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特表2025-503457神経系損傷及び障害の治療のための安息香酸塩
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】神経系損傷及び障害の治療のための安息香酸塩
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20250128BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20250128BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 31/216 20060101ALI20250128BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P25/02
A61P25/00
A61P25/24
A61P25/28
A61K31/216
A61K31/045
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536317
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 US2022053034
(87)【国際公開番号】W WO2023114414
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/290,633
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519376579
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ ガバメント アズ リプレゼンティド バイ ザ デパートメント オブ ヴェテランズ アフェアーズ
(71)【出願人】
【識別番号】517318218
【氏名又は名称】ラッシュ ユニヴァーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】パハン カリパダ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA03
4C206DA13
4C206DA17
4C206DA22
4C206DB04
4C206DB13
4C206DB16
4C206DB47
4C206DB54
4C206FA08
4C206FA09
4C206FA32
4C206FA33
4C206FA35
4C206KA12
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA41
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA12
4C206ZA15
4C206ZA20
4C206ZB22
(57)【要約】
対象における神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させるための安息香酸の塩及びそのプロドラッグが開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させることを必要とする対象において、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させる方法であって、対象に有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与し、それによって神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させることを含む、方法。
【請求項2】
安息香酸塩が、存在する場合、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
安息香酸塩のプロドラッグが、存在する場合、桂皮酸ベンジル、三安息香酸グリセリル、桂皮酸、酢酸ベンジル、ベンジルアルコール、安息香酸、キナ酸、フェニルアラニン、チロシン、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象が、尿素サイクル障害、グリシン脳症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、又は自閉症スペクトラム障害と診断されていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
対象が、投与するステップの前に神経系損傷と診断されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
神経系損傷が、中枢神経系(CNS)損傷又は末梢神経損傷である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
神経系損傷が、脊髄損傷(SCI)、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグが、SCI、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷後24時間以内に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
神経系損傷が、外傷性脳損傷(TBI)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
神経系損傷が、脱髄障害である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
脱髄障害が、視神経炎、X副腎白質ジストロフィー、クラッベ病、進行性多巣性白質脳症、副腎脊髄神経障害、急性播種性脳脊髄炎、急性出血性白質脳炎、多発性硬化症、バロー病(同心円硬化症)、シャルコ・マリー・トゥース病、ギラン・バレー症候群、HTLV-I関連性骨髄症、視神経脊髄炎(デビック病)、シルダー病、横断性脊髄炎、又はそれらの組み合わせである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグが、外傷性脳損傷後24時間以内に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与することが、グリア炎症の低減、運動機能若しくは協調性の改善、又は学習若しくは記憶機能障害の改善をもたらす、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与することが、気うつに関連する症状を予防するか、又はその重症度を低減させる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
安息香酸塩又はそのプロドラッグが、安息香酸塩又はそのプロドラッグ及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として投与され、前記組成物が、組成物の0.1重量%超の安息香酸塩又はそのプロドラッグを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
安息香酸塩又はそのプロドラッグが、経口投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させることを必要とする対象において、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させる方法であって、対象に有効量の安息香酸ナトリウムを投与し、それによって神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか又はその重症度を低減させることを含む、方法。
【請求項18】
対象が、尿素サイクル障害、グリシン脳症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、又は自閉症スペクトラム障害と診断されていない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
対象が、投与するステップの前に神経系損傷と診断されている、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
神経系損傷が、中枢神経系(CNS)損傷又は末梢神経損傷である、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
神経系損傷が、脊髄損傷(SCI)、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷である、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
有効量の安息香酸ナトリウムが、SCI、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷後24時間以内に投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
神経系損傷が、外傷性脳損傷(TBI)である、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
神経系損傷が、脱髄障害である、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
脱髄障害が、視神経炎、X副腎白質ジストロフィー、クラッベ病、進行性多巣性白質脳症、副腎脊髄神経障害、急性播種性脳脊髄炎、急性出血性白質脳炎、多発性硬化症、バロー病(同心円硬化症)、シャルコ・マリー・トゥース病、ギラン・バレー症候群、HTLV-I関連性骨髄症、視神経脊髄炎(デビック病)、シルダー病、横断性脊髄炎、又はそれらの組み合わせである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
有効量の安息香酸ナトリウムが、外傷性脳損傷後24時間以内に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
有効量の安息香酸ナトリウムを投与することが、グリア炎症の低減、運動機能若しくは協調性の改善、又は学習若しくは記憶機能障害の改善をもたらす、請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
有効量の安息香酸ナトリウムを投与することが、気うつに関連する症状を予防するか、又はその重症度を低減させる、請求項17~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
安息香酸ナトリウムが、安息香酸ナトリウム及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物として投与され、前記組成物が、組成物の0.1重量%超の安息香酸ナトリウムを含む、請求項17~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
安息香酸ナトリウムが、経口投与される、請求項17~29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月16日に出願された米国特許仮出願第63/290,633号の優先権を主張し、これは、その全体が参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
毎年、米国では約170万人、世界では1,000万の人々が外傷性脳損傷(TBI)に苦しんでいる。TBIは、米国における死亡及び身体障害の主な原因であり、全ての損傷関連死亡の約30%に寄与している。全ての人々にリスクがあるが、軍人は、職業の性質によりTBIのリスクがより高い。TBI中、慢性神経炎症並びに脱髄及び/又は再髄鞘形成不全が、軍人の間での身体障害に重要に寄与する。TBIに関連するある特定の身体的、感情的、及び認知的問題を低減させるか、又は取り除くための治療があるが、TBIから回復するためには、人にとって効果的な神経保護療法が必要である。
【0003】
TBI及び他の神経系損傷の後に、一連の複雑な病態生理学的事象が生じ、構造的ダメージ及び機能的欠損の両方を引き起こす。神経系におけるグリア細胞の活性化及び関連する炎症促進分子の上方調節は、いくつかの神経変性疾患及び神経炎症性疾患の病因に関与する。したがって、急性及び慢性TBIの両方の主な特徴のうちの1つはまた、TBIの数分以内に証明される神経炎症である。局所TBI及びびまん性TBIの実験動物からの研究は、IL-1β、TNF-α、及び誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)などの様々な炎症促進分子がTBIの病因に関与することを示した。多くの臨床研究は、健常な対照と比較して、TBI患者のCSF及び血清中のIL-1β及びTNF-αの増加を示した。脳における広域スペクトルの炎症促進分子の上方調節は、浮腫、血液脳関門(BBB)の漏出、ニューロンのアポトーシス、及び萎縮を引き起こし、最終的に機能障害につながる。TBIを含む神経系損傷のためのより効果的な治療の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを必要とする対象において、それを行う方法は、対象に、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与し、それによって、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを含む。
【0005】
別の態様では、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを必要とする対象において、それを行う方法は、対象に、有効量の安息香酸ナトリウムを投与し、それによって、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを含む。
【0006】
添付の図面と併せて読むと、前述の要約、及び本開示の以下の説明をよりよく理解できる。本開示を例示する目的で、図面は、全てではないが、いくつかの代替的な実施形態を例示する。この開示は、示される正確な配置及び手段に限定されるものではない。本明細書に組み込まれ、本明細書の一部分を構成する以下の図は、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1Aは、マウスの脳が露出したCCI機器の先端の写真である。CCI技術を使用して、麻酔したマウスの曝露した脳領域に脳損傷を穏やかに誘導した。 図1Bは、脳において誘導されたCCIを示す写真である。穿頭孔(定位座標-ブレグマから1.5mm後方及び1.5mm側方)における血栓及び組織ダメージが、CCI損傷後のマウスの損傷した脳領域において見られた。 図1Cは、それぞれ3つの異なる速度、すなわち、1.0V、1.25V、及び1.5Vで、1mmの先端を使用した、軽度、中等度、及び重度のCCI損傷の誘導を示す画像である。損傷の1週間後、マウス(n=3)を4%のパラホルムアルデヒドで灌流し、続いて、脳を取り出し、脳切片をクレシルバイオレットで染色した。 図1Dは、CCI損傷(1mm先端/1.0V)後の処置、行動、及び組織学的分析の経過を示す実験設計の概略図である。
図2図2Aは、対照についての脳切片におけるGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導後、経口投与により50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間のNaB処置後、脳切片をGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光によって分析した。これらの結果は、NaBの経口処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬領域におけるインビボでの星細胞の活性化を減弱させることを示す。 図2Bは、CCI損傷についての脳切片におけるGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光の画像である。CCI損傷の誘導後、経口投与により、マウスを50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間のNaB処置後、脳切片をGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光によって分析した。これらの結果は、NaBの経口処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬領域におけるインビボでの星細胞の活性化を減弱させることを示す。 図2Cは、CCI+NaBについての脳切片におけるGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光の画像である。CCI損傷の誘導後、経口投与により、マウスを50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間のNaB処置後、脳切片をGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光によって分析した。これらの結果は、NaBの経口処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬領域におけるインビボでの星細胞の活性化を減弱させることを示す。 図2Dは、CCI+NaFOについての脳切片におけるGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光の画像である。CCI損傷の誘導後、経口投与により、マウスを50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間のNaB処置後、脳切片をGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光によって分析した。これらの結果は、NaBの経口処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬領域におけるインビボでの星細胞の活性化を減弱させることを示す。 図2Eは、皮質領域において計数されたGFAPに対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図2Fは、CA1領域において計数されたGFAPに対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図2Gは、皮質領域において計数されたiNOSに対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図2Hは、CA1領域において計数されたiNOSに対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図2Iは、GFAPについての全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬領域の組織抽出物の免疫ブロット画像である。アクチンをローディング対照として実行した。 図2Jは、免疫ブロットバンドスキャンによって得られた対照に対するGFAP/アクチンの値を示すプロットである。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。
図3図3Aは、対照についてのIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導の24時間後から50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間の処置後、脳切片をIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光によって分析した。これらの結果は、NaB処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボでのミクログリア活性化を阻害することを示す。 図3Bは、CCI損傷についてのIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導の24時間後から50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間の処置後、脳切片をIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光によって分析した。これらの結果は、NaB処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボでのミクログリア活性化を阻害することを示す。 図3Cは、CCI+NaBについてのIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導の24時間後から50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間の処置後、脳切片をIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光によって分析した。これらの結果は、NaB処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボでのミクログリア活性化を阻害することを示す。 図3Dは、CCI+NaFOについてのIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導の24時間後から50mg/kg/日のNaB又はNaFOで処置した。7日間の処置後、脳切片をIba1及びiNOSに対する二重標識蛍光によって分析した。これらの結果は、NaB処置が、CCI損傷を有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボでのミクログリア活性化を阻害することを示す。 図3Eは、皮質領域において計数されたIba1に対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図3Fは、CA1領域において計数されたIba1に対して陽性の細胞のヒストグラムである。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図3Gは、Iba1についての全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬領域の組織抽出物の免疫ブロット画像である。アクチンをローディング対照として実行した。 図3Hは、免疫ブロットバンドスキャンによって得られた対照に対するIba1/アクチンの値を示すプロットである。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。 図3Iは、iNOSについての全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬領域の組織抽出物の免疫ブロット画像である。アクチンをローディング対照として実行した。 図3Jは、免疫ブロットバンドスキャンによって得られた対照に対するiNOS/アクチンの値を示すプロットである。ap<0.001対対照、bp<0.001対CCI損傷。
図4】21日後の実験条件における、プロテオリピドタンパク質(PLP)及び乏突起膠細胞前駆細胞(OPC)のマーカーであるA2B5のレベルを示す、マウスの脳梁(corpus collosum)の画像である。ギ酸ナトリウム(NaFO)ではなく、安息香酸ナトリウム(NaB)の経口投与が、外傷性脳損傷(TBI)を有するマウスにおける再髄鞘形成を刺激する。マウス(群当たりn=6)は、制御された皮質衝撃(CCI)によって中等度のTBIを誘導された。TBIの2時間後から、マウスへのNaB及びNaFO(50mg/kg体重/日、水と混合された)の強制経口投与での処置を開始した。21日の処置後、脳切片をPLP及びA2B5に対して二重標識した。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の2つの切片の分析を表す。
図5図5Aは、種々の群における病変空洞の体積を示す一連の海馬領域に配置されたマウス脳の代表的なクレシルバイオレット切片を示す画像である。NaB処置は、CCI損傷を有するマウスにおける病変体積を低減させる。 図5Bは、クレシルバイオレット切片の例示的な画像である。脳において誘導されたダメージの程度は、処置のないCCIマウス及びNaFoで処置されたCCI損傷マウスと比較した場合、NaBで処置されたマウスにおいて低減することが見出されたことに留意されたい。 図5Cは、実験条件における病変サイズを示すプロットである。損傷の21日後に、対照マウス、未処置のCCI損傷マウス、NaBで処置されたCCIマウス、及びNaFOで処置されたCCIマウスにおいて、病変サイズを定量的に測定した。統計分析は、脳の損傷側でスチューデントのt検定を用いて実施された[ap<0.001(5.623×10-7)対対照、bp<0.001(=0.001)対CCI損傷]。
図6図6Aは、7日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)のヒートマップ分析を示す。オープンフィールド活動は、Ethovision XT13.0オープンフィールド活動システム(Noldus)によって監視された。TBIの2時間後から、マウスへのNaB及びNaFO(50mg/kg体重/日、水と混合された)の強制経口投与での処置を開始した。ギ酸ナトリウム(NaFO)ではなく、安息香酸ナトリウム(NaB)の経口投与が、TBIを有するマウスにおけるオープンフィールド活動を改善する。 図6Bは、7日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)が移動した距離を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Cは、7日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の速度を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Dは、7日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の中心頻度を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Eは、7日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の飼育行動を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Fは、21日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)のヒートマップ分析を示す。オープンフィールド活動は、Ethovision XT13.0オープンフィールド活動システム(Noldus)によって監視された。TBIの2時間後から、マウスへのNaB及びNaFO(50mg/kg体重/日、水と混合された)の強制経口投与での処置を開始した。 図6Gは、21日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)が移動した距離を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Hは、21日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の速度を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Iは、21日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の中心頻度を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Jは、21日間の処置後のオープンフィールド活動におけるCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の飼育を示す棒グラフである。移動した距離[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0029)対CCI損傷]、速度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0078)対CCI損傷]、中心頻度[ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.001(=0.0036)対CCI損傷]及び飼育行動[ap<0.001(=9.498x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0081)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定を用いて統計分析を行った。 図6Kは、尾部吊り下げ試験の結果を示す棒グラフである。NaB処置後、CCI損傷を有するマウスは、損傷の7日後[ap<0.001(=5.725x10-8)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]及び損傷の21日後[ap<0.001(=3.995x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]の尾部吊り下げ試験において有意な改善を示した。 図6Lは、ロータロッド試験の結果を示す棒グラフである。NaB処置を有するマウスの能力は、損傷の7日後[ap<0.001(=9.5998x10-9)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]及び損傷の21日後[ap<0.001(=1.2133x10-9)対対照、bp<0.001(=0.0010)対CCI損傷]のロータロッド試験で有意に改善した。 図6Mは、ビームランウェイ上での歩数を示す棒グラフである。NaBの経口処置はまた、ビームランウェイ上でのCCI損傷マウスの能力を改善した。統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=2.258x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0027)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=2.979x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0039)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=1.567x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]及び損傷の21日後[歩み:ap<0.001(=0.0051)対対照、ns(=0.2533)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=0.0003)対対照、ns(=0.1228)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.05(=0.0736)対CCI損傷]にスチューデントのt検定を使用して実施された。 図6Nは、ビームランウェイ上での所要時間を示す棒グラフである。NaBの経口処置はまた、ビームランウェイ上でのCCI損傷マウスの能力を改善した。統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=2.258x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0027)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=2.979x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0039)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=1.567x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]及び損傷の21日後[歩み:ap<0.001(=0.0051)対対照、ns(=0.2533)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=0.0003)対対照、ns(=0.1228)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.05(=0.0736)対CCI損傷]にスチューデントのt検定を使用して実施された。 図6Oは、ビームランウェイ上での脚の滑りを示す棒グラフである。NaBの経口処置はまた、ビームランウェイ上でのCCI損傷マウスの能力を改善した。統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=2.258x10-6)対対照、bp<0.001(=0.0027)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=2.979x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0039)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=1.567x10-7)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]及び損傷の21日後[歩み:ap<0.001(=0.0051)対対照、ns(=0.2533)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=0.0003)対対照、ns(=0.1228)対CCI損傷、脚の滑り:ap<0.001(=0.0001)対対照、bp<0.05(=0.0736)対CCI損傷]にスチューデントのt検定を使用して実施された。 図6Pは、格子ランウェイにおける歩数を示す棒グラフである。NaB処置を受けたCCI損傷マウスは、格子ランウェイにおいて改善を示した。スチューデントのt検定を使用して、統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=9.364x10-9)対対照、bp<0.001(=3.394x10-5)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=1.3770x10-7)対対照、bp<0.001(=3.3886x10-5) vs CCI、脚の置き違え:ap<0.001(=2.737x10-8)対対照、bp<0.001(=5.954x10-6)対CCI損傷]及び損傷の21日後(歩み:ap<0.001(=0.0014)対対照、bp<0.05(=0.0718)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=5.562x10-5)対対照、bp<0.05(=0.072)対CCI損傷、脚の置き違え:ap<0.001(=1.079x10-5)対対照、ns(=0.2465)対CCI損傷に実施された。ns-有意でない。 図6Qは、格子ランウェイにおける所要時間を示す棒グラフである。NaB処置を受けたCCI損傷マウスは、格子ランウェイにおいて改善を示した。スチューデントのt検定を使用して、統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=9.364x10-9)対対照、bp<0.001(=3.394x10-5)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=1.3770x10-7)対対照、bp<0.001(=3.3886x10-5)対CCI、脚の置き違え:ap<0.001(=2.737x10-8)対対照、bp<0.001(=5.954x10-6)対CCI損傷]及び損傷の21日後(歩み:ap<0.001(=0.0014)対対照、bp<0.05(=0.0718)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=5.562x10-5)対対照、bp<0.05(=0.072)対CCI損傷、脚の置き違え:ap<0.001(=1.079x10-5)対対照、ns(=0.2465)対CCI損傷に実施された。ns-有意でない。 図6Rは、格子ランウェイにおける脚の置き違えを示す棒グラフである。NaB処置を受けたCCI損傷マウスは、格子ランウェイにおいて改善を示した。スチューデントのt検定を使用して、統計的有意性は、損傷の7日後[歩み:ap<0.001(=9.364x10-9)対対照、bp<0.001(=3.394x10-5)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=1.3770x10-7)対対照、bp<0.001(=3.3886x10-5)対CCI、脚の置き違え:ap<0.001(=2.737x10-8)対対照、bp<0.001(=5.954x10-6)対CCI損傷]及び損傷の21日後(歩み:ap<0.001(=0.0014)対対照、bp<0.05(=0.0718)対CCI損傷、所要時間:ap<0.001(=5.562x10-5)対対照、bp<0.05(=0.072)対CCI損傷、脚の置き違え:ap<0.001(=1.079x10-5)対対照、ns(=0.2465)対CCI損傷に実施された。ns-有意でない。
図7図7Aは、手術の21日後のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の新規物体認識を示すヒートマップを示す。TBIの2時間後から、マウスへのNaB及びNaFO(50mg/kg体重/日、水と混合された)の強制経口投与での処置を開始した。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Bは、手術の21日後のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)のバーンズ円形迷路試験の結果を示すヒートマップを示す。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Cは、新規物体認識試験中の手術の21日後のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の探索時間を示す棒グラフである。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Dは、バーンズ迷路試験中の手術の21日後のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の潜時を示す棒グラフである。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Eは、バーンズ迷路試験中の手術の21日後のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)のエラー数を示す棒グラフである。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Fは、T字型迷路中の術後21日のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の陽性ターンの数を示す棒グラフである。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。 図7Gは、T字型迷路中の術後21日のCCIによって誘導されたTBIを有するマウス(群当たりn=6)の陰性ターンの数を示す棒グラフである。統計分析は、新規物体認識試験[探索時間:ap<0.001(=2.5989x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0003)対CCI損傷]、バーンズ迷路試験[所要時間:ap<0.001(=1.7509x10-5)対対照、bp<0.001(=4.8824x10-5)対CCI損傷及びエラー数:ap<0.001(=3.234x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0001)対CCI損傷]、T字型迷路[陽性ターン:ap<0.001(=3.3524x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0004)対CCI損傷及び陰性ターン:ap<0.001(=3.3924x10-5)対対照、bp<0.001(=0.0005)対CCI損傷]について、スチューデントのt検定によって実施された。ns-有意でない。
図8】対照(図8A)、CCI(図8B)、CCI+GTB(図8C)、及びCCI+ビヒクル(図8D)の脳切片におけるGFAP及びiNOSの二重標識免疫蛍光の画像である。マウスを、CCI損傷の誘導後、強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。7日間のGTB処置後、脳切片をGFAP及びiNOSに対する二重標識免疫蛍光によって分析した。GFAPに対して陽性の細胞を、海馬の皮質(図8E)及びCA1領域(図8F)において計数した。同様に、iNOSに対して陽性の細胞も、皮質(図8G)及びCA1領域(図8H)において計数した。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の6つの切片の分析を表す。全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬領域の組織抽出物を、GFAP(図8I)及びiNOS(図8K)に対して免疫ブロットした。アクチンをローディング対照として実行した。バンドをスキャンし、値(GFAP/アクチン)(図8J)及び(iNOS/アクチン)(図8L)を対照に対して提示した。これらの結果は、GTBの経口投与が、TBIを有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボのアストログリア炎症を阻害することを示す。
図9】経口GTBは、TBIを有するマウスの皮質及び海馬におけるインビボのミクログリア活性化を減少させる。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。GTB処置の7日後、脳切片を、Iba1及びiNOSに対して二重標識した(図9A、対照;図9B、CCI;図9C、CCI+GTB;図9D、CCI+ビヒクル)。Iba1に対して陽性の細胞を、海馬の皮質(図9E)及びCA1領域(図9F)において計数した。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の2つの切片の分析を表す。全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬領域の組織抽出物を、Iba1について免疫ブロットした(図9G)。アクチンをローディング対照として実行した。バンドをスキャンし、値(Iba1/アクチン)(図9H)を対照に対して提示した。
図10】GTB処置によるTBIマウスにおける病変体積の減少。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。図10A。損傷の21日後、脳切片をH&Eで染色し、H&Eで染色された切片を一連に配置して、種々の群の病変空洞の体積を示した。図10Bは、H&E染色切片の例示的な画像を示す。図10C。病変体積は、全てのマウス群において定量された。統計分析は、二元配置ANOVAを用いて実施され、平均±SDとして表され、脳の非病変側と病変側との間で病変体積を比較した。
図11】GTBの経口投与によるTBIマウスの海馬におけるPSD-95、NR2A、及びGluR1の回復。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。CCI損傷の21日後、脳切片を、NeuN及びPSD-95に対して二重標識した(図11A、対照;図11B、CCI;図11C、CCI+GTB;図11D、CCI+ビヒクル)。結果は、群当たり6匹のマウスの各々の1つの切片の分析を表す。全てのマウス群(群当たりn=4)由来の海馬組織抽出物を、PSD-95、NR2A、及びGluR1に対して免疫ブロットした。図11E。アクチンをローディング対照として実行した。バンドをスキャンし、値(Iba1/アクチン、図11F;NR2A/アクチン、図11G;GluR1/アクチン、図11H)を対照に対して提示した。データを、平均+SDとして表す。統計分析は、一元配置ANOVAを用いて実施された。
図12】TBIマウスにおける空間学習及び記憶に対するGTBの影響。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。CCI損傷の21日後、マウスを、新規物体認識試験(図12A、ヒートマップ;図12C、探索時間)、バーンズ迷路(図12B、ヒートマップ;図12D、エラーの数;図12E、潜時pr所要時間)、及びT字型迷路(図12F、陽性ターン;図12G、陰性ターン)によって試験した。各群で6匹のマウスを使用した。統計分析は、一元配置ANOVA、続くTukeyの事後検定によって実施された。
図13】GTB処置は、TBIマウスにおける運動機能を回復する。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。CCI損傷の7日後、マウスを、オープンフィールド行動(図13A、Noldusシステムを使用することによって監視されたヒートマップ分析;図13B、移動した距離;図13C、速度;図13D、中心頻度;図13E、飼育)、ロトロッド(roto rod)(図13F、潜時)、尾部吊り下げ試験(図13G、不動時間)、ビーム歩行(図13H、歩数;図13I、所要時間;図13J、滑り)、及び格子ランウェイ(図13K、歩数;図13L、所要時間;図13M、置き違え)について試験した。各群で6匹のマウスを使用した。統計分析は、一元配置ANOVA、続くTukeyの事後検定によって実施された。
図14】CCI損傷の21日目のTBIマウスにおける運動機能に対するGTBの効果。マウスにおいてTBIをCCI損傷によって誘導し、損傷の24時間後、マウスを強制経口投与により50mg/kg/日のGTBで処置した。CCI損傷の21日後、マウスを、オープンフィールド行動(図14A、Noldusシステムを使用することによって監視されたヒートマップ分析;図14B、移動した距離;図14C、速度;図14D、中心頻度;図14E、飼育)、ロトロッド(rotorod)(図14F、潜時)、尾部吊り下げ試験(図14G、不動時間)、ビーム歩行(図14H、歩数;図14I、所要時間;図14J、滑り)、及び格子ランウェイ(図14K、歩数;図14L、所要時間;図14M、置き違え)について試験した。各群で6匹のマウスを使用した。統計分析は、一元配置ANOVA、続くTukeyの事後検定によって実施された。
図15】乏突起膠細胞前駆細胞(OPC)の乏突起膠細胞への成熟に対する安息香酸ナトリウム(NaB)の効果。OPCを、P1~P2の新生マウスの子から単離し、インビトロで4日間(DIV)、OPC培地中で培養し、続いて、FGF及びPDGFの非存在下で100μMのNaB及びギ酸ナトリウム(NaFO)で処理した。図15A)無血清条件での18時間の100μMのNaBの処理後、細胞を固定し、次いで、MBP(赤色)及びOPCマーカーNG2(緑色)で二重免疫染色した。核を、DAPI(青色)で染色した。B)同様に、OPCを、同様の処理条件下でPLP(赤色)及びA2B5(緑色)で染色した。全細胞(DAPI+)に対するパーセンテージとしてのMBP+(図15C)、NG2+(図15D)、PLP+(図15E)、及びA2B5+(図15F)細胞の定量。スライド当たり平均5つのフィールド、合計3つのスライド。結果は、平均+SEMである。***p<0.001。G)タンパク質発現について、細胞を無血清条件下で種々の用量のNaBで18時間処理し、次いでPLP及びMOGで免疫ブロットした。図15H)ベータアクチンに対するバンドの密度測定分析を、PLP及びMOGに対して行った。ap<0.001対対照PLP、bp<0.005対対照MOG。図15I)細胞を無血清条件下で4時間、NaB(100uM)及びNaFO(100uM)で処理し、続いてリアルタイムPCRによってミエリン特異的遺伝子のmRNA発現を監視した(ap<0.01対対照PLP、bp<0.01対対照MOG、cp<0.01対対照MBP、dp<0.01対対照CNPase)。OPCを、ランダムに配向したポリカプロラクトンナノファイバー(Nanofiber Solutions、カタログ番号Z694576)の上部で7日間培養した。その後、これらの細胞を100μMのNaB(図15J)及びNaFO(図15K)で更に2日間処理し、続いてMBP(赤色)に対する免疫蛍光分析を行った(図15J、対照;図15K、NaB;図15L、NaFO)。画像は、単一の赤色のチャネルで表示され、ナノファイバーの位相コントラスト画像とマージされた。ナノファイバーに付着したOPCの代表的な3D構築画像もまた右側に示した。
図16】経口NaBは、クプリゾン中毒マウスの脳梁におけるインビボでのOPCの成熟を刺激する。C57/BL6マウス(8~10週齢、雄)に、クプリゾン含有食(Envigo)を5週間与え、続いて、強制経口投与によりNaB(50mg/kg体重/日)で処置した。図16A)NaBでの3週間の処置後、脳梁切片をPLP及びA2B5に対して二重標識した。A2B5(図16B)及びPLP(図16C)の平均蛍光強度(MFI)を、5匹のマウス群の各々の1つの切片(切片当たり2つの画像)から定量した。結果は、群当たり5匹のマウスの平均+SEMである。***p<0.001、**p<0.01。
図17】クプリゾン中毒マウスの脳梁におけるインビボでの髄鞘形成に対するNaBの効果。C57/BL6マウス(8~10週齢、雄、n=5)に、クプリゾン含有食(Envigo)を5週間与え、続いて、強制経口投与によりNaB(50mg/kg体重/日)で処置した。NaBでの3週間の処置後、脳梁切片をMBP(図17A)及びPLP(図17B)免疫染色した。MBP(図17C)及びPLP(図17D)の平均蛍光強度(MFI)を、5匹のマウス群の各々の1つの切片(切片当たり2つの画像)から定量した。結果は、群当たり5匹のマウスの平均+SEMである。**p<0.01、*p<0.05。図17E)脳梁切片を、luxol fast blue(LFB)で染色した。図17F)電子顕微鏡研究のために、50μmの厚さの矢状切片を調製し、染色し、続いて、種々のパラメータについて脳梁切片の分析を行い、軸索の超微細構造を評価した。図17G)Gスコアを、3つの群全てについて、群当たり75個の軸索で計算した。図17H)群当たり5匹のマウスの7つの無作為に選択された脳梁切片において、有髄軸索のパーセンテージを計算した。***p<0.001。
図18】シナメイン(Cinnamein)は、LPS及びIFNγ刺激マウスRAW 264.7マクロファージからのNO産生の誘導を阻害する。図18A)種々の濃度のシナメインで6時間プレインキュベートされた細胞を、無血清条件下で1μg/mlのLPSで刺激した。24時間の刺激後、グリース(Griess)試薬によって上清中の亜硝酸塩のレベルを測定した。図18B)400μMのシナメインで種々の時間プレインキュベートされた細胞を、無血清条件下で1μg/mlのLPSで刺激した。24時間の刺激後、上清中の亜硝酸塩のレベルを測定した。図18C)種々の濃度のシナメインで6時間プレインキュベートされた細胞を、無血清条件下で25U/mlのIFNγで刺激した。24時間の刺激後、上清中の亜硝酸塩のレベルを測定した。結果は、3つの独立した実験の平均+SDである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、NS、有意でない。
図19】シナメインは、初代マウスミクログリアにおけるTNFαのLPS及びポリIC誘導産生を阻害する。2日齢のマウスの子から単離されたミクログリアを、種々の濃度のシナメインで6時間インキュベートし、続いて、無血清条件下で1μg/mlのLPS(図19A)又は50μg/mlのポリIC(図19B)のいずれかで刺激した。24時間の刺激後、ELISAによって上清中のTNFαのレベルを測定した。結果は、3つの独立した実験の平均+SDである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、NS、有意でない。
図20】シナメインは、LPS及びポリIC刺激初代マウスミクログリアからのIL-1βの産生を抑制する。種々の濃度のシナメインで6時間プレインキュベートされた細胞を、無血清条件下で1μg/mlのLPS(図20A)又は50μg/mlのポリIC(図20B)のいずれかで刺激した。24時間の刺激後、ELISAによって上清中のIL-1βのレベルを測定した。結果は、3つの独立した実験の平均+SDである。***p<0.001。
図21】シナメインは、初代マウスミクログリアにおけるIL-6のLPS及びポリIC誘導産生を減少させる。ミクログリアを種々の濃度のシナメインで6時間インキュベートし、続いて、無血清条件下で1μg/mlのLPS(図21A)又は50μg/mlのポリIC(図21B)のいずれかで刺激した。24時間の刺激後、ELISAによって上清中のIL-6のレベルを測定した。結果は、3つの独立した実験の平均+SDである。***p<0.001。
図22】シナメインは、ポリIC刺激初代マウス星細胞からの炎症促進性サイトカインの産生を阻害する。種々の濃度のシナメインで6時間プレインキュベートされた星細胞を、無血清条件下で50μg/mlのICで刺激した。24時間の刺激後、ELISAによって上清中のTNFα(図22A)及びIL-6(図22B)のレベルを測定した。結果は、3つの独立した実験の平均+SDである。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.定義
中枢神経系損傷又は末梢神経系損傷を含む「神経系損傷」とは、外傷及び/又は疾患によって引き起こされる神経系への任意の損傷を指す。
【0009】
「中枢神経系」(CNS)は、脳、脊髄、視覚系、嗅覚系、及び聴覚系を含む。CNSは、ニューロン及びグリア細胞(神経膠)の両方を含み、これらは、ニューロンの機能を支援する支持細胞である。乏突起膠細胞、星細胞、及びミクログリアは、CNS内のグリア細胞である。乏突起膠細胞は、CNSにおいて軸索を髄鞘形成するが、星細胞は、血液脳関門に寄与し、血液タンパク質及び細胞からCNSを分離し、ニューロンに対して多くの支持機能を果たす。ミクログリア細胞は、免疫系の機能を果たす。
【0010】
「中枢神経系損傷」とは、疾患ではなく外傷によって引き起こされる中枢神経系への損傷を指す。この用語は、運動機能、感覚機能、又はそれらの組み合わせの喪失又は障害をもたらす、中枢神経系への損傷を包含する。
【0011】
「末梢神経系」(PNS)は、脳から生じる脳神経(視神経及び嗅神経を除く)、脊髄から生じる脊髄神経、感覚神経細胞体、及びそれらのプロセス、すなわち、CNSの外側の全ての神経組織を含む。PNSは、ニューロン及びグリア細胞(神経膠)の両方を含み、これらは、ニューロンの機能を支援する支持細胞である。PNS内のグリア細胞は、シュワン細胞として知られており、軸索を取り囲む鞘を提供することにより、軸索を髄鞘形成する役割を果たす。
【0012】
「末梢神経系損傷」とは、疾患ではなく外傷によって引き起こされる末梢神経への損傷を指す。この用語は、ニューラプラキシーとして知られる、神経が無傷のままであるがシグナル伝達能力がダメージを受けている、最も低い程度の神経損傷を含む、全ての程度の神経損傷を包含する。この用語はまた、軸索断裂知られる、軸索がダメージを受けているが、周囲の接続組織が無傷のままである第2の程度を含む。最後に、この用語は、神経断裂として知られる、軸索及び接続組織の両方がダメージを受けている最後の程度を包含する。
【0013】
「外傷性脳損傷」又は「TBI」は、外傷が脳にダメージを与える後天性脳損傷又は頭部損傷を指す。ダメージは、局在化され、すなわち、脳の1つの領域に限定されるか、又は脳の1つ以上の領域に影響を及ぼすびまん性であり得る。
【0014】
「脊髄損傷」とは、疾患ではなく外傷によって引き起こされる脊髄への損傷を意味する。脊髄及び神経根がダメージを受けている場所に応じて、症状は、例えば、痛みから麻痺、失禁に至るまで広く変化し得る。脊髄損傷は、様々なレベルの「不完全」で説明され、これは、対象に影響を及ぼさないことから、機能の完全な喪失を意味する「完全な」損傷まで変化し得る。脊髄損傷には多くの原因があるが、典型的には、自動車事故、転倒、スポーツ損傷、及び暴力による重大な外傷に関連する。略称「SCI」は、脊髄損傷を意味する。
【0015】
「脊髄挫傷」とは、脊髄の一部分がその組織の一部分、特に脊髄の頭側及び尾側を接続する腹側神経線維を残して、押しつぶされ損傷になる疾患ではなく、外傷によって引き起こされる損傷を指す。
【0016】
「神経挫滅損傷」は、バット、外科用クランプ、又は神経の完全な切断をもたらさない他の挫滅物体などの鈍器による神経の外傷性圧迫を指す。
【0017】
「投与する」とは、化合物、塩、又は組成物を対象に送達するために使用される任意の方法を意味する。これらには、経口経路、十二指腸内経路、非経口注射(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、又は輸液を含む)、局所、及び直腸投与が含まれる。当業者は、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics, current ed.;Pergamon、及びRemington’s, Pharmaceutical Sciences(current edition),Mack Publishing Co.,Easton,Pa.において議論されているような、使用され得る投与技術に精通している。いくつかの態様では、化合物及び組成物は、経口投与される。
【0018】
「有効量」は、少なくとも1つの投与される薬剤又は化合物の、治療される損傷の症状のうちの1つ以上をある程度軽減又は予防するのに十分な量を指す。その結果は、損傷の徴候、症状、若しくは原因の低減及び/若しくは緩和、又は生体系の任意の他の所望の変化であり得る。例えば、治療的使用のための「有効量」は、治療される損傷に関連する症状の進行又は重症度の臨床的に著しい減少をもたらすのに必要な化合物の量である。任意の個々の場合における適切な「有効」量は、用量漸増研究などの技術を使用して決定され得る。
【0019】
「対象」は、ヒトなどの哺乳動物対象を含む、任意の生体対象であり得る。
【0020】
「プロドラッグ」とは、対象に投与されると、例えば、体内の代謝により、直接的又は間接的のいずれかで、安息香酸塩をもたらすことができる任意の薬学的に許容される化合物又は塩を指す。
【0021】
「薬学的に許容される」は、活性成分の生物学的活性又は特性を無効にすることなく、かつ比較的非毒性である担体、希釈剤、又は賦形剤などの物質を指し、すなわち、材料は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、又はそれが含有される組成物の構成要素のうちのいずれとも有害な仕方で相互作用することなく、対象に投与され得る。
【0022】
「医薬組成物」は、任意選択で、担体、安定剤、希釈剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、又は賦形剤などの少なくとも1つの薬学的に許容される構成要素と混合される、生物学的に活性な化合物を含む組成物を指す。
【0023】
B.治療方法
一態様では、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを必要とする対象において、それを行う方法は、対象に、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与し、それによって、神経系損傷に関連する症状の進行を遅らせるか、又はその重症度を低減させることを含む。
【0024】
一態様では、安息香酸塩は、使用される場合、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウム、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0025】
一態様では、安息香酸塩のプロドラッグは、使用される場合、桂皮酸ベンジル、三安息香酸グリセリル、桂皮酸、酢酸ベンジル、ベンジルアルコール、安息香酸、キナ酸、フェニルアラニン、チロシン、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0026】
様々な神経系障害は、開示された方法を使用して治療中であり得る。一態様では、対象における神経系損傷は、中枢神経系(CNS)損傷又は末梢神経損傷である。更なる態様では、神経系損傷は、脊髄損傷(SCI)、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷である。例えば、神経系への損傷が脊髄損傷(SCI)である場合、安息香酸塩又はそのプロドラッグは、皮節C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7、T8、T9、T10、T11、T12、L1、L2、L3、L4、又はL5のうちの1つ以上への外傷によって引き起こされる機能障害を含むが、これらに限定されない、脊髄の頸部、胸部、腰部、又は仙骨部への外傷によって引き起こされる神経系機能障害を改善し得る。
【0027】
一態様では、神経系損傷は、外傷性脳損傷(TBI)である。様々な態様では、TBIは、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉、脳幹、又は小脳への損傷であり得る。いくつかの態様では、TBIは、軽度のTBIである。更なる態様では、TBIは、中等度から重度のTBIである。安息香酸塩及びそのプロドラッグは、様々な態様では、TBIの以下の症状のうちの1つ以上の検出可能な改善又はその進行の低減を引き起こし得る:頭痛、記憶の問題、注意欠陥、気分のむら及び欲求不満、疲労、視覚障害、記憶喪失、注意力又は集中力の低下、睡眠障害、めまい又は平衡感覚の喪失、易刺激性、感情的障害、憂鬱感、発作、吐き気、嗅覚喪失、光及び音に対する感受性、気分変化、迷う又は混乱、又は思考の遅さ。
【0028】
別の態様では、神経系損傷は、脱髄障害である。脱髄障害は、例えば、視神経炎、X副腎白質ジストロフィー、クラッベ病、進行性多巣性白質脳症、副腎脊髄神経障害、急性播種性脳脊髄炎、急性出血性白質脳炎、多発性硬化症、バロー病(Balo’s disease)(同心円硬化症)、シャルコ・マリー・トゥース病、ギラン・バレー症候群、HTLV-I関連性骨髄症、視神経脊髄炎(デビック病)、シルダー病、横断性脊髄炎、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0029】
概して、開示の方法で治療され得る損傷は、安息香酸塩又はそのプロドラッグを使用して緩和され得るか、遅らされ得るか、又は予防され得るいくつかの症状をもたらし得る。一態様では、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与することは、グリア炎症の低減、運動機能若しくは協調性の改善、又は学習若しくは記憶機能障害の改善をもたらす。更なる態様では、特に、治療される損傷がCNSへの損傷である場合、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与することは、気うつ(mental depression)に関連する症状を予防するか、又はその重症度を低減させる。精神的うつ病の症状の非限定的な一例は、対象が従事するよう動機付けられている身体活動のレベルである。
【0030】
一態様では、神経系損傷が著しく進行する前に、安息香酸塩又はそのプロドラッグを投与することが有用であり得る。例えば、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグは、神経系損傷後24時間以内、例えば、神経系損傷後23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1時間以内に投与され得る。別の態様では、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグは、神経系損傷の24時間以上後に投与され得る。更なる態様では、有効量の安息香酸塩又はそのプロドラッグは、神経系損傷後24時間以内に投与され得、安息香酸塩又はそのプロドラッグの投与は、一定期間、例えば、損傷後数日間、数週間、数ヶ月、又は数年間継続し得る。
【0031】
一態様では、対象は、投与するステップの前に、神経系損傷と診断されている。更なる態様では、対象は、投与するステップの前に、中枢神経系(CNS)損傷又は末梢神経損傷と診断されている。更なる態様では、対象は、投与するステップの前に、脊髄損傷(SCI)、脊髄挫傷、又は神経挫滅損傷と診断されている。なお更なる態様では、対象は、投与するステップの前に外傷性脳損傷(TBI)と診断されている。
【0032】
一態様では、投与するステップの前に、治療される対象は、尿素サイクル障害、グリシン脳症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、又は自閉症スペクトラム障害と診断されていないか、又はそれについて治療されていない。自閉症スペクトラム障害の例としては、アスペルガー症候群、小児崩壊性障害、及び広汎性発達障害が挙げられる。
【0033】
一態様では、治療される対象は、12歳超である。更なる態様では、治療される対象は、少なくとも18歳である。更に別の態様では、治療される対象は、少なくとも21歳である。他の態様では、対象は、12歳未満を含む任意の年齢であり得る。
【0034】
一態様では、安息香酸塩又はそのプロドラッグは、安息香酸塩又はそのプロドラッグと、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物として投与され得、組成物は、組成物の0.1重量%超の安息香酸塩又はそのプロドラッグ、例えば、医薬組成物の総重量に基づいて、0.5重量%超、1重量%超、2重量%超、5重量%超、10重量%超、15重量%超、20重量%超、30重量%超、40重量%超、又は50重量%超の安息香酸塩又はそのプロドラッグ、最大99重量%の安息香酸塩又はそのプロドラッグを含む。例えば、医薬組成物は、組成物の1.1重量%~50重量%以上の範囲の量で安息香酸又はそのプロドラッグを含み得る。
【0035】
更なる態様では、医薬組成物は、損傷を治療するための活性成分として、安息香酸塩又はそのプロドラッグのみを含み得る。換言すれば、一態様では、安息香酸塩又はそのプロドラッグは、唯一の活性成分として役割を果たし得る。更なる態様では、本開示の医薬組成物は、安息香酸塩又はそのプロドラッグから本質的になるか、又は他の態様ではそれらからなる医薬品有効成分を含む。
【0036】
一態様では、安息香酸塩又はそのプロドラッグの1日の総用量は、投与経路などの様々な要因に応じて、対象に単回用量又は複数回用量として投与される、100mg/日、120mg/日、150mg/日、180mg/日、200mg/日、225mg/日、250mg/日、300mg/日、400mg/日、500mg/日、1000mg/日、1500mg/日、2000mg/日、2500mg/日、3000mg/日、3500mg/日、又は4000mg/日である。更なる態様では、安息香酸塩又はそのプロドラッグの1日の総用量は、1000mg/日~4000mg/日、例えば、1000mg/日~3000mg/日、又は1000mg/日~2000mg/日である。
【0037】
一特定の態様では、安息香酸塩又はそのプロドラッグのこれらの1日の総用量は、単回用量又は複数回用量として経口投与され得る。一態様では、対象に投与される組成物は、経口投与に好適な形態で製剤化され得る。例えば、組成物は、乾燥粉末、錠剤、ロゼンジ、カプセル、顆粒、又は丸薬の形態で製剤化され得る。薬学的に許容される賦形剤としては、充填剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、潤滑剤、懸濁剤、湿潤剤、溶媒、界面活性剤、酸、香味剤、ポリエチレングリコール(PEG)、アルキレングリコール、セバシン酸、ジメチルスルホキシド、アルコール、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例
【0038】
C.実施例
以下の実施例は、本開示を更に例示する。本開示及び特許請求の範囲は、以下の実施例の範囲によって限定されるものではない。
【0039】
1.材料及び方法
a.動物
この研究には、Harlan,Indianapolis,INから購入した雄のC57BL6マウス(7~8週齢)を使用した。動物の維持及び外科手術処置は、Care and Use CommitteeのNIHガイドラインに従って実施され、Rush University Animal Care and Use Committee.によって承認された。動物を、安定した温度及び12時間の明暗サイクルを有する環境に収容した。水及び食物は自由に与えられた。
【0040】
b.制御された皮質衝撃処置
マウスにおける脳損傷を誘導するために、制御された皮質衝撃(CCI)損傷技術を適用した。成体C57BL6マウスを2%のイソフルランで麻酔し、気管挿管なしで正常に呼吸させた。体温は、外科手術中に加熱パッド上で37℃に維持され、直腸プローブによって監視された。麻酔の深さは、任意の損傷を引き起こすことなく、つま先を穏やかにつまむことによって観察された。麻酔されたマウスの頭部を滅菌された電気シェーバーで剃り、皮膚をベタジン溶液で洗浄した。次いで、動物の頭部を定位固定フレームで固定し、CCI技術を使用してTBIを誘導した(図1A~1D)。最初に、頭蓋骨を露出させるために正中線の皮膚切開を実施し、定位固定装置を使用して、座標-1.5mm AP及び-1.5mm MLで露出した頭蓋骨の右側に直径4mmの開頭術を行った。次いで、この穿頭孔で、硬膜が無傷である脳を露出した。外科手術用顕微鏡制御下で、1.0mmの丸みを帯びた金属先端が取り付けられたLeica Impact One Stereotaxic Impactor(Leica Mi-crosystems、Buffalo Grove,IL)を、硬膜が無傷である脳表面に向かって垂直に傾けた。続いて、露出した脳領域の右側で、1.0m/sの打撃速度で軽度の損傷を片側だけ誘導した。脳損傷の誘導中にクッションのような支持体として機能するように、滅菌スポンジ固定ボードを使用して頭の下を支持した。衝撃損傷後、大脳皮質にダメージが生じ、周囲領域に広範囲の構造的ダメージを引き起こした。偽群の動物は、同様の外科的処置を受けたが、CCI損傷はなかった。次いで、操作された動物を定位固定ホルダーから取り出し、皮膚切開部を軽く縫合して切開領域を閉じた。全ての操作された動物を、体温を正常な限界内に維持するために保温ブランケットに入れた。これらの動物を、麻酔からの回復まで、及び術後次の連続した3日間にわたって監視した。
【0041】
マウスのような小さな実験動物を使用して、臨床的に関連するTBIモデルを生成することは、TBI研究では困難な作業である。TBIの影響は、脳へのダメージの程度に応じて、身体的及び心理的な結果が変化する場合がある。いくつかの症状は損傷の直後に現れる場合があるが、他は、数日又は数週間後に現れる場合がある。したがって、標準化の目的で、種々の速度で、固定された1mmの丸みを帯びた先端を使用した。この研究では、マウスを3つの群に無作為に分け、それぞれ軽度、中等度、及び重度の損傷を誘導するために、CCIを3つの速度、すなわち1.0V、1.25V、及び1.50Vで1mmの丸みを帯びた先端で適用した(図1C)。手術後1週間の終わりに、3群の動物全てに4%のパラホルムアルデヒドを灌流して、脳を取り出した。その後、脳切片を40μmの厚さで作製した。クレシルバイオレット染色を用いて、軽度損傷群において、皮質及び海馬領域における顕著な組織ダメージを明らかにする脳ダメージの組織病理学的特徴を研究した。しかしながら、この群のマウスでは、脳の対側に顕著なダメージは見られなかった。中等度の損傷群では、マウス脳の同側の皮質及び海馬領域の組織により多くのダメージが認められ、外科手術後のマウスの回復は非常に遅く、いくつかの場合では致命的であることが見出された。更に、重度の損傷群において、外科手術後の脳の同側の皮質及び海馬の両方に重篤な組織ダメージが認められた(図1C)。マウスの回復は最小限であり、生成された損傷は、多くの場合、このマウス群において致命的になった。したがって、3つのタイプの損傷群の組織病理学的観察に基づいて、軽度のタイプのCCI損傷(1mm先端及び1.0V)を選択して、脳損傷後の認知機能及び運動機能の改善におけるシナモン代謝産物NaBの有益な効果を描写した(図1C)。
【0042】
c.安息香酸ナトリウム又はギ酸ナトリウムでの処置
安息香酸ナトリウム(「NaB」)及びギ酸ナトリウム(「NaFO」)を0.1%のメチルセルロース溶液中に可溶化した。CCI損傷の24時間から開始して、マウスをNaB又はNaFO(50mg/kg/日)で1日1回、手術後7日間経口処置した。その後、経口処置を手術後21日まで隔日で継続し、行動分析の後、マウスを組織学的及び生化学的研究のために犠牲にした。
【0043】
d.実験群及びNaB/NaFO処置
この研究で使用された実験設計を図1Dに示す。全てのマウスを以下の群に無作為化した:
【0044】
群1:対照/偽の群(群当たりn=6):マウスは、損傷及び処置なしで外科手術を受けた。
【0045】
群2:CCI群(群当たりn=6):マウスはCCI損傷を受け、処置は実施されなかった。
【0046】
群3:CCI+NaB処置(群当たりn=6):マウスをCCIに供し、経口でのNaB(50mg/kg/日)処置を、損傷の誘導の24時間後に開始した。
【0047】
群4:CCI+NaFO処置(群当たりn=6)。マウスを脳損傷に供し、経口でのNaFO(50mg/kg/日)処置を、損傷の誘導の24時間後に開始した。
【0048】
e.ウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティングを、以前の研究に記載のとおりに行った。等量のタンパク質を、10%又は12%のSDS-PAGE中で電気泳動し、ニトロセルロース膜上に移した。ブロットを4℃で一晩、一次抗体でプローブした。以下は、この研究で使用される一次抗体であり、以下の表1に詳細に記載される:抗iNOS(1:1000、BD Bio-sciences)、抗Iba1(1:1000、Abcam)、抗GFAP(1:1000、Santa Cruz Biotechnology、Dallas,TX)、及び抗β-アクチン(1:5000、Abcam)。一晩のインキュベーションの後、一次抗体を除去し、ブロットを、0.1%のTween-20(PBST)を含有するリン酸緩衝液生理食塩水で洗浄し、対応する赤外線フルオロフォアタグ付き二次抗体(1:10,000、Jackson Immuno-Research)を室温で添加した。次いで、ブロットを二次抗体で1時間インキュベートした。その後、ブロットをOdyssey赤外線スキャナー(Li-COR、Lincoln,NE)でスキャンした。バンド強度は、ImageJソフトウェア(NIH、USA)を使用して定量した。
【表1】


【0049】
f.免疫組織化学
マウスをケタミン-キシラジン混合溶液で麻酔し、PBS、次いで、PBS中4%のパラホルムアルデヒド(w/v)で灌流し、続いて、免疫蛍光顕微鏡検査のための脳の解離を行った。簡単に言えば、解剖された脳を10%のスクロース中で3時間インキュベートし、次いで、続いて4℃で一晩、30%のスクロースでインキュベートした。次いで、脳を-80℃で最適切断温度培地(Tissue Tech)に埋め込み、従来の凍結切断の処理をした。凍結切片(厚さ40μm)を冷却エタノール(-20℃)で処理し、PBSで洗浄し、PBST中2%のBSAでブロッキングし、2つの一次抗体で二重標識した(表1)。PBSTでの3回の洗浄後、切片をCy2及びCy5(Jackson ImmunoResearch Laboratories)でインキュベートした。切片を取り付け、Olympus IX81蛍光顕微鏡下で観察した。計数分析は、タッチ計数モジュールの助けを借りてOlympus Microsuite Vソフトウェアを使用して実施された。
【0050】
g.立体学的技術を使用した病変体積の定量
病変体積の推定は、Stereo Investigatorソフトウェア(MicroBright Biosciences、USA)を使用した不偏立体学のCavalieri法に基づいて実施された。1mmの格子間隔1mmを有するCavalieri 推定器を使用して、脳の同側及び対側半球の両方の体積を決定した。4番目のセクションごとに、無作為な開始点から開始して分析した。病変体積は、対側半球の体積から同側半球の体積を差し引いて推定した。次いで、未処置のマウスの脳切片で推定される病変空洞の体積を、薬物治療マウスの脳切片の病変体積と比較した。
【0051】
h.行動分析
CCI損傷後の手術後7日目及び21日目に動物の行動分析を実施した。行動試験のためのこれらの時点は、これらの時点で行動異常が見られたこれらの動物モデルを用いた以前の研究に基づいて選択された。
【0052】
i.オープンフィールド行動
オープンフィールド試験における動物の能力を、以前の研究で記載のとおりに分析した。簡単に言えば、各動物は、計測40×40cmの正方形の形状の木製床を有し、高さ30cmの壁を有するオープンフィールド活動領域を探索するために、5分間自由に移動することを許された。Noldusコンピュータシステムに接続されたビデオコンピュータ6(Basler Gen I Cam-Basler acA 1300-60)が、オープンフィールド活動領域上の上部に下向きに固定された。各マウスを活動領域の中央に個別に配置し、能力をライブビデオ追跡システムによって監視した。中央面積は、20x20cm(総面積の半分)の正方形として任意に定義された。
【0053】
j.ロータロッド
動物の前肢運動の協調及び平衡は、以前の研究に記載のとおり、ロータロッド試験を使用して観察された。簡単に言えば、各マウスをロッドの限られた部分に配置し、試験を、4rpmから40rpmまで5分間の滑らかに速度を増加させながら開始した。マウスがロッドから落下しなかった場合、5分後にロッドから取り出された。落下潜時は秒単位で測定され、分析に使用された。CCI損傷後、各マウスは、試験セッション中に3つの試験でタスクを実施し、これらの3つの試験の平均スコアを個々のロータロッドスコアとして使用した。各ロッド上の試験は、マウスがロッドから落下したか、又は吊るしてロッドに保持された場合、不適切な回転が完了した場合に終了した。
【0054】
k.尾部吊り下げ試験
マウスを、以前の研究に記載の方法論を使用して尾部吊り下げ試験に供した。マウスを、床より50cm上に非毒性粘着テープを使用して尾部によって6分間穏やかに逆さまに吊り下げた。不動時間は、マウスが能動的な動きなしに受動的にぶら下がっているだけの期間として定義された。不動時間の増加は、うつ病様行動として定義される。
【0055】
l.巣作り行動
5cmx5cmの圧縮された綿の正方形からなる巣を午後5時~午後6時にケージ内に置いた。翌朝午前9時~午前10時に、実験手順に対して盲検である2人の観察者が、以下のように5点スケールを使用してマウスによって構築された巣の質をスコアリングした。スコア1(90%超の巣が無傷)、スコア2(50%~90%の巣が無傷)、スコア3(10%~50%の巣が無傷であるが、認識可能な巣の場所がない)、スコア4(10%未満の巣が無傷であり、巣は認識可能であるが平坦である)、スコア5(10%未満の巣が無傷であり、巣は、マウス本体よりも高い壁で認識可能である)。
【0056】
m.ビームランウェイ
ビームランウェイは、滑らかな木材で作られ、計測長さ65cm×幅0.7cm×高さ4cmであった。一方の端に開口部のある黒色の箱を固定し、ビームの他方の端に嫌悪刺激(明るいランプ)を固定した。この試験を使用して、ビームを横断している間のマウスの複雑な協調及び平衡を評価し、以前の研究に記載のとおりの手順を実施した。マウスを光源の近くのビームの上に置き、光を「オン」にした。これにより、嫌悪刺激を避けるために動物が箱に入り、嫌悪刺激がオフになる。箱の内側で2分間休息を挟んで6回の反復を行った。測定されたパラメータは、箱に到達するまでの所要時間(秒)、及び対側の四肢の引きずり/滑りを伴う歩数であった。ビーム上での足の滑り及び滑りの数が計数されるたびに、エラーが考慮された。ビーム歩行分析は、手術後7日目及び21日目に処置に対して盲検化された観察者によって実施された。
【0057】
n.格子ランウェイ
棒間隔が1cmの間隔の平行な格子棒で作られた格子ランウェイ(長さ65cmx幅8cmx1cm間隔)は、試験セッション中にテーブル上の表面の上に保たれた。動物が格子から落下した場合、重篤な損傷を避けるために保護用の柔らかいパッドを格子ランウェイの下に配置した。各マウスは格子上を自由に歩くことが許され、ランウェイを横断する所要時間及び歩数が記録された。格子上での各成功裏な脚の配置を歩みとして記録した。しかしながら、足が滑って格子を通過するか、又は足が棒を逃し、バーの平面を通って下向きに延びる場合、エラーが考慮された。格子上の動物の運動行動は、CCI損傷後7日目及び21日目に処置に対して盲検化された観察者によって評価された。
【0058】
o.バーンズ迷路試験
バーンズ迷路試験を、以前の研究に記載のとおりに行った[44,49,58]。簡単に言えば、マウスを最初に連続して2日間訓練した後、3日目に検査した。各訓練セッションの後、迷路及び回避トンネルは、慣れ親しんだ物体からのマウスの臭いによる本能的な臭い回避を避けるために、中性洗剤で徹底的に洗浄された。3日目に、Noldusコンピュータシステムに接続されたビデオカメラ(Basler Gen I Cam-Basler acA 1300-60)が迷路の上に配置され、回避トンネルに入るよう動物を動機付けるのに十分な光及び熱を生成する高電圧光で照らされた。能力をビデオ追跡システム(Noldus System)によって監視した。認知行動パラメータは、潜時(4つの足全てが回避箱の床にある前の期間)及びエラー(4つの足全てが回避箱の床にある前の誤った応答)を測定することによって調査した。
【0059】
p.T字型迷路
マウスを最初に、2日間、食物を奪われた条件下でT字型迷路に慣らした。食物の報酬が、10分間の訓練で少なくとも5回提供された。動物の任意の嗅覚の手がかりを使用する能力を最小限に抑えるために、各試験セッションの間にT字型迷路を中性洗剤溶液で洗浄した。食物の報酬の側は、常に視覚的な合図と関連した。動物が食物の報酬を消費するたびに、それは陽性ターンとみなされた。
【0060】
q.新規物体認識(NOR)試験
この試験は、環境中の新規物体を認識し、短期記憶を監視する動物の能力を評価する。最初に、マウスを、赤外線センサーで囲まれた正方形の新規の箱(長さ20インチx高さ8インチ)に入れた。色、形、及び質感が異なる2つのプラスチック玩具(2.5~3インチのサイズ)を、互いに18インチ離れた環境内の特定の場所に配置した。マウスは、環境及び物体を15分間自由に探索することができ、次いで、個々のホームケージに戻した。30分の間隔を開けた後、マウスは、2つの物体が同じ位置にある環境に戻されたが、今度は、慣れ親しんだ物体のうちの1つは、第3の新規物体に置き換えられた。マウスを再び、両方の物体を15分間自由に探索させた。慣れ親しんだ物体及び新規物体は、各試験セッションの後、穏やかな洗剤で徹底的に洗浄された。
【0061】
r.統計分析
類似のタイプ及び複雑さの以前の研究に基づいて、6匹のマウスは、全ての行動実験に対して80%超の力を発揮すると予想される。統計分析は、GraphPad Prism7を使用することによって、2群比較についてスチューデントのt検定を用いて実施され、多重比較のために適切な場合、一元配置ANOVA続くTukeyの多重比較検定を用いて実施された。データは、記載された図の凡例として、平均値±SD又は平均値±SEMとして表される。統計的有意性は、p<0.05のレベルで決定された。
【0062】
2.NaB処置は、CCI誘導TBIマウスにおけるグリア活性化を減衰させる
最近の知見は、脳損傷を含む種々の神経炎症及び神経変性障害における重要な病理学的事象として、ミクログリア及びアストログリア活性化並びに関連する神経炎症を確立している。最初のCCI損傷の直後に、組織環境が改変して、グリア細胞を活性化する。したがって、CCI損傷(図1)後、損傷後7日目のマウスの皮質及び海馬領域におけるGFAP陽性星細胞(図2A図2B図2E、及び図2F)及びIba1陽性ミクログリア(図3A図3B図3E、及び図3F)の数の顕著な増加が、偽対照と比較して観察された。海馬抽出物のウェスタンブロット分析もまた、GFAP(図2I及び図2J)及びIba1(図3I及び図3J)のこの増加を裏付けた。しかしながら、CCI損傷TBIマウスのNaBでの経口処置は、GFAP陽性星細胞(図2A~2F)及びIba1陽性ミクログリア(図3A~3F)の両方の減少をもたらした。この結果は、ギ酸ナトリウム(NaFO)が良いTBIの海馬におけるグリア活性化を阻害することができないままであったため(図2A図2B図2E、及び図2F並びに図3A図3B図3E、及び図3F)、特異的であった。
【0063】
NaBで処置されたTBIマウスの海馬におけるGFAP(図2I~2J)及びIba1(図3I~3J)のタンパク質のレベルの減少及び/又は正常化は、ウェスタンブロットからも明らかである。活性化グリア細胞は、神経炎症環境において亜硝酸ストレスを引き起こすために過剰な一酸化窒素を産生する誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)を発現することが知られている。これに対応して、損傷後7日目のiNOSのレベルは、偽対照と比較して、TBIマウスの皮質及び海馬において高かった(図2及び図3)。二重標識免疫蛍光分析は、増加したiNOSが、GFAP発現星細胞(図2A~2H)及びIba1陽性ミクログリア(図3A~3F)の両方に存在したことを明らかにした。しかしながら、NaFOではなくNaBでのTBIマウスの処置は、皮質及び海馬の両方においてiNOSの阻害をもたらした(図2C~2D及び図3C~3D)。これらの所見は、定量分析(図2G~2H)及びウェスタンブロット(図3I~3J)によって確認された。まとめると、これらの結果は、NaBがCCI誘導TBIマウスのCNSにおけるインビボでのグリア炎症を低減させることができることを示す。
【0064】
3.TBIを有するマウスにおける経口NaB刺激再髄鞘形成
プロテオリピドタンパク質(PLP)は、乏突起膠細胞のマーカーであり、A2B5は、乏突起膠細胞前駆細胞(OPC)のマーカーである。21日の処置後、脳切片をPLP及びA2B5に対する抗体で二重標識した。図4の画像は、予想されるように、TBIを有するマウスの脳梁においてPLPのレベルが非常に低く、多くのA2B5陽性OPCが脱髄領域に局在したことを示す。しかしながら、NaB処置は、TBIを有するマウスの脳梁におけるPLPのレベルを顕著に増加させた。したがって、NaB処置はまた、TBIマウスの脳梁におけるOPCの数を減少させた。これらの結果は、NaBに特異的であり、ベンゼン環がないNaBに構造的に類似した分子であるNaFOは、PLPのレベルを回復することがでず、TBIマウスの脳梁におけるOPCの数を減少させることができないままであった。
【0065】
4.NaB処置はCCI誘導マウスにおける病変体積を低減させた
経口NaBは、TBIマウスのCNSにおけるグリア炎症を低減させたため、次いで、NaB処置が病変体積を低減させることができるかどうかを調査した。したがって、クレシルバイオレット染色切片において病変体積を測定し、未処置群と処置群との間で比較した。図5Aは、種々のマウス群からの病変空洞の体積を証明するために連続的に配置されたクレシルバイオレット染色脳切片を示す。損傷の21日後、偽対照においては何も観測されないことと比較して、CCI誘導TBIマウスにおいて、皮質から始まり、海馬を介して外側脳室に接続する、拡大した空洞を含む典型的な病変が観察された(図5B)。他方では、NaFOではなくNaBの経口投与は、CCI誘導マウスにおける病変空洞のサイズを低減させた。Cavalieri立体学的技術を使用した病変体積の定量的分析は、未処置又はNaFOで処置されたTBIマウスのいずれかと比較した場合、NaBの経口処置後、全ての半球における全ての病変体積が有意に低減したことを明らかにした(図5C)。
【0066】
5.経口NaBは、TBIを有するマウスにおけるオープンフィールド行動及び運動活動を改善した
神経保護研究の最も重要な治療目的は、二次的な組織喪失を制限し、行動機能を維持又は改善することである。したがって、NaBの経口投与がCCI損傷によって引き起こされる組織的ダメージだけでなく機能的不足も保護するかどうかを分析するために、全体的な歩行活動を調査した。Noldusコンピュータシステムに接続されたビデオカメラ6(Basler Gen I Cam-Basler acA 1300-60)は、一般的な運動行動を記録するために、オープンフィールド活動領域上の上部に下向きに据え付けられたままであった。図6A及び図6Fは、それぞれ、損傷の7日後及び21日後のオープンフィールド試験におけるマウスの全体的な活動を要約するヒートマップを示す。未処置又はNaFOで処置されたTBIマウスのいずれかと比較して、損傷の7日後のNaBで処置されたTBIマウスにおいて、一般的な運動活性は、有意な改善を示した(図6A~6E)。機能的改善は、移動した距離(図6B)、速度(図6C)、中心頻度(図6D)、及び飼育行動(図6E)から明らかに可視化された。他方では、損傷の21日後で、処置されたTBI群と未処置のTBI群との間で全体的な動きの有意な差は観察されなかった(図6)。
【0067】
続いて、損傷の7日後及び21日後にロータロッド試験を使用して、CCI損傷マウスの全ての群における運動協調及び平衡活動の回復も調査した。CCI損傷後、処置のないマウスは、損傷の7日後に、転倒までの潜時の著しい減少を示し、この運動活性は、偽対照群と比較して、損傷後21日間にわたってロータロッドで損なわれたままであった。しかしながら、NaFOではなくNaBでのCCI損傷マウスの処置は、ロータロッド試験(図6L)で適切な身体の動き及び平衡機能を維持することによって、長時間の潜時をもたらした。
【0068】
うつ病は、脳損傷の初期段階中で分かる一般的な症状である。したがって、CCI損傷マウスにおけるうつ病様行動を監視した。TBI研究における以前の研究は、マウスにおけるうつ病は、不動の期間の増加によって分析され得ることを実証している。したがって、この試験を行って、CCI損傷マウスにおけるうつ病様行動に対するNaBの神経保護効果を調査した。損傷の7日後に、いずれの処置も行っていないCCIマウスは、偽対照よりも有意に長い不動時間を示した(図6K)。他方では、NaBで処置されたCCIマウスは、未処置又はNaFOで処置されたマウスのいずれかと比較して著しく少ない不動時間を示した。NaB処置時、不動の期間は正常なレベルに近かった。これらの結果は、NaBが、CCI損傷マウスにおけるうつ病様行動を制御することができることを示唆する。
【0069】
TBI誘導ダメージは、常に脳と筋肉との間の接続を損ない、最終的には歩行運動に影響を及ぼす。したがって、ビーム及び格子上でのCCIマウスの歩行関連障害は、これら2つの多面的なランウェイが、オープンフィールド行動試験上のものとは異なる動きのパターンを明らかにするように見えたため、分析された。先の研究では、これらのビーム及び格子ランウェイは、科学者が対側対同側の四肢の動きを分析して比較する機会を与えるため、片側TBIのモデルで特に有用であることが明らかになっている。したがって、ビーム及び格子ランウェイを使用した片側CCIモデルにおける歩行機能の回復に対するNaBの神経保護の役割を調査した。CCIマウスは、歩行中に対側骨盤肢を引きずる傾向があった。このタイプの行動は、偽対照では見られなかった。更に、偽対照は、外科手術後にビームを横断するための潜時又は脚の歩数に著しい変化を示さなかった。
【0070】
しかしながら、CCIマウスのいずれも、外科手術当日及び外科手術後翌日にビームを横断することができなかった(図6M~6O)。損傷の7日後に、処置のないCCIマウスは、ビーム上で体の平衡を取るのに重大な欠損を示すか、又は足を滑らせ格子を通過させた。処置のないCCIマウスは、偽対照と比較して、ビームを横断している間、より多くの潜時、歩み及び脚の欠陥、又は脚の置き違いを示す歩行行動の能力の低下を示した。格子分析について同様の結果が見られた(図6P~6R)。しかしながら、NaFOではなくNaBで処置すると、CCI損傷マウスは、ビーム及び格子ランウェイでの歩行運動の著しい改善を示した。
【0071】
NaBで処置されたCCIマウスはまた、未処置又はNaFOで処置されたCCIマウスのいずれかと比較して、潜時、脚の歩み、脚の滑り、及び脚の置き違いにおいて有意な向上を示した(図6M~6R)。他方では、損傷の21日後に、偽対照に関してこれらのパラメータの著しい変化が見られなかったように、CCIマウスは、ほぼ正常レベルにかなり回復した。その結果、NaB処置はまた、損傷の21日後でのCCIマウスのビーム歩行又は格子ランウェイのいずれで著しい保護を示さなかった。
【0072】
6.TBIを有するマウスにおいて、経口NaBは空間学習及び記憶を保護した
TBIの生存者は、多くの場合、生涯にわたって学習及び記憶の問題に苦しんでいる。したがって、経口NaBがTBIマウスにおける記憶及び認知機能を保護するかどうかを調査するために、新規物体認識(NOR)、バーンズ迷路、及びT字型迷路マスクに対するマウスの能力を監視した。図7Aは、21日間の処置後のマウスの新規物体認識を示すヒートマップを示す。図7Cは、この同じ試験の探索時間の結果を示す。
【0073】
バーンズ円形迷路試験は、空間参照記憶を必要とする海馬依存性認知タスクである。図7Bは、処置の21日後のTBIマウスのバーンズ円形試験の結果を示すヒートマップを示し、図7Dは、潜時を示し、図7Eは、作製されたエラーの数を示す。TBIマウスは、報酬の穴を容易に見つけられず、より多くの時間(潜時)を必要とし、より多くのエラーを作製した。他方では、NaBで処置されたTBIマウスは、より少ない潜時及びより少ないエラーで標的の穴を見つけることにおいて、健常な対照マウスと同じくらいの能力を有していた。
【0074】
T字型迷路試験でも同様の結果が見出された。図5Fは、21日間の処置後のこの試験中に行われた、陽性ターンの数を示し、図5Gは、陰性ターンの数を示す。TBIマウスは、偽対照よりも陽性ターンの数が少なく、陰性ターンの数が多かった。繰り返しになるが、NaB処置は、TBIマウスにおける海馬依存性記憶能力を著しく改善し、これは、より高い数の陽性ターン及びより低い数の陰性ターンによって示される。
【0075】
これらの結果はNaBに特異的であった。NaBの陰性対照であるNaFOは、TBIマウスにおける海馬依存性行動を改善することができないままであった。
【0076】
7.考察
TBIは米国における死亡及び障害の主な原因であるが、徹底的な調査にもかかわらず、定期的な医学的評価及びケアを除いて、TBI患者の生活の質を改善するための効果的な治療は今日まで利用可能ではない。したがって、TBIの病理学的過程を調節し、行動転帰の改善をもたらすための安全で効果的な治療法を説明することは、重要な研究分野である。本研究で概説されたいくつかの証拠は、NaBがCCI誘導マウスモデルにおいてTBIの疾患プロセスを抑制することができるという結論を明確に支持する。TBIは大規模な病変空洞を引き起こしたが、CCIの24時間後から開始した経口NaB処置は、病変体積を減少させ、ダメージを受けた海馬の構造組織の完全性を回復させた。対照的に、ベンゼン環のないNaB類似体であるNaFOでの処置は、そのような保護を示すことができないままであった。NaB処置はまた、TBIを有するマウスにおけるうつ病様行動を低減させ、運動機能障害を減衰させ、認知能力を増強した。更に、経口NaBは、その安全性の実績と一致して、任意の副作用を引き起こさなかった(例えば、体重の減少、抜け毛、糞便のボル、感染症、不適切な行動など)。これらの結果は、経口NaBがTBIの治療に有益である可能性があり、NaBがTBI患者に毒性であるべきではないことを示唆している。
【0077】
CNSにおけるグリア活性化及び炎症促進分子の上方調節は、TBIを含むいくつかの神経変性疾患の病因に関与する。TBIの直後に、脳内のミクログリア及びアストログリアが活性化され、長期間、毒性量の炎症促進性サイトカイン(例えば、IL-1β、TNFαなど)、炎症促進性酵素(例えば、誘導性一酸化窒素合成酵素又はiNOS)、反応性酸素種などが産生され、最終的に軸索ダメージを引き起こすことが知られている。ここでは、NaB処置が、TBIを有するマウスの海馬におけるミクログリアマーカーIba1及びアストログリアマーカーGFAPのレベルを低減させ、iNOSの発現を減少させることが示されている。したがって、NaB処置は、治療モードでTBIの24時間後から開始したが、TBIマウスにおけるグリア炎症を低減及び/又は正常化することができる。
【0078】
グリア細胞が活性化されるシグナル伝達機構はほとんど理解されていない。NaBは、ミクログリアにおけるiNOS及び炎症促進性サイトカインのLPS誘導発現を阻害することが報告されている。TLR4は、LPSのプロトタイプ受容体である。しかしながら、NaBは、LPS刺激ミクログリアにおけるTLR4のレベルに影響を及ぼさないため、NaBは、その受容体TLR4に関与することなく、炎症促進分子のLPS誘導発現を妨げることを示す。興味深いことに、メバロン酸経路の最終生成物(コレステロール及びコエンザイムQ)ではなく、中間体(HMG-CoA、メバロネート及びファルネシルピロホスフェート)が、ミクログリアにおけるNaBの抗炎症効果を逆転させる。ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤によるグリア細胞におけるNF-κBのLPS誘導活性化及びiNOSの発現の抑制は、iNOS遺伝子の上方調節におけるファルネシル化反応の重要な役割を提示する。p21rasの活性化におけるファルネシル化の役割と一致して、p21rasシグナル伝達が、グリア細胞における炎症促進分子の発現において重要な役割を果たすことが分かる。したがって、NaBによるミクログリア細胞におけるp21ras活性化の抑制は、NaBがp21ras活性化の抑制によりグリア炎症を減弱することを示す。
【0079】
これまで、TBIの進行を止めるために利用可能である有効な阻害療法はない。抗凝固剤は、血栓を予防し、血流を改善するために存在するが、恐怖及び神経質を低減するための抗不安薬、うつ病及び気分不安定の症状を治療するための抗うつ剤、発作を予防するための抗痙攣剤、筋肉痙攣を減少させるための筋弛緩剤は、他の抗凝固剤を除いて、周辺治療である。更に、これらの薬物のうちのいくつかは、いくつかの副作用を示す限られた症状の軽減を示す。他方では、利用可能なTBI療法に対してNaBのいくつかの利点が存在する。第1に、NaBは、客観的に安全である。それは水溶性であり、過剰に消費されると、尿を通して分泌される。第2に、NaBは、薬物治療の最も痛みの少ない経路である経口で摂取され得る。経口NaBは、海馬におけるインビボでのグリア活性化を低減させ、TBIマウスにおける認知能力を改善した。第3に、NaBは、他の既存の抗TBI療法と比較して経済的である。第4に、血液脳関門(BBB)を通る薬物の侵入は、CNS障害の治療のための重要な問題である。TBIの初期段階では、BBBは損なわれたままであるが、時間とともに、BBBの完全性が改善され、したがって、BBB透過性薬物は、TBI患者の神経保護に役立つであろう。NaBは、シナモンで経口処置されたマウスの脳においても検出されている。したがって、経口処置後、NaBは脳に入る。
【0080】
8.食品添加物グリセリルトリベンゾエートによる制御された皮質衝撃損傷からのマウスの保護
ここでは、TBIの制御された皮質衝撃(CCI)マウスモデルにおけるGTBの神経保護効果を調査した。経口投与後、GTBは、CCI誘導TBIマウスにおいて、グリア活性化を減弱させ、炎症促進分子のレベルを低減させ、病変体積を減少させ、シナプス構造を改善することができることを示す。機能的には、経口GTBは、TBIマウスにおける運動能力を回復し、かつ学習及び記憶を改善し、TBIにおけるGTBの可能な治療的適用を強調する。
【0081】
9.経口GTBによるCCI誘導TBIマウスにおけるアストログリア及びミクログリア活性化の減衰
星細胞及びミクログリアは、中枢神経系の2つの重要な細胞型である。しかしながら、過去30年間にわたる研究により、活性化すると、これらの細胞が異なる炎症促進分子を放出して、TBIを含む種々の神経炎症傷害及び神経変性障害の病因に関与することが明らかとなった。
【0082】
したがって、TBIマウスのCNSにおけるグリア活性化に対する経口GTBの効果を調査した。最初に、アストログリア活性化を監視し、予想通り、CCI損傷は、偽対照と比較して、損傷後7日目のGFAP発現の増強よって明らかにされるように、皮質及び海馬におけるアストログリア活性化を誘導した(図8A~8B)。この所見は、皮質(図8E)及び海馬(図8F)の両方におけるGFAP陽性細胞の計数によって裏付けられた。TBI後のGFAPの増加は、海馬抽出物のウェスタンブロット分析によって更に確認された(図8I~8J)。最近、50mg/kg体重/日の用量でのGTBの経口投与が、マウスにおけるハンチントン病理を緩和し、多発性硬化症(MS)の動物モデルであるマウスにおいて実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の養子移入を阻害することを見出した。したがって、ここでは、CCI損傷マウスを、強制経口投与により50mg/kg体重/日の用量で、GTBで処置し、GTB処置時にTBIマウスの海馬におけるGFAP陽性星細胞(図8A~8F)及びGFAPタンパク質のレベル(図8I~8J)の減少を観察した。この結果は、ビヒクル処置でそのような変化を見出さなかったため、特異的であった(図8A~8F及び8I~8J)。活性化星細胞は、神経炎症環境で亜硝酸ストレスを引き起こすために過剰な一酸化窒素を産生することが知られている誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)を含む種々の炎症促進分子を発現する。
【0083】
したがって、GTB処置及び未処置のTBIマウスの海馬及び皮質におけるiNOSの状態を調査した。予想通り、また、偽対照と比較して、TBIマウスの脳におけるiNOS陽性細胞(図8A、8B、8G、及び8H)及びiNOSタンパク質のレベル(図8K~8L)の増加を見出した。多くのGFAP陽性星細胞がiNOSと共局在化した(図8A~8D)。しかしながら、アストログリア活性化の抑制と同様に、経口GTBもまた、TBIマウスの脳におけるiNOS陽性細胞(図8A、8B、8G、及び8H)及びiNOSタンパク質のレベル(図8K~8L)を減少させた。
【0084】
次いで、ミクログリア活性化を調査し、偽対照と比較して、TBIマウスの皮質及び海馬におけるIba1陽性ミクログリアの顕著な増加を見出した(図9A、9B、9E、及び9F)。
【0085】
この結果を、海馬抽出物におけるIba1のウェスタンブロットによって確認した(図9G~9H)。二重標識実験はまた、iNOSとのIba1陽性ミクログリアの共局在化を示した(図9A~9D)。しかしながら、アストログリア活性化の減衰と同様に、ビヒクルではなくGTBの経口投与は、TBIマウスの脳におけるIba1陽性星細胞の数(図9A~9F)及びIba1タンパク質のレベル(図9G~9H)を低減させた。まとめると、これらの結果は、経口GTBが、TBIマウスの海馬におけるアストログリア及びミクログリア活性化の両方を減少させることができることを示唆する。
【0086】
10.GTBの経口投与は、TBIのCCIモデルにおける病変体積を低減させる
GTB処置は、TBIマウスの脳におけるアストログリア及びミクログリア活性化を阻害したため、次いで、経口GTBが、損傷の21日後に病変体積を低減させ得るかどうかを監視することを決定した。病変体積を測定するために、脳切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。図10Aは、種々のマウス群からの病変空洞の体積を示すために連続的に配置されたH&E染色脳切片を表す。予想されるように、偽対照では病変がなかったことと比較して、TBIマウスにおいて、皮質から始まり、海馬を介して外側脳室に関与する、膨張した空洞を有する典型的な病変を見出した(図10B)。しかしながら、アストログリア及びミクログリア炎症の抑制と一致して、ビヒクルではなくGTBでの処置は、TBIマウスにおける病変空洞のサイズを低減した(図10A~10B)。これは、Cavalieri立体学的技術を使用した病変体積の定量的分析によっても裏付けられ、これは、未処置又はビヒクルで処置されたTBIマウスのいずれかと比較して、GTB処置時の全半球における総病変体積の減少を明らかにした(図10C)。
【0087】
11.GTB処置は、CCI損傷マウスの脳におけるシナプス成熟を回復させる
最近の研究は、TBIが瞬時の機械的損傷と結果として生じる二次損傷プロセス(例えば、炎症)の組み合わせを介してシナプス構造及び機能に大きな影響を及ぼし、最終的にシナプス損失につながることを示した。例えば、 Witcher et al,によると、TBIは、活性化されたミクログリアによって媒介される慢性皮質炎症を引き起こし、最終的にシナプス機能障害をもたらす。
【0088】
したがって、GTB処置がグリア炎症を低減させるため、GTBがTBIマウスにおけるシナプスを保護することができるかどうかを調査した。PSD-95は、シナプスの発達と成熟に関与している。NeuN及びPSD-95の脳切片の二重標識は、偽対照マウスと比較して、損傷の21日後のPSD-95の減少によって示されるように、TBIマウスの皮質及び海馬におけるシナプス成熟の喪失を示した(図11A~11B)。他方では、TBIマウスの皮質及び海馬におけるNeuNのそのような損失は観察されなかった(図11A~11B)。海馬組織のウェスタンブロット分析も、偽マウスと比較して、TBIマウスの海馬におけるPSD-95の著しい減少を確認した(図11E~11F)。しかしながら、アストログリア及びミクログリア炎症の抑制と一致して、ビヒクルではなくGTBでの処置は、TBIマウスの脳におけるPSD-95のレベルを上方調節した(図11A~11F)。
【0089】
PSD-95に加えて、NR2A及びGluR1などの他の分子もまた、シナプス成熟に関与する。したがって、また、NR2A及びGluR1のレベルを監視し、偽対照マウスと比較して、損傷の21日後のTBIマウスの海馬におけるNR2A(図11E及び11G)及びGluR1(図11E及び11H)の両方の有意な減少を見出した。PSD-95の上方調節及び/又は回復と同様に、GTB処置は、TBIマウスの海馬におけるNR2A(図11E及び11G)及びGluR1(図11E及び11H)のレベルを増加させた。これらの結果は、ビヒクル処置でのNR2A及びGluR1のそのような増加を観察しなかったため、特異的であった(図11E、11G&11H)。これらの結果は、経口GTBが、TBIマウスの海馬におけるシナプス成熟を回復することができることを示唆する。
【0090】
12.経口GTBは、TBIマウスの認知機能を保護する
多くのTBI生存者は、生涯にわたって認知障害に苦しんでいる。損なわれたシナプス変化がTBIの認知障害に関与することが報告されている。GTB処置がTBIマウスの海馬及び皮質におけるシナプス発達及び成熟を保護及び/又は改善したため、GTBが損傷の21日後にTBIマウスにおける認知機能を保護することができるかどうかを調査した。短期記憶を監視するために、新規物体認識(NOR)試験を用いたが、空間学習及び記憶のために、マウスの行動はバーンズ迷路及びT字型迷路で分析された。
【0091】
NORタスクから明らかなように、TBIマウスは、偽対照マウスと比較して、新規物体とより少ない時間を費やした(図12A及び12C)。他方では、ビヒクルではなくGTBでの処置時に、TBIマウスは新規物体との有意に多くの時間を費やし(図12A及び12C)、経口GTBでの短期記憶の改善を示した。バーンズ迷路は、空間参照記憶を必要とする海馬依存性記憶タスクである。処置のないTBIマウスは、偽対照マウスと比較して、報酬の穴を容易に見つけられず(図12B)、より多くのエラーを生じ(図12D)、より多くの時間(潜時)を必要とした(図12E)ことを示した。しかしながら、ビヒクルで処置ではなく、GTBで処置されたTBIマウスは、未処置のTBIマウスと比較して、バーンズ迷路(図12B)上ではるかに良好に能力を発揮し、エラーを少なくし(図12D)、標的穴を見つけるのにかかる時間を短くした(図12E)。同様に、T字型迷路において、処置のないTBIマウスは、偽対照マウスよりも少ない陽性ターン数(図12F)及び多い陰性ターン数(図12G)を示した。NORタスク及びバーンズ迷路に一致して、ビヒクルではなくGTBの経口投与は、未処置のTBIマウスよりも高い数の陽性ターン(図12F)及び低い数の陰性ターン(図12G)によって示されるように、TBIマウスにおける海馬依存性記憶能力を著しく増強した。
【0092】
13.GTB処置は、CCI損傷の7日後にTBIマウスの運動機能を改善する
TBI研究の主な治療目的は、行動機能を維持又は回復させることである。GTB処置がTBIマウスの認知機能を保護したため、次いで、GTBが全体的な運動活動も保護するかどうかを調査した。一般的な運動行動を記録するために、オープンフィールド活動領域上の上部に下向きに据え付けられたままの、Noldusコンピュータシステムに接続されたビデオカメラ6(Basler Gen I Cam-Basler acA 1300-60)を用いた。図13Aは、CCI損傷の7日後のオープンフィールド活動領域におけるマウスの全体的な動きをまとめたヒートマップを示す。
【0093】
予想通り、TBIマウスは、CCI損傷後7日目のヒートマップ(図13A)、移動した距離(図13B)、速度(図13C)、中心頻度(図13D)、及び飼育(図13E)に関して、偽対照と比較してオープンフィールド活動の減少を示した。しかしながら、ビヒクルではなくGTBでのTBIマウスの処置は、オープンフィールド行動の有意な増加をもたらした(図13A~13E)。
【0094】
次いで、ロトロッド試験を使用して、マウスの運動協調及び平衡活動を調査した。オープンフィールド活動と同様に、TBIマウスは、偽対照と比較して、CCI損傷の7日後、転倒までの潜時の有意な減少を示した(図13F)。他方では、ビヒクルではなくGTBの経口投与は、潜時の増加によって見られるようにロトロッドの能力を改善した(図13F)。
【0095】
うつ病は、特に脳損傷の初期段階中のTBIの顕著な症状であり、尾部吊り下げ試験によってマウスにおいて監視され得る。したがって、この試験を実施して、TBIマウスにおけるうつ病様行動に対するGTB処置の効果を監視した。図13Gから明らかなように、CCI損傷の7日目のTBIマウスは、偽対照よりも有意に高い不動時間を示し、偽マウスよりもTBIマウスにおいてより多くの抑うつ行動を示した。しかしながら、GTBで処置されたTBIマウスは、未処置又はビヒクルで処置されたTBIマウス(図13G)のいずれかよりも、尾部吊り下げ試験中に有意に少ない不動時間を示し、GTBによるうつ行動の阻害を示唆した。
【0096】
TBIは、脳と筋肉との間の接続にダメージを与え、それによって歩行運動を損なうことが知られている。したがって、歩行行動を監視するためにビーム歩行を用い、偽対照と比較して、TBIマウスの不十分な歩行運動を観察した(図13H~13J)。TBIマウスは、ビームを横断しながら、偽対照マウスよりも多くの歩み(図13H)を使用し、より多くの時間(図13I)を取り、より多く滑った(図13J)。しかしながら、ビヒクルではなくGTBの経口投与は、TBIマウスのビーム歩行を改善した(図13H~13J)。更に結果を確認するために、科学者が歩行活動を分析及び比較する機会を可能にする格子ランウェイも使用した。
【0097】
ビーム歩行で見出されたものと同様に、TBIマウスも、歩数(図13K)、所要時間(図13L)、及び置き違い(図13M)の点で、偽対照と比較して、格子ランウェイ上での実施が乏しかった。この場合も同様に、GTB処置は、格子ランウェイ上のTBIマウスの能力を改善した(図13K~13M)。まとめると、これらの結果は、GTB処置時、CCI損傷の7日目でのTBIマウスの運動能力の改善を示す。
【0098】
他方では、CCI損傷の21日目に多くの運動パラメータが自発的に改善し、GTB処置後にも任意の有意な変化は観察されなかった(図14A~14M)。例えば、オープンフィールド行動について試験された全てのパラメータ(図14A、ヒートマップ;図14B、移動した距離;図14C、速度;図14D、中心頻度;図14E、飼育)、並びにビーム歩行(図14H、歩数;図14I、所要時間)及び格子ランウェイ(図14K、歩数)について試験されたいくつかのパラメータに有意な変化は見られなかった。尾部吊り下げ試験でのみ、未処置のTBIマウスと比較して、TBIマウスに有意な障害が見られ、GTB処置はまた、CCI損傷の21日目(図14G)に、未処置又はビヒクルで処置されたTBIマウスのいずれかよりも、尾部吊り下げ試験中の有意に少ない不動時間をもたらし、GTBがTBIの後期段階であっても抑うつ行動を阻害することができることを示唆している。
【0099】
14.結論
要約すると、TBIの前臨床モデルでは、香味料成分である経口GTBがグリア活性化を低減させ、病変空洞を減少させ、認知行動及び運動行動を保護することが実証された。発明者らの結果は、GTBの重要な神経保護効果を解読し、GTBがTBIの治療的介入のために再利用され得ることを示唆する。
【0100】
15.安息香酸ナトリウム(NaB)は、乏突起膠細胞への乏突起膠細胞前駆細胞(OPC)の成熟を刺激する
ミエリンタンパク質の下方調節及びその後のミエリン鞘の喪失は、多発性硬化症及び外傷性脳損傷などの神経学的状態の病理学的特徴であると考えられる。そこで、再髄鞘形成に対するNaBの効果の探索を望んだ。乏突起膠細胞は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びプロテオリピドタンパク質(PLP)などのミエリン化タンパク質のその後の誘導とともに、NG2及びA2B5などの前駆体マーカーの低減の結果として、OPCから生成される。興味深いことに、NaBがOPCの乏突起膠細胞への分化を刺激したことを見出した(図15A~15F)。他方では、NaBの構造的類似体であるNaFOは、OPCの乏突起膠細胞への成熟を促進しなかった(図15A~15F)。これは、NaBのOPC成熟効果の特異性を示している。したがって、NaB処理は、OPCにおけるPLP及びミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)のレベルを増加させた(図15G~15H)。これらの結果は、MBP、PLP、MOG、及びCNPaseのmRNA分析によって裏付けられた(図15I)。この知見の機能的意義を理解するために、合成繊維の髄鞘形成に対するNaBの効果を調査し、NaFOではなくNaBによる髄鞘形成の刺激を見出した(図15J~15L)。
【0101】
16.NaBが脱髄のクプリゾン中毒マウスモデルにおける脳梁における再髄鞘形成に及ぼす効果
次いで、マウス脳の脳梁におけるインビボでの再髄鞘形成に対するNaBの効果を調査した。脳梁は、MSを含む種々の炎症性脱髄疾患において主に影響を受ける領域である。予想通り、対照マウスと比較して、クプリゾン中毒マウスの脳梁におけるミエリンタンパク質PLPの減少及びOPCマーカーA2B5の増加を見出した(図16A~16C)。しかしながら、NaB処置は、PLPのレベルを増加させ、A2B5のレベルを減少させ(図16A~16C)、NaBが、クプリゾン中毒マウスの脳梁における再髄鞘形成を促進することができることを示唆している。MBPはミエリン完全性のマーカーであるため、MBPで脳梁切片を染色し、NaB処置後に増加したクプリゾン中毒マウスにおいてMBPの喪失を見出した(図17A及び17C)。ミエリン繊維の別の安定性マーカーであるPLPの場合にも同様の結果が見出された(図17B及び17D)。これらの結果をLFB染色(図17E)、及び電子顕微鏡による超微細構造の詳細(図17F~17H)によって確認した。
【0102】
17.シナメイン: 抗炎症剤
マクロファージ、ミクログリア、及び星細胞によって引き起こされる慢性炎症は、いくつかの自己免疫障害、炎症障害、及び神経変性障害の病因において重要な役割を果たす。活性化すると、マクロファージ、ミクログリア、及び星細胞は、炎症促進性サイトカイン(腫瘍壊死因子α又はTNFα、インターロイキン1β又はIL-1β、インターロイキン-6又はIL-6など)、及び一酸化窒素(NO)を産生し、これは、最終的には、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、外傷性脳損傷などのような自己免疫障害、炎症損傷障害、及び神経変性障害に関与する。したがって、非毒性抗炎症薬の特定は、これらの自己免疫障害、炎症損傷障害、及び神経変性障害に有益であり得る。シナメインは、シナミン酸及びベンジルアルコールのエステル誘導体であり、香味剤として、またその抗真菌及び抗菌特性のために使用される。ここでは、RAW 264.7マクロファージ及び初代マウスミクログリア及び星細胞におけるシナメインの抗炎症特性を実証する。リポ多糖(LPS)及びインターフェロンγ(IFNγ)でのRAW 264.7マクロファージの刺激は、NOの顕著な産生をもたらした(図18A~18C)。しかしながら、6時間のシナメイン前処理は、RAW 264.7マクロファージにおけるNOのLPS及びIFNγ誘導産生を有意に阻害した(図18A~18C)。したがって、LPS及びウイルス二本鎖RNA模倣ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(polyIC)は、初代マウスミクログリアにおけるTNFα(図19A~19B)、IL-1β(図20A~20B)、及びIL-6(図21A~21B)の産生を刺激し、これは、シナメイン前処理によって強く阻害された。同様に、シナメインはまた、初代マウス星細胞におけるTNFα及びIL-6のポリIC誘導産生を阻害した(図22A~22B)。これらの結果は、シナメインを使用して、種々の自己免疫障害、炎症障害、及び神経変性障害における炎症を制御し得ることを示唆している。
【0103】
本開示の特徴及び利点は、詳細な明細書から明らかであり、特許請求の範囲は、そのような特徴及び利点の全てをカバーする。当業者には多くの変形が想起され、本開示に記載のものに等しい任意の変形は、本開示の範囲内である。当業者は、本開示が基づいている概念が、本開示のいくつかの目的を実行するための他の方法及びシステムを設計するための基礎として使用され得ることを理解するであろう。その結果、特許請求の範囲は、説明又は実施例によって限定されるものとみなされるべきではない。
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【国際調査報告】