IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山東大学の特許一覧

特表2025-503344蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザ
<>
  • 特表-蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/08 20230101AFI20250128BHJP
   H01S 3/106 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/106
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022574342
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 CN2022114666
(87)【国際公開番号】W WO2024031743
(87)【国際公開日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】202210959521.4
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521017642
【氏名又は名称】山東大学
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.17923, Jingshi Road, Lixia District Jinan, Shandong 250061, China
(74)【代理人】
【識別番号】100088063
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 康治
(72)【発明者】
【氏名】于浩海
(72)【発明者】
【氏名】張懐金
(72)【発明者】
【氏名】陳延峰
(72)【発明者】
【氏名】梁飛
(72)【発明者】
【氏名】何程
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AE01
5F172AE03
5F172AE07
5F172AE26
5F172AF01
5F172AF05
5F172AF06
5F172CC06
5F172NQ12
5F172NQ14
5F172NQ32
(57)【要約】
本発明は、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザを開示し、レーザ光分野に属する。前記方法は、ポンプ光でレーザ光利得媒体における電子を高エネルギー準位へ励起させ、レーザ光共振空胴の設計により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することを含み、前記レーザ光共振空胴は、光路方向に沿って順に設置された入射ミラーと、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記レーザ光利得媒体は、前記レーザ光共振空胴内の入射ミラーと反射ミラーとの間に位置し、前記同調素子は、ブリュースター角でレーザ光共振空胴に設置される。本発明は、上記方法及び上記方法を実現するレーザにより、蛍光スペクトルの制限を突破し、新しい波長を有するレーザ光を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法であって、
レーザ光利得媒体がポンプ光の励起で電子を高エネルギー準位へ遷移させ、レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することを含み、前記レーザ光共振空胴は、光路方向に沿って順に設置された入射ミラーと、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記レーザ光利得媒体は、前記レーザ光共振空胴内の入射ミラーと反射ミラーとの間に位置し、前記同調素子は、ブリュースター角で前記レーザ光共振空胴に設置される、ことを特徴とする蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法。
【請求項2】
レーザ光利得媒体がポンプ光の励起で電子を高エネルギー準位へ遷移させることは、具体的には、
ポンプ源から提供されたポンプ光をフォーカシングシステムでフォーカシングした後にレーザ光利得媒体に注入し、電子を高エネルギー準位へ遷移させるように励起するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法。
【請求項3】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することは、具体的には、
前記ポンプ光の波長が976nmの場合、前記レーザ光利得媒体がイッテルビウムイオンドープ濃度が1at%-30at%のホウ酸オキシカルシウム希土類塩結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ1000nm-1500nm波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされていることと、
入射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、
出射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1200nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は900-1200nm波長帯に対して高透過であり且つ1200-1300nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は900-1400nm波長帯に対して高透過であり且つ1400-1500nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法。
【請求項4】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することは、
前記ポンプ光の波長が532nmの場合、前記レーザ光利得媒体がドープ濃度が0.1at%-5at%のチタン宝石結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ入射光がブリュースター角でレーザ光利得媒体の結晶の表面に入射することと、
入射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、
出射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1200nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は500-1200nm波長帯に対して高透過であり且つ1200-1300nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は500-1400nm波長帯に対して高透過であり且つ1400-1500nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法。
【請求項5】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することは、
前記ポンプ光の波長が795nmの場合、前記レーザ光利得媒体がツリウムドープ濃度が0.1at%-20at%のイットリウムアルミニウムガーネット結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされていることと、
入射ミラーには、795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過であり且つ2100-2500nm波長帯に対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、 出射ミラーには、795nm及び1800-2100nmに対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとをさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法。
【請求項6】
請求項1-5のいずれか1項に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法を実現するレーザであって、
前記レーザは、光路方向に沿って順に並べられたポンプ源と、入射ミラーと、レーザ光利得媒体と、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記ポンプ源は、ポンプ光を放射するために用いられ、前記入射ミラー、反射ミラー及び出射ミラーは、レーザ光共振空胴を構成し、前記レーザ光共振空胴は、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化するために用いられ、前記同調素子は、ブリュースター角で前記レーザ光共振空胴に設置される、ことを特徴とする蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法のレーザ。
【請求項9】
前記レーザ光利得媒体の表面には、特定の波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされている、ことを特徴とする請求項6に記載の蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破するレーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光技術分野に関し、より具体的には、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光は、重要な人工光源として、国民経済と国家安全に関係する重要な分野で重要な役割を果たしており、異なる応用には異なる波長のレーザ光が必要であり、得られるレーザ光波長は、電子遷移時のエネルギー準位の差に依存している。ボーアの水素原子モデルによると、電子のエネルギー準位は、量子化され、ディスクリートであり、均一と不均一な拡幅の影響を受け、そのスペクトルに対して一定の拡幅を行うことができ、発生したレーザ光は、同調レーザ光技術でその波長が一定の範囲で連続的に調整可能であることを実現することができる。レーザ光波長を拡幅するために、非線形光学及び周波数変換技術は、発展しており、且つレーザ光放射波長を基礎として、紫外及び赤外の多くの波長帯に拡幅し、多くの実用的な需要を満たしたが、その拡幅の基礎は、依然としてレーザ光の波長であり、そして、非線形光学及び周波数変換技術は、材料における電子の外部ライトフィールドに対する高次応答に基づいており、その周波数変換過程は、材料の非線形分極率に依頼しているが、この分極率は、線形分極率よりも往々にして数桁小さいため、入射ライトフィールドのパワー密度が比較的大きいことが要求されている。非線形周波数変換の効率は、さらに位相整合、ウォークオフ、温度などの影響及び制限にも依頼しており、波長拡幅デバイスの設計及び応用に対する要求が比較的高い。そのため、レーザ光放射過程において直接にレーザ光波長を拡幅し且つ電子遷移過程の量子「カット」を実現することは、非線形周波数変換技術が比較にならない優位を有し、また、非線形光学及び周波数変換技術は、基礎的な光源を提供し、レーザ光波長をさらに拡幅してもよい。
【0003】
しかしながら、ボーアの水素原子モデルで述べたように、電子の量子化軌道は、蛍光スペクトルのディスクリート性を決定し、得られるレーザ光波長も制限する。そのため、どのように蛍光スペクトルの制限を突破して新しい波長を有するレーザ光を得るかは、当技術分野の重要な技術的課題である。
【発明の概要】
【0004】
上記に鑑み、本発明は、背景技術に存在する技術課題を解決するための蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザを提供する。
【0005】
上記目的を実現するために、本発明は、以下の技術案を採用する。
【0006】
一態様によれば、本発明は、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法を開示し、前記方法は、レーザ光利得媒体がポンプ光の励起で電子を高エネルギー準位へ遷移させ、レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することを含み、前記レーザ光共振空胴は、光路方向に沿って順に設置された入射ミラーと、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記レーザ光利得媒体は、前記レーザ光共振空胴内の入射ミラーと反射ミラーとの間に位置し、前記同調素子は、ブリュースター角で前記レーザ光共振空胴に設置される。
【0007】
好ましくは、レーザ光利得媒体がポンプ光の励起で電子を高エネルギー準位へ遷移させることは、具体的には、
ポンプ源から提供されたポンプ光をフォーカシングシステムでフォーカシングした後にレーザ光利得媒体に注入し、電子を高エネルギー準位へ遷移させるように励起するステップを含む。
【0008】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することは、具体的には、
前記ポンプ光の波長が976nmの場合、前記レーザ光利得媒体がイッテルビウムイオンドープ濃度が1at%-30at%のホウ酸オキシカルシウム希土類塩結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ1000nm-1500nm波長帯に対して高透過である利得媒体膜がめっきされていることと、
入射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、
出射ミラーには、900-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1200nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は900-1200nm波長帯に対して高透過であり且つ1200-1300nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は900-1400nm波長帯に対して高透過であり且つ1400-1500nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとを含む。
【0009】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することは、
前記ポンプ光の波長が532nmの場合、前記レーザ光利得媒体がドープ濃度が0.1at%-5at%のチタン宝石結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ入射光がブリュースター角でレーザ光利得媒体の結晶の表面に入射することと、
入射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1500nm波長帯に対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、
出射ミラーには、500-1100nm波長帯に対して高透過であり且つ1100-1200nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は500-1200nm波長帯に対して高透過であり且つ1200-1300nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされているか、又は500-1400nm波長帯に対して高透過であり且つ1400-1500nm波長帯に対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとをさらに含む。
【0010】
レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することは、
前記ポンプ光の波長が795nmの場合、前記レーザ光利得媒体がツリウムドープ濃度が0.1at%-20at%のイットリウムアルミニウムガーネット結晶を含み、レーザ光利得媒体の結晶の表面が研磨されており且つ795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされていることと、
入射ミラーには、795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過であり且つ2100-2500nm波長帯に対して高反射である媒体膜Aがめっきされていることと、
反射ミラーには、795nm及び1800-2100nm波長帯に対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して全反射である媒体膜Bがめっきされていることと、
出射ミラーには、795nm及び1800-2100nmに対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされていることとをさらに含む。
【0011】
別の態様によれば、本発明は、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法を実現するためのレーザを開示し、前記レーザは、光路方向に沿って順に並べられたポンプ源と、入射ミラーと、レーザ光利得媒体と、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記ポンプ源は、ポンプ光を放射するために用いられ、前記入射ミラー、反射ミラー及び出射ミラーは、レーザ光共振空胴を構成し、前記レーザ光共振空胴は、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化するために用いられ、前記同調素子は、ブリュースター角で前記レーザ光共振空胴に設置される。
【0012】
好ましくは、前記ポンプ源と入射ミラーとの間にフォーカシングシステムがさらに設置される。
【0013】
好ましくは、前記同調素子は、複屈折フィルタ又はプリズムを含む。
【0014】
好ましくは、レーザ光の通過効率を向上させるために、前記レーザ光利得媒体の表面には、特定の波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされている。
【0015】
本発明の用語についての解釈:
高反射とは、特定の波長又は波長帯の入射光に対する反射率が99%よりも大きいことであり、
高透過とは、特定の波長又は波長帯光に対する透過率が99%よりも大きいことであり、
部分反射とは、特定の波長又は波長帯光に対する反射率が80%-99.9%間であることである。
【0016】
上記の技術案から分かるように、本発明は、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法及びレーザを提供し、従来技術に比べて、以下の有益な効果を有する。
【0017】
本発明は、レーザ光共振空胴めっき膜を用いて、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率を強化し、即ちレーザ光共振空胴の入射ミラー、反射ミラー及び出射ミラーの表面に特定の波長帯に対して高透過又は高反射又は部分透過である媒体膜をめっきし、レーザ光利得媒体及び同調素子と組み合わせることで、さらに蛍光スペクトル制限を突破し、新しい波長を有するレーザ光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の実施例又は従来技術の技術案をより明瞭に説明するために、以下は、実施例又は従来技術の記述において使用される必要のある図面を簡単に紹介し、自明なことに、以下の記述における図面は、ただ本発明の実施例にすぎず、当業者にとって、創造的な労力を払わない前提で、提供された図面に基づいて他の図面を取得することもできる。
図1】本発明によるレーザの構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は、本発明の実施例における図面を結び付けながら、本発明の実施例における技術案を明瞭且つ完全に記述し、明らかに、記述された実施例は、ただ本発明の一部の実施例であり、すべての実施例ではない。本発明における実施例に基づき、当業者が創造的な労力を払わない前提で得られたすべての他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。
【0020】
本発明の実施例の一態様によれば、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法を開示し、前記方法は、レーザ光利得媒体がポンプ光の励起で電子を高エネルギー準位へ遷移させ、レーザ光共振空胴めっき膜により、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化することによって、蛍光スペクトルを突破した発光及び強化を実現し、且つ放射光の発振を実現することを含み、前記レーザ光共振空胴は、光路方向に沿って順に設置された入射ミラーと、反射ミラーと、同調素子と、出射ミラーとを含み、前記レーザ光利得媒体は、前記レーザ光共振空胴内の入射ミラーと反射ミラーとの間に位置し、前記同調素子は、ブリュースター角で前記レーザ光共振空胴に設置される。
【0021】
ポンプ光は、ポンプ源により提供されてもよく、ポンプ源から放射されたポンプ光をフォーカシングシステムでフォーカシングした後にレーザ光利得媒体に注入し、電子を高エネルギー準位へ遷移させるように励起するステップを含む。
【0022】
本発明は、電子-フォノン結合という物理効果により、レーザ光のモード選択過程を利用し、マルチフォノンが関与する場合での電子の誘導放射を実現することによって、レーザ光波長が利得媒体の蛍光放射包絡により制限される伝統的な考え方と設計構想を突破し、具体的には、レーザ光共振空胴めっき膜によって制御することができる。
【0023】
以下は、異なる実施例により本発明の方法過程について詳細に記述する。
【実施例1】
【0024】
ポンプ源から放射されたポンプ光の波長が976nmであり、このポンプ源として半導体レーザを選択することができ、フォーカシングシステムは、焦点距離比が1:1の一対の凸レンズからなり、レーザ光利得媒体は、イッテルビウムイオンドープ濃度が15at%のホウ酸オキシカルシウム希土類塩結晶であり、結晶の表面は、研磨されており且つ1000nm-1500nmに対して高透過である媒体膜がめっきされており、
レーザ光共振空胴は、媒体膜Aがめっきされた入力ミラー、媒体膜Bがめっきされた折り畳みミラー及び媒体膜Cがめっきされた出力ミラーからなり、前記入射ミラーには、900-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされており、
反射ミラーには、900-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して全反射である媒体膜Bがめっきされており、
出射ミラーには、900-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1200nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされており、同調素子は、ブリュースター角で配置された複屈折フィルタであり、同調素子を回転することで、波長を1100-1200nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、
出射ミラーを900-1200nmに対して高透過であり且つ1200-1300nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1200-1300nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、出射ミラーを900-1300nmに対して高透過であり且つ1300-1400nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1300-1400nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、
出射ミラーを900-1400nmに対して高透過であり且つ1400-1500nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1400-1500nmの同調レーザ光から出力することを実現することができる。
【実施例2】
【0025】
ポンプ源から放射されたポンプ光の波長が532nmであり、ポンプ源として全固体レーザを選択することができ、フォーカシングシステムは、焦点距離が50mmの一つの凸レンズからなり、レーザ光利得媒体は、ドープ濃度が0.5at%のチタン宝石結晶であり、結晶の表面は、研磨されており且つブリュースター角で共振空胴内に配置されており、
レーザ光共振空胴は、媒体膜Aがめっきされた入射ミラー、媒体膜Bがめっきされた反射ミラー及び媒体膜Cがめっきされた出射ミラーからなり、前記入射ミラーには、500-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされており、
反射ミラーには、500-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1500nmに対して全反射である媒体膜Bがめっきされており、
出射ミラーには、500-1100nmに対して高透過であり且つ1100-1200nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされており、同調素子は、ブリュースター角で配置された複屈折フィルタであり、同調素子を回転することで、波長を1100-1200nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、
出射ミラーを500-1200nmに対して高透過であり且つ1200-1300nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1200-1300nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、出射ミラーを500-1300nmに対して高透過であり且つ1300-1400nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1300-1400nmの同調レーザ光から出力することを実現することができ、
出射ミラーを500-1400nmに対して高透過であり且つ1400-1500nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされたものに変更すれば、同調素子を回転することで、波長を1400-1500nmの同調レーザ光から出力することを実現することができる。
【実施例3】
【0026】
ポンプ源から放射されたポンプ光の波長が795nmであり、ポンプ源は、半導体レーザであり、フォーカシングシステムは、焦点距離比が1:1の一対の凸レンズからなり、レーザ光利得媒体は、ツリウムドープ濃度が10at%のイットリウムアルミニウムガーネット結晶であり、結晶の表面は、研磨されており且つ795nm及び1800-2100nmに対して高透過である媒体膜がめっきされており、
レーザ光共振空胴は、媒体膜Aがめっきされた入力ミラー、媒体膜Bがめっきされた折り畳みミラー及び媒体膜Cがめっきされた出射ミラーからなり、前記入射ミラーには、795nm及び1800-2100nmに対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされており、
反射ミラーには、795nm及び1800-2100nmに対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して全反射である媒体膜Bがめっきされており、
出射ミラーには、795nm及び1800-2100nmに対して高透過であり且つ2100-2500nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされており、同調素子は、ブリュースター角で配置されたプリズムであり、同調素子を回転することで、波長を2100-2500nmの同調レーザ光から出力することを実現することができる。
【実施例4】
【0027】
ポンプ源から放射されたポンプ光の波長が1.6μmであり、ポンプ源は、ファイバの口径が200μmのファイバレーザであり、前記フォーカシングシステムは、焦点距離比が1:1の一対の凸レンズからなり、前記レーザ光利得媒体は、ドープ濃度が1018/cm3のCr:ZnS結晶であり、結晶の表面は、研磨されており且つ1600及び2400-2800nmに対して高透過である媒体膜がめっきされており、
レーザ光共振空胴は、媒体膜Aがめっきされた入力ミラー、媒体膜Bがめっきされた折り畳みミラー及び媒体膜Cがめっきされた出射ミラーからなり、
入射ミラーには、1600nm及び2400-2800nmに対して高透過であり且つ2800-3000nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされており、
反射ミラーには、1600nm及び2400-2800nmに対して高透過であり且つ2800-3000nm高反射に対して全反射である媒体膜Bがめっきされており、
出射ミラーには、1600nm及び2400-2800nmに対して高透過であり且つ2800-3000nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされており、同調素子は、ブリュースター角で配置されたプリズムであり、同調素子を回転することで、波長を2800-3000nmの同調レーザ光から出力することを実現することができる。
【実施例5】
【0028】
ポンプ源から放射されたポンプ光の波長が1.0795μmであり、ポンプ源は、Nd:YAPレーザであり、フォーカシングシステムは、焦点距離が50mmの一つの凸レンズからなり、前記レーザ光利得媒体は、NaCl(OH-):F2+色中心レーザ光結晶であり、結晶は、液体窒素で冷却された光透過結晶室にブリュースター角で配置され、結晶室は真空を維持し、結晶の表面は、研磨されており且つ1080及び1400-1800nmに対して高透過である媒体膜がめっきされており、
レーザ光共振空胴は、媒体膜Aがめっきされた入射ミラー、媒体膜Bがめっきされた反射ミラー及び媒体膜Cがめっきされた出射ミラーからなり、前記入射ミラーには、1080nm及び1400-1800nmに対して高透過であり且つ1800-2000nmに対して高反射である媒体膜Aがめっきされており、
反射ミラーには、1080nm及び1400-1800nmに対して高透過であり且つ1800-2000nm高反射に対して全反射である媒体膜Bがめっきされており、
出射ミラーには、1080nm及び1400-1800nmに対して高透過であり且つ1800-2000nmに対して部分反射である媒体膜Cがめっきされており、同調素子は、ブリュースター角で配置されたプリズムであり、同調素子を回転することで、波長を1800-2000nmの同調レーザ光から出力することを実現することができる。
【0029】
本発明の実施例では、ある素子がブリュースター角で配置されることは、光線がブリュースター角でこの素子の入射界面に入射することを意味し、
本発明の実施例では、媒体膜、媒体膜A、媒体膜B、媒体膜Cは、異なる光学部品にめっきされた媒体膜を区別するためにのみ用いられる。
【0030】
図1に示すように、本発明の別の態様は、蛍光スペクトルによるレーザ光波長への制限を突破する方法を実現するためのレーザを開示し、前記レーザは、光路方向に沿って順に並べられたポンプ源1と、フォーカシングシステム2と、媒体膜Aがめっきされた入射ミラー4と、レーザ光利得媒体3と、媒体膜Bがめっきされた反射ミラー5と、同調素子7と、媒体膜Cがめっきされた出射ミラー6とを含み、ポンプ源1は、異なる波長帯のポンプ光を放射するために用いられ、媒体膜Aがめっきされた入射ミラー4、媒体膜Bがめっきされた反射ミラー5及び媒体膜Cがめっきされた出射ミラー6は、レーザ光共振空胴を構成し、レーザ光共振空胴は、電子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移時の放射光の発振を抑制するように制御するとともに、電子の高エネルギー準位からマルチフォノンの結合時の電子-フォノン結合エネルギー準位への遷移確率をレーザ光共振で強化するために用いられ、媒体膜Bがめっきされた反射ミラー5により反射されたレーザ光は、ブリュースター角で同調素子7の入射界面に入射する。
【0031】
同調素子7は、複屈折フィルタ又はプリズムを含む。
【0032】
別の実施例では、レーザ光の通過効率を向上させるために、レーザ光利得媒体3の表面には、特定の波長帯に対して高透過である媒体膜がめっきされている。
【0033】
実施例では、利得媒体は、電子-フォノン結合効果を有するレーザ光利得媒体であり、遷移金属、希土類発光イオン、色中心などがドープされたレーザ光結晶又はレーザ光セラミックスなど、格子発振を提供できる単結晶又は多結晶材料であってもよいが、これらに限らない。
【0034】
本明細書における各実施例は、漸進的に記述され、各実施例について重点的に説明するのは、いずれも他の実施例との相違点であり、各実施例間の同様部分は、互いに参照すればよい。実施例に開示された装置は、実施例に開示された方法に対応するため、記述が比較的簡単であり、関連する部分は、方法部分の説明を参照すればよい。
【0035】
開示された実施例の上記説明は、当業者が本発明を実現又は使用することを可能にする。これらの実施例に対する様々な変更は、当業者にとって自明なものであり、本明細書で定義される一般的な原理が、本発明の精神又は範囲を逸脱することなく他の実施例において実施され得る。そのため、本発明は、本明細書に示されるこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲に適合するものである。
【符号の説明】
【0036】
1 ポンプ源、2 フォーカシングシステム、3 レーザ光利得媒体、4 媒体膜Aがめっきされた入力ミラー、5 媒体膜Bがめっきされた折り畳みミラー、6 媒体膜Cがめっきされた出力ミラー、7 同調素子
図1
【国際調査報告】