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特表2025-503327汚染物質の組み合わせた電気化学的前処理および収着
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】汚染物質の組み合わせた電気化学的前処理および収着
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20250123BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20250123BHJP
【FI】
C02F1/461 101B
C02F1/28 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024566186
(86)(22)【出願日】2023-01-25
(85)【翻訳文提出日】2024-09-17
(86)【国際出願番号】 US2023011529
(87)【国際公開番号】W WO2023146905
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】63/302,899
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524278389
【氏名又は名称】クラロス テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アッバス、アブデヌール
(72)【発明者】
【氏名】ブロックグレイテンズ、ジョン ウィルフリッド
(72)【発明者】
【氏名】レスリー、エヴァン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ブロデリック、コナー ホーガン
【テーマコード(参考)】
4D061
4D624
【Fターム(参考)】
4D061DA08
4D061DB18
4D061DB19
4D061DC09
4D061DC17
4D061DC19
4D061DC20
4D061DC22
4D061DC25
4D061DC26
4D061DC28
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4D061EA09
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4D061EB29
4D061EB30
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4D624AA09
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4D624BB00
4D624BB08
4D624BC01
4D624DB09
4D624DB22
4D624DB23
(57)【要約】
本発明は、電気化学的処理および収着の組み合わせを使用して、コンタミナントまたは汚染物質を流体から除去するシステムおよび方法に関する。本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、汚染物質を水または他の流体から除去することができる。本明細書に記載のシステムおよび方法は、水などの汚れた流体に電流を印加する。その結果、標的コンタミナントはイオン化され、電気的勾配または分極の使用によって反応性収着媒体に押し通される。収着剤は、コンタミナントに化学的に結合する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルを備える標的化汚染物質を除去するためのシステムであって、前記電気化学セルが、
a.カソードを含む第1の流体チャンバ;
b.アノードを含む第2の流体チャンバ
c.前記第1および第2のチャンバ間の流体ブリッジ内に配置された収着剤であって、前記第1および第2の流体チャンバ間の電流の通過を可能にする、収着剤
を備える、システム。
【請求項2】
前記電気化学セルが、前記標的汚染物質の溶解、イオン化、および収着を同時になすように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記標的汚染物質が水中にある、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記標的汚染物質がナノメートルスケールの固体を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記汚染物質がマイクロメートルスケールの固体を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記標的汚染物質が固体水銀を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記標的汚染物質がナノメートルまたはマイクロメートルスケールの固体の混合物を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムを使用して、標的化汚染物質を流体から除去する方法であって、
a.前記汚染物質を含有する前記流体を、前記第1または第2のチャンバのいずれかに添加すること;
b.前記第1または第2のチャンバの他方に流体を添加すること;
c.前記電気化学セルに外部から印加電圧を印加すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2023年1月25日に出願され、名称が「汚染物質の組み合わせた電気化学的前処理および収着(COMBINED ELECTROCHEMICAL PRE-TREATMENT AND SORPTION OF POLLUTANTS)」である米国仮特許出願第63/302,899号の優先権を主張し、その内容は、全体が本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
環境汚染は、工業プロセス、化石燃料、廃棄物処分、プラスチック、ならびに他のプロセスおよび材料によって引き起こされる可能性がある。多くの汚染物質は、人々に重大な害を引き起こす可能性を有し、一旦環境中に遊離すると、それらを除去することは極めて困難である。我々は生存するために清浄な飲料水に依存し、かつ非常に低いレベルのコンタミネーションでさえ被害を与える可能性があるため、水路の汚染は特に懸念される。人々は、環境への汚染物質の放出を防止する必要性をますます認識している。しかしながら、環境は過去に放出された汚染物質によって既に汚れており、かつ有害な汚染物質は放出され続けているか、または環境中に漏出し続けている。
【0003】
汚染、特に重金属汚染および有機コンタミナント汚染は、水の浄化において重大な課題を呈している。水銀(Hg)のような構成要素からの無機重金属汚染は、食物連鎖に入ることによる水生生物およびヒトの健康に対する大きな脅威となる。地表水の水銀コンタミネーションは、魚での水銀蓄積をもたらし、世界中の健康機関が魚の消費ガイドラインを確立するように誘導している(Lamborgら、2014)。水銀および他の有毒金属の水からの除去は、採鉱作業、発電所、廃棄物処理施設、および歯科医院を含む多くの現場にとって重要な課題である。歯科では、例えば、銀、インジウム、およびスズを含む金属と共に、アマルガム充填材の成分として水銀が使用される(Georgeら、2009)。アマルガム充填剤が導入されるか、または削られる際に、水銀含有粒子は歯科医によって捕捉され、排水管に送られる。US-EPAによれば、米国には100,000を超える歯科診療所があり、毎年約5.1メートルトンのHgを公的所有の水処理場に排出しており、フィルタシステムの使用にもかかわらず、Hg除去のコストは年間8200万ドルである(Goodis、2017)。
【0004】
パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)および他の残留性有機汚染物質のような構成要素からの有機汚染もまた、水質に対する課題を呈している。PFASは、アルキル鎖の水素原子のすべての(パー-)またはいくつかの(ポリ-)がフッ素によって置き換えられている合成有機フッ素化合物の広いカテゴリーである。PFASは、防水コーティング、消火泡、および化学物質の製造に広く使用されている。これらの化合物は、動物およびヒトの両方において高度に移動性および生物蓄積性であることが示されており、がんおよび腎不全を含む関連する健康への影響をもたらす(Grandjean&Clapp、2015、Rahmanら、2014)。
【0005】
無機および有機コンタミナントを水から除去するための主な障害は、pH、イオン強度、および酸化還元電位を含む水質メトリクスの関数として、溶解度および表面電荷を変化させる能力である。金属の場合、化学的形態は、溶解したイオン形態から固相元素(ゼロ電荷)形態または固相酸化物/水酸化物にまで、これらの系内で変動し得る(Atwood&Zaman、2006)。同様に、有機化合物の全体的な電荷および溶解度は、化合物内の官能基のプロトン化および脱プロトン化と共に劇的に変化し得る(Nguyenら、2020)。これらの混合相の存在は、従来のフィルタシステムを用いた除去を複雑にしている。アマルガム分離器などの従来のフィルタシステムの1つの重要な限界は、空気流または水流からの非常に微細な固相または非荷電粒子の除去である。サイズが10ナノメートル(nm)~3マイクロメートル(μm)の範囲のこれらの粒子は、通常、3~0.5μmより大きな粒子を除去する従来のサイズ排除フィルタシステムを通過することができる(Stoneら、2008)。さらに、これらの小さな粒子は帯電しておらず、通常、活性炭のような吸着媒体と相互作用しない(Gaiら、2019、Kahら、2021)。イオン交換樹脂のような他の選択的吸着材料は、除去される構成要素の全体的な電荷に大きく依存する(Kahら、2021、Kucharzykら、2017)。
【0006】
混合相コンタミネーション流を処理するための現在のアプローチとしては、イオン性構成要素を沈殿させるための凝固剤の添加、pHを安定化するための酸および塩基の添加、ならびに所望の化学的形態をもたらすための酸化剤または還元化学物質の添加が挙げられる。これらの方法は、化学物質の一定の制御された投入を必要とし、処理システムのためにより高い反復コストを招く。
【0007】
化学反応を促進するための電気の使用である電気化学は、環境浄化に利用されてきた。水の典型的なセットアップでは、アノードおよびカソードが水サンプルに加えられ、電流が印加される。標的構成要素はイオン化され、除去は、1)溶液中での沈殿および沈降、または2)電極の表面での収集の2つの機構によって達成される(Droguiら、2008、Pulkkaら、2014)。これらの方法は、それ自体が有害物質であり得る沈殿物の頻繁な除去および処分を必要とするという欠点を有する。さらに、電極の表面での材料の沈殿は、ファウリングおよび性能低下を引き起こす。
【0008】
汚染物質を捕捉し、汚染物質捕捉の最終産物を管理するための改善された方法が必要である。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、電気化学的処理および収着の組み合わせを使用して、コンタミナントまたは汚染物質を流体から除去するシステムおよび方法に関する。本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、汚染物質を水または他の流体から除去することができる。本明細書に記載のシステムおよび方法は、水などの汚れた流体に電流を印加する。その結果、標的コンタミナントはイオン化され、電気的勾配または分極の使用によって反応性収着媒体に押し通される。分極を達成するために、両方の電極(ベッセルの片側に配置されたアノード、ブリッジを構成する収着剤によって連結された反対側のベッセルに配置されたカソード)に電力が供給される。収着剤は、溶解したイオン化構成要素を収着媒体に化学的に結合するように作用する。
【0010】
一実施形態では、標的化汚染物質を除去するためのシステムは、電気化学セルを備える。電気化学セルは、カソードを含む第1の流体チャンバ、およびアノードを含む第2の流体チャンバを備える。収着剤は、第1および第2のチャンバの間の流体ブリッジ内に配置される。収着剤は、第1および第2の流体チャンバの間の電流の通過を可能にする。標的化汚染物質は、収着剤に押し通され、収着剤に化学的に結合する。
【0011】
本明細書は、本開示の様々な実施形態を形成すると見なされる主題を特に指摘し、明確に請求する特許請求の範囲を用いて締めくくられるが、本開示は、添付の図と併せて以下の説明からよりよく理解され得ると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】様々な実施形態による電気化学的処理システムの概略図である。
【0013】
図2】ある電気化学的処理システムの代替的な実施形態の概略図である。
【0014】
図3】ある電気化学的処理システムの別の代替的な実施形態の概略図である。
【0015】
図4】a.処理前およびb.処理後の廃水を含む電気化学システムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、電気化学的処理および収着の組み合わせを使用して、コンタミナントまたは汚染物質を流体から除去するプロセスに関する。本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、汚染物質を水または他の流体から除去することができる。本明細書に記載のシステムおよび方法は、水などの汚れた流体に電流を印加する。その結果、標的コンタミナントはイオン化され、電気的勾配の使用によって反応性収着媒体に押し通される。
【0017】
除去され得る汚染物質としては、カドミウム、鉛、水銀、金および銀などの無機汚染物質金属、ならびにPFAS、多環式芳香族炭化水素、ジオキサン、ホルモン、抗生物質化合物、および揮発性有機化合物(VOC)などの有機コンタミナントが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態は、2種以上の汚染物質を同時に吸収することができ得る。除去され得るPFASの例としては、パーフルオロオクタン酸(PFOA)およびパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などの合成有機フッ素化合物が挙げられる。様々な実施形態は、溶解したイオン形態、固相元素形態(ゼロ電荷)ならびに/または固相酸化物および水酸化物の組み合わせなどの混合相を有する汚染物質、ならびに条件に応じて2つ以上の電荷または溶解度を有する汚染物質に特に有用である。場合によっては、水から除去される構成要素は、捕捉され回収され得る価値のある物質である。例としては、リチウム、コバルト、カドミウム、ニッケル、銀、金、および白金のような無機材料、ならびに医薬化合物およびアミノ酸分子のような有機材料が挙げられる。
【0018】
様々な実施形態で利用される電気化学的プロセスは、以下の代表的な例に示すように、汚染物質の電気化学的処理、電気化学的酸化および還元のための2つの主な機構のうちの1つまたは複数を含み得る。
【0019】
電気化学的酸化:Hg(s)←→Hg2+(aq)+2e(aq)
【0020】
電気化学的還元:Ag2+(aq)+2e(aq)←→Ag(s)
【0021】
上記の例は、それぞれ水銀の酸化および銀の還元のプロセスを示しているが、これらは単なる例であり、他の酸化または還元プロセスが、本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して除去され得る他のコンタミナントのいずれかと共に用いられ得る。
【0022】
方法およびシステムは、収着媒体を介して互いに流体連通する2つのチャンバを含み、収着媒体の配置は、2つのチャンバ間のブリッジとして作用し、したがって第3のチャンバと考えられ得る。あるいは、別個のチャンバを含むのではなく、システムは、それらの間の収着媒体によって分離された第1および第2の部分を有する単一の大きなチャンバから形成されてもよい。したがって、本出願は、一般的に、第1、第2、第3、および第4のチャンバを論じているが、そのようなチャンバは各々、代替的に1つまたは複数のチャンバが、別々のチャンバではなくチャンバの部分であり得る別個のベッセルであり得ることを理解されたい。第1および第2のチャンバは各々、カソードまたはアノードのいずれかの電極を備え、カソードおよびアノードは各々、一方または他方のチャンバに配置される。第3のチャンバまたはブリッジチャンバは、ブリッジチャンバ内の流体接続部の全断面を占める収着剤を含む。したがって、第1および第2のチャンバ間の唯一の流体接続は、ブリッジチャンバを通り、ブリッジチャンバ内の収着剤を通る。カソードおよびアノードは、電流がシステムに印加され得るように電源に接続される。電流が印加されると、標的汚染物質(複数可)は、本開示で後述するように収着剤によって捕捉され得る化学的形態に変換される。
【0023】
第1および/または第2のチャンバは、場合により、電気分解を促進するための添加剤などの添加剤を含み得る。例えば、第1のチャンバおよび/または第2のチャンバは、とりわけ、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、または塩化亜鉛などの電解質塩、ならびに塩酸、硫酸、または酢酸などの他の添加剤などの1種または複数の添加剤を含み得る。第1または第2のチャンバの一方は、水などの汚染されていない流体を含み得る一方、第1または第2のチャンバの他方は、システムを使用した除去の標的となる汚染物質を含む廃水などの汚染された流体を含み得る。
【0024】
ブリッジチャンバに含まれる収着剤は、汚れた流体から1種または複数の標的汚染物質を除去するために選択された標的化収着剤であり得る。使用され得る収着剤の例としては、イオン樹脂、活性炭、およびナノコンポジット収着剤、例えばClarosafe Hg(Clarosafe Hgは、Claros Technologies Incの商標であり、米国特許出願公開第2021/0331137号の主題であり、それらの関連部分は参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられ、例えば水銀または他の適切な標的汚染物質の廃水処理が望まれる場合。使用され得る収着剤としては、水からの標的汚染物質の結合または収着を可能にする広い表面積を有する材料が挙げられる。これらの結合相互作用としては、静電相互作用、水素結合、共有結合、およびイオン交換が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載のような電気化学デバイスでの用途のために、これらの収着剤は、好ましくは本質的に多孔質であり得、システムのチャンバ間の電気の流れを妨げ得ない。
【0025】
Clarosafe Hgなどのナノコンポジット収着剤は、様々な実施形態で使用されて、汚染物質が収着剤に結合するように、1種または複数の汚染物質を流体から吸収し得る。その後、いくつかの実施形態では、汚染物質は収着剤から放出され得、収着剤はリサイクルされ得、汚染物質は無害化され得る。様々な種類の収着システムが使用され得る。いくつかの実施形態では、収着剤は、ポリウレタンなどの発泡体を含む。いくつかの実施形態では、収着システムはナノ粒子を含む。いくつかのそのような実施形態では、収着システムは、ナノコンポジットとして発泡体マトリックス上および発泡体マトリックス内にナノ粒子を有する発泡体などの支持マトリックスを含む。いくつかの実施形態では、ナノコンポジットは、支持マトリックスの表面および支持マトリックス内に金属または非金属ナノ粒子を含む二相材料である。ナノ粒子は、約1nmおよび1000nm、または約100nm~700nmなどのナノスケール範囲のサイズを有し得る。マトリックスは多孔質であり得、スポンジ様構造を有し、ナノ粒子は細孔全体にわたってマトリックスの多孔質の内面および外面に結合している。マトリックスは、その表面に結合した金属または非金属ナノ粒子のための支持構造として機能し得る。いくつかの実施形態では、粒子は、銅、ヨウ素、銀、スズ、亜鉛、チタン、セレン、ニッケル、鉄、セリウム、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、酸化銅、二酸化チタン、酸化鉄および酸化亜鉛などの1種または複数の金属もしくは金属酸化物、セレンおよび炭素などの非金属(グラフェン、グラファイトおよびそれらの酸化物を含む)、あるいはこれらもしくは他のナノ粒子またはそれらの合金の2つ以上の組み合わせであり得る。様々な実施形態において有用なナノ粒子を含む収着システムは、マトリックス内に結合した金属または非金属ナノ粒子のナノコンポジットを作製するために、熱還元プロセスを使用して作製され得る。使用される特定のナノ粒子およびマトリックスは、1種または複数の特定の標的汚染物質の吸着を改善するために選択的に調整され得る。様々な実施形態で使用されるナノコンポジットを含む収着剤は、熱合成法、例えば、その関連部分が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2021/0331137号に開示されているようなものを使用して生産され得る。
【0026】
第1のチャンバは、ロジウム、白金、またはグラファイトを含むがこれらに限定されないカウンター電極(カソード)を含み得る。第2のチャンバは、金、ガラス状炭素、亜鉛、ステンレス鋼、またはニッケル合金を含むがこれらに限定されない作用電極(アノード)、ならびに銀/塩化銀、水銀/酸化水銀、または飽和カロメルを含むがこれらに限定されない参照電極を含み得る。第1および第2のチャンバ間の唯一の流体接続は、1種または複数の標的汚染物質のための収着剤を含むブリッジチャンバを通る。
【0027】
様々な実施形態で使用され得る処理システムの例を図1図3に示す。図1に示す処理システムは、廃水を受けるために使用され得るチャンバAとラベル付けされた第1のチャンバを含む。第1のチャンバは、カソード、廃水入口、および廃水出口を含む。処理システムは、アノードを含むチャンバBとラベル付けされた第2のチャンバをさらに含む。第1および第2のチャンバは、収着剤を含むチャンバCとラベル付けされたブリッジチャンバである第3のチャンバを介して接続される。
【0028】
処理システムの代替的な実施形態を図2に示す。図1に示すシステムと同様に、図2のシステムは、電流を印加するための電極を有するチャンバAおよびBとラベル付けされた第1および第2のチャンバと、収着剤を含むチャンバCとラベル付けされたブリッジチャンバとを含む。第1のチャンバの底部において、システムはまた、反応生成物の制御放出のためのバルブを含む。放出バルブの下流には、チャンバDとラベル付けされた任意選択の第4のチャンバがあり、これは、電気化学的処理および第1のチャンバからの放出後に浄化(purified)された廃水流中に残っているコンタミナントの冗長な捕捉または追加の捕捉のための収着剤および/または1つもしくは複数の選択膜を含み得る。
【0029】
図3に示す別の代替的な実施形態では、第1および第2のチャンバは、単一の大型容器の第1および第2の部分であり、ブリッジではなく収着バリアによって互いに分離されている。示されている例では、第1および第2のチャンバは、下側チャンバ内の廃水溶液および底部での廃水処理物放出が垂直方向にあり、任意選択的に、図2のチャンバDのような冗長な捕捉のための追加の収着カラムを通過する。システムは、図2に示す実施形態のように、廃水部分とアウトフローとの間に任意選択の放出バルブ(図示せず)をさらに含み得る。代替的な実施形態では、廃水溶液は、必要に応じて、代替的に廃水入口および放出部の再配置により上部に向けられる場合があるか、またはシステムは、第1および第2のチャンバを並べて垂直に向けられる場合がある。いくつかの実施形態では、システムは、収着バリアの代わりに、バリアとして1つまたは複数の膜を使用し得る。あるいは、システムは、1つまたは複数の膜および収着バリアを含み得る。
【0030】
図示されていないが、システムは、第1、第2、第3または第4のチャンバなどに様々な配置のバルブによって調節され得る追加の入口または出口を含み得る。さらに、カソードおよびアノードの配置は、図示の通りであってもよく、または任意の実施形態では逆であってもよい。
【0031】
本明細書に記載のシステムを使用して、電気化学ワークステーションなどの、外部電源によって第1および第2のチャンバ内に電圧を印加することを含むプロセスを使用して、汚染物質を汚れた流体から除去することができる。この電圧は、1mV~50V(1~10Vが理想的である)の範囲であり得、10分~100時間の範囲の期間にわたって印加され得、いくつかの実施形態では4~48時間が理想的である。電圧の印加は、酸化または還元のいずれかを介して、有機および無機汚染物質の化学的状態の変化を誘発する。本明細書で「イオン化可能な汚染物質」と称されるこれらの化学的構成要素は、電荷の変化(イオン化)または物理的状態の変化(固体から液体への変換など)などの変化を経験する化学物質として理解することができる。これらのプロセスを使用して除去され得るイオン化可能な無機汚染物質としては、関連する酸化物または水酸化物種を含む水銀、鉛、カドミウム、ヒ素、またはマンガンまたは鉄が挙げられるが、これらに限定されない。これらのプロセスを使用して除去され得るイオン化可能な有機汚染物質としては、PFAS、多環式芳香族炭化水素、有機リン系殺虫剤(pesticide)、ネオニコチノイド系殺虫剤(insecticide)、およびジオキサンが挙げられるが、これらに限定されない。水から除去および回収され得るイオン化可能な高価値の構成要素としては、リチウム、コバルト、カドミウム、ニッケル、銀、金、および白金のような無機材料、ならびに医薬化合物およびアミノ酸分子のような有機材料が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、除去され得る汚染物質は、ナノメートルサイズの固体、例えば約10nm~約1000nmの固体を含む。他の実施形態では、汚染物質は、マイクロメートルサイズ、例えば0.5~1000μmの固体であり得る。これらの汚染物質は、固体粒子またはアマルガムまたは固体粒子の合金であり得る。例としては、歯科用アマルガムおよびマクロスケールの固体水銀(>1mm)を含む電子部品が挙げられる。
【0032】
いくつかの実施形態では、システムおよび方法は、水銀、銀、鉛およびそれらのそれぞれの酸化物、還元および有機結合形態を含むがこれらに限定されない金属固体を除去するために使用され得る。そのような実施形態では、イオン化の方法は酸化であり、したがってアノードを備える第2のチャンバ内で行われる。イオン化およびその後の金属固体の溶解時に、印加電圧は、正電荷を有する金属イオンの、カソードを備える第1のチャンバへの移動を誘発する。必然的に、これらの金属イオンはブリッジチャンバを通過しなければならず、それによってその中の収着剤による捕捉をもたらす。他の実施形態では、還元は、カソードを備える第1のチャンバ内で起こる、標的汚染物質に対する電気化学の方法であり得る。汚染物質の還元後、印加電圧は、再びブリッジチャンバを通って第1のチャンバに向かう移動を誘発する。手短に言えば、本明細書に記載のシステムおよび方法は、汚染物質および高価値の回収可能な材料、例えば、関連する酸化物または水酸化物種を含む水銀、鉛、カドミウム、ヒ素、マンガン、鉄、または金または白金を含むがこれらに限定されない固体金属、ならびにこれらのリチウム含有チタン、アルミニウム、またはマンガン粒子ならびにそれらの関連する酸化物および水酸化物を含むがこれらに限定されない金属含有鉱物粒子の変換を可能にし、それらはイオン化され、その後、溶液に溶解され、続いて前記溶解した構成要素が収着剤に電気的に誘発されて移動する。このようにして、システムおよび方法は、濾過または化学的酸化もしくは還元などの前処理を必要とせずに、標的化汚染物質の捕捉のための統合された手順を提供する。さらに、システムおよび方法は、ナノメートルスケールの固体を確実に処理することができない濾過または化学吸収の他の方法とは対照的に、固体コンタミナントを含むコンタミナントに対するより完全な処理手段を提供する。
【0033】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、電圧/電流の印加において固有のそれぞれの電気化学的還元および酸化によって、反応チャンバ(それぞれ第1または第2のチャンバ)内でより低いまたはより高い酸化還元電位を生成することができる。
【0034】
プロセスの完了後、チャンバ(第2のチャンバなどの汚染された流体を最初に含むチャンバ、および/またはイオン化された汚染物質が移動した先のチャンバのいずれか)内の溶液は、環境に放出され得るか、またはさらなる処理に供され得る。例えば、第2のチャンバ内の流体などの最終溶液の一方または両方は、流出物が配管を通って流れる際に昔からある廃棄物放出の問題を回避するために、その処分の前に、アスコルビン酸または活性炭を含むがこれらに限定されない還元剤を使用して処理されてもよい。
【0035】
本明細書に記載のシステムおよび方法によって捕捉される化合物は、例えば、環境の水中に存在し得る。収着システムを使用して、例えば、水処理プラントで、または湖、河川、地下水および井戸などの水の表面または地下中で、化合物を水から除去することができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、これらの化合物の除去は、汚染物質が決して放出されないかもしくは放出が最小限に抑えられるように、環境中に排出される前、例えば、工業プラントからの排出前もしくは排出中の廃水中のような工業的状況において、または化学製造プロセスなどの製造プロセス中に行われ得る。したがって、本開示は、捕捉される化合物を汚染物質と称しているが、決して汚染物質にならないか、または通常は汚染物質ではないが、それらが存在する液体またはガスからそれらを捕捉および除去する必要がある他の化合物にも及ぶ。
【0036】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、電気化学的手段を介した水などの汚れた流体の処理を提供して、構成要素を収着剤を介して捕捉することができる形態に変換する。本発明は、空気流または水流からの非常に微細な固相粒子および帯電していない有機コンタミナントの除去に関する従来のフィルタの重大な限界を克服する。記載されたプロセスは、酸化チャンバ、還元チャンバ、および収着カートリッジなどの収着チャンバで構成される3つのチャンバを含むシステムで行われる。このシステムは、現在の技術の限界、特に多相を処理する能力、1つの収着技術を用いた複雑なマトリックス、および有害な沈殿物の排除を克服する。このシステムはさらに、イオン化された汚染物質が、それらが捕捉される収着剤に移動する際のカソードおよび/またはアノードのファウリングを低減または防止することによって、電気化学システムの使用可能寿命を延ばすことができる。プロセスの完了後、汚染物質の除去に利用された収着材料は、抽出プロセスに供されてもよく、それによって、価値のある構成要素が収着剤から回収される。これは、高pHまたは低pHでチャンバへの溶液の添加、捕捉された標的をプロトンまたは水酸化物で置き換えるために電流を印加することを含むがこれらに限定されない方法によって達成され得る。競合イオンもこのプロセスで利用され得る。例えば、リチウムを含む収着剤は、ナトリウムを含有する溶液に供され得る。電流を印加すると、ナトリウムは電気化学的勾配を介して収着剤中に駆動され、収着剤中に結合したリチウムを置き換え、リチウムイオンを溶液中に放出し、それによってこれらのイオンを付加価値製品に利用することができる。
【0037】
実験:
【0038】
例1
【0039】
本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、固体水銀を含有する廃水を処理することに成功した。上記のように、廃棄物流に電流を印加して、水銀を遊離およびイオン化した。次いで、これらの水銀イオンは、電気化学的勾配を介して収着剤Clarosafe Hgを通って移動した。電気化学的処理システムの写真を図4に示す。画像aでは、処理前に、チャンバAは水銀を含有する廃水で満たされている一方、チャンバBは清浄な水で満たされている。画像bは、チャンバAおよびBを通る電流の印加による処理後のシステムを示す。
【0040】
結果を以下の表1に示し、処理反応前後の反応器システム中の水銀濃度(10億分率、ppb、μg/L)を示す。分かり得るように、このシステムを用いると、98%を超える水銀が、固体の溶解/イオン化によって、その後の収着物として水から除去された。チャンバCは、98.9%を超える収着捕捉効率を有した。
【0041】
【表1】
【0042】
例2
【0043】
本明細書に記載のシステムおよび方法を使用して、歯科用廃水中の固体水銀を溶解させることに成功した。上記のように、1リットルの廃棄ベッセルに含まれる廃棄物流に電流を印加して、水銀を遊離およびイオン化した。電気化学的処理後、電気化学的処理後に残った、結果として得られた溶解した水銀を、次いで、Clarosafe Hgを含む二次ベッセルで捕捉した。結果を以下の表2に示し、処理反応前後の反応器システム中の水銀濃度(10億分率、ppb、μg/L)を示す。分かり得るように、このシステムを用いると、初期固体水銀の93%超の溶解が達成された。次いで、この溶解した水銀を、Clarosafe Hgを使用して溶液から完全に除去した。
【0044】
【表2】
【0045】
本明細書で使用される場合、「実質的に」または「一般的に」という用語は、作用、特徴、特性、状態、構造、項目、または結果の完全またはほぼ完全な程度または度合いを指す。例えば、「実質的に」または「一般的に」に含まれる物体は、物体が完全に含まれるか、またはほぼ完全に含まれることのいずれかを意味する。絶対的完全性からの正確な許容可能な逸脱度は、場合によって、具体的な状況に依存し得る。しかしながら、完了の近さは、あたかも絶対的および完全な完了が得られたかのように、一般的には全体的に同じ結果を有するようになる。「実質的に」または「一般的に」の使用は、作用、特徴、特性、状態、構造、項目、または結果の完全またはほぼ完全な欠如を指す否定的な意味合いで使用される場合にも等しく適用可能である。例えば、要素を「実質的に含まない」または「一般的に含まない」という要素、組み合わせ、実施形態、または組成物は、その有意な効果がない限りにおいて、そのような要素を実際に尚も含んでもよい。
【0046】
上記の説明では、例示および説明の目的で本発明の様々な実施形態が提示されている。それらは網羅的であること、または本発明を開示された正確な形態に限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして、明らかな修正または変形が可能である。実施形態は、本発明の原理およびその実際の適用の例示を提供し、当業者が、様々な実施形態において、および企図される特定の使用に適した様々な修正を加えて、本発明を利用することを可能にするために選択および説明された。すべてのそのような修正および変形は、それらが公正に、法的に、および公平に権利を与えられる範囲に従って解釈される場合、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】