(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】五フッ化リンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/10 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
C01B25/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545004
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(85)【翻訳文提出日】2024-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2022051563
(87)【国際公開番号】W WO2023143692
(87)【国際公開日】2023-08-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524281080
【氏名又は名称】フルオールヘミー シュトゥルン ゲゼルシヤフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ベルガー トーマス フランツ
(57)【要約】
本発明は、五フッ化リン及びヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
五フッ化リン(PF
5)を製造するための方法において、
リン酸(H
3PO
4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
反応混合物が、前記反応混合物に基づいて、10質量%未満、特に5質量%未満、好適には3質量%未満の水含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される前記フッ化水素が、5kg/t未満、特に2kg/t未満、好適には1kg/t未満、好ましくは500g/t未満の水含有量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ化水素を液体の形態で使用することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ化水素を過剰に使用することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記リン酸が、最大20質量%、特に最大15質量%、好適には最大10質量%、好ましくは最大5質量%、特に好ましくは最大2質量%、極めて特に好ましくは最大1質量%の水含有量を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸が無水であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リン酸を微細な分散及び/又は少量で前記フッ化水素に添加することを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記リン酸を混ぜ合わせながら前記フッ化水素に添加することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
化学的反応を、15℃未満、特に10℃未満、好適には5℃未満の温度で実施することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記化学的反応に続いて、形成された五フッ化リンを前記反応混合物から取り出すことを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
気相を介して前記五フッ化リンを前記反応混合物から取り出すことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記五フッ化リンを、25℃未満、特に22℃未満、好適には20℃未満の温度で前記反応混合物から取り出すことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記五フッ化リンを、前記リン酸と前記フッ化水素との化学的反応に続く方法ステップで前記反応混合物から取り出すことを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(a)第1の方法ステップで、リン酸(H
3PO
4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、及び
(b)第1の方法ステップ(a)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(a)で形成された前記五フッ化リンを前記反応混合物から取り出すこと
を特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法、特に方法ステップ(a)を、連続的又は非連続的に、好適には連続的に実施することを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記五フッ化リンの取り出しに続いて、特に第3の方法ステップ(c)で、水を含有する前記フッ化水素をさらに使用又は処理することを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
(a)第1の方法ステップで、リン酸(H
3PO
4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、
(b)前記第1の方法ステップ(a)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(a)で形成された前記五フッ化リンを前記反応混合物から取り出すこと、
(c1)特に、方法ステップ(a)で生成するフッ化水素が、含水フッ化水素に基づいて、最大5質量%、特に最大2質量%、好適には最大1質量%、好ましくは最大0.5質量%の水含有量を有するまで、方法ステップ(b)で得られる前記フッ化水素を方法ステップ(a)に任意に返送すること、又は
(c2)方法ステップ(b)で得られた前記含水フッ化水素を任意に処理すること
を特徴とする、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を製造するための方法であって、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法によって得られる五フッ化リンをリチウム塩と化学的に反応させることを特徴とする、方法。
【請求項20】
前記リチウム塩が、炭酸リチウム、硫酸リチウム、フッ化リチウム、及びそれらの混合物から選択され、好適にはフッ化リチウムであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記五フッ化リンの前記リチウム塩との化学的反応を、溶液中で、特に溶媒中で行うことを特徴とする、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記溶媒が、フッ化水素、二酸化硫黄、アセトニトリル、及びそれらの混合物の群から選択され、特にフッ化水素、好適には液体フッ化水素であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プロセス工学、具体的には工業的合成、特に電解質の出発材料の製造の技術分野に関する。
特に、本発明は、五フッ化リンを製造するための方法に関する。さらに、本発明は、ヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)は、ヘキサフルオロリン酸(HPF
6)のリチウム塩であり、リチウムイオンバッテリ及びリチウムイオン蓄電池の電解質を製造するために通常使用されるリチウム塩である。ヘキサフルオロリン酸は、不安定であるが、硫酸の存在下でリン酸をフッ化水素酸又は蛍石(フッ化カルシウム、CaF
2)と反応させることによって水性形態で得ることができる。しかしながら、ヘキサフルオロリン酸の無水塩、特にヘキサフルオロリン酸リチウムは、この手法では調製することができないか、又は調製が非常に困難である。しかしながら、電解質の製造の場合、特にリチウムイオンバッテリ及びリチウムイオン蓄電池の場合、不所望な副反応を避けるために、使用される原材料は、完全に無水である必要がある。
無水ヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための重要な出発生成物は、五フッ化リン(PF
5)であり、これは、工業的には、五塩化リン(PCl
5)をフッ化水素(HF)中でこれと化学的に反応させることによって得られる。ここで、五フッ化リンは、リン元素から多段階合成で得られる。まず、リン元素を塩素元素と反応させて三塩化リン(PCl
3)にし、次いで、これをさらなるステップで塩素元素によって選択的に酸化させて五塩化リン(PCl
5)にする。その後、HF中での反応によって、塩化物がフッ化物と交換され、そのため、五フッ化リン及び副生成物としてHClが生成する。したがって、結果的に、五フッ化リンを得るためには、少なくとも三段階の反応操作が必要である。
【化1】
【化2】
【化3】
【0003】
この合成のさらなる欠点は、生成するHClを処分する必要があることである。
さらに、中間生成物である五塩化リンの使用は、さらなる理由から不都合である。例えば、塩素化された化合物、特に反応生成物、また副生成物も、一般に環境面から問題があり、手間をかけて処分する必要がある。さらに、五塩化リンは、吸湿性が強く、水を排除してもすぐにより安定した三塩化リン及び塩素元素に分解する。
記載されている特性を理由に、PCl5は、保護ガス下、小さな容器内でのみ輸送することができる。したがって、五フッ化リンを製造するための工業的な使用は、五フッ化リンの製造が五塩化リンの製造の直後に行われる場合にのみ可能である。
五フッ化リンは、ヘキサフルオロリン酸リチウムを得るために、通常、溶液中でフッ化リチウム(LiF)と化学的に反応させられる。
【0004】
【0005】
ここでは、例えば、フッ化水素、液体二酸化硫黄、又はアセトニトリルなどの様々な溶媒が使用され得る。
さらに、五フッ化リンを液体フッ化水素中でリチウム塩と化学的に反応させてヘキサフルオロリン酸リチウムにする方法も公知である。
さらに、独国特許出願公開第19614503号には、ヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法であって、まず、フッ化カルシウムをオートクレーブ内で五塩化リンと化学的に反応させて五フッ化リンにする方法が記載されている。その後、得られた五フッ化リンをフッ化水素中でリチウム塩と化学的に反応させてヘキサフルオロリン酸リチウムにする。
【0006】
しかしながら、オートクレーブの使用は、設備面及びエネルギー面の両方で手間がかかり、さらに、ここでもまた、塩素化された出発生成物から出発し、そのため、特にリチウムイオンバッテリ及びリチウムイオン蓄電池における使用の場合、ヘキサフルオロリン酸リチウムが、無水であるのみならず、無塩化物である必要もあることから、得られた五フッ化リンを、手間をかけて精製することが必要である。
したがって、従来技術では、最小限の数の反応ステップで済み、また安価であり良好に入手可能な安定した反応物から出発する、工業的に実施が簡単な、五フッ化リン又はヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法がなおも欠けている。
さらに、従来技術では、塩素化された出発物質の使用なしで済む、五フッ化リン又はヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法がなおも欠けている。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本発明の課題は、従来技術に関連する先に表した欠点を避けること、少なくとも軽減することである。
特に、本発明の課題は、特に安価で一般に入手可能な出発物から出発する、工業的に実行が簡単な、五フッ化リン及びヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法を提供することである。
さらに、本発明のさらなる課題は、塩素化された反応物又は中間生成物なしで済む、五フッ化リン及びヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法を提供することである。
したがって、本発明の第1の態様による本発明の対象は、請求項1に記載の五フッ化リンを製造するための方法であり、この発明態様のさらなる有利な構成は、これに関連する従属請求項の対象である。
本発明の第2の態様による本発明のさらなる対象は、請求項19に記載のヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法であり、この発明態様のさらなる有利な構成は、これに関連する従属請求項の対象である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に挙げられる特別な構成、特に、特別な実施形態などは、発明態様に関連して記載されているだけであり、他の発明態様に関しても相応して当てはまり、このことが明示的に言及される必要がないことは、自明のことである。
さらに、以下に挙げられる、相対的な又は百分率での、特に質量関連での量情報すべてにおいて、内容物質、添加物質、又は補助物質などの合計が常に100%又は100質量%になるように、これらの量情報が本発明の範囲で当業者によって選択されることに留意されたい。しかしながら、このことは、当業者にとって自明のことである。
さらに、以下に挙げられるパラメータ情報などはすべて、原則的に、規格化された若しくは明示的に規定された決定方法によって、又は当業者にとって一般的な決定方法によっても、決定又は特定することができると言える。
このことを前提として、本発明の対象を以下でより詳細に説明する。
【0009】
〔第1の態様〕
本発明の第1の態様によると、本発明の対象は、五フッ化リン(PF5)を製造するための方法であって、リン酸(H3PO4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させる、方法である。
リン酸をフッ化水素と化学的に反応させることによって、五フッ化リンが形成されるか、又は得られる。
特に、本発明による方法によって、ヘキサフルオロリン酸リチウムの製造に素晴らしく適した無水五フッ化リンを得ることが可能である。
本発明の特別な利点は、反応物としてリン酸が使用されること、すなわち、入手可能な材料が安価で工業的であることに見られる。したがって、本発明の範囲では、不安定な五塩化リンの手間のかかる合成を省略することができる。
さらに、一般に、本発明の範囲では、塩素及び塩素化された物質の使用を省略することができる。これは、一方では、環境保護の観点から好ましく、他方では、得られた生成物を塩素化された副生成物から手間をかけて分離する必要がないため、得られた生成物の著しくより簡単な処理も可能にする。
先に述べたように、リン酸とフッ化水素(水素フッ化物とも呼ばれる)との化学的反応によって、五フッ化リンが生成する。反応のさらなる生成物として水が形成されるが、これは、特に化学的に未反応又は過剰のフッ化水素によって結合される。リン酸及びフッ化水素の反応では、反応物と生成物との間の平衡が速やかに調整されるが、ただし、適切な反応操作では、使用したリン酸に関する反応を定量的に進行させることが可能である。そのためには、反応の平衡が、
【0010】
【化5】
完全に生成物側、すなわち、右側にあるため、好適には、過剰のフッ化水素を用いて作業する。
五フッ化リンは、-84.6℃の沸点を有し、その一方で、純粋なフッ化水素は、19.5℃の沸点を有し、そのため、形成された五フッ化リンを反応混合物から蒸留によって分離することが容易に可能である。これは、本発明による方法のさらなる利点である。その後、五フッ化リンの分離時に混入され得るフッ化水素を、好適には、例えば蒸留によって五フッ化リンから物理的に分離することができる。
リン酸の最も完全な化学的反応を達成するためには、水含有量を反応全体で可能な限り低く保つこと、すなわち、反応物が、可能な限り低い水含有量を有するのみならず、化学的反応中に形成される水の量が、使用されるフッ化水素(水素フッ化物)に比べて少ないことが有利である。
【0011】
本発明の範囲では、反応混合物が、反応混合物に基づいて、10質量%未満、特に5質量%未満、好適には3質量%未満の水含有量を有する場合、特に有用であることが証明されている。これらの水含有量は、可能であれば、五フッ化リンを製造するためのすべての方法段階にわたって維持され、すなわち、どの方法段階でも超過しない。超過は、たとえあったとしても、反応混合物からの五フッ化リンの取り出し後にのみ起こるべきである。
本発明の範囲では、使用されるフッ化水素が、5kg/t未満、特に2kg/t未満、好適には1kg/t未満、好ましくは500g/t未満の水含有量を有する場合に、特に良好な結果が得られる。含有量は、フッ化水素及び水の合計量、すなわち、水が混入しているフッ化水素にそれぞれ関連する。
特に好ましくは、使用されるフッ化水素は無水である。本発明の範囲では、無水フッ化水素とは、水を含んでいてもよいフッ化水素の質量に基づいて、1トン当たり100g(100g/t)未満のフッ化水素であると理解される。
【0012】
フッ化水素の前述の水含有量は、非常に良好な結果が得られ、またフッ化水素が好適に方法に導入されるべき範囲を示す。フッ化水素を複数回又は繰り返し利用する場合、例えば、バッチ式のみならず連続的な方法操作でも、以下でさらに述べるように、後続の方法サイクルにおいて、より高い水含有量で作業することもできる。
【0013】
本発明の範囲では、通常、フッ化水素を液体の形態で使用することが意図されている。
さらに、本発明の範囲では、好適には、フッ化水素を過剰に使用することも意図されている。本発明の範囲では、好適には、フッ化水素を反応物としても溶媒としても使用する。先にすでに述べたように、大過剰のフッ化水素によって、反応平衡を完全又はほぼ完全に生成物側にシフトさせることが可能であり、そのため、使用したリン酸が、可能であれば定量的に科学的な反応をして五フッ化リンになる。ここで、過剰のフッ化水素は、好適には、反応混合物の上述の水含有量を超過しない程度に多い。
先にすでに述べたように、本発明の範囲では、使用される反応物が、可能な限り低い水含有量を有することが好ましい。
リン酸に関連する限りでは、本発明の範囲では、リン酸が、水を含んでいてもよいリン酸、すなわち、H3PO4と水との混合物に基づいて、最大20質量%、特に最大15質量%、好適には最大10質量%、好ましくは最大5質量%、特に好ましくは最大2質量%、極めて特に好ましくは最大1質量%の水含有量を有することが意図され得る。したがって、同様にリン酸に関して、当然のことながら、リン酸が、可能な限り低い割合の水を有することが好ましい。
【0014】
しかしながら、本発明の範囲では、反応物として市販の85%のリン酸を使用することも容易に可能である。これも、大過剰のフッ化水素と化学的に反応させて無水五フッ化リンにすることができ、これは、反応混合物から問題なく取り出すことができる。しかしながら、フッ化水素の高い水和エンタルピーを理由に、反応物が、可能な限り水が少ないか、又は無水でさえあることが好ましい。というのも、そうでなければ、反応混合物からの五フッ化リン及び/又はフッ化水素の未制御の排ガスを防ぐために、反応混合物を大幅に冷却する必要があるからである。
本発明の範囲では、リン酸が無水であることが特に好ましい。無水リン酸は、固体であり、微粉末として使用することができる。無水リン酸を使用する場合、最良の結果が得られる。
本発明の好ましい実施形態によると、リン酸を微細な分散及び/又は少量でフッ化水素に添加することが意図されている。リン酸を、微細な分散及び/又は少量で、フッ化水素に、特に大過剰のフッ化水素に導入することには、反応熱が迅速に放散され、反応が完全に進んで五フッ化リンをもたらすという利点がある。
【0015】
同様に、本発明の範囲では、好ましくは、リン酸を混ぜ合わせながらフッ化水素に添加することが意図されている。
さらに、反応混合物の混ぜ合わせを反応期間全体にわたって継続することが好ましい。
ここで、本発明の範囲では、混ぜ合わせとは、特に、反応混合物の撹拌、特に反応混合物の一定の撹拌、又はリン酸をフッ化水素に注入することと理解される。特にリン酸が微細な分散又は少量でフッ化水素に添加される場合、反応混合物を好適には激しく一定に混ぜ合わせることによって、副反応を避けることができる。副反応としては、特に、リン酸のオリゴマー化又はポリマー化が観察され、これは、フッ化水素の吸水作用がリン酸へのフッ化物の蓄積よりも強い場合に生じる。しかしながら、反応混合物を激しく撹拌すること又は激しく混ぜ合わせることによって、この副反応に効果的に対抗することができる。導入されたリン酸が大過剰のフッ化水素中ですぐに微細に分散される場合、五フッ化リンへの完全な化学的反応が観察される。それに対して、リン酸が十分に迅速に分散されない場合、特に反応混合物が十分に混ぜ合わせられていない場合、記載されている重合反応が観察される。これらの副反応及びそれらの生成物は、さらなる反応進行を妨げないが、重合したリン化合物が反応混合物中に残留するため、これらは、収率を低下させる。
【0016】
さらに、不都合な反応操作の場合、反応が、五フッ化リンまで完全には進行せず、三フッ化酸化リン(POF3)までしか進まないことがある。しかしながら、ここでも、大過剰のフッ化水素によって、POF3の形成を阻止することができる。高過剰なフッ化水素及び低い水含有量によって、PF5への化学的反応が促進される。それでいて、さらに、POF3は、反応操作を妨げるのではなく、収率を低下させるだけである。POF3は、PF5の沸点-84.6℃よりも著しく高い-39.7℃の沸点を有するため、排ガス条件又は蒸留条件の選択によって、PF5のみを反応混合物から選択的に取り出すことも同様に制御することができる。
ここで、化学的反応が実施される温度に関連する限りでは、これは、通常、フッ化水素の沸点を下回る温度、すなわち、19.5℃を下回る温度で実施される。化学的反応を、15℃未満、特に10℃未満、好適には5℃未満の温度で実施する場合、有用であることが証明されている。したがって、本発明の範囲では、反応条件、特に反応温度が、純粋なフッ化水素の沸点を下回ったままであることが好ましい。しかしながら、反応を加圧下で実施する場合、より高い温度を選択することもまったく可能である。
本発明の範囲では、通常、リン酸とフッ化水素との化学的反応に続いて、形成された五フッ化リンを反応混合物から取り出すことが意図されている。
【0017】
この関連で、気相を介して五フッ化リンを反応混合物から取り出す場合、有利であることが実証されている。先にすでに述べたように、五フッ化リンは、-84.6℃の沸点を有し、それに対して、フッ化水素は、19.5℃の沸点を有し、そのため、蒸留による分離、すなわち、気相を介した分離が容易に可能である。リン酸との化学的反応中、リン酸、特に85%のリン酸の水溶液を使用する場合特に、フッ化水素中の水濃縮を理由に、フッ化水素の沸点は、純粋なフッ化水素の沸点よりなおも著しく高い。ただし、五フッ化リンは、フッ化水素と一緒になって水素架橋結合を形成し、そのため、五フッ化リンが、反応混合物から取り出し可能であるためには、特に気相に移行するためには、ある特定の量のエネルギーを供給して五フッ化リンを単離する必要がある。本発明によると、五フッ化リンを、25℃未満、特に22℃未満、好適には20℃未満の温度で反応混合物から取り出す場合、有用であることが証明されている。
【0018】
同様に、本発明の範囲では、五フッ化リンを、-30℃~25℃、特に-20℃~22℃、好適には-15~20℃、好ましくは-10℃~19.5℃の範囲の温度で反応混合物から取り出すことが意図され得る。
したがって、反応混合物の加熱は、純粋なフッ化水素の沸点に達するまで行うことができるか、又はそれをわずかに上回るまででも行うことができる。先に述べたように、純粋なフッ化水素の沸点は、常圧で19.5℃であり、すなわち、常圧では、反応混合物は、五フッ化リンを反応混合物から取り出すために、19.5℃又はそれよりわずかに高くで加熱され得る。しかしながら、加圧及び高温で作業することもできる。
さらに、本発明の範囲では、五フッ化リンを、リン酸とフッ化水素との化学的反応に続く方法ステップ、特に第2の方法ステップ(b)で反応混合物から取り出す場合、有用であることが証明されている。原理的には、五フッ化リン及びフッ化水素の沸点の差が大きいことを理由に、五フッ化リンを、生成直後に反応混合物から取り出すこと、特に気相に転換させることも可能であるが、この場合、再現可能な制御された条件を設定することが非常に困難である。したがって、好適には、反応混合物からの五フッ化リンの取り出しは、化学的反応に続く方法ステップで実行される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によると、
(a)第1の方法ステップで、リン酸(H3PO4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、
(b)第1の方法ステップ(a)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(a)で形成された五フッ化リンを反応混合物から取り出すこと
が意図されている。
【0020】
本発明のこの特別な好ましい実施形態については、さらなる実施形態に関連して記載されている前述の特徴、特別な点、及び利点すべてが相応して当てはまる。
本発明の範囲では、方法、特に方法ステップ(a)を、連続的又は非連続的に、好適には連続的に実施する場合、有用であることがさらに証明されている。本発明による方法は、例えば液体フッ化水素を反応器内に装入し、激しく撹拌しながらリン酸を添加することによって、非連続的に、すなわちバッチ式で実施することができる。反応の終了後に、反応混合物は加熱され、それにより五フッ化リンが、選択的に、気相に移行し、反応混合物から取り出される。
しかしながら、本発明の範囲では、方法操作、特にリン酸のフッ化水素との化学的反応が、例えば管状反応器内で連続的に進行し、その際、まず混ぜ合わせながら、リン酸及びフッ化水素の化学的反応を実施し、その後、形成された五フッ化リンを、好適にはさらなる連続プロセスにおいて、例えば管状反応器のさらなるセクション内又はさらなる管状反応器内で、反応混合物から取り出すことが好ましい。
【0021】
本発明の範囲では、有利には、五フッ化リンの取り出しに続いて、特に第3の方法ステップ(c)で、水を含有するフッ化水素をさらに使用又は処理することが意図されている。
本発明の範囲では、好適には、反応の実施後に水及びリン化合物が混入していてもよい使用されるフッ化水素を、特にリン酸とのさらなる再度の化学的反応のためにさらに使用することが意図されている。ここで、リン化合物によって起こり得る混入は妨げとならないが、水含有量は重大である。
例えば、フッ化水素は、水及びフッ化水素の合計量に基づいて、2質量%以下、特に1質量%以下、好適には0.5質量%以下の水を有するべきである。水割合がより高い場合、五フッ化リンへのリン酸の完全な化学的反応を達成することが特に難しくなる。水含有量が高くなり過ぎる場合、残りの反応混合物、いわゆるサンプ(Sumpf)からの五フッ化リンの取り出し後に、無水フッ化水素を問題なく留去し、その後、五フッ化リンを製造するために再度使用することができる。水性フッ化水素酸が残留し、これは、任意にリン含有不純物の取り出し後に、様々な商業的目的に使用することができる。
【0022】
したがって、本発明の範囲では、好適には、
(a)第1の方法ステップで、リン酸(H3PO4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、
(b)第1の方法ステップ(a)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(a)で形成された五フッ化リンを反応混合物から取り出すこと、
(c1)特に、フッ化水素が、含水フッ化水素に基づいて、最大2質量%、好適には最大1質量%、好ましくは最大0.5質量%の水含有量を有するまで、方法ステップ(b)で得られたフッ化水素を方法ステップ(a)に任意に返送すること、又は
(c2)方法ステップ(b)で得られた含水フッ化水素を任意に処理すること
が意図されている。
【0023】
その後、方法ステップ(c2)で処理されたフッ化水素を、方法ステップ(a)で再び使用することができるか、又は他の箇所で使用することもできる。
ここで、本発明の範囲では、方法ステップ(a)における返送とは特に、バッチ式で、五フッ化リンの取り出し後に、なおも反応器内に存在するフッ化水素にさらなるリン酸を添加することと理解される。連続的な方法操作の場合、方法ステップ(a)における返送とは特に、五フッ化リンの取り出し後に残留している含水フッ化水素を、リン酸と再度反応させ、特に反応器内に再び導入して、リン酸との化学的反応によって五フッ化リンを製造することを意味すると理解される。
【0024】
〔第2の態様〕
本発明の範囲で得られる五フッ化リンは、無水であり、塩素含有不純物を決して含有しておらず、そのため、これは、ヘキサフルオロリン酸リチウムの製造に素晴らしく適している。ヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための適切な方法は、従来技術で公知である。特に、リチウム塩、特にフッ化リチウムを液体フッ化水素中で五フッ化リンと化学的に反応させることによって、ヘキサフルオロリン酸リチウムを得ることが可能である。
本発明の第2の態様によると、本発明のさらなる対象は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を製造するための方法であって、上記の方法によって得られる五フッ化リンをリチウム塩と化学的に反応させる、方法である。
本発明の範囲では、リチウム塩が、炭酸リチウム、硫酸リチウム、フッ化リチウム、及びそれらの混合物から選択されることが好ましい。好ましくは、リチウム塩はフッ化リチウムである。
本発明の範囲では、好適には、五フッ化リンのリチウム塩との化学的反応を、溶液中で、特に溶媒中で行うことが意図されている。これに関連して、特に良好な結果は、溶媒が、フッ化水素、二酸化硫黄、アセトニトリル、及びそれらの混合物の群から選択される場合に、特にフッ化水素、好適には液体フッ化水素である場合に得られる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によると、
(A)第1の方法ステップで、リン酸(H3PO4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、
(B)第1の方法ステップ(A)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(A)で形成された五フッ化リンを反応混合物から取り出すこと、及び
(C)方法ステップ(B)で得られた五フッ化リンを、特に液体フッ化水素中でリチウム塩と化学的に反応させ、それにより、ヘキサフルオロリン酸リチウムを形成すること
が意図されている。
本発明のこの特別な実施形態については、さらなる実施形態に関連して挙げられている前述の利点、特徴、及び特別な点すべてが相応して当てはまる。
【0026】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、
I)第1の方法セクションで五フッ化リンを形成し、
(a)第1の方法ステップで、リン酸(H3PO4)をフッ化水素(HF)と化学的に反応させ、五フッ化リンを形成すること、
(b)第1の方法ステップ(a)に続く第2の方法ステップで、方法ステップ(a)で形成された五フッ化リンを反応混合物から取り出すこと、
(c1)特に、フッ化水素が、含水フッ化水素に基づいて、最大2質量%、好適には最大1質量%、好ましくは最大0.5質量%の水含有量を有するまで、方法ステップ(b)で得られるフッ化水素を方法ステップ(a)に任意に返送すること、又は
(c2)方法ステップ(b)に続いて得られた含水フッ化水素を任意に処理すること、
II)後続の方法セクションで、方法セクションIの方法ステップ(b)で得られた五フッ化リンを、好ましくは液体フッ化水素中で、リチウム塩、特にフッ化リチウムと化学的に反応させ、それにより、ヘキサフルオロリン酸リチウムを得ること
が意図されている。
さらなる実施形態に関連して表される前述の利点、特徴、及び特別な点はすべて、この特定の実施形態に当てはまる。
この発明態様のさらなる詳細については、五フッ化リンを製造するための本発明による方法に関する上記の記載を参照することができ、これは、ヘキサフルオロリン酸リチウムを製造するための方法に関しても相応して当てはまる。
【国際調査報告】