(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送
(51)【国際特許分類】
C08F 2/40 20060101AFI20250123BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C08F2/40
C08F2/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544811
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2023051052
(87)【国際公開番号】W WO2023143974
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ニクラス・ゴーゲス
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・ロマイス
(72)【発明者】
【氏名】フリーデリケ・フライシュハーカー
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ・スレ
(72)【発明者】
【氏名】フリードリヒ-ゲオルク・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ライン
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA01
4J011NA18
4J011PC02
(57)【要約】
本発明は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法に関し、エチレン性不飽和化合物は、フェノールを用いて望ましくないフリーラジカル重合から保護されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法であって、
前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、
貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量が少なくとも100kgであり、
前記エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送中の温度が50℃未満であり、
前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0001重量%~0.0750重量%の一般式(I):
【化1】
の化合物を含み、
式中、
R
1、R
3、およびR
5は、独立してメチルまたはエチルであり、
R
2およびR
4は、独立してH、メチル、またはエチルである、方法。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和化合物が、いずれの場合もエチレン性不飽和化合物の総量に対してそれぞれ0.0001重量%未満の、アミド基を含む化合物、亜リン酸のエステル、リン酸、またはホスフィンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(I)の化合物が、本質的に唯一の重合阻害剤として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記一般式(I)の化合物として2,4,6-トリメチルフェノールが使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送が、少なくとも10時間の期間にわたる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和化合物がアクリル酸および/またはメタクリル酸である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0050重量%~0.0600重量%の前記一般式(I)の化合物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0150重量%~0.0300重量%の前記一般式(I)の化合物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記エチレン性不飽和化合物が、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、および/またはアクリル酸2-エチルヘキシルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0002重量%~0.0060重量%の前記一般式(I)の化合物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0010重量%~0.0020重量%の前記一般式(I)の化合物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸素性雰囲気下で貯蔵および/または輸送される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記エチレン性不飽和化合物が、酸素含有量が5体積%~10体積%である酸素含有雰囲気下で容器内に貯蔵され、前記容器内の前記エチレン性不飽和化合物が定期的に再循環させられる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
フリーラジカル重合の方法であって、
少なくとも1種のエチレン性不飽和化合物が重合開始剤によって重合され、
前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、
使用される前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0001重量%~0.0750重量%の一般式(I):
【化2】
の化合物を含み、
式中、
R
1、R
3、およびR
5は、独立してメチルまたはエチルであり、
R
2およびR
4は、独立してH、メチル、またはエチルである、方法。
【請求項15】
重合開始剤によるフリーラジカル重合のためのエチレン性不飽和カルボニル化合物の使用であって、
前記エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、
前記エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、
前記エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0001重量%~0.0750重量%の一般式(I):
【化3】
の化合物を含み、
式中、
R
1、R
3、およびR
5は、独立してメチルまたはエチルであり、
R
2およびR
4は、独立してH、メチル、またはエチルである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法に関し、エチレン性不飽和化合物は、フェノールを用いて望ましくないフリーラジカル重合から保護されている。
【背景技術】
【0002】
1つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、フリーラジカル重合する顕著な傾向を有する。したがって、このような化合物を、以下、重合性化合物とも呼ぶ。これらの化合物が有するフリーラジカル重合する傾向は、これらの化合物がポリマーを製造するためのモノマーとして使用されることを意味する。しかしながら、これらの化合物のフリーラジカル重合する顕著な傾向は、欠点でもある。これは、貯蔵および輸送中に加えて、化学的および物理的処理中、例えば蒸留または精留中に、特に熱および/または光などのエネルギーの作用下で望ましくない自発的フリーラジカル重合が起こり得るためである。このような制御されない重合の結果として、例えば加熱された表面上にポリマー堆積物が徐々に形成される可能性があり、これによりポリマー堆積物の除去が必要となり、したがって、しばしば稼働時間が短縮することとなる。制御されない重合は、爆発的に進行することさえある。
【0003】
したがって、フリーラジカル重合する傾向を有するエチレン性不飽和化合物、またはこのような化合物を含む混合物の貯蔵および輸送中、ならびに化学的および物理的処理中には、望ましくない自発的フリーラジカル重合を防止するか、または少なくとも遅延させる化合物を添加することが通例である。このような物質は、しばしば重合阻害剤と呼ばれる。
【0004】
重合阻害剤は、個々の化合物として、または化合物の混合物として用いられ得る。重合阻害剤には、その使用分野に応じて特定の要件が課せられる。重合阻害剤がエチレン性不飽和化合物の輸送および/または貯蔵安定剤として適切であるためには、重合阻害剤の効率、すなわち重合の阻害の程度が制御可能であることが重要である。エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の条件下では、重合阻害剤は、望ましくない自発的フリーラジカル重合を十分に防止または遅延させるべきであるが、適切な重合条件下では、貯蔵および/または輸送中に使用される重合阻害剤を最初に分離する必要なしに、エチレン性不飽和化合物の所望のフリーラジカル重合が可能であるべきである。貯蔵および/または輸送中に使用される安定剤が所望の重合のために分離されない場合、この安定剤が所望の重合に悪影響を及ぼさない、例えば意図せず連鎖移動剤として作用しないことが重要である。
【0005】
世界的生産量の観点からみれば、アクリル酸は間違いなく最も重要なエチレン性不飽和化合物の1つである。アクリル酸は通常、貯蔵および/または輸送中に、アクリル酸の量に対して0.018重量%~0.022重量%のヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を用いて望ましくない自発的フリーラジカル重合に対して安定化される。MEHQを使用して望ましくない自発的フリーラジカル重合に対してアクリル酸を十分に安定化するためには、十分な量の酸素がアクリル酸に溶解していることが必要である。アクリル酸が5体積%~21体積%の酸素を含有する雰囲気中で貯蔵および/または輸送される場合、一般に、十分な量の酸素がアクリル酸に溶解する。アクリル酸の所望の重合では、アクリル酸中の溶存酸素の含有量は減少し、それにより、MEHQの存在下でアクリル酸が重合するのに十分なように重合阻害剤としてのMEHQの効率が低下する。
【0006】
アクリル酸の貯蔵および/または輸送のための重合阻害剤としての使用に加えて、MEHQは、メタクリル酸、アクリル酸エステル、および/もしくはメタクリル酸エステル、または前記化合物のうち1種以上を含む混合物の貯蔵および/または輸送のための重合阻害剤としても使用される。
【0007】
MEHQは、その広範な使用により、エチレン性不飽和化合物、特にアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、およびメタクリル酸エステルのための最も重要な貯蔵および/または輸送安定剤の1つになっている。
【0008】
エチレン性不飽和化合物は、目的に合った恒久的に設置された容器、例えば貯蔵タンクに貯蔵される(例えば、Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,7 Bulk Storage Facilities and Accessoriesを参照されたい)。好ましくは、それぞれの容器内でのエチレン性不飽和化合物の貯蔵は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは少なくとも100時間にわたる。適切な条件下での貯蔵期間は理論的には無制限であるが、経済的理由から、貯蔵期間は一般に最小限に短縮される。好ましくは、それぞれの容器内でのエチレン性不飽和化合物の貯蔵は、180日間以下、より好ましくは90日間以下、最も好ましくは30日間以下にわたる。特に好ましい範囲は、上記の下限と上限との自由な組み合わせから生じる。
【0009】
エチレン性不飽和化合物は、典型的には、適切な輸送可能な容器、例えばタンクまたはドラムで、船舶、鉄道、および/またはトラックで輸送される(例えば、Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,9 Safe Transport of Acrylic Acidを参照されたい)。輸送可能な金属は、もちろん、対応する輸送手段、例えばタンカー船または鉄道タンク車に恒久的に設置されてもよい。もちろん、容器を別の場所に輸送する前に、特定の場所に一定時間貯蔵することも可能である。エチレン性不飽和化合物はまた、貯蔵タンクから輸送可能な容器に移される場合、および/または1つの輸送可能な容器から別の輸送可能な容器に移される場合、エチレン性不飽和化合物の精製後に、パイプラインまたはホースで、例えば貯蔵タンクに輸送されることもある。好ましくは、それぞれの容器に入ったエチレン性不飽和化合物の輸送は、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは少なくとも100時間にわたる。適切な条件下での期間は理論的には無制限であるが、経済的理由および安全上の理由から、期間は一般に最小限に短縮される。それぞれの容器に入ったエチレン性不飽和化合物の輸送は、好ましくは180日間以下、より好ましくは90日間以下、最も好ましくは30日間以下にわたる。特に好ましい範囲は、上記の下限と上限との自由な組み合わせから生じる。
【0010】
欧州特許出願公開第0850916号明細書は、塩基性モノマーのための重合阻害剤の混合物を開示している。この混合物はフェノールを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0850916号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,7 Bulk Storage Facilities and Accessories
【非特許文献2】Acrylic Acid,A Summary of Safety and Handling,4th edition 2013,9 Safe Transport of Acrylic Acid
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、エチレン性不飽和化合物を貯蔵および/または輸送する方法を提供することであった。重合阻害剤は、望ましくないフリーラジカル重合に対して、エチレン性不飽和化合物を確実に十分に安定化するものである。しかしながら、意図したフリーラジカル重合においては、重合前に混合物から重合阻害剤を分離する必要はない。したがって、重合阻害剤は、意図したフリーラジカル重合において連鎖移動剤および/または重合阻害剤として作用しない。さらに、重合阻害剤は、重合の過程で望ましくない変色をもたらさなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送の方法であって、エチレン性不飽和化合物が少なくとも90重量%の純度を有し、貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量が少なくとも100kgであり、エチレン性不飽和化合物の貯蔵および/または輸送中の温度が50℃未満であり、エチレン性不飽和化合物がカルボン酸またはカルボン酸エステルであり、エチレン性不飽和化合物が、エチレン性不飽和化合物の総量に対して0.0001重量%~0.0750重量%(1~750ppm)の一般式(I)
【化1】
の化合物を含み、
式中、
R
1、R
3、およびR
5は、独立してメチルまたはエチルであり、好ましくはメチルであり、
R
2およびR
4は、独立してH、メチル、またはエチルであり、好ましくはHまたはメチルであり、より好ましくはHである、
方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一般式(I)の適切な化合物は、例えば、2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)、2-エチル-4,6-ジメチルフェノール、2,3,4,6-テトラメチルフェノール、3-エチル-2,4,6-トリメチルフェノール、2-エチル-3,4,6-トリメチルフェノール、2,3-ジエチル-4,6-ジメチルフェノール、
4-エチル-2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジエチル-6-メチルフェノール、4-エチル-2,3,6-トリメチルフェノール、3,4-ジエチル-2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジエチル-3,6-ジメチルフェノール、2,3,4-トリエチル-6-メチルフェノール、
2,4,5,6-テトラメチルフェノール、2-エチル-4,5,6-トリメチルフェノール、2,3,4,5,6-ペンタメチルフェノール、3-エチル-2,4,5,6-テトラメチルフェノール、2-エチル-3,4,5,6-テトラメチルフェノール、2,3-ジエチル-4,5,6-トリメチルフェノール、
4-エチル-2,5,6-トリメチルフェノール、2,4-ジエチル-5,6-ジメチルフェノール、4-エチル-2,3,5,6-テトラメチルフェノール、3,4-ジエチル-2,5,6-トリメチルフェノール、2,4-ジエチル-3,5,6-トリメチルフェノール、2,3,4-トリエチル-5,6-ジメチルフェノール、
5-エチル-2,4,6-トリメチルフェノール、2,5-ジエチル-4,6-ジメチルフェノール、5-エチル-2,3,4,6-テトラメチルフェノール、3,5-ジエチル-2,4,6-トリメチルフェノール、2,5-ジエチル-3,4,6-トリメチルフェノール、2,3,5-トリエチル-4,6-ジメチルフェノール、
4,5-ジエチル-2,6-ジメチルフェノール、2,4,5-トリエチル-6-メチルフェノール、4,5-ジエチル-2,3,6-トリメチルフェノール、3,4,5-トリエチル-2,6-ジメチルフェノール、2,4,5-トリエチル-3,6-ジメチルフェノール、2,3,4,5-テトラエチル-6-メチルフェノール、
6-エチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジエチル-6-メチルフェノール、6-エチル-2,3,4-トリメチルフェノール、3,6-ジエチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジエチル-3,4-ジメチルフェノール、2,3,6-トリエチル-4-メチルフェノール、
4,6-ジエチル-2-メチルフェノール、2,4,6-トリエチルフェノール、4,6-ジエチル-2,3-ジメチルフェノール、3,4,6-トリエチル-2-メチルフェノール、2,4,6-トリエチル-3-メチルフェノール、2,3,4,6-テトラエチルフェノール、
6-エチル-2,4,5-トリメチルフェノール、2,6-ジエチル-4,5-ジメチルフェノール、6-エチル-2,3,4,5-テトラメチルフェノール、3,6-ジエチル-2,4,5-トリメチルフェノール、2,6-ジエチル-3,4,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリエチル-4,5-ジメチルフェノール、
4,6-ジエチル-2,5-ジメチルフェノール、2,4,6-トリエチル-5-メチルフェノール、4,6-ジエチル-2,3,5-トリメチルフェノール、3,4,6-トリエチル-2,5-ジメチルフェノール、2,4,6-トリエチル-3,5-ジメチルフェノール、2,3,4,6-テトラエチル-5-メチルフェノール、
5,6-ジエチル-2,4-ジメチルフェノール、2,5,6-トリエチル-4-メチルフェノール、5,6-ジエチル-2,3,4-トリメチルフェノール、3,5,6-トリエチル-2,4-ジメチルフェノール、2,5,6-トリエチル-3,4-ジメチルフェノール、2,3,5,6-テトラエチル-4-メチルフェノール、
4,5,6-トリエチル-2-メチルフェノール、2,4,5,6-テトラエチルフェノール、4,5,6-トリエチル-2,3-ジメチルフェノール、3,4,5,6-テトラエチル-2-メチルフェノール、2,4,5,6-テトラエチル-3-メチルフェノール、および2,3,4,5,6-ペンタエチルフェノールである。
【0016】
エチレン性不飽和化合物の純度は、好ましくは少なくとも95重量%であり、より好ましくは少なくとも98重量%であり、最も好ましくは少なくとも99重量%である。
【0017】
貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量は、好ましくは少なくとも200 kgであり、より好ましくは少なくとも500 kgであり、最も好ましくは少なくとも1000 kgである。貯蔵および/または輸送されるエチレン性不飽和化合物の質量は、典型的には10000000 kg未満である。
【0018】
貯蔵中および/または輸送中のエチレン性不飽和化合物は、好ましくは45℃未満、より好ましくは40℃未満、最も好ましくは35℃未満の温度を有する。アクリル酸の場合、貯蔵および/または輸送中の温度は、少なくとも15℃でなければならない。
【0019】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、いずれの場合もエチレン性不飽和化合物の総量に対してそれぞれ0.0001重量%未満の、アミド基を含む化合物、亜リン酸のエステル、リン酸、またはホスフィンを含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、一般式(I)の化合物は、本質的に唯一の重合阻害剤として使用される。
【0021】
エチレン性不飽和化合物は、いずれの場合もエチレン性不飽和化合物の総量に対して、好ましくは0.0002重量%~0.0600重量%(2~600 ppm)、より好ましくは0.0005重量%~0.0450重量%(5~450 ppm)、最も好ましくは0.0010重量%~0.0300重量%(10~300 ppm)の一般式(I)の化合物を含む。
【0022】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、モノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C8カルボン酸、エステル基中に1~20個の炭素原子を有するモノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C8カルボン酸エステルである。
【0023】
モノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C6カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ジメタクリル酸、エタクリル酸、シトラコン酸、メチレンマロン酸、クロトン酸、フマル酸、メサコン酸、イタコン酸、およびマレイン酸、エステル基中に1~12個の炭素原子を有するモノ-、ジ-、またはトリエチレン性不飽和C3~C6カルボン酸エステル、例えばC1~C12アルキルを有するアクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するメタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するジメタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するエタクリル酸エステル、C1~C12アルキルを有するシトラコン酸エステル、C1~C12アルキルを有するメチレンマロン酸エステル、C1~C12アルキルを有するクロトン酸エステル、C1~C12アルキルを有するフマル酸エステル、C1~C12アルキルを有するメサコン酸エステル、C1~C12アルキルを有するイタコン酸エステル、およびC1~C12アルキルを有するマレイン酸エステルが特に好ましい。
【0024】
アクリル酸、メタクリル酸、C1~C8アルキルを有するアクリル酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、およびアクリル酸2-エチルヘキシル、ならびにC1~C8アルキルを有するメタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0025】
さらに適切なエチレン性不飽和化合物は、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エトキシ化グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、およびアクリル酸2-ヒドロキシプロピルである。
【0026】
重合性化合物としてアクリル酸および/またはメタクリル酸を用いる場合、混合物中の一般式(I)の化合物の総量は、いずれの場合もアクリル酸および/またはメタクリル酸の総量に対して、好ましくは0.0050重量%~0.0600重量%(50~600 ppm)であり、より好ましくは0.0100重量%~0.0450重量%(100~450 ppm)であり、さらに好ましくは0.0150重量%~0.0300重量%(150~300 ppm)である。
【0027】
アクリル酸および/またはメタクリル酸は、典型的には、ステンレス鋼容器内で貯蔵および/または輸送される。適切なステンレス鋼容器は、16.5重量%~19.5重量%のクロムおよび8.0重量%~13.5重量%のニッケルを含む。
【0028】
重合性化合物としてアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、および/またはアクリル酸2-エチルヘキシルを用いる場合、混合物中の一般式(I)の化合物の総量は、いずれの場合もアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、および/またはアクリル酸2-エチルヘキシルの総量に対して、好ましくは0.0002重量%~0.0060重量%(2~60 ppm)であり、より好ましくは0.0005重量%~0.0040重量%(5~40 ppm)であり、さらに好ましくは0.0010重量%~0.0020重量%(10~20 ppm)である。
【0029】
エチレン性不飽和化合物は、典型的には、酸素含有雰囲気中で貯蔵および/または輸送される。
【0030】
エチレン性不飽和化合物は、好ましくは、酸素含有量が5体積%~10体積%である酸素含有雰囲気中で容器に貯蔵され、容器内の混合物は、例えばタンク内容物全体のポンプ再循環によって、少なくとも週に1回定期的に再循環させられる。この比較的低い酸素含有量は、容器内での着火性ガス混合物の形成を防止する。再循環により、液状のエチレン性不飽和化合物中の消費された溶存酸素が補充される。
【0031】
本発明はさらに、上記エチレン性不飽和化合物のうち少なくとも1種が重合開始剤によって重合されるフリーラジカル重合の方法、および重合開始剤によるフリーラジカル重合のための上記エチレン性不飽和化合物のうちの1種の使用を提供する。
【0032】
本発明のフリーラジカル重合により、例えば、水溶性および水膨潤性のポリアクリル酸およびそのナトリウム塩を得ることができる。
【0033】
フリーラジカル重合自体は一般的な知識であり、典型的には溶液中で行われる。適切な重合開始剤は、選択された反応条件下でフリーラジカルに分解することができるすべての化合物、例えば熱開始剤、レドックス開始剤、光開始剤である。適切な熱開始剤は、ペルオキソ一および二硫酸塩、ならびにペルオキソ一および二リン酸塩である。適切なレドックス開始剤は、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/アスコルビン酸、過酸化水素/アスコルビン酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム/亜硫酸水素ナトリウム、および過酸化水素/亜硫酸水素ナトリウムである。
【実施例】
【0034】
重合阻害の実験
使用したエチレン性不飽和化合物を2回蒸留して、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)重合阻害剤を除去した。規定量の指定された重合阻害剤を、いずれの場合も、エチレン性不飽和化合物に添加した。MEHQおよび2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)を使用した。
【0035】
0.5 mlの各混合物を1.8 mlのアンプルに移し、空気循環オーブン中で指定された温度で貯蔵した。
【0036】
一連の試験のそれぞれにおいて、各混合物を少なくとも3つのアンプルに充填して試験し、完全な重合に要した平均時間を目視検査によって決定した。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)は、MEHQに対して明らかにより良好な阻害作用に相当する阻害作用を有する。
【0042】
重合実験
アクリル酸の重合
反応容器に、最初に窒素雰囲気下で450 gの水を投入した。この最初に投入した反応混合物を撹拌しながら95℃に加熱した。95℃の温度に達したら、温度を維持しつつ、撹拌しながら3つの流れを計り入れた。
流れ1:5時間かけて計り入れた500 gのアクリル酸
流れ2:4.75時間かけて計り入れた、次亜リン酸ナトリウム15 gの脱イオン水35 g溶液
流れ3:5.25時間かけて計り入れた、ペルオキソ二硫酸ナトリウム5 gの脱イオン水66.4 g溶液
【0043】
3つの流れを添加した後、反応混合物を95℃でさらに1時間撹拌した。次いで、反応混合物を室温に冷却し、水80 gを添加した。
【0044】
流れ1で使用したアクリル酸をMEHQまたは2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)で安定化した。
【0045】
得られたポリマーをGPC(Na-PAA標準による較正、溶離液0.01mol/l リン酸緩衝液 pH 7.4、0.01 MのNaN3を含む蒸留水中)によって分析した。
【0046】
【0047】
試験した濃度の2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)は、標準濃度のMEHQを使用した場合と同程度のモル質量を有するポリアクリル酸をもたらす。
【0048】
アクリル酸ナトリウムまたはメタクリル酸ナトリウムの重合
窒素雰囲気下、反応容器に52 gの脱イオン水および60 gのアクリル酸ナトリウム水溶液またはメタクリル酸ナトリウム水溶液(いずれの場合も濃度は37.2重量%であり、0.01重量%のMEHQまたはTMPで安定化されている)を投入した。続いて、10 gの脱イオン水に溶解した0.4 gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを添加し、混合物を撹拌しながら80℃に加熱した。反応混合物を80℃で4時間撹拌し、次いで、周囲温度に冷却した。
【0049】
MEHQを用いたすべての実験において、溶液の色は加熱中に(約60℃で)変化した。
【0050】
【0051】
色数はDIN EN ISO 6271(2005)に従って測定した。
【0052】
2,4,6-トリメチルフェノール(TMP)は、MEHQが使用される場合よりもはるかに少ない程度の望ましくない変色をもたらす。
【国際調査報告】