(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】無機繊維又は天然由来の有機繊維に基づく遮断物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/587 20120101AFI20250128BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20250128BHJP
D04H 1/64 20120101ALI20250128BHJP
【FI】
D04H1/587
D04H1/4209
D04H1/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535671
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 FR2022052374
(87)【国際公開番号】W WO2023111465
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502425053
【氏名又は名称】サン-ゴバン イゾベール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100232895
【氏名又は名称】林 海藍
(72)【発明者】
【氏名】アルノー ソワソン
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA05
4L047BA08
4L047BA12
4L047BC01
4L047CC08
(57)【要約】
本発明は、有機バインダーによって結合された無機繊維又は天然有機繊維を含む、遮断物品の製造方法に関し、この方法は、以下の工程:
(a)上記無機繊維又は上記天然有機繊維にサイジング組成物を適用すること、
(b)上記無機繊維又は上記天然有機繊維の集合体を形成すること、
(c)上記サイジング組成物が硬化するまで、上記無機繊維又は上記天然有機繊維の集合体を加熱すること、
を含み、上記サイジング組成物が:
- 潜在的に酸化されている、少なくとも1つのリグニン、及び、
- 少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸、
を含むことを特徴とする。
本発明はまた、このような方法によって得られうる遮断物品に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダーによって結合された無機繊維又は天然有機繊維を有する遮断物品の製造方法であって、以下の工程:
(a)前記無機繊維又は前記天然有機繊維にサイジング組成物を適用すること、
(b)前記無機繊維又は前記天然有機繊維の集合体を形成すること、
(c)前記サイジング組成物が硬化して前記有機バインダーを形成するまで、前記無機繊維又は前記天然有機繊維の前記集合体を加熱すること、
を含み、前記サイジング組成物が:
- 潜在的に酸化されている、少なくとも1つのリグニン、及び、
- 少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記リグニンが、クラフトリグニンとしても知られるアルカリリグニン、リグノスルホネート、オルガノソルブリグニン、ナトリウムリグニン、リグノセルロース原料のバイオリファイニングプロセスからのリグニン、又はそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リグニンの量が、前記サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、25重量%~85重量%、好ましくは40重量%~80重量%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非ポリマー性有機ポリカルボン酸の量が、前記サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、15重量%~75重量%、好ましくは20重量%~60重量%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記リグニンが、酸化リグニンであり、その量が、前記サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、50重量%~85重量%、好ましくは55重量%~80重量%であり、前記酸化リグニンが、2%~20%、好ましくは5%~15%のカルボン酸官能基の割合、及び2%~20%、好ましくは5%~15%の第一級アルコール官能基の割合を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
非ポリマー性有機ポリカルボン酸の量が、前記サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、15重量%~50重量%、好ましくは20重量%~45重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非ポリマー性有機ポリカルボン酸が、ジカルボン酸、特にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、トラウマー酸、カンファー酸、フタル酸及びその誘導体、特には少なくとも1つのホウ素原子又は塩素原子を含むもの、テトラヒドロフタル酸及びその誘導体、特には少なくとも1つの塩素原子を含むもの、イソフタル酸、テレフタル酸、メサコン酸及びシトラコン酸、トリカルボン酸、特にはクエン酸、トリカルバリル酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、アコニット酸、ヘミメリット酸、トリメリト酸及びトリメシン酸;並びにテトラカルボン酸、特には1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、及びピロメリット酸から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記無機繊維が、ガラス繊維若しくは岩石繊維若しくはスラグ繊維、又はそれらの混合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記天然有機繊維が、木材、麻、亜麻、サイザル麻、綿、ジュート、ココナッツ、ラフィア、アバカ繊維、又はさらには穀物のわら若しくは稲わらからの繊維から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記無機繊維又は天然有機繊維上への工程(a)の前記サイジング組成物の適用が、スプレー、ローラーコーティング、又は含浸によって実行される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)における無機繊維又は天然有機繊維の前記集合体が、繊維マット、ファイバーボード若しくはパネル、繊維に基づく成形物品、又は織布若しくは不織布である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)が、好ましくは温度調節された容器又はスチームプレス内で、100℃~250℃の温度で、1分~20分の時間にわたって、繊維の前記集合体を加熱することを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法によって得られる遮断物品であって、無機繊維又は天然有機繊維と、潜在的に酸化されている、少なくとも1つのリグニン、及び非ポリマー性有機ポリカルボン酸を含むサイジング組成物を硬化することによって得られる有機バインダーとを含む、遮断物品。
【請求項14】
無機繊維のネットである、請求項13に記載の遮断物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在的に酸化されているリグニン、及び非ポリマー性ポリカルボン酸有機酸を含有するサイジング組成物を硬化又は架橋することによって得られる有機バインダーによって結合される、無機繊維又は天然有機繊維を含む遮断物品の製造方法に関する。本発明はまた、このような方法によって得られる遮断物品に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維に基づく、特にはミネラルウールに基づく、遮断物品の作製は、一般的には、遠心分離プロセスを経てガラス繊維又は岩石繊維を製造する工程を含む。遠心分離装置と繊維収集ベルトとの間のそれらの経路において、水性バインダー組成物とも称される、水性サイジング組成物が、繊維がまだ熱いうちに、繊維上に噴霧され、次いで組成物は、一般的には100℃超の温度で、重合反応を受ける。
【0003】
数年間前から、サイジング組成物中に含有される、様々な熱硬化性樹脂をバインダーとして用いることは、無機繊維を結合させ、かつ得られる遮断物品の機械的性能を向上させることを可能にする。ミネラルウールに基づく遮断物品の製造に最もよく用いられる熱硬化性樹脂は、レゾールタイプのフェノール樹脂である。前述の熱条件下でのそれらの良好な架橋能のほか、これらの樹脂は、水溶性であり、特にはシランの存在のおかげで、無機繊維との良好な親和性を有し、比較的安価である。
【0004】
最も一般的なレゾールは、塩基性触媒の存在下、フェノール及びホルムアルデヒドの縮合によって得られる。最終的に、これらのレゾールは、ある割合の未反応モノマー、特にはホルムアルデヒドを含有し、その存在は、既知の有害作用の観点から望ましくない。
【0005】
この理由のため、レゾールに基づく樹脂は、一般的には尿素で処理され、これは、遊離ホルムアルデヒドと反応し、不揮発性の尿素-ホルムアルデヒド縮合物の形態でそれを捕捉する。さらに、樹脂中の尿素の存在は、その低コストのおかげで一定の経済的利点をもたらす;なぜなら、それは、樹脂の使用品質に影響を与えることなく、特には最終物品の機械的性能に悪影響を与えることなく、比較的多量に導入されることができ、このことは、樹脂の総コストを大幅に下げることができるからである。
【0006】
それにもかかわらず、樹脂の架橋を得るためにミネラルウールの層がさらされる温度条件下では、尿素-ホルムアルデヒド縮合物は不安定であることが観察されている;それらは、分解してホルムアルデヒド及び尿素を再び与え、後者は、少なくとも部分的にアンモニアへと分解され、工場の大気中に放出され、環境へのその影響を低減するために回収手順に従う必要がある。したがって、サイジング組成物中のホルムアルデヒドに基づく樹脂を置き換えるための解決策が、開発されている。
【0007】
本出願人は、それらの国際公開第2010/029266号及び国際公開第2013/014399号において、無機繊維を結合するための、糖アルコールとしても知られる、水素化糖類に基づくサイジング組成物を提案した。これらの試薬は、非常に良好な熱安定性を有し、最終物品に良好な機械的性能を与える。
【0008】
水素化糖、及び還元糖又は非還元糖の両方を含有する、ホルムアルデヒドを含まない結合剤は、無機繊維を結合するための出願人名義の国際公開第2013/021112号及び国際公開第2015/159012号内にそれぞれ開示されている。しかしながら、これらの糖に基づく樹脂は、天然有機繊維を結合するための反応性及び安定性をほとんど示していない。
【0009】
天然有機繊維を結合させるために、特には密度が250kg/m3未満である遮断物品を得るために、ポリイソシアネートを含むサイジング組成物を硬化又は架橋後に得られる結合剤を用いることが知られている。木質繊維産業において最も一般的に用いられるポリイソシアネートの中で、ポリ(メチレンジフェニルイソシアネート)(pMDI、CAS番号9016-87-9)が挙げられてよく、これは、MDI(メチレンジフェニルイソシアネート)及び次式の高分子量同族体を30~80%含有する、テクニカルグレードブレンドである。
【0010】
【0011】
疎水性pMDIによって天然有機繊維の良好な湿潤を確保するために、一般的には、まず繊維を乾燥に供する必要があり、それによって、それらの含水率を6重量%以下、特には2~6重量%の値まで低下させる(国際公開第2008/144770参照)。
【0012】
比較的最近提案されるものは、乳化可能なpMDI(EMDI)であり、これは、pMDIの、イソシアネート官能基と反応しうる不安定な水素を含まない非イオン性界面活性剤との混合物であり(例えば欧州特許出願公開第0516361号明細書参照)、又は、pMDIと、親水性鎖、例えばポリエトキシル化鎖などで官能基化されて、エマルジョンを安定化させる、低割合のpMDIとの混合物である。
【0013】
pMDIを水性エマルジョンの形態で用いることは、予備乾燥なしに天然有機繊維上にバインダーを規則的に分布させることを可能にし、これは著しいエネルギーの節約を構成する。
【0014】
しかしながら、ポリイソシアネートに基づくバインダーの使用は、水性pMDIエマルションの形態であっても、ポリイソシアネートの存在によって、ボード製造現場における有害性の点で大きな問題を構成する。さらに、ポリイソシアネートは反応性が高く、高価な原料である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本出願人は、無機繊維に基づく遮断物品及び天然有機繊維に基づく遮断物品の両方を製造する方法であって、同じタイプの有機バインダー、換言すれば、無機繊維及び天然有機繊維の両方を硬化後に結合させることを可能にする、同じサイジング組成物を用いる方法を求めてきた;このようなサイジング組成物は、好ましくは生物由来の資源であり、低毒性、低コストである必要があり、良好な架橋能力を有し、前述の繊維のいずれにもわたって均一に分散することができ、良好な機械的特性を有する遮断物品を得ることを可能にする。また、所望のサイジング組成物は、適切な加熱装置を通過する前に重合/架橋しないか、若しくはほとんど重合/架橋せず、かつ/又は適切な加熱装置を通過すると急速に重合/架橋するという利点を有する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この研究の過程で、本発明者らは、以下の特定の組み合わせを含むサイジング組成物が、所望の利点又は特性を提供することを発見した:
- 潜在的に酸化されている、少なくとも1つのリグニン、及び、
- 少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸。
【0017】
したがって、本願発明の目的は、より正確には、有機バインダーによって結合された無機繊維又は天然有機繊維を含む遮断物品の製造方法であって、以下の工程を含み:
(a)上記無機繊維又は上記天然有機繊維にサイジング組成物を適用すること、
(b)上記無機繊維又は上記天然有機繊維の集合体を形成すること、
(c)上記サイジング組成物が硬化するまで、上記無機繊維又は上記天然有機繊維の集合体を加熱すること、
上記サイジング組成物が以下を含むことを特徴とする、方法である:
- 潜在的に酸化されている、少なくとも1つのリグニン、及び、
- 少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ネイティブリグニンのありうる構造を示す。
【0019】
【
図2】
図2は、本発明によるリグニンのありうる構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によるリグニンは、いわゆる「ネイティブ(自然の)」リグニンから抽出されたリグニンであり、セルロース及びヘミセルロースとともに木材の主成分の1つである、ポリフェノールポリマー性高分子の一群(広くはタンニンの一群)に属する生体分子である。
図1[Fig.1]は、ネイティブリグニンのありうる構造を示す。ネイティブリグニンは、モル質量が10,000g.mol
-1を大きく超える高分子であり、水に溶けない。ネイティブリグニンは、主に維管束植物及び一部の藻類中に含まれる。その主な機能は、剛性、防水性、及び分解に対する高い抵抗性を提供することである。すべての維管束植物は、木本又は草本にかかわらず、リグニンを生成する。量的には、ネイティブリグニンの含有量は、葉では3~5%、草本茎では17~24%、木本茎では18~33%(被子植物では広葉樹の18~25%、裸子植物では針葉樹の27~33%)である。それは、一年生植物中では多年生植物中より比較的少ないが、樹木中では非常に多い。ネイティブリグニンは、主に細胞間に存在するが、かなりの量がそれらの中にも存在する。リグニンは、複雑な三次元疎水性ネットワークであるが、基本単位は、本質的にはモノリグノール単位である。セルロース(陸上植物バイオマスの35~50%を構成する)及びヘミセルロース(30~45%)に次いで、リグニン(15~25%)は、枯死又は生育している植物バイオマスが支配的である、植物及び陸上生態系において3番目に豊富な化合物の一群である。
【0021】
本発明によるリグニンは、高分子であり、その1つのありうる構造を、
図2[Fig.2]に示す。本発明によるリグニンは、ネイティブリグニンのβ-O-4エーテル結合の開裂によって抽出され、したがって、それが由来するネイティブリグニンよりも低いモル質量、すなわち、10,000g・mol
-1未満の平均モル質量、好ましくは1,000g・mol
-1~9,000g・mol
-1のモル質量を有する。
【0022】
本発明によるリグニンは、クラフトリグニンとしても知られている、アルカリリグニン、リグノスルホン酸塩、有機溶媒リグニン、ナトリウムリグニン、リグノセルロース原料のバイオリファイニングプロセスからのリグニン、又はそれらの混合物から選択されうる。市販されているリグニンの4つのグループは、アルカリリグニン、又はクラフトリグニン、リグノスルホン酸塩、有機溶媒リグニン(抽出されたリグニン及びナトリウムリグニン)である。第5のグループは、いわゆるバイオリファイナリーリグニンであり、これは、その抽出方法によって説明されるのではなく、その方法の由来、例えばバイオリファイニングによって説明されるという点で少し異なっており、したがって、言及された他の任意のグループとも類似している又は異なっていることがありうる。本発明によるリグニンは、好ましくは、クラフトリグニンとしても知られる、アルカリリグニンである。
【0023】
図2[Fig.2]は、本発明によるリグニンのありうる構造を示す。典型的なリグニン中に大量に存在する反応性官能基は、ヒドロキシル基であり、これは、芳香族ヒドロキシル基又は脂肪族ヒドロキシル基のいずれかであり、それは、第一級アルコール官能基又は第二級アルコール官能基である(第二級アルコール官能基は、第一級アルコール官能基よりも反応性が低い)。リグニンのヒドロキシル基は、架橋剤、例えばイソシアネート又はエポキシド、アミン又はアルデヒドなどと反応することができ、それによって、様々な架橋メカニズムに従って、架橋リグニン構造をもたらすことが知られている。しかしながら、これらの架橋剤は、それらの毒性(イソシアネート、アミン、ホルムアルデヒド)、及び/又はコスト(エポキシド、アミン、アルデヒドであってホルムアルデヒド以外のもの)を理由に、あまり注目されていない。
【0024】
そこで、本発明者らは、それら自体毒性の低い非ポリマー性ポリカルボン酸が、リグニンを架橋しうることを発見した。さらに、これらの非ポリマー性ポリカルボン酸を、リグニン架橋剤として用いて、これらの成分の硬化又は架橋後に無機繊維及び天然有機繊維の両方を結合させることができ;また、他の公知の架橋剤、例えばホルムアルデヒド又はイソシアネートなどを用いる場合と比較して、同じくらい良好な、又はさらに比較的良好な機械的性能を有する遮断物品をもたらすことを発見した。
【0025】
本願において、用語「非ポリマー性」有機ポリカルボン酸とは、共有結合によって反復様式で連結される、モル質量が90g・mol-1~350g・mol-1の、モノマーの集合体からなる高分子ではないポリカルボン酸を意味すると理解される。したがって、本出願において、サイジング組成物は、好ましくはポリマー性有機ポリカルボン酸を含まない。本発明による非ポリマー性有機ポリカルボン酸は、以下から選択されうる:ジカルボン酸、特にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、トラウマー酸、カンファー酸、フタル酸及びその誘導体、特には少なくとも1つのホウ素原子又は塩素原子を含むもの、テトラヒドロフタル酸及びその誘導体、特には少なくとも1つの塩素原子を含むもの、イソフタル酸、テレフタル酸、メサコン酸及びシトラコン酸、トリカルボン酸、特にはクエン酸、トリカルバリル酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、アコニット酸、ヘミメリット酸、トリメリト酸、及びトリメシン酸;並びにテトラカルボン酸、特には1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸及びピロメリット酸。さらにより好ましくは、非ポリマー性有機ポリカルボン酸は、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、イタコン酸、及びクエン酸から選択される。さらに好ましくは、非ポリマー性有機ポリカルボン酸は、トリカルボン酸、特にはクエン酸である。
【0026】
換言すれば、本発明者らによって、安価であり、無毒性であり、かつ低腐食性である生物由来の材料である、リグニンが、低毒性の非ポリマー性有機ポリカルボン酸との組み合わせで、無機繊維又は天然有機繊維を、これらの成分の硬化又は架橋後に結合しうるし;上記の公知の結合剤と同程度の、又はそれよりもさらに良好な機械的特性を有する遮断物品の製造を可能にしうることが、驚くべきことに発見された。
【0027】
本発明の一実施形態では、非ポリマー性有機ポリカルボン酸を添加する前に、リグニンを水で希釈し、pHを6.5~10.5、好ましくは8~9に調節する。このpH範囲は、繊維上へのサイジング組成物の比較的均一な堆積を可能にし、その結果、得られる遮断物品の機械的特性を改善するという利点を有する。
【0028】
好ましくは、サイジング組成物は、組成物の総乾燥重量に基づいて、少なくとも1つのリグニンを、25重量%~85重量%、より優先的には40重量%~80重量%、さらにより有利には50重量%~75重量%含む。
【0029】
好ましくは、サイジング組成物は、組成物の総乾燥重量に基づいて、少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸を、15重量%~75重量%、より優先的には20重量%~60重量%、さらにより有利には25重量%~50重量%含む。
【0030】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、非ポリマー性有機ポリカルボン酸と組み合わせて、サイジング組成物中に含有されるリグニンは、酸化リグニンである。この実施形態において、酸化リグニンの量は、サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、50重量%~85重量%、好ましくは55重量%~80重量%、より優先的には60重量%~75重量%であり、酸化リグニンは、2%~20%、好ましくは5%~15%のカルボン酸官能基の割合、及び2%~20%、好ましくは5%~15%の第一級アルコール官能基の割合を含む。酸化リグニン上に存在するカルボン酸官能基及び第一級アルコール官能基の上記割合は、赤外分光法によって測定され;酸化リグニンのカルボン酸官能基(C-OOH)のC-O結合のピークの強度及び第一級アルコール官能基(C-OH)のC-O結合のピークの強度の比率を、それぞれ酸化リグニン上に存在する全ての官能基のC-O結合のピークの強度の合計と比較して、計算することによって測定され、全てのピークは、1000cm-1~~1300cm-1に位置する。C-O結合を有する、酸化リグニン上に存在する全ての官能基は、以下の通りである:第一級及び第二級アルコール官能基(C-OH);芳香族ヒドロキシル官能基(Ar-OH)、酸官能基(C-OOH);芳香族エーテル官能基(Ar-OC)、脂肪族及びシクロ脂肪族エーテル官能基(C-OC)、並びにメチルエーテル官能基(C-OCH3)。
【0031】
(非酸化リグニンと比較して)酸化リグニンを用いることは、無機繊維又は有機繊維を結合させるために、サイジング組成物に添加される非ポリマー性有機ポリカルボン酸の量を減少させるという利点を有する。したがって、この特定の実施形態において、非ポリマー性有機ポリカルボン酸の量は、サイジング組成物の総乾燥重量に基づいて、15重量%~50重量%、好ましくは20重量%~45重量%、より優先的には25重量%~40重量%である。
【0032】
実際、少なくとも1つの酸化リグニンと少なくとも1つの非ポリマー性有機ポリカルボン酸との組み合わせを含むサイジング組成物において、高分子を分割し、次いで出発リグニンの第二級脂肪族ヒドロキシル基を酸化することによって得られる酸化リグニン上に存在するカルボン酸基は、繊維集合体の加熱段階の際、酸化リグニンの脂肪族ヒドロキシル基の一部(特には第一級アルコール官能基)と反応するであろうし、それによって酸化リグニンの自己架橋を開始し、次いで残存する酸化リグニンの他の脂肪族ヒドロキシル基は、架橋剤として添加された非ポリマー性有機ポリカルボン酸のカルボン酸基と反応して、上記酸化リグニンの架橋を完了する。
【0033】
さらに、本発明によるサイジング組成物は、ホルムアルデヒドフリーであってよい。本出願における「ホルムアルデヒドフリー」とは、本発明によるサイジング組成物中のホルムアルデヒド含有量が2000ppm未満であることを意味すると理解される。
【0034】
サイジング組成物は、0.5重量%~50重量%、好ましくは3重量%~30重量%、より優先的には4重量%~20重量%の乾燥物含量を有しうる水性組成物である。
【0035】
次いで、水性サイジング組成物は、遮断物品に所望の機械的特性を付与するために、無機繊維又は天然有機繊維に、2重量%~20重量%、好ましくは5重量%~15重量%の量で適用され、上記量は、無機繊維又は天然有機繊維の重量に基づく乾燥物として表される。
【0036】
本発明の方法の好ましい実施形態において、サイジング組成物を無機繊維又は天然有機繊維に適用する工程(a)は、噴霧、特にはスプレーノズルの手段によって、又はローラーコーティングによって、又は含浸によって実行されうる。
【0037】
本発明によれば、無機繊維は、優先的にはミネラルウールであり、さらにより優先的にはガラスウール、ロックウール、若しくはスラグウール、又はそれらの混合物である。特に、無機繊維がミネラルウールである場合、それらは、重量パーセントとして、以下の配合に対応する組成を含有しうる:
SiO2:30~50%、好ましくは35~45%、
Na2O:0~10%、好ましくは0.4~7%、
CaO:10~35%、好ましくは12~25%、
MgO:1~15%、好ましくは5~13%、
CaO+MgO:合計で11~40%、
Al2O3:10~27%、
K2O:0~2%、好ましくは0~1%、
酸化鉄:0.5~15%、好ましくは3~12%、
1つ又は複数のその他の酸化物:合計で0~5%、好ましくは3%未満、
残りは不可避不純物から構成される。
【0038】
無機繊維は、ガラス繊維又は岩石繊維、特には玄武岩(又はウォラストナイト)でありうる。より詳細には、本発明による無機繊維は、アルミノケイ酸塩ガラスの繊維であり、特には、14重量%~28重量%の割合で、酸化アルミニウムAl2O3を含むアルミノケイ酸塩ガラス繊維である。別の実施形態において、無機繊維は、重量パーセントとして、以下の配合に対応する組成を含有するガラス繊維でありうる:
SiO2:50~75%、好ましくは60~70%、
Na2O:10~25%、好ましくは10~20%、
CaO:5~15%、好ましくは5~10%、
MgO:1~10%、好ましくは2~5%、
CaO及びMgOが合わせて、好ましくは5~20%、
B2O3:0~10%、好ましくは2~8%、
Al2O3:0~8%、好ましくは1~6%、
K2O:0~5%、好ましくは0.5~2%、
Na2O及びK2Oが合わせて、好ましくは12~20%、
酸化鉄:0~3%、好ましくは2%未満、さらにより好ましくは1%未満、
1つ又は複数のその他の酸化物:合計で0~5重量%、好ましくは合計で3%未満、
残りは不可避不純物から構成される。
【0039】
無機繊維の直径は、有利には0.1~25μmである。
【0040】
天然有機繊維の直径は、有利には5~100μm、好ましくは10~50μmであり、これらの繊維の長さは、特には0.1~900mm、より特には10~120mmである。本発明によれば、天然有機繊維は、有利には、熱可塑性ではない繊維であり、バイオマス中に天然に存在し、機械的処理及び/又は化学的処理を受けたものでありうる繊維である。上記繊維は、植物源に由来し、有利には綿及びリグノセルロース繊維から選択される。リグノセルロース繊維とは、リグノセルロース材料に基づく植物由来の繊維、すなわちセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンを含む繊維を意味すると理解される。リグノセルロース繊維として、木質繊維、及び他の植物由来の繊維、例えば麻、亜麻、サイザル麻、綿、ジュート、ココナッツ、ラフィア、アバカ繊維、又はさらには穀物のわら若しくは稲わらなどが挙げられる。
【0041】
本願で用いられる用語「リグノセルロース繊維」は、紙パルプ製造のために熱機械的又は化学的処理を受けたリグノセルロース材料を含まない。
【0042】
したがって、本発明で用いられるリグノセルロース繊維は、単に繊維の寸法を減少かつ/又は制御することを意図される、機械的粉砕処理を受けたものである。
【0043】
リグノセルロース繊維は、好ましくは、機械的解繊によって得られる、針葉樹の、特には松の、繊維である。それらの直径は、有利には10~70μm、好ましくは30~50μmであり、それらの長さは0.1~100mm、好ましくは0.5~50mm、特には1~10mmの範囲である。
【0044】
サイジング組成物(a)の適用は、好ましくは、無機繊維又は天然有機繊維の集合体を形成する工程(b)の前に行われ、この際、サイジングされた繊維が一緒にされ、その後、連続で又は一時的に加熱されて、サイジング組成物が硬化され、このようにして、繊維を結合する有機バインダーが形成される。
【0045】
したがって、無機繊維又は天然有機繊維の集合体を形成する工程(b)は、繊維の一組を形作る工程とも呼ばれてよく、成形かつ/又は圧縮によって実行されうる。物品の成形に用いられるモールドは、加熱工程の温度に耐えることができる材料でできている必要がある。また、それは、硬化炉からの熱風が成形物品に容易に浸透するのを可能にする構造を有する必要がある。モールドは、例えば、箱形の金属スクリーンからなりうる。金属スクリーンの箱は、好ましくは、その容量より大きい体積である、ばらの繊維で満たされ、そして金属スクリーンのカバーによって閉じられる。このようにして繊維は、過剰な充填量に応じて多かれ少なかれ圧縮される。繊維による箱のこの過剰充填量は、例えば10%~150%、好ましくは15%~100%、特には20%~80%などである。
【0046】
本発明の方法が連続法である場合、繊維の集合体を形成する工程(b)は、例えばコンベア上の硬化炉の入口に配置されているローラーによる圧縮によって行われうる。
【0047】
さらに、繊維は次のように組み立てられうる:
- 丸めたり、圧縮したり、又は折り畳まれうる、柔軟な繊維マット、
- ファイバーボード又はプレートであって、ロール可能なマットよりも高密度でありかつ剛性が高いもの、
- 繊維に基づく成形物品、例えばパイプ又はダクトのライニングなど、
- 織布又は不織布、例えば、ガラス繊維又は有機繊維でできている不織布マットなど。
【0048】
本発明による方法の特定の実施形態では、繊維は、水性サイジング組成物を含浸させた天然有機繊維であり、上記方法は、工程(a)と工程(b)との間に、十分な水分を蒸発させて、サイジングされた又はサイジングされていない繊維を実質的に粘着性のない状態にすることを目的とする、繊維乾燥工程をさらに含む。別の実施形態では、乾燥工程は、工程(a)の前に行われうる。この乾燥工程は、例えば温度制御されている換気炉中などで、加熱することによって、又は他には蒸気加熱プレスを用いることによって、実行されうる。乾燥は、天然有機繊維を過度に高温に加熱せず、それによって、乾燥されたサイジング組成物が軟化したり、又はさらにはサイジング組成物の成分の架橋が開始したりしないようにすることが重要である。水の沸点に近い加熱温度で、一般的には十分である。このようにして、水性サイジング組成物を含浸させた繊維の乾燥は、好ましくは、75℃~150℃の温度に、1秒~10秒の時間にわたって加熱することによって実行される。乾燥工程後に得られる天然有機繊維は、乾燥したサイジング組成物のおおいによって囲まれる。
【0049】
本発明の方法に従って無機繊維又は天然有機繊維の集合体を加熱する工程(c)は、好ましくは温度調節されている容器又はスチームプレス内で、100℃~250℃の温度で、1分間~20分間の時間にわたって実行される。温度調節されている容器は、温度制御されている高温ガスが1つ又は複数の区画内に導入される、強制空気炉、又は流体循環若しくは抵抗加熱器を有する加熱モールドであってよい。上記無機繊維又は上記天然有機繊維の集合体を加熱するこの工程の際、(本発明による)サイジング組成物の成分は、硬化/又は架橋/重合して、不溶性の有機バインダーを形成する。
【0050】
本発明による方法の別の特定の実施形態において、繊維は、無機繊維であり、サイジング組成物が硬化するまで上記無機繊維の集合体を加熱する工程(c)の後、無機繊維集合体は、1重量%~20重量%、好ましくは1重量%~15重量%の強熱減量(LOI)を有する。
【0051】
本発明はまた、上記のような方法によって得られうる、遮断物品に関する。結果的に得られる上記遮断物品は、随意に酸化された、リグニン、及び非ポリマー性有機ポリカルボン酸を含む、サイジング組成物(上述の通り)を硬化又は架橋することによって得られるバインダーで結合されている、無機繊維又は天然有機繊維を含む。得られた遮断物品は、良好な機械的特性を有する。遮断物品は、EN 823:2013に従って測定される、10~300mm、好ましくは35~240mmの厚さ、及び30~200kg/m3、好ましくは35~180kg/m3の密度を有しうる。得られた遮断物品は、建築物の外部遮断用パネルの作製に用いられうる。得られた遮断物品は、とりわけ無機繊維のネット、特にはガラス繊維又は岩石繊維のネットでありうる。
【実施例】
【0052】
例1:
【0053】
各組成物の総乾燥重量に基づく重量パーセントでそれぞれ表される、表1に列挙された成分を含む水性サイジング組成物を生成する。
【0054】
本発明外の組成物1(すなわち、比較例試料)を、クラフトリグニンAを水と混合することによって生成する。本発明による組成物2~4を、水中に溶解したリグニンAを含有する第1の溶液を、水中に溶解した特定の非ポリマー性有機カルボン酸を含有する第2の溶液と混合することによって生成する。本発明外の組成物5及び5bis(すなわち、比較例試料)を、(水素化糖としての)マルチトール48重量部、クエン酸52重量部、及び次亜リン酸ナトリウム(触媒)5重量部を、成分が完全に溶解するまで激しく攪拌しながら、容器に連続的に添加することによって生成する。
【0055】
すべてのサイジング組成物1~5及び5bisは、90重量%の水及び10重量%の乾燥物を含有する。全ての組成物は、ガラス繊維に基づく遮断物品を形成するために用いられる。
【0056】
ガラス繊維不織布紙の2つの積層片(60mm×10mm×0.250mm)に、各水性サイジング組成物をそれぞれ含浸させ、次いで含浸させたガラス繊維紙を、150℃の温度で4分間(試料1~5について)にわたって、又は210℃の温度で10分間(試料5bisについて)にわたって、硬化させる。
【0057】
試料の保存弾性率を、「TA InstrumentsのRSA-G2分析器」装置を用いた動的機械熱分析(DMTA)によって、硬化の際の3点曲げ試験を用いて測定する。
【0058】
測定装置の動作パラメータは、以下の通りである:
温度:25℃、
ポアソン比:0.45、
振動機械的応力の持続時間:120秒、
発振周波数:1.0Hz、
変形:0.1%、
試料採取速度:10点/秒。
【0059】
以下の表1は、各サイジング組成物を硬化させた後に得られたガラス繊維紙の保存弾性率を示す。各保存弾性率の値は、2~4個の個別測定値の計算平均値である。
【0060】
結果
【0061】
【0062】
本発明に従って生成されたガラス繊維紙、すなわちリグニンAと非ポリマー性有機ポリカルボン酸との組み合わせを含むサイジング組成物2~4を用いている、ガラス繊維紙は、リグニンのみを含む(すなわち架橋剤を含まない)サイジング組成物1(0.92GPa)を用いて生成されたガラス繊維紙よりも、高い保存弾性率(1.18GPa~2.74GPa)を示すことがわかりうる。さらに、比較的高い保存弾性率が、リグニンA及びクエン酸を含むサイジング組成物(組成物4)を用いて生成された遮断物品について得られる。また、本発明に従って生成されたガラス繊維紙(組成物2~4)が、以下を示すこともわかりうる:
- 公知の熱硬化性樹脂、例えば水素化糖に基づく樹脂など(組成物5、比較例)を用いて得られるガラス繊維紙の保存弾性率よりも高い保存弾性率、又は、
- 硬化工程の温度及び持続時間を増加させた場合の、水素糖系樹脂を用いて得られるガラス繊維紙の保存弾性率(比較例5bisを参照)と、同程度の保存弾性率。
【0063】
各組成物の総乾燥重量に基づいて、それぞれ重量パーセントで表される、表2に列挙された成分を含む水性サイジング組成物を生成する。
【0064】
組成物6(比較例)を、乳化可能なポリ(メチレンジフェニルイソシアネート)(pMDI)を水で乳化することによって生成する。本発明による組成物7及び8を、水中に溶解したリグニンAを含有する第1の溶液を、水中に溶解したコハク酸を含有する第2の溶液と混合することによって生成される。組成物9(比較例)を、水中に溶解したリグニンAを含有する第1の溶液を、水中に溶解したエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシド)を含有する第2の溶液と混合することによって生成する。
【0065】
サイジング組成物6は、40重量%の水及び60重量%の乾燥物を含有する。サイジング組成物7~9は、90重量%の水及び10重量%の乾燥物を含有する。
【0066】
各試験について、木質繊維を、水性サイジング組成物に含浸させる。木質繊維上に堆積した水性サイジング組成物6、8及び9の量は、木質繊維の重量に対して、乾燥物として表すと7重量%に等しい。木質繊維上に堆積した水性サイジング組成物7の量は、木質繊維の重量に対して、乾燥物として表すと10重量%に等しい。
【0067】
次いで、含浸された木質繊維を、60mm×10mm×12mmの開口キャビティ(開口空洞)を有する鋼鉄モールド内に均一に堆積させる。60mm×10mm×10mmの棒鋼を木質繊維の頂部上に置き、集合体全体を、恒温プレスで150℃かつ10バールの圧力で4分間にわたって加熱する。その後、モールドを、室温まで冷却することができた後、形成されたリグノセルロース繊維の試験片(60mm×10mm×2mm)を取り出す。
【0068】
このようにして得られた木質繊維の試験片は、約180kg/m3の密度を有する。
【0069】
曲げ保存弾性率(3点曲げ)を、「TA InstrumentsのRSA-G2分析器」装置を用いて動的機械熱分析(DMTA)によって、各試料について決定する。試料をまず、動的真空(20mbar)下のデシケーター内で数時間にわたって乾燥させる。測定装置の動作パラメータは、上述したものと同じである。
【0070】
以下の表2は、各サイジング組成物の硬化後に得られた木質繊維試料の保存弾性率を示す。各保存弾性率の値は、2~4個の個別測定値から算出した平均値である。
【0071】
結果
【0072】
【0073】
本発明に従って、すなわち(リグニン架橋剤として)リグニンとコハク酸との組み合わせを含むサイジング組成物8を用いて、生成した木質繊維試験片は、リグニン架橋剤が非ポリマー性有機カルボン酸ではなくエポキシドであるサイジング組成物9(比較例)を用いて生成した木質繊維試験片よりも高い保存弾性率(50.6GPa)を有することがわかりうる。同程度の保存弾性率が、公知のサイジング組成物6を用いて生成された木質繊維試験片、及び上記繊維上のサイジング組成物の量が比較的多い本発明によるサイジング組成物7を用いて生成された木質繊維試験片について、得られる。
【0074】
結論として、表1及び表2は、非ポリマー性有機カルボン酸と組み合わせたリグニンは、無機繊維及び天然有機繊維の両方を結合するために用いられてよく、また、公知のサイジング組成物を用いて得られるものと同程度の、又はそれよりもさらに良好な機械的特性を有する遮断物品を得るために用いられうることを示している。
【0075】
例2:
【0076】
リグニンBを採取し、上記リグニン上に存在するカルボン酸官能基及び第一級アルコール官能基の量を、赤外分光法により、約1190cm-1に位置するカルボン酸官能基のC-OOH結合ピークの強度及び約1040cm-1に位置する第一級アルコール官能基のC-OH結合ピークの強度を、上記リグニンB上に存在する全ての官能基の、1000cm-1~1300cm-1に位置する、C-O結合ピークの強度の合計と比較して、測定することによって決定する。C-O結合を有するリグニンB上に存在する全ての官能は、以下のものである:第一級及び第二級アルコール官能基(C-OH);芳香族ヒドロキシル官能基(Ar-OH)、酸官能基(C-OOH);芳香族エーテル官能基(Ar-OC)、脂肪族及びシクロ脂肪族エーテル官能基(C-OC)、並びにメチルエーテル官能基(C-OCH3)。
【0077】
次に、同じ測定をリグニンBについて実行し、これをまず次の条件で酸化する:pH≧13の水溶液中で、酸化剤としてH2O2+FeCl3を用い、95℃で120分間にわたって行う。この場合、C-O結合を有する酸化リグニンB上に存在する全ての官能基は、以下のものである:第一級及び第二級アルコール官能基(C-OH);芳香族ヒドロキシル官能基(Ar-OH)、酸官能基(C-OOH);芳香族エーテル官能基(Ar-OC)、脂肪族及びシクロ脂肪族エーテル官能基(C-OC)、並びにメチルエーテル官能基(C-OCH3)。
【0078】
次に、2つのサイジング組成物10及び11をそれぞれ、水中に溶解したリグニンB及び酸化リグニンBを、水中に溶解したコハク酸と混合することによって生成する。これらのサイジング組成物を、木質繊維上に堆積し、それによって、例1に記載の方法に従って木質ファイバーボード試験片を生成する。得られた上記木質繊維試験片の曲げ保存弾性率を、例1で説明したように動的機械熱分析(DMTA)によって測定する。
【0079】
表3は、各サイジング組成物について得られた結果を示す。
【0080】
【0081】
「非酸化」リグニンBよりも多くのカルボン酸官能基を含む、酸化リグニンB(「非酸化」リグニンでは1%未満であるのに対して酸化リグニンでは11%)を用いることは、最終遮断物品が同等の保存弾性率を有する、サイジング組成物を得るために添加されるコハク酸の量を減少させることがわかりうる(「非酸化」リグニンを用いた場合の50%に対して酸化リグニンを用いた場合は37.5%)。
【国際調査報告】