(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】標的分子を分離するための分離マトリックス及び方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/281 20060101AFI20250128BHJP
B01J 20/285 20060101ALI20250128BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20250128BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20250128BHJP
C07K 14/155 20060101ALI20250128BHJP
C07K 14/015 20060101ALI20250128BHJP
C07K 14/075 20060101ALI20250128BHJP
C07K 14/11 20060101ALI20250128BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
B01J20/281 G
B01J20/285 N
B01J20/281 X
G01N30/88 J
C07K1/16
C07K14/155
C07K14/015
C07K14/075
C07K14/11
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534100
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2022084530
(87)【国際公開番号】W WO2023104770
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュク・マロイセル
(72)【発明者】
【氏名】オーサ・ハーグナー・マックフィルター
(72)【発明者】
【氏名】オラ・リンド
(72)【発明者】
【氏名】イーダ・ヘレーナ・ヴェスティン
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ティンボーン
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン・ノリアン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045GA23
(57)【要約】
本開示は、複数のクロマトグラフィー粒子を含む分離マトリックスであって、各クロマトグラフィー粒子が、コア及びコアを囲む層を含み、コアが第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、第1の平均細孔直径が、コアの細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径が、コアを囲む層の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする、分離マトリックスを対象とする。そのような分離マトリックスを調製するための方法、そのような分離マトリックスの使用、及びそのような分離マトリックスの使用によって標的分子を分離するための方法、特に、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを、遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法、及び前記方法によって得られる組成物が更に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のクロマトグラフィー粒子(10)を含む分離マトリックスであって、各クロマトグラフィー粒子(10)が、コア(20)及びコア(20)を囲む層(30)を含み、コア(20)が第1の平均細孔直径を有し、コア(20)を囲む層(30)が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、
第1の平均細孔直径が、コア(20)の細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径が、コア(20)を囲む層(30)の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする、分離マトリックス。
【請求項2】
第1の平均細孔直径が、約50kDaから、例えば約140kDa、例えば約2000kDaの分子量を有する標的分子の拡散を阻止する、請求項1に記載の分離マトリックス。
【請求項3】
第1の平均細孔直径が、約7nmから、例えば約10nm、例えば約20nm、例えば約25nmの流体力学的直径を有する標的分子の拡散を阻止する、請求項1又は2に記載の分離マトリックス。
【請求項4】
クロマトグラフィー粒子(10)が、約20μm~約500μm、例えば約60μm~約120μm、又は例えば約100μm~約400μmの直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項5】
コア(20)が、クロマトグラフィー粒子(10)の直径の約60%~約97%の直径を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項6】
コア(20)を囲む層(30)が、クロマトグラフィー粒子(10)の直径の約3%~約40%、例えば約6%~約10%の直径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項7】
クロマトグラフィー粒子(10)が、標的分子に結合するためのリガンドを含み、リガンドが、コア(20)を囲む層(30)に位置し、任意選択で、リガンドがコア(20)に更に位置する、請求項1から6のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項8】
リガンドが、陽イオンリガンド、陰イオンリガンド、疎水性相互作用リガンド、マルチモーダルリガンド、又はそれらの組合せである、請求項7に記載の分離マトリックス。
【請求項9】
リガンドが、リンカー又はエクステンダーを介してクロマトグラフィー粒子(10)の表面に連結される、請求項7又は8に記載の分離マトリックス。
【請求項10】
クロマトグラフィー粒子(10)が実質的に球状である、請求項1から9のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項11】
クロマトグラフィー粒子(10)が、天然又は合成起源のもの、好ましくは、アガロース等の多糖である、請求項1から10のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項12】
コア(20)を囲む層(30)が第1の層であり、クロマトグラフィー粒子(10)が、第1の層(30)を囲む第2の層(40)を更に含み、
第2の層(40)が、第1の平均細孔直径及び第2の平均細孔直径と異なる第3の平均細孔直径を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項13】
コア(20)が、コア(20)を囲む層(30、40)の平均細孔直径と比較してコア(20)の平均細孔直径を減少させるポリマー化合物を含み、任意選択で、ポリマー化合物が、デキストラン等の天然のポリマー又は合成ポリマーである、請求項1から12のいずれか一項に記載の分離マトリックス。
【請求項14】
複数のクロマトグラフィー粒子(10)を調製する工程を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の分離マトリックスを調製するための方法であって、該工程は、
(a)均質な平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子を出発材料として用意する工程であって、均質な平均細孔直径は、標的分子が、クロマトグラフィー粒子の全構造又は体積のいたるところで、クロマトグラフィー粒子の細孔を通って拡散することを少なくとも一部可能にする、工程と、
(b)ポリマー化合物を工程(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子のコアの内部に添加する工程であって、これにより(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子の均質な平均細孔直径と比較してコアの平均細孔直径を減少させ、これによりコア及びコアを囲む層を含むクロマトグラフィー粒子を得、コアが第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子の均質な平均コア直径に対応する、工程と
を含むか、又は
(a')クロマトグラフィー粒子の全構造又は体積のいたるところで、クロマトグラフィー粒子の細孔を通る標的分子の拡散を阻止する第1の平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子を用意する工程と、
(b')工程(a')で用意されたクロマトグラフィー粒子を、第2の平均細孔直径を有する周囲層に埋め込む工程と
を含み、
第1の平均細孔直径及び第2の平均細孔直径が互いに異なり、第2の平均細孔直径が第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、
第1の平均細孔直径が、コアの細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径が、コアを囲む層の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする、方法。
【請求項15】
工程(b)の添加が、
(i)粒子のコアへのポリマー分子のカップリング、又は
(ii)モノマーを粒子のコアに添加し、このモノマーをコアの内部で重合させ、これによりポリマー分子をコアの内部に作り出すことを含む、ポリマーグラフト化
を含み、これによりコアの平均細孔直径を減少させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
標的分子を細胞培養収穫物又は不純物から分離するため等の分取用途のための、請求項1から13のいずれか一項に記載の分離マトリックスの使用。
【請求項17】
標的分子が、アデノ随伴ウイルスカプシド、モノクローナル抗体、抗体の抗原結合断片、ウイルス様粒子、レンチウイルスカプシド、アデノウイルスカプシド、又はインフルエンザウイルスカプシドである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
1種又は複数の標的分子を液体試料中の1種又は複数の他の化合物から分離するための分取クロマトグラフィーの方法であって、標的分子及び化合物を含む液体試料を請求項1から13のいずれか一項に記載の分離マトリックスと接触させる工程を含み、液体試料を<5bar、例えば<3barの圧力に曝露する工程を含む方法。
【請求項19】
標的分子及び化合物を含む液体試料を分離マトリックスと接触させる工程の前に、清澄化及び/又はクロマトグラフィーの工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを、遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料を弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料に添加する工程であって、
液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも10
12アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料が、
i.アデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンド、及び
ii.請求項1から13のいずれか一項に記載の分離マトリックスを含む支持体
を含む、工程、
b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされており、
任意選択で、アデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドである、方法。
【請求項21】
弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドが、以下の式I:
【化1】
(式中、
X
1は、O、S、及びNHCOから選択され、
nは1~4の整数であり、
各R
1及びR
2は、独立に、水素、C1~C3アルキル、及びOHから選択される)
によって定義される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
X
1がOであり、nが1であるか、又はX
1がSであり、nが2であり、各R
1及びR
2が水素である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
リガンドの密度が、弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料のml当たり、約30~約110μmol、例えば約40~約90μmol、例えば約50~約80μmolのリガンドである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
請求項20に規定の工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1)アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2)請求項20に規定の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含み、これによりアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る、請求項20から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項20から24のいずれか一項に記載の方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、この組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2、好ましくは少なくとも4:1である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、標的分子の分離の分野に関し、複数のクロマトグラフィー粒子を含む分離マトリックスであって、各クロマトグラフィー粒子が、標的分子がコアの細孔を通って拡散することを阻止される一方で、標的分子がコアを囲む層の細孔を通って少なくとも一部が拡散することを可能にされるように設計された、コア及びコアを囲む層を含む、分離マトリックスを対象とする。
【0002】
そのような分離マトリックスを調製するための方法、そのような分離マトリックスの使用、及びそのような分離マトリックスの使用によって標的分子を分離するための方法が更に開示される。特に、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを、遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法、及び前記方法によって得られる、医薬組成物を含む組成物、及びそのような組成物の使用が開示される。
【背景技術】
【0003】
クロマトグラフィーにおけるピークブロード化は、クロマトグラフィーに存在する異なる種類の拡散による影響を受ける。Van Deemterは、クロマトグラフィーにおけるピークブロード化に影響を与える3つの異なる項、A、B及びC項を記載した(例えば、T. Edge又はP.J. Marriottを参照されたい)。A項は、いわゆる「渦拡散」であり、ゾーンブロード化は、非理想的なパッキングによるチャネリングに関連する。B項は、縦方向拡散であり、縦方向拡散の一例は、クロマトグラフィーシステムのキャピラリーにおける分析物の拡散である。縦方向拡散は、低分子量分子によく当てはまり、それは、低分子量分子が液体中で大きなタンパク質よりはるかに高い拡散速度を有するからである。縦方向拡散を低減するために、クロマトグラフィーシステムにおいて低いデッドボリュームを有することが重要である。C項の拡散は、移動相と固体支持体の間の物質移動抵抗によって引き起こされる。分析物が細孔内及び外に拡散するので拡散が生じ、距離が長いほど(粒径が大きいほど)、分析物の希釈が大きいほど、更にピークブロード化が現れる。細孔内への拡散速度は一定であり、増加した流量は分析物を更に分離するので、増加した流量もピークブロード化の一因となる。
【0004】
特定の標的分子の精製に関連するプロセスを最適化するために、独特の運転条件が必要とされ、最良の分離マトリックスは場合により変動する。ペプチド及びタンパク質、核酸、ウイルス粒子等の精製のために特異的なプロセスが設計される必要がある。抗体の精製において、抗体の種類は、分離マトリックスの選択について決定的である。同じことがアデノ随伴ウイルスの異なる血清型に当てはまる。
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、直鎖状一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有し、DNAを標的細胞に送達するように操作され得る、非エンベロープウイルスである。組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、最も多用途で上出来の遺伝子治療送達ビヒクルの1つとして現れた。遺伝子治療のためにウイルスベクターを使用したいという要求が高まっている。AAVベクターは、筋肉疾患及び他の障害のための新規遺伝子治療を開発するための最も魅力的な遺伝子導入ツールの1つである。初期のAAV遺伝子導入研究のほとんどは、AAV血清型2(AAV2)を使用した。AAV媒介遺伝子導入の効率及び特異性を更に改善するために、多数のAAV血清型及びバリアントが、ウイルスゲノム操作及び/又はカプシド改変によって開発された。AAV8及びAAV9のような血清型の使用は、近年増加している。標的臓器は、血清型の選択を決定する。AAV粒子を治療におけるベクターとして使用するために、トランスフェクション後にDNAのような細胞不純物からウイルス粒子を精製する必要がある。超遠心分離は、効率的であるが、拡張可能でない。通常、AAV粒子を細胞培養物から分離するために、いくつかの濾過工程及びいくつかのクロマトグラフィー工程が使用される(例えば、Weihong Quら)。
【0006】
AAVベクターの治療有効性は、目的の遺伝物質が完全にパッケージされたウイルス粒子の高いパーセンテージに依存する。上流発現系は、完全にパッケージされたAAV粒子(目的の遺伝物質を含有する)、空のAAV粒子、及び目的の遺伝物質が部分的にパッケージされたAAV粒子の混合物を不純物と一緒に産出する。したがって、完全にパッケージされたAAV粒子を精製プロセスにおいて富化する必要がある。しかし、完全にパッケージされた及び空のアデノ随伴ウイルスカプシドの効率的で拡張可能な分離を達成することに関連して、いくつかの課題があり、例えば、
- カプシドの大きな多様性(血清型及びバリアント)及び完全なカプシドの収率に関する細胞培養物の差異であり、これは広範囲の最適化が、アデノ随伴ウイルスの各血清型又はバリアントの精製に必要であることを意味する。
- 精製に関連のあるいくつかのパラメーター、例えば等電点に関連する、完全にパッケージされたカプシドと空のカプシドの小さな差異。
- 完全にパッケージされた及び空のカプシドに加えて、部分的にパッケージされたカプシドバリアントも感染した宿主細胞において生成される。そのような部分的にパッケージされ、これにより治療的にあまり有効でないカプシドは、完全にパッケージされたカプシドと一部が共溶出され得る徴候がある。
【0007】
そのため、精製プロセスの速度を上げ、分解能を改善し、コストを下げるための新規クロマトグラフィー材料及び精製戦略を提供し、様々な種類の標的分子の下流プロセシングのための大規模な方法を提供するために、代替的な分離マトリックスがこの分野で依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US6,602,990
【特許文献2】WO2006043896A1
【特許文献3】US6,428,707
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization」(R. Arshady)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の目的は、標的分子の分離のための大規模な方法に適用可能であり、工業的分取クロマトグラフィーにおける改善された分解能を達成する、クロマトグラフィー材料を提供することである。ここで開示されるクロマトグラフィー材料の主な用途領域は、二次又は最終精製とも呼ばれる、分離方法のポリッシング工程である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より詳細には、本開示の第1の態様は、複数のクロマトグラフィー粒子を含む分離マトリックスであって、各クロマトグラフィー粒子が、コア及びコアを囲む層を含み、
コアが第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、
第1の平均細孔直径が、コアの細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径が、コアを囲む層の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする、分離マトリックスを対象とする。
【0012】
本開示の第2の態様は、第1の態様に従う分離マトリックスを調製するための方法であって、複数のクロマトグラフィー粒子を調製する工程を含む方法に関する。
【0013】
本開示の第3の態様は、標的分子を細胞培養収穫物又は不純物から分離するため等の分取用途のための、第1の態様に従う分離マトリックスの使用を対象とする。
【0014】
本開示の第4の態様は、1種又は複数の標的分子を液体試料中の1種又は複数の他の化合物から分離するための分取クロマトグラフィーの方法であって、標的分子及び化合物を含む移動相を本開示の第1の態様に従う分離マトリックスと接触させる工程を含む方法に関する。
【0015】
本開示の第5の態様は、1種又は複数の標的分子を液体試料中の1種又は複数の他の化合物から分離するための分取クロマトグラフィーの特定の方法を対象とする。より具体的には、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを、遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料を弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料に添加する工程であって、
液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料が、
i.アデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンド、又は
ii.上記のような本開示の第1の態様に従う分離マトリックスを含む支持体を含む、工程、
b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法が開示される。
【0016】
第5の態様に従う上記に開示される方法は、工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1)アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2)請求項1の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含んでもよく、
これによりアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る。
【0017】
本開示の第6の態様は、第5の態様に従う上記の方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、この組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2である、組成物を対象とする。
【0018】
本開示の好ましい態様は、詳細な説明及び従属請求項において下記に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】コア及びコアを囲む層を含むクロマトグラフィー粒子であって、本開示の第1の態様に従う分離マトリックスに含まれるクロマトグラフィー粒子を概略的に示す図である。
【
図2】コア、コアを囲む第1の層、及び第1の層を囲む第2の層を含むクロマトグラフィー粒子であって、本開示の第1の態様に従う分離マトリックスに含まれるクロマトグラフィー粒子を概略的に示す図である。
【
図3A】本開示の第2の態様に従う、複数のクロマトグラフィー粒子を調製する工程を含む分離マトリックスを調製するための方法のフローチャートである。
【
図3B】本開示の第2の態様に従う、複数のクロマトグラフィー粒子を調製する工程を含む分離マトリックスを調製するための方法のフローチャートである。
【
図4】本開示の第5の態様に従う、アデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
【
図5】工程(a)の前に追加の工程(a1)を更に含む、
図4に従ってアデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
【
図6】工程(a)の前に工程(a1)を任意選択で含み、工程(b)の後に1つ又は複数の追加の工程(c1)、(c2)及び/又は(c3)を更に含む、
図4に従ってアデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
【
図7】下記の実施例1に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び完全にはパッケージされていないカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
【
図8】下記の実施例2に記載されるような分離方法に従う、モノクローナル抗体についての溶出曲線を示すグラフである。
【
図9】様々な分子量のポリペプチドを、クロマトグラフィー粒子がパックされたクロマトグラフィーカラムにロードし、それぞれのポリペプチドのlog Mwをゲル相分配係数(K
av)に対してプロットすることによって得られる、本発明の実施形態に従うクロマトグラフィー粒子についての細孔径分布曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、本開示の第1の態様に従って、複数のクロマトグラフィー粒子(10)を含む分離マトリックスを提供することによって、既存のクロマトグラフィー媒体に関連するクロマトグラフィーにおけるピークブロード化に関連する問題を解決する又は少なくとも軽減する。
図1によって概略的に示されるように、各クロマトグラフィー粒子(10)は、コア(20)及びコア(20)を囲む層(30)を含み、コア(20)は第1の平均細孔直径を有し、コア(20)を囲む層(30)は第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径は、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、第1の平均細孔直径は、コア(20)の細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径は、コア(20)を囲む層(30)の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする。
【0021】
粒子のコアは、コア内への及びコア内での標的分子の拡散を可能にしない平均細孔直径を有するので、標的分子の拡散は、コアを囲む層内(すなわち、粒子の表面に近い)にだけある。これは、その全構造又は体積のいたるところで均質な平均細孔直径を有する等しいサイズの粒子を使用する場合より短い拡散距離をもたらす。
【0022】
より短い拡散距離は、ここで開示される粒子がパックされたクロマトグラフィーカラム内の分析物のより速い物質移動につながり、これが次に、得られるクロマトグラムにおいて、溶出した分析物のより鋭く、より狭いピーク、すなわち、様々な分析物の改善された分解能をもたらす。シグナル対ノイズ比は、より鋭いピークから利益を得る。ある特定のサイズのここで開示される粒子を使用することによって達成される分解能は、均質な平均細孔直径を有するより小さい粒子で達成される分解能と等しい。しかし、ある特定のサイズのここで開示される粒子がパックされたクロマトグラフィーカラム内に生じる背圧は、均質な平均細孔直径を有する同じサイズの粒子がパックされたクロマトグラフィーカラム内に生じる背圧と等しい。したがって、背圧は、そうでなければ標的分子の必要とされる分解能を得るために選択され得るより小さな粒子より、ある特定のサイズのここで開示される粒子の方が低くなる。これは、より高い背圧及びそれに関連する制限/問題を引き起こすより小さい粒子と比較して、ここで開示される粒子の利点である。
【0023】
本明細書に開示されるようなクロマトグラフィー粒子は、多孔性コア及び多孔性コアを囲む多孔性層を含むと言うことができる。上記で言及されたように、コアは第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層は第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径は、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍、例えば、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は5倍である。例えば、第2の平均細孔直径は、第1の平均細孔直径の少なくとも10倍、例えば少なくとも15倍、例えば約20倍であり得る。第1の平均細孔直径は、コアの細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、これは、標的分子が、コアの多孔性構造内に及び多孔性構造を通って拡散することを阻止されることを意味する。同様に、第2の平均細孔直径は、コアを囲む層の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にし、これは、標的分子が、コアを囲む層の多孔性構造内に及び多孔性構造を通って完全に又は少なくとも一部が拡散することを可能にされることを意味することが意図される。
【0024】
ある特定の「平均細孔直径」又は「平均細孔径」を有すると定義される、クロマトグラフィー粒子、コア、又は層はそれぞれ、それにもかかわらず、標的分子が粒子内に拡散することを容易に可能にするのに十分大きい細孔及び標的分子の拡散を阻止するのに十分小さい細孔の両方である異なるサイズ又は直径の細孔を含み得ることが理解されるべきである。この細孔直径又は細孔径の多様性は、明確に定義された分子量及び流体力学的サイズの分子の拡散係数によって測定され得る。非限定的な例として、140~225KDaの分子量及び20~25nmの流体力学的直径を有するデキストランは、コアの細孔及びコアを囲む層の細孔のそれぞれにおけるアデノ随伴ウイルスカプシドの拡散度を評価するために使用され得る。
【0025】
用語「標的分子」は、バイオプロセシングの分野におけるその従来の意味を有し、標的分子は、細胞培養物中の細胞によって生成され(しばしば、組み換えで)、分離及び精製の任意の手段によって細胞培養物から精製される。代替的に、標的分子は、必ずしも細胞培養物に由来しない生物学的溶液中に存在する。標的分子の非限定的な例は、共に連結したモノマーからなる大きな生物学的ポリマー、例えば、酵素、抗体及び抗体断片、更に、オリゴヌクレオチド、DNA及びRNA(例えばmRNA)等の核酸配列、並びにウイルス粒子を含むが、これらに限定されない、少なくとも30アミノ酸残基を含むペプチド、タンパク質(天然又は組換えであり得る)である生体高分子である。ここで開示されるクロマトグラフィー粒子の使用によって他の化合物から分離される標的分子は、典型的には、ウイルス粒子、タンパク質又はポリペプチド、特に、抗体等の治療用タンパク質若しくはポリペプチド、又は目的の遺伝物質を含むウイルス粒子(例えば、治療用途のための)であるが、例えば核酸であってもよい。標的分子は、例えば、生物製剤、すなわち、医薬化合物としての使用が意図された、生物学的高分子を含むが、これに限定されない生物学的分子であり得る。より具体的には、本明細書で企図される標的分子の非限定的な例は、ウイルス粒子、ウイルス様粒子、モノクローナル抗体(二重特異性、融合、及びキメラモノクローナル抗体のようなモノクローナル抗体バリアントを含むが、これらに限定されない)、及び抗体断片(抗原結合断片F(ab')2、Fab、Fab'、及びFvを含むが、これらに限定されない)を含む。ウイルス粒子の非限定的な例は、アデノ随伴ウイルスカプシド、レンチウイルスカプシド、アデノウイルスカプシド、インフルエンザウイルスカプシド、及びロタウイルスカプシドである。アデノ随伴ウイルスカプシドの例は、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、及びアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、並びにそれらのバリアント等の様々な血清型のカプシドを含む。
【0026】
「標的分子」は、ある種類の標的分子を意味すること、及びこの用語の単数形は、同じ種類の多数の個々の標的分子又は典型を包含し得ることが意図されることが理解されるべきである。
【0027】
「ウイルス粒子」は、完全な感染性ウイルス粒子を表すために本明細書で使用される。それは、リボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA)のどちらかの形態のウイルスのゲノム(すなわちウイルスゲノム)を含むコアを含み、コアは、形態学的に定義された殻によって囲まれている。殻はカプシドと呼ばれる。カプシド及び封入されたウイルスゲノムは一緒に、いわゆるヌクレオカプシドを構成する。一部のウイルスのヌクレオカプシドは、リポタンパク質二重層エンベロープによって囲まれている。バイオプロセシングの分野では、治療等の様々な用途のためのウイルスベクターを生成する目的で、ウイルス粒子のゲノムは、目的の遺伝物質を含む遺伝子インサートを含むように改変される。改変されたウイルス粒子は、細胞培養物中の宿主細胞に感染することを許され、ウイルス粒子は、前記宿主細胞内で増殖し、その後、ウイルス粒子は、分離及び精製の任意の手段によって細胞培養物から精製される。本明細書において、ここで開示される方法によって細胞培養物から分離されるウイルス粒子は、代替的に、「標的分子」、「標的」、「目的の分析物」又は「分析物」と称され得る。「ウイルス粒子」は、ある種類のウイルス粒子を意味することが意図され、この用語の単数形は、多数の個々のウイルス粒子を包含し得ることが理解されるべきである。本明細書において、用語「ウイルス粒子」は、下記に更に定義されるような用語「ベクター」及び「カプシド」とそれぞれ互換的に使用され得る。
【0028】
用語「ベクター」は、特定の細胞の種類又は組織を改変するための遺伝子導入を達成するために使用することが意図された、通常は組換えウイルス粒子であるウイルス粒子を表すために本明細書で使用される。ウイルス粒子は、例えば、治療用遺伝子を発現するベクターを提供するように操作され得る。いくつかのウイルスの種類は、遺伝物質(例えば遺伝子)を細胞に送達して、一過性の又は永続的な導入遺伝子発現を提供するのに使用するために現在調査されている。これらは、アデノウイルス、レトロウイルス(γ-レトロウイルス及びレンチウイルス)、ポックスウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、バキュロウイルス、及び単純ヘルペスウイルスを含む。本明細書において、用語「ベクター」は、用語「ウイルス粒子」及び「カプシド」とそれぞれ互換的に使用され得る。
【0029】
用語「カプシド」はウイルス粒子の殻を意味する。カプシドは、ウイルス粒子のコアを囲み、通常は、ウイルスゲノムを含むはずである。製造の上流プロセスで生成されるような改変された(組換え)カプシドは、完全なウイルスゲノムを含むことが予想され、このゲノムは、1つ又は複数の用途のための目的の、例えば、様々な治療用途のための目的の遺伝物質を含む。しかし、低いパッケージング効率ゆえに、構築されたカプシドは、遺伝物質を必ずしも含有しないか、又は切断された遺伝子断片をカプシドで包むだけで、それぞれ、いわゆる空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドをもたらす。これらのカプシドは、治療機能を持たないが、それでも、細胞媒介プロセス中に受容体に結合することを争う。これは、全体的な治療有効性を減らし、望ましくない免疫応答を引き起こし得る。結果として、生成プロセスにわたってこれらのカプシドを追跡することは、一貫した生成物品質及び適切な投与応答を確実にするために重要である(Xiaotong Fuら)。細胞培養物中で人工的に生成されたウイルス粒子の集団の20~30%までにおいて、カプシドは、遺伝物質が部分的にのみ充填されている。更に、98%までもの人工的に生成されたウイルス粒子において、カプシドは、ウイルスゲノムのどの部分も全く含まず、すなわち空である。しかし、一般的に80%~90%の間の人工的に生成されたウイルス粒子は、空のカプシドを有し、最良のケースは、現在、わずか50%の空のカプシドを達成する。
【0030】
本明細書において、用語「カプシド」は、用語「ベクター」及び「ウイルス粒子」とそれぞれ互換的に使用され得る。本開示の文脈において、カプシドは、遺伝物質を含んでも含まなくてもよい。
【0031】
用語「目的の遺伝物質」は、バイオプロセシングの分野において、ウイルス複製によって生成させて、これに限定されないが、治療用途等の様々な用途で使用され得るように精製するのに適切であり、価値があると考えられる遺伝物質を意味することが意図される。非限定的な例として、目的の遺伝物質は、治療的に適切なヌクレオチド配列等の治療的に適切な遺伝物質を含み得る。
【0032】
用語「遺伝物質が完全にパッケージされたカプシド」は、正確に生成された(宿主細胞によって)カプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
そのウイルスゲノムの100%を含むカプシド、又は言い換えれば、
機能的なウイルスゲノムを含むカプシド
を表すために本明細書で使用される。
【0033】
ウイルスゲノムは、本明細書の他の箇所に定義されるような目的の遺伝物質を含む遺伝子インサートを含む。
【0034】
完全なウイルスゲノムを含むカプシドは、本明細書で代替的に「完全なカプシド」又は「完全にパッケージされたカプシド」と呼ばれ得る。用語「完全なカプシド」、「完全にパッケージされたカプシド」、及び「遺伝物質が完全にパッケージされたカプシド」は、この文書のいたるところで互換的に使用され得る。
【0035】
用語「遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシド」は、正確に生成されなかった(宿主細胞によって)カプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムを含まないカプシド、又は言い換えれば、
そのウイルスゲノムの100%未満を含むカプシド
を表すために本明細書で使用される。
【0036】
遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシドは、遺伝物質が部分的に充填されているか、又は遺伝物質が全く充填されていない。
【0037】
用語「遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシド」は、下記に定義されるような用語「部分的に充填されたカプシド」及び「空のカプシド」を包含する。
【0038】
「部分的に充填されたカプシド」は、そのウイルスゲノムの欠損部分等のそのウイルスゲノムの一部を含むカプシド、又は言い換えれば、
部分的なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
不完全なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
欠損ウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムの0%超及び100%未満、例えば、完全なウイルスゲノムの約1%~約99%、例えば約5%~約95%、例えば約10%~約90%、又は例えば、約1%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、若しくは約99%を含むカプシド
と本明細書で定義される。部分的に充填されたカプシドは、不正確に生成されたカプシドであるので、カプシドの集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、可能な限り多くの部分的に充填されたカプシドをカプシドの集団から分離及び除去することが望ましい。本明細書において、部分的に充填されたカプシドは、代替的に「中間カプシド」と呼ばれ得る。
【0039】
「空のカプシド」は、そのウイルスゲノムのどの部分も含まない、すなわちそのウイルスゲノムの0%を含むカプシド、又は言い換えれば、
遺伝物質が全く充填されていないカプシドと本明細書で定義される。したがって、空のカプシドは、目的の遺伝物質を含まない。そのため、カプシドの集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、可能な限り多くの空のカプシドをカプシドの集団から分離及び除去することが望ましい(例えば臨床規則ゆえに、要求されることがある)。
【0040】
ウイルス粒子の集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、完全なカプシドを富化する、すなわち、部分的に充填されたカプシド及び空のカプシドのパーセンテージを犠牲にして、完全なカプシドのパーセンテージを増加させることが望ましい(例えば臨床規則ゆえに、要求されることさえある)。
【0041】
カプシドの集団における完全なカプシド及び空のカプシドのパーセンテージは、当技術分野で公知のいくつかの方法で推定又は分析され得る。これらの方法の一部は、下記に手短に記載される。
【0042】
1:クロマトグラムにおけるA260:280は、ピークに存在する完全なカプシドのパーセンテージの推定を与えるであろう(比1~1.5は、完全なカプシドが富化されたことを示し、比0.5~0.7は、主に空のカプシドを含有している)。
【0043】
2.qPCR:ELISA比。qPCRはウイルスゲノムを定量化し、ELISAは総ウイルス粒子を定量化する。変動を有する2つのアッセイの比は、精度が低く、不確かであろう。確認のために直交解析が必要である(下記の3、4又は5を参照されたい)。
【0044】
3.完全な及び空のカプシドを分離する分析的陰イオン交換(パーセンテージを計算するためのA260:280比及びピーク面積)。ピーク定義に依存する精度。
【0045】
4.分析的超遠心分離(AUC)。異なる密度の粒子(完全な、部分的に充填された、及び空のカプシドに対応する)を検出及び定量化する。これは現在、当技術分野で「至適基準」として公知である。しかし、超遠心分離は拡張可能でなく、したがって、カプシドの大規模バッチの分析に適していない。
【0046】
5.透過型電子顕微鏡法(TEM)。粒子(完全な、部分的に充填された、及び空のカプシド)をカウントする画像分析。試料調製由来のアーチファクトを導入し得る。
【0047】
カプシドの集団における完全なカプシド及び空のカプシドのパーセンテージを推定又は分析するための一部の方法は、ここに参照により本明細書に組み込まれるXiaotong Fuらに、より詳細に記載される。
【0048】
アデノ随伴ウイルス血清型に関連する用語「バリアント」は、カプシド構造が、臨床性能を改善するために、例えば、特定の標的臓器に向けて改変された、改変又は操作されたアデノ随伴ウイルス血清型を意味することが意図される。非限定的な例として、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)バリアントは、AAV9のカプシド部分を含み、AAV5等のAAV9以外の他のAAV血清型のカプシド部分を更に含み得る。しかし、本明細書で言及されるようなAAV9バリアントは、例えば、非改変AAV9カプシドの外表面構造の少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、又は90%を保持する、非改変AAV9カプシドに対する顕著な構造的類似性を保持しなければならない。AAV9のバリアントの精製又は分離の文脈において、「バリアント」は、指定されたクロマトグラフィー材料に対する元のAAV9の結合能と比較して、前記指定されたクロマトグラフィー材料のリガンドに対する機能的に同等な結合能を有するアデノ随伴ウイルスと本明細書で定義される。アデノ随伴ウイルスのバリアントは、例えば、アデノ随伴ウイルスのゲノムの1つ又は複数のヌクレオチドの自然変異によって、又は操作された改変によって(すなわち、人的相互作用によって得られる)得られ得る。この定義は、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、及びアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)等の全てのアデノ随伴ウイルス血清型に当てはまる。
【0049】
バイオプロセシングの分野内の分離技術の本文脈において、標的分子は、その分子量によって及び/又はその流体力学的直径によって定義され得る。非限定的な例は、約50kDaからの分子量を有する標的分子(例えばFab断片、約55kDa)、例えば約140kDaの分子量を有する標的分子(例えばモノクローナル抗体、約150kDa)、例えば約2000kDaの分子量を有する標的分子(例えばアデノ随伴ウイルスカプシド、約3900kDa)である。更なる非限定的な例は、約7nmから(例えばFab断片、約7nm)、例えば約10nm(例えばモノクローナル抗体、約10nm)、例えば約20nm、例えば約25nm(例えばアデノ随伴ウイルスカプシド、約20~25nm)の流体力学的直径を有する標的分子である。
【0050】
同様に、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子のコアの第1の平均細孔直径及び周囲層の第2の平均細孔直径は、標的分子の分子量及び/又は流体力学的直径によって適切に定義することができ、この平均細孔直径の拡散は、それぞれ阻止又は可能にすることが意図される。
【0051】
したがって、第1の平均細孔直径は、約50kDaから、例えば約140kDa、例えば約2000kDaの分子量を有する標的分子の拡散を阻止し得る。代替的に又は加えて、第1の平均細孔直径は、約7nmから、例えば約10nm、例えば約20nm、例えば約25nmの流体力学的直径を有する標的分子の拡散を阻止し得る。
【0052】
標的分子の拡散を阻止するために、コアの細孔は、標的分子の直径より実質的に小さい平均細孔直径を有する。言い換えれば、第1の平均細孔直径は、標的分子の直径より実質的に小さい。本明細書において、用語「実質的に小さい」は、少なくとも10%小さい、例えば、これらに限定されないが、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%小さいことを意味することが意図される。
【0053】
非限定的な例は、
(i)標的分子がアデノ随伴ウイルスカプシドであり、第1の平均細孔直径が、13、12、11、10、7.5、5、3、又は1.5nmを含むが、これらに限定されない<15nmであるか、
(ii)標的分子がモノクローナル抗体であり、第1の平均細孔直径が、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1nmを含むが、これらに限定されない<10nmであるか、
(iii)標的分子が抗体の抗原結合断片であり、第1の平均細孔直径が、4、3、2、1、又は0.5nmを含むが、これらに限定されない<5nmであるか、
(iv)標的分子がウイルス様粒子であり、第1の平均細孔直径が、35、30、25、20、15、10、又は5nmを含むが、これらに限定されない<40nmであるか、
(v)標的分子がレンチウイルスカプシドであり、第1の平均細孔直径が、70、60、50、40、30、20、又は10nmを含むが、これらに限定されない<80nmであるか、
(vi)標的分子がアデノウイルスカプシドであり、第1の平均細孔直径が、60、50、40、30、20、又は10nmを含むが、これらに限定されない<70nmであるか、又は
(vii)標的分子がインフルエンザウイルスカプシドであり、第1の平均細孔直径が、70、60、50、40、30、20、又は10nmを含むが、これらに限定されない<80nmであることを含む。
【0054】
更に、第2の平均細孔直径は、約50kDaから、例えば約140kDa、例えば約2000kDaの分子量を有する標的分子の拡散を少なくとも一部可能にし得る。そのような標的分子の非限定的な例は、上記に示されている。代替的に又は加えて、第2の平均細孔直径は、約7nmから、例えば約10nm、例えば約20nm、例えば約25nmの流体力学的直径を有する標的分子の拡散を少なくとも一部可能にし得る。そのような標的分子の非限定的な例は、更に上記に示されている。
【0055】
標的分子の拡散を可能にするために、コアを囲む層の細孔は、標的分子の直径より実質的に大きい平均細孔直径を有する。言い換えれば、第2の平均細孔直径は、標的分子の直径より実質的に大きい。本明細書において、用語「実質的に大きい」は、少なくとも10%大きい、例えば、これらに限定されないが、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、若しくは100%大きい、又は2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、若しくは10倍であることを意味することが意図される。
【0056】
非限定的な例は、
(i)標的分子がアデノ随伴ウイルスカプシドであり、コアを囲む層の細孔が、30、50、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>25nmの平均細孔直径を有するか、
(ii)標的分子がモノクローナル抗体であり、コアを囲む層の細孔が、15、30、50、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>11nmの平均細孔直径を有するか、
(iii)標的分子が抗体の抗原結合断片であり、コアを囲む層の細孔が、10、15、30、50、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>7nmの平均細孔直径を有するか、
(iv)標的分子がウイルス様粒子であり、コアを囲む層の細孔が、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>60nmの平均細孔直径を有するか、
(v)標的分子がレンチウイルスカプシドであり、コアを囲む層の細孔が、120、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>100nmの平均細孔直径を有するか、
(vi)標的分子がアデノウイルスカプシドであり、コアを囲む層の細孔が、110、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>90nmの平均細孔直径を有するか、又は
(vii)標的分子がインフルエンザウイルスカプシドであり、コアを囲む層の細孔が、120、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>100nmの平均細孔直径を有することを含む。
【0057】
更に、クロマトグラフィー粒子の細孔を通って拡散する標的分子の能力は、平均細孔直径によって決定されるだけでなく、クロマトグラフィーカラムにおける流量及び滞留時間等のパラメーターによって影響されることが理解されるべきである。全ての潜在的に関連のあるパラメーターは、上記に指定されたような標的分子の種類の分離に関連して適切な平均細孔直径を代表するような平均細孔直径の上記に指定された範囲及び非限定的な例に到達するにあたり考慮された。
【0058】
本明細書に開示されるクロマトグラフィー粒子は、約20μm~約500μm、例えば約30μm~約150μm、例えば約40μm~約140μm、例えば約60μm~約120μm、又は例えば約100μm~約450μm、例えば約100μm~約400μm、例えば約120μm~約380μm、例えば約150μm~約350μm、又は約20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、若しくは500μmの直径を有し得る。
【0059】
コアは、クロマトグラフィー粒子の直径の約60%~約97%、例えば、クロマトグラフィー粒子の直径の約60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、又は97%の直径を有し得る。
【0060】
コアを囲む層は、クロマトグラフィー粒子の直径の約3%~約40%、例えば、クロマトグラフィー粒子の直径の約6%~約10%、又は約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、若しくは40%の直径を有し得る。コアを囲む層の直径は、コアを囲む層の2つの半径からなる距離を意味することが意図されることが理解されるべきであり、コアを囲む層の2つの半径は、コアの反対側に伸び、各半径は、層の内端(すなわち、コアの外端に隣接する)から層の外端に伸びる。言い換えれば、コアを囲む層の半径は、クロマトグラフィー粒子の直径の約1.5%~約20%、例えば、クロマトグラフィー粒子の直径の約3%~約5%、又は約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、若しくは20%であり得る。
【0061】
本開示の文脈内で有用であるクロマトグラフィー粒子の非限定的な例は、約31μm~約37μm、例えば、約31、32、33、34、35、36、又は37μmの直径を有するコア、及び約3μm~約9μm、例えば、約3、4、5、6、7、8、又は9μmの直径を有する、コアを囲む層を含む、約40μmの直径を有する粒子である。
【0062】
本開示の文脈内で有用であるクロマトグラフィー粒子の別の非限定的な例は、約81μm~約87μm、例えば、約81、82、83、84、85、86、又は87μmの直径を有するコア、及び約3μm~約9μm、例えば、約3、4、5、6、7、8、又は9μmの直径を有する、コアを囲む層を含む、約90μmの直径を有する粒子である。
【0063】
本開示の文脈内で有用であるクロマトグラフィー粒子の更に別の非限定的な例は、約291μm~約297μm、例えば、約291、292、293、294、295、296、又は297μmの直径を有するコア、及び約3μm~約9μm、例えば、約3、4、5、6、7、8、又は9μmの直径を有する、コアを囲む層を含む、約300μmの直径を有する粒子である。
【0064】
図2によって概略的に示されるように、コア(20)を囲む上記の層(30)は第1の層であってもよく、クロマトグラフィー粒子(10)は、第1の層(30)を囲む第2の層(40)を更に含んでもよく、第2の層(40)は、第1の平均細孔直径及び第2の平均細孔直径と異なる第3の平均細孔直径を有する。第3の平均細孔直径は、第2の平均細孔直径(すなわち第1の層の細孔を通る)によって可能にされる拡散度より高い標的分子の拡散度(すなわち第2の層の細孔を通る)を可能にし得る。
【0065】
クロマトグラフィー粒子は、実質的に球状であってもよいか、細長くてもよいか、又は不規則に形成されてもよい。
図1は、本開示の文脈内で有用であるクロマトグラフィー粒子の一実施形態の概略図であること、及び
図2は、本開示の文脈内で有用であるクロマトグラフィー粒子の別の実施形態の概略図であること、及び実質的に球状以外の他の形態を有するクロマトグラフィー粒子が代替的に使用され得ることが理解されるべきである。
【0066】
クロマトグラフィー粒子は、有機又は無機材料で作られ得る。一実施形態では、クロマトグラフィー粒子は、架橋炭水化物材料等の天然ポリマー、例えば、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン、アルギン酸塩、ペクチン、デンプン等から調製される。天然ポリマークロマトグラフィー粒子は、容易に調製され、逆懸濁ゲル化等の標準的な方法に従って任意選択で架橋される(S. Hjerten)。特に有利な実施形態では、クロマトグラフィー粒子は、比較的硬いが多孔性のアガロースの一種であり、これはその流動特性を増強する方法によって調製され、例えばUS6,602,990を参照されたい。代替の実施形態では、クロマトグラフィー粒子は、架橋合成ポリマー等の合成ポリマー又はコポリマー、例えば、スチレン又はスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルエステル、ビニルアミド等から調製される。そのような合成ポリマーは、容易に調製され、標準的な方法に従って、任意選択で架橋され、例えば、「Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization」(R. Arshady)を参照されたい。天然又は合成多孔性ポリマークロマトグラフィー粒子は、Cytiva社、スウェーデン等の商業的供給源からも入手可能である。更に代替の実施形態では、クロマトグラフィー粒子は、シリカ等の無機ポリマーから調製される。無機多孔性クロマトグラフィー粒子は、この分野で周知であり、標準的な方法に従って容易に調製される。クロマトグラフィー粒子は、天然又は合成起源のもの、好ましくは、アガロース等の多糖であり得る。クロマトグラフィー粒子は、乾燥させてもよく(例えば乾燥アガロース粒子)、それらの元の形態を保持するために、使用時に液体に浸される。
【0067】
用語「分離マトリックス」は、官能基を含む1つ又は複数のリガンドがカップリングした支持体を含む材料を表すために本明細書で使用される。リガンドの官能基は、液体試料から分離される及び/又は液体試料中に存在する他の化合物から分離される、本明細書で分析物又は標的分子とも呼ばれる化合物に結合する。本開示の文脈において、分離マトリックスの支持体は、本明細書に詳細に記載されるような、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子を含む又はそれからなる。分離マトリックスは、リガンドを支持体にカップリングする化合物を更に含み得る。用語「リンカー」、「エクステンダー」、及び「表面エクステンダー」は、下記に更に記載されるような、そのような化合物を記載するために使用され得る。用語「樹脂」は、この分野における分離マトリックスに使用されることがある。用語「クロマトグラフィー材料」及び「クロマトグラフィーマトリックス」は、分離マトリックスの種類を表すために本明細書で使用される。
【0068】
分離マトリックスは、本明細書の他の箇所に更に定義されるような任意の種類の分離デバイスに含有され得る。非限定的な例として、クロマトグラフィー材料をクロマトグラフィーカラムにパックしてから、クロマトグラフィーカラムに含有されているクロマトグラフィー材料に液体試料を添加することができる。
【0069】
したがって、本明細書の他の箇所に詳細に記載されるような、複数のここで開示されるクロマトグラフィー粒子、又はここで開示される分離マトリックスを含むクロマトグラフィーカラムも本開示の目的に有用である。
【0070】
任意選択で、クロマトグラフィーカラムは、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)カラムを含むが、これに限定されないバイオプロセシングクロマトグラフィーカラムであり得る。
【0071】
任意選択で、クロマトグラフィーカラムは、使い捨てクロマトグラフィーカラムであり得る。
【0072】
この文脈において、「リガンド」は、所与の分析物に対する既知又は未知の親和性を有し、その表面に固定された任意の官能基又は捕捉剤を含む分子であるのに対し、「分析物」は、リガンドに対する任意の特異的な結合パートナーを含む。用語「リガンド」は、用語「特異的な結合分子」、「特異的な結合パートナー」、「捕捉分子」及び「捕捉剤」と互換的に本明細書で使用され得る。本明細書において、液体試料から分離するための目的のものであり、リガンドと相互作用する、液体試料中の分子は、「目的の分析物」、「分析物」、「標的分子」、又は「標的」と称され得る。
【0073】
本明細書で使用されるような用語「液体試料」は、細胞培養物、又は細胞培養物に由来する流体であって、分離及び精製の任意の手段によって少なくとも一部が精製されている流体から得られる任意の種類の試料を包含することが理解されるべきである。例えば、液体試料は細胞発酵から得られる上清を含み得るか、又は液体試料は粗製供給原料を含み得る。
【0074】
本明細書における用語「表面」は、全ての外表面を意味し、多孔性粒子等の多孔性支持体の場合、外側の表面及び細孔表面を含む。
【0075】
用語「溶出剤」は、この分野におけるその従来の意味で使用され、すなわち、1種又は複数の化合物を分離マトリックスから放出するのに適したpH及び/又はイオン強度の緩衝液である。
【0076】
用語「溶出液」は、この分野におけるその従来の意味で使用され、すなわち、液体試料をクロマトグラフィーカラムにロードした後に、クロマトグラフィーカラムから溶出される、液体試料の一部である。
【0077】
分離マトリックスは、有利には、クロマトグラフィー材料がポリッシング工程において適用されることを意味するポリッシングクロマトグラフィー材料であり得る。
【0078】
用語「ポリッシング工程」は、液体クロマトグラフィーの文脈では、微量不純物が除去されて、活性で安全な生成物を残す最終精製工程を指す。ポリッシング工程中に除去される不純物は、標的分子の配座異性体、すなわち、特定の分子立体配座を有する標的分子の形態、又は疑似漏出生成物であることが多い。ポリッシング工程は、代替的に、「二次精製工程」と呼ばれ得る。
【0079】
上記で言及されたように、分離マトリックスは、1つ又は複数のリガンドがカップリングした複数のクロマトグラフィー粒子(10)の形態の支持体を含む。したがって、クロマトグラフィー粒子(10)は、標的分子に結合するためのリガンドを含むと言うことができる。少なくともクロマトグラフィー粒子のコア(20)を囲む層(30)はリガンドを含む。任意選択で、クロマトグラフィー粒子(10)のコア(20)もリガンドを含み得る。コアがリガンドを含むかどうかは、更に下記に記載されるように、クロマトグラフィー粒子を調製するためにどの方法が使用されたかに依存する。
【0080】
「リガンド(a ligand)」及び「リガンド(the ligand)」は、ある種類のリガンドを意味すること、及びその用語の単数形は、同じ種類の多数の個々のリガンド又は典型を包含し得ることが意図されることが理解されるべきである。
【0081】
リガンドは、陽イオンリガンド、陰イオンリガンド、疎水性相互作用リガンド、マルチモーダルリガンド、又はそれらの組合せであり得る。使用されるリガンドの種類は、液体試料から分離される標的分子の種類に依存することが理解されるべきである。異なる種類の標的分子は、異なる表面電荷を含むが、これに限定されない異なる結合特徴を有し、ゆえに、異なる種類の標的分子を分離するために異なる種類のリガンドが必要とされる。例えば、アデノ随伴ウイルスの異なる血清型は、完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドとの十分な分離を達成するために、異なる種類のリガンドを必要とし得る。
【0082】
下記に、そのような異なる種類のリガンドの非限定的な例を含む既に公知のクロマトグラフィー材料の非限定的な例が記載される。これらの異なる種類のリガンドのうちの任意の1種又はそれらの組合せは、公知の製品のその種類の支持材料の代わりに、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子にカップリングし得る。
【0083】
Cytiva社、スウェーデンによって提供されるCapto Q(www.cytivalifesciences.com)は、約100%の四級化アミン基を有する強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である。Capto DEAE(Cytiva社、スウェーデン)は、約15%のアミン基の四級化度を有する強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である。
【0084】
本明細書において、用語「強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料」は、四級化アミン基を含むリガンドを含むクロマトグラフィー材料を意味することが意図される。第四級アミン基は、さらされるPhに関係なく常に正に帯電している強力な陰イオン交換基である。DEAEベースの種類のクロマトグラフィー材料について、アミン基の四級化度は、クロマトグラフィー材料に含まれるアミン基の間で変動し得る。クロマトグラフィー材料全体における約12%~約100%のアミン基の四級化度は、これらの全てのアミン基の少なくとも12%が常に帯電しているので、一般的に、強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のように作用するクロマトグラフィー材料をもたらすと考えられる。四級化アミン基と対照的に、ほとんど全ての他のイオン交換基は弱く、すなわち、それらの電荷は、使用される妥当な範囲のPh内(例えばPh2~11)で、完全な帯電から非帯電まで変動し、Piにおいて中性の電荷(同量の+及び-電荷)を有する。
【0085】
カルボキシメチル基(CMと略す)をリガンドとして含むクロマトグラフィー材料は、Cytiva社、スウェーデンによって提供される弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である。
【0086】
強力な陽イオン交換材料の非限定的な例は、スルホネート(S)を強力な陽イオン交換体リガンドとして含むCapto S ImpAct(Cytiva社、スウェーデン)である。
【0087】
強力な陽イオン交換材料の別の非限定的な例は、リガンドがスルホプロピル(SP)基を含むCapto SP ImpRes(Cytiva社、スウェーデン)である。
【0088】
疎水基を含むマルチモーダル陰イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例は、Capto adhere又はCapto adhere ImpRes(Cytiva社、スウェーデン)と呼ばれるクロマトグラフィー樹脂である。マルチモーダル陰イオン交換リガンドは、支持体にカップリングしたN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドであり、前記支持体は、リンカーによりリガンドの窒素原子に連結する。このリガンド及びこのリガンドを含むクロマトグラフィー材料は、例えば、ここにその全体が参照により組み込まれるWO2006043896A1に更に記載される。
【0089】
Capto MMC又はCapto MMC Impresは、マルチモーダル弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である(Cytiva社、スウェーデン)。リガンドはカルボキシル基を含有する。したがって、その特徴は、弱陽イオン交換体に一部が類似する。水素結合及び疎水性相互作用も含まれる。
【0090】
更に、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料の非限定的な例は、芳香族フェニルSepharose 6 Fast Flow(Cytiva社、スウェーデン)であり、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料の別の非限定的な例は、脂肪族ブチルSepharose 4 Fast Flow(Cytiva社、スウェーデン)である。
【0091】
どの種類のリガンド(すなわち、陽イオンリガンド、陰イオンリガンド、疎水性相互作用リガンド、マルチモーダルリガンド、又はそれらの組合せ)が選択されるかにかかわらず、リガンドは、任意選択で、リンカーを介してここで開示されるクロマトグラフィー粒子の表面に連結されてもよく、すなわち、粒子へのリガンドのカップリングは、支持体とリガンドの間にリンカーを導入することによって実現され得る。カップリングは、エピクロロヒドリン;エピブロモヒドリン;アリル-グリシジルエーテル;ブタンジオールジグリシジルエーテル等のビス-エポキシド;ジ-クロロ-プロパノール等のハロゲン置換脂肪族物質;及びジビニルスルホンの使用等による任意の従来の共有結合的カップリング方法に従って実行され得る。適切なリンカーの他の非限定的な例は、2~6つの炭素原子を有するポリエチレングリコール(PEG)、3~6つの炭素原子を有する炭水化物、及び3~6つの炭素原子を有する多価アルコールである。これらの方法は全て、当技術分野で周知であり、当業者によって容易に実行される。
【0092】
リガンドは、「表面エクステンダー」又は単に「エクステンダー」としても公知である、より長いリンカー分子を介して支持体に任意選択でカップリングされ得る。エクステンダーは、この分野で周知であり、リガンドと支持体の間の距離を立体的に増加させるために一般的に使用される。エクステンダーは、触手又はフレキシブルアームとして表されることがある。リンカー、特にエクステンダーの機能は、支持体の表面積を増やすこと、及びその官能化を可能にすることである。可能性のある化学構造のより詳細な説明について、例えば、ここにその全体が参照により組み込まれるUS6,428,707を参照されたい。手短に言うと、エクステンダーは、ホモポリマー又はコポリマー等のポリマーの形態であり得る。親水性高分子エクステンダーは、合成起源のもの、すなわち合成骨格を有するものであり得るか、又は生物学的起源のもの、すなわち、天然に存在する骨格を有するバイオポリマーであり得る。典型的な合成ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド、ポリビニルエーテル等である。典型的なバイオポリマーは、デンプン、セルロース、デキストラン、アガロース等の多糖である。
【0093】
第2の態様によると、本開示は、複数のクロマトグラフィー粒子(10)を調製する工程を含む、第1の態様に従う分離マトリックスを調製するための方法であって、該工程は、
図3aのフローチャートによって示されるような工程(a)及び(b)、又は
図3bのフローチャートによって示されるような工程(a')及び(b')のどちらか:
(a)均質な平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子を出発材料として用意する工程であって、均質な平均細孔直径は、標的分子がクロマトグラフィー粒子の全構造又は体積のいたるところでクロマトグラフィー粒子の細孔を通って拡散することを少なくとも一部可能にする、工程と、
(b)ポリマー化合物を工程(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子のコアの内部(すなわち、内側部分又は中心部分)に添加する工程であって、これにより(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子の均質な平均細孔直径と比較してコアの平均細孔直径を減少させ、これによりコア及びコアを囲む層を含むクロマトグラフィー粒子を得、コアが第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、(a)で用意されたクロマトグラフィー粒子の均質な平均コア直径に対応する、工程と
を含むか、又は
(a')クロマトグラフィー粒子の全構造又は体積のいたるところでクロマトグラフィー粒子の細孔を通る標的分子の拡散を阻止する第1の平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子を用意する工程と、
(b')工程(a')で用意されたクロマトグラフィー粒子を、第2の平均細孔直径を有する周囲層に埋め込む工程と
を含み、
第1の平均細孔直径及び第2の平均細孔直径が互いに異なり、第2の平均細孔直径が第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍であり、
第1の平均細孔直径が、コアの細孔を通る標的分子の拡散を阻止し、第2の平均細孔直径が、コアを囲む層の細孔を通る標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする、方法を提供する。
【0094】
本明細書において、用語「均質な平均細孔直径」は、均質な平均細孔直径を有する粒子が、その全構造又は体積のいたるところで均質な(又は本質的に同じ)平均細孔直径を有することを意味することが意図される。第2の態様に従う方法の工程(a)において出発材料として用意される均質な平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子は、粒子の全構造又は体積のいたるところで、粒子の細孔を通して、標的分子が完全に又は少なくとも一部が拡散することを可能にする平均細孔直径を有する。
【0095】
更に、第2の態様に従う上記の方法の工程(b)は、(i)又は(ii):
(i)粒子のコアへのポリマー分子のカップリング、又は
(ii)モノマーを粒子のコアに添加し、このモノマーをコアの内部で重合させ、これによりポリマー分子をコアの内部に作り出すことを含む、ポリマーグラフト化
のどちらかを含んでもよく、
これによりコアの平均細孔直径を減少させる。
【0096】
均質な平均細孔直径を有する粒子のコアの平均細孔直径を減少させるために、ポリマー分子は、その粒子のコアの内部にカップリングし得る。例えば、平均細孔直径は、2分の1以下、例えば、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、又は10分の1になり得る。例えば、デキストラン(例えば、デキストランT5(分子量5kDa)若しくはデキストランT3.5(分子量3.5kDa))等のポリマー天然分子、又はポリマー合成分子、例えば、ポリビニルアルコール若しくはポリビニルピロリドン若しくはそれらの組合せは、平均細孔直径を減少させるためにコアにカップリングし得る。代替的に、ポリマー分子は、ポリマーグラフト化を介して、すなわち、モノマーをコアに添加し、次いでこのモノマーを粒子のコアの内部で重合させることによって、粒子のコア内で直接産生され得る。
【0097】
したがって、クロマトグラフィー粒子のコアは、コアを囲む層の平均細孔直径と比較してコアの平均細孔直径を減少させるポリマー化合物を含み得る。任意選択で、そのようなポリマー化合物は、デキストラン又は合成ポリマーであり得る。
【0098】
本明細書の実施例1において使用されるクロマトグラフィー材料は、更に上記で言及されたように、約40μmの直径を有し、本開示の目的のために、粒子のコアを囲む層におけるよりも小さいコアにおける平均細孔直径を得るために改変された、実質的に球状のクロマトグラフィー粒子又はビーズの形態の支持体、より正確にはImpResと呼ばれる粒子(Cytiva社、スウェーデン)を含む。非改変ImpRes粒子は、その全構造又は体積のいたるところで、アデノ随伴ウイルスカプシドとおよそ同じサイズの標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする均質な平均細孔直径を有する粒子の非限定的な例である。上記で言及されたように、140~225kDaの分子量及び20~25nmの流体力学的直径(すなわちアデノ随伴ウイルスカプシドと同じサイズの直径)を有するデキストランは、粒子の細孔内のアデノ随伴ウイルスカプシドの拡散度を評価するために使用され得る。非改変ImpRes粒子は、0.3~0.61の間のデキストランについてのKdを有し、カプシドが細孔のおよそ30~60%において拡散する可能性を有することを示す。
【0099】
ImpRes粒子は、ポリマー分子をそのコアの内部にカップリング又はグラフト化して、コアを囲むその層におけるよりも小さいそのコアにおける平均細孔直径を有する粒子を作り出すことによって改変されてもよく、これにより本開示の目的に有用であるクロマトグラフィー粒子を得る。
【0100】
本明細書の実施例2において使用されるクロマトグラフィー材料は、約90~100μmの直径を有し、本開示の目的のために、粒子のコアを囲む層におけるよりも小さいコアにおける平均細孔直径を得るために改変された、実質的に球状のクロマトグラフィー粒子又はビーズの形態の支持体、より正確にはSepharose FFと呼ばれる粒子(Cytiva社、スウェーデン)を含む。非改変Sepharose FF粒子は、その全構造又は体積のいたるところで、モノクローナル抗体とおよそ同じサイズの標的分子の拡散を少なくとも一部可能にする均質な平均細孔直径を有する粒子の非限定的な例である。非改変Sepharose FF粒子は、0.5~0.6の間のデキストラン50k(すなわち、約50000Daの分子量及びIgG抗体とおよそ同じサイズの直径を有するデキストラン)についてのKdを有し、モノクローナル抗体が、細孔のおよそ50~60%において拡散する可能性を有することを示す。
【0101】
Sepharose FF粒子は、ポリマー分子をそのコアの内部にカップリング又はグラフト化して、コアを囲むその層におけるよりも小さいそのコアにおける平均細孔直径を有する粒子を作り出すことによって改変されてもよく、これにより本開示の目的に有用であるクロマトグラフィー粒子を得る。
【0102】
コア及びコアを囲む層を含むクロマトグラフィー粒子であって、コアを囲む層が標的分子の拡散を少なくとも一部可能にし、コアが同じ種類の標的分子の拡散を阻止する、クロマトグラフィー粒子は、本明細書において、「半固体ビーズ」、「半固体粒子」、「半固体樹脂」、「半固体マトリックス」、又は同様のものと代替的に称され得る。
【0103】
標的分子の分離に使用するための半固体粒子は、例えば、上記のような第2の態様に従う方法のいずれか1つに従って半固体粒子を調製することによって、及び標的分子に対する親和性を有するリガンドを粒子にカップリングすることによって生成され得る。標的分子に対する親和性を有するリガンドのカップリングは、第2の態様に従う方法に従って半固体粒子を調製する前又は調製した後に実行され得る。
【0104】
粒子のコアはポリマー分子によって占められているので、標的分子にアクセス可能なリガンドはコアを囲む層にだけある。更に、粒子のコアは、標的分子をコア内に拡散させない平均細孔直径を有するので、標的分子の拡散は、コアを囲む層(すなわち、粒子の表面に近い)にだけある。これは、その全構造又は体積のいたるところで均質な平均細孔直径を有する等しいサイズの粒子を使用する場合よりも短い拡散距離をもたらす。更に上記により詳細に説明されたように、これは、本開示に従う半固体粒子の使用が、均質な平均細孔直径を有する等しいサイズの粒子と比較して、改善された分解能及びより速い分離のような有利な効果をもたらし得ることを意味する。粒子のコアをポリマー分子で満たした場合、クロマトグラフィー材料の総表面積は減少するので、クロマトグラフィー材料の結合能は低下する。しかし、一部のクロマトグラフィー用途では、クロマトグラフィーピーク間の分解能は、標的分子の結合能より重要である。
【0105】
下記の実施例1において示される結果は、クロマトグラフィー材料が弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料を含む場合、半固体ビーズの使用が、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドと完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドとの分離を改善したことを示す。より詳細には、結果は、半固体ビーズを使用した場合、それらの全構造又は体積のいたるところで均質な平均細孔直径を有するビーズの使用と比較して、クロマトグラムにおけるピークの分解能が改善したことを示す。したがって、半固体ビーズの使用は、一方に完全なカプシド並びに他方に空及び部分的に充填されたカプシドの分離を改善したことが実証された。
【0106】
本実施例2のように、標的分子がモノクローナル抗体(mAb)である場合、粒子のコアを囲む層は、モノクローナル抗体の拡散を少なくとも一部可能にする。モノクローナル抗体のサイズは、およそ150kDであり、それは直径およそ10~15nmである。下記の実施例2において示される結果は、直線溶出勾配を使用してモノクローナル抗体を含む様々なタンパク質を分離した場合、半固体ビーズの使用により、減少したピーク幅を得ることができることを示す。結果は、流量を増加させた場合、分解されたピークのピーク幅及び分解能は、実施例2において試験される半固体ビーズのコアを囲む層の平均細孔直径と等しい均質な平均細孔直径を有する市販のクロマトグラフィービーズSP Sepharose FF(Cytiva社、スウェーデン)に関しては影響を受けなかったことも示した。半固体ビーズを使用することの欠点は、動的タンパク質結合能が減少したことであった。しかし、上記で言及されたように、クロマトグラフィーピーク間の分解能は、標的分子の結合能より重要であり得る。
【0107】
本開示の目的のために、クロマトグラフィーカラムを製造するための方法も企図される。方法は、分離マトリックス(本開示の第1の態様に従う)を調製する工程を含み、任意選択で第2の態様(上記のような)に従う方法を実行することによって複数のクロマトグラフィー粒子を調製し、続いて、複数のこうして調製されたクロマトグラフィー粒子を含む分離マトリックスをクロマトグラフィーカラムに添加する工程と、クロマトグラフィー粒子又は分離マトリックスを含むクロマトグラフィーカラムを殺菌する工程とを含む。
【0108】
本開示の第3の態様は、標的分子を細胞培養収穫物又は不純物から分離するため等の分取用途のための分離マトリックス(本明細書の他の箇所に詳細に記載されるような第1の態様に従う)の使用を対象とする。
【0109】
本明細書において、用語「細胞培養物」は、細胞の培養物又は培養された細胞の群を指し、細胞は、細菌細胞、ウイルス細胞、真菌細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞等の任意の種類の細胞であり得る。細胞培養物は、清澄化されなくてもよい、すなわち、細胞を含んでいてもよいか、又は細胞が枯渇していてもよい、すなわち、細胞を含まないか若しくはほとんど含まないが、細胞を除去する前に細胞から放出された生体分子を含む培養物であってもよい。更に、清澄化されていない細胞培養物は、無傷な細胞、破壊された細胞、細胞ホモジネート、及び/又は細胞溶解物を含み得る。
【0110】
用語「細胞培養収穫物」は、細胞が培養された容器又は機器から収穫及び取り出された細胞培養物を表すために本明細書で使用される。
【0111】
本明細書の他の箇所により詳細に記載されるように、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子の使用によって細胞培養収穫物又は不純物から分離される標的分子は、例えば、アデノ随伴ウイルスカプシド、モノクローナル抗体、抗体の抗原結合断片、ウイルス様粒子、レンチウイルスカプシド、アデノウイルスカプシド、又はインフルエンザウイルスカプシドであり得る。
【0112】
本開示の第4の態様は、1種又は複数の標的分子を液体試料中の1種又は複数の他の化合物から分離するための分取クロマトグラフィーの方法であって、標的分子及び化合物を含む液体試料を分離マトリックス(第1の態様に従う)と、又はそのような分離マトリックスを含むクロマトグラフィーカラムと接触させる工程を含み、液体試料を<5bar、例えば<3bar、又は例えば、4.5、4、3.5、3、2.5、若しくは2barの差圧(又は「デルタ圧」)に曝露する工程を含む方法に関する。用語「分取クロマトグラフィー」は、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子が適さない分析用途及び高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ではなく、ここで開示されるクロマトグラフィー粒子の主な用途領域と併せて本明細書で使用される。分取クロマトグラフィーは、5barを超えない、好ましくは3barを超えないデルタカラム圧の適用によって本明細書で定義され得る。
【0113】
第4の態様に従う方法が、標的分子を含む液体試料を、分離マトリックスが入ったクロマトグラフィーカラムと接触させる工程を含む場合、液体試料を含有する移動相は、重力によって及び/又はポンピングによって前記クロマトグラフィーカラムを通過することができ、
(a)標的分子はクロマトグラフィーカラムのフロースルー中で回収されてもよく、この場合、分離マトリックスに吸着された化合物は、宿主細胞タンパク質及び/又は他の不純物であるか、又は
(b)標的分子はクロマトグラフィーカラムからの溶出液画分中で回収されてもよく、この場合、宿主細胞タンパク質及び他の不純物は、カラムのフロースルー中に見出される。
【0114】
第4の態様に従う方法は、標的分子及び化合物を含む移動相を分離マトリックスと、又はクロマトグラフィーカラムと接触させる上記の工程の前に、清澄化(例えば、濾過、遠心分離、又は沈殿による)、また任意選択で濃縮及び/若しくは安定化、並びに/又はクロマトグラフィーの工程を更に含み得る。清澄化及び/又はクロマトグラフィーの前記工程は、例えば、標的分子を細胞培養収穫物から分離することによって、標的分子を事前に精製する工程を含み、これにより標的分子を含む事前に精製された液体試料を得る。前記事前に精製された液体試料は、その後分離マトリックスと、又はクロマトグラフィーカラムと接触し得る。
【0115】
そのような事前に精製する工程は、代替的に「捕捉工程」と呼ばれてもよく、液体クロマトグラフィーの文脈において、分離手順の初期工程を指す。そのような事前に精製する工程は、標的分子含有細胞培養収穫物を精製方法の以下の非限定的な例のうちの1つ又は複数に供する工程を含み得る:
(i)親和性クロマトグラフィー、
(ii)イオン交換クロマトグラフィー、
(iii)沈殿又はタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、続いて、例えば、標的分子のフロースルーとクロマトグラフィー材料への不純物の結合を兼ね備えたCapto Core 400クロマトグラフィー材料(Cytiva社、スウェーデン)の使用等によるサイズ排除クロマトグラフィー、
(iv)TFF、続いてイオン交換クロマトグラフィー、並びに
(v)TFF、続いて、イオン交換クロマトグラフィー及びCapto Core。
【0116】
上記の方法の事前に精製する工程において適用するのに適したクロマトグラフィー材料の非限定的な例は、親和性クロマトグラフィー材料、イオン交換クロマトグラフィー材料、及びサイズ排除クロマトグラフィー材料をそれぞれ含む。クロマトグラフィー材料は、第四級アミノ、第四級アンモニウム、若しくはアミン基等の正に帯電した基、又はスルホネート若しくはカルボキシレート基等の負に帯電した基で官能化され得る。クロマトグラフィー材料は、イオン交換基、親和性ペプチド/タンパク質ベースのリガンド、疎水性相互作用リガンド、IMACリガンド、又はOligo dT等のDNAベースのリガンドで官能化され得る。
【0117】
用語「分離デバイス」は、バイオプロセシングの分野におけるその従来の意味を有し、化合物の生成からの副生物を含有する流体から化合物を分離及び精製することができ、そうするのに適した任意の種類の分離デバイスを包含すると理解されるべきである。分離デバイスは、本明細書の他の箇所に更に定義されるような分離マトリックスを含み得る。
【0118】
本明細書に記載されるような捕捉工程又は事前精製工程で使用するのに適した分離デバイスの非限定的な例は、濾過装置、クロマトグラフィーカラム及び膜デバイスである。捕捉工程で使用するのに適したクロマトグラフィーカラムは、例えば、親和性クロマトグラフィー材料、イオン交換クロマトグラフィー材料、混合モードクロマトグラフィー材料又は疎水性相互作用クロマトグラフィー材料がパックされ得る。
【0119】
本開示の第5の態様は、1種又は複数の標的分子を液体試料中の1種又は複数の他の化合物から分離するための分取クロマトグラフィーの特定の方法を対象とする。より具体的には、本開示は、
図4に示されるように、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを、遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料を弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料に添加する工程であって、
液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも10
12のアデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料が、
i.アデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンド、又は
ii.上記のような本開示の第1の態様に従う分離マトリックスを含む支持体
を含む、工程、
b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法を提供することによって、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための既存の方法に関連する問題を解決する又は少なくとも軽減する。
【0120】
本開示の第5の態様に従う方法の顕著な利点は、それが完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドとの大規模な分離に適していること、及び先行技術の方法と比較して、完全にパッケージされたカプシドの完全にはパッケージされていないカプシドに対する改善された比を提供することを含む。方法を実行することによって、少なくとも3:2の完全にパッケージされたカプシドの完全にはパッケージされていないカプシドに対する比を有する組成物を得ることが可能である。より具体的には、ここで開示される方法は、完全にパッケージされたカプシドの空のカプシドに対する改善された比、及び完全にパッケージされたカプシドの部分的にパッケージされたカプシドに対する改善された比を提供する。
【0121】
以下の用語の定義は、この文書の更に上記に見出され得る:「目的の遺伝物質」、「遺伝物質が完全にパッケージされたカプシド」、「遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシド」、「部分的に充填されたカプシド」、及び「空のカプシド」。
【0122】
ウイルス粒子の集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、完全なカプシドを富化する、すなわち、部分的に充填されたカプシド及び空のカプシドのパーセンテージを犠牲にして、完全なカプシドのパーセンテージを増加させることが望ましい(例えば臨床規則ゆえに、要求されることさえある)。カプシドの集団における完全なカプシド及び空のカプシドのパーセンテージは、当技術分野で公知のいくつかの方法で推定又は分析され得る。これらの方法の一部は、更に上記に手短に記載された。
【0123】
上記で言及されたように、完全にパッケージされたカプシドを完全にはパッケージされていないカプシドと分離するための方法において、工程(a)においてクロマトグラフィー材料に添加される液体試料は、少なくとも90%、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の純度及び少なくとも1012、例えば、1013、1014、又は1015のアデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%、例えば、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである。液体試料中のアデノ随伴カプシドの純度に関して、少なくとも90%、例えば99%までの純度は、液体試料中の生物学的物質の少なくとも90%、例えば99%までがアデノ随伴カプシドによって代表されるが(完全な、空の、及び部分的に充填されたカプシドを含む)、10%まで、例えば1%の残りは、宿主細胞タンパク質及びDNAによって代表されることを意味することが意図される。
【0124】
上記に開示される方法の工程(b)の目的は、可能な限り高い純度の完全にパッケージされたカプシドを得ることである。当業者は、これが、様々な異なる分離条件を適用することによって達成され得ることを容易に理解する。可能な限り高い純度の完全にパッケージされたカプシドを得るための分離条件の非限定的な例は、クロマトグラフィー材料への完全にはパッケージされていないカプシドの結合を可能にするが、
(i)完全にパッケージされたカプシドがクロマトグラフィー材料を実質的に流れることを可能にする(すなわち、クロマトグラフィー材料に実質的に結合しない完全にパッケージされたカプシド)、又は
(ii)完全にパッケージされたカプシドがクロマトグラフィー材料に結合し、続いて、それらをクロマトグラフィー材料から溶出することを可能にする、分離条件を含む。項目(ii)に記載される結合-溶出プロセスにおいて、完全にパッケージされたカプシドは、どの分離条件が適用されるかに応じて、完全にはパッケージされていないカプシドの前又は後にクロマトグラフィー材料から溶出され得ることが理解されるべきである。
【0125】
上記で言及されたように、完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドの間には、精製に関連のあるいくつかのパラメーター、例えばそれらの等電点に関連して、わずかな差異がある。これは、多くの場合、完全にパッケージされた及び完全にはパッケージされていないカプシドの(少なくとも部分的な)共溶出につながる。したがって、現実的に、上記に開示される方法の工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドは、完全な、空の、及び部分的に充填されたカプシドに完全には分離されないであろう。しかし、工程(a)においてクロマトグラフィー材料に添加される液体試料中よりも実質的に高いパーセンテージの完全なカプシドを含む溶出液画分が存在するであろう。より詳細には、上記に開示されるように、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシド、すなわち、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドは、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分は、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%、例えば、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%を含み、そのうち少なくとも60%、例えば、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている。ここで開示される方法によって達成される完全なカプシドの回収率及び精製の非限定的な例は、工程(a)において添加される液体試料のカプシドの少なくとも50%の回収率、そのうち少なくとも60%は完全なカプシドであり、例えば、工程(a)において添加される液体試料のカプシドの少なくとも70%の回収率、そのうち少なくとも80%は完全なカプシドである。更に下記に記載される実施例1において、結果は、収穫物からのカプシドの60~70%の回収率、そのうち少なくとも60%が完全なカプシドであることを示し、それらの全体積のいたるところで均質な平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子の使用と比較して、本開示に従うクロマトグラフィー粒子の使用による、部分的に充填されたカプシドの改善された分解能を更に示す。現在のところ、本明細書に開示される方法ほど高い回収率及び精製を与える、公に利用可能な大規模な方法はない。
【0126】
上記で言及されたように、ここで開示される方法において適用されるクロマトグラフィー材料は、アデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンド及び本開示の第1の態様に従う分離マトリックスを含む支持体を含む、弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料を含む。
【0127】
弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドは、以下の式I:
【0128】
【0129】
(式中、
X1は、O、S、及びNHCOから選択され、
nは、1~4の整数、すなわち1、2、3、又は4であり、
各R1及びR2は、水素、C1~C3アルキル、及びOHから独立に選択される)
によって定義され得る。
【0130】
非限定的な例として、X1はOであり、nは1であり、各R1及びR2は水素である。
【0131】
Cytiva社、スウェーデン(www.cytivalifesciences.com)によって提供される、式I(式中、X1はOであり、nは1であり、各R1及びR2は水素であり、すなわち、リガンドはカルボキシメチル基である(CMと略される))によって定義されるリガンドを含む現在入手可能なクロマトグラフィー材料がある。
【0132】
別の非限定的な例によると、X1はSであり、nは2であり、各R1及びR2は水素である。
【0133】
更に別の非限定的な例によると、X1はNHCOであり、nは、2又は3であり、各R1及びR2は水素である。
【0134】
更に別の非限定的な例によると、X1はOであり、nは1であり、R1はCH3であり、R2は水素である。
【0135】
リガンドの密度は、弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料のml当たり、約30~約110μmol、例えば約40~約90μmol、例えば約50~約80μmol、又は約30、35、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、70、75、80、85、90、95、100、105若しくは110μmolのリガンドであり得る。
【0136】
本開示の第5の態様に従う上記に開示される方法の工程(a)及び(b)は、約2.0~約12.0、例えば約3.0~約9.0、例えば約4.0~約6.0、例えば、約4.5、又は約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、若しくは12.0のpHを有する緩衝液を適用する工程を含み得る。
【0137】
前記緩衝液は、陽イオン交換クロマトグラフィー用に一般的に推奨される緩衝液から適切に選択され、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、リン酸、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、ADA(N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、HEPES(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N'-(2-エタンスルホン酸)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ-メタン(すなわちトリス)、又は1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(すなわちビス-トリスプロパン)を含み得る。
【0138】
当業者は、上記に列挙された緩衝液のうちの任意の1つに適した濃度を選択することができる。クロマトグラフィー材料が弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料である、第5の態様に従う方法の工程(a)及び(b)において適用される緩衝液の非限定的な例は、約10~約100mMの酢酸塩、例えば、約20~約60mMの酢酸塩、又は約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100mMの酢酸塩を含み得る。そのような緩衝液は、例えば、約2.0~約12.0、例えば約3.0~約9.0、例えば約4.0~約6.0、例えば約4.5、又は約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、若しくは12.0のpHを有し得る。
【0139】
第5の態様に従う方法の工程(b)は、緩衝液、任意選択で、上記で言及された緩衝液のうちの1つを適用する工程を含んでもよく、緩衝液は、遺伝物質が完全にパッケージされたカプシドと遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシドとの分離を改善する化合物を含む。この化合物は、第5の態様に従う方法の工程(a)において適用される緩衝液中に存在してもしなくてもよい。理論に縛られるものではないが、そのような化合物は、例えば、カプシドとリガンドの相互作用又はカプシドとカプシドの相互作用に影響を及ぼすことによって分離を改善し得る。分離を改善する前記化合物は、例えば、炭水化物、二価金属イオン、及び界面活性剤から選択され得る。
【0140】
分離を改善する前記化合物が炭水化物である場合、それは、例えば、スクロース、ソルビトール、及び多糖から選択され得る。
【0141】
分離を改善する前記化合物が二価金属イオンである場合、それは、例えば、Mg2+、Fe2+、及びMn2+から選択され得る。金属イオンは、任意選択で、例えば、塩化物イオン又は硫酸イオンと組み合わせて、塩の形態で存在し得る。工程(b)の緩衝液に含めるのに適した金属塩の非限定的な例はMgCl2である。MgCl2の適切な濃度の非限定的な例は、約0.5~約30mMのMgCl2、例えば約1~約20mM、例えば、約2~約10mM、又は約0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、若しくは30mMのMgCl2を含む。
【0142】
分離を改善する前記化合物が界面活性剤である場合、それは、例えば、ポロキサマー188又はPluronic(商標)F68等のポロキサマー、及びTween 20又はTween 80等のポリソルベートから選択され得る。
【0143】
第5の態様に従う上記の方法において、工程(b)は、緩衝液、任意選択で、上記で言及された緩衝液のうちの1つを適用する工程を含んでもよく、緩衝液は、クロマトグラフィー材料に結合したカプシドを溶出するのを助け得る化合物を含む。この化合物は、第5の態様に従う方法の工程(a)において適用される緩衝液中に存在しない。そのような化合物の非限定的な例は、一価金属イオンの塩等の塩、例えば、当技術分野で周知のように、NaCl、LiCl、KCl、又は塩溶出に使用するのに適した他の同等の金属塩である。NaClの適切な濃度の非限定的な例は、約50mM~約2MのNaCl、例えば、約50、100、150、200、250、500、600、700、800、900、1000、1500、又は2000mMのNaClを含む。更に、工程(b)は、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドのクロマトグラフィー材料からの溶出を改善するためのそのような化合物の勾配を適用する工程を含み得る。
【0144】
クロマトグラフィー材料が弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料である、工程(b)において適用される適切な緩衝液の非限定的な例は、(i)25mMの酢酸塩、10mMのMgCl2、500mMのNaCl、pH4.5、(ii)25mMの酢酸塩、2mMのMgCl2、800mMのNaCl、pH4.5、(iii)25mMの酢酸塩、500mMのNaCl、pH4.5、(iv)25mMの酢酸塩、500mMのNaCl、pH4.5、又は(v)25mMの酢酸塩、500mMのNaCl、10mMのMgCl2、pH4.5、(vi)50mMの酢酸塩、500mMのNaCl、pH4.5を含み得る。
【0145】
第5の態様に従う本明細書に開示される方法の工程(a)において添加される液体試料は、有利には、事前に精製された液体試料であり得る。
【0146】
本開示は、
図4に示され、上記に詳細に記載されるような方法を実行することを含む、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
図5で説明されるように、アデノ随伴ウイルスカプシドをアデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物から分離することによって、アデノ随伴ウイルスカプシドを事前に精製することを含む工程(a1)を更に含み、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む事前に精製された液体試料を得てから、
図4及び
図5にそれぞれ示されるような方法の工程(a)に従って、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む前記事前に精製された液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する、方法を更に提供する。
【0147】
上記において更に記述されているように、そのような事前に精製する工程(a1)は、代替的に、「捕捉工程」と呼ばれてもよい。最も一般的には、捕捉工程は、清澄化(例えば、濾過、遠心分離、又は沈殿による)を含み、通常は、試料の濃縮及び/又は安定化、並びに試料の清澄化、濃縮、及び安定化の後に、例えばクロマトグラフィーを適用することによる、可溶性不純物からの顕著な精製も含む。捕捉工程後に中間精製が続いてもよく、これは、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素、栄養素、消泡剤及び抗生物質等の細胞培養培地の成分、並びに凝集物、ミスフォールド種、及び凝集物等の生成物関連不純物等の不純物の残留量を更に減らす。
【0148】
そのような事前に精製する工程は、アデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物を精製方法の以下の非限定的な例のうちの1つ又は複数に供する工程を含み得る:
(i)親和性クロマトグラフィー、
(ii)イオン交換クロマトグラフィー、
(iii)沈殿又はタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、続いて、例えば、カプシドのフロースルーとクロマトグラフィー材料への不純物の結合を兼ね備えたCapto Core 400クロマトグラフィー材料(Cytiva社、スウェーデン)の使用等によるサイズ排除クロマトグラフィー、
(iv)TFF、続いてイオン交換クロマトグラフィー、並びに
(v)TFF、続いて、イオン交換クロマトグラフィー及びCapto Core。
【0149】
上述したように、アデノ随伴ウイルスは、直径およそ20~25nmである。カプシドは、ウイルス粒子の殻であり、アデノ随伴ウイルスは、カプシドを囲むリポタンパク質二重層エンベロープを有しないので、アデノ随伴ウイルスカプシドのサイズは、直径およそ20~25nmである。
【0150】
したがって、本開示の第5の態様に従う方法において適用される分離マトリックスに含まれる複数のクロマトグラフィー粒子のコアを囲む層は、>25nmである、すなわち、分離されるアデノ随伴ウイルスカプシドの直径より大きい平均細孔直径を適切に含むことができ、これによりコアを囲む層内でのカプシドの拡散を可能にする。アデノ随伴ウイルスカプシドを分離する特定の目的のために、>25nmの平均細孔直径は、30、50、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>25nmの任意のサイズであり得ることが理解されるべきである。
【0151】
対照的に、コアの平均細孔直径は、アデノ随伴ウイルスカプシドの拡散を可能にしない。アデノ随伴ウイルスのサイズに基づいて、コアは、<20nmである、すなわち、分離されるアデノ随伴ウイルスカプシドの直径より小さい平均細孔直径を適切に含むことができ、これによりコア内でのカプシドの拡散を許さない又は妨げる。好ましくは、コアは、<15nm、例えば、10nm又は5nmの直径等のアデノ随伴ウイルスのサイズより実質的に小さい平均細孔直径を含み得る。
【0152】
コアを囲むその層におけるよりも小さいそのコアにおける平均細孔直径を有するクロマトグラフィー粒子は、例えば、本開示の第2の態様に従う方法を実行することによって調製され得る。
【0153】
完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための本明細書に開示される方法は、上記のような方法の工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1)アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2)方法の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含んでもよく、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る。
【0154】
当業者は、薬学的に適切な用量が、これらに限定されないが、処置される疾患又は障害並びに医薬組成物で処置される対象の体重及び状態等の様々な因子に依存することを理解する。
【0155】
薬学的に許容される緩衝液は、当技術分野で周知であり、当業者によって容易に選択され得る。
【0156】
得られた組成物が医薬組成物に関する全ての規制要件を満たすために、通常は、上記で列挙された3つの工程c1~c3の全てが実行されなければならない。
【0157】
本開示の第5の態様に従う上記に開示される方法において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドであり得る。
【0158】
アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)に関連する用語「バリアント」は、カプシド構造が、臨床性能を改善するために、例えば、特定の標的臓器に向けて改変された、改変又は操作されたAAV9を意味することが意図される。AAV9バリアントは、AAV9のカプシド部分を含み、AAV5等のAAV9以外の他のAAV血清型のカプシド部分を更に含み得る。しかし、本明細書で言及されるようなAAV9バリアントは、例えば、非改変AAV9カプシドの外表面構造の少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、又は90%を保持する、非改変AAV9カプシドに対する顕著な構造的類似性を保持しなければならない。AAV9のバリアントの精製又は分離の文脈において、「バリアント」は、指定されたクロマトグラフィー材料に対する元のAAV9の結合能と比較して、前記指定されたクロマトグラフィー材料のリガンドに対する機能的に同等な結合能を有するアデノ随伴ウイルスと本明細書で定義される。指定されたクロマトグラフィー材料は、例えば、本明細書の他の箇所により詳細に開示されているような、弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料であり得る。アデノ随伴ウイルスのバリアントは、例えば、アデノ随伴ウイルスのゲノムの1つ又は複数のヌクレオチドの自然変異によって、又は操作された改変によって(すなわち、人的相互作用によって得られる)得られ得る。
【0159】
本開示は、対象において臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための方法であって、工程c1~c3(上記に詳細に記載されるような)のうちの1つ又は複数を含む上記に開示される分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を対象に投与する工程を含み、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも1.5倍である、方法を実行するのに更に有用である。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0160】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための前記方法は、遺伝子治療を適切に含み得る。治療的に適切な遺伝子又は遺伝物質は、対象に投与される医薬組成物に含まれる、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシド中に存在することが理解されるべきである。
【0161】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための上記に記載される方法において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、又はそのバリアントのカプシドであり得る。
【0162】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための上記の方法において、臓器又は組織は、特に、アデノ随伴ウイルスカプシドがアデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドである場合、中枢神経系、心臓、肝臓、肺、及び骨格筋から任意選択で選択され得る。
【0163】
上記で言及された組織の種類は、アデノ随伴ウイルスカプシド、特に、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、又はそれらのバリアントのカプシドを含む医薬組成物の投与による処置が適用可能であり得る臓器及び組織の種類の非限定的な例であることが理解されるべきである。
【0164】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害の非限定的な例は、処置又は防止の方法が、アデノ随伴ウイルス、特に、AAV9の投与によって適切に実行され得る脊髄性筋萎縮症である。
【0165】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害の別の非限定的な例は、処置又は防止が、アデノ随伴ウイルス、特にAAV2の投与によって適切に実行され得る遺伝性網膜ジストロフィーである。
【0166】
当業者は、所望の医療効果を達成するために、医薬組成物が薬学的に有効な量又は用量で対象に投与されなければならないことを理解する。薬学的に有効である量及び用量は、これらに限定されないが、処置される疾患又は障害並びに処置される対象の体重及び状態等の様々な因子に依存する。
【0167】
本開示は、第6の態様に従って、上記に詳細に記載されるように、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法(すなわち、第5の態様に従う方法)を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、この組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの総数の少なくとも1.5倍である、組成物を更に提供する。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0168】
本開示は、工程c1~c3(上記に詳細に記載されるような)のうちの1つ又は複数を含む上記に開示される分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物であって、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも1.5倍である、医薬組成物を提供するのに更に有用である。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0169】
上記の医薬組成物は、治療で使用するための、任意選択で、遺伝子治療で使用するためのものであり得る。
【0170】
遺伝子治療等の治療で使用するための上記の医薬組成物において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、又はそのバリアントのカプシドであり得る。
【0171】
更に、医薬組成物は、有利には、中枢神経系、心臓、肝臓、肺、及び骨格筋から選択される臓器又は組織に関連する疾患又は障害の防止又は処置で使用するためのものであり得る。
【0172】
1種又は複数の記載された成分を「含む」デバイス又は組成物は、具体的に記載されていない他の成分も含み得る。用語「含む」は、デバイス又は組成物が、他の特徴も成分も存在しない、列挙された成分を有することを意味する「から本質的になる」をサブセットとして含む。同様に、1つ又は複数の記載された工程を「含む」方法は、具体的に記載されていない他の工程も含み得る。
【0173】
単数形「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、複数形も含むと解釈されるものとする。
【実施例1】
【0174】
半固体粒子を含む弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料でのAAV9カプシドの分離
クロマトグラフィー材料の調製
a)均質な平均細孔直径を有するビーズ上のカルボキシメチル(CM)リガンドプロトタイプ(樹脂1、2及び3)
一般的な手順:
高度架橋アガロースベースマトリックス(均質な平均細孔直径を有する40mLのビーズ)を水(2ゲル体積(GV))で5回洗浄し、排出し、100mlの3口RBフラスコに移し、次いで、2.5mlの水を添加した。ゲル混合物を室温(R.T.)の水浴中で維持した。NaOH溶液(水中50%、7.8ml)を添加し、混合物を機械的撹拌機で撹拌し続けた。30分後、クロロ酢酸ナトリウムを一度に添加した(それぞれ、樹脂1については13.2g、樹脂2については6.6g及び樹脂3については19.88g)。反応は発熱性であり、温度は20℃でしっかり維持されるべきである。クロロ酢酸ナトリウムの溶解後、水浴温度を33℃まで上げた。反応を33℃で16時間撹拌し続けた。次いで水(10mL)を添加し、溶液をR.T.に冷却した。酢酸(60%)を添加して、溶液のpHを6.8~7.2に調整した。得られたゲルを水(1GV)で3回洗浄した。
【0175】
得られた樹脂の滴定は、樹脂1については45μmol/mL、樹脂2については30μmol/mL及び樹脂3については56μmol/mLのイオン容量(すなわちリガンド密度)を示した。
【0176】
b)半固体ビーズ上のカルボキシメチル(CM)プロトタイプ(すなわち、本開示の第1の態様に従う分離マトリックスに含まれるようなクロマトグラフィー粒子の例)
b.1)架橋アガロースベースマトリックスのアリル化
高度架橋アガロースベースマトリックス(均質な平均細孔直径を有する300mLのビーズ)を10×GVの蒸留水で洗浄した。次いでゲルを吸引乾燥し、2000mLの丸底フラスコに移した。300mlの50%NaOHを添加し、機械的プロペラ撹拌(250rpm)を適用し、フラスコを50℃の水浴につけた。30分後、93.2mLのアリルグリシジルエーテル(AGE)を添加した。反応は18時間進行した。ゲルを1×GVの蒸留水、5×GVのエタノール、次いで8×GVの蒸留水で洗浄した。滴定は、266μmol/樹脂mLのアリルレベルを示した。
【0177】
b.2)部分的活性化(外側の部分)
上記からのアリル化樹脂(70.1mL)を1000mLの丸底フラスコに移した。350mLの蒸留水を添加し、機械的に撹拌した。83.3mLの水中529μLの臭素の溶液を調製した。臭素溶液をおよそ2~3分の間、撹拌しながらゆっくり添加した。室温で20分後、ゲルを10×GV蒸留水で洗浄した。残存アリル基の滴定は、3μmのシェル(すなわち、外側の層;ビーズのコアを囲む層)を示した。
【0178】
b.3)3-メルカプトプロピオン酸のカップリング
b.2)の部分的に活性化されたゲル(30.03mL)を100mLの丸底フラスコに移した。10.48mLの蒸留水を添加し、機械的撹拌を適用した。NaOH(5.42mLの50%溶液)、続いて3-メルカプトプロピオン酸(120.22μL)を添加した。フラスコを50℃で18時間そのままにした。ゲルを15×GVの蒸留水で洗浄した。
【0179】
b.4)アリルコアへのアリル-デキストラン(アリル-Dx)のカップリング、3-メルカプトプロピオン酸-カルボキシメチルリガンドを含むシェル:
アリル-Dxの可溶化:室温で終夜(23時間)、次いで30℃で110分間撹拌しながら(75rpm)、19.96gのアリル-Dxを20mLの水と一緒に250mLの丸底フラスコに添加した。
【0180】
b.4.a)アリルコアの臭素化
b.3)からの20gの樹脂、20.05mLの水、及び0.8gのNaOAc*3H2Oを100mLのE-フラスコ内で混合した。持続性の黄色が得られるまで臭素水を添加した。反応を5分間撹拌してから、ギ酸ナトリウムを添加することによって過剰な臭素をクエンチした。次いでゲルを5×GVの水で洗浄した。
【0181】
b.4.b)アリル-Dxのカップリング
b.4.a)の臭素化ゲルをアリル-Dx溶液に添加し、温度を50℃に上げた。追加の5mLの水を添加した。90分後、2.6mLの50%NaOH及び106mgのNaBH4を添加した。反応は、撹拌しながら18時間進行した。次いで混合物を水で希釈し、ゲルを10×GVの水で洗浄した。ゲルの乾燥質量を測定した。
【0182】
b.5)ビニルピロリドン/ADBAによるアリル-Dxコアの重合:
b.4.b)からの樹脂(18.8mL)を水(122.33g)と共に250mLのフラスコに添加した。0.94gの2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(AAPH)開始剤及び46.18gのビニルピロリドンをフラスコに添加した。窒素(0.1NL/分)で5分間バブリングした後、フラスコを55℃で19時間そのままにした。次いで非常に粘性の溶液を希釈し、ガラスフィルター上で、5×GVの水、少なくとも5×2GVのEtOH、次いで10×5GVの水で洗浄した。
【0183】
滴定は、45μmol/半固体樹脂mLのイオン容量(すなわちリガンド密度)を示した。
【0184】
したがって、上記の(b)の半固体ビーズのコアを囲む層のリガンド密度は、上記の(a)の樹脂1のリガンド密度と同等である。
【0185】
機器及び試料
全ての樹脂をTricorn 5カラム(2mL)、10cmのビーズ高さにパックし、Agilent Bio-Inert 1260システム又はAKTA pure P25システムを使用し、1mL/分の流量で、下記の結果に従う直線勾配及び異なる移動相系を使用して運転した。全ての異なる樹脂に関して、適用された試料は、親和性クロマトグラフィーで事前に精製され、完全な及び空のカプシドの両方を含有する(>15%の完全なカプシド)、AAV9のおよそ1×1013のウイルスカプシドであった。蛍光(280nmでの励起、発光348nm)又はUV(280及び260nm)で検出を行った。
【0186】
結果
比較のために、現在入手可能な(すなわち先行技術)陽イオン及び陽イオン/マルチモーダル樹脂(SP Sepharose XL、Capto SP ImpRes、Capto SP ImPact及びCapto MMC ImpRes、CM Sepharose Fast Flow、及びCM Sepharose High performance、全てCytiva社、スウェーデンによって提供される)は、1MのNaClまでの塩勾配と共に50mMの酢酸塩pH4.5及び5.5で評価した。親和性クロマトグラフィーで事前に精製されたAAV9を適用した場合、結果は、分離を示さず、単一のピークだけを示した(結果は示さない)。
【0187】
更に、30μmol/mLのリガンド密度及び均質な多孔性を有する、上記の(a)で言及されたようなCMプロトタイプ樹脂2を25mMの酢酸塩、pH4.5、500mMのNaCl、10mMのMgCl2で運転し、結果は、AAV9の完全及び空のカプシドの分離を示した(結果は示さない)。
【0188】
56μmol/樹脂mLの増加したリガンド密度及び均質な多孔性を有する、上記の(a)で言及されたようなCMプロトタイプ樹脂3を上記と同じクロマトグラフィー条件下で使用して、分離性能が上がった(
図7)。
図7の右にF及びEと印をつけた2つのピークはそれぞれ、均質な多孔性を有するCMプロトタイプ樹脂3で分離された完全な(F)カプシド及び空の(E)カプシドを示す。
図7から、CMプロトタイプ樹脂3での分離は、明確な中間ピークをもたらさなかったことが更に推測され得る。
【0189】
対応するより高いリガンド密度を有する半固体CMプロトタイプ樹脂(半固体ビーズ上のCMプロトタイプと称される上記の(b))を評価した場合、更に良好な分解能が達成された(
図7)。
図7の左にF、I、及びEと印をつけた3つのピークはそれぞれ、半固体CMプロトタイプ樹脂で分離された大部分の完全な(F)カプシド、部分的に充填された(I;中間)カプシド、及び空の(E)カプシドを含有する。
【0190】
高いリガンド密度の半固体CMプロトタイプ樹脂を用いた分取ランは、AKTAシステムで行った。ランからのプールされたピーク1の画分及びプールされたピーク3の画分はそれぞれ、TEMを使用して分析して、ピーク1が完全なカプシドを含有し、ピーク3が空のカプシドを含有することを確認した(Table 1(表1))。qPCR及びELISA比も、ピーク1における完全なカプシドの富化を示した(データは示さない)。
【0191】
【0192】
結論
上記の実験において、最高のリガンド密度を有するCMプロトタイプ(すなわち樹脂3)は、より小さいリガンド密度を有するCMプロトタイプ(すなわち樹脂2)より良好な分解能を示すことがわかった。半固体CMプロトタイプ(すなわち、本開示の第1の態様に従う分離マトリックスに含まれるクロマトグラフィー粒子の例)は、CMプロトタイプ樹脂3より更に高い分解能を示した。更に、溶出緩衝液に添加されたMgCl2は、半固体CMカラムを使用した場合は分解能を大幅に増加させたが、CMプロトタイプのいずれか(すなわち樹脂2及び3)を使用した場合は増加させなかった。
【実施例2】
【0193】
半固体粒子を含む強力な陽イオン交換クロマトグラフィー材料でのモノクローナル抗体バリアントの分離
クロマトグラフィー材料の調製
a)半固体ビーズ上のスルホネート(S)プロトタイプ(すなわち、本開示の第1の態様に従う分離マトリックスに含まれるクロマトグラフィー粒子の例)
a.1)架橋アガロースベースマトリックスのアリル化
架橋アガロースベースマトリックス(均質な多孔性を有する300mLのビーズ)を10×GVの蒸留水で洗浄した。次いでゲルを吸引乾燥し、2000mLの丸底フラスコに移した。250mlの50%NaOH及び0.3gの水素化ホウ素ナトリウムを添加し、機械的プロペラ撹拌(250rpm)を適用し、フラスコを50℃の水浴につけた。30分後、92mLのAGEを添加した。反応は18時間進行した。ゲルを1×GVの蒸留水、5×GVのエタノール、次いで8×GVの蒸留水で洗浄した。滴定は、288μmol/樹脂mLのアリルレベルを示した。
【0194】
a.2)部分的活性化(ビーズの外側の部分)
600g(mL)のアリル化架橋アガロースベースマトリックスを移し、3Lの蒸留水と一緒に4Lの丸底フラスコに排出した。機械的撹拌を適用した(250rpm)。400mLの水中の3.375mLの臭素の溶液を調製した。臭素溶液(95.8μmのビーズの7μmのシェルにおけるアリルと同等)を、滴下漏斗により、およそ15分の間、300rpmの撹拌速度で添加した。20分後、ゲルを10×1GVの蒸留水で洗浄した。残存アリル基の滴定は、4.5μmのシェル(すなわち、ビーズの外側の部分;ビーズのコアを囲む層)を示した。
【0195】
a.3)S-シェルカップリング
前の工程からの619g(mL)のシェル活性化ゲルを2Lの丸底フラスコに移した。124mLの蒸留水及び148.5gの亜硫酸ナトリウムを添加した。機械的プロペラ撹拌を適用し、溶液を250rpmで30分間そのままにした。50%NaOHを添加することによってpHを12.5に調整し、フラスコを50℃の水浴につけた。反応は21時間進行した。ゲルを10×GVの蒸留水で洗浄した。スルホン酸基の滴定は、73μmol/mLのイオン容量(すなわちリガンド密度)を示した。
【0196】
a.4)ビニルピロリドンコア重合
前の工程からの25.4gのS-官能化部分的アリル化材料をガラスフィルターに移した。樹脂を7×2GVの蒸留水、続いて3×1.5GVの1MのNa2SO4で洗浄し、吸引乾燥した。乾燥ゲルを100mLのDuranフラスコに移し、1MのNa2SO4溶液を添加して36.6gの総質量にし、続いて、4.3mLのビニルピロリドン及び0.089gのADBAを添加した。窒素ガスをパスツールピペットで20分間、反応溶液にバブリングした。温度を45℃に、撹拌速度を250rpmに設定したグリセロール浴にDuranフラスコをつけた。17時間後、32.5gの蒸留水を添加し、懸濁液を反応温度で30分間撹拌した。ゲルをガラスフィルターに移し、10GVの蒸留水、次いで5×1GVのエタノール、最後に10×1GVの水で再び洗浄した。乾燥質量分析は、126mg/樹脂mLの質量の増加を示した(コアに添加されたポリビニルピロリドン(PVP)の量に対応する)。材料のイオン容量を再び測定し、73μmol/mLであった。
【0197】
機器及び試料
スルホネート半固体樹脂プロトタイプを、水を使用してTricorn 10/150カラム(Cytiva社、スウェーデン)にパックした。樹脂が安定するまで、樹脂を0.8mL/分でパックした。樹脂が安定した後、樹脂を3mL/分で>10分間パックした。上部アダプターを樹脂床の上部プラス時計回りに上部アダプターの3/4回転に調整した。カラムの床の高さは14.6cmであり、カラムの非対称性は、100μLのアセトン(20mg/mL)を注入すること及び1.0mL/分の流量によって、水及びAKTA Avant 25システム(Cytiva社、スウェーデン)を使用して試験した。非対称性は、1.27と計算された(仕様0.8~1.8)。スルホネート半固体樹脂プロトタイプと同じ粒径分布を有する、参照樹脂SP Sepharose Fast Flow(SP FF)も同じ様式で、スルホネート半固体樹脂プロトタイプと同様の床の高さ14.3cmでTricorn 10/150カラムにパックした。参照カラム(SP FF)の非対称性は1.48(仕様0.8~1.8)であった。
【0198】
カラムをAKTA Pure 25システム(Cytiva社、スウェーデン)に取り付けた。各カラムを2mL/分の3カラム体積(CV)のA緩衝液、50mMの酢酸Na pH5.0で平衡化した。1mL/分の流量のモノクローナル抗体(mAb)17mg/mL、シトクロムC(CytC)4mg/mL及びリゾチーム(Lys)4mg/mLを含有する200μLのタンパク質混合物。カラムを2CVのA緩衝液で洗浄した。15CV、0~100%Bの間、直線勾配を使用して、B緩衝液として25mMのリン酸Na+0.4MのNaCl pH7.0を1mL/分で使用して、タンパク質を溶出した。最後にカラムを2CVのB緩衝液及び2CVのA緩衝液で、2mL/分で洗浄した。検出は280nmであった。
【0199】
結果
図8における溶出したタンパク質のピーク幅を決定し、mAb5-CytC及びCytC-Lysピークの間の分解能Rsを評価し、下記のTable 2(表2)にまとめた。
【0200】
【0201】
結論
粒径分布がプロトタイプ間で等しくても、スルホネート半固体樹脂は、直線勾配を使用して、参照SP Sepharose FFより狭く、より分解したクロマトグラフィーピークを示した。
【実施例3】
【0202】
可変条件下でのAAV9カプシドの分離
完全にパッケージされたAAV9カプシドと空のAAV9カプシド及び部分的にパッケージされたAAV9カプシドとの分離のための実験デザインは、上記の実施例1のような機器及び試料を用いて、実施例1の項目(a)+(b)において調製されたような半固体ビーズ上の弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料の使用により、以下の変動を伴って実行される。
【0203】
半固体ビーズ調製に関して:
1)実施例1の項目(a)+(b)と比較して、方法工程の順番を逆にすること、すなわち、この変動は、第1の工程が半固体ビーズを調製する工程を含み、第2の工程が、リガンドを半固体ビーズにカップリングすることによって半固体ビーズを官能化する工程であって、リガンドが標的分子に結合するためのものである、工程を含む方法を含む。より詳細には、変動は、本開示に従ってクロマトグラフィー粒子を調製するための方法であって、コア及びコアを囲む層を含むクロマトグラフィー粒子を調製する工程であって、コアが第1の平均細孔直径を有し、コアを囲む層が第2の平均細孔直径を有し、第2の平均細孔直径が、第1の平均細孔直径の少なくとも1.5倍である、工程を含む第1の工程と、半固体ビーズへの標的分子の結合のためのリガンドのカップリングを含む、その後の工程とを含む方法を含む。
【0204】
半固体ビーズ上のリガンド密度に関して:
1)実施例1の項目(b)の半固体ビーズ上のCMプロトタイプ:同じリガンドのより低い及びより高い密度。
【0205】
半固体ビーズ上のリガンドの化学的性質に関して:
1)弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料:
a.デキストランCM、すなわち、クロマトグラフィー材料の支持体にカップリングしたデキストランにカップリングしたカルボキシメチル(CM)リガンド(実施例1のような)。
b.アミド結合でクロマトグラフィー材料に連結したCM。
c.クロマトグラフィー材料の支持体にカップリングした短いリンカー又は足場に結合したポリCM又は複合CM。
2)強力な陽イオン交換クロマトグラフィー材料:
a.スルホネート(S)リガンド(実施例2のような)
【実施例4】
【0206】
可変条件下での標的分子の分離
様々な標的分子の分離のための実験デザインは、上記の実施例1又は実施例2のような機器及び試料を用いて、実施例1の項目(a)+(b)又は実施例2の項目(a)において調製されたような半固体ビーズ上のクロマトグラフィー材料の使用により、以下の変動を伴って実行される。
【0207】
半固体ビーズ上のリガンドの化学的性質に関して:
1)強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料:
a.約100%の四級化アミン基を有するクロマトグラフィー材料Capto Q(Cytiva社、スウェーデン)のリガンド。
b.デキストランCapto Qリガンド、すなわち、クロマトグラフィー材料の支持体にカップリングしたデキストランにカップリングしたCapto Qリガンド。
c.約15%のアミン基の四級化度を有する、クロマトグラフィー材料Capto DEAE(Cytiva社、スウェーデン)のリガンド。
d.デキストランCapto DEAEリガンド、すなわちクロマトグラフィー材料の支持体にカップリングしたデキストランにカップリングしたCapto DEAEリガンド。
2)強力な陽イオン交換材料:
a.スルホネート(S)基を強力な陽イオン交換体リガンドとして含む、クロマトグラフィー材料Capto S ImpAct(Cytiva社、スウェーデン)のリガンド。
b.クロマトグラフィー材料Capto SP ImpRes(Cytiva社、スウェーデン)のリガンドであり、このリガンドはスルホプロピル(SP)基を含む。
3)疎水基を含むマルチモーダル陰イオン交換クロマトグラフィー材料:
a.支持体にカップリングしたN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンドを含む、クロマトグラフィー材料Capto adhere ImpRes(Cytiva社、スウェーデン)のリガンドであり、前記支持体はリンカーによりリガンドの窒素原子に連結する。
4)マルチモーダル弱陽イオン交換クロマトグラフィー材料:
a.クロマトグラフィー材料Capto MMC(Cytiva社、スウェーデン)のリガンドであり、このリガンドは、カルボキシル基を含み、水素結合及び疎水性相互作用を含む。
5)疎水性相互作用クロマトグラフィー材料:
a.クロマトグラフィー材料フェニルSepharose 6 Fast Flow(Cytiva社、スウェーデン)のリガンド。
b.クロマトグラフィー材料ブチルSepharose 4 Fast Flow(Cytiva社、スウェーデンのリガンド。
【0208】
半固体ビーズで分離される標的分子に関して:
1)血清型8(AAV8)、5(AAV5)、1(AAV1)、2(AAV2)、4(AAV4)、6(AAV6)、7(AAV7)、又は10(AAV10)のアデノ随伴ウイルスカプシド;本明細書の実施例2又は実施例4において例示されるような陰イオン交換リガンドを含む半固体ビーズで分離される。
2)モノクローナル抗体バリアント、例えば、二重特異性、融合、又はキメラモノクローナル抗体;本明細書の実施例2及び実施例4において例示されるようなリガンドを含む半固体ビーズで分離される。
3)抗体断片(抗原結合断片F(ab')2、Fab、Fab'、及びFvを含むが、これらに限定されない;本明細書の実施例2及び実施例4において例示されるようなリガンドを含む半固体ビーズで分離される。
4)オリゴヌクレオチド;本明細書の実施例4において例示されるような陰イオン交換リガンド、マルチモーダル陰イオン交換リガンド又は疎水性相互作用リガンドを含む半固体ビーズで分離される。
5)RNA;本明細書の実施例4において例示されるような陰イオン交換リガンド、マルチモーダル陰イオン交換リガンド又は疎水性相互作用リガンドを含む半固体ビーズで分離される。
6)DNA;本明細書の実施例4において例示されるような陰イオン交換リガンド、マルチモーダル陰イオン交換リガンド又は疎水性相互作用リガンドを含む半固体ビーズで分離される。
【実施例5】
【0209】
細孔径分布及び相対的な平均細孔直径の決定
この実施例は、本明細書に記載のクロマトグラフィー粒子が、2つの異なる細孔径分布、それぞれコアの細孔径分布及び外側の層の細孔径分布を有することを検証する方法を説明する。要約すると、様々なサイズのタンパク質及びペプチドを、本明細書に記載のように生成されたクロマトグラフィービーズがパックされたカラムに注入し、流した。各ポリペプチドの保持体積を決定し、分配係数を各ポリペプチドについて計算した。分配係数を各ポリペプチドの対数分子量と共にプロットした(
図9)。
【0210】
機器及び材料
本質的に上記の実施例2aに記載のように調製されるクロマトグラフィー樹脂(半固体ビーズ)を使用した。アガロースベースマトリックスの粒径(d50v)は96.5μmであった。滴定は、活性化後に296.8μmol/mLのアリルレベル(Cアリル1)及び部分的不活化後に224.4μmol/mLのアリルレベル(Cアリル2)を示した(上記の工程2a.1及び2a.2を参照されたい)。外側の層(シェル)の厚みtsは、式
【0211】
【0212】
(式中、r0は、ビーズの半径に対応するd50v/2であり、Cアリル1及びCアリル2はそれぞれ、上記に示されるように、部分的不活化前及び後のアリルレベルを表す)を使用して、4.3μmと計算された。
【0213】
更に、Table 3(表3)に概説されるようなポリペプチドを使用した。
【0214】
【0215】
移動相緩衝液:PBS(2錠;Medicago社、商品番号09-9400-00)及び58.4gのNaClを2000mlのmQ水に溶解した。緩衝液は、0.64MのNaCl、0.0027MのKCl及び0.01Mのリン酸塩、pH7.4を含有した。
【0216】
手順
0.2MのNaCl(Merck社)をパッキング溶出剤として使用して、樹脂をTricorn 10/300カラム(Cytiva社、スウェーデン)に7mL/分の流量でパックした。床の高さは29.3cmであり、23.0mLの総床体積であった。AKTA Pure 25クロマトグラフィーシステム(Cytiva社、スウェーデン)を使用し、100μLの2%(w/v)アセトンをカラムに注入し、0.75mL/分の流量及び280nmでのUV検出を使用して、非対称性を決定した。非対称性は0.9であることが見出され、これは許可された。一般的に、0.8~1.8の間のカラム非対称値は、許容されると考えられる。
【0217】
非対称性試験後、カラムを動かし、UHPLCシステム(Agilent 1260 Infinity)に接続した。Table 3(表3)に列挙されているタンパク質/ペプチドを秤量し、個々に各々、200μLの移動相緩衝液中3mg/mLの最終濃度まで希釈した。50μLを個々に注入し、0.8mL/分の流量で分子にカラムを移動させた。検出は、280及び220nmのUVを使用して行った。
【0218】
クロマトグラフィー後、クロマトグラムの個々のピークを積分し、保持時間及び保持体積を決定した。
【0219】
計算及び結果
Table 4(表4)は、本発明の樹脂がパックされたカラムについて行われた計算を示す。空隙体積は、660kDaの分子量を有するサイログロブリンを使用して決定した。
【0220】
カラム体積は、床の高さ(29.3cm)とカラムの半径(0.5cm)の2乗及びπを掛けることによって計算した。
【0221】
ビーズ体積(Vb)は、カラム体積から空隙体積を引くことによって計算した。
【0222】
完全粒子体積(Vfp)は、式:Vfp=4/3×π×(粒子直径/2)3によって計算した。
【0223】
層体積(Vl)は、式:Vl=Vfp-4/3×π×(粒子直径-(層の厚み×2)/2)3によって計算した。
【0224】
【0225】
Table 5(表5)は、各ポリペプチドの保持体積及びゲル相分配係数(Kav)を示す。Kavは、保持体積(Vr)から空隙体積Voを引き、ビーズ体積(Vb;8.36mL)で割ることによって計算した。
【0226】
Kavシェルは、最大のポリペプチドについて、保持体積(Vr)から空隙体積Voを引き、カラム中の層体積(3.58mL)で割ることによって計算した。
【0227】
【0228】
図9は、K
avに対してプロットされたポリペプチドのlog Mwを示す。Microsoft Excelで、その一次方程式を用いて傾向線を作成し、両方の傾向線についてR>0.98であった。細孔径分布曲線の傾きは、大きな生体分子(29~660kDa)とより小さな生体分子(0.6~14kDa)の間で異なることが明らかにわかる。傾きの差から、樹脂ビーズが2つの細孔径分布を有することを結論付けることができる。多孔性の外側の層の体積は、全ビーズの体積と比べて小さかったので、大きいポリペプチドは、コアではなく外側の層内にだけ移動することができ、したがって、早く溶出し、急勾配の細孔径分布曲線を産生した。
【0229】
ビーズの密なコアについて、
図9の一次関数に基づいて、排除限界(線形曲線がy軸上の0を通過する)は18kDaであり、次いで分画範囲(K
av1~0)は0.7~18kDaである。外側の層について、細孔径分布曲線の傾きは、それが、密なコアについての18kDaの排除限界を上回り、440kDaまでのlog分子量との直線関係で、より大きな生体分子を妨害することを示す。
【0230】
結論
コアの直線分画範囲(0.7~18kDa)の平均分子量は9kDaであり、外側の層の分画範囲(18~440kDa)について、平均分子量はおよそ200KDaである。これは、外側の層の平均細孔直径が、コアの平均細孔直径の約20倍であることを意味する。
【0231】
本開示は、その上記の例示的な実施形態に制限されず、本開示のいくつかの考えられる改変が以下の特許請求の範囲の範囲内で可能であることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0232】
10 クロマトグラフィー粒子
20 コア
30 層、第1の層
40 第2の層
(参考文献)
【国際調査報告】