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特表2025-503388深層学習を用いた、組織の無標識仮想免疫組織化学染色
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】深層学習を用いた、組織の無標識仮想免疫組織化学染色
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20250128BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250128BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20250128BHJP
   G06V 10/82 20220101ALI20250128BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
G01N33/53 Z
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
G01N33/483 C
G06T7/00 630
G06V10/82
G01N33/48 P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533829
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022080697
(87)【国際公開番号】W WO2023107844
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/287,006
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】592110646
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】オズカン,アイドガン
(72)【発明者】
【氏名】リヴェンソン,ヤイア
(72)【発明者】
【氏名】バイ,ビジェ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ホンダ
【テーマコード(参考)】
2G045
5L096
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BA14
2G045CB01
2G045CB02
2G045DA36
2G045FA16
2G045FB03
2G045FB07
2G045FB12
2G045JA01
2G045JA02
2G045JA03
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA02
5L096DA02
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
深層学習ベースの仮想HER2 IHC染色法が、非標識/無標識乳房組織切片の自家蛍光顕微鏡画像を、同じ組織切片に化学的に行われた標準HER2 IHC染色と一致する明視野同等顕微鏡画像に迅速に変換するように訓練された条件付き敵対的生成ネットワークを使用する。その染色フレームワークの有効性は、仮想染色されたHER2ホールスライド画像(WSI)及び免疫組織化学染色されたHER2ホールスライド画像の、盲検的に段階評価されたHER2スコアの定量分析によって実証された。もう一つの定量的盲検試験から、仮想染色HER2画像が、免疫組織化学的に染色された対応物に対して、核の細部、膜の鮮明さ、及び染色アーチファクトの非存在のレベルにおいて同等の染色の質を呈することが明らかになった。この仮想染色フレームワークは、検査室においてコストがかかり、手間がかかり、且つ時間がかかるIHC染色法を回避し、他の種類のバイオマーカーに拡張してIHC組織染色及び生物医学ワークフローを促進することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無標識組織試料のデジタル染色免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成し、前記組織試料の少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする方法であって、
演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用する画像処理ソフトウェアによって実行される訓練済みディープニューラルネットワークであって、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練される、前記訓練済みディープニューラルネットワークを準備すること;
蛍光イメージング装置を用いて無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を取得すること;
前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を、前記訓練済みディープニューラルネットワークに入力すること;並びに
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、前記少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な前記特徴を明らかにする前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像であって、さらにそのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ディープニューラルネットワークが、敵対的生成ネットワーク(GAN)モデルを使用して訓練される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織が乳房組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織の前記少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原が、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ディープニューラルネットワークが、同じ組織試料の前記一致したIHC染色画像又は画像パッチと自家蛍光画像又は画像パッチとの間の統計的変換を学習するように構成されている生成器ネットワーク、及び前記組織試料のグラウンドトゥルースIHC染色画像と、前記組織試料の前記出力されたデジタル染色IHC顕微鏡画像を識別するように構成されている識別器ネットワークを使用して訓練される、請求項2~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、アテンションゲート付きニューラルネットワークを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ又は複数の自家蛍光画像が、異なる励起-発光波長でキャプチャされた複数の自家蛍光画像を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
異なる励起-発光波長でキャプチャされた前記無標識組織試料の前記複数の自家蛍光画像が、次のフィルターチャンネル:DAPI、FITC、TxRed、及びCy5のうちの2つ以上で得られた自家蛍光画像を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記無標識組織試料が非固定又は新鮮組織試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記無標識組織試料が固定又は凍結組織試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記無標識組織試料が生体内で撮像された組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
同じ組織試料の前記複数の一致したIHC染色画像又は画像パッチ及び自家蛍光画像又は画像パッチが、前記ディープニューラルネットワークの訓練の前に、前記複数の一致したIHC染色画像又は画像パッチ及び自家蛍光画像又は画像パッチを、前記一致したIHC染色画像及び自家蛍光画像に見られる局所的なスタイル/特徴にマッチングする位置合わせニューラルネットワークモデルに通すことを含む位置合わせプロセスに供される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
位置合わせが、弾性位置合わせプロセスを使用して、前記IHC染色画像又は画像パッチを、それぞれの自家蛍光画像又は画像パッチに位置合わせすることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像が、前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を取得した後、リアルタイム又はほぼリアルタイムで出力される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記蛍光イメージング装置が蛍光顕微鏡を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする無標識組織試料のデジタル染色さ免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成するためのシステムであって、
その上又はそれにより実行される画像処理ソフトウェアを有する演算装置であって、前記画像処理ソフトウェアが、前記演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用して実行される訓練済みディープニューラルネットワークを含み、前記訓練済みディープニューラルネットワークが、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色された訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練され、前記画像処理ソフトウェアが、蛍光イメージング装置を使用して前記無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を受け取り、前記少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な前記特徴を明らかにする前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像であって、さらにそのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力するように構成されている演算装置
を含む、システム。
【請求項17】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、敵対的生成ネットワーク(GAN)モデルを使用して訓練される、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記組織が乳房組織を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記組織の前記少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原が、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である、請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記蛍光イメージング装置が、前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を取得するように構成されている蛍光顕微鏡を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
異なる励起-発光波長でキャプチャされた、前記無標識組織試料の複数の自家蛍光画像を取得するために使用される複数のフィルターをさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、アテンションゲート付きニューラルネットワークを含む、請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年12月7日に出願された米国仮特許出願第63/287,006号の優先権を主張するものであり、その仮特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。優先権は、米国特許法第119条(35 U.S.C.§119)及びその他の適用法令に従って主張される。
【0002】
本技術分野は、全体として、染色されていない(すなわち、無標識(label-free))組織、例えば1つの実施形態では乳房組織を撮像するために使用される方法及びシステムに関する。特に、本技術分野は、組織の免疫組織化学(IHC)染色に実質的に類似する、染色されていない組織又は非標識(unlabeled)の組織の画像をデジタル的に又は仮想的に染色するためにディープニューラルネットワーク学習を利用する顕微鏡法及びシステムに関する。1つの例として、乳房組織及びヒト上皮成長因子受容体2(HER2)バイオマーカーのIHC染色が挙げられる。
【0003】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、米国国立科学財団から得た助成金番号1926371による政府支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
組織切片の免疫組織化学(IHC)染色は、広範な疾患を評価する過程において非常に重要な役割を果たす。1941年に初めて行われて以来、多種多様なIHCバイオマーカーが検証され、特定の細胞事象を特徴付けるために臨床検査室及び研究室で使用されてきており、例えば、細胞増殖に関連する核タンパク質Ki-67、腫瘍形成に関連する細胞性腫瘍抗原P53、及びアグレッシブな乳腫瘍の発生に関連するヒト上皮成長因子受容体2(HER2)などがある。組織のIHC染色は、標的バイオマーカーを選択的に同定することができるので、組織分析及び診断上の決定のためのゴールドスタンダードの一つとして確立され、疾患治療及び発症機序の究明を先導している。
【0005】
組織のIHC染色は広く使用されているものの、手間のかかる組織調製工程を行う専用の検査施設と熟練した技師(組織検査技師(histotechnologists))がやはり必要であり、したがって時間とコストがかかる。近年、深層学習ベースの仮想染色技術が急速に進歩してきており、従来の組織化学染色ワークフローに代わる有望な代替手段が提供されている。この代替手段は、無標識の薄い組織切片からキャプチャした顕微鏡画像をコンピュータによって染色することによるものであり、手間とコストのかかる化学染色プロセスを回避する。そのような無標識仮想染色技術は、自家蛍光イメージング、定量的位相イメージング、光散乱イメージングなどを使用して実証されており、複数の種類の組織化学的染色、例えば、ヘマトキシリンとエオジン(H&E)、マッソントリクローム、及びジョーンズ銀染色を作成することに成功している。例えば、Rivenson,Y.らは、無標識組織の自家蛍光を使用した組織の深層学習に基づく仮想組織学的構造染色を開示した。Rivenson,Y.et al.,Deep learning-based virtual histology staining using auto-fluorescence of label-free tissue.Nat Biomed Eng 3,466-477(2019)を参照。
【0006】
しかし、これらの先行研究は、仮想IHC染色を全く行わず、主に組織切片の特定の形態学的特徴のコントラストを強める構造組織染色の生成に焦点を当てていた。関連する研究では、深層学習は、Ki-67の定量などのバイオマーカー状態の予測も可能にしている。Liu,Y.et al.,Predict Ki-67 Positive Cells in H&E-Stained Images Using Deep Learning Independently From IHC-Stained Images,Frontiers in Molecular Biosciences 7,(2020)を参照。研究された追加のバイオマーカーとしては、肝細胞癌腫、乳がん、膀胱がん、甲状腺がん、及びメラノーマを含む様々な悪性腫瘍のH&E染色顕微鏡写真から腫瘍の予後を予測するものが挙げられる。それらの研究は、特定のバイオマーカーの存在と組織の形態学的な顕微鏡的変化との間に相関関係がある可能性を強調している。しかし、細胞質や核の細部などの細胞間及び細胞内(intra-cellular)の固有の特徴を病理学者(pathologists)が診断検査するための細胞内(sub-cellular)バイオマーカー情報を明らかにするIHC染色組織画像の代替手段を提供するものではない。
【0007】
IHC染色は、抗原抗体結合プロセスによって細胞内の特定のタンパク質又は抗原を選択的に明るく見えるようにする。がんのステージ、細胞増殖又は細胞アポトーシスなどの様々な細胞事象の指標である種々のIHCバイオマーカー(検出される特異的タンパク質)が存在する。特定のIHCバイオマーカー(例えば、HER2タンパク質)の同定により、分子標的治療への方向付け及び予後の予測が可能になる。しかし、IHC染色は、構造染色(ヘマトキシリンとエオジン(H&E)、マッソントリクローム、ジョーンズ銀など)と比較して、より複雑で、実施にコストと時間がかかることが多い。評価すべき組織の種類、疾患、及び細胞事象に応じて、異なるIHC染色が行われうる。IHC染色とは異なり、H&Eのような構造染色は、ヘマトキシリンが酸性組織成分(例えば核)を染色する一方で、エオシンが他の成分(例えば、細胞質、細胞外線維)を染色するという異なる方法で機能する。H&Eは、ほとんどすべての臓器タイプに使用され、組織構造や核分布などの組織形態学的特徴の概観を迅速に得ることができる。IHCとは異なり、H&Eは特定の発現タンパク質を識別することができない。例えば、HER2陽性細胞(膜に過剰発現したHER2タンパク質をもつ細胞)及びHER2陰性細胞(膜にHER2タンパク質をもたない細胞)は、H&E染色画像では同じように見える。
【発明の概要】
【0008】
ここでは、深層学習に基づく無標識仮想IHC染色法が開示され(図1A~1C)、その方法は、非標識組織切片の自家蛍光顕微鏡画像を、同じ組織試料の標準IHC染色画像と実質的に一致する明視野同等画像に変換する。本発明の方法は特に、細胞の増殖及び分化の調節に関与する重要な細胞表面受容体タンパク質であるHER2のIHC染色に焦点を当てた。乳房組織におけるHER2発現のレベル、すなわちHER2状態の評価は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片のHER2 IHC染色に基づいて、日常的に行われており、乳がんの予後及びHER2指向性免疫療法に対するその応答を予測するのに役立つ。例えば、HER2の細胞内及び細胞外の研究は、HER2陽性腫瘍の治療に有益な薬理学的抗HER2剤の開発につながってきた。HER2指向性薬剤耐性に対抗し、治験の治療成績を向上できる新しい薬理学的解決策を開発するためのさらなる努力がなされている。前臨床研究及びライフサイエンス関連研究のために確立された多数の動物モデルにより、HER2のがん遺伝子、生物学的機能性、及び薬剤耐性機序のより深い理解が探求されている。それらに加えて、HER2バイオマーカーは、新規の生物医学的イメージング、統計学、及び空間トランスクリプトミクス法の開発及び試験における必須ツールとしても使用された。
【0009】
1つの実施形態では、組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする、無標識組織のデジタル染色免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成する方法。その方法は、演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用する画像処理ソフトウェアによって実行される訓練済みディープニューラルネットワークであって、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練される、訓練済みディープニューラルネットワークを準備すること;蛍光イメージング装置を用いて無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を取得すること;無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を、訓練済みディープニューラルネットワークに入力すること;並びに訓練済みディープニューラルネットワークが、少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な特徴を明らかにする無標識組織試料のデジタル染色IHC顕微鏡画像であって、さらにそのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力することを含む。
【0010】
別の実施形態では、組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする、無標識組織試料のデジタル染色免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成するためのシステム。システムは、その上又はそれにより実行される画像処理ソフトウェアを有する演算装置であって、画像処理ソフトウェアが、演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用して実行される訓練済みディープニューラルネットワークを含み、訓練済みディープニューラルネットワークが、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色された訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練され、画像処理ソフトウェアが、蛍光イメージング装置を使用して無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を受け取り、少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な特徴を明らかにする無標識組織試料のデジタル染色IHC顕微鏡画像であって、そのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力するように構成されている演算装置を含む。
【0011】
組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴は、細胞膜、核、又は他の細胞構造における染色強度及び/又は分布などの特異的な細胞内特徴を含みうる。特徴はまた、核の数、平均核サイズ、膜領域の連結性、及び特性曲線下面積(例えば、飽和閾値の関数としての膜染色比)などの他の基準を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1Aは、1つの実施形態による、無標識乳房組織試料のデジタル/仮想HER2染色出力画像を生成するために使用されるシステムを概略的に示す。HER2染色出力画像は、現在行われている乳房組織の標準的な、化学的に実施されるHER2 IHC染色に一致する明視野同等顕微鏡画像である。図1B~1Cは、深層学習を介した非標識組織切片の仮想HER2染色を示す。図1Bの上部は、標準的な免疫組織化学(IHC)HER2染色(上部)が、組織検査技師によって行われる、典型的に~1日かかる手間や費用のかかる組織処理に依存することを示す。図1Bの下部は、事前に訓練されたディープニューラルネットワークが、どのようにして非標識組織切片の仮想HER2染色を可能にするかを示す。図1Cは、非標識組織切片の自家蛍光画像を、標準IHC HER2染色の画像に実質的に一致する明視野同等画像に変換するデジタル又は仮想HER2染色を示す。
図2図2A~2Bは、デジタル又は仮想HER2染色ニューラルネットワークの一実施形態を示す。仮想HER2染色ネットワークを訓練するために、生成器モデル及び識別器モデルからなるGANフレームワークが使用された。図2Aは、無標識自家蛍光画像を明視野同等のHER2画像にマッピングするために、アテンションゲート付きU-net構造(アテンションゲート(AG)ブロックをもつ)を使用する生成器ネットワークを示す。図2Bは、5つの連続する2層畳み込み層残差ブロック及び2つの全結合層から構成されるCNNを使用する識別器ネットワークを示す。ネットワークモデルが収束すると、生成器モデル(図2A)のみが仮想HER2画像を推論するために使用され、組織領域の1mmに対して~12秒かかる。
図3図3は、異なるHER2スコアでの乳房組織切片の仮想及び標準IHC HER2染色の比較を示す。画像パネルa、b、c1、c2、d1、d2、e1、e2、f、g、h1、h2、i1、i2、j1、j2、k、l、m1、m2、n1、n2、o1、o2、p、q、r1、r2、s1、s2、t1、及びt2が示されている。画像パネルa、f、k、pは、(画像パネルa)HER2 3+、(画像パネルf)HER2 2+、(画像パネルk)HER2 1+、及び(画像パネル3p)HER2 0での標準IHC HER2染色試料の明視野WSIである。画像パネルb、g、l、qは、仮想染色によって生成された明視野WSIであり、それぞれa、f、l、pと同じ試料に対応する。画像パネルc1~e1、c2~e2は、HER2スコアが3+で、画像パネルa、bから拡大された関心領域である。画像パネルh1~j1、h2~j2は、HER2スコアが2+で、画像パネルf、gから拡大された関心領域である。画像パネルm1~o1、m2~o2は、HER2スコアが1+で、画像パネルk、lから拡大された関心領域である。画像パネルr1~t1、h2~t2は、HER2スコアが0で、画像パネルp、qから拡大された関心領域である。
図4図4A~4BはHER2スコアの混同行列を示す。行列の各要素は、UCLA TPCLによって提供された参照(グラウンドトゥルース)HER2スコア(列)と比較した、図4A-仮想HER染色、又は図4B-標準IHC HER2染色に基づく、HER2スコア(行)が専門委員会認定(board-certified)病理学者によって評価されたWSIの数を表す。
図5図5A~5E:仮想HER2と標準IHC HER2染色の画像の質の比較。図5A:4つの異なる特徴指標:核の細部、染色アーチファクトの非存在、過剰なバックグラウンド染色の非存在、及び膜の鮮明さに基づいて計算された仮想HER2及び標準IHC HER2画像の品質スコア。各値は、すべての画像パッチ及び病理学者にわたる平均をとった。図5B~5E:異なるHER2スコアにおける各特徴指標の下での品質スコアの詳細な比較。各測定基準に適用される段階評価尺度は1~4であり:4が完全、3が非常に良い、2が許容範囲、及び1が許容範囲外である。標準偏差は破線でプロットされている。
図6図6A及び6Bは、仮想染色HER2画像及び標準IHC HER2画像の特徴に基づく定量的評価である。図6A:4つの異なる指標に基づいて、HER2陰性症例(N=4,142画像)について、定量的に比較した仮想HER2特徴及び標準IHC HER2特徴。図6B: 同じ指標に基づいて、HER2陽性症例(N=4,052画像)について、定量的に比較した仮想HER2特徴及び標準IHC HER2特徴。
図7図7は、不成功の化学的IHC染色の例を示す。画像パネルaは、非標識乳房組織切片を用いてキャプチャされた擬似着色自家蛍光画像を示す。画像パネルbは、生成器ネットワークによって予測された仮想HER2染色を示す。画像パネルcは、標準IHC HER2染色の間に著しい組織の損傷及び損失を受けた同じ組織切片を示す。画像パネルdは、同じ試料ブロックから連続的にスライスされた切片のIHC染色を示す。画像パネルeは、別の非標識乳房組織切片を用いてキャプチャされた擬似着色自家蛍光画像を示す。画像パネルfは、生成器ネットワークによって予測された仮想HER2染色を示す。画像パネルgは、偽陰性IHC HER2染色(すなわち、IHC染色不成功)を経た同じ組織切片を示す。画像パネルhは、同じ試料ブロックから連続的にスライスされた切片のIHC染色を示す。
図8図8A~8B:画像パッチに対応するHER2スコア。図8A:各患者の仮想HER2 WSI及び標準IHC HER2 WSIから切り出された画像パッチに基づいて段階評価したHER2スコアのヒストグラム。図8B:3名の病理学者によって段階評価された画像パッチに対応する個々のHER2スコア。
図9図9A~9Bは、異なる自家蛍光入力チャネルとの仮想染色ネットワーク性能の比較を示す。図9A:1つ(DAPI)、2つ(DAPI+FITC)、3つ(DAPI+FITC+TxRed)、及び4つ(DAPI+FITC+TxRed+Cy5)の自家蛍光入力チャネルで訓練された仮想染色ネットワークの視覚的な比較であり、入力チャネルの数が増加するにつれて結果が向上することを示す。図9B:異なる数の自家蛍光入力チャネルで訓練された仮想染色ネットワークの定量的評価。MSE、SSIM、及び膜カラーチャンネル(すなわち、DAB染色)のSSIMは、ネットワーク出力及びグラウンドトゥルース画像を用いて計算した。
図10図10A~10B:ジアミノベンジジン(DAB)染色チャネルとヘマトキシリン染色チャネルを分割するカラーデコンボリューションの例。図10A:HER2陽性領域のカラーデコンボリューション。図10B:HER2陰性領域のカラーデコンボリューション。
図11図11は、画像前処理及び位置合わせワークフロー(画像パネルa~gを示す)を示す。画像パネルa:同じ組織切片の自家蛍光WSI(IHC染色前)と明視野WSI(IHC染色後)をつなぎ合わせたもの。画像パネルb:SURF特徴点の検出及びマッチングによる自家蛍光WSI及び明視野WSIの大域的な位置合わせ。画像パネルc:大まかに一致した自家蛍光及び明視野画像のタイルを切り出した。画像パネルd:位置合わせモデルを訓練して、自家蛍光画像を明視野画像に変換した。画像パネルe:位置合わせモデル出力及びグラウンドトゥルース画像。画像パネルf:グラウンドトゥルース画像は、弾性位置合わせアルゴリズムを用いて自家蛍光画像に位置合わせを施した。画像パネルg:3~5回の繰り返し位置合わせの後、完全に一致した自家蛍光及び明視野画像パッチが得られた。
図12図12:異なる仮想染色ネットワークアーキテクチャの定量的比較。視覚的な比較と数値的な比較の両方で、他のネットワークアーキテクチャと比較して、発明者の研究(our work)で使用したアテンションゲート付きGANの優れた性能が明らかになった。
図13図13:異なる仮想染色ネットワークによって生成された出力画像(強いHER2発現を伴う)の色分布の比較。アテンションゲート付きGANによって生成された出力画像の色分布は、標準IHCグラウンドトゥルース画像の色分布と密接に一致する。
図14図14:異なる仮想染色ネットワークによって生成された出力画像(弱いHER2発現を伴う)の色分布の比較。アテンションゲート付きGANによって生成された出力画像の色分布は、標準IHCグラウンドトゥルース画像の色分布と密接に一致する。
図15図15:カラーデコンボリューション及びセグメンテーションアルゴリズムに基づく核及び膜染色特徴の抽出。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1A、1B(下部)、及び1Cは、無標識組織試料22(例えば、1つの特定の例では乳房組織)の1つ又は複数の入力自家蛍光顕微鏡画像20から得られた組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする無標識組織のデジタル的に又は仮想的に染色されたIHC画像40を出力するためのシステム2(図1A)並びに方法(図1B(下部)及び図1C)の1つの実施形態を模式的に図示する。少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴は、細胞膜、核、又は他の細胞構造における染色強度及び/又は分布などの特異的な細胞内特徴を含みうる。特徴はまた、核の数、平均核サイズ、膜領域の連結性、及び特性曲線下面積(飽和閾値の関数としての膜染色比-図15)などの他の基準を含みうる。本明細書で説明するように、1つ又は複数の入力画像20は、無標識組織試料22の自家蛍光画像(複数可)20である。組織試料22は、蛍光染色や標識で染色も標識もされていない。すなわち、無標識組織試料22の自家蛍光画像(複数可)20は、その試料中に含まれる1つ又は複数の内在性蛍光分子又は周波数シフト光の他の内在性放出体の結果である、無標識組織試料22によって放出される蛍光をキャプチャする。周波数シフト光は、入射周波数(又は波長)とは異なる、異なる周波数(又は波長)で放出される光である。内在性蛍光分子又は周波数シフト光の内在性放出体には、分子、化合物、複合体、分子種、生体分子、色素、組織などが含まれうる。いくつかの実施形態では、入力自家蛍光画像(複数可)20は、コントラスト強調、コントラスト反転、画像フィルタリングから選択される1つ又は複数の線形又は非線形の前処理演算を受ける。
【0014】
システム2は、その中に1つ又は複数のプロセッサ102を含む演算装置100、及び訓練済みディープニューラルネットワーク10(例えば、1つ又は複数の実施形態において本明細書で説明されるような畳み込みニューラルネットワーク)を組み込んだ画像処理ソフトウェア104を含む。演算装置100には、本明細書で説明されるように、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、モバイルモバイル演算装置、リモートサーバなどが含みうるが、他の演算装置(例えば、1つ又は複数のグラフィック処理ユニット(GPU)又は他の特定用途向け集積回路(ASIC)を1つ又は複数のプロセッサ102として組み込んだ装置)が使用されてもよい。GPU又はASICは、最終出力画像40だけでなく訓練を加速するために使用することができる。演算装置100は、デジタル染色IHC画像40(例えば、HER2画像)を表示するために使用されるモニタ又はディスプレイ106に関連付けられる、又は接続されることができる。ディスプレイ106は、デジタル染色IHC画像40を表示及び閲覧するためにユーザによって使用されるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を表示するために使用することができる。1つの好ましい実施形態では、訓練済みディープニューラルネットワーク10は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。
【0015】
例えば、本明細書に記載のように1つの好ましい実施形態では、訓練済みディープニューラルネットワーク10は、GANモデルを使用して訓練される。GAN-訓練済みディープニューラルネットワーク10では、2つのモデルが訓練に使用される。データ分布をキャプチャする生成モデル(例えば、図2Aの生成器ネットワーク)が使用され、一方では、第二のモデルは、試料が生成モデルからではなく訓練データから来た確率を推定する(例えば、図2Bの識別器ネットワーク)。GANに関する詳細は、Goodfellow et al.,Generative Adversarial Nets.,Advances in Neural Information Processing Systems,27,pp.2672-2680(2014)で見ることができ、本明細書の図2A及び付随する説明と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。ディープニューラルネットワーク10(例えば、GAN)のネットワーク訓練は、同じ又は異なる演算装置100によって実行することができる。例えば、1つの実施形態では、パーソナルコンピュータを使用して、GANベースのディープニューラルネットワーク10を訓練することができるが、そのような訓練にはかなりの時間がかかる可能性がある。この訓練プロセスを加速するために、1つ又は複数の専用GPUを訓練に使用することができる。本明細書で説明するように、そのような訓練及びテストは、市販のグラフィックスカードから得られたGPU上で行われた。ディープニューラルネットワーク10が訓練されると、ディープニューラルネットワーク10の生成器ネットワーク部分は、訓練プロセスに使用される計算リソースがより少ないものを含むことができる異なる演算装置100上で使用又は実行することができる(ただし、GPUは、訓練されたディープニューラルネットワーク10の実行に統合することもできる)。
【0016】
画像処理ソフトウェア104は、従来のソフトウェアパッケージ及びプラットフォームを使用して実装することができる。これには、例えば、MATLAB、Python、及びPytorchが含まれる。訓練済みディープニューラルネットワーク10は、特定のソフトウェアプラットフォーム又はプログラミング言語に限定されず、訓練済みディープニューラルネットワーク10は、任意の数の市販のソフトウェア言語又はプラットフォーム(又はそれらの組み合わせ)を使用して実行することができる。訓練済みディープニューラルネットワーク10を組み込む、又はそれと協調して実行する画像処理ソフトウェア104は、ローカル環境で実行することもでき、リモートクラウド型環境で実行することもできる。いくつかの実施形態では、画像処理ソフトウェア104のいくつかの機能は、ある特定の言語又はプラットフォーム(例えば、画像前処理及び位置合わせ)で実行することができ、一方では、訓練済みディープニューラルネットワーク10は、別の特定の言語又はプラットフォームで実行することができる。それにもかかわらず、両演算は画像処理ソフトウェア104によって実施される。
【0017】
図1Aを参照すると、1つの実施形態では、訓練済みディープニューラルネットワーク10は、無標識組織試料22の単一の自家蛍光画像20を受け取る。他の実施形態では、例えば、複数の励起チャネルが使用される場合、訓練済みディープニューラルネットワーク10に入力される無標識組織試料22の複数の自家蛍光画像20が存在しうる(例えば、1つのチャネルにつき1つの画像)。これらのチャネルは、例えば、イメージング装置110の異なるフィルター/フィルターキューブを使用して得られるDAPI、FITC、TxRed、及びCy5を含むことができる。例えば、イメージング装置110の異なるフィルター/フィルターキューブを用いて得られた複数の自家蛍光画像20を、訓練済みディープニューラルネットワーク10(例えば、2つ以上の異なるチャネル)に入力することができる。
【0018】
自家蛍光画像20は、無標識組織試料22の広視野自家蛍光画像20を含むことができる。広視野は、広い視野(FOV)がスキャニングすること、そうでなければ、より小さいFOVを得ることによって得られることを示すことを意味し、広いFOVは、10~2,000mmのサイズ範囲にある。例えば、小さいFOVは、画像処理ソフトウェア104を使用して、小さいFOVをデジタル的につなぎ合わせて広いFOVを作り出す走査型蛍光顕微鏡110によって得ることができる。例えば、広いFOVは、無標識組織試料22のホールスライド画像(WSI)を得るために使用することができる。自家蛍光画像(複数可)20は、蛍光イメージング装置110を使用して得られる。本明細書に記載の蛍光の実施形態の場合、その装置は蛍光顕微鏡110を含むことができる。蛍光顕微鏡110は、無標識組織試料22を照らす1つ又は複数の励起光源(複数可)、及び無標識組織試料22に含まれる蛍光分子又は周波数シフト光の他の内在性放出体によって放出される自家蛍光をキャプチャするための1つ又は複数の画像センサ(複数可)(例えば、CMOS画像センサ)を含む。蛍光顕微鏡110は、いくつかの実施形態では、無標識組織試料22を、複数の異なる波長又は波長範囲/波長帯の励起光で照らす能力を含むことができる。これは、複数の異なる光源及び/又は異なるフィルターセット(例えば、標準UV又は近UV励起/発光フィルターセット)を使用して達成することができる。さらに、蛍光顕微鏡110は、いくつかの実施形態では、異なる発光帯をフィルタリングできる複数のフィルターを含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、複数の蛍光画像20がキャプチャされ、それぞれが異なるフィルタセット(フィルターキューブなど)を使用して異なる発光帯でキャプチャすることができる。例えば、蛍光顕微鏡110は、異なるチャネルDAPI、FITC、TxRed、及びCy5用の異なるフィルターキューブを含むことができる。
【0019】
無標識組織試料22は、いくつかの実施形態では、基板23上又はそのなかに配置された組織の一部を含むことができる。基板23は、いくつかの実施形態では、光学的に透明な基板(例えば、ガラス又はプラスチックスライドなど)を含むことができる。無標識組織試料22は、ミクロトーム装置などを用いて薄い切片に切り出された組織切片を含むことができる。無標識組織試料22は、カバーガラス/カバースリップを用いても、用いなくても撮像することができる。無標識組織試料22は、凍結切片又はパラフィン(ワックス)切片を含むことができる。無標識組織試料22は、固定されてもよく(例えば、ホルマリンを使用)、固定されなくてもよい。いくつかの実施形態では、無標識組織試料22は、新鮮である、又は生きていることもある。また、本明細書に記載の方法を使用して、生体内での無標識組織試料22のデジタル染色IHC画像40を生成することもできる。
【0020】
本明細書で説明されるように、1つの特定の実施形態では、無標識組織試料22は無標識乳房組織試料であり、生成されるデジタル的に又は仮想的に染色されたIHC画像40は、無標識乳房組織試料22のデジタル染色されたHER2顕微鏡画像である。乳房組織以外の他の種類の組織及びHER2以外の他の種類のバイオマーカー標的が、本明細書に記載のシステム2及び方法に関連して使用されうることが理解されるべきである。IHC染色において、一次抗体は典型的に、目的の抗原又はバイオマーカー/生体分子を標的とするものが使用される。次いで、一次抗体に結合する二次抗体が典型的に使用される。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などの酵素が二次抗体に付けられ、DAB又はアルカリホスファターゼ(AP)ベースの色素原などの色素原への結合のために使用される。ヘマトキシリンなどの対比染色を色素原の後に適用して、下にある組織構造を可視化するためのより良好なコントラストを得ることができる。本明細書に記載の方法及びシステムは、組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする無標識組織のデジタル染色IHC画像を生成するために使用される。
【実施例
【0021】
実験(Experimental)
【0022】
提示の仮想HER2染色法は、図2A~2Bに示されるように、条件付き敵対的生成ネットワーク(GAN)を使用した深層学習可能な画像間変換に基づいている。訓練段階を完了させた後、仮想HER2染色フレームワークの有効性を実証するために、HER2スコアが異なる新しい乳房組織切片を使用して2つの盲検化定量的試験を行った。この目的のために、半定量的Dako HercepTestスコアリングシステムを使用し、そのシステムは染色の強度とともに、HER2の膜性染色を呈する腫瘍細胞の割合を評価するものである。結果は、0(陰性)、1+(陰性)、2+(弱陽性/判定不能)、及び3+(陽性)として報告される。最初の研究では、3名の専門委員会認定乳房病理学者が、仮想染色されたHER2ホールスライド画像40(WSI)及びIHC染色された標準的な対応物のHER2スコアを盲検で評価した。結果と統計分析から、仮想HER2 WSI40に基づくHER2状態の判定が、化学的に調製したIHC HER2スライドに基づく標準的な分析と同程度に正確であることが明らかになった。2つ目の研究では、同じ病理学者が、異なる指標、すなわち、核の細部、膜の鮮明さ、バックグラウンド染色、及び染色アーチファクトを使用して、仮想HER2画像と標準IHC HER2画像の両方の染色の質を評価した。この研究では、3名の病理学者のうち少なくとも2名が、核の細部、膜の鮮明さ、及び染色アーチファクトの非存在のレベルにおいて、仮想HER2染色画像の質と標準IHC HER2染色画像の質の間に統計的に有意な差がないことに同意したことが明らかになった。追加の特徴に基づく定量的評価でも、核と膜の両方の染色特徴に関して、仮想生成HER2画像と標準IHC染色対応物との間に高い程度の一致が確認された。
【0023】
提示のフレームワークは無標識仮想IHC染色の初めての実証を達成した。毒性のある化学化合物を含む、コストと手間と時間のかかるIHC染色手順が回避される。この仮想HER2染色技術は、他のバイオマーカー及び/又は抗原の仮想染色に拡張される可能性があり、IHC染色の繰り返し精度及び標準化を高めつつ、ライフサイエンス及び生物医学用途におけるIHCベースの組織分析ワークフローを促進しうる。
【0024】
結果
【0025】
乳房組織の無標識仮想HER2染色
【0026】
乳房組織試料22の仮想HER2染色は、それぞれが1024×1024ピクセルの合計20,910の画像パッチを構成する、19名のユニークな患者から採取した25の乳房組織切片のデータセットを用いて、ディープニューラルネットワーク(DNN)モデル10を訓練することによって実証された。DNNモデル10は、一旦訓練されると、DAPI、FITC、TxRed、及びCy5フィルターキューブでキャプチャされた非標識組織切片の自家蛍光顕微鏡画像20(方法のセクションを参照)を使用して、それらを仮想的に染色し、標準IHC HER2染色後にキャプチャされた同じ視野の対応する明視野画像にマッチングした。ネットワーク訓練及び評価プロセスでは、交差検証アプローチを採用した。別々のネットワークモデル10を異なるデータセット分割で訓練して、盲検試験のための12の仮想HER2 WSI、すなわち、4つのHER2スコア(0、1+、2+、及び3+)のそれぞれで3つのWSIを生成した。仮想HER2 WSIはそれぞれ、ネットワーク訓練段階の間に使用されなかったユニークな患者に対応する。すべての組織切片22は、HER2参照(グラウンドトゥルース)スコアがUCLA IRB 18-001029の下でUCLAトランスレーショナル病理コア研究所(UCLA Translational Pathology Core Laboratory)(TPCL)によって提供された既存の組織ブロックから入手したことに留意されたい。
【0027】
図3は、DNNモデル10によって推論された仮想HER2画像40と、標準IHC染色後に同じ組織切片からキャプチャされた、それらの対応するIHC HER2画像との比較をまとめたものである。画像パネルa~t2を図3に示す。WSIと拡大領域はともに、仮想染色と標準IHC染色との間に高い程度の一致を示す。これらの結果は、十分に訓練された仮想染色ネットワーク10が、非標識乳房組織切片22の自家蛍光画像20を、すべてのHER2状態、0、1+、2+、及び3+にわたって、それらのIHC HER2染色対応物と一致する明視野同等仮想HER2画像40に確実に変換できることを示す。精査に基づいて、専門委員会認定病理学者は、IHCと仮想HER2画像40との間の比較が、膜の鮮明さ又は核の細部などの細胞内の特徴に有意な知覚可能な差がない同等の染色を示すことを確認した。特に、仮想染色ネットワーク10は、腫瘍細胞における膜性HER2染色(DAB染色又はその欠如)の予想された強度及び分布を明確に生じさせた。HER2陽性(3+、図3-画像パネルa~e2)乳がんでは、仮想染色画像とIHC染色画像はともに、腫瘍細胞の10%以上に強い完全な膜性染色を示し、腫瘍細胞の細胞質染色は不明瞭であった。間質細胞と炎症性細胞はいずれも偽陽性染色を示さず、腫瘍細胞の核の細部は両パネルで同等であった。判定不能(2+、図3f~3j2)腫瘍では、仮想画像は、>10%の腫瘍細胞に弱~中程度の膜性染色を示し、対応する領域において同量の腫瘍細胞の膜性染色を示した。HER2陰性(1+、図3k~3o2)腫瘍は、10%以上の腫瘍細胞で微かな膜性染色を示した。間質細胞と炎症性細胞はいずれも、微かな染色も示さなかった。HER2陰性(0、図3p~3t2)腫瘍は、腫瘍細胞の染色を示さなかった。
【0028】
仮想HER2染色の盲検評価と定量
【0029】
次に、仮想HER2染色フレームワークの有効性を定量的盲検試験で評価した。その試験では、12の仮想HER2 WSI40及びそれらの対応する標準IHC HER2 WSIを混合し、3名の専門委員会認定乳房病理学者に提示し、その画像が仮想染色によるか標準IHC染色によるかを知ることなく、各WSIのHER2スコア(すなわち、3+、2+、1+、又は0)を段階評価した。ランダムな画像のシャッフル、回転、反転をWSIに適用し、評価の盲検化を促進した。3名の病理学者によって盲検的に段階評価された仮想及び標準IHC WSIのHER2スコアを図4A、4Bにまとめ、それらの参照である、UCLA TPCLから提供されたグラウンドトゥルーススコアと比較する。それぞれN=36の評価に対応する仮想HER2 WSI40(図4A)及びIHC HER2 WSI(図4B)の混同行列は、仮想HER2染色アプローチが標準IHC染色と同様のレベルのHER2状態評価の精度を達成したことを明らかにしている。これらの混同行列を詳細に検討すると、仮想HER2ベースの評価の対角要素の和(22) がIHC HER2のそれ(19)よりも高く、標準IHC HER2 WSIに基づく評価と比較して、仮想HER2 WSI40に基づいて、より多くの症例が正しくスコア付けされたことを示している。さらに、仮想HER2ベースの評価の絶対非対角誤差の和(14)は、標準IHC HER2のそれ(18)よりも小さい。図4A、4Bに示された同じ混同行列に基づいて、カイ二乗検定を行って、HER2スコア付けにおける仮想染色法と標準IHC染色法の間の一致の程度を比較した。試験の結果は、2つの方法の間に統計的に有意な差がないことを示す(p=0.4752、以下の表1参照)。
【0030】
HER2スコアリングにおける仮想染色の有効性を評価することに加え、仮想HER2画像40の染色の質を定量的に評価し、標準IHC HER2画像と比較した。この盲検試験では、10の関心領域(ROI)を12の仮想HER2 WSIのそれぞれからランダムに抽出し、10のROIをそれらの対応するIHC HER2 WSIのそれぞれから同じ位置で無作為に抽出し、240の画像パッチのテストセットを構築した。各画像パッチは、8000×8000ピクセル(1.3×1.3mm)を有し、ランダムにシャッフル、回転、及び反転もされた後に、同じ3名の病理学者によってレビューされた。それらの病理学者に、HER2染色について予め指定された4つの特徴指標:膜の鮮明さ、核の細部、過剰なバックグラウンド染色の非存在、及び染色アーチファクトの非存在に基づいて、各ROIの画像の質を段階評価するように求めた(図5A~5E)。各指標の段開票尺度は1から4であり、4は完全を表し、3は非常に良いを表し、2は許容範囲を表し、且つ1は許容範囲外を表す。図5Aは、予め定義された特徴指標に基づく仮想HER2及び標準IHC HER2画像の染色の質のスコア(すべての画像パッチ及び病理学者にわたっての平均)をまとめたものである。図5B~5Eはさらに、各特徴指標の下で、4つのHER2状態のそれぞれにおける平均の質のスコアを比較する。図5Bでは、HER2陰性ROIの膜の鮮明さスコアは、HER2陰性試料の細胞膜の染色がないので、「該当なし」と記されている。標準IHC HER2画像は、事前に選択されていたので、これらの比較において有利であったことを強調することが重要である。かなりの割合の標準IHC HER2組織スライドが許容できない染色の質の問題を被り(考察及び図7の画像パネルa~hを参照)、したがって、それらは最初の段階で比較研究から除外された。それにもかかわらず、仮想及び標準IHC HER2染色の質のスコアは互いに非常に近く、それらの標準偏差の範囲(図5の破線)内に入る。また、専門委員会認定病理学者によって評価された各特徴指標について片側t検定も実施して、標準IHC HER2画像が仮想HER2画像40よりも、染色の質において統計的に有意に良好かどうかを判定した。t検定の結果、「過剰なバックグラウンド染色の非存在」の指標についてのみ、3名の病理学者のうち2名が、仮想染色と比較して標準的なIHC染色の質の統計的に有意な向上を報告した。残りの特徴指標(すなわち、核の細部、膜の鮮明さ、及び染色アーチファクト)については、3名の病理学者のうち少なくとも2名が、IHC HER2画像の染色の質は、それらの仮想HER2対応物と比較して統計的に有意に良好ではないと報告した(下記の表2)。また、仮想染色HER2画像40は、図4A及び4Bに示された混同行列及び表1に報告されたカイ二乗検定を用いても分析されたように、ホールスライドレベルで診断を誤らせなかったことに留意されたい。
【0031】
差=仮想染色画像の質のスコア-IHC染色画像の質のスコア
【0032】
帰無仮説:
【0033】
代替仮説:
【0034】
各ROIの染色の質の評価のほかに、病理学者は各ROIについてHER2スコアも段階評価した。その結果を図8A図8Bに報告する。図8Aの各ヒストグラムは、3名の病理学者によって評価された各WSIから抽出された10のROIのHER2スコアをまとめたものである(すなわち、N=30評価)。対応するWSIの参照(グラウンドトゥルース)HER2スコアは、グレーの垂直破線としてプロットされている。この分析により、患者の大部分において、仮想的に生成されたROIと標準IHC染色されたROIとの間に、評価HER2スコアに不一致がないことが明らかである。不一致がある症例(例えば、患者#5及び患者#11)については、仮想HER2スコアのヒストグラムは、標準IHCベースのHER2スコアのヒストグラムと比較して、参照HER2スコア(破線)により近く集中した。サブサンプリングされた(sub-sampled)ROIからHER2スコアを段階評価するのと、WSIから段階評価するのとでは、組織切片の不均一な性質のために異なる結果が得られる可能性があることにも留意することが重要である。
【0035】
仮想HER2染色の特徴に基づいた定量的評価
【0036】
病理学者による仮想染色の有効性及び画像の質の盲検評価に加えて、IHC染色対応物と比較して、仮想的に生成されたHER2画像の特徴に基づく定量的な分析が行われた。この分析では、8194のユニークな試験画像パッチ(それぞれ1024×1024ピクセルのサイズ)が仮想染色のために盲目的に選択された。それぞれの異なるHER2状態の異なる染色特徴のために、これらの盲検試験画像は、定量的評価のために2つのサブセットに分割された:HER2 0とHER2 1+(N=4142)からの画像を含む1つのサブセットと、HER2 2+とHER2 3+(N=4052)からの画像を含むもう1つのサブセット。それぞれの仮想染色HER2画像40及びそれに対応するIHC HER2画像(グラウンドトゥルース)について、核染色及び膜染色のセグメンテーションに基づいて、4つの特徴に基づく定量的評価指標(HER2用に特別に設計された)が計算された(方法のセクションを参照)。これら4つの特徴に基づく定量的評価指標には、各画像の核染色を定量化するための核の数及び平均核面積(ピクセルの数)、並びに各画像の膜染色を定量化するための特性曲線下面積及び膜領域連結性が含まれた(詳細については方法のセクションを参照)。
【0037】
それらの標準IHC対応物と比較した仮想HER2画像40についての、これらの特徴に基づく定量的評価の結果を図6A~6Bに示す。この分析により、仮想HER2染色特徴指標は、核と膜染色の両方に関して、それらの標準IHC対応物と比較して、類似した分布及び密接に一致する平均値(水平破線)を呈することが示された。HER2陽性群(2+及び3+)の評価結果をHER2陰性群(0及び1+)と比較することによって、核の特徴(すなわち、核の数と平均核面積)の類似した分布及びより高いレベルの膜染色が観察され、これは予想通り、高いHER2スコアがより高いこととよく相関する。
【0038】
考察
【0039】
深層学習可能な無標識仮想IHC染色法及びシステム2が本明細書で開示される。DNNモデル10を訓練することによって、本発明の方法は、非標識組織切片22の自家蛍光画像20から、標準IHC-染色後にキャプチャされた明視野画像と一致する仮想HER2画像40を生成した。化学的にIHC染色を行うのに比較して、仮想HER2染色法は迅速で、操作も簡単である。従来のIHC HER2染色は、組織検査技師の定期的なモニタリングを必要とする手間のかかる試料処理工程を含むものであり、その全過程は、診断医がスライドをレビューできるようになるまで典型的には1日かかる。対照的に、提示の仮想HER2染色法は、これらの手間やコストのかかるステップを回避し、無標識組織切片22からキャプチャされた自家蛍光画像20を使用してコンピュータによって明視野同等HER2画像40を生成する。訓練(1回限りの作業)の完了後、仮想染色ネットワークを使用した推論過程全体は、消費者グレードのコンピュータ100を使用して組織の1mmに対して~12秒しかかからず、これはより高速なハードウェアアクセラレーションプロセッサ102/ユニットを使用することによってさらに向上させることができる。
【0040】
提示の方法の別の利点は、標準的なIHC染色で一般的に観察される染色のばらつきを最小限に抑え、非常に一貫性のある繰り返し精度の良い染色結果を生成する能力である。IHC HER2染色は、各組織処理ステップで時間、温度、及び試薬の濃度を正確に制御する必要があるので、繊細で手間がかかり、実際のところ、満足な染色を生成できないことが多い。本研究では、IHC染色が認定病理検査室(accredited pathology labs)によって行われたにもかかわらず、試料スライドの~30%が、標準IHC染色の不成功及び/又は著しい組織損傷のために廃棄された。図7(画像パネルc、g)は、組織の完全損傷と、正しいHER2スコアを反映できなかった偽陰性染色を含む、経験した標準IHC染色の失敗の2つの例を示す。対照的に、コンピュータによる仮想染色アプローチは、組織の化学的処理に依存せず、再現性のある結果を生成し、これは一般的に経験される染色のばらつき及びアーチファクトを排除することによるHER2の判読の標準化にとって重要である。
【0041】
組織スライス22の自家蛍光入力画像20は、従来の蛍光顕微鏡110に設置された標準的なフィルターセットを用いてキャプチャされたので、提示のアプローチは、ハードウェアの変更や光学部品のカスタマイズなしで、既存の蛍光顕微鏡110に実装する準備ができている。本結果は、4つの一般的に使用されている蛍光フィルター(DAPI、FITC、TxRed、及びCy5)の組み合わせが、仮想HER2染色性能に対して非常に良好なベースラインをもたらすことを示した。図9Aを参照。アブレーション研究として、ピーク信号対雑音比(PSNR)及び構造類似性指数(SSIM)を計算することによって、異なる自家蛍光入力チャネルで訓練された仮想染色ネットワーク10を、ネットワーク出力とグラウンドトゥルース画像の間で定量的に比較した(図9B参照)。細胞膜の染色はHER2状態評価における重要な評価因子であるので、カラーデコンボリューションも行って、膜染色チャネル(すなわち、ジアミノベンジジン、DAB染色)(図10A~10B)を分割し、それに続いてSSIMスコアを計算して比較した(図9A~9B)。これらの分析から、仮想染色ネットワーク10の性能は、入力自家蛍光チャネルの数の減少とともに部分的に低下することが明らかになり、DAPI、FITC、TxRed、及びCy5を一緒に使用する動機付けとなった(図9B)。
【0042】
仮想HER2染色のためにアテンションゲート付きGAN構造を使用する利点は、追加の比較研究によって説明され、その研究では以下を含む4つの異なるネットワークアーキテクチャ10を訓練し、盲検的に試験した:1)本明細書で使用されるアテンションゲート付きGAN構造、2)残差接続を取り除いた同じ構造、3)アテンションゲートブロックを取り除いた同じ構造、及び4)教師なしサイクルGANフレームワーク。訓練/検証/テストデータセットと訓練エポックは、4つのネットワーク10すべてで同じにした。それらの訓練後、ネットワーク出力とグラウンドトゥルース画像の間の膜染色(SSIMDAB)のPSNR、SSIM、及びSSIMを計算することによって、それらネットワーク10の定量的比較を行った(第12図を参照)。視覚的及び数値的比較の両方により、本明細書で使用されたアテンションゲート付きGANは、様々なHER2発現レベルにおいて一貫して優れた、正確な仮想染色を提供できる唯一のネットワークアーキテクチャである一方で、他のネットワークアーキテクチャは、1つ又は複数のテストFOVにおいていくつかの壊滅的な染色エラーを生じ、すべてのHER2状態にわたって一貫した推論には許容できないものとなることが明らかになった。図13~14では、HER2発現が強いFOV(図13)及びHER2発現が弱いFOV(図14)を含め、対応するグラウンドトゥルース画像に対する、それらの異なるネットワークアーキテクチャによって生成された出力画像40の色分布をさらに比較した(方法セクションを参照)。これらの追加比較により、フレームワークによって生成された出力画像の色ヒストグラムが、膜と核の両方の染色チャネルに関して、標準的なIHCのグラウンドトゥルースとはるかに密接に一致することが示され、ここでもやはり、本明細書で報告された訓練済みディープニューラルネットワーク10にアテンションゲート付きGANアーキテクチャを使用する利点が示された。
【0043】
仮想HER2染色法の成功は、畳み込みニューラルネットワーク10を使用して、無標識組織22の自家蛍光画像20にエンコードされている空間スペクトル情報を処理することに依存する。提示の仮想染色法は、広範な他のIHC染色に拡張できる可能性がある。仮想HER2染色フレームワークは、非標識組織切片22の自家蛍光イメージングに基づいて実証されたが、ホログラフィー、蛍光寿命イメージング及びラマン顕微鏡法などの他の無標識顕微鏡モダリティもまた、このタスクに利用することができる。様々なバイオマーカーの評価において他の種類のIHC染色に一般化することに加え、本方法はさらに非固定新鮮組織試料又は凍結切片に適応でき、外科手術の間の術中迅速診断のためのリアルタイムの仮想IHC画像を提供できる可能性がある。
【0044】
方法
【0045】
試料の調製及び標準IHC染色
【0046】
非標識乳房組織ブロックは、UCLA IRB 18-001029に基づきUCLA TPCLから提供され、4μmの薄切片22に切り出した。次いで、FFPE薄切片22を脱パラフィン処理し、ガラスカバースリップで覆った。自家蛍光顕微鏡画像20を取得した後、非標識組織切片22は、標準IHC HER2染色のために認定病理検査室に送られ、UCLA TPCL及び米国ロサンゼルスのシダーズ・シナイメディカルセンターの解剖病理部によって行われた。UCLA TPCLが提供するIHC HER2染色プロトコールは、IHC HER2染色プロトコール(方法)に記載されている。
【0047】
画像データの取得
【0048】
非標識組織切片の自家蛍光画像20は、×40/0.95NA(UPLSAPO、オリンパス)対物レンズを備えた標準的な蛍光顕微鏡110(IX-83、オリンパス)を使用してキャプチャした。DAPI(Semrock DAPI-5060C-OFX、EX377/50nm、EM447/60nm)、FITC(Semrock FITC-2024B-OFX、EX485/20nm、EM522/24nm)、TxRed(Semrock TXRED-4040C-OFX、EX562/40nm、EM624/40nm)、及びCy5(Semrock CY5-4040C-OFX、EX628/40nm、EM692/40nm)を含む4つの蛍光フィルターキューブを使用して、異なる励起-発光波長で自家蛍光画像20をキャプチャした。自家蛍光画像20はそれぞれ、科学用相補型金属酸化物-半導体(sCMOS)画像センサ(ORCA-flash4.0 V2、浜松ホトニクス)を用い、DAPI、FITC、TxRed、及びCy5フィルターについて、それぞれ150ミリ秒、500ミリ秒、500ミリ秒、及び1000ミリ秒の露出時間でキャプチャした。4つのチャネルについてそれぞれの露光時間で画像を正規化した。したがって、DAPI画像(訓練用とテスト用)は露光時間150ミリ秒で除算した。他のチャネルはそれぞれの露光時間で正規化した。画像取得過程は、μManager(バージョン1.4)顕微鏡自動化ソフトウェアで制御した。標準IHC HER2染色が完了した後、×20/0.8NA対物レンズ(AxioScan Z1、ツァイス)を備えたスライドスキャナー顕微鏡を使用して明視野WSIを得た。
【0049】
画像の前処理及び位置合わせ
【0050】
自家蛍光画像20(ネットワーク入力)及び明視野IHC HER2(ネットワークグラウンドトゥルース)画像ペアのマッチングは、画像間変換ネットワークの訓練の成功に重要である。仮想HER2染色ネットワークの訓練データセットを準備するための画像処理ワークフローは、図11及びMATLAB(MathWorks)に実装された画像パネルa~gに記載されている。まず、同じ組織切片の自家蛍光画像20(IHC染色前)及びホールスライド明視野画像(IHC染色後)をWSIにつなぎ合わせ(画像パネルa)、頑健な特徴量の高速化(the speeded up robust features)(SURF)ポイントを検出及びマッチングすることによって大域的に共位置合わせを施した(画像パネルb)。次いで、これらの大まかに一致した自家蛍光と明視野WSIを1024×1024ピクセルの画像のタイルのペアに切り取った(画像パネルc)。これらの画像ペアは、標準的な(手間のかかる)IHC染色手順の間の光学収差及び組織構造の形態変化に起因して、ピクセルレベルで正確に一致しなかった。相関ベースの弾性位置合わせアルゴリズムを使用して自家蛍光画像20とその明視野対応物の間の変換を計算するために、自家蛍光画像のスタイルを明視野画像のスタイルに一致するように位置合わせモデルを訓練する必要がある(画像パネルd)。この位置合わせネットワーク50は、仮想染色ネットワーク10と同じアーキテクチャを使用した。位置合わせネットワーク50(画像パネルe)を使用した画像スタイル変換に続いて、ピラミッド弾性画像位置合わせアルゴリズムを行って、サブ画像(sub-image)ブロックの局所的特徴を階層的にマッチングし、変換マップを計算した。次いで変換マップを、グラウンドトゥルース画像(画像パネルf)の局所的なラッピング(wrappings)の補正に適用し、それらの自家蛍光対応物とより良好に一致させた。この訓練-位置合わせ過程(画像パネルd~f)を、自家蛍光入力及び明視野グラウンドトゥルース画像パッチが単一ピクセルレベルで正確に一致するまで3~5回繰り返した(画像パネルg)。最後に、手動データクリーニング過程を行って、(標準的な化学染色過程の間の)組織の断裂又は(撮像過程の間の)焦点ぼけなどのアーチファクトのある画像ペアを除去した。
【0051】
仮想HER2染色ネットワークアーキテクチャ及び訓練スケジュール
【0052】
図2A、2Bに示されるように、GANベースのネットワークモデル10を使用して、4チャネル無標識自家蛍光画像(DAPI、FITC、TxRed、及びCy5)から対応する明視野仮想HER2画像への変換を行った。このGANフレームワークは、(1)入力自家蛍光画像20と対応する明視野IHC染色HER2画像(グラウンドトゥルース)との間の統計的変換を学習することによって、仮想染色HER2画像40を作り出す生成器ネットワーク及び(2)生成器によって作成された仮想HER2画像40を、実際のIHC染色HER2画像から識別することを学習する識別器ネットワークを含む。生成器及び識別器は、この競合的訓練プロセスを通じて、代替的に(alternatively)最適化され、同時に向上した。具体的には、生成器(G)ネットワーク及び識別器(D)ネットワークは、以下の損失関数を最小にするように最適化された。
【0053】
【0054】
【0055】
式中、G(・)は生成器推論、D(・)は識別器によって予測された、実際に染色された実在のIHC画像である確率を表し、I入力は入力無標識自家蛍光画像を示し、I標的はグラウンドトゥルース、標準IHC染色画像を示す。l生成器の係数(α,λ,γ)は経験的に(10、0.2、0.5)として設定し、グラウンドトゥルースに対する生成器出力のピクセル毎の滑らかなL誤差、生成器出力のSSIM損失、及び出力画像の識別器予測のバイナリクロスエントロピー(BCE)損失のバランスをとった。平均二乗誤差(MSE)損失を用いるのと比較して、滑らかなL損失は、ゼロ付近のMSEと他の部分の平均絶対誤差(MAE)を用いることによって、勾配爆発を防ぐ頑健性のある推定量である。具体的には、2つの画像AとBの間の滑らかなL損失は次のように定義される:
【0056】
【0057】
式中、m及びnはピクセルインデックスであり、M×Nは各画像の総ピクセル数を表す。βはこの場合、1に設定した。
【0058】
2つの画像のSSIMは次のように定義される:
【0059】
【0060】
式中、μ及びμは画像A及びBの平均値、σ 及びσ は画像A及びBの分散、σABは画像AとBの間の共分散である。c及びcは、それぞれ0.01及び0.03に設定した。
【0061】
ネットワークに使用のロジッツ損失を伴うBCEは次のように定義される:
【0062】
【0063】
式中、pは識別器予測を表し、qは実際のラベル(actual label)(0又は1)を表す。
【0064】
図2Aにされるように、生成器ネットワーク10は、4つの解像度レベルをもつアテンション付きU-Netアーキテクチャに従って構築され、これは、異なる空間スケールでの空間特徴の変換を学習することによって、無標識自家蛍光画像20をデジタル的又は仮想的にHER2染色画像40にマッピングし、より浅いレベルでの高解像度局所的特徴及びより深いレベルでのより大きなスケールの大域的コンテキストの両方を捉えることができる。アテンション付きU-Net構造は、互いに対称なダウンサンプリングパス及びアップサンプリングパスから構成される。ダウンサンプリングパスは4つのダウンサンプリング畳み込みブロックを含み、それぞれは、2層畳み込み層残差ブロックから構成され、その後に、勾配が0.1の漏洩正規化線形ユニット(Leaky ReLU)と、ダウンサンプリングのためのストライドサイズが2の2×2最大値プーリング演算が続く。2層畳み込み層残差ブロックは、カーネルサイズが3×3の2つの連続する畳み込み層と、2つの畳み込み層の入出力テンソルを接続する畳み込み残差パスを含む。ダウンサンプリングパスの各レベルの入力チャネルの数及び出力チャネルの数は、それぞれ、4、64、128、256、及び64、128、256、512に設定した。
【0065】
対称的に、アップサンプリングパスは、2×ダウンサンプリング演算が2×バイリニアアップサンプリング演算に置き換えられたことを除いて、ダウンサンプリング畳み込みブロックと同じ設計の4つのアップサンプリング畳み込みブロックを含む。各アップサンプリングブロックの入力は、前のブロックからの出力テンソルと、アテンションゲート接続を通過するダウンサンプリングパスの一致したレベルにおける対応する特徴マップとの連結である。アテンションゲートは、3つの畳み込み層及びシグモイド演算からなり、顕著な空間特徴を強調する活性化重みマップを出力する。注目すべきことに、アテンションゲートはU-netスキップ接続の各レベルに追加された。アテンションゲート付き構造は、入力画像中の無関係な領域を抑制する一方で、特定のタスクに有用な特定の特徴を強調することを暗黙的に学習する。
【0066】
アップサンプリングパスの各レベルにおける入力チャネルの数と出力チャネルの数は、それぞれ、1024、1024、512、256、及び1024、512、256、128であった。アップサンプリングパスに続いて、別の単一の畳込み層とともに2層畳み込み層残差ブロックは、チャネルの数を、グラウンドトゥルース画像(すなわち、3チャネルRGB画像)のチャネルの数と一致する3つに減らす。さらに、ダウンサンプリングパスとアップサンプリングパスのディメンションを接続し、マッチングするために、2層畳み込み層中央ブロックを利用した。
【0067】
識別器ネットワークの構造を図2Bに示す。1つの畳み込み層とそれに続くLeaky ReLU演算を含む初期ブロックは、まず、3チャネルの生成器出力又はグラウンドトゥルース画像を64チャネルのテンソルに変換した。次いで、5つの連続する2層畳み込み層残差ブロックが追加されて、2×ダウンサンプリングを行って、各入力テンソルのチャネル数を拡張した。2×ダウンサンプリングは、各ブロックの第2の畳み込み層のストライドサイズを2に設定することによって可能になった。5つのブロックを通過した後、出力テンソルは平均化され、一次元ベクトルに平坦化され、次いで2つの全結合層に供給されて、入力画像が標準IHC染色画像である確率が得られた。
【0068】
完全な画像データセットには、19名のユニークな患者からの25のWSIが含まれ、それぞれ1024×1024ピクセルのサイズをもつ20,910の画像パッチのセットが作られた。交差検証テストで使用した各仮想染色モデルの訓練では、データセットを以下のように分割した:(1)テストセット:1~2名のユニークな患者のWSIからの画像(~10%、訓練又は検証患者と重複しない);テストセットを分割した後、残りのWSIをさらに、(2)検証セット:WSIの2名からの画像(~10%)、と(3)訓練セット:残りのWSIからの画像(~80%)。ネットワークモデルを、訓練データセットの1024×1024ピクセルの画像からランダムに切り出した256×256ピクセルの画像パッチを使用して最適化した。重み減衰付きAdam最適化手法(optimizer)を使用して、バッチサイズ28で、生成器ネットワークに対して1×10-4、識別器ネットワークに対して1×10-5の学習率で学習可能なパラメーターを更新した。生成器/識別器の更新頻度を2:1に設定した。最後に、検証画像の目視評価を補助して、最良のMSE損失に基づいて最良のモデルを選択した。ネットワークは、~120時間の訓練後に収束した。
【0069】
実行の詳細
【0070】
画像前処理は、画像処理ソフトウェア104(つまり、バージョンR2018B(MathWorks)を使用のMATLAB)で実行した。仮想染色ネットワーク10は、Pythonバージョン3.9.0及びPytorchバージョン1.9.0を使用して実行した。訓練は、インテルXeon W-2265 中央演算処理装置(CPU)102、64GBのランダムアクセスメモリ(RAM)、及びNvidia GeForce GTX 3090画像処理装置(GPU)102を搭載したデスクトップコンピュータ100で行った。
【0071】
HER2画像の病理学者による盲検評価
【0072】
WSIの評価では、24の高解像度WSIをランダムにシャッフル、回転、反転し、3名の専門委員会認定病理学者と共有されたオンライン画像閲覧プラットフォームにアップロードして、Dako HercepTestスコアリングシステムを使用して各WSIのHER2状態を盲検評価し、スコアを付けた。サブ(sub)ROI画像の評価では、240の画像パッチをランダムにシャッフル、回転、反転し、オンライン画像共有プラットフォームGIGAmacro(https://www.gigamacro.com/)にアップロードした。染色の質の評価に使用されたこれらの240の画像パッチは、https://viewer.gigamacro.com/collections/u08mwIpUDAwfR1vQ?sb=date&sd=ascでアクセスすることができる。
【0073】
病理学者による盲検評価を補足データ1に示す。
【0074】
統計分析
【0075】
カイ二乗検定(両側)を行って、仮想染色及び標準IHC染色に基づいて評価されたHER2スコアの一致を比較した。対応のある検定(片側)を使用して、仮想染色と標準IHC染色の画像の質を比較した。最初に、同じ位置から切り取った仮想画像パッチとIHC画像パッチのスコアの差を計算し、すなわち、各IHC染色画像のスコアを、対応する仮想染色画像のスコアから差し引いた。次いで、片側t検定を行って、各特徴指標と各病理学者によって差を0と比較した。すべての検定において、P値≦0.05を統計学的に有意とみなした。分析はすべて、SAS v9.4(SAS Institute、ノースカロライナ州ケーリー)を使用して行った。
【0076】
HER2画像の数値評価
【0077】
HER2画像の特徴に基づく定量的評価(図6A~6Bに報告)の場合、図15に示されるように、カラーデコンボリューション(図10A~10B)を行って、核染色チャネル(すなわち、ヘマトキシリン染色)と膜染色チャネル(すなわち、ジアミノベンジジン染色、DAB)を分離した。核セグメンテーションマップは、大津の閾値法及びそれに続くヘマトキシリンチャネルに対するモフォロジー演算(例えば、画像の収縮、画像の膨張など)によって得た。バイナリー核セグメンテーションマップに基づき、連結領域の数を数え、平均領域面積を測定することによって、核の数及び平均核面積を抽出した。膜染色の評価では、まず、分離したDAB画像チャネルをHSV色空間に変換した。次いで、飽和チャネルに閾値(複数可)を適用することで膜染色のセグメンテーションマップを得た。閾値(複数可)を0.1から0.5まで0.02のステップサイズで徐々に増加させることによって、画像FOV全体(すなわち、1024×1024ピクセル)に対する分割された膜染色領域の合計の比を計算し、特性曲線を作成した(図15)。特性曲線下の面積を適宜抽出し、HER2発現レベルを評価するための頑健性のある指標を得ることができる。閾値(複数可)を0.25に設定することによって、画像FOV全体に対する膜セグメンテーションマップの最大連結コンポーネントの比も膜領域の連結性として抽出した。
【0078】
図13~14に報告された色分布の特徴付けのために、核染色チャネル及び膜染色チャネルを、図15と同じカラーデコンボリューション法を用いて分割した。各染色チャネルについて、正規化したピクセル値すべてのヒストグラムを作成し、続いて分布プロファイルに適合するようにノンパラメトリックなカーネル平滑化を行った。図13~14に示されるカラーヒストグラムのY軸(すなわち、周波数)は、総ピクセル数で正規化した。
【0079】
データの利用可能性
【0080】
本研究によって実証された結果を裏付けるデータは、本明細書で入手可能である。HER2の状態及び染色質評価研究に使用された画像一式は、補足データ1ファイル及びhttps://viewer.gigamacro.com/collections/u08mwIpUDAwfR1vQ?sb=date&sd=asc(参照により本明細書に組み込まれる)で見ることができる。
【0081】
病理学者の報告全文は、補足データ1ファイルで見ることができる。完全な統計分析レポートは、補足データ2ファイルで見ることができる。患者検体に対応する未加工の(raw)WSIは、UCLA IRB 18-001029に基づき、本研究のためにUCLA Healthプライベートデータベースから入手したものであるため、一般に公開することはできない。
【0082】
コードの利用可能性
【0083】
本研究で使用された深層学習モデルはすべて、Pytorchで公開されている標準的なライブラリ及びスクリプトを使用する。本原稿で使用されたコードは、GitHub:https://github.com/baibijie/HER2-virtual-staining(参照によって本明細書に組み込まれる)を通してアクセスすることができる。
【0084】
IHC HER2染色プロトコール
【0085】
パラフィン包埋切片を4μmの厚さに切り、パラフィンをキシレンで除去し、段階的エタノールで再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール中の3%過酸化水素で10分間ブロックした。熱誘導抗原賦活化(HIER)を、95℃で25分間、デクローキングチャンバー(バイオケアメディカル)を使用して、AR9バッファー(AR9001KT Akoya)中で全切片に対して行った。次いで、スライドをHER2抗体(セルシグナリング、4290、1-200)で4℃にて一晩染色した。シグナルはDakoCytomation Envision System Labelled Polymer HRP抗ウサギ(アジレントK4003、即使用可能)を使用して検出した。すべての切片をジアミノベンジジン反応で可視化し、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0086】
次の刊行物(そのなかで参照されているすべての補足資料、補足データ及びコードを含む)、Bai et al.,Label-Free Virtual HER2 Immunohistochemical Staining of Breast Tissue using Deep Learning,BME Frontiers,vol.2022,Article ID 9786242,15 pages,2022は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
本発明の実施形態を示し、説明してきたが、本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更を加えることができる。例えば、HER2バイオマーカーは、乳房組織の無標識仮想免疫組織化学染色で具体的に検討されたが、本発明のシステム2及び方法は、他のバイオマーカー及び/又は抗原にも適用可能であることが理解されるべきである。これには、乳房組織以外の他の種類の組織22が含まれる。さらに、無標識画像は、非標識組織切片の自家蛍光イメージングに基づいて実証されたが、ホログラフィー、蛍光寿命イメージング、ラマン顕微鏡法など、他の無標識顕微鏡モダリティを使用できることが理解されるべきである。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲及びその均等物を除き、限定されるべきではない。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-08-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無標識組織試料のデジタル染色免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成し、前記組織試料の少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする方法であって、
演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用する画像処理ソフトウェアによって実行される訓練済みディープニューラルネットワークであって、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練される、前記訓練済みディープニューラルネットワークを準備すること;
蛍光イメージング装置を用いて無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を取得すること;
前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を、前記訓練済みディープニューラルネットワークに入力すること;並びに
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、前記少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な前記特徴を明らかにする前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像であって、さらにそのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ディープニューラルネットワークが、敵対的生成ネットワーク(GAN)モデルを使用して訓練される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組織が乳房組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織の前記少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原が、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ディープニューラルネットワークが、同じ組織試料の前記一致したIHC染色画像又は画像パッチと自家蛍光画像又は画像パッチとの間の統計的変換を学習するように構成されている生成器ネットワーク、及び前記組織試料のグラウンドトゥルースIHC染色画像と、前記組織試料の前記出力されたデジタル染色IHC顕微鏡画像を識別するように構成されている識別器ネットワークを使用して訓練される、請求項2~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、アテンションゲート付きニューラルネットワークを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ又は複数の自家蛍光画像が、異なる励起-発光波長でキャプチャされた複数の自家蛍光画像を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
異なる励起-発光波長でキャプチャされた前記無標識組織試料の前記複数の自家蛍光画像が、次のフィルターチャンネル:DAPI、FITC、TxRed、及びCy5のうちの2つ以上で得られた自家蛍光画像を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記無標識組織試料が非固定又は新鮮組織試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記無標識組織試料が固定又は凍結組織試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記無標識組織試料が生体内で撮像された組織を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
同じ組織試料の前記複数の一致したIHC染色画像又は画像パッチ及び自家蛍光画像又は画像パッチが、前記ディープニューラルネットワークの訓練の前に、前記複数の一致したIHC染色画像又は画像パッチ及び自家蛍光画像又は画像パッチを、前記一致したIHC染色画像及び自家蛍光画像に見られる局所的なスタイル/特徴にマッチングする位置合わせニューラルネットワークモデルに通すことを含む位置合わせプロセスに供される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
位置合わせが、弾性位置合わせプロセスを使用して、前記IHC染色画像又は画像パッチを、それぞれの自家蛍光画像又は画像パッチに位置合わせすることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像が、前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を取得した後、リアルタイム又はほぼリアルタイムで出力される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記蛍光イメージング装置が蛍光顕微鏡を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
組織試料の少なくとも1つのバイオマーカー又は抗原に特異的な特徴を明らかにする無標識組織試料のデジタル染色さ免疫組織化学(IHC)顕微鏡画像を生成するためのシステムであって、
その上又はそれにより実行される画像処理ソフトウェアを有する演算装置であって、前記画像処理ソフトウェアが、前記演算装置の1つ又は複数のプロセッサを使用して実行される訓練済みディープニューラルネットワークを含み、前記訓練済みディープニューラルネットワークが、同じ組織試料の、複数の一致した免疫組織化学(IHC)染色された訓練画像又は画像パッチ及びそれらの対応する自家蛍光訓練画像又は画像パッチで訓練され、前記画像処理ソフトウェアが、蛍光イメージング装置を使用して前記無標識組織試料の1つ又は複数の自家蛍光画像を受け取り、前記少なくとも1つの標的バイオマーカーに特異的な前記特徴を明らかにする前記無標識組織試料の前記デジタル染色IHC顕微鏡画像であって、さらにそのバイオマーカーが化学的にIHC染色されていたならば、同じ無標識組織試料の対応する画像と実質的に同等であるように見えるデジタル染色IHC顕微鏡画像を出力するように構成されている演算装置
を含む、システム。
【請求項18】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、敵対的生成ネットワーク(GAN)モデルを使用して訓練される、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記組織が乳房組織を含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記組織の前記少なくとも1つの標的バイオマーカー又は抗原が、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)である、請求項17に記載のシステム。
【請求項22】
前記蛍光イメージング装置が、前記無標識組織試料の前記1つ又は複数の自家蛍光画像を取得するように構成されている蛍光顕微鏡を含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
異なる励起-発光波長でキャプチャされた、前記無標識組織試料の複数の自家蛍光画像を取得するために使用される複数のフィルターをさらに含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記訓練済みディープニューラルネットワークが、アテンションゲート付きニューラルネットワークを含む、請求項18に記載のシステム。
【国際調査報告】