(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】1.5ペンタンジアミンへのリジンリン酸塩の変換並びにアミノ酸及びカルボン酸からのジアミンの分離
(51)【国際特許分類】
B01D 15/00 20060101AFI20250123BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B01D15/00 101A
C12P13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543094
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-09-02
(86)【国際出願番号】 US2023060820
(87)【国際公開番号】W WO2023141455
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507303309
【氏名又は名称】アーチャー-ダニエルズ-ミッドランド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,カレン
(72)【発明者】
【氏名】ハグバーグ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンキタスブラマニアン,パドメシュ
(72)【発明者】
【氏名】ソーパー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アンクラム,パム
(72)【発明者】
【氏名】マオ,シミン
【テーマコード(参考)】
4B064
4D017
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064CA21
4B064CD07
4B064CD13
4B064CE11
4B064DA16
4D017AA01
4D017BA03
4D017CA13
4D017CA17
4D017DA02
4D017EA05
(57)【要約】
リジンの硫酸アニオン塩又はより好ましくはリン酸アニオン塩の存在下において、リジンデカルボキシラーゼを使用するリジンの脱炭酸によって1,5ペンタンジアミン(別名PDA、ペンタメチルジアミン、PMDA及びカダベリン)を製造する方法が記載される。このプロセスは、デカルボキシラーゼが機能しない高pHにおいて、リジンのHCL塩を使用して、及びカルボキシラーゼの最適な通常のpHにおいてリジンHCLで達成することができない基質濃度で機能する。さらに、リジン及びリジン塩の共役アニオンからPDAを精製するクロマトグラフィープロセスであって、アミノ酸及び/又はカルボン酸をその共役アニオンと共に含む生成物混合物から任意のジアミンを精製する一般的なプロセスとして適用可能なクロマトグラフィープロセスが記載され、その方法は、固定相として強陰イオン交換樹脂を使用する。この方法は、いかなる有機溶媒も利用せず、アミノ酸及び/又はカルボン酸並びにアミン塩からの共役アニオンを含有する複合混合物からジアミンを工業的規模で単離するのに経済的及び効率的であることが示されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンと、アミノ酸又はカルボン酸の少なくとも1つの共役アニオン塩とを含有する水性供給原料から前記ジアミンを分離するプロセスであって、5.0~10.0の範囲のpHの前記水性供給原料を強陰イオン交換樹脂の床と接触させることと、少なくとも85%の純度を有し、及び10%(w/w)未満の前記アミノ酸又はカルボン酸及び共役アニオンを含有する画分において、前記樹脂から前記ジアミンを溶離することと、を含むプロセス。
【請求項2】
前記ジアミンは、1,5-ペンタンジアミン(PDA)であり、及び前記少なくとも1つのアミノ酸塩は、リジン塩である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記供給原料は、リジンデカルボキシラーゼの作用によるリジンの脱炭酸によって得られる、請求項3に記載のプロセス。
【請求項4】
前記リジン塩は、リジンリン酸塩及びリジン硫酸塩からなる群から選択される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
10%未満の、前記リジン塩の前記硫酸又はリン酸共役アニオンは、前記ジアミンを含有する前記溶離画分中に存在する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記リジン塩は、リジンリン酸塩である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記強陰イオン交換樹脂は、第4級アンモニウム塩を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項8】
前記溶離画分中のPDAの前記純度は、少なくとも95%であり、及び5%(w/v)未満のリジンを含有する、請求項2に記載のプロセス。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアミノ酸及び/又はカルボン酸は、水酸化物塩を用いて前記陰イオン交換床から溶離される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記リジンは、水酸化物塩を用いて前記陰イオン交換床から溶離される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項11】
前記水酸化物塩は、水酸化アンモニウムである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記水酸化物溶液は、水酸化ナトリウムである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
前記供給原料は、8.0~9.0の範囲のpHを有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記床は、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセットに充填され、(a)前記供給原料は、前記供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)前記1,5-ペンタンジアミンは、第2のカラムセグメントであって、前記カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して前記供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及び前記リジンの前記塩の前記共役アニオンは、前記ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)前記カラムは、前記再生域で再生され、前記ラフィネート溶離域は、前記供給原料ローディング域と流体連通せず、及び前記再生域は、前記ラフィネート溶離域と流体連通しない、請求項2に記載のプロセス。
【請求項15】
水洗浄は、前記供給原料ローディング域を画定する前記第1のカラムセグメントの上流のセグメントにおいて前記カラムに導入され、水酸化物塩溶液は、前記ラフィネート溶離域内のセグメントにおいて前記カラムに導入され、及び水は、前記再生域におけるカラムセグメントに導入される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記リジン塩は、リジンリン酸塩である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項17】
前記擬似移動床装置は、12のカラムセグメントを含み、前記12のカラムセグメントのうち、前記供給原料ローディング域は、5つのカラムセグメントを含み、前記ラフィネート溶離域は、3つのカラムセグメントを含み、及び前記再生域は、4つのカラムセグメントを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項18】
前記リジン塩は、リジンリン酸塩である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
1,5-ペンタンジアミン(PDA)を生成する方法であって、
(a)リジンを生成するように操作された宿主微生物を発酵させることから生じる培養ブロスを得ることと、
(b)前記培養ブロスから前記微生物を除去することと、
(c)前記培養ブロスにリン酸塩又は硫酸塩の供給源を添加して、リジンのリン酸塩又は硫酸塩を形成することと、
(d)前記硫酸塩又はリン酸塩を含有する培養ブロスをリジンデカルボキシラーゼと接触させることにより、前記リジンを脱炭酸し、前記リジン塩及びPDAを含有する培養ブロスを形成することと、
(e)前記リジン塩及びPDAを含有する前記培養ブロスをカラムにおいて強陰イオン交換樹脂の床と接触させることと、
(f)リジン及びリジン塩を含有する第2の画分と別個の第1の画分において、前記カラムから前記PDAを溶離することと
を含み、前記PDAは、少なくとも95%の純度で前記カラムから溶離され、及び5%未満のリジンを含有する、方法。
【請求項20】
前記カラムは、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセットを含み、(a)前記供給原料は、前記供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)前記1,5-ペンタンジアミンは、第2のカラムセグメントであって、前記カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して前記供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及び前記リジンの前記塩の共役アニオンは、前記ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)前記カラムは、前記再生域で再生され、前記ラフィネート溶離域は、前記供給原料ローディング域と流体連通せず、及び前記再生域は、前記ラフィネート溶離域と流体連通しない、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1,5-ペンタンジアミン(PDA)を形成する方法であって、共役アニオンとしての硫酸塩又はリン酸塩とのリジン塩の少なくとも0.3M溶液を含有する混合物を、前記リジンの少なくとも50%をPDAに変換するのに十分な時間にわたり、リジンデカルボキシラーゼ活性を有する酵素と接触させることを含む方法。
【請求項22】
前記混合物は、8.0~9.0のpHである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物は、8.0~9.0のpHの0.5~2.9Mリジンリン酸塩を含有する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記pHは、8.0~8.5である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記リジンの少なくとも90%は、PDAに変換される、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
リジンデカルボキシラーゼは、大腸菌(E. coli)のcadA遺伝子によってコードされる、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記反応混合物を強塩基イオン交換樹脂と接触させ、及び前記樹脂から前記PDAを溶離することにより、リジン及び前記共役アニオンから前記PDAを分離することをさらに含み、前記溶離されたPDAは、15%未満の前記リジン又は共役アニオンを含有して少なくとも85%の純度である、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記強塩基イオン交換樹脂は、擬似移動床装置において構成される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記擬似移動装置は、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成されるカラムのセットを含み、(a)前記供給原料は、前記供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)前記1,5-ペンタンジアミンは、第2のカラムセグメントであって、前記カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して前記供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及びリジンの前記塩の前記共役アニオンは、前記ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)前記カラムは、前記再生域で再生され、前記ラフィネート溶離域は、前記供給原料ローディング域と流体連通せず、及び前記再生域は、前記ラフィネート溶離域と流体連通しない、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
水洗浄は、前記供給原料ローディング域を画定する前記第1のカラムセグメントの上流のセグメントにおいて前記カラムに導入され、水酸化物塩溶液は、前記ラフィネート溶離域内のセグメントにおいて前記カラムに導入され、及び水は、前記再生域におけるカラムセグメントに導入される、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
前記リジン塩は、リジンリン酸塩である、請求項29に記載のプロセス。
【請求項32】
前記擬似移動床装置は、12のカラムセグメントを含み、前記12のカラムセグメントのうち、前記供給原料ローディング域は、5つのカラムセグメントを含み、前記ラフィネート溶離域は、3つのカラムセグメントを含み、及び前記再生域は、4つのカラムセグメントを含む、請求項29に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、ジアミンと、1つ又は複数のアミノ酸及び/又はカルボン酸とを含む混合物から、いかなる有機溶媒も使用することなく、低コストにおいて高収率でジアミンを分離するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ポリアミド及びポリウレタンの合成にジアミンが使用される。例えば、1,4-ジアミノブタン及び1,6-ジアミノヘキサンがナイロン-4,6及び-6,6の合成にそれぞれ使用される。ジアミンは、生化学的又は化学的方法によって生成される。生化学的方法では、培地にジアミンを、又はアミノ酸を含有する培地にアミノ酸デカルボキシラーゼを分泌するように操作された形質転換微生物の培養が用いられる(例えば、それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第11,124,812号、米国特許第11,053,524号、米国特許第11,053,525号、米国特許第10,626,425号、米国特許第10,870,871号、米国特許第10,711,289号、米国特許第10,640,798号、米国特許第10,472,636号、米国特許第10,150,977号、米国特許第9,745,608号、米国特許第9,644,220号、米国特許第9,365,876号、米国特許第9,115,362号、米国特許第8,741,623号を参照されたい)。アミノ酸デカルボキシラーゼを分泌する微生物の場合(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,871,477号を参照されたい)、リジン又はオルニチンなどのアミノ酸が、バイオマスの清澄化された培地に添加されて、デカルボキシラーゼの作用によってジアミンが生成される。一部の方法では、ジアミンを生成するために、カルボン酸の二アンモニウム塩が用いられる(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,742,060号を参照されたい)。上記の方法のいずれかでは、粗生成物は、ジアミンを生成するために使用されるアミノ酸及び/又はカルボン酸からのアミノ酸及び/又はカルボン酸を含有する複合混合物であり、培地は、通常、1つ又は複数のカルボン酸代謝産物、例えば酢酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸及び/又はその塩並びにアミン又はカルボン酸官能基、例えばリン酸、硫酸、塩酸、塩化物、アンモニウム、ナトリウム、カリウムなどの共役イオンを含有し、それらは、培地中の鉱物栄養素としてそれを添加したために存在し得る。したがって、高収率及び高純度並びに低コストでかかる複合混合物からジアミンを効率的に分離することは、困難なプロセスであり続けている。
【0003】
1,5-ペンタンジアミンなどのジアミンを反応混合物から単離及び精製するいくつかの方法が報告されている。それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる日本特許第581215号及び特開2016033138号は、熱分解又は酵素的変換の反応混合物から得た混合物から1,5-ペンタンジアミンを単離する蒸留法を開示している。いくつかの方法は、中性又はアニオン性樹脂上にジアミンを吸着し、続いて樹脂からジアミンを溶出することにより、反応混合物から1,5-ペンタンジアミンを単離することが報告されており、例えばそれぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる中国特許出願公開第109942437(A)号、中国特許出願公開第110563594(A)号、中国特許出願公開第110143882(A)号、中国特許出願公開第108276293(A)号、米国特許第9,878,321(B2)号、米国特許第10,576,467(B2)号、米国特許第9,617,202(B2)号、Howel and Byus, Analytical Biochemistry (2002) 311(2), 127-32及びLin et al. Chinese Journal of Chromatography (2018) 36(11), 1189-1193を参照されたい。それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,265,642(B2)号及び米国特許第10,343,084(B2)号は、擬似移動床(SMB)吸着技術を用いて、ジアミン及びオメガ-アミノ酸から選択される少なくとも1つのアミンを供給混合物から分離する方法を開示している。それは、有用な吸着剤が、活性炭、フロリジン、珪藻土、分子ふるい、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、チタニア、スルホネート、ヒドロキシ、アミノ、ハロゲン、ピリジル、一置換アミノ、非置換アミノ、アシル、アシルオキシ、ケト、アルコキシから選択される1つ又は複数の基を含有するポリマー樹脂及び固定化金属アフィニティーカラムとして一般に知られる、固定化銀又は鉛を含有するポリマー樹脂であることをさらに開示している。記載の他の吸着剤は、Orpheusシリカベース固定相吸着剤並びにアンバーライトXAD-4、XAD-7、XAD-8及びXAD-418樹脂、非極性樹脂である。溶離溶媒は、水、ジオール、エステル、ニトリル、ケトン、エーテル、メタノール、ジオール、エステル及びメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキサンなどの脂肪族及び環状エーテルから選択され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のすべての方法がいくらかの成功を収めたとしても、それらは、費用が高い材料、副生成物-廃棄物の発生、最適以下の収率又はその組み合わせのいずれかによって制限されている。したがって、低コストで及び有機溶媒を使用する必要なく、最適なジアミン収率において、アミノ酸及び/又はカルボン酸を含有する反応混合物又は発酵ブロスからジアミンを分離するための単純でより効率的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明の第1の態様は、1,5-ペンタンジアミン(PDA)を形成する方法であって、共役アニオンとしての硫酸塩又はリン酸塩とのリジン塩の少なくとも0.3M溶液を含有する混合物を、リジンの少なくとも50%をPDAに変換するのに十分な時間にわたり、リジンデカルボキシラーゼ活性を有する酵素と接触させることを含む方法である。例示的な実施形態では、リジンデカルボキシラーゼは、大腸菌(E. coli)のcadA遺伝子によってコードされ得る。
【0006】
好ましい実施形態では、共役アニオンは、リン酸アニオンである。好ましい実施形態では、混合物は、8.0~9.0のpHである。より好ましい実施形態では、混合物は、8.0~9.0のpHの0.5~2.9Mリジンリン酸塩を含有する。最も好ましい実施形態では、pHは、8.0~8.5である。上記の実施形態の最良の実施では、リジンの少なくとも90%は、PDAに変換される。例示的な例では、リジン塩は、混合物を所望のpHに調整するのに十分な量で硫酸、より好ましくはリン酸をリジン遊離塩基に添加することによって形成される。
【0007】
上記の実施形態は、反応混合物を強塩基イオン交換樹脂と接触させ、及び樹脂からPDAを溶離することにより、リジン及び共役アニオンからPDAを分離することをさらに含み得、溶離されたPDAは、15%未満のリジン又は共役アニオンを含有して少なくとも85%の純度である。好ましい実施形態では、強塩基イオン交換樹脂は、擬似移動床装置において構成される。
【0008】
本発明の第2の態様は、ジアミンと、アミノ酸又はカルボン酸の少なくとも1つの塩とを含有する水性供給原料からジアミンを分離するプロセスであって、5.0~10.0の範囲のpHの水性供給原料を強陰イオン交換樹脂の床と接触させることを含み、ジアミンは、少なくとも85%の純度を有し、及び10%(w/w)未満のアミノ酸又はカルボン酸を含有する画分において樹脂から溶離される、プロセスに関する。
【0009】
一部の実施形態では、ジアミンは、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン(プトレシン)、1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン等である。
【0010】
一実施形態では、ジアミンは、1,5-ペンタンジアミン(PDA)であり、及び少なくとも1つのアミノ酸塩は、リジン塩である。
【0011】
一実施形態では、供給原料は、リジンデカルボキシラーゼの作用によるリジンの脱炭酸によって得られる。
【0012】
別の実施形態では、リジン塩は、リジンリン酸塩及びリジン硫酸塩からなる群から選択される。
【0013】
別の実施形態では、10%未満の、リジン塩の硫酸又はリン酸共役アニオンは、ジアミンを含有する溶離画分中に存在する。
【0014】
別の好ましい実施形態では、リジン塩は、リジンリン酸塩である。
【0015】
一部の他の実施形態では、強陰イオン交換樹脂は、第4級アンモニウム塩を含む。
【0016】
別のより好ましい実施形態では、溶離画分中のPDAの純度は、少なくとも95%であり、及び5%(w/v)未満のリジンを含有する。
【0017】
他の実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸及び/又はカルボン酸は、水酸化物塩を用いて陰イオン交換床から溶離される。
【0018】
一部の実施形態では、水酸化物塩は、水酸化アンモニウムである。
【0019】
別の実施形態では、水酸化物溶液は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0020】
他の実施形態では、供給原料は、8.0~9.0の範囲のpHを有する。
【0021】
他の実施形態では、床は、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセットに充填され、(a)供給原料は、ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)1,5-ペンタンジアミンは、第2のカラムセグメントであって、カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及びリジンの塩の共役アニオンは、ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)カラムは、再生域で再生され、ラフィネート溶離域は、供給原料ローディング域と流体連通せず、及び再生域は、ラフィネート溶離域と流体連通しない。
【0022】
好ましい実施形態では、水洗浄は、供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメントの上流のセグメントにおいてカラムに導入され、水酸化物塩溶液は、ラフィネート溶離域内のセグメントにおいてカラムに導入され、及び水は、再生域におけるカラムセグメントに導入される。
【0023】
別の実施形態では、リジン塩は、リジンリン酸塩である。
【0024】
他の好ましい実施形態では、擬似移動床装置は、12のカラムセグメントを含み、12のカラムセグメントのうち、供給原料ローディング域は、5つのカラムセグメントを含み、ラフィネート溶離域は、3つのカラムセグメントを含み、及び再生域は、4つのカラムセグメントを含む。
【0025】
好ましい実施形態、リジン塩は、リジンリン酸塩である。
【0026】
本発明の第2の態様は、ジアミンを生成する方法に関する。一実施形態では、その方法は、
(a)リン酸塩又は硫酸塩を形成するために、リン酸塩又は硫酸塩の供給源を含む培地でジアミンを生成するように操作された宿主微生物を培養することと、
(b)微生物の培養物を処理して、ジアミンを含む供給原料を生成することと、
(c)供給原料をカラムにおいて強陰イオン交換樹脂の床と接触させることと、
(e)アミノ及びカルボン酸塩を含有する第2の画分とは別個の第1の画分において、カラムからジアミンを溶離することと
を含み、ジアミンは、少なくとも95%の純度でカラムから溶離され、及び5%未満のアミノ酸及び/又はカルボン酸を含有する。
【0027】
一部の実施形態では、ジアミンは、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタン-ジアミン(プトレシン)、1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)、1,6-ヘキサンジアミン及び1,7-ヘプタンジアミンから選択される。
【0028】
一部の好ましい実施形態では、カラムは、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセットを含み、(a)供給原料は、供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)ジアミンは、第2のカラムセグメントであって、カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及びリジンの塩の共役アニオンは、ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)カラムは、再生域で再生され、ラフィネート溶離域は、供給原料ローディング域と流体連通せず、及び再生域は、ラフィネート溶離域と流体連通しない。
【0029】
別の実施形態では、この方法は、1,5-ペンタンジアミン(PDA)を生成する方法であって、
(a)リジンを生成するように操作された宿主微生物を発酵させることから生じる培養ブロスを得ることと、
(b)培養ブロスから微生物を除去することと、
(c)ブロスにリン酸塩又は硫酸塩の供給源を添加して、リジンのリン酸塩又は硫酸塩を形成することと、
(d)硫酸塩又はリン酸塩を含有する培養ブロスをリジンデカルボキシラーゼと接触させることにより、リジンを脱炭酸し、リジン塩及びPDAを含有する培養ブロスを形成することと、
(e)リジン塩及びPDAを含有する培養ブロスをカラムにおいて強陰イオン交換樹脂の床と接触させることと、
(f)リジン及びリジン塩を含有する第2の画分と別個の第1の画分において、カラムからPDAを溶離することと
を含み、PDAは、少なくとも95%の純度でカラムから溶離され、及び5%未満のリジンを含有する、方法に関する。
【0030】
好ましい実施形態では、リジン塩は、リジンリン酸塩である。
【0031】
より好ましい実施形態では、カラムは、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセットを含み、(a)供給原料は、供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされ、(b)1,5-ペンタンジアミンは、第2のカラムセグメントであって、カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して供給原料ローディング域から下流の第2のカラムセグメントから溶離され、(c)リジン及びリジンの塩の共役アニオンは、ラフィネート溶離域における第3のカラムセグメントから溶離され、及び(d)カラムは、再生域で再生され、ラフィネート溶離域は、供給原料ローディング域と流体連通せず、及び再生域は、ラフィネート溶離域と流体連通しない。
【0032】
図の簡単な説明
特許又は特許出願ファイルは、カラーで制作された少なくとも1つの図面を含む。カラーの図面を有するこの特許又は特許出願公開のコピーは、請求及び必要な手数料の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】溶出液として脱イオン水を用いて、DOW 22(商標)、PA208(商標)及びHPA 25 L(商標)から1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)を溶離するパルス試験比較を示す。
【
図2B】DOW22(商標)、PA208(商標)及びHPA 25 L(商標)からの、1,5-ペンタンジアミンの保持に対するpHの作用を比較するパルス試験を示す。
【
図2】DOWEX 22(商標)陰イオン交換樹脂で充填されたカラムからの、1,5-ペンタンジアミンの溶離プロファイル及び純度を示すパルス試験を示す。
【
図3】PA308(商標)陰イオン交換樹脂で充填されたカラムからの、1,5-ペンタンジアミンの溶離プロファイル及び純度を示すパルス試験を示す。
【
図4】HPA25L(商標)陰イオン交換樹脂で充填されたカラムからの、1,5-ペンタンジアミンの溶離プロファイル及び純度を示すパルス試験を示す。
【
図5】PA 209強塩基イオン樹脂上でのリン酸塩及びリジンからの、1,5-ペンタンジアミンを分離するカラム溶離プロファイルを示す。
【
図6】複合反応混合物からジアミンを精製する擬似移動床クロマトグラフィーシステムの概略図を示す。
【
図7A】比較の目的のために、リジン塩としてリジン塩酸塩を用いた、経時的な大腸菌(E. coli)リジンデカルボキシラーゼによる1,5-ペンタンジアミン(別名PDA又はカダベリン)へのリジンの変換を示す。
【
図7B】本発明の一実施形態に従い、リジン塩としてリジン硫酸塩を用いたリジンの変換の時間経過を示す。
【
図7C】本発明の別の実施形態に従い、リジン塩としてリジンリン酸塩を用いたリジンの変換の時間経過を示す。
【
図8】指定のpHにリン酸で調整されたリジン遊離塩基の1M溶液を用いた、様々なpH値での1,5-ペンタンジアミンへのリジンの変換パーセントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
本発明のいくつかの態様は、例証のための実施例の適用に関連して本明細書で説明される。多くの具体的な詳細、関係及び方法は、本明細書に記載の特徴の詳細な理解を提供するために記載されると理解されたい。しかしながら、関連する技術分野の当業者は、本明細書に記載の特徴が、具体的な詳細の1つ若しくは複数なしに又は他の方法を用いて実施され得ることを容易に認識するであろう。別段の指定がない限り、一部の行為は、他の行為若しくは事象と異なる順序において及び/又は他の行為若しくは事象と同時に行われ得るため、本明細書に記載の特徴は、行為又は事象の例証される順序によって限定されない。さらに、本明細書に記載の特徴に従って方法論を実行するために、例証されるすべての行為又は事象が必要とされるわけではない。
【0035】
本明細書で使用される専門用語は、例示的な実施形態を単に説明するためのものであり、限定的であることを意図するものではない。単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈によって他に明確に指定されない限り、複数形も包含することが意図される。さらに、「包含している」、「包含する」、「有している」、「有する」、「備える」又はその変形形態が詳細な説明及び/又は特許請求の範囲のいずれかで使用される限り、かかる用語は、「含む」と類似の様式で包括的であることが意図される。
【0036】
本開示では、「約」又は「およそ」という用語は、所定の値の10%、好ましくは5%、より好ましくは3%までの範囲を意味する。本開示では、「実質的に」という用語は、大きい範囲又は程度で行われ得るものを意味する。
【0037】
本明細書で使用される「ジアミン」という用語は、2つ以上のアミノ基を含有するいずれかの有機化合物を意味する。本発明のジアミンの例は、限定されないが、1,2-エチレンジアミン(ジアミノエタンとしても知られる)、1,3-プロパンジアミン(トリメチレンジアミンとしても知られる)、1,4-ブタンジアミン(プトレシン又はテトラメチレンジアミンとしても知られる)、1,5-ペンタンジアミン(カダベリン又はペンタメチレンジアミン、PDA又はPMDAとしても知られる)、1,6-ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミンとしても知られる)、1,7-ヘプタンジアミン(ヘプタメチレンジアミンとしても知られる)並びにその異性体、誘導体及び類似体、並びに芳香族アミン、例えば、限定されないが、o-、m-又はp-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノビフェニル並びにその異性体、誘導体及び類似体などの脂肪族ジアミンである。一部のジアミンは、限定されないが、上記の名称など、当技術分野でいくつかの許容可能な名称によって知られていることに留意されたい。
【0038】
本明細書で使用される「発酵」という用語は、対象の化合物又は酵素を生成する野生型又は操作された微生物を増殖させることにより、ジアミン、有機酸、アミノ酸などの化合物又はリジンデカルボキシラーゼなどの酵素を生成するプロセスを意味する。
【0039】
本明細書で使用される「発酵ブロス」という用語は、限定されないが、微生物が有機炭素源をジアミン、アミノ酸又はアミノ酸デカルボキシラーゼなどの目的の有機材料に変換する液体培地であって、副生成物としてカルボン酸及びアルコールなどの他の有機材料を含有し得、通常、生物の増殖、pHコントロールに必要とされるか、又は発酵によって生成される化合物の塩を形成するのに必要とされる栄養素及び塩も含む液体培地を意味する。その用語は、対象の微生物を含有するブロス全体及び残りの成分から微生物が分離された場合の清澄化されたブロスを包含する。
【0040】
本明細書で使用される「炭素源」という用語は、微生物の増殖及び目的の生成物の生成に必要とされる炭素含有栄養素を意味する。炭素源としては、限定されないが、グルコース、フルクトース、ショ糖及びデンプンなどの炭水化物、トリプトン、カルボン酸及び/又はその塩、限定されないが、酢酸、酒石酸、クエン酸等、アミノ酸及び/又はその塩並びにトリグリセリドが挙げられる。
【0041】
「床体積」又は「カラム体積」という用語は、充填カラム又は床内の液体体積を意味する。
【0042】
本開示の第1の態様は、リジン硫酸塩及びリジンリン酸塩、特にリジンリン酸塩が、低酵素用量で高変換率を達成する点において、リジンデカルボキシラーゼを使用してリジンをPDAに変換するための基質としてのリジン塩酸塩よりも優れているという発見である。さらに、リジン硫酸塩及びリジンリン酸塩は、HClよりもかなり高い濃度で使用することができ、そのため、これらの基質との反応は、工業規模生産により適している。さらに、リジン硫酸塩又はリジンリン酸塩の使用により、リジンデカルボキシラーゼとの反応を高効率において5.0~9.0の広いpH範囲で進めることが可能となる。
【0043】
大腸菌(E. coli)由来のCadA遺伝子によってコードされる、CadAと呼ばれるリジンデカルボキシラーゼによるPDAへのリジンの酵素的変換は、公知の反応である。CadAは、酸性システムでリジンによって誘導されるピリドキサール5リン酸依存性リジンデカルボキシラーゼである。酵素の天然の有用なpH範囲は、5~7であり、記録された最適pH値は、5.5である。pHが7を超えて増加した場合、酵素が解離し、低活性二量体を形成することが知られている(Kou et al. Characterization of a new lysine decarboxylase from Aliivibrio salmonicida for cadaverine production at alkaline pH, Journal of Molecular Catalysis B: Enzymatic, vol 133, Supp. 1, 588-594, 2016)。文献は、5.5を超えるpHでの活性の急激な減少を示している(Kou et al 2016)。リジン遊離塩基は、CadAが機能するにはかなり高すぎる10.2のpHを有し、したがってpHを下げるためにリジンの酸性(アニオン性)塩を使用しなければならない。しかしながら、リジン脱炭酸のためにCadAで実施された以前の研究は、基質としてリジン塩酸塩を排他的に使用しており、一部では反応中のpHを維持するために塩酸を使用している。リジン硫酸塩又はリジンリン酸塩などの代替のリジン塩は、評価されていない。
【0044】
本開示から、リジン硫酸塩、特にリジンリン酸塩が、0.5Mよりも高く、約3.0Mのリジンリン酸塩の溶解限度までの濃度で使用される場合、CadAによって例示されるリジンデカルボキシラーゼを用いたPDAへのリジンの高い変換が起こり得ることが明らかとなった。対照的に、リジン塩酸塩の使用は、より高い濃度でのその溶解性によって制限される。5.5に調整されたpHの2.75Mリジン塩酸塩溶液は、CadAが活性である温度で不溶性である。リジンリン酸塩又はリジン硫酸塩の使用は、溶解性を増加させ、リジン塩酸塩で可能であるよりもかなり高い変換率において、37℃の最適なCadA温度で反応が進行することを可能にする。さらに、これらの塩、特にリジンリン酸塩の使用では、リジン塩酸塩が使用される場合に酵素の解離が通常起こるであろう9.0という高い値にCadA酵素のpH範囲が及び得る。
【0045】
リジンデカルボキシラーゼを使用したPDAへのリジンの変換に対するリジンの共役アニオン塩の作用を評価するために、BB16.9.8と呼ばれる大腸菌(E. coli)株を、CadAを過剰発現するように操作した。BB16.9.8は、ラクトース又はIPTGによって誘導可能である、lacプロモーターの制御下におけるT7ポリメラーゼのコピーを含有する。T7プロモーターの制御下での大腸菌(E. coli)リジンデカルボキシラーゼcadA遺伝子のコピーは、thrC遺伝子に隣接するゲノムにも組み込まれた。ラクトースの誘導量の存在下で株を対数期に増殖させて、CadAを過剰発現し、次いで急速に冷却し、遠心して、細胞ペーストを得た。BUG BUSTER(商標)細胞化学的溶解培地を使用して、細胞ペーストを溶解し、それにより細胞が多孔質となり、粗製ホモジネートが形成され、それを遠心して、本明細書でCadA溶解産物と呼ばれる、約4.0mg/mlのタンパク濃度を有する清澄化粗製抽出物を得た。所望のレベルにpHを調整するのに十分な量においてリジン遊離塩基の1M溶液にモル当量で塩酸、硫酸又はリン酸を添加することにより、リジン塩酸塩、リジン硫酸塩及びリジンリン酸塩の1モル溶液を調製した。リジンデカルボキシラーゼに必要な補助因子であるピリドキサールリン酸塩を含有するアッセイ混合物を使用して、リジンをPDAに変換するCadA溶解産物の能力についてこれらの試料を評価した。10ミリリットル~30リットルのリジン塩溶液で例示的な反応を行い、添加されたCadA溶解産物の量を異なる実験で変化させた。
【0046】
1Mリジン塩酸塩(pH5.5)250gでの第1の例証的な実験において、CadA溶解産物37mgをその量のリジン塩酸塩と共に24時間インキュベートし、最初の5時間にわたって1時間ごと及び24時間でタイムポイントが取得された。選択されたタイムポイントでの反応を70℃で1時間加熱することによって中止した。PDAへのリジンの変換率は、HPLCによって評価された。
図7Aは、最初の3時間にわたって直線的反応が進むことを示し、その時点までにリジンの約50%がPDAに変換され、その後遅くなり、24時間の時点でわずか約70%の変換率が得られた。
【0047】
pH5.5に調整された1Mリジン硫酸塩及び1Mリジンリン酸塩を用いた他の実験では、様々な量のCadA(総タンパク質によって測定される)を反応混合物に添加し、これらの塩との反応は、リジン塩酸塩よりもかなり速いことが本発明者らによって以前に示されていることから、わずか4時間のかなり短い反応期間にわたってタイムポイントが取得された。
図7Bから、リジン硫酸塩に関して、10ml反応で粗製抽出物タンパク質5mgのみを使用して、約60%のPDAへの変換率が生じ、6時間の時点で変換率が約70%に達したことが分かる。
図7Cは、より意外な結果を示し、リジンリン酸塩及びタンパク質5mgのみを用いて、90%を超えるリジンが2時間後にPDAに変換され、6時間後には変換率が95%を超えた。
【0048】
リジンデカルボキシラーゼによるPDAへのリジンの変換にリジン硫酸塩又はより好ましくはリジンリン酸塩を使用する別の利点は、酵素の有用なpH範囲が拡大することである。本明細書で上述したように、大腸菌(E. coli)CadAリジンデカルボキシラーゼは、5.5の最適pH値を有し、7.0を超えるpHでは活性を急速に失う。対照的に、本発明者らは、リジン硫酸塩又はリジンリン酸塩、特にリジンリン酸塩を使用することにより、少なくともpH9.0まで酵素が活性を維持することが可能になることを発見した。発酵によってリジンを生成する大部分の方法では、大腸菌(E. coli)リジンデカルボキシラーゼの有用なpH範囲をかなり超える約10.2のpHを有する遊離塩基形でリジンが生成される。リジンの硫酸塩又はより好ましくはリン酸塩の使用により、酵素の有用なpH範囲が広くなり、その結果、CadA酵素が活性である範囲のpHにおいて、リジン塩酸塩を形成するのに必要であると考えられる量よりも、リジン塩に共役アニオンを提供する酸(硫酸又はリン酸)を少ない量で使用することが可能となり、それによりPDAから分離しなければならないアニオンの量が低減される。
図8は、pH5.5~8.0において、リジンリン酸塩の1M溶液中のリジンの少なくとも84%が10ml反応でCadA溶解産物5mgのみを使用して24時間でPDAに変換され得ることを示す。少なくとも97%の変換率がpH5.5~8.5で確認された。
【0049】
リジン硫酸塩又は最も好ましくはリジンリン酸塩を使用する別の利点は、リジン塩酸塩で達成可能な濃度よりもかなり高い濃度を達成する能力である。実施例1~9は、リン酸で様々なpH値に調整された0.57~2.86Mリジンを含有する反応でCadAを用いた24時間反応後の高い変換率を示す。したがって、本発明の別の特徴は、リジンデカルボキシラーゼと、少なくとも0.3Mのリジンとを含有する、8.0~9.0のpHに調整された反応においてリジンをPDAに変換して、リジンリン酸塩を形成することである。例示的な実施形態では、混合物は、0.5M~2.9Mリジンを含有し、pH8.0~9.0に調整される。より好ましくは、リジン濃度は、1.0M~2.5M又はより好ましくは1.5M~2.25Mであり、pHは、8.0~8.5である。最も好ましい実施形態では、リジン濃度は、1.75~2.25Mであり、pHは、8.5である。反応時間及び酵素量は、PDAへのリジンの少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%及び最も好ましくは少なくとも95%の変換率を達成するように変えることができる。一部の反応では、少なくとも98%の変換率が得られる。
【0050】
本発明の第2の態様は、リジン及びリジン塩の共役アニオンからPDAを分離するプロセスに関する。本発明は、ジアミンと、アミノ酸及び/又はカルボン酸の少なくとも1つの塩とを含有する水性供給原料からジアミンを分離することに適用可能である。本発明のこの態様は、5.0~10.0、好ましくは6.0~9.5、より好ましくは6.5~9.0、より好ましくは7.0~9.0、より好ましくは8.0~9.0の範囲及び最も好ましくは約8.5のpHの水性供給原料を強陰イオン交換樹脂の床と接触させることを含み、ジアミンは、少なくとも85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%(w/w)の純度を有し、及び10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%(w/w)未満のアミノ酸又はカルボン酸を含有する樹脂から最初に溶離され、アミノ酸塩、及び/又はカルボン酸塩、及び/又はアミノ酸塩の共役イオンは、水酸化物塩溶液によって別々に溶離される。供給原料は、少なくともジアミン生成物と、反応してジアミンを生成する1つ又は複数の試薬、例えば、限定されないが、未反応原料有機及び無機塩、例えばアミノ及びカルボン酸及びその塩、ジカルボン酸及びその塩、トリカルボン及びその塩、ピリドキサール5’-リン酸塩、無機塩、限定されないが、リン酸、硫酸、塩化物等のアルカリ及びアルカリ土類金属塩並びに他の代謝産物、例えば、限定されないが、培地で見られるエタノール、プロパノール並びにジアミンを生成するためのいずれかの化学的又は生化学的プロセスによって生成された副生成物とを含む水溶液、一般に清澄化発酵ブロスである。供給原料は、発酵プロセスによって生成される10%(w/w)未満、好ましくは8%(w/w)未満、好ましくは6%(w/w)未満、好ましくは5%(w/w)未満のエタノール又はプロパノールなどのアルコールを含有し得る。アミノ酸及び/又はカルボン酸は、0.5~10%(w/v)、好ましくは1~9%(w/v)、より好ましくは2~8%(w/v)、より好ましくは3~7%(w/v)及び最も好ましくは4~6%(w/v)の範囲の濃度において、限定されないが、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物塩の水溶液を用いて樹脂から溶離される。
【0051】
本発明のプロセスは、アミノ酸及び/又はカルボン酸を含む反応混合物又は発酵ブロスの供給原料からジアミンを分離するのに特に適している。一部の好ましい実施形態では、ジアミンは、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン(プトレシン)、1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)、1,6-ヘキサンジアミン及び1,7-ヘプタンジアミンからなる群から選択される。好ましい一実施形態では、ジアミンは、1,5-ペンタンジアミンである。この方法の多くの利点の1つは、ジアミンが、樹脂からの初期溶離画分であり、生成物の回収の実質的な向上をもたらし、アミノ酸塩、アミノ酸塩の共役イオン及び他の無機塩などの後期の溶離生成物が回収され、発酵プロセスにリサイクルされて、ジアミンが生成されるか、又は他の有用な生成物に変換され得ることである。
【0052】
強陰イオン交換樹脂は、一般に、第4級アンモニウム基を含有するポリマーマトリックスである。標準的な市販の強陰イオン交換樹脂は、-N+(CH3)3(1型樹脂)又は-N+(CH3)2(C2H4OH)(2型樹脂)のいずれかを含有する。イオン交換樹脂上の化学化合物の分離は、固定相の荷電基と、移動相における分子との相互作用の程度に依存する。例えば、第4級アンモニウムカチオンを含む強イオン交換樹脂は、負に荷電した分子と強く相互作用し、負に荷電した分子を優先的に維持すると考えられる一方、中性及び正に荷電した分子は、樹脂とあまり容易に相互作用せず、より優先的には移動相と共に流れると考えられる。市販の強陰イオン交換樹脂の例及びその製造元を表1に挙げる。一部の好ましい実施形態では、陰イオン交換樹脂は、DOW 22(商標)、HPA 25L(商標)及びMitsubishi PA DIAION PA308(商標)から選択される。それは、トリメチルアンモニウムカチオンを含有する多孔質樹脂であり、ジアミンと、アミノ酸塩及び/又はカルボン酸塩との混合物から高い流量でジアミンを効率的に分離する。
【0053】
【0054】
上記のように、樹脂に適用される混合物は、ジアミン又はジアミンに変換されるアミノ酸を生成する化学的又は生化学的プロセスから得ることができる。好ましい実施形態では、供給原料は、目的のジアミン又はアミノ酸を生成するために、微生物の発酵から得られる清澄化発酵ブロスである。本明細書の実施例によって例証される実施形態では、清澄化発酵ブロスは、リジンを生成するために細菌を発酵させ、及びリジン遊離塩基を含有する清澄化発酵ブロスを生成するために濾過によって細菌を除去することによって得られる。硫酸又はリン酸によって例証される鉱酸又はリン酸若しくは硫酸の鉱物塩を清澄化ブロスに添加して、リジン硫酸塩を形成し、リジンデカルボキシラーゼが活性であるpHに下げる。混合物は、リジンデカルボキシラーゼの機能性に最適である範囲になるようにpH調整され、それは、1,5ペンタンジアミン(PDA)へのリジンの変換に十分な時間にわたって混合物に添加される。反応時間の最後に、カラム中の強陰イオン交換樹脂に混合物が適用され、それが溶離されて、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%及びさらにより好ましくは少なくとも95%PDAであり、及び15%未満、10%未満又はより好ましくは5%未満のリジン+共役硫酸又はリン酸アニオンを含有する第1の画分が得られ、続いて水酸化物塩基でカラムを溶離して、樹脂から残留リジン及び共役アニオンが除去される。
【0055】
本発明は、先行技術で既知の微生物の発酵を用いて実施されてジアミンを生成し得る。ジアミンを生成する微生物の例:その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,711,289号は、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン及び1,7-ヘプタンジアミンを生成するために操作された微生物を開示している。その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,472,636号は、1,3-プロパンジアミン及び1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)を生成するために操作された微生物を開示している。その全体がそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第11,124,812号、米国特許第11,053,525号、米国特許第11,053,524号及び米国特許第10,870,871号は、1,4-ブタンジアミン(プトレシン)を生成するために操作されたコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterim glutamicum)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)及びセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)並びに大腸菌(Escherichia coli)などの1種又は複数の微生物を開示している。その全体がそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,741,623号、米国特許第10,626,425号、米国特許第10,640,798号、米国特許第9,745,608号、米国特許第9,644,220号、米国特許第9,365,876号、米国特許第9,115,362号及び米国特許第8,741,623号は、1,5-ペンタンジアミンを生成するために操作された1種又は複数の微生物を開示している。1,5-ペンタンジアミンを生成するために開示される微生物の中でも、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterim glutamicum)、プロビデンシア・レットゲリ(Providencia rettgeri)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)及びセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)並びに大腸菌(Escherichia coli)が挙げられる。その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,150,977号は、1,6-ヘキサンジアミンを生成するために操作された大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、アネロビオスピリウム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、マンヘイミア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)、リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterim glutamicum)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)を開示している。
【0056】
カラムに適用される混合物は、固体を濾過し、及び/又はブロスから微生物を除去して清澄化発酵ブロスを形成することによって得られる。さらに、一部の場合、微生物の細胞が溶解され得、固体が濾過によって除去されて、カラムのための供給原料又はカラム上に適用されるジアミンを形成するであろう反応のための供給原料が生成される。一部の場合、限定されないが、培養ブロスを酸性化してタンパク質及び核酸を沈殿させることなど、当技術分野で既知の方法によってジアミンを単離する前に、供給原料からタンパク質及び核酸を除去することも望ましい場合がある。
【0057】
一部の実施形態では、供給原料は、アミノ酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素を発現するように操作された微生物を用いて、リジン又はオルニチンなどのジアミノ酸を含有する培地から調製され得る。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,871,477号は、培地中でリジン及びリジンデカルボキシラーゼの両方を発現し、分泌するように操作された形質転換コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterim glutamicum)又は大腸菌(E. coli)を培養することにより、カダベリンを生成する方法を開示している。別の例では、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第11,155,840号は、枯草菌(B. subtilis)、リケニフォルミス(licheniformis)などのバチルス属(Bacillus sp.)に由来する微生物であって、前記バチルス属(Bacillus sp.)を培養することによってPDAを生成するリジン及び好熱性リジンデカルボキシラーゼを生成するように操作された微生物を開示している。
【0058】
さらに他の好ましい実施形態では、カラムの供給原料は、精製若しくは部分的に精製されたアミノ酸デカルボキシラーゼ又は前記デカルボキシラーゼを生成する微生物の培養から得られる細胞抽出物を用いて、アミノ酸をインビトロで脱炭酸することによって得られる。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,351,839号は、pH安定性のリジンデカルボキシラーゼを生成するように操作された微生物を開示している。
【0059】
擬似移動床(SMB)
本発明は、擬似移動床(SMB)システムを用いて最良に実施される。供給混合物から少なくとも1つのジアミンを分離するのに適したSMBシステムは、そのそれぞれがクロマトグラフィー作業を実施する、複数の区域を形成するいくつかのカラムセグメントを含む。例えば、SMBは、目的の生成物成分を分離するカラムセグメントの第1の区域、第2の成分を分離する第2の区域及び樹脂を再生する1つ又は複数の洗浄区域を含み得る。各区域は、それぞれが固体強陰イオン交換樹脂の床を含有する複数のセグメントを含む。各区域は、供給混合物の1つ又は複数の注入箇所、例えば水又は水酸化物塩の水溶液を含む溶離剤の1つ又は複数の注入箇所、抽出物ストリームの取り出し箇所及びラフィネートストリームの取り出し箇所をさらに含む。ほとんどの場合、各区域におけるカラムは、互いに流体連通するが、特定の区域は、洗浄又は再生工程を適用する目的のために他の区域から切り離され得る。
【0060】
任意の供給ストリームが任意のセクション又は区域に導入され得、任意の出口又は流離液ストリームが任意のセクション又は区域から取り除かれ得るように各カラムセグメントに取り付けられた複数のバルブがSMBに備え付けられ得る。特定の実施形態では、その複数のバルブは、SMBシステムを通した流体フロースルーの方向と逆の方向において1つのセグメントから隣接セグメントにステッピングして、固定カラムセグメント上で回転ユニットとして回転し、液相が静止しているのに対して固相が移動している場合に生じるであろう効果を模倣する。他の実施形態では、バルブは、静止した状態のままであり得、カラムセグメントは、流体の流れと逆の方向において静止バルブの下の回転ユニットとして移動して、同じ効果を提供する。
【0061】
SMBの動作中、供給ストリームが供給される入口接続及び出口ストリームが抜き取られる出口接続は、それぞれのカラムから隣接カラムに一定間隔をあけて移動されるか又はインデックスされる。例えば、一態様では、アミノ酸及び/又はカルボン酸からの少なくとも1つのジアミンの分離を達成するために、入口及び出口ストリームの位置は、液体溶離剤フローの逆方向においてカラムから次の隣接カラムに断続的に移動され得る。液体溶離剤フローの方向の断続的な出入口の移動は、1つ又は複数の固体吸着剤の床の向流移動を擬似する。異なる装置及び動作方法を用いて、液体に対する固体の向流移動が擬似され得る。発酵生成物などの供給混合物から、アミノ酸及び/又はカルボン酸並びにその塩からのジアミンを分離する目的のため、既知の擬似又は実際の移動床クロマトグラフィー装置が用いられ得る。非限定的な例として、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第2,985,589号、米国特許第3,696,107号、米国特許第3,706,812号、米国特許第3,761,533号、仏国特許出願公開第A-2103302号、仏国特許出願公開第A-2651148号、仏国特許出願公開第A-2651149号、米国特許第6,979,402号、米国特許第5,069,883号及び米国特許第4,764,276号に記載の装置は、発酵生成物などの供給混合物からアミノ酸及び/又はカルボン酸並びにその塩、並びに限定されないが、リン酸塩及び/又は硫酸塩などの無機塩からのジアミンを分離するために本開示に従って構成及び動作され得る。
【0062】
アミノ酸及びカルボン酸並びにその塩からのジアミンを分離する例示的なプロセスでは、限定されないが、Mitsubishi PA DIAION PA308(商標)、DOW22(商標)及びHPA 25L(商標)などの強陰イオン交換樹脂は、供給原料ローディング域、ラフィネート溶離域及び再生域で構成される擬似移動床装置に収容されるカラムのセット上に充填される(例えば、
図5を参照されたい)。供給原料は、供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメント上にローディングされる。ジアミンは、カラムセグメントを通した液体の流れの方向に対して供給原料ローディング域から下流の別のカラムセグメントから溶離される。アミノ酸及び/又はカルボン酸並びにアミノ酸及び/又はカルボン酸の塩の共役アニオン及び無機塩は、ラフィネート溶離域におけるさらに別のカラムから溶離される。カラムが再生域で再生される。かかる配置では、ラフィネート溶離域は、供給原料ローディング域と流体連通せず、及び再生域は、ラフィネート溶離域と流体連通しない。好ましい実施形態では、水洗浄は、供給原料ローディング域を画定する第1のカラムセグメントの上流のセグメントにおいてカラムに導入され、水酸化物塩溶液は、ラフィネート溶離域内のセグメントにおいてカラムに導入され、及び水は、再生域におけるカラムセグメントに導入される(
図6を参照されたい)。
【実施例】
【0063】
実施例
以下の実施例では、リジンの濃度は、陰イオン酸を添加してリジン塩が形成される前に、リジン遊離塩基濃度として計算されるリジンの濃度を意味する。特に指定がない限り、実施例1~9ではリジン塩溶液10mlが反応に使用された。
【0064】
実施例1
pH5.6での1,5-ペンタンジアミン(PDA)への9.7%リジン硫酸塩の変換
9.7重量%リジン硫酸塩溶液(0.66Mリジン)100.52gを硫酸で5.6にpH調整し、100ml反応でピリドキサール5リン酸塩1.80mgと共に37℃に予熱し、それに、タンパク質濃度約12mg/mlを有する、大腸菌(E. coli)リジンデカルボキシラーゼ(CadA)を含有する無細胞粗製溶解産物4.0mlを添加した。混合物を穏やかに24時間攪拌し、定期的にサンプリングした。反応により、3時間以内にカダベリンへのリジンの変換率71%に達し、24時間時点でのリジン変換率98%から、CadAの適切な基質としてリジン硫酸塩を使用することができることが示される。
【0065】
実施例2
pH5.5でのPDAへの8.4%リジンリン酸塩の変換
8.4重量%リジンリン酸塩溶液(0.57Mリジン)300.98gをリン酸で5.5にpH調整し、最終体積約290mlを得て、37℃に予熱した。大腸菌(E. coli)リジンデカルボキシラーゼを含有する無細胞粗製溶解産物からのタンパク質146.3mgを添加し、ピリドキサール5リン酸塩5.08mgを添加した。混合物を穏やかに24時間攪拌し、反応全体を通して試料を抜き取った。最終的な変換は、3時間で達成され、リジン変換率は、98%であった。その結果から、CadAの適切な基質としてリジンリン酸塩を使用できることが示される。
【0066】
実施例3
pH8.0でのPDAへの13.5%リジンリン酸塩の変換
13.5重量%リジンリン酸塩溶液(0.92Mリジン)100.93gをリン酸で7.958にpH調整し、無細胞粗製溶解産物からのタンパク質49.4mgをピリドキサール5リン酸塩1.60mgと共に添加した。混合物を37℃に加熱し、穏やかに24時間攪拌した。試料をクエンチし、100分で変換率96%となり、達成された98%のリジンの最終的な変換率は、3時間以内に達成された。その結果から、CadAは、リジンリン酸塩を使用して、高効率においてpH8.0で機能し得ることが示される。
【0067】
実施例4
pH7.7でのPDAへの37.1%リジンリン酸塩の変換
37.1重量%リジンリン酸塩溶液(2.54Mリジン)98.09gをリン酸でpH7.727に調整し、試料98mlを得て、それに無細胞粗製溶解産物からタンパク質150.17mgをピリドキサール5リン酸塩1.70mgと共に添加した。混合物を37℃に加熱し、穏やかに24時間攪拌した。試料をクエンチし、70%のリジンの最終的な変換率は、24時間までに達成された。
【0068】
実施例5
pH7.9でのPDAへの41.8%リジンリン酸塩の変換
41.8重量%リジンリン酸塩溶液(2.86Mリジン)109.01gをリン酸でpH7.91に調整し、無細胞粗製溶解産物からのタンパク質174.96mgをピリドキサール5リン酸塩1.70mgと共に添加した。混合物を37℃に加熱し、穏やかに24時間攪拌した。試料をクエンチし、48%のリジンの最終的な変換率は、24時間までに達成された。
【0069】
実施例6
pH8.4でのPDAへの33.6%リジンリン酸塩の変換
33.6重量%リジンリン酸塩溶液(2.30Mリジン)10mLをリン酸及びピリドキサール5リン酸塩5.6mgでpH8.4に調整した。供給材料を4方向に分割して、粗製細胞抽出物が投与された。2本のチューブに少ない量のタンパク質119mg及び127mgを添加し、2本のチューブにそれより多い量のタンパク質256及び262mgを添加した。対照は、添加される酵素を含有しなかった。すべての試料を37℃でインキュベートした。低い用量の試料は、24時間でリジン変換率30.4及び39.6%を示した。高い用量の試料は、24時間でリジン変換率79.5%及び83.4%を有した。
【0070】
実施例7
pH8.5でのPDAへの17.9%リジンリン酸塩の変換
17.9重量%リジンリン酸塩溶液(1.22Mリジン)100.57gをリン酸でpH8.469に調整し、タンパク質49.84mgを無細胞粗製溶解産物からピリドキサール5リン酸塩1.70mgと共に添加した。混合物を37℃に加熱し、穏やかに24時間攪拌した、試料をクエンチし、95%のリジンの最終的な変換率は、3時間以内に達成され、97%が24時間までに達成された。
【0071】
実施例8
pH8.4でのPDAへの16.8%リジンリン酸塩の変換
16.8重量%リジンリン酸塩溶液(1.15Mリジン)を調製し、それにピリドキサール5リン酸塩507.1mgと共にCadA粗製抽出物2リットルを最終反応体積29072.67mLで添加した。最終pHは、8.39であった。反応を37℃で穏やかに攪拌し、試料を一定間隔で採取した。最初の1時間で変換率95%が得られ、24時間までに変換率99.5%が達成された。
【0072】
実施例9
pH9.0でのPDAへの18.9%リジンリン酸塩の変換
18.9重量%リジンリン酸塩溶液(1.29Mリジン)100.58gをリン酸でpH8.949に調整し、ピリドキサール5リン酸塩1.70mgと共に無細胞粗製溶解産物からタンパク質49.84mgを添加し、37℃に加熱した。混合物を穏やかに24時間攪拌し、試料をクエンチし、63.5%のリジンの最終的な変換率は、3時間以内に達成され、85.2%が24時間までに達成された。
【0073】
実施例10
供給原料からの1,5-ペンタンジアミンの分離:
(a)供給原料:
供給原料は、実施例8に記載のように、pHを8.5に調整するのに十分なリン酸をリジン塩基に添加することによってリジンリン酸塩を形成した後、ジンデカルボキシラーゼの作用によりリジンの脱炭酸から生じる混合物である。供給原料は、1,5-ペンタンジアミン90g/L、リジン0.27g/L及びリン酸塩40g/Lを含有した。
【0074】
(b)強陰イオン交換カラムの製造:
脱イオン水のDowex22(商標)、PA308(商標)及びHPA25L(商標)強陰イオン交換樹脂(100mL)のそれぞれのスラリーをジャケット付きガラスカラムにローディングした。樹脂床から気泡を除去し、3カラム体積/時間の流量で脱気脱イオン水の3カラム体積ですすいだ。5カラム体積/時間の流量で4%水酸化ナトリウム溶液5カラム体積をポンピングし、続いて同じ流量で脱気脱イオン水をポンピングすることにより、流離液pHが安定化するまで充填カラムをコンディショニングした。カラムにおける液体レベルは、樹脂床の上部と水平まで下げられる。
【0075】
(c)1,5-ペンタンジアミンの精製:
供給原料の約0.8~1.0カラム体積を3つのカラムにローディングし、脱気脱イオン水を用いて流量5mL/分において40℃でカラムから1,5-ペンタンジアミンを溶離し、続いて4%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液によってリジン及びリン酸塩を溶離した。8mL(0.08カラム体積)の画分1を回収し、各画分中の1,5-ペンタンジアミンの純度を決定するために含有率について分析した。
図3Aは、DOW22、PA208及びHPA25で充填された陰イオン交換カラムから1,5-ペンタンジアミン(カダベリン)を溶離する比較試験を示す。
図2~4は、1,5-ペンタンジアミンの溶離プロファイル及び純度並びに各画分におけるリジン含有率を示す。
図2~4に示すように、カラムから溶離されたジアミン画分は、99%を超える純度であった。
【0076】
実施例11
1,5-ペンタンジアミンの回収に対するpHの作用:
溶離プロファイル及び収率に対するpHの作用を試験するために、水酸化ナトリウム及び硫酸を使用して、目的のpH値に供給材料のpHを調整した。
図1Bは、DOW22、PA308及びHPA25Lで充填された3つのカラムからの1,5-ペンタンジアミンの溶離プロファイルに対する供給原料のpHの作用を示す。
【0077】
実施例12
PA308樹脂上での1,5-ペンタンジアミンの単一カラム精製
供給材料は、PDA90g/L、リジン0.27g/L及びリン酸塩40g/Lを含有する、実施例8に記載のようにpH8.5にリン酸で調整されたリジン酵素的脱炭酸反応混合物であった。0.8カラム体積(BV)の供給材料を100mlカラム(15mm×600mm)上に適用し、次いで2つの異なる供給速度において水で溶離し、次いで以下に示す供給速度において4%NaOHで溶離した。
画分回収:画分は、0.08BV(8mL)ごとに回収された
カラム温度:40℃
供給速度(0.0~0.8BV):32mL/分
溶離1速度(0.8~1.8BV):32mL/分
溶離2速度(1.8~4.8BV):5mL/分
溶離剤1(0.8~1.8BV):脱気脱イオン水
溶離剤2(1.8~4.8BV):4%NaOH
【0078】
図5から分かるように、PDA(カダベリン)生成物は、初期供給ローディング及び水洗浄(洗浄1)画分において0.3~1.0BV後に高純度で回収され、その後、リジン及びリン酸塩が溶離液中に見られた。これに続いて、4%NaOHで溶離し、吸着されたリン酸塩及び残留カダベリン及びリジンを除去することによってカラムが再生された。1BVまでの生成物画分中に回収されたカダベリンは、純度100%であった。
【0079】
実施例13
擬似移動床を用いた1,5-ペンタンジアミンの精製:
図6は、複合反応混合物からジアミンを生成するために設計された擬似移動床クロマトグラフィーシステムの概略図を示す。450mlの12カラムセグメントのそれぞれが強塩基陰イオン交換樹脂PA308を充填された。表2に示す組成を有する供給試料が実施例12に記載のように得られ、1.15リットル/時で連続的に樹脂上にローディングされた。それは、吸着域Iにおけるカラム10上にローディングされ、1,5-ペンタンジアミン生成物は、カラム12から連続的に回収された。区域IIにおいて、カラムを水で連続的に洗浄した。区域III、脱着域において、負に荷電したイオン及び残留リジンが4%水酸化ナトリウム溶液でカラムから連続的に溶離された。生成物ジアミンの試料、脱着域からの溶離液、第1(ラフィネート)及び洗浄2(水酸化ナトリウム溶離液)を回収し、分析し、その組成を表2に示す。
【0080】
【国際調査報告】