(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む新たな組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20250123BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20250123BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20250123BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20250123BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250123BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250123BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
A61K36/53
A61P17/02
A61P17/00
A61P29/00
A61P17/18
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534018
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 KR2023000834
(87)【国際公開番号】W WO2023140599
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】10-2022-0010217
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0006863
(32)【優先日】2023-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517421150
【氏名又は名称】エクソコバイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ビョン ソン
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083DD08
4C083DD12
4C083DD23
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB38
4C088AC05
4C088BA07
4C088CA12
4C088MA02
4C088MA16
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZA91
4C088ZB11
(57)【要約】
本発明は、キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物を提供する。本発明の組成物は、従来のキャットニップ熱水抽出物、キャットニップ溶媒抽出物及びこのような抽出物の濾過物に比べて残留溶媒、その他不純物等の含有可能性が低く、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進効果に優れる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項2】
シャンプー、石鹸、リンス、界面活性剤含有クレンジング、クリーム、ローション、軟膏、トニック、トリートメント、コンディショナー、懸濁液、乳濁液、ペースト、ジェル、オイル、ワックス、スプレー、エアゾール、ミスト、又はパウダーである、請求項1に記載の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項3】
前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップ植物細胞培養液、キャットニップカルス培養液、キャットニップ植物幹細胞培養液、キャットニップ搾汁物、又はそれらと同等のキャットニップの生物学的溶液から分離されるか、もしくはキャットニップ植物細胞又は植物幹細胞に由来するものである、請求項1又は2に記載の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項4】
前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップの搾汁物から分離精製されたものである、請求項3に記載の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項5】
キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む、抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項6】
注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、塗布、又はそれらの組み合わせにより投与又は処理される、請求項5に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項7】
注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形である、請求項5に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項8】
前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップ植物細胞培養液、キャットニップカルス培養液、キャットニップ植物幹細胞培養液、キャットニップ搾汁物、又はそれらと同等のキャットニップの生物学的溶液から分離されるか、もしくはキャットニップ植物細胞又は植物幹細胞に由来するものである、請求項5~7のいずれか一項に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項9】
前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップ搾汁物から分離精製されたものである、請求項8に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項10】
キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む化粧料組成物を用いて、治療用を除く、哺乳動物の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生をする美容方法。
【請求項11】
(a)前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に直接塗布すること、(b)前記化粧料組成物が塗布又は浸漬されたパッチ、マスクパック又はシートマスクを哺乳動物の皮膚に接触又は付着すること、もしくは前記(a)及び(b)を順次進行することを含む、請求項10に記載の美容方法。
【請求項12】
前記(a)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームが使用される、請求項11に記載の美容方法。
【請求項13】
(c)前記(b)ステップの後に、前記パッチ、マスクパック又はシートマスクを前記哺乳動物の皮膚から除去し、前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に塗布するステップをさらに含む、請求項11又は12に記載の美容方法。
【請求項14】
前記(c)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームが使用される、請求項13に記載の美容方法。
【請求項15】
前記哺乳動物は、ネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタである、請求項10~12のいずれか一項に記載の美容方法。
【請求項16】
キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む薬学組成物の治療学的に有効な量をヒトを除く哺乳動物に投与するステップ、又はキャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む薬学組成物をヒトを除く哺乳動物の皮膚、炎症部位又は創傷部位に塗布するステップを含む、炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項17】
前記薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、又はそれらの組み合わせにより投与される、請求項16に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項18】
前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形である、請求項16に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項19】
前記哺乳動物は、ネコ、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル又はブタである、請求項16~18のいずれか一項に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む新たな組成物に関し、より詳しくは、キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、前記組成物を含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚の老化が起こると、皮膚の弾力が減少し、皮膚のしわが増加するようになるが、皮膚の弾力の減少及び皮膚のしわの形成は、コラーゲンの合成が減少し、コラーゲンを分解する酵素であるMMP(matrix metalloproteinase)の発現が促進されて現れることと知られている。
【0004】
また、老化の進行や紫外線などによって皮膚細胞では、炎症性サイトカインを生成する酵素であるCOX-2の増加によるプロスタグランジンE2(Prostaglandin E2)の合成が増加し、炎症誘発因子の生成が増加することが知られている。炎症反応によりMMPの生合成が増加し、コラーゲン分解が起こって皮膚の弾力の減少と皮膚のしわの形成が現れる。特に、日光や紫外線が皮膚に直接照射される場合、フリーラジカルを多く発生させ、このようなフリーラジカルによって皮膚の抗酸化防御システムは損傷を受け、しわを増加させ、皮膚を弛緩させるなど、皮膚の老化を加速させる。皮膚のしわ改善に効果的であると知られている物質としては、アデノシン、レチノイン酸(retinoic acid)などがあるが、アデノシンは臨床での効能がわずかであり、レチノイン酸は妊娠可能な女性に使用することができず、紅斑などの副作用がある。
【0005】
炎症は、物理的又は化学的外傷、細菌、真菌又はウイルスによる感染、各種アレルギー誘発物質などによって引き起こされる病理的状態に対応して表われる生体の防御反応である。炎症反応は、先天性免疫反応の一環として表われる。炎症反応には、様々な物質及び生理・化学的現象が関与するが、最近の研究によると、様々な炎症性サイトカインが炎症反応において重要な役割をすることが明らかになった。炎症反応に関与する主要なサイトカインとしては、IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-8、IL-12、IFN-βなどがあり、これらの発現量及び分泌量の増加と活性化は、炎症媒介物質の分泌、免疫細胞の浸潤、細胞の移動及び組織の破壊などの一連の複合的な生理的反応と紅斑、浮腫、発熱及び痛みなどの症状と関連がある。
【0006】
一般的に、炎症反応は感染源を除去し、損傷した組織を再生すれば、大きな問題にはならず、疾患部位が正常に回復されるが、感染源が除去されなかったり、内部物質が原因となって炎症反応が過度又は持続的に起きれば、急性・慢性炎症性疾患を誘発するようになる。炎症反応やそれによる炎症性疾患の緩和ないしは治療のために非ステロイド系抗炎剤、ステロイド系抗炎剤、神経ペプチド拮抗剤、COX阻害剤、抗ヒスタミン剤、及びシクロスポリンAのような免疫抑制剤を使用するが、皮膚萎縮、血管拡張、色素脱失、過敏反応、耐性及び好中球減少症(neutropenia)などの副作用を起こす問題がある。また、これらの薬剤は、根本的な治療ではなく、症状を適切なレベルに調節するのを助けるという限界もある。
【0007】
一方、最近、細胞分泌物(secretome)に細胞の行動(behavior)を調節する様々な生体活性因子が含まれているという研究が報告されており、特に細胞分泌物内には細胞間シグナル伝達機能を有する「エキソソーム(exosome)」が含まれており、その成分と機能に対する研究が活発に進められている。
【0008】
細胞は、細胞外環境に様々な膜(membrane)タイプの小胞体を放出するが、通常、このような放出小胞体を細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)と呼んでいる。細胞外小胞は、細胞膜由来小胞体、エクトソーム(ectosomes)、シェディング小胞体(shedding vesicles)、マイクロパーティクル(microparticles)、エキソソーム等とも呼ばれており、場合によっては、エキソソームとは区別されて用いられることもある。
【0009】
エキソソームは細胞膜の構造と同じ二重リン脂質膜を有する数十ないし数百ナノメートルの大きさの小胞体で内部にはエキソソームカーゴ(cargo)と呼ばれるタンパク質、核酸(mRNA、miRNA等)などが含まれている。エキソソームカーゴには、広範囲のシグナル伝達要素(signaling factors)が含まれており、これらのシグナル伝達要素は、細胞タイプに特異的で分泌細胞の環境に応じて異なるように調節されることが知られている。エキソソームは細胞が分泌する細胞間のシグナル伝達媒体で、これにより伝達された様々な細胞シグナルは、標的細胞の活性化、成長、移動、分化、脱分化、死滅(apoptosis)、壊死(necrosis)を含む細胞の行動を調節すると知られている。エキソソームは由来した細胞の性質及び状態に応じて特異的な遺伝物質と生体活性因子が含まれている。増殖する幹細胞由来のエキソソームの場合、細胞の移動、増殖及び分化のような細胞行動を調節し、組織再生に関する幹細胞の特性が反映されている(非特許文献1)。
【0010】
つまり、細胞のアバターと呼ばれるエキソソームは、細胞と同様に成長因子のような生体活性因子が含まれているが、生体活性因子を細胞と細胞との間に載せて運ぶ伝達体の役割、すなわち細胞と細胞との交信の役割をする。エキソソームは、幹細胞、免疫細胞、線維芽細胞及びがん細胞等の動物細胞から放出されるだけでなく、植物、細菌(bacteria)、菌類(fungi)、藻類(algae)等、様々な生物の細胞からも放出されることが知られている。例えば、エキソソームはがん細胞、免疫細胞、間葉系幹細胞等の培養液に加え、植物細胞ないしは植物幹細胞培養液からも分離することができる。
【0011】
しかし、植物細胞ないしは植物幹細胞由来のエキソソームの分離・精製及び特性分析に関する研究は、まだ初期段階であり、これらのほとんどは、単純に植物搾汁の濾過物内に混合物として混在されている細胞外小胞をエキソソームであるといってマーケティングに活用しているレベルである。したがって、植物細胞由来のエキソソームに対するより綿密な特性分析及び機能に関する研究が必要である。
【0012】
学名がネペタカタリア(Nepeta cartaria)であるキャットニップ(Catnip)は、シソ目、シソ科、イヌハッカ属に属する多年草である。ネペタカタリア(Nepeta cartaria)はネコが好きなので、通常はキャットニップと呼ばれている。キャットニップは、ハーブの一種であり、乾燥させて乾かすとペパーミントの香りが出てイヌハッカ又はキャットミントとも呼ばれる。キャットニップはアジアとヨーロッパが原産地であり、韓国、日本、中国、中央アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米などに分布しており、痛みの緩和や解熱作用があることが知られている。しかし、これまでの技術は、キャットニップの葉、茎又は全草を熱水抽出や溶媒抽出して得られた抽出物を食品や化粧品原料として使用するレベルである。しかし、溶媒抽出物は、抽出溶媒が残留する人体有害性の問題がある。
【0013】
本発明者は、キャットニップ由来のエキソソームが、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進等に効能があることを確認し、キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を開発した。
【0014】
一方、前記した背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解を進めるためのものに過ぎず、本発明の「先行技術」として利用されうるという承認として引用したものではないことを理解しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nature Review Immunology 2002(2)569-579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物を提供することにある。
【0017】
また、本発明の目的は、前記組成物を含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を提供することにある。
【0018】
しかし、前述したような本発明の課題は例示的なものであり、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。また、本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物を提供する。
【0020】
本明細書において使用される用語、キャットニップは、シソ目、シソ科、イヌハッカ属に属する多年草であり、学名はネペタカタリア(Nepeta cartaria)である。キャットニップは、ハーブの一種であり、乾燥させて乾かすとペパーミントの香りが出てイヌハッカ又はキャットミントとも呼ばれる。キャットニップはアジアとヨーロッパが原産地であり、韓国、日本、中国、中央アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米などに分布する。
【0021】
本明細書において、用語、「エキソソーム(exosomes)」は、植物細胞から細胞外空間に分泌又は放出された膜構造を有するナノサイズの小胞を意味し、エキソソーム様ベシクル又はエキソソーム様パーティクルとも定義される。
【0022】
本明細書で使用される用語である「皮膚の弾力」は、外力によって変形された皮膚が、その外力が除去されたときに容易に原形に復帰される特性を意味する。「皮膚のしわ」は、皮膚が衰えて生じた細いしわを意味するが、遺伝子による原因、皮膚真皮に存在するコラーゲンとエラスチンの減少、外部環境等により誘発されうる。したがって、本明細書で使用される用語である「皮膚のしわ改善」は、皮膚にしわが生成されることを抑制又は阻害するか、すでに生成されたしわを緩和することを意味する。
【0023】
本明細書で使用される用語である「抗炎」とは、炎症を予防、抑制、緩和、改善、又は治療することを意味し、炎症性疾患としては、本発明を限定しない例として、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、細菌感染、ウイルス感染又は真菌感染による炎症、火傷、火傷による炎症、創傷、創傷による炎症などが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される「傷又は創傷(wound)」とは、生体が損傷した状態を意味し、生体内部又は外部表面を構成する組織、例えば皮膚、筋肉、神経組織、骨、軟組織、内部器官又は血管組織が分断又は破壊された病理学的状態を包括する。本発明を限定しない例として、傷又は創傷は、擦過傷(abrasion)、裂傷(laceration)、刺傷、切傷、裂離傷(avulsion)、褥瘡、臥瘡、放射線照射による組織の破壊、貫通傷(penetrated wound)、銃傷(gun shot wound)、火傷、凍傷、手術傷、成形手術後の縫合部位、化学的創傷などを含み、個体のいかなる部分への損傷も含んでもよい。
【0025】
本明細書において、用語「イオントフォレシス(iontophoresis)」は、有効物質が適用された皮膚に微細電流を流して電位差を与え、皮膚の電気的環境を変化させることによりイオン化した有効成分を電気的反発力で皮膚を透過させる方法を意味する。本発明の一具体例に用いられるイオントフォレシス(iontophoresis)は、皮膚上の電極パッチに外部電源からの電流が流れ込み、皮膚に微細電流が導入される方式、電極パッチ自体にバッテリーが装着されて、皮膚に微細電流が導入される方式、高濃度電解質溶液及び低濃度電解質溶液の間のイオン濃度差により電流を発生させる逆電気透析(Reversed Electrodialysis)手段が装着されたパッチを介して皮膚に微細電流が導入される方式などを含んでもよい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な方式のイオントフォレシスを用いることができるのは言うまでもない。
【0026】
本発明の明細書で使用される「キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソーム」という用語は、例えば、キャットニップ植物細胞培養液、キャットニップカルス培養液、キャットニップ植物幹細胞培養液、キャットニップ搾汁物、又はそれらと同等のキャットニップの生物学的溶液から分離されるか、もしくはキャットニップ植物細胞又は植物幹細胞に由来する、例えば、分泌及び/又は放出されたエキソソームのいずれも含むことを意味する。
【0027】
本発明の一具体例の組成物において、前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップ搾汁物から分離精製されたものであってもよい。
【0028】
本発明の一具体例のキャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む組成物は、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進効能のうち少なくとも1つの効能を示すものであってもよい。
【0029】
本発明のキャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む組成物は、化粧料組成物又は薬学組成物であってもよい。
【0030】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生用化粧料組成物を提供する。例えば、前記化粧料組成物は、シャンプー、石鹸、リンス、界面活性剤含有クレンジング、クリーム、ローション、軟膏、トニック、トリートメント、コンディショナー、懸濁液、乳濁液、ペースト、ジェル、オイル、ワックス、スプレー、エアゾール、ミスト、又はパウダーであってもよく、好ましくはローション又はクリームであってもよい。
【0031】
また、本発明は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソームを有効成分として含む抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を提供する。
【0032】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、塗布、又はそれらの組み合わせにより投与又は処理することができる。例えば、前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0033】
本発明の一具体例の組成物が薬学組成物として使用される場合、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤などを含むことができる。前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース(microcrystalline cellulose)、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、本発明の一具体例の薬学組成物の有効量は、抗炎症、創傷治癒、又は創傷治癒促進効果を期待するために投与に要求される量を意味する。
【0034】
本発明の一具体例の薬学組成物の配合比率は、前述のような追加成分の種類や量、形態などに応じて適当に選択することができる。例えば、注射剤全量に対して、本発明の薬学組成物は、約0.1~99重量%、好ましくは約10~90重量%程度含まれてもよい。また、本発明の一具体例の薬学組成物の適切な投与量は、疾患の軽重、剤形の種類、製剤化方法、患者の年齢、性別、体重、健康状態、食餌、排泄率、投与時間及び投与方法によって調節することができる。例えば、成人に本発明の一具体例の薬学組成物を投与する場合、一日に0.001mg/kg~100mg/kgの用量で1回~数回に分けて投与することができる。
【0035】
一方、本発明の一具体例の組成物が化粧料組成物として製造される場合、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常、化粧料組成物に用いられる成分、例えば保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0036】
また、本発明の一具体例の化粧料組成物は、キャットニップ(Nepeta cartaria)由来のエキソソーム以外に、その作用(例えば、皮膚の状態改善、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生など)を損傷を受けない限度で、従来から使用されている皮膚改善剤及び/又は保湿剤をともに混合して使用することができる。
【0037】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、例えば、パッチ、マスクパック、シートマスク、クリーム、トニック、軟膏、懸濁液、乳濁液、ペースト、ローション、ジェル、オイル、パック、スプレー、エアゾール、ミスト、ファンデーション、パウダー、油紙などの様々な形態に適用することができる。
【0038】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生などの目的に使用することができ、化粧品剤形は、当業界で通常製造されるいかなる剤形にも製造することができる。例えばパッチ、マスクパック、シートマスク、柔軟化粧水、栄養化粧水、収斂化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、アイクリーム、クレンジングクリーム、エッセンス、アイエッセンス、クレンジングローション、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、サンスクリーン、口紅、石鹸、シャンプー、界面活性剤含有クレンジング、入浴剤、ボディローション、ボディクリーム、ボディオイル、ボディエッセンス、ボディ洗浄剤、染毛剤、ヘアトニック等に剤形化することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、化粧料組成物に通常的に用いられる成分を含み、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤そして担体を含むことができる。また、化粧料組成物に対するそれぞれの剤形において、他の成分は、化粧料組成物の種類又は使用目的等によって、当業者が困難なく適宜選定して配合することができる。
【0040】
本発明の他の具体例は、前記化粧料組成物を用いて、治療用を除く哺乳動物の皮膚の状態を調節する美容方法を提供する。本発明の美容方法において、皮膚の状態の調節とは、皮膚の状態を改善させて/させたり、皮膚の状態を予防的に調節することを意味し、皮膚の状態の改善とは、皮膚の外観及び感じの視覚的並びに/又は触覚的に知覚できる肯定的な変化を意味する。例えば、皮膚の状態の改善とは、皮膚のしわ改善、皮膚の弾力改善、または皮膚再生であってもよい。
【0041】
本発明の一具体例の美容方法は、(a)前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に直接塗布すること、(b)前記化粧料組成物が塗布又は浸漬されたパッチ、マスクパック又はシートマスクを哺乳動物の皮膚に接触又は付着すること、もしくは前記(a)及び(b)を順次進行することを含む。前記(a)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0042】
また、本発明の一具体例の美容方法は、(c)前記(b)ステップの後に、前記パッチ、マスクパック又はシートマスクを前記哺乳動物の皮膚から除去し、前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に塗布するステップをさらに含むことができる。前記(c)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0043】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の美容方法において、前記化粧料組成物は、マイクロニードリング、イオントフォレシス、直接塗布、又はそれらの組み合わせにより皮膚に適用することができる。例えば、前記化粧料組成物は、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0044】
本発明の一具体例の美容方法において、前記哺乳動物はネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタであってもよい。
【0045】
また、本発明は、前記薬学組成物の治療学的に有効な量を哺乳動物に投与、又は前記薬学組成物を皮膚、炎症部位又は創傷部位に塗布するステップを含む、炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進(accelerating wound healing)のための方法を提供する。
【0046】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法において、前記薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス又はそれらの組み合わせにより投与することができる。例えば、前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0047】
本発明の一具体例の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法において、前記哺乳動物はネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタであってもよい。
【発明の効果】
【0048】
本発明の組成物は、従来のキャットニップ熱水抽出物、キャットニップ溶媒抽出物及びこのような抽出物の濾過物に比べて残留溶媒、その他不純物等の含有可能性が低く、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進効果に優れる。
【0049】
一方、前述のような効果によって、本発明の範囲が制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明のキャットニップ由来のエキソソームに対してNTA(nanoparticle tracking analysis)を行って得られた粒径分布と粒子数を示すグラフである。
【
図2】蛍光染色されたキャットニップ由来のエキソソームがヒト皮膚線維芽細胞に伝達されることを確認した細胞蛍光顕微鏡の画像である(緑色:細胞内に伝達されたエキソソーム、青色:細胞核)。
【
図3】ヒト皮膚線維芽細胞にキャットニップ由来のエキソソームを処理した場合、エキソソームの濃度依存的に増加する相対的なコラーゲン量を示すグラフである。
【
図4】キャットニップ由来のエキソソームをスクラッチ・ウーンド(Scratch-Wound)に処理した後のヒト皮膚線維芽細胞の移動が増加することを示すグラフである。
【
図5】蛍光染色されたキャットニップ由来のエキソソームがRAW264.7細胞に伝達されたことを確認した細胞蛍光顕微鏡の画像である(緑色:細胞内に伝達されたエキソソーム、青色:細胞核)。
【
図6】キャットニップ由来のエキソソームをRAW264.7細胞に処理した場合、LPSによって誘導されるIL-6が減少することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を下記の実施例でより詳細に記述する。ただし、下記の実施例は、本発明の内容を例示するものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限したり限定するものではない。本発明の詳細な説明及び実施例から、本発明が属する技術分野の通常の技術者が容易に類推できることは本発明の権利範囲に属するものと解釈される。本発明に引用された参考文献は、本発明に参考として統合される。
【0052】
明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含みうることを意味する。
【実施例】
【0053】
<実施例1:キャットニップ搾汁物の製造>
キャットニップ(Nepeta cartaria)の葉及び茎を一次的に流水で洗浄して農薬を除去した。次に、キャットニップの葉及び茎を5cm以下に切断し、攪拌速度が40rpmの低速スクリューで搾汁して液状の搾汁物を得た後、400メッシュ網に濾過して大きな浮遊物を除去した。濾過した搾汁液は、タンパク質及び細胞壁を除去するために10,000×gで10分間4℃で遠心分離した。この過程で得られた上清は、0.22μm細孔を含む濾過膜で濾過して濾液を得、精製を行うまで-80℃で保存した。
【0054】
<実施例2:キャットニップ由来のエキソソームの精製>
実施例1と同様にして得られたキャットニップ搾汁物は、段階別に遠心分離と超遠心分離法を用いて多数の不純物を除去し、キャットニップ由来のエキソソームを分離した。 解凍したキャットニップ搾汁物は2,000×gで10分間遠心分離した後、0.22μm細孔を含む濾過膜で濾過して濾液を得た。その後、10,000×gで1次遠心、20,000×gで2次遠心分離した後、上清を回収し、上清を100,000×gで70分間4℃で超遠心分離して底面からペレットを得た。得られたペレットをPBS(Phosphate Buffered Saline)で懸濁して、キャッツニップ由来のエキソソームを最終的に得た。前記の方法で分離されたキャットニップ由来のエキソソームの大きさと濃度は、NS300(Malvern Panalyticalから購入)を用いたナノ粒子トラッキング解析(nanoparticle tracking analysis;NTA)で確認した(
図1)。
【0055】
<実施例3:キャットニップ由来のエキソソームの皮膚線維芽細胞の伝達能の確認>
キャットニップ由来のエキソソームが、ヒト皮膚線維芽細胞(ATCCから購入)内に伝達されるか否かを確認するために、次のような分析を行った。実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームの膜を蛍光染色するためにPKH67(Sigma-Aldrichから購入)蛍光染料と反応させた。反応後、反応液をMiniTrap-25(Cytivaから購入)のカラムで分画してエキソソーム膜に染色されなかった遊離PHK67(free PKH67)蛍光染料を除去した。陰性対照群には、PKH67蛍光染料を緩衝溶液と反応させた後、MiniTrap-25カラムで分画したものを使用した。PKH67で染色されたエキソソームをあらかじめ培養して準備されたヒト皮膚線維芽細胞とともに培養した後、経時的にエキソソームが細胞内に伝達されるか否かを蛍光顕微鏡を用いて観察した。細胞の核を染色するためにヘキスト(Hoechst)蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用し、細胞質を染色するためにCellMask Orange蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用した。エキソソームが細胞内に伝達されるか否かを確認した結果、蛍光染色されたエキソソームが細胞内に伝達されて緑色蛍光が細胞内部に時間の経過に応じて蓄積されることを確認した(
図2)。
【0056】
<実施例4:コラーゲンの生成促進効果の確認>
ウシ胎児血清を含むDMEM培地に分散されたヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast;ATCCから購入)をマルチウェルプレートに分注した後、24時間培養し、無血清培地でさらに48時間培養した。その後、実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈した後、ヒト皮膚線維芽細胞に処理して、ヒト皮膚線維芽細胞を培養した。ヒト皮膚線維芽細胞を用いたコラーゲン生成効能を確認するために、実験群を以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Control):無血清培地のみを処理した実験群;
(2)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図3で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:1.0×10
10粒子/mL);
(3)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図3で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:4.0×10
10粒子/mL)。
【0057】
前記各実験群でヒト皮膚線維芽細胞に処理後24時間培養し、培養液を回収して遠心分離した後、遠心分離した培養液を準備した。プロコラーゲンタイプI C-ペプチド(PIP)用のEIAキット(Takaraから購入)を用いてヒト皮膚線維芽細胞から合成し、培養液に蓄積したコラーゲン量を測定した。測定されたコラーゲン量をMTTアッセイキット(Sigma-Aldrichから購入)によって測定された総細胞数で割って正規化し、相対的なコラーゲン量を決定した。
【0058】
その結果、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、陰性対照群と比較して濃度依存的にヒト皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン合成を著しく増加させたことが確認できた(
図3)。
【0059】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、コラーゲン合成増加効能、すなわち皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生効能に優れることがわかる。
【0060】
前記の結果によれば、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生用化粧品として有用な機能的活性、すなわちコラーゲン合成を増加させる活性を有することが分かる。したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生用化粧料組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0061】
<実施例5:皮膚線維芽細胞を用いた皮膚再生効能の確認>
実施例2のように準備したキャットニップ由来のエキソソームが、ヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast;ATCCから購入)において創傷回復能を促進するか否かを評価するために、スクラッチ・ウーンドアッセイ(Scratch-Wound Assay)を行った。ウシ胎児血清を含むDMEM培地に分散したヒト皮膚線維芽細胞を創傷誘導用カルチャープレート(ImageLock Plate;EssenBioから購入)に5,000細胞/ウェルの密度で分注し、5%CO
2、37℃の条件で24時間培養して90%以上の密集度を確認した後、ウーンドメーカー(WoundMaker;EssenBioから購入)を用いてスクラッチを誘発した。ヒト皮膚線維芽細胞を用いた皮膚再生効能の確認のために、実験群を以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Negative Control;N.C.):無血清培地のみを処理した実験群;
(2)陽性対照群(Positive Control;P.C.):10%ウシ胎児血清を含む培養培地を処理した実験群;
(3)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図4で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:2.0×10
9粒子/mL);
(4)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図4で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:1.2×10
10粒子/mL)。
【0062】
その後、前記実験群のそれぞれでスクラッチ・ウーンド(Scratch-Wound)に処理して5%CO2、37℃の条件で12時間、ヒト皮膚線維芽細胞を培養しながら創傷回復能をインキュサイト(Incucyte)(Sartoriusから購入)で測定した。
【0063】
創傷回復能を測定した結果、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、陰性対照群と比較してヒト皮膚線維芽細胞の移動を増加させることが確認できた(
図4)。
【0064】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、ヒト皮膚線維芽細胞の移動促進効能、すなわち創傷回復能ないしは皮膚再成効能に優れることがわかる。
【0065】
したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善及び/又は皮膚再生用化粧料組成物と、創傷治療又は創傷治療促進用薬学組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0066】
<実施例6:キャットニップ由来のエキソソームのマクロファージ伝達能の確認>
キャットニップ由来のエキソソームがマウスマクロファージ(RAW264.7;ATCCから購入)内に伝達されるか否かを確認するために、以下の分析を行った。実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームの膜を蛍光染色するためにPKH67(Sigma-Aldrichから購入)蛍光染料と反応させた。反応後、反応液をMiniTrap-25(Cytivaから購入)カラムで分画し、エキソソーム膜に染色されなかった遊離PHK67(free PKH67)蛍光染料を除去した。陰性対照群としては、PKH67蛍光染料を緩衝溶液と反応させた後、MiniTrap-25カラムで分画したものを用いた。PKH67で染色したエキソソームを予め培養して準備したマウスマクロファージと共に培養した後、経時的にエキソソームの細胞内に伝達されるか否かを蛍光顕微鏡を用いて観察した。細胞の核を染色するためにヘキスト(Hoechst)蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用し、細胞質を染色するためにCellMask Orange蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用した。エキソソームの細胞内に伝達されるか否かを確認した結果、蛍光染色されたエキソソームが細胞内に伝達され、緑色蛍光が細胞内部に時間の経過に応じて蓄積することが確認された(
図5)。
【0067】
<実施例7:キャットニップ由来のエキソソームの抗炎効能の評価>
実施例2のように準備したキャットニップ由来のエキソソームが抗炎効能を示すか否かを確認するために、前記キャットニップ由来のエキソソームがマウスマクロファージであるRAW264.7細胞におけるIL-6の生成量に及ぼす効果を確認した。RAW264.7細胞を10%FBSを含むDMEM培地に懸濁させ、これをマルチウェルプレート(multiwell plate)の各ウェルに80~90%の密集度(confluency)を有するように分注した。翌日、LPSを含む新たな培地[1%FBSと200nMのLPS(lipopolysaccharide)を含むDMEM培地]に希釈したキャットニップ由来のエキソソームをRAW264.7細胞に処理した後、RAW264.7細胞を24時間培養した。抗炎効能評価のための実験群は以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Negative Control;N.C.):LPS培地のみをRAW264.7細胞に処理した実験群;
(2)陽性対照群(Positive Control;P.C.):LPS培地にデキサメタゾン(dexamethasone)(最終濃度:200μM)を混合してRAW264.7細胞に処理した実験群;
(3)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図6で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームをLPS培地に希釈してRAW264.7細胞に処理した実験群(処理濃度:6.0×10
9粒子/mL);
(4)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図6で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームをLPS培地に希釈してRAW264.7細胞に処理した実験群(処理濃度:2.0×10
10粒子/mL)。
【0068】
培養終了後、培養上清を採取し、培養上清中に存在する炎症性サイトカインであるIL-6の生成量をIL-6 ELISAキットを用いて測定した。ELSIAキット(R&D systemsから購入)メーカーのマニュアルに従ってLPSのみを処理した群におけるIL-6(炎症性サイトカイン)の生成量と、デキサメタゾン及びキャットニップ由来のエキソソーム(低濃度及び高濃度)それぞれをLPS培地と混合して処理した実験群におけるIL-6生成量を確認した(
図6)。
【0069】
その結果、RAW264.7細胞にLPSとともに実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソーム(低濃度及び高濃度)を処理した実験群では、陰性対照群と比較してIL-6の生成が抑制されたことが確認された(
図6)。
【0070】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは抗炎効能に優れることがわかった。したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、抗炎、創傷治療及び/又は創傷治療促進用薬学組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0071】
以上、本発明を前記実施例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正、変更をすることができ、このような修正と変更も本発明に属するものであることがわかるであろう。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む新たな組成物に関し、より詳しくは、キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、前記組成物を含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚の老化が起こると、皮膚の弾力が減少し、皮膚のしわが増加するようになるが、皮膚の弾力の減少及び皮膚のしわの形成は、コラーゲンの合成が減少し、コラーゲンを分解する酵素であるMMP(matrix metalloproteinase)の発現が促進されて現れることと知られている。
【0004】
また、老化の進行や紫外線などによって皮膚細胞では、炎症性サイトカインを生成する酵素であるCOX-2の増加によるプロスタグランジンE2(Prostaglandin E2)の合成が増加し、炎症誘発因子の生成が増加することが知られている。炎症反応によりMMPの生合成が増加し、コラーゲン分解が起こって皮膚の弾力の減少と皮膚のしわの形成が現れる。特に、日光や紫外線が皮膚に直接照射される場合、フリーラジカルを多く発生させ、このようなフリーラジカルによって皮膚の抗酸化防御システムは損傷を受け、しわを増加させ、皮膚を弛緩させるなど、皮膚の老化を加速させる。皮膚のしわ改善に効果的であると知られている物質としては、アデノシン、レチノイン酸(retinoic acid)などがあるが、アデノシンは臨床での効能がわずかであり、レチノイン酸は妊娠可能な女性に使用することができず、紅斑などの副作用がある。
【0005】
炎症は、物理的又は化学的外傷、細菌、真菌又はウイルスによる感染、各種アレルギー誘発物質などによって引き起こされる病理的状態に対応して表われる生体の防御反応である。炎症反応は、先天性免疫反応の一環として表われる。炎症反応には、様々な物質及び生理・化学的現象が関与するが、最近の研究によると、様々な炎症性サイトカインが炎症反応において重要な役割をすることが明らかになった。炎症反応に関与する主要なサイトカインとしては、IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-8、IL-12、IFN-βなどがあり、これらの発現量及び分泌量の増加と活性化は、炎症媒介物質の分泌、免疫細胞の浸潤、細胞の移動及び組織の破壊などの一連の複合的な生理的反応と紅斑、浮腫、発熱及び痛みなどの症状と関連がある。
【0006】
一般的に、炎症反応は感染源を除去し、損傷した組織を再生すれば、大きな問題にはならず、疾患部位が正常に回復されるが、感染源が除去されなかったり、内部物質が原因となって炎症反応が過度又は持続的に起きれば、急性・慢性炎症性疾患を誘発するようになる。炎症反応やそれによる炎症性疾患の緩和ないしは治療のために非ステロイド系抗炎剤、ステロイド系抗炎剤、神経ペプチド拮抗剤、COX阻害剤、抗ヒスタミン剤、及びシクロスポリンAのような免疫抑制剤を使用するが、皮膚萎縮、血管拡張、色素脱失、過敏反応、耐性及び好中球減少症(neutropenia)などの副作用を起こす問題がある。また、これらの薬剤は、根本的な治療ではなく、症状を適切なレベルに調節するのを助けるという限界もある。
【0007】
一方、最近、細胞分泌物(secretome)に細胞の行動(behavior)を調節する様々な生体活性因子が含まれているという研究が報告されており、特に細胞分泌物内には細胞間シグナル伝達機能を有する「エキソソーム(exosome)」が含まれており、その成分と機能に対する研究が活発に進められている。
【0008】
細胞は、細胞外環境に様々な膜(membrane)タイプの小胞体を放出するが、通常、このような放出小胞体を細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)と呼んでいる。細胞外小胞は、細胞膜由来小胞体、エクトソーム(ectosomes)、シェディング小胞体(shedding vesicles)、マイクロパーティクル(microparticles)、エキソソーム等とも呼ばれており、場合によっては、エキソソームとは区別されて用いられることもある。
【0009】
エキソソームは細胞膜の構造と同じ二重リン脂質膜を有する数十ないし数百ナノメートルの大きさの小胞体で内部にはエキソソームカーゴ(cargo)と呼ばれるタンパク質、核酸(mRNA、miRNA等)などが含まれている。エキソソームカーゴには、広範囲のシグナル伝達要素(signaling factors)が含まれており、これらのシグナル伝達要素は、細胞タイプに特異的で分泌細胞の環境に応じて異なるように調節されることが知られている。エキソソームは細胞が分泌する細胞間のシグナル伝達媒体で、これにより伝達された様々な細胞シグナルは、標的細胞の活性化、成長、移動、分化、脱分化、死滅(apoptosis)、壊死(necrosis)を含む細胞の行動を調節すると知られている。エキソソームは由来した細胞の性質及び状態に応じて特異的な遺伝物質と生体活性因子が含まれている。増殖する幹細胞由来のエキソソームの場合、細胞の移動、増殖及び分化のような細胞行動を調節し、組織再生に関する幹細胞の特性が反映されている(非特許文献1)。
【0010】
つまり、細胞のアバターと呼ばれるエキソソームは、細胞と同様に成長因子のような生体活性因子が含まれているが、生体活性因子を細胞と細胞との間に載せて運ぶ伝達体の役割、すなわち細胞と細胞との交信の役割をする。エキソソームは、幹細胞、免疫細胞、線維芽細胞及びがん細胞等の動物細胞から放出されるだけでなく、植物、細菌(bacteria)、菌類(fungi)、藻類(algae)等、様々な生物の細胞からも放出されることが知られている。例えば、エキソソームはがん細胞、免疫細胞、間葉系幹細胞等の培養液に加え、植物細胞ないしは植物幹細胞培養液からも分離することができる。
【0011】
しかし、植物細胞ないしは植物幹細胞由来のエキソソームの分離・精製及び特性分析に関する研究は、まだ初期段階であり、これらのほとんどは、単純に植物搾汁の濾過物内に混合物として混在されている細胞外小胞をエキソソームであるといってマーケティングに活用しているレベルである。したがって、植物細胞由来のエキソソームに対するより綿密な特性分析及び機能に関する研究が必要である。
【0012】
学名がネペタカタリア(Nepeta cataria)であるキャットニップ(Catnip)は、シソ目、シソ科、イヌハッカ属に属する多年草である。ネペタカタリア(Nepeta cataria)はネコが好きなので、通常はキャットニップと呼ばれている。キャットニップは、ハーブの一種であり、乾燥させて乾かすとペパーミントの香りが出てイヌハッカ又はキャットミントとも呼ばれる。キャットニップはアジアとヨーロッパが原産地であり、韓国、日本、中国、中央アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米などに分布しており、痛みの緩和や解熱作用があることが知られている。しかし、これまでの技術は、キャットニップの葉、茎又は全草を熱水抽出や溶媒抽出して得られた抽出物を食品や化粧品原料として使用するレベルである。しかし、溶媒抽出物は、抽出溶媒が残留する人体有害性の問題がある。
【0013】
本発明者は、キャットニップ由来のエキソソームが、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進等に効能があることを確認し、キャットニップ由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を開発した。
【0014】
一方、前記した背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解を進めるためのものに過ぎず、本発明の「先行技術」として利用されうるという承認として引用したものではないことを理解しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Nature Review Immunology 2002(2)569-579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物を提供することにある。
【0017】
また、本発明の目的は、前記組成物を含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善又は皮膚再生用化粧料組成物、及び抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を提供することにある。
【0018】
しかし、前述したような本発明の課題は例示的なものであり、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。また、本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進用組成物を提供する。
【0020】
本明細書において使用される用語、キャットニップは、シソ目、シソ科、イヌハッカ属に属する多年草であり、学名はネペタカタリア(Nepeta cataria)である。キャットニップは、ハーブの一種であり、乾燥させて乾かすとペパーミントの香りが出てイヌハッカ又はキャットミントとも呼ばれる。キャットニップはアジアとヨーロッパが原産地であり、韓国、日本、中国、中央アジア、アフリカ、ヨーロッパ、北米などに分布する。
【0021】
本明細書において、用語、「エキソソーム(exosomes)」は、植物細胞から細胞外空間に分泌又は放出された膜構造を有するナノサイズの小胞を意味し、エキソソーム様ベシクル又はエキソソーム様パーティクルとも定義される。
【0022】
本明細書で使用される用語である「皮膚の弾力」は、外力によって変形された皮膚が、その外力が除去されたときに容易に原形に復帰される特性を意味する。「皮膚のしわ」は、皮膚が衰えて生じた細いしわを意味するが、遺伝子による原因、皮膚真皮に存在するコラーゲンとエラスチンの減少、外部環境等により誘発されうる。したがって、本明細書で使用される用語である「皮膚のしわ改善」は、皮膚にしわが生成されることを抑制又は阻害するか、すでに生成されたしわを緩和することを意味する。
【0023】
本明細書で使用される用語である「抗炎」とは、炎症を予防、抑制、緩和、改善、又は治療することを意味し、炎症性疾患としては、本発明を限定しない例として、皮膚炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、細菌感染、ウイルス感染又は真菌感染による炎症、火傷、火傷による炎症、創傷、創傷による炎症などが挙げられる。
【0024】
本明細書で使用される「傷又は創傷(wound)」とは、生体が損傷した状態を意味し、生体内部又は外部表面を構成する組織、例えば皮膚、筋肉、神経組織、骨、軟組織、内部器官又は血管組織が分断又は破壊された病理学的状態を包括する。本発明を限定しない例として、傷又は創傷は、擦過傷(abrasion)、裂傷(laceration)、刺傷、切傷、裂離傷(avulsion)、褥瘡、臥瘡、放射線照射による組織の破壊、貫通傷(penetrated wound)、銃傷(gun shot wound)、火傷、凍傷、手術傷、成形手術後の縫合部位、化学的創傷などを含み、個体のいかなる部分への損傷も含んでもよい。
【0025】
本明細書において、用語「イオントフォレシス(iontophoresis)」は、有効物質が適用された皮膚に微細電流を流して電位差を与え、皮膚の電気的環境を変化させることによりイオン化した有効成分を電気的反発力で皮膚を透過させる方法を意味する。本発明の一具体例に用いられるイオントフォレシス(iontophoresis)は、皮膚上の電極パッチに外部電源からの電流が流れ込み、皮膚に微細電流が導入される方式、電極パッチ自体にバッテリーが装着されて、皮膚に微細電流が導入される方式、高濃度電解質溶液及び低濃度電解質溶液の間のイオン濃度差により電流を発生させる逆電気透析(Reversed Electrodialysis)手段が装着されたパッチを介して皮膚に微細電流が導入される方式などを含んでもよい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な方式のイオントフォレシスを用いることができるのは言うまでもない。
【0026】
本発明の明細書で使用される「キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソーム」という用語は、例えば、キャットニップ植物細胞培養液、キャットニップカルス培養液、キャットニップ植物幹細胞培養液、キャットニップ搾汁物、又はそれらと同等のキャットニップの生物学的溶液から分離されるか、もしくはキャットニップ植物細胞又は植物幹細胞に由来する、例えば、分泌及び/又は放出されたエキソソームのいずれも含むことを意味する。
【0027】
本発明の一具体例の組成物において、前記キャットニップ由来のエキソソームは、キャットニップ搾汁物から分離精製されたものであってもよい。
【0028】
本発明の一具体例のキャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む組成物は、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進効能のうち少なくとも1つの効能を示すものであってもよい。
【0029】
本発明のキャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む組成物は、化粧料組成物又は薬学組成物であってもよい。
【0030】
本発明は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生用化粧料組成物を提供する。例えば、前記化粧料組成物は、シャンプー、石鹸、リンス、界面活性剤含有クレンジング、クリーム、ローション、軟膏、トニック、トリートメント、コンディショナー、懸濁液、乳濁液、ペースト、ジェル、オイル、ワックス、スプレー、エアゾール、ミスト、又はパウダーであってもよく、好ましくはローション又はクリームであってもよい。
【0031】
また、本発明は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物を提供する。
【0032】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、塗布、又はそれらの組み合わせにより投与又は処理することができる。例えば、前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0033】
本発明の一具体例の組成物が薬学組成物として使用される場合、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤などを含むことができる。前記担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース(microcrystalline cellulose)、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、本発明の一具体例の薬学組成物の有効量は、抗炎症、創傷治癒、又は創傷治癒促進効果を期待するために投与に要求される量を意味する。
【0034】
本発明の一具体例の薬学組成物の配合比率は、前述のような追加成分の種類や量、形態などに応じて適当に選択することができる。例えば、注射剤全量に対して、本発明の薬学組成物は、約0.1~99重量%、好ましくは約10~90重量%程度含まれてもよい。また、本発明の一具体例の薬学組成物の適切な投与量は、疾患の軽重、剤形の種類、製剤化方法、患者の年齢、性別、体重、健康状態、食餌、排泄率、投与時間及び投与方法によって調節することができる。例えば、成人に本発明の一具体例の薬学組成物を投与する場合、一日に0.001mg/kg~100mg/kgの用量で1回~数回に分けて投与することができる。
【0035】
一方、本発明の一具体例の組成物が化粧料組成物として製造される場合、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常、化粧料組成物に用いられる成分、例えば保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、乳化剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0036】
また、本発明の一具体例の化粧料組成物は、キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソーム以外に、その作用(例えば、皮膚の状態改善、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生など)を損傷を受けない限度で、従来から使用されている皮膚改善剤及び/又は保湿剤をともに混合して使用することができる。
【0037】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、例えば、パッチ、マスクパック、シートマスク、クリーム、トニック、軟膏、懸濁液、乳濁液、ペースト、ローション、ジェル、オイル、パック、スプレー、エアゾール、ミスト、ファンデーション、パウダー、油紙などの様々な形態に適用することができる。
【0038】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生などの目的に使用することができ、化粧品剤形は、当業界で通常製造されるいかなる剤形にも製造することができる。例えばパッチ、マスクパック、シートマスク、柔軟化粧水、栄養化粧水、収斂化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、アイクリーム、クレンジングクリーム、エッセンス、アイエッセンス、クレンジングローション、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、サンスクリーン、口紅、石鹸、シャンプー、界面活性剤含有クレンジング、入浴剤、ボディローション、ボディクリーム、ボディオイル、ボディエッセンス、ボディ洗浄剤、染毛剤、ヘアトニック等に剤形化することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明の一具体例の化粧料組成物は、化粧料組成物に通常的に用いられる成分を含み、例えば抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤そして担体を含むことができる。また、化粧料組成物に対するそれぞれの剤形において、他の成分は、化粧料組成物の種類又は使用目的等によって、当業者が困難なく適宜選定して配合することができる。
【0040】
本発明の他の具体例は、前記化粧料組成物を用いて、治療用を除く哺乳動物の皮膚の状態を調節する美容方法を提供する。本発明の美容方法において、皮膚の状態の調節とは、皮膚の状態を改善させて/させたり、皮膚の状態を予防的に調節することを意味し、皮膚の状態の改善とは、皮膚の外観及び感じの視覚的並びに/又は触覚的に知覚できる肯定的な変化を意味する。例えば、皮膚の状態の改善とは、皮膚のしわ改善、皮膚の弾力改善、または皮膚再生であってもよい。
【0041】
本発明の一具体例の美容方法は、(a)前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に直接塗布すること、(b)前記化粧料組成物が塗布又は浸漬されたパッチ、マスクパック又はシートマスクを哺乳動物の皮膚に接触又は付着すること、もしくは前記(a)及び(b)を順次進行することを含む。前記(a)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0042】
また、本発明の一具体例の美容方法は、(c)前記(b)ステップの後に、前記パッチ、マスクパック又はシートマスクを前記哺乳動物の皮膚から除去し、前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に塗布するステップをさらに含むことができる。前記(c)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームを使用することができる。
【0043】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の美容方法において、前記化粧料組成物は、マイクロニードリング、イオントフォレシス、直接塗布、又はそれらの組み合わせにより皮膚に適用することができる。例えば、前記化粧料組成物は、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0044】
本発明の一具体例の美容方法において、前記哺乳動物はネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタであってもよい。
【0045】
また、本発明は、前記薬学組成物の治療学的に有効な量を哺乳動物に投与、又は前記薬学組成物を皮膚、炎症部位又は創傷部位に塗布するステップを含む、炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進(accelerating wound healing)のための方法を提供する。
【0046】
本発明を限定しない例として、本発明の一具体例の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法において、前記薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス又はそれらの組み合わせにより投与することができる。例えば、前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形であってもよい。
【0047】
本発明の一具体例の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法において、前記哺乳動物はネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタであってもよい。
【発明の効果】
【0048】
本発明の組成物は、従来のキャットニップ熱水抽出物、キャットニップ溶媒抽出物及びこのような抽出物の濾過物に比べて残留溶媒、その他不純物等の含有可能性が低く、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、皮膚再生、抗炎、創傷治癒又は創傷治癒促進効果に優れる。
【0049】
一方、前述のような効果によって、本発明の範囲が制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】本発明のキャットニップ由来のエキソソームに対してNTA(nanoparticle tracking analysis)を行って得られた粒径分布と粒子数を示すグラフである。
【
図2】蛍光染色されたキャットニップ由来のエキソソームがヒト皮膚線維芽細胞に伝達されることを確認した細胞蛍光顕微鏡の画像である(緑色:細胞内に伝達されたエキソソーム、青色:細胞核)。
【
図3】ヒト皮膚線維芽細胞にキャットニップ由来のエキソソームを処理した場合、エキソソームの濃度依存的に増加する相対的なコラーゲン量を示すグラフである。
【
図4】キャットニップ由来のエキソソームをスクラッチ・ウーンド(Scratch-Wound)に処理した後のヒト皮膚線維芽細胞の移動が増加することを示すグラフである。
【
図5】蛍光染色されたキャットニップ由来のエキソソームがRAW264.7細胞に伝達されたことを確認した細胞蛍光顕微鏡の画像である(緑色:細胞内に伝達されたエキソソーム、青色:細胞核)。
【
図6】キャットニップ由来のエキソソームをRAW264.7細胞に処理した場合、LPSによって誘導されるIL 6が減少することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を下記の実施例でより詳細に記述する。ただし、下記の実施例は、本発明の内容を例示するものに過ぎず、本発明の権利範囲を制限したり限定するものではない。本発明の詳細な説明及び実施例から、本発明が属する技術分野の通常の技術者が容易に類推できることは本発明の権利範囲に属するものと解釈される。本発明に引用された参考文献は、本発明に参考として統合される。
【0052】
明細書全体で、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含みうることを意味する。
【実施例】
【0053】
<実施例1:キャットニップ搾汁物の製造>
キャットニップ(Nepeta cataria)の葉及び茎を一次的に流水で洗浄して農薬を除去した。次に、キャットニップの葉及び茎を5cm以下に切断し、攪拌速度が40rpmの低速スクリューで搾汁して液状の搾汁物を得た後、400メッシュ網に濾過して大きな浮遊物を除去した。濾過した搾汁液は、タンパク質及び細胞壁を除去するために10,000×gで10分間4℃で遠心分離した。この過程で得られた上清は、0.22μm細孔を含む濾過膜で濾過して濾液を得、精製を行うまで-80℃で保存した。
【0054】
<実施例2:キャットニップ由来のエキソソームの精製>
実施例1と同様にして得られたキャットニップ搾汁物は、段階別に遠心分離と超遠心分離法を用いて多数の不純物を除去し、キャットニップ由来のエキソソームを分離した。 解凍したキャットニップ搾汁物は2,000×gで10分間遠心分離した後、0.22μm細孔を含む濾過膜で濾過して濾液を得た。その後、10,000×gで1次遠心、20,000×gで2次遠心分離した後、上清を回収し、上清を100,000×gで70分間4℃で超遠心分離して底面からペレットを得た。得られたペレットをPBS(Phosphate Buffered Saline)で懸濁して、キャッツニップ由来のエキソソームを最終的に得た。前記の方法で分離されたキャットニップ由来のエキソソームの大きさと濃度は、NS300(Malvern Panalyticalから購入)を用いたナノ粒子トラッキング解析(nanoparticle tracking analysis;NTA)で確認した(
図1)。
【0055】
<実施例3:キャットニップ由来のエキソソームの皮膚線維芽細胞の伝達能の確認>
キャットニップ由来のエキソソームが、ヒト皮膚線維芽細胞(ATCCから購入)内に伝達されるか否かを確認するために、次のような分析を行った。実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームの膜を蛍光染色するためにPKH67(Sigma-Aldrichから購入)蛍光染料と反応させた。反応後、反応液をMiniTrap-25(Cytivaから購入)のカラムで分画してエキソソーム膜に染色されなかった遊離PHK67(free PKH67)蛍光染料を除去した。陰性対照群には、PKH67蛍光染料を緩衝溶液と反応させた後、MiniTrap-25カラムで分画したものを使用した。PKH67で染色されたエキソソームをあらかじめ培養して準備されたヒト皮膚線維芽細胞とともに培養した後、経時的にエキソソームが細胞内に伝達されるか否かを蛍光顕微鏡を用いて観察した。細胞の核を染色するためにヘキスト(Hoechst)蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用し、細胞質を染色するためにCellMask Orange蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用した。エキソソームが細胞内に伝達されるか否かを確認した結果、蛍光染色されたエキソソームが細胞内に伝達されて緑色蛍光が細胞内部に時間の経過に応じて蓄積されることを確認した(
図2)。
【0056】
<実施例4:コラーゲンの生成促進効果の確認>
ウシ胎児血清を含むDMEM培地に分散されたヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast;ATCCから購入)をマルチウェルプレートに分注した後、24時間培養し、無血清培地でさらに48時間培養した。その後、実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈した後、ヒト皮膚線維芽細胞に処理して、ヒト皮膚線維芽細胞を培養した。ヒト皮膚線維芽細胞を用いたコラーゲン生成効能を確認するために、実験群を以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Control):無血清培地のみを処理した実験群;
(2)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図3で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:1.0×10
10粒子/mL);
(3)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図3で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:4.0×10
10粒子/mL)。
【0057】
前記各実験群でヒト皮膚線維芽細胞に処理後24時間培養し、培養液を回収して遠心分離した後、遠心分離した培養液を準備した。プロコラーゲンタイプI C ペプチド(PIP)用のEIAキット(Takaraから購入)を用いてヒト皮膚線維芽細胞から合成し、培養液に蓄積したコラーゲン量を測定した。測定されたコラーゲン量をMTTアッセイキット(Sigma-Aldrichから購入)によって測定された総細胞数で割って正規化し、相対的なコラーゲン量を決定した。
【0058】
その結果、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、陰性対照群と比較して濃度依存的にヒト皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン合成を著しく増加させたことが確認できた(
図3)。
【0059】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、コラーゲン合成増加効能、すなわち皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生効能に優れることがわかる。
【0060】
前記の結果によれば、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生用化粧品として有用な機能的活性、すなわちコラーゲン合成を増加させる活性を有することが分かる。したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、しわ改善及び/又は皮膚再生用化粧料組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0061】
<実施例5:皮膚線維芽細胞を用いた皮膚再生効能の確認>
実施例2のように準備したキャットニップ由来のエキソソームが、ヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast;ATCCから購入)において創傷回復能を促進するか否かを評価するために、スクラッチ・ウーンドアッセイ(Scratch-Wound Assay)を行った。ウシ胎児血清を含むDMEM培地に分散したヒト皮膚線維芽細胞を創傷誘導用カルチャープレート(ImageLock Plate;EssenBioから購入)に5,000細胞/ウェルの密度で分注し、5%CO
2、37℃の条件で24時間培養して90%以上の密集度を確認した後、ウーンドメーカー(WoundMaker;EssenBioから購入)を用いてスクラッチを誘発した。ヒト皮膚線維芽細胞を用いた皮膚再生効能の確認のために、実験群を以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Negative Control;N.C.):無血清培地のみを処理した実験群;
(2)陽性対照群(Positive Control;P.C.):10%ウシ胎児血清を含む培養培地を処理した実験群;
(3)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図4で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:2.0×10
9粒子/mL);
(4)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図4で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームを無血清培地に希釈して処理した実験群(処理濃度:1.2×10
10粒子/mL)。
【0062】
その後、前記実験群のそれぞれでスクラッチ・ウーンド(Scratch-Wound)に処理して5%CO2、37℃の条件で12時間、ヒト皮膚線維芽細胞を培養しながら創傷回復能をインキュサイト(Incucyte)(Sartoriusから購入)で測定した。
【0063】
創傷回復能を測定した結果、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、陰性対照群と比較してヒト皮膚線維芽細胞の移動を増加させることが確認できた(
図4)。
【0064】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、ヒト皮膚線維芽細胞の移動促進効能、すなわち創傷回復能ないしは皮膚再成効能に優れることがわかる。
【0065】
したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善及び/又は皮膚再生用化粧料組成物と、創傷治療又は創傷治療促進用薬学組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0066】
<実施例6:キャットニップ由来のエキソソームのマクロファージ伝達能の確認>
キャットニップ由来のエキソソームがマウスマクロファージ(RAW264.7;ATCCから購入)内に伝達されるか否かを確認するために、以下の分析を行った。実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームの膜を蛍光染色するためにPKH67(Sigma Aldrichから購入)蛍光染料と反応させた。反応後、反応液をMiniTrap-25(Cytivaから購入)カラムで分画し、エキソソーム膜に染色されなかった遊離PHK67(free PKH67)蛍光染料を除去した。陰性対照群としては、PKH67蛍光染料を緩衝溶液と反応させた後、MiniTrap-25カラムで分画したものを用いた。PKH67で染色したエキソソームを予め培養して準備したマウスマクロファージと共に培養した後、経時的にエキソソームの細胞内に伝達されるか否かを蛍光顕微鏡を用いて観察した。細胞の核を染色するためにヘキスト(Hoechst)蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用し、細胞質を染色するためにCellMask Orange蛍光染料(Thermo Fisherから購入)を使用した。エキソソームの細胞内に伝達されるか否かを確認した結果、蛍光染色されたエキソソームが細胞内に伝達され、緑色蛍光が細胞内部に時間の経過に応じて蓄積することが確認された(
図5)。
【0067】
<実施例7:キャットニップ由来のエキソソームの抗炎効能の評価>
実施例2のように準備したキャットニップ由来のエキソソームが抗炎効能を示すか否かを確認するために、前記キャットニップ由来のエキソソームがマウスマクロファージであるRAW264.7細胞におけるIL-6の生成量に及ぼす効果を確認した。RAW264.7細胞を10%FBSを含むDMEM培地に懸濁させ、これをマルチウェルプレート(multiwell plate)の各ウェルに80~90%の密集度(confluency)を有するように分注した。翌日、LPSを含む新たな培地[1%FBSと200nMのLPS(lipopolysaccharide)を含むDMEM培地]に希釈したキャットニップ由来のエキソソームをRAW264.7細胞に処理した後、RAW264.7細胞を24時間培養した。抗炎効能評価のための実験群は以下のように分類した。
(1)陰性対照群(Negative Control;N.C.):LPS培地のみをRAW264.7細胞に処理した実験群;
(2)陽性対照群(Positive Control;P.C.):LPS培地にデキサメタゾン(dexamethasone)(最終濃度:200μM)を混合してRAW264.7細胞に処理した実験群;
(3)キャットニップ由来のエキソソーム低濃度処理群(
図6で「低濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームをLPS培地に希釈してRAW264.7細胞に処理した実験群(処理濃度:6.0×10
9粒子/mL);
(4)キャットニップ由来のエキソソーム高濃度処理群(
図6で「高濃度」と表示):実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソームをLPS培地に希釈してRAW264.7細胞に処理した実験群(処理濃度:2.0×10
10粒子/mL)。
【0068】
培養終了後、培養上清を採取し、培養上清中に存在する炎症性サイトカインであるIL-6の生成量をIL-6 ELISAキットを用いて測定した。ELSIAキット(R&D systemsから購入)メーカーのマニュアルに従ってLPSのみを処理した群におけるIL-6(炎症性サイトカイン)の生成量と、デキサメタゾン及びキャットニップ由来のエキソソーム(低濃度及び高濃度)それぞれをLPS培地と混合して処理した実験群におけるIL-6生成量を確認した(
図6)。
【0069】
その結果、RAW264.7細胞にLPSとともに実施例2で準備したキャットニップ由来のエキソソーム(低濃度及び高濃度)を処理した実験群では、陰性対照群と比較してIL-6の生成が抑制されたことが確認された(
図6)。
【0070】
前記実験結果から、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは抗炎効能に優れることがわかった。したがって、本発明のキャットニップ由来のエキソソームは、抗炎、創傷治療及び/又は創傷治療促進用薬学組成物の有効成分として有用に活用することができる。
【0071】
以上、本発明を前記実施例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正、変更をすることができ、このような修正と変更も本発明に属するものであることがわかるであろう。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む、皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善
又は皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項2】
シャンプー、石鹸、リンス、界面活性剤含有クレンジング、クリーム、ローション、軟膏、トニック、トリートメント、コンディショナー、懸濁液、乳濁液、ペースト、ジェル、オイル、ワックス、スプレー、エアゾール、ミスト、又はパウダーである、請求項1に記載の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善
又は皮膚再生用化粧料組成物。
【請求項3】
キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む、抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項4】
注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、塗布、又はそれらの組み合わせにより投与又は処理される、請求項
3に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項5】
注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形である、請求項
3に記載の抗炎症、創傷治癒又は創傷治癒促進用薬学組成物。
【請求項6】
キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む化粧料組成物を用いて、治療用を除く、哺乳動物の皮膚の弾力改善、皮膚のしわ改善、又は皮膚再生をする美容方法。
【請求項7】
(a)前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に直接塗布すること、(b)前記化粧料組成物が塗布又は浸漬されたパッチ、マスクパック又はシートマスクを哺乳動物の皮膚に接触又は付着すること、もしくは前記(a)及び(b)を順次進行することを含む、請求項
6に記載の美容方法。
【請求項8】
前記(a)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームが使用される、請求項
7に記載の美容方法。
【請求項9】
(c)前記(b)ステップの後に、前記パッチ、マスクパック又はシートマスクを前記哺乳動物の皮膚から除去し、前記化粧料組成物を哺乳動物の皮膚に塗布するステップをさらに含む、請求項
7又は
8に記載の美容方法。
【請求項10】
前記(c)ステップでは、化粧料組成物としてローションやクリームが使用される、請求項
9に記載の美容方法。
【請求項11】
前記哺乳動物は、ネコ、ヒト、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル、又はブタである、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の美容方法。
【請求項12】
キャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む薬学組成物の治療学的に有効な量をヒトを除く哺乳動物に投与するステップ、又はキャットニップ(Nepeta cataria)由来のエキソソームを有効成分として含む薬学組成物をヒトを除く哺乳動物の皮膚、炎症部位又は創傷部位に塗布するステップを含む、炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項13】
前記薬学組成物は、注射、マイクロニードリング、イオントフォレシス、又はそれらの組み合わせにより投与される、請求項
12に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項14】
前記薬学組成物は、注射剤形、注入剤形、噴霧剤形、液状剤形又はパッチ剤形である、請求項
12に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【請求項15】
前記哺乳動物は、ネコ、イヌ、齧歯類、ウマ、ウシ、サル又はブタである、請求項
12~
14のいずれか一項に記載の炎症治療、創傷治療又は創傷治療促進のための方法。
【国際調査報告】