(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】マンガン錯体によって光触媒されるヒドロシリル化方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20250123BHJP
C01G 45/04 20060101ALI20250123BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C07F7/08 X
C01G45/04
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542413
(86)(22)【出願日】2023-01-13
(85)【翻訳文提出日】2024-09-17
(86)【国際出願番号】 FR2023000005
(87)【国際公開番号】W WO2023139322
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507421304
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・フランス・エスアエス
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES France SAS
(71)【出願人】
【識別番号】506369944
【氏名又は名称】サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】523165352
【氏名又は名称】ユニヴェルスィテ クラウド ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】524077209
【氏名又は名称】セペウ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】CPE LYON
【住所又は居所原語表記】43 BOULEVARD DU 11 NOVEMBRE 1918,69100 VILLEURBANNE FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ミルガレ
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ヴィヴィアン
(72)【発明者】
【氏名】クレメント・キャンプ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ヴェイル
(72)【発明者】
【氏名】クロエ・ティウールー
【テーマコード(参考)】
4G048
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AC08
4G048AE05
4H039CA10
4H039CA92
4H039CF10
4H049VN01
4H049VP03
4H049VP04
4H049VQ02
4H049VQ07
4H049VQ19
4H049VQ21
4H049VQ28
4H049VQ79
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VS02
4H049VS79
4H049VT15
4H049VT30
4H049VU17
4H049VW01
4H049VW02
4H049VW32
4H049VW37
(57)【要約】
本発明は、一置換アルケン化合物と、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物とのヒドロシリル化反応に関する。より具体的には、本発明は、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、マンガンカルボニルからなる光触媒(C)の存在下で、前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射する工程を含む方法に関する。アルケン化合物とケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物とのヒドロシリル化反応は、特にシリコーン組成物を架橋によって硬化させることを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、マンガンカルボニルからなる光触媒(C)の存在下で、前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射することからなる段階を含む方法。
【請求項2】
前記マンガンカルボニル中のマンガンが0の酸化状態であることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項3】
前記マンガンカルボニルが、化学式[Mn
2(CO)
10]のジマンガンデカカルボニルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項4】
前記不飽和化合物(A)が次よりなる群から選択される一置換アルケン基を有する有機化合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のヒドロシリル化方法:
・α-オレフィン、好ましくは1-オクテン及び1-ヘキセン、
・塩素化α-オレフィン、好ましくは塩化アリル、
・フッ素化α-オレフィン、好ましくは4,4,5,5,6,6,7,7,7-ノナフルオロ-1-ヘプテン、
・アリルアルコール、
・アリルエーテル、例えばアリルベンジルエーテル、アリルC
1~C
8アルキルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルピペリジニルエーテル、好ましくは立体障害アリルピペリジニルエーテル、又はアリルシリルエーテル、好ましくはアリルトリメチルシリルエーテル、
・酢酸アリルなどのアリルエステル、
・スチレン、
・1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、
・アクリル酸C
1~C
4アルキル及びアクリル酸。
【請求項5】
前記不飽和化合物(A)が、1個以上の一置換アルケン官能基、好ましくは少なくとも2個の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項6】
前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項7】
照射を、100nm~450nmの間、又は200nm~420nmの間、又は250nm~405nmの間の波長の放射線への曝露によって実施することを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項8】
照射を、UV-LEDランプを光源とするUV照射で実施することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項9】
照射を、0℃~60℃の間、より好ましくは15℃~60℃の間、より好ましくは20℃~40℃の間、さらに好ましくは周囲温度で実施することを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項10】
前記少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)が、1個以上の一置換アルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む不飽和化合物から選択され、前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンの官能化のための、請求項1、2、3、7、8又は9に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項11】
前記少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)が、少なくとも2個の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であり、前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、架橋シリコーン材料の製造のための、請求項1、2、3、7、8又は9に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項12】
少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)と少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)とのヒドロシリル化反応の光触媒としてのマンガンカルボニルの使用。
【請求項13】
前記マンガンカルボニル中のマンガンが0の酸化状態であることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記マンガンカルボニルが、化学式[Mn
2(CO)
10]のジマンガンデカカルボニルであることを特徴とする、請求項12又は13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一置換アルケン化合物と、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物とのヒドロシリル化反応に関する。より具体的には、本発明は、マンガン錯体によって光触媒されるヒドロシリル化方法に関する。アルケン化合物とケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物とのヒドロシリル化反応は、特にシリコーン組成物の架橋による硬化を可能にする。
【背景技術】
【0002】
従来技術の水準
アルケン化合物のヒドロシリル化反応(重付加としても知られている)中に、少なくとも1つの二重結合を含む化合物が、少なくとも1個のヒドロシリル官能基、すなわちケイ素原子に結合した水素原子を含む化合物と反応する。この反応は、例えば、次式によって説明できる。
【化1】
【0003】
ヒドロシリル化反応は、脱水素的シリル化反応(脱ヒドロシリル化としても知られている)を伴うことがあり、それに置き換わる場合もある。この反応は次式によって説明できる:
【化2】
【0004】
ヒドロシリル化反応は、特に、アルケニル単位を有するオルガノポリシロキサンと、ヒドロシリル官能基を有するオルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を架橋するために使用される。
【0005】
アルケン化合物のヒドロシリル化反応は、典型的には、金属触媒又は有機金属触媒を用いた触媒作用によって実施される。現在、この反応に適した触媒は白金触媒である。したがって、特にアルケンのヒドロシリル化のための工業的なヒドロシリル化プロセスの大部分は、Speierヘキサクロロ白金酸又は一般式Pt2(ジビニルテトラメチルジシロキサン)3(又はPt2(DVTMS)3と略記される)のカールシュテットPt(0)錯体によって触媒される。
【0006】
2000年代に入り、白金-カルベン錯体の製造により、より安定した触媒の入手が可能になった(例えば、国際公開第01/42258号参照)。
【0007】
しかし、金属又は有機金属白金触媒の使用には依然として問題がある。白金は高価な金属であり、その希少性はますます高まっており、そのコストも莫大に上昇している。そのため、工業的規模での使用は困難である。したがって、反応に必要な触媒の量を、収率や反応速度を低下させることなく、できるだけ減らすことが望まれている。カールシュテット触媒に代わるものを見出すために、数多くの研究が実施されてきた。
【0008】
例えば、国際公開第2014/096719号には、ポリオキソメタレート、例えばテトラブチルアンモニウムデカタングステートから選択される光触媒によって触媒される、不飽和化合物とヒドロシラン化合物とのヒドロシリル化方法が記載されている。
【0009】
1966年の米国特許第3,271,362号において、ヒドロシリル化触媒としてのクロロ白金酸の置き換えの問題はすでに触れられていた。この特許の発明者は、シクロペンタジエニルコバルトジカルボニル[C5H5Co(CO)2]、ジマンガンデカカルボニル[Mn2(CO)10]及びジコバルトオクタカルボニル[Co2(CO)8]よりなる群から選択されるカルボニル化金属触媒の使用を提案した。ジマンガンデカカルボニルを用いる唯一の実施形態では、反応は125℃で実施され、反応の収率及び重付加生成物の性質に関する正確な情報は与えられていない。
【0010】
2021年に、Dong外は、科学論文(「Manganese-catalysed divergent silylation of alkenes」,Nature Chemistry,第13巻,p.182-190(2021))において、アルケンの脱ヒドロシリル化及びヒドロシリル化用のマンガン系触媒について記載した。Mn2(CO)10は金属前駆体として使用され、ヒドロシリル化反応を促進するために配位子、好ましくはJackiePhos配位子と組み合わせなければならない。反応は120℃で実施される。
【0011】
ジマンガンデカカルボニルは他の反応でも触媒として使用されている。例えば、アルキンのヒドロシリル化反応用光触媒として10モル%のMn2(CO)10を使用することが記載されたLiang外の科学論文(「Visible-Light-Initiated Manganese-Catalyzed E-Selective Hydrosilylation and Hydrogermylation of Alkyne」,Org.Lett.,2019,21,8,2750-2754)が挙げられる。アルケンと異なり、アルキンは脱ヒドロシリル化を受けることができない。
脱ヒドロシリル化に関して、Stefan Weberによる科学論文(「Manganese-Catalyzed Dehydrogenative Silylation of Alkenes Following Two Parallel Inner-Sphere Pathways」,J.Am.Chem.Soc.,2021,143,17825-17832)には、末端アルケンの脱水素的シリル化用のMn(I)触媒を使用することが記載されている。fac-[Mn(dippe)(CO)3(CH2CH2CH3)]及びfac-[Mn(ddre)(CO)3(CH2CH2CH3)](dippe=1,2-ビス(ジイソプロピルホスフィノ)であり、drpe=1,2-ビス(ジ-n-プロピルホスフィノ)である)の2つの触媒が提案されている。
【0012】
このような背景から、本発明者は、アルケン化合物のヒドロシリル化のための、より効果的なプロセスを求めてきた。有利には、反応が迅速で、適度な温度、好ましくは周囲温度で行われることが望ましい。さらに、ヒドロシリル化反応が選択的であること、アルケン化合物の脱ヒドロシリル化反応及び/又は異性化反応が低減されること、さらには無視できるほど低減されることが望ましい。最後に、触媒は、豊富で、安価で、無毒な化学元素を含むことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第01/42258号
【特許文献2】国際公開第2014/096719号
【特許文献3】米国特許第3,271,362号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Dong外,「Manganese-catalysed divergent silylation of alkenes」,Nature Chemistry,第13巻,p.182-190(2021)
【非特許文献2】Liang外,「Visible-Light-Initiated Manganese-Catalyzed E-Selective Hydrosilylation and Hydrogermylation of Alkyne」,Org.Lett.,2019,21,8,2750-2754
【非特許文献3】Stefan Weber,「Manganese-Catalyzed Dehydrogenative Silylation of Alkenes Following Two Parallel Inner-Sphere Pathways」,J.Am.Chem.Soc.,2021,143,17825-17832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の概要
予想外なことに、本発明者は、一置換アルケンのヒドロシリル化反応が、温和な条件下で、マンガンカルボニル錯体により、優れた収率及び優れた選択性で光触媒されることを見出した。特に、この光触媒反応では、一置換アルケン化合物の脱ヒドロシリル化生成物及び/又は異性化生成物がほとんど又は全く生成しない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の主題は、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、マンガンカルボニルからなる光触媒(C)の存在下で、前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射することからなる段階を含む方法である。
【0017】
本発明の別の主題は、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)と少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)とのヒドロシリル化反応の光触媒としてのマンガンカルボニルの使用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
別段の指示がない限り、本説明に関係するシリコーンオイルの粘度は全て、25℃における「ニュートン」動粘度量、すなわち、それ自体既知の方法で、ブルックフィールド粘度計を用いて、測定される粘度が速度勾配に依存しない程度に十分低い剪断速度勾配で測定される動粘度に相当する。
【0019】
描写はしないが、本明細書に記載される化合物の可能な互変異性形態は、本発明の範囲内に含まれる。
【0020】
本発明において、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基は、好ましくは1~30個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子、さらに好ましくは1~6個の炭素原子を含む。アルキル基は、例えば、次の基から選択できる:メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル及びn-ドデシル。
【0021】
本発明において、シクロアルキル基は単環式又は多環式とすることができ、好ましくは単環式又は二環式とすることができる。シクロアルキル基は、好ましくは3~30個の炭素原子を含み、より好ましくは3~8個の炭素原子を含む。シクロアルキル基は、例えば、次の基から選択できる:シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル及びノルボルニル。
【0022】
本発明において、アリール基は単環式又は多環式とすることができ、好ましくは単環式とすることができ、好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは6~18個の炭素原子を含む。アリール基は、非置換であるか、又はアルキル基によって1以上置換されていてよい。アリール基は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ジイソプロピルフェニル基及びトリイソプロピルフェニル基から選択できる。
【0023】
本発明において、アリールアルキル基は、好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは7~20個の炭素原子を含む。アリールアルキル基は、例えば、次の基から選択できる:ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル及びナフチルプロピル。
【0024】
本発明において、ハロゲン原子は、例えば、フッ素、臭素、塩素及びヨウ素よりなる群から選択でき、フッ素が好ましい。フッ素で置換されたアルキル基は、例えば、トリフルオロプロピルとすることができる。
【0025】
IUPAC(Glossary of Terms Used in Photochemistry,第3版;IUPAC Recommendations 2006)によって与えられる定義によれば、光触媒とは、光を吸収することによって、反応相手に化学変換を生じさせることができる触媒である。光触媒の励起状態は、反応相手と相互作用して反応中間体を形成し、それ自体が各相互作用サイクル後に再生される。
【0026】
本発明は、マンガンカルボニルからなる光触媒(C)を使用する。有利なことに、マンガンは、一般に微量元素となる添加量の範囲内では無毒とみなされる豊富な天然元素である。本発明では、マンガンカルボニルは、1個以上のマンガン原子とマンガンに結合したカルボニル配位子とからなる金属錯体である。他のタイプの配位子はマンガンに結合しない。好ましくは、マンガンカルボニルは、より具体的には、化学式[Mn2(CO)10]のジマンガンデカカルボニルである。有利なことに、これは安価で空気中で安定な市販品である。
【0027】
本発明に係る光触媒(C)は、有機配位子を使用することなく、特に、
・例えばピリジン配位子などの窒素系配位子を使用することなく、及び/又は
・例えばホスフィン配位子などのリン系配位子を使用することなく、及び/又は
・アシル型の配位子を使用することなく、及び/又は
・例えばβ-ジケトン配位子などのジケトン配位子を使用することなく、及び/又は
・置換又は非置換のシクロペンタジエニル配位子を使用することなく、及び/又は
・トリフェニルアルシンなどの有機金属配位子を使用することなく、
有利に採用できる。
【0028】
金属錯体中のマンガンは、好ましくは0の酸化状態である。当該金属錯体は、X型の配位子、特にハロゲン配位子を含まない。
【0029】
光触媒(C)のモル濃度は、不飽和化合物(A)が保持する不飽和の総モル数に対して、0.01モル%~15モル%、より好ましくは0.05モル%~10モル%、さらに好ましくは0.1モル%~5モル%、さらに好ましくは0.5モル%~2モル%であることができる。好ましい別の形態によれば、本発明に係る方法において、白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウムをベースとする化合物は使用しない。反応媒体中の白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウムをベースとする化合物の量は、光触媒Cの重量に対して、例えば0.1重量%未満、好ましくは0.01重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満である。
【0030】
本発明は、まず、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法からなり、前記方法は、上記のような光触媒(C)の存在下で前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射することからなる段階を含む。
【0031】
本発明に係るヒドロシリル化方法において使用される不飽和化合物(A)は、芳香環の一部を形成していない少なくとも1個の一置換アルケン不飽和を含む化合物である。このものは当業者に知られているもの、及びヒドロシリル化反応を妨害し、実際に阻害する可能性のある反応性化学官能基を含まないものから選択できる。
【0032】
本明細書において、用語「一置換アルケン」又は「一置換アルケニル」は、芳香環の一部を形成していない、2個の炭素原子間の共有二重結合であって、該2個の炭素原子が3個の水素原子及び水素原子以外の1価の基に結合しているものを意味するものとする。本発明に係るヒドロシリル化方法で採用される不飽和化合物(A)は、次の一般式(I)で表すことができる:
RCH=CH2 (I)
式中、Rは1価の基を表す。
【0033】
一実施形態によれば、不飽和化合物(A)は、1個以上の一置換アルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む。不飽和化合物(A)は、次の一般式(I)で表すことができる:
RCH=CH2 (I)
式中、Rは次よりなる群から選択される1価の基を表す:
・1~30個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子、さらに好ましくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であって、塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;
・6~30個の炭素原子、より好ましくは6~18個の炭素原子を有するアリール基であって、塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子により置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;
・好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは7~20個の炭素原子を有するアリールアルキル基であって、そのアリール部分及び/又はそのアルキル部分が、塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;
・式-L-O-R”のエーテル基であって、式中、Lは結合又は2価の基、好ましくは1~12個の炭素原子、より好ましくは1~6個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、R”は次の基から選択される基を表すもの:1~30個の炭素原子、より好ましくは1~12個の炭素原子、さらに好ましくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であって、塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子により置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;6~30個の炭素原子、より好ましくは6~18個の炭素原子を有するアリール基であって、塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子により置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;及び好ましくは6~30個の炭素原子、より好ましくは7~20個の炭素原子を有するアリールアルキル基であって、そのアリール部分及び/又はそのアルキル部分が塩素又はフッ素などの1個以上のハロゲン原子によって置換されていてよく、-OH及び-OSiR’3(それぞれのR’は、互いに独立して、H又はアルキル基を表す。)から選択される1個以上の基によって置換されていてよいもの;
・式-L-O-C(O)-R”のエステル基(式中、L及びR”は上記の定義と同じである。)。
【0034】
不飽和化合物(A)は、好ましくは、次よりなる群から選択される一置換アルケン基を有する有機化合物とすることができる:
・α-オレフィン、好ましくは1-オクテン及び1-ヘキセン、
・塩素化α-オレフィン、好ましくは塩化アリル、
・フッ素化α-オレフィン、好ましくは4,4,5,5,6,6,7,7,7-ノナフルオロ-1-ヘプテン、
・アリルアルコール、
・アリルエーテル、例えばアリルベンジルエーテル、アリルC1~C8アルキルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルピペリジニルエーテル、好ましくは立体障害アリルピペリジニルエーテル、又はアリルシリルエーテル、好ましくはアリルトリメチルシリルエーテル、
・酢酸アリルなどのアリルエステル、
・スチレン、
・1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、
・アクリル酸C1~C4アルキル及びアクリル酸。
【0035】
不飽和化合物(A)は、ビニルペンタメチルジシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサンなどのジシロキサンとすることができる。
【0036】
不飽和化合物(A)は、数個の一置換アルケン官能基、好ましくは2個又は3個の一置換アルケン官能基を含む化合物から選択でき、特に好ましくは、化合物(A)は次の化合物から選択される。
【化3】
【0037】
特に好ましい実施形態によれば、不飽和化合物(A)は、1個以上の一置換アルケン官能基、好ましくは少なくとも2個の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物とすることができる。アルケンのヒドロシリル化反応は、シリコーン化学における重要な反応の一つである。これは、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンとアルケニル官能基を有するオルガノポリシロキサンとを架橋してネットワークを形成し、材料に機械的性質を付与するだけでなく、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンを官能化して、その物性及び化学的性質を改変することを可能にする。
【0038】
前記オルガノポリシロキサン化合物は、特に、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
YaR1
bSiO(4-a-b)/2
(式中、
Yは、一置換C2~C12アルケニル基、好ましくはビニル基であり、
R1は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
a=1、2又は3、好ましくはa=1又は2、より好ましくはa=1;b=0、1又は2;及び合計a+b=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:R1
cSiO(4-c)/2
(式中、R1は上記と同じ意味を有し、c=0、1、2又は3である。)と
から構成される。
【0039】
上記の式において、複数のR1基が存在する場合、又は複数のY基が存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよいことが理解される。優先的には、R1は、塩素又はフッ素などの少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてよい、1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基よりなる群から選択される1価の基を表すことができる。R1は、有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル及びフェニルよりなる群から選択できる。
【0040】
1個以上の一置換アルケン官能基を含むこれらのオルガノポリシロキサン化合物は、直鎖構造、環状構造又は分岐構造を有することができる。
【0041】
本発明において
・シロキシル単位「MVi」は、式YR1
2SiO1/2又はY2R1SiO1/2のシロキシル単位を表し、
・シロキシル単位「M」は、式R1
3SiO1/2のシロキシル単位を表し、
・シロキシル単位「DVi」は、式YR1SiO2/2のシロキシル単位を表し、
・シロキシル単位「D」は、式R1
2SiO2/2のシロキシル単位を表し、
・シロキシル単位「T」は、式R1SiO3/2のシロキシル単位を表し、
・シロキシル単位「Q」は、式SiO4/2のシロキシル単位を表し、
記号Y及びR1は上記の通りである。
【0042】
末端「M」及び「MVi」単位の例としては、トリメチルシロキシ基、ジメチルフェニルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基又はジメチルヘキセニルシロキシ基を挙げることができる。
【0043】
「D」及び「DVi」単位の例としては、ジメチルシロキシ基、メチルフェニルシロキシ基、メチルビニルシロキシ基、メチルブテニルシロキシ基、メチルヘキセニルシロキシ基、メチルデセニルシロキシ基又はメチルデカジエニルシロキシ基を挙げることができる。
【0044】
1個以上の一置換アルケン官能基を含む直鎖オルガノポリシロキサン化合物は、「D」及び「DVi」シロキシル単位と、「M」及び「MVi」シロキシル単位とから本質的になる。本発明に係る1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であることができる直鎖オルガノポリシロキサンの例は、以下の通りである:
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン);
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルフェニルシロキサン);
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルビニルシロキサン);及び
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルビニルシロキサン)。
【0045】
最も推奨される態様において、1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、末端ジメチルビニルシリル単位を含む。さらに好ましくは、1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン)である。
【0046】
シリコーンオイルの粘度は、一般に、1mPa.s~2,000,000mPa.sである。好ましくは、1個以上のアルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、25℃で20mPa.s~100000mPa.s、好ましくは25℃で20mPa.s~80000mPa.s、より好ましくは100mPa.s~50000mPa.sの動的粘度を有するシリコーンオイルである。
【0047】
1個以上の一置換アルケン官能基を含む環状オルガノポリシロキサン化合物は、上記「D」及び「DVi」シロキシル単位から本質的になる。本発明に係る1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であることができる環状オルガノポリシロキサンの例は、環状ポリ(メチルビニルシロキサン)である。
【0048】
任意に、1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、さらに、「T」シロキシル単位及び/又は「Q」シロキシル単位を含むことができる。そして、1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、分岐構造を有する。
【0049】
本発明に係る1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物である、樹脂とも呼ばれる分岐オルガノポリシロキサンの例は以下の通りである:
・MDViQ、ここで、ビニル基はD単位に含まれる、
・MDViTQ、ここで、ビニル基はD単位に含まれる、
・MMViQ、ここで、ビニル基はM単位の一部に含まれる、
・MMViTQ、ここでビニル基はM単位の一部に含まれる、
・MMViDDViQ、ここで、ビニル基はM単位及びD単位の一部に含まれる、
・及びそれらの混合物。
【0050】
好ましくは、1個以上の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物は、0.001重量%~30重量%、好ましくは0.01重量%~10重量%、より好ましくは0.02重量%~5重量%の一置換アルケニル単位の含有量を有する。
【0051】
不飽和化合物(A)は、本発明に従って、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)と反応する。
【0052】
一実施形態によれば、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むシラン又はポリシラン化合物である。「シラン」化合物とは、本発明において、4個の水素原子又は有機置換基に結合したケイ素原子を含む化合物を意味するものとする。「ポリシラン」化合物は、本発明において、少なくとも1個の≡Si-Si≡単位を有する化合物を意味するものとする。シラン化合物のうち、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、フェニルシラン、又はモノ-、ジ-若しくはトリアルキルシラン、例えばトリエチルシランとすることができる。
【0053】
別の実施形態によれば、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であり、オルガノヒドロポリシロキサンとも呼ばれる。当該オルガノヒドロポリシロキサンは、有利には、
・次式の少なくとも2個のシロキシル単位:
HdR1
eSiO(4-d-e)/2
(式中、
R1は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基などの1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基から選択され、
d=1、2又は3、好ましくはd=1又は2、より好ましくはd=1;e=0、1又は2;及びd+e=1、2又は3である。)と、
・任意に次式の単位:R1
fSiO(4-f)/2
(式中、R1は上記と同じ意味を有し、f=0、1、2又は3である。)と
から構成されるオルガノポリシロキサンであることができる。
【0054】
上記の式において、いくつかのR1基が存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよいものとする。優先的には、R1は、塩素又はフッ素などの少なくとも1個のハロゲン原子で置換されていてよい、1~8個の炭素原子を有するアルキル基、3~8個の炭素原子を有するシクロアルキル基、及び6~12個の炭素原子を有するアリール基よりなる群から選択される1価の基を表すことができる。R1は、有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリル及びフェニルよりなる群から選択できる。
【0055】
オルガノヒドロポリシロキサンは、直鎖状、分岐状又は環状の構造を有することができる。重合度は好ましくは2以上であり、一般的には5000以下である。
【0056】
以下において、「M」、「D」、「T」及び「Q」シロキシル単位は、上で定義したとおりであり、そして
・「M’」シロキシル単位は、式HR1
2SiO1/2のシロキシル単位を表し、
・「D’」シロキシル単位は、式HR1SiO2/2のシロキシル単位を表し、
記号R1は上記のとおりである。
【0057】
直鎖重合体に関する場合、これらは、次式「D」及び「D’」シロキシル単位から選択されるシロキシル単位と、「M」及び「M’」末端シロキシル単位とから本質的になる。
【0058】
本発明に係る少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)であることができるオルガノヒドロポリシロキサンの例は、以下の通りである:
・ヒドロジメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン);
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルヒドロシロキサン);
・ヒドロジメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルヒドロシロキサン);及び
・トリメチルシリル末端を有するポリ(メチルヒドロシロキサン)。
【0059】
オルガノヒドロポリシロキサンが環状構造を有する場合、これは「D」及び「D’」シロキシル単位から選択されるシロキシル単位から本質的になる。本発明に係る少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)であることができる環状オルガノヒドロポリシロキサンの例は、環状ポリ(メチルヒドロシロキサン)である。
【0060】
オルガノヒドロポリシロキサンが分岐構造を有する場合、好ましくは、次式のシリコーン樹脂よりなる群から選択される:
・M’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM基によって保持される、
・MM’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位の一部によって保持される、
・MD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はD基によって保持される、
・MDD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はD基の一部によって保持される、
・MM’TQ、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位の一部によって保持される、
・MM’DD’Q、ここで、ケイ素原子に結合した水素原子はM単位及びD単位の一部によって保持される、
・及びそれらの混合物。
【0061】
好ましくは、オルガノヒドロポリシロキサン化合物は、ヒドロシリルSi-H官能基の含有量が0.2重量%~91重量%、より好ましくは3重量%~80重量%、さらに好ましくは15重量%~70重量%である。
【0062】
本発明の特定の実施態様によれば、不飽和化合物(A)及び少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、一方では、少なくとも1個の一置換アルケン官能基と、他方では、少なくとも1個のケイ素原子及びケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含む1種の同じ化合物であることが可能である。この化合物は「二官能性」であると説明することができ、ヒドロシリル化反応によってそれ自体が反応することができる。したがって、本発明は、二官能性化合物自体をヒドロシリル化するための方法に関することもでき、前記二官能性化合物は、一方では、少なくとも1個の一官能性アルケン官能基と、他方では、少なくとも1個のケイ素原子及びケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含み、前記方法は、上記のような光触媒(C)によって触媒される。
【0063】
二官能性化合物であることができるオルガノポリシロキサンの例は以下の通りである:
・ジメチルビニルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-ビニルメチルシロキサン)、
・ジメチルヒドロシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-ビニルメチルシロキサン);及び
・トリメチルシリル末端を有するポリ(ジメチルシロキサン-コ-ヒドロメチルシロキサン-コ-(プロピルグリシジルエーテル)メチルシロキサン)。
【0064】
不飽和化合物(A)及び少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)の使用に関する場合、当業者であれば、これは二官能性化合物の使用も意味することが分かる。
【0065】
化合物(A)及び化合物(B)の量は、化合物(A)の一置換アルケン官能基に対する化合物(B)のヒドロシリル官能基のモル比が、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらに好ましくは1:3~3:1、さらに好ましくは1:2~2:1となるように制御できる。
【0066】
本発明に係る方法は、光触媒(C)の存在下で、前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射する段階からなる。
【0067】
照射は、好ましくは、紫外線及び/又は可視光線への曝露である。本明細書において、「UV」は紫外線を意味する。紫外線は、波長が約100nm~約400nmの間、すなわち可視光のスペクトル以下の電磁放射線であると定義される。紫外線の中でも、波長が約315nm~約400nmの間のUV-A放射線、波長が約280nm~約315nmの間のUV-B放射線、波長が約100nm~約280nmの間のUV-C放射線を定義することができる。可視光線は、波長が約400nm~約800nmの電磁放射線であると定義される。好ましくは、照射は、100nm~450nmの間、又は200nm~420nmの間、又は250nm~405nmの間の波長を有する放射線への曝露によって実施される。
【0068】
放射線は、ドープ又は非ドープの水銀ランプから放射され、その発光スペクトルは100nmから450nmに及ぶ。点UV又は可視光を照射するLEDなどの光源を採用することもできる。さらに、本明細書において「LED」は、当業者には周知の「発光ダイオード」の略称である。
【0069】
一実施形態によれば、照射はUV照射で実施され、その照射源はUV-LEDランプである。このUV-LEDランプは、365nm、385nm、395nm又は405nmの波長の放射線を放出することができる。好ましくは、UV-LEDランプは395nmで発光するランプである。UV-LEDランプの電力は、好ましくは2W/m2~200,000W/m2の間である。
【0070】
好ましい実施形態によれば、照射段階は不活性雰囲気下、例えば窒素下、アルゴン下又は酸素欠乏空気下で実施される。
【0071】
照射段階は、0℃~60℃、より好ましくは15℃~60℃、より好ましくは20℃~40℃、より好ましくはさらに周囲温度、すなわち典型的には約25℃の温度で実施される。
【0072】
ヒドロシリル化反応は、溶媒中又は溶媒の非存在下で実施できる。適切な溶媒は、化合物(B)と混和性のある溶媒である。例えば、溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン及び流動パラフィンなどの脂肪族炭化水素;トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素;ホワイトスピリットなどの鉱物起源又は合成起源の炭化水素の混合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル及びジフェニルエーテルなどのエーテル;塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、ペルクロロエチレン及びクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル及びブチロラクトンなどのエステル;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;N-メチルピロリドン;ポリエチレングリコール;及びそれらの混合物よりなる群から選択できる。好ましくは、溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び塩素化炭化水素よりなる群から選択でき、より好ましくは、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン及びトルエンよりなる群から選択できる。別の態様において、溶媒は、揮発性シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ポリジメチルシロキサンオイル(PDMS)、ポリフェニルメチルシロキサンオイル(PPMS)又はそれらの混合物から選択できる。別の態様において、反応物の1つ、例えば不飽和化合物(A)は溶媒として作用することができる。好ましくは、環境及び製造工場の作業者の健康に対して有害な有機溶媒の使用は回避される。
【0073】
本発明の好ましい実施態様によれば、採用される化合物(A)及び(B)は、上で定義したオルガノポリシロキサンから選択される。この場合、三次元ネットワークが形成され、その結果、組成物が硬化する。架橋は、組成物を構成する媒体の緩やかな物理的変化を伴う。その結果、本発明に係る方法を使用して、エラストマー、ゲル、発泡体などを得ることができる。この場合、架橋シリコーン材料が得られる。用語「架橋シリコーン材料」とは、少なくとも2個の不飽和結合を有するオルガノポリシロキサンと少なくとも3個のヒドロシリル単位を有するオルガノポリシロキサンとを含む組成物を架橋及び/又は硬化させることによって得られる任意のシリコーン系生成物を意味するものとする。架橋されたシリコーン材料は、例えば、エラストマー、ゲル又は発泡体であることができる。
【0074】
化合物(A)及び(B)が上で定義したようなオルガノポリシロキサンから選択される、本発明に係る方法のこの好ましい実施形態によれば、シリコーン組成物において通常の機能性添加剤を使用することが可能である。通常の機能性添加剤類としては、次のものを挙げることができる:
・充填剤、
・接着促進剤、
・ヒドロシリル化反応の抑制剤又は遅延剤、
・接着調節剤、
・シリコーン樹脂、
・稠度向上添加剤、
・顔料(有機又は無機)、
・耐熱性添加剤、耐油性添加剤、耐火性添加剤、例えば金属酸化物など。
【0075】
任意に提供される充填剤は、好ましくは無機物である。充填剤は、平均粒径が0.1μm未満の非常に微細に分割された製品とすることができる。充填剤は、特に珪質であることができる。珪質物質に関しては、補強充填剤又は半補強充填剤として作用することができる。補強ケイ質充填剤は、コロイドシリカ、ヒュームドシリカ粉末、沈降シリカ粉末、又はそれらの混合物から選択される。これらの粉末は、一般に0.1μm(マイクロメートル)未満の平均粒径と、30m2/gを超える、好ましくは30~350m2/gのBET比表面積を有する。珪藻土や粉砕石英などの半補強珪質充填剤も使用できる。これらのシリカは、そのまま、又はこの用途に一般的に使用される有機ケイ素化合物で処理した後に配合できる。これらの化合物としては、ヘキサメチルジシロキサンやオクタメチルシクロテトラシロキサンなどのメチルポリシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン又はテトラメチルジビニルジシラザンなどのメチルポリシラザン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン又はジメチルビニルクロロシランなどのクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン又はトリメチルメトキシシランなどのアルコキシシラン、及びそれらの混合物が挙げられる。非珪質無機物質に関しては、半補強又は増量無機充填剤として関与できる。単独で又は混合物として使用できるこれらの非珪質充填剤の例は、有機酸又は有機酸のエステルで表面処理されていてよい炭酸カルシウム、焼成クレー、ルチル型の酸化チタン、鉄、亜鉛、クロム、ジルコニウム又はマグネシウムの酸化物、様々な形態のアルミナ(水和又は非水和)、窒化ホウ素、リトポン、メタホウ酸バリウム、硫酸バリウム及びガラスマイクロビーズである。これらの充填剤は、一般に平均粒径が0.1μmを超え、比表面積が一般に30m2/g未満の粗いものである。これらの充填剤は、この用途に一般的に使用される様々な有機ケイ素化合物で処理することにより表面改質されていてもよい。好ましくは、充填剤はシリカであり、より好ましくはヒュームドシリカである。有利には、シリカは75~410m2/gのBET比表面を有する。シリコーン組成物は、シリコーン組成物の総重量に対して、5重量%~20重量%の充填剤を含むことができる。有利には、シリコーン組成物は、8重量%~15重量%の充填剤を含むことができる。
【0076】
本発明による温和な条件下での光触媒による新規ヒドロシリル化方法の発見により、多くの用途を想定することができる。
【0077】
第1の実施形態によれば、本発明に係るヒドロシリル化方法は、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンの官能化に使用できる。官能化の目的は、該オルガノポリシロキサンの物理的及び/又は化学的性質を改変し、改善された性質を有する新規化合物を製造することである。この実施形態によれば、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)は、1個以上の一置換アルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む不飽和化合物から選択され、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物である。SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンと、1個以上の一置換アルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む不飽和化合物(A)との付加反応が、上記のようなヒドロシリル化方法によって得られることを特徴とする、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンの官能基化方法を記載することができる。
【0078】
別の特に好ましい実施形態によれば、本発明に係るヒドロシリル化方法は、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンとアルケニル官能基を有するオルガノポリシロキサンとの架橋に使用してネットワークを形成し、材料に機械的性質を付与することができる。この実施形態によれば、少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)は、少なくとも2個の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であり、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)は、ケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物である。SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンとアルケニル官能基を有するオルガノポリシロキサンとの架橋反応が、上記のようなヒドロシリル化方法によって得られることを特徴とする、架橋シリコーン材料の製造方法を記載することができる。このようにして得られた架橋シリコーン材料は、特に以下の様々な用途に使用できる:
・支持体がシリコーンコーティングで被覆されるコーティング型の用途;
・エレクトロニクス分野での用途、例えば、プリント回路のコンフォーマルコーティングの製造、マイクロ回路及びIGBTなどの電子部品のポッティング;
・光重合を用いた付加製造プロセス(3D印刷プロセスとしても知られている)。
【0079】
本発明の他の詳細又は利点は、単に例示目的で以下に示す実施例に照らせば、より明確に明らかになるであろう。
【実施例】
【0080】
実施例1~3及び比較例1~3:1-オクテン(1)の1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン(2)によるヒドロシリル化
【化4】
【0081】
1-オクテン(1)及び1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン(2)を、アルゴン雰囲気下、周囲温度で4mlのバイアル瓶に導入した。ジマンガンデカカルボニルMn2(CO)10のトルエン溶液をバイアル瓶に注入し、トルエンを添加した。Mn2(CO)10の最終濃度(1-オクテンに対して)=1モル%であった。
【0082】
実施例1、2及び3では、反応混合物を紫外線下に4時間にわたって置いた(300W、λ=250~420nm)。比較例1、2及び3では、反応混合物に照射せず、該混合物を24時間にわたって加熱した。反応物の濃度及び反応条件は表1に示す通りであり、また、ヒドロシリル化生成物(3)及び(1)の異性化生成物の収率(ガスクロマトグラフィーにより決定、1-オクテンに対して算出)も示す。
【0083】
【0084】
実施例1、2及び3は、Mn2(CO)10で光触媒される、1-オクテン(1)と1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン(2)とのヒドロシリル化反応により、温和な反応条件(周囲温度で4時間)下において、優れた収率及び優れた選択性で生成物(3)を得ることが可能であることを示している。逆に、この触媒は熱活性化では活性を示さない(比較例1、2、3)。
【0085】
実施例4~12及び比較例4~6:様々なアルケン(1’)のヒドロシリル化
【化5】
【0086】
以下の表2に示すように、アルケン化合物(1’)の構造を変化させながら、実施例1(UV,4時間)に記載したのと同じ手順に従った。ヒドロシリル化生成物(3’)の収率(ガスクロマトグラフィーにより決定、アルケンに対して算出)を表2に示す。
【0087】
【0088】
実施例4~12では、優れた選択性でヒドロシリル化生成物が得られた。C=Cの異性化もC-O結合の切断による生成物も観察されなかった。一方、gem-二置換アルケンから出発した場合(比較例4及び5)、又は内部アルケンから出発した場合(比較例6)には、ヒドロシリル化生成物は得られなかった。
【手続補正書】
【提出日】2025-01-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)を、少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)でヒドロシリル化するための方法であって、前記方法は、マンガンカルボニルからなる光触媒(C)の存在下で、前記不飽和化合物(A)及び前記化合物(B)に照射することからなる段階を含む方法。
【請求項2】
前記マンガンカルボニル中のマンガンが0の酸化状態であることを特徴とする、請求項1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項3】
前記マンガンカルボニルが、化学式[Mn
2(CO)
10]のジマンガンデカカルボニルであることを特徴とする、請求項
1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項4】
前記不飽和化合物(A)が次よりなる群から選択される一置換アルケン基を有する有機化合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のヒドロシリル化方法:
・α-オレフィ
ン、
・塩素化α-オレフィ
ン、
・フッ素化α-オレフィ
ン、
・アリルアルコール、
・アリルベンジルエーテル、アリルC
1~C
8アルキルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルピペリジニルエーテル
、立体障害アリルピペリジニルエーテル、
及びアリルシリルエーテル
から選択されるアリルエーテル、
・アリルエステル、
・スチレン、
・1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、
・アクリル酸C
1~C
4アルキル及びアクリル酸。
【請求項5】
前記不飽和化合物(A)が、1個以上の一置換アルケン官能
基を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項6】
前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれかに記載のヒドロシリル化方法。
【請求項7】
照射を、100nm~450nmの間、又は200nm~420nmの間、又は250nm~405nmの間の波長の放射線への曝露によって実施することを特徴とする、請求項
1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項8】
照射を、UV-LEDランプを光源とするUV照射で実施することを特徴とする、請求項
1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項9】
照射を、0℃~60℃の間、
又は15℃~60℃の間、
又は20℃~40℃の間、
又は周囲温度で実施することを特徴とする、請求項
1に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項10】
前記少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)が、1個以上の一置換アルケン官能基及び2~40個の炭素原子を含む不飽和化合物から選択され、前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、SiH官能基を有するオルガノポリシロキサンの官能化のための、請求項1、2、3、7、8又は9に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項11】
前記少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)が、少なくとも2個の一置換アルケン官能基を含むオルガノポリシロキサン化合物であり、前記少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)が、ケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含むオルガノポリシロキサン化合物であることを特徴とする、架橋シリコーン材料の製造のための、請求項1、2、3、7、8又は9に記載のヒドロシリル化方法。
【請求項12】
少なくとも1個の一置換アルケン官能基を含む不飽和化合物(A)と少なくとも1個のヒドロシリル官能基を含む化合物(B)とのヒドロシリル化反応の光触媒としてのマンガンカルボニルの使用。
【請求項13】
前記マンガンカルボニル中のマンガンが0の酸化状態であることを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記マンガンカルボニルが、化学式[Mn
2(CO)
10]のジマンガンデカカルボニルであることを特徴とする、請求項12又は13に記載の使用。
【国際調査報告】