(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】磁気記録テープおよび装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20250123BHJP
G11B 5/667 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/85 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20250123BHJP
G11B 5/008 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/667
G11B5/706
G11B5/738
G11B5/78
G11B5/85
G11B5/851
G11B5/735
G11B5/008 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538724
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2022086109
(87)【国際公開番号】W WO2023138850
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ランツ、マーク、アルフレッド
(72)【発明者】
【氏名】ロツイツェン、ヒューゴ
(72)【発明者】
【氏名】フラー、シメオン
(72)【発明者】
【氏名】フォンタナ、ロバート
【テーマコード(参考)】
5D112
【Fターム(参考)】
5D112AA05
5D112BB04
5D112FA02
5D112FA04
(57)【要約】
磁気記録テープが、テープ基板と、テープ基板の上に配置された垂直磁気記録層と、記録層とテープ基板との間に配置された軟磁性裏打ち層とを備える。垂直磁気記録層は、接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含み、軟磁性裏打ち層は、連続する軟磁性材料膜を含む。記録層内の磁性粒子は、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む。そのようなテープを用いるテープ記憶装置も提供される。装置は、垂直記録によって磁気テープにデータを書き込むための少なくとも1つのプローブ書込みヘッドを有する読取り/書込みヘッドと、上述した磁気テープの少なくとも1つのリールと、読取り/書込みヘッドを越えて磁気テープを輸送するためのテープ輸送機構とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ基板と、
接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含み、前記テープ基板の上に配置された垂直磁気記録層と、
連続する軟磁性材料膜を含み、前記記録層と前記テープ基板との間に配置された軟磁性裏打ち層とを備え、
前記磁性粒子が、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む、磁気記録テープ。
【請求項2】
前記磁性粒子が、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つを含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記磁性粒子が、ストロンチウム・フェライトを含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記磁気記録層が、10nm~70nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記磁気記録層が、10nm~40nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記軟磁性裏打ち層が、20nm~200nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記軟磁性裏打ち層が、40nm~120nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記軟磁性裏打ち層が、2つの連続する軟磁性材料膜を含み、前記膜の間に反強磁性結合層が配置される、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記反強磁性結合層が、2nm未満の厚さを有する、請求項8に記載の磁気テープ。
【請求項10】
前記軟磁性裏打ち層が、複数の連続する軟磁性材料膜から形成された積層体を含み、前記膜の間に非磁性分離層が配置される、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項11】
前記軟磁性裏打ち層上に形成されたキャッピング層を含む、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の磁気テープ。
【請求項12】
前記キャッピング層が、1nm~5nmの厚さを有する、請求項11に記載の磁気テープ。
【請求項13】
前記磁性粒子が、前記粒子の保磁力を調節するための少なくとも1つの置換元素を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項14】
前記磁性粒子が単分散である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項15】
前記磁気記録層と前記軟磁性裏打ち層との間に配置された非磁性層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項16】
前記軟磁性裏打ち層と前記テープ基板との間に配置されたシード層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項17】
前記テープの下面の粗さを調節するために、前記テープ基板の前記下面に形成されたバックコート層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項18】
垂直記録によって磁気テープにデータを書き込むための少なくとも1つのプローブ書込みヘッドを含む読取り/書込みヘッドと、
請求項1ないし17のいずれか一項に記載の磁気テープの少なくとも1つのリールと、
前記読取り/書込みヘッドを越えて前記磁気テープを輸送するためのテープ輸送機構とを備えるテープ記憶装置。
【請求項19】
磁気記録テープを作製する方法であって、
スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製された連続する軟磁性材料膜を含む軟磁性裏打ち層をテープ基板の上に形成することと、
接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含む垂直磁気記録層を、液体コーティング・プロセスによって前記裏打ち層の上に形成することとを含み、
前記磁性粒子が、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む、方法。
【請求項20】
前記磁性粒子が、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記磁性粒子が、ストロンチウム・フェライトを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記軟磁性裏打ち層が、2つの連続する軟磁性材料膜を含み、前記膜の間に反強磁性結合層が配置され、前記連続する膜および前記反強磁性結合層の各々が、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記軟磁性裏打ち層が、複数の連続する軟磁性材料膜を含む積層体として形成され、前記膜の間に非磁性分離層が配置され、前記連続する膜および反強磁性結合層の各々が、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製される、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、磁気記録テープに関する。垂直磁気記録層を有する磁気記録テープが、テープを作製する方法、およびテープを用いる記憶装置とともに記載される。
【背景技術】
【0002】
従来の磁気テープ記録システムは、液体コーティング・プロセスによって加えられたバリウム・フェライト粒子の磁気記録層を有するテープ媒体と、その層にデータを記録するためのリング書込みヘッドとを使用する。磁気テープ記録システムの面密度を増やすには、テープ媒体内の磁性粒子のサイズ/体積を増やすことが重要である。磁性粒子のサイズを縮小させると、書き込まれたデータの熱安定性が時間とともに低下する。したがって、データの安定性を維持するために、粒子の保磁力を増大させる必要がある。しかし残念ながら、粒子の保磁力を増大させると、粒子の磁気状態を変化させるために必要とされる磁界の大きさ、すなわちデータを書き込むために必要とされる磁界の大きさも増大し、ある時点で十分な磁界を生じさせることが困難になる。
【0003】
ハード・ディスク・ドライブ(HDD)産業は、現代技術でハード・ディスクが普及し、研究および開発に莫大な予算を利用することができることから、磁気記録開発の先駆者となっている。2005年頃、HDD産業は上記の問題に対する解決策を商品化し、それによってリング書込みヘッドは、軟磁性裏打ち層を組み込むスパッタリングされたディスク媒体と組み合わせたプローブ(単磁極)書込みヘッドに置き換わった。これは、記録層内の磁化容易軸がディスク表面に対して平行である長手方向の記録から、垂直方向の記録への動きを明確にした。垂直磁気記録層の場合、磁化容易軸はディスクの平面に対して垂直であり、軟磁性裏打ち層は、書込みヘッドからの磁束の復路を提供する。この設計では、ヘッドの書込みギャップ内に記録媒体が実質的に存在し、すなわちこの媒体が書込みヘッドの一部となり、データが書き込まれる領域内により強い磁界を生じさせることが可能になり、したがって面密度がより高くなる。
【0004】
磁気テープ産業における研究予算はより小さいため、この産業は従来、HDD産業での開発に追従し、HDD技術における進歩を次に磁気テープに採用している。したがって、「Exploratory Experiments in Recording on Sputtered Magnetic Tape at an Areal Density of 148 Gb/in2」、Tachibanaら、IEEE Transactions on Magnetics、Vol.50、No.11、1~6頁、2014年11月、および「201 Gb/in2 Recording Areal Density on Sputtered Magnetic Tape」、Furrerら、IEEE Transactions on Magnetics、Vol.54、2号、2018年2月に記載されているように、上記の飛躍的な進展は磁気テープにも適用された。これらの設計では、HDDで垂直記録に使用される磁気記録層において、白金およびルテニウムなどのスパッタリングされた媒体および材料を使用した。同様に、特開2004-362746および米国特許出願公開第2007/0065682号は、微粒子記録層を軟磁性裏打ち層とともに有する垂直磁気記録媒体について記載しており、記録層内の磁性粒子は、HDDで使用される材料、具体的には周期表の第8~11族元素の合金に基づいたものである。
【0005】
磁気記録技術の進歩が引き続き必要とされていることを考慮して、磁気テープ媒体の改善が大いに望ましいはずである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様は、テープ基板と、テープ基板の上に配置された垂直磁気記録層と、記録層とテープ基板との間に配置された軟磁性裏打ち層とを備える磁気記録テープを提供する。垂直磁気記録層は、接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含み、軟磁性裏打ち層は、連続する軟磁性材料膜を含む。記録層内の磁性粒子は、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む。
【0007】
本発明を実施するテープ媒体は、上記で説明した手法から根本的に逸脱する。本発明者らは、HDD技術からの先例に追従するという慣習を破り、軟磁性裏打ち層とともに使用される記録層に関してその技術によって決定される磁性材料から離れた。代わりに、本発明の実施形態で使用される磁性粒子材料は、旧式の微粒子テープ媒体で使用されるものを活用する。これは、そのような以前の材料の性能を改善するために、軟磁性裏打ち層とともに使用するために設計された記録層を有する媒体への切換えが正確になされたことを考慮した根本的な動きである。古い技術への後退だとして普通なら忘れられたかもしれないものへの偏見を克服することによって、本発明者らは、実際には特に有利なテープ媒体を実現した。上述した磁性粒子(先行技術文献の第8~11族合金とは化学的に非常に異なる)を含む垂直磁気記録層と、連続する(すなわち、微粒子ではない)軟磁性裏打ち層とを組み合わせることで、容易に製作でき、安価に作製でき、かつ優れた面密度および全体的な性能を与える磁気テープを提供する。これは、磁気テープ記憶にとって著しい進歩である。
【0008】
好ましい実施形態の磁性粒子は、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つを含み、最も好ましくは、特に高い面密度の記録を与えるストロンチウム・フェライトを含む。
【0009】
好ましい実施形態の軟磁性裏打ち層は、1つまたは複数の反強磁性または非磁性層を組み込むことができる。たとえば、軟磁性裏打ち層は、2つの連続する軟磁性材料膜を含むことができ、これらの膜の間に非常に薄い(2nm未満の)反強磁性結合層を配置することができ、または複数の連続する軟磁性材料膜から形成された積層体を含むことができ、これらの膜の間に非磁性分離層を配置することができる。これらの設計は、軟磁性裏打ち層内の磁壁により、リードバック・プロセスにおける雑音を低減させ、リードバック時のSNR(信号対雑音比)を改善する。
【0010】
好ましい実施形態はまた、軟磁性裏打ち層上に形成されたキャッピング層を含む。そのようなキャッピング層は、酸化を抑制することによって軟磁性裏打ち層を保護する働き、またはテープの電気特性を調節する働き、あるいはその両方の働きをすることができる。このキャッピング層は、裏打ち層自体と同じ真空プロセスで形成することができることが有利である。
【0011】
いくつかの実施形態では、磁性粒子は、以下でさらに説明する粒子の保磁力を調節するために、少なくとも1つの置換元素を含むことができる。本発明を実施するテープはまた、特定のテープ特性に影響を与えるために、以下で詳述する様々な追加の層を含むことができる。
【0012】
本発明の別の態様は、垂直記録によって磁気テープにデータを書き込むための少なくとも1つのプローブ書込みヘッドを含む読取り/書込みヘッドと、上記の本発明の第1の態様による磁気テープの少なくとも1つのリールと、読取り/書込みヘッドを越えて磁気テープを輸送するためのテープ輸送機構とを備えるテープ記憶装置を提供する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、本発明の第1の態様による磁気記録テープを作製する方法を提供する。この方法では、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって、軟磁性裏打ち層によって提供される連続する軟磁性材料膜が作製され、液体コーティング・プロセスによって、裏打ち層の上に垂直磁気記録層が形成される。
【0014】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照して、説明的で非限定的な例として、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】少なくとも1つの実施形態による磁気テープを用いた記憶装置における垂直記録を示す概略図である。
【
図2】少なくとも1つの実施形態による
図1の構成要素の一部分を示す図である。
【
図3】少なくとも1つの実施形態による磁気テープの概略断面図である。
【
図4】少なくとも1つの実施形態による
図3の磁気テープに対する修正例を示す概略断面図である。
【
図5】少なくとも1つの実施形態による磁気テープの概略断面図である。
【
図6】少なくとも1つの実施形態による磁気テープの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1の概略図は、磁気テープ上で垂直記録のための本発明を実施するテープ記憶装置の動作を示す。装置1は、磁気テープ3のリールにデータを書き込むための少なくとも1つのプローブ書込みヘッド2を含む読取り/書込みヘッドを有する。実際には、装置1の読取り/書込みヘッドは、1つまたは複数の書込みモジュールを含むことができ、各書込みモジュールは、テープ3のそれぞれのトラック内にデータを書き込むための複数のプローブ書込み要素2を含む。たとえば、典型的な読取り/書込みヘッドは、各々複数(たとえば、32個)の書込み要素(および追跡のためのサーボ要素)を有する2つの書込みモジュールと、テープ・トラックからのデータのリードバックのための複数の読取り要素(図示せず)を有する読取りモジュールとを備えることができる。テープ・リールは、読取り/書込み動作のためにヘッドに装着および提示されたカートリッジ/カセット(図示せず)内に収容される。記憶装置1は、典型的には、当技術分野ではよく知られているように、1つまたは複数のドライブに選択して自動的に装着することができるテープ・カートリッジのライブラリを含み、各ドライブが上述した読取り/書込みヘッドを含む。読取り/書込み動作中に、概略的に5と示すテープ輸送機構が、一般に知られている方法でヘッドを越えてテープ3を輸送するように動作する。
【0017】
プローブ書込みヘッド2は、単磁極先端部6と、垂直記録によってテープ3にデータを書き込むためのリターンポール7とを備える。テープ3は、テープ基板9と、基板9の上に配置された垂直磁気記録層10とを備える。記録層10は、以下でさらに説明するように、接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含む。この図の磁性粒子11に矢印によって概略的に示すように、磁性粒子の磁化容易軸は、テープ3の表面に対して実質的に垂直方向に配向される。テープ3は、記録層10とテープ基板9との間に配置された軟磁性裏打ち層(SUL)12をさらに備える。SUL12は、以下でさらに説明するように、連続する(微粒子ではない)軟磁性材料膜を含む。
【0018】
書込み動作において、プローブ先端部6からの磁束は、この図に矢印によって概略的に示すように、テープ媒体を通過する。先端部6から出た磁束は、記録層に対して実質的に垂直であり、したがってこれらの粒子は、印加される磁界の方向に応じて「1」または「0」を書き込むように配向される。SUL12は、書込みヘッドのリターンポール7への磁界の復路を提供する。
【0019】
図2は、ほぼ原寸に比例して描かれた記録システムの主要構成要素を示す。磁気テープ3の好ましい実施形態では、微粒子記録層10の厚さt
Rは、10nm≦t
R≦70nm、最も好ましくは10nm≦t
R≦40nmの範囲内である。SUL12の厚さt
Sは、好ましくは20nm≦t
S≦200nm、最も好ましくは40nm≦t
S≦120nmの範囲内である。テープ基板9は、典型的には、厚さ5ミクロン未満であり、たとえばPEN(ポリエチレン・ナフタレート)、PET(ポリエチレン・テレフタレート)、Spaltan基板材料、Aramid(芳香族ポリアミド)、またはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)から形成することができる。基板9では、これらの材料または他の知られている材料あるいはその両方の混合物を使用することもできる。
【0020】
SUL12は、当分野ではよく知られているCoZrNb、FeAlSi、Fe65Co35、CoTaZr、FeCoTaZr、CoNiZr、Fe44Co44Zr7B4Cu、Ni81Fe19、Ni45Fe55、FeAlN、(Fe70Co30)N、FeTaC、または他の材料あるいはその組合せなど、少なくとも1つの軟磁性材料層を含む。この軟磁性層は、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって、基板9の上に(直接または間接的に)形成され、それによって連続する(微粒子ではない)薄い軟磁性材料膜を作製する。SUL12を堆積させるために、よく知られているスパッタリング/蒸発技法を適用することができ、特定の例は、上記のTachibanaおよびFurrerの参照文献に記載されている。概して、SULは、1つまたは複数のスパッタリング/蒸発段階で堆積させることができ、以下でさらに説明するように、複合構造を有することができる。
【0021】
微粒子磁気記録層10において、磁性粒子は、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む。これらの粒子は、接着材料、典型的には何らかの形態のポリマー材料内に懸濁している。接着材料の例には、ポリ塩化ビニル-ポリ酢酸ビニル-ポリビニル・アルコールの三元共重合体を使用する硬質樹脂が含まれる。そのような硬質樹脂は、より軟質のポリウレタン(PU)樹脂成分に結合される。接着剤系の他の例には、スルホン酸化(PU)分散樹脂が含まれる。磁気テープ内の微粒子記録層のためのよく知られている技法(たとえば、米国特許第9,478,331号および第9,378,878号参照)を使用して、微粒子磁性層を作製することができる。この層内の磁性粒子は、好ましくは単分散であり、実質的に均一のサイズを有しており、すなわち粒子体積の標準偏差は小さく、好ましくは保磁力の標準偏差も小さい。記録層10は、従来の液体コーティング・プロセスによって、SUL12の上に(直接または間接的に)形成され。このプロセスでは、コーティング装置の押出しヘッドを越えてテープを引き出し、テープの露出面に微粒子材料を堆積させる。磁性層内の粒子の垂直配向は、コーティング・プロセス中に粒子を位置合わせするように磁界を印加することによって実現することができる。いくつかの実施形態では、磁性粒子は、たとえば上記で参照した米国特許に記載されているように、粒子の保磁力を調節するための少なくとも1つの置換元素を含むことができる。そのような置換元素の例には、Zn、Co、Al、Ti、Nb、ならびにこれらの元素またはSn、Zr、およびMnなどの他の元素あるいはその両方の合金が含まれる。いくつかの実施形態の磁気記録層はまた、当業者にはよく知られているように、表面粗さおよびテープとヘッドとの間の接触を制御するために、非磁性粒子、たとえば酸化アルミニウムの粒子を含むことができる。
【0022】
図3は、本発明を実施する好ましい磁気テープ20の概略断面図である。このテープ20は、垂直配向された微粒子磁性層21を含み、磁性粒子は、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つ、最も好ましくはストロンチウム・フェライトを含む。記録層21は、2つの連続する軟磁性材料膜23a、23bを含む複合SUL22の上に形成され、これらの膜の間に薄い反強磁性結合層24が配置される。反強磁性結合層24は、2nm未満、好ましくは約1nmの厚さを有しており、RuまたはIrMnなどの反強磁性材料から形成することができる。軟磁性層23a、23bは、上述した様々な材料から形成することができ、これらの材料は各々、100nm未満の厚さを有する。特定の例として、SUL22は、50nmのCoZrNb層23a、23b、および1nmのRu結合層24を含むことができる。SUL22の構成層は各々、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製され、それによってすべての層を同じ真空堆積手順で堆積させることができる。上述した液体コーティング・プロセスによって、磁気記録層21が加えられる。
【0023】
図4は、
図3のテープに対する修正例を示し、同様の構成要素は同じ参照番号によって示されている。このテープ25は、SUL22上に形成された薄いキャッピング層26を含む。このキャッピング層は、1~5nmの厚さを有しており、SUL22と同じ真空堆積プロセスで蒸発/スパッタリングによって堆積させられる。キャッピング層26の材料は、SUL22を酸化から保護するように、またはテープ媒体の電気抵抗を調節するように、あるいはその両方のために選択することができる。特に、テープの抵抗率が高すぎる場合、これは摩擦帯電を引き起こし、性能を損なう可能性がある。キャッピング層材料は、テープの導電率を高め、したがって摩擦帯電を抑制するように選択することができる。キャッピング層材料の特定の例には、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)などのSiNおよび炭素系の膜が含まれる。
【0024】
図5は、磁気テープの別の好ましい実施形態の概略断面図を示し、上述した構成要素はこの場合も、同様の参照符号によって示されている。このテープ30は、複数の連続する軟磁性材料膜32から形成された積層体を含むSUL31を有し、膜32の間に非磁性分離層33が配置される。この例は、4つの軟磁性層32を示すが、非磁性分離層33によって分離された複数の層32によって、多層の積層体SULを形成することができる。層32、33は、上述した様々な材料から形成することができる。ここで特定の実施形態では、SUL31は、複数のFeALSi層32を含むことができ、層32はたとえば厚さ約10nmであり、これらの層の間に約4nmの炭素分離層が位置する。SUL31の構成層の各々は、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製され、それによってすべての層を同じ真空堆積手順で堆積させることができる。
【0025】
上述した磁気記録テープは、スパッタリング/蒸発させたSULおよび垂直配向された微粒子磁性コーティングとともに、容易に製作できかつ安価に作製できる磁気テープを使用して、高密度記録を実現することを可能にする。上記のTachibanaおよびFurrerの参照文献に記載されている従来の磁気テープおよびSULを用いるテープ媒体より、はるかに高い面密度を実現することができる。所望される場合、白金およびルテニウムなどの高価な材料の使用を完全になくすことができ、または実施形態では、
図3および
図4の薄いRu反強磁性結合層に関して、費用効果の高いレベルでそのような材料を利用することができる。したがって、テープ媒体の全体的なコストを非常に著しく低減させることができる。さらに、TachibanaおよびFurrerのテープ媒体で使用されるルテニウム中間層をなくすことによる追加の利益は、これにより磁気記録層とSULとの間の距離が低減され、書込みプロセスがさらに改善され、SNRがより高くなることである。
図3~
図5の複合SUL構造はまた、軟磁性裏打ち層内の磁壁によって、リードバック・プロセスにおける雑音を低減させ、リードバック時のSNRをさらに改善する。
【0026】
図6の概略図は、本発明を実施するテープ媒体内に(個々にまたは組み合わせて)含むことができる追加の層を示す。ここに示されているテープ40は、液体コーティングされた微粒子磁性層41と、SUL42(上述した複合層構造を有することができる)とを、SULキャッピング層43とともに有する。磁気記録層41とSULキャッピング層43との間に、非磁性層44が配置される。この非磁性層44は、記録層を形成する前に液体コーティングによって堆積させることができ、テープ表面の導電率を調節するために、またはテープの表面粗さを調節するために、あるいはその両方のために使用することができる。この層44に対する例示的な材料には、炭素粒子を含有するポリマー材料が含まれ、炭素量は、導電率または表面粗さあるいはその両方を調節するように調整される。SUL42とテープ基板46との間に、たとえばTaまたはTiの薄いシード層45が蒸発またはスパッタリングによって堆積させられる。このシード層は、粘着性を増大させるために、またはSULの構造に影響を与えるために、あるいはその両方のために、たとえば所望の非結晶または多結晶のSUL材料構造を実現するために、使用することができる。テープ基板46の下面には、たとえば液体コーティング・プロセスによって、バックコート層47も形成される。バックコートは、テープの下面の粗さを調節し、スプーリングおよびアンスプーリング中の粘着性を制御するために、たとえば炭素または他の充填材粒子が含まれたポリマーから形成することができる。磁性層41または非磁性裏打ち層44あるいはその両方はまた、テープと読取り/書込みヘッドとの間の摩擦を低減させるために、潤滑剤(接着材料と混合することができ、またはトップコートとして加えることができる)を含むことができる。本発明を実施するテープ内に追加の層44、45、および47が含まれる場合、これらの層の厚さは、好ましくは可能な限り最小化される。
【0027】
記載する特定の実施形態には、様々な他の変更および修正を加えることができることが理解されよう。概して、本発明を実施する磁気テープを参照して本明細書に特徴が記載される場合、対応する特徴は、磁気記録テープを作製する方法および本発明を実施するテープ記憶装置で提供することができる。
【0028】
本発明の様々な実施形態の説明は、説明の目的で提示されており、網羅的であること、または開示する実施形態に限定されることを意図したものではない。記載する実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。本明細書に使用される術語は、実施形態の原理、実際的な応用、もしくは市場に見られる技術に対する技術的な改善について最もよく説明するために、または当業者であれば本明細書に開示する実施形態を理解することを可能にするために選択されたものである。
【手続補正書】
【提出日】2024-11-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ基板と、
接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含み、前記テープ基板の上に配置された垂直磁気記録層と、
連続する軟磁性材料膜を含み、前記記録層と前記テープ基板との間に配置された軟磁性裏打ち層とを備え、
前記磁性粒子が、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む、磁気記録テープ。
【請求項2】
前記磁性粒子が、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つを含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記磁性粒子が、ストロンチウム・フェライトを含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記磁気記録層が、10nm~70nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記磁気記録層が、10nm~40nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記軟磁性裏打ち層が、20nm~200nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記軟磁性裏打ち層が、40nm~120nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記軟磁性裏打ち層が、2つの連続する軟磁性材料膜を含み、前記膜の間に反強磁性結合層が配置される、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項9】
前記反強磁性結合層が、2nm未満の厚さを有する、請求項8に記載の磁気テープ。
【請求項10】
前記軟磁性裏打ち層が、複数の連続する軟磁性材料膜から形成された積層体を含み、前記膜の間に非磁性分離層が配置される、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項11】
前記軟磁性裏打ち層上に形成されたキャッピング層を含む、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の磁気テープ。
【請求項12】
前記キャッピング層が、1nm~5nmの厚さを有する、請求項11に記載の磁気テープ。
【請求項13】
前記磁性粒子が、前記粒子の保磁力を調節するための少なくとも1つの置換元素を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項14】
前記磁性粒子が単分散である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項15】
前記磁気記録層と前記軟磁性裏打ち層との間に配置された非磁性層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項16】
前記軟磁性裏打ち層と前記テープ基板との間に配置されたシード層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項17】
前記テープの下面の粗さを調節するために、前記テープ基板の前記下面に形成されたバックコート層を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項18】
垂直記録によって磁気テープにデータを書き込むための少なくとも1つのプローブ書込みヘッドを含む読取り/書込みヘッドと、
請求項
1に記載の磁気テープの少なくとも1つのリールと、
前記読取り/書込みヘッドを越えて前記磁気テープを輸送するためのテープ輸送機構とを備えるテープ記憶装置。
【請求項19】
磁気記録テープを作製する方法であって、
スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製された連続する軟磁性材料膜を含む軟磁性裏打ち層をテープ基板の上に形成することと、
接着材料内に懸濁させた磁性粒子を含む垂直磁気記録層を、液体コーティング・プロセスによって前記裏打ち層の上に形成することとを含み、
前記磁性粒子が、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、イプシロン酸化鉄、および二酸化クロムのうちの1つを含む、方法。
【請求項20】
前記磁性粒子が、バリウム・フェライトおよびストロンチウム・フェライトのうちの1つを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記磁性粒子が、ストロンチウム・フェライトを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記軟磁性裏打ち層が、2つの連続する軟磁性材料膜を含み、前記膜の間に反強磁性結合層が配置され、前記連続する膜および前記反強磁性結合層の各々が、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記軟磁性裏打ち層が、複数の連続する軟磁性材料膜を含む積層体として形成され、前記膜の間に非磁性分離層が配置され、前記連続する膜および反強磁性結合層の各々が、スパッタリングおよび蒸発プロセスのうちの1つによって作製される、請求項19に記載の方法。
【国際調査報告】