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特表2025-503260炭化ケイ素含有ワークピースの製造方法および製造装置
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  • 特表-炭化ケイ素含有ワークピースの製造方法および製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】炭化ケイ素含有ワークピースの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
C23C16/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544962
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2023052049
(87)【国際公開番号】W WO2023148103
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】102022102373.7
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524159192
【氏名又は名称】ザ イエロー シック ホールディング ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】THE YELLOW SIC HOLDING GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】グルーリッヒ=ウェーバー・ジークムント
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA27
4K030BA29
4K030BA36
4K030BA37
4K030BA48
4K030JA10
(57)【要約】
炭化ケイ素を含有するワークピースを製造するための方法および装置が開示されており、そこにおいては、加熱された反応器(1)にブランク(2)が保持され、反応器(1)に、シリコン源として気体の四塩化ケイ素および炭素源として炭化水素ガスを含有するとともに炭化ケイ素の製造のための前駆体として機能するガス組成物が供給されて、ガス組成物の作用下において、炭化ケイ素を含有するワークピースがブランク(2)から製造される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素含有ワークピースを製造するための方法であって、
加熱された反応器(1)内にブランク(2)を保持し、
炭化ケイ素製造のための前駆体として機能し、かつシリコン源として気体の四塩化ケイ素および炭素源として炭化水素ガスを含有するガス組成物を、前記反応器(1)に供給し、
前記ガス組成物の作用下で前記ブランク(2)から前記炭化ケイ素含有ワークピースを製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記反応器(1)は900°Cから1300°Cの範囲の温度に加熱される方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記ガス組成物は、さらに、キャリアガスとして水素を含む方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法であって、
前記ブランク(2)は、少なくとも表面近くで炭化ケイ素に変化する炭素含有材料を含む方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法であって、
前記ブランク(2)は多孔質であり、前記ガス組成物からの成分が前記ブランク(2)に含浸する方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法であって、
前記ガス組成物中の四塩化ケイ素の割合に応じて前記ガス組成物中の炭化水素ガスの割合が時間とともに増加するように、前記反応器(1)に供給された前記ガス組成物が制御される方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法によって炭化ケイ素含有ワークピースを製造するための装置であって、
炭素含有ブランク(2)を、前記炭化ケイ素含有ワークピースへの変換を可能とする温度に保つように構成された加熱可能な反応器(1)と、
前記反応器(1)に接続された、シリコン源として気体の四塩化ケイ素および炭素源として炭化水素ガスを含有するとともに炭化ケイ素の製造のための前駆体として機能するガス組成物の供給源(5)と、
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素含有ワークピースを製造するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、その高い硬度、その熱伝導性、およびその特殊な半導体特性により、多くの用途にとって魅力的な材料である。
【0003】
欧州特許第2094622号明細書には炭化ケイ素含有ワークピースの製造方法が開示されており、そこでは、実質的に製造対象のワークピースの形状および寸法を有するグラファイトブランクが、反応器(炉)内で、炭素を含有するSiOの顆粒を含む前駆体に埋め込まれる。
【0004】
それから、炉内では、前駆体およびブランクが、不活性ガス雰囲気下で約1800°Cの温度にさらされる。炭素熱反応において、Si-C含有ガスが、前駆体から放出されてブランクに含浸し、その材料を炭化ケイ素に変化させる。これにより、炭化ケイ素を含有するワークピースがブランクから作製される。
【0005】
この技術において用いるための、炭素を含有するSiOの固体前駆体は、保管と取り扱いが比較的簡単である。しかし、ブランクと接触し得る前駆体の量が限られるとともに、プロセス中に炉に固体前駆体を供給することが困難であるため、固体の前駆体では炉内でのプロセスに限界がある。
【0006】
基板の表面を炭化ケイ素でコーティングする隣接分野では、化学気相成長(CVD)法により気相から非多孔質基板表面に被膜を堆積させることが知られている。通常、基板表面には、シリコンおよび炭素のソースとして機能するメチルトリクロロシラン(SiCHCl、MTS)を含有し、かつ搬送ガスとして任意に水素(H)を含有するガスが供給される。メチルトリクロロシランは、すでに、SiCコーティングのための化学量論的比率でSiおよびCを供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2094622号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、欧州特許第2094622号明細書に係る方法では、粒状の前駆体を、CVDプロセスから知られるH-MTSガスで単純に置換することはできない。なぜなら、グラファイトブランクが、SiおよびCの量比について考慮されなければならないもうひとつの炭素源であるからである。反応生成物の化学量論的比率からはずれると、製造される炭化ケイ素の魅力的な特性を損なう。グラファイトブランクと併用してメチルトリクロロシランを前駆体として用いる場合、反応生成物のSi-C比は、限られた範囲内でしか制御できない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術よりも効率的であり、かつより正確に制御可能な、炭化ケイ素を含有するワークピースを製造するための方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、添付の特許請求の範囲に記載された方法および装置により達成される。
【0011】
本発明では、炭化ケイ素含有ワークピースの製造において、シリコン源として気体の四塩化ケイ素(SiCl)および炭素源として炭化水素ガスを含有するガス組成物を、炭化ケイ素形成のための前駆体として用いる。必要に応じて、さらなるシリコンおよび/または炭素材料源が存在してもよい。前駆体としてガス組成物を用いることにより、ワークピース製造用の反応器へ前駆体を簡単に投与および導入することが可能になる。ガス組成物におけるシリコン源および炭素源に、異なるガスを用いることにより、前駆体中のシリコンおよび炭素の量比を簡単かつ正確に調整することができる。
【0012】
炭素源としての炭化水素ガスは、通常、メタン、エタン、プロパン、またはブタンなどの短鎖アルカンであり、典型的にはメタンおよび/またはブタンである。シリコン源としての四塩化ケイ素は、CVD技術から知られるメチルトリクロロシランと比べて、不燃性であるため取り扱いが容易であり、比較的安価でもあるという、さらなる有利な点を有している。
【0013】
ガス組成物には、キャリアガスとして水素も含有されていてもよい。
【0014】
ガス組成物は、ブランクの気相含浸(化学気相含浸法、CVI)のために有利に用いられ、炭化ケイ素含有ワークピースは、ブランクの少なくともその表面近くにガス組成物の成分を含浸させてブランクの材料を少なくとも部分的に炭化ケイ素に変えることによってそのブランクから製造される。固体前駆体に比べて、ガス組成物は、ブランクが気相含浸にさらされる反応器にプロセス中に簡単に供給することができる。
【0015】
本願において、ブランクの表面は、通常、多孔質である。本発明は、特に炭素またはグラファイトのブランクへの含浸に適している。
【0016】
特に有利な点は、ブランクの細孔内におけるガスの炭素含有成分およびシリコン含有成分の拡散挙動が異なる場合、または、グラファイトブランクの場合など、ブランク内に炭素が存在する場合であっても、ブランク内に化学量論的炭化ケイ素が最終的に生成されるようにガス組成物中の四塩化ケイ素と炭化水素ガスとの量比を調整できることである。また、例えば、プロセス中のブランクの細孔の狭小化やブランク内におけるSiCへの変換に利用可能な炭素の減少を考慮するために、プロセス中に量比を変更することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に、本発明の実施形態に係る、炭化ケイ素含有ワークピースを製造するための装置を模式的に示している。
【0018】
図1に示す炭化ケイ素含有ワークピースの製造装置は、加熱可能な反応器1として炉を備えており、これには、多孔質炭素含有材料で作製されたブランク2が収容される。ブランク2は、基本的に、製造対象の炭化ケイ素含有ワークピースの形状および寸法を有している。好適な炭素含有材料はグラファイトであり、これは、機械加工が容易で、製造されるワークピースの形状で提供することができる。あるいは、ブランクを、例えば、炭素繊維で作製された製造物とすることもできる。
【0019】
反応器1は、ガス源5から矢印4の方向にガス組成物を反応器1へ導入するためにガス源5に接続されたインレット3を有している。さらに、反応器1は、反応器1から矢印7の方向に気体反応生成物を排出するためのアウトレット6を有している。
【0020】
ガス源5により供給されるガス組成物は、シリコン源として気体の四塩化ケイ素(SiCl)、炭素源として炭化水素ガス、搬送ガスとして水素を含有する混合物である。炭化水素ガスは、好ましくは、アルカン、特にメタンおよび/またはブタンである。ガス源5は、ガス組成物の構成成分を別々に反応器1に導入することができる。ただし、事前に成分を組み合わせて混合物を生成して、インレット3を介してその混合物を反応器1に供給することが好ましい。これにより、ガス組成物におけるシリコンと炭素との量比を制御することができる。
【0021】
反応器1に供給されたガス組成物は、900°Cから1300°Cの範囲の温度でブランク2と反応する。ガス組成物からの成分が多孔質ブランク2に含浸して、CVI(化学気相含浸法)プロセスでブランク2の材料を少なくとも部分的に炭化ケイ素に変化させ、炭化ケイ素含有ワークピースを生成する。
【0022】
ブランク2にすでに存在する炭素を考慮すると、ガス源5によって反応器1に供給されたガス組成物は、ブランク2の材料が化学量論的炭化ケイ素SiCに変換されるように、シリコン原子よりも少ない炭素原子を含有する必要がある。プロセス中にブランク2の利用可能な炭素が減少することを考慮するために、ガス源5は、プロセス中にガス組成物中の炭化水素ガスの割合がガス組成物中の四塩化ケイ素の割合に応じて増加するように、ガス組成物を制御することができる。
【0023】
基本的に、CVIプロセスは、等温(ブランク2全体の温度が、均一、かつ空間的に均等)、等圧(ブランク2表面上のガス組成物の圧力が、均一、かつ空間的に均等)であるか、または、ブランク2上の温度勾配および/または圧力勾配下(勾配プロセス)で行うことができる。
【0024】
等温等圧CVIプロセスでは、ブランク2が、そのあらゆる側面にガス組成物(不図示)が到達できるように反応器内に自由に配置される。ガス組成物の成分は、濃度勾配によって動かされて、ブランク2に基本的にあらゆる側面から拡散する。反応器1内の温度は、900°Cから1300°Cの範囲の均一な値に維持される。
【0025】
温度勾配および圧力勾配を有する勾配プロセスでは、図示するように、ブランク2が、インレット3に接続された第一チャンバ8とアウトレット6に接続された第二チャンバ9とに反応器の内部を分割するように反応器1に挿入される。ガス源5からガス組成物を導入することにより、第一チャンバ8内に第二チャンバ9よりも高い圧力が生じ、したがって、ブランク2の、インレット3に面する側からアウトレット6に面する側へ圧力勾配が生じる。第二チャンバ9は900°Cから1300°Cの範囲の温度に加熱され、第一チャンバ8は、弱めの加熱によってあるいは冷却によってさえ第二チャンバ9よりも低い温度に保たれ、その結果、ブランク2の、インレット3に面する側からアウトレット6に面する側へ温度勾配が生じる。圧力勾配および温度勾配により、ブランク2へのガス組成物の構成成分の拡散が促進されるので、炭化ケイ素含有ワークピースへの含浸および変換が促進される。
【0026】
好適に多孔質グラファイトから作製されたブランク2は、CVDまたはPVDプロセスにおいてのようにその表面上が炭化ケイ素で単に被覆されるだけでなく、その深部において炭化ケイ素へ変換(変態)される。
【0027】
したがって、炭化ケイ素を含有するワークピースを製造するための記載の方法には、前駆体がガス組成物の形態で提供されるとの利点がある。この形態では、固体前駆体を用いる場合によくあるように前駆体を補充するためにプロセスを中断する必要がなく、プロセス中に前駆体を連続的に反応器1に供給することができる。さらに、ガス組成物は、シリコンおよび炭素源として機能する、異なるガスを含有するため、前駆体内のシリコンおよび炭素の間の量比を簡単かつ正確に調整可能である。

図1
【国際調査報告】