(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】炭化ケイ素の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/97 20170101AFI20250123BHJP
【FI】
C01B32/97
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024544963
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2023052089
(87)【国際公開番号】W WO2023148108
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】102022102320.6
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524159192
【氏名又は名称】ザ イエロー シック ホールディング ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】THE YELLOW SIC HOLDING GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】グルーリッヒ=ウェーバー・ジークムント
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146MA14
4G146MB02
4G146NA01
4G146NA05
4G146NB06
4G146NB09
4G146NB18
4G146QA01
4G146QA02
4G146QA05
(57)【要約】
炭化ケイ素の製造装置が開示され、この装置は加熱可能な反応器(1)を備え、反応器は、上側に、前駆体(7)を継続的に供給するための供給口(4)、下側に、反応器(1)で前駆体から形成された炭化ケイ素(10)を継続的に排出するための排出口(5)、供給口(4)と排出口(5)との間に内部空間(3)を有しており、供給口、排出口、および内部空間は、前駆体および炭化ケイ素が内部空間(3)を通過して供給口(4)から排出口(5)へ落下するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を製造するための装置であって、
反応器(1)を備え、前記反応器(1)は、上側に、前駆体(7)を連続的に供給するための供給口(4)、下側に、前記反応器(1)内で前記前駆体から形成される炭化ケイ素(10)を連続的に排出するための排出口(5)、前記供給口(4)と前記排出口(5)との間に加熱可能な内部空間(3)を有しており、前記供給口、前記排出口、および前記内部空間は、前記前駆体および前記炭化ケイ素がそれぞれ前記内部空間(3)を通過して前記供給口(4)から前記排出口(5)に落下するように配置されている装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置であって、
前記内部空間(3)を加熱するための加熱装置(11、12)を有する装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置であって、
前記加熱装置は、
前記内部空間(3)の第一の加熱ゾーン(13)を第一の温度に加熱するための第一の加熱装置(11)と、
前記内部空間(3)の、前記第一の加熱ゾーン(13)の下方に位置する第二の加熱ゾーン(14)を、前記第一の温度よりも低温の第二の温度に加熱するための第二の加熱装置(12)と、
を備える装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の装置であって、
前記前駆体(7)を前記供給口(4)に継続的に供給する供給装置(6)と、
前記供給口(4)から供給される前記前駆体の流れを前記内部空間(3)に分散するための仕切り(8)と、を備える装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の装置であって、
傾斜したバッフルプレート(15)を備え、当該バッフルプレートは、前記内部空間を通って落下する前記前駆体(7)または炭化ケイ素(10)の流れへ突き出して前記内部空間に前記前駆体(7)または炭化ケイ素(10)が留まる時間を制御する装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置であって、
前記バッフルプレート(15)の傾斜角度が調整可能である装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の装置を用いることによって炭化ケイ素を製造する方法であって、
前記前駆体(7)が、前記供給口(4)を介して前記反応器(1)に継続的に供給され、
前記前駆体(7)が、加熱された前記内部空間(3)を通過して前記排出口(5)まで落下して炭化ケイ素(10)に変わり、
前記排出口(5)から継続的に出てくる前記炭化ケイ素(10)が回収される方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、
前記前駆体(7)は粉末の形態で供給される方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法であって、
製造される前記炭化ケイ素(10)は粉末の形態である方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか一項に記載の方法であって、
前記前駆体(7)および前記炭化ケイ素(10)が、加熱された前記内部空間(3)を実質的に自由落下で通過する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素の製造、特に炭化ケイ素粉末の製造のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、その高い硬度、その熱伝導性およびその特殊な半導体特性によって多くの用途において魅力的な材料である。しかし、それらの特性の多くは、不純物によって損なわれる。高純度の炭化ケイ素は、特に半導体産業のプロセスに必要とされる。
【0003】
炭化ケイ素は、通常、高温の反応器(炉)内で、SiおよびCを含有する前駆体から炭素熱反応により生成される。前駆体の例として、SiO2および炭素含有成分の粉末または顆粒が挙げられる。
【0004】
炭化ケイ素の製造方法として周知なのはアチゾン(Acheson)法であり、この方法では、2000°C以上の温度の気抵抗炉内で、炭化ケイ素が、珪砂の形態の二酸化ケイ素とコークスの形態の炭素とからバッチで得られる。
【0005】
欧州特許出願公開第0476422号明細書には、るつぼまたはロータリキルン内のアルゴン下で1時間かけて1200から2000°Cの温度で二酸化ケイ素粉末およびカーボンブラックから炭化ケイ素を製造する方法が開示されている。
【0006】
これらの方法はバッチプロセスであり、反応器に予め装填された量の前駆体からバッチでSiCを製造する。ただし、バッチプロセスは、一バッチ内の量が限られるため、SiCの工業生産には不十分である。前駆体の再装填は、時間を要するとともに反応器の冷却および再加熱によるエネルギーの損失を伴い、生産時間全体にわたってプロセスパラメータを正確に制御することを困難にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0476422号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらに、既知の方法で製造された炭化ケイ素は、電子機器または半導体の製造などの多くの用途にとって十分な純度ではなく、さらに処理する前に、多くのコストをかけて洗浄しなければならない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、炭化ケイ素を製造するための、従来技術もより効果的な装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、添付の特許請求の範囲に記載された、炭化ケイ素を製造するための装置および方法により達成される。
【0011】
本発明により、反応器内で炭化ケイ素を継続的に生成することができ、この反応器内では、前駆体が反応器を通って落下するにつれて炭化ケイ素に変わる。前駆体および炭化ケイ素は、反応器の壁にほとんど接触しない。その結果、反応器内で生成される炭化ケイ素は実質的に汚染されない。反応器を通過して落下する間の留まり時間が比較的短いことにより、前駆体および生成される炭化ケイ素による異物の吸収も制限される。本発明は、高純度の炭化ケイ素の効率的な製造に理想的に適している。
【0012】
反応器を通って落下する間の通過または滞留時間は、ナノスケールまたはマイクロスケールの前駆体をナノ結晶またはマイクロ結晶の炭化ケイ素粉末に変えるのによく適している。ここで、ナノスケールまたはマイクロスケールとは、前駆体内の一次粒子のサイズ、すなわち、5から1000nmの範囲の粒径、典型的には約20から200または最大1000nmの範囲の粒径、または、1から1000μmの範囲の粒径、典型的には約1または20から200μmの範囲の粒径を示している。
【0013】
本発明による特性は、従来技術のような水平ロータリキルンでは達成することができない。製品への他の物質の導入を回避して、高品質の炭化ケイ素の製造に必要な純度を実現するには、ロータリキルンが高純度の炭化ケイ素で作製されなければならない。これは高価であり、技術的にほとんど実現不可能である。さらに、高純度の炭化ケイ素を製造するために、炉チャンバを不活性ガスで満たして外部の大気からシールする必要がある。しかし、ロータリキルンにおいては、1800°Cから2000°C程度の温度でも可動部をシールするのは困難である。可動部をシールしても前駆体を供給および排出できるようにするのは、技術的にほとんど不可能である。さらに、前駆体が炭化ケイ素製造用の従来のロータリキルンを通過する時間は長すぎる。本発明ではこれらの問題は発生しない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る炭化ケイ素の製造装置を示す。
【0015】
以下において、「上」および「下」などの、方向および向きに関する言及は、炭化ケイ素の製造方法において意図通りに使用される場合の装置の向きを示す。
【0016】
図1に示す炭化ケイ素の製造装置は、加熱可能な反応器1である炉を備えている。反応器1は、内部空間3を囲むジャケット2を備え、このジャケット2には、反応器1の上部または頂部にある内部空間3上端に供給口4が設けられ、反応器1の下部または底部にある内部空間3下端に排出口5が設けられている。この実施形態では、ジャケット2は、基本的に垂直なチューブとして形成されている。供給口4および排出口5は、基本的に、垂直方向に上下に位置している。内部空間3には、好ましくは、不活性ガス、例えばアルゴンが充填されている。
【0017】
供給口4の上方には、供給口4を介して内部空間3へ前駆体7を供給する供給装置6が配置されている。この配置では、前駆体が、重力によって、供給口4から内部空間3へ流れ落ちる。供給口4には、供給された前駆体7の流れをいくつかの平行な流れに分割して内部空間3の断面積の大部分にわたって分散するための仕切り8が設けられているが、ジャケット2に前駆体7を不必要に向けることはない。
【0018】
前駆体7は、SiおよびCを含有しており、一般的に、粉末または顆粒、例えばグラファイトまたはカーボンブラックなどの炭素含有成分を有するSiO2粉末として提供される。ナノスケールまたはマイクロスケールの前駆体、すなわち、一次粒子径が5から1000nmの範囲、典型的には約20から200または最大1000nmのナノスケール粒子を含む前駆体、または一次粒子径が1から1000μmの範囲、典型的には約1または20から200μmのマイクロスケール粒子を有する前駆体が好適である。前駆体は、製造される炭化ケイ素の要求純度に対応する純度を有している必要がある。
【0019】
排出口5の下方には、反応器1内で前駆体7から生成されて、重力によって排出口5を通って内部空間3から出る炭化ケイ素10のための回収装置9が配置されている。回収装置9は、容器、または、炭化ケイ素10用の傾斜面または搬送ベルトとして設計された排出装置とすることができる。
【0020】
反応器1は静止しているから、不活性ガスで満たされた内部空間3に外部の大気が入らないように、例えば、供給口4と供給装置6との間のシールおよび排出口5と回収装置9との間のシールによって、または反応器1周りのケーシング(不図示)によって簡単な方法で密閉することができる。
【0021】
反応器1は加熱され、ジャケット2にはそのための加熱装置11、12が1つ以上設けられている。内部空間3の上部の第一の加熱ゾーン13を第一の温度に加熱するために上部の第一の加熱装置11が設けられ、内部空間3の下部の第二の加熱ゾーン14を第二の温度に加熱するために下部の第二の加熱装置12が設けられることが好ましい。作動中、第一の温度は、約1600から1900°Cの範囲内、好ましくは約1800°Cであり、第二の温度は、第一の温度よりも低温であり、好ましくは約1500から1700°Cの範囲内である。
【0022】
したがって、供給口4から内部空間を通って降りる前駆体は、まず、第一の加熱ゾーン13内で第一の温度にさらされ、それにより炭素熱反応が開始して中間生成物が形成され、この中間生成物が第二の加熱ゾーン14内で第二の温度で反応して炭化ケイ素10を形成し、この炭化ケイ素が排出口5から出てくる。このようにして、前駆体7の粒子が炭化ケイ素10のナノ結晶またはマイクロ結晶の粒子に変わる。炭化ケイ素10は、回収装置9によって粉末として回収される。
【0023】
前駆体7および炭化ケイ素10の粒子は、基本的に重力下の自由落下で、供給口4から内部空間3を通って排出口5へ搬送される。前駆体の粒径および第一のゾーン13および第二のゾーン14の垂直方向長さは、粒子の落ちる速度によって、第一の加熱ゾーン13で留まる時間すなわち加熱時間が約100から200ms、好ましくは約150msになるとともに、両加熱ゾーン13、14または全内部空間3内で留まるトータルの時間が約300から1000ms、好ましくは約400msになるように選択される。
【0024】
バッフルプレート15を任意に設けることができ、このバッフルプレート15は、図示した実施形態におけるように、ジャケット2から内部空間3の第一および/または第二の加熱ゾーン13、14に向けて下方に突出して前駆体7および/または炭化ケイ素10の粒子の落下を遮るので、継続的な自由落下と比べて、ゾーン13、14で粒子が留まる時間を延長する。バッフルプレート15の傾斜角度は、滞留時間を調整するために調整可能にすることができる。滞留時間は、内部空間3内の不活性ガスを上方に流して滞留時間を長くしたり、下方に流して滞留時間を短くしたりすることによって調整することもでき、例えば、内部空間3と、反応器1外部の供給および排出口4、5を相互接続する戻りライン(不図示)と、を通過する閉回路で不活性ガスを循環させることによって調整することもできる。
【0025】
加熱ゾーン13、14内において、前駆体7および炭化ケイ素10は、ジャケット2とほとんど接触せず、したがって、設けられたバッフルプレート15との接触を除いてほとんど接触せずに自由落下で搬送される。したがって、前駆体7および炭化ケイ素10は、不純物を吸収せず、生成される炭化ケイ素10は、使用される前駆体の純度に応じて高純度になり得る。生成される炭化ケイ素10に異物が入らないように、ジャケット2および設けられたどのバッフルプレート15も、炭化ケイ素で作製されるか、内部空間3に向けて炭化ケイ素でコーティングされることが好ましい。
【0026】
装置は、可動部をほとんど有していないため、非常に頑丈である。
【0027】
作動中、装置は、炭化ケイ素10の効率的な連続製造方法を可能とする。この方法において、前駆体7は、供給装置6によって連続継続的に供給口4から供給される。前駆体は、加熱された内部空間3を介して、すなわち、上述したように、特に第一および第二の加熱ゾーン13、14を介して落下して炭化ケイ素10に変わる。炭化ケイ素は排出口5から落下して、炭化ケイ素もまた継続的に回収装置9によって回収される。
【国際調査報告】