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特表2025-503428線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)およびその他のがんに対する免疫療法において使用するためのペプチドおよび抗原結合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)およびその他のがんに対する免疫療法において使用するためのペプチドおよび抗原結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/82 20060101AFI20250128BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20250128BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250128BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20250128BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C07K14/82
C07K14/47 ZNA
C07K16/00
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K39/00 Z
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/17
A61P35/00
C07K7/06
C07K7/08
C07K14/725
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535629
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2022086159
(87)【国際公開番号】W WO2023111182
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214728.4
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518022178
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン メディツィニーシェ ファクルテート
【氏名又は名称原語表記】EBERHARD KARLS UNIVERSITAET TUEBINGEN MEDIZINISCHE FAKULTAET
【住所又は居所原語表記】Geschwister-Scholl-Platz,72074 Tuebingen Germany
(71)【出願人】
【識別番号】523186793
【氏名又は名称】アルベルト-ルートヴィヒ-ウニヴェルジテート フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ワルツ,ユリアーネ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】マリンガー,ヤシーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コーラー,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ディックス,セヴェリン
(72)【発明者】
【氏名】ズウィック,メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】ボリース,メラニー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA45
4C084AA13
4C084MA17
4C084MA44
4C084NA05
4C084ZB26
4C085AA03
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC23
4C085DD62
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA44
4C086NA05
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA44
4C087NA05
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA50
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、免疫治療方法において使用するための、ペプチド、抗原結合タンパク質、核酸および細胞に関する。具体的には、本発明は、がんの免疫療法、特に線維層板状肝細胞癌の免疫療法に関する。さらに、本発明は、例えば、抗腫瘍免疫応答を刺激するワクチン組成物の医薬品有効成分として利用することが可能であり、またはエクスビボのT細胞を刺激して患者へ移入することが可能な、腫瘍関連T細胞ペプチドエピトープと組換えT細胞受容体に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~5に示されるアミノ酸配列および配列番号1~5と少なくとも88%の相同性を有するバリアント配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、またはその薬学的に許容される塩であって、前記バリアント配列が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と結合し、かつ/または該バリアント配列と交差反応を起こすT細胞を誘導し、前記ペプチドが全長ポリペプチドではない、ペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子に結合する能力を有し、該MHC分子に結合した場合に、CD4 T細胞および/またはCD8 T細胞によって認識可能であり、好ましくは、前記ペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1~5のいずれかに示されるアミノ酸の連続した配列を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のペプチドまたはそのバリアントを特異的に認識する抗体であって、特に、可溶性抗体または膜結合型抗体であり、さらに好ましくは、モノクローナル抗体またはその断片であり、好ましくは、請求項1または2に記載のペプチドまたはそのバリアントがMHC分子に結合した場合に、該ペプチドまたはそのバリアントを特異的に認識する、抗体。
【請求項4】
請求項1または2に記載のペプチドまたはそのバリアントであるHLAリガンドに反応するT細胞受容体またはその断片であって、好ましくは、可溶性のT細胞受容体または膜結合型のT細胞受容体であり、好ましくは、請求項1または2に記載のペプチドまたはそのバリアントがMHC分子に結合した場合に、該ペプチドまたはそのバリアントに反応する、T細胞受容体。
【請求項5】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成した少なくとも1つのDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
前記抗原結合タンパク質が、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)としてCDR3αを含む第1の可変ドメインを含む第1のポリペプチド鎖と、少なくとも1つのCDRとしてCDR3βを含む第2の可変ドメインを含む第2のポリペプチド鎖とを含み、
a)CDR3αが、配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号36のアミノ酸配列を含むか、配列番号36のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
b)CDR3αが、配列番号7のアミノ酸配列を含むか、配列番号7のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号37のアミノ酸配列を含むか、配列番号37のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
c)CDR3αが、配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号38のアミノ酸配列を含むか、配列番号38のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
d)CDR3αが、配列番号9のアミノ酸配列を含むか、配列番号9のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号39のアミノ酸配列を含むか、配列番号39のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
e)CDR3αが、配列番号10のアミノ酸配列を含むか、配列番号10のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号40のアミノ酸配列を含むか、配列番号40のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
f)CDR3αが、配列番号11のアミノ酸配列を含むか、配列番号11のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号41のアミノ酸配列を含むか、配列番号41のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
g)CDR3αが、配列番号12のアミノ酸配列を含むか、配列番号12のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号42のアミノ酸配列を含むか、配列番号42のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
h)CDR3αが、配列番号13のアミノ酸配列を含むか、配列番号13のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号43のアミノ酸配列を含むか、配列番号43のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
i)CDR3αが、配列番号14のアミノ酸配列を含むか、配列番号14のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号44のアミノ酸配列を含むか、配列番号44のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
j)CDR3αが、配列番号15のアミノ酸配列を含むか、配列番号15のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか、配列番号45のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
k)CDR3αが、配列番号32のアミノ酸配列を含むか、配列番号32のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか、配列番号45のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
l)CDR3αが、配列番号16のアミノ酸配列を含むか、配列番号16のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号46のアミノ酸配列を含むか、配列番号46のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
m)CDR3αが、配列番号17のアミノ酸配列を含むか、配列番号17のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号47のアミノ酸配列を含むか、配列番号47のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
n)CDR3αが、配列番号33のアミノ酸配列を含むか、配列番号33のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号47のアミノ酸配列を含むか、配列番号47のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
o)CDR3αが、配列番号18のアミノ酸配列を含むか、配列番号18のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号48のアミノ酸配列を含むか、配列番号48のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
p)CDR3αが、配列番号19のアミノ酸配列を含むか、配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号49のアミノ酸配列を含むか、配列番号49のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
q)CDR3αが、配列番号19のアミノ酸配列を含むか、配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号62のアミノ酸配列を含むか、配列番号62のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
r)CDR3αが、配列番号20のアミノ酸配列を含むか、配列番号20のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号50のアミノ酸配列を含むか、配列番号50のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
s)CDR3αが、配列番号21のアミノ酸配列を含むか、配列番号21のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号51のアミノ酸配列を含むか、配列番号51のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
t)CDR3αが、配列番号21のアミノ酸配列を含むか、配列番号21のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号63のアミノ酸配列を含むか、配列番号63のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
u)CDR3αが、配列番号22のアミノ酸配列を含むか、配列番号22のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号52のアミノ酸配列を含むか、配列番号52のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
v)CDR3αが、配列番号23のアミノ酸配列を含むか、配列番号23のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号53のアミノ酸配列を含むか、配列番号53のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
w)CDR3αが、配列番号24のアミノ酸配列を含むか、配列番号24のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号54のアミノ酸配列を含むか、配列番号54のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
x)CDR3αが、配列番号25のアミノ酸配列を含むか、配列番号25のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号55のアミノ酸配列を含むか、配列番号55のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
y)CDR3αが、配列番号34のアミノ酸配列を含むか、配列番号34のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号55のアミノ酸配列を含むか、配列番号55のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
z)CDR3αが、配列番号26のアミノ酸配列を含むか、配列番号26のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号56のアミノ酸配列を含むか、配列番号56のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
α)CDR3αが、配列番号27のアミノ酸配列を含むか、配列番号27のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号57のアミノ酸配列を含むか、配列番号57のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
β)CDR3αが、配列番号28のアミノ酸配列を含むか、配列番号28のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号58のアミノ酸配列を含むか、配列番号58のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
γ)CDR3αが、配列番号29のアミノ酸配列を含むか、配列番号29のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号59のアミノ酸配列を含むか、配列番号59のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
δ)CDR3αが、配列番号30のアミノ酸配列を含むか、配列番号30のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号60のアミノ酸配列を含むか、配列番号60のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;または
ε)CDR3αが、配列番号31のアミノ酸配列を含むか、配列番号31のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号61のアミノ酸配列を含むか、配列番号61のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなり;
前記CDR配列が、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換から選択される1つ以上のアミノ酸変異を含んでいてもよく、
好ましくは、前記抗原結合タンパク質が、単鎖TCR(scTCR)もしくは二重特異性単鎖抗体であり、かつ/または
好ましくは、第1のポリペプチドが、α鎖の定常ドメインもしくはγ鎖の定常ドメインをさらに含み、第2のポリペプチドが、β鎖の定常ドメインもしくはδ鎖の定常ドメインをさらに含み、かつ/または
好ましくは、第1の可変ドメインが、TCRα鎖もしくはTCRγ鎖の一部であり、かつ/または
好ましくは、第2の可変ドメインが、TCRβ鎖もしくはTCRδ鎖の一部であり、かつ/または
好ましくは、第1の可変ドメインがTCRαの可変ドメインであり、第2の可変ドメインがTCRβの可変ドメインであり、かつ/または
好ましくは、前記抗原結合タンパク質が、安定性、細胞表面発現および/もしくはペアリングを増加させる少なくとも1つのアミノ酸変異を含む、
抗原結合タンパク質。
【請求項6】
(i)1つ以上のさらなる抗原結合部位;
(ii)細胞質内シグナル伝達領域を含んでいてもよい、前記第1のポリペプチド鎖および/もしくは前記第2のポリペプチド鎖内の膜貫通領域;
(iii)診断剤;
(iv)治療剤;ならびに
(v)PK調節部分
のうちの1つ以上をさらに含み、
好ましくは、前記抗原結合タンパク質が、治療用の抗原結合タンパク質および/または診断用の抗原結合タンパク質である、
請求項5に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載のペプチドもしくはそのバリアント、請求項3に記載の抗体もしくはその断片、請求項4に記載のT細胞受容体、または請求項5もしくは6に記載の抗原結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子。
【請求項8】
配列番号64~119からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の単離された核酸分子を含むクローニングベクターまたは発現ベクター。
【請求項10】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成した少なくとも1つのDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質をコードするクローニングベクターまたは発現ベクターであって、
少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)としてCDR3αを含む第1の可変ドメインをコードする第1のヌクレオチド配列と、少なくとも1つのCDRとしてCDR3βを含む第2の可変ドメインをコードする第2のヌクレオチド配列とをプロモーターの制御下に含み、
a)第1のヌクレオチド配列が、配列番号64を含むか、配列番号64からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号94を含むか、配列番号94からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
b)第1のヌクレオチド配列が、配列番号65を含むか、配列番号65からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号95を含むか、配列番号95からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
c)第1のヌクレオチド配列が、配列番号66を含むか、配列番号66からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号96を含むか、配列番号96からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
d)第1のヌクレオチド配列が、配列番号67を含むか、配列番号67からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号97を含むか、配列番号97からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
e)第1のヌクレオチド配列が、配列番号68を含むか、配列番号68からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号98を含むか、配列番号98からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
f)第1のヌクレオチド配列が、配列番号69を含むか、配列番号69からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号99を含むか、配列番号99からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
g)第1のヌクレオチド配列が、配列番号70を含むか、配列番号70からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号100を含むか、配列番号100からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
h)第1のヌクレオチド配列が、配列番号71を含むか、配列番号71からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号101を含むか、配列番号101からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
i)第1のヌクレオチド配列が、配列番号72を含むか、配列番号72からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号102を含むか、配列番号102からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
j)第1のヌクレオチド配列が、配列番号73を含むか、配列番号73からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号103を含むか、配列番号103からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
k)第1のヌクレオチド配列が、配列番号90を含むか、配列番号90からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号103を含むか、配列番号103からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
l)第1のヌクレオチド配列が、配列番号74を含むか、配列番号74からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号104を含むか、配列番号104からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
m)第1のヌクレオチド配列が、配列番号75を含むか、配列番号75からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号105を含むか、配列番号105からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
n)第1のヌクレオチド配列が、配列番号91を含むか、配列番号91からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号105を含むか、配列番号105からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
o)第1のヌクレオチド配列が、配列番号76を含むか、配列番号76からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号106を含むか、配列番号106からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
p)第1のヌクレオチド配列が、配列番号77を含むか、配列番号77からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号107を含むか、配列番号107からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
q)第1のヌクレオチド配列が、配列番号77を含むか、配列番号77からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号120を含むか、配列番号120からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
r)第1のヌクレオチド配列が、配列番号78を含むか、配列番号78からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号108を含むか、配列番号108からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
s)第1のヌクレオチド配列が、配列番号79を含むか、配列番号79からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号109を含むか、配列番号109からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
t)第1のヌクレオチド配列が、配列番号79を含むか、配列番号79からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号121を含むか、配列番号121からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
u)第1のヌクレオチド配列が、配列番号80を含むか、配列番号80からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号110を含むか、配列番号110からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
v)第1のヌクレオチド配列が、配列番号81を含むか、配列番号81からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号111を含むか、配列番号111からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
w)第1のヌクレオチド配列が、配列番号82を含むか、配列番号82からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号112を含むか、配列番号112からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
x)第1のヌクレオチド配列が、配列番号83を含むか、配列番号83からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号113を含むか、配列番号113からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
y)第1のヌクレオチド配列が、配列番号84を含むか、配列番号84からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号114を含むか、配列番号114からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
z)第1のヌクレオチド配列が、配列番号93を含むか、配列番号93からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号114を含むか、配列番号114からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
α)第1のヌクレオチド配列が、配列番号85を含むか、配列番号85からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号115を含むか、配列番号115からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
β)第1のヌクレオチド配列が、配列番号86を含むか、配列番号86からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号116を含むか、配列番号116からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
γ)第1のヌクレオチド配列が、配列番号87を含むか、配列番号87からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号117を含むか、配列番号117からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
δ)第1のヌクレオチド配列が、配列番号88を含むか、配列番号88からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号118を含むか、配列番号118からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;または
ε)第1のヌクレオチド配列が、配列番号89を含むか、配列番号89からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号119を含むか、配列番号119からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなり;
第1のヌクレオチド配列および/または第2のヌクレオチド配列が、ヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換から選択される1つ以上の核酸変異を含んでいてもよい、
クローニングベクターまたは発現ベクター。
【請求項11】
組換え宿主細胞であって、請求項1もしくは2に記載のペプチドもしくはそのバリアント、請求項3に記載の抗体もしくはその断片、請求項4に記載のT細胞受容体、請求項5もしくは6に記載の抗原結合タンパク質、請求項7もしくは8に記載の単離された核酸分子、または請求項9もしくは10に記載のベクターを含み、好ましくは、哺乳動物細胞およびヒト細胞から選択され、さらに好ましくは、樹状細胞などの抗原提示細胞、T細胞およびNK細胞から選択される、組換え宿主細胞。
【請求項12】
活性化T細胞を製造するインビトロの方法であって、インビトロにおいて、抗原特異的な様式でT細胞を活性化するのに十分な時間にわたって、適切な抗原提示細胞の表面または抗原提示細胞を模倣する人工構造物の表面に発現された抗原担持ヒトMHCクラスI分子または抗原担持ヒトMHCクラスII分子にT細胞を接触させる工程を含み、前記抗原が、請求項1または2に記載のペプチドまたはそのバリアントである、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法によって製造された、請求項1または2に記載のペプチドもしくはそのバリアントを含むポリペプチドまたは該ペプチドもしくはそのバリアントからなるポリペプチドを提示する細胞を選択的に認識する活性化T細胞。
【請求項14】
医薬組成物、好ましくはワクチンであって、請求項1もしくは2に記載のペプチドもしくはそのバリアント、請求項3に記載の抗体もしくはその断片、請求項4に記載のT細胞受容体、請求項5~8のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、請求項9もしくは10に記載の単離された核酸分子、請求項11もしくは12に記載のベクター、請求項13に記載の組換え宿主細胞、請求項15に記載の活性化T細胞、および標識もしくはラベル化された有効成分からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分と、薬学的に許容される担体とを含み、薬学的に許容される賦形剤および/または安定剤を含んでいてもよい、医薬組成物。
【請求項15】
キットであって、
(a)請求項1もしくは2に記載のペプチドもしくはそのバリアント、請求項3に記載の抗体もしくはその断片、請求項4に記載のT細胞受容体、請求項5もしくは6に記載の抗原結合タンパク質、請求項7もしくは8に記載の単離された核酸分子、請求項9もしくは10に記載のベクター、請求項11に記載の組換え宿主細胞、または請求項13に記載の活性化T細胞を含む医薬組成物を、溶液中または凍結乾燥された形態で含む容器を含み、
(b)凍結乾燥製剤用の希釈剤または再構成用溶液を含む第2の容器を含んでいてもよく、
(c)配列番号1~5からなる群から選択される少なくとも1つ以上のペプチドを含んでいてもよく、
(d)(i)前記溶液の使用または(ii)前記凍結乾燥製剤の再構成および/もしくは使用に関する説明書を含んでいてもよい、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫治療方法において使用するための、ペプチド、抗原結合タンパク質、核酸および細胞に関する。具体的には、本発明は、がんの免疫療法、特に線維層板状肝細胞癌(fibrolamellar hepatocellular carcinoma(FL-HCC))の免疫療法に関する。さらに、本発明は、例えば、抗腫瘍免疫応答を刺激するワクチン組成物の医薬品有効成分として利用することが可能であり、またはエクスビボのT細胞を刺激して患者へ移入することが可能な、腫瘍関連T細胞ペプチドエピトープと組換えT細胞受容体に関する。
【0002】
本発明は、分子生物学分野に関し、より具体的には、分子免疫学分野に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは、世界第2位の死因であり、2018年の死亡のうち、推計で960万人すなわち6人に1人を占めている。世界的に男性の5人に1人、女性の6人に1人が生涯に一度はがんを発症し、男性の8人に1人、女性の11人に1人ががんで死亡する。世界的には、がんの診断後5年以内に生存している人の総数(5年有病率と呼ばれる)は、4380万人であると推計されている。男性では、肺がん、前立腺がん、結腸直腸がん、胃がんおよび肝臓がんが最もよく見られ、女性では、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、子宮頸部がんおよび甲状腺がんが最もよく見られる。
【0004】
がんの負担の増加は、人口の増加および高齢化、ならびに社会発展と経済発展に関連して変化する主ながんの原因といったいくつかの要因によるものである。がんの原因の変化は、急速な経済成長が見られる状況で特に当てはまり、急速な経済成長に伴って、貧困と感染症に関連するがんから、工業先進国でより典型的な生活習慣に関連したがんへの移行が見られる。
【0005】
ヒト線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)は、すべての肝臓がんの約5%未満を占めるまれながんであり、小児と若年層に主に見られ、線維症や肝硬変の徴候を示さないというユニークな疾患である。FL-HCCは、19番染色体に約400kbの欠失を普遍的に有しており、この欠失によって、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリーメンバーB1(DNAJB1)とプロテインキナーゼのcAMP活性化触媒サブユニットα(PRKACA)のインフレームな融合体が形成される。DNAJB1は、熱ショック因子46(HSP40)複合体のサブユニットをコードしている。HSP40は、HSP70のATPaseを活性化し、様々な環境ストレスによって誘導されうる分子シャペロンとして働く。PRKACAは、プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニットをコードしている。この触媒サブユニット(PKA Cα)は、PKA Cβと2つの調節サブユニットとともに不活性な四量体複合体を形成し、PKAホロ酵素として細胞質に存在している。Gタンパク質共役型受容体が活性化されると、PKAの触媒サブユニットがcAMP依存性に活性化されて、様々な種類の細胞基質がリン酸化される。DNAJB1-PRKACA融合タンパク質の結晶構造では、触媒部位と調節サブユニット結合部位とアンカー型タンパク質結合部位が、野生型のPRKACAのものと類似していることが示されている。
【0006】
FL-HCCの腫瘍形成については、DNAJB1-PRKACA融合体が存在していること以外はよく分かっていない。この融合体以外の報告として、有意な反復性変異遺伝子が報告されていたり、広範囲なコピー数の変化が観察されているものの、これらは、既知のがん遺伝子や腫瘍抑制因子との具体的な関連性は認められていない。高齢者の肝臓がんとは異なり、FL-HCCは、アルコール依存症、慢性肝炎感染症、肝吸虫症などの既知の疾患危険因子にも関連していない。
【0007】
FL-HCCの形態のがんは、腫瘍がかなり大きくなるまで症状が見られないことから、診断された時点で進行していることが多い。症状として、漠然とした腹痛、悪心、腹部膨満、倦怠感および体重減少が挙げられる。さらに、症状として、触知可能な肝腫大も見られる。その他の症状としては、黄疸、腹水、劇症肝不全、脳症、女性化乳房(男性のみ)、下肢血栓性静脈炎、再発性深部静脈血栓症、貧血および低血糖症が挙げられる。早期の発症と慢性肝疾患の欠如からFL-HCCが示唆されるが、若年患者において古典的肝細胞癌が発症することもあることから、誤診が起こることが多い。
【0008】
現在のFL-HCCの治療として、侵襲性の外科手術がある。FL-HCCの再発率は非常に高いため、2回以上の肝切除を行う必要がある場合がある。このような再発があることから、医療イメージング(CTまたはMRI)による定期的なフォローアップが必要である。FL-HCCは非常にまれな疾患であることから、標準的な化学療法レジメンは存在しない。放射線療法が過去に実施されているが、放射線療法の使用に関するデータはわずかしかない。FL-HCCの生存率は、がんの転移の有無および転移の程度、すなわち、リンパ節やその他の臓器への広がりに大幅に左右される。遠位への広がり(転移)が発生した場合、生存率の中央値は大きく低下する。また、5年生存率は40~90%の範囲で変動する。
【0009】
DNAJB1-PRKACA融合体は、膵胆管好酸性腫瘍などの様々なその他の消化器系腫瘍疾患でも検出されている。
【0010】
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、CAR-T細胞、養子T細胞移入、ワクチン接種法などの、T細胞を用いた免疫療法は、悪性疾患の治療分野でブレークスルーを達成した。しかし、これらの治療法は、腫瘍抗原の認識とT細胞を介した細胞傷害性によりがん細胞を排除することに依存しており、わずかな種類のがん患者と単一腫瘍にしか有効に利用されていない。抗原特異的な免疫療法の開発を行う主な具体的理由の1つとして、腫瘍細胞の細胞表面に天然に高頻度で腫瘍排他的に提示され、免疫系により認識される適切な標的構造が存在しないことが挙げられる。腫瘍抗原は、HLA非依存性表面分子によって提示されるか、あるいはHLAクラスI分子またはHLAクラスII分子により提示される細胞内タンパク質由来T細胞エピトープによって提示される。HLA分子を介した腫瘍抗原の提示に関して、免疫チェックポイント阻害剤により誘導される抗がんT細胞応答が主な特異性を示すものとして、腫瘍特異的変異に起因するネオエピトープが近年同定され、T細胞免疫療法の最も有力な候補であることが示唆された。これと同時に、免疫チェックポイント阻害剤に対する応答は、腫瘍により生じた高い体細胞変異量と相関することが認められており、ネオエピトープを利用した免疫療法は、個々の腫瘍患者において初めて有望な結果が示された。しかし、患者/腫瘍特異性と体細胞変異の腫瘍内不均一性が存在することや、翻訳され、プロセシングされて、腫瘍細胞上にHLA拘束性ネオエピトープとして提示される体細胞変異数が限られていることから、特に変異量が少ない患者において、腫瘍抗原の幅広い適用が制限されている。
【0011】
また、近年、高い免疫原性を有するネオエピトープの新たな供給源として、クローン性の腫瘍形成ドライバーとして機能することが多い産物へと翻訳される融合転写産物が同定された。このような融合タンパク質由来のネオエピトープに対するT細胞応答は、免疫チェックポイント阻害剤を投与した患者において検出されており、治療反応性との相関性が認められた。
【0012】
DNAJB1-PRKACA融合転写産物は、DnaJホモログサブファミリーBメンバー1遺伝子のエクソン1(DNAJB1)が、cAMP依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニットα遺伝子(PRKACA)に連結されたものである。FL-HCCでは、患者の100%においてDNAJB1-PRKACA融合転写産物が検出可能であり、あらゆる腫瘍細胞でこの融合転写産物の発現が示されたことから、腫瘍の発症機序における腫瘍形成ドライバーであると同定された。
【0013】
ペプチドを用いたFL-HCCに対する免疫療法は、WO2020/257575およびWO2021/138582に開示されている。
【0014】
しかしながら、いずれの方法も、承認されていないことは言うまでもなく、広範囲な臨床応用や有効性を達成することもできていない。その理由として、上述の文献で報告されているペプチドが、患者におけるFL-HCC特異的な免疫応答の誘導にそれほど適していないことが考えられる。
【0015】
したがって、本発明の根底にある目的は、がんの診断用、予防用および治療用の改良された医薬品および方法の開発に使用することができる腫瘍関連T細胞ペプチドエピトープを提供することである。より具体的には、前記がんは、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリーメンバーB1(DNAJB1)とプロテインキナーゼのcAMP活性化触媒サブユニットα(PRKACA)の融合体(DNAJB1-PRKACA)を有するがん、例えば、線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)などである。
【0016】
本発明は、このようなニーズやその他のニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、配列番号1~5に示されるアミノ酸配列および配列番号1~5と少なくとも88%の相同性を有するバリアント配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、またはその薬学的に許容される塩であって、前記バリアント配列が、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と結合し、かつ/または該バリアント配列と交差反応を起こすT細胞を誘導し、前記ペプチドが全長ポリペプチドではない、ペプチドを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)およびその他の多数の消化器系腫瘍疾患の腫瘍形成ドライバーであるDNAJB1-PRKACA融合転写産物に由来するネオアンチゲンとして、本発明のペプチドを同定し、その特性評価を行った。配列番号1のペプチドおよび/または配列番号2のペプチドは、普遍的なMHC型(ヒト:HLAアロタイプクラスII)を有することから、どのような対象でもヒトでも適切に投与することができる。配列番号3~5のペプチドはいずれも適切なMHC型を有する対象への投与に特に適している(ヒト:配列番号3=HLAアロタイプA*68:02;配列番号4=HLAアロタイプC*04:01;C*05:01;配列番号5=HLAアロタイプA*24:02)。
【0019】
本発明者らは、本発明のネオアンチゲンが、効果的な抗がん療法に必要とされる多機能性の細胞傷害性CD8+T細胞とTヘルパー(Th)1 CD4+T細胞を誘導することを実証することができた。また、質量分析によるイムノペプチドーム解析を行うことによって、DNAJB1-PRKACA発現腫瘍細胞において、本発明のネオアンチゲンが自然なプロセシングを受けて提示されることを証明することができた。さらに、本発明者らは、個々の治癒実験の枠内において、繰り返し再発をきたしたFL-HCC患者に、本発明のペプチドを含むワクチンを接種することによって、活性化Th1表現型と高いTCRクローン性を有する多機能性のCD4+T細胞を誘導できることを示すことができた。ワクチンにより誘導されたDNAJB1-PRKACA特異的T細胞応答は、長期間にわたり維持され、ワクチン接種後の患者の再発なしの生存期間を1年を超えて延長することができる。したがって、本発明のペプチドは、FL-HCCなどのがんの治療用および/または予防用の医薬組成物(特にワクチン)の活性薬剤として好適である。
【0020】
本発明によるペプチド、HLAアロタイプ、およびそれぞれの配列番号を以下の表に示す。
【表1】
【0021】
表1に示した配列と配列表に示した配列の間で矛盾が生じた場合には、配列表に記載の情報が優先し、これを適用するものとする。
【0022】
本明細書において、「ペプチド」は、通常、隣接したアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基の間のペプチド結合によって互いに連結された一続きのアミノ酸残基を指す。ペプチドは、7~12アミノ酸長であることが好ましく、8~11アミノ酸長であることがさらに好ましいが、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長、23アミノ酸長、またはこれ以上の長さであってもよい。
【0023】
さらに、「ペプチド」という用語には、通常、隣接したアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基の間のペプチド結合によって互いに連結された一続きのアミノ酸残基の塩が含まれる。この塩は、例えば、塩化物塩や酢酸塩(トリフルオロ酢酸塩)などの、ペプチドの薬学的に許容される塩であることが好ましい。本発明のペプチドはインビボでは塩として存在できないため、本発明のペプチドの塩は、インビボでの本発明のペプチドとは大きく異なる状態であることには留意されたい。
【0024】
さらに、「ペプチド」という用語には、「オリゴペプチド」も含まれる。本明細書において、「オリゴペプチド」は、通常、隣接したアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基の間のペプチド結合によって互いに連結された一続きのアミノ酸残基を指す。正確な1つのエピトープまたは正確な複数のエピトープが保持されている限り、オリゴペプチドの長さは本発明において重要視されない。オリゴペプチドの長さは、通常、約30アミノ酸残基長未満であり、かつ約15アミノ酸長よりも長い。
【0025】
さらに、「ペプチド」という用語には、「ポリペプチド」も含まれる。「ポリペプチド」は、通常、隣接したアミノ酸のα-アミノ基とカルボニル基の間のペプチド結合によって互いに連結された一続きのアミノ酸残基を指す。正確なエピトープが保持されている限り、ポリペプチドの長さは本発明において重要視されない。「ペプチド」や「オリゴペプチド」という用語とは異なり、「ポリペプチド」は、約30個を超えるアミノ酸残基を含む分子を意味する。
【0026】
「主要組織適合遺伝子複合体(MHC)」は、獲得免疫系に必須の細胞表面タンパク質のセットであり、脊椎動物において外来分子を認識して、組織適合性を決定づける。MHC分子の主な機能は、病原体に由来する抗原に結合して、細胞表面に提示し、適切なT細胞により認識させることである。ヒトMHCは、HLA(ヒト白血球抗原)複合体(または単に「HLA」)とも呼ばれる。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、クラスIIIの3つの下位群に分類される。ペプチドとMHCクラスI分子からなる複合体は、適切なT細胞受容体(TCR)を有するCD8+T細胞によって認識されるのに対して、ペプチドとMHCクラスII分子からなる複合体は、適切なTCRを有するCD4+ヘルパーT細胞によって認識される。CD8依存性応答とCD4依存性応答の両方が協働して相乗的に抗ウイルス作用に寄与するため、ウイルス抗原とこれに対応するT細胞受容体の同定とその特性評価は、ワクチンや細胞療法などウイルス免疫療法の開発に重要である。HLA-A遺伝子は、6番染色体の短腕に位置し、HLA-Aの構成要素である大型のα鎖をコードする。HLA-Aのα鎖の多型は、HLAの機能に重要である。この多型によって、人口における遺伝的多様性が促進される。各HLAは、特定の構造のペプチドに対する親和性が異なることから、HLAの多様性が高いほど、細胞表面上に「提示される」抗原の種類が多くなることを意味する。
【0027】
本発明者らによれば、あるアミノ酸配列の「バリアント」は、例えば、1つまたは2つのアミノ酸残基の側鎖が、(例えば、別の天然のアミノ酸残基の側鎖またその他の側鎖で置換されていることによって)改変されているが、配列番号1~5からなるアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同じ様式で、そのペプチドが依然としてMHC分子に結合することができることを意味する。例えば、ペプチドは、HLA-A*02などの適切なMHC分子の結合溝と相互作用して、これに結合する能力が(向上していないとしても)少なくとも維持されており、かつ活性化T細胞のTCRに結合する能力が(向上していないとしても)少なくとも維持されているように組換えてもよい。
【0028】
本明細書に開示された元の(非修飾)ペプチドは、別段の記載がない限り、ペプチド鎖内の様々な部位の1個以上の残基を置換することによって組換えることができ、様々な部位から選択された1個以上の残基を組換えてもよい。この置換は、アミノ酸鎖の末端に位置することが好ましい。このような置換は、保存的であってもよく、例えば、1個のアミノ酸を類似した構造および特性の別のアミノ酸と置換してもよく、例えば、疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸で置換してもよい。さらに保存性を高くするには、同じ大きさと化学的性質のアミノ酸同士または類似した大きさと化学的性質のアミノ酸同士で置換すればよく、例えば、ロイシンをイソロイシンで置換してもよい。天然の相同なタンパク質ファミリーにおける配列のバリエーションに関する研究では、特定のアミノ酸置換は、それ以外のアミノ酸よりも忍容性が高いことが多く、このようなアミノ酸置換では、元のアミノ酸と置換されたアミノ酸の間で、大きさ、電荷、極性および疎水性の類似性との相関性が見られることが多く、このことから、「保存的置換」であると定義される。本明細書において、「保存的置換」の定義として、第1グループ-非極性またはわずかに極性を持つ小型の脂肪族残基(Ala、 Ser、Thr、Pro、GIY);第2グループ-極性負電荷残基およびそれらのアミド(Asp、Asn、Glu、Gln);第3グループ-極性正電荷残基(His、Arg、Lys);第4グループ-大型の非極性脂肪族残基(Met、Leu、lle、Val、Cys);および第5グループ-大型の芳香族残基(Phe、Tyr、Trp)という5つのグループのいずれか1つのグループ内でのアミノ酸の交換として規定される。保存性が低い置換では、1個のアミノ酸が、類似した特性を有するが大きさの多少異なる別のアミノ酸で置換されていることがあり、例えば、イソロイシン残基によるアラニンの置換などが挙げられる。保存性が非常に低い置換では、極性アミノ酸が酸性アミノ酸で置換されていたり、さらには塩基性アミノ酸が酸性アミノ酸で置換されていることがある。しかし、そのような「極端な」置換を、効果がない可能性があるとして排除することはできず、その理由として、化学的作用を完全には予測することはできず、極端な置換を行うことによって、単純な化学原理からは予測できない偶発的な新たな発見に繋がることもあることが挙げられる。また、そのような置換は、一般的なL-アミノ酸以外の構造を含んでいてもよいことは言うまでもない。つまり、本発明の抗原性ペプチドで通常見られるL-アミノ酸をD-アミノ酸で置換してもよく、このようなアミノ酸も本開示に含まれる。さらに、非標準アミノ酸(すなわち、天然のタンパク質を構成する一般的なアミノ酸以外のアミノ酸)を置換に使用して、本発明の免疫原および免疫原性ポリペプチドを製造してもよい。
【0029】
2つ以上の位置が置換されたことによって、後述で定義する抗原性活性と実質的に同等またはより高い抗原性活性を有するペプチドが得られた場合、その置換の組み合わせが、ペプチドの抗原性に対して相加効果または相乗効果をもたらしたのかを調べるために試験を行う。ペプチド内において同時に置換される位置は、最大でも4箇所以下とする。
【0030】
T細胞受容体との相互作用に実質的に寄与しないアミノ酸残基は、実質的にT細胞の反応性に影響を与えず、かつ関連するMHCへの結合を消失させることのない別のアミノ酸で置換することによって組換えることができる。
【0031】
長い(伸長された)ペプチドが好適である場合がある。MHCクラスIエピトープは、通常8~11アミノ酸長であるが、実際のエピトープを含む長いペプチドまたはタンパク質からペプチドプロセシングにより産生させることもできる。実際のエピトープに隣接する残基は、プロセシング過程で、このエピトープを露出するのに必要とされるタンパク質分解切断に実質的な影響を与えない残基であることが好ましい。
【0032】
本発明のペプチドは、最大で4アミノ酸残基伸長することができ、すなわち、1個、2個、3個または4個のアミノ酸を一方または両方の末端に付加することができ、各末端に付加されるアミノ酸の個数は、4:0~0:4の範囲の任意の組み合わせである。本発明による伸長の組み合わせを表2に示す。
【表2】
【0033】
伸長に利用されるアミノ酸は、本明細書に開示されたタンパク質の元の配列のペプチドに由来するものであってもよく、その他のアミノ酸であってもよい。この伸長によって、本発明のペプチドの安定性または溶解性を向上させることができる。
【0034】
したがって、本発明のエピトープは、天然の腫瘍関連エピトープまたは天然の腫瘍特異的エピトープと同じものであってもよく、実質的に同一の抗原性活性を有する限り、参照ペプチドと比べて4個以下の残基が異なるエピトープを含んでいてもよい。
【0035】
別の一実施形態において、本発明のペプチドは、5個以上のアミノ酸が一方または両方の末端に付加されていることによって伸長されており、その全長は最長で30アミノ酸長であることが好ましい。この伸長によって、MHCクラスII分子に結合するペプチドが得られてもよい。MHCクラスIIへの結合は、当技術分野で公知の方法によって試験することができる。
【0036】
したがって、本発明は、MHCクラスIエピトープのペプチドおよびそのバリアントを提供し、このペプチドまたはバリアントの全長は8~100アミノ酸長であり、8~30アミノ酸長であることが好ましく、8~14アミノ酸長であることが最も好ましく、すなわち、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長または14アミノ酸長であることが最も好ましく、このペプチドが、伸長されたクラスII分子結合性ペプチドである場合には、その全長は、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長または23アミノ酸長であってもよい。
【0037】
本発明のペプチドまたはバリアントが、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子またはMHCクラスII分子に結合する能力を有することは言うまでもない。MHC複合体へのペプチドまたはバリアントの結合は、当技術分野で公知の方法で試験してもよい。
【0038】
置換ペプチドに対して本発明のペプチド特異的T細胞を試験する場合、この置換ペプチドにより、バックグラウンドに対して溶解の最大増加値の半分が達成されるペプチド濃度は、約1mM以下であることが好ましく、約1μM以下であることが好ましく、約1nM以下であることがより好ましく、約100pM以下であることがさらに好ましく、約10pM以下であることが最も好ましい。置換ペプチドは、2つ以上の個体由来のT細胞によって認識されることが好ましく、少なくとも2つの個体由来のT細胞によって認識されることが好ましく、3つの個体由来のT細胞によって認識されることがより好ましい。
【0039】
当業者であれば、特定のペプチドのバリアントによって誘導されたT細胞が、元のペプチド自体と交差反応できるかどうかを評価することができる(Appay et al., 2006; Colombetti et al., Eur. J. Immunol. 36: 1805-1814 (2006); Fong et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98: 8809-8814 (2001); Zaremba et al., Cancer Res. 57: 4570-4577 (1997))。
【0040】
次に、このようなT細胞は、本発明の態様で定義されるコグネイトペプチドの天然のアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現する細胞と実質的に交差反応して、これを殺傷することができる。科学文献やデータベースの情報から分かるように(Rammensee et al., Immunogenetics 50: 213-219 (1999); Godkin et al., Int. Immunol 9: 905-911 (1997))、HLA結合性ペプチドの特定の位置には、通常、HLA受容体の結合モチーフに嵌まるコア配列を形成するアンカー残基があり、このアンカー残基は、結合溝を構成するポリペプチド鎖の極性、電気物理学的特性、疎水性および空間特性によって決まる。したがって、当業者であれば、既知のアンカー残基を維持したまま、配列番号1~5に示されるアミノ酸配列を組換えることができ、そのようなバリアントが、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子に結合する能力を保持しているのかどうかを確認することができる。本発明のバリアントは、活性化T細胞のTCRに結合する能力を保持していることから、本発明の態様で定義されるコグネイトペプチドの天然のアミノ酸配列を含むポリペプチドを発現する細胞と実質的に交差反応して、これを殺傷することができる。
【0041】
本発明において、「相同」は、2つのアミノ酸配列(すなわち、ペプチド配列またはポリペプチド配列)の配列間の同一性の程度を指す。前述の「相同性」は、比較対象となる2つの配列に最適な条件下で、この2つの配列をアライメントして比較することによって決定される。そのような配列相同性は、例えば、ClustalWアルゴリズムなどを使用して、アライメントを作成することにより計算することができる。一般に利用可能な配列分析ソフトウェア、より具体的には、Vector NTI、GENETYXまたはその他のツールは、公開データベースにより提供されている。
【0042】
したがって、配列に関して「相同率」または「相同性の割合」という用語が使用される場合、これらの用語は、比較される配列(「比較対象の配列」)と本明細書または請求項に記載の配列(「参照配列」)をアライメントした後に、比較対象の配列と本明細書または請求項に記載の配列を比較することを意味する。次に、以下の式に従って相同率(別名:同一性の割合)を求める。
同一性(%)=100×[1-(C/R)]
式中のCは、参照配列と比較対象の配列の間でのアライメントの長さにおける参照配列と比較対象の配列の間の差の数であり、この差は、
(i)比較対象の配列にアライメントされる対応する塩基またはアミノ酸が存在しない参照配列の各塩基または各アミノ酸、
(ii)参照配列の各ギャップ、および
(iii)比較対象の配列のアライメントされた塩基またはアミノ酸とは異なる参照配列のアライメントされた各塩基または各アミノ酸によって構成され、
(iv)アライメントはアライメントされる配列の1番目から開始する必要がある。
式中のRは、比較対象の配列とのアライメントの長さにおける参照配列の塩基またはアミノ酸の数であり、参照配列に作成されたギャップも、塩基またはアミノ酸として計数される。
【0043】
比較対象の配列と参照配列の間に、前述の方法で計算された同一性の割合が所定の同一性の割合の最小値とほぼ同等以上のアライメントが存在する場合、前述の方法で計算された同一性の割合が所定の同一性の割合未満の別のアライメントが存在していたとしても、比較対象の配列は、参照配列に対して所定の同一性の割合の最小値を有している。
【0044】
2つ以上の配列の同一性/相同性を比較する方法は当技術分野で公知である。例えば、Needleman-Wunschグローバルアライメントアルゴリズムを用いた「needle」プログラム(Needleman and Wunsch, 1970 J. Mol. Biol. 48:443-453)は、配列全長を考慮に入れて、2つの配列の最適なアライメント(ギャップを含む)を探すものであるが、このプログラムを利用してもよい。needleプログラムは、例えば、30個のワールド・ワイド・ウェブサイトで利用可能であり、以下の刊行物にさらに詳しく説明されている(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite (2000) Rice, P. Longden, I. and Bleasby, A. Trends in Genetics 16, (6) pp. 276-277)。この開示によれば、2つのポリペプチド間の同一性の割合は、「ギャップオープン」パラメーター=10.0、「ギャップエクステンション」パラメーター=35~0.5に設定したEMBOSSのneedle(グローバル)プログラムとBlosum62行列を利用して計算される。
【0045】
「少なくとも88%の相同性」を有するバリアント配列とは、その全長において、参照配列の全長と少なくとも約88%またはそれ以上の配列同一性、特に、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%の配列同一性を有する配列を指す。
【0046】
参照配列と「少なくとも約88%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または100%の同一性」を有するアミノ酸配列を有するタンパク質は、参照配列と比較して、欠失、挿入および/または置換などのアミノ酸変異を含んでいてもよい。
【0047】
「主要組織適合遺伝子複合体(MHC)」は、獲得免疫系に必須の細胞表面タンパク質のセットであり、脊椎動物において外来分子を認識して、組織適合性を決定づける。MHC分子の主な機能は、病原体に由来する抗原に結合して、細胞表面に提示し、適切なT細胞により認識させることである。ヒトMHCは、HLA(ヒト白血球抗原)複合体(または単に「HLA」)とも呼ばれる。MHC遺伝子ファミリーは、クラスI、クラスII、クラスIIIの3つの下位群に分類される。ペプチドとMHCクラスI分子からなる複合体は、適切なT細胞受容体(TCR)を有するCD8+T細胞によって認識されるのに対して、ペプチドとMHCクラスII分子からなる複合体は、適切なTCRを有するCD4+ヘルパーT細胞によって認識される。CD8依存性応答とCD4依存性応答の両方が協働して相乗的に抗ウイルス作用に寄与するため、ウイルス抗原とこれに対応するT細胞受容体の同定とその特性評価は、ワクチンや細胞療法などウイルス免疫療法の開発に重要である。HLA-A遺伝子は、6番染色体の短腕に位置し、HLA-Aの構成要素である大型のα鎖をコードする。HLA-Aのα鎖の多型は、HLAの機能に重要である。この多型によって、人口における遺伝的多様性が促進される。各HLAは、特定の構造のペプチドに対する親和性が異なることから、HLAの多様性が高いほど、細胞表面上に「提示される」抗原の種類が多くなることを意味する。
【0048】
「薬学的」または「薬学的に許容される」は、哺乳動物(特にヒト)に適切に投与した場合に、有害な作用、アレルギー作用、その他の不都合な反応を起こさず、医薬有効成分の活性を妨害しない分子種および組成物(または塩)を指す。
【0049】
本発明によれば、「全長ポリペプチド」は、本発明のペプチド(例えばDNAJB1-PRKACA融合転写産物)が由来する元のタンパク質を指す。「全長ポリペプチド」は、本発明のペプチドが由来する「由来遺伝子/由来タンパク質」とも呼ばれる。由来タンパク質または全長ポリペプチドは、正常組織と比べてがんにおいて高度に過剰発現されていてもよく、正常組織と比べてがんにおいて高度に過剰発現されていなくてもよい。本発明に関して、「正常組織」は、本発明のペプチドが由来する遺伝子が高い腫瘍関連性を示す健康な末梢血単核細胞(PBMC)またはその他の正常組織細胞を意味する。さらに、本発明のペプチド自体が腫瘍組織に提示されている。本発明に関して、「腫瘍組織」は、線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)やその他の消化器病系がんなどのがんに罹患した患者から得られた試料を意味する。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明のペプチドまたは核酸は単離されたものである。「単離された」は、ある材料が元々存在していた環境から取り出されたことを意味する(例えば、天然の材料である場合、自然環境から取り出されたことを意味する)。例えば、生きている動物の体内に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、自然界において共存する材料の一部またはその全体から分離されている場合、このポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されている。そのようなポリヌクレオチドはベクターの一部であってもよく、かつ/またはそのようなポリヌクレオチドもしくはポリペプチドは組成物の一部であってもよく、そのようなベクターまたは組成物は、自然環境の一部ではないという点で単離されている。
【0051】
また、本発明により開示されたペプチドおよび/またはヌクレオチドは、「精製された」形態であってもよい。「精製された」とは、絶対純度である必要はなく、相対的な定義であることが意図されており、関連する技術分野の当業者によってその用語が理解されているように、高度に精製された調製物または部分的にしか精製されていない調製物が含まれていてもよい。例えば、cDNAライブラリーから単離された個々のクローンは、電気泳動での均一性を確保するために精製することが慣例である。出発材料または天然材料を少なくとも10倍に精製すること、好ましくは100倍または1,000倍に精製すること、より好ましくは10,000倍または100,000倍に精製することが明確に想定されている。さらに、好ましくは99.999重量%の純度、または少なくとも99.99重量%もしくは99.9重量%の純度、さらに望ましくは99重量%以上の純度を有する請求項に記載のポリペプチドが明確に本発明に包含されている。
【0052】
本発明のペプチドおよび核酸は「濃縮された形態」であってもよい。本明細書において、「濃縮された」は、材料の濃度が、(例えば)その天然の濃度の少なくとも約2倍、約5倍、約10倍、約100倍または約1000倍であること、有利には0.01重量%であること、好ましくは少なくとも約0.1重量%であることを意味する。さらに、約0.5重量%、約1重量%、約5重量%、約10重量%または約20重量%の濃縮調製物が想定されている。本発明を含む配列、コンストラクト、ベクター、クローンおよびその他の材料は、濃縮された形態または単離された形態であると有利な場合がある。
【0053】
本発明の根底にある課題は、本明細書の開示により完全に解決することができる。
【0054】
本発明の特に好ましい一実施形態において、本発明のペプチドは、配列番号1~5に示されるアミノ酸配列からなるか、配列番号1~5に示されるアミノ酸配列から実質的になる。
【0055】
「から実質的になる」は、本発明のペプチドが、配列番号1~5のいずれかに示される配列またはそのバリアントに加えて、MHC分子エピトープのエピトープとして機能するペプチド部分の形成に必ずしも必要とされない追加のアミノ酸配列をN末端および/またはC末端に含むことを意味する。
【0056】
しかし、このような追加の配列は、本発明のペプチドを細胞に効率的に導入するのに重要となる場合がある。本発明の一実施形態において、本発明のペプチドは、例えば、N末端アミノ酸またはC末端アミノ酸を含む融合タンパク質の一部である。別の融合体では、本発明のペプチドは、本明細書で述べるように、抗体またはその機能性部分に融合することができ、より具体的には、抗体の配列に融合されて、この抗体の特異的な標的となることができ、または、例えば、本明細書で述べるように、樹状細胞に特異的な抗体に融合することができる。
【0057】
さらに、本発明のペプチドまたはそのバリアントは、より強力な免疫応答を誘導する目的で、安定性が向上し、かつ/またはMHC分子への結合が向上するように修飾してもよい。そのようなペプチド配列の最適化を行う方法は、当技術分野でよく知られており、例えば、リバースペプチド結合または非ペプチド結合の導入が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態において、本発明のペプチドは、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子に結合する能力を有し、これらのMHC分子に結合すると、CD4 T細胞および/またはCD8 T細胞による認識が可能となる。
【0059】
この手段は、本発明のペプチドの免疫応答誘導能(特にT細胞応答誘導能)が確実に発揮されるという利点がある。
【0060】
本発明の別の一実施形態において、本発明のペプチドまたはそのバリアントのアミノ酸配列は、配列番号1~5のいずれかに示されるアミノ酸の連続した配列を含む。
【0061】
この手段は、本発明のペプチドまたはそのバリアントが、免疫応答の誘導に関与することが予測されるあらゆるアミノ酸を含むことができるという利点がある。これによって、治療有効性がさらに向上する。
【0062】
本発明の別の主題は、本発明のペプチドまたはそのバリアントを特異的に認識する抗体であって、特に、可溶性抗体または膜結合型抗体であり、さらに好ましくは、モノクローナル抗体またはその断片であり、好ましくは、本発明のペプチドまたはそのバリアントがMHC分子に結合した場合に、該ペプチドまたはそのバリアントを特異的に認識する、抗体に関する。
【0063】
本明細書において、「抗体」という用語は、広い意味で使用され、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方を含む。「抗体」という用語には、インタクトな免疫グロブリン分子や「全長」免疫グロブリン分子に加えて、所望の特性のいずれかを示す限り、すなわち、本発明のペプチドまたはそのバリアントを特異的に認識する限り、そのような免疫グロブリン分子の断片(例えば、CDR、Fv断片、Fab断片およびFc断片)またはポリマー、ならびにそのような免疫グロブリン分子のヒト化形態も含まれる。可能であれば、本発明の抗体は、販売業者から購入してもよい。また、本発明の抗体は、公知の方法を用いて製造してもよい。
【0064】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の抗体およびその断片にも同様に適用される。
【0065】
本発明の別の主題は、本発明のペプチドまたはそのバリアントであるHLAリガンドに反応するT細胞受容体またはその断片であって、好ましくは、可溶性のT細胞受容体もしくは膜結合型のT細胞受容体であり、好ましくは、本発明のペプチドまたはそのバリアントがMHC分子に結合した場合に、該ペプチドまたはそのバリアントに反応する、T細胞受容体に関する。
【0066】
本発明の「T細胞受容体」(TCRと略す)は、αポリペプチド鎖(α鎖)とβポリペプチド鎖(β鎖)を含むヘテロ二量体分子を指し、このヘテロ二量体の受容体は、HLA分子によって提示されたペプチド抗原に結合することができる。「T細胞受容体」は、いわゆるγδTCRも含む。
【0067】
本発明のペプチドおよび抗体またはその断片について開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述のT細胞受容体にも同様に適用される。
【0068】
本発明の別の主題は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成した少なくとも1つのDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質であって、
前記抗原結合タンパク質が、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)としてCDR3αを含む第1の可変ドメインを含む第1のポリペプチド鎖と、少なくとも1つのCDRとしてCDR3βを含む第2の可変ドメインを含む第2のポリペプチド鎖とを含み、
a)CDR3αが、配列番号6のアミノ酸配列を含むか、配列番号6のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号36のアミノ酸配列を含むか、配列番号36のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
b)CDR3αが、配列番号7のアミノ酸配列を含むか、配列番号7のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号37のアミノ酸配列を含むか、配列番号37のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
c)CDR3αが、配列番号8のアミノ酸配列を含むか、配列番号8のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号38のアミノ酸配列を含むか、配列番号38のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
d)CDR3αが、配列番号9のアミノ酸配列を含むか、配列番号9のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号39のアミノ酸配列を含むか、配列番号39のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
e)CDR3αが、配列番号10のアミノ酸配列を含むか、配列番号10のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号40のアミノ酸配列を含むか、配列番号40のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
f)CDR3αが、配列番号11のアミノ酸配列を含むか、配列番号11のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号41のアミノ酸配列を含むか、配列番号41のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
g)CDR3αが、配列番号12のアミノ酸配列を含むか、配列番号12のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号42のアミノ酸配列を含むか、配列番号42のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
h)CDR3αが、配列番号13のアミノ酸配列を含むか、配列番号13のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号43のアミノ酸配列を含むか、配列番号43のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
i)CDR3αが、配列番号14のアミノ酸配列を含むか、配列番号14のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号44のアミノ酸配列を含むか、配列番号44のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
j)CDR3αが、配列番号15のアミノ酸配列を含むか、配列番号15のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか、配列番号45のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
k)CDR3αが、配列番号32のアミノ酸配列を含むか、配列番号32のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか、配列番号45のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
l)CDR3αが、配列番号16のアミノ酸配列を含むか、配列番号16のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号46のアミノ酸配列を含むか、配列番号46のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
m)CDR3αが、配列番号17のアミノ酸配列を含むか、配列番号17のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号47のアミノ酸配列を含むか、配列番号47のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
n)CDR3αが、配列番号33のアミノ酸配列を含むか、配列番号33のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号47のアミノ酸配列を含むか、配列番号47のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
o)CDR3αが、配列番号18のアミノ酸配列を含むか、配列番号18のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号48のアミノ酸配列を含むか、配列番号48のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
p)CDR3αが、配列番号19のアミノ酸配列を含むか、配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号49のアミノ酸配列を含むか、配列番号49のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
q)CDR3αが、配列番号19のアミノ酸配列を含むか、配列番号19のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号62のアミノ酸配列を含むか、配列番号62のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
r)CDR3αが、配列番号20のアミノ酸配列を含むか、配列番号20のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号50のアミノ酸配列を含むか、配列番号50のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
s)CDR3αが、配列番号21のアミノ酸配列を含むか、配列番号21のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号51のアミノ酸配列を含むか、配列番号51のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
t)CDR3αが、配列番号21のアミノ酸配列を含むか、配列番号21のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号63のアミノ酸配列を含むか、配列番号63のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
u)CDR3αが、配列番号22のアミノ酸配列を含むか、配列番号22のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号52のアミノ酸配列を含むか、配列番号52のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
v)CDR3αが、配列番号23のアミノ酸配列を含むか、配列番号23のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号53のアミノ酸配列を含むか、配列番号53のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
w)CDR3αが、配列番号24のアミノ酸配列を含むか、配列番号24のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号54のアミノ酸配列を含むか、配列番号54のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
x)CDR3αが、配列番号25のアミノ酸配列を含むか、配列番号25のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号55のアミノ酸配列を含むか、配列番号55のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
y)CDR3αが、配列番号34のアミノ酸配列を含むか、配列番号34のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号55のアミノ酸配列を含むか、配列番号55のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
z)CDR3αが、配列番号26のアミノ酸配列を含むか、配列番号26のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号56のアミノ酸配列を含むか、配列番号56のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
α)CDR3αが、配列番号27のアミノ酸配列を含むか、配列番号27のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号57のアミノ酸配列を含むか、配列番号57のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
β)CDR3αが、配列番号28のアミノ酸配列を含むか、配列番号28のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号58のアミノ酸配列を含むか、配列番号58のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
γ)CDR3αが、配列番号29のアミノ酸配列を含むか、配列番号29のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号59のアミノ酸配列を含むか、配列番号59のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
δ)CDR3αが、配列番号30のアミノ酸配列を含むか、配列番号30のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号60のアミノ酸配列を含むか、配列番号60のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;または
ε)CDR3αが、配列番号31のアミノ酸配列を含むか、配列番号31のアミノ酸配列からなり、CDR3βが、配列番号61のアミノ酸配列を含むか、配列番号61のアミノ酸配列からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなり;
前記CDR配列が、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換から選択される1つ以上のアミノ酸変異を含んでいてもよい、
抗原結合タンパク質に関する。
【0069】
本発明によれば、本明細書で述べる「抗原結合タンパク質」は、少なくとも1つのDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチド、特に、本明細書で提供されるペプチドに結合することができるポリペプチドまたは結合タンパク質を指す。
【0070】
本発明によれば、「CDR」は「相補性決定領域」を意味する。CDRは、B細胞によって産生される免疫グロブリン(抗体)の可変鎖の一部、またはT細胞によって産生されるT細胞受容体の可変鎖の一部であり、特異的な抗原と結合する。抗原受容体の可変ドメインのアミノ酸配列上には、不連続に配置された3つのCDR(CDR1、CDR2およびCDR3)が存在する。T細胞受容体(TCR)のCDRは、2本の異なるタンパク鎖に存在する。ヒトでは、T細胞の95%では、TCRはα鎖とβ鎖で構成されており(それぞれTRAとTRBによってコードされている)、T細胞の5%では、TCRはγ鎖とδ鎖(γ/δ)で構成されている(それぞれTRGとTRDによってコードされている)。本発明の抗原結合タンパク質に関して、CDR3αおよびCDR3βは、本発明の抗原結合タンパク質に相当する天然のTCRのα鎖およびβ鎖の相補性決定領域3の一部を構成するタンパク鎖を示す。
【0071】
本発明者らは、インビトロまたはインビボで誘導されたDNAJB1-PRKACA特異的T細胞から、本発明のペプチド、特に、配列番号1または5に示されるアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に結合することができる複数のTCRを同定し、これらのシーケンシングに成功を収めた。a)~ε)に示す特徴は、配列番号1または5のアミノ酸配列を含むDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合することができる組換え抗原結合タンパク質(例えば組換えTCRなど)のCDR3α可変鎖とCDR3β可変鎖のアミノ酸配列の組み合わせを示している。
【0072】
本発明者らにより提供される抗原結合タンパク質を以下の表3に挙げる。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0073】
表3に示した配列と配列表に示した配列の間で矛盾が生じた場合には、配列表に記載の情報が優先し、これを適用するものとする。
【0074】
抗原結合タンパク質の一実施形態において、前記CDR配列は、アミノ酸の挿入、欠失および/または置換から選択される1つ以上のアミノ酸変異を含んでいてもよいと解釈される。そのような変異は、DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドへの特異的な結合に影響を与えないか、有意な影響を与えないことが好ましい。さらに好ましくは、そのような変異は、保存的変異であってもよく、例えば、1個のアミノ酸が類似した構造および特性の別のアミノ酸で置換されていてもよく、例えば、疎水性アミノ酸が別の疎水性アミノ酸で置換されていてもよい。本発明のペプチドの修飾および置換に関する前述の開示を参照されたく、これらの開示は、本発明の抗原結合タンパク質にも準用される。
【0075】
本明細書の文脈において、「1つ以上」は、1個、2個、3個、4個、5個などのアミノ酸変異を意味する。
【0076】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の抗原結合タンパク質にも同様に適用される。
【0077】
本発明の一実施形態において、抗原結合タンパク質は、単鎖TCR(scTCR)または二重特異性単鎖抗体であり、かつ/または第1のポリペプチドは、α鎖の定常ドメインもしくはγ鎖の定常ドメインをさらに含み、第2のポリペプチドは、β鎖の定常ドメインもしくはδ鎖の定常ドメインをさらに含み、かつ/または第1の可変ドメインは、TCRα鎖もしくはTCRγ鎖の一部であり、かつ/または第2の可変ドメインは、TCRβ鎖もしくはTCRδ鎖の一部であり、かつ/または第1の可変ドメインはTCRαの可変ドメインであり、第2の可変ドメインはTCRβの可変ドメインであり、かつ/または抗原結合タンパク質は、安定性、細胞表面発現および/もしくはペアリングを増加させる少なくとも1つのアミノ酸変異を含む。
【0078】
本明細書において、「単鎖TCR(scTCR)」は、VαとVβ、またはVδとVγなどのTCRの可変ドメインが、1本のポリペプチド上に配置されたタンパク質を指す。通常、これらの可変ドメインはリンカーによって分離されており、このリンカーは、通常5~20個のアミノ酸、例えば、5~15個のアミノ酸を含む。
【0079】
「二重特異性抗体」は、例えば、以下に限定されないが、ダイアボディ、Cross-Over-Dual-Variable-Domain(CODV)、および/または二重可変ドメイン(DVD)タンパク質などを含むフォーマットを指す。このような様々な二重特異性抗体の概要とその製造方法は、例えば、Brinkmann U. and Kontermann E.E. MAbs. 2017 Feb-Mar; 9(2): 182-212に記載されている。特に、DVDフォーマットは、例えば、以下の科学文献に開示されている(Wu C et al. Nat Biotechnol 2007; 25:1290-7; PMID:17934452; Wu C. et al. MAbs 2009; 1:339-47; Lacy SE et al. MAbs 2015; 7:605-19; PMID:25764208; Craig RB et al. PLoS One 2012; 7:e46778; 25 PMID:23056448; Piccione EC et al. MAbs 2015)。CODVは、例えば、Onuoha SC et al. Arthritis Rheumatol. 2015 Oct; 67(10):2661-72や、例えば、WO2012/135345およびWO2016/116626に開示されている。二重特異性ダイアボディは、例えば、Holliger P et al. Protein Eng 1996; 9:299-305; PMID:8736497; Atwell JL et al. Mol Immunol 1996; 33:1301-12; PMID:9171890; Kontermann RE, Nat Biotechnol 1997; 15:629-31; 30 PMID:9219263; Kontermann RE et al. Immunotechnology 1997; 3:137-44; PMID:9237098; Cochlovius B et al. Cancer Res 2000; 60:4336-41; PMID:10969772;およびDeNardo DG et al. Cancer Biother Radiopharm 2001; 16:525-35; PMID:11789029に記載されている。
【0080】
抗原結合タンパク質の定常ドメイン配列は、例えば、発現、ペアリングおよび安定性を向上させうる異種配列(より好適にはマウス配列)を導入することによって、組換えてもよい。従来技術(例えば、WO2018/104407、PCT/EP2018/069151、WO2011/044186、WO2014/018863、EP2432802B1およびWO2020157211A)から公知の変異を導入してもよく、例えば、可変ドメインの望ましくないアミノ酸の置換、および/または定常ドメイン間のジスルフィド架橋の導入ならびに対を形成していないシステインの除去などを行ってもよい。
【0081】
本発明の一実施形態において、抗原結合タンパク質は、
(i)1つ以上のさらなる抗原結合部位;
(ii)細胞質内シグナル伝達領域を含んでいてもよい、前記第1のポリペプチド鎖および/もしくは前記第2のポリペプチド鎖内の膜貫通領域;
(iii)診断剤;
(iv)治療剤;ならびに
(v)PK調節部分
のうちの1つ以上をさらに含む。
【0082】
「膜貫通領域」は、例えば、TCRαまたはTCRβの膜貫通ドメインであってもよい。
【0083】
「細胞質内シグナル伝達領域」は、例えば、TCRαまたはTCRβの細胞内ドメインである。
【0084】
本明細書において、「診断剤」は、例えば、蛍光分子、放射性分子、(直接的または間接的に)シグナルを発生する当技術分野で公知のその他のラベルなどの、検出可能な分子または検出可能な物質を指す。
【0085】
本明細書において、「治療剤」は、治療効果を有する薬剤を指す。一実施形態において、そのような治療剤は、細胞傷害剤もしくは細胞増殖抑制剤、その他の抗がん剤、および/またはがんと戦うための生体の能力を増強する免疫応答を誘導する薬剤であってもよい。
【0086】
本明細書において、「PK調節部分」は、本明細書に記載の抗原結合タンパク質の薬物動態(PK)を調節する部分を指す。したがって、PK調節部分は、特に、本明細書に開示された抗原結合タンパク質のインビボでの半減期および分布を調節する。一実施形態において、PK調節部分は、抗原結合タンパク質の半減期を延長させる。PK調節部分の例として、PEG(Dozier et al., 10 (2015) Int J Mol Sci. Oct 28; 16(10):25831-64およびJevsevar et al., (2010) Biotechnol J.Jan; 5(1):113-28)、PASylation(Schlapschy et al., (2013) Protein Eng Des Sel. Aug;26(8):489-501)、アルブミン(Dennis et al., (2002) J Biol Chem. Sep 20; 277(38):35035-43)、抗体のFc部分および/または非構造ポリペプチド(Schellenberger et al., (2009) Nat Biotechnol. Dec; 27(12):1186-90)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明の一実施形態において、抗原結合タンパク質は、治療用の抗原結合タンパク質および/または診断用の抗原結合タンパク質である。
【0088】
本発明の別の主題は、本発明のペプチドもしくはそのバリアント、本発明の抗体もしくはその断片、本発明のT細胞受容体、または本発明の抗原結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子である。
【0089】
特定のペプチド、オリゴペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸は、天然の核酸であってもよく、合成的に構築された核酸であってもよい。核酸(例えばポリヌクレオチド)は、例えば、DNA、cDNA、PNA、RNAまたはこれらの組み合わせであってもよく、一本鎖および/または二本鎖であってもよく、天然のポリヌクレオチドまたは安定化された形態のポリヌクレオチドであってもよく、例えば、ホスホロチオエート骨格を有するポリヌクレオチドであってもよく、本発明のペプチドがコードされている限り、イントロンを含んでいてもよく、イントロンを含んでいなくてもよい。当然のことながら、ポリヌクレオチドは、天然のペプチド結合によって連結された天然のアミノ酸残基を含むペプチドのみをコードすることができる。本発明のさらに別の態様は、本発明のペプチドを発現することができる発現ベクターを提供する。
【0090】
本明細書において、ペプチドなどを「コードする」核酸分子またはヌクレオチド配列とは、生物系に適合する人工(人造)の開始コドンおよび終止コドンと、例えば、樹状細胞やTCRの産生に有用な別の細胞系によって発現される配列とを含むペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。コード配列は、「プロモーター」などの、転写を開始するためにRNAポリメラーゼの結合に関与する核酸領域(例えばDNA)によって制御される。したがって、本発明の単離された核酸分子は、プロモーターやエンハンサーなどの調節因子を含んでいてもよい。
【0091】
「単離された」は、上記で定義された意味を有する。
【0092】
本発明の一実施形態において、本発明の単離された核酸分子は、配列番号64~119からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む。
【0093】
さらに別の本発明の主題は、本発明の単離された核酸分子を含むクローニングベクターまたは発現ベクターに関する。
【0094】
本発明のさらに別の主題は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子と複合体を形成した少なくとも1つのDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合する抗原結合タンパク質をコードするクローニングベクターまたは発現ベクターであって、
少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)としてCDR3αを含む第1の可変ドメインをコードする第1のヌクレオチド配列と、少なくとも1つのCDRとしてCDR3βを含む第2の可変ドメインをコードする第2のヌクレオチド配列とをプロモーターの制御下に含み、
a)第1のヌクレオチド配列が、配列番号64を含むか、配列番号64からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号94を含むか、配列番号94からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
b)第1のヌクレオチド配列が、配列番号65を含むか、配列番号65からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号95を含むか、配列番号95からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
c)第1のヌクレオチド配列が、配列番号66を含むか、配列番号66からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号96を含むか、配列番号96からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
d)第1のヌクレオチド配列が、配列番号67を含むか、配列番号67からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号97を含むか、配列番号97からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
e)第1のヌクレオチド配列が、配列番号68を含むか、配列番号68からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号98を含むか、配列番号98からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
f)第1のヌクレオチド配列が、配列番号69を含むか、配列番号69からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号99を含むか、配列番号99からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
g)第1のヌクレオチド配列が、配列番号70を含むか、配列番号70からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号100を含むか、配列番号100からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
h)第1のヌクレオチド配列が、配列番号71を含むか、配列番号71からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号101を含むか、配列番号101からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
i)第1のヌクレオチド配列が、配列番号72を含むか、配列番号72からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号102を含むか、配列番号102からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
j)第1のヌクレオチド配列が、配列番号73を含むか、配列番号73からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号103を含むか、配列番号103からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
k)第1のヌクレオチド配列が、配列番号90を含むか、配列番号90からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号103を含むか、配列番号103からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
l)第1のヌクレオチド配列が、配列番号74を含むか、配列番号74からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号104を含むか、配列番号104からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
m)第1のヌクレオチド配列が、配列番号75を含むか、配列番号75からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号105を含むか、配列番号105からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
n)第1のヌクレオチド配列が、配列番号91を含むか、配列番号91からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号105を含むか、配列番号105からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
o)第1のヌクレオチド配列が、配列番号76を含むか、配列番号76からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号106を含むか、配列番号106からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号1を含むか、配列番号1からなるか;
p)第1のヌクレオチド配列が、配列番号77を含むか、配列番号77からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号107を含むか、配列番号107からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
q)第1のヌクレオチド配列が、配列番号77を含むか、配列番号77からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号120を含むか、配列番号120からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
r)第1のヌクレオチド配列が、配列番号78を含むか、配列番号78からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号108を含むか、配列番号108からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
s)第1のヌクレオチド配列が、配列番号79を含むか、配列番号79からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号109を含むか、配列番号109からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
t)第1のヌクレオチド配列が、配列番号79を含むか、配列番号79からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号121を含むか、配列番号121からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
u)第1のヌクレオチド配列が、配列番号80を含むか、配列番号80からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号110を含むか、配列番号110からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
v)第1のヌクレオチド配列が、配列番号81を含むか、配列番号81からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号111を含むか、配列番号111からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
w)第1のヌクレオチド配列が、配列番号82を含むか、配列番号82からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号112を含むか、配列番号112からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
x)第1のヌクレオチド配列が、配列番号83を含むか、配列番号83からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号113を含むか、配列番号113からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
y)第1のヌクレオチド配列が、配列番号84を含むか、配列番号84からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号114を含むか、配列番号114からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
z)第1のヌクレオチド配列が、配列番号93を含むか、配列番号93からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号114を含むか、配列番号114からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
α)第1のヌクレオチド配列が、配列番号85を含むか、配列番号85からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号115を含むか、配列番号115からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
β)第1のヌクレオチド配列が、配列番号86を含むか、配列番号86からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号116を含むか、配列番号116からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
γ)第1のヌクレオチド配列が、配列番号87を含むか、配列番号87からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号117を含むか、配列番号117からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;
δ)第1のヌクレオチド配列が、配列番号88を含むか、配列番号88からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号118を含むか、配列番号118からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなるか;または
ε)第1のヌクレオチド配列が、配列番号89を含むか、配列番号89からなり、第2のヌクレオチド配列が、配列番号119を含むか、配列番号119からなり、前記DNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドが、配列番号5を含むか、配列番号5からなり;
前記第1のヌクレオチド配列および/または前記第2のヌクレオチド配列が、ヌクレオチドの挿入、欠失および/または置換から選択される1つ以上の核酸変異を含んでいてもよい、
クローニングベクターまたは発現ベクターに関する。
【0095】
本発明のクローニングベクターまたは発現ベクターは、本発明のペプチド、特に、配列番号1または5に示されるアミノ酸配列を含むペプチドに特異的に結合することができる本発明の特定の抗原結合タンパク質を製造するための基本的なツールとして有用である。その他の特徴として、a)~ε)に示した特徴は、配列番号1または5のアミノ酸配列を含むDNAJB1-PRKACA抗原性ペプチドに特異的に結合できるように組換えられる抗原結合タンパク質(例えば組換えTCRなど)のCDR3α可変鎖とCDR3β可変鎖をコードするヌクレオチド配列の組み合わせを示している。
【0096】
本明細書の文脈において、「1つ以上」は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個などの核酸変異を意味する。
【0097】
本発明者らによって提供されるクローニングベクターまたは発現ベクターは、上記の表3に挙げている。
【0098】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の核酸分子およびクローニングベクターまたは発現ベクターにも同様に適用される。
【0099】
本発明の別の主題は、組換え宿主細胞であって、本発明のペプチド、本発明の抗体もしくはその断片、本発明のT細胞受容体、本発明の抗原結合タンパク質、または本発明の単離された核酸分子もしくはベクターを含み、好ましくは、哺乳動物またはヒト細胞から選択され、さらに好ましくは、樹状細胞などの抗原提示細胞、T細胞またはNK細胞から選択される、組換え宿主細胞に関する。
【0100】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の宿主細胞にも同様に適用される。
【0101】
本発明のさらに別の主題は、活性化T細胞を製造するインビトロの方法であって、インビトロにおいて、抗原特異的な様式でT細胞を活性化するのに十分な時間にわたって、適切な抗原提示細胞の表面または抗原提示細胞を模倣する人工構造物の表面に発現された抗原担持ヒトMHCクラスI分子または抗原担持ヒトMHCクラスII分子にT細胞を接触させる工程を含み、前記抗原が、本発明のペプチドである、方法に関する。
【0102】
本発明のペプチドを標的とする活性化T細胞は、治療方法に有用である。したがって、本発明のさらなる一態様は、本発明の方法により得られる活性化T細胞を提供する。
【0103】
前記方法により製造される活性化T細胞は、配列番号1~5のアミノ酸配列を含むポリペプチドを異常発現する細胞を選択的に認識する。
【0104】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の方法にも同様に適用される。
【0105】
本発明の別の主題は、医薬組成物であって、本発明のペプチドまたはそのバリアント、本発明の抗体またはその断片、本発明のT細胞受容体、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の単離された核酸分子、本発明のベクター、本発明の組換え宿主細胞、本発明の活性化T細胞、および標識またはラベル化された有効成分からなる群から選択される少なくとも1種の有効成分と、薬学的に許容される担体とを含み、薬学的に許容される賦形剤および/または安定剤を含んでいてもよい、医薬組成物に関する。
【0106】
「医薬組成物」は、医療現場でのヒトへの投与に適した組成物である。医薬組成物は、滅菌されていることが好ましく、GMPガイドラインに従って製造することが好ましい。
【0107】
本発明の医薬組成物は、遊離形態または薬学的に許容される塩の形態の本発明のペプチドを含む(さらに上記も参照されたい)。本明細書において、「薬学的に許容される塩」は、本開示のペプチドと酸または塩基との塩を形成することにより改変された本開示のペプチドの誘導体を指す。例えば、酸との塩は、遊離塩基としての本発明のペプチド(中性型の本発明のペプチドは、通常、中性の-NH2基を有する)と適切な酸とを反応させることによって調製される。酸との塩の調製に適した酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などの有機酸;および例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸が挙げられる。一方、ペプチド上に存在しうる酸部分と塩基との塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミンなどの薬学的に許容される塩基を用いて調製される。
【0108】
本発明の医薬組成物は、ワクチンなどの免疫療法剤であることが好ましい。本発明の医薬組成物は、皮内経路、筋肉内経路、皮下経路、腹腔内経路または静脈内経路を介して、患者の病変臓器または全身に直接投与してもよく、あるいは患者から得られた細胞またはヒト細胞株にエクスビボで添加した後に患者に投与してもよく、あるいは患者から得られた免疫細胞亜集団を選択するためにインビトロで使用して、選択された免疫細胞亜集団を患者に再投与してもよい。本発明の核酸をインビトロの細胞に投与する場合、インターロイキン2などの免疫刺激性サイトカインを共発現するように細胞にトランスフェクトすると有用である場合がある。
【0109】
本発明のペプチドは実質的に純粋なものであってもよい。本発明のペプチドは、TLR1/2リガンドXS15などの免疫刺激性アジュバントと組み合わせてもよい。予備的研究では、油中水型エマルションの形態の変異型または非変異型のウイルスペプチドにXS15を添加して、健常ドナーおよび個々の腫瘍患者に皮下注射すると、インビボにおいて強力なCD8+T細胞応答および強力なTh1CD4+T細胞応答を誘導できることが示されている。また、本発明のペプチドは、免疫刺激性サイトカインと組み合わせて使用してもよく、あるいは適切な送達システム(例えばリポソーム)を用いて投与してもよい。また、本発明のペプチドは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)やマンナンなどの適切な担体に結合させることもできる(WO95/18145およびLongenecker et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 690:276-291 (1993)を参照されたい)。さらに、本発明のペプチドは、タグを付加してもよく、融合タンパク質であってもよく、ハイブリッド分子であってもよい。本発明に記載の配列を有するペプチドは、CD4 T細胞またはCD8 T細胞を刺激することが期待される。しかし、CD8 T細胞の刺激は、CD4ヘルパーT細胞による補助の存在下でさらに効率的となる。したがって、CD8 T細胞を刺激するMHCクラスIエピトープに対しては、融合パートナーまたはハイブリッド分子の一部により、CD4+T細胞を刺激するエピトープが好適に提供される。CD4 T細胞またはCD8 T細胞を刺激するエピトープは当技術分野でよく知られており、本発明で同定されたものが挙げられる。一態様において、本発明のワクチンは、配列番号1~5に示されるアミノ酸配列を有する少なくとも1つのペプチドと、少なくとも1つの別のペプチドとを含み、この別のペプチドは、2~50個のペプチドであることが好ましく、2~25個のペプチドであることがより好ましく、2~20個のペプチドであることがより好ましく、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個または18個のペプチドであることが最も好ましい。これらのペプチドは、1つ以上の特異的な腫瘍関連抗原(TAA)に由来し、MHCクラスI分子に結合してもよい。
【0110】
本発明の医薬組成物の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、本発明による少なくとも1種のペプチドを含み、本発明による少なくとも2種のペプチドを含むことが好ましく、本発明による少なくとも3種のペプチドを含むことがさらに好ましく、本発明による少なくとも4種のペプチドを含むことがさらに好ましく、本発明による5種のペプチドを含むことがさらに好ましい。「ユニバーサルな」医薬組成物またはワクチンには、配列番号1および/もしくは配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのバリアントが含まれていることが好ましく、その理由として、このようなペプチドは、個体のMHCまたはHLAのアロタイプとは無関係に個体に投与できることが挙げられる。MHCまたはHLAのアロタイプがA*68:02(配列番号3)、C*04:01;C*05:01(配列番号4)またはA*24:02(配列番号5)の個体に投与される医薬組成物には、配列番号3および/もしくは配列番号4および/もしくは配列番号5のアミノ酸配列を含むペプチドまたはそのバリアントが含まれていることが好ましい。
【0111】
本発明の医薬組成物は、本発明のペプチド、本発明の抗体もしくはその断片、本発明のT細胞受容体、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の核酸分子もしくは発現ベクター、本発明の組換え宿主細胞、または本発明の活性化Tリンパ球を、唯一の有効成分として含んでいてもよい。しかし、別の一態様では、本発明の医薬組成物は、低分子(例えば、イブルチニブおよび/またはideasilibおよび/またはベネクレクスタ)などの追加の有効成分を含んでいてもよい。
【0112】
本発明の別の主題は、医薬品において使用するための、本発明のペプチドもしくはそのバリアント、本発明の抗体もしくはその断片、本発明のT細胞受容体、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の単離された核酸分子、本発明のベクター、本発明の組換え宿主細胞、または本発明の活性化T細胞に関する。前記使用は、がんの診断および/または予防および/または治療における使用であることが好ましく、またはがんに対する医薬品の製造における使用であることが好ましく、前記がんは、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリーメンバーB1(DNAJB1)とプロテインキナーゼのcAMP活性化触媒サブユニットα(PRKACA)の融合体(DNAJB1-PRKACA)を有するがんであることがさらに好ましく、線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)、または配列番号1~5を含むペプチドが得られるタンパク質を過剰発現するその他のがんであることが特に好ましい。
【0113】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の使用にも同様に適用される。
【0114】
さらに別の本発明の主題は、キットであって、
(a)本発明のペプチドもしくはそのバリアント、本発明の抗体もしくはその断片、本発明のT細胞受容体、本発明の抗原結合タンパク質、本発明の単離された核酸分子、本発明のベクター、本発明の組換え宿主細胞、または本発明の活性化T細胞を含む医薬組成物を、溶液中または凍結乾燥された形態で含む容器を含み、
(b)凍結乾燥製剤用の希釈剤または再構成用溶液を含む第2の容器を含んでいてもよく、
(c)配列番号1~5からなる群から選択される少なくとも1つ以上のペプチドを含んでいてもよく、
(d)(i)前記溶液の使用または(ii)前記凍結乾燥製剤の再構成および/もしくは使用に関する説明書を含んでいてもよい、
キットに関する。
【0115】
本発明のキットは、(iii)バッファー、(iv)希釈剤、(v)フィルター、(vi)針、および(v)注射器のうちの1つ以上をさらに含んでいてもよい。前記容器は、ボトル、バイアル、注射器または試験チューブであることが好ましく、多目的容器であってもよい。前記医薬組成物は凍結乾燥することが好ましい。
【0116】
本発明のキットは、適切な容器に入れられた本発明の凍結乾燥製剤と、その再構成および/または使用に関する説明書とを含むことが好ましい。適切な容器として、例えば、ボトル、バイアル(例えばデュアルチャンバーバイアル)、注射器(例えばデュアルチャンバーシリンジ)、および試験チューブが挙げられる。容器は、ガラスやプラスチックなどの様々な材料で形成されていてもよい。本発明のキットおよび/またはその容器は、本発明の凍結乾燥製剤の再構成および/または使用に関する説明が記載された説明書を含むことが好ましく、この説明書は、この容器に貼付されていてもよく、この容器に付属されていてもよい。例えば、容器に貼付されたラベルに、凍結乾燥製剤を再構成して前述のペプチド濃度に調整することが記載されていてもよい。このラベルには、凍結乾燥製剤が皮下投与に有用であること、または凍結乾燥製剤が皮下投与用であることがさらに記載されていてもよい。
【0117】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述のキットにも同様に適用される。
【0118】
本発明の別の主題は、パーソナライズされた抗がんワクチンを製造する方法であって、
a)個々の患者由来の腫瘍試料により提示された腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を同定する工程;
b)腫瘍における免疫原性および/または過剰提示を正常組織と比較することにより事前にスクリーニングされたペプチドのウェアハウスと、工程a)において同定されたペプチドを比較する工程;
c)前記患者において同定されたTUMAPに一致する少なくとも1つのペプチドを前記ウェアハウスから選択する工程;ならびに
d)工程c)に基づいてパーソナライズされたワクチンを製剤化する工程
を含み、
前記データウェアハウスが、本発明のペプチドまたはそのバリアントを少なくとも1つ含む、方法に関する。
【0119】
「パーソナライズされた医薬組成物」は、1人の患者の治療のみに使用されるその患者に特化したテーラーメード治療を意味し、積極的にパーソナライズされたがんワクチン、および自家患者組織を使用した養子細胞療法が含まれる。
【0120】
本明細書において、「ウェアハウス」は、特定の種類の腫瘍における免疫原性および/または過剰提示について事前にスクリーニングされた本発明のペプチドを指し、特定の種類の腫瘍は、具体的には、DnaJ熱ショックタンパク質ファミリーメンバーB1(DNAJB1)とプロテインキナーゼのcAMP活性化触媒サブユニットα(PRKACA)の融合体(DNAJB1-PRKACA)を有するがんである。このウェアハウス(例えばデータベースの形態)は、様々なHLA-Aアレル、HLA-BアレルおよびHLA-Cアレルを有する複数の患者のがん細胞において高度に過剰発現された腫瘍関連ペプチドから構成されている。このウェアハウスには、MHCクラスIペプチドとMHCクラスIIペプチドが含まれている。より具体的には、このウェアハウスには、MHCクラスIのA*24マーカーペプチド、B*07マーカーペプチドおよびA*02マーカーペプチドが含まれている。これらのペプチドは、腫瘍関連ペプチド(TUMAP)によって誘導されるT細胞免疫の程度を定量的に比較することができることから、ワクチンの抗腫瘍応答誘導能に関する重要な結論を引き出すことが可能である。
【0121】
例示的な一実施形態において、本発明のワクチンに含まれる本発明のペプチドの同定は、
(a)前述の方法によって、個々の患者由来の腫瘍試料により提示された腫瘍関連ペプチド(TUMAP)を同定する工程;
(b)腫瘍における免疫原性および/または過剰提示を、対応する正常組織と比較することにより事前にスクリーニングされたペプチドのウェアハウスと、工程(a)で同定されたペプチドを比較する工程;ならびに
(c)前記患者において同定された腫瘍関連ペプチドと相関する少なくとも1つのペプチドを前記ウェアハウスから選択する工程
によって行われ、
(d)工程(a)において新たに同定された少なくとも1つのペプチドを選択して、その免疫原性を確認する工程をさらに行ってもよい。
【0122】
パーソナライズされたペプチドに基づく医薬組成物(例えばワクチン)用のペプチドが選択されたら、この医薬組成物を製造する。本発明の組成物またはワクチンは、20~40%のDMSO、好ましくは約30~35%のDMSO(例えば約33%のDMSO)に個々のペプチドを溶解した液体製剤であることが好ましい。
【0123】
本発明のペプチドについて開示した特徴、特性、利点および実施形態は、前述の方法にも同様に適用される。
【0124】
前述の特徴および後述する特徴は、各実施形態に示した組み合わせでしか使用できないわけではなく、本発明の範囲から逸脱することなくその他の組み合わせや単独でも使用することができる。
【0125】
以下の実施形態を参照することにより本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施形態では、本発明のさらなる特徴、特性および利点について述べている。また、以下の実施形態は例示のみを目的としたものであり、本発明の趣旨または範囲を限定するものではない。特定の実施形態で述べた特徴は、本発明の特徴であり、特定の実施形態のみならず、本発明のあらゆる実施形態において単独で適用することも可能な全般的な特徴であると見なしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
以下の実施例および図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に記載および説明するが、本発明はこれらの実施例および図面に限定されない。
図1】DNAJB1-PRKACA融合遺伝子に由来するHLAクラスIリガンドおよびHLAクラスIIリガンドの予測と、DNAJB1-PRKACAに由来するCD4+T細胞エピトープの特性評価を示す。(a)DNAJB1のエクソン1とPRKACAのエクソン2~10を含むDNAJB1-PRKACA融合転写産物の概要を示した模式図である。(b)DNAJB1-PRKACAタンパク質の融合領域由来のHLAクラスIIリガンドの予測を示す。灰色の線は、in silico予測法で同定されたリガンドを示し、黒色の線は、質量分析法(MS)で同定されたリガンドを示す。実線は、9個のアミノ酸結合コアを示し、破線は、最長15merのHLAリガンドの伸長を示す。アレルの数は、各コア配列に結合すると予測されたHLAアレルの数を示す。(c)DNAJB1-PRKACAタンパク質の融合領域のHLAクラスIリガンドの予測を示す。灰色の線は、in silico予測法で同定されたリガンドを示し、黒色の枠で囲まれた線は、リフォールディングされたHLAを示し、黒色の線は、質量分析法により同定されたリガンドを示す。(d)グラフに示した細胞表面マーカーについて、成熟させた単球由来樹状細胞(moDC)を、分化誘導後のmoDCおよびアイソタイプコントロールと比較したフローサイトメトリーによる特性評価を示す。(e)ペプチドを担持した成熟moDCから実験により溶出したペプチドKREIFDRYGEEVKEFLAKAKED(PII-1)(配列番号1)(図中「同定」)と、この合成ペプチドを直接測定したもの(図中「検証」、X軸で反転)の断片スペクトル(X軸上のm/z)の比較を示す。いずれのペプチドも、4番目、12番目および19番目のアミノ酸を同位体で標識した。(f)PII-1担持成熟moDCでde novoプライミングした後の健常ボランティア由来のPII-1特異的CD4+T細胞において、グラフに示したサイトカインと細胞表面マーカーをフローサイトメトリーにより評価した機能性評価の代表的な例を示す(上パネル)。陰性コントロールとして、PII-1でプライミングした後に陰性ペプチドで刺激したCD4+T細胞を使用した(下パネル)。
図2】DNAJB1-PRKACA由来CD8+T細胞エピトープの特性評価と、シングルセルTCRシーケンシングを示す。(a)HLA-A*24-PA*24モノマーを担持したインビトロ人工抗原提示細胞(aAPC)でプライミングすることにより得られた健常ボランティア由来のPA*24特異的CD8+T細胞のフローサイトメトリーによる特性評価の代表的な例を示す。(b)健常ボランティア(n=5)において、HLAを一致させた陰性ペプチドでプライミングしたCD8+T細胞と比較したPA*24特異的CD8+T細胞の頻度を示す。(c)PA*24で刺激したPA*24特異的CD8+T細胞(上パネル)またはHLAを一致させた陰性ペプチドで刺激したPA*24特異的CD8+T細胞(下パネル)のIFNγとTNFの産生およびCD107aの発現の代表的な例を示す。(d)様々なエフェクター細胞:標的細胞比において、陰性ペプチドを担持した自家CD8-標的細胞(白色の塗りつぶし、実線(上パネル))と比較したときの、PA*24特異的CD8+T細胞によるPA*24担持自家CD8-標的細胞の特異的な細胞溶解(灰色の塗りつぶし、破線(上パネル);赤色の線(下パネル))を示す。PA*24非特異的CD8+T細胞は、標的細胞を溶解しなかった(黒色の線(下パネル))。結果は、3つの独立した技術的反復の平均値±SDとして示す。対応ありのスチューデントの両側t検定で評価した(**P<0.01;***P<0.001)。(e)HLA-A*24-PA*24モノマーを担持したaAPCでプライミングすることにより得られた2人の健常ボランティア(HV1、HV2)由来のPA*24特異的CD8+T細胞を、フローサイトメトリーによりバルクソートし(左パネル)、シングルセルTCRシーケンシングを行った。右パネルは、各ドナーにおいて最も頻度が高かったT細胞受容体(TCR)クローンのCDR3α領域とCDR3β領域の生理化学的特性とアミノ酸配列を、これらのTCRクローンの標的ペプチドであるPA*24と比較した結果を示す。Hopp-Woodsスケールによる親水性をy軸に示し、アミノ酸(AA)は、生理化学的特性ごとにグループ分けして、カラーコードで示している。
図3】PA*24特異的CD8+T細胞のシングルセルTCRシーケンシングを示す。(a~c)HLA-A*24-PA*24モノマーを担持した人工抗原提示細胞(aAPC)でプライミングすることにより得られた2人の健常ボランティア(HV)由来のPA*24特異的CD8+T細胞を、テトラマーでソートした後、シングルセルRNAシーケンシングとシングルセルTCRシーケンシングを行った。(a、b)(a)HV1および(b)HV2のPA*24特異的CD8+T細胞のT細胞受容体(TCR)のクローン性を示すUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)プロットを示す。カラーコードは、増殖した各種類のクローンに属する細胞の数を示す。(c)HV1において2番目に頻度が高かったTCRクローンのCDR3α領域/CDR3β領域の生理化学的特性とアミノ酸(AA)配列を示す。Hopp-Woodsスケールによる親水性をy軸に示している。アミノ酸は、生理化学的特性ごとにグループ分けし、カラーコードで示している。
図4】自然に提示されたDNAJB1-PRKACA由来HLAクラスIリガンドおよびクラスIIリガンドの質量分析による同定を示す。(a)ドキシサイクリン(Dox)誘導型DNAJB1-PRKACA融合遺伝子の発現の実験セットアップの概要を示した模式図を示す。肝細胞癌(HCC)細胞株を、Dox誘導型DNAJB1-PRKACAプラスミドまたはコントロールプラスミドで形質導入し、Doxで処理した後、HCC細胞株自体を質量分析(MS)によりイムノペプチドーム解析するか、またはこのHCC細胞株の溶解物とインキュベートした健常ボランティア(HV)由来の成熟させた単球由来樹状細胞(moDC)を質量分析(MS)によりイムノペプチドーム解析した。(b)Doxによる処理の存在下または非存在下での、Dox誘導型DNAJB1-PRKACAプラスミド(+)またはコントロールプラスミド(-)を導入した各HCC細胞株(HLE、SMMC-7721またはHepG2)におけるDox誘導型DNAJB1-PRKACA融合タンパク質の発現の免疫ブロットを示す。ローディングコントロールとしてGAPDHを使用した。(c、e)(c)Dox誘導型DNAJB1-PRKACAプラスミドまたはコントロールプラスミドが導入されたHCC細胞株をDoxで処理した後に、質量分析により同定したHLAクラスIペプチドおよびHLAクラスIIペプチドを示す;(e)DNAJB1-PRKACAタンパク質を発現するHCC細胞株の溶解物、またはDNAJB1-PRKACAタンパク質を発現しないHCC細胞株の溶解物とインキュベートした健常ボランティア由来の成熟moDCにおいて、質量分析により同定したHLAクラスIペプチドおよびHLAクラスIIペプチドを示す。(d、f)(d)DNAJB1-PRKACAタンパク質を発現するHCC細胞株(n = 3)における、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質配列上でのHLAクラスIリガンドのアミノ酸(AA)の分散の頻度を各試料ごとに示す;(f)DNAJB1-PRKACAタンパク質を発現するHCC細胞株の溶解物とインキュベートした健常ボランティア(n=3)由来の成熟moDCにおける、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質配列上でのHLAクラスIIペプチドのアミノ酸(AA)の分散の頻度を各試料ごとに示す。(g、h)実験において溶出されたペプチドの断片スペクトル(X軸上のm/z)を示す。(g)DNAJB1-PRKACAを発現するSMMC-7721細胞株から抽出されたEIFDRYGEEV(PA*68/A*02;左側)(配列番号3)(図中「同定」)、またはDNAJB1-PRKACAを発現するHepG2細胞株から抽出されたIFDRYGEEV(PC*04/C*05;右側)(配列番号4)(図中「同定」)を、それぞれの合成ペプチドと比較した(図中「検証」、X軸で反転)。(h)DNAJB1-PRKACAタンパク質を発現するHCC細胞株の溶解物とインキュベートした健常ボランティア由来の成熟moDCから抽出されたEVKEFLAKAKEDFLKK(PII-2)(配列番号2)(図中「同定」)を、2番目のアミノ酸を同位体で標識したそれぞれの合成ペプチドと比較した(図中「検証」、X軸で反転)。
図5】DNAJB1-PRKACA融合タンパク質を発現するHCC細胞株を示す。(a)肝細胞癌(HCC)細胞株であるHLE、SMMC-7721およびHepG2におけるHLAクラスI分子の細胞表面発現のフローサイトメトリーによる定量を示す。(b)DNAJB1-PRKACA Dox誘導型プラスミド(+)またはコントロールプラスミド(-)を導入したHCC細胞株HLEをドキシサイクリン(Dox)で処理し、この細胞の溶解物で単球由来樹状細胞に負荷を加えた際の、Dox誘導型DNAJB1-PRKACA融合タンパク質の発現の免疫ブロットによる測定を示す。ローディングコントロールとしてチューブリンを使用した。
図6】パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを接種したFL-HCC患者を示す。(a)DNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンカクテルで線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)患者を治療した際の治療コースの模式図を示す。最初の診断(FD)後、PHITT試験(PHITT試験F群)と同様の方法で4サイクルの化学療法(CHX)で患者を治療したが、切除不能な腫瘍であることが判明したため、化学療法を一時中断して、最初の診断(FD)から1ヶ月後(M1)に、疾患初期の肝移植(LTx)を行った。移植後の免疫抑制にはエベロリムスを使用した。肝移植を受けたこの患者は、最初の診断の11ヶ月後、15ヶ月後、19ヶ月後および21ヶ月後に、4回の再発を経験した。1回目、2回目および4回目の再発で発生した腫瘍は外科的に切除し、3回目の再発は放射線療法により処置した。最初の診断から16ヶ月後から、オラパリブ(ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬)による患者の治療を開始した。21ヶ月後と23ヶ月後に、PA*68/A*02、PB*44、PC*04/C*05およびPII-1を含むパーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを患者に2回接種した。2回目のワクチン接種の6週間後に、このワクチン用ペプチドに特異的なT細胞応答が誘導されたことが観察された。(b)ワクチン用カクテルペプチド(PB*44またはPII-1)でインビトロ刺激した後にIFNγ ELISPOTアッセイで測定し、陰性ペプチド(neg.)と比較することにより評価した、2回目のワクチン接種の6週間後のワクチン用ペプチドに特異的なT細胞応答を示す。(c)ワクチン用カクテルペプチド(PA*68/A*02、PB*44、PC*04/C*05またはPII-1)でインビトロ刺激した後にIFNγ ELISPOTアッセイで評価した、ワクチン接種の10ヶ月後までのワクチン誘導性T細胞応答の縦断的分析を示す。(d、e)グラフに示したサイトカインのフローサイトメトリーによる特性評価を示す。2回目のワクチン接種の14週間後に、(d)PII-1ペプチドで刺激したCD4+T細胞から放出されたサイトカインと、(e)PB*44ペプチドで刺激したCD4+T細胞およびCD8+T細胞から放出されたサイトカインを、各陰性ペプチド(neg.)で刺激した場合と比較した結果を示す。
図7】パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを接種したFL-HCC患者の原発腫瘍細胞の特性評価と連続的な免疫モニタリングを示す。(a)FL-HCC患者の診断時の代表的な顕微鏡写真を示す。左上パネルはHE染色を示し、右上パネルはマッソントリクローム染色を示し、左下パネルはCK7の免疫組織化学的染色を示し、右下パネルはHepar1の免疫組織化学的染色を示す。スケールバー=500μm、40倍。(b)DNAJB1のエクソン1の終端とPRKACAのエクソン2の先頭で連結されたキメラ転写産物を確認するための、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)産物のサンガーシーケンシングを示す。(c)1回目のワクチン接種の6週間後(V1M23)、2回目のワクチン接種の6週間後(V2M24)、および2回目のワクチン接種の45週間後(V2M33)に、ワクチン用カクテルペプチドであるPB*44またはPII-1でインビトロ刺激した後に、FL-HCC患者由来のペプチド特異的T細胞のIFNγELISPOTアッセイを実施し、陰性ペプチド(neg.)で刺激した場合と比較した。
図9】ワクチンで誘導したPII-1特異的CD4+T細胞のシングルセルRNAシーケンシングを示す。(a~e)パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンの2回目の接種から31週間後に、FL-HCC患者から得たPBMCをPII-1で刺激し、このPII-1刺激PBMCからソートしたCD4+T細胞のシングルセルRNAシーケンシング解析を示す。(a)特徴的なT細胞クラスターが示されたUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)プロットを示す。(b)活性化T細胞、疲弊/後期エフェクターT細胞および休止中のナイーブT細胞の各クラスターを定義する遺伝子のヒートマップを示す。(c)活性化T細胞クラスターを定義するIFNG、GZMB(グランザイムBをコードする)、TNFおよびCCL3の遺伝子発現を示す特徴プロットを示す。(d)シーケンシングしたCD4+T細胞のT細胞受容体(TCR)のクローン性が示されたUMAPプロットを示す。カラーコードは、増殖した各種類のクローンに属する細胞の数を示す。(e)PII-1特異的CD4+T細胞において同定された様々な種類の細胞クラスターにおける最も大型の10個のTCRクローンタイプの分布を示す。(f)最も頻度が高かったTCRクローンのCDR3α領域とCDR3β領域の生理化学的特性とアミノ酸配列を、これらのTCRクローンの標的ペプチドであるPII-1と比較した結果を示す。y軸は、Hopp-Woodsスケールによる親水性を示す。アミノ酸(AA)は、生理化学的特性ごとにグループ分けし、カラーコードで示している。
図10】moDCでプライミングしたCD4+T細胞を細胞内サイトカイン染色で評価するためのゲート戦略を示す。単球由来樹状細胞(moDC)でプライミングしたCD4+T細胞を細胞内サイトカイン染色(ICS)で評価するためのゲート戦略を示す例示的な試料を示す。最初のゲートによりリンパ球を同定し(FSC-A vs. SSC-A)、これをさらにゲートして単一細胞を同定し(FSC-A vs. FSC-H)、さらにゲートして生細胞を同定し(FSC-A vs. Aqua live/dead)、さらにゲートしてCD4+細胞を同定した(FSC-A vs. CD4-APC-Cy7)。CD4+T細胞において、CD107aの発現(FSC-A vs. CD107a-FITC)、CD154の発現(FSC-A vs. CD154-APC)、IL-2の発現(FSC-A vs. PE-Cy7)、IFNγの発現(FSC-A vs. IFNγ-PE)、およびTNFの発現(FSC-A vs. TNF-Pacific Blue)を分析した。
図11】aAPCでプライミングしたCD8+T細胞を細胞内サイトカイン染色で評価するためのゲート戦略を示す。人工抗原提示細胞(aAPC)でプライミングしたCD8+T細胞を細胞内サイトカイン染色(ICS)するためのゲート戦略を示す例示的な試料を示す。最初のゲートによりリンパ球を同定し(FSC-A vs. SSC-A)、これをさらにゲートして単一細胞を同定し(FSC-A vs. FSC-H)、さらにゲートして生細胞を同定し(FSC-A vs. Aqua live/dead)、さらにゲートしてCD8+細胞を同定した(FSC-A vs. CD8-PE-Cy7)。CD8+T細胞において、IFNγの発現(IFNγ-PE vs. CD8-PE-Cy7)、TNFの発現(TNF-Pacific Blue vs. CD8-PE-Cy7)、CD107aの発現(CD107a-FITC vs. CD8-PE-Cy7)、およびTNF/IFNγの発現(TNF-Pacific Blue vs. IFNγ-PE)を分析した。
図12】パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを接種したFL-HCC患者から得たペプチド特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞を、細胞内サイトカイン染色で評価するためのゲート戦略を示す。パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを接種したFL-HCC患者から得たペプチド特異的CD4+T細胞およびCD8+T細胞を、細胞内サイトカイン染色(ICS)で評価するためのゲート戦略を示す例示的な試料を示す。最初のゲートによりリンパ球を同定し(FSC-A vs. SSC-A)、これをさらにゲートして単一細胞を同定し(FSC-A vs. FSC-H)、さらにゲートして生細胞を同定した(FSC-A vs. Aqua live/dead)。CD4+T細胞およびCD8+T細胞(CD4-APC-Cy7 vs. CD8-PE-Cy7)のサイトカインの産生を別々に分析した。CD8+T細胞では、IFNγの発現(IFNγ-PE vs. CD8-PE-Cy7)、TNFの発現(TNF-Pacific Blue vs. CD8-PE-Cy7)、およびTNF/IFNγの発現(TNF-Pacific Blue vs. IFNγ-PE)を分析し、CD4+T細胞では、IFNγの発現(IFNγ-PE vs. CD4-APC-Cy7)、TNFの発現(TNF-Pacific Blue vs. CD4-APC-Cy7)、およびTNF/IFNγの発現(TNF-Pacific Blue vs. IFNγ-PE)を分析した。
図13】CD8+T細胞のPA*24テトラマー染色を評価するためのゲート戦略を示す。抗原提示細胞(aAPC)を用いてプライミングした後のCD8+T細胞のPA*24テトラマー染色を評価するためのゲート戦略を示す例示的な試料を示す。最初のゲートによりリンパ球を同定し(FSC-A vs. SSC-A)、これをさらにゲートして単一細胞を同定し(FSC-A vs. FSC-H)、さらにゲートして生細胞を同定し(FSC-A vs. Aqua live/dead)、CD8+/PA*24テトラマー特異的細胞を分析した(PA*24テトラマー-PE vs. CD8-PE-Cy7)。
図14】成熟させたmoDCを評価するためのゲート戦略を示す。成熟させた単球由来樹状細胞(moDC)を評価するためのゲート戦略を示す例示的な試料を示す。最初のゲートによりmoDCを同定し(FSC-A vs. SSC-A)、さらに、CD80の細胞表面発現(CD80-FITC vs.カウント)、HLA-DRの細胞表面発現(HLA-DR-BV 711 vs.カウント)、およびCD86の細胞表面発現(CD86-BV 605 vs.カウント)を分析した。
【実施例
【0127】
1. 序論
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、CAR-T細胞、養子T細胞移入、ワクチン接種法などの、T細胞を用いた免疫療法は、悪性疾患の治療分野でブレークスルーを達成した。しかし、これらの治療法は、腫瘍抗原の認識とT細胞を介した細胞傷害性によりがん細胞を排除することに依存しており、わずかな種類のがん患者と単一腫瘍にしか有効に利用されていない。抗原特異的な免疫療法の開発を行う主な具体的理由の1つとして、腫瘍細胞の細胞表面に天然に高頻度で腫瘍排他的に提示され、免疫系により認識される適切な標的構造が存在しないことが挙げられる。腫瘍抗原は、HLA非依存性表面分子によって提示されるか、あるいはHLAクラスI分子またはHLAクラスII分子により提示される細胞内タンパク質由来T細胞エピトープによって提示される。HLA分子を介した腫瘍抗原の提示に関して、免疫チェックポイント阻害剤により誘導される抗がんT細胞応答が主な特異性を示すものとして、腫瘍特異的変異に起因するネオエピトープが近年同定され、T細胞免疫療法の最も有力な候補であることが示唆された。これと同時に、免疫チェックポイント阻害剤に対する応答は、腫瘍により生じた高い体細胞変異量と相関することが認められており、ネオエピトープを利用した免疫療法は、個々の腫瘍患者において初めて有望な結果が示された。しかし、患者/腫瘍特異性と体細胞変異の腫瘍内不均一性が存在することや、翻訳され、プロセシングされて、腫瘍細胞上にHLA拘束性ネオエピトープとして提示される体細胞変異数が限られていることから、特に変異量が少ない患者において、腫瘍抗原の幅広い適用が制限されている。また、近年、高い免疫原性を有するネオエピトープの新たな供給源として、クローン性の腫瘍形成ドライバーとして機能することが多い産物へと翻訳される融合転写産物が同定された。このような融合タンパク質由来のネオエピトープに対するT細胞応答は、免疫チェックポイント阻害剤を投与した患者において検出されており、治療反応性との相関性が認められた。
【0128】
DNAJB1-PRKACA融合転写産物は、DnaJホモログサブファミリーBメンバー1遺伝子のエクソン1(DNAJB1)が、cAMP依存性プロテインキナーゼ触媒サブユニットα遺伝子(PRKACA)に連結されたものである。この融合転写産物は、線維層板状肝細胞癌(FL-HCC)において初めて同定されたものである。FL-HCCは、まれな疾患であるが、致死性の腫瘍疾患であり、外科的切除以外の確立された治療選択肢がなく、一般に、原発性肝疾患の既往歴のない小児および若年層に発症する。また、DNAJB1-PRKACA融合体は、様々なその他の消化器系腫瘍疾患で検出されている。FL-HCCでは、患者の100%においてDNAJB1-PRKACA融合転写産物が検出可能であり、あらゆる腫瘍細胞でこの融合転写産物の発現が示されたことから、腫瘍の発症機序における腫瘍形成ドライバーであると同定された。本明細書において、本発明者らは、DNAJB1-PRKACA融合転写産物が、幅広く適用可能なネオエピトープの主要な供給源であることを実証するとともに、FL-HCC患者に対する免疫療法に適用できることを初めて証明することができた。
【0129】
2 結果
2.1 DNAJB1-PRKACA融合遺伝子はHLAクラスIネオアンチゲンおよびHLAクラスIIネオアンチゲンの供給源であり、DNAJB1-PRKACA特異的CD4 + T細胞を誘導する
NetMHCIIpanアルゴリズムを用いたin silico予測ワークフローにより、DNAJB1-PRKACAタンパク質の24アミノ酸長の融合領域内の合計1290個の異なるHLAクラスIIアレルから、9アミノ酸(AA)長の結合コアが9つ同定された(図1a、b)。これらのアレルの83.49%はHLA-DPの組み合わせであり、11.55%はHLA-DQの組み合わせであり、4.96%はHLA-DRの組み合わせである。前述の融合転写産物のちょうど中央に位置するコア配列RYGEEVKEF(配列番号5)(エクソン1の5個のアミノ酸(DNAJB1)とエクソン2の4個のアミノ酸(PRKACA)からなる)は、予測されたHLAクラスIIアレルの量が最も多い(結合コアの組み合わせ全体に対して、結合する可能性のあるアレルは60.52%であった)。SYFPEITHIアルゴリズムとNetMHCpanアルゴリズムを組み合わせた予測ワークフローを用いて解析したところ、HLAクラスIでは、欧州人口で最も頻度が高い20種のHLAクラスIアロタイプに対して13個のDNAJB1-PRKACA由来HLAリガンドが同定され、これらには配列番号3を含むペプチド、配列番号4を含むペプチド、および配列番号5を含むペプチドが含まれていた(図1c)。さらに、このHLAクラスII結合コアRYGEEVKEF(配列番号5)は、HLA-A*24:02アレル、HLA-C*04:01アレル、HLA-C*06:02アレルおよびHLA-C*07:02に結合するHLAクラスIリガンドとしても予測されたことには注目されたい。
【0130】
健常ボランティア(HV)から得られた単球を分化誘導した成熟単球由来樹状細胞(moDC;図1d)に、DNAJB1-PRKACAタンパク質の融合領域にわたる22アミノ酸長のKREIFDRYGEEVKEFLAKAKED(PII-1)ペプチド(配列番号1)を担持させ、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)で分析したところ、天然の状態で、DNAJB1-PRKACAに由来するHLA提示ペプチドが提示されることが示された。この質量分析(MS)では、同位体標識された合成ペプチドを用いた検証によって、実験により溶出されたPII-1の断片イオンスペクトルが同定された(図1e)。MSによって同定されたPII-1と、これよりも12アミノ酸長短いバリアントは、各健常ボランティアのHLA-DPアレルDPA1*01:03-DPB1*05:01に結合すると予測され、NetMHCIIpanの結合順位では、配列番号1を含むペプチドに含まれる結合コアRYGEEVKEF(配列番号5)(図1b)が、0.74という最も良好なスコアを示した。また、PII-1を担持した成熟moDCで、健常ボランティア由来のCD4+T細胞をde novoプライミングしたところ、PII-1によるパルスにより、CD107a、CD154、IL-2、IFNγおよびTNFを発現する多機能性のPII-1特異的CD4+T細胞が誘導された(図1f)。
【0131】
2.2 P A*24 特異的CD8 + T細胞の特性評価とシングルセルTCRシーケンシング
DNAJB1-PRKACA融合タンパク質に由来するリガンドRYGEEVKEF(配列番号5)(PA*24、SYFPEITHIスコア:74.19%、NetMHCpanの結合順位:0.018)のリフォールディングを、HLA-A*24-PA*24モノマーを用いて行った。このモノマーを用いた人工抗原提示細胞(aAPC)で健常ボランティア由来のCD8+T細胞をプライミングしたところ、PA*24特異的CD8+T細胞が誘導され、このペプチド特異的T細胞の頻度は最大で15.74%となった(平均値4.97%;図2a、b)。このPA*24特異的CD8+T細胞は、IFNγ、TNFおよびCD107aの産生/発現によって反映された多機能性の表現型を示し(図2c)、インビトロにおいてPA*24担持自家CD8-細胞を特異的に溶解し、様々なエフェクター:標的比での標的細胞の溶解は、非特異的なエフェクター細胞と比べて最大で82.39%に達した(図2d)。また、インビトロにおいてaAPCでプライミングした後に、フローサイトメトリーによりバルクソートした2人の健常ボランティア(HV1、HV2)由来のPA*24特異的CD8+T細胞のシングルセルT細胞受容体(TCR)シーケンシングを行ったところ、HV2において優位を占めた1つのTCRクローンと、HV1において優位を占めた2つのTCRクローンにおいて、高いクローン性が見られた(図3a、b)。これら3つのTCRクローンにおいて、V(D)J遺伝子配列の重複はなかったが、CDR3α配列とCDR3β配列のアミノ酸の生理化学的特性の類似性が高いことが観察され、これらのTCRクローンの標的ペプチドであるPA*24と比較して、親水性と化学特性のグループ分けに関して相反する特性を有していることが示された(図2e図3c)。
【0132】
2.3 ドキシサイクリン誘導型のDNAJB1-PRKACA融合遺伝子の発現により、HLAクラスIおよびHLAクラスIIのDNAJB1-PRKACA特異的リガンドが自然なプロセシングを受けて提示される
HLAクラスI分子を発現する3種の肝細胞癌(HCC)細胞株HLE、SMMC-7721およびHepG2に、テトラサイクリン応答性プロモーターの制御下でDNAJB1-PRKACA融合遺伝子を含むドキシサイクリン(Dox)誘導型プラスミドを形質導入することによって、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質を特異的に発現させることができた(図4a、b、図5a)。DNAJB1-PRKACA融合遺伝子の発現後に、質量分析による各HCC細胞株のイムノペプチドーム解析を行ったところ、配列番号6~63のいずれかを含む様々なペプチドを含む最大で3688個のHLAクラスIリガンドが検出された(平均2787個;図4c)。DNAJB1-PRKACA融合タンパク質に由来する20個のユニークなHLAクラスIリガンドが同定され、そのうちの2つのリガンドは、前述の融合領域にわたる配列を有していた(図4d)。自然なプロセシングを受けて提示されたこの2つのDNAJB1-PRKACA由来ネオエピトープのうち、EIFDRYGEEV(配列番号3)(PA*68/A*02)はSMMC-7721細胞株で同定され、IFDRYGEEV(配列番号4)(PC*04/C*05)はHepG2細胞株で同定され、EIFDRYGEEV(配列番号3)(PA*68/A*02)は、SMMC-7721細胞株のHLAアロタイプA*68:02に結合し、IFDRYGEEV(配列番号4)(PC*04/C*05)は、HepG2細胞株のHLAアロタイプC*04:01に結合することが予測され、合成ペプチドを利用したスペクトル分析の比較により、この結果を検証することができた(図1cおよび図4e)。次に、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質に由来するHLAクラスIIペプチドのプロセシングとその提示について調べるため、3人の健常ボランティア由来の成熟moDCを、DNAJB1-PRKACA融合遺伝子の発現を活性化させた後のHLE細胞株の溶解物とインキュベートした(図5b)。質量分析によりこれらのmoDCのイムノペプチドーム解析を行ったところ、最大で8293個のHLAクラスIIペプチドが検出され(平均5956個;図4f)、そのうちの13個のユニークなペプチドが、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質に由来するものであることが同定され、そのうちの1つのペプチドEVKEFLAKAKEDFLKK(配列番号2)(PII-2)が、前述の融合領域にわたる配列を有していた(図4g)。DNAJB1-PRKACA由来ネオエピトープであるPII-2は、健常ボランティアのHLAアレルDRB1*13:02に結合することが予測された(図1b)。同位体で標識した合成ペプチドを用いて、PII-2ペプチドの断片イオンスペクトル実験を検証した(図4h)。各陰性コントロールでは、これら2つの融合タンパク質由来のHLAクラスIリガンドまたはHLAクラスIIリガンドは同定されなかったことには注目されたい。
【0133】
2.4 パーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンは、FL-HCC患者において長期的なDNAJB1-PRKACA特異的免疫応答を誘導し、有利な臨床アウトカムを示した
組織学的に確認されたFL-HCCを有する若年患者(FL-HCC01)に対してパーソナライズしたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを製剤化した。この若年患者は、疾患の初期に肝移植(LTx)を行ったものの、化学療法不応性の切除不能なFL-HCCであったことから多発性腫瘍を再発していた(図6aおよび図7a)。移植後の免疫抑制のために、mTOR阻害薬であるエベロリムスを投与した。DNA損傷応答(DDR)経路が変化(ATMおよびCHEK2、生殖細胞系バリアント、ならびにBRCA2およびBAP1の体細胞欠失)しており、長期寛解が達成できなかったことから、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)による阻害を開始した。発生した再発性腫瘍の切除または放射線療法を行った。サンガーシーケンシングにより確認されたDNAJB1-PRKACA融合遺伝子に基づき、パーソナライズされたワクチンは、アロタイプを一致させた3つの短いHLAクラスIリガンド(EIFDRYGEEV(配列番号3)(PA*68/A*02)、EEVKEFLAKA(配列番号120)(PB*44)、およびIFDRYGEEV(配列番号4)(PC*04/C*05))と、FL-HCC01のHLA-DPアロタイプDPA1*01:03-DPB1*06:01に結合すると予測された前述の長鎖ペプチドKREIFDRYGEEVKEFLAKAKED(配列番号1)(PII-1)とで構成した。さらに、MontanideTM ISA51 VG中で乳化した新規なToll様受容体(TLR)1/2アゴニストXS15をアジュバントとしてワクチンに加えた。XS15は、抗原提示細胞の活性化と成熟を補助し、ワクチン用ペプチドの急速な分解を防ぐことによって、効果的かつ強力なT細胞応答の誘導を可能にする(図7b)。このパーソナライズされたDNAJB1-PRKACA由来ペプチドワクチンを、6週間の間隔を空けて計2回投与した。インビトロにおいてワクチン用カクテルペプチドで刺激した後に、IFNγ酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイで分析したところ、2回目のワクチン接種の6週間後に、PII-1ペプチドを標的とする顕著なT細胞応答が誘導されたことが観察された(ワクチン接種前のスポット数の平均値が1個であったのに対して、2回目のワクチン接種後のスポット数の平均値は872個であった;図6b、cおよび図7c)。また、HLAクラスIペプチドPB*44を標的とする弱いT細胞応答が検出された(ワクチン接種前のスポット数の平均値が0個であったのに対して、2回目のワクチン接種後のスポット数の平均値は56個であった)。IFNγ ELISPOTアッセイを用いて縦断的実験を行ったところ、長期間にわたってPII-1特異的T細胞が維持され、2回目のワクチン接種の45週間後には強度がさらに増加したことが示された(スポット数の平均値:1088個)(図6cおよび図7c)。さらに、PB*44とPII-1を標的とする免疫応答をフローサイトメトリーにより評価したところ、IFNγとTNFを特異的に発現するTヘルパー1(Th1)表現型CD4+T細胞が見出された。PB*44に対するCD8+T細胞応答は観察されなかった。注目すべきことに、2回目のワクチン接種の15ヶ月後に行った最近の検査までFL-HCC01において疾患の再発は観察されなかったことから、ワクチンで誘導されたDNAJB1-PRKACA特異的T細胞応答の臨床的有効性が初めて示唆された。
【0134】
2.5 シングルセルRNAシーケンシングにより、ワクチンで誘導したP II-1 特異的CD4 + T細胞のTCRクローン性が示された
ワクチンで誘導したHLA-DPA1*01:03-DPB1*06:01-PII-1応答性CD4+T細胞をインビトロで増殖させ、10× GenomicsのシングルセルRNAシーケンシングを実施し、そのデータの教師なしクラスタリングを行ったところ、3つのT細胞クラスターが定義された。具体的には、(i)IFNG、TNF、GZMB(グランザイムBをコードする)、CCL3およびCCL4の高発現により定義される、サイトカインおよびケモカインを発現する活性化T細胞(図5a、b、c);(ii)PDCD1、LAG3、HAVCR2およびCTLA4を発現する疲弊したエフェクタープロファイルまたは後期エフェクタープロファイルを示すT細胞(図8a、bおよび図9a);ならびに(iii)SELL(CD62Lをコードする)、CCR7およびTCF7の発現により定義される休止中のナイーブT細胞(図8a、bおよび図9b)が見出された。活性化T細胞クラスターでは高いTCRクローン性が観察され、大型クローン(クローン性≧4)に割り当てられた細胞は、休止中のナイーブT細胞(1.3%)や疲弊したT細胞クラスター(31.4%)での割合と比べて、74.2%を占めた(図8dおよび図9c)。クラスタリングにより合計10個のTCRクローンが同定され、そのうちの8個が主に活性化T細胞クラスターに割り当てられた。これらのTCRクローン間では、CDR3α配列とCDR3β配列のアミノ酸において生理化学的特性の類似性が高いことが観察されたことから、これらのTCRクローンの標的ペプチドであるPII-1と比較して、親水性と化学特性のグループ分けに関して相反する特性を有していることが示された(図8e、fおよび図9d)。
【0135】
3. 材料と方法
3.1 患者と血液試料
密度勾配遠心分離によって、FL-HCC患者から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、健常ボランティア(HV)からPBMCを単離して、T細胞を用いた次のアッセイに使用するまで-80℃で保存した。インフォームド・コンセントは、ヘルシンキ宣言に基づいて得た。本研究は、地域倫理委員会の指針に従って行った(713/2018B02、406/2019BO2)。試料のHLA型の判定は、血液・腫瘍内科(ドイツ、テュービンゲン)によって行った。
【0136】
3.2 パーソナライズされたペプチドワクチン
パーソナライズされたワクチンは、テュービンゲン大学の免疫学部門の、医薬品の製造管理および品質管理の基準(GMP)に準拠したペプチド研究所において開発・製造されたものであり、4種のDNAJB1-PRKACA由来ペプチド(配列番号1、3、4および120)と、アジュバントとしての、合成リポペプチドからなるTLR1/2リガンドであるXS15(Bachem社製、スイス、ブーベンドルフ)とを含み、MontanideTM ISA51 VG(Seppic社製、フランス、パリ)中で乳化したペプチドベースのワクチンである。ワクチン用ペプチド(各ペプチドにつき250μg)とXS15(50μg)に、MontanideTM ISA51 VGを加えて、1:1の油中水型エマルションとして調製することによって、500μLの注射可能な量を得た。このパーソナライズされたワクチンを患者の下腹部に皮下注射した。パーソナライズされたワクチン接種は、NCT05014607プロトコールにより行った。
【0137】
3.3 DNAJB1-PRKACA転写産物の検出とシーケンシング
Maxwell(登録商標)RSC装置(プロメガ社、米国ウィスコンシン州マディソン)とMaxwell RSC RNA FFPEキットを製造業者の説明書に従って用いて、マクロダイセクションした5μmのパラフィン切片からRNAを抽出した。QIAGEN OneStep RT-PCRキット(キアゲン社、ドイツ、ヒルデン)を製造業者の説明書に従って用いて、RNAの逆転写と、DNAJB1-PRKACAの切断点領域のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った(フォワードプライマー:5'-GTTCAAGGAGATCGCTGAGG-3'(配列番号122)、リバースプライマー:5'-TTCCCGGTCTCCTTGTGTTT-3'(配列番号123))。DNAJB1-PRKACA融合タンパク質の検出を可視化するため、アガロースゲルでPCR産物を泳動した。シーケンシングを行うため、PCR産物を精製し(AMPure、ベックマン・コールター社、米国カリフォルニア州ブレア)、分取試料を採取し、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを各1μMと、GenomeLab DTCS-Quick Startマスターミックス2μl(ベックマン・コールター社、米国カリフォルニア州ブレア)を製造業者のプロトコールに従って用いて、最終量10μlのシーケンシング反応を行った。シーケンシング反応物を精製し(CleanSEQ、ベックマン・コールター社、米国カリフォルニア州ブレア)、GenomeLab GeXP遺伝子解析システムで分析し、GenomeLab GeXPソフトウェア(ベックマン・コールター社、米国カリフォルニア州ブレア)で評価した。
【0138】
3.4 in silicoでのDNAJB1-PRKACAリガンドの予測
HLAクラスIのDNAJB1-PRKACAリガンドの予測は、SYFPEITHI 1.0とNetMHCpan 4.1を用いて、前記融合領域にわたる8~12アミノ酸長のあらゆる可能なペプチド配列のすべてについて、欧州人口で最も頻度が高い20種のHLAクラスIアロタイプに対して行った(tools.iedb.org)。HLAクラスIIのDNAJB1-PRKACAリガンドの予測は、NetMHCIIpan 4.0を用いて、前記融合領域にわたる15アミノ酸長のあらゆる可能なペプチド配列のすべてについて、一覧に記載のすべてのアレルの組み合わせに対して行った。
【0139】
3.5 HLAの細胞表面発現の定量
QIFIKITビーズベース定量フローサイトメトリーアッセイ(Dako社、K0078)を製造業者の説明書に従って用いて、過去の報告に従って、HCC細胞株におけるHLAの細胞表面発現を分析した。簡単に述べると、pan-HLAクラスI特異的モノクローナル抗体(mAb)W6/32(自施設で製造)、またはIgGアイソタイプコントロール(BioLegend社、400202)で試料を染色した。フローサイトメトリー分析は、FACSCanto IIアナライザー(BD社)で行った。
【0140】
3.6 HCC細胞株においてドキシサイクリンにより誘導したDNAJB1-PRKACA融合遺伝子の発現
HCC細胞株として、HLE細胞株、SMMC-7721細胞株およびHepG2細胞株を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、ペニシリン、ストレプトマイシン(いずれもメルク社)およびplasmocin(Invivogen社)を添加したGibcoダルベッコ改変イーグル培地中で、湿潤雰囲気下、37℃、5%CO2で培養した。DNAJB1-PRKACAコード配列は、サーモフィッシャーに委託して合成し、pENTRTMベクターにクローニングし、directional TOPOクローニング(pENTRTM/D-TOPOTMクローニングキット、インビトロジェン社)を用いて、pInducer20(Addgene社、No.44012)デスティネーションベクターに移入した。リン酸カルシウム法により、ヘルパープラスミドであるpsPAX2およびpMD2.Gと、DNAJB1-PRKACAをコードするpInducer20ベクターまたは空ベクターをHEK293T細胞にトランスフェクションして、レンチウイルス粒子を製造した。形質導入した各HCC細胞株を、少なくとも2週間にわたりG418(Invivogen社)で選択した。DNAJB1-PRKACAの発現を誘導するため、形質導入した各HCC細胞株を1μg/mlドキシサイクリン(Dox)(AppliChem社)で24時間処理した。DNAJB1-PRKACAの発現を確認するため、溶解バッファー(50mM Tris-HCl pH 7.4、150mM NaCl、1%Triton X-100、50mM NaF、10mM Na4P2O7、10mM Na4V2O7、およびCompleteプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュ社))に細胞を溶解した。SDS-PAGEと免疫ブロット法を過去の報告に従って行った。免疫ブロット法では、一次抗体として、抗PKAα cat抗体(Santa Cruz社、クローンA-2)、抗GAPDH抗体(Cell Signaling社、クローンD16H11)および抗チューブリン抗体(メルク社、クローンDM1A)を使用した。HRP標識ヤギ抗ウサギ二次抗体またはHRP標識ヤギ抗マウス二次抗体(いずれもJackson ImmunoResearch社)を用いて可視化した。
【0141】
3.7 HLAリガンドの単離
pan-HLAクラスI特異的モノクローナル抗体W6/32、pan-HLAクラスII特異的モノクローナル抗体Tu-39、およびHLA-DR特異的モノクローナル抗体L243(すべて自施設で製造)を用いて、標準的な免疫親和性精製によりHLAクラスI分子およびHLAクラスII分子を単離して、HLAリガンドを抽出した。
【0142】
3.8 液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)によるHLAリガンドの分析
逆相液体クロマトグラフィー(nanoUHPLC、UltiMate 3000 RSLCnano、サーモフィッシャー社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)でペプチド試料を分離し、次に、オンライン接続されたOrbitrap Fusion Lumos質量分析計(サーモフィッシャー社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で分析した。試料の分析は、3回の技術的反復を行った。20%の占有率であった試料5μLを、75μm×2cmのトラップカラム(サーモフィッシャー社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)に4μL/分の速度で5.75分間で注入した。次に、50μm×25cmの分離カラム(PepMap C18、サーモフィッシャー社、米国マサチューセッツ州ウォルサム)に、50℃、300nL/分の流量で流し、ACNを2.4%から32.0%に上昇させる濃度勾配を90分間で行ってペプチドを分離した。溶出されたペプチドを、ナノスプレーイオン化によってイオン化した。次に、30,000の分解能の断片スペクトルと、235~1151m/zに制限された質量範囲が得られる最高速度(3秒)のHCD法(高エネルギーCトラップ解離法)を実施して、正電荷が+2~+5のペプチドを選択して断片化し、質量分析計で分析した。
【0143】
3.9 データ処理
データ処理は、過去の報告に従って行った。Proteome Discoverer(v1.3、サーモフィッシャー社)を用いて、DNAJB1-PRKACA融合タンパク質の完全な配列と、ヒトプロテオーム(Swiss-Protデータベース、20,279個の調査されたタンパク質配列、2013年9月27日)に対して、SequestHTサーチエンジン(ワシントン大学)の検索結果を統合した。前駆体の質量許容誤差範囲は5ppmに設定し、断片の質量許容誤差範囲は0.02Daに設定した。酸化メチオニンは、動的修飾として許容した。偽発見率(FDR)(Percolatorアルゴリズム2.04で推定)は、HLAクラスI提示ペプチドでは5%に制限し、HLAクラスII提示ペプチドでは1%に制限した。HLAクラスIのアノテーションは、SYFPEITHI 1.0およびNetMHCpan 4.1を用いて行った。
【0144】
3.10 スペクトルの検証
実験により溶出したペプチドのスペクトルの検証は、複合マトリックス中で測定した対応する合成ペプチドとのスペクトルの類似性を計算することによって行った。スペクトルの相関は、溶出したペプチドのMS/MSスペクトルと合成ペプチドのMS/MSスペクトルの間で計算した。
【0145】
3.11 ペプチド特異的T細胞の増殖とIFNγ ELISPOTアッセイ
1μg/mlのHLAクラスIペプチドまたは5μg/mlのHLAクラスIIペプチドでPBMCをパルスした。各HLA拘束性が無関係なペプチドを陰性コントロールとして使用した。具体的には、HLA-A*02の陰性コントロールとして、YLLPAIVHI(配列番号124)(由来タンパク質:DDX5_HUMAN)を使用し、HLAクラスIIの陰性コントロールとして、ETVITVDTKAAGKGK(配列番号125)(由来タンパク質:FLNA_HUMAN)を使用した。2日目、5日目および7日目に、20U/ml IL-2(ノバルティス社、スイス、バーゼル)を添加してPBMCを12日間培養した。12日目に、各ペプチドで刺激したPBMCを、IFNγ酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイで分析した。ImmunoSpot S6アナライザー(CTL社、米国オハイオ州クリーブランド)を用いてスポットを計数し、500,000個の細胞あたりの計数されたスポットが10個を超え、かつスポット数の平均値が、陰性コントロールのスポット数の平均値の少なくとも3倍であった場合に、T細胞応答が陽性であると見なした。
【0146】
3.12 リフォールディング
ビオチン化HLA:ペプチド複合体を、過去の報告に従って作製し、4:1のモル比でPE標識ストレプトアビジン(インビトロジェン社)を用いてテトラマー化した。
【0147】
3.13 aAPCによるペプチド特異的CD8 + T細胞の誘導
ペプチドに特異的な細胞傷害性Tリンパ球のプライミングは、過去の報告に従って人工抗原提示細胞(aAPC)を用いて行った。詳しく述べると、ストレプトアビジンでコーティングした800,000個のマイクロスフェア(Bangs Laboratories社、米国インディアナ州フィッシャーズ)に、ビオチン化HLA:ペプチドモノマー200ngとビオチン化抗ヒトCD28モノクローナル抗体600ng(クローン9.3、 自施設で製造)を担持させた。4.8U/μl IL-2(R&Dシステムズ社、米国ミネソタ州ミネアポリス)と1.25ng/ml IL-7(PromoKine社、ドイツ、ハイデルベルク)を添加して、CD8+T細胞を培養した。aAPC(1×106個のCD8+T細胞あたり200,000個のaAPC)と5ng/ml IL-12(PromoKine社)による週1回の刺激を4サイクル行った。
【0148】
3.14 サイトカイン染色とテトラマー染色
ペプチド特異的CD4+T細胞およびペプチド特異的CD8+T細胞の機能性は、過去の報告に従って、細胞内サイトカイン染色(ICS)により分析した。10μg/mlの各ペプチドで細胞をパルスし、10μg/mlブレフェルジンA(シグマ アルドリッチ社、米国ミズーリ州セントルイス)と10μg/ml GolgiStop(BD社、米国ニュージャージー州フランクリン・レイクス)を添加して12~16時間インキュベートした。染色は、Cytofix/Cytoperm(BD社)、APC/Cy7抗ヒトCD4抗体(1:100希釈、BioLegend社、カタログNo.300518、RRID:AB_314086)、PE/Cy7抗ヒトCD8抗体(1:400希釈、ベックマン・コールター社、カタログNo.737661、RRID:AB_1575980)、Pacific Blue抗ヒト腫瘍壊死因子抗体(TNF、1:120希釈、BioLegend社、カタログNo.502920、RRID:AB_528965)、FITC抗ヒトCD107a抗体(1:100希釈、BioLegend社、カタログNo.328606、RRID: AB_1186036)、APC抗ヒトIL-2抗体(1:40希釈、BioLegend社、カタログNo.500309、RRID:AB_315096)、およびPE抗ヒトIFNγモノクローナル抗体(1:200希釈、BioLegend社、カタログNo.506507、RRID:AB_315440)を使用して行った。陽性コントロールとして、PMAとイオノマイシン(シグマ アルドリッチ社)を使用した。一致したHLA拘束性を有する陰性コントロールペプチドとして、HLA-A*02に対してはYLLPAIVHI(配列番号124)(由来タンパク質:DDX5_HUMAN)を使用し、HLA-A*24に対してはKYPENFFLL(配列番号126)(由来タンパク質:PP1G_HUMAN)を使用し、HLA-B*44に対してはEEFGRAFSF(配列番号127)(由来タンパク質:HLA-DP_HUMAN)を使用し、HLAクラスIIに対してはETVITVDTKAAGKGK(配列番号125)(由来タンパク質:FLNA_HUMAN)を使用した。フローサイトメトリーにより取得したデータの分析に適用したゲート戦略を、図10図11および図12に示す。
【0149】
aAPCでプライミングした後のペプチド特異的CD8+T細胞の頻度は、PE-Cy7抗ヒトCD8モノクローナル抗体とHLA:ペプチドテトラマー-PEを用いた染色により測定した。陰性コントロールとして、無関係なコントロールペプチドであるTYSEKTTLF(配列番号128)(由来タンパク質:MUC16_HUMAN)でプライミングし、試験ペプチドを含むテトラマーで染色した同じドナー由来の細胞を使用した。ペプチド特異的CD8+T細胞の頻度が、生きた単一細胞集団中のCD8+T細胞全体の0.1%以上であり、かつ陰性コントロール中のペプチド特異的CD8+T細胞の頻度の少なくとも3倍であった場合に、プライミングが成功したと見なした。同じ評価基準を細胞内サイトカイン染色の結果にも適用した。試料は、FACS Canto IIサイトメーター(BD社)で分析した。フローサイトメトリーにより取得したデータのテトラマー染色分析に適用したゲート戦略を補足の図13に示す。
【0150】
3.15 細胞傷害性アッセイ
フローサイトメトリーを用いたVITALアッセイにおいて、ペプチド特異的な標的細胞溶解の誘導能について、ペプチド特異的CD8+T細胞を分析した。CD8-自家標的細胞に、PA*24ペプチドまたは陰性ペプチドであるKYPENFFLL(配列番号126)(由来タンパク質:PP1G_HUMAN)を担持し、CFSEまたはFarRed(Life technologies社、米国カリフォルニア州カールスバッド)でそれぞれ標識した。PA*24特異的エフェクター細胞は、グラフに示したエフェクターと標的の比率で添加した。各ペプチドを担持したCD8-標的細胞の特異的な溶解を、コントロール標的細胞に対して計算した。
【0151】
3.16 ペプチド担持moDCによるペプチド特異的CD4 + T細胞の誘導
単球由来樹状細胞(moDC)を分化誘導するため、磁気活性化セルソーティング(MACS;ミルテニー社、ドイツ、ベルギッシュ・グラートバッハ)を用いてPBMCからCD14+細胞を単離し、次に、ペニシリン、ストレプトマイシン、GM-CSFおよびIL-4を添加したX-VIVOTM 15造血細胞用無血清培地中において、湿潤雰囲気下、37℃、5%CO2で7日間培養した。細胞培養培地にLPSを加えて24時間培養することによって、分化誘導したmoDCを成熟させ、CD80-FITC(1:40希釈、Biolegend社、カタログNo.305206)、HLA-DR-BV 711(1:100希釈、Biolegend社、カタログNo.307644)、およびCD86-BV 605(1:400希釈、Biolegend社、カタログNo.374214)の細胞表面発現を確認した。フローサイトメトリーにより取得したデータの分析に適用したゲート戦略を図14に示す。CD4+T細胞の刺激に使用する前に、成熟moDCをPII-1ペプチドと2時間インキュベートした。次に、磁気活性化セルソーティング(MACS;ミルテニー社、ドイツ、ベルギッシュ・グラートバッハ)を用いて、同じ健常ボランティア(HV)のPBMCからCD4+細胞を単離し、ペニシリン、ストレプトマイシン、IL-2およびIL-7を添加したX-VIVOTM 15造血細胞用無血清培地中において、湿潤雰囲気下、37℃、5%CO2で培養した。培養したCD4+細胞を、ペプチドを担持した成熟moDCとIL-12で週1回、合計4週間にわたり刺激した。ペプチド特異的CD4+T細胞の機能性は細胞内サイトカイン染色で分析した。
【0152】
3.17 成熟moDCへの抗原の担持
腫瘍溶解物を調製するため、DNAJB1-PRKACAをコードするプラスミドまたは空のプラスミドで形質導入したHCC細胞株を、IFNγとDoxで24時間処理した。処理した細胞を回収し、PBSで洗浄し、凍結解凍サイクルを5回実施し、30Gyの放射線を照射し、超音波で2分間処理した。次に、回収した透明な上清を成熟moDCの細胞培養培地に加えて24時間インキュベートした後、抗原が担持された成熟moDCを回収し、HLAの免疫沈降を行った。
【0153】
3.18 ソフトウェアおよび統計分析
HLAアロタイプの人口カバー率はIEDB population coverageツールで計算した(www.iedb.org)。すべての図の作製と統計分析は、GraphPad Prism 9.2.0(GraphPad Software社)を用いて行った。P値<0.05である場合に、統計的有意性があると見なした。
【0154】
3.19 シングルセル免疫プロファイル解析
10× Genomicsの細胞調製プロトコールに従って、ペプチド特異的CD8+T細胞またはバルクCD4+T細胞をFACSでソートし、計数し、0.04%BSA/PBSで洗浄した。Chromium Controller装置(10× Genomics社、米国カリフォルニア州プレザントン)を用いて、10×バーコードが付加されたゲル粒子および逆転写酵素とともに、単一細胞を1個ずつGel Beads-in-Emulsion(GEM)にパーティショニングした。次に、Chromium Next GEM Single Cell 5'キットv2(10× Genomics社、米国カリフォルニア州プレザントン)と、Chromium Single Cell Human TCR増幅キット(10× Genomics社、米国カリフォルニア州プレザントン)を製造業者の説明書に従って用いて、シングルセル遺伝子発現ライブラリーとシングルセルT細胞受容体(VDJ)ライブラリーを調製した。これらのライブラリーをプールし、NextSeq 550(イルミナ社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、細胞1個あたり平均で28,806リード、138,975リードおよび3519リードでシーケンシングした。bcl2fastqバージョン2.20.0.422(イルミナ社、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、試料のデマルチプレックスを行った。Cell Rangerソフトウェアバージョン6.0.1(10× Genomics社、米国カリフォルニア州プレザントン)を用いて、バーコード処理、アライメント、VDJアノテーションおよびシングルセル5'遺伝子のカウントを行った。さらに、scanpyとscirpyを用いて、各試料ごとに個別に、データ処理、可視化および分析を行った。ユニークな遺伝子カウントが200未満であり、かつvdj配列と関連性のない細胞と、ミトコンドリア遺伝子が10%を超える細胞を分析から除外することによって、474個の細胞(FL-HCC01)、115個の細胞(HV1)、および3338個の細胞(HV2)が得られた。10,000のスケールファクターでデータを対数正規化した。可変性の高い遺伝子のみを考慮に入れて線形次元削減を実施し、可変性の高い遺伝子は、平均最小発現量が0.0125であり、平均最大発現量が3であり、最小分散度が0.5であると定義した。総カウント数の効果およびミトコンドリア量の効果は取り除いた。次元削減は主成分分析(PCA)を用いて行った。10個の第1主成分(n_PC=10)に対してUMAPアルゴリズムのRAPIDSを実行して、近傍グラフを算出した。LouvainアルゴリズムのRAPIDSを実行して、教師なしクラスタリングを行った。
図1a-c】
図1d-e】
図1f
図2a-b】
図2c
図2d
図2e
図3
図4a-d】
図4e-h】
図5
図6a-d】
図6e
図7
図8a-c】
図8d-f】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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【国際調査報告】