(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】修飾されたVero細胞、及びウイルス産生にこれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20250123BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20250123BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250123BHJP
C12Q 1/6809 20180101ALI20250123BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N7/00
C12Q1/686 Z
C12Q1/6809 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544680
(86)(22)【出願日】2023-01-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2023051807
(87)【国際公開番号】W WO2023144206
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592055820
【氏名又は名称】サノフィ・パスツール
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】マリー-アンジェリック・デヤ・ヤンデ・セヌ
(72)【発明者】
【氏名】アミン・アブデルカーデル・カーメン
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー・リード
(72)【発明者】
【氏名】タオ・ユアン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ13
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4B065CA44
(57)【要約】
本願で開示されているのは、ISG15遺伝子中の修飾を含む操作された細胞株であって、ISG15遺伝子中の修飾により、ISG15遺伝子中の修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株である。同様に本願で開示されているのは、ウイルス粒子産生を増加させる方法、及び細胞又は細胞株中で欠失させる遺伝子を同定する方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISG15遺伝子中の修飾を含む操作された細胞株であって、
前記ISG15遺伝子中の前記修飾により、前記ISG15遺伝子中の前記修飾を除いて前記操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株。
【請求項2】
前記ウイルス粒子産生の増加は、前記対照細胞株と比較して少なくとも約20%であり、例えば、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%であり、
総ウイルス粒子産生に対する感染性ウイルス粒子産生の比率は、前記対照細胞株と比較して少なくとも約3%増加しており、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、又は少なくとも60%増加している、請求項1に記載の操作された細胞株。
【請求項3】
前記ISG15遺伝子中の前記修飾により、前記操作された細胞株から前記ISG15遺伝子が欠失しているか、又は前記操作された細胞株は、前記対照細胞株と比較して前記ISG15遺伝子の発現が減少している、請求項1又は2に記載の操作された細胞株。
【請求項4】
前記操作された細胞株は、サル細胞、例えばVero細胞、又はマウス細胞に由来する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操作された細胞株。
【請求項5】
前記ISG15遺伝子は、クラスター化された定期的な間隔の短い回文反復(CRISPR)関連(Cas)システムを使用して、前記操作された細胞株から欠失している、請求項3又は4に記載の操作された細胞株。
【請求項6】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、例えば、インフルエンザAウイルス若しくはインフルエンザBウイルス;デングウイルス;黄熱ウイルス;呼吸器合胞体ウイルス(RSV);単純ヘルペスウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(HIV);肝炎ウイルス;コロナウイルス;又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくは水疱性口内炎ウイルス(VSV)から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の操作された細胞株。
【請求項7】
ウイルス粒子産生を増加させる方法であって、
操作された細胞株にウイルスを感染させることであり、前記操作された細胞株は、ISG15遺伝子中の修飾を含み、前記ISG15遺伝子中の前記修飾により、前記ISG15遺伝子中の前記修飾を除いて前記操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、感染させること;
前記操作された細胞株による前記ウイルスの産生に好適な条件下で、前記操作された細胞株をインキュベートすること;及び
前記操作された細胞株により産生された前記ウイルスを回収すること
を含む方法。
【請求項8】
前記操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、前記対照細胞株と比較して少なくとも約20%増加させ、例えば、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%増加させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ISG15遺伝子中の前記修飾により、前記操作された細胞株から前記ISG15遺伝子が欠失している、又は前記操作された細胞株は、前記対照細胞株と比較して前記ISG15遺伝子の発現が減少している、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記操作された細胞株は、Vero細胞株である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルス、RSV、単純ヘルペスウイルス、HIV、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞又は細胞株中で欠失させる遺伝子を同定する方法であって、
前記細胞又は細胞株にウイルスを感染させること;
前記感染した細胞又は細胞株中での複数の遺伝子の発現レベルを検出し、前記発現レベルと、前記ウイルスに感染していない対照細胞又は細胞株中での前記複数の遺伝子の発現レベルとを比較すること;
前記感染細胞又は細胞株中で差次的に発現されている遺伝子標的を同定すること;
前記差次的に発現されている遺伝子標的を分析して、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークに関与する1つ又は複数種の遺伝子標的を同定することであり、前記複数のタンパク質-タンパク質ネットワークは、防御反応、ウイルスに対する反応、ウイルスゲノム複製、サイトカインに対する反応、I型インターフェロンに対する反応、ウイルスゲノム複製の調節、ウイルスに対する防御反応、細胞死、ウイルスライフサイクル、ウイルスゲノム複製の負の調節、及びサイトカイン刺激に対する細胞反応の内の少なくとも2つを含む、分析すること;並びに
前記細胞又は細胞株中で欠失させる少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的を選択すること
を含み、
前記少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的の欠失により、前記ウイルスのウイルス粒子産生が増加する、方法。
【請求項13】
クラスター化された定期的な間隔の短い回文反復(CRISPR)関連(Cas)システムを使用して、前記細胞又は細胞株から前記少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的を欠失させることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞又は細胞株は、Vero細胞、Madin-Darby Canine(MDCK)細胞、又はヒト胚腎臓(HEK)細胞である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルスは、インフルエンザウイルス、例えば、インフルエンザAウイルス若しくはインフルエンザBウイルス;デングウイルス;黄熱ウイルス;RSV;単純ヘルペスウイルス;HIV;肝炎ウイルス;コロナウイルス;又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示されているのは、ウイルス粒子を産生するための操作された細胞株、及びこの操作された細胞株を製造する方法である。同様に本明細書で開示されているのは、細胞株中でのウイルス粒子産生を増加させる方法、及びウイルス粒子の産生を増強するために細胞株中での欠失を標的とする遺伝子を同定する方法である。
【背景技術】
【0002】
ワクチンで使用されるウイルス(例えば、生弱毒ウイルス及び不活化ウイルス)は、多くの場合、植物、酵母、又は動物細胞株(例えば、昆虫細胞株若しくは哺乳動物細胞株)等の培養細胞株に由来する宿主細胞を使用して製造されている。哺乳動物細胞の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:COS-7細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞、例えば、HEK293細胞;ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;マウスセルトリ細胞;アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞;ヒト子宮頸癌細胞(例えば、HeLa);イヌ腎臓細胞(例えば、MDCK)等。
【0003】
これらの様々な細胞培養ベースのプラットフォームを使用して、卵ベースのワクチン製造方法の代替としてウイルスワクチンが製造されている。したがって、ウイルス産生速度を増加させる能力は、より広範な使用のための細胞株の可能性を増強し得る。
【0004】
Vero細胞は、雌アフリカミドリザル腎臓由来細胞株であり、これは、ウイルスワクチンの製造において40年以上にわたり広く使用されており、例えば、(水疱性口内炎ウイルス(VSV)組換えウイルス(rVSV)を使用する)デング熱、インフルエンザ、日本脳炎、ポリオ、狂犬病、ロタウイルス、天然痘、及びエボラに対するワクチンの製造において使用されている。さらに、Vero細胞は、コロナウイルス(例えば、MERS-CoV、SARS-CoV、及びSARS-CoV-2)に対する感受性が高い細胞株として同定されているLiu et al.,A recombinant VSV-vectored MERS-CoV vaccine induces neutralizing antibody and T cell responses in rhesus monkeys after single dose immunization,Antiviral Res.2018,150:30-38;Hoffmann et al.,SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor,Cell 2020,181(2):271-280。そのため、Vero細胞株等の細胞株を操作してウイルスのウイルス産生の増加を成功させることは、世界の健康に大きな影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
最近の遺伝子編集の進歩により、入手可能なゲノム情報を使用して、細胞株、特に、ウイルス感染研究に使用される細胞株、及びワクチンバイオプロセス強化目的のワクチン製造に使用される細胞株のゲノムを編集することが可能である。これまで、遺伝子標的を選択するためにゲノムワイドRNA干渉スクリーンデータセットを使用する遺伝子編集によりVero細胞中でのウイルス産生速度を増加させる試みが行なわれてきたが、実験を繰り返しても有意な増加は見られなかった。Van der Sanden,S.M.et al.,Engineering Enhanced Vaccine Cell Lines To Eradicate Vaccine-Preventable Diseases:the Polio End Game,J.Virol.2016,90(4):1694-704;Hoeksema F.et al.,Enhancing viral vaccine production using engineered knockout vero cell lines-A second look,Vaccine 2018,36(16):2093-2103。そのような結果を説明するために著者らが引用した考えられる理由の中には、Vero細胞ゲノム以外のゲノムの使用、並びに転写抑制(RNAiベースのノックダウン)及び遺伝子欠失(クラスター化された定期的な間隔の短い回文反復(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)(CRISPR)ノックアウト)により誘導される表現型が、前者はウイルス産生を増加させ得るが後者は増加しないよう異なり得るという事実があった。
【0006】
そのため、本明細書で開示されているのは、ゲノムワイドスクリーンに依存しない編集に貴重な標的遺伝子を同定する方法、及び所望の遺伝子標的又は標的が修飾されてウイルス粒子の産生が増強されている、操作された細胞株である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、1つ又は複数の遺伝子中の修飾を含む操作された細胞株であって、この修飾により、この1つ又は複数の遺伝子中の修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株を提供する。
【0008】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、ISG15遺伝子中の修飾を含む操作された細胞株であって、この修飾により、ISG15遺伝子中の修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株である。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、APOA1、CCL2、CCL5、CYP19A1、CXCL8、ELF3、FOS、HERC3、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IRF7、ISG15、KRT15、KRT19、MX1、NGFR、PTGS2、PTPN6、RET、ROS1、SFRP1、SOX2、SPP1、TNF、TNFRSF4、TRAF1、及びVAV3から選択される1つ又は複数の遺伝子中の修飾を含む。
【0009】
本開示の一態様では、ウイルス粒子産生の増加は、対照細胞株と比較して少なくとも約20%であり、例えば、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%である。ある特定の態様では、総ウイルス粒子産生に対する感染性ウイルス粒子産生の比率は、対照細胞株と比較して少なくとも約3%増加しており、例えば、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、又は少なくとも60%増加している。
【0010】
ある特定の実施形態では、1つ又は複数の遺伝子中の修飾により、操作された細胞株からこの1つ又は複数の遺伝子が欠失しており、ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、対照細胞株と比較して、この1つ又は複数の遺伝子の発現が減少している。例えば、ある特定の実施形態では、ISG15遺伝子中の修飾により、操作された細胞株からISG15遺伝子が欠失しており、ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、対照細胞株と比較してISG15遺伝子の発現が減少している。
【0011】
ある特定の態様では、操作された細胞株は、サル細胞又はマウス細胞に由来する。ある特定の態様では、操作された細胞株は、Vero細胞である。
【0012】
ある特定の態様では、1つ又は複数の遺伝子は、CRISPR関連(Cas)システムを使用して、操作された細胞株から修飾されているか、又は欠失している。本開示の一態様では、ISG15遺伝子は、CRISPR-Casシステムを使用して、操作された細胞株から修飾されているか、又は欠失している。
【0013】
本開示のあらゆる態様のある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくは水疱性口内炎ウイルス(VSV)から選択される。ある特定の態様では、ウイルスは、インフルエンザウイルスであり、例えば、インフルエンザAウイルス又はインフルエンザBウイルスである。
【0014】
同様に本明細書で提供されるのは、ウイルス粒子産生を増加させる方法であって、操作された細胞株にウイルスを感染させること、操作された細胞株によるウイルスの産生に好適な条件下で、操作された細胞株をインキュベートすること、及び操作された細胞株によって産生されたウイルスを回収することを含み、操作された細胞株は、ISG15遺伝子等の1つ又は複数の遺伝子中の修飾を含み、このISG15遺伝子等の1つ又は複数の遺伝子中の修飾により、ISG15遺伝子等の1つ又は複数の遺伝子中の修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、方法である。
【0015】
本明細書で開示されている方法のある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して少なくとも約20%増加させ、例えば、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%増加させる。ある特定の実施形態では、ISG15遺伝子等の1つ又は複数の遺伝子中の修飾により、操作された細胞株からこの1つ又は複数の遺伝子が欠失しており、ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、この操作された細胞株からのISG15遺伝子等の1つ又は複数の遺伝子の発現が減少している。本明細書で開示されている方法のある特定の実施形態では、操作された細胞株は、Vero細胞株であり、ある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルス、RSV、単純ヘルペスウイルス、HIV、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される。
【0016】
同様に本明細書で開示されているのは、細胞又は細胞株中で欠失させる遺伝子を同定する方法であって、(1)細胞又は細胞株にウイルスを感染させること;(2)感染した細胞又は細胞株中での複数の遺伝子の発現レベルを検出し、この発現レベルと、ウイルスに感染していない対照細胞又は細胞株中での複数の遺伝子の発現レベルとを比較すること;(3)感染した細胞又は細胞株中で差次的に発現されている遺伝子標的を同定すること;(4)差次的に発現されている遺伝子標的を分析して、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークに関与する1つ又は複数の遺伝子標的を同定することであり、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークは、防御反応、ウイルスに対する反応、ウイルスゲノム複製、サイトカインに対する反応、I型インターフェロンに対する反応、ウイルスゲノム複製の調節、ウイルスに対する防御反応、細胞死、ウイルスライフサイクル、ウイルスゲノム複製の負の調節、及びサイトカイン刺激に対する細胞反応の内の少なくとも2つを含む、分析すること;並びに(5)細胞又は細胞株中で欠失させる少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的を選択することを含み、少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的の欠失により、ウイルスのウイルス粒子産生が増加する、方法である。ある特定の実施形態では、この方法は、(6)CRISPR-Casシステム等の遺伝子編集技術を使用して、細胞又は細胞株から前記少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的を欠失させることをさらに含む。
【0017】
細胞又は細胞株中で欠失させる遺伝子を同定する方法のある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、Vero細胞、Madin-Darby Canine(MDCK)細胞、又はヒト胚腎臓(HEK)細胞である。ある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、Vero細胞である。この方法のある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルス、RSV、単純ヘルペスウイルス、HIV、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される。ある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルスであり、例えば、インフルエンザAウイルス又はインフルエンザBウイルスである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例2で説明されている、感染後24時間でのインフルエンザ感染Vero細胞に関する遺伝子セット富化分析(gene set enrichment analysis)(GSEA)からの正規化された発現スコアを示すグラフである。
【
図2】実施例2で説明されている、感染後6時間でのrVSV-GFP感染Vero細胞に関するGSEAからの正規化された発現スコアを示すグラフである。
【
図3】実施例3で説明されている、下記を比較する配列アラインメントである:ヒトISG15(hISG15)(配列番号15)、マウスISG15(mISG15)(配列番号16)、Vero細胞ISG15(vISG15)(配列番号14)、及びイヌISG15(caISG15)(配列番号17)。インフルエンザNS1タンパク質、コロナウイルスPLP、及びナイロウイルスOTUと相互作用することが既知のアミノ酸残基を、配列アラインメントの下に示す。
【
図4】非欠失バンド及び欠失バンドそれぞれの検出のための、実施例4で説明されているPCRプライマーsgRNA A及びsgRNA Bの位置を示す概略図である。
【
図5】実施例4で説明されている、親Vero細胞(左側)及びISG15-/-Vero細胞(右側)の非欠失バンド及び欠失バンドを示すPCRスクリーンの画像である。
【
図6】約17kDaでのバンドの非存在により示されており且つ実施例4で説明されている、ISG-/-Vero細胞の検出を示す親Vero細胞及びISG15-/-Vero細胞のウエスタンブロットである。
【
図7】実施例5で説明されている、インフルエンザウイルスA(IVA)に感染した親Vero細胞、IVAに感染したISG15-/-Vero細胞、rVSV-GFPに感染した親Vero細胞、及びrVSV-GFPに感染したISG15-/-Vero細胞に関するウイルスゲノム/mL及びTCID
50/mLを示すグラフである。
【
図8】実施例6で説明されている、血清フリー培地中でのISG15-/-細胞株及び対照細胞株に関する増殖速度分析を示すグラフであり、dtは、倍加時間であり、線は、非線形フィットに対するフィットの比較として描かれている。
【
図9A】実施例7で説明されている、バイオリアクタ中における血清フリー培地中でのISG15-/-(p5+4)、ISG15-/-(p17)、及び対照細胞株に関する感染後の経時的な生存細胞の数を示すグラフである。
【
図9B】実施例7で説明されている、バイオリアクタ中における血清フリー培地中でのISG15-/-(p5+4)、ISG15-/-(p17)、及び対照細胞株に関する感染後の経時的な細胞生存率を示すグラフである。
【
図10A】実施例8で説明されている、バイオリアクタ中における血清フリー培地中でのISG15-/-(p5+4)、ISG15-/-(p17)、及び対照細胞株に関する感染後の経時的な対数力価(PFU/mL)(左側)及び感染後の経時的な力価(PFU/mL)(右側)を示すプロットである。
【
図10B】実施例8で説明されている、バイオリアクタ中における血清フリー培地中でのISG15-/-(p5+4)、ISG15-/-(p17)、及び対照細胞株に関する感染後3日での10
6個の細胞当たりの対数力価を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に開示されているのは、ウイルス粒子(例えば、ワクチン組成物の製造で使用されるウイルス粒子)の産生を増強するために、ウイルス感染及び宿主細胞中での複製の最中に作用する様々な因子を同定するための細胞株(例えば、Vero細胞株)の使用である。ある特定の実施形態では、遺伝子編集の候補抗ウイルス遺伝子は、例えば、差次的遺伝子発現分析、遺伝子セット富化分析(GSEA)、及び/又はタンパク質-タンパク質相互作用の分析(例えば、ネットワークトポロジー分析)を含む方法の任意の組み合わせを使用して選択され得る。ゲノム編集用の標的遺伝子を選択した後、配列を、遺伝子編集のために分析し得る。例えば、潜在的なgRNA候補を最高のノックアウト効率スコアを有するものにさらに低減するために、CRISPRガイドRNA(gRNA)設計及びオフターゲット予測の判定のために、配列を単離し得る。その後、標的遺伝子が、感染した操作された細胞株中でのウイルス粒子の産生を増強するように修飾されている、操作された細胞株を設計し得る。
【0020】
定義
本開示をより容易に理解するために、ある特定の用語を、最初に下記で定義する。本明細書全体を通して、下記の用語及び他の用語のさらなる定義が記載され得る。下記に記載されている用語の定義が、参照により組み込まれる出願又は特許中の定義と矛盾する場合には、この用語の意味は、本出願に記載されている定義を使用して理解されるべきである。
【0021】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別途文脈が明らかに指示しない限り、複数の参照を含む。そのため、例えば、「方法」への言及は、本明細書で説明されているタイプの1つ若しくは複数の方法及び/又は工程を含み、且つ/或いはそれは、本開示等を読めば当業者に明らかになるであろう。
【0022】
請求項要素を変更するための請求項における「第1の」、「第2の」、「第3の」等の序数用語の使用は、それ自体、1つの請求項要素の別の請求項の要素に対する重要度、優先度、若しくは順序、又は方法の操作が実行される時間的順序を意味するものではなく、単に、請求項要素を区別するために、ある名称を有するある1つの請求項要素を、同じ名称を有する別の要素から区別する(但し、序数用語の使用のための)ラベルとして使用される。
【0023】
およそ:本明細書で使用される場合、「およそ」又は「約」という用語は、1つ又は複数の対象の値に適用される場合、記載された基準値に類似する値を指す。いくつかの実施形態では、「およそ」又は「約」という用語は、別途明記しない限り、又は文脈から明らかでない限り、記載された基準値のどちらの方向でも(それより大きい、又はそれより小さい)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、又はそれ未満に入る値の範囲を指す(そのような数があり得る値の100%を超える場合を除く)。
【0024】
CRISPR-Casシステム:本明細書で使用される場合、「CRISPR関連(Cas)システム」又は「CRISPR-Casシステム」は、Cas9等のCas遺伝子の発現又は活性の指示に関与する転写物及び他の要素(例えば、Cas遺伝子をコードする配列)を指す。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位でのCRISPR複合体の形成を促進する要素(例えば、プロトスペーサ)を含む。ガイド配列は、標的配列との相補性を有するように設計されており、ここで、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションにより、CRISPR複合体の形成が促進される。標的配列は、DNA又はRNAポリヌクレオチド等の任意のポリヌクレオチドを含み得る。
【0025】
sgRNA:本明細書で使用される場合、「ガイドRNA」、「シングルガイドRNA」、又は「sgRNA」という用語は、標的配列とハイブリダイズし、CRISPR複合体の標的配列への配列特異的結合を指示するために標的配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列(例えば、DNA又はRNAポリヌクレオチド)を指す。いくつかの実施形態では、相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインされた場合に、少なくとも約50%であり、例えば、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、又は約100%である。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の好適なアルゴリズムの使用により決定され得、例えば、下記が挙げられる:Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows Wheeler Aligner、ClustalW、Clustal X、BLAST、Novoalign、ELAND(Illumina、San Diego、Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnで入手可能)、及びMaq(maq.sourceforge.netで入手可能)。
【0026】
遺伝子:本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、ポリペプチド又は前駆体(例えば、タンパク質)の産生のためのコード配列を含む核酸(例えば、DNA又はRNA)配列を指す。ポリペプチドは、完全長又は断片の所望の活性又は機能特性が保持される限り、完全長コード配列又はコード配列の任意の部分によりコードされ得る。「遺伝子」という用語は、cDNAと遺伝子のゲノム形態との両方を包含する。
【0027】
遺伝子発現:「遺伝子発現」という用語は、サンプル中の遺伝子の発現レベルを指す。当技術分野で理解されているように、遺伝子の発現レベルを、核酸(例えば、mRNA若しくはcDNA)、又は核酸によりコードされるポリペプチドの発現を測定することにより分析し得る。遺伝子発現は、サンプル中の遺伝子の発現レベルが、正規化された遺伝子発現と比較した場合に上昇していることを示す上方制御され得るか、又はサンプル中の遺伝子の発現レベルが、正規化された遺伝子発現と比較した場合に低下していることを示す下方制御され得る。
【0028】
正規化された遺伝子発現:「正規化された遺伝子発現」という用語は、疾患又はウイルスがないサンプル又はサンプルのプールにおける所与の遺伝子の平均遺伝子発現レベルを指す。
【0029】
薬学的に許容される担体:「薬学的に許容される担体」又は「薬学的に許容される賦形剤」という用語は、薬剤投与に適合する溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、並びに吸収遅延剤等を意味する。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で公知である。ある特定の実施形態では、薬学的に許容される担体又は賦形剤は、自然界には存在していない。
【0030】
ポリペプチド:「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、本明細書では、アミノ酸のポリマーを指すために同義で使用される。
【0031】
プライマー:「プライマー」という用語は、標的核酸の領域又はその補体に結合し、この標的核酸の核酸増幅を促進することが可能なポリヌクレオチドを意味する。一般に、プライマーは、核酸ポリメラーゼにより伸長され得る遊離3’端を有する。プライマーはまた、一般に、標的核酸の少なくとも1本の鎖との直接的な相補的塩基相互作用を介してハイブリダイズ可能であるか又は標的配列と相補的な鎖との相補的塩基相互作用を介してハイブリダイズ可能な塩基配列も含む。プライマーは、標的特異的配列と、任意選択的な、標的配列に非相補的な他の配列とを含み得る。この非相補配列は、例えば、プロモーター配列又は制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含み得る。
【0032】
対象:「対象」という用語は、特定の処置のレシピエントとなるあらゆる動物(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類等)を指す。いくつかの実施形態では、「対象」は、ヒトを指す。いくつかの実施形態では、「対象」は、非ヒト動物を指す。
【0033】
ワクチン:本明細書で使用される場合、「ワクチン」という用語は、インフルエンザ感染等の特定の疾患に対する免疫反応を誘発するか又は刺激するために投与される組成物を指す。ワクチンという用語は、予防ワクチン及び治療ワクチンを含む。予防ワクチンは、対象がインフルエンザ感染等の特定の疾患を獲得することを防ぐか又は軽度の疾患のみを有するように設計されている。治療ワクチンは、特定の疾患に対する免疫反応を改善するか又はこの疾患の症状を軽減することを目的としている。
【0034】
ウイルス感染:本明細書で使用される場合、「ウイルス感染」という用語は、ウイルスが健康な細胞に侵入し、細胞の複製機構を使用して増殖するか又は複製し、最終的には細胞を溶解させ、その結果、細胞死、ウイルス粒子の放出、及び新たに産生された子孫ウイルスによる他の細胞の感染がもたらされる疾患状態を説明する。ある特定のウイルス(例えば、HIV-1)による潜在感染もまた、ウイルス感染の結果として起こり得る。
【0035】
ウイルス粒子:本明細書で使用される場合、「ウイルス粒子」は、生細胞の内部で複製するビリオンである。ウイルス粒子は、遺伝物質(即ち、DNA又はRNA)、遺伝物質を取り囲むタンパク質被覆又はカプシド、及び任意選択的な脂質エンベロープを含む。
【0036】
感染性ウイルス粒子:本明細書で使用される場合、「感染性ウイルス粒子」は、宿主細胞に対する細胞変性効果を有するウイルス粒子である。感染性ウイルス粒子を、例えば、本明細書で説明されているような50%組織培養感染用量(Median Tissue Culture Infectious Dose)(TCID50)アッセイ及び/又はプラークアッセイを使用することを含む、当技術分野で既知の任意の方法により定量し得る。
【0037】
本明細書で開示されているのは、様々な遺伝子である。下記の表1では、本明細書で論じられている遺伝子の遺伝子名、種、NCBI参照配列番号、及び説明が列挙されている。この一覧表は、本開示の範囲内と考えられ得、且つ考慮されている遺伝子の完全な一覧表を構成するものではない。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
本明細書で提示されるのは、宿主細胞がウイルス感染の影響を最小限に抑えようとし、且つウイルスが宿主細胞の免疫反応を回避しようとすることから、ウイルス感染中に作用するウイルス-宿主相互作用の分析である。機能ゲノム学と細胞生物学とを組み合わせた学際的アプローチの使用により、本明細書で開示されているのは、宿主細胞中でのウイルス粒子産生を増強し、それにより、ワクチン製造プラットフォーム全体を通して高い、パンデミックに対応した宿主細胞(例えば、Vero細胞)の新たな可能性を開くための、より効率的な標的遺伝子編集の新規の戦略である。
【0042】
新たに組立てられた注釈付きのVeroゲノムが、最近公開されている。Sene,M.-A.et al.,Haplotype-resolved de novo assembly of the Vero cell line genome,NPJ Vaccine 2021,6(1):106。この情報に基づき、且つ機能ゲノムを使用することにより、Vero細胞の遺伝子編集の影響をより適切に制御し、且つ監視することが可能となり、これにより、選択前に遺伝子標的候補をより深く理解し、感染中に作用するメカニズムをよりよく理解することが可能となる。コード領域(コードDNA配列、又はCDS領域)等の全ゲノム領域の欠失により、単一ガイドRNAベースの切断を使用する遺伝子ノックダウンと比較して、両アレル欠失を得る可能性が増加し得る。これにより、欠失が標的遺伝子産物の所望の機能喪失につながる可能性が高まり、また、遺伝子ノックアウトの検証が簡素化され、迅速で高スループットの遺伝子編集プロトコルが確実に実現される。
【0043】
本明細書で開示される場合、Vero細胞中のISG15の欠失により、総ウイルス粒子産生の全体的な増加、及び感染性ウイルス粒子産生の増加、及び総ウイルス粒子に対する感染性ウイルス粒子の比率の増加がもたらされた。
【0044】
ISG15は、コンジュゲーション依存的な方法でのウイルス複製の阻害を介して宿主細胞をウイルス感染から保護する17kDaの抗ウイルスタンパク質(N末端Met切除及びC末端ペプチドの除去による成熟後に15kDa)である。Pattyn E.et al.,HyperISGylation of Old World monkey ISG15 in human cells,PLoS One 2008;3(6):e2427。ISG15は、SARS、インフルエンザ、HIV、及び肝炎を含む様々なウイルスに対する抗ウイルス反応に関連しているが、ISG15欠損ヒト患者は、ウイルス感染の影響を受けやすいISG15欠損マウスと比較して、ウイルス感染に対する感受性の増加を示さないことから、種を超えてISG15の機能的多様性が存在している。Perng,Y.C.et al.,ISG15 in antiviral immunity and beyond,Nat Rev Microbiol.2018,16(7):423-439。したがって、遺伝子編集がウイルス感染に関して所望の表現型修飾をもたらすことを確実にするために、細胞種間の多様性を考慮することが望ましい。したがって、タンパク質配列を、対象の種(Vero、HEK293、及びMDCK等のワクチン製造で使用される細胞種由来のものを含む)間で比較し得る。
【0045】
したがって、本明細書で開示されているのは、1つ又は複数の遺伝子中の修飾(例えば、Vero細胞株のISG15遺伝子中の修飾)を含む操作された細胞株であって、この修飾により、対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株である。同様に開示されているのは、この操作された細胞株を作製する方法、及びこの操作された細胞株を使用してウイルス粒子産生を増加させる方法である。加えて、本明細書で開示されているのは、細胞又は細胞株中で修飾させる(例えば欠失させる)標的遺伝子を同定する方法である。
【0046】
操作された細胞株
ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、1つ又は複数の遺伝子中の修飾を含む操作された細胞株であって、この1つ又は複数の遺伝子中の修飾により、この修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、操作された細胞株である。本明細書で使用される場合、修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株は、この操作された細胞株の親細胞株(即ち、同じ細胞培養に由来する)であり得る。したがって、ある特定の実施形態では、対照細胞株は、親細胞株である。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、Vero細胞株であり、ある特定の実施形態では、修飾は、ISG15遺伝子の欠失等のISG15遺伝子の修飾である。
【0047】
いくつかの実施形態では、操作された細胞株は、下記の遺伝子の内の1つ又は複数の修飾を含む:対照細胞と比較したAPOA1、CCL2、CCL5、CYP19A1、CXCL8、ELF3、FOS、HERC3、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IRF7、ISG15、KRT15、KRT19、MX1、NGFR、PTGS2、PTPN6、RET、ROS1、SFRP1、SOX2、SPP1、TNF、TNFRSF4、TRAF1、及びVAV3。いくつかの実施形態では、操作された細胞株は、下記の遺伝子の内の1つ又は複数の修飾を含む:対照細胞株と比較したCCL2、CCL5、CXCL8、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、及びISG15。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ISG15遺伝子の修飾を含む。
【0048】
本明細書で使用される場合、修飾は、細胞株中での遺伝子又は遺伝子の発現に影響を及ぼす、細胞株のゲノムのあらゆる非自然的な再配列を指す。例えば、遺伝子への修飾により、この遺伝子の発現が増加し得るか、又はある特定の実施形態では、修飾により、この遺伝子の発現が減少し得る。ある特定の実施形態では、修飾は、CDS領域の欠失を含む、細胞株のゲノムからの遺伝子の一部又は遺伝子全体の欠失を含み得る。
【0049】
発現の減少は、遺伝子のコード領域の転写の減少、このコード領域によりコードされるmRNAの翻訳の減少、又はこのコード領域によりコードされる結果として生じるタンパク質の活性の減少を指す。発現の増加は、遺伝子のコード領域の転写の増加、このコード領域によりコードされるmRNAの翻訳の増加、又はこのコード領域によりコードされる結果として生じるタンパク質の活性の増加を指す。
【0050】
例えば、ある特定の実施形態では、修飾は、操作された細胞株からの下記の遺伝子:APOA1、CCL2、CCL5、CYP19A1、CXCL8、ELF3、FOS、HERC3、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IRF7、ISG15、KRT15、KRT19、MX1、NGFR、PTGS2、PTPN6、RET、ROS1、SFRP1、SOX2、SPP1、TNF、TNFRSF4、TRAF1、及びVAV3の内の1つ又は複数の欠失を含み、ある特定の実施形態では、修飾は、操作された細胞株からの下記の遺伝子:CCL2、CCL5、CXCL8、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、及びISG15の内の1つ又は複数の欠失を含む。ある特定の実施形態では、修飾は、操作された細胞株からのISG15遺伝子の欠失を含む。
【0051】
当技術分野で既知であるように、細胞株は、単一の細胞から開発されたクローン細胞培養物であり、細胞の培養により、老化を経ることなく長期間にわたり分裂が継続される。対照細胞株は、対照細胞株が同一の又は類似のクローン細胞培養物に由来しており、したがって操作された細胞株と遺伝子的に類似しているが、対照細胞株は、1つ又は複数の標的遺伝子の発現を改変するように操作されていないという点で、操作された細胞株とは異なる。ある特定の実施形態では、操作された細胞株及び対照細胞株は、サル細胞若しくはヒト細胞、マウス細胞、又はイヌ細胞等の霊長類細胞から選択される。例えば、ある特定の実施形態では、操作された細胞株及び対照細胞株は、Vero細胞、Madin-Darby Canine(MDCK)、又はヒト胚腎臓(HEK)細胞であり得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株及び対照細胞株は、Vero細胞である。
【0052】
操作された細胞株は、当技術分野で既知の任意の方法で1つ又は複数の遺伝子の発現を改変するように設計され得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、例えばCRISPR技術の使用により細胞ゲノムを編集することにより修飾される。
【0053】
ある特定の実施形態では、CRISPRシステムは、ノックアウトされたか又は欠失した1つ又は複数の遺伝子を有する操作された細胞株を作製するためのCas9エンドヌクレアーゼ及びシングルガイドRNA(「sgRNA」)を含む。CRISPRは、クラスター化された定期的な間隔の短い回文反復の略であり、特定の遺伝子をノックアウトするために使用され得るゲノム工学のためのシステムである。sgRNAは、標的配列として使用され得る約20個のヌクレオチドのCas9エンドヌクレアーゼバインダーを含む短いガイドRNAである。一般に、「CRISPRシステム」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現又は活性の指示に関与する転写物及び他の要素を総称して指しており、これらとして下記が挙げられる:Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA、又は活性な部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(内在性CRISPRシステムに関連する「直接リピート」及びtracrRNA処理部分的直接リピートを包含する)、ガイド配列(内在性CRISPRシステムに関連する「スペーサー」とも称される)、又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写物。「標的配列」は、ガイド配列が相補性を有するように設計されている配列を指しており、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションにより、CRISPR複合体の形成が促進される。標的配列は、DNAポリヌクレオチド又はRNAポリヌクレオチド等の任意のポリヌクレオチドを含み得る。この標的配列を変更して、特定の遺伝子を抑制するか又は活性化して、カスタマイズされたノックアウト細胞株を作製し得る。Cas9/sgRNA複合体は、細胞DNAに結合し、指定された標的スポットで開裂し、次いで開裂後の二本鎖切断を修復することにより作用する。Shalem et al.,Genome-Scale CRISPR-Cas9 Knockout Screening in Human Cells,Science,343;6166,84-87(2014)。このようにして、特異的な遺伝子ノックアウトを作製し得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、選択された標的遺伝子の内のいずれかの発現は、CRISPR/CasガイドRNAを用いてCRISPR/Casエンドヌクレアーゼ(Cas)9システムを細胞に導入することを含む方法を使用して改変されており、ガイドRNAは、遺伝子又はその断片を標的とする。したがって、一態様では、本明細書で開示されているのは、細胞株(例えば、Vero細胞株)を遺伝的に操作する方法であって、細胞中の標的DNA配列に特異的なsgRNAを得ること;及びb)細胞のゲノムDNA内で標的配列にハイブリダイズする対応するCRISPR/CasガイドRNAと複合体化されたCRISPR/Casエンドヌクレアーゼ(Cas9)を、標的細胞に導入すること(例えば、エレクトロポレーションにより導入すること)を含む方法である。
【0055】
「ガイドRNA」、「シングルガイドRNA」、及び「合成ガイドRNA」は、同義で使用されており、ガイド配列、tracr配列、及びtracr mate配列を含むポリヌクレオチド配列を指す。「ガイド配列」という用語は、標的部位を特定するガイドRNA内の約20bpの配列を指しており、「ガイド」又は「スペーサー」という用語と同義に使用され得る。いくつかの実施形態では、gRNAは、ACCAGCATTCGAGCAAGATCAAGG(配列番号33)の配列を含み、いくつかの実施形態では、gRNAは、GGAAACCGAAACTTGGCCACCGG(配列番号34)の配列を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casシステムは、ACCAGCATTCGAGCAAGATCAAGG(配列番号33)の第1のガイド配列と、GGAAACCGAAACTTGGCCACCGG(配列番号34)の第2のガイド配列とを含む。
【0056】
本明細書で開示されているある特定の実施形態では、1つ又は複数の遺伝子は、CRISPR-Casシステムを使用して、操作された細胞株から欠失している。例えば、ある特定の実施形態では、下記の遺伝子:APOA1、CCL2、CCL5、CYP19A1、CXCL8、ELF3、FOS、HERC3、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IRF7、ISG15、KRT15、KRT19、MX1、NGFR、PTGS2、PTPN6、RET、ROS1、SFRP1、SOX2、SPP1、TNF、TNFRSF4、TRAF1、及びVAV3の内の1つ又は複数が、CRISPR-Casシステムを使用して、操作され細胞株から欠失しており、ある特定の実施形態では、下記の遺伝子:CCL2、CCL5、CXCL8、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、及びISG15の内の1つ又は複数が、CRISPR-Casシステムを使用して、操作された細胞株から欠失している。ある特定の実施形態では、ISG15遺伝子が、CRISPR-Casシステムを使用して、操作された細胞株から欠失している。
【0057】
本明細書で開示されている操作された細胞株により、対照細胞株と比較して総ウイルス粒子産生が増加する。ある特定の実施形態では、ウイルス粒子産生の増加は、対照細胞株と比較して少なくとも約10%であり、例えば少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%である。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して最大約10%増加させ得、例えば、最大約15%、最大約20%、最大約25%、最大約30%、最大約35%、最大約40%、最大約45%、最大約50%、最大約55%、最大約60%、最大約65%、最大約70%、最大約75%、最大約80%、最大約85%、最大約90%、最大約95%、最大約100%、最大約150%、最大約200%、最大約250%、又は最大約300%増加させ得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して少なくとも0.3log増加させ得、例えば、少なくとも0.4log、少なくとも0.5log、少なくとも0.6log、少なくとも0.7log、少なくとも0.8log、少なくとも0.9log、少なくとも1.0log、少なくとも1.1log、少なくとも1.2log、少なくとも1.3log、少なくとも1.4log、又は少なくとも1.5log増加させ得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して最大0.3log増加させ得、例えば、最大0.4log、最大0.5log、最大0.6log、最大0.7log、最大0.8log、最大0.9log、最大1.0log、最大1.1log、最大1.2log、最大1.3log、最大1.4log、又は最大1.5log増加させ得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して0.5~1.5log増加させ得るか、又は1.0~1.5log増加させ得るか、又は約1.5log増加させ得る。
【0058】
ある特定の実施形態では、対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生に対する感染性ウイルス粒子放出の比率が増加している。ある特定の実施形態では、総ウイルス粒子産生に対する感染性ウイルス粒子産生の比率の増加は、対象細胞株と比較して少なくとも約1%であり、例えば、少なくとも約3%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%であり、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、又は少なくとも約75%である。
【0059】
ウイルス粒子は、細胞の複製機構を使用して生細胞中で複製することが既知の任意のウイルス由来であり得る。ある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルス、デングウイルス、黄熱ウイルス、RSV、単純ヘルペスウイルス、HIV、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される。例えば、ある特定の態様では、ウイルスは、インフルエンザウイルスであり、例えば、インフルエンザAウイルス又はインフルエンザBウイルスである。
【0060】
インフルエンザウイルスを分類するために使用される全ての命名法は、当業者によって一般的に使用されるものである。そのため、インフルエンザウイルスのタイプ又はグループは、下記の3つの主要なタイプのインフルエンザを指す:ヒトに感染するA型インフルエンザ、B型インフルエンザ、又はC型インフルエンザ。インフルエンザA及びBは、毎年、相当な罹患率及び死亡率を引き起こす。特定のタイプとしてのウイルスの指定が、それぞれのMl(マトリクス)タンパク質又はP(核タンパク質)における配列の差違に関連することは、当業者に理解される。A型インフルエンザウイルスは、グループ1及びグループ2にさらに分類される。これらのグループは、ウイルス表面上の2種のタンパク質であるヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の配列に基づくウイルスの分類を指すサブタイプにさらに分類される。現在、18種の認識されたHAサブタイプ(H1~H18)、及び11種の認識されたNAサブタイプ(N1~N11)が存在している。グループ1は、N1、N4、N5、及びN8と、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16、H17、及びH18とを含む。グループ2は、N2、N3、N6、N7、及びN9と、H3、H4、H7、H10、H14、及びH15とを含む。潜在的に198種の異なるインフルエンザAサブタイプの組み合わせが存在するが、自然界では、約131種のサブタイプしか検出されていない。季節的な大流行を引き起こす、ヒト集団において一般的に流行しているA型インフルエンザウイルスの現在のサブタイプとして、A(H1N1)及びA(H3N2)が挙げられる。インフルエンザBサブタイプとして、例えば、B/ビクトリア系統由来のインフルエンザウイルス株、又はB/山形系統由来のインフルエンザウイルス株を含む、当技術分野で既知の任意のサブタイプが挙げられ得る。
【0061】
したがって、本明細書で開示されている操作された細胞株は、ISG15遺伝子の欠失等のISG15遺伝子の修飾を含むVero細胞又はVero細胞株を含み得、この修飾により、対照Vero細胞株と比較して、総インフルエンザウイルス粒子産生及び/又は感染性インフルエンザウイルス粒子産生が増加する。
【0062】
標的遺伝子の同定
ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、宿主細胞ゲノム中で欠失させる標的遺伝子を同定する方法であって、標的遺伝子の欠失により、ウイルス粒子及び/又は感染性ウイルス粒子の産生が増強される、方法である。ある特定の実施形態では、宿主細胞は、Vero細胞である。標的遺伝子を、当技術分野で既知の方法の任意の方法又は方法の組み合わせにより同定し得る。
【0063】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、細胞又は細胞株中で欠失させる遺伝子を同定する方法であって、(1)細胞又は細胞株にウイルスを感染させること;(2)感染した細胞又は細胞株中での複数の遺伝子の発現レベルを検出し、この発現レベルと、ウイルスに感染していない対照細胞又は細胞株中での複数の遺伝子の発現レベルとを比較すること;及び(3)感染した細胞又は細胞株中で差次的に発現されている標的遺伝子を同定することを含む方法である。ある特定の実施形態では、この方法は、差次的に発現されている標的遺伝子を分析して、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークに関与する1つ又は複数の遺伝子標的を同定すること、及び細胞又は細胞株中で欠失させる少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的を選択することであって、少なくとも1つの差次的に発現されている遺伝子標的の欠失により、ウイルスのウイルス粒子産生が増加する、選択することをさらに含む。
【0064】
ある特定の実施形態では、標的遺伝子を、差次的遺伝子発現分析、GSEA、及び/又はタンパク質-タンパク質ネットワークを同定するためのネットワークトポロジー分析の内の少なくとも1つにより同定する。ある特定の実施形態では、差次的遺伝子発現分析、GSEA、及びタンパク質-タンパク質相互作用の分析の3つ全てを使用して標的遺伝子を同定し得る。
【0065】
差次的遺伝子発現分析:上方制御又は下方制御等の遺伝子発現の差違を、ウイルスに感染した宿主細胞とウイルスに感染していない対照宿主細胞との間で評価し得る。感染した細胞と感染していない細胞との間の遺伝子発現の差違を決定するために、両方のゲノムからのRNA配列決定データを、DESeq2分析等の当技術分野で既知の方法を使用して取得し得る。Love M.I.,et al.,Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2,Genome Biology 2014。RNA配列決定データから、サンプルの複数の群にわたり差次的に発現されている遺伝子が同定される。したがって、ある特定の実施形態では、ウイルスに感染している宿主細胞からのRNA配列決定データを取得して、ウイルスに感染していない宿主細胞からのRNA配列決定データ、又は既知の正規化された遺伝子発現データと比較し得る。ある特定の実施形態では、感染した細胞からのRNA配列決定データを、感染後の任意の期間で取得し得、例えば、感染後約30分、感染後約1時間(hpi)、約2hpi、約4hpi、約6hpi、約8hpi、約10hpi、約12hpi、約16hpi、約20hpi、約24hpi、約48hpi、又は約72hpiで取得し得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、前述の遺伝子又は核酸の内のいずれかの発現の測定又は検出は、目的の遺伝子又はそれによりコードされるタンパク質に対応する任意の核酸転写物(例えば、mRNA、cDNA、又はゲノムDNA)の測定又は検出を含む。遺伝子が複数のmRNA転写物又はアイソフォームに関連する場合には、遺伝子の1つ若しくは複数のmRNA転写物、又は遺伝子に関連するmRNA転写物の全てを測定するか又は検出することにより、遺伝子の発現を測定し得るか、又は検出し得る。
【0067】
典型的には、遺伝子発現を、mRNAレベル又はcDNAレベルに基づいて検出し得るか、又は測定し得るが、適切な場合には、タンパク質レベルも使用し得る。mRNAレベル、cDNA、又はタンパク質レベルを測定するための任意の定量的方法又は定性的方法を使用し得る。mRNAレベル又はcDNAレベルを検出するか又は測定するのに好適な方法として、例えば、ノーザンブロッティング、マイクロアレイ分析、又は核酸増幅手順、例えば、逆転写PCR(RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR、別名、定量RT-PCR(qRT-PCR)、及び/又はデジタル液滴PCT(ddPCR)が挙げられる。そのような方法は、当技術分野で公知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4thEd.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2012を参照されたい。他の技術として、遺伝子発現のデジタル多重分析(例えば、nCounter(登録商標)(NanoString Technologies,Seattle,WA)遺伝子発現アッセイ)が挙げられ、これは、米国特許出願公開第2010/0112710号明細書及び同第2010/0047924号明細書でさらに説明されている。
【0068】
目的の核酸の検出は、一般に、標的(例えば、mRNA、cDNA、又はゲノムDNA)とプローブとの間のハイブリダイゼーションを含む。多くの遺伝子の配列は、容易に知られている。したがって、当業者は、これらの遺伝子を検出するためのハイブリダイゼーションプローブを容易に設計し得る。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4thEd.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2012を参照されたい。各プローブは、任意の交差ハイブリダイゼーション及び偽陽性を回避するために、その標的に対して実質的に特異的であり得る。特異的プローブの使用の代替は、転写物から材料を得る(例えば、cDNA産生中、又は増幅中に標的特異的プライマーを使用する)場合に特異的試薬を使用することである。どちらの場合も、特異性は、標的の、分析される遺伝子群内で実質的に固有の部分へのプローブのハイブリダイゼーションによって達成され得、例えば、ポリAテールへのハイブリダイゼーションでは、特異性は得られないだろう。標的が複数のスプライスバリアントを有する場合には、各バリアントに共通の領域を認識するハイブリダイゼーション試薬を設計すること、及び/又はそれぞれが1つ若しくは複数のバリアントを認識し得る複数の試薬を使用することが可能である。
【0069】
ある特定の実施形態では、マイクロアレイ分析又はPCRベースの方法を使用する。この点に関して、前述の核酸の発現を測定することは、例えば、サンプルと、目的の遺伝子に特異的なポリヌクレオチドプローブ、又は目的の遺伝子の一部を増幅するように設計されたプライマーとを接触させること、及び核酸標的へのプローブの結合又は核酸の増幅それぞれを検出することを含み得る。PCRプライマーを設計するための詳細なプロトコルは、当技術分野で既知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4thEd.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2012を参照されたい。同様に、遺伝子発現を分析するためのマイクロアレイを調製して使用するための詳細なプロトコルは、当技術分野で既知であり、本明細書で説明されている。
【0070】
或いは、又は加えて、遺伝子の発現レベルを、タンパク質レベルで決定し得、これは、本明細書で論じられている遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルを測定することを意味する。例えば、米国特許第6,143,576号明細書;同第6,113,855号明細書;同第6,019,944号明細書;同第5,985,579号明細書;同第5,947,124号明細書;同第5,939,272号明細書;同第5,922,615号明細書;同第5,885,527号明細書;同第5,851,776号明細書;同第5,824,799号明細書;同第5,679,526号明細書;同第5,525,524号明細書;同第5,458,852号明細書;同第5,480,792号明細書(これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)で説明されているイムノアッセイ等の、タンパク質のレベルを決定するためのいくつかの方法及びデバイスが既知である。これらのアッセイとして、目的のタンパク質の存在又は量に関連するシグナルを生成するための様々なサンドイッチアッセイフォーマット、競合アッセイフォーマット、又は非競合アッセイフォーマットが挙げられ得る。任意の好適なイムノアッセイ(例えば、側方流、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合結合アッセイ等)を利用し得る。抗体アレイのための多数のフォーマットが説明されている。そのようなアレイは、検出が意図されている様々なタンパク質に対する特異性を有する様々な抗体を含み得る。例えば、少なくとも100種の異なる抗体を使用して100種の異なるタンパク質標的を検出し、各抗体は、1つの標的に対して特異的である。全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2008/048970号パンフレットで開示されている合成抗体等の、特定のタンパク質標的に対する特異性を有する他のリガンドも使用し得る。所望の結合特異性を有する他の化合物が、ペプチド又は小分子のランダムライブラリから選択され得る。全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,922,615号明細書では、膜上に固定化された抗体の複数の個別のゾーンを使用してアレイ内の複数の標的抗原を検出するデバイスが説明されている。マイクロタイタープレート又は自動化を使用して、多数の異なるタンパク質を容易に検出し得る。
【0071】
タンパク質の同定及び定量にイムノアッセイが使用されているが、質量分析(MS)技術の近年の進歩により、高感度で高スループットのMSタンパク質分析が開発されている。MS法を使用して、複雑な生物学的サンプル中の少量のタンパク質を検出し得る。例えば、MS分析の前に生物学的サンプルを分画することにより、標的MSを実行し得る。MS分析前にそのような分画を実行するための一般的な技術として、例えば、二次元電気泳動、液体クロマトグラフィー、及びキャピラリ電気泳動が挙げられる。
【0072】
ウエスタンブロッティングにより、任意の精製工程の前後に、細胞又は組織から作られた抽出物から特定のタンパク質(天然タンパク質又は変性タンパク室)を特定し得る。タンパク質は、一般に、ゲル電気泳動を使用してサイズ別に分離された後、乾燥、半乾燥、又はウェットブロッティング法により、合成膜(典型的には、ニトロセルロース又はPVDF)に転写される。次いで、免疫組織化学と同様の方法を使用するが固定を必要とすることなく、抗体を使用して膜を調べ得る。検出を、典型的には、化学発光反応を触媒するためにペルオキシダーゼ結合抗体を使用して実施する。ウエスタンブロッティングは、抽出物間のタンパク質レベルを半定量的に又は定量的に比較するために使用し得るルーチン的な分子生物学的方法である。ブロッティング前のサイズ分離により、既知の分子量マーカーと比較してタンパク質分子量を測定し得る。ウエスタンブロッティングは、組織ホモジェネート又は抽出物の所与のサンプル中の特定のタンパク質を検出するために使用される分析技術である。ゲル電気泳動を使用して、ポリペプチドの長さ(変性条件)又はタンパク質の3次元構造(天然/非変性条件)によりタンパク質を分離する。
【0073】
遺伝子セット富化分析:遺伝子セット富化分析(GSEA)を使用して、差次的遺伝子発現データをさらに解釈し得る。GSEAは、共通の生物学的機能、染色体位置、及び/又は調節を共有する遺伝子セット又は遺伝子群に焦点を当てる。Subramanian,A.et al.,Gene set enrichment analysis:A knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 2005,102(43):15545-15550。本開示の全ての態様のある特定の実施形態では、GSEAを使用して、細胞又は細胞株中でのウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生の増加と関連し得る遺伝子のクラスを同定し得る。GSEAにより、共通の機能、位置、又は調節を共有する遺伝子セット又は遺伝子群に焦点を当てて、遺伝子発現データを解釈することが可能となる。遺伝子セットは、検索可能なフォーマットで入手可能であり、例えば、電子的なMolecular Signatures Database(MSigDB)で入手可能である。サンプルからの遺伝子を、感染した細胞及び感染していない細胞で産生されるウイルス粒子の量を比較して、差次的遺伝子発現によりランク付けし得、MSigDB中の富化遺伝子セットをスクリーニングするために使用し得る。
【0074】
ある特定の実施形態では,GSEAは、(様々な発現された遺伝子の過剰発現又は低発現のいずれかに起因して)これらの様々な発現された遺伝子の全ての間で遺伝子セットがどの程度過剰発現されているかを表す富化スコアESの算出を含み得る。ESの統計的有意性(p値)、及び正規化された富化スコア値(NES)も算出し得、同様に、偽発見率(FDR)を、任意の所与のNESに対する偽陽性の割合に対応するように算出し得る。Subramanian 2005。各遺伝子セットに関して算出されたNESは、遺伝子セットがウイルス粒子産生の増加と相関する程度を反映し得る。GSEAのNESを、当技術分野で既知の任意の手段で算出し得、例えば、Reactome(Croft,D et al.,The Reactome pathway knowledgebase,Nucleic Acids Res.2014,42:D472-D477)及び/又はWebGestalt(WEB-based Gene SeT AnaLysis Toolkit)(Liao,Y.et al.,WebGestalt 2019:gene set analysis toolkit with revamped UIs and APIs,Nucleic Acids Res.2019,47(W1):W199-W205)等を使用して算出し得る。ある特定の実施形態では、遺伝子セットに関するNESは、遺伝子セット中の遺伝子の上方制御された発現を示す正の値であり得、且つ約0.5超であり得、例えば、約1.0超、約1.5超、約2.0超、又は約2.5超であり得る。ある特定の実施形態では、遺伝子セットに関するNESは、遺伝子セット中の遺伝子の下方制御された発現を示す負の値であり得、且つ約-0.5未満であり得、例えば、約-1.0未満、約-1.5未満、約-2.0未満、又は約-2.5未満であり得る。
【0075】
ある特定の実施形態では、特徴的な遺伝子経路を、本明細書で開示されているGSEAの使用により同定し得る。ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:G-タンパク質共役受容体(GPCR)リガンド結合、GPCRによるシグナル伝達、クラスA/1(ロドプシン様受容体)、GPCR下流シグナル伝達、Gアルファ(i)シグナル伝達事象、インターフェロンアルファ/ベータシグナル伝達、DNAの合成、視覚光情報伝達、ペプチドリガンド結合受容体、DNA複製、クロマチンからのOrc1の除去、複製前複合体の組み立て、DNA複製開始前、有糸分裂中期及び後期、有糸分裂後期、G2/Mチェックポイント、複製後状態への起源の切り替え、IFN刺激遺伝子による抗ウイルス機構、姉妹染色分体の分離、及び可溶性外来抗原(エンドソーム)の交差提示の内の少なくとも1つは、インフルエンザウイルスによる感染後の細胞又は細胞株中で上方制御され得る。
【0076】
ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:インターフェロンアルファ/ベータシグナル伝達、インターフェロンシグナル伝達、GPCRリガンド結合、IFN刺激遺伝子による抗ウイルス機構、クラスA/1(ロドプシン様受容体)、ペプチドリガンド結合受容体、インターロイキン-10シグナル伝達、GPCRによるシグナル伝達、ケモカイン受容体がケモカインに結合する、免疫系におけるサイトカインシグナル伝達、インターフェロンガンマシグナル伝達、GPCR下流シグナル伝達、ISG15抗ウイルス機構、Gアルファ(i)シグナル伝達事象、クラスB/2(セクレチンファミリー受容体)、OAS抗ウイルス反応、SLCトランスポーター障害、コレステロール生合成、インターフェロン-アルファ/ベータのDDX58/IFIH1媒介誘導、及びマトリックスメタロプロテイナーゼの活性化の内の少なくとも1つは、VSVウイルスによる感染後の細胞又は細胞株中で上方制御され得る。
【0077】
ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:GPCRリガンド結合、GPCRによるシグナル伝達、クラスA/1(ロドプシン様受容体)、GPCR下流シグナル伝達、Gアルファ(i)シグナル伝達事象、インターフェロンアルファ/ベータシグナル伝達、ペプチドリガンド結合受容体、及びIFN刺激遺伝子による抗ウイルス機構の内の少なくとも1つは、ウイルスによる感染後の感染した細胞中で上方制御され得る。
【0078】
ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:セレノシステイン合成、核小体及び細胞質ゾルにおけるrRNAプロセシングの主要経路、真核生物翻訳終結、EJCに依存しないNMD、ペプチド鎖伸長、rRNAプロセシング、EJCにより増強されたNMD、NMD、真核生物翻訳延長、遊離40Sサブユニットのプールの形成、セルロプラスミン発現のL13a媒介翻訳サイレンシング、GTP加水分解及び60Sリボソームサブユニットの結合、非受容体チロシンキナーゼによるシグナル伝達、PTK6によるシグナル伝達、キャップ依存性翻訳開始、真核生物翻訳開始、NTRK2によるシグナル伝達(TRKB)、ウイルスmRNA翻訳、ERBB2によるシグナル伝達、並びにセレノアミノ酸代謝の内の少なくとも1つは、インフルエンザウイルスによる感染後の細胞又は細胞株中で下方制御され得る。
【0079】
ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:核及び細胞質ゾルにおけるrRNAプロセシング、真核生物翻訳延長、核小体及び細胞質ゾルにおけるrRNAプロセシングの主要経路、rRNAプロセシング、EJCに依存しないNMD、ペプチド鎖伸長、セルロプラスミン発現のL13a媒介翻訳サイレンシング、キャップ依存性翻訳開始、真核生物翻訳開始、真核生物翻訳終結、セレノシステイン合成、GTP加水分解及び60Sリボソームサブユニットの結合、遊離40Sサブユニットのプールの形成、EJCにより増強されたNMD、NMD、ウイルスmRNA翻訳、セレノアミノ酸代謝、キャップ結合複合体及びeIFの結合によるmRNAの活性化、翻訳開始複合体の形成、並びにインフルエンザウイルスRNAの転写及び複製の内の少なくとも1つは、VSVウイルスによる感染後の細胞又は細胞株中で下方制御され得る。
【0080】
ある特定の実施形態では、下記の遺伝子経路:セレノシステイン合成、核小体及び細胞質ゾルにおけるrRNAプロセシングの主要経路、真核生物翻訳終結、EJCに依存しないNMD、ペプチド鎖伸長、rRNAプロセシング、EJCにより増強されたNMD、NMD、真核生物翻訳延長、遊離40Sサブユニットのプールの形成、セルロプラスミン発現のL13a媒介翻訳サイレンシング、GTP加水分解及び60Sリボソームサブユニットの結合、キャップ依存性翻訳開始、真核生物翻訳開始、ウイルスmRNA翻訳、セレノアミノ酸代謝の内の少なくとも1つは、ウイルスによる感染後の感染した細胞中で下方制御され得る。
【0081】
本明細書で開示されているある特定の実施形態では、細胞又は細胞株中で修飾させる遺伝子を同定する方法は、様々な発現及びGSEAにより同定された遺伝子を分析することを含み、さらには、複数のタンパク質-タンパク質相互作用に関与する遺伝子標的を分析することを含まない。しかしながら、ある特定の実施形態では、潜在的な標的遺伝子を、様々な発現及び/又はGSEAの結果を、ネットワークトポロジー分析(例えば、複数のタンパク質-タンパク質相互作用を分析して、細胞中で修飾させる標的遺伝子を同定する)と組み合わせることにより、さらに同定し得、標的遺伝子の修飾により、ウイルス粒子産生が増加する。
【0082】
ネットワークトポロジー分析:ある特定の実施形態では、GSEAにより同定された差次的に発現されている遺伝子及び遺伝セットを、ある特定のタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)ネットワークに関与する標的遺伝子を同定するためのネットワークトポロジー分析の使用を通じて、さらに絞り込み得る。ある特定の実施形態では、標的遺伝子のリストは、例えば、Wang,J.et al.,Proteome Profiling Outperforms Transcriptome Profiling for Coexpression Based Gene Function Prediction,Mol Cell Proteomics 2017,16(1):121-134で説明されているネットワーク検索及び優先順位付け構築方法(Network Retrieval and Prioritization construction method)に基づいて、作成され得、及び/又はフィルタリングされ得る。例えば、ある特定の実施形態では、ランダムウォーク分析を使用して、所与の遺伝子(シードとして知られる)のランダムウォーク確率を算出し得る。次いで、選択されたネットワークでこれらのシード間の関係を同定して、検索サブネットワークに到達し得、ランダムウォーク確率のレベルが高い遺伝子が選択され得る。ネットワークトポロジー分析は、潜在的に生物学的に有意である遺伝子を同定することによりランダムウォークベースのネットワーク伝播を使用し得、PPIネットワーク内の各遺伝子にスコアが割り当てられ得、スコアの統計的有意性を、2つのp値:全体的なp値(この有意性は、PPIネットワーク内の遺伝子と入力シードとの間の非ランダムな関連付けの結果である)及び局所的なp値(この有意性は、遺伝子が、ネットワークトポロジーのみに起因する入力シードとの有意な関連性を獲得しなかったことを示す)を用いて算出し得る。
【0083】
次いで、検索されたサブネットワークの富化分析を、例えば、PPI BIOGRIDデータベース(Stark C.et al.,BioGRID:a general repository for interaction datasets,Nucleic Acids Res.2006,34:D535-539)及びGene Ontology(GO)Biology Process項(Harris,M.A.et al.,The Gene Ontology(GO)database and informatics resource,Nucleic Acids Res.2004,32:D258-D261等の当技術分野で既知の任意の手段を使用して実行し得る。当技術分野で既知であるように、GO項は、全ての生物により共有される下記の3つの別々のドメインにおける遺伝子及び遺伝子産物の説明のための体系的な言語を提供する:分子機能、生物学的プロセス、及び細胞成分。GO項を、例えば、差次的遺伝子発現分析及びGSEAから結果として生じ得るもの等の大規模データセットから機能的有意性及び生物学的有意性を収集するために使用し得る。
【0084】
本明細書で開示されているある特定の実施形態では、例えば差次的遺伝子発現及びGSEAにより同定されたもの等の遺伝子標的をさらに分析して、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークに関与する1つ又は複数の遺伝子標的を同定し得る。例えば、ある特定の実施形態では、単一の遺伝子標的は、少なくとも2つのGO経路を共有し得る。ある特定の実施形態では、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークは、下記:防御反応(GO:0006952)、ウイルスに対する反応(GO:0009615)、ウイルスゲノム複製(GO:0019079)、サイトカインに対する反応(GO:0034097)、I型インターフェロンに対する反応(GO:0034340)、ウイルスゲノム複製の調節(GO:0045069)、ウイルスに対する防御反応(GO:0051607)、細胞死(GO:0008219)、ウイルスライフサイクル(GO:0019058)、ウイルスゲノム複製の負の調節(GO:0045071)、及びサイトカイン刺激に対する細胞反応(GO:0071345)の内の少なくとも2つを含む。ある特定の実施形態では、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークは、下記:防御反応、ウイルスに対する反応、ウイルスゲノム複製、サイトカインに対する反応、1型インターフェロンに対する反応、ウイルスゲノム複製の調節、ウイルスに対する防御反応、ウイルスゲノム複製の負の調節、及びサイトカイン刺激に対する細胞反応の内の少なくとも2つを含む。ある特定の実施形態では、複数のタンパク質-タンパク質ネットワークは、下記:ウイルスに対する反応、ウイルスゲノム複製、1型インターフェロンに対する反応、及びウイルスに対する防御反応の内の少なくとも2つを含む。
【0085】
本明細書で開示されている欠失させる遺伝子を同定する方法のある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、例えばウイルスワクチンの製造のための、ウイルス粒子の増殖に関して既知の任意の宿主細胞又は宿主細胞株であり得る。ある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、霊長類であり、例えば、サル(例えば、Vero細胞株)、又はヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ネコ、ネズミ、ハムスター、又はウサギである。ある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、Vero細胞株である。ある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、Madin-Darby Canine(MDCK)細胞であり、ある特定の実施形態では、細胞又は細胞株は、ヒト胚腎臓(HEK)細胞である。
【0086】
本明細書に開示されている欠失させる遺伝子を同定する方法のある特定の実施形態では、ウイルスは、Vero細胞株が挙げられるがこれに限定されない細胞又は細胞株中で複製することが既知の任意のウイルスであり得る。例えば、ある特定の実施形態では、ウイルスは、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザAウイルス又はインフルエンザBウイルス)、デングウイルス、黄熱ウイルス、RSV、単純ヘルペスウイルス、HIV、肝炎ウイルス、コロナウイルス、又はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)由来のウイルス、例えば、狂犬病ウイルス若しくはVSVから選択される。
【0087】
細胞又は細胞株中で修飾される遺伝子の同定後、本明細書で開示されている方法は、当該技術分野で既知の任意の方法により、前記遺伝子を修飾するか若しくは欠失させること、又は前記遺伝子の発現を減少させることをさらに含み得る。ある特定の実施形態では、同定された遺伝子を、上記で開示されているように、CRISPR-Caseシステムを使用して、細胞又は細胞株から欠失させる。
【0088】
操作された細胞株を使用する方法
本明細書で開示されている操作された細胞株を使用して、例えば、ウイルス粒子産生を増加させ得る。ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、ウイルス粒子産生を増加させる方法である。本明細書で開示されている方法では、操作された細胞株を、ウイルスに感染させ、この操作された細胞株によるウイルスの産生に好適な条件下でインキュベートし得、その後、この操作された細胞株により産生されたウイルスを回収し得る。次いで、回収されたウイルス粒子を、例えば、さらなる研究及び/又はワクチン組成物の製造に使用し得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、少なくとも1つの遺伝子の修飾を含み、その結果、この修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する。
【0089】
ある特定の実施形態では、修飾は、下記の遺伝子:APOA1、CCL2、CCL5、CYP19A1、CXCL8、ELF3、FOS、HERC3、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、IRF7、ISG15、KRT15、KRT19、MX1、NGFR、PTGS2、PTPN6、RET、ROS1、SFRP1、SOX2、SPP1、TNF、TNFRSF4、TRAF1、及びVAV3の内の少なくとも1つに存在している。ある特定の実施形態では、この修飾は、下記の遺伝子:CCL2、CCL5、CXCL8、HERC5、IFIT1、IFIT2、IFIT3、及びISG15の内の少なくとも1つに存在している。ある特定の実施形態では、この修飾は、ISG15遺伝子に存在している。この修飾は、少なくとも1つの遺伝子の発現を減少させるための修飾であり得る。例えば、ある特定の実施形態では、この修飾により、CRISPR-Casシステムによる欠失等の少なくとも1つの遺伝子の欠失が生じる。
【0090】
ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して少なくとも約20%増加させ得、例えば、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、又は少なくとも約300%増加させ得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して約20%~約300%増加させ得るか、約50%~約300%増加させ得るか、又は約100%~約300%増加させ得る。ある特定の実施形態では、操作された細胞株は、ウイルス粒子産生を、対照細胞株と比較して最大1.5log増加させ得る(例えば、0.5~1.5log、又は1.0~1.5log、又は約1.5logの増加)。ウイルス粒子産生を、ウイルスゲノムを計数するための当技術分野で既知の任意の手段により測定し得る。例えば、ある特定の実施形態では、ウイルス粒子産生を、50%組織培養感染用量(TCID50)アッセイ、赤血球凝集アッセイ、又はPCR(例えば、ddPCR若しくはqRT-PCR)により測定する。
【0091】
感染性ウイルス粒子の数をまた、当技術分野で既知の任意の手段により定量し得る。ある特定の実施形態では、感染性ウイルス粒子の数を、TCID50アッセイ及び/又はプラークアッセイを使用して定量する。TCID50アッセイ及びプラークアッセイは両方とも、例えば96ウェルプレートフォーマットで、ウイルスサンプルの連続希釈を細胞に添加することにより機能する。細胞の種類は、細胞変性効果(CPE)(即ち、ウイルスの感染又は細胞死による形態変化)を示すように特異的に選択される。インキュベーション期間後、細胞を、CPE又は細胞死に関して検査し、各ウェルを、感染したもの又は感染していないものに分類する。比色分析又は蛍光分析の読み取りも可能であり、これによりアッセイ感度が増加し得る。ウェルの50%がCPEを示す希釈を使用して、ウイルスサンプルのTCID50を算出する。この算出は、一般に、様々な数学的アプローチにより行ない得、例えば、Spearman-Karber法又はReed-Muench法により行ない得る。ウイルス力価は、TCID50/mLで表される。プラークアッセイ定量の場合には、様々な希釈でウイルスにより形成されるプラークの数を、1つのウェル当たり定量し得、即ち、プラーク形成単位(PFU)の数を、1つのウェル当たり定量し得る。対数力価は、PFU/mLの対数で表される。TCID50アッセイとプラークアッセイとの比較が、例えば、Smither,S.J.et al.,Comparison of the plaque assay and 50% tissue culture infectious dose assay as methods for measuring filovirus infectivity,J.Virological Methods 2013,193(2):565-71で論じられている。
【0092】
ヘマグルチニンアッセイは、赤血球(RBC)表面上のシアル酸受容体が、インフルエンザウイルス等のウイルスの表面上で見出されるヘマグルチニン糖タンパク質に結合し、ウイルス粒子に濃度依存的に生じる、相互接続されたRBC及びウイルス粒子のネットワーク又は格子構造を作り出す(赤血球凝集反応と称される)、赤血球凝集反応のプロセスを適用する。ヘマグルチニンアッセイの1つの目標は、このアッセイにおいて赤血球凝集を誘発する能力と比較してウイルス粒子の濃度を特徴付けることであり得る。
【0093】
また、PCR技術を使用して、ウイルスゲノム(即ち、DNA又はRNA)を増幅させて定量し得る。ある特定の実施形態では、PCRによる定量は、参照及び較正のための既知濃度のサンプルと並行して、濃度不明のサンプルの複数回の連続希釈を含む。定量を、例えば、多種多様な既知の蛍光検出戦略を使用して達成し得る。PCRの1つの方法として、水-油エマルション液滴技術に依存するデジタルPCRの一形態であるddPCRが挙げられる。ある特定の実施形態では、サンプルを数千個の液滴に分画し得、その結果、標的核酸のPCR増幅が、各個々の液滴内で起こる。次いで、ウイルス粒子を、例えばVg/mLという単位で定量し得る。
【0094】
当技術分野で既知であるように、PCRは、全ての標的核酸物質(例えば、無傷の感染性ウイルス粒子及び欠陥のあるウイルス粒子の両方に由来する核酸、並びに遊離核酸)を増幅させる。したがって、ウイルスゲノム(Vg)/mLという単位で表され得るPCR結果は、多くの場合、ウイルス力価(例えば、TCID50/mL)の結果と比べて数量が高い。したがって、例えばPCRによるウイルス粒子産生の測定に加えて、例えばTCID50による感染性ウイルス粒子産生も測定し、次いでこれら2つの値間の比率を比較し得る。本明細書で開示されている操作された細胞株及び方法のある特定の実施形態では、総ウイルス粒子産生に対する感染性ウイルス粒子産生の比率は、少なくとも約3%であり、例えば、少なくとも約5%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%であり、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、又は少なくとも約70%である。
【0095】
ワクチン組成物:
同様に本明細書で開示されているのは、操作された細胞株を使用して、ワクチン組成物で使用されるウイルス粒子を製造する方法である。例えば、ある特定の実施形態では、操作された細胞株により産生されたウイルスを回収した後、生ウイルス、生弱毒ウイルス、又は不活化ウイルスであり得るウイルスを、ワクチン組成物に添加し得る。例えば、ある特定の既知の認可されたインフルエンザワクチン組成物は、全ビリオン、若しくは脂質を溶解する薬剤で処理されたビリオンを含む不活性化ワクチン(「スプリット」ワクチン)、細胞培養において発現された糖タンパク質の精製物(「サブユニットワクチン」)、又は生弱毒化ウイルスワクチンである。
【0096】
ある特定の実施形態では、本明細書で開示されているのは、操作された細胞株から回収されたウイルス粒子を含むワクチン組成物であって、この操作された細胞株は、1つ又は複数の遺伝子(例えば、ISG15)中の修飾を含み、この1つ又は複数の遺伝子中の修飾により、この1つ又は複数の遺伝子中の修飾を除いて操作された細胞株と同一の対照細胞株と比較して、総ウイルス粒子産生及び/又は感染性ウイルス粒子産生が増加する、ワクチン組成物である。
【0097】
このワクチン組成物はまた、アジュバントもさらに含み得る。本明細書で使用される場合、「アジュバント」という用語は、抗原に対する免疫反応を非特異的に増強する物質又はビヒクルを指す。アジュバントとして、抗原が吸着される無機物(ミョウバン、アルミニウム塩(例えば、水酸化アルミニウム/オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)、リン酸アルミニウム(AlPO4)、アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩(AAHS)、及び/又は硫酸アルミニウムカリウム))の懸濁液;又は抗原溶液が鉱油中に乳化されている油中水型エマルション(例えば、フロインド不完全アジュバント)(抗原性をさらに増強するために、死滅マイコバクテリアが含まれることもある(フロインド完全アジュバント))が挙げられ得る。免疫刺激性オリゴヌクレオチド(例えば、CpGモチーフを含むもの)も、アジュバントとして使用され得る(例えば、米国特許第6,194,388号明細書;同第6,207,646号明細書;同第6,214,806号明細書;同第6,218,371号明細書;同第6,239,116号明細書;同第6,339,068号明細書;同第6,406,705号明細書;及び同第6,429,199号明細書を参照されたい)。アジュバントとしてまた、脂質及び共刺激分子等の生体分子も挙げられる。例示的な生物学的アジュバンとして、AS04(Didierlaurent,A.M.et al,AS04,an Aluminum Salt- and TLR4 Agonist-Based Adjuvant System,Induces a Transient Localized Innate Immune Response Leading to Enhanced Adaptive Immunity,J.Immunol.2009,183:6186-6197)、IL-2、RANTES、GM-CSF、TNF-α、IFN-γ、G-CSF、LFA-3、CD72、B7-1、B7-2、OX-40L、及び41 BBLが挙げられる。
【0098】
ウイルス粒子、及び任意選択的なアジュバントに加えて、ワクチン組成物はまた、1種又は複数種の薬学的に許容される賦形剤もさらに含み得る。一般に、賦形剤の性質は、使用される特定の投与方式に依存する。例えば、非経口製剤は、通常、ビヒクルとして、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等の薬学的に及び生理学的に許容される流体を含む注入可能な流体を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸剤、錠剤、又はカプセル形態)の場合には、従来の非毒性固体担体として、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、又はステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与しようとするワクチン組成物は、少量の非毒性補助物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、浸透圧を調整するための薬学的に許容される塩、保存剤、安定化剤、緩衝剤、糖、アミノ酸、及びpH緩衝剤等(例えば、酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウレート)を含み得る。
【0099】
典型的には、ワクチン組成物は、静脈内、皮下、腹腔内、皮内、又は筋肉内等の非経口投与用に製剤化された無菌の液体溶液である。ワクチン組成物はまた、鼻腔内投与又は吸入投与用にも製剤化され得る。ワクチン組成物はまた、あらゆる他の意図された投与経路用にも製剤化され得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、ワクチン組成物は、皮内注射、鼻腔内投与、又は筋肉内注射用に製剤化されている。いくつかの実施形態では、注射剤は、液体溶液若しくは懸濁液として、注射前に液体の溶液若しくは懸濁液とするのに適した固体形態として、又はエマルションとしてのいずれかで、従来の形態で調製される。いくつかの実施形態では、注射溶液及び懸濁液は、滅菌粉末又は顆粒から調製される。これらの経路による投与のための医薬品の製剤化及び製造における一般的な考慮事項は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,19thed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA,1995(参照により本明細書に組み込まれる)で見出され得る。現在、経口又は経鼻スプレー又はエアロゾル経路(例えば、吸入による)は、治療薬を肺及び呼吸器系に直接送達するために最も一般的に使用される。いくつかの実施形態では、ワクチン組成物を、このワクチン組成物の定量を送達する装置を使用して投与する。本明細書で説明されている皮内用医薬組成物の送達に使用するのに好適な装置として、短針装置が挙げられ、例えば、米国特許第4,886,499号明細書、同第5,190,521号明細書、同第5,328,483号明細書、同第5,527,288号明細書、同第4,270,537号明細書、同第5,015,235号明細書、同第5,141,496号明細書、同第5,417,662号明細書(これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)で説明されているものが挙げられる。皮内用組成物をまた、皮膚への針の有効な貫入長を制限する装置によっても投与し得、例えば、国際公開第1999/34850号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)で説明されているもの、及びその機能的等価物によっても投与され得る。同様に好適なのは、液体ジェット式注射器を介して、又は角質層を穿孔し、真皮に到達するジェットを生成する針を介して、液体ワクチンを真皮に送達するジェット式注射装置である。ジェット式注射装置は、例えば、米国特許第5,480,381号明細書、同第5,599,302号明細書、同第5,334,144号明細書、同第5,993,412号明細書、同第5,649,912号明細書、同第5,569,189号明細書、同第5,704,911号明細書、同第5,383,851号明細書、同第5,893,397号明細書、同第5,466,220号明細書、同第5,339,163号明細書、同第5,312,335号明細書、同第5,503,627号明細書、同第5,064,413号明細書、同第5,520,639号明細書、同第4,596,556号明細書、同第4,790,824号明細書、同第4,941,880号明細書、同第4,940,460号明細書、国際公開第1997/37705号パンフレット、及び同第1997/13537号パンフレット(これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる)で説明されている。同様に好適なのは、皮膚の外層を通って真皮まで粉末形態のワクチンを加速するための圧縮ガスを使用する弾道粉末/粒子送達装置である。加えて、皮内投与の古典的なマントー法において、従来のシリンジが使用され得る。
【0101】
非経口投与用の製剤として、典型的には、滅菌した水性又は非水性の溶液、懸濁液、及びエマルションが挙げられる。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルがある。水性担体として、水、アルコール性/水性の溶液、エマルション、又は懸濁液(例えば、生理食塩水、及び緩衝媒体)が挙げられる。非経口用ビヒクルとして、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、又は不揮発性油が挙げられる。静脈内用ビヒクルとして、流体及び栄養補充物、電解質補充物(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)等が挙げられる。保存剤及び他の添加剤(例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガス等)も存在し得る。
【0102】
本開示は、下記の実施例を参照することにより、より深く理解されるであろう。
【実施例】
【0103】
下記の実施例は、例示的なものと見なされるべきであり、上記の本開示の範囲を限定するものではない。
【0104】
細胞株及び培養培地:下記の実施例で開示されるVero WHO細胞株は、138回目の継代であった。この細胞株は、ワクチン製造に承認されたVero WHOマスター細胞バンクの分析及び確立のために124回目の継代でWHOに送られたVero ATCC CCL-81のバイアルに由来していた。この細胞を、加湿インキュベータ(Infors HT、Switzerland)中において、37℃及び5%CO2での静置培養で増殖させた。解離試薬としてTrypLE(登録商標)Express(Thermo Fisher Scientific)を使用して、細胞を週2回継代させた。4mM GlutaMAX(登録商標)(Thermo Fisher Scientific)が補充されたOptiPRO(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific)で増殖させた血清フリー適応亜細胞株(serum-free adapted sub-cell line)を、4mM GlutaMAX(登録商標)及び10% DMSO(Sigma、USA)が補充されたOptiPRO(登録商標)培地中において、151の継代数で凍結保存した。
【0105】
ISG15-/-Vero細胞株を受け取り、凍結保存する前に、5回の継代にわたり解凍した。次いで、この細胞を再び解凍し、さらに4回の継代(「p5+4」)にわたり継代を継続するか、又は17回の継代にわたり、最初の解凍から連続的に継代させた(「p17」)。この細胞株は、ワクチン製造に承認されたVero WHOマスター細胞バンクの分析及び確立のために124回目の継代でWHOに送られたVero ATCC CCL-81のバイアルに由来していた。ISG15-/-Vero細胞、及び対照細胞株を、医薬グレードの試薬及び装置を使用して、タンパク質、ペプチド、又は動物若しくはヒト由来の他の成分を含まない血清フリーの超低タンパク質培地(Thermo Fisher ScientificのVP-SFM AGT(商標))で培養した。
【0106】
実施例1-細胞の動態分析及び感染
最初に、Vero細胞を、10の感染多重度(MOI)でインフルエンザウイルスA(IVA)Puerto Rico 8株又はrVSV-GFPに感染させる、品質管理動態実験を実行して、ウイルス産生速度及び細胞生存率を経時的に定量した。この結果から、RNA配列決定のためのサンプルを回収するのに最適な時間(例えば、細胞死の誘導前の最高生存率)を推定した。
【0107】
上清を、いくつかの時点で回収し、細胞生存率をモニタリングした。各時点におけるウイルス産生を定量するために、TCID50及び赤血球凝集アッセイを使用して、ウイルス粒子、並びに感染性ウイルス粒子(IVA用)及び感染性ウイルス粒子(rVSV-GFP用)を定量した。
【0108】
感染性ウイルス粒子の産生レベル及び細胞の生存率に基づいて、IVA及びrVSVに関して、RNA配列決定の最適な回収時点を選択した。そのため、IVAに関しては、選択された時点は、感染の比較的初期段階(感染後4時間(hpi))及び感染性ウイルス粒子産生のピーク(24hpi)であると決定した。rVSV-GFPに関しては、感染の初期段階(8hpi)での細胞変性効果の出現を考慮すると、選択された時点は、サンプル品質問題に起因して細胞死等の経路が誤って富化されていないことを確実にするために、2hpi及び6hpiであった。
【0109】
動態分析の結果に基づいて、さらなるトランスクリプトーム分析のために、153回目の継代のVero WHO細胞に、10のMOIで、IVA Puerto Rico 8又はrVSV-GFPのいずれかを感染させた。IVA感染細胞を、4hpi及び24hpiで回収し、rVSV-GFP感染細胞を、2hpi及び6hpiで回収した。これらのサンプルを、TrypLE(登録商標)Expressを使用して回収し、5分にわたり300×gで遠心分離した。約600万個の細胞の細胞ペレットを溶解させ、ドライアイス/エタノールの混合物中で急速に凍結し、さらに分析するまで-80℃で保存した。非感染細胞からのサンプルも調製し、対照バッチとして配列決定に送った。全てのサンプルを、3重に生成した。
【0110】
実施例2-機能ゲノム分析及び標的遺伝子の選択
差次的に発現されている遺伝子の同定:全RNA配列決定(TrueSeq)を、Illumina NovaSeq6000 Sprime v1.5、PE100を使用して実施した。標準的な品質管理に続いて、読み取りを、最初に、Dobin,A.et al.,STAR:ultrafast universal RNA-seq aligner,Bioinformatics 2013,29(1):15-21で説明されているSTARアラインメントを使用して、Sene,M.-A.etal.,Haplotype-resolved de novo assembly of the Vero cell line genome,NPJ Vaccine 2021,6(1):106で公開されているVero細胞ゲノムにアラインさせた。結果として得られたBAMファイルを、読み取りカウントの前に、SAMtools(Li, H. et al.,The Sequence Alignment/Map format and SAMtools,Bioinformatics 2009, 25(16):2078-2079)を使用して、名称で分類した。転写物を、featureCounts(Liao,Y.et al.,featureCounts:an efficient general purpose program for assigning sequence reads to genomic features,Bioinformatics 2014,30(7)923-930)を使用して定量した。生の読み取りカウントの差次的発現分析を、DESeq2を使用して実行し、品質管理グラフを、Love,M.I.et al.,Moderated estimation of fold change and dispersion for RNA-seq data with DESeq2,Genome Biology 2014,15:550で説明されているDESeq2及びRパッケージを使用して作成した。結果として得られた差次的に発現されている(DE)遺伝子リストを、0.0001のp値カットオフでフィルタリングした。
【0111】
遺伝子セット富化分析:次いで、DE遺伝子を、そのlog2倍変化に基づいてランク付けした。WebGestalt(WEB-based GEne SeT AnaLysis Toolkit)を、Reactome遺伝子セットコレクション(Croft、2014)による遺伝子セット富化分析に使用した。付着細胞株と懸濁細胞株との間での遺伝子の差次的発現経路を見出すために、遺伝子セットをフィルタリングし、調整されたp値が0.05未満である上位20個の遺伝子セットを、有意に変化したと見なした。結果を、24hpi IVAに関しては下記の表2及び
図1に示し、rVSV-GFPに関しては表3及び
図2に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
図1に示すように、24hpiでのIVA感染に関して、遺伝子セットとしてReactomeを使用する遺伝子セット富化分析(GSEA)は、セルロプラスミン発現のL13a媒介翻訳サイレンシング等の主要なRNAプロセシング遺伝子セットの下方制御を示しており、このことは、キャップスナッチングを介したウイルス回避戦略、及び宿主細胞がこの回避に対処しようとする試みと相関する。セレノアミノ酸代謝及びセレノシステイン合成等のセレン関連経路もまた、下方制御された。
図1を参照されたい。実際に、Guillin,O.M.et al.,Selenium,Selenoproteins and Viral Infection,Nutrients 2019,11(9):2101は、セレン及びセレノタンパク質欠乏がウイルス感染に対する宿主感受性の増加をもたらすことを以前に示した。一方、インターフェロンシグナル伝達等の主要な免疫反応関連経路が、有意に上方制御された。IFN刺激遺伝子の上方制御も観察された。
【0115】
IVAと同様に、6hpiでのVero細胞とのrVSV-GFP相互作用は、下記のRNAプロセシングの重要な品質管理機構の内の1つの下方制御を示した:真核生物翻訳延長の下方制御と同時にウイルス複製を促進するナンセンス媒介減衰(NMD)。
図2を参照されたい。さらに、インターフェロンに関連して以前に同定された抗ウイルス経路もまた、rVSV-GFP感染の場合に上方制御され、特に、ISG15等のIFN刺激遺伝子による抗ウイルス機構が上方制御された。
【0116】
ネットワークトポロジー分析:遺伝子セット及び経路を超え、タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)ネットワークに関与する抗ウイルス遺伝子を同定するために、IVA 4hpiに関する130種の遺伝子、IVA 24hpiに関する264種の遺伝子、及びrVSV-GFP 6hpiに関する235種の遺伝子を含む、以前に同定された有意に上方制御された遺伝子に関して、ネットワークトポロジー分析を行なった。
【0117】
ランダムウォーク分析を最初に使用して入力遺伝子ID(シード)のランダムウォーク確率を算出し、次いで、選択されたネットワーク内のシード間の関係を同定して検索サブネットワークを返すことにより、DESeq2により作成された遺伝子リストの上方制御部分をフィルタリングして、ネットワーク検索及び優先順位付け構築方法に基づくネットワークトポロジー分析(NTA)に関して|log2倍変化|>2の遺伝子を考慮し、ランダムウォーク確率が上位の上位20個の遺伝子を強調した。実際に、機構的に重要な遺伝子とネットワーク上の他の遺伝子のランダム分布との間の密接な関連を仮定すると、NTAは、潜在的に生物学的に重要である遺伝子を同定することにより、ランダムウォークベースのネットワーク伝播を使用する。入力遺伝子ID(既にフィルタリングされた上方制御された遺伝子)をシードとして使用し、入力シードに対するそれらの全体的な近接性(ランダムウォーク類似性によって定量される)に基づいて、PPIネットワーク内の各遺伝子にスコアを帰属させた。次いで、これらのスコアの統計的有意性を、下記の2つのp値:全体的なp値(この有意性は、PPIネットワーク内の遺伝子と入力シードとの間の非ランダムな関連付けの結果である)及び局所的なp値(この有意性は、遺伝子が、ネットワークトポロジーのみに起因する入力シードとの有意な関連性を獲得しなかったことを保証する)により算出した。
【0118】
最後に、タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)BIOGRIDデータベース及びGene Ontology(GO)Biology Process項(Stark C.et al.,BioGRID:a general repository for interaction datasets,Nucleic Acids Res.2006,34:D535-539;Harris,M.A.et al.,The Gene Ontology(GO)database and informatics resource,Nucleic Acids Res.2004,32:D258-D261)を使用して、検索されたサブネットワークの富化分析を行なった。GO項を、その調整されたp値に基づいて最初にランク付けし、調整されたp値カットオフが0.01である上位の10個の非常に有意な項を考慮した。同定された経路、及び上位ランクの遺伝子を、下記の表4に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
3つの全ての場合(IVA 4hpi、IVA 24hpi、及びrVSAV 6hpi)において、同定された経路(例えば、数ある中でも、防御反応、ウイルスライフサイクル、サイトカインに対する反応、インターフェロン、ウイルスゲノム調節の負の調節)の内のいずれかで、ISG15は中心的な役割を果たしており、そのため、CRISPR/Cas9を介したノックアウトの魅力的な候補として浮上している。
【0122】
実施例3-種間でのISG15タンパク質配列の比較
ISG15の遺伝子編集がウイルス感染に関して表現型修飾をもたらすであろうことを検証するために、ISG15タンパク質配列を、ヒト、マウス、Vero、及びイヌ等の対象の種(即ち、ワクチン製造で使用される細胞株が由来する種)全体にわたり比較した。ISG15タンパク質配列を、Vero細胞(XP_007979280.1)、ヒト(NP_005092.1)、マウス(NP_056598.2)、及びイヌ(XP_003639101.1)に関してRefSeqから読み取り、本明細書では、配列番号14(Vero);配列番号15(ヒト);配列番号16(マウス);及び配列番号17(イヌ)として説明されている。これらの配列を、T-Coffeeを使用してアラインさせ、配列アラインメントグラフィックデザインのために、ESPriptサーバーにエクスポートした。
図3を参照されたい。ウイルスと相互作用することが既知の領域も強調された。
【0123】
図3に示すように、ヒトISG15とマウスISG15との間の変異は、ヒトISG15とVero ISG15との間の変異と類似しており、特に89位で類似しており、これは以前に、ヒトISG15と比較して旧世界ザルISG15(Vero細胞を含む)が効率的にタンパク質をISG化する能力において重要な役割を果たすと強調されており、そのため、Vero細胞中でのISG15欠失の所望の効果に関するいくつかの示唆が与えられている。Pattyn E.et al.,HyperISGylation of Old World monkey ISG15 in human cells,PLoS One 2008,3(6):e2427。
図3では、インフルエンザNS1タンパク質、コロナウイルスPLP、及びナイロウイルスOTUと相互作用することが既知であるISG15の残基も、配列アラインメントの下に示されている。Dzimianski,J.et al.,ISG15:it’s Complicated,J.Mol Biol.2019,431(21):4203-4216。
【0124】
実施例4-CRISPR/Cas9を使用するISG15のゲノム欠失、及びゲノム/プロテオミクスレベルでの欠失検証
ゲノム欠失プロトコルに使用される戦略は、非相同末端接合(NHEJ)修復により介在性DNAセグメントを欠失させるために遺伝子座に2つの二本鎖切断(DSB)を作成するための一対のキメラシングルガイドRNA(sgRNA)の細胞送達に依存していた。この方法を使用して、1~10kbの長さの遺伝子を欠失させ(Bauer,D.E.et al.,Generation of genomic deletions in mammalian cell lines via CRISPR/Cas9,J Vis Exp.2015,95:e52118)、本明細書では、ISG15遺伝子のCDS領域の欠失に適用した。ある特定の場合には、ゲノム欠失は、相同組換え修復(HDR)又は単一部位の小規模インデル産生に有利であり得る。欠失の頻度が高いことから、目的のクローンを見出すためにスクリーニングする必要があるクローンの数が制限され、単アレル欠失及び両アレル欠失をPCRにより容易に特定し得、そのため、より労力を要する方法が回避される。加えて、目的の遺伝子の相当な部分が欠失していると仮定すると、信頼できる機能喪失アレルを得ることができる。
【0125】
一対のガイドRNAを、無料で利用可能なオンラインツールCRISPOR及びEuPaGDTを使用して設計しており、これらのツールは、カスタムゲノムのリストにVero細胞ゲノムが既に含まれていた。これらのツールは、同一のゲノムマッチ又は類似マッチを最小限に抑えるガイド配列を同定し、標的部位からの開裂のリスクを低減するのに役立った(オフターゲット効果)。ガイド配列は、ゲノム認識部位での「NGG」配列(「プロトスペーサー隣接モチーフ」又はPAM)の上流に20mer(「プロトスペーサー配列」)を含んでいた。GenScriptから購入したプラスミド構造体pX458(AddgeneプラスミドID48138)は、選択可能マーカーとしてのGFPと、2つの設計されたgRNAガイドA又はガイドBの内の1つとを含んでおり、ガイドAは、ACCAGCATTCGAGCAAGATCAAGG(配列番号33)であり、ガイドBは、GGAAACCGAAACTTGGCCACCGG(配列番号34)であった。
【0126】
CRISPR/Cas9プラスミドの送達を、エレクトロポレーションにより行なった。トランスフェクション用に、増殖培地90uL中に2.6×106個の細胞をそれぞれ含む4つのバイアルを調製した。この細胞を、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、再懸濁させ、4mmギャップのキュベットに移した。増殖培地 10mLが入った4本のチューブを調製し、10分にわたりインキュベータに入れた。ガイドA及びガイドBを含む各CRISPR/Cas9コンストラクト 5μgを、Vero細胞懸濁液と混合し、サンプルを、20ミリ秒にわたり、250ボルトの方形波でのエレクトロポレータを使用して、直ちにパルス化した。次いで、細胞を、予め調製して予め温めた完全成長培地 10mLで希釈し、T75cm2フラスコに蒔いた後、48時間にわたり、37℃、5%CO2でインキュベートした。全ての試験に関して、トランスフェクトされていない細胞を、陰性対照として含めた。
【0127】
ISG15 CDS領域のCRISPR/Cas9ベースのゲノム欠失後、GFPレポーター及び細胞選別を使用するプラスミド送達、PCRを使用する意図された欠失、ウエスタンブロットを使用するタンパク質欠失、並びにウイルス感染及びウイルス産生定量による欠失表現型効果を確認するために、いくつかの検証工程を設計した。
【0128】
GFP陽性細胞の上位約3%を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して選別し、高レベルのCRISPR/Cas9コンストラクトを投与した細胞を富化した。選別された細胞を、FACSソーターを使用して、1つのウェル当たり細胞培養培地 100μlが入った96ウェルプレートに個別に蒔いた。クローンを、3週間にわたり37℃でインキュベートした。結果として得られたモノクローナルコロニーを継代させ、分割して検証工程を進めた。
【0129】
PCRを使用して、ISG15 CDS領域の意図されたゲノム欠失を検証した。ゲノム欠失を確認するために、
図4に示すように、2対のPCRプライマーを設計した。欠失領域の内側に隣接する第1のプライマーsgRNA A(非欠失バンド)、及び欠失領域の外側に隣接する第2のプライマーsgRNA B(欠失バンド)(これらにより、欠失バンド及び非欠失バンドのスクリーニングが可能となる)。sgRNA Aは、フォワードプライマーGTCCCAGCTCTGCAGACATTA(配列番号35)、及びリバースプライマーGAGCTCGGCCAGGTTCTAAG(配列番号36)を有していた。sgRNA Bは、フォワードプライマーCCTCGAGGCTGTAACTGCAA(配列番号37)、及びリバースプライマーACCATAGGGGTGTTTTCCGT(配列番号38)を有していた。
【0130】
欠失がない場合には、欠失バンドは、効率的に増幅するには大きすぎることが多い。予測された開裂部位からの少なくとも100bpのプライマーを使用して、検出がsgRNA標的部位での小さなインデルの影響を受けないようにした。Invitrogen PureLink Genomic DNA Mini Kitを使用して、各クローンからゲノムDNAを抽出し、DNA濃度を測定した。各クローンを、下記のPCRプロトコルを使用して、非欠失バンド検出及び欠失バンド検出の両方に関してスクリーニングした:各検出に関して、マスターミックス12.5μL、フォワードプライマー(10μM)0.5μL、リバースプライマー(10μM)0.5μL、gDNA 100ng、及びH2O 最高25μLを含むPCR反応 25μLを、サーモサイクラ(30秒にわたり98℃、(10秒にわたり98℃、30秒にわたり60℃、1分にわたり72℃)の35サイクル、及び2分にわたり72℃)で実行した。次いで、1×トリス-酢酸-EDTA(TAE)緩衝液を使用して、10V/cmにて、PCR産物を、2%アガロースゲル上で泳動させた。サンプルを、Chemidoc(Biorad)を使用して、非欠失バンド及び欠失バンドの検出に関して調べ、両アレル欠失を有するクローンを継代させ、細胞バンキング及びさらなる検証分析のために分割した。この検証を、品質管理のために1週間後に繰り返した。
【0131】
図5に示すように、両アレルクローンは、非欠失バンドの非存在、及びISG15 CDS領域の欠失バンドの存在により実証される。スクリーニングされた100個のクローンの中で、6個を、両アレル欠失及び良好な適合性(クローン倍加時間のモニタリングによる)で特定した。
【0132】
タンパク質レベルでは、ウエスタンブロット分析を実施して、ISG15欠失をさらに確認した。このプロトコルでは、各細胞溶解物サンプル20μLを、SDSローディング緩衝液と混合し、SDS-PAGEゲル(BioRad Criterion TGX Precastゲル)で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。関連する抗体(抗ISG15、Invitrogen)を使用して、免疫ブロッティングを実施した。西洋ワサビペルオキシダーゼ共役二次抗体を、BioRad Clarity Western ECL基質で検出した。結果として得られたシグナルを、Chemidoc(BioRad)で撮像し、ImageJで分析した。ウエスタンブロット分析により、先に選択されたクローンのいずれも、親細胞又は野生型Vero細胞で見られる15~17kDaでのバンドを有していないことが分かった。ISG-/-細胞ではISG15バンドが存在していないが親Vero細胞では約17kDaでのバンドが存在していることを示す
図6を参照されたい。
【0133】
実施例5-ISG-/-Vero細胞ウイルス産生定量
親細胞及びISG-/-Vero細胞中でのIVA及びrVSV-GFPのウイルス産生を定量するために、細胞を3重で培養し、IVA Puerto Rico 8又はrVSV-GFPのいずれかをMOI 10で感染させた。各サンプルの上清を、感染後の24時間で回収し、ウイルス産生を、ddPCR(ウイルスゲノム)及びTCID50(感染性ウイルス粒子)により定量した。操作されたクローンの感染は、総ウイルス粒子産生及び感染性ウイルス粒子の両方における有意な増加を示した。実際に、IVA感染では、総ウイルス粒子の70.3倍の増加が観察され、rVSV-GFPでは、87倍の増加が示された。興味深いことに、感染性ウイルス粒子/総ウイルス粒子の比も有意に増加し、IVAでは、0.0316から0.653へと増加し、rVSV-GFPでは、0.0542から0.679へと増加した。結果を、下記の表5に示し、且つ
図7に図示しており、STDは、母集団全体にわたる標準偏差として算出される。
【0134】
【0135】
これらの結果から、Vero細胞からのISG15のCDS領域の欠失により、IVA及びrVSVのウイルス粒子産生及び感染性ウイルス粒子産生が増加し得ることが実証される。
【0136】
実施例6-ISG15-/-及び対照細胞株の増殖動態
大規模バイオリアクタでのワクチン製造のための製薬工業化プロセスを、細胞培養処理フラスコ、又はポリスチレンCorning(登録商標)CellSTACK(登録商標)チャンバ(Corning)等の細胞工場に、マスター細胞バンクシードの凍結バイアルを解凍することから開始した。
【0137】
最初に、ISG15-/-v及び対照細胞株を、医薬グレードの試薬及び装置を使用して、タンパク質、ペプチド、又は動物若しくはヒト由来の他の成分を含まない血清フリーの超低タンパク質培地(VP-SFM AGT(商標)培地(Thermo Fisher Scientific))で培養する品質管理実験を実行した。細胞を、それぞれ0.44×105個の細胞/cm2又は0.24×105個の細胞/cm2の播種密度で、3~4日毎に増殖させた。これらの細胞を、加湿インキュベータ(Sanyo)中において、37℃及び5%CO2での静置培養で増殖させた。解離試薬としてトリプシン(Roche)を使用して、細胞を週2回継代させ、クエン酸ナトリウム緩衝液中のトリプシン阻害剤(Sigma)によって阻害した。ISG15-/-の継代プロセスには、標準的な工業的手順からの最適化が含まれていた。この最適化には、トリプシン化前の、37℃でのクエン酸ナトリウム緩衝液による洗浄工程の追加、及び加湿インキュベータ中における5%CO2中の37℃でのトリプシン化の実行が含まれていた。しかしながら、トリプシン曝露期間及びトリプシンの濃度は変更されておらず、対照細胞株の細胞培養と一致したままであった。
【0138】
図8に示すように、ISG15-/-細胞の増殖速度は、対照細胞株と比べて有意に低かった。
図8は、ISG15-/細胞株が、対照細胞株の1.147日の倍加時間と比較して、1.390日の倍加時間を有したことを示している(P<0.0001)。ISG15-/-及び対照細胞株の増殖速度(k)は、それぞれ、0.4987日及び0.6045日であった。ISG15-/-及び対照細胞株の非線形回帰に対する適合度は、それぞれ、0.9997及び1.000であった。しかしながら、培養から2週間以内の収率の差違がわずか2倍であったことから、ISG15-/-細胞株及び対照細胞株の両方を、静置培養において十分に増殖させて、バイオリアクタに播種する物質を生成し得ることを確認した。
【0139】
実施例7-バイオリアクタ中における細胞性能の動態分析
ワクチン製造における接着Vero細胞のための製薬工業プロセスは、マイクロ担体の使用を採用して、バイオリアクタ中で接着細胞を増殖させる。品質管理実験を実行して、バイオリアクタ中でマイクロ担体を使用するISG15-/-細胞の増殖を特徴付けた。
【0140】
ISG15-/-細胞株の2つの異なる継代由来の細胞(上記で示すように、p5+4及びp17)を、対照細胞と共に、細胞培養処理フラスコから採取し、1g/Lの最終密度(Cytiva)及び20,000個の細胞/cm2の播種密度にて、Cytodex(登録商標)1マイクロ担体で播種した。細胞を、30%の溶存酸素及び7.2のpHでの37℃にて、バイオリアクタ中で培養した。医薬グレードの試薬及び装置を使用して、VP-SFM AGT(商標)培地(Thermo Fisher Scientific) 0.2L中において、12ウェイ使い捨てバイオリアクタシステム(2-way single-use bioreactor system)(AMBR250、Sartorius Stedim)で、CO2を注入し、及び炭酸水素ナトリウムを添加して、pHを調整した。
【0141】
全細胞を、同じバイオリアクタ内で増殖させた。バイオリアクタへの播種からの72時間後、12.5U/mL トリプシン(Roche)、及び10分にわたりバイオリアクタインペラを使用する機械的撹拌を使用して、細胞をマイクロ担体から解離させた。この解離プロセスを、クエン酸ナトリウム緩衝液中のトリプシン阻害剤(Sigma)を使用して阻害した。細胞溶液を目視検査して、マイクロ担体からの細胞解離を確認した。総Cytodex(登録商標)1マイクロ担体(Cytiva)濃度を、4g/Lまで増加させ、培養をさらに72時間にわたり継続した。
【0142】
培地交換を、各細胞継代の24時間後に実行した。バイオリアクタ中の溶液の表面から全バイオリアクタ体積の80%を除去する前に、マイクロ担体に付着した細胞が重力により沈降するように、媒体交換を、インペラ撹拌を一次的に停止することにより実施した。3つ及び6つの独立したバイオリアクタを、それぞれ、対照細胞株及びISG15-/-細胞株(各継代で3つを示す)毎に試験した。フラスコ中での静的細胞培養と一致して、ISG15-/-細胞を含むバイオリアクタからの総細胞数は、対照細胞を含むバイオリアクタと比べて低かった。
図9A及び
図9Bに示すように、両側ANOVA、Dunnettの多重比較検定から、総細胞数及び細胞生存率が、対照細胞と比較してISG15-/-細胞では有意に低いことが示された。
【0143】
実施例8-バイオリアクタ中におけるウイルス産生の動態分析
上記の実施例7で論じられているように、バイオリアクタ中においてマイクロ担体を使用するISG15-/-細胞の増殖の特徴付け時に、全てのバイオリアクタを、製薬工業化バイオプロセスを代表する0.01の感染多重度(MOI)でRSVに感染させた。
【0144】
バイオリアクタ中の溶液の表面から全バイオリアクタ体積の80%を除去する前に、マイクロ担体に付着した細胞が重力により沈降するように、RSV感染を、インペラ撹拌を一次的に停止することにより実施した。0.1%(体積/体積)のSyntheChol(登録商標)(Sigma Aldrich)が補充された新鮮な培地を、0.2Lの最終体積まで添加した。次いで、このウイルスストックを、0.01のMOIで添加し、各独立型バイオリアクタの全生細胞の数に調整し、次いでインペラ撹拌を再開した。感染期間中、バイオリアクタ温度を34℃まで低下させ、pHを7.3まで増加させた。培養物を、感染後4日にわたり維持し、総細胞数及び生細胞数を含む毎日のサンプル分析を行った。感染力価を、感染後72時間でのプラークアッセイにより試験した。
図9A及び
図9Bに示すように、対照細胞は、ウイルス産生後の粗回収の標準的な時点である感染後72時間でのISG15-/-細胞と比べて生存率が有意に低かった。
【0145】
1×HSGで凍結保存され、試験まで-80℃で保存されたサンプルから並行してプラークアッセイを使用して、サンプルを、対数感染性ウイルス力価に関して試験した。結果を、対応のない両側T検定に基づいて
図10Aに示す。
図10Aに示すように、対数力価(PFU/mL)は、72時間後の対照株細胞と比較して、ISG15-/-細胞を使用するバイオリアクタから有意に高かった。感染後72時間では、ウイルス粒子産生の増加は、ワクチン製造用の粗回物質料中の培養物1リットル当たり感染力価の0.6967log差違(P=0.0248)であった。これらの結果から、Vero細胞からのISG15のCDS領域の欠失により、マイクロ担体を使用するバイオリアクタ中における製薬工業化プロセスを使用するRSVのウイルス粒子産生及び感染性ウイルス粒子産生が増加し得ることが実証される。ウイルス粒子産生の増加は、ワクチン製造用の粗回収物質中の100万個の細胞当たり感染力価の約300%の差違であった。
【0146】
感染及びウイルス産生中の総細胞密度の有意差に起因して、
図10Bに示されるように、対応のない両側T検定を使用して、100万個の細胞当たりの総ウイルス産生を決定した。ウイルス産生中に、ISG15-/-を含むバイオリアクタ中における総細胞が、対照細胞株を含むバイオリアクタと比較して平均32%少ないことを考慮して、このウイルス産生性は、ワクチン製造用の粗回収物質中の100万個の細胞当たりの感染力価の約1.5log差違であったウイルス粒子産生の増加に言い換えられる。
図10Bを参照されたい。ウイルス粒子産生の増加は、ワクチン製造用の粗回収物質中の100万個の細胞当たり感染力価の約1000%差違であった。
【0147】
また、本開示及び添付の特許請求の範囲で使用される場合に、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明らかに別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。任意選択的な(Optional)又は任意選択的に(optionally)は、後に説明される事象又は状況が起こることも起こらないこともあることを意味しており、説明は、事象又は状況が起こる場合も起こらない場合も含むことを意味する。例えば、組成物は任意選択的に組み合わせを含み得る、というフレーズは、説明が組み合わせ及び組み合わせの非存在(即ち、組み合わせの個々のメンバー)の両方を含むように、組成物が異なる分子の組み合わせを含むことも、組み合わせを含まないこともあることを意味する。範囲は、本明細書においては、約1つの特定の値から、且つ/又は約別の特定の値までとして表され得る。このような範囲が表される場合、別の態様は、1つの特定の値から、且つ/又は他の特定の値までを含む。同様に、先行詞を使用することによって、値が近似値として表される場合、特定の値が別の態様を形成することは理解されよう。範囲のそれぞれの端点が、他方の端点と関連して及び他方の端点とは独立しての両方の意味を有していることもさらに理解されよう。本開示において引用される全ての参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0148】
配列
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)APOA1:
【化1】
【0149】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)CCL2:
MKVSAALLCLLLIAATFSPQGLAQPDAINAPVTCCYNFTNRKISVQRLASYRRITSSKCPKEAVIFKTIVAKEICADPKQKWVQDSMDHLDKQIQTPKP(配列番号:2)
【0150】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)CCL5:
MKVSVAALAVILVATALCAPASASPYASDTTPCCFAYIARPLPRAHIKEYFYTSGKCSNPAVVFVTRKNRQVCANPEKKWVREYINSLEMS(配列番号:3)
【0151】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)CYP19A1:
【化2】
【0152】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)CXCL8:
MTSKLAVALLAAFLLSAALCEGAVLPRSAKELRCQCIKTYSKPIHPKFIKELRVIESGPHCVNTEIIVKLSDGRELCLDPKVPWVSRVVEKFLKRAESQNS(配列番号:5)
【0153】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)ELF3:
【化3】
【0154】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)FOS:
【化4】
【0155】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)HERC3:
【化5】
【0156】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)HERC5:
【化6】
【0157】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)IFIFT1:
【化7】
【0158】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)IFIT2:
【化8】
【0159】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)IFIFIT3:
【化9】
【0160】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)IRF7:
【化10】
【0161】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)ISG15:
【化11】
【0162】
ホモ・サピエンス(Homo sapiens)ISG15:
【化12】
【0163】
ムス・ムスクルス(Mus musculus)ISG15:
【化13】
【0164】
【0165】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)KRT15:
【化15】
【0166】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)KRT19:
【化16】
【0167】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)MX1:
【化17】
【0168】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)NGFR:
【化18】
【0169】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)PTGS2:
【化19】
【0170】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)PTPN6:
【化20】
【0171】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)RET:
【化21】
【0172】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)ROS1:
【化22】
【化23】
【0173】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)SFRP1:
【化24】
【0174】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)SOX2:
【化25】
【0175】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)SPPP1:
【化26】
【0176】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)TNF:
【化27】
【0177】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)TNFRSF4:
【化28】
【0178】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)TRAF1:
【化29】
【0179】
クロロセブス・サバエウス(Chlorocebus sabaeus)VAV3:
【化30】
【0180】
ガイドA:
ACCAGCATTCGAGCAAGATCAAGG(配列番号:33)
【0181】
ガイドB:
GGAAACCGAAACTTGGCCACCGG(配列番号:34)
【0182】
sgRNA Aフォワードプライマー
GTCCCAGCTCTGCAGACATTA(配列番号:35)
【0183】
sgRNA Aリバースプライマー
GAGCTCGGCCAGGTTCTAAG(配列番号:36)
【0184】
sgRNA Bフォワードプライマー
CCTCGAGGCTGTAACTGCAA(配列番号:37)
【0185】
sgRNA Bリバースプライマー
ACCATAGGGGTGTTTTCCGT(配列番号:38)
【配列表】
【国際調査報告】