(i) AtERDL4、(ii) AtERDL6および (iii) AtERDL7をそれぞれクエリー配列として用いて、Sorghum bicolorゲノムのタンパク質配列に対して3つのBLAST検索を行った。得られたBLASTスコアを表12に示す。
【0129】
表12.それぞれAtERDL4、AtERDL6およびAtERDL7とSorghum bicolorタンパク質との比較
【表12】
【0130】
SbA、SbBまたはSbCは、ソルガムにおけるAtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である。SbDおよび特にSbEは、AtERDL4 (およびAtERDL6) のオーソログの候補である可能性は低い。
【0131】
前述の実施例は、本発明を例示するものであり、そこに開示された実施形態に本発明を限定するものと解釈されるべきではない。好ましい実施形態を参照して本発明を詳細に説明してきたが、特許請求の範囲に記載され定義される発明の範囲および種子の範囲内に変形および改変が存在する。
【0132】
参考文献
1) In concert: Orchestrated changes in carbohydrate homeostasis are critical for plant abiotic stress tolerance; Pommerrenig B et al. (2018), DOI: 10.1093/pcp/pcy037
2) ChloroP, a neural network based method for predicting chloroplast transit peptides and their cleavage sites; Emanuelsson O et al., (2008), DOI: 10.1110/ps.8.5.978
3) ARAMEMNON, a novel database for Arabidopsis integral membrane proteins; Schwacke R et al. (2003), DOI: 10.1104/pp.011577
4) Fast, scalable generation of high-quality protein multiple sequence alignments using Clustal Omega; Sievers F et al. (2011), DOI: 10.1038/msb.2011.75
5) MrBayes: Bayesian phylogenetic inference under mixed models; Ronquist F & Huelsenbeck JP (2003), DOI: 10.1093/bioinformatics/btg180
6) The monosaccharide transporter(-like) gene family in Arabidopsis; Buettner M (2007), DOI: 10.1016/j.febslet.2007.03.016
7) GATEWAYTM vectors for Agrobacterium-mediated plant transformation; Karimi M et al. (2002), DOI: 10.1016/S1360-1385(02)02251-3
8) "Floral dip: a simplified method for Agrobacterium‐mediated transformation of Arabidopsis thaliana; Clough S & Bent AF (1998), DOI: 10.1046/j.1365-313x.1998.00343.x
9) Metabolite levels in specific cells and subcellular compartments of plant leaves; Stitt M (1989), DOI: 10.1016/0076-6879(89)74035-0
10) Molecular physiological analysis of the two plastidic ATP/ADP transporters from Arabidopsis; Reiser J et al (2004), DOI: 10.1104/pp.104.049502
11) Regulation of sucrose transporters and phloem loading in response to environmental cues; Xu Q et al (2018), DOI: 10.1104/pp.17.01088
12) The Calcium Sensor CBL2 and Its Interacting Kinase CIPK6 Are Involved in Plant Sugar Homeostasis via Interacting with Tonoplast Sugar Transporter TST2(1); Deng JW et al. (2020), DOI: 10.1104/pp.19.01368
13) Molecular identification and physiological characterization of a novel monosaccharide transporter from Arabidopsis involved in vacuolar sugar transport; Wormit A et al. (2006), DOI: 10.1105/tpc.106.047290
14) Increased Activity of the Vacuolar Monosaccharide Transporter TMT1 Alters Cellular Sugar Partitioning, Sugar Signaling, and Seed Yield in Arabidopsis; Wingenter K et al (2010), DOI: 10.1104/pp.110.162040
15) Leaf Fructose Content Is Controlled by the Vacuolar Transporter SWEET17 in Arabidopsis; Chardon F et al (2013), DOI: 10.1016/j.cub.2013.03.021
16) SWEET17, a Facilitative Transporter, Mediates Fructose Transport across the Tonoplast of Arabidopsis Roots and Leaves; Guo, WJ et al. (2014), DOI: 10.1104/pp.113.232751
17) Overexpression of a proton‐coupled vacuolar glucose exporter impairs freezing tolerance and seed germination; Klemens, PAW et al. (2014), DOI: 10.1111/nph.12642
18) Vacuolar fructose transporter SWEET17 is critical for root development and drought tolerance; Valifard M et al (2021), DOI: 10.1093/plphys/kiab436
19) Arabidopsis species deploy distinct strategies to cope with drought stress; Bouzid M et al. (2019), DOI: 10.1093/aob/mcy237
20) An autoregulatory feedback loop involving PAP1 and TAS4 in response to sugars in Arabidopsis; Luo, QJ et al. (2012), DOI: 10.1007/s11103-011-9778-9
21) Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs; Altschul, SF et al. (1997), DOI: 10.1093/nar/25.17.3389
【配列表】
【国際調査報告】