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特表2025-502927被検体を評価するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】被検体を評価するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
A61B5/055 382
A61B5/055 380
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534062
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2023051044
(87)【国際公開番号】W WO2023143971
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】22153579.2
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】ルーフケンス ティミー ロベルトス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハルト デ レイテル ベッケル エフェレイン マヒテルト
(72)【発明者】
【氏名】クラミング ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ファン エー レイモンド
(72)【発明者】
【氏名】メナ ベニート マリア エストレラ
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA18
4C096AC01
4C096AD14
4C096DC22
4C096DC32
4C096FC10
(57)【要約】
被検体の脳活動のfMRI分析を使用して被検体を評価するための方法及びシステムであって、被検体が一組の認知タスクを実行する間に、被検体を評価するための方法及びシステム。各タスクについて、タスクを完了する際の能力の第1のレベルが導出される。満足な性能レベルまで完了したタスクの少なくともいくつかについて、それらのタスクの何れかが、閾値を超える、タスクに関連する脳の領域とは異なる脳の領域の増加した活動を示したかどうかが評価される。これらのタスクのために、さらなるfMRI分析が、さらなる認知タスクを実行するが、さらなる認知負荷を伴って実行される。fMRI分析とさらなるfMRI分析を比較する。これは、例えば、患者が認知タスクを完了するために補償機構を使用しているという決定を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を評価する方法であって、
認知タスクのセットを実行する間の被検体の脳活動の機能的MRI(fMRI)分析を実行するステップであって、各認知タスクは、脳の領域の特定の領域又はネットワークの活動に関連する、ステップと、
各タスクについて、前記タスクを実行する際の前記被検体の能力のレベルに関連するタスクを完了する際の能力の第1のレベルのインジケーションを受信又は識別するステップと
を有し、前記方法はさらに、
性能の閾値レベルまで完了したタスクのうちの少なくともいくつかについて、前記タスクに関連する脳の領域の前記特定の領域又はネットワークに対する前記脳の領域の異なる領域又はネットワークの、閾値を上回る増加された活動がある何れかのタスクを識別するステップと、
前記識別されたタスクについて、追加の認知負荷が前記被検体に提供されるが、前記識別されたタスクと同じ前記脳の領域の前記特定の領域又はネットワークの活動に関連するさらなる認知タスクを実行する間に前記被検体の脳活動のさらなるfMRI分析を実行するステップと、
それぞれのさらなる認知タスクについて、能力の第1のレベルとの比較のために、前記さらなるタスクを行う際の前記被検体の能力のレベルに関連する前記タスクを完了する際の能力の第2のレベルのインジケーションを受信又は識別するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
能力の閾値レベルまで完了された各タスクについて、前記タスクに関連する領域の前記特定の領域又はネットワークの活動は、期待されるレベルを下回ることを決定し、それから、増加された活動がある前記何れかのタスクを識別するステップのみを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記認知タスクは、実行機能タスク、注意タスク、計画タスク、及びメモリタスクのうちの1つ又はそれより多くを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記認知タスクは、警戒タスク、フランカータスク、及びポスナーキューイングタスクのうちの1つ又はそれより多くを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記追加の認知負荷は、眼球運動負荷及び瞳孔測定負荷の一方又は両方を有する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加の認知負荷は、自律神経系(ANS)調節負荷を有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記追加の認知負荷は、作業メモリ又は注意に関与する追加のテストを有する、請求項1乃至6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記追加の認知負荷は、タスク、劣化した刺激品質、又は増加された刺激周波数に対する追加の時間制約を有する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記追加の認知負荷は、fMRI分析によって得られるリアルタイムの脳活動のレベルに基づいて可変である、請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被検体のバイタルサインを監視するステップをさらに有する、請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
視線追跡を使用して認知負荷を評価するステップをさらに有する、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
プログラムがコンピュータ上で実行されるとき、請求項1乃至11の何れか一項に記載の方法を実施するように適合されるコンピュータプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のコンピュータプログラムでプログラムされるプロセッサ。
【請求項14】
認知能力を評価するためのシステムであって、
認知タスクのセットを実行している間、被検体の脳活動のfMRI画像を受信するための入力部と、
前記被検体にタスクを送達し、前記fMRI画像を処理するための出力装置を制御するための、請求項13に記載のプロセッサと
を有する、システム。
【請求項15】
MRIシステムであって、
fMRIスキャナと、
被検体にタスクを送達するための出力装置と、
請求項14に記載の認知能力を評価するためのシステムと
を有する、MRIシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体を評価するための方法及びシステムに関し、特に、軽度の外傷性脳損傷を評価するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
軽度の外傷性脳損傷(mTBI)は、
意識喪失期間、
事故の直前又は直後のイベントの記憶喪失、
事故時の精神状態の変化、及び
一過性又は非一過性の時間局所性神経障害
のうちの少なくとも1つによって明らかにされる脳機能の外傷的に誘導される生理学的中断として説明することができる。
【0003】
外傷性脳損傷(TBI)、特にmTBIは、大規模で急速に増大する公衆衛生上の懸念を構成する。毎年、世界中で約6900万人がTBIを維持している。これらのTBIの約85%がmTBIと診断される。
【0004】
ほとんどのmTBI患者は頭痛、めまい、疲労、めまい、神経精神症状(行動及び気分の変化、錯乱を含む)、バランスの困難さ、睡眠パターンの変化、及び認知障害(メモリ、注意、濃度、及び実行機能障害を含む)を含む一連の症状を発症する。
【0005】
急性期において、mTBIの現在の診断は精神状態変化の臨床評価に基づく(例えば、グラスゴー昏睡尺度を使用する)。認知評価は、慢性認知症状を有する患者において、後の段階で実施され得る。
【0006】
mTBIにおいて損なわれる主な認知機能は注意及び実行機能(例えば、作業記憶、処理速度)である。加えて、mTBI患者はしばしば、認知障害を悪化させ得る視覚的及びバランスの問題を有する。mTBIを有する患者の評価のために、注意、処理速度、実行機能、及びメモリの徹底的な評価が、任意の現在の認知障害を捕捉するために必要である。より重要なことに、症状はしばしば微妙であるので、これらのテストは高い感度を有する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この目的のために臨床診療で使用される規格神経心理学的及び認知テストは、これらのわずかな認知障害を検出するのに十分な感度ではない。これらの標準的なテストは多くの場合、マルチタスキングの欠如、研究室での注意散漫なし、あまりにも容易であるタスク、あまりにも短いタスクの持続時間、タスクの不適切な選択(例えば、注意欠陥のために患者の記憶問題がより起こりやすい間の記憶タスクの提示)、日常生活でのタスクと比較して、研究室のタスクの性能により多くの努力を払う患者、及び研究室のタスク中に使用される代償機構を特徴とする。
【0008】
結果として、mTBIの入射角の認識が高まっているという事実にもかかわらず、mTBIの現在の評価基準は最適以下のままであり、したがって必要とされる感度を有していない。これは、主に、現在の神経心理学的及び認知的評価がすべての患者に対して標準的な方法論を使用するためである。結果として、mTBI患者が日常生活で遭遇するわずかな認知障害は、臨床評価中に明らかにされない可能性がある。mTBIにおける認知障害は日常の正常な機能を損なう微妙な認知障害を特徴とし、結果として、mTBI患者が正常な社会生活及び仕事生活を有する能力を制限する。
【0009】
現行のテストの不充分な感度はmTBI患者における認知欠損が評価されるとき、認知テストの点数が多くの場合、標準内にある、すなわち、健康な個人のものと区別できないことを意味する。結果として、高い割合のmTBI患者は、正確な診断を受けることができず、結果として、いかなる処置も受けることができない。
【0010】
言い換えれば、mTBI患者は日常生活における認知障害を訴えるにもかかわらず、それらの問題はmTBIにおける認知障害を評価する現在の方法によっては検出されない。
【0011】
McAllister T, Wらによる "Differential working memory load effects after mild traumatic brain injury"(Neuroimage 2001 US, vol. 14, no. 5, pp. 1004乃至1012)は、異なる処理負荷、すなわち、0、1、2、及び3バックテストを有する聴覚nバックタスクの使用を開示する。fMRI分析は、テスト中に実行される。
【0012】
米国特許出願公開第2012/083688号明細書は脳震盪の影響を検出するためのシステム及び方法を開示しており、MRI分析は、被検体が脳の1つ以上の機能中枢を運動するタスクを実行する間に実行される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、請求項によって規定される。
【0014】
本発明の一態様による実施例によれば、
【0015】
被検体を評価する方法であって、
認知タスクのセットを実行する間の被検体の脳活動の機能的MRI(fMRI)分析を実行するステップであって、各認知タスクは、脳の領域の特定の領域又はネットワークの活動に関連する、ステップと、
各タスクについて、タスクを完了する際の能力の第1のレベルのインジケーションを受信又は識別するステップと、
性能の閾値レベルまで完了したタスクのうちの少なくともいくつかについて、前記タスクに関連する脳の領域の前記特定の領域又はネットワークに対する前記脳の領域の異なる領域又はネットワークの、閾値を上回る増加された活動がある何れかのタスクを識別するステップと、
前記識別されたタスクについて、追加の認知負荷が前記被検体に提供されるが、前記識別されたタスクと同じ前記脳の領域の前記特定の領域又はネットワークの活動に関連するさらなる認知タスクを実行する間に前記被検体の脳活動のさらなるfMRI分析を実行するステップと、
それぞれのさらなる認知タスクについて、能力の第1のレベルとの比較のために、タスクを完了する際の能力の第2のレベルのインジケーションを受信又は識別するステップと
を有する、方法が提供される。
【0016】
この方法は被検体(すなわち、患者)が、通常、認知テストを使用して検査され、認知テストが認知機能の微妙な障害を検出することができないので、しばしば過小診断されるという問題に対処する。
【0017】
本方法は、MRスキャナ内のほとんどの認知領域をカバーする多数の認知タスクを患者に実行させることによって、わずかな障害を検出することを可能にする2段階アプローチを提供する。MRスキャンデータの分析は特定のタスクを実行する間に通常活性化されるはずで各タスクに関連する予想される脳領域及びネットワークを見る(すなわち、認知領域Aについて試験するためのタスクAがあり、このタスクは、領域Aに関連する脳領域を活性化するように設計されている)。
【0018】
認知領域Aに関する脳領域及びネットワークが、認知領域Aに関する認知タスクの性能中に(fMRIによって検出されるように)活性化され、タスクが満足のいくレベルまで性能される場合、その認知領域及びその関連する機能領域に問題はない。
【0019】
逆に、関連する脳領域及びネットワークは予想通りに活性化されないが、患者が依然として満足のいくレベルまで、すなわち、深刻な性能低下なしに機能する場合、患者は脳領域に影響を及ぼす可能性が高いが、脳は依然としてタスクを実行することができるように、他の領域及びネットワークを使用している。したがって、脳は予備能力を利用している。このタイプの応答は典型的には見逃されるが、本発明の方法は依然として、脳障害を検出することを可能にする。
【0020】
特に、認知領域Aに関連する予想される脳領域、例えば認知領域Aが認知領域Aに関連する認知タスクを実行している間に活性化されないが、行動尺度が依然として予想値内にある場合、被検体は追加の作業負荷を与えられる。これは(他の)認知リソースを使い果たし得、これは特定の認知領域におけるわずかな認知障害の指標を提供する。
【0021】
性能の有意な低下が依然としてない場合、患者は良好に性能することができるが、認知予備力を使用すると結論付けることができる。これは、長期的に問題をもたらす可能性がある。(より低い作業負荷試験における同じ認知領域の試験と比較して)性能の有意な低下がある場合、被検体は特定の認知領域において認知問題を有し、それに応じて治療及びケア経路を調整することができると結論付けることができる。
【0022】
したがって、比較に基づいて、被検体が認知タスクを完了するために補償メカニズムを使用しているかどうかを決定することが可能である。
【0023】
本方法は性能の閾値レベルまで完了した各タスクについて、タスクに関連する特定の領域又は領域のネットワークの活動が期待されるレベルを下回っていることを決定し、次いで、活動が増加している前記タスクを識別することのみを含むことができる。
【0024】
予想される領域又はネットワークにおける活動の低下又は不在さえも、上記で説明したような脳外傷の指標である。それは、準最適又は非機能領域又はネットワークを示し、タスクに関連する認知領域が少なくとも解剖学的に影響を受けるという洞察を既に提供している。次いで、異なる領域又はネットワークにおける活動の増加は、影響を受けた認知領域のさらなる第2の指標である。
【0025】
認知タスクは例えば、実行機能タスク、注意タスク、計画タスク、及び記憶タスクのうちの1つ又は複数を含む。
【0026】
認知タスクは例えば、警戒タスク、フランカータスク、及びポスナーキュータスクのうちの1つ又は複数を含む。
【0027】
様々な可能な追加の認知負荷方法を使用することができる。例えば、追加の認知負荷は、眼球運動負荷及び瞳孔測定負荷の一方又は両方を含むことができる。
【0028】
別の例では、追加の認知負荷が自律神経系(ANS)調節負荷を含む。
【0029】
複数のANS関数もまた、mTBI関連の調節不全に感受性であることが知られている。例えば、mTBIは脳血管反応性を低下させ、mTBI個体は健常個体と比較して、より高い心拍数、心拍変動の減少、及び皮膚コンダクタンスの減少を示したことが示されている。
【0030】
ANS関数を誘発する方法は、低酸素(酸素レベルの可逆的、一時的な減少)を誘発することである。文献はパルスオキシメトリー、脳血管調節反応の態様、心拍数、皮膚電気活動及び心血管反応における差異の存在を示しているので、ANS機能の尺度は低酸素症に感受性である。
【0031】
影響を受けたANS機能は次に、mTBI患者において認知機能に対して負の効果を有し、不均衡により多くを有することが知られている。
【0032】
別の例では、追加の認知負荷が作業メモリ又は注意に関与する追加のテストを含む。
【0033】
別の例では、追加の認知負荷がタスク、劣化した刺激品質、又は増加した刺激周波数に対する追加の時間制約を含む。
【0034】
すべての場合において、追加の認知負荷のレベルは、fMRI分析によって得られるリアルタイムの脳活動のレベルに基づいて可変であり得る。したがって、追加の負荷は、脳活動分析からのフィードバックを使用して適合させることができる。
【0035】
本方法は例えば、対象のバイタルサインを監視することをさらに含む。いくつかのバイタルサインは、認知努力の尺度として使用され得、mTBIを有する患者を示し得る。
【0036】
本方法は、視線追跡を使用して認知負荷を評価することを含むことができる。
【0037】
本発明はまた、上記で定義された方法を実施するために、前記プログラムがコンピュータ上で実行されるときに適合されるコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムを提供する。
【0038】
本発明はまた、コンピュータプログラムでプログラムされるプロセッサを提供する。
【0039】
本発明はまた、
認知能力を評価するためのシステムであって、
認知タスクのセットを実行している間、被検体の脳活動のfMRI画像を受信するための入力部と、
前記被検体にタスクを送達し、前記fMRI画像を処理するための出力装置を制御するための上記プロセッサと
を有する、システムを提供する。
【0040】
本発明はまた、
MRIシステムであって、
fMRIスキャナと、
被検体にタスクを送達するための出力装置と、
上記認知能力を評価するためのシステムと
を有する、MRIシステムを提供する。
【0041】
本発明のこれら及び他の態様は以下に記載される実施形態から明らかであり、それらを参照して説明される。
【0042】
本発明をより良く理解し、どのように実施することができるかをより明確に示すために、ここで、単なる例として、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】MRIシステムを示す。
図2】被検体の評価方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、図面を参照して説明される。
【0045】
詳細な説明及び特定の例は装置、システム、及び方法の例示的な実施形態を示しているが、例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。本発明の装置、システム及び方法のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からよりよく理解されるのであろう。図は単に概略的なものであり、縮尺通りに描かれていないことを理解されたい。また、同じ又は同様の部分を示すために、図面全体を通して同じ参照番号が使用されることを理解されたい。
【0046】
本発明は対象の脳活動のfMRI分析を使用し、認知タスクのセットを実行する、対象を評価するための方法及びシステムを提供する。各タスクについて、タスクを完了する際の能力の第1のレベルが導出される。満足な性能レベルまで完了したタスクの少なくともいくつかについて、それらのタスクの何れかが、閾値を超える、タスクに関連する脳の領域とは異なる脳の領域の増加した活動を示したかどうかが評価される。これらのタスクのために、さらなるfMRI分析が、さらなる認知タスクを実行するが、さらなる認知負荷を伴って実行される。fMRI分析とさらなるfMRI分析を比較する。これは、例えば、患者が認知タスクを完了するために補償機構を使用しているという決定を可能にする。
【0047】
本発明のアプローチは心臓Vmaxテスト(例えば、最大身体能力を試験するための自転車試験)に類似していると考えることができる。追加の認知負荷は、追加の認知負荷、又はリソース消失の形で追加の努力を必要とすることによって、毎日のルーチン中のストレスに似た方法で患者に挑戦する追加の認知ストレスとして機能する。本発明は、このようにして、mTBIにおける潜在的又は隠れた脳損傷及び関連する認知障害を発見するための効果的な方法を提供し得る。
【0048】
図1は、fMRIスキャナ102と、被検体にタスクを送達する出力装置104とを備えるMRIシステム100を示す。fMRIスキャナは、高度機能MRイメージングユニットと、fMRIスキャンユニットとを備える。
【0049】
出力装置104は例えば、MRボアに統合された視覚刺激を提供するためのディスプレイスクリーン又は仮想現実システムである。
【0050】
認知能力を評価するためのシステム106が提供され、このシステムは、被検体に送達されるタスクを実行している間に被検体の脳活動のfMRI画像を受信するための入力部108と、プロセッサ110とを備える。プロセッサ110はfMRI画像の分析を実行し、また、タスクを実行する際の被検体の能力レベルを決定する(又はアドバイスされる)。この性能情報は、システム106によって決定され得る。例えば、被検体は認知タスクの一部として(例えば、発話を介して、キーボードを使用して、タッチ感知入力部を介して、又は任意の他のユーザインターフェースデバイスを介して)システムに入力を提供することができ、又はシステムは、センサを使用して収集された情報に基づいてパフォーマンスを決定することができる。能力のレベルは被検体がタスクをどのくらいうまく遂行したかの測定、すなわち、タスクを遂行する際の被検体の能力の測定である。
【0051】
代替的に、臨床医は、パフォーマンス結果を手動でシステム106に入力することができる。
【0052】
プロセッサは例えば、可変の認知負荷レベルの下で認知テスト刺激に対する行動応答を決定し、次いで、所定の品質ルールに従って認知性能データを評価する。
【0053】
プロセッサ110はまた、被検体にタスクを送達するために出力装置104を制御する。
【0054】
データベース112は、被検体に適用される認知テストのデータベースである。センサ装置114も示されており、例えば、眼球運動測定を行うためのシステム、及び/又は、例えば血圧監視のための瞳孔測定及び/又はバイタルサインセンサを行うためのシステムを含む。
【0055】
システムの使用において、臨床医は、適用される試験を選択する。システムは例えば、この目的のためのガイダンスを提供する。
【0056】
被検体が必要とする認知努力、すなわち、以前の休止状態と比較した追加の努力は、被検体が各認知タスクを実行している間のfMRI画像の分析から評価される。このようにして、特定のタスクによって刺激される脳領域(すなわち、脳の特定の領域又は領域のネットワーク)が識別される。用語「脳領域」は、脳の領域の単一の領域又はネットワーク、及び任意選択的にニューラルネットワーク間のスイッチング機構も意味するために使用される。実際、fMRI検討は、外側前頭前皮質(DLPFC)、前帯状皮質(dACC)及び頭頂皮質(DPC)の背側領域を含む上位認知制御ネットワークを示唆する。
【0057】
異なる脳領域は、異なるタイプの認知タスクに関連する。したがって、各タスクは、タスクの性能中に刺激される予期される脳領域を有する。
【0058】
様々な認知領域、関連する認知課題、関連する機能的神経学的構造、及びさらなる認知負荷の議論はMJクックらによる、「Task―related functional magnetic resonance imaging activation in patient with acute and subacute mild traumatic brain injury」( A coordinate―based meta―analysis, 2020;25;102129)が参照される。
【0059】
被検体が期待される性能レベルまでタスクを完了することができない場合、これは、従来のfMRIに基づく認知テストによって検出されるような、可能性のあるmTBIの指標である。しかしながら、タスクが期待される性能レベルまで完了した場合、本発明は、成功裏に完了したタスクに関連する脳領域についてさえ、認知障害が依然として存在し得るかどうかを決定するためのさらなる分析を提供する。特に、本発明は認知タスクを実行するために、補償のために使用される脳領域が識別されることを可能にする。
【0060】
使用方法を図2に示す。
【0061】
方法200はステップ202において、第1のfMRI画像を受信するステップと、認知タスクのセット(1乃至n)を実行する間に、被検体の脳活動のfMRI分析を実行するステップとを含む。各認知タスクは、脳の特定の領域の活動に関連付けられる。
【0062】
ステップ204において、各タスク1乃至nについて、タスクを完了する際に第1レベルの性能P1が取得される。この性能は(たとえば、ユーザの動き、又は視線、又は音声/音声認識によって)感知され得るか、又は臨床医によって入力され得るか、又は(たとえば、認知タスクのコマンドに従うために画面に触れることによって)ユーザ入力から導出され得る。
【0063】
いくつかのタスク、例えば、n個のタスク(k<=n)の数kは、満足なレベルまで実行される。これらのタスクは、ステップ206で識別される。性能の閾値レベルまで完了したk個のタスクのうちのいくつかについて、タスクのサブセット、例えば、fMRI分析が閾値を超える、タスクに関連する脳の領域に対する脳の異なる領域の増加した活動を示す、それらのタスクの数m(m<=k)が存在する。これらのm個のタスクは、ステップ208で識別される。
【0064】
識別されたタスクについて、対象の脳活動のさらなる(第2の)fMRI分析がステップ210において実行され、一方、対象は識別されたタスクと同じ脳領域の活動に関連するさらなる認知タスクを実行するが、追加の認知負荷が提供される。この追加の認知負荷は元のタスクと同じタイプ(ただし、追加の脳リソースを必要とする)であってもよく、その結果、追加の認知負荷の結果としてタスクを実行するために、増加した量の補償が必要とされる。しかしながら、認知負荷は例えば、補償のために使用されていると識別されている異なる脳領域を対象とする異なるタイプのタスクとして実装されてもよい。その場合、追加の認知負荷は被検体の補償能力に影響を及ぼし、これは、やはり、分析することができる性能の差をもたらす。
【0065】
さらなるタスクごとに、タスクを完了する際の第2のレベルの性能P2が取得される。ステップ214において、タスクの対の第1のレベルと第2のレベルとの間で比較が行われる(すなわち、追加の認知負荷の有無にかかわらず、同じ脳領域を標的とするタスク)。
【0066】
性能の閾値レベルまで完了したk個のタスクがステップ206において識別されると、ステップ208における選択の前にさらなる選択が行われて、特定の脳領域の活動が期待されるレベルを下回ることを決定することができる。したがって、関連する脳領域が予想よりも刺激されない場合にのみ、追加の認知負荷が適用されるタスクが選択される。
【0067】
したがって、本方法は、安全な、プロトコル化された、ボア内のリアルタイムfMRI、マルチモーダル「ストレス」モジュールを提供する。追加の認知負荷は、認知能力、眼球運動能力、瞳孔測定能力、及び全身調節能力が完全に消耗され得ることを意味する。次いで、これは、通常は隠されている認知障害を引き起こし得る。ANS調節能力は例えば、心拍数及び皮膚電気活動を含む。
【0068】
追加の認知負荷は、非ストレス状況及び健康な個体の両方と比較して、認知テストにおける性能の低下を引き起こす。fMRI活動が上記で説明したように、認知制御に関与すると予想される脳領域における正常な増加の欠如を示す場合、特に興味深い。認知制御は特定の目標を達成するために適切な行動を導くために、注意、計画、又は作業メモリなどの実行機能を使用するプロセスである。
【0069】
認知能力を評価するための試験は、実行機能及び注意の試験などの任意の規格神経心理学的試験を含むことができる。理想的には実験的神経心理学からの認知テストを使用することができ、これは微妙な認知障害、例えば、警戒タスク、フランカータスク、又はポスナーキューイングタスクのような試験を測定するのに、より適している。
【0070】
追加の認知負荷は、作業メモリ又は注意に関与する特徴又は試験を追加することによって提供されてもよい。これは、タスクを完了する時間圧力を増加させることによって、刺激を劣化させることによって、刺激間隔を減少させることによって、正又は負の強化を加えることによって、複数のタスクを加えることによって、注意散漫な刺激の数を増加させることによって、又はタスクの持続時間を増加させることによって、達成され得る。
【0071】
認知テストに対する応答は、可変の追加の認知負荷レベルの下で収集されてもよい。認知負荷レベルはこのようにして、リアルタイム性能に基づいて(例えば、作業メモリタスクを使用して)適応させることができる。
【0072】
ここで、一例をより詳細に提示する。
【0073】
この例は、ワーキングメモリコグニティブドメインのテストに基づいている。ワーキングメモリは認知又は行動ガイダンスのために使用される情報を一時的に記憶し、操作する能力である。健康な被検体における以前の機能的MRイメージング研究は、作業メモリ負荷の増加が両側前頭及び頭頂領域の活性化の増加と関連することを示した。これらの領域は、TBIの損傷に対して脆弱であることが知られている。TBIではワーキングメモリの誤動作が頻繁に報告されている。
【0074】
適切な認知タスクの一例として、nバックタスクは、作業メモリを測定するために一般に使用される連続パフォーマンスタスクである。nバックタスクでは被検体に一連の刺激が提示され、タスクは電流刺激がシーケンスのnステップ前のものと一致するときを示すことからなる。負荷率nは、タスクを多かれ少なかれ困難にするように調整することができる。これは、さらなる程度の認知負荷の制御とみなすことができる。
【0075】
例えば、聴覚3バックテストは、試験対象に以下の文字のリストを送達するシステム、又はそれを読む実験者からなることができる。
【0076】
3ステップ前に読み取った文字に対応するため、太字、下線の文字を読み取った場合には、確認応答することになっている。
【0077】
nバックタスクは、作業メモリのアクティブ部分をキャプチャする。nが2以上である場合、最近提示された項の表現を単に留意するだけでは十分ではなく、電流刺激が何と比較されなければならないかを追跡するために、作業メモリバッファも継続的に更新される必要がある。このタスクを達成するために、被検体は作業メモリ内の情報を維持し、操作する必要がある。
【0078】
健康な被検体において、活性化の増加は、作業メモリ回路の活性化と一致して、両側の前頭領域及び頭頂領域において見出される。作業メモリ負荷の増加(すなわち、nの値の増加)の後、作業メモリ負荷のそれぞれの増加に応答した脳活性化の増加が検出される。
【0079】
mTBI患者において、3バックと2バックとの間の特定の脳領域における神経学的活性化において、ほとんど差が検出されない場合がある。これは、例えば、これらの患者において最大(又はプラトー)に達した状況、及びそれらの脳領域をもはや使用することができず、他の領域に戻す(すなわち、補償する)必要がある状況の指標を提供する。
【0080】
追加の認知の例はデュアルタスクnバックタスクを提示することであり得、デュアルタスクパラダイムでは2つの独立したシーケンスが典型的には1つの聴覚及び1つの視覚などの異なるモダリティの刺激を使用して、同時に提示される。したがって、1つのタスクは元のタスクと同じ脳領域を使用し得るが、追加されたタスクは他の脳リソースを使用する。
【0081】
さらに追加の作業負荷を加えることは、視覚刺激の質を歪め、文字を読み取る努力を増加させることであり得る。
【0082】
より一般的には、追加の認知負荷が任意の単一モード刺激から、患者に同時に与えられる任意の多モード刺激(例えば、視覚及び聴覚刺激)に移行することによって達成することができる。しかしながら、視覚刺激及び聴覚刺激は、一致して、又は不一致の何れかで提示され得る。非合同刺激は、注意力の高いリソースを要求する。
【0083】
上記で説明したように、目的は、認知負荷が認知タスクを実行している間に通常活性化されると予想される脳領域以外の脳領域を活性化するかどうかを検出することである。nバックタスクの例では、「正常」試験レベルが健康な被検体とmTBIを有する患者との間のパフォーマンス及びニューロン活動の差を示さない場合がある。
【0084】
しかしながら、認知負荷を加えるとき、健康な被検体では同様の領域が活性化されることが期待され得るが、領域が(微妙に)損傷されるが、「正常」レベルのタスクで認知低下を示すのに十分でない場合、認知負荷が期待され得る領域以外の領域が活性化されることが期待され得る。これは、患者が認知予備領域に戻らなければならなかったことを示す。
【0085】
補償として活性化され得る領域の例は前帯状皮質、すなわち、より多くの注意関連領域である。
【0086】
認知負荷は認知負荷に敏感であることが知られているアイトラッキング(たとえば、サッケード応答時間)を使用して測定され得る。
【0087】
開示された実施形態に対する変形は図面、開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、請求された発明を実施する際に当業者によって理解され、実行され得る。請求項において、単語「有する(comprising)」は他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。
【0088】
単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に列挙されるいくつかのアイテムの機能を満たすことができる。
【0089】
特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0090】
コンピュータプログラムは他のハードウェアとともに、又は他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体などの適切な媒体上に記憶/配布され得るが、インターネット又は他の有線もしくはワイヤレス電気通信システムなどの他の形態で配布されてもよい。
【0091】
「に適合された」という用語が特許請求の範囲又は説明において使用される場合、「に適合された」という用語は、「に構成された」という用語と等価であることが意図されることに留意されたい。用語「装置」が特許請求の範囲又は説明において使用される場合、用語「装置」は、用語「システム」と等価であることが意図され、逆もまた同様である。
【0092】
請求項におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
【国際調査報告】