(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】熱レーザ蒸発システムの使用方法および熱レーザ蒸発システム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/28 20060101AFI20250123BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/24 L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543287
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2022051197
(87)【国際公開番号】W WO2023138768
(87)【国際公開日】2023-07-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500449363
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルンク デル ヴィッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ヴォルフガング
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029CA02
4K029DB14
4K029DB20
(57)【要約】
本発明は、熱レーザ蒸発(TLE)システム(100)の使用方法に関する。該システム(100)は、反応雰囲気(14)で充填可能な反応チャンバ(10)と、反応チャンバ(10)内に配置され、ソース材料(32)をそれぞれ含む1つまたは複数のソース(30)と、ソース材料(32)を昇華させるためにソース(30)の表面(34)にレーザ放射(52)を提供するためのレーザソース(50)と、を含む。さらに、本発明は、熱レーザ蒸発システム(100)に関する。該システム(100)は、反応雰囲気(14)で充填可能な反応チャンバ(10)と、反応チャンバ(10)内に配置され、ソース材料(32)をそれぞれ含む1つまたは複数のソース(30)と、ソース(30)の表面(34)にレーザ放射(52)を入射させてソース材料(32)を昇華させるために、レーザ放射(52)を反応チャンバ(10)内に結合させるために反応チャンバ(10)によって提供される結合手段(12)と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱レーザ蒸発(TLE)システム(100)の使用方法であって、前記熱レーザ蒸発システム(100)は、反応雰囲気(14)で充填可能な反応チャンバ(10)と、前記反応チャンバ(10)内に配置され、ソース材料(32)をそれぞれ含む1つまたは複数のソース(30)と、前記ソース(30)の表面(34)にレーザ放射(52)を提供して前記ソース材料(32)を昇華させるためのレーザソース(50)と、を含み、
前記レーザ放射(52)は、空間的に変調された強度パターン(60)を有し、
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポット(70)を含み、前記加熱スポット(70)の各々は、前記表面(34)上のスポット領域(36)において前記ソース材料(32)を昇華させることができ、
前記表面(34)上の2つの隣接する前記加熱スポット(70)のそれぞれの前記スポット領域(36)は、シームレスに合体するか、または部分的に重なる、
方法。
【請求項2】
単一の前記ソース(30)の前記表面(34)上に位置する前記空間的に変調された強度パターン(60)のすべての前記加熱スポット(70)の前記スポット領域(36)は、それぞれの前記ソース(30)の前記表面(34)上に連続する昇華領域(38)を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ放射(52)の強度は、単一の前記ソース(30)の前記表面(34)上に投影された前記空間的に変調された強度パターン(60)の2つ以上の前記加熱スポット(70)において等しいか少なくとも本質的に等しい、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザ放射(52)の強度は、単一の前記ソース(30)の前記表面(34)上に投影された前記空間的に変調された強度パターン(60)の2つ以上の前記加熱スポット(70)において異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記熱レーザ蒸発システム(100)は、2つ以上の前記ソース(30)を含み、前記空間的に変調された強度パターン(60)は、2つ以上の前記ソース(30)のうちの少なくとも2つの前記ソースについて等しいか少なくとも本質的に等しい、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱レーザ蒸発システム(100)は、2つ以上の前記ソース(30)を含み、前記空間的に変調された強度パターン(60)は、2つ以上の前記ソース(30)のうちの少なくとも2つの前記ソースについて異なる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
2つ以上の前記加熱スポット(70)のうちの2つ以上の前記加熱スポットは、少なくとも局所的に最大強度をもつ線状の加熱ライン(80)によって前記空間的に変調された強度パターン(60)内で接続され、前記加熱ライン(80)の第1の端部(82)が2つの前記加熱スポット(70)の一方に接続され、前記加熱ライン(80)の第2の端部(84)が2つの前記加熱スポット(70)の他方に接続される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱ライン(80)に沿った前記レーザ放射(52)の強度は、前記加熱ライン(80)の前記第1の端部(82)における前記加熱スポット(70)の強度から前記加熱ライン(80)の前記第2の端部(84)における前記加熱スポット(70)の強度へと漸進的に、特に単調に変化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱ライン(80)は、少なくとも部分的に直線状、および/または曲線状、および/または円弧状である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、対称点に関して回転対称である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、30°および/または45°および/または60°および/または72°および/または90°および/または135°および/または180°の角度だけ回転対称である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は周期的である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は準周期的である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は非周期的である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記空間的に変調された強度パターン(60)内において、前記加熱スポット(70)および/または前記加熱ライン(80)の外側で、前記レーザ放射(52)の強度がゼロか少なくとも本質的にゼロである、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記空間的に変調された強度パターン(60)内において、前記加熱スポット(70)および/または前記加熱ライン(80)の外側で、前記レーザ放射(52)の強度が漸進的に低減され、特に漸進的にゼロまで低減される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、前記ソース材料(32)に応じて選択される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、昇華した前記ソース材料(32)の意図されたフラックス分布に応じて選択される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
昇華した前記ソース材料(32)の意図されたフラックス分布に応じた前記空間的に変調された強度パターン(60)の選択は、前記レーザ放射(52)が前記ソース(30)の前記表面(34)に当たる入射角(58)を選択することが含まれる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記空間的に変調された強度パターン(60)の選択は、計算および/またはシミュレーションに基づいている、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記空間的に変調された強度パターン(60)の選択は、実験結果に基づいている、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法
【請求項22】
前記空間的に変調された強度パターン(60)は、前記レーザ放射(52)の強度の時間依存変調をさらに含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
熱レーザ蒸発システム(100)であって、反応雰囲気(14)で充填可能な反応チャンバ(10)と、前記反応チャンバ(10)内に配置され、ソース材料(32)をそれぞれ含む1つまたは複数のソース(30)と、前記ソース(30)の表面(34)にレーザ放射(52)を入射させて前記ソース材料(32)を昇華させるために、前記レーザ放射(52)を前記反応チャンバ(10)内に結合させるために前記反応チャンバ(10)によって提供される結合手段(12)と、を含み、
レーザソース(50)が、空間的に変調された強度パターン(60)を有する前記レーザ放射(52)を提供し、前記空間的に変調された強度パターン(60)は、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポット(70)を含み、前記加熱スポット(70)の各々は、前記表面(34)上のスポット領域(36)において前記ソース材料(32)を昇華させることができ、前記表面(34)上の2つの隣接する前記加熱スポット(70)のそれぞれの前記スポット領域(36)は、シームレスに合体するか、または部分的に重なる、
熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項24】
請求項1~22のいずれか1項に記載の方法を実行するように構築された、請求項23に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項25】
前記レーザソース(50)および/または前記結合手段(12)は、前記空間的に変調された強度パターン(60)を有する前記レーザ放射(52)を提供するための補償光学系(20)を含む、請求項23または24に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項26】
前記レーザソース(50)および/または前記結合手段(12)は、前記空間的に変調された強度パターン(60)を有する前記レーザ放射(52)を単一のレーザビーム(54)として提供する、請求項23~25のいずれか1項に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項27】
前記レーザソース(50)および/または前記結合手段(12)は、前記空間的に変調された強度パターン(60)を有する前記レーザ放射(52)を2つ以上の別個のレーザビーム(54)として提供する、請求項23~25のいずれか1項に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項28】
前記熱レーザ蒸発システム(100)は、同じ前記ソース材料(32)をそれぞれ含む2つ以上の前記ソース(30)を含むか、異なるタイプのソース材料(32)をそれぞれ含む2つ以上の前記ソース(30)を含む、請求項23~27のいずれか1項に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【請求項29】
前記熱レーザ蒸発システム(100)は、1つまたは複数の前記ソース(30)をそれぞれの前記ソース(30)の前記表面(34)に対して垂直または少なくとも本質的に垂直に移動させるために、1つまたは複数のアクチュエータ(110)を含む、請求項23~28のいずれか1項に記載の熱レーザ蒸発システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱レーザ蒸発システムの使用方法に関する。該システムは、反応雰囲気で充填可能な反応チャンバと、反応チャンバ内に配置され、ソース材料をそれぞれ含む1つまたは複数のソースと、ソースの表面にレーザ放射を提供してソース材料を昇華させるためのレーザソースと、を含む。さらに、本発明は、反応雰囲気で充填可能な反応チャンバと、反応チャンバ内に配置され、ソース材料をそれぞれ含むソースと、ソースの表面にレーザ放射を入射させてソース材料を昇華させるために、レーザ放射を反応チャンバ内に結合させるために反応チャンバによって提供される結合手段と、を含む熱レーザ蒸発システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱レーザ蒸発法(TLE)では、制御された環境、特に反応雰囲気で満たされた反応チャンバ内で、レーザ加熱によって材料を蒸発および/または昇華させて、通常は薄い膜で表面をコーティングする。TLEの効率は、レーザ放射スポット内のパワー密度に対して成長速度が指数関数的に増加するため、ソース表面の局所加熱に依存する。
【0003】
そのような単一の加熱スポット70は、
図1のAに示すように最も単純なレーザ強度パターン60を形成する。レーザビーム54、一般にレーザ放射52によって局所的に加熱されると、ソース30のソース材料32の固体ブロックは、空間的に制限された昇華領域38から昇華される。
図1のBに示すように、表面34上に入射するレーザビーム54によって形成されるスポット領域36が特に表面34全体を覆っている場合、この昇華領域38はスポット領域36と同じ大きさであり得る。
【0004】
しかしながら、ほとんどの実施形態において、スポット領域36は、全体としてソース30の表面34よりも小さい。特に、
図2のAに示すように、スポット領域36がソース30の表面34よりも小さい場合、昇華領域38は、それぞれのソース材料32の熱伝導率によって規定される十分に加熱された領域に取り囲まれたスポット領域34によって構築される。換言すると、局所的に加熱されると、ソース材料32の固体ブロックの表面34上に空間的に制限された昇華領域38が生成される。
【0005】
まず、この昇華領域38は、表面34上に凹状窪みを形成し(
図2のB参照)、続いて、レーザビーム54の入射角58に従って、レーザビーム54の方向に沿って陥没し、孔を形成する(
図2のC参照)。これは、通常、レーザビーム54の中心部である放射パワー密度が最も高い箇所で昇華速度が最も高くなるために生じる。最初に僅かに凸状であった曲率は、効率的な堆積に有益である場合があるが、この孔は、昇華したソース材料32のフラックスが基板42に向けて(図において垂直上方、
図8も参照)伝播するのを遮蔽するので、非常に効率が悪い。また、孔からの昇華したソース材料32のフラックスは、レーザビーム54が入射する方向でピークとなり、それにより、レーザビームの入射窓またはミラーのコーティングを増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の点を鑑み、本発明の目的は、上述した先行技術の欠点を有しない熱レーザ蒸発システムの改良された使用方法および改良された熱レーザ蒸発システムを提供することである。特に、本発明の目的は、大きな表面領域からの安定した高フラックスの昇華を可能にする、熱レーザ蒸発システムの改良された使用方法および改良された熱レーザ蒸発システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、添付の特許請求の範囲に記載の独立請求項によってそれぞれ達成される。特に、上記目的は、独立請求項1による熱レーザ蒸発システムの使用方法および独立請求項23による熱レーザ蒸発システムによって達成される。従属請求項には、本発明の好ましい実施形態が記載されている。本発明の第1の態様による方法に関して記載された詳細および利点は、技術的な意味があれば、本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムにも言及し、その逆もまた同様である。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、上記目的は、熱レーザ蒸発(TLE)システムの使用方法によって達成される。該システムは、反応雰囲気で充填可能な反応チャンバと、反応チャンバ内に配置され、ソース材料をそれぞれ含む1つまたは複数のソースと、ソースの表面にレーザ放射を提供してソース材料を昇華させるためのレーザソースと、を含む。ここで、レーザ放射は、空間的に変調された強度パターンを有する。この空間的に変調された強度パターンは、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポットを含む。加熱スポットの各々は、表面上のスポット領域においてソース材料を昇華させることができる。表面上の2つの隣接する加熱スポットのそれぞれのスポット領域は、シームレスに合体するか、または部分的に重なる。
【0009】
本発明の第1の態様による方法は、熱レーザ蒸発システム(略してTLEシステム)での使用が意図されている。特に、本発明の範囲は、レーザがソース材料を昇華させるために使用されるTLEシステムを包含する。このようなシステムは、一般に既に知られている。レーザソースから提供されるレーザビームは、ほとんどの場合、ソース材料を昇華させて、昇華したソース材料を、ターゲットとして提供される基板上に堆積するために使用される。ソースの表面へのレーザエネルギーの堆積により、ソース材料は、ソース材料の固体相から直接ソース材料のフラックスに昇華される。以下では、全体としてレーザ放射による昇華したソース材料の複合フラックスを「昇華パターン」と示す。しかしながら、本発明の範囲において、昇華プロセスという表現は、入射するレーザ放射によって溶融した液体ソース材料のプールからソース材料を蒸発させるプロセスも包含する。
【0010】
ソースは、反応チャンバ内に配置される。反応チャンバは、周囲雰囲気に対して密閉可能であり、反応雰囲気で充填可能である。反応雰囲気は、真空、特に10-12hPaまたはそれ以下の低圧とすることができ、または堆積される材料に適した圧力の反応ガス、例えば昇華したソース材料の酸化物の堆積のための酸素を提供する反応ガスを含むことができる。これまで60mmの作動距離でテストされてきた最大値は、10-2hPaと高い。10-2hPaでは問題なく堆積が可能であったことから、さらに高い値が可能であると考えられる。
【0011】
レーザ放射は、ほとんどの場合、結合手段を介して反応チャンバ内に結合される。結合手段は、例えば、反応チャンバのチャンバ壁に設けられた単純な窓であり得る。しかしながら、本発明による結合手段は、ソース材料の表面に入射するレーザ放射を形成するための補償光学系を含むこともできる。
【0012】
本発明の第1の態様による方法において、レーザ放射は、空間的に変調された強度パターンを有する。特に、空間的に変調された強度パターンは、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポットを含む。
【0013】
加熱スポットの1つにおけるレーザ放射の少なくとも局所的な最大強度とは、本発明の意味において、加熱スポットが強度パターン内の領域によって取り囲まれていることを意味する。このレーザ放射の強度は、加熱スポットにおけるレーザ放射の強度以下である。換言すると、各加熱スポットを取り囲む領域におけるレーザ放射の強度は、加熱スポット自体よりも高くはない。
【0014】
特に、2つ以上の加熱スポットの少なくとも1つにおけるレーザ放射の強度は、全体として、空間的に変調された強度パターン内で到達した最大強度である。換言すると、本発明によれば、レーザ放射の強度の局所的な最大値は、2つ以上の加熱スポットのうちの少なくとも1つの位置で到達される。要約すると、本発明の第1の態様による方法を実現することにより、単一の加熱スポットをもつレーザ放射が提供されることを禁止することができる。レーザ放射からソース材料へのエネルギー堆積は、ソース材料の表面のよりも広い範囲に分布される。
【0015】
好ましくは、本発明による加熱スポットは円形であり、特に円対称のガウス強度プロファイルを有し、例えばレーザ放射をソース材料の表面上に集光することによって提供される。スポットサイズは、好ましくはガウスプロファイルの全幅の半分の最大値として定義される。ここで、直径は10mm未満、好ましくは1mm未満から、最大数cm、特に10cm以上であり得る。
【0016】
個々の加熱スポットは、ソースの表面におけるそれぞれの加熱スポットと、さらにそれぞれの加熱スポットを取り囲み、且つソース材料の熱伝導率によって定義される領域とによって形成される昇華領域において、ソース材料を昇華させることができる。換言すると、スポット領域を取り囲む領域は、それぞれの加熱スポットのスポット領域からの熱エネルギーの輸送によって提供されるソース材料の温度が、ソース材料の昇華を引き起こすのに十分高い領域である。
【0017】
しかしながら、これらの加熱スポットの各々について、局所的に制限された昇華は、
図2に関して説明したように、入射するレーザ放射の入射角に従って、ソース材料のバルクへの孔の形成につながる。
【0018】
したがって、本発明によれば、空間的に変調された強度パターンの2つ以上の加熱スポットは、表面上の2つの隣接する加熱スポットのそれぞれのスポット領域がシームレスに合体するか、または部分的に重なるように配置される。それにより、2つ以上の加熱スポットは、もはや、ソース材料のバルクに個々の窪みや孔をそれぞれ形成しなくなり、2つの隣接する加熱スポットによって形成されるそれぞれの窪みの間に残る壁が自動的に昇華される。
【0019】
換言すると、加熱スポットの1つによって形成された窪みの後縁は、その前方にある隣接する加熱スポットによって形成された窪みの前縁と同一であり、且つ/またはそれに重なる。それにより、2つの隣接する加熱スポットの昇華領域が合体する。その結果、昇華プロセス中に昇華されるソース材料の表面の面積を増大させることができる。この領域が全体として昇華プロセスに関連するので、昇華したソース材料のフラックスを増加させることができる。
【0020】
要約すると、TLEシステムを使用するために本発明の第1の態様による方法を実施することによって、ソースの表面の拡大された領域の昇華を定義および安定化することができる。これは、均一性を高めた大きな表面領域からの高フラックスの昇華をもたらし、ひいてはフラックスの高く均一な全体的な堆積が可能になる。
【0021】
また、本発明による方法は、単一のソースの表面上に位置する強度パターンのすべての加熱スポットのスポット領域が、それぞれのソースの表面上に連続する昇華領域を形成することを含むことができる。本発明による連続する昇華領域は、特に、入射するレーザ放射によってソース材料の昇華が引き起こされる隙間のないソースの表面上の領域である。したがって、連続する昇華領域の各部分から昇華したソース材料が発生する。それにより、昇華したソース材料の提供されるフラックスの均一性をさらに向上させることができる。
【0022】
さらに、本発明の第1の態様による方法は、レーザ放射の強度が、単一のソースの表面上に投影された強度パターンの2つ以上の加熱スポットにおいて等しいか少なくとも本質的に等しいことを特徴とすることができる。したがって、単一のソースのソース材料へのレーザ放射からのエネルギー堆積も、加熱スポットにおいて等しいか少なくとも本質的に等しい。これにより、それぞれの昇華領域において、ソース材料の昇華がそれぞれ等しくなるか少なくとも本質的に等しくなる。その結果、単一のソースの表面全体にわたる昇華したソース材料のフラックスの均一性をさらに向上させることができる。
【0023】
本発明の第1の態様による方法の代替的な実施形態によれば、レーザ放射の強度は、単一のソースの表面上に投影された強度パターンの2つ以上の加熱スポットにおいて異なる。したがって、単一のソースのソース材料へのレーザ放射からのエネルギー堆積も、加熱スポットにおいて異なる。それにより、単一ソースの表面にわたる昇華パターンの特定の成形が提供され得る。
【0024】
また、本発明の第1の態様による方法は、熱レーザ蒸発システムが2つ以上のソースを含むことを特徴とすることができる。ここで、空間的に変調された強度パターンは、2つ以上のソースのうちの少なくとも2つのソースについて等しいか少なくとも本質的に等しい。したがって、昇華のために2つ以上のソースが使用される場合であっても、各ソースに対するエネルギー堆積を等しくすることができる。特に、同じソース材料を提供するソースの場合、TLEシステムに存在するすべてのソースからのソース材料の特に均一な昇華を提供することができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
代替的または追加的に、本発明の第1の態様による方法は、熱レーザ蒸発システムが2つ以上のソースを含むことを特徴とすることができる。ここで、空間的に変調された強度パターンは、2つ以上のソースのうちの少なくとも2つについて異なる。したがって、昇華のために2つ以上のソースが使用される場合、各ソースに対するエネルギー堆積を具体的に設定することができる。特に、各ソースは、好ましくは、それ自体のソース材料を含むことができる。換言すると、異なるソースによって提供されるソース材料は異なる。非制限的な例として、ソース材料として、第1のソースはチタンを提供することができ、第2のソースはニオブを提供することができ、第3のソースはタンタルを提供することができる。異なるソースに対して異なる空間的に変調された強度パターンを提供することで、例えばそれぞれのソース材料の昇華温度のような特定の境界条件を考慮することができる。それにより、異なるソース材料の均一で、特に同時の昇華を提供することができる。
【0026】
本発明の第1の態様による方法の別の実施形態によれば、2つ以上の加熱スポットのうちの2つ以上の加熱スポットは、少なくとも局所的に最大強度をもつ線状の加熱ラインによって空間的に変調された強度パターン内で接続される。ここで、加熱ラインの第1の端部が2つの加熱スポットの一方に接続され、加熱ラインの第2の端部が2つの加熱スポットの他方に接続される。換言すると、本実施形態によれば、加熱スポットの間に、レーザ放射の少なくとも局所的に最大強度をもつ強度パターン内で加熱ラインが延在する。したがって、ソース材料へのエネルギー堆積も加熱ラインに沿って増加し、これにより、加熱ラインに関しても昇華領域が形成される。換言すると、2つの加熱スポットのそれぞれの昇華領域は、それぞれの加熱ラインの加熱領域の周囲に形成された昇華領域によってシームレスに接続される。要約すると、ソースの表面上の昇華パターンを形成および制御する可能性を増大させることができる。
【0027】
特に、レーザ放射の少なくとも局所的に最大強度をもつ加熱ラインの各々は、それぞれの端部の点で2つの加熱スポットを接続するものとして説明することができる。また、強度パターン内の閉じた加熱ラインも可能である。このような閉じた加熱ラインに沿って、2つの加熱スポットを任意の位置に定義することができる。その結果、これらは閉じた加熱ラインによって自動的に接続される。
【0028】
また、本発明の第1の態様による方法は、加熱ラインに沿ったレーザ放射の強度を、加熱ラインの第1の端部における加熱スポットの強度から加熱ラインの第2の端部における加熱スポットの強度へと漸進的に、特に単調に変化させることによって、さらに強化され得る。加熱ラインに沿って強度を漸進的に、特に単調に変化させることによって、加熱ラインに沿った強度の不規則な変化または段階的な変化を防止することができる。それにより、均一な昇華パターンをより容易に形成することができる。本発明による漸進的な変化は、加熱ラインに沿った滑らかな強度変化のみを含む。ここで、単調な変化は、さらに、加熱ラインに沿ったレーザ放射の強度が、完全な加熱ラインに沿って減少するだけであること、または増加するだけであること、または一定のままであることをさらに必要とする。
【0029】
さらに、本発明の第1の態様による方法は、加熱ラインが少なくとも部分的に直線状および/または曲線状および/または円弧状であることを特徴とすることができる。このリストには加熱ラインの好ましい形状が含まれているが、他の形状およびそれらの形状の組み合わせも可能である。特に、それぞれの加熱ラインの形状は、本昇華プロセスの境界条件および/または意図される昇華パターン、特に使用されるソース材料に応じて選択され得る。
【0030】
本発明の第1の態様による方法の別の実施形態によれば、空間的に変調された強度パターンは、対称点または対称軸に関して回転対称である。回転対称な空間的に変調された強度パターンを提供することによって、得られる昇華パターンも回転対称になる。それにより、昇華したソース材料のフラックスの均一性を高めることができる。さらに、ソースおよび/または提供されるソース材料は、対称点に関してこのような回転対称性を含むことが多い。それにより、レーザ放射の強度パターンをソースおよび/または提供されるソース材料の形状に適合させることが単純化され得る。
【0031】
本発明の第1の態様による方法は、空間的に変調された強度パターンを30°および/または45°および/または60°および/または72°および/または90°および/または135°および/または180°の角度だけ回転対称とすることによって、さらに強化され得る。このリストには回転対称性における好ましい角度が含まれているが、他の角度も可能である。
【0032】
本発明の第1の態様による方法の別の実施形態によれば、空間的に変調された強度パターンは、周期的である。周期的な強度パターンでは、加熱スポットまたは加熱ラインなど、互いに対して固定的に配置されている少数の要素を含む小さなビルディングブロックが、全体として強度パターンを形成するために2回以上繰り返される。これにより、隣接するビルディングブロックの要素間の距離と相対的な向きが一定に保たれる。これにより、均一な昇華パターンをより容易に形成することができる。
【0033】
本発明の第1の態様による方法の代替的な実施形態によれば、空間的に変調された強度パターンは、準周期的である。準周期的な強度パターンでは、加熱スポットまたは加熱ラインなどの少数の要素を含む小さなビルディングブロックが、全体として強度パターンを形成するために2回以上繰り返される。しかしながら、隣接するビルディングブロック間の距離および相対的な向き、ならびに任意のビルディングブロックの要素の内部配置は、選択された固定要素までの距離に応じて変更され、ほとんどの場合、増加される。好ましくは、固定要素は、全体的に回転対称な強度パターンを提供するための対称点または対称軸、あるいは鏡面であり得る。それにより、空間依存性、特に半径方向の依存性または鏡面対称性または反転対称性を有する昇華パターンをより容易に提供することができる。
【0034】
本発明の第1の態様による方法のさらに別の代替的な実施形態によれば、空間的に変調された強度パターンは、非周期的である。それにより、任意の形状の強度パターンを提供することができる強度パターンが提供され得る。
【0035】
特定の例として、本発明の意味における非周期的な強度パターンは、特に、全体としては非周期的であるが、その成分においては周期的および/または準周期的である強度パターンも包含する。特に、複数のソースを有するTLEシステムの場合、各ソースは、それ自体のソース材料を有し、各ソース専用の強度パターンの成分は、それぞれのソース材料の必要性に応じて周期的および/または準周期的であることができる。ここで、強度パターンは、全体として非周期的である。
【0036】
さらに、本発明の第1の態様による方法は、空間的に変調された強度パターン内において、加熱スポットおよび/または加熱ラインの外側で、レーザ放射の強度がゼロか少なくとも本質的にゼロであることを特徴とすることができる。換言すると、強度パターンは、少なくとも局所的に最大強度をもつ領域とそれ以外のすべての領域との間に、鋭くて急激な境界を有する。それにより、特にソース材料への局所的なエネルギー堆積を提供することができる。ほとんどの場合、これは、昇華パターンに対する高度な制御を提供する。
【0037】
代替的に、本発明の第1の態様による方法は、空間的に変調された強度パターン内において、加熱スポットおよび/または加熱ラインの外側で、レーザ放射の強度が漸進的に低減されること、特に漸進的にゼロまで低減されることを含むことができる。例えば、強度は、それぞれの加熱スポットおよび/または加熱ラインまでの距離に応じて、特に距離に比例するように、あるいは多項式的に、または任意の適切な単調関数依存性で減少させることができる。換言すると、強度パターンは、滑らかに変調された強度の変化を含む。したがって、ソース材料へのエネルギー堆積の急激な変化が禁止され得る。これは、形成された昇華パターンのより高い安定性につながり得る。また、レーザ放射の強度の漸進的な減少を、強度のゼロへの急激な降下と比較して、より容易に提供することができる。
【0038】
また、本発明の第1の態様による方法は、空間的に変調された強度パターンがソース材料に応じて選択されることを含むことができる。ソース材料に応じてそれぞれの強度パターンを選択することによって、ソース材料の特性、ひいては昇華プロセスのための得られた境界条件を考慮することができる。それにより、均一な昇華パターン、ひいては昇華したソース材料の高いフラックスをより容易に提供することができる。
【0039】
代替的または追加的に、空間的に変調された強度パターンは、昇華したソース材料の意図されたフラックス分布に応じて選択される。意図されたフラックス分布は、例えば、昇華したソース材料のフラックスの一般的な方向、および/または昇華パターン内の空間的な変化、特に昇華したソース材料のそれぞれのフラックスの局所的な密度に対するものを含む。これにより、それぞれの必要性および境界条件に適合した特定の昇華パターンを提供することができる。
【0040】
本発明による方法は、空間的に変調された強度パターンを、昇華したソース材料の意図されたフラックス分布に応じて選択することによって、さらに強化され得る。これには、レーザ放射がソースの表面に当たる入射角を選択することが含まれる。上述したように、加熱スポットの各々は、入射するレーザ放射の入射角に従って、ソース材料の表面に窪みの形成を引き起こし、長期的には孔を開ける。入射角を積極的に選択することにより、窪みおよび/または孔の形成も調節され、現在のニーズおよび境界条件に適合させることができる。
【0041】
さらに、本発明の第1の態様による方法は、空間的に変調された強度パターンをソース材料に応じて選択することが計算および/またはシミュレーションに基づいていることによって、強化され得る。計算および/またはシミュレーションは、多種多様なソース材料および/または異なる形状のソースに対して提供され得る。ソース材料として使用される超高純度元素の材料定数が周知であるので、レーザ放射に対する最も適した強度パターンを、容易に、特に高速且つ低コストで見出して定義することができる。
【0042】
代替的または追加的に、本発明の第1の態様による方法は、ソース材料に応じて空間的に変調された強度パターンの選択が実験結果に基づいて行われることを特徴とすることができる。最適な強度パターンを選択するために実験結果を使用することで、既に統合された知識を選択プロセスに組み込むことができる。特に、実験結果は、例えば、使用される反応雰囲気に関して、および/または実際に使用される反応チャンバにおいて、同じ環境で得ることができる。したがって、選択プロセス中の適切でない仮定に基づくエラーの要因を回避することができる。
【0043】
本発明の第1の態様による方法の別の可能な実施形態において、空間的に変調された強度パターンは、レーザ放射の強度の時間依存変調をさらに含む。このような時間依存変調は、例えば、全体的な強度の単純な減少および/または増加であり得る。これは、例えば、昇華したソース材料のパルス状フラックスにつながる。しかしながら、強度パターンの全体的な回転または横方向のシフトなど、強度パターンの空間形状の時間依存性も可能である。また、空間形状の完全な変更も実現可能である。これにより、昇華したソース材料のフラックスの空間形状を含む、時間依存性のフラックス制御を提供することができる。これは、ソースの初期加熱中または最終冷却中、プロセスにより必要とされるフラックス変調中、およびソースの枯渇により発生する可能性のある不安定性またはドリフトを打ち消す役割を果たすことができる。
【0044】
本発明の第2の態様によれば、上記目的は、熱レーザ蒸発システムによって達成される。熱レーザ蒸発システムは、反応雰囲気で充填可能な反応チャンバと、反応チャンバ内に配置され、ソース材料をそれぞれ含む1つまたは複数のソースと、ソースの表面にレーザ放射を入射させてソース材料を昇華させるために、レーザ放射を反応チャンバ内に結合させるために反応チャンバによって提供される結合手段と、を含む。ここで、レーザソースは、空間的に変調された強度パターンをもつレーザ放射を提供する。ここで、空間的に変調された強度パターンは、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポットを含む。加熱スポットの各々は、表面上のスポット領域においてソース材料を昇華させることができる。ここで、表面上の2つの隣接する加熱スポットのそれぞれのスポット領域は、シームレスに合体するか、または部分的に重なる。
【0045】
本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムにおいて、レーザソースから提供されるレーザビームは、ほとんどの場合、ソース材料を昇華させて、昇華したソース材料を、ターゲットとして提供される基板上に堆積するために使用される。ソースの表面へのレーザエネルギーの堆積により、ソース材料は、ソース材料の固体相から直接ソース材料のフラックスに昇華される。また、以下では、全体としてレーザ放射による昇華したソース材料の複合フラックスを「昇華パターン」と示す。しかしながら、本発明の範囲において、昇華プロセスという表現は、ソース材料の溶融とその後の蒸発も包含する。レーザ放射は、結合手段を介して反応チャンバに結合される。結合手段は、例えば、反応チャンバのチャンバ壁に設けられた単純な窓であり得る。
【0046】
ソースは、反応チャンバ内に配置される。反応チャンバは、周囲雰囲気に対して密閉可能であり、反応雰囲気で充填可能である。反応雰囲気は、真空、特に10-12hPaまたはそれ以下の低圧とすることができ、または堆積される材料に適した圧力の反応ガス、例えば昇華したソース材料の酸化物の堆積に酸素を供給する反応ガスを含むことができる。
【0047】
本発明の第2の態様によるシステムにおいて、レーザ放射は、空間的に変調された強度パターンを有する。特に、空間的に変調された強度パターンは、少なくとも局所的に最大強度をもつ2つ以上の離間した加熱スポットを含む。2つ以上の加熱スポットは、加熱ラインによって空間的に変調された強度パターン内で接続され得る。また、加熱ラインは、少なくとも局所的に最大強度をもつ。
【0048】
上述したように、本発明による加熱スポットは好ましくは円形であり、特に円対称のガウス強度プロファイルを有し、例えばレーザ放射をソース材料の表面に集光することによって提供される。スポットサイズは、好ましくはガウスプロファイルの全幅の半分の最大値として定義される。ここで、直径は10mm未満、好ましくは1mm未満であり、最大数cm、特に10cm以上であり得る。
【0049】
レーザ放射の少なくとも局所的な最大強度とは、本発明の意味において、加熱スポットが、強度パターン内の領域によって取り囲まれていることを意味する。このレーザ放射の強度は、加熱スポットにおけるレーザ放射の強度以下である。換言すると、各加熱スポットを取り囲む領域におけるレーザ放射の強度は、加熱スポット自体よりも高くはない。
【0050】
特に、2つ以上の加熱スポットの少なくとも1つにおけるレーザ放射の強度は、全体として、空間的に変調された強度パターン内で到達した最大強度である。換言すると、本発明によれば、レーザ放射の強度の最大値は、2つ以上の加熱スポットのうちの少なくとも1つの位置で到達される。
【0051】
要約すると、本発明によれば、レーザ放射が単一の加熱スポットを有するTLEシステムは包含されない。レーザ放射からソース材料へのエネルギー堆積は、2つ以上の加熱スポットに分布され、ひいてはソース材料の表面のより広い領域にわたって分布される。したがって、昇華プロセス中に昇華したソース材料の表面の面積を増大させることができる。面積が昇華プロセスに全体として関与するので、昇華したソース材料のフラックスを増加させることができる。
【0052】
また、加熱スポットの各々が、表面上のスポット領域においてソース材料を昇華させることができ、表面上の2つの隣接する加熱スポットのそれぞれのスポット領域が、シームレスに合体するか、または部分的に重なることができるので、2つ以上の加熱スポットは、もはや、ソース材料のバルクに個々の窪みおよび孔をそれぞれ形成しなくなり、2つの隣接する加熱スポットによって形成されるそれぞれの窪みの間に残る壁が自動的に昇華される。それにより、2つの隣接する加熱スポットの昇華領域が合体する。その結果、昇華プロセス中に昇華したソース材料の表面の面積を増大させることができる。面積が昇華プロセスに全体として関与するので、昇華したソース材料のフラックスを増加させることができる。
【0053】
要約すると、本発明の第2の態様によるシステムにおいて、ソースの表面の拡大された領域からの昇華を定義および安定化することができる。これは、均一性を高めた大きな表面領域からの高フラックスの昇華をもたらし、ひいてはフラックスの高く均一な全体的な堆積が可能になる。
【0054】
好ましくは、本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムは、本発明の第1の態様による方法を実施するように構成されていることを特徴とすることができる。それによって、本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムは、本発明の第1の態様による方法に関して上述したすべての特徴および利点を提供する。
【0055】
本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムの別の実施形態において、レーザソースおよび/または結合手段は、空間的に変調された強度パターンを有するレーザ放射を提供するための補償光学系を含む。補償光学系を使用することは、レーザ放射の空間的に変調された強度パターンを提供するための特に簡単で効果的な方法である。特に、補償光学系は、TLEシステムの動作中に、提供される強度パターンを動的に変更するために使用され得る。これにより、例えば、昇華パターンの形状および/またはサイズが、ソースの表面に入射したレーザ放射の強度の分布に依存するように、昇華パターンの異なるセクション上でも、異なる昇華パターンを生成することができる
さらに、本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムは、レーザソースおよび/または結合手段が、空間変調された強度パターンを有するレーザ放射を単一のレーザビームとして提供することを含むことができる。換言すると、空間変調を含む完全な強度パターンは、単一のレーザビームとして提供される。したがって、レーザ放射を反応チャンバ内に導き、最終的にソースの表面上に導くために、特に単純な光学系を使用することができる。
【0056】
代替的に、本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムは、レーザソースおよび/または結合手段が、空間的に変調された強度パターンを有するレーザ放射を2つ以上の別個のレーザビームとして提供することを特徴とすることができる。特に、強度が加熱スポットおよび/または加熱ラインの外側でゼロか少なくとも本質的にゼロである強度パターンの場合、2つ以上の別個のレーザビームを使用することが有利であり得る。これにより、特に、空間的に変調された強度パターンのゼロ強度領域をより容易に提供することができる。
【0057】
本発明の第2の態様による熱レーザ蒸発システムの別の実施形態によれば、システムは、2つ以上のソースを含む。各ソースは、同じソース材料を含むか、異なるタイプのソース材料を含む。それにより、多種多様な昇華プロセスを提供することができる。同じソース材料を有することで、それぞれの昇華したソース材料は、昇華したソース材料の全体的に強化されたフラックスに組み合わされる。異なるソース材料を有することで、異なるソース材料の混合物の堆積が提供され得る。好ましくは、特に適合された空間的に変調された強度パターンを含むレーザ放射は、2つ以上のソースの各々に対して提供される。
【0058】
また、熱レーザ蒸発システムは、1つまたは複数のソースをそれぞれのソースの表面に対して垂直または少なくとも本質的に垂直に移動させるための1つまたは複数のアクチュエータを含むことを特徴とすることができる。好ましくは、1つまたは複数のソースのそれぞれに、割り当てられたアクチュエータが存在する。それぞれのソースを移動させることで、昇華プロセスによって引き起こされるソース材料の枯渇、ひいてはソースの高さの減少、ソースの表面とコーティングされる基板との距離の増加を補償することができる。したがって、提供される昇華したソース材料のフラックスの均一性は、長時間にわたって提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
以下、本発明の実施形態および添付の図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【
図1】当該技術分野における強度パターンおよび昇華プロセスの模式図である。
【
図2】
図1に示す当該技術分野における昇華プロセスをより詳細に示す図である。
【
図3】本発明による空間的に変調された強度パターンおよび昇華プロセスの模式図である。
【
図4】本発明による昇華プロセスによって提供される昇華したソース材料の2つの異なるフラックス分布を示す図である。
【
図5】本発明による空間的に変調された強度パターンの2つの例を示す図である。
【
図6】本発明による空間的に変調された強度パターンの2つのさらなる例を示す図である。
【
図7】本発明による空間的に変調された強度パターンの2つのさらなる例を示す図である。
【
図8】本発明による熱レーザ蒸発システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図3のAは、本発明による方法によって実現され、本発明によるシステム100(
図8参照)に提供される、空間的に変調された強度パターン60を示している。
図3のBおよびCは、強度パターン60を用いた昇華プロセスを示している。
【0061】
強度パターン60は、60°の回転角度で回転対称のパターンで配置された7つの加熱スポット70を含む。中央の加熱スポット70は、強度パターン60の対称点90と、図の紙面に垂直な対称軸と図の紙面との交点とを形成する。
【0062】
加熱スポット60の外側では、レーザ放射52の強度(
図3のBおよびCを参照)は、ゼロであるか、少なくともゼロに近い。代替的な実施形態(図示せず)において、加熱スポット70の外側で強度が漸進的に低減され得る。
【0063】
図3のBは、ソース材料32を含むソース30を通る断面図である。入射角58を有する複数のレーザビーム54として提供されるレーザ放射52は、
図3のAに示されている強度パターン60に従って、ソース32の表面34に入射する。個々の加熱スポット70は、それぞれのスポット領域36を囲むそれぞれの昇華領域38においてソース材料32を昇華させることができる。各昇華領域38において、ソース材料の昇華は、表面34に窪みを形成する。
【0064】
しかしながら、上記昇華領域38は、シームレスに合体するか、または部分的に重なる。したがって、加熱スポット70の1つによって形成される窪みの後縁は、その前方にあるに隣接する加熱スポット70によって形成される窪みの前縁と同一であり、且つ/または重なっている。それにより、2つの隣接する加熱スポット70の昇華領域38が合体する。その結果、昇華プロセス中に昇華したソース材料32の表面34の面積が増大し、さらに平滑化される。
【0065】
ソース30の表面34からソース材料32を昇華させると、表面が後退する。ほとんどの場合、コーティングされる基板42(
図8参照)は、静止したままであるため、ソース30をその表面34に対して垂直に移動させることで、枯渇を補正することができる。この手順は、アクチュエータ110(
図8参照)によって行うことができ、
図3のCにおいてソース30の横の上向きの矢印で示されている。これにより、ソース30の表面34と基板42との間の距離を一定に保つことができ、その結果、均一な堆積の期間を拡大することができる。
【0066】
図4には、昇華したソース材料32の2つの異なるフラックス分布が模式的に示されている。
図4のAは、完全に平坦な表面からの昇華を示している。これは、極座標の円形プロットで示されているように、余弦形状のフラックス分布を生成する。しかしながら、完全に平坦な表面34という理想的なケースを満たすことはまれである。
【0067】
図4のBには、完全に平坦な形状から逸脱した表面34のフラックス分布が示されている。特に、入射するレーザビーム54によるソース材料32の以前の昇華が、表面34に見える窪みを形成することができる。しかしながら、結果として生じるフラックス分布は、曲面の微小表面要素が個々に
図4のAに示されているのと同じ余弦形状の分布に従うと仮定することにより、平坦な表面34からの分布から推測することができる。次に、個々の寄与を合計または積分して、曲面34のフラックス分布を得る。昇華した表面34の凹状窪みの縁に近い表面要素は窪みの中心に向けて傾斜しているので、それらの個々のフラックス分布も窪みの法線対称軸に向けて傾斜している。この結果、
図4のBに示すように、前方にピークをもつフラックス分布となる。
【0068】
なお、
図4のBに示すフラックス分布は、例示的なものに過ぎないことに留意されたい。また、他のタイプの分布、例えば、分散分布および/または任意の方向にピークをもつ分布も可能である。要約すると、レーザ放射52の空間的に変調された強度パターン60を適宜選択することにより、本昇華プロセスの必要性および境界条件を満たす昇華したソース材料32のフラックス分布を提供することができる。
【0069】
図5~
図7は、空間的に変調された強度パターン70のいくつかの可能な実施形態を示している。以下では、本発明によって提供される強度パターン70の一般的な特性を説明する。図に示す実施例がその説明に含まれる。
【0070】
一般に、図に示す強度パターン60はすべて、複数の加熱スポット70および/または複数の加熱ライン80を含む。加熱スポット70および/または加熱ライン80の強度は、実際の用途に応じて、等しくてもよく、異なっていてもよい。例えば、異なるソース材料32を含む複数の異なるソース30を有する熱レーザ蒸発システム100(
図8参照)において、各ソース材料32に適した強度パターン60を使用することができる。これには、レーザ放射52の最大強度、各加熱スポット70の強度、各加熱ライン80に沿った強度、および強度パターン60内のそれぞれの空間的配置などのパラメータが含まれるが、これらに限定されるものではない。また、入射するレーザビーム54の入射角度58を適宜選択することができる。
【0071】
また、上述した加熱スポット70(例えば
図5および
図6のAに示す強度パターン70参照)に加えて、加熱ライン80も、空間的に変調された強度パターン60(
図5および
図6のB、ならびに
図7に示す両方の強度パターン参照)の一部とすることができる。
【0072】
各加熱ライン80のうち、第1の端部82は1つの加熱スポット70に接続され、第2の端部84は別の加熱スポット70に接続される。
図7に示すように、閉じた加熱ライン80の場合、加熱ライン80のそれぞれの端部82および84は、それぞれの加熱ライン80に応じて任意に選択され得る。
【0073】
好ましくは、レーザ放射52の強度は、加熱ライン80に沿って、第1の端部82における加熱スポット70の強度値から第2の端部84における加熱スポット70の強度値まで、漸進的に、特に単調に変化する。しかしながら、加熱スポット70の強度値が同一である場合、加熱ライン80に沿った強度は、一定であり得る。
【0074】
図5および
図6のBに示すように、加熱ライン80は、直線状であり得る。代替的に、加熱ライン80は、曲線状であり得、
図7に示すように円弧状とすることもできる。
【0075】
均一な昇華パターンを提供するためには、対称点90、すなわち対称軸を中心として回転対称な強度パターン60の形状が有利であることが見出された。強度パターンは、
図5では180°の回転角度で回転対称であり、
図6では90°の回転角度で回転対称である。しかしながら、
図7に示すように、完全な回転対称性を有する強度パターン60も可能である。
【0076】
図5および
図6に示す強度パターンは、周期的である。また、
図7のAに示す強度パターン60は、閉じた円形の加熱ライン80間の半径方向の距離が一定であるという意味で、周期的である。
【0077】
それとは対照的に、
図7のBに示すように、例えば閉じた円形の加熱ライン80間の半径方向の距離が半径方向に増加するような、強度パターン60の準周期的な形状も可能である。
【0078】
別の実施例(明確に図示せず)として、実現された空間的に変調された強度パターン60の非周期的な実施形態も可能である。特に、それぞれが独自のソース材料32を含む複数の異なるソースを有する熱レーザ蒸発システム100(
図8参照)において、各ソース応じて異なる強度パターン60、ひいては全体として非周期的な強度パターン60を選択することが可能である。
【0079】
また、空間的に変調された強度パターン60の時間依存変調、特に
図5~
図7に示す強度パターンの時間依存変調も可能である。
【0080】
図8は、本発明による熱レーザ蒸発システム100を模式的且つ簡略的に示す断面図である。反応チャンバ10内に、ソース30およびターゲット40、特に基板42が配置される。反応チャンバ10は、反応雰囲気14、例えば真空または適切な反応ガスで充填される。
【0081】
1つまたは複数のレーザビーム54として提供されるレーザ放射52は、結合手段12を介して反応チャンバ10に結合されて、ソース30の表面34に入射する。レーザ放射52は、レーザソース50によって提供される。好ましくは、レーザソース50および/または結合手段12の一部であり得る補償光学系20は、それぞれのソース材料32に応じて適切に選択された空間的に変調された強度パターン60をレーザ放射52に提供するために使用される。
【0082】
レーザ放射52は、ソース30の表面34に入射する。レーザ放射52が上述した空間的に変調された強度パターン60を含むので、大きな表面領域からのソース材料32の高フラックス昇華を提供することができる。要約すると、基板42におけるソース材料32のフラックスの高く均一な全体的な堆積(
図7において矢印で示す)を達成することができる。アクチュエータ110を使用して、ソース30をその表面34に対して少なくとも本質的に垂直に移動させることができる。それにより、昇華プロセスによるソース材料32の枯渇に対する補償を提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
10:反応チャンバ
12:結合手段
14:反応雰囲気
20:補償光学系
30:ソース
32:ソース材料
34:表面
36:スポット領域
38:昇華領域
40:ターゲット
42:基板
50:レーザソース
52:レーザ放射
54:レーザビーム
58:入射角
60:強度パターン
70:加熱スポット
80:加熱ライン
82:第1の端部
84:第2の端部
90:対称点
100:熱レーザ蒸発システム
110:アクチュエータ
【国際調査報告】