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特表2025-503441Li、Mg、P、S、及びハロゲン元素を含む固体材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】Li、Mg、P、S、及びハロゲン元素を含む固体材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/14 20060101AFI20250128BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20250128BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20250128BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250128BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250128BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C01B25/14
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535858
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2022085278
(87)【国際公開番号】W WO2023110697
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21306819.0
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エメリー, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】マルザリ, ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ムイ, ソクセイハ
(72)【発明者】
【氏名】エルコレ, ロリス
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ06
5H029CJ28
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA15
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
(57)【要約】
本発明は、高い計算上のイオン伝導度を有する以下の一般式(I):Li7-2x-yMg6-y (I)(式中、- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、- yは0.5≦y≦1などの数である)の固体材料、及び前記固体材料の製造方法に関する。本開示は、特には電池などの電気化学デバイスのための固体電解質としての、この固体材料の使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料。
【請求項2】
XがClである、請求項1に記載の固体材料。
【請求項3】
0.01≦x≦0.125であり、且つ
0.5≦y≦0.8である、
請求項1又は2に記載の固体材料。
【請求項4】
0.125≦x≦0.4であり、且つ
0.65≦y≦0.85である、
請求項1又は2に記載の固体材料。
【請求項5】
インピーダンス分光法により圧縮(500MPa)ペレットにおいて測定したときに少なくとも3.3mS/cmのイオン伝導度を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の固体材料。
【請求項6】
パラキシレン中でのレーザー回折によって測定したときに、
- 50μm未満のd50値、
- 0.05μm超のd10値、及び/又は
- 100μm未満のd90値、
を示す粒度分布を有する粉末形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の固体材料。
【請求項7】
固体材料の製造方法であって、
a)任意選択的には1種以上の溶媒中で、原料を混合することによって組成物を得る工程;
b)工程a)で得られた前記組成物に任意選択的に機械的処理を施す工程;
c)工程b)で得られた前記組成物から前記1種以上の溶媒の少なくとも一部を任意選択的に除去して固体残渣を得る工程;
d)工程c)からの前記固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
e)工程c)で得られた前記残渣を、例えばペレット形態で、不活性雰囲気下、350℃~580℃の範囲の温度に1時間~12時間の範囲の時間加熱し、それによって前記固体材料を形成する工程;並びに
f)工程e)で得られた前記固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料の製造方法。
【請求項8】
工程b)において、前記機械的処理が、湿式ミリング又は乾式ミリングによって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
固体材料の製造方法であって、
a’)1種以上の溶媒中で原料を混合することによって溶液を得る工程;
b’)工程a’)で得られた前記組成物から前記1種以上の溶媒の少なくとも一部を除去して固体残渣を得る工程;
c’)工程b’)からの前記固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
d’)工程b’)で得られた前記残渣を、例えばペレット形態で、不活性雰囲気下、350℃~580℃の範囲の温度に1時間~12時間の範囲の時間任意選択的に加熱し、それによって前記固体材料を形成する工程;並びに
e’)工程d’)で得られた前記固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料の製造方法。
【請求項10】
前記原料が、少なくとも硫化リチウム(LiS)と、硫化リン(P)と、塩化リチウム(LiCl)と、硫化マグネシウム(MgS)、塩化マグネシウム(MgCl)、及びそれらの混合物から選択されるマグネシウム化合物と、である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能な固体材料。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料の、固体電解質としての使用。
【請求項13】
少なくとも請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料を含む固体電解質。
【請求項14】
電極であって、少なくとも、
- 金属基材と、
- 前記金属基材に直接接着された少なくとも1つの層であって、
(i)請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料と
(ii)少なくとも1種の電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意選択的な本発明の前記固体材料以外の少なくとも1種のリチウムイオン伝導性材料(LiCM)と、
(iv)任意選択的な少なくとも1種の導電性材料(ECM)と、
(v)任意選択的なリチウム塩(LIS)と、
(vi)任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
を含む組成物から作製される少なくとも1つの層と、
を含む電極。
【請求項15】
少なくとも、
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の固体材料と
- 任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の金属塩、特にリチウム塩と、
- 任意選択的な少なくとも1種の可塑剤と、
を含むセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年12月17日出願の欧州特許出願第21306819.0号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、高い計算上のイオン伝導度を有する以下の一般式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料、及び前記固体材料の製造方法に関する。
【0003】
本開示は、特には電池などの電気化学デバイスのための固体電解質としての、この固体材料の使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
リチウム電池は、その高いエネルギー及び電力密度のため、携帯エレクトロニクス及び電気自動車に電力を供給するために使用されている。従来のリチウム電池は、有機溶媒中に溶解したリチウム塩から構成される液体電解質を利用している。前述のシステムは、有機溶媒が可燃性であるため、安全性の問題を提起する。リチウムデンドライトが生じ、液体電解質媒体を通過すると、短絡を引き起こして熱を生成する可能性があり、これは重傷につながる事故をもたらす。電解質溶液は、引火性液体であるため、電池に使用される場合に漏洩、発火等の発生の懸念がある。そのような懸念を考慮して、より高度な安全性を有する固体電解質の開発は、次世代リチウム電池のための電解質として期待される。
【0005】
不燃性の無機固体電解質は、安全性の問題に対する解決策を提供する。更に、その機械的安定性は、リチウムデンドライト形成を抑制し、自己放電及び加熱問題を予防し、且つ電池の寿命を延ばすのに役立つ。
【0006】
固体硫化物電解質は、その高いイオン伝導度及び機械的特性のため、リチウム電池用途にとって有利である。これらの電解質は、ペレット化し、コールドプレスによって電極材料に取り付けることができ、それは、高温組み立て工程の必要性を排除する。高温焼結工程をなくすことで、リチウム電池でリチウム金属アノードを使用することに対する問題の1つが取り除かれる。全固体リチウム電池の普及した使用のため、リチウムイオンに対して高い伝導率を有する固体電解質に対する増大する需要がある。重要なクラスのそのような固体電解質は、アルジロダイト構造を有する組成LiPSX(X=Cl、Br)の材料である。
【0007】
アルジロダイト結晶構造を持つLiPSX(X=Cl、Br、I)などの硫化物系固体電解質は、高い電気化学的安定性とイオン伝導度を有する超イオン伝導体である。これらの興味深い特性のため、そのような材料は数多くの研究の主題となっており、そのうちの一部はドーパントの使用を伴う。米国特許出願公開第2021/047195号明細書には、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Hg、Moなどの親硫黄性金属を使用してアルジロダイトの構造を変更し、HSの形成を防止し、その結果材料を安定化させることが記載されている。
【0008】
米国特許出願公開第2020/0194827号明細書には、イオン伝導度を向上させるためにアルカリ土類金属をドープした硫化物系固体電解質及びその製造方法が記載されている。式Li6-2xMePSHa(式中、Meはアルカリ希土類元素であり、Haはハロゲン元素であり、0<x≦0.5である)で表される硫化物系固体電解質は、式LiPSClのドープされていないアルジロダイトよりも高いイオン伝導度を示す。しかしながら、イオン伝導度の増加はかなり限定的である。
【0009】
国際公開第2021117869号パンフレットには、イオン伝導度を維持しながら耐湿性を向上させ、HSの発生を低減するために、複数の金属がドープされた硫化物系固体電解質及びその製造方法が記載されている。硫化物系固体電解質は、式LiPSで表され、式中、3.0≦a≦6.5であり、0<b≦2.0であり、3.5≦c≦5.5であり、0.5≦d≦3.0であり、Xはハロゲンであり、MはMgであってよい。しかしながら、例示したMg含有硫化物でも、測定されたイオン伝導度はかなり限定的である。
【0010】
しかしながら、化学的及び機械的安定性のような他の重要な特性を損なうことなく、より高いイオン伝導度及びより低い活性化エネルギーなどの最適化された性能を有する新しい固体硫化物電解質が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】

Li7-2x-yMgPS6-y
(式中、Xはハロゲンである)に対応する固体硫化物である化合物LiMgPSXのイオン伝導度を、xが0~0.5でありyが0.5~1.2である広範囲の組成にわたってコンピュータにより見積もった。その結果、ディープニューラルネットワークポテンシャルに基づく分子動力学法によって、異なる組成とそれらの予測される室温でのリチウムイオン伝導度を示す伝導度マップが作成された。
【0012】
驚くべきことに、以下に詳述する明確に定義された組成の固体硫化物電解質は、i)他の組成の固体硫化物である化合物LiMgPSX、ii)通常のLiPSCl材料、及びiii)先行技術で開示されているLiMgPSX固体材料と比較して、計算上のイオン伝導度が高いことが見出された。本発明のLiCuPSX固体材料は、それらの従来のリチウムアルジロダイトに少なくとも類似した化学的及び機械的安定性並びに加工性も示す。本発明の固体材料は、改善された生産性で製造することもでき、また得られる生成物の形態の制御も可能にする。
【0013】
したがって、本発明は、高いイオン伝導度を有すると計算された、以下の一般式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料に関する。
【0014】
本発明はまた、以下の一般式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料を製造するための方法であって、
a)任意選択的には1種以上の溶媒中で、原料を混合することによって組成物を得る工程;
b)工程a)で得られた組成物に任意選択的に機械的処理を施す工程;
c)工程b)で得られた組成物から1種以上の溶媒の少なくとも一部を任意選択的に除去して固体残渣を得る工程;
d)工程c)からの固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
e)工程c)で得られた残渣を、例えばペレット形態で、350℃~580℃の範囲の温度に1時間~12時間の範囲の時間加熱し、それによって固体材料を形成する工程;並びに
f)工程e)で得られた固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む方法にも関する。
【0015】
本発明はまた、以下の一般式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料を製造するための方法であって、
a’)1種以上の溶媒中で原料を混合することによって溶液を得る工程;
b’)工程a’)で得られた組成物から1種以上の溶媒の少なくとも一部を除去して固体残渣を得る工程;
c’)工程b’)からの固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
d’)工程b’)で得られた残渣を、例えばペレット形態で、不活性雰囲気下、350℃~580℃の範囲の温度に1時間~12時間の範囲の時間任意選択的に加熱し、それによって固体材料を形成する工程;並びに
e’)工程d’)で得られた固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む方法にも関する。
【0016】
本発明は、更に、前記方法によって得ることが可能な固体材料に関する。
【0017】
本発明は、以下の式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料の、固体電解質としての使用にも関する。
【0018】
本発明は、以下の式(I)の少なくとも1種の固体材料を含む固体電解質にも関する:
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)。
【0019】
本発明は、以下の式(I)の少なくとも1種の固体材料を含む少なくとも1種の固体電解質を含む電気化学デバイスにも関する:
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)。
【0020】
本発明は、以下の式(I)の少なくとも1種の固体材料を含む少なくとも1種の固体電解質を含む固体電池にも関する:
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)。
【0021】
本発明は、以下の式(I)の少なくとも1種の固体材料を含む少なくとも1種の固体電解質を含む少なくとも1つの固体電池を含む車両にも関する:
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)。
【0022】
本発明は、少なくとも、
- 金属基材と、
- 前記金属基材に直接接着された少なくとも1つの層であって、
(i)下記式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料と、
(ii)少なくとも1種の電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意選択的な本発明の前記固体材料以外の少なくとも1種のリチウムイオン伝導性材料(LiCM)と、
(iv)任意選択的な少なくとも1種の導電性材料(ECM)と、
(v)任意選択的なリチウム塩(LIS)と、
(vi)任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
を含む組成物から作製される少なくとも1つの層と、
を含む電極にも関する。
【0023】
本発明は、少なくとも
- 下記式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料と、
- 任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の金属塩、特にリチウム塩と、
- 任意選択的な少なくとも1種の可塑剤と、
を含むセパレータにも関する。
【0024】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、用語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「包含する(includes)」、「包含している(including)」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解されるであろう。好ましい実施形態によれば、用語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0025】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組み合わせを全て包含する。
【0026】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられること並びに範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、各数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに例えば122.2℃、140.6℃及び141.3℃などの明記された範囲内の小数点数などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0027】
用語「電解質」は、特に、それを通してイオン、例えばLiを移動させるが、それを通して電子を伝導させない材料を指す。電解質は、電解質を通してイオン、例えばLiを伝導させる一方、電池のカソードとアノードとを電気的に絶縁するのに有用である。本発明による「固体電解質」は、特に、材料が固体状態にある間にイオン、例えばLiがその中で動き回ることができる任意の種類の材料を意味する。
【0028】
本明細書で用いる場合、用語「アルジロダイト」又は「アルジロダイト結晶」は、結晶構造又は結晶結合配置を指す。この結晶構造又は結合配置は、化学式AgGeSで特徴付けられる銀ゲルマニウム硫化物鉱物である天然鉱物、アルジロダイトについての結晶構造に基づく。この結晶構造は、同形のアルジロダイト鉱物、AgSnSでも例示される。
【0029】
本明細書で用いる場合、用語「結晶相」は、結晶特性、例えばX線回折(XRD)によって測定されるような明確に定められたx線回折ピークを示す材料の分画の材料を指す。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「ピーク」は、バックグラウンドよりも実質的に大きいピーク強度を有する、強度v、度(2θ)のXRD粉末パターンのx軸上の(2θ)位置を指す。一連のXRD粉末パターンピークにおいて、主ピークは、分析中の化合物又は相に関係している最高強度のピークである。第2の主ピークは、第2の最高強度のピークである。第3の主ピークは、第3の最高強度のピークである。
【0031】
用語「電気化学デバイス」は、特に、例えば電気化学的及び/又は静電的プロセスによって電気エネルギーを発生させ、且つ/又は貯蔵するデバイスを指す。電気化学デバイスには、電池、とりわけ固体電池などの電気化学セルが含まれ得る。電池は、一次(すなわち単一又は「使い捨て」使用のための)電池又は二次(すなわち再充電可能な)電池であり得る。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「カソード」及び「アノード」は、電池の電極を指す。Li二次電池における充電サイクル中、Liイオンは、カソードから離れ、電解質を通してアノードに移動する。充電サイクル中、電子は、カソードから離れ、外部回路を通してアノードに移動する。Li二次電池における放電サイクル中、Liイオンは、電解質を通して及びアノードからカソードの方に移動する。放電サイクル中、電子は、アノードから離れ、外部回路を通してカソードに移動する。
【0033】
用語「車両」若しくは「車両の」又は他の同様の用語は、本明細書で用いる場合、一般に、スポーツユーティリティビークル(SUV)を含む乗用車、バス、トラック、様々な商用車、様々なボート及び船を含むウォータークラフト、航空機等のモータービークルを含み、ハイブリッド車、電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、水素自動車及び他の代替燃料車(例えば、石油以外の資源に由来する燃料)を含むことが理解される。本明細書で言及されるように、ハイブリッド車は、2つ以上の異なる動力源を有する車両、例えばガソリン動力及び電気動力車である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、したがって、一般式(I)
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料に関する。
【0035】
本発明の固体材料は、中性の電荷である。式(I)は、元素分析によって決定される実験式(グロス式)であることが理解される。したがって、式(I)は、固体材料中に存在する全ての相にわたって平均化された組成を規定する。
【0036】
Xは、好ましくはClである。
【0037】
通常、0.01≦x≦0.4である。いくつかの実施形態では0.01≦x≦0.125であり、いくつかの別の実施形態では0.125≦x≦0.4である。
【0038】
通常、0.5≦y<1である。いくつかの実施形態では0.5≦y≦0.8であり、いくつかの別の実施形態では0.65≦x≦0.85である。
【0039】
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
で、特に高いイオン伝導度が計算された(0.01≦x≦0.25且つ0.5≦y≦0.8である)。したがって、いくつかの実施形態では、0.01≦x≦0.25且つ0.5≦y≦0.8である。
【0040】
更に、
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
でも特に高いイオン伝導度が計算された(0.125≦x≦0.4且つ0.65≦y≦0.8である)。したがって、いくつかの別の実施形態では、0.125≦x≦0.4且つ0.65≦y≦0.85である。
【0041】
本発明の固体材料は、非晶質(ガラス)及び/又は結晶化(ガラスセラミック)であり得る。固体材料の一部のみが結晶化し得る。固体材料の結晶化部分は、1つのみの結晶構造を含み得るか、又は複数の結晶構造を含み得る。固体材料の結晶化度(イオン伝導度が非晶質のそれよりも高い結晶構造の結晶化度)は、好ましくは、80%~100%に含まれる。
【0042】
本発明の固体材料は、好ましくは、結晶相からなる分画を含み、ここで、前記結晶相の1つは、アルジロダイト構造を有する。好ましくは、アルジロダイト相を有する前記結晶相は、結晶相からなる分画の総重量の90~100%を構成する。そのような分画は、全ディフラクトグラムのリートベルト解析を用いるX線回折によって測定され得る。この改良は、多段階改良オプションを用いることによってFullProfソフトウェアで行うことができる。
【0043】
本発明の固体材料は、構造単位PS 3-及び構造単位PO 3-を含むことができ、好ましくは、構造単位PS 3-の量対構造単位PO 3-の量の比は、1000:1~9:1の範囲である。
【0044】
本発明の固体材料は、25℃でCuKα放射線を用いるx線回折によって分析されるとき、少なくとも15,65°±0,5°、25,53°±0,5°、30,16°±0,5°及び31,52°±0,5°(2θ)の位置にピークを含み得る。
【0045】
本発明の固体材料の結晶学的空間群は、好ましくは空間群226
【数1】
である。この空間群において、本発明の固体材料の格子定数は、25℃でCuKα放射線を用いるx線回折によって測定され、更にリートベルト及びLe Bail解析などの解析法を用いて、Fullprofソフトウェアなどの専用のソフトウェアで計算された場合、9,680Å~9,840Åの範囲とすることができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明による式(I)の固体材料は、以下の通りであってよい:
【0047】
【表1】
【0048】
いくつかの別の実施形態では、本発明による式(I)の固体材料は、以下の通りであってよい:
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
式(I)の化合物の組成は、とりわけ、例えばX線回折(XRD)及び誘導結合プラズマ-質量分析法(IPC-MS)など、当業者に周知の技法を用いる化学分析によって決定され得る。
【0052】
本発明の固体材料は、粉末形態であってよい。粉末は、そのサイズ又は粒度分布(PSD)によって特徴付けることができる。粉末の粒子のサイズは、パラキシレン中でのレーザー回折によって測定した場合に、
- 50μm未満、例えば、40μm未満、30μm未満、又は20μm未満のd50値、
- 0.05μm超のd10値、及び/又は
- 100μm未満、例えば90μm未満、80μm未満、又は70μm未満のd90値、
を示すものとすることができる。
【0053】
粉末は、凝集している粒子から構成され得る。
【0054】
粒度分布(PSD)の測定、例えば、d50値、d10値、及びd90値は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、少なくとも150である多数の粒子について実行することができる。
【0055】
或いは、パラキシレン中でのレーザー回折によって実行することができる。
【0056】
d50値は、粒度分布の分野で用いられる通常の意味を有する。dn値は、粒子のn%がdn未満の直径を有する粒子の直径に対応する。d50(中央値)は、50%における累積分布に対応するサイズ値として定義される。これらのパラメータは、通常、機器ソフトウェアによってあらかじめ定められた標準的な手順を用いて、レーザー回折計で得られる、液体中の固体材料の粒子の分散系の直径の容積での分布から決定される。レーザー回折計は、レーザー回折の技法を用いて、レーザー光線が分散した微粒子サンプルを通過するときに散乱される光の強度を測定することにより、粒子のサイズを測定する。レーザー回折計は、例えば、Malvernによって製造されるMastersizer 3000であり得る。
【0057】
D50は、とりわけ、超音波下での処理後に測定され得る。超音波下での処理は、液体中の固体材料の分散系中に超音波プローブを挿入することと、分散系を超音波処理にかけることとを含み得る。
【0058】
粉末の粒子は、球状の形状であり得る。
【0059】
粉末の粒子は、0.8~1.0、より具体的には0.85~1.0、更により具体的には0.90~1.0の球形度SRを示し得る。SRは、好ましくは0.90~1.0又は0.95~1.0であり得る。粒子の球形度は、次式:
SR=4πA/P
を用いて、測定された外周P及び粒子の投影面積Aの測定値から算出される。
【0060】
理想的な球については、SRは1.0であり、球状粒子についてはそれは1.0未満である。SRは、動的画像分析(DIA)によって決定され得る。DIAを実施するために使用することができる装置の例は、RetschのCAMSIZER(登録商標)P4又はSympatecのQicPic(登録商標)である。球形度は、より具体的には、ISO 13322-2(2006)に従って測定することができる。DIAは一般的に、統計学的に意味のある多数の粒子(例えば少なくとも500又は更に少なくとも1000)の分析を必要とする。
【0061】
本発明の粉末はまた、所定の条件下でHSの放出が少ないことによって特徴付けられる。この特徴は、粉末を湿った雰囲気に曝露し、粉末が前記雰囲気と接触している最初の50分間に放出されるHSの量を測定することにより測定できる。
【0062】
固体材料は、有利には、インピーダンス分光法によって加圧(500MPa)ペレットで測定したときに、少なくとも3.3mS/cm、例えば少なくとも3.4mS/cm、例えば3.5~15.0mS/cm、又は3.8~10.0mS/cmのイオン伝導度を示すことができる。
【0063】
イオン伝導度の測定は、加圧ペレットにおいて行われる。典型的に、加圧ペレットは、一軸又は平衡圧を用いて製造される。一軸圧力を適用してペレットが形成される場合、100MPa超、有利には300Mpa超の圧力が少なくとも30秒の時間印加される。測定は、典型的に2MPa~200MPaの一軸圧力下で行われる。
【0064】
本発明は、一般式(I)の固体材料を製造する方法であって、少なくとも硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物を任意選択的に1種以上の溶媒中に入れることを少なくとも含む方法にも関する。1種以上の硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物が使用され得る。
【0065】
とりわけ、本発明は、一般式(I)の固体材料を製造する方法であって、任意選択的には1種以上の溶媒中で、少なくとも硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物を反応させることを少なくとも含む方法にも関する。1種以上の硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物が使用され得る。
【0066】
本発明の固体材料は、例えば、溶融押出法、完全溶液法、機械ミリング法又は任意選択的に原料が1種以上の溶媒中で反応されるスラリー法など、硫化物ベースのガラス固体電解質を製造するために公知の先行技術で用いられた任意の方法によって製造され得る。
【0067】
本発明は、したがって、一般式(I)の固体材料の製造方法であって、
a)任意選択的には1種以上の溶媒中で、原料を混合することによって組成物を得る工程;
b)工程a)で得られた組成物に任意選択的に機械的処理を施す工程;
c)工程b)で得られた組成物から1種以上の溶媒の少なくとも一部を任意選択的に除去して固体残渣を得る工程;
d)工程c)からの固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
e)工程c)で得られた残渣を、例えばペレット形態で、不活性雰囲気下、350℃~580℃の範囲の温度に1時間~12時間の範囲の時間加熱し、それによって固体材料を形成する工程;並びに
f)工程e)で得られた固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む方法に関する。
【0068】
いくつかの実施形態では、工程a)は不活性雰囲気下で行われる。工程a)において使用される不活性雰囲気は、不活性ガス;すなわち反応の条件下で有害な化学反応を受けないガスの使用を指す。不活性ガスは、一般に、空気中の酸素及び水分での酸化及び加水分解反応など、望ましくない化学反応が起こることを回避するために使用される。そのため、不活性ガスは、特定の化学反応において、存在する他の試薬と化学反応しないガスを意味する。本開示に関連して、用語「不活性ガス」は、固体材料前駆体と反応しないガスを意味する。「不活性ガス」の例としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、ネオン、キセノン、HS、凝縮を含めて、1000ppm未満の液体及び浮遊形態の水を有するOが挙げられるが、それらに限定されない。ガスは、加圧することもできる。
【0069】
原料が窒素又はアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で互いに接触されるときに撹拌が行われることが好ましい。不活性ガスの露点は、好ましくは、-20℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。圧力は、0.0001Pa~100MPa、好ましくは0.001Pa~20MPa、好ましくは0.01Pa~0.5MPaであり得る。
【0070】
好ましくは工程a)において、不活性雰囲気は、HS、乾燥N、乾燥アルゴン又は乾燥空気などの不活性ガスを含む(乾燥は、凝縮を含めて、800ppm未満の液体及び浮遊形態の水を有するガスを指し得る)。
【0071】
各元素の組成比は、固体材料が製造されるときに原料化合物の量を調整することによって制御することができる。原料及びそれらのモル比は、目標化学量論比に従って選択される。目標化学量論比は、副反応及び他の損失なしの完全転化の条件下で前駆体の適用量から得られる、元素Li、Mg、P、S、Xの間の比を定める。
【0072】
硫化リチウムは、1つ以上の硫黄原子及び1つ以上のリチウム原子又は代わりに1つ以上の硫黄含有イオン基及び1つ以上のリチウム含有イオン基を含む化合物を指す。特定の好ましい態様において、硫化リチウムは、硫黄原子とリチウム原子とから構成され得る。好ましくは、硫化リチウムは、LiSである。
【0073】
硫化リンは、1つ以上の硫黄原子及び1つ以上のリン原子又は代わりに1つ以上の硫黄含有イオン基及び1つ以上のリン含有イオン基を含む化合物を指す。特定の好ましい態様において、硫化リンは、硫黄原子とリン原子とから構成され得る。非限定的な例示の硫化リンには、P、P、P10、P、P、P、P、P及びPが含まれ得るが、それらに限定されない。
【0074】
ハロゲン化合物は、化合物を構成する他の原子への化学結合(例えば、イオン結合又は共有結合)を介してF、Cl、Br又はIなどの1つ以上のハロゲン原子を含む化合物を指す。特定の好ましい態様において、ハロゲン化合物は、F、Cl、Br、Iの1つ以上又はそれらの組み合わせと、1つ以上の金属原子とを含み得る。別の好ましい態様において、ハロゲン化合物は、F、Cl、Br、Iの1つ以上又はそれらの組み合わせと、1つ以上の非金属原子とを含み得る。非限定的な例としては、好適には、LiF、LiBr、LiCl、LiI、NaF、NaBr、NaCl、NaI、KaF、KBr、KCl、KI等などの金属ハロゲン化物が挙げられ得る。特定の好ましい態様において、全固体Liイオン電池の固体電解質での使用に好適なハロゲン化合物は、1つ以上のハロゲン原子とLiとを含み得る。好ましくは、ハロゲン化合物は、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、ヨウ化リチウム(LiI)及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0075】
マグネシウム化合物とは、化合物を構成する他の原子との化学結合(例えばイオン結合又は共有結合)を介して、Mg原子を1つ以上含む化合物を指す。別の態様では、マグネシウム化合物は、金属マグネシウムとすることができる。特定の好ましい態様において、マグネシウム化合物は、1つ以上のMg原子と、1つ以上の非金属原子、例えばS、Cl、又はBとを含み得る。マグネシウム化合物は、好ましくは、MgS、MgCl、及びこれらの混合物からなる群から選択される。本発明のマグネシウム化合物は、金属マグネシウムと単体硫黄とのブレンドであってもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、硫化リチウムはLiSであり、硫化リンはPであり、ハロゲン化合物はLiClであり、マグネシウム化合物はMgS、MgCl、及びそれらの混合物から選択される。
【0077】
好ましくは、本発明の固体材料は、少なくとも以下の原料: LiS、P、並びにMgS、MgCl、及びそれらの混合物から選択されるマグネシウム化合物を使用することによって製造される。いくつかの実施形態では、本発明の固体材料は、少なくとも以下の原料:LiS、P、LiCl、及びMgSを使用することによって製造される。いくつかの別の実施形態では、本発明の固体材料は、少なくとも以下の原料:LiS、P、LiCl、及びMgClを使用することによって製造される。
【0078】
好ましくは、硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物は、0.5μm~400μmに含まれる平均粒径を有する粉末の形態である。粒径は、SEM画像解析又はレーザー回折解析で評価することができる。
【0079】
溶媒は、好適には、硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物から選択される少なくとも1種の化合物を実質的に溶解させ得る極性又は非極性溶媒のうちの1つ以上から選択され得る。前記溶媒は、上記の成分、例えば硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物を実質的に懸濁、溶解、或いは混合することもできる。
【0080】
本発明の溶媒は、したがって、上記の成分の1つ以上の分散系での連続相を工程a)において構成する。
【0081】
成分及び溶媒に応じて、成分のいくつかは、したがって、むしろ溶解しているか、部分的に溶解しているか又はスラリーの形態にある(すなわち、成分は溶解しておらず、その結果、溶媒と共にスラリーを形成している)。
【0082】
特定の好ましい態様において、溶媒は、好適には、極性溶媒である。溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールなどの、特に1~6個の炭素原子を有するアルカノール類;炭酸ジメチルなどの炭酸塩類;酢酸エチルなどの酢酸塩類;ジメチルエーテルなどのエーテル類;アセトニトリルなどの有機ニトリル類;ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;並びにテトラヒドロフラン、キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;からなる群から選択される極性溶媒である。
【0083】
本明細書では「溶媒」への言及は、1つ以上の混合溶媒を含むことが理解される。
【0084】
粉末混合物と溶媒との総重量を基準として約1重量%~80重量%の量の粉末混合物と、約20重量%~99重量%の量の溶媒とが混合され得る。好ましくは、粉末混合物と溶媒との総重量を基準として約25重量%~75重量%の量の粉末混合物と、25重量%~75重量%の量の溶媒とが混合され得る。特に、粉末混合物と溶媒との総重量を基準として約40重量%~60重量%の量の粉末混合物と、約40重量%~60重量%の量の溶媒とが混合され得る。
【0085】
溶媒の存在下での工程a)の温度は、好ましくは、溶媒と混合化合物との間の望ましくない反応性が見出されない温度において、選択された溶媒の溶融温度と、選択された溶媒の沸騰温度との間である。好ましくは、工程a)は、-20℃~40℃、より好ましくは15℃~40℃で行われる。溶媒の不在下では、工程a)は、-20℃~200℃、好ましくは15℃~40℃の温度で行われる。
【0086】
工程a)の継続時間は、好ましくは、1分~1時間である。
【0087】
工程b)における組成物に対する機械的処理は、湿式又は乾式ミリングによって行うことができ;とりわけ粉末混合物を溶媒に添加し、次いでとりわけ10分~80時間、より好ましくは約4時間~40時間の継続時間にわたり、約100rpm~1000rpmでミルにかけることによって行われ得る。
【0088】
前記ミリングは、リチウムアルジロダイトの従来の合成では反応性ミリングとしても知られている。
【0089】
機械ミリング法は、ガラス混合物の生成と同時に粉砕が起こるという利点も有する。機械ミリング法では、回転ボールミル、タンブリングボールミル、振動ボールミル及び遊星ボールミル等などの様々な方法を用いることができる。機械ミリングは、ZrOなどのボールを用いて又は用いずに行われ得る。
【0090】
そのような条件において、硫化リチウム、硫化リン、ハロゲン化合物、及びマグネシウム化合物は、所定の期間、任意選択的には溶媒中で反応される。
【0091】
溶媒の存在下での工程b)の温度は、溶媒と化合物との間の望ましくない反応性が見出されない温度において、選択された溶媒の溶融温度と、選択された溶媒の沸騰温度との間である。好ましくは、工程b)は、-20℃~80℃、より好ましくは15℃~40℃の温度で行われる。溶媒の不在下では、工程a)は、-20℃~200℃、好ましくは15℃~40℃で行われる。
【0092】
工程b)における組成物への機械的処理は、撹拌することにより、とりわけ標準的な粉体ミキサー又はスラリーミキサーを用いることによるなど、当技術分野において周知の技法を用いることによっても行われ得る。
【0093】
通常、ペースト又はペーストと液体溶媒とのブレンドが工程b)の終わりに得られ得る。
【0094】
工程c)において、溶媒の少なくとも一部は、とりわけ、使用された溶媒の総重量の少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%若しくは100%又はこれらの値の間に含まれる任意の範囲を除去するための手段で除去される。溶媒除去は、デカンテーション、濾過、遠心分離、乾燥又はそれらの組み合わせなど、当技術分野において用いられる公知の方法によって実施され得る。
【0095】
工程c)における温度は、溶媒の除去を可能にするために選択される。好ましくは、乾燥が溶媒除去の方法として選択される場合、温度は、選択された溶媒の沸騰温度未満で且つ選択された溶媒の蒸気分圧の関数として選択される。
【0096】
工程c)の継続時間は、1秒~100時間、好ましくは1時間~20時間である。そのような低継続時間は、例えば、噴霧乾燥によるなど、フラッシュ蒸発を用いることによって得られ得る。
【0097】
工程c)は、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスの露点は、好ましくは、-20℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。圧力は、0.0001Pa~100MPa、好ましくは0.001Pa~20MPa、好ましくは0.01Pa~20MPaであり得る。とりわけ、圧力は、とりわけ超真空技術を用いることによって0.0001Pa~0.001Paの範囲であり得る。とりわけ、圧力は、一次真空技術を用いることによって0.01Pa~0.1MPaの範囲であり得る。
【0098】
工程d)では、工程c)からの固体残渣をプレスしてペレットにすることができる。例えば、固体残渣を鋳型の中でプレスしてペレットを形成することができる。成形は、当業者に公知の装置で行うことができる。例として、一軸プレス又は単式打錠機を用いて成形を行うことができる。
【0099】
工程e)において、例えばペレットの形態で工程c)で得られた残渣の加熱又は熱処理は、とりわけ、上で得られた非晶質の粉末混合物(ガラス)を結晶質の固体材料又はガラスと結晶質との混合物(ガラスセラミックス)に変換することを可能にすることができる。
【0100】
熱処理は、350℃~580℃、例えば370℃~550℃又は390℃~530℃の範囲の温度で、特に1分~12時間、より具体的には2時間~10時間又は3時間~7時間にわたって行われる。熱処理は、直ちに高温で開始し得るか、又は1℃/分~20℃/分に含まれる速度での温度のランプによるものであり得る。熱処理は、空気急冷、又は加熱温度からの自然冷却、又は1℃/分~20℃/分に含まれる速度での温度の制御されたランプによって終わり得る。
【0101】
好ましくは工程e)において、不活性雰囲気は、乾燥N又は乾燥アルゴンなどの不活性ガスを含む(乾燥は、凝縮を含めて、800ppm未満の液体及び浮遊形態の水入りのガスを指し得る)。好ましくは、工程e)において、不活性雰囲気は、酸素及び水分の接近を最小限にする、好ましくは排除するために使用される保護ガス雰囲気である。
【0102】
加熱時の圧力は、標準圧又は減圧下であり得る。雰囲気は、窒素及びアルゴンなどの不活性ガスであり得る。不活性ガスの露点は、好ましくは、-20℃以下であり、-40℃以下が特に好ましい。圧力は、0.0001Pa~100MPa、好ましくは0.001Pa~20MPa、好ましくは0.01Pa~20MPaであり得る。とりわけ、圧力は、とりわけ超真空技術を用いることによって0.0001Pa~0.001Paの範囲であり得る。とりわけ、圧力は、一次真空技術を用いることによって0.01Pa~0.1MPaの範囲であり得る。
【0103】
工程f)において、固体材料を所望の粒度分布まで処理することが可能である。必要に応じて、上記本発明による方法により得られた固体材料は、粉末へとすり潰される(例えば、ミルにかけられる)。好ましくは、前記粉末は、動的光散乱又は画像解析によって決定したときに、50μm未満、より好ましくは10μm未満、更に好ましくは5μm未満の粒度分布のD50値を有する。
【0104】
好ましくは、前記粉末は、動的光散乱又は画像解析によって決定したときに、100μm未満、より好ましくは10μm未満、更に好ましくは5μm未満の粒度分布のD90値を有する。とりわけ、前記粉末は、1μm~100に含まれる粒度分布のD90値を有する。
【0105】
本発明は、したがって、一般式(I)の固体材料の製造方法であって、
a’)不活性雰囲気下、1種以上の溶媒中で原料を混合することによって溶液を得る工程;
b’)工程a’)で得られた組成物から1種以上の溶媒の少なくとも一部を除去して固体残渣を得る工程;
c’)工程b’)からの固体残渣を任意選択的にプレスしてペレットにする工程;
d’)工程b’)で得られた固体残渣を、例えばペレット形態で、不活性雰囲気下、350℃~580℃の範囲の温度に任意選択的に加熱し、それによって固体材料を形成する工程;並びに
e’)工程d’)で得られた固体材料を所望の粒度分布に任意選択的に処理する工程;
を含む方法にも関する。
【0106】
工程a’)の様々な特徴は、基本的には、例えば前駆体及び溶媒に関してなど、工程a)のものに類似している。好ましくは、工程a’)における温度は、-200℃~100℃、好ましくは-200℃~10℃の範囲である。
【0107】
工程b’)において述べられるような溶媒の除去における特徴は、工程c)において示されたようなものと類似のものであり得る。好ましくは工程b’)において、温度は、不活性雰囲気下及び好ましくは0.0001Pa~100MPaの圧力下で30℃~200℃の範囲である。
【0108】
工程c’)では、工程b’)からの固体残渣を、工程d)で表されるペレットへとプレスすることができる。
【0109】
工程d’)の加熱は、工程e)において示されたような特徴を有して実施され得る。好ましくは、350℃~580℃の範囲の温度、不活性雰囲気下及び好ましくは0.0001Pa~100MPaの圧力下におけるものである。
【0110】
工程e’)において述べられるような固体材料の処理の特徴は、工程f)において示されたようなものと類似のものであり得る。
【0111】
本発明は、固体電解質及び式(I)の固体材料を少なくとも含む固体電解質としての式(I)の固体材料にも関する。
【0112】
したがって、前記固体電解質は、少なくとも式(I)の固体材料と、本発明の固体材料以外の任意選択的な少なくとも1種のリチウムイオン伝導性材料(LiCM)、例えばリチウムアルジロダイト、リチウムチオホスフェート、例えばガラス又はガラスセラミックスLiPS、LiPS11、及びリチウム伝導性酸化物、例えばリチウム充填ガーネットLiLaZr12(LLZO)と、を含む。
【0113】
前記固体電解質は、任意選択的に、スチレンブタジエンゴムなどのポリマー、SiOなどの有機若しくは無機安定剤又は分散剤も含み得る。
【0114】
本発明は、式(I)の固体材料を少なくとも含む固体電解質を含む電気化学デバイスにも関する。
【0115】
好ましくは、電気化学デバイス、特に再充電可能な電気化学デバイスにおいて、固体電解質は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される電気化学デバイスのための固体構造の構成要素である。
【0116】
本発明の更なる態様は、電池、より好ましくはアルカリ金属電池、特に少なくとも1つ、例えば2つ以上の発明電気化学デバイスを含むリチウム電池に関する。電気化学デバイスは、発明アルカリ金属電池において互いに例えば直列接続又は並列接続で組み合わせることができる。
【0117】
本発明は、式(I)の固体材料を少なくとも含む固体電解質を含む固体電池にも関する。
【0118】
典型的には、リチウム固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、正極活物質層と負極活物質層との間に形成された固体電解質層とを含む。正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層の少なくとも1つは、上で定義されたような固体電解質を含む。
【0119】
全固体電気化学デバイスのカソードは、通常、カソード活物質に加えて更なる構成要素として固体電解質を含む。全固体電気化学デバイスのアノードは、通常、アノード活物質に加えて更なる構成要素として固体電解質も含む。
【0120】
電気化学デバイス、特に全固体リチウム電池のための固体構造の形態は、特に、製造される電気化学デバイス自体の形態に依存する。本発明は、電気化学デバイスのための固体構造であって、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される固体構造を更に提供し、ここで、電気化学デバイスのための固体構造は、本発明による固体材料を含む。
【0121】
複数の電気化学セルは、固体電極及び固体電解質を両方とも有する全固体電池に組み合わされ得る。
【0122】
上で開示された固体材料は、電極の製造に使用され得る。電極は、正極又は負極であり得る。
【0123】
電極は典型的には、
- 金属基材と、
- 前記金属基材に直接接着された少なくとも1つの層であって、
(i)下記式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料と、
(ii)少なくとも1種の電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意選択的な本発明の前記固体材料以外の少なくとも1種のリチウムイオン伝導性材料(LiCM)と、
(iv)任意選択的な少なくとも1種の導電性材料(ECM)と、
(v)任意選択的なリチウム塩(LIS)と、
(vi)任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
を含む組成物から作製される少なくとも1つの層と、
を含む。
【0124】
数値x及びyは、前述した別の範囲に属していてもよい。
【0125】
電気活性化合物(EAC)は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にリチウムイオンをその構造中に組み入れるか又は挿入し、且つ放出することができる化合物を意味する。EACは、リチウムイオンをその構造中に挿入し、且つ脱離することができる化合物であり得る。正極(カソード)について、EACは、式LiMeQ(式中、
- Meは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、Al及びVからなる群において選択される少なくとも1つの金属であり;
- Qは、O又はSなどのカルコゲンである)
の複合金属カルコゲナイドであり得る。
【0126】
EACは、より具体的には、式LiMeOのものであり得る。EACの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoMn(0<x、y、z<1及びx+y+z=1)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1、Li(NiCoAl)O(x+y+z=1)並びにスピネル構造化LiMn及びLi(Ni0.5Mn1.5)Oが挙げられる。
【0127】
EACは、式M(JO1-f(式中、
- Mは、Mの20%未満である別のアルカリ金属によって部分的に置き換えられ得るリチウムであり;
- Mは、+1~+5の酸化レベルにおける、且つ0を含めて、M金属の35%未満である1つ以上の追加の金属によって部分的に置き換えられ得る、Fe、Co、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルでの遷移金属であり;
- JOは、JがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかである任意のオキシアニオンであり;
- Eは、フッ化物、水酸化物又は塩化物アニオンであり;
- fは、一般的に、0.75~1に含まれるJOオキシアニオンのモル分率である)
のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質であってもよい。
【0128】
上で定義されたようなM(JO1-f電気活物質は、好ましくは、ホスフェート系である。それは、規則的構造又は変性カンラン石構造を示し得る。
【0129】
正極について、EACは、硫黄又はLiSであってもよい。
【0130】
正極について、EACはまた、FeS、又はFeF、又はFeFなどの変換型材料であってもよい。
【0131】
負極について、EACは、リチウムを挿入できる黒鉛炭素からなる群において選択され得る。このタイプのEACに関する更なる詳細は、Carbon 2000,38,1031-1041に見出され得る。このタイプのEACは、典型的には、粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)の形態で存在する。
【0132】
EACは、リチウム金属;リチウム合金組成物(例えば、米国特許第6,203,944号明細書及び国際公開第00/03444号パンフレットに記載されているもの);一般に、式LiTi12で表されるチタン酸リチウム(これらの化合物は、一般に、可動イオン、すなわちLiを取り込むと低レベルで物理的に膨張する「ゼロ歪み」挿入材料と見なされる);高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られるリチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;及び式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金でもあり得る。EACは、ケイ素及び/又は酸化ケイ素入り炭素質材料、とりわけ黒鉛炭素/ケイ素及び黒鉛/酸化ケイ素に基づく複合材料でもあり得、ここで、黒鉛炭素は、リチウムを挿入できる1つ又は幾つかの炭素から構成されている。
【0133】
ECMは、典型的には、導電性炭素質材料及び金属粉末又は繊維からなる群において選択される。導電性炭素質材料は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェン及び黒鉛繊維並びにそれらの組み合わせからなる群において選択され得る。カーボンブラックの例としては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが挙げられる。金属粉末又は繊維には、ニッケル及びアルミニウム粉末又は繊維が含まれる。
【0134】
リチウム塩(LIS)は、LiPF、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、LiB(C、LiAsF、LiClO、LiBF、LiAlO、LiNO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiN(SOCF、LiCSO、LiCFSO、LiAlCl、LiSbF、LiF、LiBr、LiCl、LiOH及びリチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾールからなる群において選択され得る。
【0135】
ポリマー系結合材料(P)の機能は、組成物の成分を結び付けることである。ポリマー系結合材料は、通常、不活性である。それはまた、好ましくは、化学的に安定であり、且つ電子的及びイオン的輸送を容易にするべきである。ポリマー系結合材料は、当技術分野において周知である。ポリマー系材料(P)の非限定的な例としては、とりわけ:(1)とりわけコポリマー、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーの形態のVDF又はTFE系ポリマー;(2)ポリイソブチレン(PIB)、ブタジエンスチレンゴム(SBR)、(水素化)アクリロニトリルブタジエンゴム((h)NBR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)等のとりわけブロックコポリマー及びグラフトポリマーの形態の水素化又は非水素化ジエン系ゴム重合体;(3)ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリブチルアクリレート(BA)、スチレン-ブチルアクリレート(ST-BA)、スチレンメチルアクリレート(ST-MA)、ブチルアクリレート-アクリロニトリル(BA-CN)等のとりわけコポリマー、ブロックコポリマー及びグラフトコポリマーの形態の少なくとも1つのアルキル(メタ)アクリレートを含むポリマー;(4)カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアル等の多糖系ポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー及びグラフトコポリマー;(5)ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、アクリロニトリル-メチルアクリレート(PAN-MA)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)等のとりわけコポリマーブロックコポリマー及びグラフトポリマーの形態のアクリロニトリルをベースとしたポリマー;(6)ポリアミドイミド(PAI)ポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー及びグラフトポリマーが挙げられる。
【0136】
ポリマー系材料(P)は、フッ化ビニリデン(VDF)系(コ)ポリマーからなるリストの中で選択することができる。ポリマー系材料(P)はより詳しくは、VDF及びヘキサフロオロプロピレン(HFP)の単位を含むか又はからなるコポリマーであり得る。
【0137】
ポリマー系材料(P)は、スチレンをベースとした任意選択的に水素化された熱可塑性エラストマーからなるリストの中で選択することができる。ポリマー系材料(P)はより詳しくは、ブタジエンスチレンゴム(SBR)又はスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)であり得る。
【0138】
ポリマー系材料(P)は、アクリロニトリルの単位を含むポリマーからなるリストの中で選択することができる。ポリマー系材料(P)はより詳しくは、アクリロニトリル、ブタジエン及び/又はブチルアクリレートのコポリマーであり得る。
【0139】
組成物中の本発明の固体材料の割合は、組成物の総重量を基準として0.1重量%~80重量%であり得る。特に、この割合は、1.0重量%~60重量%、より特に5重量%~30重量%であり得る。電極の厚さは、特に制限されず、用途において必要とされるエネルギー及び出力に関して調整されるべきである。例えば、電極の厚さは、0.01mm~1,000mmであり得る。
【0140】
本発明の固体材料は、セパレータの製造にも使用され得る。セパレータは、電池のアノードとカソードとの間に配置されるイオン透過性の膜である。その機能は、電子を遮断し、電極間の物理的分離を確実にしながら、リチウムイオンを透過させることである。
【0141】
本発明のセパレータは、典型的には、少なくとも、
- 下記式(I):
Li7-2x-yMgPS6-y (I)
(式中、
- Xは、F、Cl、I、及びBrからなる群から選択されるハロゲン又はそれらの組み合わせであり、
- xは0.01≦x≦0.4などの数であり、
- yは0.5≦y≦1などの数である)
の固体材料と、
- 任意選択的な少なくとも1種のポリマー系結合材料(P)と、
- 任意選択的な少なくとも1種の金属塩、特にリチウム塩と、
- 任意選択的な少なくとも1種の可塑剤と、
を含む。
【0142】
数値x及びyは、前述した別の範囲に属していてもよい。
【0143】
電極及びセパレータは、当業者に周知の方法を用いて製造され得る。これは、通常、適切な溶媒中で成分を混合し、溶媒を除去することを含む。例えば、電極は、以下の工程:
- 組成物の成分と少なくとも1種の溶媒とを含むスラリーを金属基材上に塗布する工程;
- 溶媒を除去する工程
を含む方法によって製造され得る。
【0144】
当業者に公知の通常の技術は、以下のもの:コーティング及びカレンダー加工、乾式及び湿式押出、3D印刷、多孔質フォームの焼結、引き続く含浸である。電極及びセパレータの通常の製造技術は、Journal of Power Sources,2018 382,160-175に提供されている。他の技術、例えば押出、ペースト押出、(電気)吹付け、混練、その後にカレンダリングを用いてもよい。
【0145】
電気化学デバイス、とりわけ本明細書で記載される固体電池などの電池は、自動車、コンピュータ,携帯端末、携帯電話、時計、カムコーダー、デジタルカメラ、温度計、計算機、ラップトップBIOS、通信設備又はリモートカーロック及びパワープラントのためのエネルギー貯蔵デバイスなどの定置型応用を製造又は運転するために使用することができる。
【0146】
電気化学デバイス、とりわけ本明細書で記載される固体電池などの電池は、とりわけ、動力車、電動機によって運転される自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンなどの無人航空機)、船又は定置型エネルギー貯蔵所に使用することができる。車両、例えば自動車、自転車、航空機又はボート若しくは船などの水上車両などのモバイルデバイスが好ましい。モバイルデバイスの他の例は、携帯可能であるもの、例えばコンピュータ、特にラップトップ、電話機又は例えば建設部門からの電動工具、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー又は電池駆動鋲打ち機である。
【0147】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0148】
実験の部
X線回折
サンプルのX線回折は、Malvern PanalyticalのAeris Research回折計(Cu、600W、40kV、15mA、Sollerスリット0.02°)を用いて収集した。回折は、10°~90°の範囲で2時間にわたって収集した。格子パラメータは、Full-Prof Suiteを使用する回折プロファイルのフィッティングによって判定した。プロファイルフィッティングは、アルジロダイトのF-43M空間群を使用して行った。
【0149】
導電率及び電気化学インピーダンス分光法(EIS)
インピーダンス分光測定を行うために、粉末を2枚の乾燥済みのカーボンペーパー電極(MersenのPapyex軟質黒鉛、厚さ0.2mm)で挟み、6mmのダイの中に500MPaで冷間プレスした(Eurolaboの一軸手動プレスMS15-MDD)。その後、得られたペレットを気密測定セル(MTIのEQ-PSC)にロードした。全ての測定は40MPaの圧力で行った。
【0150】
イオン伝導度:ACインピーダンススペクトルをBiologic VMP3を使用して収集し、サンプルの温度はバインダー恒温槽で制御した。セルをガルバノスタット-ポテンショスタットに接続し、1MHzから10kHzまでのOCV付近で20mVの正弦波摂動という条件でPEISスペクトルを記録し、10回ごとに25ポイント記録し、各ポイントを50回の測定から平均化する。モデル回路を使用して曲線をフィッティングし、イオン抵抗を抽出した。温度試験は各温度で2時間のステップで行い、最後にスペクトルを記録する。温度は-20℃から60℃に設定し、30℃に戻る。
【0151】
電子伝導度は、2ボルトでのDC測定によって測定し、漸近法によって1時間後に決定する。
【0152】
EIS測定は、本発明によるLiPSMgX固体材料が、先行技術によるLiPSMgX材料の導電度及び活性化エネルギーと比較して、改善されたイオン導電度及びより低い又は同様の活性化エネルギーを有することを示している。
【0153】
モデリング
異なる組成及び予測される室温でのリチウムイオン伝導度を示す伝導度マップを、ディープニューラルネットワークポテンシャルに基づく分子動力学によって作成した。この手法は、古典的な分子動力学シミュレーションを実行するための原子間ポテンシャルの機械学習モデルに依存する。ニューラルネットワークポテンシャルは、ab-initio分子動力学で学習させ、様々な原子に作用する力を、ab-initioシミュレーションから直接得られるものにフィッティングした。学習セットは、48~54個の原子を含む、x=0、0.5、y=0.5、1.0、1.2であるLi7-2x-yMgPS6-yClの従来の単位格子で生成した。シミュレーションは1000Kで約120ps実行し、スナップショット(全エネルギーと各原子に加わる力を含む)を約6psごとに取得し、学習セットを生成した。学習させた後、これらのニューラルネットワークポテンシャルは、ab-initio分子動力学で典型的に計算可能な範囲よりもはるかに大きな系、低温、又は欠陥の多い系をモデル化するために使用される。本明細書のケースでは、384~432個の原子を含む従来の単位格子の2×2×2の超格子について、1250K、1000K、830K、715K、625Kで、それぞれ200ps、250ps、300ps、400ps、800psのシミュレーションを行い、そこから室温(300K)におけるLiイオン伝導度を外挿した。
【0154】
Xがハロゲンである式Li7-2x-yMgPS6-yに対応する固体硫化物である化合物LiMgPSXのイオン伝導度を、xが0から0.5まで、yが0.5から1.2までの広い組成範囲にわたって計算で見積もった。
【0155】
比較例1:LiPSClの合成
Arを充填したグローブボックス内で、LiS(Lorad Chemical)、LiCl(Sigma-Aldrich)、及びP(Sigma-Aldrich)を化学量論比で秤量及び混合して、目的の組成のLiPSClを4g得た。次いで、混合物を、5mmのジルコニア(YSZ)ボールが入っている45mLのZrOジャーに移した。粉末に対するボールの比率は16.5に固定した。ジャーを密閉し、グローブボックスから取り出し、Fritsch Planetary Micro Mill Pulverisette7に入れた。混合物を、30分の粉砕ごとに15分間の休憩を入れながら、500RPMの回転速度で2時間ボールミル粉砕した。粉末は、Arが充填されたグローブボックス(<1ppmH0、<1ppmO)内で回収した。得られた粉末を密閉されたSiCるつぼに移した。るつぼをN雰囲気の管状炉で5℃/分の加熱速度で500℃まで加熱し、この温度で12時間保持した。その後、サンプルを室温まで冷却した。これをArが充填されたグローブボックス内で回収し、乳鉢で解凝集した。
【0156】
アルジロダイト相が同定され、純粋であり、格子定数は9.8519Åであった。
【0157】
0.38eVの活性化エネルギーと関連する30℃におけるイオン伝導度は3.2mS/cmであった。30℃における電子伝導度は4×10-9S/cmであった。
【0158】
比較例2:Li5,8Mg0.1PSClの合成
Arを充填したグローブボックス内で、LiS(Lorad Chemical)、LiCl(Sigma-Aldrich)、MgCl(Sigma-Aldrich)、及びP(Sigma-Aldrich)を化学量論比で秤量及び混合して、目的の組成のLi5.8Mg0.1PSClを4g得た。次いで、混合物を、5mmのジルコニア(YSZ)ボールが入っている45mLのZrOジャーに移した。粉末に対するボールの比率は16.5に固定した。ジャーを密閉し、グローブボックスから取り出し、Fritsch Planetary Micro Mill Pulverisette7に入れた。混合物を、30分の粉砕ごとに15分間の休憩を入れながら、500RPMの回転速度で2時間ボールミル粉砕した。粉末は、Arが充填されたグローブボックス(<1ppmH0、<1ppmO)内で回収した。得られた粉末を密閉されたSiCるつぼに移した。
【0159】
るつぼをN雰囲気の管状炉で5℃/分の加熱速度で500℃まで加熱し、この温度で12時間保持した。その後、サンプルを室温まで冷却した。これをArが充填されたグローブボックス内で回収し、乳鉢で解凝集した。
【0160】
アルジロダイト相が同定され、純粋であり、格子定数は9.8457Åであった。
【0161】
0.38eVの活性化エネルギーと関連する30℃におけるイオン伝導度は1.6mS/cmであった。30℃における電子伝導度は3.10-9S/cmであった。
【0162】
比較例3:Li5.25Mg0.25PS4.75Cl1.25の合成
Arを充填したグローブボックス内で、LiS(Lorad Chemical)、LiCl(Sigma-Aldrich)、MgCl(Sigma-Aldrich)、及びP2S5(Sigma-Aldrich)を化学量論比で秤量及び混合して、目的の組成のLi5.25Mg0.25PS4.75Cl1.25を4g得た。次いで、混合物を、5mmのジルコニア(YSZ)ボールが入っている45mLのZrOジャーに移した。粉末に対するボールの比率は16.5に固定した。ジャーを密閉し、グローブボックスから取り出し、Fritsch Planetary Micro Mill Pulverisette7に入れた。混合物を、30分の粉砕ごとに15分間の休憩を入れながら、500RPMの回転速度で2時間ボールミル粉砕した。粉末は、Arが充填されたグローブボックス(<1ppmH0、<1ppmO)内で回収した。得られた粉末を密閉されたSiCるつぼに移した。るつぼをN雰囲気の管状炉で5℃/分の加熱速度で500℃まで加熱し、この温度で12時間保持した。その後、サンプルを室温まで冷却した。これをArが充填されたグローブボックス内で回収し、乳鉢で解凝集した。
【0163】
アルジロダイト相が同定され、ほぼ純粋であった。微量のMgSも観察される。アルジロダイトの格子定数は9.8188Åであった。
【0164】
0.38eVの活性化エネルギーと関連する30℃におけるイオン伝導度は2.6mS/cmであった。30℃における電子伝導度は2×10-9S/cmであった。
【国際調査報告】