(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】マイクロ波支援合成を使用した金属有機構造体を調製するための方法およびそれから調製された金属有機構造体
(51)【国際特許分類】
C07F 7/00 20060101AFI20250123BHJP
C08J 11/10 20060101ALI20250123BHJP
C08J 11/18 20060101ALI20250123BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20250123BHJP
C09F 9/00 20060101ALI20250123BHJP
C08J 11/16 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C07F7/00 A CSP
C08J11/10 ZAB
C08J11/18
B29B17/04
C09F9/00
C08J11/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544871
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-09-12
(86)【国際出願番号】 IB2023050707
(87)【国際公開番号】W WO2023144762
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521111157
【氏名又は名称】ピーティーティー・エクスプロレイション・アンド プロダクション・パブリック・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】アラヤチュキート スナツダ
(72)【発明者】
【氏名】コンパットパニチ カノクァン
(72)【発明者】
【氏名】ティンソンノエン パカワン
(72)【発明者】
【氏名】ピム ソラウィチ
(72)【発明者】
【氏名】スリプムラット クンラナット
【テーマコード(参考)】
4F401
4H049
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AC10
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4H049VS12
4H049VU25
4H049VW02
(57)【要約】
本発明は、金属有機構造体を調製するための方法であって、マイクロ波支援合成を使用して金属前駆体およびポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物の反応を引き起こすステップを含む、方法に関連する。本発明はまた、前記方法から調製された金属有機構造体に関連する。本発明による金属有機構造体を調製するための方法は、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物を利用することができるので、これは環境問題を軽減するのに役立ち得る。さらに、この方法は、煩雑で複雑なステップを必要とすることなく簡便に実施することができ、また、調製の際にエネルギーも節約することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体を調製するための方法であって、マイクロ波支援合成を使用して金属前駆体およびポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物の反応を引き起こすステップを含む、方法。
【請求項2】
サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックを提供するステップ(i)と、
金属前駆体およびサイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物を溶媒中に提供するステップ(ii)と、
マイクロ波支援合成を使用してステップ(ii)の前記混合物の反応を引き起こすステップ(iii)と、
ステップ(iii)から得られた反応生成物を分離し、前記反応生成物を溶媒で洗浄し、乾燥させるステップ(iv)と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ii)を実施する前に、150~250℃の範囲の温度で5~30分間、サイズが減少した前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックをマイクロ波支援により加熱するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
サイズが減少した前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックをマイクロ波支援により加熱する前記ステップが、酸性条件下で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
サイズが減少した前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックが、1cm未満の粒径を有する、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
サイズが減少した前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックが、0.05cm未満の粒径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックが、粉砕、切断、メカノケミカルアプローチ、剪断、引き裂き、またはそれらの組み合わせによってサイズが減少する、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が、0.2~0.6:1の範囲の金属前駆体対ポリエチレンテレフタレートプラスチックの重量比を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物が、酸をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が、0.01~0.03:1の範囲の金属前駆体対酸の重量比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物が、0.02~0.07:1の範囲のポリエチレンテレフタレートプラスチック対酸の重量比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
酸が、硝酸、塩酸、硫酸、またはそれらの混合物である、請求項4または9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属前駆体が、ジルコニウム(IV)、クロム(III)、鉄(III)の塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1、2、8または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ジルコニウム(IV)の前記塩が、四塩化ジルコニウム(ZrCl
4)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl
2)、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl
2・8H
2O)、アクリル酸ジルコニウム(Zr(CH
2CHCO
2)
4)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロ波支援合成が、2,450MHz以上のマイクロ波周波数を使用することにより実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記マイクロ波支援合成が、80~160℃の範囲の温度で100~400ワットの範囲の電力を使用して10~240分間、前記混合物を加熱することにより実施される、請求項1、2または15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記マイクロ波支援合成が、100~140℃の範囲の温度で100~400ワットの範囲の電力を使用して30~90分間、前記混合物を加熱することにより実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(ii)における前記溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、水、ジメチルスルホキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(iv)における前記溶媒が、アセトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(iv)における反応生成物の前記分離が、濾過または遠心分離により実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(iv)における前記乾燥させるステップが、80~160℃の範囲の温度で実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックが、添加剤を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記添加剤が、フタル酸ジペンチル(DPP)、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート(DEHA)、ジ-オクチルアジペート(DOA)、フタル酸ジイソブチル(DEP)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックが、前記ポリエチレンテレフタレートプラスチックの80~100wt%の範囲のポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1~8、11または22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法から調製された金属有機構造体。
【請求項26】
重金属汚染物質吸着剤として使用するための請求項25に記載の金属有機構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
化学はマイクロ波支援合成(microwave-assisted synthesis)を使用した金属有機構造体(metal-organic framework)を調製するための方法およびそれから調製された金属有機構造体に関連する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、日常生活において重要な役割を果たす合成材料であり、その望ましい特性、安価な価格、および様々に成形される能力のために、ますます使用される傾向にある。したがって、現在、プラスチック製品は広く使用されており、その結果、プラスチック廃棄物は年々増加している。プラスチック廃棄物の中には、自己分解しない材料または分解に数百年を要するものもあり、環境への影響およびプラスチック廃棄物の管理上の問題を引き起こしている。
【0003】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は軽量で、透明性、粘着性、および優れた耐衝撃性を有するため、一般に、製品、例えば、飲料用ボトル、包装箱、または袋を作製するために使用されるプラスチックの1つである。しかしながら、現在生産されるポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物のほとんどは、通常、埋め立て地に埋め立てられるか、または焼却炉で焼却される。リサイクルプロセス(recycling)は複雑で、プラスチックの種類により製品の成分を選別することから開始し、洗浄し、それらを化学プロセスに供して化学成分を分解し、それらを新しい製品に成形する多くのステップからなるため、リサイクルされるのはほんのわずかである。これらのステップの全ては、多くのエネルギーを使用するだけでなく、有害な化学物質を環境に放出する可能性もある。したがって、環境への影響を軽減するために、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物に付加価値を与え、それを最大限に使用するアプローチを見つける試みがなされている。
【0004】
現在研究されているポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物を利用する1つの方法は、それを金属有機構造体の合成に利用することである。ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸(BDC)に変換される主成分からなるため、金属有機構造体の合成において有機リンカーの供給源として使用することができる。
【0005】
金属有機構造体の合成へのポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物の適用に関する先行技術の例は、以下の特許文献に開示されている通りである。
【0006】
特許文献1は、ポリ酸(polyacid)を使用してPETなどのポリエステルプラスチック廃棄物を分解することによる金属有機構造体を調製(prepare)するための方法を開示している。この方法は、酢酸ナトリウム緩衝液にポリ酸前駆体を添加し、それを透明になるまで混合するステップと、ポリエステルプラスチック廃棄物片を添加し、170~190℃の範囲の温度を用いて60~80時間十分に混合するステップと、次いでそれを冷却、洗浄、および乾燥して金属有機構造体の製品を得るステップとを含む。
【0007】
特許文献2は、150℃の温度で24時間のZn(NO3)2・6H2Oおよびポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物のソルボサーマル反応、次いで得られた反応溶液をN-メチルピロリドンおよびメタノール溶液で洗浄し、それを真空下で乾燥させることを含む、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物を使用した金属有機構造体を調製するための方法を開示している。
【0008】
特許文献3は、メカノ化学合成(mechanochemical synthesis)を使用したプラスチック廃棄物からの金属有機構造体の調製を開示しており、その調製は、関連する変形(relevant variant)、例えば、衝撃、粉砕時間、粉砕ボールのサイズ、温度範囲、および圧力などを制御することによって反応混合物を粉砕することにより実施された。
【0009】
しかしながら、前述の先行技術に加えて、金属有機構造体の調製におけるポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物の利用の開発、特に、簡単なステップで簡便に実施でき、エネルギーおよび調製の時間を節約できる、ポリエチレンテレフタレートプラスチックから金属有機構造体を調製するための方法の開発に対する必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】中国特許出願公開第110283353A号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第108676174A号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2021122898A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、煩雑で複雑なステップを必要とせずに簡便に実施することができ、エネルギーおよび調製の時間を節約することができる、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から金属有機構造体を調製するための方法を提供することである。特に、本発明は、金属有機構造体の合成を実施する前にテレフタル酸単離およびテレフタル酸精製ステップを必要とせずに、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から金属有機構造体を調製するための方法を開発することを目的とする。
【0012】
本発明の別の目的は、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から金属有機構造体を調製するための一般的に利用可能な方法と比較して、大幅に短縮された処理時間で容易に実施することができる、ポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から金属有機構造体を調製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、金属有機構造体を調製するための方法であって、マイクロ波支援合成を使用して金属前駆体およびポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物の反応を引き起こすステップを含む、方法に関する。
【0014】
別の態様では、本発明は、本発明による方法から調製された金属有機構造体に関する。
【0015】
本発明によるマイクロ波支援合成を使用した金属有機構造体を調製するための方法は、簡単なステップで容易かつ簡便に実施することができ、エネルギーを節約し、高い収率を維持しながら短い処理時間を必要とする。また、得られた金属有機構造体生成物は、金属有機構造体の合成における反応物質として精製テレフタル酸を使用した従来の調製方法から製造された金属有機構造体と同様の品質である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の方法に従って調製された金属有機構造体の例の粉末X線回折(PXRD)パターン、およびデータベースからの理論に従ったUiO-66のPXRDパターンを示すグラフである。
【
図2】本発明の方法に従って調製された金属有機構造体の例のN
2吸着等温線を示すグラフである。
【
図3】3つの異なる供給源から得たポリエチレンテレフタレートプラスチック試料から調製された金属有機構造体の例の熱重量分析(TGA)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に示されたいずれかの態様は、特に断りのない限り、本発明の他の態様への適用も同様に包含するものとする。
【0018】
本明細書で使用される専門用語および科学用語は、別段の定めがない限り、当業者によって理解される意味を有する。
【0019】
本発明を通して、「約」という用語は、本明細書に現れるか、または示される任意の値が変動または逸脱し得ることを示すために使用される。このような変動または逸脱は、装置の誤差、または値を決定するために使用される方法によって引き起こされる。
【0020】
「からなる(consist of)」、「含む(comprise)」、「有する(have)」、「含有する(contain)」、および「含む(include)」という用語は、オープンエンドの動詞である。例えば、1つの構成要素もしくは複数の構成要素、または1つのステップもしくは複数のステップ「からなる」、それらを「含む」、「有する」、「含有する」、または「含む」任意の方法は、1つの構成要素もしくは1つのステップ、または複数のステップもしくは複数の構成要素のみに限定されるものではなく、特定されていない構成要素またはステップも包含する。
【0021】
本明細書で言及される道具、装置、方法、材料、または化学物質は、別段の指定がない限り、当業者によって一般的に使用または実施される道具、装置、方法、材料、または化学物質を意味する。
【0022】
本発明において開示され、特許請求される全ての構成要素および/または方法は、特許請求の範囲に具体的に記載されていないが、当業者の判断に従って、本発明とは実質的に異なる実験を必要とせず、本発明の態様の特性および有用性を与え、本発明の態様と同じ効果を提供する、任意の要因の作用、実施、修正または変更から得られる本発明の態様を含むことを意図する。したがって、本発明の態様の代替物または類似物、および当業者にとって明確であるいかなるわずかな修正または変更も、本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内であると考えられる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「ポリエチレンテレフタレートプラスチック」という用語は、構成要素としてポリエチレンテレフタレートを有する任意のプラスチックまたはコポリマー、例えば、ポリエチレンテレフタレートを本質的に含み、追加の成分として添加剤を有し得るポリエチレンテレフタレートプラスチックを包含する。例えば、ポリエチレンテレフタレートプラスチックは、ポリエチレンテレフタレートプラスチックの総重量に基づいて80~100wt%、85~100wt%、85~95wt%、80~95wt%、または80~90wt%のポリエチレンテレフタレートを含み得る。本発明によるポリエチレンテレフタレートプラスチックは、異なる供給源、例えば、プラスチックボトル、プラスチックファイバ、プラスチックシート、プラスチック廃棄物、製品中のプラスチック片などから得ることができる。
【0024】
本発明の上述の目的は、以下のように特徴付けられる金属有機構造体を調製するための方法によって達成することができる。
【0025】
本発明によれば、金属有機構造体を調製するための方法は、マイクロ波支援合成を使用して金属前駆体およびポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物の反応を引き起こすステップを含む。
【0026】
特定の実施形態では、本発明による金属有機構造体を調製するための方法は、
サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックを提供するステップ(i)と、
金属前駆体およびサイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物を溶媒中に提供するステップ(ii)と、
マイクロ波支援合成を使用してステップ(ii)の混合物の反応を引き起こすステップ(iii)と、
ステップ(iii)から得られた反応生成物を分離し、反応生成物を溶媒で洗浄し、乾燥させるステップ(iv)と
を含む。
【0027】
代替の実施形態では、本発明による金属有機構造体を調製するための方法は、ステップ(ii)を実施する前に、酸性、塩基性、または中性条件下で、サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックをマイクロ波支援により処理するステップをさらに含み得る。
【0028】
より具体的には、金属有機構造体を調製するための方法は、ステップ(ii)を実施する前に、150~250℃の範囲の温度で5~30分間、サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックをマイクロ波支援により加熱するステップをさらに含み得る。好ましくは、サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックをマイクロ波支援により加熱するステップは、酸性条件下で実施される。
【0029】
本発明による金属有機構造体を調製するための方法は、ステップ(iii)における金属有機構造体のマイクロ波支援合成の前に、それから得られるテレフタル酸を分離および精製する必要なく、全ての反応がワンポット合成であるように実施される。
【0030】
本発明によれば、ステップ(i)におけるサイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックは、0.01~1cm、または0.05~1cmなどの範囲の粒径などの1cm未満の粒径を有する。
【0031】
別の好ましい態様では、ステップ(i)におけるサイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチックは、0.01~0.05cmなどの範囲の粒径などの0.05cm未満の粒径を有する。
【0032】
ポリエチレンテレフタレートプラスチックは、粉砕、切断、メカノケミカルアプローチ、剪断、引き裂き、またはそれらの組み合わせによってサイズが減少する。
【0033】
本発明によれば、金属有機構造体を調製するための方法は、マイクロ波支援合成を使用して金属前駆体およびポリエチレンテレフタレートプラスチックを含む混合物の反応を引き起こすことにより達成することができる。好ましくは、混合物は、0.2~0.6:1の範囲の金属前駆体対ポリエチレンテレフタレートプラスチックの重量比を有する。
【0034】
別の好ましい実施形態では、混合物は酸をさらに含む。具体的には、ステップ(ii)における混合物は、金属前駆体、サイズが減少したポリエチレンテレフタレートプラスチック、および酸を含む。
【0035】
好ましくは、混合物は、0.01~0.03:1の範囲の金属前駆体対酸の重量比を有する。
【0036】
より好ましくは、混合物は、0.02~0.07:1の範囲のポリエチレンテレフタレートプラスチック対酸の重量比を有する。
【0037】
本発明のために使用される酸の例は、硝酸、塩酸、硫酸、およびそれらの混合物であり、好ましくは硝酸である。
【0038】
本発明によれば、金属前駆体は、ジルコニウム(IV)、クロム(III)、鉄(III)の塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、金属前駆体はジルコニウム(IV)の塩である。
【0039】
ジルコニウム(IV)の塩は、四塩化ジルコニウム(ZrCl4)、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)、アクリル酸ジルコニウム(Zr(CH2CHCO2)4)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0040】
本発明によれば、金属有機構造体を調製するための方法は、2,450MHz以上のマイクロ波周波数を使用したマイクロ波支援合成によって達成することができる。
【0041】
具体的には、マイクロ波支援合成は、10~240分間、80~160℃の範囲の温度で100~400ワットの範囲の電力を使用して混合物を加熱することによって実施される。好ましくは、マイクロ波支援合成は、30~90分間、より好ましくは45~60分間、100~140℃の範囲の温度で100~400ワットの範囲の電力を使用して混合物を加熱することによって実施される。
【0042】
一例として、ステップ(ii)を実施するために、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、水、ジメチルスルホキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を使用することができる。
【0043】
また、ステップ(iv)における洗浄のための溶媒は、アセトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0044】
ステップ(iv)における反応生成物の分離は、濾過または遠心分離によって実施され得、ステップ(iv)における乾燥は、80~160℃の範囲の温度で実施される。好ましくは、乾燥は真空下で実施される。
【0045】
特定の実施形態では、ポリエチレンテレフタレートプラスチックは添加剤を含む。添加剤は、フタル酸ジペンチル(DPP)、ジ-(2-エチルヘキシル)アジペート(DEHA)、ジ-オクチルアジペート(DOA)、フタル酸ジイソブチル(DEP)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0046】
特定の実施形態では、ポリエチレンテレフタレートプラスチックは、ポリエチレンテレフタレートプラスチックの80~100wt%の範囲のポリエチレンテレフタレートを含む。
【0047】
本発明による方法から調製された金属有機構造体は、重金属汚染物質吸着剤として使用することができ、例えば、それは、ヒ素、水銀、またはパラジウムなどを吸着するために使用される。
【0048】
実施例
ここで、実験例および添付の図面を参照して本発明をより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
1.金属有機構造体を調製するための方法
本発明による金属有機構造体の例は、以下に詳述するように好ましい条件を決定するために、使用済みのポリエチレンテレフタレートプラスチックボトルおよびジルコニウム塩から調製されたUiO-66材料である。
【0050】
1)使用済みのポリエチレンテレフタレートプラスチックボトルを約0.5~0.7cmの小片に切断する。次いで、それらを425μm未満のサイズの粒子に粉末化して、粉末状のポリエチレンテレフタレートプラスチックを得る。
【0051】
2)粉末化したポリエチレンテレフタレートプラスチック試料に規定量の硝酸(HNO3)を加え、容器(EasyPrep Plusベッセル)中で5~30分間インキュベートする。
【0052】
3)2)から得た混合物を150℃の温度(100~400ワットの範囲の電力)で5分間マイクロ波照射に供する。
【0053】
4)規定量の溶媒(DMF)およびジルコニウム塩を加える。
【0054】
5)4)から得た混合物を10分間超音波処理に供し、規定の温度で規定の時間、マイクロ波照射(100~400ワットの範囲の電力)に供する。
【0055】
6)得られた金属有機構造体を遠心分離により分離し、溶媒であるDMFおよびメタノールでそれぞれ洗浄する。
【0056】
7)得られた金属有機構造体生成物を80℃の温度で12時間乾燥させる。
【0057】
調製した金属有機構造体生成物の例を、粉末X線回折(PXRD)技術(
図1に示した結果);BET比表面積および細孔容積、ならびにN
2吸着等温線(
図2に示した結果);ならびに熱重量分析(TGA)(
図3に示した結果)を用いてさらに分析する。
【0058】
2.金属有機構造体の調製における好ましい条件に関する調査
本発明では、以下に詳述するように、合成された金属有機構造体生成物に対する、マイクロ波支援合成における酸含有量、温度および時間の効果を調査するための実験を行った。
【0059】
1)酸含有量の効果に関する調査
約0.02:1、0.04:1および0.07:1のポリエチレンテレフタレートプラスチック(本明細書以下では「PET」と称する)対硝酸(HNO
3)の重量比、ならびに約0.01:1(HNO
3 10および15ml)および0.03:1(HNO
3 5ml)の四塩化ジルコニウム(ZrCl
4)対硝酸の重量比を使用して上述の方法に従って金属有機構造体を調製することにより実験を行った。実験結果を
図1および表1に示す。
【0060】
【0061】
注記:
a-ZrCl4の添加前にマイクロ波を使用した酸によるポリエチレンテレフタレートプラスチックの処理を150℃の温度で5分間実施した。
-金属有機構造体のマイクロ波支援合成を120℃の温度で120分間実施した。
b HNO3は65%の濃度、および1.39g/mlの密度を有する。
c 収率%はジルコニウムの初期量と比較して計算した。
【0062】
図1の実験結果は、本発明の方法を使用してポリエチレンテレフタレートプラスチック試料から調製された金属有機構造体(実施例1~3)が、データベースからの理論に従って、UiO-66のPXRDパターンに対応し、それと一致する特性を有することを示す。
【0063】
さらに、ポリエチレンテレフタレートプラスチック対酸の重量比を、0.02:1(実施例3、HNO3 15ml)から0.04:1(実施例2、HNO3 10ml)に、0.07:1(実施例1、HNO3 5ml)にそれぞれ増加させることにより、また、四塩化ジルコニウム対酸の重量比を0.01:1(実施例2、HNO3 10mlおよび実施例3、15ml)から0.03:1(実施例1、HNO3 5ml)に増加させることにより、収率が増加したことも見出された。0.07:1のポリエチレンテレフタレートプラスチック対硝酸の重量比、および0.03:1の四塩化ジルコニウム対硝酸の重量比(実施例3)を使用した場合、70%以上で最大84%の収率を達成できる。
【0064】
2)マイクロ波支援合成における温度および時間の効果に関する調査
0.04:1のポリエチレンテレフタレートプラスチック対硝酸の重量比、および0.01:1の四塩化ジルコニウム対硝酸の重量比を使用して上述の方法に従って金属有機構造体を調製することにより実験を行った。実験結果を
図1および表2に示す。
【0065】
【0066】
注記:
a-ZrCl4の添加前にマイクロ波を使用した酸によるポリエチレンテレフタレートプラスチックの処理を150℃の温度で5分間実施した。
-実施例の調製では、約500gの粉末状のポリエチレンテレフタレートプラスチックの実施例、約200gの四塩化ジルコニウム、および10mlの硝酸を使用した。
b 収率%はジルコニウムの初期量と比較して計算した。
【0067】
図1は、本発明の方法を使用してポリエチレンテレフタレートプラスチック試料から調製された金属有機構造体が、データベースからの理論に従って、UiO-66のPXRDパターンに対応し、それと一致する特性を有することを示す。
【0068】
表2の実験結果から、同じ合成時間(120分)で、マイクロ波支援合成のステップの温度を100℃から120℃および140℃にそれぞれ上昇させると、収率がわずかに増加し、75%以上の収率を達成できることが見出された(実施例2、4および5)。
【0069】
同じ合成温度(120℃)では、わずか30分の合成時間でも、最大50%の収率を達成できることが見出された。合成時間を30分から60分に増加させると、収率がそれぞれ50%から83%に大幅に増加した。しかしながら、合成時間を60分から90分に増加させると、収率%がそれぞれ83%から73%に減少した。
【0070】
3)ポリエチレンテレフタレートプラスチックの実施例
0.04:1のポリエチレンテレフタレートプラスチック対硝酸の重量比、および0.01:1の四塩化ジルコニウム対硝酸の重量比で、3つの異なる供給源からのポリエチレンテレフタレートプラスチックボトル廃棄物の実施例を使用して上述の方法に従って金属有機構造体を調製することにより実験を行った。実験結果を
図3に示す。
【0071】
図3のグラフは、異なる供給源からのポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から調製された金属有機構造体の熱重量分析(TGA)を示す。
図3において、3つの供給源からのポリエチレンテレフタレートプラスチック試料を使用して本発明の方法に従って調製された金属有機構造体生成物は、それぞれ85.02%(供給源1)、86.11%(供給源2)および86.38%(供給源3)の重量減少%に相当する分解を示し、14.98%(供給源1)、13.89%(供給源2)および13.62%(供給源3)の残存灰を伴う不完全分解を示すことが見出された。このような実験結果から、3つの供給源からの金属有機構造体は、同様の熱安定性および純度を有することが示される。したがって、本発明による金属有機構造体を調製するための方法は、供給源にかかわらず、一般的なポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物に適用することができるため、効果的な方法である。
【0072】
上記の実験結果の全てにより、本発明によるポリエチレンテレフタレートプラスチック廃棄物から金属有機構造体を調製するための方法は、環境問題の軽減に役立つだけでなく、一般的に利用可能な方法と比較して、高い収率%を維持しながら、合成時間の短縮にも役立ち得ることが示される。
【0073】
本発明の最良の形態
本発明の最良の形態は、本発明の詳細な説明に記載されている通りである。
【国際調査報告】